説明

抗菌性複合体およびその製造方法

【課題】抗菌性複合体であって、高度でかつ持続性のある抗菌作用を有すると共に、該複合体からの抗菌性物質の脱落が少なく、更に、引張強度などの機械特性に優れた抗菌性複合体を提供する。また、該抗菌性複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維状あるいはフィルム状のポリアミドを支持体とし、キトサンを含有する多孔質膜で、該支持体の表面を被覆し抗菌性複合体とする。該抗菌性複合体の製造方法は、ポリアミド可溶の溶媒に、キトサン、またはキトサンとポリアミドとを溶解し溶解液を得る工程、ポリアミド支持体に該溶液を塗布した後、熱水処理する工程、および乾燥工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性複合体、詳しくは、ポリアミド支持体とキトサンを含有する多孔質膜とを含んでなる抗菌性複合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、カニやエビなどの甲殻類の殻、昆虫の表皮、キノコなどの細菌細胞壁から得られるキチンの脱N−アセチル化物である。近年、このキトサンの有する抗菌作用に着目し、キトサンを用いてポリアミド系繊維などの合成繊維を加工することによって、抗菌作用を発揮する付加価値の高い製品を開発する試みがなされている。
【0003】
このような試みとして、例えば、キトサン混合物を繊維上に散布し熱処理することによって繊維表面にキトサンを付着させる方法が知られている(特許文献1)。また、ポリアミド系繊維などの合成繊維を、タンニン酸を作用させ或いはグラフト技術を用いると共にキトサン塩を含有する水溶液で処理することによって、耐洗濯性の抗菌繊維を得る方法も知られている(特許文献2および3)。しかしながら、このような方法でキトサンを繊維に付与した場合には、繊維からキトサンが脱落し易いため抗菌繊維としての性能が必ずしも十分ではなかった。
【0004】
抗菌性材料を添加混合した後に紡糸して得た抗菌性ナイロン糸を少なくとも一部に用いたストッキングに関する発明は、特許文献4に知られている。また、繊維を酸水溶液処理し、次いでグリシジルエーテル基を複数有する架橋化試薬水溶液で処理し、更に多糖水溶液で処理することを特徴とするポリアミド系合成繊維の親水化加工方法が知られている(特許文献5)。しかしながら、このような方法でキトサンを繊維に付与した場合には、キトサンが繊維の内部に埋もれ表面に現れにくいため、十分な抗菌性を発現させることができなかった。また、後者の場合には、さらに繊維の強度が低下してしまう問題もあった。
【0005】
さらに、特許文献6には、ポリエステル又はナイロンからなる基材層に、無延伸ポリオレフィンを積層してなるフィルムのポリオレフィン面に、保持層として天然繊維からなる織布等を接着して積層シートとし、該積層シートの保持層に、A)グルコマンナン、B)プルラン、カラギーナン又はキトサン及びC)多価アルコール、糖アルコール、単糖類、二糖類及びオリゴ糖よりなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有する粘稠液を含浸させて乾燥して創傷被覆材を得ることが開示されている。しかしながら、このようにして得られる被覆材は、保持層中の物質が単に吸着によって担持されているため、被覆材の使用時に該物質が容易に脱離してしまう不都合があった。また、接着した積層シートは伸縮性に乏しいものであった。
【0006】
【特許文献1】特開平7−242772号公報
【特許文献2】特開平8−218276号公報
【特許文献3】特開平8−284066号公報
【特許文献4】特開平5−302203号公報
【特許文献5】特開平9−296369号公報
【特許文献6】特開2004−248949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高度でかつ持続性のある抗菌作用を有すると共に、引張強度などの機械特性に優れた抗菌性複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアミド支持体と、キトサンを含有する多孔質膜とを含んでなる抗菌性複合体、およびその製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、ポリアミド支持体のベースとして用い得るポリアミドは、1種以上の酸アミドの繰り返し単位が結合してできた任意のポリマーであって、特に限定されない。このようなポリアミドには、一般に、脂肪族骨格を含むポリアミドである所謂ナイロン(登録商標)、および芳香族骨格のみで構成される全芳香族ポリアミドであるアラミドなど、ポリアミド支持体のベースとして使用し得るものとして既知のあらゆるポリアミドが含まれる。上記ナイロンとしては、例えば、アミノ酸の重縮合反応によって得られるナイロン6、ナイロン11、ナイロン12などのほか、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5Tなどのような共重合ナイロンが含まれる。上記アラミドの代表例として、例えばケブラー(登録商標)やノーメックス(登録商標)などを挙げることができる。このようなポリアミドは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0010】
また、本発明において、ポリアミドをベースとする支持体は、いかなる形状を有していてもよく、抗菌性を付与すべき用途に応じて任意に選択される。例えば、繊維自体、編物、織物、不織布などの繊維製品、フィルム、シート、フォームなどが、好適な支持体の代表例として挙げられる。なかでも、ナイロン繊維またはナイロンフィルムが、本発明のポリアミド支持体として好適である。特に、繊維を支持体として本発明の抗菌性複合体を構成する場合、最終用途と目的に応じて、6μm〜5mmの直径を有する繊維を有利に使用し得る。この場合の最終用途としては、ストッキングを構成する少なくとも一部の極細繊維として或いは歯ブラシを構成する少なくとも一部の極太繊維として、本発明の抗菌性複合体を有利に使用し得る。
【0011】
本発明において、多孔質膜に含有されるために用い得るキトサンとは、一般に、カニやエビなどの甲殻類の殻、昆虫の表皮、イカなどの骨格、キノコなどの細菌細胞壁から得られるキチンの脱N−アセチル化物である。即ち、キチンをアルカリで処理してアセチル基の大部分を脱離させると、D-グルコサミン単位を主たる構成成分とするキトサンに変換される。本発明におけるキトサンは、酸性水溶液に溶解するものであることが好ましい。
【0012】
本発明において、「キトサン」の用語はキトサンオリゴマーを含む。本発明におけるキトサンは、1000〜1000000の範囲内の重量平均分子量を有することが好ましい。キトサンの重量平均分子量が低すぎると、水溶性が高くなり容易に水または熱水に溶解し、その結果、多孔質膜に含有されるキトサンの量が減少するため、目的とする抗菌作用が十分に得られないことがある。特に微粉末状のキトサンを用いる場合には、重量平均分子量が2000以上であることがより好ましく、さらには5000以上が好ましく、とりわけ9000以上が好ましい。
【0013】
一方、キトサンの重量平均分子量が高すぎると、抗菌性を発揮する9000程度から10000程度まで動物の体液等によって加水分解されるのに時間がかかり過ぎる等の不都合が生じる場合がある。従って、キトサンの重量平均分子量は、より好ましくは700000以下、さらに好ましくは500000以下、よりさらに好ましくは300000以下、特に好ましくは100000以下、最も好ましくは50000以下である。
【0014】
本発明のある態様においては、キトサンはオリゴマーであることも好適である。この場合、キトサンの重量平均分子量は、好適には1000以上、より好適には5000以上であって、好適には10000以下、より好適には9000以下である。
【0015】
本発明において、上記範囲の重量平均分子量のキトサンを用いることによって、目的とする抗菌作用が得られると共に、キトサンをポリアミド溶液に溶解または懸濁させることにより容易に支持体上に付与することが可能となる。
【0016】
本発明による抗菌性複合体は、上記ポリアミド支持体と、キトサンを含有する多孔質膜とを含んでなる。即ち、上記のキトサンは多孔質膜に含有されていることが重要であり、とりわけ、以下に詳しく述べるように、キトサンの少なくとも一部は多孔質膜の表面に露出していることが好ましい。本発明では、キトサンが多孔質膜に担持されていることによって、抗菌性複合体に対して高度な抗菌作用を付与できると共に、抗菌性複合体の製造過程や使用過程においてキトサンが脱落することなく、高度な抗菌作用を持続させ得る。
【0017】
本発明において、通常、多孔質膜のベースとしてポリマーが用いられる。このようなポリマーは、本発明におけるポリアミド支持体のベースとして用いる前記ポリアミドから選択することが好ましい。多孔質膜のベースとしては、本発明におけるポリアミド支持体のベースとして用いるポリアミドと同じ材料であっても異なる材料を用いてもよいが、同じまたは組成的に類似する材料を用いることが、支持体との親和性の点から好ましい。
【0018】
高度な抗菌作用を発現させるためには、キトサンの少なくとも一部は多孔質膜の表面に露出していることが好ましい。本発明の抗菌性複合体におけるキトサンの露出量は、後述する酵素によるキトサン加水分解によって測定することができる。このようにして測定されるキトサンの露出量は、多孔質膜の重量を基準に30〜99重量%の範囲内にあることが、効率よく高度な抗菌作用を発現させる観点から好ましい。露出量が大きいほど抗菌性に優れるものの、それが大きすぎると抗菌性複合体の製造過程や使用過程においてキトサンが脱落する場合がある。従って、より好ましい露出量は、多孔質膜の重量を基準に97重量%以下、さらには95重量%以下が好ましい。一方、露出量が少なすぎると、十分な抗菌作用が発現しない。従って、より好ましい露出量は、多孔質膜の重量を基準に30重量%以上、さらには80重量%以上が好ましい。
【0019】
また、本発明の抗菌性複合体は、後述するキレート滴定法によって測定された膜表面に含まれるカルシウム金属量が0〜10ppmの範囲内にあることが好ましい。
【0020】
本発明の抗菌性複合体は、キトサンを任意の割合で含み得る。高度でかつ持続性のある抗菌作用を付与するため、キトサンは、複合体100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは5重量部以上の割合で含まれる。また、上記したような所望の多孔質膜を容易に形成する点およびコストの点から、キトサンは、複合体100重量部に対して、好ましくは60重量部以下、より好ましくは55重量部以下、さらに好ましくは40重量部以下の割合で含まれる。
【0021】
次に、上記した本発明の抗菌性複合体、さらには好ましい実施態様における本発明の抗菌性複合体を製造する方法について説明する。
本発明の上記抗菌性複合体を製造する方法は、
ポリアミドの溶媒にキトサン、またはポリアミドおよびキトサンを懸濁または溶解して、混合液を得る工程;
該混合液をポリアミド支持体に塗布した後、得られた塗布物を熱水で処理して多孔性の薄膜を有する複合体を得る工程;
得られた複合体を乾燥する工程、
を含んでなる。
【0022】
本発明において、ポリアミドの溶媒とは、上記ポリアミドを溶解可能な溶媒をいい、上記キトサンを溶解可能または懸濁可能な溶媒が、好適に使用される。このような溶媒の具体的な例としては、次の溶液の飽和メタノール溶液または飽和エタノール溶液を挙げることができる:塩化カルシウム2水和物、塩化リチウム、ジメチルホルムアミド・塩化リチウム溶液、ジメチルホルムアミド・臭化リチウム溶液、ジメチルホルムアミド・塩化カルシウム溶液、ジメチルホルムアミド・臭化塩化カルシウム溶液、ジメチルスルホキシド・塩化リチウム溶液、ジメチルスルホキシド・臭化リチウム溶液、ジメチルスルホキシド・塩化カルシウム溶液、ジメチルスルホキシド・臭化カルシウム溶液、濃ギ酸、ジクロル酢酸、メタンスルホン酸、濃硫酸。これらの中でも、ハロゲン化カルシウム水和物の飽和アルコールは比較的毒性の少ない溶媒として好適であり、とりわけ、塩化カルシウム2水和物飽和メタノール溶液および塩化カルシウム・2水和物飽和エタノール溶液は、本発明において特に好適に使用できる。
【0023】
ポリアミドの溶媒にキトサン、またはポリアミドおよびキトサンを溶解または懸濁させる順序は問わない。溶媒にポリアミドとキトサンとを同時に添加して溶解または懸濁させてもよく、あるいは予め溶媒に溶解または懸濁させたそれぞれの処理液を次いで混合してもよい。溶媒に溶解または懸濁させるポリアミドおよびキトサンの濃度は、溶媒に対する各物質の溶解度、懸濁安定性、キトサン粉末の粒径等に応じて適宜決定され得る。混合液中のポリアミド濃度は、通常0w/v%以上であり、好ましくは0.2w/v%以上、より好ましくは0.5w/v%以上、また、通常20w/v%以下、好ましくは5w/v%以下、より好ましくは5w/v%以下である。一方、キトサン濃度は、通常0.001w/v%以上、好ましくは0.1w/v%以上、より好ましくは0.2w/v%以上、さらに好ましくは0.5w/v%以上、また、通常20w/v%以下、好ましくは10w/v%以下、より好ましくは5w/v%以下、さらに好ましくは3w/v%以下である。上記のように、様々な重量平均分子量を有するキトサンを用いることができ、例えば重量平均分子量の大きなキトサン微粉末を用いる場合には、通常0.01w/v%〜20w/v%の範囲内の濃度の懸濁液として、また、重量平均分子量の小さなキトサンオリゴマーを用いる場合にも、通常0.01w/v%〜20w/v%の範囲内の濃度の溶液として、混合液を得ることが有利であり得る。
【0024】
本発明において、ポリアミドの溶媒へのキトサン、またはポリアミドおよびキトサンの懸濁または溶解は、通常、室温以上、好ましくは35℃〜60℃、より好ましくは40℃〜50℃にて行われる。
【0025】
次に、得られた混合液をポリアミド支持体に塗布した後、得られた塗布物を熱水で処理して多孔性の薄膜を有する複合体を得る。
支持体表面への塗布手段としては、支持体表面に混合液を付与し薄く延ばす方法を採用してもよく、あるいは支持体を混合液中に浸潰して引き上げる方法を採用してもよい。塗布しやすいように、塗布されるべき支持体表面を、予め上記溶媒に浸漬するなどの前処理を施して支持体表面をゲル状にしておく方法も有利に採用し得る。
【0026】
塗布を行う際、混合液の温度は、通常は室温以上、好ましくは約35℃〜60℃、より好ましくは40℃〜50℃である。塗布処理時間は、特に限定されないが、通常1分間〜6時間、好ましくは5分間〜5時間、より好ましくは10分間〜1時間である。
【0027】
例えば、塩化カルシウム・2水和物飽和メタノールを溶媒として用いて得たキトサン−ポリアミド混合液を塗布する場合、得られた塗布物中にキトサン微粒子を好適に分散させることができる。
【0028】
次いで、通常、混合液を一部除去して乾燥させた後、塗布物を熱水で処理する。この熱水処理によって、塗布物中からカルシウム塩を含む溶媒が急激に除去され、その結果、支持体の表面に多孔質膜が形成される。ここで、用いる熱水は50℃〜100℃の温度を有することが好ましく、より好ましい温度は60℃〜80℃である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の有効性について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0030】
1.試料表面におけるキトサン露出の確認
各実験例で得られた試料について、ニンヒドリン検査により定性分析を行った。即ち、各試料の適量にニンヒドリン0.1%(v/v)イソプロピルアルコール溶液を噴霧し、80℃で1時間乾燥させた。乾燥後、それぞれの試料に紫色系統の変色が確認された場合にはキトサンが試料表面に付着(露出)していると判断した。
【0031】
2.キトサンの露出量
各実験例で得られた試料の表面に露出しているキトサンの露出量を、キトサンの分解酵素であるキトサナーゼ(和光純薬株式会社製)を用いて分析した。即ち、キトサナーゼによりキトサンを加水分解させ、分解前と分解後の重量の減量からキトサン露出量を測定した。以下に、分析方法の詳細を示す。
pH3の酢酸水溶液1%(v/v)100mLに水酸化ナトリウム水溶液4%(w/v)を加えてpH5に調節した。その中に各試料0.354gを入れた。試料を入れた溶液を、室温でゆっくり2時間撹拌し、次いでキトサナーゼ0.004gを加え、撹拌して加水分解させた。1週間経過後、酢酸水溶液から試料を取り出し、蒸留水で水洗した。乾燥した後の試料の重量を測定し、加水分解前と後の重量減からキトサンの露出量を求めた。
【0032】
3.抗菌試験
試験管の中に菌を加えた培地と試料を入れ、1時間の振とう培養を行った。試料を入れない時の菌数と、試料を入れた状態での菌数から算出した滅菌率が26%以上であることを基準に判定を行った。生菌数測定は寒天培地を用いてのスパイラルプレート法にて実施した。
【0033】
試料調製として、各検体から0.04gを量り取り、試験管に入れ、121℃、15分間オートクレーブ滅菌を行った。
培地調製として、試験菌株を寒天培地に植え、35℃で20時間の培養を行った。これを危険菌株として用いた。滅菌した普通ブイヨンに、試験菌株を懸濁し、一定の菌量になるように濁度で調製した。この菌液をリン酸緩衝液で1/15000に希釈したものを試験培地とした。
振とう培養として、試料を入れて滅菌した試験管に試験培地を4m1ずつ加え、35℃のインキュベーター内で160rpmの条件で1時間の振とう培養を行った。
生菌数測定として、振とう培養前後の試験培地の生菌数を測定するため、標準寒天培地を用い、スパイラルプレート法で実施した。
試験に用いた菌株は、Staphelococcus aureus(NBRC13276)(以下Sa)とKlebsiellapneumoniae(NBRC14940)(以下Kp)とした。
試験に用いた培地は、標準寒天培地(メルク(株)製)と普通ブイヨン(メルク(株)製)の2種類であった。
【0034】
減菌率の計算は次の様に行った。
減菌率(%):((A−B)/A)x100
A:振とう前の生菌数
B:振とう後の生菌数
【0035】
評価の有効性の判定条件は下記の通りとして行った。
(1)無加工試料(ブランク)の減菌率ZがZ<30%であれば有効する。
(2)加工試料の減菌率Yが(Y−Z)>26%のとき抗菌性を認めるものとする。
【0036】
4.引張強度
引張強度は、インストロン型万能材料試験機を用いて、以下の条件で行った。
(1)繊維の両端を直径約2mmの棒に結び付ける。
(2)(1)で繊維を結びつけた棒を測定プロープの固定部にクランプする。
(3)引張速度10mm/分で引っ張り、ちぎれた時の荷重より引張強度を求めた。
【0037】
(調製例1:カルシウム溶媒の調製)
2Lのメタノールに、塩化カルシウム・2水和物1700gを加えて40〜50℃で約4時間撹拌し、その後約15時間、室温にて放置した。次に、濾布を使ったろ過によって不溶部を除去し、得られた溶液を、カルシウム溶媒とした。
【0038】
(調製例2:ナイロン12溶液の調製)
調製例1で得たカルシウム溶媒100mLに、ナイロン12を10g添加して、40〜50℃にて溶解し、10w/v%のナイロン12溶液を得た。
【0039】
(調製例3:キトサン−ナイロン懸濁液Aの調製)
調製例2で得たナイロン12溶液50mLにカルシウム溶媒50mLを加えた溶液(5w/v%ナイロン溶液)に、キトサン粉末(品番:フローナックC、株式会社共和テクノス)2gを乳鉢にて粉砕したものを混合し、キトサン−ナイロン懸濁液Aを得た。
【0040】
(調製例4:キトサン−ナイロン懸濁液Bの調製)
キトサン粉末(品番;フローナックC,株式会社共和テクノス)を氷酢酸で溶解し、過酸化水素水を加えて低分子化させ、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ処理後、中和し、液を濃縮後アセトンで沈殿させメタノールで洗浄し、室温で乾燥してキトサンオリゴマーを得た。調製例2で得たナイロン12溶液25mLにカルシウム溶媒40mLを加えた溶液に、得られたキトサンオリゴマー0.2gを混合し、キトサン−ナイロン懸濁液Bを得た。
【0041】
(調製例5:蛍光ナイロン溶液の調製)
調製例1で得たカルシウム溶媒100mLに蛍光ナイロンテグス2.0gを添加して、40〜50℃にて溶解し、蛍光ナイロン溶液を得た。
【0042】
(調製例6:キトサン−ナイロン懸濁液Cの調製)
調製例5で得た蛍光ナイロン溶液100mLに9%(w/v水)のキトサンヒドロゲル2.0gを混合し、キトサン−ナイロン懸濁液Cを得た。
【0043】
(調製例7:ナイロン6.6溶液の調製)
調製例1で得たカルシウム溶媒200mLにナイロン6.6(UBE2020、宇部興産株式会社製)2.0gを添加して、40〜50℃にて溶解し、1w/v%のナイロン6.6溶液を得た。
【0044】
(調製例8:キトサン−ナイロン懸濁液Dの調製)
調製例7で得たナイロン6.6溶液80mLを用いた以外は、調製例3と同様に行い、キトサン−ナイロン懸濁液Dを得た。
【0045】
(調製例9:蛍光染色されたキトサンの調製)
9%(w/v水)のキトサンヒドロゲル22.8gに蒸留水50mLを加えた懸濁液に、フルオレセイン−5−イソチオシアナート(FITC)(Merk KGaA製)5mgをエタノール50mLで溶解させたFITC溶液1mLをメスピペットで加え、500rpmで30分間撹拌した。撹拌停止後、一晩静置した。これを濾過し、蒸留水、アセトン、エタノールの順で洗い、乾燥した後、乳鉢で粉砕し、微粉末状の蛍光染色されたキトサンを得た。
【0046】
(調製例10:蛍光キトサン−ナイロン懸濁液の調製)
調製例7で得たナイロン6.6溶液20mLに調製例9で得た蛍光染色されたキトサンを混合し、蛍光キトサン−ナイロン懸濁液を得た。
【0047】
(実施例1)
約75cmのナイロン6.10繊維(直径200μm)を、前処理として、調製例1で得たカルシウム溶媒に30分間浸漬し、その後、上記調製例3で得たキトサン−ナイロン懸濁液Aの中に徐々に入れ約30秒間かけて引き出した。次いで、引き出された繊維を、1〜4時間室温で乾燥させた後、70〜90℃の温水に10分間浸漬して脱塩(および脱溶媒)を行い、室温にて乾燥させた。得られたナイロン繊維を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、キトサン−ナイロン懸濁液Aにより、ナイロン繊維の表面にキトサンが析出し多孔質膜の状態でコーティングされていることがわかった。
【0048】
(実施例2)
キトサン−ナイロン懸濁液Aの代わりに、上記調製例4で得たキトサン−ナイロン懸濁液Bを用いたこと以外は、上記実施例1と同様に行った。得られたナイロン繊維を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、キトサン−ナイロン懸濁液Bにより、ナイロンの表面にキトサンが析出し多孔質膜の状態でコーティングされていることがわかった。
【0049】
(実施例3)
ナイロン6,6繊維(直径8μm、重さ0.226g)を、上記調製例3で得たキトサン−ナイロン調製液A30mlが入ったL字管に通し、浸漬時間が1秒ほどになる様に調節し、巻き取り機で巻き取った。巻き取られた繊維を室温で30分間乾燥した。以後、上記実施例1と同様に行った。得られたナイロン繊維を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、キトサン−ナイロン懸濁液Aにより、ナイロンの表面にキトサンが析出し多孔質膜の状態でコーティングされていることがわかった。
【0050】
(キトサン露出量の分析)
実施例3で得たナイロン6.6の繊維表面に露出しているキトサンの露出量を、キトサンの分解酵素であるキトサナーゼを用いて分析した。即ち、pH3の酢酸水溶液1%(v/v)100mLに水酸化ナトリウム水溶液4%(w/v)を加えてpH5に調節した。その中に実施例3で得たナイロン6.6繊維を0.354g入れた。繊維を入れた溶液を、室温でゆっくり2時間撹拌し、次いでキトサナーゼ0.004gを加え、撹拌して加水分解させた。1週間経過後、酢酸水溶液から繊維を取り出し、蒸留水で水洗した。乾燥した後の繊維の重量は、0.287gであった。加水分解前と後の重量減から、0.067gのキトサンが、露出していたことがわかった。SEM観察により求めた膜厚1μmと調合組成比から計算したキトサンの含有量は0.071gであることから、約95%のキトサンが露出していることがわかった。
【0051】
(抗菌試験結果)
実施例3で得たキトサン−ナイロンをコートしたナイロン6.6繊維(コート試料)とコーティング処理を行わなかったナイロン6.6繊維(ブランク)を検体として抗菌性試験を行った。生菌数測定結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
加工試料(コート試料)の減菌率を求めた結果、Y−Zは、Saでは68.5%、Kpでは58.9%となり、基準である26%を上回ったことから抗菌の効果が認められた。
【0054】
(実施例4)
キトサン−ナイロン懸濁液Aの代わりに、上記調製例4で得たキトサン−ナイロン懸濁液Bを用いたこと以外は、上記実施例3と同様に行った。得られたナイロンを走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、キトサン−ナイロン懸濁液Bにより、ナイロンの表面にキトサンが析出し多孔質膜の状態でコーティングされていることがわかった。
【0055】
(実施例5)
キトサン−ナイロン懸濁液Aの代わりに、キトサン−ナイロン懸濁液Cを用いたこと以外は、上記実施例1と同様に行なった。得られたナイロンを蛍光顕微鏡で観察した結果、青色光を当てると緑色の蛍光がナイロン繊維表面全体に確認された。上記と同様に、キトサン・ナイロンコーティングされていないナイロン繊維に青色光を当てても蛍光を発することはなかった。
【0056】
(実施例6)膜に含まれるカルシウム金属量の評価
膜に含まれるカルシウム金属量は、次の通りキトサン・ナイロンコーティング繊維を作製した後、キレート滴定法によって測定した。なお、カルシウム金属はその塩化物であるCaClとして通常は膜中に存在する。従って、カルシウム金属量は残留塩素の量を示す指標となる。
【0057】
まず、ナイロン6繊維(直径143μm、長さ30m(0.578g))を調製例3で得たキトサン−ナイロン懸濁液A約30mlが入ったL字管に通し、実施例3と同様に処理を行い、キトサン・ナイロンコーティング繊維を作製した。得られた繊維の重量は0.594gであった。次に、その繊維を白金坩堝で大気中、800℃で灰化させた。灰火物を希硫酸で溶出し、エリオクロムブラックTを指示薬としてEDTA標準液でカルシウム量を滴定した。その結果、3ppmのカルシウムが存在することが分かった。
【0058】
(実施例7)引張強度の評価
キトサン・ナイロンコーティングにより繊維の強度低下が起こらないかを調べるため、引張強度の測定を行った。測定には、上記のとおり、インストロン型万能材料試験機を用いた。
コーティングを行わなかった繊維(ブランク)と上記実施例6で作製したキトサン・ナイロンコーティング繊維を評価試料とし、以下の条件で測定を行った。
まず、繊維の両端を直径約2mmの棒に結び付けた。次に、繊維を結び付けた棒を測定プローブの固定部にクランプした。次に、引張速度10mm/分で引っ張り、ちぎれた時の荷重(耐荷重)より引張強度を求めた。
【0059】
ブランクを5回測定した結果、耐荷重の平均は517.0g、標準偏差は52.6、引張強度は3.28N/mmであった。一方、コーティングを行った繊維では、2回の測定を行った結果、耐荷重はそれぞれ459.1gと612.1gであった。その平均値535.6gから求めた引張強度は3.40N/mmであった。以上の結果から、キトサン−ナイロンのコーティングによって、繊維の強度の低下は認められないことが分かった。
【0060】
(実施例8)
キトサン−ナイロン懸濁液Aの代わりに、上記調製例8で得たキトサン−ナイロン懸濁液Dを用いたこと以外は、上記実施例1と同様に行った。得られたナイロン繊維を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、キトサン−ナイロン懸濁液Dにより、ナイロンの表面にキトサンが析出し、多孔質膜の状態でコーティングされていることがわかった。
【0061】
(実施例9)
約30cmのナイロン6繊維を調製例10で得た蛍光キトサン−ナイロン懸濁液に10分間浸漬し、1〜4時間乾燥させた後、70〜90℃の温水に10分間浸漬して脱塩(および脱溶媒)を行い、室温にて乾燥させた。得られた試料に波長帯として約405〜490nmの励起光を照射し、発生する蛍光を約540nm以上を透過するフィルタを通して蛍光顕微鏡で観察した。その結果、ナイロン繊維表面全体に点々と蛍光が確認され、キトサンのコーティング膜中の分布状態を光学的に観察できることがわかった。
なお、同様に調製例8で得た蛍光染色を行わなかったキトサン−ナイロン懸濁液Dをコーティングしたナイロン6繊維においては、蛍光を確認することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド支持体と、キトサンを含有する多孔質膜とを含んでなる抗菌性複合体。
【請求項2】
キトサンの少なくとも一部は多孔質膜の表面に露出している、請求項1に記載の抗菌性複合体。
【請求項3】
キトサンの露出量は、多孔質膜の重量を基準に30〜99重量%の範囲内にある、請求項2に記載の抗菌性複合体。
【請求項4】
キレート滴定法によって測定された、多孔質膜に含まれるカルシウム金属量は0〜10ppmの範囲内にある、請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性複合体。
【請求項5】
キトサンは、1000〜1000000の範囲内の重量平均分子量を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌性複合体。
【請求項6】
キトサンは、5000〜10000の範囲内の重量平均分子量を有するオリゴマーである、請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌性複合体。
【請求項7】
ポリアミド支持体はナイロン繊維である、請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌性複合体。
【請求項8】
ポリアミド支持体はナイロンフィルムである、請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌性複合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の抗菌性複合体の製造方法であって、
ポリアミドの溶媒にキトサン、またはポリアミドおよびキトサンを懸濁または溶解して、混合液を得る工程;
該混合液をポリアミド支持体に塗布した後、得られた塗布物を熱水で処理して多孔性の薄膜を有する複合体を得る工程;
得られた複合体を乾燥する工程、
を含む、方法。
【請求項10】
塗布前に、ポリアミド支持体を予め前記溶媒中に浸漬および膨潤させる工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ポリアミドの溶媒は、ハロゲン化カルシウム水和物の飽和アルコールである、請求項9または10に記載の方法。

【公開番号】特開2008−221631(P2008−221631A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63530(P2007−63530)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(597067404)クラスターテクノロジー株式会社 (17)
【Fターム(参考)】