説明

抗菌性発泡樹脂

【課題】高価な金属を用いることなく、抗菌剤の溶出がほとんどなく、そして、優れた抗菌作用を有する、新規の抗菌性発泡樹脂を提供する。
【解決手段】発泡樹脂と抗菌剤からなる抗菌性発泡樹脂であって、前記抗菌剤は、シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合してなる。好ましくは、前記抗菌性ポリマーがカチオン系抗菌性ポリマーであり、さらに好ましくは、前記カチオン系抗菌性ポリマーが四級ホスホニウム塩基を有する。好ましくは、前記シリカ粒子の粒子径が100nm以下であり、前記発泡樹脂が発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレンのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性発泡樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の抗菌剤としては、銀や金属イオンの抗菌性を利用したものが多く知られている。これらの抗菌剤は強い抗菌性をもつため、衛生用品などの樹脂製品中に添加されて広く使用されている。
【0003】
しかしながら、この従来の抗菌剤は、銀などの高価な金属を用いるものであるため、樹脂製品が高価になってしまうという問題があった。また、樹脂製品からの微量な金属イオンの溶出が避けられないため、食品分野での利用には適していなかった。
【0004】
一方、特許文献1には、抗菌性金属成分と該抗菌性金属成分以外の無機酸化物とから構成されるコロイド微粒子の表面が高分子化合物で修飾された抗菌性無機酸化物コロイド微粒子からなる抗菌剤が開示されている。そして、この抗菌剤は、抗菌性無機酸化物コロイド微粒子の表面が高分子化合物で修飾されているため、各種樹脂への添加剤として使用した場合に、樹脂中で優れたアンカー効果を発揮して洗濯等によっても抗菌剤が消失することがないというものである。
【0005】
また、特許文献2には、ビニルベンジルベンジルホスホニウム塩等を含有する抗菌性ポリマーをポリマー材料に添加配合してなる抗菌性ポリマー組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2002−80303号公報
【特許文献2】特開平5−156103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の抗菌剤においても、抗菌性金属成分として、銀、銅、亜鉛などを用いるものであり、上記従来の抗菌剤の問題点を解決するものとはなっていなかった。
【0007】
また、特許文献2に記載の抗菌性ポリマー樹脂は、抗菌性ポリマーを添加配合してなるものであり、抗菌性ポリマーが溶出してしまう虞があった。
【0008】
そこで、本発明は、高価な金属を用いることなく、抗菌剤の溶出がほとんどなく、そして、優れた抗菌作用を有する、新規の抗菌性発泡樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の抗菌性発泡樹脂は、発泡樹脂と抗菌剤からなる抗菌性発泡樹脂であって、前記抗菌剤は、シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合してなるものである。
【0010】
また、前記抗菌性ポリマーがカチオン系抗菌性ポリマーである。
【0011】
また、前記カチオン系抗菌性ポリマーが四級ホスホニウム塩基を有する。
【0012】
また、前記シリカ粒子の粒子径が100nm以下である。
【0013】
さらに、前記発泡樹脂が発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレンのいずれかである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗菌性発泡樹脂によれば、高価な金属を用いることなく、抗菌剤の溶出がほとんどなく、優れた抗菌作用を有する、新規の抗菌性発泡樹脂が提供される。抗菌剤は、シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合してなるものであるため、製造過程において、発泡樹脂中に容易に、かつ均一に分散させることができ、また、発泡過程にほとんど影響を及ぼさない。したがって、多種多様な発泡樹脂製品に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の抗菌性発泡樹脂は、発泡樹脂と抗菌剤からなる抗菌性発泡樹脂であって、前記抗菌剤は、シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合してなるものである。ここで用いられる抗菌剤は、シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合することにより、シリカ粒子がもつ耐薬品性、導電性、耐光性、分散性などの優れた特性に加え、抗菌性ポリマーの抗菌性を有するものである。
【0016】
シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合するためには、シリカ粒子の表面のシラノール基を足場とし、抗菌性ポリマーをグラフト重合させる。このとき、直接抗菌性ポリマーをグラフト重合させるほか、はじめに、末端に官能基を有するシランカップリング剤を用いて官能基を導入し、次いで、この官能基に抗菌性ポリマーをグラフト重合させてもよい。または、導入した官能基にさらに別の官能基を有するポリマーをグラフト重合し、その後、この別の官能基を修飾して抗菌性を付与するようにしてもよい。
【0017】
前記抗菌性ポリマーは、好ましくは、カチオン系抗菌性ポリマーであり、さらに好ましくは、前記カチオン系抗菌性ポリマーが四級ホスホニウム塩基を有する。四級ホスホニウム塩基を有するカチオン系抗菌性ポリマーとしては、例えば、アルキル四級ホスホニウム塩基を有するポリマー、アルキルベンジル四級ホスホニウム塩基を有するポリマーなどが挙げられる。アルキル四級ホスホニウム塩基、アルキルベンジル四級ホスホニウム塩基は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などに高い抗菌性を示すことが知られている。したがって、これらのカチオン系抗菌性ポリマーを用いることで、強力な抗菌性を有する抗菌性発泡樹脂を提供することができる。
【0018】
また、前記シリカ粒子の粒子径は100nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、前記シリカ粒子の粒子径は20nm以下である。このようにナノサイズのシリカ粒子を用いることで、発泡樹脂中での分散性を向上でき、かつ、発泡樹脂からの溶出を防止することができる。
【0019】
なお、前記発泡樹脂としては、発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタンなど、公知の種々の発泡樹脂を用いることができる。
【0020】
本発明の抗菌性発泡樹脂は、高価な金属を用いることなく、抗菌剤の溶出がほとんどなく、大腸菌、黄色ブドウ球菌などに対して優れた抗菌作用を有する。
【0021】
また、抗菌剤は、シリカ粒子の表面に共有結合を介して抗菌性ポリマーをグラフト重合してなるものであるため、シリカ粒子表面から抗菌性ポリマーが遊離することがなく、衛生的に安全である。したがって、本発明の抗菌性発泡樹脂は、特に医療分野や生鮮食品分野への用途に適している。具体的には、消毒後の細菌付着を防止するための内視鏡保管ケース、医療で使用する器具保管ケース、発泡樹脂性保冷箱、刺身や魚などの生鮮食品トレー用発泡ポリスチレンペーパー、抗菌性発泡ポリウレタンなどの材料として好適に使用することができる。
【0022】
さらに、この抗菌剤は、製造過程において、発泡樹脂中に容易に、かつ均一に分散させることができ、また、発泡過程にほとんど影響を及ぼさない。したがって、多種多様な発泡樹脂製品に使用することができる。
【0023】
以下の実施例において、本発明の抗菌性発泡樹脂について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
[抗菌剤の合成:方法1]
本実施例では、ポリビニルベンジルクロライド(poly(St-CH2Cl))をシリカ粒子の表面にグラフト重合し、次いでトリブチルホスフィンを反応させることにより、シリカ粒子の表面へ四級ホスホニウム塩基を有するポリマーをグラフト重合した。なお、ポリビニルベンジルクロライド(poly(St-CH2Cl))のグラフト重合は、シリカ粒子の表面へ導入したトリクロロアセチル基とモリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)とを組み合わせた系により行った。
【0025】
【化1】

【0026】
以下、より詳細に説明する。
【0027】
(1)シリカ粒子の表面へのトリクロロアセチル基の導入
アミノ基を導入したシリカ粒子(Silica-NH2:日本アエロジル株式会社製、粒子径12nm、表面積200m/g、アミノ基の導入量0.29mmol/g)4.0g、イソシアン酸トリクロロアセチル1.0g、反応溶媒としてトルエン(金属ナトリウム上で8時間還流した後、常圧蒸留したもの)200mLを300mLナス型フラスコに加え、系内を窒素置換し、マグネチックスターラーで攪拌しながら80℃で8時間反応させた。反応後、THFを用いて遠心分離による洗浄を繰り返し行い、減圧乾燥した。
【0028】
残存アミノ基量から求めたトリクロロアセチル基の導入量は、0.28mmol/gであり、シリカ粒子の表面のアミノ基がイソシアン酸トリクロロアセチルとほぼ定量的に反応したことが確認された。
【0029】
(2)ポリビニルベンジルクロライド(poly(St-CH2Cl))のグラフト重合
重合封管中に、トリクロロアセチル基を導入したシリカ粒子0.20g、4−ビニルベンジルクロライド(St-CH2Cl:窒素雰囲気下で減圧蒸留したもの)0.4g、モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)0.01g、反応溶媒としてDMSO(水素化カルシウムで一日脱水した後、窒素雰囲気下で減圧蒸留したもの)10mLを加え、ドライアイス/メタノール中でモノマーを完全に固化させた後、系内を真空にし、ついで融解させた。この操作を3回繰り返し、高真空下で封管とした。これをマグネチックスターラーで撹拌しながら70℃で一定時間重合を行った。反応後、生成物を過剰のメタノール中に注ぎ、反応を停止させた。
【0030】
(3)トリブチルホスフィンとポリビニルベンジルクロライド(poly(St-CH2Cl))の反応
三方コックおよび玉付きコンデンサーをつけた100mL三口フラスコに上記のグラフト重合したシリカ粒子5.0gを加え、系内を完全に窒素置換した後、シリンジを用いてトルエン40.0mL、シリカ粒子にグラフト重合したポリビニルベンジルクロライド(poly(St-CH2Cl))のクロロメチル基に対して過剰量のトリ−n−ブチルホスフィン5.0mLを注入した。系内をマグネチックスターラーで撹拌しながら室温で48時間攪拌し、その後還流しながら24時間反応を行った。反応後、トルエンを用いて遠心分離による洗浄を繰り返し行い、デシケーター内で減圧乾燥させた。
【0031】
シリカ粒子の表面へグラフト重合したポリビニルベンジルクロライド(poly(St-CH2Cl))のクロロメチル基が四級ホスホニウム塩に変換されたことの確認は、固体13C−NMR、熱分解GC−MS、赤外吸収スペクトル(IR)により行った。
【実施例2】
【0032】
[抗菌剤の合成:方法2]
本実施例では、四級ホスホニウム塩基を有するモノマーとしてトリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(St-CH2P(C4H9)3Cl)を合成した後に、シリカ粒子の表面からポリマーを成長させた。なお、トリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(St-CH2P(C4H9)3Cl)を用いたグラフト重合は、シリカ粒子の表面へ導入したトリクロロアセチル基とモリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)とを組み合わせた系により行った。
【0033】
【化2】

【0034】
以下、より詳細に説明する。
【0035】
(1)トリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(St-CH2P(C4H9)3Cl)の合成
三方コックをつけた200mL三口フラスコ内を窒素置換し、トリブチルホスフィン35.5mL、ヘキサン(金属ナトリウム上で8時間還流した後、常圧蒸留したもの)60.0mLをシリンジを用いて注入し、マグネチックスターラーで撹拌しながらビニルベンジルクロライド(St-CH2Cl)33.4mLをシリンジを用いてゆっくりと滴下し、室温で24時間反応させた。反応後、ヘキサンを用いて遠心分離による洗浄を繰り返し行い、トルエンで再結晶し、デシケーター内で減圧乾燥させた。
【0036】
(2)トリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(St-CH2P(C4H9)3Cl)を用いたグラフト重合
重合封管中に、トリクロロアセチル基を導入したシリカ粒子0.20g、トリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(St-CH2P(C4H9)3Cl)0.9g(2.7mmol)、モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)0.01g、反応溶媒としてDMSO(水素化カルシウムで一日脱水した後、窒素雰囲気下で減圧蒸留したもの)10mLを加え、ドライアイス/メタノール中でモノマーを固化させた後、系内を真空にし、ついで融解させた。この操作を3回繰り返し、高真空下で封管とした。これをマグネチックスターラーで撹拌しながら70℃で一定時間重合を行った。反応後、生成物を過剰のTHFまたはアセトンに注ぎ、反応を停止させた。
【0037】
シリカ粒子の表面へ四級ホスホニウム塩ポリマーがグラフト重合したことの確認は、固体13C−NMR、熱分解GC−MS、赤外吸収スペクトル(IR)により行った。
【実施例3】
【0038】
[抗菌性発泡樹脂の作製]
実施例1で合成した抗菌剤を用いて、抗菌性発泡樹脂を作製した。
【0039】
ポリスチレンビーズ(55倍発泡ビーズ)20g、抗菌剤1g、水溶性シリコン離型剤約1mLをよく混合し、型に流し込んだ。そして、蒸気釜中で圧力をかけて5分程度蒸し上げた。抗菌剤が均一に分散し、外見が良好な抗菌性発泡樹脂が得られた。
【実施例4】
【0040】
[抗菌性の評価]
実施例1で合成した抗菌剤とポリスチレンとの複合体膜を作成し、その表面の抗菌性を調べた。
【0041】
ポリスチレン樹脂に実施例1で合成した抗菌剤を1%添加して複合体膜を作製した。複合体膜の抗菌性の評価は、財団法人日本紡績検査協会へ依頼した。抗菌性試験はJISZ2801に基づき、フィルム密着法により行った。試験菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(菌株保存番号ATCC6538P, FDA209P, IFO12732)を使用した。試験片に試験菌液を接種し、温度35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した。培養後の試験片から試験菌を洗い出し、その洗い出し液1mLを取り、寒天平板培養法に従い40〜48時間培養して、生菌数を測定した。比較のため、グラフト重合していない未処理のシリカ粒子を1%添加したポリスチレン膜についても同様に評価した。
【0042】
抗菌性の評価結果を図1に示す。グラフト重合していない未処理のシリカ粒子を添加したポリスチレン膜では接種時(グラフ1段目)と比較して生菌数が増加した(グラフ2段目)のに対し、実施例1で合成した抗菌剤を添加した複合体膜は生菌数が100分の1程度に減少し(グラフ3段目)、強力な抗菌性を示すことが確認された。
【実施例5】
【0043】
[溶出試験]
実施例1で合成した抗菌剤とポリスチレンとの複合体膜を作成し、この複合膜からの、水中における抗菌剤の溶出試験を行った。
【0044】
ポリスチレン樹脂に実施例1で合成した抗菌剤を1%添加して複合体膜を作製した。複合体膜を純水中で24時間煮沸後、抗菌剤の溶出をIPC発光分光分析装置により測定した。比較のため、ホスホニウムモノマー(トリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(St-CH2P(C4H9)3Cl))、ホスホニウムポリマー(ポリトリブチルビニルベンジルホスホニウムクロライド(poly(St-CH2P(C4H9)3Cl)))をそれぞれ1%添加したポリスチレン膜についても同様に試験を行った。
【0045】
溶出試験の結果を表1に示す。ホスホニウムモノマー、ホスホニウムポリマーを添加した場合は溶出が認められたが、実施例1で合成した抗菌剤を添加した複合体膜では溶出は認められなかった。
【0046】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例4の抗菌性の評価結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂と抗菌剤からなる抗菌性発泡樹脂であって、前記抗菌剤は、シリカ粒子の表面に抗菌性ポリマーをグラフト重合してなるものであることを特徴とする抗菌性発泡樹脂。
【請求項2】
前記抗菌性ポリマーがカチオン系抗菌性ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の抗菌性発泡樹脂。
【請求項3】
前記カチオン系抗菌性ポリマーが四級ホスホニウム塩基を有することを特徴とする請求項2記載の抗菌性発泡樹脂。
【請求項4】
前記シリカ粒子の粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の抗菌性発泡樹脂。
【請求項5】
前記発泡樹脂が発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレンのいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の抗菌性発泡樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2009−51895(P2009−51895A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218115(P2007−218115)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504283585)株式会社 双葉テクニカ (6)
【Fターム(参考)】