抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法

【課題】種々の用途に適用した際に、長期に渡って良好な抗菌抗ウイルス性を発揮し得る抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法等を提供する。
【解決手段】BET比表面積が5〜100m2/gの亜酸化銅粒子と、アルデヒド基を有する糖類とを含有し、前記アルデヒド基を有する糖類の含有量が、前記亜酸化銅粒子100質量部に対して0.5〜10質量部である抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築建材、衛生用品、防汚用品等の生活環境において適用される、抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法、並びに、抗菌抗ウイルス性組成物分散液、抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤、抗菌抗ウイルス性膜、及び抗菌抗ウイルス性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌抗ウイルス性に有効な成分として、銅(II)イオンが知られている。例えば、特許文献1には、抗菌性及び抗ウイルス性のポリマー材料であって、イオンの銅の微視的粒子を有しており、該粒子が該ポリマー材料に封入され、かつその表面から突出している、ポリマー材料が開示されている。
また、特許文献2〜4には、抗菌抗ウイルス性能において、銅(II)の化合物より銅(I)の化合物の方が優れていることが開示されている。
特許文献5には、抗菌抗ウイルス性能において、銅、酸化銅(II)、及び/又は亜酸化銅の混合組成物からなるナノ粒子が良好であると開示されている。
【0003】
また、亜酸化銅を合成する際に、グルコース等に代表される、還元性アルデヒド基を有する糖類を還元剤として使用することが広く知られている。例えば、特許文献6〜8には、グルコース等の還元糖を用いて、様々な形状を持つ数ミクロンサイズの亜酸化銅の合成について開示されている。
【0004】
さらに、光触媒物質上に銅の化合物を担持して、抗菌抗ウイルス性能を付与する研究も知られている。例えば、特許文献9には、紫外線照射下でウイルスを不活性化する酸化銅(II)担持酸化チタンからなるファージ・ウイルスの不活性剤が開示されている。
また、特許文献10には、亜酸化銅(I)担持酸化チタンが抗ウイルス性能を示すことが開示されている。特許文献11には、抗菌抗ウイルス性能において、亜酸化銅(I)が高い性能を示すことが記載されている。
【0005】
良好な抗菌抗ウイルス性を示す銅(I)の化合物としては亜酸化銅が知られているが、純粋な亜酸化銅のナノ微粒子は、大気中では不安定で、徐々に酸化銅(II)に酸化されて、抗菌抗ウイルス性能が弱まっていく。しかしこのような抗菌抗ウイルス性の低下という問題について、特許文献1〜4は、何ら開示していない。
特許文献5においては、亜酸化銅のナノ粒子単体での評価はなく、また、亜酸化銅のナノ粒子が大気中で酸化されやすく、それによって、抗菌抗ウイルス性が低下するという問題についても開示されていない。
【0006】
特許文献6〜8では、亜酸化銅を合成した後に還元剤を除去している。従って、これらの文献に記載された方法で得られた亜酸化銅粉末も大気中で酸化されやすく、それによって、抗菌抗ウイルス性が低下する可能性がある。また、これらの文献に記載された方法で得られたミクロンサイズの亜酸化銅は、比表面積が小さくなり、抗菌抗ウイルス性能が低下する可能性がある。
【0007】
特許文献9には、亜酸化銅が極めて高い抗菌抗ウイルス性能を示すことは何ら開示されていない。また、抗菌抗ウイルス用途で使用するには、酸化チタン表面で酸化銅(II)の状態を維持した状態よりも、亜酸化銅の状態にした方が抗菌抗ウイルスの効果は大きい。さらに、亜酸化銅ナノ粒子が大気中で酸化され、酸化銅(II)となったものを、光触媒によって亜酸化銅に還元することは、抗菌抗ウイルス効果の持続に有利であるが、これらに関する記載もない。
特許文献10に記載の亜酸化銅(I)担持酸化チタンも大気中で酸化されやすい点については他の文献の場合と変わらず、抗菌抗ウイルス性が低下する可能性がある。
特許文献11においては、亜酸化銅(I)が大気中で酸化されやすく、それによって、抗菌抗ウイルス性能が低下する可能性がある。この点に関し、特許文献11は、亜酸化銅(I)の酸化を抑制する方法に関しては開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−528975号公報
【特許文献2】特表2006−506105号公報
【特許文献3】特表2007−504291号公報
【特許文献4】特表2008−518712号公報
【特許文献5】特表2009−526828号公報
【特許文献6】特許4401197号公報
【特許文献7】特許4401198号公報
【特許文献8】特許4473607号公報
【特許文献9】特許4646210号公報
【特許文献10】CN101322939A
【特許文献11】特開2011−153163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、種々の用途に適用した際に、長期に渡って良好な抗菌抗ウイルス性を発揮し得る抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法、並びに抗菌抗ウイルス性組成物分散液を提供することを目的とする。また、長期に渡って良好な抗菌抗ウイルス性を発揮し得る抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤、抗菌抗ウイルス性膜、及び抗菌抗ウイルス性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、良好な抗菌抗ウイルス性を発揮する亜酸化銅粒子を、大気中において酸化銅(II)に酸化させることなく安定に存在させるために、還元性アルデヒド基を有する糖類(以下、「還元性糖類」ということがある)を特定量共存させておくことが重要であることを見出した。すなわち、特定量の還元性糖類の存在により、亜酸化銅の良好な抗菌抗ウイルス性が長期に渡って維持されることを見出した。また、光触媒物質と組み合わせることで、酸化銅(II)へ酸化されて抗菌抗ウイルス性能を失ったものを、光照射によって亜酸化銅に還元し、半永久的に効果を持続させ得ることを見出した。さらに、光触媒物質として、特定の可視光応答型光触媒を使用することで、可視光照射下において、抗菌抗ウイルス性能を半永久的に持続させることができることを見出した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0011】
[1] BET比表面積が5〜100m2/gの亜酸化銅粒子と、アルデヒド基を有する糖類とを含有し、前記アルデヒド基を有する糖類の含有量が、前記亜酸化銅粒子100質量部に対して0.5〜10質量部である抗菌抗ウイルス性組成物。
[2] さらに、光触媒物質を含有し、前記亜酸化銅粒子と前記アルデヒド基を有する糖類と光触媒物質の合計量に対する該光触媒物質の含有量が70〜99.9質量%である[1]に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
[3] 前記光触媒物質が、酸化チタン及び酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種を含む[2]に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
[4] 前記光触媒物質は、(A)酸化チタン及び酸化タングステンから選ばれる基材が、(B)銅(II)イオン及び鉄(III)イオンから選ばれる少なくとも1種により修飾された可視光応答型光触媒である[2]又は[3]に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
[5] 前記光触媒物質は、(C)遷移金属をドープした酸化チタン、炭素、窒素、及び硫黄の少なくともいずれかの非金属をドープした酸化チタン、遷移金属をドープした酸化タングステン、及び炭素、窒素、及び硫黄の少なくともいずれかの非金属をドープした酸化タングステンからなる群から選ばれる基材が、(B)銅(II)イオン及び鉄(III)イオンから選ばれる少なくとも1種により修飾された可視光応答型光触媒である請求項2又は3に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
【0012】
[6] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス性組成物を1〜30質量%、非水系有機溶剤を60〜98.99質量%、前記非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質を0.01〜10質量%含有してなる抗菌抗ウイルス性組成物分散液。
[7] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス性組成物を1〜30質量%、非水系有機溶剤を40〜98.98質量%、前記非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質を0.01〜10質量%、前記非水系有機溶剤に可溶な界面活性剤を0.01〜20質量%含有してなる抗菌抗ウイルス性組成物分散液。
【0013】
[8] 上記[6]又は[7]に記載の抗菌抗ウイルス性組成物分散液に、10〜120℃の環境下で硬化するバインダー成分が含有されてなる抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤。
[9] 上記[8]に記載の抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤を塗布し硬化させてなる抗菌抗ウイルス性膜。
[10] 上記[9]に記載の抗菌抗ウイルス性膜を最表面の少なくとも一部に有する抗菌抗ウイルス性物品。
【0014】
[11] 銅(II)化合物の水溶液に、塩基性物質と、アルデヒド基を有する糖類を除く、還元剤とを添加して亜酸化銅粒子を合成する亜酸化銅粒子合成工程と、得られた亜酸化銅粒子100質量部に対して、アルデヒド基を有する糖類の含有量が0.5〜10質量部となるように亜酸化銅粒子とアルデヒド基を有する糖類の水溶液とを混合する混合工程と、混合工程後に固形分を分取して粉砕処理を施す粉砕工程と、を含む抗菌抗ウイルス性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、種々の用途に適用した際に、長期に渡って良好な抗菌抗ウイルス性を発揮し得る抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法、並びに抗菌抗ウイルス性組成物分散液を提供することができる。また、長期に渡って良好な抗菌抗ウイルス性を発揮し得る抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤、抗菌抗ウイルス性膜、及び抗菌抗ウイルス性物品を提供することができる。
例えば、不特定多数の人が触れる物品あるいは部位に、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物を含むコート剤を塗布することによって、物品表面を介して人から人へ菌やウイルスが感染するリスクの低減を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた亜酸化銅粒子のSEM写真を示す図である。
【図2】実施例1で得られた抗菌抗ウイルス性組成物、及び比較例1で得られた亜酸化銅において、X線回折パターンの変化を示す図であり、(A)は実施例1に係る図であり、(B)は比較例1に係る図である。
【図3】実施例4の抗ウイルス性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.抗菌抗ウイルス性組成物及びその製造方法]
本発明の抗菌抗ウイルス性組成物は、BET比表面積が5〜100m2/gの亜酸化銅粒子と、アルデヒド基を有する糖類とを含有してなる。BET比表面積が5〜100m2/gの亜酸化銅粒子は、抗菌抗ウイルス性が高い半面、易酸化性が高いため長期に渡って良好な抗菌抗ウイルス性を維持することが困難である。そこで、本発明ではアルデヒド基を有する糖類を共存させて亜酸化銅粒子の良好な抗菌抗ウイルス性を維持させている。しかし、アルデヒド基を有する糖類が少なすぎると亜酸化銅粒子の易酸化性を抑えることができず、アルデヒド基を有する糖類が多すぎると亜酸化銅粒子の抗菌抗ウイルス性を阻害してしまう。そこで、本発明では、アルデヒド基を有する糖類の含有量を、亜酸化銅粒子100質量部に対して0.5〜10質量%とし、亜酸化銅粒子の易酸化性を抑制し、かつ良好な抗菌抗ウイルス性を実現した。
【0018】
(亜酸化銅粒子)
本発明で使用する亜酸化銅粒子は、Cu2Oの化学式で示される粒子である。電子顕微鏡で観察した際の形状に特に制限はないが、八面体の結晶となっているものや不定形で球に近い形状を示したものあり、本発明では、これら単独でも、又は混在していてもよい。
【0019】
本発明に係る亜酸化銅粒子は、窒素吸着法(BET法)によって算出したBET比表面積が5〜100m2/gであり、10〜50m2/gであることが好ましく、20〜40m2/gであることがより好ましい。BET比表面積が5〜100m2/gであることで高い抗菌抗ウイルス性を発揮させることができるが、BET比表面積が100m2/gを超えると、合成が困難であるとともに回収が難しく、かえって扱いづらくなってしまう。また、比表面積が5m2/g未満では、菌あるいはウイルスとの接触点が少なく、抗菌抗ウイルス効果が小さくなる。さらに、濃い橙褐色を帯びるため、抗菌抗ウイルス性コート剤として使用した場合、物品の意匠性が損なわれてしまうという問題点がある。
【0020】
抗菌抗ウイルス性能において、亜酸化銅の粒子径が小さいほど、効果は大きい。さらに、亜酸化銅を微粒子にすると、量子サイズ効果によって、色が淡くなることが知られている。しかも、抗菌抗ウイルス性能が大きくなるため、使用量を少なく抑えることができ、従って、着色も少なくできる。このように、抗菌抗ウイルス性材料としての亜酸化銅は、微粒子であるほど好適であると考えられる。しかしながら、亜酸化銅粒子は、粒子径が小さいほど、大気中で酸化されて酸化銅(II)になりやすい。酸化銅(II)は、黒色を帯びているため、物品の意匠性も損なわれ、また、抗菌抗ウイルス性能も低下することが知られている。
従って、亜酸化銅粒子の粒径は、電子顕微鏡で確認した最大粒子直径から求めた一次粒子径が1〜400nmの範囲内であることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましく、10〜50nmであることがさらに好ましい。
【0021】
(アルデヒド基を有する糖類)
本発明で使用するアルデヒド基(−CHO)を有する糖類とは、通称「アルドース」と呼ばれる一群の糖類が好ましく、単糖類でも多糖類でもよいし、それらの混合物でもよい。例として、グルコース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、ラクトース等が挙げられる。これらのうち、入手しやすさ、価格等を考慮して、グルコース、キシロース、ガラクトースがより好ましく、グルコースが最も好ましい。
【0022】
アルデヒド基を有する糖類の含有量は、当該アルデヒド基を有する糖類の含有量が、前記亜酸化銅粒子100質量部に対して0.5〜10質量部である。含有量が0.5質量部よりも小さいと、酸化防止効果が不十分である。一方、10質量部を超えると抗菌抗ウイルス性能が低下してしまう。含有量は、1.0〜7質量部であることが好ましく、1.0質量部〜5質量部であることがより好ましい。1.0質量部〜3.0質量部であることがさらに好ましく、1.0質量部〜1.4質量部であることが最も好ましい。
【0023】
(光触媒物質)
本発明の抗菌抗ウイルス性組成物は、光触媒物質が含有されてもよい。全体(光触媒物質を含む抗菌抗ウイルス性組成物の全体量)における光触媒物質の含有量は70〜99.9質量%であることが好ましい。光触媒物質を含有させることで、酸化銅(I)から酸化銅(II)となり抗菌抗ウイルス性能が失われた状態を、光照射によって亜酸化銅に還元することができる。その結果、抗菌抗ウイルス性能を半永久的に持続させることができる。
全体(光触媒物質を含む抗菌抗ウイルス性組成物の全体量)における光触媒物質の含有量は、80〜99質量%であることがより好ましく、90〜98質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
光触媒物質は、光照射により酸化還元能を有する物質ならば特に制限はなく、金属酸化物や金属酸窒化物等の化合物半導体が挙げられる。汎用性の観点から、酸化チタン又は酸化タングステンを主成分として含むものが挙げられ、酸化チタンを主成分とする光触媒であることが好ましい。
ここで、「主成分」とは、光触媒物質中の割合が60質量%以上であることをいう。
【0025】
なお、酸化チタンは、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトの結晶型が知られているが、特に制限なく適用することができる。本発明者らは、抗菌抗ウイルス性能として、ルチルが比較的高い性能を有していることを把握しているが、ルチルは、真比重が大きく、分散液にすることが難しいため、透明なコート剤にすることが難しい。従って、抗菌抗ウイルス性能についてはわずかに劣るものの、アナターゼやブルッカイトを用いて透明性が高いコート剤として使用することも、実用的見地からは重要である。従って、酸化チタンの結晶形については生産性や用途に応じて選択すればよい。
屋内等で使用することを想定した場合、光触媒物質は可視光応答型光触媒であることが好ましい。
【0026】
特に、(A)酸化チタン及び酸化タングステンから選ばれる基材の表面が、(B)銅(II)イオン及び鉄(III)イオンから選ばれる少なくとも1種により修飾された可視光応答型光触媒、あるいは、(C)遷移金属及び非金属をドープした酸化チタン及び遷移金属及び非金属をドープした酸化タングステンから選ばれる基材の表面が、(B)銅(II)イオン及び鉄(III)イオンから選ばれる少なくとも1種により修飾された可視光応答型光触媒であることが好ましい。
【0027】
ここで、上記(A)の酸化チタンとしては、特に制限はなく、アナターゼ、ルチル、ブルッカイト型の単結晶型酸化チタン又は2種以上の結晶型を混合した酸化チタンを使用することができる。酸化タングステンとしては、特に制限はなく、例えば、三斜結晶、単斜結晶、正方結晶を使用することができる。
上記(B)の銅(II)イオン及び鉄(III)イオンとしては、光触媒に修飾され、可視光照射下では光触媒活性が向上できれば特に制限がない。例えば、光触媒に修飾された銅(II)イオン及び鉄(III)イオンとして、酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、又は銅(II)イオン及び鉄(III)の有機錯体等が挙げられる。これらのなかで、酸化物、水酸化物が好ましい。
上記(C)の遷移金属及び非金属としては、酸化チタンにドープさせて、不純物準位をつくり、可視光の吸収が増加できれば、特に制限がない。例えば、遷移金属として、バナジウム、クロム、鉄、銅、ルテニウム、ロジウム、タングステン、ガリウム、インジウム等が挙げられる。非金属としては、炭素、窒素、硫黄が挙げられる。また、酸化チタン結晶内部に、電荷バランスを取るために、複数の遷移金属を共ドープさせる、又は、遷移金属と非金属を共ドープさせることもできる。
【0028】
これらの触媒について、例えば、銅(II)イオン修飾酸化チタンについては、特開2011−079713号公報の段落[0029]〜段落[0032]のような触媒が例示される。銅(II)イオン修飾酸化タングステンについては、特開2009−226299号公報の段落[0028]〜段落[0031]のような触媒が例示される。銅(II)イオン修飾タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンについては、特開2011−031139号公報の段落[0013]〜段落[0021]のような触媒が例示される。
【0029】
本発明の抗菌抗ウイルス性組成物は、銅(II)化合物の水溶液に、塩基性物質と、アルデヒド基を有する糖類を除く還元剤とを添加して亜酸化銅粒子を合成する亜酸化銅粒子合成工程と、得られた亜酸化銅粒子100質量部に対して、アルデヒド基を有する糖類の含有量が0.5〜10質量部となるように亜酸化銅粒子とアルデヒド基を有する糖類の水溶液とを混合する混合工程と、混合工程後に固形分を分取して粉砕処理を施す粉砕工程とを経て製造することができる。
以下、各工程ついて説明する。
【0030】
(亜酸化銅粒子合成工程)
水溶性の銅(II)化合物としては、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、水酸化銅(II)が挙げられる。好ましくは硫酸銅(II)である。合成に用いる銅水溶液中の銅(II)化合物の濃度は、銅(II)イオンで換算すると、0.05〜1mol/Lであることが好ましく、0.1〜0.5mol/Lであることがより好ましい。
【0031】
塩基性物質としては、有機系及び無機系物質のいずれでもよく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、トリエチルアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。なかでも、水酸化ナトリウム、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。塩基性物質の添加量は、銅(II)イオンのモル数に対し、0.5〜5倍のモル数であることが好ましく、1〜3倍のモル数であることがより好ましい。
【0032】
アルデヒド基を有する糖類を除く、還元剤としては、硫酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、ヒドラジン、亜リン酸ナトリウム等の水溶液が挙げられる。なかでも、ヒドラジン水溶液が好ましい。当該還元剤の添加量は、銅(II)イオンのモル数に対し、0.1〜1倍モル数であることが好ましく、0.2〜0.5倍モル数であることがより好ましい。
また、合成する際の条件として、温度は10〜90℃とすることが好ましく、より好ましくは30〜60℃である。
【0033】
(混合工程)
アルデヒド基を有する糖類としては、既述の糖類が挙げられる。還元性糖類の水溶液中の濃度は、0.1〜2mol/Lであることが好ましく、0.5〜1.5mol/Lであることがより好ましい。また、最終的に得られる抗菌抗ウイルス性組成物において、得られた亜酸化銅粒子100質量部に対して、アルデヒド基を有する糖類の含有量が0.5〜10質量部となるように、還元性糖類の水溶液の混合量を設定する。
【0034】
(粉砕工程)
還元性糖類の水溶液を混合した後は、固形分を分離乾燥して分取した後、これに粉砕処理を施すことで、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物が得られる。
なお、光触媒物質を含有させる場合は、混合工程を経た後の亜酸化銅粒子及び還元性糖類の固形分又は分散液を光触媒物質の分散液に混合させればよい。
【0035】
固形分の分離には、メンブレンフィルターによるろ過を採用することができる。固形分の分取後は、必要に応じて50〜80℃で乾燥し、通常の粉砕手段により粉砕処理を行う。このとき、亜酸化銅粒子の比表面積が5〜100m2/gの範囲になるように、粉砕エネルギーが弱い粉砕処理装置を行うことが好ましい。例えば、ボールミル、ミキサー、ポットミル、メノウ乳鉢での粉砕が挙げられる。
【0036】
[2.抗菌抗ウイルス性組成物分散液]
本発明の抗菌抗ウイルス性組成物分散液は、下記いずれかの態様が好ましい。
本発明の第1の抗菌抗ウイルス性組成物分散液は、既述の本発明の抗菌抗ウイルス性組成物を1〜30質量%、非水系有機溶剤を60〜98.99質量%、非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質を0.01〜10質量%含有してなる。
本発明の第2の抗菌抗ウイルス性組成物分散液は、既述の本発明の抗菌抗ウイルス性組成物を1〜30質量%、非水系有機溶剤を40〜98.98質量%、非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質を0.01〜10質量%、非水系有機溶剤に可溶な界面活性剤を0.01〜20質量%含有してなる。
なお、本発明の第1及び第2の抗菌抗ウイルス性組成物分散液をまとめて、本発明の分散液ということがある。
【0037】
本発明の分散液において、上記のような含有割合とすることで、抗菌抗ウイルス性組成物が均一に分散して、安定に保存することができる。
抗菌抗ウイルス性組成物が1質量%以上であることで、抗菌抗ウイルス性能を発揮できる。30質量%以下であることで、本発明の分散液が安定に保存でき、利便性を向上させることができる。抗菌抗ウイルス性組成物の分散液中の抗菌抗ウイルス性組成物の濃度は、2〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。
【0038】
塩基性物質については、その濃度が0.01質量%以上であることで、本発明の分散液が塩基性となり、亜酸化銅粒子の溶解を防ぐことができる。また、濃度が10質量%以下であることで、本発明の分散液から形成した膜中の塩基性物質の残存量を低減させ、抗菌抗ウイルス性能を示す亜酸化銅粒子の性能の維持を図ることができる。抗菌抗ウイルス性組成物分散液中の塩基性物質の濃度は、0.05〜7質量%であることが好ましく、0.08〜5質量%であることがより好ましい。
【0039】
非水系有機溶剤としては、水以外の有機溶媒であって、エタノール、メタノール、2−プロパノール、変性アルコール、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸ノルマルプロピル(NPAC)等が挙げられる。
非水系有機溶媒を用いる理由としては、水中だと亜酸化銅が2価の銅に酸化されやすく、非水系溶媒中では、それが起こりにくいためである。
【0040】
非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質としては、有機系及び無機系物質のいずれでもよく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、トリエチルアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。なかでも、水酸化ナトリウム、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。ここで、塩基性物質の溶解度は、
非水系有機溶剤100gに対して0.05g以上のものが好ましい。
【0041】
本発明の第2の抗菌抗ウイルス性組成物分散液においては、非水系有機溶剤に可溶な界面活性剤が含有されてなるが、当該界面活性剤を含有させることで抗菌抗ウイルス組成物の粒子間の凝集を弱めて、立体障害を与えることによって、分散液を安定にすることができる。また、界面活性剤の含有量が0.01質量%未満では、分散液の分散性が悪く、抗菌抗ウイルス組成物が沈降してしまい、20質量%を超えると分散液から形成した膜中に残存量が多く、膜の抗菌抗ウイルス性能が低下してしまう。含有量は、0.05〜15質量%であることが好ましく、0.08〜10質量%であることがより好ましい。
【0042】
非水系有機溶剤に可溶な界面活性剤としては、非イオン性をもつ界面活性剤であることが好ましく、例えば、エステル型のグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、エーテル型の脂肪アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(登録商標)X−100)、アルキルグリコシド等が挙げられる。なかでも、オクチルフェノキシポリエトキシエタノールが好ましい。
【0043】
[3.抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤、抗菌抗ウイルス性膜、及び抗菌抗ウイルス性物品]
本発明の抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤は、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物分散液に、10〜120℃の環境下で硬化するバインダー成分が含有されてなる。当該バインダー成分としては、無機系バインダー又は有機系バインダーのいずれを用いてもよい。光触媒物質によるバインダーの分解を考慮すると、無機系バインダーが好ましい。バインダーの種類は特に限定されず、例えば、シリカバインダー、ジルコニアバインダー、アルミナバインダー、チタニアバインダー、等が挙げられ、それらを併用しても良い。なかでも、シリカバインダー又はジルコニアバインダーが好ましい。
【0044】
バインダー成分の含有量は、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましい。1.5〜5質量%であることでコート剤が安定に分散でき、基材に硬化し形成した膜を均一に、基材上に接着することができる。
【0045】
本発明の抗菌抗ウイルス性膜は、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤を塗布し硬化させてなる。本発明の抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤を塗布する基材としては、金属、セラミックス、ガラス、繊維、不織布、フィルム、プラスチック、ゴム、紙、木材等が挙げられ、これらの基材の表面が塗料等で塗布されてもよい。塗布方法としては特に限定されず、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等を適用することができる。
【0046】
塗布後の硬化温度は、使用するバインダー成分によるが、20〜80℃程度とすることが好ましい。硬化して得られる本発明の抗菌抗ウイルス性膜の膜厚は、0.05〜1μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。
【0047】
本発明の抗菌抗ウイルス性物品は、最表面の少なくとも一部(例えば、人が触れる部位)に本発明の抗菌抗ウイルス性膜を有する物品であり、例えば、建築建材、衛生用品、防汚用品等の物品が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、各例で得られた抗菌抗ウイルス性組成物の亜酸化銅粒子について、XRD測定により結晶ピーク帰属の測定を行った。当該XRD測定は、銅ターゲットを使用し、Cu−Kα1線を用いて、管電圧が45kV、管電流が40mA、測定範囲が2θ=20〜80deg、サンプリング幅が0.0167deg、走査速度が1.1deg/minで行った。測定には、Panalytical社製のX'PertPROを使用した。
また、各例で得られた抗菌抗ウイルス性組成物の亜酸化銅粒子についてのBET比表面積の測定は、(株)マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置「Macsorb,HM model−1208」を使用して行った。
【0049】
(実施例1)
蒸留水1000mLを50℃に加熱し、攪拌しながら、硫酸銅(II)五水和物52.25gを投入し、完全に溶解した。その後、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mLと、2mol/Lのヒドラジン水和物の水溶液28mLとを同時に投入した。1分間強く攪拌した後、亜酸化銅粒子が分散した分散液が得られた。その後、1.2mol/Lのグルコース水溶液300mLを投入し、1分間攪拌を行った。0.3μmのメンブレンフィルターでろ過して、1000mLの蒸留水で水洗を行い、固形分を回収し、60℃で3h乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、亜酸化銅粒子100質量部に対しグルコースが1.5質量部共存した抗菌抗ウイルス性組成物を得た。図1に抗菌抗ウイルス性組成物のSEM写真を示す。
なお、亜酸化銅粒子が分散した分散液からろ過して得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を窒素吸着法によって測定したところ、29m2/gであった。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様にして、亜酸化銅粒子が分散した分散液を作製した。その後、グルコース水溶液を投入しないで、直接に0.3μmメンブレンフィルターをろ過して、水洗を行い、固形分を回収し、60℃で3h乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、亜酸化銅粒子を得た。
得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を窒素吸着法によって測定したところ、29m2/gであった。
【0051】
実施例1によって得られた抗菌抗ウイルス性組成物中のグルコースの定量は、下記のようにして求めた。すなわち、高周波加熱−赤外吸収法を用いて炭素量を測定し、炭素量から共存したグルコースの量を算出した。その際、比較例1に含まれる炭素量が、実験操作によって混入する炭素量とし、これを差し引くことで、残った炭素量が亜酸化銅粒子中に含まれるグルコース量とした。結果を下記表1に示す。なお、他の実施例についても同様にして求めた。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1で得られた抗菌抗ウイルス性組成物と、比較例1で得られた亜酸化銅粒子において、大気中に暴露した状態で1週間後、2週間後、1ヵ月後の状態をXRD測定により観察した。結果を図2に示す。実施例1では、亜酸化銅(Cu2O)のピーク強度に殆ど変化が見られないが(図2(A))、比較例1では、亜酸化銅が酸化されることにより、酸化銅(CuO)のピークが出現してきている(図2(B))。この実験により、グルコースがごく少量共存することによって、亜酸化銅の酸化が抑えられていることが確認できた。
【0054】
(実施例2)
蒸留水1000mLを50℃に加熱し、攪拌しながら、硫酸銅(II)五水和物52.25gを投入し、完全に溶解した。その後、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mLと2mol/Lのヒドラジン水和物の水溶液28mLを同時に投入した。1分間強く攪拌した後、0.3μmのメンブレンフィルターでろ過して、1000mLの蒸留水で水洗を行い、固形分を回収し、60℃で3h乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、亜酸化銅粒子を得た。得られた亜酸化銅粒子1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、5質量部のグルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、5質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子(抗菌抗ウイルス性組成物)を得た。
なお、窒素吸着法によって、実施例2で得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を測定したところ、28m2/gであった。
【0055】
(実施例3)
亜酸化銅粒子100質量部に対して、10質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加した以外は実施例2と同様にして、10質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子(抗菌抗ウイルス性組成物)を得た。
なお、窒素吸着法によって、実施例3で得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を測定したところ、28m2/gであった。
【0056】
(実施例4)
アナターゼ型酸化チタン(商品名「FP−6」、昭和タイタニウム(株)製)を2−プロピルアルコール(以下、「IPA」という)に懸濁させ、固形分濃度5質量%の分散体を調製した。酸化チタン100質量部に対して2質量部に相当するトリトンX−100(オクチルフェノキシポリエトキシエタノール 関東化学製)を添加した後、酸化チタンに対して2質量部に相当するテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(40質量%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(関東化学(株)製)を使用した)を添加した。
その後、0.1mmサイズのメディアを用いて懸濁液をビーズミル処理で分散処理を行い、分散液を得た(以下「FP−6のIPA分散体」という)。酸化チタン100質量部に対して3質量部となるように、実施例1で得られた「1.5質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子」をFP−6のIPA分散体に分散させて、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0057】
得られた抗菌抗ウイルス性組成物分散液を固形分が1.5mg/25cm2になるように、ガラス板(50mm×50mm×1mm)に塗布した。ガラス板上の溶媒を蒸発させて、ウイルス不活化能の評価(評価方法は後述)を行った。結果を図3に示す。
図3中の「ブランク」とは、ガラス板のみのウイルス不活化能の評価結果である。「暗所」とは、分散液を塗布したガラス板の暗条件での評価結果である。「可視光照射」とは、分散液を塗布したガラス板の可視光照射下での評価結果である。
なお、可視光照射は、白色蛍光灯から、N−113光学フィルターを通し、400nm以下の光をカットした光を照射する条件で行った。光強度は800Luxである。
【0058】
図3から、ガラス板だけでは、ウイルス不活化能を示さなかった。分散液を塗布したガラス板では、暗所においてもウイルス不活化能を示した。また、可視光照射において、さらに高いウイルス不活化能を示した。このことから、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物が良好なウイルス不活化能を示すことがわかる。また、光触媒物質(FP−6酸化チタン)との併用で、暗所において光照射によるウイルス不活化能の向上効果があることを確認できた。
【0059】
(実施例5)
蒸留水1000mLに50gのブルッカイト型酸化チタン(NTB−01、昭和タイタニウム(株)製)を懸濁させて、酸化チタン100質量部に対して、0.1質量部の銅(II)イオンを担持するように、0.133gCuCl2・2H2O(関東化学(株)製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。洗浄、乾燥して、銅(II)イオン修飾酸化チタンが得られた。FP−6の代わりに前記の銅(II)イオン修飾酸化チタンを使用した以外は実施例4と同様にして、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0060】
(実施例6)
蒸留水1000mLに50gの酸化タングステン(和光純薬工業(株)製)を懸濁させて、酸化タングステン100質量部に対して、0.1質量部の銅(II)イオンを担持するように、0.133gCuCl2・2H2O(関東化学(株)製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。洗浄、乾燥して、銅(II)イオン修飾酸化タングステンを調製した。FP−6の代わりに前記の銅(II)イオン修飾酸化タングステンを使用した以外は実施例4と同様にして、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0061】
(実施例7)
10gの酸化チタン(ルチル型、テイカ(株)製)を20mLのエタノール(和光純薬工業(株)製)に懸濁させて、酸化チタン懸濁液を調製した。1gの六塩化タングステン(Aldrich製)を10mLのエタノールに溶解させて、タングステン溶液を調製した。1gの硝酸ガリウム(III)水和物(Aldrich製)を10mLのエタノールに溶解させて、ガリウム溶液を調製した。タングステン:ガリウム:チタンのモル比が0.03:0.06:0.91になるように、タングステン溶液、ガリウム溶液を酸化チタン懸濁液に混合し、攪拌しながら、エタノール溶媒を蒸発させた。得られた粉末を950℃、3時間で熱処理した。これにより、タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンが得られた。次に、タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタン5gを100gの蒸留水に懸濁させて、タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタン100質量部に対して、0.1質量部の銅(II)イオンを担持するように、0.013gCuCl2・2H2O(関東化学(株)製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。洗浄、乾燥して、銅(II)イオン修飾したタングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンを調製した。FP−6の代わりにこの銅(II)イオン修飾したタングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンを使用した以外は実施例4と同様にして、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0062】
(比較例2)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、0.3質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、0.3質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子を得た。
【0063】
(比較例3)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、12質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、12質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子を得た。
【0064】
(比較例4)
市販の工業品亜酸化銅粒子(商品名:レギュラー、古河ケミカルズ(株)製 BET比表面積1m2/g)1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、1.5質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、1.5質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子を得た。得られた亜酸化銅粒子1gを、エタノール100mlに分散させて分散液を得た。当該分散液を、塗布量が8mg/m2になるように、ガラス板に塗布して亜酸化銅の塗膜を形成した。
【0065】
(比較例5)
塗布量を24mg/m2とした以外は比較例4と同様にして亜酸化銅の塗膜を形成した。
【0066】
(比較例6)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子を大気中に30日間放置することによって酸化銅(II)に酸化させて、実施例4と同様に、FP−6のIPA分散体に混合し、酸化銅(II)/酸化チタン分散液を得た。
【0067】
(比較例7)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子を、実施例4と同様に、FP−6のIPA分散体に混合し、亜酸化銅(I)/酸化チタン分散液を得た。
【0068】
(比較例8)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子を、実施例5と同様に、銅(II)イオン修飾酸化チタンのIPA分散体に混合し、亜酸化銅(I)/銅(II)イオン修飾酸化チタン分散液を得た。
【0069】
≪ウイルス不活化能の評価:LOG(N/N0)の測定≫
ウイルス不活化能は、バクテリオファージを用いたモデル実験により以下の方法で確認した。なお、バクテリオファージに対する不活化能をウイルス不活化能のモデルとして利用する方法は、例えばAppl.Microbiol Biotechnol.,79,pp.127-133,2008に記載されており、信頼性のある結果が得られることが知られている。
深型シャーレ内にろ紙を敷き、少量の滅菌水を加えた。ろ紙の上に厚さ5mm程度のガラス製の台を置き、その上に実施例1〜3の抗菌抗ウイルス性組成物、実施例4〜7の抗菌抗ウイルス性組成物分散液、及び比較例1〜3、6〜8の試料のそれぞれを、実施例1〜3及び比較例1〜3の場合は固形分が0.02mg/25cm2、実施例4〜7及び比較例6〜8の場合は固形分が1.5mg/25cm2となるように塗布したガラス板(50mm×50mm×1mm)を置いた。この上にあらかじめ馴化しておき濃度も明らかとなっているQBファージ(NBRC20012)懸濁液を100μL滴下し、試料表面とファージを接触させるためにPET(ポリエチレンテレフタレート)製のOHPフィルムを被せた。この深型シャーレにガラス板で蓋をしたものを測定用セットとした。同様の測定用セットを複数個用意した。
また、光源として15W白色蛍光灯(パナソニック(株)製、フルホワイト蛍光灯、FL15N)に紫外線カットフィルター(株)キング製作所製、KU−1000100)を取り付けたものを使用し、照度が800ルクス(照度計:TOPCON(製) IM−5にて測定)になる位置に複数個の測定用セットを静置した。所定時間経過後にガラス板上のサンプルのファージ濃度測定を行った。
【0070】
ファージ濃度の測定は以下の方法で行った。ガラス板上のサンプルを10mLの回収液(SM Buffer)に浸透し、振とう機にて10分間振とうさせた。このファージ回収液を適宣希釈し、別に培養しておいた大腸菌(NBRC13965)の培養液(OD600>1.0、1×108CFU/mL)と混合して撹拌した後、37℃の恒温庫内に10分間静置して大腸菌にファージを感染させた。この液を寒天培地にまき、37℃で15時間培養した後にファージのプラーク数を目視で計測した。得られたプラーク数にファージ回収液の希釈倍率を乗じることによってファージ濃度Nを求めた。
初期ファージ濃度N0と、所定時間後のファージ濃度Nとから、ファージ相対濃度(LOG(N/N0))を求めた。
なお、比較例4及び5の塗膜については、そのままの状態でろ紙の上の厚さ5mm程度のガラス製の台の上に載置して、ファージ濃度測定を行った。
ウイルス不活化能の評価を種々の条件で行った結果を下記表2〜4に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
上記表2は、グルコースの量によって、合成した直後(合成後5日以内)の亜酸化銅粒子のウイルス不活化能と1ヵ月(30日間以上)放置後のウイルス不活化能を示す表である。塗膜量は8mg/m2である。
【0073】
実施例1〜3において、グルコースの量の増加に従って、ウイルス不活化能は低下した。いずれにおいても、合成後の評価と1ヵ月後の評価結果から、ウイルス不活化能の変化が見られなかった。比較例3は、酸化防止効果はあるが、多量のグルコースが存在しているため、全体的にウイルス不活化能が低かった。
比較例1と比較例2においては、合成後のウイルス不活化能が高かったのに対して、1ヵ月後のウイルス不活化能が大幅に低下した。それは、グルコースの量が少なく、酸化防止が効いていないことによると考えられる。
【0074】
【表3】

【0075】
上記表3は、実施例1と比較例4、5のウイルス不活化能を比較した表である。
実施例1より合成した亜酸化銅粒子は、BET比表面積が大きいため、グルコースを添加した市販のBET比表面積が小さい工業品亜酸化銅より明らかに高い活性を示している。よって、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物を使用することで、塗布量が少なくても、高いウイルス不活化能が期待できる。
【0076】
【表4】

【0077】
上記表4は、光触媒物質を組み合わせた材料を、合成直後及び大気中に1ヵ月(30日以上)放置後の抗ウイルス性能を示す表である。
実施例4〜7は、グルコースと亜酸化銅と光触媒との組合せに係る抗菌抗ウイルス性組成物であり、比較例6〜8は、グルコースを含まず亜酸化銅と光触媒との組合せに係る抗菌抗ウイルス性組成物である。
合成直後の評価と合成1ヵ月後の評価とを比較すると、暗所においても、可視光照射においても、グルコースが存在する実施例4〜7の方が、良好なウイルス不活化能を維持できることが確認できる。一方、グルコースのない比較例6〜8は、ウイルス不活化能が低下した。
実施例4〜7と比較例6〜8とにおいては、光触媒との組み合わせで、可視光照射条件では、暗所の場合よりも良好なウイルス不活化能を示している。これは、可視光照射下では、光触媒の酸化還元により、銅(I)が増加し、抗ウイルス性能に寄与すると考えられる。しかしながら、比較例6〜8では、光触媒と組み合わせても、ウイルス不活化能は実施例4〜7よりも低いレベルであった。
以上のことから、実施例4〜7のように、グルコースと亜酸化銅と光触媒との組合せに係る抗菌抗ウイルス性組成物によれば、時間が経過しても、高いウイルス不活化能を維持できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が5〜100m2/gの亜酸化銅粒子と、アルデヒド基を有する糖類とを含有し、前記アルデヒド基を有する糖類の含有量が、前記亜酸化銅粒子100質量部に対して0.5〜10質量部である抗菌抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
さらに、光触媒物質を含有し、前記亜酸化銅粒子と前記アルデヒド基を有する糖類と前記光触媒物質の合計量に対する該光触媒物質の含有量が70〜99.9質量%である請求項1に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
前記光触媒物質が、酸化チタン及び酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種を含む請求項2に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
前記光触媒物質は、(A)酸化チタン及び酸化タングステンから選ばれる基材が、(B)銅(II)イオン及び鉄(III)イオンから選ばれる少なくとも1種により修飾された可視光応答型光触媒である請求項2又は3に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
【請求項5】
前記光触媒物質は、(C)遷移金属をドープした酸化チタン、炭素、窒素、及び硫黄の少なくともいずれかの非金属をドープした酸化チタン、遷移金属をドープした酸化タングステン、及び炭素、窒素、及び硫黄の少なくともいずれかの非金属をドープした酸化タングステンからなる群から選ばれる基材が、(B)銅(II)イオン及び鉄(III)イオンから選ばれる少なくとも1種により修飾された可視光応答型光触媒である請求項2又は3に記載の抗菌抗ウイルス性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌抗ウイルス性組成物を1〜30質量%、非水系有機溶剤を60〜98.99質量%、前記非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質を0.01〜10質量%含有してなる抗菌抗ウイルス性組成物分散液。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌抗ウイルス性組成物を1〜30質量%、非水系有機溶剤を40〜98.98質量%、前記非水系有機溶剤に可溶な塩基性物質を0.01〜10質量%、前記非水系有機溶剤に可溶な界面活性剤を0.01〜20質量%含有してなる抗菌抗ウイルス性組成物分散液。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の抗菌抗ウイルス性組成物分散液に、10〜120℃の環境下で硬化するバインダー成分が含有されてなる抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤。
【請求項9】
請求項8に記載の抗菌抗ウイルス性組成物含有コート剤を塗布し硬化させてなる抗菌抗ウイルス性膜。
【請求項10】
請求項9に記載の抗菌抗ウイルス性膜を最表面の少なくとも一部に有する抗菌抗ウイルス性物品。
【請求項11】
銅(II)化合物の水溶液に、塩基性物質と、アルデヒド基を有する糖類を除く、還元剤とを添加して亜酸化銅粒子を合成する亜酸化銅粒子合成工程と、得られた亜酸化銅粒子100質量部に対して、アルデヒド基を有する糖類の含有量が0.5〜10質量部となるように亜酸化銅粒子とアルデヒド基を有する糖類の水溶液とを混合する混合工程と、混合工程後に固形分を分取して粉砕処理を施す粉砕工程と、を含む抗菌抗ウイルス性組成物の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−82654(P2013−82654A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224529(P2011−224529)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト/光触媒関連基礎技術の開発ならびに新環境科学領域の創成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】