説明

抗菌性縫合糸およびそれを製造する方法

【課題】増強された抗菌効力を伴って長期間インビボで留まり得る合成吸収性マルチフィラメント縫合糸、ならびに長期間微生物に対する防御を提供する抗菌剤を縫合糸に付与するための簡単で安価な方法を提供すること。
【解決手段】方法であって、マルチフィラメント縫合糸を提供する工程;このマルチフィラメント縫合糸を抗菌性溶液で浸透させる工程;およびこの浸透されたマルチフィラメント縫合糸の表面の少なくとも一部分上に抗菌性コーティングを付与する工程、を包含する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2005年7月11日に出願された米国仮特許出願番号第60/698,154号への優先権を主張する。この出願は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、抗菌性マルチフィラメント縫合糸およびそのような縫合糸を調製しそして使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の背景)
吸収性マルチフィラメント縫合糸は、当該分野で公知である。このような縫合糸としては、DEXON(登録商標)縫合糸(グリコリドホモポリマーより製造され、そしてDavis & Geck,Danbury,Conn.より市販されている)、VICRYL(登録商標)縫合糸(グリコリドとラクチドとのコポリマーから製造され、そしてEthicon,Inc.,Sommerville,NJより市販されている)、およびPOLYSORB(登録商標)縫合糸(またグリコリドとラクチドとのコポリマーから製造され、United States Surgical Corporation,Norwalk,Conn)が挙げられる。これらの縫合糸は、短期間の吸収性縫合糸、すなわち移植後3週間でその元の強度の少なくとも20%を保持し、その縫合糸の大部分が約60〜約90日以内に身体中で本質的に吸収される縫合糸と称されることがある。
【0004】
合成吸収性マルチフィラメント縫合糸のための縫合糸のコーティングはまた公知であり、そしてしばしば結びつけ縛りつけ特性を含むその縫合糸の物理的特性を改良するために利用される。公知のコーティングとしては、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、およびジオキサノンのコポリマーおよびホモポリマー、ならびにこれらの混合物およびブレンドが挙げられる。例えば、特許文献1(この開示全体が本明細書中に参考として援用される)は、外科用縫合糸のための生体吸収性コーティング組成物を開示し、その外科用縫合糸は、低分子量ポリアルキレングリコール、グリコリドモノマーおよびラクチドモノマーのコポリマーか、低分子量ポリアルキレングリコールと予め形成されたラクチド−グリコリドコポリマーとのコポリマーのいずれであってもよい。
【0005】
縫合糸を含むいずれの外科用デバイスにもともなう1つの問題は、細菌がそのデバイスに付着し、そしてそのデバイスを患者中の周囲の組織に入り込むための手段として利用し得る可能性である。公知の合成吸収性マルチフィラメント縫合糸は、その縫合糸が適所にある期間の間の有効なレベルの抗菌活性を未だ提供していない。それゆえに、汚染および感染が、創傷の閉鎖部の完全な治癒の前にその創傷部位で起こり得る。
【特許文献1】米国特許第5,123,912号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、増強された抗菌効力を伴って長期間インビボで留まり得る合成吸収性マルチフィラメント縫合糸に対する必要性が存在する。長期間微生物に対する防御を提供する抗菌剤を縫合糸に付与するための簡単で安価な方法に対する必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、以下の手段が提供される。
【0008】
(項目1)
方法であって、
マルチフィラメント縫合糸を提供する工程;
このマルチフィラメント縫合糸を抗菌性溶液で浸透させる工程;および
この浸透されたマルチフィラメント縫合糸の表面の少なくとも一部分上に抗菌性コーティングを付与する工程、
を包含する、方法。
【0009】
(項目2)
上記抗菌性溶液が、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤を含む、項目1に記載の方法。
【0010】
(項目3)
上記抗菌性溶液がトリクロサンを含む、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目4)
上記抗菌性溶液が、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒を含む、項目1に記載の方法。
【0012】
(項目5)
上記抗菌性コーティングが、少なくとも1つの抗菌剤および少なくとも1つの膜形成ポリマーを含む、項目1に記載の方法。
【0013】
(項目6)
上記抗菌性コーティングが、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤を含む、項目1に記載の方法。
【0014】
(項目7)
上記抗菌性コーティングがトリクロサンを含む、項目1に記載の方法。
【0015】
(項目8)
上記抗菌性コーティングが、連結部を含む少なくとも1つの膜形成ポリマーを含み、この連結部がグリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノンおよびジオキセパノンからなる群より選択される1つ以上のモノマーから誘導される、項目1に記載の方法。
【0016】
(項目9)
上記抗菌性コーティングが、上記膜形成ポリマーとしてグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含む、項目1に記載の方法。
【0017】
(項目10)
上記抗菌性コーティングが、脂肪酸および脂肪酸塩および脂肪酸エステルからなる群より選択される1つ以上の脂肪酸成分を含む、項目1に記載の方法。
【0018】
(項目11)
方法であって、
マルチフィラメント縫合糸を提供する工程;
このマルチフィラメント縫合糸の表面の少なくとも一部分上に抗菌性コーティングを付与する工程;
このコーティングされたマルチフィラメント縫合糸をほぐす工程;および
このほぐされたコーティングされたマルチフィラメント縫合糸を抗菌性溶液で浸透させる工程、
を包含する、方法。
【0019】
(項目12)
上記抗菌性コーティングが、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤、ならびに連結部を含む少なくとも1つの膜形成ポリマーを含み、この連結部がグリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノンおよびジオキセパノンからなる群より選択される1つ以上のモノマーから誘導される、項目11に記載の方法。
【0020】
(項目13)
上記コーティングされた縫合糸をほぐす工程が、この縫合糸をカレンダー掛けする工程を包含する、項目12に記載の方法。
【0021】
(項目14)
上記縫合糸を上記抗菌性溶液で浸透させる工程が、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤、ならびにアルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒を含む組成物を付与する工程を包含する、項目12に記載の方法。
【0022】
(項目15)
縫合糸であって、
複数のフィラメントであって、この複数のフィラメントによって規定される裂け目空間を有する、複数のフィラメント;
この裂け目空間の少なくとも一部を満たす抗菌剤;および
この複数のフィラメントの少なくとも一部をコーティングする抗菌性コーティング、
を含む、縫合糸。
【0023】
(項目16)
上記抗菌剤が、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される、項目15に記載の縫合糸。
【0024】
(項目17)
上記抗菌性コーティングが、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤、ならびに連結部を含む少なくとも1つの膜形成ポリマーを含み、この連結部がグリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノンおよびジオキセパノンからなる群より選択される1つ以上のモノマーから誘導される、項目15に記載の縫合糸。
【0025】
(項目18)
上記抗菌性コーティングが、脂肪酸および脂肪酸塩および脂肪酸エステルからなる群より選択される1つ以上の脂肪酸成分を含む、項目15に記載の縫合糸。
【0026】
(項目19)
縫合糸であって、
複数のフィラメントであって、この複数のフィラメントによって規定される裂け目空間を有する、複数のフィラメント;
抗菌剤であって、トリクロサンおよび塩化メチレンを含み、この裂け目空間の少なくとも一部に浸透する、抗菌剤;および
抗菌性コーティングであって、トリクロサン、グリコリド/カプロラクトンコポリマー、およびこの複数のフィラメントの少なくとも一部を覆うカルシウムステアリルラクチレートを含む、抗菌性コーティング、
を含む、縫合糸。
【0027】
(項目20)
抗菌性組成物であって、
消毒薬;
膜形成ポリマー;および
脂肪酸エステルの塩であって、マグネシウムステアロイルラクチレート、アルミニウムステアロイルラクチレート、バリウムステアロイルラクチレート、亜鉛ステアロイルラクチレート、カルシウムパルミチルラクチレート、マグネシウムパルミチルラクチレート、アルミニウムパルミチルラクチレート、バリウムパルミチルラクチレート、または亜鉛パルミチルラクチレート、カルシウムオレイルラクチレート、マグネシウムオレイルラクチレート、アルミニウムオレイルラクチレート、バリウムオレイルラクチレート、亜鉛オレイルラクチレートおよびカルシウムステアロイルラクチレートからなる群より選択される、脂肪酸エステルの塩、
を含む、抗菌性組成物。
【0028】
(項目21)
抗菌性組成物であって、
トリクロサン;
グリコリド/カプロラクトンコポリマー;および
カルシウムステアロイルラクチレート、
を含む、抗菌性組成物。
【0029】
(項目22)
創傷を閉鎖する方法であって、
縫合糸を提供する工程であって、この縫合糸は、
複数のフィラメントであって、この複数のフィラメントによって規定される裂け目空間を有する、複数のフィラメント;
この裂け目空間内の抗菌性溶液;および
この複数のフィラメントの少なくとも一部上の抗菌性コーティング、
を含む、工程;
この縫合糸を針に取り付け、針付き縫合糸を生成する工程;ならびに
この針付き縫合糸を組織に通し、創傷の閉鎖を生成する工程、
を包含する、方法。
【0030】
(項目23)
抗菌特性を有する編んだ縫合糸であって、この縫合糸は、複数のポリマーフィラメントから形成される細長い編んだ構造体ならびにコーティング材料を含み、このフィラメントは、生理学的条件下で吸収性であるポリマー材料から形成され、このコーティング材料は、この細長い編んだ構造体上に配置され、このコーティングは、
膜形成ポリマー;
脂肪酸エステルの塩;ならびに
抗菌剤であって、抗生物質、消毒薬、殺菌薬、およびこれらの組合せからなる群より選択される、抗菌剤、を含む、編んだ縫合糸。
【0031】
(項目24)
項目23に記載の編んだ縫合糸であって、第1の端部および第2の端部を有し、この編んだ縫合糸は、この縫合糸の1つの端部に固定して取付けられた針を有する、編んだ縫合糸。
【0032】
(項目25)
上記膜形成ポリマーが、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノンおよびこれらの組合せからなる群より選択される、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0033】
(項目26)
上記膜形成ポリマーが、グリコリド/カプロラクトンコポリマーを含む、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0034】
(項目27)
上記脂肪酸エステルの塩が、カルシウムステアロイルラクチレート、マグネシウムステアロイルラクチレート、アルミニウムステアロイルラクチレート、バリウムステアロイルラクチレート、亜鉛ステアロイルラクチレート、カルシウムパルミチルラクチレート、マグネシウムパルミチルラクチレート、アルミニウムパルミチルラクチレート、バリウムパルミチルラクチレート、または亜鉛パルミチルラクチレート、カルシウムオレイルラクチレート、マグネシウムオレイルラクチレート、アルミニウムオレイルラクチレート、バリウムオレイルラクチレート、亜鉛オレイルラクチレートおよびからなる群より選択される、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0035】
(項目28)
上記脂肪酸エステルの塩が、カルシウムステアロイルラクチレートである、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0036】
(項目29)
上記抗菌剤が、少なくとも1つの消毒薬を含む、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0037】
(項目30)
上記抗菌剤が、トリクロサンを含む、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0038】
(項目31)
上記膜形成ポリマーがグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含み、上記脂肪酸エステルの塩がカルシウムステアロイルラクチレートを含み、そして上記抗菌剤がトリクロサンを含む、項目23に記載の編んだ縫合糸。
【0039】
(要旨)
抗菌性縫合糸を製造するための方法が提供され、そこではマルチフィラメント縫合糸が抗菌性溶液で浸透され得、そして別の抗菌性コーティングでコーティングされる。この抗菌性溶液は、その抗菌性コーティングの前、またはその後で塗布され得る。
【0040】
実施形態では、上記方法は、
マルチフィラメント縫合糸を提供する工程;
このマルチフィラメント縫合糸を抗菌性溶液で浸透させる工程;
およびこの浸透されたマルチフィラメント縫合糸の表面の少なくとも一部分上に抗菌性コーティングを塗布する工程、
を包含する。
【0041】
他の実施形態では、上記方法は、
マルチフィラメント縫合糸を提供する工程;
このマルチフィラメント縫合糸の表面の少なくとも一部分上に抗菌性コーティングを付与する工程;
このコーティングされたマルチフィラメント縫合糸をほぐす工程;および
このほぐされたコーティングされたマルチフィラメント縫合糸を抗菌性溶液で浸透させる工程、
を包含する。
【0042】
これらのコーティングを有する縫合糸、およびこれらの縫合糸で創傷を閉鎖するための方法も提供される。
【0043】
実施形態では、本開示の縫合糸は、
複数のフィラメントであって、この複数のフィラメントによって規定される裂け目空間を有する、複数のフィラメント;
この裂け目空間の少なくとも一部を満たす抗菌剤;および
この複数のフィラメントの少なくとも一部をコーティングする抗菌性コーティング、
を含み得る。他の実施形態では、本発明の縫合糸は、
複数のフィラメントであって、この複数のフィラメントによって規定される裂け目空間を有する、複数のフィラメント;
抗菌性溶液であって、トリクロサンおよび塩化メチレンを含み、この裂け目空間の少なくとも一部に浸透する抗菌性溶液;および
抗菌性コーティングであって、トリクロサン、グリコリド/カプロラクトンコポリマー、およびこの複数のフィラメントの少なくとも一部を覆うカルシウムステアリルラクチレートを含む、抗菌性コーティング、
を含み得る。
【0044】
本開示により包含されるさらに他の縫合糸としては、抗菌特性を有する編んだ縫合糸が挙げられ、この縫合糸は、複数のポリマーフィラメントから形成される細長い編んだ構造体ならびにコーティング材料を含み、このフィラメントは、生理学的条件下で吸収性であるポリマー材料から形成され、このコーティング材料は、この細長い編んだ構造体上に配置され、このコーティングは、
膜形成ポリマー;
脂肪酸エステルの塩;ならびに
抗菌剤であって、抗生物質、消毒薬、殺菌薬、およびこれらの組合せからなる群より選択される、抗菌剤、
を含む。
【0045】
本開示に従って創傷を閉鎖する方法は、縫合糸を提供する工程であって、この縫合糸は、
複数のフィラメントであって、この複数のフィラメントによって規定される裂け目空間を有する、複数のフィラメント;
この裂け目空間内の抗菌性溶液;および
この複数のフィラメントの少なくとも一部上の抗菌性コーティング、
を含む、工程;
この縫合糸を針に取り付け、針付き縫合糸を生成する工程;ならびに
この針付き縫合糸を組織に通し、創傷の閉鎖を生成する工程、
を包含し得る。
【0046】
実施形態では、本開示はまた、抗菌性組成物を提供し、この抗菌性組成物は、
消毒薬;
膜形成ポリマー;および
脂肪酸エステルの塩であって、マグネシウムステアロイルラクチレート、アルミニウムステアロイルラクチレート、バリウムステアロイルラクチレート、亜鉛ステアロイルラクチレート、カルシウムパルミチルラクチレート、マグネシウムパルミチルラクチレート、アルミニウムパルミチルラクチレート、バリウムパルミチルラクチレート、または亜鉛パルミチルラクチレート、カルシウムオレイルラクチレート、マグネシウムオレイルラクチレート、アルミニウムオレイルラクチレート、バリウムオレイルラクチレート、亜鉛オレイルラクチレートおよびカルシウムステアロイルラクチレートからなる群より選択される、脂肪酸エステルの塩、
を含む。
【0047】
他の実施形態では、適切な抗菌性組成物は、トリクロサン、グリコリド/カプロラクトンコポリマー、およびカルシウムステアロイルラクチレートを含み得る。
【発明の効果】
【0048】
増強された抗菌効力を伴って長期間インビボで留まり得る合成吸収性マルチフィラメント縫合糸が提供される。長期間微生物に対する防御を提供する抗菌剤を縫合糸に塗布するための簡単で安価な方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、Staphylococcus epidermidisによる種々の濃度の抗菌剤を伴う本開示の縫合糸のコロニー形成を描写するグラフである。
【図2】図2Aおよび2Bは、それぞれ、本開示に従って処理されたPOLYSORB(登録商標)2/0縫合糸、およびVICRYL(登録商標)Plus 2/0縫合糸の走査型電子顕微鏡(「SEM」)像である。
【図3】図3は、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus aureus、Escherichia coliおよびPseudomonas aeruginosaに曝露した場合の本開示の縫合糸の阻害結果のゾーンを描写するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(詳細な説明)
本開示の縫合糸は、少なくとも一部は複数のフィラメントから調製され得る。少なくとも1つの抗菌剤および少なくとも1つの溶媒を含む抗菌性溶液が、その縫合糸に塗布され得る。少なくとも1つの抗菌剤、少なくとも1つの膜形成ポリマー、および少なくとも1つの脂肪酸エステルの塩を含む抗菌性コーティングもまたその縫合糸に塗布され得る。この抗菌性コーティングは、上記抗菌性溶液がこのマルチフィラメント縫合糸に塗布される前または後のいずれかに塗布され得る。
【0051】
この縫合糸が作製され得るフィラメントは、任意の合成吸収性線維形成材料であり得る。従って、例えば、このフィラメントは、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、アルキレンカーボネート(すなわち、トリメチレンカーボネート)、ジオキサノンから作製される合成吸収性ポリマーならびにこれらのコポリマーおよびこれらの組合せから作製され得る。実施形態では、縫合糸は、グリコリドおよびラクチドを含む組合せから構築され得、いくつかの実施形態ではそれらのコポリマーから構築され得る。
【0052】
この縫合糸は、例えば、編み(braiding)、織りまたは編み(knitting)のような任意の公知の技術を使用して上記フィラメントから作製され得る。このフィラメントはまた、合わされて不織縫合糸を生成し得る。このフィラメント自体が、延伸され得、配向され得、縮れさせられ得、捻られ得、混ぜ合わされ得、または空気を絡ませられ得、縫合糸形成プロセスの一部として紡績糸が形成される。この縫合糸は、これらフィラメント間(または同じフィラメントの重なり領域)の裂け目または空間を保有し、縫合糸が浸透された上記抗菌性溶液がその中に流れ得る。
【0053】
1つの実施形態では、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編み(braidnig)によって製造され得る。この編みは、当業者の認識範囲の任意の方法で行なわれ得る。例えば、縫合糸または他の医療用デバイスのための編んだ構築物は、米国特許第5,019,093号、同第5,059,213号、同第5,133,738号、同第5,181,923号、同第5,226,912号、同第5,261,886号、同第5,306,289号、同第5,318,575号、同第5,370,031号、5,383,387号、同第5,662,682号、同第5,667,528号、および同第6,203,564号に記載されている。これらの各々の開示全体が本明細書中に参考として援用される。いったん縫合糸が構築されると、それは、当業者の認識範囲内の任意の手段によって滅菌され得る。
【0054】
いくつかの場合には、管状編み、またはシースが編み機の中心を通って供給されるコア構造体のまわりに構築され得る。コアを保有する管状編みの縫合糸を含めて、公知の管状編みの縫合糸は、例えば、米国特許第3,187,752号、同第3,565,077号、同第4,014,973号、同第4,043,344号、および同第4,047,533号に開示されている。
【0055】
1つの実施形態では、マルチフィラメント縫合糸は、まず抗菌性溶液と接触させられ、次いで抗菌性コーティングがその縫合糸に塗布される。この抗菌性溶液は、少なくとも1つの抗菌剤および少なくとも1つの溶媒を含み、この溶媒が上記フィラメントの間の裂け目または空間および、存在する場合には、その縫合糸のコアへこの抗菌剤を運ぶ。本明細書中で使用される場合の用語「抗菌剤」は、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムのような有機溶媒および水に可溶である抗菌剤、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せを含む。
【0056】
上記抗菌性溶液中で使用され得る抗生物質のクラスは、ミノマイシンのようなテトラサイクリン;リファンピシンのようなリファマイシン;エリスロマイシンのようなマクロライド;ナフシリンのようなペニシリン;セファゾリンのようなセファロスポリン;イミペネムおよびアズトレオナムのようなβ−ラクタム系抗生物質;ゲンタマイシンおよびTOBRAMYCIN(登録商標)のようなアミノグリコシド;クロラムフェニコール;スルファメトキサゾールのようなスルホンアミド;バンコマイシンのようなグリコペプチド;シプロフロキサシンのようなキノロン;フシジン酸;トリメトプリム;メトロニダゾール;クリンダマイシン;ムピロシン;アムホテリシンBのようなポリエン;フルコナゾールのようなアゾール;ならびにスルバクタムのようなβ−ラクタムインヒビターを含む。
【0057】
上記抗菌性溶液中で利用され得る消毒薬および殺菌薬の例としては、ヘキサクロロフェン;クロルヘキシジンおよびシクロヘキシジンのようなカチオン性ビグアニド;ヨウ素およびポビドン−ヨウ素のようなヨードフォア;PCMX(すなわち、p−クロロ−m−キシレノール)およびトリクロサン(すなわち、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)のようなハロ置換フェノール性化合物;ニトロフラントインおよびニトロフラゾンのようなフラン系医療用調製物;メテナミン;グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドのようなアルデヒド;ならびにアルコールが挙げられる。いくつかの実施形態では、上記抗菌剤の少なくとも1つは、トリクロサンのような消毒薬であり得る。
【0058】
上記抗菌性溶液は、選択された抗菌剤に適した任意の溶媒または溶媒の組合せを含み得る。適切であるために、その溶媒は、(1)その抗菌剤と混和性でなければならず、(2)上記縫合糸フィラメントを形成するのに使用される任意のポリマー材料の完全性に大きく影響を与えてはならず、そして(3)上記抗菌剤と組合せて、縫合糸の裂け目の中へ浸透し得ねばならない。適切な溶媒のいくつかの例としては、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水が挙げられる。実施形態では、塩化メチレンが溶媒として使用され得る。
【0059】
本開示の抗菌性溶液を調製することは、比較的簡単な手順であり、ブレンドすること、混合することなどにより達成され得る。トリクロサンおよび塩化メチレンが利用されて抗菌性溶液が形成される1つの実施形態では、所望量のトリクロサンが容器の中に置かれ、次いで所望量の塩化メチレンが添加される。これら2つの成分は、次いで完全に混ぜられ得、成分が合わされる。
【0060】
上記抗菌性溶液は、一般に、約0.001重量%〜約25重量%の抗菌剤を含む。この抗菌剤の正確な量は、使用される特定の薬剤、接触される縫合糸、および採用される溶媒の選択のような多くの要因に依存する。例えば、抗菌剤が消毒薬である実施形態では、上記抗菌性溶液は、約0.01%〜約15%の選択された抗菌剤を含み得る。他の実施形態では、抗菌性溶液は、約0.1%〜約10%の上記抗菌剤を含み得る。
【0061】
この抗菌性溶液を縫合糸に塗布するために、任意の公知の技術が採用され得る。適切な技術としては、浸漬、噴霧、ふき取り、およびブラシ掛けが挙げられる。実施形態では、この抗菌性溶液は、その最終形態の縫合糸に付与され得る。上記抗菌性溶液は溶媒を含むので、過剰の溶媒を除去して上記抗菌剤を(存在する場合)コア上および編み物の裂け目空間(すなわち、マルチフィラメント縫合糸を形成するために利用される複数のフィラメントの間)中に残すために、硬化工程が採用され得る。実施形態では、上記抗菌剤だけがその裂け目空間に残る。他の実施形態では、上記溶媒のいくらかもまた、上記抗菌剤とともに上記裂け目空間中に残る。すなわち、上記抗菌性溶液が上記裂け目空間中に残る。
【0062】
塗布される抗菌性溶液の量は、縫合糸に抗菌性を提供するに有効な量であるべきである。その正確な量は、その縫合糸の構成およびその溶液の処方に依存する。実施形態では、上記抗菌性溶液は、上記縫合糸の重量の約0.001〜25重量%(あらゆる溶媒を除いて)の量で塗布され得る。1つの実施形態では、この抗菌性溶液は、上記縫合糸の重量の約0.01〜約15重量%(あらゆる溶媒を除いて)の量で付与され得る。
【0063】
この溶媒の除去後、少なくとも1つの抗菌剤および少なくとも1つの膜形成ポリマーを含む抗菌性コーティングが、上記縫合糸に塗布され得る。
【0064】
上記抗菌性コーティング中で利用され得る膜形成ポリマーは、当業者の認識範囲内であり、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノンなどならびにこれらのコポリマーおよび組合せが挙げられる。
【0065】
実施形態では、上記膜形成ポリマーは、米国特許第5,716,376号に記載されるようなカプロラクトン含有コポリマーが挙げられ、この米国特許第5,716,376号は、本明細書中に参考として援用される。このようなカプロラクトン含有コポリマーは、主要量のε−カプロラクトンおよび少量の少なくとも1つの他の共重合可能なモノマーまたはそのようなモノマーの混合物とを、多価アルコール開始剤の存在下で重合させることにより得られ得る。
【0066】
ε−カプロラクトンと共重合され得るモノマーとしては、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネートのようなアルキレンカーボネート;ジオキサノン;ジオキセパノン;吸収性環状アミド;クラウンエーテルから誘導される吸収性環状エーテル−エステル;α−ヒドロキシ酸(例えば、グルコール酸および乳酸)およびβ−ヒドロキシ酸(例えば、β−ヒドロキシ酪酸およびγ−ヒドロキシ吉草酸)を含むエステル化可能なヒドロキシ酸;ポリアルキルエーテル(例えば、ポリエチレングリコール)およびこれらの組合せが挙げられる。1つの実施形態では、膜形成ポリマーにおけるε−カプロラクトンとのコモノマーとして、グリコリドが採用され得る。
【0067】
上記膜形成ポリマーを調製する際に利用され得る適切な多価アルコール開始剤としては、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、N,N,N’,N’,−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’,−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ジペンタエリトリトール、アリトール、ズルシトール、グルシトール、アルトリトール、イジトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトールなどが挙げられ;いくつかの実施形態ではマンニトールが利用される。
【0068】
この多価アルコール開始剤は、一般に、少量で、例えば全モノマー混合物の約0.01〜約5重量%で採用され得、実施形態では、全モノマー混合物の約0.1〜約3重量%で採用され得る。
【0069】
上記膜形成コポリマーは、約70〜約98重量%のε−カプロラクトン由来の単位を含み得、実施形態では、約80〜約95重量%のε−カプロラクトン由来の単位を含み得、このコポリマーの残りは他の共重合可能モノマー(例えば、グリコリド)から誘導される。
【0070】
いくつかの実施形態では、本開示のコーティング組成物はまた、脂肪酸または脂肪酸塩もしくは脂肪酸エステルの塩を含む脂肪酸成分を含む。適切な脂肪酸は、飽和でもまたは不飽和でもよく、そして約12個より多い炭素原子を有する高級脂肪酸を含む。適切な飽和脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸およびラウリル酸が挙げられる。適切な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸が挙げられる。さらに、ソルビタントリステアレートおよび硬化ヒマシ油のような脂肪酸のエステルが使用され得る。
【0071】
適切な脂肪酸塩としては、C脂肪酸およびより高級脂肪酸の多価金属イオン塩、特に約12〜約22個の炭素原子を有する高級脂肪酸の多価金属イオン塩、およびそれらの混合物が挙げられる。ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸のカルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、および亜鉛塩を含む脂肪酸塩が、本開示のいくつかの実施形態で有用で有り得る。いくつかの有用な塩は、少量のC14脂肪酸およびC22脂肪酸とともに約1/3のC16脂肪酸および2/3のC18脂肪酸の混合物を含む、業務用の「食品等級」ステアリン酸カルシウムを含む。
【0072】
実施形態では、上記抗菌性コーティングは、脂肪酸エステルの塩と合わされた膜形成ポリマーを含む。適切な脂肪酸エステルの塩は、式:
【0073】
【化1】

のものを含み、ここでxは、アルカリ土類金属またはそのイオンであり、RはC10以上のアルキルであり、RはHまたはC〜Cアルキルであり、RはHまたはC〜Cアルキルであり、RはHまたはC〜Cアルキルであり、RはHまたはC〜Cアルキルであり、nは1より大きい。このような適切な脂肪酸としては、カルシウムステアロイル−2−ラクチレート(例えば、VERVの商標名でAmerican Ingredients Co.、Kansas City,Mo.から市販されているカルシウムステアロイル−2−ラクチレート)が挙げられる。利用され得る他の脂肪酸エステル塩としては、リチウムステアロイルラクチレート、カリウムステアロイルラクチレート、ルビジウムステアロイルラクチレート、セシウムステアロイルラクチレート、フランシウムステアロイルラクチレート、ナトリウムパルミチルラクチレート、リチウムパルミチルラクチレート、カリウムパルミチルラクチレート、ルビジウムパルミチルラクチレート、セシウムパルミチルラクチレート、フランシウムパルミチルラクチレート、ナトリウムオレイルラクチレート、リチウムオレイルラクチレート、カリウムオレイルラクチレート、ルビジウムオレイルラクチレート、セシウムオレイルラクチレート、フランシウムオレイルラクチレート、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0074】
利用される場合には、脂肪酸成分の量は、全コーティング組成物の約5重量%〜約50重量%の範囲であり得る。実施形態では、この脂肪酸成分は、全コーティング組成物の約10重量%〜約20重量%の量で存在し得る。
【0075】
1つの実施形態では、上記のカプロラクトン/グリコリドコポリマーのような膜形成ポリマーは、上記抗菌性コーティングの約45〜約60重量%であり得、そして脂肪酸エステルの塩は、この抗菌性コーティングの約40〜約55重量%であり得る。実施形態では、上記のカプロラクトン/グリコリドコポリマーのような膜形成ポリマーは、この抗菌性コーティングの約50〜約55重量%であり得、そして脂肪酸エステルの塩は、この抗菌性コーティングの約45〜約50重量%であり得る。
【0076】
抗菌剤が、次いで上記膜形成ポリマーおよび脂肪酸エステルの塩に添加され、抗菌性コーティングが製造される。上記のように、本開示で使用される場合の用語「抗菌剤」は、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せを含む。実施形態では、この抗菌剤は、トリクロサンのような消毒薬であり得る。上記抗菌性コーティング中で使用され得る抗菌剤は、必ずしも上記抗菌性溶液中で使用されるのと同じ抗菌剤あるで必要はない。
【0077】
1つの実施形態では、52/48重量%混合物のグリコリド/カプロラクトンポリマーおよびカルシウムステアロイルラクチレートがトリクロサンのような消毒薬と合わされ得、抗菌性コーティングが生成される。
【0078】
上記抗菌性コーティングは、約0.001重量%〜約25重量%の抗菌剤を含み得る。その抗菌性コーティングにおけるこの抗菌剤の正確な量は、使用される特定の薬剤、接触されようとする縫合糸の組成、およびコーティング材料の選択のような多くの要因に依存する。例えば、抗菌剤が消毒薬である実施形態では、上記抗菌性コーティングは、約0.01重量%〜15重量%の選択された抗菌剤を含む。他の実施形態では、そのコーティングは、約0.1重量%〜約10重量%の選択された抗菌剤を含み得る。
【0079】
実施形態では、上記抗菌性コーティングは、溶媒に添加され、そして上記縫合糸の表面の少なくとも一部に塗布され得る。この抗菌性コーティングの他の材料とともに使用するために適した任意の溶媒が利用され得、この溶媒としては、実施形態では、上記抗菌性溶液を形成する際に使用するために上で記載された溶媒が挙げられる。得られるコーティング溶液は、次いで抗菌性コーティングを縫合糸に塗布するために利用され得る。
【0080】
本明細書における抗菌性コーティングは、例えば、縫合糸をトルエン中、塩化メチレン中などの上記コポリマーの溶液に通すか、ブラシまたは他のコーティング溶液アプリケーターを通すか、またはこの縫合糸コーティング溶液を分与する1つ以上の噴霧ノズルを通すかのような任意の適切なプロセスにより、縫合糸に塗布され得る。そのコーティング溶液で湿った縫合糸は、続いて、その溶媒を気化させて除去するに十分な時間および温度で乾燥オーブンを通されるか、またはその中に保持され得る。
【0081】
所望の場合、この縫合糸コーティング組成物は、必要に応じてさらなる成分、例えば、染料、抗生物質、さらなる消毒薬、増殖因子、抗炎症剤などを含み得る。
【0082】
本明細書中のコーティング組成物は、任意のタイプの縫合糸に塗布され得るが、実施形態では、それは編んだマルチフィラメント縫合糸に塗布され得る。編んだ縫合糸に塗布されるコーティング組成物の量は、縫合糸の構造(例えば、フィラメントの数、編みまたはねじりの固さ、その縫合糸のサイズ、およびその組成に依存して変動する。塗布される抗菌性コーティングの量は、その縫合糸に抗菌特性を提供するに十分な量であるべきである。例えば、コーティング、浸漬、噴霧、ふき取りまたは他の適切な技術により、その縫合糸に塗布されるべき正確な量は、選択されたコーティング材料、選択された抗菌剤、および接触されようとする縫合糸の特定の構成に依存して変動する。この抗菌性コーティングは、縫合糸の約0.001〜約25重量%の量で、実施形態では縫合糸の約0.01〜約15重量%の量で塗布され得る。
【0083】
本開示の抗菌性コーティングを調製することはまた、比較的簡単な手順であり得る。例えば、グリコリド/カプロラクトンコポリマー、カルシウムステアロイルラクチレートおよびトリクロサンを含むコーティング材料の場合には、必要な成分の各々の所望量が容器の中に置かれて完全に混合され得、上記成分が合わされる。
【0084】
上記抗菌性溶液とこの抗菌性コーティングの両方は、安定剤、増粘剤、着色剤などのような種々の任意の成分を含み得る。これら任意の成分は、この抗菌性溶液またはこの抗菌性コーティングのいずれかの全重量の約10%までを占め得る。
【0085】
上記マルチフィラメント縫合糸を薬学的に有益な因子を浸透させてそれでコーティングすることは、本開示の範囲内である。この薬学的に有益な因子としては、組織に導入された場合にその組織の上で所望の治療効果を提示する化学物質または薬物が挙げられる。薬学的に有益な因子の例としては、抗炎症剤、ステロイド、増殖因子、血液希釈剤、凝固因子、血圧降下剤、免疫抑制剤、麻酔薬などが挙げられる。
【0086】
この抗菌性溶液の塗布が上記マルチフィラメントの裂け目に貫入し、実施形態では、その縫合糸のコアに到達する場合、この抗菌性溶液を塗布するプロセスは、充填プロセスと称され得、上記抗菌性コーティングの塗布は、コーティングプロセスと称され得る。1つの実施形態では、本開示の縫合糸は、インライン充填−コーティング方法により調製され得る。このプロセスの充填部分に対しては、マルチフィラメント縫合糸は、抗菌性溶液を塗布するアプリケーターを通され得る。1つの実施形態では、この抗菌性溶液は、塩化メチレン中1.3重量%のトリクロサンを含み得る。この塩化メチレンは、この縫合糸からすぐに取り除かれ得、縫合糸のコアおよび編んだ縫合糸の裂け目の中にトリクロサンを残す。次いで、この縫合糸は、上記抗菌性コーティングが塗布されているコーティングアプリケーターに通され得る。1つの実施形態では、この抗菌性コーティングは、グリコリド−カプロラクトンコポリマーとカルシウムステアロイルラクチレートを、約52/48の比で混合し、混合しながら塩化メチレン、エタノールおよびヘキサンを添加し、次いでトリクロサンをこの全組成物の約1%〜約5%の量で添加することにより形成される懸濁液であり得る。
【0087】
本開示の抗菌性コーティングはまた、創傷用包帯を含む創傷治癒を促進するための他の医療用途のための抗菌性組成物として使用され得る。
【0088】
本開示の代替の実施形態では、マルチフィラメント縫合糸は、まず上記抗菌性溶液が通過し得ない物質、例えば上記抗菌性コーティングでコーティングされ、次いでこの抗菌性溶液が塗布されてもよい。このような場合には、上記縫合糸は、この抗菌性溶液との接触の前にこのようなコーティングをほぐすように処理されるべきである。このことは、この抗菌性溶液が縫合糸の裂け目に流れ込むのを可能にする。当業者認識範囲内の任意の技術が、このコーティングをほぐすために使用され得、例として、カレンダー掛けがある。利用され得る、縫合糸をカレンダー掛けするための方法および装置は、米国特許第5,540,773号、同第5,312,642号および同第5,447,100号に開示されている。これらの各々の開示全体が本明細書中に参考として援用される。いったん抗菌性コーティングでコーティングされた縫合糸がカレンダー掛けされると、上記抗菌剤が上記編み物の裂け目の中に浸透し、それによりフィラメントの間およびマルチフィラメント縫合糸のコアの上に留まるように、上記の抗菌性溶液が付与され得る。
【0089】
本開示の得られる縫合糸は、複数のフィラメントにより規定される裂け目空間を有する複数のフィラメントを保有する。いくつかの実施形態では、本開示の縫合糸はまた、コアを含み、その周りにこの複数のフィラメントが編まれていてもよく、または捻られていてもよい。上記のように、本開示の抗菌性溶液は、この裂け目を充填し、存在する場合にはこのコア上に留まることにより、上記縫合糸の少なくとも一部を充填する。本開示の縫合糸はまた、複数のフィラメントの少なくとも一部の上に上記のような抗菌性コーティングを保有する。
【0090】
本開示に従って調製される縫合糸は、当業者の認識範囲内の任意の外科用針に取付けられ得、針付き縫合糸を生成する。創傷は、組織を貫通して針付き縫合糸を通すことにより縫合され得、創傷の閉鎖を生成する。次いでこの針は、この縫合糸から取り除かれ得、そして縫合糸が結紮され得る。この縫合糸は、その組織中に留まり、その抗菌特性によって、上記組織の汚染および感染を防止するのを補助し、それにより創傷治癒を促進し、感染を最小限にする。この縫合糸コーティングはまた、有利に、外科医が縫合糸を組織に通す能力を高め、そしてその外科医がこの縫合糸を結紮し得る容易さおよび安全性を高める。
【0091】
以下の実施例は、本明細書中に記載された縫合糸の調製および優れた特徴の例示として提示される。本開示がこの実施例に具現化される特定の詳細に限定されないことが留意されるべきである。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
縫合糸を、本開示の抗菌性溶液および抗菌性コーティングを用いて調製した。POLYSORB(登録商標)2/0縫合糸を、まず、塩化メチレン中に種々の量トリクロサンを有する抗菌性溶液で充填した(「充填」)。この塩化メチレンをすぐに取り除き、このフィラメントの裂け目の中およびコア上に残し、次いで上記抗菌性コーティングを塗布した(「コーティング」)。この抗菌性コーティングは、種々の量のトリクロサンを伴う、グリコリド/カプロラクトンコポリマーとカルシウムステアロイルラクチレートとの52/48混合物であった。この充填およびコーティングの詳細を以下の表1に示す。
【0093】
【表1】

次いで、この縫合糸を、Staphylococcus epidermidisの10接種物を注入した栄養ブロスに懸濁した。試験縫合糸およびコントロール縫合糸(未処理のPOLYSORB(登録商標)縫合糸)を、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後および168時間後にサンプリングした(n=3)。この縫合糸のStaphylococcus epidermidisのコロニー形成を阻害する能力をも、VICRYL(登録商標)およびVICRYL(登録商標)Plus縫合糸(両方とも、Ethicon,Inc.,(Somervile,NJ)より市販されている)と比較した。(VICRYL(登録商標)縫合糸は、90%グリコリドおよび10%ラクチドのコポリマーから形成されている;VICRYL(登録商標)Plus縫合糸は、トリクロサンでコーティングされたVICRYL(登録商標)縫合糸である)。表1に上記されたように、本開示の縫合糸の重量あたりの全抽出可能なトリクロサンは、VICRYL(登録商標)Plus縫合糸の0.02%と比べて、約0.62%であった。
【0094】
各24時間間隔で、分析のために試験から取り除かれなかった縫合糸を、新しい10接種物とともに再インキュベートした。各試験縫合糸に対して、その縫合糸の表面上に形成したどんな生物膜でも取り除き、普通寒天でインキュベートし、そしてCFU(コロニー形成単位)の単位で定量した。このCFUを各試験縫合糸について単位時間当たりでプロットした。これらの試験の結果を図1に示す。上記コントロールよりも少なくとも2log少ない量のCFUを含む試験縫合糸を、抗生物膜特性を有すると考えた。この試験縫合糸が上記コントロールよりも少なくとも2log少ない量のCFUを維持した時間の量を、その試験縫合糸の抗生物膜効力の持続時間を示した。図1からわかり得るように、本開示に従って処理された縫合糸は、未処理のPOLYSORB(登録商標)コントロール縫合糸、VICRYL(登録商標)縫合糸およびVICRYL(登録商標)Plus縫合糸と比較してより低いレベルのCFUを有した。
【0095】
本開示の縫合糸の走査型電子顕微鏡(「SEM」)像も得て、VICRYL(登録商標)Plus縫合糸のSEM像と比較した;それらのSEM像を、それぞれ、図2Aおよび2Bに示す。図2A(本開示の充填およびコーティングを伴うPOLYSORB(登録商標)2/0縫合糸)と図2B(VICRYL(登録商標)Plus縫合糸)とを比較するとわかり得るように、本開示の充填方法およびコーティング方法で塗布されたトリクロサンは、シース繊維を通ってコアの中に貫入していた;この貫入は、VICRYL(登録商標)Plus縫合糸には存在しない。
【0096】
(実施例2)
実施例1で調製した縫合糸を、それらをStaphylococcus epidermidis、Staphylococcus aureus、Escherichia coliおよびPseudomonas aeruginosaと接触させることにより、阻害試験のゾーンに供した。これらの試験の結果を図3に示す。図3からわかり得るように、本開示の縫合糸は、未処理のPOLTSORB(登録商標)縫合糸と比べて増強された抗菌活性を有する。それらの縫合糸の細胞毒性試験もまた実施し、本開示の縫合糸は、毒性応答を惹起しなかった。
【0097】
種々の改変が、本明細書中で開示された実施形態に対してなされ得ることが理解される。それゆえに、上記の記載は、限定的であると解釈されるべきではなく、単に好ましい実施形態の例示として解釈されるべきである。当業者は、本開示の範囲および趣旨内で他の改変を想定する。
【0098】
(要約)
マルチフィラメント縫合糸が、その縫合糸を抗菌性溶液に浸透し、そして抗菌性コーティングをその縫合糸に付与することにより調製される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
マルチフィラメント縫合糸を提供する工程;
該マルチフィラメント縫合糸を抗菌性溶液で浸透させる工程;および
該浸透されたマルチフィラメント縫合糸の表面の少なくとも一部分上に抗菌性コーティングを塗布する工程であって、該抗菌性コーティングは、約0.001%から約25%の抗菌剤と、約10%から約20%の1つ以上の脂肪酸成分とを含む、工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記抗菌性溶液が、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗菌性溶液がトリクロサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗菌性溶液が、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗菌性コーティングが、少なくとも1つの抗菌剤および少なくとも1つの膜形成ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗菌性コーティングが、抗生物質、消毒薬、殺菌薬およびこれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1つの抗菌剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗菌性コーティングがトリクロサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗菌性コーティングが、連結部を含む少なくとも1つの膜形成ポリマーを含み、該連結部がグリコリド、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノンおよびジオキセパノンからなる群より選択される1つ以上のモノマーから誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗菌性コーティングが、前記膜形成ポリマーとしてグリコリド/カプロラクトンコポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の脂肪酸成分が、脂肪酸および脂肪酸塩および脂肪酸エステルからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の脂肪酸成分は、
マグネシウムステアロイルラクチレート、アルミニウムステアロイルラクチレート、バリウムステアロイルラクチレート、亜鉛ステアロイルラクチレート、カルシウムパルミチルラクチレート、マグネシウムパルミチルラクチレート、アルミニウムパルミチルラクチレート、バリウムパルミチルラクチレート、亜鉛パルミチルラクチレート、カルシウムオレイルラクチレート、マグネシウムオレイルラクチレート、アルミニウムオレイルラクチレート、バリウムオレイルラクチレート、亜鉛オレイルラクチレートおよびカルシウムオレイルラクチレートからなる群
より選択される、脂肪酸エステルの少なくとも1つの塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の脂肪酸成分が、カルシウムステアロイルラクチレートである、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−48973(P2013−48973A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−272253(P2012−272253)
【出願日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【分割の表示】特願2006−163956(P2006−163956)の分割
【原出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(501289751)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (320)
【Fターム(参考)】