説明

抗菌性高分子表面の生成方法

【課題】 本発明は、高分子材料の表面を高分子被覆で改質して、その表面を潤滑性かつ抗菌性にする方法である。
【解決手段】 本方法は、光重合開始剤で被覆された高分子材料をフリーラジカル重合可能な水溶性モノマーと共に定温放置し、定温放置している高分子材料にUV光を当てて、その高分子材料の改質表面を形成することを含む。本方法は、さらに、改質表面に銀成分を付加することを含む。該銀成分は、銀塩被覆として与えられるか、あるいは、アクリレート改質高分子材料の表面に結合したヒドロゲル内に含まれる銀塩として与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質された高分子表面の生成方法に関し、特に、改質された潤滑性のある抗菌性高分子表面を生成する方法に関するものである。具体的には、本発明は、アクリル酸高分子被覆で高分子材料の表面を改質して、低摩擦の抗菌表面を生成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願全体にわたり、様々な参考文献を括弧内に列挙することで、本発明に関連する最新技術をより完全に説明している。各引用例に対する全書誌情報は、本明細書の最後部かつ請求項の直前に記載されている。これらの参考文献は、本願の援用文献である。
【0003】
埋込式の医療デバイスを使用することは、最近の治療法には不可欠なものであるが、それらを使用することにより合併症を引き起こすことがある。一般的な合併症として、そのデバイスが微生物汚染の目標となる可能性があるだけでなく、そのようなデバイスを挿入し、連続使用すると、患者の組織に外傷を与えることがあるので、患者の微生物感染源となりうる。実際には、これらの合併症には関連がある。というのも、尿道カテーテルや尿管ステントのような医療デバイスを取り付けることにより、繊細な組織が裂けて出血するため、そのデバイスの微生物汚染による感染、あるいは、その後、デバイス表面を微生物が移動することによる感染の可能性が生じるからである。このため、患者にとって臨床的に利点のある材料から作られた良質な留置生体デバイスを開発することが、かねてからの目的であった。
【0004】
挿入に関連する外傷の問題に対応して、ポリマー医療デバイスを様々な親水性ポリマーで覆うことで、その表面を低摩擦性にしたり、あるいは、潤滑性のある被覆加工を施している。被覆が施されたデバイスの表面は、乾いているときは摩擦が大きいが、濡れると滑りやすくなり、血管や動脈、他の通路への挿入が容易になり、組織への損傷が最小限となる。しかし、被覆そのものだけでなく、親水性の被覆処理を行う方法には、いくつかの明白な欠陥があり、そのいずれもが、最終生成物の価値を著しく損なう可能性がある。第一に、おそらく最も重要な点であるが、多くの被覆は、水性の環境にわずかに曝すだけで侵食されることから、潤滑性からは永続的被覆を生成できない(1)。また、最新の被覆処理は、潤滑層形成のために、複数の化合物と有機溶剤を必要とする少なくとも2工程を備えるため、その大部分は資源集約的形成術である(2〜4)。最後に、多くの処理が様々な生物活性体の使用に適合しないことである。それは、それらの処理に有機溶剤を使用する必要があったり、高温の硬化工程を伴うからである(5,6)。生物活性体が被覆の他の構成物質と適合したとしても、被覆が剥れるか、被覆と溶剤の間に親和性がほとんどなくなるので、潤滑性被覆の溶剤をさらに放出する能力が抑えられることが多い。
【0005】
医療デバイスの製造に使われる高分子化合物の多くは、化学的に不活性であり、より好ましい生物活性表面を提供するには、高分子表面に反応性化学基を組込む必要がある。初めに高分子を作る際に誘導モノマーを封入することによって組込まれた、反応性官能基を含む高分子化合物の表面改質に関する報告書がある。本方法が十分な成果をもたらすとしても、使い勝手に問題があり、また、高分子のバルク特性が悪影響を及ぼす可能性がある。同様に、例えば、米国特許5,885,566に記載されているようなプラズマ放射(10)やγ線照射(11)を使用した表面改質には、専用機器が必要となったり、材料のバルク特性が変化する傾向があるため、常に実用的であるとはいえない。また、上述した方法は、表面改質反応の空間的制御を正確に行えるものではない。
【0006】
長波紫外線(UV)光を使用した表面グラフト重合は、高分子表面の改質に有効で使い勝手がよい方法であるとされ、さらに、投射マスクを使って微小領域の制御が可能であるという利点もある(12)。表面を光グラフト重合する一般的な方法では、ベンゾフェノンと関連分子を使用して高分子表面から水素原子を抽出することで、気相あるいは液状でモノマーのグラフト重合を発生させる表面結合ラジカルを生成する(13,14)。米国特許6,248,811の開示では、UV照射によって、基材表面の一部に被覆高分子の表面グラフトを施している。その結果、表面は抗菌性となって細胞増殖が抑制もしくは促進される。
【0007】
例えば、米国特許5,788,687に開示されているように、表面改質された高分子化合物に抗菌剤を付加する試みもなされているが、pHが変化し、高分子表面に被覆された高分子ヒドロゲルから、抗菌剤のアセトヒドロキサム酸とマグネシウム・アンモニウム・リン酸塩六水化物が放出される。
【0008】
銀は、広範囲のバクテリアや菌類に対して抗菌特性をもつものとして知られており、医療環境の設定や、特に、カテーテル、血圧計バンド、整形治療用インプラント、縫合糸、歯科治療用充填材、創傷被覆材の被覆を含む様々な医療デバイスに、何年もの間使われている。カテーテルの被覆として銀を使うと、このようなデバイス使用に関わる感染の発生が減ることが実証されている。銀合金、酸化銀共に導尿カテーテルの被覆に使用され、それらは、尿路感染症を防ぐのにいくらかの効果がある。しかし、感染症予防のために銀を使うことは、一般的に広がっていない。その理由は、デバイス表面が不完全に被覆されていたり、金属の銀や酸化銀が低溶解性であり、半減期が短く、銀イオンが急速に結合したり、たんぱく質による不活性化や光が介在することによる不活性化や変色が起こったり、金属化合物からの銀イオンの放出が遅いなどの問題があるからである。
従って、臨床的に使用される医療デバイスの基盤となる、高分子材料の表面を効果的に改質する方法を開発して、その表面を潤滑にし、従来技術の問題を少なくとも一つ未然に防止できる抗菌特性をもつ表面を改質する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、改質された高分子表面、さらには、改質された潤滑性のある抗菌性高分子表面を高分子材料に生成する方法を提供する。特に、本発明は、安定した高分子被覆で高分子材料の表面を改質して、生体により適合する潤滑性表面を生成し、さらに、潤滑性のある抗菌性表面を生成するために所望の銀剤や銀化合物で後処理可能な方法を提供するものである。
【0010】
本発明の方法では、好適には、例えば、シリコーンゴムのような、生体内で臨床的に使用される多種多様な高分子材料の表面を高分子被覆で改質するものであり、人間や哺乳動物のバクテリア感染症や真菌感染症を防止、改善、治療することを目的として、抗菌性表面を得るために高分子被覆を銀塩で処理する。当業者であれば、本発明に基づいて変形可能な高分子材料の適用範囲を容易に理解できる。
【0011】
本発明の一実施態様によれば、親水性ポリアクリレートで改質された高分子表面が提供される。本発明の他の実施態様では、高分子表面にアクリレート被覆を施して、バクテリア感染症や真菌感染症を治療、防止するために放出される銀化合物を保持する。さらに、本発明の一実施態様では、アクリレート改質シリコーン表面の銀放出可能なポリエチレン酸化物ヒドロゲル内には、銀化合物が組み込まれている。この実施例の一態様によれば、銀化合物は、ポリエチレン酸化物ヒドロゲル内のリボソームに封じ込まれている。
【0012】
本発明で使う銀化合物は、様々な構成のものであってもよい。好適には、銀化合物は銀塩である。本発明で使用される最も好適な銀塩には、リン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀が含まれるが、その他の銀塩も本発明での使用に適しており、それには、酢酸銀、安息香酸銀、塩化銀、炭酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀、硝酸銀、ラウリン酸銀、スルファジアジン銀、パルミチン酸銀、および、それらの混合物が含まれるが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、高分子材料表面の改質方法であって、光重合開始剤で被覆された高分子材料をフリーラジカル重合可能な水溶性モノマーと共に定温放置し、定温放置している高分子材料にUV光を当てて、前記高分子材料の改質表面を生成する。
本発明の一態様によれば、高分子合成物は、安定したポリアクリレート改質表面を有する高分子体であって、前記表面が親水性、潤滑性、抗菌性の当該高分子体を備える。
本発明の一態様によれば、本発明はポリアクリレート被覆が施された高分子化合物である。
【0014】
本発明の一態様は、ポリアクリレート被覆内に銀成分を有し、抗菌性ポリアクリレート被覆が施された高分子化合物である。
本発明の一態様は、ポリアクリレート被覆内に銀成分を有し、抗菌性ポリアクリレート被覆が施された高分子化合物であり、かかる銀成分は、長期間にわたり連続してポリアクリレート被覆から放出される。
本発明の他の一態様は、高分子材料の潤滑性改質表面を形成する方法であって、光重合開始剤で被覆された高分子材料を、フリーラジカル重合可能な水溶性モノマーと共に定温放置し、定温放置している高分子材料にUV光を当てて、前記高分子材料の改質表面を生成し、前記改質表面を潤滑にする。
【0015】
本発明の一態様は、高分子材料の潤滑性改質表面を形成する方法であって、光重合開始剤で被覆された高分子材料を、フリーラジカル重合可能な水溶性モノマーと共に定温放置し、定温放置している高分子材料にUV光を当てて、前記高分子材料の改質高分子表面を生成し、前記改質表面を潤滑にし、前記潤滑に改質された高分子表面に銀剤を付加する。
本発明の一態様は、高分子材料に潤滑性のある抗菌改質表面を形成する方法であって、高分子材料を光重合開始剤で予備被覆し、前記予備被覆された高分子材料をビニール・カルボン酸モノマーの溶液中に浸漬し、定温放置している高分子材料にUV光を当てて、前記高分子材料の改質非潤滑性ポリアクリレート表面を生成し、前記高分子材料の前記ポリアクリレート表面を塩基水溶液に浸漬することでイオン化し、ポリアクリレート表面を電解質溶液に浸漬して陽イオンで飽和し、前記陽イオンで飽和したポリアクリレート表面に銀を与える。
銀は、被覆として付与されるか、アクリレート改質高分子材料表面に結合したヒドロゲル内に組み込まれる。
【0016】
本発明の方法を使えば、抗菌性高分子材料、好適には、シリコーン材、最も好適には、ポリ(ジメチルシロキサン)を基にした高分子化合物を提供することができる。このような高分子化合物は、留置医療デバイスや、包帯剤、ピン、クリップ、カテーテル、ステント、インプラント、チュービング等を含む一般的な医療デバイスに、広範囲、臨床的に使用されているが、本発明はこれらに限定されない。本方法は、多種多様な銀塩と共に利用すると便利であり、長期間にわたって、ゆっくり連続的にデバイス表面から有効な銀が放出される。本方法では、都合の良いことに大量の銀を取り込んでいるため、長期間有効な銀が放出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付の図には、本発明の好適な実施形態が示されている。これらの記載と図は、説明して理解を助けるものであり、本発明の限界を定義づけるものではないことは明らかである。
本発明は、潤滑性と抗菌特性を有するポリアクリレート被覆で、化学的に不活性な高分子化合物表面を恒久的に改質する、刺激性が少なく、効率的で効果的な方法を提供する。従って、本方法は、安定した親水性生活活性表面を有する高分子合成物を提供することによって、その表面が潤滑性で抗菌性の特性を持つ。
【0018】
本発明で使用される化学的に不活性な高分子化合物は、埋込み使用する様々なタイプのデバイスを構成するために使われ、かつ、それに適する化合物である。埋込み使用のデバイス例には、インプラント、カテーテル、ステント、創傷被覆材、心臓弁、ピン、鉗子、チュービング等があり、これらを本発明で実施することができるが、本発明は、これらに限定されることはない。従って、本発明に従って表面を改質した高分子化合物には、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオルガノシロキサン、ポリサルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリシロキサン等の全高分子基材が含まれる。
【0019】
本発明は、具体的には、長波長UVの照射(300〜400nm)や、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート(BPB)のような光重合開始剤を使用することで、例えば、ポリ(ジメチルシロキサン)を基にした高分子化合物(シリコーン)といった不活性高分子化合物表面に、ポリアクリレートのような親水性被覆を与えることを含む。
【0020】
本方法の最初の工程では、モノマー水溶液中に放置してUV光(365nm)を当てた光重合開始剤被覆高分子表面に対し、アクリル酸、あるいはその他の様々なアクリレートのフリーラジカルが介在したグラフト重合を行う。光重合開始剤が高分子表面に付着するために十分な時間、高分子材料を光重合開始剤のメタノール水溶液中に定温放置することで、選択された高分子材料の表面に光重合開始剤が被覆される。本発明の方法における光重合開始剤被覆化合物材料を提供する手段は、どのようなものでもよい。その後、光重合開始剤被覆化合物材料を空気中で乾燥させる。
【0021】
基材高分子としてシリコーンを使った場合、水溶液AA(5wt%)を使用したわずか2分の照射時間で、1mg/cm近くのグラフトレベルが得られる。当業者であれば、照射持続時間だけでなく、光重合開始剤の調整とモノマー濃度によってグラフトレベルを制御できることがわかっている。このようにして生成されたポリ(AA)被覆は、親水性であるが全く潤滑性がない。
【0022】
潤滑性のある表面を生成するため、pHが約8.0以上の塩基水溶液中でポリ(AA)被覆をイオン化する。使用に適した塩基水溶液には、四ホウ酸二ナトリウム(ホウ酸緩衝液)、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウムや水酸化カルシウムや水酸化ナトリウム等の水酸化物、および、これらの混合物が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0023】
ポリ(AA)被覆のイオン化により、負帯電表面が生成される。そして、負帯電表面を陽イオンで飽和状態にして、その表面を抗菌体で被覆するための準備を行う。飽和は、例えば、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸二カリウム、および、それらの混合物のような適切な電解質溶液に浸漬することで達成されるが、電解液については、これらに限定されるものではない。本発明の方法で使用できる陽イオン飽和電解質溶液の種類は、当業者であれば容易に理解できるものである。しかし、陽イオン飽和溶液の陰イオンは、少なくとも、溶けにくく、銀イオンとの錯体を形成する性質のものでなければならない。これが、乳酸ナトリウムが功を奏する理由であるが、これは、乳酸銀が比較的可溶性の塩だからである。
【0024】
本発明の方法での使用に適した光重合開始剤には、過酸エステル、α−ヒドロキシケトン、ベンジル・ケタール、ベンゾインとその誘導体、および、それらの混合物が含まれるが、これらに限定されることはない。具体的には、適切な光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン(DPA)、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート(BPB)、および、これらの混合物から選択される。本発明の方法で使用できる光重合開始剤の種類は、当業者であれば容易に理解できるものである。
【0025】
本発明の高分子材料の表面を改質するために適するモノマーには、フリーラジカルがあると敏感に反応するモノマー、すなわち、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシルエチル・アクリル酸塩、4−ビニール安息香酸、イタコン酸、および、これらの混合物のようなフリーラジカル重合可能モノマーが含まれるが、これらに限定されることはない。アクリル酸が、より適したモノマーである。
【0026】
本発明の方法で行われるUV照射の波長の範囲は、例えば、約100nm〜400nmであり、約200nm〜400nmであることが好ましく、300〜400でもよい。
感光性の過酸エステルBPBは、表面光重合グラフト反応によってPDMSに顕著なグラフト重合を引き起こすことが証明されている。PDMSへのBPB被覆は、365nmのUV光に曝したときに水溶液中で多数の親水性モノマーのグラフト重合を誘発することが証明されている。
【0027】
本発明のその他の一実施形態では、表面改質材料を、選択された銀成分、例えば、銀塩溶液中に定温放置することによって、銀イオンを放出する抗菌表面を生成する。一態様では、イオン化ポリ(AA)改質高分子材料を、乳酸ナトリウム濃溶液(0.1M〜1.0M)中に約10〜60分間、最も好ましくは30分間、定温放置する。次に、銀イオンを維持して、それらが長期間にわたってゆっくり放出する抗菌表面を生成するために、この材料を約5〜120秒間、好ましくは、60秒間、選択された銀塩溶液(すなわち、乳酸銀)に低温放置する。イオン化ポリアクリレート被覆に銀溶液を直接塗布した場合、表面の潤滑性が失われる。従って、銀溶液を塗布する前に、乳酸銀、あるいは、何らかの適切な陽イオン飽和電解質溶液、例えば、当業者にとって周知の酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸ソーダ、チオ硫酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、もしくは、これらのカリウム塩類に前もって浸すことが、表面の潤滑性を維持するために必要となる。
【0028】
表面が潤滑性になるのは、基材表面にグラフト重合した多数のイオン化ポリアクリレート連鎖が互いに反発するからであると仮定すると、潤滑性の喪失は、特定の理論によるものではなく、正電気を帯びた銀イオンを伴うイオン化ポリアクリレート・カルボキシル群の錯生成によって説明される。従って、乳酸ナトリウムに浸漬させる工程により、大部分の過剰ナトリウムイオンがポリアクリレート被覆に発生するが、これが競合うことで、カルボキシル結合部位が得られ、ポリアクリレート被覆に全銀イオンが結合することが防止され、また、その被覆が不活性化される。ナトリウムイオンがポリアクリレート被覆の潤滑性を低減できないのは、ポリアクリレート・カルボン酸塩が銀イオンに対してかなり強い親和性を持っていることによる。また、銀イオンによって、多くのカルボン酸塩に配位子が形成される。
【0029】
本発明の別の一実施形態は、アクリレート改質シリコーン表面を提供し、その表面に対して、銀塩を含有するリボソーム・ゼラチン・ポリエチレン酸化物ヒドロゲルを共有結合的に付着させ、人間や哺乳動物のバクテリア感染症や真菌感染症を治療、改善、予防するために銀イオンを放出する。ポリアクリレート被覆が施された材料は、最初にカルボジイミドの溶液に浸漬することで、ゼラチン・ポリ(エチレンオキシド)ヒドロゲルと共有結合するように活性化される。ヒドロゲル被覆の表面改質シリコーン材に対する付着力は、未改質シリコーンに対して約50倍増加することが判明した。
【0030】
ポリ(アクリル酸)グラフト重合シリコーン・サンプル表面への銀塩の結合と、リボソームに封入された銀塩を含有するゼラチン・ポリ(エチレンオキシド)ヒドロゲルの共有結合によって、人間や哺乳動物のバクテリア感染症や真菌感染症の治療と予防のために直ちに入手可能な銀イオン供給源が提供される。リボソームに封入された銀塩の製造と用途は、共同発明者の共願である1999年10月14日に出願された米国特許出願60/159,427に開示されている(ここでは、参考のためにその全体を示す)。本発明の方法で使用するリボソーム−ポリ(エチレンオキシド)ゼラチン・ヒドロゲルの製造は、同時係属出願の米国特許6,132,765に開示されている(ここでは、その全体を参考のために示す)。ヒドロゲル被覆の表面改質シリコーンに対する付着力は、未改質シリコーンに対して約50倍増加することが判明した。
【0031】
本発明の方法で使用する銀成分は、銀塩である。本発明で使用する最も好適な銀塩には、リン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、および、これらの混合物が含まれる。しかし、その他の銀塩も本発明での使用に適しており、それには、酢酸銀、安息香酸銀、塩化銀、炭酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀、酢酸銀、ラウリン酸銀、スルファジアジン銀、パルミチン酸銀、および、それらの混合物が含まれるが、本発明がそれらに限定されることはない。また、銀は、カプセル化によってヒドロゲル内に取り込まれたり、薬剤担体、例えば、リボソーム、ミセル、マイクロカプセル、ミクロスフェア、ナノスフェア、および、それらの混合物に関連させて、ヒドロゲル内に取り込まれる。
【0032】
要約すれば、本発明の方法は、広範囲にわたる様々な臨床用留置デバイスとして利用可能な表面改質/潤滑性高分子材料を提供する。本方法は、刺激が少なく、容易で信頼できる方法で効率的に高分子表面を改質するものである。さらには、このような表面は、それらを臨床的に生体内で使用できるようにするため潤滑性を備える。最後に、改質表面は、患者をさらに危うくする可能性のあるバクテリア感染症や真菌感染症を改善、予防し、最小限度に抑えるために、抗菌性や抗真菌性となるように形成される。
【実施例】
【0033】
実施例を説明の目的で記述するが、これは、本発明の範囲を限定するものではない。
合成化学、生化学、分子生物学、および、組織学の手法は、本開示、および、例示で参照していても明確には記載していないが、それらについては、科学論文に報告があり、当業者には公知のものである。
(実施例1)
アクリレート改質シリコーン表面前処理
重量計測したシリコーンの円板(直径が約0.7cmで、厚さが0.2cm)、もしくは、円筒切片(直径が約0.5cmで、長さが1cm)を、光重合開始剤(BPB、あるいはp−ベンゾイル安息香酸、BBA)のメタノール溶液中に1時間定温放置し、その後、約40℃で2時間空気乾燥させた。そして、3mlの水溶性モノマー溶液の入ったガラスビン中にサンプルを吊るした。必要に応じて、モノマー溶液をBPBで飽和させた。BPBの水溶液溶解度は、4μg/mlであった。全溶液は、15分間、窒素を流し込む前に、0.22μmのポア・フィルタで濾過した。ガラスビンをゴムの隔膜で密封し、一組のUVA電球(各15W)下の2.5cmのところに置いた。サンプンの載置場所での照射強度は、UV化学光量測定で測ったところ、3.8mW/cmであった(16)。グラフト重合反応終了後、サンプルを時々こすりながら、流水で手短に洗って、ホモ重合体が吸着した形跡を取り除いた。残りの非グラフト重合材料は、50%エタノール中に一晩定温放置することによって除去し、その後、水中に4時間定温放置した。サンプルは、微量天秤を使って重量を測定する前に、60℃のオーブンで16時間乾燥させた。全ての実験で、各処理について4つのサンプルを分析した。
【0034】
光重合開始剤で被覆されたサンプルをモノマーの水溶液中に置き、UV光を当てた場合、シリコーン表面に、AA,AM,HEMA,およびPEGMAというフリーラジカルが介在したグラフト重合が生じた(図1)。アクリル酸水溶液(5wt%)を使用したわずか2分の照射時間で、1mg/cm近くのグラフト重合レベルが得られた(図1A)。グラフト重合レベルは、照射持続時間だけでなく、光重合開始剤の調整とモノマー濃度によって制御できた(図1B)。表1は、シリコーン高分子化合物の表面に対するアクリル酸モノマーのグラフト重合を示す。アクリル酸モノマーのグラフト重合は、シリコーン高分子化合物の表面のcm当たりのミリグラム(AA)で示されている。BPBを使った場合、シラスティック・チュービング、シリコーン・フォーリー・カテーテル、シリコーンゴムの円板のグラフト重合はそれぞれ、3.0mg/cm、3.9mg/cm、2.3mg/cmである。
【0035】
表1 シリコーン供給源と光重合開始剤の強さに関する抽出サンプルのグラフト重合の範囲
サンプル 光重合開始剤 モノマー g−ポリマー
(100mM) (694mM) (mg/cm
シラスティック・ BPB AA 3.00±0.10
チュービング
フォーリー・ BPB AA 3.90±0.20
カテーテル
円板 BPB AA 2.30±0.10
円板 BBA AA 0.05±0.04
【0036】
表面特性
シリコーン円板のサンプルは、軸対称水滴形状分析を使用した室温での水に対する接触角の測定に先立って、相対湿度の高い雰囲気中に24時間保持した。定着水滴の映像をデジタル化し、所定の液滴体積と親水性のラプラス方程式と水滴の接触径から計算した液滴体積との差を最小限にして、接触角を測定した(17)(図3)。各処理に対して、4つの異なる表面について計8つの測定を行うことができた。
【0037】
発進角度が90°であり、12kV、25mAで動作する非モノクロMgK x線源を使用したレイボールドMAX200XPSシステムでXPSスペクトルを記録した。Cu 2p3/2、およびCu 3pに対して、エネルギー範囲を各々932.7eV、75.1eVに較正し、メインCピークを285.0eVに合わせた。分光計が提供する曲線の当てはめルーチンにより、結合エネルギーを求め、スペクトルのデコンボルーションを計算した。2つの個別のサンプルから得たXPSスペクトルを、表面改質のタイプごとに記録した(図4)。
【0038】
(実施例2)
改質されたポリ−AA潤滑性シリコーン表面、および、潤滑性ポリ−AA−銀塩改質シリコーン表面の前処理
銀イオンを含む潤滑性ポリ(AA)被覆が施されたシリコーン・フォーリー・カテーテルを、以下の工程に基づいて前処理した。
【0039】
1.シリコーンシートもしくはカテーテル部位を、暗室において室温で1時間、光重合開始剤(BPB、20〜250mM、好適には75mM)のメタノール溶液中に定温放置した。
2.BPB溶液からカテーテルを取り出し、室温で1時間空気乾燥させた。
3.少量のBPB(10〜50μg/ml、好適には20μg/ml)を加えたアクリレートモノマー(0.1〜1.5M、好適には0.7Mのアクリル酸)を含有する水溶液中にシリコーン材を入れた。
4.シリコーン材に350nmの光りを当てながら、溶液を窒素で泡立てた(2〜60分間、好適には10分間)。
5.表面改質シリコーンを50%エタノール中に1時間入れ、その後、ホウ酸緩衝液(pH9.0)中に一晩浸漬した。
6.潤滑性表面に改質したシリコーンを蒸留水で手短に洗い、短時間(2〜120分間、好適には20分間)、乳酸ナトリウム溶液(200〜1000mM、好適には500mM)に入れた。
7.表面改質シリコーンを乳酸銀溶液(1〜50mM、好適には10mM)に20分間入れた。改質シリコーンの表面は銀塩を含有しているため、銀塩はアクリレート被覆に結合し、その被覆に使用した水に溶ける。
また、シリコーン材を乳酸銀溶液(2〜200mM、好適には150mM)に入れて、15psiで20分間オートクレーブ処理することで、潤滑ではないが抗菌性のアクリレート被覆に結合した乳酸銀を生成してもよい。
図5は、シュードモナス・アルギノーサに対するポリアクリレート銀被覆の抗菌活性を示す。100%アクリレートで処理されたシリコーンの表面に、pH5およびpH8.5の乳酸銀の溶液をローディングすることで、最大の抗菌活性が得られた。ここに教示したpHよりも高いか、あるいは低いpH値の銀塩をローディングすることで、相当の抗菌活性を示す表面が生成される。
図6は、ポリアクリル酸改質カテーテルへの銀塩、乳酸銀のローディングを示す。
【0040】
(実施例3)
塩化銀を含有するゼラチン−ポリエチレン・ヒドロゲルが付着したポリ−AA被覆シリコーンシートとカテーテル
塩化銀を含有するゼラチン−ポリエチレン酸化物ヒドロゲルが付着したポリ(AA)被覆シリコーンシートとカテーテルを以下のように前処理した。
【0041】
1.関係するシリコーン材部位を、暗室において室温で1時間、光重合開始剤(BPB、20〜250mM、好適には75mM)のメタノール溶液中に定温放置した。
2.BPB溶液からシリコーンを取り出し、室温で1時間、空気乾燥させた。
3.少量のBPB(10〜50μg/ml、好適には20μg/ml)を加えたアクリレートモノマー(0.1〜1.5M、好適には0.7Mのアクリル酸)を含有する水溶液中にシリコーンを入れた。
4.シリコーンに350nmの光りを当てながら、溶液を窒素で泡立てた(2〜60分間、好適には10分間)。
5.表面を改質したシリコーンを50%エタノールに入れ、かき混ぜながら室温で一晩放置した。
6.シリコーンを蒸留水で4時間洗浄した。
7.シリコーンをカルボジイミド溶液(2〜20mg/ml、好適には5mg/ml)に10分間入れた。
8.カテーテルを取り出して、長軸回転する回転装置に載置し、シリコーンシートを平らな面に置いた。
9.シリコーンの表面に少量のカルボジイミド溶液(好適には、カテーテルの10μL/cm)を塗布した。
【0042】
10.以下のようにリボソームヒドロゲルを含有する銀塩を準備した。
組成
DPPC(50mg/ml) 500.0mg
コレステロール 263.4mg
ビタミンE 14.7mg
乳酸銀(150mM) 10.0ml
【0043】
DPPC、コレステロールとビタミンEを10mlのクロロホルムに溶かし、丸ビンの中で少なくとも4時間蒸散させた。次に、脂質膜の調合物に10mlの乳酸銀(150mM)を加え、完全に分散するまで45℃に加熱した。これを液体窒素中で凍結させ、45℃で解凍した。これを5回繰り返した。この混合物を100nmのフィルタを通して押し出し、濾過されたものを集めた。これを5回繰り返した。リボソーム混合物を含有する乳酸銀は、クリーム状、あるいは、黄色みがかったクリーム混濁液のように見える。次に、銀リボソーム混濁液をHClに基づくpH2に調整して、リボソームに保持されていない乳酸銀を塩化銀に変換し、それに10%のゼラチン(w/v)を加えた。この混合物をゼラチンが完全に溶解するまで45℃に加熱した。そして、6〜9%、好適には9%のビス(ニトロフェニル)ポリエチレン・グリコール3400(NPPEG)を加え、その混合物を45℃に加熱してNP−PEGを分解した。
【0044】
11.カテーテルを回転させながら、シリコーン表面に塩化銀ゲルを加えるか(カテーテルの10〜200μL/cm、好適には、75μL/cm)、あるいは、10cm×10cmのシリコーン領域に2〜5ml、好適には1mlの塩化銀ゲルを加え、ゲルを表面に均一に塗布した。
12.ゲルが固まった後、被覆されたシリコーンを4℃で10分間定温放置した。
13.次に、被覆されたシリコーンをホウ酸緩衝液(200mM、pH9.0)中に1時間放置した。
【0045】
14.洗浄液を1時間後に取替えながら、カテーテルを食塩溶液で2時間洗浄した。
図7は、ヒドロゲル被覆の抗菌活性を示しており、シュードモナス・アルギノーサとメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)に対する、乳酸銀なしのヒドロゲル(2:コントロールヒドロゲル)、150mMの乳酸銀溶液中に浸漬したヒドロゲル(3:銀ヒドロゲル)、150mMの乳酸銀に浸漬した濾紙(4:銀濾紙)と比較したリボソーム−150mM乳酸銀ヒドロゲル(1:リボソーム銀ヒドロゲル)である。なお、試験ヒドロゲルの幅は、20mmとした。同じ試験サンプルを使用して、毎日、新しい寒天プレートに移した。抑制領域に記録された値は"実際の"直径であって、20を減じたものである。
【0046】
(実施例4)
銀イオン含有潤滑性ポリ(AA)で被覆されたポリウレタン尿管ステントの調整
次のようにして、ポリ(AA)−銀被覆が施されたステントを調整した。
1.ポリウレタン・ステントを、暗室において室温で1分間、光重合開始剤(DPA、20〜250mM、好適には100mM)のメタノール溶液中に定温放置した。
2.DPA溶液からステントを取り出し、室温で30分間空気乾燥させた。
3.アクリレートモノマー(0.1〜1.5M、好適には0.7Mのアクリル酸)を含有するDPA飽和水溶液にステントを入れた。
4.ステントに350nmの光りを当てながら、溶液を窒素で泡立てた(1〜20分間、好適には2分間)。
【0047】
5.表面が改質されたシリコーンを50%エタノール中で1時間洗浄した後、ホウ酸緩衝液(pH9.0)中に一晩浸漬した。
6.次に、潤滑性表面に改質されたポリウレタン材を蒸留水で手短に洗い、短時間(2〜120分間、好適には20分間)、乳酸ナトリウム溶液(200〜1000mM、好適には500mM)に入れた。
7.表面が改質されたステントを、乳酸銀溶液(1〜50mM、好適には10mM)に1分間浸漬した。
改質されたポリウレタンの表面は銀イオンを含有しており、そのイオンはアクリレート被覆に結合し、その被覆に使用した水に溶ける。表2は、未改質のポリウレタンに対応する被覆の潤滑性を示す。非イオン化ポリ(AA)被覆と、銀溶液に浸漬する前に乳酸ナトリウムに浸漬しなかったイオン化ポリ(AA)被覆は比較的潤滑性がないことに注意されたい。
【0048】
表2 ポリアクリレート(PAA)被覆あり、および、被覆なしのポリウレタン・ステント(7フレンチ)の潤滑性
サンプル 摩擦(N)
未改質 3.30±0.20
PAA(イオン化) 0.45±0.08
PAA(非イオン化) 3.80±0.50
PAA+乳酸銀 (10mM)2.20±0.50
PAA+乳酸ナトリウム+乳酸銀 (10mM)0.46±0.11
【0049】
図8は、ポリアクリレート銀被覆が施されたステントの抗菌活性を示す。グラム陰性とグラム陽性の両方の種類について、長期間にわたり抑制領域の増大があった。なお、ステント片の幅は約2mmであった。同じ試験サンプルを使用して、毎日、新しい寒天プレートに移した。
以上、本発明の好適な実施の形態を詳細に説明したが、当業者であれば、本発明の精神あるいは添付した請求項の範囲を逸脱することなく、本発明の変形が可能であることが理解できる。
【0050】
(参考文献)
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【0051】
5.米国特許5,160,790、R.エルトン、1992年
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【0052】
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【0053】
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【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1(A)は、UVA照射時間に対する、ポリ(ジメチルシロキサン)[PDMS]にグラフトされたポリ(アクリル酸[AA])の量を示す。最初に10mMのp−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート(BPB)でサンプルに被覆を施した。BPB飽和した溶液におけるAA濃度は、50mg/ml(694mM)であった。図1(B)は、最初のモノマー濃度についてのポリ(AA)グラフトの範囲を示す。サンプルを10mMのBPBで被覆し、20分間、UVA光を当てた。
【図2】BPBの予備被覆(100mM)、あるいはモノマー溶液中のBPBの存在に対する、PDMSにおける様々な高分子化合物のグラフト生成を示す。モノマーの濃度は694mMであり、サンプルに20分間、UVA光を当てた。
【図3】軸対称水滴形状分析法で測定した、様々なタイプの表面改質されたシリコーンの水に対する接触角を示す。サンプルを100mMのBPBで被覆し、特に断りのない限り、20分間、UVA光を当てた。
【図4】(A)PDMS、(B)PDMS−g−ポリ(AA)、(C)PDMS−g−ポリ(ポリエチレングリコール・メタクリル酸塩[PEGMA])、(D)PDMS−g−ポリ(ヒドロキシエチル・メタクリル酸塩[HEMA])、および(E)PDMS−g−ポリ(アクリルアミド[AM])の低解像、および高解像XPSスペクトルを示す。サンプルは、100mMのBPB予備皮膜と、20分間のUVA暴露をすることによって得た。
【図5】シュードモナス・アルギノーサに対するシリコーンへのポリアクリレート銀被覆の抗菌活性を示す。
【図6】150mMの乳酸銀(オートクレーブ後)溶液中でオートクレーブ処理し、あるいは、一晩、定温放置(O/Nインキュベーション)し、あるいは、150mMのNaCl中に一晩、定温放置した後、150mMの乳酸銀溶液中に2時間、定温放置して得られたポリ(AA)改質されたカテーテルにおける塩化銀の初期ローディングを示す(AgCl沈殿)。
【図7】シュードモナス・アルギノーサとスタフィロコッカス・アウレウスに対するゼラチン−ポリ(エチレン酸化物)被覆の拡張抗菌活性を示す。
【図8】シュードモナス・アルギノーサとスタフィロコッカス・アウレウスに対する、ポリウレタン・ステントにおけるポリアクリレート銀被覆の抗菌活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料の表面を改質する方法であって、
光重合開始剤で被覆された高分子材料をフリーラジカル重合可能な水溶性モノマーと共に定温放置し、
定温放置している高分子材料にUV光を当て、前記高分子材料の改質表面を形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
さらに、前記改質表面を有する前記高分子材料を洗浄し、乾燥させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記高分子材料は、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオルガノシロキサン、ポリサルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリシロキサンからなる群から選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記高分子材料は、シリコーンであることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記高分子材料は、インプラント、カテーテル、ステント、創傷被覆材、心臓弁、チュービング、ピン、及び、鉗子からなる群から選択されたデバイスとして提供されることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシルエチル・アクリル酸塩、4−ビニール安息香酸、イタコン酸、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記光重合開始剤は、過酸エステル、α−ヒドロキシケトン、ベンジル・ケタール、ベンゾインとその誘導体、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記水溶性モノマーは、さらに光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
さらに、前記改質表面を潤滑にすることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記改質表面を塩基水溶液内でイオン化して負に帯電させ、潤滑性のある面にすることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記塩基水溶液は、四ホウ酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
さらに、前記潤滑性に改質された前記高分子材料の表面を抗菌性にすることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記高分子材料を、銀塩に定温放置する前に電解質溶液中に定温放置して、負に帯電した表面を陽イオンで飽和することを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記銀塩は、乳酸銀、リン酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、塩化銀、炭酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀、硝酸銀、ラウリン酸銀、スルファジアジン銀、パルミチン酸銀、サリチル酸銀、チオ硫酸銀、及び、これらの混合物からなる群から選択された塩を含むことを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記改質表面を有する前記高分子材料は、銀塩を取り込んだゼラチン・ポリエチレン酸化物ヒドロゲルで被覆されていることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項18】
安定したポリアクリレート改質表面を有する高分子体であって、前記表面が親水性であり、潤滑性があり、抗菌性である、当該高分子体からなることを特徴とする高分子合成物。
【請求項19】
前記高分子体は、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオルガノシロキサン、ポリサルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリシロキサンからなる群から選択された高分子材料よりなることを特徴とする請求項18記載の高分子合成物。
【請求項20】
前記高分子材料はシリコーンであることを特徴とする請求項19記載の高分子合成物。
【請求項21】
前記高分子材料は、インプラント、カテーテル、ステント、創傷被覆材、心臓弁、チュービング、ピン、及び、鉗子からなる群から選択されたデバイスとして提供されることを特徴とする請求項20記載の高分子合成物。
【請求項22】
前記モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシルエチル・アクリル酸塩、4−ビニル安息香酸、イタコン酸、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項21記載の高分子合成物。
【請求項23】
高分子材料に潤滑性のある抗菌改質表面を形成する方法であって、
光重合開始剤で被覆された高分子材料をフリーラジカル重合可能な水溶性モノマーと共に定温放置し、
定温放置している高分子材料にUV光を当てて、前記高分子材料に改質表面を生成し、
前記改質された高分子表面を潤滑にし、
前記イオン化して改質された高分子表面に銀剤を供給することを特徴とする方法。
【請求項24】
前記高分子材料は、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオルガノシロキサン、ポリサルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリシロキサンからなる群から選択されることを特徴とする請求項23記載の方法
【請求項25】
前記高分子材料はシリコーンであることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記高分子材料は、インプラント、カテーテル、ステント、創傷被覆材、心臓弁、チュービング、ピン、及び、鉗子からなる群より選択されたデバイスとして提供されることを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシルエチル・アクリル酸塩、4−ビニール安息香酸、イタコン酸、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記光重合開始剤は、過酸エステル、α−ヒドロキシケトン、ベンジル・ケタール、ベンゾインとその誘導体、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記水溶性モノマーは、さらに光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項31】
前記光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記銀剤は、前記イオン化して改質された高分子材料をpHが少なくとも約8.0の電解質溶液に浸漬し、その後、銀塩溶液に浸漬することで付加されることを特徴とする請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記改質された高分子表面にヒドロゲルが共有結合されていることを特徴とする請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記ヒドロゲルは、ゼラチンとポリ(エチレン酸化物)の架橋マトリックスからなり、銀剤の金属イオン封鎖を行うことを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記銀剤は、乳酸銀、リン酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、塩化銀、炭酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀、硝酸銀、ラウリン酸銀、スルファジアジン銀、パルミチン酸銀、サリチル酸銀、チオ硫酸銀、及び、これらの混合物からなる群から選択された銀塩を含むことを特徴とする請求項32または34のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
高分子材料に潤滑性のある抗菌改質表面を形成する方法であって、
高分子材料を光重合開始剤で予備被覆し、
前記予備被覆された高分子材料をビニール・カルボン酸モノマーの溶液中に浸漬し、定温放置している高分子材料にUV光を当てて、前記高分子材料に改質された非潤滑性ポリアクリレート表面を生成し、
前記高分子材料の前記ポリアクリレート表面を塩基水溶液に浸漬することでイオン化して、前記表面を潤滑にし、
ポリアクリレート表面を電解質溶液に浸漬して陽イオンで飽和し、
前記陽イオンで飽和したポリアクリレート表面に銀を付与することを特徴とする方法。
【請求項37】
前記予備被覆された高分子材料を、モノマーに浸漬する前にさらに洗浄し、乾燥させることを特徴とする請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記高分子材料は、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオルガノシロキサン、ポリサルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、及び、ポリシロキサンからなる群から選択されることを特徴とする請求項36記載の方法。
【請求項39】
前記高分子材料はシリコーンであることを特徴とする請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記高分子材料は、インプラント、カテーテル、ステント、創傷被覆材、心臓弁、チュービング、ピン、及び、鉗子からなる群より選択されたデバイスとして提供されることを特徴とする請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシルエチル・アクリル酸塩、4−ビニール安息香酸、イタコン酸、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記光重合開始剤は、過酸エステル、α−ヒドロキシケトン、ベンジル・ケタール、ベンゾインとその誘導体、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記水溶性モノマーの溶液は、さらに光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記光重合開始剤は、2,2−ジメトキシ−2−フェニ−ル−アセトフェノン、p−ベンゾイル・第3ブチルパーベンゾアート、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記イオン化された高分子材料を銀塩溶液に浸漬して銀を付与することを特徴とする請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記イオン化されたポリアクリレート表面にヒドロゲルを共有結合させて銀を付与し、前記ヒドロゲルが銀塩の金属イオン封鎖をすることを特徴とする請求項45記載の方法。
【請求項48】
前記銀塩は、乳酸銀、リン酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、塩化銀、炭酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀、硝酸銀、ラウリン酸銀、スルファジアジン銀、パルミチン酸銀、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項46または47のいずれか1項記載の方法。
【請求項49】
前記電解質溶液のpHは少なくとも約8.0であることを特徴とする請求項36記載の方法。
【請求項50】
前記電解質溶液は、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸二カリウム、及び、これらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記電解質溶液は乳酸ナトリウムであることを特徴とする請求項50記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−174751(P2008−174751A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30333(P2008−30333)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【分割の表示】特願2002−569193(P2002−569193)の分割
【原出願日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【出願人】(503307419)コバロン テクノロジーズ インコーポレーテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Covalon Technologies Inc.
【Fターム(参考)】