説明

抗菌機能を有する紙

【課題】紙に抗菌性を充分に付与できる安全且つ安価な紙用塗料、充分な抗菌性を有し安全且つ安価な紙製品等を提供すること。
【解決手段】本発明の紙用塗料は、紙の表面に塗布されるものであり、銀ゼオライトと、水溶性ワニスと、金属キレート剤と、を含有する。本発明の紙製品は、これら紙用塗料が紙の表面に塗布されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙用塗料、紙製品、紙製包装容器、及び、紙製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活空間には、細菌やカビといった種々の微生物が存在する。これら微生物は、しばしば、食品を腐敗させ、悪臭を発生するのみならず、人体に食中毒等の悪影響を及ぼす原因にもなっている。
【0003】
ところで、交通手段及び商品流通網が発達した今日、工業製品から日常用品に至る大部分の商品は、包装材で保護された形態で搬送されており、この状況は食品分野においても例外ではない。
【0004】
高級和菓子やケーキといった主にテイクアウトされる菓子類、果物等の食品の包装や梱包等においては、紙製包装材が多用されている。これら食品は鮮度が要求されるため、搬送中における衛生管理に対して、特に注意を払う必要がある。このようなことから、優れた抗菌性を有する紙製包装材への要請が強まっている。
【0005】
紙に抗菌性を付与する抗菌剤としては、従来、塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩(特許文献1参照)、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジン誘導体(特許文献2参照)等が開示されている。
【0006】
しかし、これらの抗菌剤によれば、紙に優れた抗菌性を付与できるものの、使用者の人体に対する安全性が不充分であり得る。そこで、一価の銀イオンを含むガラス抗菌剤が分散された抗菌液を紙に含浸処理する技術が開発されている(特許文献3参照)。この技術によれば、人体への悪影響が小さい一価の銀イオンを使用したので、安全性を向上でき且つ抗菌性を付与できる。
【0007】
一方、抗菌剤を紙に供給する方法としては、従来、抗菌剤を紙に霧状散布する方法が一般に行われている。しかし、高価な抗菌剤のかなりの部分が周辺環境に飛散し失われるため、経済的でなく、経済性を向上するために散布量を減らすと、抗菌剤の存在量が不足し、充分な抗菌性が得られない。そこで、紙原料に抗菌剤を添加した後に製紙する方法が提案されている(特許文献4参照)。この技術によれば、使用する抗菌剤の全体が紙に含有されることとなるため、経済的に抗菌性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−149989号公報
【特許文献2】特開2000−191511号公報
【特許文献3】特開2002−69897号公報
【特許文献4】特開2005−232636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に示される技術においては、銀イオンの触媒作用により、樹脂が短期間の間に硬化する。このため、抗菌液の寿命が極めて短く、抗菌液を頻繁に製造し直す必要があるため、製造コストが多大なものとなる。
【0010】
また、特許文献4に示される技術においては、表面に更に印刷処理等がされた場合、形成された印刷層が印字部分の表面を被覆し、抗菌効果を阻害する。これにより、充分な抗菌性が得られない場合があった。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、紙に抗菌性を充分に付与できる安全且つ安価な紙用塗料、充分な抗菌性を有し安全且つ安価な紙製品、紙製包装容器、及び、充分な抗菌性を有し安全な紙製品を安価に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、銀ゼオライトを、他の成分と所定の組合せで併用することで、紙に抗菌性を充分に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、より具体的には、以下のようなものを提供する。
【0013】
(1) 紙の表面に塗布される紙用塗料であって、銀ゼオライトと、水溶性ワニスと、金属キレート剤と、を含有する紙用塗料。
【0014】
(1)の発明によれば、安全な抗菌剤として認められている銀ゼオライトを含有させたので、紙に抗菌性を安全に付与できる。例えば、銀ゼオライトの一種である「ゼオミック」(シナネンゼオミック社製)が、米国食品医薬品局(FDA)に食品接触物質(Food Contact Substance Notification FCN000047)として認可され、全食品の包装樹脂に適応できるという実績がある。
【0015】
また、水溶性ワニス自体が粘性を有するため、塗料に粘性が付与され、例えば、印刷機の印刷用ロールに濡れやすくなる。これにより、紙の表面に塗料が均一に塗布されるので、紙に抗菌性を充分に付与できる。
【0016】
しかも、増粘剤を更に含有させなくても、粘性が付与されるので、製造コストを低減できる。ただし、所望の粘性を得るために増粘剤を更に含有させてもよく、増粘剤を含有する紙用塗料は除外されない。
【0017】
また、紙用塗料が塗布された紙表面は、銀ゼオライト及び水溶性ワニスの層で被覆され、耐水性が付与される。このため、特段の下地処理を施す必要がなくなるので、紙製品の製造コストを低減でき且つ製造ラインを簡素化できる。
【0018】
しかし、一般に、銀ゼオライトと水溶性ワニスとの相溶性が不充分であるという問題がある。
そこで、(1)の発明によれば、金属キレート剤を含有させたので、銀ゼオライトと水溶性ワニスとの相溶性が向上するとともに、銀ゼオライトの分散性が向上する。これにより、銀ゼオライトの沈殿が抑制されるので、抗菌液の寿命が長期化する。よって、抗菌液を頻繁に製造し直す必要がなくなるため、製造コストを低減できる。
【0019】
実際、金属キレート剤を添加しない場合、調製後一晩の間に銀ゼオライトが沈殿し、固化し始めるが、金属キレート剤を添加した場合、例えば、印刷機の塗料タンク内で内部循環させるだけで、銀ゼオライトの沈殿も固化もほぼ観察されない。
【0020】
本明細書で言う「紙用塗料」は、抗菌性が要求されるあらゆる用途、特に人体との直接的又は間接的な接触が予想される製品に適用できる。具体的には、ダンボールや厚紙に代表される包装用紙(特に食品)、加湿器や湿度調節器に使用される保水体、衛生関連の製品(例えば、ウェットティッシュ、おしぼり)、建築関連の壁材、床材、結露防止材、農業関連の保水体、空調用又は水処理用のフィルタ、水の抗菌処理材等が挙げられる。
【0021】
本明細書で言う「塗布」は、紙の表面に抗菌効果が付与される限りにおいて、その方法は特に限定されない。例えば、含浸、印刷用ロール等による転写、スプレーによる散布等であってよい。
【0022】
(2) 前記金属キレート剤は、分子内にプロピレングリコール基を有する(1)記載の紙用塗料。
【0023】
(2)の発明によれば、分子内にプロピレングリコール基を有する金属キレート剤を採用したので、銀ゼオライト中の銀イオンと、分子内のプロピレングリコール基とで錯体が形成される。これにより、液体に分散された状態では、銀イオンが有する樹脂硬化作用が弱められる。
しかも、プロピレングリコール基が親水基として作用し、銀ゼオライト自体の水分散性が向上する。
よって、抗菌液の寿命がより長期化するので、製造コストをより低減できる。
【0024】
(3) 前記金属キレート剤は、分子内に三重結合及びエチレンオキサイド基を有する(1)又は(2)記載の紙用塗料。
【0025】
(3)の発明によれば、分子内に三重結合及びエチレンオキサイド基を有する金属キレート剤を採用したので、銀ゼオライト中の銀イオンと、分子内の三重結合及びエチレンオキサイド基とで錯体が形成される。これにより、液体に分散された状態では、銀イオンが有する樹脂硬化作用が弱められる。
しかも、三重結合及びエチレンオキサイド基が親水基として作用し、銀ゼオライト自体の水分散性が向上する。
よって、抗菌液の寿命がより長期化するので、製造コストをより低減できる。
【0026】
(4) 前記水溶性ワニスは、アクリル系である(1)から(3)いずれか記載の紙用塗料。
【0027】
(4)の発明によれば、水溶性ワニスとしてアクリル系を採用したので、分子内にエポキシ基等を有する熱硬化性樹脂と比べ、硬化時の重合速度が上昇する。これにより、硬化時間が短縮するので、生産効率を向上できるのみならず、紙の反り返り等を抑制することもできる。
【0028】
(5) (1)から(4)いずれか記載の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品。
【0029】
(5)の発明によれば、(1)から(4)いずれか記載の紙用塗料を表面に塗布したので、充分な抗菌性を有し安全且つ安価な紙製品を提供できる。この紙製品は、抗菌性が必要とされる種々の分野に応用できる。
【0030】
(6) (5)記載の紙製品で形成された紙製包装容器。
【0031】
(7) 食品の包装に用いられる(6)記載の紙製包装容器。
【0032】
(7)の発明によれば、(6)記載の紙製品を使用したので、充分な抗菌性を有し安全且つ安価な紙製包装容器を提供できる。この紙製包装容器は、抗菌性が必要とされる種々の製品の包装に使用できる。とりわけ、食品に要求される高度な衛生環境を提供することができる。
【0033】
(8) 紙製品の製造方法であって、(1)から(4)いずれか記載の紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、前記紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を備える製造方法。
【0034】
(8)の発明によれば、紙用塗料として(1)から(4)いずれか記載の紙用塗料を採用したので、塗布手順において、紙の表面に安全且つ安価な塗料が均一に塗布される。よって、硬化手順を経ることで、抗菌性が充分に付与された安全且つ安価な紙製品を製造できる。
【0035】
なお、紙用塗料の硬化は、熱風乾燥、活性エネルギー線照射といった従来公知の種々の方法で行われてよい。このうち、活性エネルギー線(例えば、遠赤外線)照射は、熱による紙製品の損傷を抑制できる点で好ましい。
【0036】
(9) 前記塗布手順は、紙表面に印刷処理を行う印刷手順の後に行われる(8)記載の製造方法。
【0037】
紙用塗料を塗布した後に印刷処理を行う場合、形成された印刷層が印字部分の表面を被覆し、抗菌効果を阻害する。これにより、充分な抗菌性が得られないことが懸念される。
そこで、(9)の発明によれば、塗布手順を印刷手順の後に設けたので、印字部分を含む全表面に紙用塗料が塗布される。よって、抗菌性をより向上できる。
【0038】
印刷手順は、文字、模様、色彩を印字するものである。印字内容としては、例えば、包装される内容物の情報が挙げられ、具体的には、包装される食品の絵柄、商品名、生産地、流通者等が挙げられる。
【0039】
(10) 前記塗布手順は、平らな表面を有し且つこの表面に前記紙用塗料が付着された印刷用ロールに、前記紙表面を接触させる手順である(8)又は(9)記載の製造方法。
【0040】
(10)の発明によれば、印刷用ロールに接触された紙表面に、ロール表面に付着した紙用塗料が転写される。このように、紙用塗料が無駄なく使用されるため、経済的である。
【0041】
また、平らな表面に紙用塗料を付着したので、ロールに接触された全表面に紙用塗料が転写される。よって、抗菌性をより向上できる。
【0042】
ここで、「平らな表面」とは、印刷用の凹凸の形成が行われていない表面を指す。また、「接触」の方式は、特に限定されないが、例えば、印刷用ロールに圧着されながら紙を通す方式であってよい。
【0043】
(11) 前記硬化手順は、70〜120℃の熱風中で行われる(8)から(10)いずれか記載の製造方法。
【0044】
(11)の発明によれば、硬化方式として最も広く使用されている熱風乾燥を採用したので、製造ラインの新設、変更の必要がなく、経済的である。
【0045】
ただし、熱風温度は、低すぎると硬化が不充分となる一方、高すぎると紙に損傷を与えるおそれがある。そこで、(11)の発明によれば、70〜120℃の熱風中で硬化を行うので、紙に与える損傷を抑制でき且つ充分に硬化できる。
【0046】
(12) 前記硬化手順は、5〜60秒間行われる(11)記載の製造方法。
【0047】
熱風中での処理時間は、短すぎると硬化が不充分となる一方、長すぎると紙に損傷を与えるおそれがある。そこで、(12)の発明によれば、熱風中での処理時間を5〜60秒間としたので、紙に与える損傷を抑制でき且つ充分に硬化できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、紙に抗菌性を充分に付与できる安全且つ安価な紙用塗料、充分な抗菌性を有し安全且つ安価な紙製品、紙製包装容器、及び、充分な抗菌性を有し安全な紙製品を安価に製造できる製造方法を提供できる。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
まず、蒸留水10質量部に銀ゼオライト5質量部を加えて撹拌し、混合した。次に、分子内に三重結合及びエチレンオキサイド基を有する金属キレート剤である「サーフィノール485(商品名)」(日信化学工業社製)を0.1質量部加え、室温で15分間撹拌した。その後、撹拌しながら、アクリル系の水溶性ワニスである「アクアパックワニスF−68(商品名)」(T&K TOKA社製)60質量部を加えることで、紙用塗料を得た。
【0050】
次に、グラビア印刷機の印刷面の平らな印刷用ロールを使用し、この表面に紙用塗料を15g/mの割合で塗布した(塗布手順)。このロールに紙表面を通すことで、紙用塗料を紙表面に転写した後、120℃で3秒間、続いて7秒間送風乾燥させる(硬化手順)ことで、紙製品を得た。
【0051】
<実施例2>
「サーフィノール485(商品名)」(日信化学工業社製)の代わりに、分子内にプロピレングリコール基を有する金属キレート剤である「サーフィノール104(商品名)」(日信化学工業社製)を使用したことを除き、実施例1と同様の手順で、紙製品を得た。
【0052】
[評価]
実施例1〜2で得られた紙製品について、「JIS Z2801」に基づき、抗菌性の評価を行った。具体的には、まず、実施例1〜2の紙製品及び無処理の紙の各々を湿熱滅菌(121℃、15分間)した後、各紙(4cm×4cm)の片面に、所定量の黄色ブドウ球菌又は大腸菌を接種した。続いて、35℃にて24時間保持した後、各紙上の菌数を測定した。この結果を、表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示されるように、無処理の紙では、初期菌数に比べ保持後の菌数が増えていたが、実施例1〜2で得られた紙製品では、初期菌数に比べ保持後の菌数が大幅に減少していた。具体的には、実施例1、2の紙製品では黄色ブドウ球菌が消滅し、大腸菌数が激減した。このように、本発明の実施例の紙製品は特に優れた抗菌性を有していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙の表面に塗布される紙用塗料であって、
銀ゼオライトと、水溶性ワニスと、金属キレート剤と、を含有する紙用塗料。
【請求項2】
前記金属キレート剤は、分子内にプロピレングリコール基を有する請求項1記載の紙用塗料。
【請求項3】
前記金属キレート剤は、分子内に三重結合及びエチレンオキサイド基を有する請求項1又は2記載の紙用塗料。
【請求項4】
前記水溶性ワニスは、アクリル系である請求項1から3いずれか記載の紙用塗料。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品。
【請求項6】
請求項5記載の紙製品で形成された紙製包装容器。
【請求項7】
食品の包装に用いられる請求項6記載の紙製包装容器。
【請求項8】
紙製品の製造方法であって、
請求項1から4いずれか記載の紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、
前記紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を備える製造方法。
【請求項9】
前記塗布手順は、紙表面に印刷処理を行う印刷手順の後に行われる請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記塗布手順は、平らな表面を有し且つこの表面に前記紙用塗料が付着された印刷用ロールに、前記紙表面を接触させる手順である請求項8又は9記載の製造方法。
【請求項11】
前記硬化手順は、70〜120℃の熱風中で行われる請求項8から10いずれか記載の製造方法。
【請求項12】
前記硬化手順は、5〜60秒間行われる請求項11記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−203600(P2009−203600A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137591(P2009−137591)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2006−270232(P2006−270232)の分割
【原出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【出願人】(397034316)株式会社丸善 (6)
【Fターム(参考)】