説明

抗菌抗カビ抗ウイルス性繊維製品とその製造方法

【課題】ポリエステル系繊維だけでなく、ナイロン系繊維、アクリル系繊維に対しても、高い洗濯耐久性を有し、洗濯を繰り返しても抗菌抗カビ効果を持続できる繊維製品を製造する。
【解決手段】トリアゾール系化合物を含有する処理液を用い、合成繊維を構成する樹脂の非結晶領域が開く温度にまで加熱して、繊維製品を構成する繊維内に上記トリアゾール系化合物を固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗濯耐久性に優れた抗菌抗カビ抗ウイルス性繊維製品と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗菌性を付与した繊維構造物は各種衣料、寝装寝具、インテリア製品などに広く利用されている。特に近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、「MRSA」という。)による院内感染が問題となっており、白衣、カーテンなどに抗菌性を付与する抗菌性繊維の使用が増大している。
【0003】
また、水虫の原因菌である白癬菌などのカビ感染症や寝装寝具、インテリア製品などにカビが生える衛生問題が注目を浴び、(社)繊維評価技術協議会でも新しい抗かび評価方法が確立され、さらに抗かびに対する関心が高まっている。
【0004】
さらに、SARS(重傷急性呼吸器症候群)ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、人インフルエンザウイルス等、ウイルスの問題が大きくなっており、抗ウイルス性繊維が必要とされている。
【0005】
例えば、特許文献1及び2には、ピリチオン亜鉛及びピリチオン銅を、ポリエステル繊維に対して処理したもので、高い洗濯耐久性とともに、抗菌抗カビ性を発揮する旨が記載されている。
【0006】
また、特許文献3及び4には、抗菌性繊維製品として、トリアゾール系化合物である、テブコナゾールを乳化、懸濁、溶解させた処理液に繊維製品を接触させた後、乾燥させて繊維製品に抗菌性を付与したものが記載されている。また、バインダー樹脂を用いてテブコナゾールを表面に付着させたものも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−009232号公報
【特許文献2】特開2005−281951号公報
【特許文献3】特開平10−183467号公報
【特許文献4】特許第3887053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2で用いるピリチオン亜鉛及びピリチオン銅は、ポリエステル系繊維に対しては高い洗濯耐久性を発揮するものの、ナイロン系繊維、アクリル系繊維からなる繊維製品に対して用いると、洗濯耐久性が大きく低下してしまい、繊維に付与した抗菌抗カビ効果が持続させられないという問題があった。
【0009】
また、特許文献3及び4に記載の繊維製品は、乾燥処理によってテブコナゾールを定着させてはいるものの、その温度は乾燥のための温度でありそれ以上ではないので、テブコナゾールは表面に留まって繊維内部にまでは浸透せず、繊維表面に留まることになる。このため、洗濯条件には耐えられない場合があった。また織物の連続加工にしか適応出来ず、糸への利用は出来ないという欠点があり、結果として編物への適用が不可能であった。
【0010】
そこでこの発明は、ポリエステル系繊維だけでなく、ナイロン系繊維、アクリル系繊維を含む他の合成繊維に対しても、従来よりも高い洗濯耐久性を有し、洗濯を繰り返しても抗菌抗カビ抗ウイルス効果を持続できるようにすること、及び糸への加工も可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、少なくとも合成繊維を含む繊維製品に付与させる抗菌抗カビ抗ウイルス性付与剤として、トリアゾール系化合物を用い、繊維に含まれる合成繊維を構成する樹脂の非結晶領域が開く温度にまで加熱することにより繊維内部まで浸透できることから、繊維内部にトリアゾール系化合物を固定することで、上記の課題を解決したのである。トリアゾール系化合物を繊維内部に固着させると、その繊維がナイロン系繊維やアクリル系繊維であっても、高い洗濯耐久性を有し、抗菌抗カビ抗ウイルス効果を持続できる抗菌抗カビ抗ウイルス性繊維製品となる。なお、ナイロン系繊維、アクリル系繊維だけでなく、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、これらの合成繊維、これら合成繊維と天然繊維との混合繊維に対しても、高い洗濯耐久性を発揮する。
【0012】
この抗菌抗カビ抗ウイルス性繊維製品の製造にあたっては、抗菌抗カビ抗ウイルス性の付与剤としてトリアゾール系化合物を微粒子の状態で水中に分散させた水性懸濁液、又は、上記トリアゾール系化合物を溶剤に溶解させたものを界面活性剤などで水中に乳化・可溶化した溶剤溶解液を用いる。具体的な方法としては、ナイロン繊維やポリアクリル繊維等の繊維製品をこの水性懸濁液又は溶剤溶解液からなる処理液中に浸漬して繊維内に上記処理液を浸透させ、常圧若しくは加圧条件で60℃以上150℃以下の温度環境の下、浴中で加熱処理する方法、上記処理液を上記繊維に含浸若しくは付着させ、70℃以上230℃以下の温度環境の下、気中で加熱処理する方法、及び、糸状である上記繊維に対して常圧若しくは加圧条件で60℃以上160℃以下の温度環境の下で、上記処理液を反復循環して浸透させることにより上記繊維内にトリアゾール系化合物を濃縮させる方法がある。これらの方法はいずれも、適切な温度に加熱した条件下でトリアゾール系化合物を浸透させることにより、トリアゾール系化合物が繊維の表面部分だけではなく、繊維に含まれる合成繊維を構成する樹脂を加熱することにより樹脂の非結晶領域を開かせることで繊維の内部にまで十分に浸透させ、加熱終了後、すなわち冷却後は非結晶領域が閉ざされることで、上記トリアゾール系化合物が繊維内に強固に固着することで強固な洗濯耐久性を発揮する。
【0013】
トリアゾール系化合物としては種々の化合物があるが、実際に使用可能な化合物としては、例えば、
α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−(1)−エタノール……すなわち、「テブコナゾール」、
1−[〔2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル〕メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール ・・・・・・すなわち「アザコナゾール」
2−(4−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブタン−2−オール……すなわち、「シプロコナゾール」、
1−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)プロパン−1−イル]−1H−1,2,4−トリアゾール……すなわち、「テトラコナゾール」、
1−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イルメチル]−1H−1,2,4−トリアゾール……すなわち、「プロピコナゾール」、
2−(4−クロロベンジル)−5−イソプロピル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール……すなわち、「イプコナゾール」、
4−クロロベンジル−N−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)チアアセトイミダゾール……すなわち、「イミベンコナゾール」、
3−クロロ−4−[4−メチル−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル]−1,3−ジオキソラン−2−イル]フェニル−4−クロロフェニル−エーテル……すなわち、「ジフェノコナゾール」、
2−(4−フルオロフェニル)−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)−3−トリメチルシリルプロパン−2−オール……すなわち、「シメコナゾール」、
4−(4−クロロフェニル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)ブチルニトリル……すなわち、「フェンブコナゾール」、
2−(2,4−ジクロロフェニル)−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ヘキサン−2−オール……すなわち、「ヘキサコナゾール」
5−(4−クロロベンジル)−2,2−ジメチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール……すなわち、「メトコナゾール」
が挙げられる。
この中でも特に「テブコナゾール」、「アザコナゾール」、「シプロコナゾール」、「プロピコナゾール」が安全性的に優れており、中でも「テブコナゾール」が最も優れた効力が発揮される。
【発明の効果】
【0014】
この発明により、従来の方法では抗菌抗カビ抗ウイルス効果を持続させることが難しかったナイロン系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル繊維を含む多くの化学繊維を有する繊維製品に対しても、高い洗濯耐久性を発揮して、抗菌抗カビ効果を長期間に亘って持続する繊維製品とすることができる。繊維製品としては、糸、布、さらにそれらを用いた布帛製品全般が挙げられ、それぞれに適した加工方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、トリアゾール系化合物を少なくとも合成繊維を含む繊維の内部に強固に固着させて抗菌抗カビ抗ウイルス効果を付与した繊維製品、及びその製造方法である。
【0016】
上記トリアゾール系化合物を用いた抗菌抗カビ抗ウイルス効果を付与する処理液は、具体的には、上記トリアゾール系化合物を、界面活性剤等の分散剤と水との存在下で攪拌又は粉砕することにより、微粒子の状態で分散させた水性懸濁液、又は、上記トリアゾール系化合物を、溶剤を用いて溶解したものに界面活性剤を加え、水中に乳化・可溶化できるようにした溶剤溶解液である。
【0017】
上記分散剤としては、特に制限はなく、例えば界面活性剤や、PVA等が挙げられる。これらの分散剤に、必要に応じて増粘剤、凍結防止剤、消泡剤を加えてスラリー状とし、必要に応じてボールミル、セラミックスミルやパールミルを用いて懸濁液にして、上記水性懸濁液とする。
【0018】
上記の界面活性剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン誘導体などの非イオン系界面活性剤、リグニンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、硫酸エステル塩型などのアニオン系界面活性剤、4級アンモニウム塩系のカチオン系界面活性剤、等が挙げられる。
【0019】
上記溶剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールなどのアルコール類、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルやジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル類、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ヒマシ油などが挙げられる。
【0020】
この発明によって抗菌抗カビ抗ウイルス性繊維製品とすることができる繊維製品は、少なくとも合成樹脂の繊維である合成繊維を含む繊維からなる。合成繊維のみからなるものでもよいし、天然繊維との混合繊維でもよい。ただし、少なくとも合成繊維が20重量%以上を占めている必要がある。
【0021】
上記処理液を上記繊維製品に付着させ、上記繊維製品を加熱して合成繊維の非結晶部分を軟化させることで、この非結晶部分に上記処理液に含まれる上記トリアゾール系化合物を固定する。一般に高分子からできている合成繊維は、分子の集まり方が規則的で密な部分(結晶部分)と不規則で疎な部分(非結晶部分)からなり、ガラス転移点以上になると非結晶部分の分子鎖がゆるみ流動性が増し、軟化する。これにより、繊維に隙間を生じ、繊維内に上記処理液が入り込みやすくなり、上記トリアゾール系化合物が繊維内に浸透できるようになる。また、予め上記処理液が繊維に付着していた場合には、上記トリアゾール系化合物が濃度差によって繊維内に浸透しやすくなる。さらに、合成繊維がポリアミドからなる場合は、繊維に付着した上記処理液に含まれる上記トリアゾール系化合物が、合成繊維を構成する分子と繊維の内外で結合しやすくなる。いずれの場合も、その後冷却して非結晶領域を硬化することで、上記トリアゾール系化合物が固定される。隙間を通じて繊維内に付着した場合と、繊維内に浸透した場合には、非結晶領域が再び硬化することで、上記トリアゾール系化合物は上記繊維製品を洗濯する際に外液に曝されない部分に固定されるため、高い洗濯耐久性を発揮しつつ、徐々に繊維外へ浸透することで長期間に亘って抗菌抗カビ抗ウイルス性を発揮する。また、繊維に結合した場合は、繊維外にある上記トリアゾール系化合物が外液に曝されても繊維から外れにくく、長期間に亘って抗菌抗カビ抗ウイルス性を発揮する。
【0022】
上記の加熱する際の適温は上記の合成繊維の樹脂ごとに違っており、上記繊維製品を構成する繊維に含まれる合成樹脂のガラス転移点と密接に関わる。なお、ここでいうガラス転移点はJIS K 7121に記載された方法で測定した値である。上記トリアゾール系化合物と合成繊維とを熱処理する際に、ガラス転移点以上の適温で行うと、上記トリアゾール系化合物を、繊維製品を構成する繊維に効率良く含有できる。
【0023】
上記処理液を上記繊維製品に含浸、付着させる際には、上記トリアゾール系化合物が繊維重量に対して0.01重量%以上好ましくは0.05重量%以上、2重量%以下好ましくは1重量%以下になる濃度が望ましい。
【0024】
なお、上記処理液を上記繊維製品に含浸、付着させる際には、その処理液に、染色剤や染色補助剤を加えてもよい。例えば、一般に繊維に用いられている分散染料、酸性染料、カチオン染料、蛍光増白剤、撥水剤、防汚剤等である。さらに、必要に応じて、酸化亜鉛、酸化チタン等の抗菌剤、殺虫剤、防ダニ剤、防炎剤、酸化防止剤、フィックス剤等を加えてもかまわない。
【0025】
次に、上記処理液を用いて、上記トリアゾール系化合物を上記繊維製品に付着、固定させる具体的な方法について説明する。繊維製品は、織物と編物と糸とに分けられ、また生産量によってもそれぞれ適した処理方法が存在する。織物の少量から大量生産に対応できる第一の製造方法と、同じく中程度から大量生産に向いている第二の製造方法、そして編物では編物の状態では加工が困難であるため編む前の糸の状態で加工する第三の製造方法に分けられる。なお、編物の加工が困難であるのは、一本の糸からなる構造上、付着させる処理工程によって繊維製品が傷むためである。なお、いずれの方法でも、繊維がポリアミドである場合は、繊維の内外を問わず上記トリアゾール系化合物との結合が熱をかけることで促進され、繊維内への固定とともに、繊維外の表面でも分子結合することにより、高い洗濯耐久性を発揮できる。
【0026】
<第一の製造方法>
第一の製造方法として、織物である上記繊維製品をこの処理液中に浸漬し、常圧若しくは加圧下で60〜150℃の温度環境の下、浴中で加熱処理する方法が挙げられる。加熱処理中は、単純に上記繊維製品を液中に沈めて静置しておくだけでも、加熱によって繊維を構成する樹脂の非結晶部分が開いているため、ゆっくりと上記処理液が上記繊維内に浸透するが、上記処理液を流動させるか、上記繊維製品を液中で流動させるか、又はその両方を行う方が、より効率よく上記繊維内に上記処理液を到達させて、より均一に上記トリアゾール系化合物を付着することができるので好ましい。なお、繊維製品を流動させるとは、具体的には、液中で回転、攪拌等をさせることをいう。冷却後は非結晶部分が再び閉じることで、繊維内に付着した上記トリアゾール系化合物がそこに固定される。
【0027】
この方法では、上記繊維製品を構成する合成繊維の種類によって適応条件が異なる。そこで具体的にその例を説明する。ガラス転移点が60℃未満である合成繊維を含む繊維製品の場合は、上記トリアゾール系化合物を含有する処理液に該繊維製品を浸漬し、常圧又は加圧下の60℃以上120℃以下である環境で、浴中にて加熱処理すると良い。60℃未満では合成繊維樹脂の非結晶領域が十分に開かず、上記トリアゾール系化合物が繊維内に浸透されない。一方で、120℃を超えると樹脂が硬化してしまう。ここで、アクリル系繊維だけは、ガラス転移点が60℃を超えるにも関わらず、比較的低温で上記の処理が可能であるという特異な挙動を示す。なお、ガラス転移点が60℃未満である合成繊維としては、具体的には、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ナイロン系繊維、などが挙げられる。
【0028】
また、上記繊維製品を構成する繊維が、ガラス転移点が60℃以上である合成繊維を含む繊維の場合は、上記トリアゾール系化合物を含有する処理液に上記繊維製品を浸漬し、常圧又は加圧下の110℃以上160℃以下である環境で、浴中にて加熱処理すると良い。110℃未満では合成繊維樹脂の非結晶領域が十分に開かず、上記トリアゾール系化合物が繊維内に浸透されない。一方で、160℃を超えると高圧になりすぎるため非常に危険である。ガラス転移点が60℃以上である合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ポリスチレン系繊維、アクリル系繊維が挙げられるが、この内アクリル系繊維のみは上記の通り特異な挙動を示すため、適温が異なり、上述の区分に含まれる。
【0029】
この処理液により、上記トリアゾール系化合物を上記繊維製品に浸透させる際に、上記処理液の重量は、上記繊維重量の4〜40倍であるのが望ましく、5〜20倍であるとより望ましく、6〜15倍であるとさらに望ましい。4倍未満であると、水分が少ないために加工ムラが多くなってしまい、品質が安定しないおそれがある。一方で、40倍を超えても、繊維に含浸、付着される薬剤量に限界があり、多くの薬剤が利用されずに廃棄されることになり、無駄になってしまう。
【0030】
この方法で用いる上記処理液中の上記トリアゾール系化合物の濃度は、上記処理液と繊維重量の関係によって異なるため、吸尽されるトリアゾール系化合物の総量が上記繊維製品の重量に対して0.01〜2重量%になる濃度であると望ましく、0.05〜1重量%になる濃度であるとより望ましい。0.01重量%未満であると十分に効力が発揮されず、2重量%を超えると効力の割に多量の上記トリアゾール系化合物を消費することになり、好ましくない。
【0031】
なお、水溶液中の上記トリアゾール系化合物の濃度がこの範囲になるように、上記水性懸濁液又は溶剤溶解液を水で希釈してそのまま使用するように調整してもよいが、通常は、濃厚な原液を作製しておき、使用時にそれを希釈して使用するのが好ましい。例えば、10〜30%の原液を作っておき、使用時に好ましい濃度に希釈して使用する。このようにすることによって、液を安定に長期間保存することができ、また、使用現場への輸送コストも安く抑えることができる。
【0032】
上記加熱処理時間は、10〜120分であると望ましく、20〜90分であるとより望ましい。10分未満であると上記トリアゾール系化合物が十分に上記繊維製品に付着されず、抗菌抗カビ抗ウイルス性が不十分となってしまうおそれがある。一方で、時間が長すぎると、上記トリアゾール系化合物の浸透はほとんど終わってしまっているので、余計な時間がかかるだけとなってしまい、生産効率が下がることとなる。
【0033】
なお、この方法において、加熱処理中は、上記処理液と上記繊維製品とのどちらか、又は両方を、流動、又は移動させることにより、上記繊維製品を相対的な液流に曝す必要がある。上記の液流に曝させる方法としては、密閉した装置の中で上記繊維を回転させる方法や、上記の水溶液を流動させる方法などが挙げられる。
【0034】
<第二の製造方法>
次に、第二の製造方法について説明する。この方法は、上記処理液を上記繊維製品に含浸又は付着させた後、70〜230℃の温度環境の下、気中で加熱して熱浸透処理する方法である。一旦繊維に付着した上記トリアゾール系化合物が、加熱によって繊維を構成する樹脂の非結晶部分が軟化することにより、濃度差に従って繊維の非結晶部分の内部に浸透していき、冷却後はその樹脂の軟化していた部分が硬化することで、上記トリアゾール系化合物が繊維内に固定される。
【0035】
まず、上記繊維製品に上記処理液を含浸若しくは付着させる方法は特に制限されるものではないが、例えば、浴槽に入れた上記処理液に上記繊維製品を浸漬させるパディング法、スプレーで上記繊維製品に上記処理液を吹き付けて付着させるスプレー法等が挙げられる。
【0036】
この方法での上記繊維製品に含浸又は付着するトリアゾール系化合物の量は、上記繊維製品の重量に対して0.01〜2重量%であると望ましく、0.05〜1重量%であるとより望ましい。0.01重量%未満であると十分に効力が発揮されず、2重量%を超えると効力の割に多量の上記トリアゾール系化合物を消費することになり、好ましくない。
【0037】
また、上記第一の製造方法と同様に、一旦作成した処理液をそのまま付着させる方法と、濃厚な原液を予め作製しておき使用直前に水で希釈して用いる方法とがあり、後者がより好ましい。
【0038】
この第二の製造方法でも、上記繊維製品を構成する合成繊維の種類によって適応条件が異なる。そこで具体的にその例を説明する。
上記合成繊維がポリエステル系繊維等のガラス転移点が60℃以上である繊維又はそれを含む混合繊維の場合は、適温として(ガラス転移点+80)℃以上(ガラス転移点+150)℃以下で熱浸透処理すると、最も効率的に上記トリアゾール系化合物を上記合成繊維に浸透させることができるので望ましい。具体的には、多くのポリエステル系繊維のガラス転移点は70〜80℃であるので、上記適温は150℃以上230℃以下であるのがよく、好ましくは160℃以上190℃以下である。(ガラス転移点+80)℃未満では合成繊維樹脂の非結晶領域が十分に軟化せず上記トリアゾール系化合物が繊維内に十分に浸透されない。一方で、(ガラス転移点+150)℃を超えると樹脂そのものが変性して硬化してしまうおそれが高くなる。また、上記熱浸透処理を行う時間は、10秒以上180秒以下の範囲から適宜選択決定して行う。好ましくは30秒以上120秒以下である。また、ポリエステル系繊維と同様にガラス転移点が60℃以上であるポリスチレン系樹脂を含む繊維でも、熱浸透処理の適温は、上記と同様に(ガラス転移点+80)℃以上(ガラス転移点+150)℃以下となり、好ましい処理時間も同様となる。ただし、アクリル系繊維は例外的にこの条件に含まれない。
【0039】
上記合成繊維が、ガラス転移点が60℃以下である6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのナイロン系繊維又はそれを含む混合繊維の場合は、上記第二の製造方法では、上記熱浸透処理を行う適温として(ガラス転移点+30)℃以上(ガラス転移点+100)℃以下で熱処理すると、最も効率的に上記トリアゾール系化合物を上記合成繊維に浸透させることができるので望ましい。一般的なナイロンのガラス転移点は40〜50℃であるので、上記適温は70℃以上150℃以下であるのがよく、好ましくは80℃以上130℃以下である。(ガラス転移点+30)℃未満では合成繊維を構成する樹脂の非結晶領域が十分に開かず、上記トリアゾール系化合物が繊維内に浸透されない。一方で、(ガラス転移点+100)℃を超えると樹脂が硬化してしまうおそれが高くなる。また、上記熱浸透処理を行う時間は、10秒〜180秒の範囲から適宜選択決定して行う。好ましくは30秒〜120秒である。ナイロン系繊維と同様に、ガラス転移点が60℃未満であるポリエチレン系繊維やポリプロピレン系繊維を含む繊維の場合も、熱浸透処理の適温は上記と同じく(ガラス転移点+30)〜(ガラス転移点+100)℃となり、好ましい処理時間も同様となる。
【0040】
また、上記合成繊維がポリアクリル酸などのアクリル系繊維の場合は、アクリル系繊維のガラス転移点が60℃以上ではあるが、例外的に、ガラス転移点〜(ガラス転移点+60)℃が好ましく、アクリル系繊維のガラス転移点が70〜80℃であるので、適温は70〜140℃である。一方、上記熱浸透処理を行う時間は、10秒〜180秒の範囲から適宜選択決定して行う。好ましくは30秒〜120秒である。
【0041】
上記熱浸透処理を行う具体的な加熱の方法としては、乾燥機内を通過させる方法、熱ローラーを通過させる方法、高温蒸気加熱処理法(パッド・スチーム法)等が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0042】
なお、上記熱浸透処理後に、上記繊維上に残った余分な加工剤や不純物を取り除く為に、水又はアルカリ性液等で洗浄して乾燥してもよい。この場合も、上記トリアゾール系化合物が上記繊維内に固定されているので、洗浄しても抗菌抗カビ抗ウイルス性はほとんど低下しない。
【0043】
<第三の製造方法>
最後に、第三の製造方法について説明する。この製造方法は、上記繊維製品の糸に対して、上記トリアゾール系化合物を含有する処理液を60℃以上160℃以下の温度で循環させることにより、樹脂の非結晶領域を開かせて上記トリアゾール系化合物を浸透させることにより上記トリアゾール系化合物をこの糸に濃縮させることを特徴とする抗菌抗カビ抗ウイルス性繊維製品の製造方法である。加熱により樹脂の非結晶領域が軟化した状態で処理液が循環する工程で段々と上記トリアゾール系化合物が樹脂内部に濃縮させることにより、常温時より吸尽能力が格段に向上して効率よく糸に上記トリアゾール系化合物を付着させることができ、そのムラも少ないものとなる。
【0044】
この第三の製造方法でも、上記繊維製品である糸を構成する繊維によって適応条件が異なる。そこで具体的にその例を説明する。該繊維がナイロン系繊維等のガラス転移点が60℃未満である合成繊維を含む繊維の場合は、上記トリアゾール系化合物を含有する処理液に上記糸を浸漬し、常圧又は加圧下の60℃以上120℃以下である環境で、浴中にて加熱処理すると良い。60℃未満では合成繊維樹脂の非結晶領域が十分に開かず、上記トリアゾール系化合物が繊維内に浸透されない。一方で、120℃超えると樹脂が硬化してしまう。
【0045】
ただし、上記合成繊維がポリアクリル酸などのアクリル系繊維の場合は、アクリル系繊維のガラス転移点が60℃以上ではあるが、例外的に、ガラス転移点が60℃以下の繊維の処理方法と同様に行うことが出来る。
【0046】
また、上記糸を構成する繊維がポリエステル系繊維等のガラス転移点が60℃以上である合成繊維を含む繊維の場合は、上記トリアゾール系化合物を含有する処理液に上記糸を浸漬し、常圧又は加圧下の110℃以上160℃以下である環境で、浴中にて加熱処理すると良い。110℃未満では合成繊維樹脂の非結晶領域が十分に軟化せず、上記トリアゾール系化合物が繊維内に浸透されない。一方で、160℃超えると高圧になりすぎるため非常に危険である。
【0047】
この処理液により、上記トリアゾール系化合物を、上記糸を構成する繊維に浸透させる際に、上記処理液の重量は、上記繊維の4〜40倍であるのが望ましく、5〜20倍であるとより望ましく、6〜15倍であるとさらに望ましい。4倍未満であると、水分が少ないために加工ムラが多くなってしまい、品質が安定しないおそれがある。一方で、40倍を超えても、繊維に含浸、付着される薬剤量に限界があり、多くの薬剤が利用されずに廃棄されることになり、無駄になってしまう。
【0048】
この第三の製造方法で用いる上記処理液中の上記トリアゾール系化合物の濃度は、上記処理液と繊維重量との関係によって異なるため、吸尽されるトリアゾール系化合物の総量が上記繊維の重量に対して0.01〜2重量%になる濃度であると望ましく、0.05〜1重量%になる濃度であるとより望ましい。0.01重量%未満であると十分に効力が発揮されず、2重量%を超えると効力の割に多量の上記トリアゾール系化合物を消費することになり、好ましくない。
【0049】
また、上記第一の製造方法と同様に、一旦作成した処理液をそのまま付着させる方法と、濃厚な原液を予め作製しておき使用直前に水で希釈して用いる方法とがあり、後者がより好ましい。
【0050】
上記加熱処理時間は、10分以上120分以下であると望ましく、20分以上90分以下であるとより望ましい。10分未満であると上記トリアゾール系化合物が十分に上記繊維製品に浸透されず、抗菌抗カビ抗ウイルス性が不十分となってしまうおそれがある。一方で、時間が長すぎると、上記トリアゾール系化合物の浸透はほとんど終わってしまっているので、余計な時間がかかるだけとなってしまい、生産効率が下がることとなる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げてこの発明をより具体的に説明する。それぞれの繊維製品を製造後、所定の洗濯を行った後、抗菌抗カビ抗ウイルス試験を行って性能を評価した。まずその洗濯方法と試験方法、そして各例で使用した試験布及び懸濁剤等の薬剤について説明する。
【0052】
<1.洗濯法>
JIS L0217−103(40℃の家庭洗濯)に準じ実施した。なお、洗濯試験前の検体を「L0」とし、洗濯10回実施後の検体を「L10」とした。
【0053】
<2.効力試験>
1)抗細菌性試験
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureusNBRC12732)及び肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniaeNBRC13277)について、JIS L1902により、標準布及び加工布の生菌数を測定した。
【0054】
抗菌評価の判定は、各試験布の回収菌数が接種菌数未満の場合を有効「○」、以上の場合を無効「×」とした。なお、表中、黄色ブドウ球菌はS、及び肺炎桿菌はKとそれぞれ略記した。
【0055】
2)抗かび性試験
クロコウジカビ(Aspergillus niger NBRC 6341)及び白癬菌(Trichophyton mentagrophytes NBRC 32409)について(社)繊維評価技術協議会策定の「抗かび性試験方法(繊技協法)」により標準布及び加工布についてATP量の変化を比較した。なお、表中、クロコウジカビは「Asp」、及び白癬菌は「T.m」とそれぞれ略記した。
【0056】
抗かび効果は、「抗かび性試験方法(繊技協法)」の評価結果より、活性値「2」以上のものを有効「○」、活性値「2」未満のものを無効「×」とした。
【0057】
3)防かび性試験
JIS Z2911の繊維製品のカビ抵抗性試験法に従って以下の判定に従って評価した。なお対象菌種は繊維用の4菌種(Aspergillus niger、Penicillium citrinum、Chaetomium globosum、Myrothecium verrucaria)とした。
・試料又は試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない。・・・0
・試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を超えない。・・・1
・試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を超える。・・・2
【0058】
4)抗ウイルス試験
財団法人日本食品分析センターにて実施した。加工布にインフルエンザウイルスA型を用いたウイルス浮遊液を接種し、室温で24時間保管した後、ウイルス浮遊液を組織維持培地で洗い出し、洗い出し液及びその希釈液をMDCK(NBL−2)細胞に接種し培養後、顕微鏡を用いて細胞形態変化の有無を観察して、Reed−Muench法により50%組織培養感染量を測定し、ウイルス感染価を評価した。
【0059】
<試験布>
・ナイロン繊維……色染社(株)染色試験布:表1,2中「ナイロン」と略記する。
・アクリル繊維……色染社(株)染色試験布:表1,2中「アクリル」と略記する。
・ポリエステル繊維……色染社(株)染色試験布:表1,2中「PET」と略記する。
<分散液>
・スルホン酸塩系界面活性剤……日本乳化剤(株)製
【0060】
<テブコナゾール懸濁剤>
テブコナゾール10重量部、界面活性剤2重量部及び水88重量部を、ボールミルを用いて粉砕し、「テブコナゾール10%懸濁剤」を得た。なお、表中では「TC」と略記した。
【0061】
<シプロコナゾール懸濁剤>
シプロコナゾール10重量部、界面活性剤2重量部及び水88重量部を、ボールミルを用いて粉砕し、「シプロコナゾール10%懸濁剤」を得た。なお、表中では「SC」と略記した。
【0062】
<浸漬後浴中で加熱処理する第一の製造方法>
(実施例1)
ナイロン繊維20gを、上記テブコナゾール懸濁剤を0.025重量%に希釈した処理液80mlに浸漬し、120℃で120分撹拌しながら熱処理を行った。出来上がったナイロン繊維生地を洗濯10回行い、加工布1を得た。この加工布についての評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例2a〜d)
ナイロン繊維(実施例2a,2b)又はアクリル繊維(実施例2c,2d)20gを上記テブコナゾール懸濁剤(2b,2d)及びシプロコナゾール懸濁剤(2a、2c)を0.2重量%に希釈した処理液200mlに浸漬し、60℃で10分撹拌しながら熱処理を行い、加工布2,3,4,5を得た。この加工布についての評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
ポリエステル繊維20gを、上記テブコナゾール懸濁剤を0.025重量%に希釈した処理液80mlに浸漬し、135℃で10分撹拌しながら熱処理を行い、加工布6を得た。この加工布についての評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
ポリエステル繊維20gを、上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液200mlに浸漬し、110℃で120分撹拌しながら熱処理を行い、加工布7を得た。この加工布についての評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
ナイロン繊維20gを、上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液200mlに浸漬し、50℃で10分撹拌しながら熱処理を行い、加工布8を得た。この加工布についての評価結果を表1に示す。この製造方法において、50℃ではナイロン繊維の非結晶領域が十分に開く温度には足らず、洗濯耐久性が不十分になってしまった。
【0068】
(比較例2)
ポリエステル繊維20gを、上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液200mlに浸漬し、100℃で10分撹拌しながら熱処理を行い、加工布9を得た。この加工布についての評価結果を表1に示す。この製造方法において、100℃ではポリエステル繊維の非結晶領域が十分に開く温度には足らず、洗濯耐久性が不十分になってしまった。
【0069】
<浸漬後に絞り、気中で熱浸透処理する第二の製造方法>
(実施例5a〜b)
上記テブコナゾール懸濁剤を0.1重量%に希釈した処理液に上記ナイロン繊維(実施例5a)又は上記アクリル繊維(実施例5b)を浸漬し、ローラーで繊維重量あたりの処理液重量が100%になるように絞った後、130℃で10秒の熱処理を行い、加工布10,11を得た。この加工布についての評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例6a〜b)
上記テブコナゾール懸濁剤(実施例6a)又はシプロコナゾール懸濁剤(実施例6b)を2重量%に希釈した処理液に上記ナイロン繊維を浸漬し、ローラーで繊維重量あたりの処理液重量が100%になるように絞った後、70℃で180秒の熱処理を行い、加工布12,13を得た。この加工布についての評価結果を表2に示す。
【0072】
(実施例7)
上記テブコナゾール懸濁剤を2重量%に希釈した処理液に上記ポリエステル繊維を浸漬し、ローラーで繊維重量あたりの処理液重量が100%になるように絞った後、150℃で180秒の熱処理を行い、加工布14を得た。この加工布についての評価結果を表2に示す。
【0073】
(比較例3)
上記テブコナゾール懸濁剤を2重量%に希釈した処理液に上記ナイロン繊維を浸漬し、ローラーで繊維重量あたりの処理液重量が100%になるように絞った後、60℃で10秒の熱処理を行い、加工布15を得た。この加工布についての評価結果を表2に示す。この製造方法において、60℃ではナイロン繊維の非結晶領域が十分に開く温度には足らず、洗濯耐久性が不十分になってしまった。
【0074】
(比較例4)
上記テブコナゾール懸濁剤を2重量%に希釈した処理液に上記ポリエステル繊維を浸漬し、ローラーで繊維重量あたりの処理液重量が100%になるように絞った後、140℃で10秒の熱処理を行い、加工布16を得た。この加工布についての評価結果を表2に示す。この製造方法において、140℃ではポリエステル繊維の非結晶領域が十分に開く温度には足らず、洗濯耐久性が不十分になってしまった。
【0075】
<糸の状態でチーズ染色機により加工した第三の製造方法>
(実施例8a〜b)
ナイロン繊維糸(実施例8a)又はアクリル繊維糸(実施例8b)それぞれ0.9kgを縺れない様にボビンに巻きつけ、チーズ染色機((株)日阪製作所製:HUHt250/350)を用いて上記テブコナゾール懸濁剤を0.01重量%に希釈した処理液9Lで100℃の条件下で120分間の循環浸透を繰り返し行い、加工糸17,18を得た。この加工糸についての評価結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
(実施例9a〜b)
ナイロン繊維糸0.9kgを縺れない様にボビンに巻きつけ、チーズ染色機を用いて上記テブコナゾール懸濁剤(実施例9a)又は上記シプロコナゾール懸濁剤(実施例9b)を0.2重量%に希釈した処理液9Lで60℃の条件下で120分間の循環浸透を繰り返し行い、加工糸19,20を得た。この加工糸についての評価結果を表3に示す。
【0078】
(実施例10)
ナイロン繊維糸0.9kgを縺れない様にボビンに巻きつけ、チーズ染色機を用いて上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液9Lで100℃の条件下で10分間の循環浸透を繰り返し行い、加工糸21を得た。この加工糸についての評価結果を表3に示す。
【0079】
(実施例11)
ポリエステル繊維糸0.9kgを縺れない様にボビンに巻きつけ、チーズ染色機を用いて上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液9Lで110℃の条件下で120分間の循環浸透を繰り返し行い、加工糸22を得た。この加工糸についての評価結果を表3に示す。
【0080】
(比較例5)
ナイロン繊維糸0.9kgを縺れない様にボビンに巻きつけ、チーズ染色機を用いて上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液9Lで50℃の条件下で10分間の循環浸透を繰り返し行い、加工糸23を得た。この加工糸についての評価結果を表3に示す。この製造方法において、50℃ではナイロン繊維糸の非結晶領域が十分に開く温度には足らず、洗濯耐久性が不十分になってしまうだけでなく、洗濯前の抗カビ性も不十分となってしまった。
【0081】
(比較例6)
ポリエステル繊維糸0.9kgを縺れない様にボビンに巻きつけ、チーズ染色機を用いて上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液9Lで100℃の条件下で10分間の循環浸透を繰り返し行い、加工糸24を得た。この加工糸についての評価結果を表3に示す。この製造方法において、100℃ではポリエステル繊維糸の非結晶領域が十分に開く温度には足らず、洗濯耐久性が不十分になってしまうだけでなく、洗濯前の抗カビ性も不十分となってしまった。
【0082】
<抗ウイルス性について第二の試験方法での検討>
(実施例12)
上記テブコナゾール懸濁剤を0.2重量%に希釈した処理液に上記ナイロン繊維を浸漬し、ローラーで繊維重量あたりの処理液重量が100%になるように絞った後、130℃で120秒の熱処理を行い、加工布25を得た。この加工布についての抗ウイルス性の評価結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
(比較例7)
実施例12で使用した上記ナイロン繊維について、処理液への浸漬、絞り、熱処理のいずれも行わないものを対照となる布26として用いた。この布について実施例12と同様の抗ウイルス性の評価を行った結果を表4に示す。実施例12と比較するとウイルス感染値は二桁増加しており、実施例12では抗ウイルス性が十分に発揮されていることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも合成繊維を含む繊維製品を加熱することにより、上記繊維製品を構成する繊維の合成樹脂の非結晶領域を軟化させて繊維にトリアゾール系化合物を付着又は浸透させた後、冷却し硬化させた繊維の上記非結晶領域に上記トリアゾール系化合物を固定させた繊維製品。
【請求項2】
上記トリアゾール系化合物が、テブコナゾール、アザコナゾール、シプロコナゾール、テトラコナゾール、プロピコナゾール、イプコナゾール、イミベンコナゾール、ジフェノコナゾール、シメコナゾール、フェンブコナゾール、ヘキサコナゾール、及びメトコナゾールから選ばれる単数又は複数の化合物からなる請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
上記繊維製品を構成する繊維が、ナイロン系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、及びポリプロピレン系繊維から選ばれる1種以上の合成繊維、又はそれらと天然繊維との混合繊維である請求項1又は2に記載の繊維製品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項にかかる抗菌抗カビ抗ウイルス性性繊維製品を製造する方法であって、上記トリアゾール系化合物を、分散剤と水との存在下で攪拌又は粉砕することにより、微粒子の状態で分散させた水性懸濁液と、上記トリアゾール系化合物を、溶剤を用いて溶解したものを分散剤により水中に乳化又は可溶化した溶剤溶解液とのいずれかからなる処理液を、上記繊維製品に付着、又は含浸させ、上記繊維製品に含まれる合成繊維を構成する樹脂の非結晶領域が軟化する温度以上に加熱して、上記合成繊維の繊維内に上記トリアゾール系化合物を付着又は浸透させ、加熱終了後に上記樹脂の非結晶領域が硬化することで、繊維内に上記トリアゾール系化合物を固定させる繊維製品の製造方法。
【請求項5】
上記処理液又はその希釈液に上記繊維製品を浸漬し、常圧又は加圧下の60℃以上150℃以下である環境で、浴中にて上記処理液若しくはその希釈液、及び/又は上記繊維製品を流動させながら加熱処理することで、上記非結晶領域が軟化することで生じる隙間から上記繊維内へ上記処理液を到達させて、上記トリアゾール系化合物を上記繊維内に固定させることを特徴とする請求項4に記載の繊維製品の製造方法。
【請求項6】
上記処理液又はその希釈液を上記繊維製品に含浸又は付着させた後、気中で加熱し70℃以上230℃以下の温度環境下で熱浸透処理することを特徴とする請求項4に記載の繊維製品の製造方法。
【請求項7】
上記繊維製品を構成する繊維が、ガラス転移点が60℃未満である合成繊維及びアクリル系繊維から選ばれる1種以上の合成繊維、又はそれらと天然繊維との混合繊維であり、上記の気中加熱する温度が70℃以上150℃以下である請求項6に記載の繊維製品の製造方法。
【請求項8】
上記繊維製品を構成する繊維が、アクリル系繊維を除くガラス転移点が60℃以上である合成繊維から選ばれる1種以上の合成繊維、又はそれらと天然繊維との混合繊維であり、上記の気中加熱する温度が160℃以上230℃以下である請求項6に記載の繊維製品の製造方法。
【請求項9】
上記繊維製品が糸であり、その糸に対して常温又は加圧下の上記処理液又はその希釈液を60℃以上160℃以下の環境で循環して浸透させることにより上記トリアゾール系化合物をこの糸に濃縮させることを特徴とする請求項4に記載の繊維製品の製造方法。

【公開番号】特開2011−94283(P2011−94283A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175349(P2010−175349)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000205432)大阪化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】