説明

抗菌性薬剤含有カプセル及びそれが取着されてなる人工関節

【課題】本発明は、所望の速度で緩やかに徐放され、多量の薬剤を保持することができる抗菌性薬剤含有カプセル及びそれが装着されてなる人工関節を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するため、抗菌性薬剤が充填されるカプセルであって、該カプセルは多孔質部材から構成され、人工関節の少なくとも一部に取着され、上記充填された抗菌性薬剤を上記多孔質部材を介して関節包内又は骨内に徐放する抗菌性薬剤含有カプセルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節に取着され抗菌性薬剤を含有するカプセル、及びこれが装着された人工関節に関する。
【背景技術】
【0002】
人工関節は疾病や怪我などで関節機能が失われた場合にその再建を目的として広く用いられている。人工関節は有用な医療用具であるが、いくつかの課題を有しており、その内最も重篤なものが感染問題である。
例えば、大腿骨の髄腔に人工股関節が挿入された場合にその滅菌が完全でないと、人工股関節部分、特に関節包内において細菌等が増殖してしまい最悪の場合大がかりな人工股関節の抜去、再置換手術を行わなければならず、患者にとって大きな負担となっている。
このような術後の感染症を防止するため様々な方法が採られている。特許文献1では、インプラント表面にハイドロキシアパタイトを沈着させそれを乾燥させて、比表面積が大きなハイドロキシアパタイト層を形成し、当該ハイドロキシアパタイト層に抗生物質などを含浸させる方法が開示されている(特許文献1)。インプラント表面に沈着したハイドロキシアパタイト層に抗生物質が含浸されているため、このインプラントを人体に装着後、ハイドロキシアパタイト層に含浸された抗生物質により、人工関節置換術による感染症を抑制することができる。
【特許文献1】特表2005−506879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記方法により作製したインプラントでは、ハイドロキシアパタイト層皮膜の気孔径、気孔率を傾斜的に設定することは困難であり、そのため当該皮膜の気孔径、気孔率が均一となるため、薬剤は一定速度で急速に溶出してしまい、所望の速度での薬剤徐放ができない。
【0004】
また、ハイドロキシアパタイト等からなるコーティング層には厚みの制約があるため、多量の薬剤を含浸した状態で保持することは困難である。
【0005】
さらに、上記方法により作製したインプラントでは、水などに溶解性のある天然系、有機系抗菌剤はコーティング層に保持し使用することができるが、これらの抗菌性能は低く、抗生物質同様に耐性菌が発生し易い。一方、最も抗菌性能が高く耐性菌も発生しない無機系抗菌剤のような非溶解性の抗菌剤にとっては不利となる。なぜならば、懸濁液に非溶解性の抗菌剤を混合しこれをコーティング層の表層に適用するが、これではアパタイト層の表面に埃のように乗っているだけであり保持性を有さず、実用性があるとは言い難いからである。
【0006】
したがって、本発明は叙上の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の速度で緩やかに徐放され、多量の薬剤を保持することができる抗菌性薬剤含有カプセル及びそれが装着されてなる人工関節を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、多孔性のカプセル内に抗生物質等の抗菌性薬剤を含有させると、多孔質層をインプラント上に被覆し当該多孔質層内に抗菌性薬剤を含浸させた場合より多くの薬剤を保持でき、さらに多孔質壁部の気孔径、気孔率を制御することによって、所望の速度で薬剤を徐放することができることを見出した。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づいて成されたものであり、その要旨とするところは、抗菌性薬剤が充填されるカプセルであって、該カプセルは多孔質部材から構成され、人工関節の少なくとも一部に取着され、上記充填された抗菌性薬剤を上記多孔質部材を介して関節包内又は骨内に徐放する抗菌性薬剤含有カプセルにある。
【0009】
本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセルにおいて、上記カプセルの多孔質壁部は、10%〜80%の平均気孔率を有することが好ましい。ここで、平均気孔率が10%未満である場合、気孔が分散状態となり、相互に連通した状態とすることができず抗菌性薬剤をカプセルから放出することができない。また平均気孔率が80%を超えると機械的強度が低下するため好ましくない。
【0010】
また、上記カプセルの多孔質壁部は、多孔質セラミックス、多孔質金属又は多孔質樹脂からなることが好ましい。
【0011】
本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセルにおいて、上記カプセル内に充填される抗菌性薬剤は、ペニシリンなどのベータラクタム系抗菌薬、ゲンタマイシンなどのアミノグルコシド系抗菌薬、シプロフロキサシンフルオロキノロン系抗菌薬、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、テイコプラニンなどのグルコペプチド系抗菌薬、クリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗菌薬、テトラサイクリン等のテトラサイクリン系抗菌薬、ST合剤、メトロニダゾール、及びケトライド系抗菌薬からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
さらに、抗菌性薬剤は、キチン・キトサンなどの動物系薬剤、ポリリジンなどの微生物系薬剤、リゾチームなどの酵素系薬剤、ヒノキチオールなどの植物系薬剤、銀、銅、亜鉛などの金属イオンをゼオライトなどの珪酸塩や燐酸ジルコニウムなどの燐酸塩に担持させた無機系薬剤、エチルアルコールなどのアルコール系薬剤、ベンゼンカルボン酸などのアルコール系薬剤、メチルパラベンなどのエステル系薬剤、TPNなどのニトリル系薬剤、サンプラスなどのハロゲン系薬剤、オキシンなどのピリジン・キノリン系薬剤、ケーソンなどのイソチアゾロン系薬剤、TBZなどのイミダゾール・チアゾール系薬剤、ハルカルバンなどのアニリド系薬剤、グルコン酸クロロヘキシジンなどのビグアナイド系薬剤、カーバムなどのチオカーバメート系薬剤、塩化ベンザルコニウムなどの界面活性剤系薬剤、オキシン銅などの有機系金属系薬剤から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
また、上記抗菌性薬剤は、ゼラチン、寒天、カラギーナン若しくはペクチンなどのゲル化剤に混合されてなることが好ましい。抗菌性薬剤をこのようなゲル化剤に混合することにより、抗菌性薬剤の徐放期間を調整することができる。
【0014】
また、本発明は、上記いずれかの抗菌性薬剤含有カプセルが取着されてなる人工関節であって、該人工関節を骨内に挿入した際、上記カプセル内に充填された抗菌性薬剤が関節包内又は骨内に徐放されることを特徴とする人工関節にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセルによれば、当該カプセルは感染の可能性の高い関節包内に配置された場合に最も有効であり、関節包内の細菌の増殖を効果的に抑制するまたは殺菌することができる。また、上述の如く、気孔率や気孔径を制御したり、孔径、孔数、孔分布を制御することにより、薬剤の徐放を行うことができる。当該カプセルは内部に中空部を有し十分大きなスペースを有するため十分な量の薬剤を保持させることができる。
【0016】
さらに、従来技術では有効に保持できなかった無機系抗菌剤も、本発明を使用すれば、感染の予防や治療に十分な量を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセル及びこれが装着された人工関節の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。しかし、本実施の形態に係る抗菌性薬剤含有カプセル及びそれが取着された人工関節は、例示するものであって、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。なお、各図において、共通する部分については同一の符号を付し重複した説明を省略する。各構成要素の配置個数、配置位置等は限定的でなく、抗菌性薬剤含有カプセルの使用目的、用途、所望の性能等により適宜設定することができる。
【0018】
(抗菌性薬剤含有カプセル)
図1は、本発明の実施の形態に係る抗菌性薬剤含有カプセルの一例を示す概略図である。抗菌性薬剤含有カプセル1は、抗菌性薬剤が充填される中空部2と、該中空部2を覆う多孔質の壁部3と、を備える。抗菌性薬剤含有カプセル1は、図2に示すように、ステム4に取り付けられ、かつステム4が大腿骨の髄腔(不図示)に挿入され関節包が再生されると、当該カプセル1は関節包内に位置する。関節包内に細菌等が侵入して繁殖する(感染が発生する)と、再手術を行うことが必要になるが、本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセルを用いれば、抗菌性薬剤を含有するカプセルが関節包内に配置され関節包内の細菌等が殺菌されるため再手術を行う必要がない。
また本発明では、インプラント表面に多孔質性のハイドロキシアパタイト層を形成し、当該ハイドロキシアパタイト内に抗生物質等が含浸されたものより、多くの抗菌性薬剤を保持することができ、細菌などを有効に殺菌することが可能である。感染治療において十分な殺菌ができないと、感染が再発するのみならず、耐性菌を発生させることに繋がる。よって十分な量の抗菌性薬剤を感染部位に配置することは感染予防、感染治療を行う上で重要なファクターである。
本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセル1は、少なくともその一部に多孔質部を備える。当該多孔質部は、多孔質セラミック、多孔質金属若しくは多孔質樹脂であることが好ましい。上記多孔質セラミックスとしては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)などの酸化物系セラミックス、ハイドロキシアパタイト(HA)、第三燐酸カルシウム(TCP)、第四燐酸カルシウム(TeCP)などのリン酸カルシウム系セラミックス、若しくはリン酸系ガラスセラミックスからなる焼結体であることが好ましい。また、多孔質セラミックスは、これらの複合物からなる焼結体であってもよい。これらは、当該カプセル1を人体内に配置したとしても、生体に対して無毒無害でしかも大きな機械的強度を有しているからである。また、多孔質金属は、チタン、チタン系合金、ジルコニウム、タンタル、コバルトークロム系合金、若しくはステンレス鋼であることが好ましく、多孔質樹脂は、ポリエチレン、ポリウレタン、アクリル樹脂、若しくはエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0019】
また、上記カプセルの形状は如何なる形状であってもよい。しかし、当該カプセルは手若しくはレンチ等を用いてステムに螺着される場合は多角形の柱状であることが好ましい。また、当該カプセルがハンマー等を用いて嵌着される場合は、形状は如何なるものであっても良い。
【0020】
上記カプセルの壁部の厚さは、0.1mm〜2mmであることが好ましく、0.5mm〜1.0mmであることがさらに好ましい。当該厚さを薄くすれば徐放時間を短くすることができるが構造的強度が落ちる。また、当該厚さを厚くすれば構造的強度は向上するが徐放時間が長くなる。そのため、当該厚さを0.5mm〜1.0mmとすることが好ましい。
【0021】
カプセルの気孔径は0.1μm〜300μmであることが好ましい。さらに、気孔率は10〜80%であることが好ましい。カプセルの気孔径及び気孔率を調整することにより、カプセルの中に充填された抗菌性薬剤の徐法期間を調整することができる。上記のような範囲とすることにより、抗菌性薬剤の徐放期間を1日〜90日とすることができる。
【0022】
当該カプセルは、人工関節手術後短期の感染防止のみならず、より長期の感染防止にも有効である。即ち、抗菌性薬剤が全て消失した後でも、抗菌性薬剤を補充する若しくは新たなものと交換することにより抗菌性効果を再度取り戻すことができる。
【0023】
具体的な使用例を人工股関節で説明すると、当該カプセルを人工股関節大腿骨側部品(ステム)に装着することが好ましいが、人工股関節臼蓋側部品(カップ)に装着してもよい。また、スクリューのネジの頭部に装着することもでき、この場合任意の生来骨に設置することもできる。また、人工関節に装着したり、生来骨に固定することが困難な症例では軟骨組織に糸やワイヤーで固定することも可能である。
【0024】
(抗菌性薬剤含有カプセルの製造方法)
上記多孔質セラミックスの製造方法としては、セラミックス粉末に所定粒度のカーボン粉末、ナフタレン粉末などのポア材を混合後、鋳込み成形、押し出し成形、プレス成形、ラバープレス成形などの方法で成形後、焼成、研削加工する方法、もしくは成形後に切削加工して焼成する方法などが有効である。ポア剤の添加量はポアが十分連通するよう調整する。また過酸化水素などの発泡剤を使用する方法や焼結温度を調整して多孔質とする方法も使用できる。さらに粉末素材からなる薄い層を形成し、当該層にレーザー光を照射しこれを瞬間焼結し硬化層を形成する工程を連続して行うことにより立体物を造形する粉末焼結法、バインダー中にセラミックス、金属等の微粉末を混合し乾燥させて予め薄いシートを形成しこれらのシート毎に上記同様レーザー照射し焼結体を形成し、この工程を連続して行うことにより立体物を造形するグリーンテープレーザー焼結法、緻密なセラミックス体を製作後にレーザー光線で微細な穴加工を行うレーザー加工法を用いることもできる。これらの製造方法によれば、直接多孔質のカプセルを作製することができ、また多種多様な材料を用いることができ、さらに環境負荷を低減することができるため望ましい。なお、これらの手法の多くは多孔質金属、多孔質プラスチックの製造にも応用することが可能である。
【0025】
本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセルの製造方法について、ハイドロキシアパタイトの場合を例に説明する。例えば、ハイドロキシアパタイト粉末に架橋重合性樹脂としてポリエチレンイミン等を添加し、分散媒として超純水を用いて混合・解砕し、スラリーを調製する。次いで、該スラリーに起泡剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルベタイン、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等から選ばれた一種)を添加して攪拌し、起泡する。
【0026】
更に架橋剤(ソルビトールポリグリシジルエーテル等)を加え泡沫状スラリーを成形型に入れて泡構造を固定して乾燥し、次いで1100℃〜1300℃程度の温度で焼結してハイドロキシアパタイト多孔質焼結体を得る。この焼成は0.5時間〜3時間行われる。
【0027】
続いて、図3(A)及び(B)に基づいて、グリーンテープレーザー焼結法に関して詳細に説明する。
まず、図3(A)に示すように、グリーンテープを作製する。カプセルを構成するセラミックス及び/又は金属微粒子、バインダー並びに溶剤を混合しスラリー5を調製する。ここで、セラミックス、金属として、如何なる材料を用いることができるが、人体に影響を及ぼさない酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、ハイドロキシアパタイト(HA)、第三燐酸カルシウム(TCP)、第四燐酸カルシウム(TeCP)、リン酸カルシウム系ガラスセラミックス、若しくはチタン、チタン系合金、ジルコニウム、タンタル、コバルトークロム系合金、若しくはステンレス鋼等を用いる。また、バインダーとして、アクリル系樹脂若しくはスチレン系樹脂を、溶剤として、水、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、若しくは、トルエンを用いる。続いて、上記のように混合したスラリー5をドクターブレード法と同様にして一定厚のシート状に形成する。その後、このシートを乾燥させることによりスラリー中の溶剤を揮発させ固化させる。その後、シートを一定の大きさに切断する。
【0028】
続いて、図3(B)に示すように、当該シートを一定の大きさに切断したものを一枚積層し、当該カプセルの3次元CADデータに従って、シート6にレーザー光7を照射し、照射部分において金属若しくはセラミックスを焼結させる。続いて、2枚目のシート6を積層し、上記同様レーザー光7を照射させ、照射部分において金属若しくはセラミックスを焼結させる。この工程を複数回繰り返し、積層されたグリーンテープから焼結により固化した部分8を取り出し、所定の形状に加工することにより、抗菌性薬剤含有カプセルを作製することができる。
【0029】
当該作製方法は、グリーンテープに含まれる金属若しくはセラミックスの濃度を調整することにより、作製されたカプセルの気孔径、気孔率を調整することができ、そのことにより中に充填された抗菌性薬剤の放出速度等を調製することができるため、好適に用いられる。また、当該製造方法では、いかなる材料をも用いることができ、しかも複雑な形状のものを作製することができるため好ましい。
【0030】
また、当該抗菌性薬剤カプセルを多孔質金属体で作製する場合、前述の如く金属粉末や金属小粒体の焼結体を用いて作製することもできるが、金属性メッシュを焼結固着して作製することもできる。
【0031】
また、緻密なセラミック体、金属体で全体を形成した後、レーザー光線などを利用して微細な孔加工を行う場合には、他の方法にはないメリットがある。それは、孔径、孔数、孔分布を任意に制御することができる点である。具体的な例としては厚さ0.2mmのチタン板にレーザー光線を利用して、孔径76μmの孔を、ピッチ100μmで加工した。
【0032】
薬剤の徐放は、多孔質セラミック体、多孔質金属体の場合では、その気孔率、気孔径を調整することにより行うことが好ましい。
【0033】
また、レーザー光線などによる孔加工の場合では、その穴径、数量、穴分布密度で調整を行うことが好ましい。
【0034】
当該抗菌性薬剤含有カプセルの大きさは、人工関節の機能に不具合を生じさせない範囲であれば、いくらでも大きくすることができる。当該大きさが大きければ、そのカプセル内に多量の薬剤を保持することができる。
【0035】
当該カプセルは、通常本体と蓋の2つのパーツから構成されることが好ましい。これは、当該カプセル内部の中空部に抗菌性薬剤を貯留させるためである。粘性が低く含浸が容易な薬剤の場合は、一体成形されたものでも貯留は可能である。
【0036】
(抗菌性薬剤)
本発明に係るカプセル中に充填される抗菌性薬剤として、抗菌薬、天然系抗菌剤、無機系抗菌性薬剤、又は有機系抗菌性薬剤、いずれを用いてもよい。いずれか二種以上のものを混合して用いてもよい。
抗菌薬の具体例としては、ペニシリンなどのベータラクタム系抗菌薬、ゲンタマイシンなどのアミノグルコシド系抗菌薬、シプロフロキサシンフルオロキノロン系抗菌薬、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、テイコプラニンなどのグルコペプチド系抗菌薬、クリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗菌薬、テトラサイクリン等のテトラサイクリン系抗菌薬、ST合剤、メトロニダゾール、及びケトライド系抗菌薬が挙げられる。
また、天然系抗菌剤の具体例としては、キチン・キトサンなどの動物系薬剤、ポリリジンなどの微生物系薬剤、リゾチームなどの酵素系薬剤、ヒノキチオールなどの植物系薬剤等が挙げられる。
さらに、無機系抗菌剤として、銀、銅、亜鉛などの金属イオンをゼオライトなどの珪酸塩や燐酸ジルコニウムなどの燐酸塩に担持させたもの等が挙げられる。
有機系抗菌剤の具体例としては、エチルアルコールなどのアルコール系薬剤、ベンゼンカルボン酸などのアルコール系薬剤、メチルパラベンなどのエステル系薬剤、TPNなどのニトリル系薬剤、サンプラスなどのハロゲン系薬剤、オキシンなどのピリジン・キノリン系薬剤、ケーソンなどのイソチアゾロン系薬剤、TBZなどのイミダゾール・チアゾール系薬剤、ハルカルバンなどのアニリド系薬剤、グルコン酸クロロヘキシジンなどのビグアナイド系薬剤、カーバムなどのチオカーバメート系薬剤、塩化ベンザルコニウムなどの界面活性剤系薬剤、オキシン銅などが挙げられる。
【0037】
これらの抗菌性薬剤は、ゲル化剤に混合されてなることが好ましい。ゲル化剤と混合しこれを本発明に係るカプセル中に充填することにより、抗菌性薬剤の徐放期間を調整することができるからである。特に液体の薬剤の場合はゲル化剤との混合が有効である。徐放期間の調整は、ゲル中のゲル化剤の含有量を調整することによって行う。即ち多量のゲル化剤を使用したゲルは硬く、水分を含浸しにくいため、薬剤の溶出が抑制される。一方、少量のゲル化剤を使用した場合には、ゲルは軟らかく、水分を多く含浸するため、薬剤の溶出をあまり抑制しない。このようにゲル化剤を使用することによって、抗菌性薬剤の徐放期間を使用しない場合の1.5倍〜20倍に伸ばすことができる。ゲル化剤としては、ゼラチン、寒天、カラギーナン若しくはペクチンを使用することが好ましい。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
以下に本発明に係る抗菌性薬剤含有カプセルの実施例を比較例とともに説明するが、本発明で対象としているカプセルは、以下の実施例に限定されないことは言うまでもない。
セラミックスとしてハイドロキシアパタイト、バインダーとして水溶性アクリル系樹脂、溶剤として純水を用いこれらを混合しスラリーを調製した。続いて、当該スラリーをドクターブレード法と同様にして0.2mmのシート状に形成した。その後、このシートを乾燥させることによりスラリー中の溶剤を揮発させ固化させ、その後シートを複数に切断した。
【0039】
切断されたシートを一枚積層し、カプセルの3次元CADデータに従って、シートにレーザー光を照射し、照射部分においてハイドロキシアパタイトを焼結させた。続いて、2枚目のシートを積層し、上記同様レーザー光を照射させ、照射部分においてハイドロキシアパタイトを焼結させた。この工程を複数回繰り返し、積層されたグリーンテープから、焼結により固化した部分を取り出し、カプセル形状に加工することにより、抗菌性薬剤含有カプセルを作製した。
容器状の部分とそれにぴったりと嵌合される蓋部との2つの部材より構成されている。当該カプセルの中には抗菌性薬剤としてペニシリン粉末(寒天でゲル化)を入れた後、容器部と蓋部とを嵌合し、人工股関節ステムのテーパー部後方のステム打ち込み穴に螺着させた。
【0040】
(実施例2)
ハイドロキシアパタイト粉末にポア剤としてナフタレン粉末を添加し、よく混合した後、金型を使用してプレス成形した。成形体を1150℃で焼結し、カプセル形状に研削加工して、容器部と蓋部を製作した。容器部にゲンタマイシン粉末を入れた。本カプセル材質の気孔率は40%、気孔径80−200μmであった。
【0041】
(実施例3)
直径200μmのチタンビーズをカプセル形状のタングステン製金型に流し込み、真空炉中で、1300℃、2時間熱処理することによって、カプセルの容器部と蓋部を製作した。本カプセル材質の気孔率は30%、気孔径は20−40μmであった。本カプセル中には代表的な無機系抗菌剤である銀イオンを担持したセラミック粉末を入れた所、牛血清中で良好な銀イオンの溶出を示した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本件に係る抗菌性薬剤含有カプセルは、抗菌性薬剤を含有し徐々に放出可能な容器であって、特に人工関節の一部に取り付けられ、人工関節の装着後、関節包内又は髄腔内に抗菌性薬剤を徐放することにより、関節包内及びステム周囲で、細菌の増殖抑制、殺菌を行うために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る抗菌性薬剤含有カプセルの一例を示す概略図である。
【図2】図2は、ステムに取り付けられた徐放性カプセルの一例を示す概略図である。
【図3】図3は、グリーンテープレーザー焼結法による製造工程を示した概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性薬剤が充填されるカプセルであって、該カプセルは多孔質部材から構成され、人工関節の少なくとも一部に取着され、上記充填された抗菌性薬剤を上記多孔質部材を介して関節包内又は骨内に徐放する抗菌性薬剤含有カプセル。
【請求項2】
上記多孔質部材が、10%〜80%の平均気孔率を有することを特徴とする請求項1記載の抗菌性薬剤含有カプセル。
【請求項3】
上記多孔質壁部が、多孔質セラミックス、多孔質金属又は多孔質樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の抗菌性薬剤含有カプセル。
【請求項4】
上記抗菌性薬剤が、ペニシリンなどのベータラクタム系抗菌薬、ゲンタマイシンなどのアミノグルコシド系抗菌薬、シプロフロキサシンフルオロキノロン系抗菌薬、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、テイコプラニンなどのグルコペプチド系抗菌薬、クリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗菌薬、テトラサイクリン等のテトラサイクリン系抗菌薬、ST合剤、メトロニダゾール、及びケトライド系抗菌薬からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性薬剤含有カプセル。
【請求項5】
上記抗菌性薬剤が、キチン・キトサンなどの動物系薬剤、ポリリジンなどの微生物系薬剤、リゾチームなどの酵素系薬剤、ヒノキチオールなどの植物系薬剤、銀、銅、亜鉛などの金属イオンをゼオライトなどの珪酸塩や燐酸ジルコニウムなどの燐酸塩に担持させた無機系薬剤、エチルアルコールなどのアルコール系薬剤、ベンゼンカルボン酸などのアルコール系薬剤、メチルパラベンなどのエステル系薬剤、TPNなどのニトリル系薬剤、サンプラスなどのハロゲン系薬剤、オキシンなどのピリジン・キノリン系薬剤、ケーソンなどのイソチアゾロン系薬剤、TBZなどのイミダゾール・チアゾール系薬剤、ハルカルバンなどのアニリド系薬剤、グルコン酸クロロヘキシジンなどのビグアナイド系薬剤、カーバムなどのチオカーバメート系薬剤、塩化ベンザルコニウムなどの界面活性剤系薬剤、オキシン銅などの有機系金属系薬剤から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性薬剤含有カプセル。
【請求項6】
上記抗菌性薬剤が、ゼラチン、寒天、カラギーナン若しくはペクチンなどのゲル化剤に混合されてなることを特徴とする請求項4又は5記載の抗菌性薬剤含有カプセル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの抗菌性薬剤含有カプセルが取着されてなる人工関節であって、該人工関節を骨内に挿入した際、上記カプセル内に充填された抗菌性薬剤が関節包内又は骨内に徐放されることを特徴とする人工関節。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−298699(P2009−298699A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252920(P2006−252920)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】