説明

抗菌材料

本明細書は、基材上の被覆層の製造に適した方法および材料を提供する。この被覆は、第四級アミン基を有するため、基材に抗菌特性を与える。一実施形態において、例えば、プロピレンおよびエチレンの反復単位を含む第四級アミン含有ポリマー被覆を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年7月27日に出願された米国特許仮出願番号第61/228,839に基づいて、35U.S.C.§119による優先権を主張し、その内容を参照してその全体をここに取り込むものとする。
【0002】
本発明は、物の表面に抗菌特性を与えるのに適した材料および方法に関する。本発明は、例えば、化学および表面被覆の分野において有用である。
【背景技術】
【0003】
細菌感染は、多様な環境において通常起こり、毎年多くの医学的介入を必要とする。この100年にわたり、様々な有効性レベルでの多数の抗菌剤が開発されている。残念ながら、主として抗生物質の乱用により、耐抗生物質の細菌株が最近よく見られるようになった。抗生物質の細菌感染に対する効果は落ちているため、感染の回避はますます重要となり、また、ますます好ましい方法となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、細菌は、個人が日常的に遭遇するほとんどの表面に存在する。例えば、ドアノブ、コンピュータキーボード、タッチスクリーン、手すりなどの製造に使用される物質は一般的に抗菌特性を有しておらず、集団内での細菌のまん延は、一般的に個人が行う予防措置のみによって抑制される。例えば、適切な衛生状態(例えば、こまめな手洗い)は、非常に効果的な方法であり個人の細菌感染を回避することができるが、個人による積極的な参加が必要であるため、必ずしも当てになる方法ではない。多くの人に触れられる公衆表面および公共物体の頻繁な洗浄および消毒は、常に可能とは限らず、細菌のまん延を最小限に抑えるための労働集約的方法にとどまる。個人が全ての日常的な予防策をとり細菌のまん延および増殖を回避する、ほぼ理想的な条件下でさえ、特定の環境は細菌が増加しやすいままである。例としては、日常的に水性環境に長時間曝露されている表面が含まれる。かような表面は、定期的に完璧な洗浄が要求されうるが、かような洗浄が不適正、不十分、または全くない場合、細菌の増殖の原因となりうる。
【0005】
汚染から細菌増殖までの、細菌のまん延および細菌感染を防ぐ1つのやり方として、表面に抗菌活性を備えた物を供給する方法があり、例えばかような特性を与える表面被覆を備えた物などである。理想的には、かような方法は、様々な物体表面に容易に適応でき、一般に入手可能で安価な材料を使用し、生物に対しての毒性はごくわずかまたは全くなく抗菌活性を長期間提供し、および/または薬物耐性菌の出現を増加させる原因とならないものである。
【0006】
本発明は、既述の理想的な特性を1つ以上満たす抗菌物表面を提供するための方法および材料の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一形態において、抗菌表面被覆を基材上に形成する方法を提供する。この方法は、1)複数の官能基を有するプレアミン材料を供給する工程と、2)複数の官能基を、該官能基の少なくとも一部をアミン基へ変換するのに適したアミン含有試薬と反応させる工程と、3)2)のアミン基を、該アミン基の少なくとも一部を第四級アミン基へ変換するのに適した第四級アミン変換試薬と反応させる工程と、を有する。
【0008】
別の形態において、基材と、この基材の表面上に配置させた被覆と、を有する抗菌被覆基材を提供する。この被覆は基材に非共有結合したポリマーを有する。このポリマーは複数の第四級アミン基を有する。
【0009】
別の形態において、ポリマー材料を有する基材表面上の被覆層を提供し、被覆層はポリマー材料に共有結合した第四級アミン基を有する。ポリマー材料は基材表面に非共有結合している。
【0010】
本発明の他の形態は、請求項および実施例を含む以下の記載から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本明細書で提供する実施例に記載する、抗菌スクリーニング検査で得られた黄色ブドウ球菌の細菌培養物の画像である。
【図2】図2は、本明細書で提供する実施例に記載する、抗菌スクリーニング検査で得られた緑膿菌の細菌培養物の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を詳細に説明する前に、他に指定のない限り、本発明は、本明細書中に記載の任意の特定合成材料または特定合成方法に制限するものではなく、それらは変更されてもよいことを理解されたい。例えば、ポリプロピレン基材が特定されているところでは、特に指定しない限り、本発明はポリプロピレン基材に限定することを意図しない。本明細書にて使用する用語は、特定の実施形態を記載する目的のためでしかなく、これに限定する意図はないことを理解されたい。本明細書で規定する定義は相互排他的な意味はない。例えば、いくつかの化学基は2つ以上の定義に適合しうる。
【0013】
本明細書にて用いられる用語「アルキル」は、概して分岐鎖または非分岐鎖飽和炭化水素基のことを意味し、必ずしも1〜約24炭素原子を有するものではないが、例えば、メチル、エチル、n-プロプル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、オクチル、デシルなどと同様に、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基のことも意味している。概して、やはり必ずではないが、本明細書のアルキル基は1〜約18炭素原子を有してもよく、かような基は1〜約12炭素原子を有してもよい。用語「低級アルキル」は1〜6炭素原子のアルキル基を意図する。「置換アルキル」は、1つ以上の置換基で置換されたアルキルを意味し、用語「ヘテロ原子含有アルキル」および「ヘテロアルキル」は、以下にさらに詳細に記載するように、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアルキル置換基を意味する。「置換アルキル」は、例えば、カルボニル基などのような、1つの炭素から2つの水素原子が置換されたときを含む。特に指定しない限り、用語「アルキル」および「低級アルキル」はそれぞれ、直鎖、分岐鎖、環状、非置換、置換、および/またはヘテロ原子含有の、アルキルまたは低級アルキルを含む。
【0014】
本明細書にて用いる用語「アルケニル」は、直鎖、分岐鎖または環状の、2〜約24炭素原子の炭化水素基で、少なくとも1つの二重結合を含み、例えばエテニル、n-プロペニル、イソプロペニル、n-ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、エイコセニル、テトラコセニルなどを意味する。概して、必ずではないが、本明細書においてアルケニル基は2〜約18炭素原子を有してもよく、例えば、2〜12炭素原子を有してもよい。用語「低級アルケニル」は2〜6炭素原子のアルケニル基を意味する。用語「置換アルケニル」は1つ以上の置換基を有するアルケニルを意味し、用語「ヘテロ原子含有アルケニル」および「ヘテロアルケニル」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアルケニルを意味する。特に指定しない限り、用語「アルケニル」および「低級アルケニル」は、直鎖、分岐鎖、環状、非置換、置換、および/またはヘテロ原子含有のアルケニルおよび低級アルケニルをそれぞれ含む。
【0015】
本明細書にて使用する用語「アルキニル」は、直鎖または分岐鎖の、少なくとも1つの三重結合を有する2〜24炭素原子の炭化水素基で、例えばエチニル、n-プロピニルなどを意味する。概して、やはり必ずではないが、本明細書においてアルキニル基は、2〜約18炭素原子を含み、かような基はさらに2〜12炭素原子を有してもよい。用語「低級アルキニル」は、2〜6炭素原子のアルキニル基を意味する。用語「置換アルキニル」は、1つ以上の置換基で置換されたアルキニルを意味し、用語「ヘテロ原子含有アルキニル」および「ヘテロアルキニル」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアルキニルを意味する。特に指定しない限り、用語「アルキニル」および「低級アルキニル」はそれぞれ、直鎖、分岐鎖、非置換、置換、および/またはヘテロ原子含有のアルキニルおよび低級アルキニルを含む。
【0016】
特に指定しない限り、用語「不飽和アルキル」は、アルケニルおよびアルキニルならびにこれらの組合せを含む。
【0017】
本明細書において使用する用語「アルコキシ」は、末端に1つエーテル結合を介して結合するアルキル基を意味し、「アルコキシ」基は−O−アルキルとして表すことができ、このアルキルは既に定義した通りである。「低級アルコキシ」基は1〜6炭素原子を有するアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、t-ブチロキシなどを含む。本明細書にて「C〜Cアルコキシ」または「低級アルコキシ」として特定する置換基は、例えば、1〜3炭素原子を含んでもよく、さらなる例として、かような置換基は1または2炭素原子(すなわちメトキシおよびエトキシ)を含んでもよい。
【0018】
本明細書において使用する用語「アリル」は、特に指定しない限り、概して芳香族置換基を意味し、必ずではないが、5〜30炭素原子を有し、一つの芳香環または融合した、直接結合した、または間接結合した(例えば、異なる芳香環はメチレンまたはエチレン部分などの1つの同じ基に結合する)、複数の芳香環(例えば1〜3環)を含む。アリル基は、例えば、5〜20炭素原子を含んでもよく、さらなる例として、アリル基は5〜12炭素原子を含んでもよい。例えば、アリル基は1つの芳香環、または2つの融合したもしくは結合した芳香環、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、ベンゾフェノンなどを有してもよい。「置換アリル」は、1つ以上の置換基で置換されたアリル部分を意味し、用語「ヘテロ原子含有アリル」および「ヘテロアリル」は、アリル置換基であって少なくとも1つの炭素原子が、以下にさらに詳しく説明する通りの、ヘテロ原子で置換されたものを意味する。特に指定しない限り、用語「アリル」は非置換、置換、および/またはヘテロ原子含有のアリルを含む。
【0019】
用語「アラルキル」はアリル置換基を有するアルキル基を意味し、用語「アルカリル」は、アルキル置換基を有するアリル基を意味し、「アルキル」および「アリル」は既に定義した通りである。概して、本明細書においてアラルキル基およびアルカリル基は6〜30炭素原子を有する。アラルキル基およびアルカリル基は、例えば、6〜20炭素原子を有してもよく、さらなる例としては、かような基は6〜12炭素原子を有しでもよい。
【0020】
用語「オレフィン基」は、一不飽和または二不飽和の2〜12炭素原子の炭化水素基を意味する。この種類の好適なオレフィン基は、本明細書中で「低級オレフィン基」としてよび、末端に一つの二重結合を有する2〜6炭素原子の炭化水素部分を意味する。その末端部分は「低級アルケニル」ともよぶ。
【0021】
本明細書で使用される用語「アルキレン」は、2つの官能基を有する飽和分岐鎖または非分岐鎖の1〜24炭素原子を有する炭化水素鎖を意味する。「低級アルキレン」は、1〜6炭素原子を有するアルキレン結合を意味し、例えばメチレン(--CH--)、エチレン(--CHCH--)、プロピレン(--CHCHCH--)、2-メチルプロピレン(--CH-CH(CH)--CH--)、ヘキシレン(--(CH--)などを含む。
【0022】
本明細書にて使用する用語「アミノ」は、基-NZを意味し、ここでZおよびZは水素または非水素置換基であり、この非水素置換基は、例えばアルキル、アリル、アルケニル、アラルキル、ならびに置換および/またはヘテロ原子含有のこれらの変異型を含む。
【0023】
「ヘテロ原子含有アルキル基」(「ヘテロアルキル」基ともよぶ)または「ヘテロ原子含有アリル基」(「ヘテロアリル」基ともよぶ)の用語「ヘテロ原子含有」は、1つ以上の炭素原子が、例えば窒素、酸素、イオウ、リンまたはシリコン、典型的には窒素、酸素またはイオウなどの炭素以外の原子と置換している、分子、結合または置換基を意味する。同様に、用語「ヘテロアルキル」は、ヘテロ原子含有のアルキル置換基を意味し、用語「複素環」はヘテロ原子含有の環状置換基を意味し、用語「ヘテロアリル」および用語「芳香族複素環」はそれぞれ、ヘテロ原子含有の、「アリル」置換基および「環状」置換基などを意味する。ヘテロアルキル基の例は、アルコキシアリル、アルキルスルファニル置換アルキル、N-アルキル化アミノアルキルなどを含む。ヘテロアリル置換基の例は、ピロリル、ピロリジニル、ピリジニル、キノリニル、インドリル、フリル、ピリミジニル、イミダゾリル、1,2,4トリアゾリル、テトラゾリルなどを含み、ヘテロ原子含有脂環基の例は、ピロリジノ、モルフォリノ、ピペラジノ、ピペリジノ、テトラヒドロフラニルなどである。
【0024】
「ヒドロカルビル」は、1〜約30炭素原子を有し、1〜約24炭素原子を含み、さらに1〜約18炭素原子を含み、さらに約1〜12炭素原子を含み、直鎖、分岐鎖、環状、飽和および不飽和種の、たとえばアルカリ基、アルケニル基、アリル基などを含む、一価ヒドロカルビル基を意味する。「置換ヒドロカルビル基」は、1つ以上の置換基で置換されたヒドロカルビルを意味し、用語「ヘテロ原子含有ヒドロカルビル」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子で置換されたヒドロカルビルを意味する。特に指定しない限り、用語「ヒドロカルビル」は、非置換、置換、ヘテロ原子含有、および置換へテロ原子含有のヒドロカルビル部分を含むと理解されたい。
【0025】
「ハロ」または「ハロゲン」はフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを意味し、通常、有機化合物中の水素原子のハロ置換を意味する。概してハロ、クロロ、およびフルオロが好ましい。
【0026】
「置換ヒドロカルビル」、「置換アルキル」、「置換アリル」などの「置換」は、既述の定義のいくつかにて暗に示されたように、ヒドロカルビル、アルキル、アリルまたは他の部分のうち、炭素(または他の)原子に結合した少なくとも1つの水素原子が、1つ以上の非水素置換基で置換されたことを意味する。かような置換基の制限しない例として、ハロ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、C〜C24アルコキシ、C〜C24アルケニルオキシ、C〜C24アルキニルオキシ、C〜C20アリルオキシ、アシル(C〜C24アルキルカルボニル(−CO−アルキル)およびC〜C20アリルカルボニル(−CO−アリル))、アシルオキシ(−O−アシル)、C〜C24アルコキシカルボニル(−(CO)−O−アルキル)、C〜C20アリルオキシカルボニル(−(CO)−O−アリル)、ハロカルボニル(−CO)−X(ここでXはハロ)、C〜C24アルキルカルボナート(−O−(CO)−O−アルキル)、C〜C20アリルカルボナート(−O−(CO)−O−アリル)、カルボキシ(−COOH)、カルボキシラート(−COO)、カルバモイル(−(CO)−NH)、一置換C〜C24アルキルカルバモイル(−(CO)−NH(C〜C24アルキル))、二置換アルキルカルバモイル(−(CO)−N(C〜C24アルキル))、一置換アリルカルバモイル(−(CO)−NH−アリル)、チオカルバモイル(−(CS)−NH)、カルバミド(−NH−(CO)−NH)、シアノ(−C≡N)、イソシアノ(-N≡C)、シアナート(−O−C≡N)、イソシアナート(−O−N≡C)、イソチオシアナート(−S−C≡N)、アジド(−N=N=N)、ホルミル(−(CO)−H)、チオホルミル(−(CS)−H)、アミノ(−NH)、一および二−(C〜C24アルキル)−置換アミノ、一および二−(C〜C20アリル)−置換アミノ、C〜C24アルキルアミド(−NH−(CO)−アルキル)、C〜C20アリルアミド(−NH−(CO)−アリル)、イミノ(−CR=NH(ここでR=水素、C〜C24アルキル、C〜C20アリル、C20アルカリル、C〜C20アラルキルなど))、アルキルイミノ(−CR=N(アルキル)(ここでR=水素、アルキル、アリル、アルカリルなど))、アリイミノ(−CR=N(アリル)(ここでR=水素、アルキル、アリル、アルカリルなど))、ニトロ(−NO)、ニトロソ(−NO)、スルホ(−SO−OH)、スルホナート(−SO−O)、C〜C24アルキルスルファニル(−S−アルキル、「アルキルチオ」とも言う)、アリルスルファニル(−S−アリル、「アリルチオ」とも言う)、C〜C24アルキルスルフィニル(−(SO)−アルキル)、C〜C20アリルスルフィニル(−(SO)−アリル)、C〜C24アルキルスルフォニル(−SO−アルキル)、C〜C20アリルスルホニル(−SO−アリル)、ホスホノ(−P(O)(OH))、ホスホナート(−P(O)(O)、ホスフィナート(−P(O)(O))、ホスホ(−PO)、およびホスフィノ(−PH)、一および二−(C〜C24アルキル)−置換ホスフィノ、一および二−(C〜C20アリル)−置換ホスフィノ、および炭化水素部分C〜C24アルキル(C〜C18アルキルを含み、さらにC〜C12アルキルを含み、およびさらにC〜Cアルキルを含む)、C〜C24アルケニル(C〜C18アルケニル、さらにC〜C12アルケニル、およびさらにC〜Cアルケニルを含む)、C〜C24アルキニル(C〜C18アルキニルを含み、さらにC〜C12アルキニルを含み、およびさらにC〜Cアルキニルを含む)、C〜C30アリル(C〜C20アリルを含み、さらにC〜C12アリルを含む)、およびC〜C30アラルキル(C〜C20アラルキル、およびさらにC〜C12アラルキルを含む)などの官能基を含む。さらに、上記の官能基は、特定の基が可能な場合、例えば上に具体的に列挙したような、1つ以上のさらなる官能基または1つ以上の炭化水素部分と置換してもよい。同様に、上記の炭化水素部分は、具体的に列挙したような、1つ以上の官能基またはさらなる炭化水素部分とさらに置換してもよい。
【0027】
用語「置換」が、可能な置換基の羅列の前にある場合、その用語はその基の全ての要素にあてはめられることを意味する。例えば、その言葉「置換アルキルおよびアリル」は「置換アルキルおよび置換アリル」と解釈されたい。
【0028】
特に指定しない限り、原子を引き合いにだす場合、その原子の同位体を含んで意味する。例えば、Hを引き合いにだす場合、H、H(すなわちD)、H(すなわちT)を含んで意味し、Cを引き合いにだす場合、12Cおよび全ての炭素の同位体(例えば13C)を含んで意味する。
【0029】
本発明は少なくとも1つの表面を第四級アミン基含有材料で被覆した基材を提供する。表面被覆中に存在する第四級アミンは、その基材に抗菌特性を与える。表面被覆は基材表面に共有結合していないが、水性環境に曝露したとき、浸出、溶解、および/または解重合がごくわずかまたは全くないことを示す、安定な被覆を形成する。従って、この被覆は、コンタクトレンズ保存ケース上での被覆などの、生物学的応用における使用にて一般に安全である。この被覆は乾燥した環境でも安定であり、細菌増殖を防ぐために、本明細書にて記載する様々な応用に用いることができる。いくつかの実施形態において、この表面被覆は等角であるため、基材表面全体を被覆する(すなわち、細菌増殖を支持しうる露出基材の隙間がない)。いくつかの実施形態において、この被覆は基材表面を均一に被覆する(すなわち、被覆厚みは、被覆した表面領域の上での平均から、25%未満まで、または15%未満まで、または10%未満まで異なってもよい)。概して、この被覆は基材表面にファンデルワールス力、イオン結合および水素結合の1つ以上によって結合する。
【0030】
(方法)
本発明の被覆を作製する方法は、被覆すべき表面の種類およびトポグラフィー、被覆に用いる特定の材料、被覆対象物の使用目的などの因子によって様々であろう。ここで記載する(以下の例も含まれる)方法に加えて、当業者は関連する文献を参照できる。
【0031】
一実施形態において、本発明の被覆は次の方法に従って作製し、その方法は本明細書において「第1方法」とよぶ。基材(すなわち被覆すべき物)を供給し、この基材の被覆する表面を選択する。選択された表面は材料の第1層で被覆される。この第1被覆は本明細書でプレアミン層とよび、この材料は本明細書でプレアミン材料とよぶ。このプレアミン材料は官能基を含み、プレアミン層はその後にアミン層へ変換される(例えば、アミン含有材料を有する官能基の反応によるか、または、アミン基への官能基の変換による)。アミン層を形成するこの材料は、本明細書でアミン含有材料とよぶ。その後にこのアミン層中のアミン基を第四級アミンに変換することにより、第四級アミン基で被覆した基材を提供する。
【0032】
別の実施形態において、本発明の被覆は次の方法に従って作製し、その方法は本明細書において「第1変更方法」とよぶ。基材を供給し、この基材の被覆する表面を選択する。別に、アミン含有材料を作製する。選択した基材表面をこのアミン含有材料で被覆する。その後にこのアミン含有材料のアミン基を第四級アミン基に変換することにより、第四級アミン基で被覆した基材を提供する。
【0033】
別の実施形態において、本発明の被覆は次の方法により作製し、その方法は本明細書において「第2変更方法」とよぶ。基材を供給し、この基材の被覆する表面を選択する。別に、アミン含有材料を供給する。このアミン含有材料上のアミン基を第四級アミン基に変換して、第四級アミン含有材料を(溶液中でまたは固体として)供給する。この第四級アミン材料が選択した基材表面上を被覆することにより、第四級アミン基で被覆された基材を提供する。
【0034】
前述の多様な方法は本発明の範囲内であり、これらの方法には、必要または要求に応じて特定されていない付加的な工程をさらに含んでもよい。例えば、基材表面に強く接着しないアミン含有材料を除去する洗浄工程は、第四級アミン基に変換する前が望ましい。上記の各々の方法で、結果物は被覆を有する基材であり、この被覆は第四級アミン基を有する。この第四級アミン基は被覆中に共有結合して組み入れられている。また、上述の方法の各々で、基材表面に供給される最初の材料(すなわち、第1方法中のプレアミン材料、第1変更方法中のアミン含有材料、および第2変更方法中の第四級アミン含有材料)はその表面に非共有結合する。各結合は水素結合、ファンデルワールス力、イオン結合またはこれらの任意の組合せを用いてよい。また、前述の方法の各々で、最終被覆材料は実質的に不水溶性である。
【0035】
(材料)
本発明は基材上に配置する被覆を提供する。この基材は本発明の被覆を支持し、また、ここで記載する応用(例えば保存、構造支柱など)を行うための構造機能を備える。基材は様々な形状および特性を有してもよく、以下により詳細に記載するように様々な材料から製造することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、基材は生物学的機能を果たすように設計し、例えば構造支柱として機能し、もしくは生物有機体の構成要素の代替として機能し、または医療処置の補助として機能する。いくつかの実施形態において、この基材は、例えば生体試料の保存、生物学的機能を有する物の保存、医療処置に使用する道具およびその他の器具などの保存など、保存の提供のために設計する。本発明に適する基材の例は、ステント、カテーテルなどを含む。
【0037】
基材および被覆すべき基材表面の、形状およびトポグラフィーは、使用目的に従って選択する。例えば、保存容器は、本発明の被覆で被覆する目的の蓋を有してもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、基材はポリマー材料を有する。例えば、基材のいくつかの好適なポリマー材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブチレンなどのポリアルキレン、例えばポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)、およびポリ(イソブチレン)などのビニルポリマー、例えばポリ(エチレンテレフタラート)などのポリエステル、例えばポリウレタンなどの他の付加重合体、ならびに上記のコポリマー(例えばアルキレンおよび/またはビニル反復単位を有するコポリマー)が含まれる。シロキサン(すなわちシリコーン)ポリマーもまた好適な基材材料であり、ポリジメチルシロキサンポリマーなどを含む。天然ラテックスゴムポリマーも、好適な基材材料である。任意の前述のポリマーおよびコポリマーの誘導体も、本発明の範囲内である。
【0039】
他の実施形態において、基材は金属または合金を含む。例えば、通常手術器具に用いられるステンレススチールは、本発明の被覆に好適な基材である。例えば手術による移植、保存容器、船体などに通常用いられる他の金属も基材として好適である。特定の金属の例は、スチール(例えば、カーボンスチール、ステンレススチールなどの合金スチール)、および、ニッケル、チタン、銅、スズ、クロム、モリブデンなどを含む合金が含まれる。
【0040】
一実施形態(第1方法として前述)において、基材はプレアミン材料でまず被覆する。このプレアミン材料はアミン基に変換することのできる官能基を含む材料である。このプレアミン材料は(必須ではないが典型的には)ポリマー材料である。例えば、プレアミン材料は、塩化ポリアルキレン(例えば塩化ポリプロピレン、塩化ポリブチレンなど)などの塩化ポリマー、または塩化ビニルポリマー(例えば塩化ポリスチレン、塩化ポリ(アルファメチルスチレン)、塩化ポリ(イソブチレン)など)でもよい。塩化基以外の官能基も本発明の範囲内である。例は、ブロモ基またはヨード基、ヒドロキシル基などが含まれる。プレアミン材料は、1,000D〜1,000,000Dの分子量の範囲またはそれより大きい分子量で、好ましくはトルエンなどの有機溶媒中に溶解性のものである。プレアミン材料は任意の適切な堆積方法を用いて基材表面上に堆積し、その得られた層は本明細書において「プレアミン層」とよぶ。
【0041】
プレアミン層が堆積すれば、プレアミン材料上の官能基はアミン基に変換される。変換は、通常、官能基をアミン基に変換させる効果のある試薬で、官能基を反応させることにより行う。例えば、いくつかの実施形態において、官能基はハロゲン基であり、ハロゲン基からアミン基に変換するのに効果的な条件下にてアミン含有試薬で反応させる。アミン含有試薬は、いくつかの実施形態において、ポリマーの反復単位にアミン基を有するポリマー材料でもよい(ポリマー骨格の中か、ペンダント基として結合しているかのどちらか一方、またはこれらの混合)。例えば、アミン含有試薬は一級アミン、二級アミンおよび三級アミンの混合を含むポリマーでもよい。かような材料の好適なものは、分岐ポリ(エチレンイミン)(PEI)である。本発明の被覆に好適な別の材料は、直鎖PEIであり、これは二級アミンを含む。本明細書において、「PEI」を引き合いにだす場合は、概して、直鎖および分岐鎖の変化物を含んで意味する。PEIは、本明細書で記載する用途のために作製してもよく、または販売品を購入してもよい。PEIは一般的にエチレンイミンから作製し、エチレンアミン反復単位を有するように表すことができる。本発明の被覆に適したPEIは、直鎖または分岐鎖のPEIであろう。他の好適なアミン含有試薬には、ジヘキシルアミンなどの二級アミンが含まれる。他の適したアミン含有試薬には、例えばポリ(ビニルピリジン)などの三級アミンが含まれる。ポリマーおよびオリゴマーのアミン含有試薬は、概して、必要ではないが、約350D〜約1,000,000Dの範囲の分子量または約400D超えの分子量を有する。プレアミン層が変換(すなわちアミン基が形成)されれば、本明細書において、その被覆材料は「アミン含有被覆材料」(または「アミン含有材料」)とよび、その被覆は「アミン層」とよぶ。アミン含有被覆材料の組成は、いくつかの実施形態において、作製にて用いた材料の組合せ(すなわちプレアミン材料とアミン含有試薬)であることが好ましい。アミン含有被覆材料は、架橋重合材料、または非架橋重合材料であって約1500D〜約2,000,000Dの範囲の分子量またはそれより大きい分子量を有するものでもよい。
【0042】
アミン層が形成されると、アミン基は第四級アミン基に変換される。変換は、一般的に、例えばアルキルハロゲン化物などの求電子性アルキル化試薬を用いて行う。任意の好適なアルキルハロゲン化物を用いることができ、例えばRX、ここでXはハロ(Br、ClまたはI)およびRはアルキル(Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、t-Buなど)である。より大きいアルキルハロゲン化物および置換アルキルハロゲン化物も使用できる。電子吸引性アリルハロゲン化物などの他の求電子性試薬も使用することができる。アミン含有試薬が(ポリ(ビニルピリジン)などの)三級アミンである実施形態において、いくつかの実施形態において、アミン含有試薬とプレアミン材料との反応生成物は第四級アミン基を有する。いくつかの実施形態において、被覆を反応させて第四級アミン基をさらに形成することは必要ではない(ただし、必要に応じて、さらに変化させて第四級アミン基の収率を増加させて行ってもよい)。
【0043】
別の実施形態(上で第1変更方法とよんでいる実施形態)において、基材は第1方法で既述した通りである。アミン含有材料は、基材上に供給して直接被覆する。従って、いくつかの実施形態において、第1変更方法は、基材上に任意の被覆を形成する前に、官能基をアミン基に変換する工程を含む。例えば、アミン含有ポリマー材料は、溶液中で塩化ポリプロピレンをPEIと反応させることにより作製することができる。その後、任意の適した方法(例えば溶液のキャストなど)を用いて、得られたアミン含有材料で基材上を被覆する。こうしてアミン含有層を作製したら、アミン基は第1方法として上に記載した通りに第四級アミン基に変換する。第1方法として既述した材料は第1変更方法でも使用することができる。
【0044】
別の実施形態(上で第2変更方法とよんでいる実施形態)において、基材は第1方法で上に記載した通りである。アミン含有材料は第1変更方法として記載したように作製する(すなわち、溶液中で作製、さもなければ基材から分離する)。アミン含有材料は、第四級アミン含有材料に変換し、そして基材上を被覆する。第四級アミン含有材料を作製するのに適した材料は、第1方法にて既述したとおりである。第1方法として既述した材料は、第2変更方法で使用することもできる。
【0045】
本発明の被覆はさらに、支持層に共有結合した第四級アミン基を含むように表すことができる。支持層は、基材に非共有結合しており、例えばプレアミン材料とアミン含有試薬との反応生成物を含む。上記に記載するように、プレアミン材料とアミン含有試薬とは、基材上にプレアミン材料が堆積した後に反応させてもよく(すなわち第1方法)、または基材上に堆積する前に反応させてもよい(すなわち第1および第2変更方法)。従って、支持層は、基材表面上で段階的に形成することができる材料を含んでもよく(すなわち第1方法)、形成した後に基材表面上に堆積してもよく(すなわち、第1変更方法)、または、基材表面上に堆積する前に第四級アミンを含むように形成および変更してもよい(すなわち、第2変更方法)。
【0046】
支持材料はプレアミン材料から作製し、これは、必要ではないが、典型的に、ポリマー材料である。適した支持材料は、従って、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリブチレンなどのポリアルキレン、例えばポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリレート)およびポリ(メチルメタクリレート)などのビニルポリマー、例えばポリウレタン、ポリカルボネートおよびポリエステルなどの付加ポリマー、ならびにこれらのコポリマー(例えば、アルキレンまたはビニル反復単位を有するコポリマー、または、ポリ(エチレンテレフタレート)などの他のコポリマー)が含まれる。他の既述の材料も適している。かようなポリマーの組合せも適している。いくつかの実施形態において、支持材料は、例えば、エチレン、置換エチレン(例えばエチレンアミン、エチレンオキシドなど)、プロピレン、ブチレン、シクロペンタン、スチレン、ビニルピリジン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、ブタジエン、カルバメート、カーボネート、テレフタル酸、これらの誘導体、およびこれらの組合せから選択した反復単位を有するポリマー材料である。
【0047】
本発明の被覆は、支持材料に共有結合する第四級アミン基を有する。例えば、支持材料がポリマー材料である場合、第四級アミン基は、ベースポリマーの側鎖に結合でき(またはポリマーの側鎖自体を形成してもよい)、またはポリマー骨格中に直接組み込まれてもよい。従って、第四級アミン基の窒素原子に結合した基のうちの少なくとも1つが支持材料であり(すなわち、第四級アミン基がポリマー側鎖である、またはポリマー側鎖に結合している実施形態)、また、いくつかの実施形態において、第四級アミンの窒素原子に結合した2つの基が支持材料である(すなわち、第四級アミン基は支持材料のポリマー骨格に直接組み込まれる実施形態)。第四級アミン基の窒素原子に結合した、残りの2つまたは3つの基は、アルキル基(例えば、分岐鎖、置換および環状アルキル基を含む、メチル、エチル、プロピルなど)、アリル基(例えば、フェニル、置換フェニルなど)、アルカリル基、およびアラルキル基(例えば、ベンジルなど)から選択することができる。
【0048】
好適な実施形態において、本発明の被覆は不水溶性が高い。従って、本発明の被覆は水性環境へ「浸出」しない。すなわち、水性環境に曝露すれば、本発明の被覆中に存在する材料は実質的に溶解しない。例えば、いくつかの実施形態において、本発明の被覆の重量で、25%未満、または20%未満、または15%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満、または0.1%未満が、1時間、または10時間、または15時間、または24時間、または3日、または1週間、または1ヶ月、または1年以上の期間をかけて、水性環境(室温)へ浸出する。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、本明細書に記載の装置および基材の一般的な加工条件において安定である。例えば、被覆は熱滅菌、化学滅菌(例えばエチレンオキサイド)および/またはスチームを用いた滅菌に対して安定である。
【0050】
上記のより詳細な記載のように、支持材料は様々な方法で作製できる。好ましくは、支持材料の作製に選択する方法は、最終組成および/または作製工程中の任意の段階での被覆材料の組成によって決定する。支持材料は、いくつかの実施形態において、追加の、機能性または非機能性(すなわち不活性)成分、例えば、希釈液、着色料、抗酸化剤をさらに有してもよい。
【0051】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は基材の外表面をすべて覆う。いくつかの実施形態において、被覆は基材の外表面の一部のみ、例えば一表面、または表面の大部分を覆う。被覆は、任意の好適な厚みでよい。好適な厚みとは、その下の基材表面を完全に覆うように被覆でき、小さい穴またはむき出しのスポットが少数か全く残らないような一般的な厚みでよい。例えば、好適な厚みは、約10nm〜約0.1mmの範囲の厚み、または約100nm〜約0.1mmの範囲の厚み、または約1000nm〜約0.1mmの範囲の厚みが含まれる。例えば、好適な厚みは約0.1mm未満、または約10μm未満、または約1μm未満、または約100nm超え、または約1000nm超え、または約10μm超えでありうる。
【0052】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、基材と同じ材料から作製する。例えば、いくつかの実施形態において、基材はポリプロピレンであり、支持層もポリプロピレンを有する(本明細書で記載したように修飾した、第四級アミン基を含むポリプロピレン)。いくつかの実施形態において、プレアミン材料および基材は同じ種類の材料を有するが、アミン含有試薬は種々の材料を有する。例えば、基材およびプレアミン材料の両方は、ポリプロピレンを有し(プレアミン材料の場合、例えば塩素化ポリプロピレンなどの修飾ポリプロピレン)、アミン含有試薬はポリエチレンイミンである。いくつかの実施形態において、プレアミン材料およびアミン含有試薬は両方ともポリマーであるが、異なる反復単位を有する。他の実施形態において、プレアミン材料およびアミン含有試薬は共にポリマーであり、同じ反復単位を有する。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆中に存在する第四級アミンは式(I)の構造を有する。
【化1】

【0054】
ここで、R、R、RおよびRは、ヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、ヘテロ原子含有ヒドロカルビル、および置換へテロ原子含有ヒドロカルビルから、各々独立して選択する。いくつかの実施形態において、R、R、RおよびRは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アラルキル、およびアルカリルから独立して選択し、これらはすべて1つまたはそれ以上の(例えば2、3、4など)置換および1つまたはそれ以上(例えば2、3、4など)のヘテロ原子を有してもよい。いくつかの実施形態において、R、R、RおよびRのうちの1つは、より大きいポリマーの骨格に接続する側鎖である(例えば、アルキレンおよびアリーレンから選択する連結基を含む)。いくつかの実施形態において、窒素原子はポリマーの骨格の一部であり、R、R、RおよびRのうち2つ(直鎖ポリマーの場合)または3つ(分岐ポリマーの場合)が、ポリマーの骨格部分に存在する。いくつかの実施形態において、R、R、RおよびRのうち1つ以上は例えばメチル、エチル、プロピルなどのC〜C12アルキルから選択する。いくつかの実施形態において、R、R、RおよびRのうち3つは、窒素原子が、被覆を形成するポリマー材料中の枝分かれ部位であるようなポリマー骨格基を有する。かような実施形態において、ポリマーは分岐してもよく、高度に分岐してもよく、または架橋してもよい。
【0055】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、式(I)の構造を有する第四級アミンを有し、R、R、RおよびRのうち2つまたは3つは、ポリマー部分を有し、R、R、RおよびRのうち残りの1つまたは2つは、C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アリル、C〜C12アラルキル、およびC〜C12アルカリルから選択し、これらはいずれも置換しおよび/またはヘテロ原子を含有してもよい。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、式(I)の構造を有する第四級アミンを有し、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つがメチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を有する。
【0056】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、(a)〜(c)から選択する構造を有する第四級アミン基を有するポリマーである。
【化2】

【0057】
ここで、R、R、Rは既述した通りであり、波線はポリマー部分を意味する。(a)〜(c)の任意の組合せが本発明のポリマー材料中に存在してもよい。例えば、いくつかの実施形態において材料は構造(a)のみを含む一方、いくつかの実施形態で材料は構造(a)、(b)および(c)の組合せを含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は四級化前に式(II)の構造をもつポリマーを有する。
【化3】

【0059】
ここでxおよびyは負ではない整数(0を含む)である。かような材料の四級化の後で、ポリマー構造中の窒素原子の全てまたは一部は、例えば式(IIa)の構造中などの陽イオン部分に変換される。
【0060】
【化4】

【0061】
従って、いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、骨格ポリマー構造の一部として第四級アミン基を有する(すなわち「非末端」第四級アミン基)、分岐ポリマー、または架橋ポリマーを有する。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、ポリマー構造に対して側鎖として第四級アミン基を有する(すなわち「末端」第四級アミン基)、分岐ポリマーまたは架橋ポリマーを含む。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、末端第四級アミン基および非末端第四級アミン基の両方とも有する、分岐ポリマーまたは架橋ポリマーを有する。
【0062】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、ポリマーの反復単位ごとに平均して1つの第四級アミンを有するポリマーを含む。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、被覆中のポリマーの反復単位ごとに平均して2つ以上の第四級アミンを有するポリマーを含む。ポリマー中の反復単位のいくつかは2つの第四級アミン基を有するため、式(IIa)の構造を有する化合物は後者の実施形態の例である。従って、いくつかの実施形態において、本発明の被覆は2以上の(例えば2つの)第四級アミン基を有する反復単位を含むポリマーを含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は非ペプチド性のポリマー材料から作製する。つまり、被覆を形成する材料は合成有機ポリマーであり、合成ポリペプチドでもなく天然ポリペプチドでもない。すなわち、いくつかの実施形態において、本発明の被覆はポリアミド酸以外のポリマーから形成される。
【0064】
好適な実施形態において、本発明の被覆は、該被覆に本来備わる抗菌特性を有する。すなわち、被覆は、その中に「溶解した」抗菌性化合物を有さず、被覆から浸出し易くはない。例えば、本発明の抗菌被膜はその中に溶解銀イオンを有しない。さらに、既述の通り、本発明の被覆は基材表面に共有結合しない。
【0065】
(使用)
本発明の被覆材料は様々な使用および応用に適している。いくつかの実施形態において、本発明の被覆材料は、生物医学用装置、医療用具、生物的有機物に接触する目的の物体、およびかような物品の保存用の任意の保存ユニットを被覆するためなどの医療用の使用に適している。例えば、本発明の被覆材料は、生物学的製剤(例えば生物医学用装置、生物薬物療法など)、矯正眼鏡、歯科歯列矯正器具およびその他の歯科装置、カテーテル、ステント、調剤、医療機器などの物品の保存用容器の表面を被覆するのに適している。本発明の被覆材料は、食品サービス産業などの非医療的応用にも適している。例えば、本発明の被覆材料は、調理器具、清浄液、洗浄液、特定の食品などの物品の保存用目的の保存容器の表面を被覆するのに適している。本発明の被覆は、畜産業で使用することができ、例えば食品加工設備において細菌のまん延を防ぐために使用できる。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、病院内環境での細菌感染や細菌のまん延の防止に適している。かような実施形態において、被覆は、細菌増殖を一般的に支持する(ひいては細菌感染のまん延を悪化させる)多様な表面に適用することができ、および/または医療機器や、医療に使用できる他の物品(例えば、カテーテル、ステント、手術道具、聴診器、整形外科用ネジなど)に適用することができる。
【0067】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、レンズの細菌汚染を防ぐ、ポリプロピレンコンタクトレンズ保存容器を作製するのに適している。かような実施形態において、第四級アミン被覆は保存容器の少なくとも内面上に抗菌被覆を形成する。反復使用および最小限の洗浄(すなわち、簡単な水洗浄)でさえ、第四級アミン被覆の抗菌特性により容器の表面上の細菌増殖が防止される。かような増殖の防止は、従って、コンタクトレンズ保存溶液およびコンタクトレンズを容器に入れるとき、細菌の増殖をも防止し、コンタクトレンズ着用者の目への細菌の移動を防止する。望ましいコンタクトレンズ容器はポリプロピレンから作製する。ポリプロピレンを基材として使用する場合、望ましい支持層はポリプロピレンを含む(およびさらに、例えば、ポリエチレン単位、添加剤などを含んでもよい)。
【0068】
本発明の第四級アミン被覆で被覆したコンタクトレンズ容器は、使い捨て保存容器としてまたは多重使用容器として作製することができる。この容器は、短期保存(例えば数分または数時間)、中期保存(例えば一晩または数日)および/または長期保存(例えば数週間もしくは数ヶ月またはそれ以上)の目的にもできる。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆はコンタクトレンズ上での抗菌被覆を作製するのに使用する。終日装用コンタクト、使い捨て使用コンタクト、および長期装用コンタクト(ハードおよびソフト種類を含む)は、本発明の被覆で覆うことができる。従って、一実施形態において、本発明は抗菌被覆を有するコンタクトレンズを含み、この抗菌被覆は本明細書で開示する第四級アミンを含む。
【0070】
別の実施形態において、本発明の被覆はカテーテルおよび/またはカテーテルの保存用容器の少なくとも一つの表面を被覆するのに用いることができる。好適なカテーテルは、導尿カテーテル、静脈カテーテル、臍帯ライン、バルーン付きカテーテルなどが含まれる。
【0071】
別の実施形態において、本発明の被覆は、例えば手術器具に用いる金属を被覆するのに用いることができる。本発明に従う被覆を有する手術道具で、外科手術中の細菌感染の支持やまん延が低減する。
【0072】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆を、製造工程の一部として、物に適用する。つまり、被覆は製造設備を放置する前に適用する。いくつかの実施形態において、被覆は、再殺菌工程での再利用物に適用(または再適用)し、いくつかの実施形態においてこの再殺菌工程は、最終殺菌(例えば、蒸気またはエチレンオキシドを用いる殺菌)の前に行う。
【0073】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は抗菌特性を有し、様々な種類の細菌の増殖を抑制(完全に抑制またはある程度抑制)する。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は様々な種類の細菌に対して殺菌性がある。いくつかの実施形態において、この被覆はグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の両方、ならびに薬物抵性菌を死滅させ、かつ/または、これらの増殖を抑制する。この被覆は、エシェリキア属、エンテロバクター属、サルモネラ属、スタフィロコックス属、シゲラ属、リステリア属、アエロバクター属、ヘリコバクター属、クレブシエラ属、プロテウス属、シュードモナス属、ストレプトコッカス属、クラミジア属、マイコプラズマ属、肺炎球菌属、ナイセリア属、クロストリジウム属、バチルス属、コリネバクテリウム属、マイコバクテリア属、カンピロバクター属、ビブリオ属、セラチア属、プロビデンシア属、クロモバクテリウム属、ブルセラ属、エルシニア属、ヘモフィルス属、ボルデテラ属、バークホルデリア属、アシネトバクター属、エンテロコッカス属、およびフランシセラ属から選択する細菌を死滅させ、かつ/または、これらの増殖を抑制する。例えば、いくつかの実施形態において、被覆はシュードモナス・エルジノーサ、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、エンテロコッカス・フェカリス、緑色連鎖球菌、エシェリキア・コリ、プロテウス・ミラビリスおよび/またはスタフィロコッカス・アウレウス(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)を含む)を死滅させ、かつ/または、これらの増殖を抑制する。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、アカントアメーバ内で繁殖するMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの、原虫内に感染および繁殖する細菌に対して効果がある。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は抗真菌特性を有する。いくつかの実施形態において、本発明の被覆は抗原虫(例えばアカントアメーバ)の特性を有する。
【0074】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は基材上に配置し、基材上の細菌の増殖を抑制するのに効果的である。例えば、細菌を含む水性培地に曝露すると、本発明の被覆を有する基材での、所定の期間(例えば1時間、10時間、24時間、48時間、72時間など)での基材上の細菌増殖は、かような被覆を有しない同様の基材と比較して、70%未満、または80%未満、または90%未満、または95%未満、または99%未満、または99.9%未満を示しうる。
【0075】
いくつかの実施形態において、本発明の被覆は、被覆に接触する溶液中の細菌の集団を縮小させるのに効果的である。例えば、細菌集団を有する溶液に曝露すると、本発明の被覆を有する基材は、所定の期間で(例えば1時間、10時間、24時間、48時間、72時間など)、かような被覆を有しない同様の基材と比較して、少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または少なくとも99%、または少なくとも99.9%まで溶液中の細菌集団を縮小させうる。
【0076】
全ての特許、特許出願、および本明細書中で言及した刊行物は、これにより、その全体を参照により組み込む。しかしながら、特定の定義を含む、特許、特許出願または刊行物を参照により組み込む場合に、それらの特定の定義は、それらを有する、組み込まれる特許、特許出願または刊行物に適用して理解するべきであり、本出願の本文の残りの部分、特に本出願の請求項に適用して理解するべきではない。
【0077】
好ましい特定の実施形態と併せて本発明を詳細に説明したが、前述およびこれ以降の実施例は、本発明を説明する目的であり、本発明の範囲を制限する目的ではないと理解されたい。当業者によって多様な変更をすることができ、また、均等物は本発明の範囲から外れない置換をすることができ、さらなる他の様態、利益および改良は本発明に関連する当業者には明らかであると理解されたい。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
被覆ポリプロピレンの作製
計画1:抗菌ポリプロピレン作製用の第1方法

【0079】
(試料作製の説明)
試料材料は計画1に従って作製した。つまり、塩素化ポリプロピレン(CPP;〜26%クロリン含量、Mw〜100,000、Aldrichから購入)を、トルエン中に〜100℃で溶解した(5重量%溶液)。ポリプロピレンシート(PP;厚み1/16”、MSC Industrial Supplyから購入)を小片(1×1cm)に切断し、続いてメタノールおよび脱イオン水で洗浄して表面上の不純物を除去した。ポリプロピレンの表面は5重量%CPP溶液で慎重に被覆し、大気下にて室温で一晩乾燥させた。得られたCPP/PP小片は小びん中に載置し、続いて1重量%ポリエチレンイミン溶液(PEI;Mw〜423、Aldrichから購入し、アセトンまたはアセトニトリル中に溶解した)を小片ごとに1mL加えた。この混合物は〜60℃で一晩攪拌し、そしてその小片は小びんから取り出し、アセトンおよび脱イオン水ですすいだ。このアミノ化PP小片(APP/PP)は、エチルブロミド(アセトンまたはアセトニトリル中の6重量%溶液)とトリエチルアミン(小片ごとに0.1mL)との混合液中に浸した。〜40℃で24時間の反応後、小片は脱イオン水およびアセトンで洗浄した。表面上の第四級アンモニウム基の密度は、蛍光錯体生成および紫外・可視分光法に基づく比色分析法によって測定した。
【0080】
表1は作製した試料の物理的特徴および作製方法を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(実施例2)
(変更した抗菌ポリプロピレン被覆方法の説明)
計画2は、抗菌ポリプロピレン被覆の変更方法を示す。計画1に示した方法と比較して、この方法では、ポリプロピレンスライドを被覆する前に、アミン含有材料(計画2、APPと表示)を作製した。CPP中の塩素をポリエチレンイミンで置換することにより、溶液中でアミン化ポリプロピレン(APP)を得た。PPスライドはその後APP溶液で被覆し、このスライドは脱イオン(D.I)水およびアセトンで洗浄して、未反応のPEIおよびPEI塩を完全に除去した。被覆APP/PPスライドはアルキルハロゲン化物により四級化し、第四級アミン被覆製品(QPP/PP)を得た。
【0083】

【0084】
変更方法に従い作製した一試料の特定の実験手順は、次の通りである。ポリエチレンイミン(PEI、分岐鎖、Mw=25,000;GPCで10,000,0.33g)をアセトン(15ml)中に溶解し、10mlの塩素化ポリプロピレン溶液(トルエン中で5重量%)に加えた。この混合液を50℃で3日間攪拌した。析出ポリマーが反応中に見られた。この反応後、析出ポリマーからこの溶液を慎重に除去した。PPスライド(1cm×1cm)はこの溶液に浸漬した。得られたAPP被覆PPスライドは、D.I水およびアセトンで洗浄して未反応のPEIおよびPEI塩を完全に除去した。真空下での乾燥後、スライドは小びんの中へ置き、続いてアセトニトリル(2ml)およびメチルヨウ化物(0.2ml)を加えた。この混合液は50℃で一晩攪拌させた。得られたPPスライド(QPP/PP)はD.I水およびアセトンで洗浄し、真空下で乾燥させた。
【0085】
(実施例3)
(第2変更被覆方法の説明)
計画3は抗菌ポリプロピレン被覆の方法を示す。この方法では、基材(計画3におけるポリピロピレン、PPと表示)を被覆する前に、第四級アミン化合物(計画3中の第四級ポリエチレンイミン、QPEIと表示)を作製する。計画3では、ポリエチレンイミン(PEIと表示)は第四級アミン化合物を作製するためのベースアミン材料である。固体としての第四級アミンを得た後、適切な溶媒中に溶解し、ポリプロピレン表面に被覆する。
【0086】

【0087】
QPEI方法に従い作製した一試料の特定の実験手順は、次の通りである。t−Amylアルコール(12mL)中のポリエチレンイミン(PEI、分岐鎖、Mw=25,000、0.96g)に、1−ブロモヘキサン(11.6ml)を加え、続いてKCO(3.6g)を加えた。ボトルは密閉し、95℃で24時間攪拌した。ろ過によって固体を除去した後、メチルヨウ化物(2.7ml)を溶液中に加えた。混合液は、60℃でさらに24時間、密閉ボトル中で攪拌した。生成物溶液はコットン栓を通過させて、固体沈殿物を除去し、得られた溶液を真空蒸発装置中に置いてその溶液の容量を約10mlまで減らした。ヘキサンを溶液に加えて生成物を沈殿させた。生成物−ヘキサンの混合物は室温で一晩攪拌し、ろ過により生成物を収集し、ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させた。生成物である四級化ポリエチレンイミン(QPEI)の収量は、3.37gであった(ベージュ微粉)。
【0088】
得られたQPEIは、メタノール中に溶解し、5重量%または10重量%の溶液を作った。PPスライド(1cm×1cm)はQPEIメタノール溶液の中につけた。5分後、被覆PPスライドは溶液から取り出し、真空下で乾燥させた。
【0089】
第四級アミンの量は、Huangら"Antibacterial Polypropylene via Surface-Initiated Atom Transfer Radical Polymerization," Biomacromolecules 2007, 8, 1396-1399に記載の方法に従って特定した。上記の2つの異なる方法に従って作製した4つの試料について、結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
(実施例4)
(抗菌スクリーニング検査)
試料は試験して、作製した第四級アンモニウムポリプロピレン被覆ポリプロピレン(QPP/PP)材料が細菌に対する活動抑制または殺菌力を有しているかを判定し、また、その材料がはじめの細菌曝露の後の残効性を有しているかを判定した。
【0092】
(検査計画)
各四角のポリプロピレン上の第四級アンモニウムポリプロピレン(QPP/PP)はシュードモナス・エルギノーサおよびスタフィロコッカス・アウレウスの懸濁液に曝露し、増殖が抑制されたか、また、細菌が死滅したかを判定した。QPP/PPの細菌への効果は、ポリプロピレンのみからなる対照四角、塩化ポリプロピレンの被覆層を有するポリプロピレン(CPP/PP)からなる対照四角、またはアミン化ポリプロピレンの被覆層を有するポリプロピレン(APP/PP)からなる対照四角と比較した。
【0093】
(マイクロタイタートレーの作製)
各四角は、12ウェルマイクロタイタートレーのウェルの底に接着させた。各トレーには、対照四角と同様に、種々の濃度のQPP/PPの四角を配した。各トレーの底は上部、左側隅、およびテンプレート上に位置する点により印づけられ、これにより作製したウェル中の四角の内容量および位置がわかる。このトレーは個々にラップし、無菌化した。1つのトレーは1つの種類に使用した。
【0094】
(抑制試験)
緑膿菌および黄色ブドウ球菌の24時間ブロス培地をトリプティックソイブロス中に作製した。懸濁液は10orgs/mlの濃度に作製した。ブロスの1mlをトレーの各ウェルに添加した。このトレーは18時間35℃で培養した。ウェルは、増殖を示す濁度を調査した。増殖は抑制活性の欠如を示した。
【0095】
(殺菌力試験)
各ウェルは血液寒天培地に二次培養し、その培地は18〜24時間35℃で培養した。コロニー数を数えた。増殖は殺菌力の欠如を示した。
【0096】
(残効性試験)
培地を二次培養し、全てのブロスを各ウェルから除去した後直ちに、無菌トリプティックソイブロスをそのウェルに添加し、そのウェルは35℃で18時間再度培養した。そのウェルでの増殖を試験した。増殖は残抗菌性の欠如を示した。
【0097】
個別の各方法を、以下の4日スケジュールに続いて行った。
1日目:黄色ブドウ球菌および緑膿菌の培地を作製した。
2日目:5つの試料トレーを作製した。サンプルAを含む2つ、サンプルCを含む2つ、およびポリプロピレン対照を含む5番目。培養した黄色ブドウ球菌を含む溶液の一定分量を、試料Aを含むトレーの中および試料Cを含むトレーの中に載置した。培養した緑膿菌を含む溶液の一定分量を、試料Aを含むトレー中および試料Cを含むトレーの中に載置した。
3日目:4つの試料トレーの各々から一定分量(0.5ml)を採取し、培地中に載置した。
4日目:各培地中のコロニー数を数えた。
【0098】
試料AおよびCは、先の段落にて記載したようにインビトロ増殖試験にかけた。実施例の結果は図1および2ならびに表3中に示す。ポリプロピレン対照(すなわち抗菌被覆材料を含まない試料材料)に接触する溶液から増殖させた黄色ブドウ球菌培養物を図1cに示す。大量の細菌増殖(>200コロニー)が見られた。試料Aと接触する溶液から増殖させた黄色ブドウ球菌の培養物は図1aに示す。細菌コロニーは存在しなかった。試料Cと接触する溶液から増殖させた黄色ブドウ球菌の培養物は図1bに示す。200超えの細菌コロニーが存在したが、対照試料と比較して著しく少ないコロニー数であった。これらの結果は、試料AおよびC上に存在する被覆が黄色ブドウ球菌、グラム陽性細菌の増殖を抑制したことを示す。
【0099】
ポリプロピレン対照(すなわち抗菌被覆材料を含まない試料材料)と接触する溶液から増殖させた緑膿菌培養物を図2cに示す。大量の細菌増殖(>200コロニー)が見られた。試料Aと接触する溶液から増殖させた緑膿菌の培養物は図2aに示す。細菌の増殖が見られたが、対照試料と比較して著しく少なかった。試料Cと接触する溶液から増殖させた緑膿菌の培養物は図2bに示す。200超えの細菌コロニーが存在したが、対照試料と比較して著しく少ないコロニー数であった。これらの結果は試料AおよびC上に存在する被覆が緑膿菌、グラム陰性細菌の増殖を抑制したことを示す。
【0100】
【表3】

【0101】
(実施例5)
(コンタクトレンズ研究)
(細菌およびコンタクトレンズの作製)
ヒトに発症したCLARE(コンタクトレンズによる急性結膜充血(Contact Lens induced Acute Red Eye))から単離した緑膿菌を、トリプティックソイブロス(TSB)中で一晩培養し、リン酸緩衝食塩水(PBS;NaCl 8gL-1、KCl 0.2gL−1、NaHPO 1.15gL−1、およびKHPO 0.2gL−1)中で洗浄し、PBS中にOD660nm2.9で再懸濁した。懸濁液は光学顕微鏡で検査し、確実に凝集塊ができないようにした。無菌コンタクトレンズは小びんから取り出し、使用前に1mLのPBS中で3回洗浄し、その後挿入前に約30分間1mLの細菌懸濁液中に浸した。
【0102】
コンタクトレンズは細菌懸濁液から無菌ピンセットで取り出し、1mL無菌PBS中で一回洗浄し、眼につけた。各レンズは一対の生存可能な接着性の細菌の合計数を、挿入前と、実験完了後に取り出した際に調べる。生存可能な細菌はレンズの破壊によって定量化した(例えばDIAX500ホモジェナイザーを用いた;Heidolph、ブルラディンゲン、独国)。得られたホモジネートの一定分量である100μLを1:10に無菌PBSで連続的に希釈した。ホモジネート原液を含めた、3通りの各希釈物の一定分量(20μL)を栄養寒天上にまいた。この培地は、コロニー形成単位(cfu)を数える前に37℃で24時間培養し、1つのレンズあたりの単位を計測した。レンズ表面上の細菌の総数(平方ミリメートルごとのコロニー形成単位)は光学顕微鏡を用いて測定した。
【0103】
細菌およびコンタクトレンズの作製は、CLPU(コンタクトレンズによる周辺部角膜潰瘍(Contact Lens-induced Peripheral Ulcers))の容器から黄色ブドウ球菌の株を単離し、上記と同様に行った。細菌はTSB中で一晩培養し、その後3回PBSで洗浄した。細菌はPBS中にOD660nmで2.0に再懸濁した。懸濁液は光学顕微鏡で検査して、確実に凝集塊ができないようにした。コンタクトレンズは使用前に1mLPBSで3回洗浄し、眼(例えばウサギの眼)の中に挿入する前に1mL細菌懸濁中に約30分間浸した。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図2a】

【図2b】

【図2c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面上に配置された被覆と、を含み、
前記被覆は、前記基材に対して非共有結合したポリマーを有し、
前記ポリマーは複数の第四級アミン基を有する、抗菌被覆基材。
【請求項2】
前記基材はポリマー材料であって、
前記被覆は、水素結合、ファンデルワールス力、イオン結合またはこれらの組合せによって前記基材に結合している、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記ポリマーは、エチレン、エチレンアミン、エチレンオキシド、プロピレン、ブチレン、スチレン、ビニルピリジン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、ブタジエン、カルバメート、カルボナート、テレフタル酸、これらの誘導体、およびこれらの組合せから選択される反復単位を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記被覆は、第1官能基を有する第1ポリマーと、第2官能基を有する第2ポリマーとを反応させて作製し、
前記第1官能基および前記第2官能基は反応して二級アミンを形成することができる、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
前記ポリマーは不水溶性であり、さらに前記ポリマーはポリアミノ酸ではない、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
ポリマー材料を有する基材の表面上の被覆層であって、
前記ポリマー材料に共有結合した第四級アミン基を有し、
前記ポリマー材料は、前記基材の表面に非共有結合している、基材の表面上の被覆層。
【請求項7】
前記第四級アミン基は前記ポリマー材料の側鎖に共有結合している、または、前記第四級アミン基は前記ポリマー材料の骨格に組み込まれている、請求項6に記載の被覆層。
【請求項8】
基材上への抗菌表面被覆の形成方法であって、
1)複数の官能基を有するプレアミン材料を供給する工程と、
2)前記官能基を、該官能基の少なくとも一部をアミン基へ変換するのに適したアミン含有試薬と反応させる工程と、
3)2)からの前記アミン基を、該アミン基の少なくとも一部を第四級アミン基へ変換するのに適した第四級アミン変換試薬と反応させる工程と、を有する方法。
【請求項9】
前記プレアミン材料が不水溶性ポリマーである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アミン基の少なくとも一部が第二級アミン基である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第四級アミン変換試薬がハロゲン化アルキルである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記アミン含有試薬はアミン含有ポリマーである、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記アミン含有試薬はポリ(エチレンイミン)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プレアミン材料は、溶液中に溶解して供給する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記プレアミン材料は、前記溶液から前記基材の表面上に堆積してプレアミン被覆層を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記2)の反応は前記基材の上に配置した前記プレアミン被覆層上で行ってアミン含有層を形成し、前記3)の反応は前記アミン含有層上で行って第四級アミン含有層を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記2)の反応は前記溶液中で行ってアミン含有材料を形成し、前記アミン含有材料はその後に前記基材の表面上に堆積してアミン含有層を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記3)の反応は前記アミン含有層の上で行って第四級アミン含有層を形成する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記2)の反応は前記溶液中で行ってアミン含有材料を形成し、3)の前記反応は第2の溶液中で行って第四級アミン含有材料を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記第四級アミン含有材料は、前記基材の表面上に堆積して第四級アミン含有層を形成する、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2013−500385(P2013−500385A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522919(P2012−522919)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/043074
【国際公開番号】WO2011/017025
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(301059570)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (14)
【Fターム(参考)】