説明

抗菌性釉薬の製造方法、抗菌性部材及びその製造方法

【目的】 釉薬層の外観を損わず、且つ十分な抗菌性を発揮する抗菌性部材を提供する。
【構成】 抗菌性部材は基材1の表面に釉薬層2が形成され、この釉薬層2にはセラミック粉体3…が含有せしめられ、このセラミック粉体3の表面には銀4…が担持されている。そして、セラミック粉体3と銀4の合計重量に対する銀の割合は10重量%以上とされ、また釉薬層2…に対する銀の割合は対しては1重量%未満とされている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は衛生陶器等の抗菌性部材、陶磁器の抗菌性表面構造及び抗菌性陶磁器に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、便器、洗面器、ビデ等の衛生陶器或いはタイル等の陶磁器の表面には、施釉が施され、陶磁器表面に様々な色調の美観を与えると共に、緻密で撥水性の平滑層(釉薬層)を形成することで衛生面での機能を発揮するようにしている。そして、最近では陶磁器表面の釉薬層に上記したような機能の他に、抗菌性(防黴性、防汚性も含む)が求められている。釉薬層に抗菌性を付与する1つの方法としては、釉薬層の表面に抗菌剤を塗布することが考えられるが、この方法では耐久性に劣り且つ容易に剥離してしまう。そこで、釉薬中に抗菌剤を混合等を行った後に施釉・焼成するようにしている。
【0003】一般に釉薬は、水、釉薬基材(焼成によってガラス化する部分)、顔料及びバインダーを混合して調製され、粘性が高い。そして、粘性が高いため、釉薬中に抗菌剤を均一に分散させることができず、耐久性と抗菌性を両立させることができない。
【0004】また、釉薬中に抗菌剤を単独で混合・粉砕すると、抗菌剤自体が粉砕され、抗菌効果が低下する。更に、抗菌剤を釉薬に混合すると、焼成後の釉薬の色(焼成呈色)が変色すると云う問題がある。即ち、抗菌剤が添加された釉薬を焼成すると、釉薬基材がガラス化することで構成されるマトリックス中に残った抗菌剤が分散した構造をとることになり、抗菌剤を添加しない場合と比べると、熔け残った抗菌剤の乳濁効果や抗菌剤の一部が釉薬中に熔け込むことになり焼成呈色が変化する。多くの場合、抗菌剤を添加すると、焼成呈色は白味がかる方向に変色する。
【0005】そこで、抗菌剤を添加した場合と添加しない場合とで同じ焼成呈色とするためには、釉薬原料を粉砕・混合する際に、顔料の組成と添加量を、抗菌剤を添加した場合と添加しない場合とで異なったものとする必要がある。このことは、全ての釉薬について、調合比が異なる2種類(抗菌剤入りと抗菌剤なし)の釉薬が必要となるため、生産性が大幅に低下してしまう。
【0006】一方、セラミック粉体自体に抗菌性を付与する先行技術として、特開平4−234303号公報に開示されるものがある。この先行技術は、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム或いはハイドロキシアパタイト等のセラミックを抗菌性金属の水可溶性塩を含む水溶液に添加し、加熱することでセラミック表面に抗菌性金属を担持させるようにしたものであり、セラミックに対する抗菌性金属の担持量としては0.01〜20重量%とする旨記載されている。
【0007】そこで、上記先行技術のようにセラミック粉体に抗菌性金属を担持させた状態で釉薬に混合して、釉薬層に抗菌性を付与する先行技術として、特開平5−201747号公報に開示されるものがある。この先行技術は、抗菌性金属を担持したハイドロキシアパタイトを釉薬中に含有せしめたものであり、ハイドロキシアパタイトに対する抗菌性金属の添加量としては10%以下、好ましくは0.001%〜5%とする旨が記載されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】抗菌性金属を担持したセラミック粉体単独であれば、表面が外気に接触しているためセラミックに対する抗菌性金属の担持量を0.01重量%程度としても、充分な抗菌性を発揮できるが、特開平4−234303号公報に開示されるような抗菌性金属を担持したセラミック粉体を釉薬と混合して、衛生陶器、ホーロー或いはタイル等の表面の釉薬層に抗菌性を付与しようとすると、大部分のセラミック粉体が釉薬中に埋没してしまい所期の抗菌性を発揮できない。
【0009】また、特開平5−201747号公報に開示されるような抗菌性金属の添加量では、同様に所期の抗菌性を発揮できない。そこで、十分な抗菌性を釉薬層に付与するために、抗菌性金属を担持したセラミック粉体を多量に釉薬に混合することが考えられるが、このようにすると、光沢を失ったり、釉薬性状の変化により、熔融不足が生じる。
【0010】尚、抗菌性金属として銀を選択した場合には、他の金属、例えば銅や亜鉛に比べて1/10程度で抗菌性を発揮するが、それでも一定量以上加えると、茶色乃至黒色に着色し、釉薬層の価値を損う。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は上記問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、抗菌性を有する釉薬を提供することにより、陶磁器やホーロー等の製品表面に抗菌性及び耐久性を付与することにある。
【0012】上記課題を解決すべく請求項1に記載の発明は、基材表面に釉薬層が形成された抗菌性部材において、前記釉薬層中には銀を担持したセラミック粉体が添加されており、前記銀及びセラミック粉体の合計重量に対する銀の割合は10重量%以上とされ、前記銀の釉薬層に対する割合は1重量%未満とされていることから成る抗菌性部材である。
【0013】請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記セラミック粉体の平均粒径は10μm未満であることから成る抗菌性部材である。
【0014】請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2において、前記銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る抗菌性部材である。
【0015】請求項4に記載の発明は、陶磁器から成る基材表面に釉薬層が形成された抗菌性部材年手の衛生陶器において、前記釉薬中に、リン酸塩化合物、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化亜鉛のグループから選択された少なくとも一種から成るセラミック粉体が銀を担持した状態で添加されており、前記銀及びセラミック粉体の合計重量に対する前記銀の割合は10重量%以上とされ、前記銀の前記釉薬層に対する割合は1重量%未満とされていることから成る衛生陶器である。
【0016】請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る衛生陶器である。
【0017】請求項6に記載の発明は、陶磁器の表面に銀を担持したセラミック粉体を含有する釉薬層を有し、前記銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る陶磁器の抗菌表面構造である。
【0018】請求項7に記載の発明は、抗菌性陶磁器において、前記抗菌性陶磁器の表面に上層及び下層から成る釉薬層を形成し、前記下層はベース釉薬層であり、該ベース釉薬層は、水と、釉薬基材と、顔料とを混合して成り、前記上層は抗菌性釉薬層であり、該抗菌性釉薬層は、前記ベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を混合して成る抗菌性陶磁器である。
【0019】請求項8に記載の発明は、請求項7において、前記抗菌性金属が銀であり、その銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る抗菌性陶磁器である。
【0020】請求項9に記載の発明は、抗菌性陶磁器において、前記抗菌性陶磁器の表面に上層及び下層から成る釉薬層を形成し、前記下層はベース釉薬層であり、該ベース釉薬層は、水と、釉薬基材と、顔料とを混合して成り、前記上層は抗菌性釉薬層であり、該抗菌性釉薬層は、前記ベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体とこの耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料とを混合して成る抗菌性陶磁器である。
【0021】請求項10に記載の発明は、請求項9において、前記抗菌性金属が銀であり、その銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る抗菌性陶磁器である。
【0022】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に従う陶磁器等に用いる抗菌性釉薬の製造方法では、基本的には、水と、釉薬基材と顔料とを混合・粉砕してベース釉薬とし、このベース釉薬に、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を混合し、その後バインダーを混合することである。
【0023】抗菌性金属としては、銀、銅、亜鉛等のオリゴジナミー効果を示すものを用い、このうち銀が抗菌性において特に優れている。
【0024】また、耐熱性粉体としては、陶磁器等の焼成温度で完全には分解・熔融しないことが必要であり、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系化合物や、リン酸カルシウム系化合物と長石類等の熔剤を焼結させたもの等を用いる。
【0025】更に、釉薬としては通常の陶磁器の釉薬として公知のものを使用できる。釉薬の主要構成部は焼成後にガラス化する釉薬基材であり、この釉薬基材としては最初からガラス化しているフリット(フリット釉)を用いてもよいし、焼成によってガラス化する生原料(生釉)を用いてもよい。生原料としては、例えば衛生陶器では珪砂、アルミナ、粘土類、長石類、石灰類、ウォラストナイト、亜鉛華、ドロマイトなどが用いられる。
【0026】釉薬基材以外の釉薬材料としては、発色のための各種顔料や、必要に応じて加えられるジルコンや酸化スズ等の乳濁剤を挙げることができる。
【0027】更に、バインダーとしては、カルボキシルメチル、セルロースナトリウム塩、メチルセルロース、各種天然ゴム、ポリビニルアルコール等を挙げることができ、また必要に応じて解膠剤、凝集剤、腐敗防止剤等を加えてもよい。
【0028】また、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体をベース釉薬に混合するにあたっては、温度上昇を抑えるために水を添加するようにしてもよい。
【0029】更に、工業的な施釉工程においては、使用した釉薬のうちのかなりの部分がワークに付着せずに回収される。そして、この回収された釉薬は新たに調製された釉薬(新釉)と混合して用いられる。この場合、回収された釉薬中にはバインダーが含まれ、粘度が高くなっているので、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体の混合は、新釉に対して行うのが好ましい。
【0030】尚、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を直接ベース釉薬に混合せず、ベース釉薬の一部を取り出し、この取り出したベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を混合し、この混合物をベース釉薬に戻すようにしてもよい。
【0031】また、上述の抗菌性釉薬の製造方法を一部変更して、水と釉薬基材と顔料とを混合・粉砕してベース釉薬とし、このベース釉薬に、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体と、この耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料とを混合し、その後バインダーを混合することも可能である。
【0032】ここで、焼成呈色を変化させるためにベース釉薬に添加する顔料としては、ベース釉薬を構成する顔料と同一のものとすることができる。また、ベース釉薬を調製する際に混合する顔料は陶磁器用釉薬中に添加する顔料全体の70%以上とすることが好ましい。この割合が70%未満となると、後に添加する顔料の均一な分散が妨げられる虞れがある。
【0033】更に、上述の抗菌性釉薬の製造方法では、上記ベース釉薬の一部を取り出し、この取り出したベース釉薬に、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体と、この耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料とを混合し、この混合物をベース釉薬に戻すようにすることも可能である。
【0034】上記耐熱性粉体の平均粒径としては、1μm以上15μm以下とすることが好ましい。1μmより小さくなると、凝集しやすくなって均一な分散が困難になる。また15μmより大きくなると、充分な抗菌性が期待できなくなる。
【0035】また、上記抗菌性金属の耐熱性粉体に対する担持量としては、0.5重量%以上25%以下であることが好ましい。0.5重量%より少ないと充分な抗菌性が得られず、25重量%より多くなると耐熱性粉体に担持させることが困難となる。そして、上記抗菌性金属を担持した耐熱性粉体の添加量は、釉薬乾燥重量に対して0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。0.5重量%より少ないと充分な抗菌性が得られず、10重量%より多くなると、焼成時の釉薬の粘性が大きくなりすぎて釉肌が悪くなる。
【0036】また、本発明に従う陶磁器等の抗菌性部材の製造方法は、上述した抗菌性釉薬の製造方法によって得た抗菌性釉薬を、例えば陶磁器素地に塗布し、この後焼成するようにする。
【0037】また、上述の抗菌性部材の製造方法は、その一部を変更して、水と釉薬基材と顔料とを混合・粉砕してベース釉薬とし、このベース釉薬にバインダーを混合したものを陶磁器素地に塗布し、更にこの上に前記した本発明に係る陶磁器用抗菌性釉薬の製造方法によって得た陶磁器用釉薬を塗布し、この後焼成することも可能である。
【0038】この結果として得られる抗菌性部材或いは抗菌性陶磁器は、釉薬層の構成として、下層をベース釉薬層、上層を抗菌性釉薬層とし、ベース釉薬層は水と釉薬基材と顔料とを混合したベース釉薬からなり、抗菌性釉薬層はベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体とこの耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料とを混合した抗菌性釉薬からなる。
【0039】次に、上述した本発明に係る抗菌性釉薬の製造方法、該抗菌性釉薬を用いた抗菌性部材及びその製造方法の第1実施例を添付図面を用いて説明する。図1は本発明の第1実施例に係る抗菌性部材の表層部の模式的な拡大断面図であり、該抗菌性部材は基板1の表面に釉薬層2が形成され、この釉薬層2には耐熱性粉体3…が含有せしめられており、該耐熱性粉体3の表面には抗菌剤として抗菌性金属4…が担持されている。
【0040】また図2に示す陶磁器は二層掛けにて製造されるものであり、基板1上に抗菌性を発揮しない通常の釉薬層5を形成しており、この釉薬層5の上に抗菌性金属4を担持した耐熱性粉体3が混合された釉薬層2を形成している。
【0041】上記の釉薬層2,5を形成する釉薬を調製するには、水と釉薬基材と顔料の大部分と、もし必要ならば乳濁剤とをシリンダミル、ポットミル、振動ミル等を用いて所望の粒度になるまで粉砕してベース釉薬とする。
【0042】次いで、上記のベース釉薬に抗菌剤(抗菌性金属を担持した耐熱性粉体)と顔料の残り部分を混合する。尚、予定している焼成呈色が白っぽい場合には、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を加えても焼成呈色は殆ど変わらないため、ベース釉薬を調製する際に顔料の全部を加えるようにしてもよい。
【0043】そして、混合装置としては、前記ベース釉薬の調製に用いた各種ミルの他にホモジナイザーやブランジャー或いは高速攪拌機等を用いて行う。
【0044】次いで、ベース釉薬にバインダーを混合して陶磁器用抗菌性釉薬を製造する。このための装置としては各種の攪拌機を使用することができ、ロットが小さければハンドミキサーでも充分である。
【0045】上記の如くして得られた陶磁器用抗菌性釉薬を、例えば、成形後に乾燥せしめられた衛生陶器の生素地上に塗布する。塗布の方法としては、スプレー掛け、浸し掛け、刷毛塗り等を用いる。
【0046】施釉の方法としては、一層掛け、二層掛けのいずれでもよい。二層掛けの利点は、手間は一層掛けに比べてかかるが、抗菌性金属が非常に高価な場合には、その使用量を減らすことができる点にある。
【0047】次いで、施釉終了後の素地を焼成する。焼成条件(ヒートカーブ、焼成雰囲気等)は、抗菌剤が入っていない釉薬を掛けた従来品と同じであることが、同一の窯に混載することができるので好ましい。そのためには、前述のように焼成呈色を抗菌剤入りのものと抗菌剤なしのもので合せる(焼成呈色を合せるとは、焼成条件が同じであることが前提となっている。)こと以外に、焼成時の釉薬の粘性(流動性)も合せるとよい。
【0048】次に具体的な実施例1〜3を挙げる。先ず以下の表1に実施例1〜3に使用する釉薬基材と抗菌剤の成分を示す。また、顔料としては、通常の酸化鉄、酸化錫などの金属酸化化合物を使用し、バインダーとしては、一般的なカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用した。
【0049】
【表1】


【0050】(実施例1)
A.ベース釉薬調合釉薬基材 100部ZrO2 7部(ZrO2は釉薬の乳濁度調整用に添加)
赤系顔料 1.5部青系顔料 0.3部黄系顔料 0.3部B.抗菌剤混入釉薬調合ベース釉薬 100部赤系顔料 1.0部青系顔料 0.2部黄系顔料 0.3部抗菌剤 3部
【0051】(実施例2)
A.ベース釉薬調合釉薬基材 100部青系顔料 5部緑系顔料 1.5部B.抗菌剤混入釉薬調合ベース釉薬 100部青系顔料 1.0部緑系顔料 0.1部黒系顔料 0.5部抗菌剤 2部
【0052】(実施例3)
A.ベース釉薬調合釉薬基材 100部ZrO2 5部(ZrO2は釉薬の乳濁度調整用に添加)
灰系顔料 3部赤系顔料 1部青系顔料 0.5部B.抗菌剤混入釉薬調合ベース釉薬 100部抗菌剤 1部
【0053】以上の各実施例1〜3で調合したベース釉薬と抗菌剤混入釉薬にバインダーを添加した後、衛生陶器生素地の表面に施釉し、焼成した後、各実施例のそれぞれについて、目視及び測色装置によって呈色を確認した。
【0054】目視での呈色の違いはなかった。また、測色装置による測色結果でも色値も差(ΔE*ab)は小さく問題はなかった。
【0055】測色装置による測色結果を以下の表2に示す。表2はJIS Z8105(番号2070)の(CIE1976)L*,a*,b*色差による結果である。ここで、L* :明度指数a*,b*:クロマティネス指数(均等色空間における等明度面内の位置を表わす2つの座標)
ΔE*ab :L***表色系における座標L*,a*,b*の差ΔL*,Δa*,Δb*によって定義される2つの色刺激の間の色差ΔE*ab=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2
【0056】
【表2】


【0057】また、この第1実施例に係る陶磁器用抗菌性釉薬を用いて製造した陶磁器の抗菌性評価を以下の表3に示す。尚、抗菌性評価については、大腸菌(Escherichia coli W3110株)を用いて試験した。予め70%エタノールで殺菌したサンプルの釉薬面に菌液0.15ml(10.000〜15,000CFU)を滴下し、ガラス板(100×100mm)に載せて、サンプル釉薬面に密着させた後、3時間放置し、その後試料の菌液を滅菌ガーゼで拭いて生理食塩水10mlに回収し、菌の生存率を求め、評価の指標とした。評価基準を下記に示す。
+++:大腸菌の生存率10%未満++:大腸菌の生存率10%以上30%未満+:大腸菌の生存率30%以上70%未満−:大腸菌の生存率70%以上
【0058】
【表3】


【0059】以上に説明した如く本発明によれば、抗菌性釉薬のベース釉薬を調製する際にはバインダーを加えず、ベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を混合した後にバインダーを混合するようにしたので、粘性の低いベース釉薬に抗菌剤を混合することになり、均一な分散が行え、したがって耐久性と抗菌性を両立させることができる。
【0060】また、抗菌性金属を単独で混合せず、抗菌性金属を耐熱性粉体に担持させた状態で混合するようにしたので、抗菌剤自体が粉砕されることなく、抗菌効果を高めることができる。
【0061】更に、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体をベース釉薬に混合する際に、この耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料を混合することで、抗菌剤入りと抗菌剤なしの場合とで同じ焼成呈色とすることができる。
【0062】また、ベース釉薬の一部を取り出し、これに抗菌性金属を担持した耐熱性粉体とこの耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料とを混合し、この混合物をベース釉薬に戻すようにすれば、抗菌性金属を担持した耐熱性粉体と顔料を混合するベース釉薬の量が少ないため、混合用の大規模な装置が不要となる。
【0063】次に本発明の第2実施例に係る抗菌性釉薬の製造方法、該釉薬を用いた抗菌性部材及びその製造方法を実験例を用いて説明する。
【0064】この第2実施例では、抗菌性剤として銀を用いると共に、耐熱性粉体としてはセラミック粉体を用いる。そして、この第2実施例に係る抗菌性部材は、該部材表面に釉薬層が形成されており、その釉薬層中には銀を担持したセラミック粉体を添加し、また上記銀とセラミック粉体との合計重量に対する銀の割合を10重量%以上とし、また前記銀の釉薬層に対する割合は1重量%未満とした。
【0065】ここで、前記基材の材質は、釉薬の溶融温度に対して耐熱性を有するものであれば、陶磁器、ホーロー、タイル、セラミック、ガラス、金属またはこれらの複合物等任意であり、また、基材の形状としては、球状、円柱状、円筒状、板状等の単純形状に限らず洗面台、浴槽、流し台、食器等の複雑形状のものでもよい。
【0066】また、前記セラミック粉体としては平均粒径が10μm未満のものを用いる。具体的な材質としては、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ハイドロキシアパタイト、リン酸アルミニウム等のリン酸塩化合物、ゼオライト等のアルミノケイ酸塩、モンモリナイト等のケイ酸塩、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等が使用できる。
【0067】特に、衛生陶器用としては、1000℃以上で焼成することから、リン酸塩化合物、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化亜鉛等が好ましい。
【0068】本第2実施例においては、セラミック粉末の表面に比較的多量の抗菌性金属としての銀を担持させ、このセラミック粉末を釉薬中に混合せしめることで、抗菌性の添加量を減らし、釉薬の性状を損なうことなく抗菌性を高めることが可能となる。
【0069】次にこの第2実施例について実験例を用いてより具体的に説明する。
実施例4ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて50mm×100mmの板状試験片を作製し、一方、銀を所定量担持した平均粒径2μmのリン酸カルシウム系粉体を青色釉薬に所定量添加し水中で混合し、この混合物を前記板状試験片に塗布し、1100〜1200℃で焼成することで試料を得た。得られた試料について抗菌性を評価した。
【0070】ここで、上記釉薬の組成は以下の通りである。尚、顔料は通常の金属酸化物顔料を使用した。また、釉薬には必要に応じて糊剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を所定量添加してもよい。
SiO2 :55〜80重量%Al23 :5〜13重量%Fe23 :0.1〜0.4重量%1MgO :0.8〜3.0重量%CaO :8〜17重量%ZnO :3〜8重量%K2O :1〜4重量%Na2O :0.5〜2.5重量%ZrO2 :0〜15重量%顔料(青色):1〜20重量%
【0071】また、銀を担持させたリン酸カルシウム系粉体の成分組成の例を以下に示す。
SiO2 :20〜60重量%Al23 :5〜20重量%Fe23 :0〜5.0重量%1MgO :0〜5.0重量%CaO :10〜40重量%ZnO :0〜5.0重量%K2O :0.1〜4.0重量%Na2O :0.1〜2.0重量%P25 :10〜40重量%Ag :0.1〜30重量%
【0072】抗菌性評価については、大腸菌(Escherichia coli W3110株)を用いて試験した。試験方法は、予め70%エタノールで殺菌した部材の最表面に菌液0.15ml(10,000〜50,000CFU)を滴下し、ガラス板(100×100)に載て基材最表面に密着させた後3時間放置し、その後試料の菌液を滅菌ガーゼで拭いて生理食塩水10mlに回収し、菌の生存率を求め、評価の指標とした。評価基準は以下の通りであり、また結果を以下の表4に示す。
+++:大腸菌の生存率10%未満++ :大腸菌の生存率10%以上30%未満+ :大腸菌の生存率30%以上70%未満− :大腸菌の生存率70%以上
【0073】
【表4】


【0074】表4より、抗菌性は釉薬中のリン酸カルシウム系粉体1個当りが担持する銀量が増加すると向上し、10重量%以上で+++となった。また銀の総量が釉薬に対して1重量%を超えると本来の釉薬の色が得られないことが分った。
【0075】釉薬中のリン酸カルシウム系粉体1個当りが担持する銀量が増加すると抗菌性が向上する理由として以下の2つが考えられる。先ず、第1の理由としては、上記のように釉薬とリン酸カルシウム系粉体とを混練して基材上に塗布する方法では、多くのリン酸カルシウム系粉体は釉薬層中に埋没するが、一部は表層付近に存在する。その割合をほぼ一定と考えると、1つの粒子に抗菌剤である銀を多量に付着させる方が有利であるからと考えられ、また第2の理由としては、銀を少ししかリン酸カルシウム系粉体に担持させない場合、銀がリン酸カルシウム系粉体に強固に固定されすぎて抗菌効果が小さく、多量に担持させることでリン酸カルシウム系粉体への固定が適度に緩やかになって抗菌力が増加することが考えられる。
【0076】実施例5ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて50mm×100mmの板状試験片を作製し、一方、銀を所定量担持した平均粒径2μmのリン酸カルシウム系粉体を茶色釉薬に所定量添加し水中で混合し、この混合物を前記板状試験片に塗布し、1100〜1200℃で焼成することで試料を得た。得られた試料について抗菌性を評価した。抗菌性評価の基準は上記実施例4と同じであり、結果を以下の表5に示す。尚、釉薬の組成及びリン酸カルシウム系粉体については顔料の種類が変わるだけで、他は同じとした。
【0077】
【表5】


【0078】表5より、抗菌性は釉薬中のリン酸カルシウム系粉体1個当たりに担持する銀量が増加すると向上し、10重量%以上で++、15重量%以上で+++と共に良好な結果が得られた。
【0079】実施例6ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて50mm×100mmの板状試験片を作製し、一方、銀を10重量%担持した所定の粒径のリン酸カルシウム系粉体をアイボリー釉薬に2.5重量%添加し水中で混合し、この混合物を前記板状試験片に塗布し、1100〜1200℃で焼成することで試料を得た。得られた試料について抗菌性を評価した。抗菌性評価の基準は上記実施例4と同じであり、結果を以下の表6に示す。尚、釉薬の組成及びリン酸カルシウム系粉体については顔料の種類が変わるだけで、他は同じとした。
【0080】
【表6】


【0081】表6より、リン酸カルシウム系粉体の粒径が2μmまたは6μmでは抗菌性は++または+++と良好な結果を示したが、10μmになると+に悪化した。これはリン酸カルシウム系粉体の粒径が大きいと、釉薬の溶融時に沈降しやすくなり、表層付近に存在する銀量が減少するためと考えられる。
【0082】
【発明の効果】以上に説明した如く本発明によれば、基材表面に釉薬層が形成された抗菌性部材において、少量でも抗菌性を発揮できる金属として銀を選定し、この銀の釉薬層に対する添加割合を1重量%未満としたので、釉薬層が茶色または黒色に着色することがない。
【0083】また、銀の釉薬層に対する添加割合を1重量%未満と少なくしても、釉薬中に含有せしめられるセラミック粉体と銀との合計重量に対する銀の担持量を10重量%以上とすることで、十分な抗菌性を発揮することができる。特に銀の担持量を15重量%以上とすれば、微量の妨害成分を含む釉薬中に含浸せしめた場合でも、所期の抗菌性を発揮することができる。
【0084】このように、セラミック粉体に対する銀の担持量を多くすることで、釉薬に混合するセラミックの量を少なくすることができ、従って焼成後の釉薬層の変色及び釉薬の性状変化を抑制することができる。また、セラミック粉体の平均粒径を10μm未満とすることにより、釉薬層の表層部に露出する銀の量が多くなるので、少量の銀で十分な抗菌性を発揮することが可能となる。材。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る抗菌性部材の表層部の模式的な拡大断面図
【図2】本発明の第2実施例に係る二層掛けした場合の抗菌性部材の表層部の模式的な拡大断面図
【符号の説明】
1…基板、2…釉薬層、3…耐熱性粉体、4…抗菌性金属。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面に釉薬層が形成された抗菌性部材において、前記釉薬層中には銀を担持したセラミック粉体が添加されており、前記銀及びセラミック粉体の合計重量に対する銀の割合は10重量%以上とされ、前記銀の釉薬層に対する割合は1重量%未満とされていることから成る抗菌性部材。
【請求項2】 請求項1において、前記セラミック粉体の平均粒径は10μm未満であることから成る抗菌性部材。
【請求項3】 請求項1または請求項2において、前記銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る抗菌性部材。
【請求項4】 陶磁器から成る基材表面に釉薬層が形成された抗菌性部材年手の衛生陶器において、前記釉薬中に、リン酸塩化合物、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化亜鉛のグループから選択された少なくとも一種から成るセラミック粉体が銀を担持した状態で添加されており、前記銀及びセラミック粉体の合計重量に対する前記銀の割合は10重量%以上とされ、前記銀の前記釉薬層に対する割合は1重量%未満とされていることから成る衛生陶器。
【請求項5】 請求項4において、前記銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る衛生陶器。
【請求項6】 陶磁器の表面に銀を担持したセラミック粉体を含有する釉薬層を有し、前記銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る陶磁器の抗菌表面構造。
【請求項7】 抗菌性陶磁器において、前記抗菌性陶磁器の表面に上層及び下層から成る釉薬層を形成し、前記下層はベース釉薬層であり、該ベース釉薬層は、水と、釉薬基材と、顔料とを混合して成り、前記上層は抗菌性釉薬層であり、該抗菌性釉薬層は、前記ベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体を混合して成る抗菌性陶磁器。
【請求項8】 請求項7において、前記抗菌性金属が銀であり、その銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る抗菌性陶磁器。
【請求項9】 抗菌性陶磁器において、前記抗菌性陶磁器の表面に上層及び下層から成る釉薬層を形成し、前記下層はベース釉薬層であり、該ベース釉薬層は、水と、釉薬基材と、顔料とを混合して成り、前記上層は抗菌性釉薬層であり、該抗菌性釉薬層は、前記ベース釉薬に抗菌性金属を担持した耐熱性粉体とこの耐熱性粉体の添加により焼成呈色が変化する方向と反対方向に焼成呈色が変化する顔料とを混合して成る抗菌性陶磁器。
【請求項10】 請求項9において、前記抗菌性金属が銀であり、その銀が前記釉薬層から突出するように設けられていることから成る抗菌性陶磁器。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate