説明

抗菌歯科材料

【課題】高い抗菌作用により特徴付けられ、そして本明細書中に記載される欠点を示さない、歯科材料を提供すること。
【解決手段】一般式(I)


による抗菌活性成分を含有することを特徴とする歯科材料であって、一般式(I)において、Rは、H、またはC〜Cアルキル残基であり;Rは、直鎖または分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;Rは、C〜C20アルキレン残基であり;そしてAは、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネートまたはβ−ケトエステルの陰イオンである、歯科材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填材料、セメント、封止剤、一時的修復のための材料、コーティング材料および接着剤としてとりわけ適切な、抗菌作用を有する歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの歯科処置は、病原性微生物が、ぞうげ質およびエナメル質、ぞうげ質およびエナメル質と、歯科用修復物、修復材料および補綴材料との間の辺縁ギャップ、ならびに隣接する軟組織にコロニー形成する場合に、必要になる。具体的には、細菌Streptococcus mutansおよび乳酸杆菌属は、代謝産物として酸を産生し、この酸は、広範なう食の場合と同様に、組織の脱灰および酵素によるコラーゲン分解の結果として、莫大な硬組織損傷を引き起こす。従って、例えば、歯根管を公知の不活性充填材料で充填する場合、この歯根管に微生物が残っていたことの結果として、充填後に炎症プロセスがゆっくりと起こることを排除できず、このことは、新たな処置を必要にし、この処置は次いで、非常に頻繁に、歯の完全な損失をもたらす。補綴物非適合性は、頻繁に、補綴物表面へのCandida albicans(カンジダ属の真菌)によるコロニー形成が原因であると考えられる。
【0003】
抗菌活性成分(例えば、トリクロサンまたはクロルヘキシジン)を含有するうがい薬、練り歯磨きおよびゲルは、例えば、病原性の口内微生物を抑制する目的で、う食の予防および処置のために使用される。クロルヘキシジンは、プラークおよび歯肉の炎症を制御するための最も有効な手段の1つである一方で、トリクロサンは、非イオン性であるので口腔衛生剤のほとんどの成分と適合性であるという利点を有する。従って、トリクロサンは、ほとんどの市販製品において使用されている。これらの投与形態の欠点は、短い影響時間である。このことは、所望の処置結果を達成する目的で、長期間の繰り返しの塗布を不可避にし、このことは次に、費用のかかるアフターケアを必要とする。病原性微生物のコロニーへのアクセスが、困難であるかさらに不可能である(例えば、深い裂溝、隣接空間または辺縁ギャップ内にある)場合、この形態の処置は不適切である。細菌が辺縁ギャップにコロニー形成する場合、ほとんどの場合において、唯一の実用的な解決策は、充填物を交換することである。
【0004】
抗菌作用のある歯科材料は、頻繁に、これらの破壊的処置を妨げるために使用される。抗菌作用は、最も頻繁には、抗菌活性成分を歯科材料に添加することにより達成される。一般に、うがい薬、練り歯磨きまたはゲルにおいても使用されるものと同じ活性成分が使用される。問題は、歯科材料の物理特性および化学特性(例えば、その機械的特性または硬化挙動)が、活性成分の添加によって損なわれてはならないということである。有効な量で、延長した臨床的に妥当な時間間隔にわたっての、活性成分の放出もまた、確実にされなければならない。
【0005】
クロルヘキシジンを含有する歯科用セメントは、特許文献1に記載されており、この歯科用セメントは、口腔液中への溶解度が高く、そして1週間〜4週間後に溶解すると記載されている。活性成分の制御放出は、これによって達成されると記載されている。
【0006】
特許文献2は、抗菌作用のある歯根充填材料を開示し、この歯根充填材料は、クロルヘキシジンおよびヨードフォアを含有する。この活性成分は、ポリマーキャリアに塗布される。
【0007】
リン酸ベースの抗菌エッチングゲルが、特許文献3に記載されており、このゲルは、塩化ベンザルコニウムを、0.1重量%〜4.0重量%の好ましい濃度範囲で含有する。
【0008】
特許文献4は、う歯の防止のための歯のコーティング材料を記載し、このコーティング材料は、トリクロサン(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル)を抗菌活性成分として含有する。
【0009】
硬化性歯科用修復材料が、特許文献5に記載されており、この硬化性歯科用修復材料は、水に不溶性の、非陽イオン性抗菌物質(好ましくは、トリクロサン)を含有する。
【0010】
特許文献6は、歯科材料を調製するための、抗菌作用を有する天然物からの抽出物(例えば、グレープフルーツ種子抽出物または緑茶抽出物)の使用を開示する。これらの抽出物は、シクロデキストリンに包接される。
【0011】
特許文献7は、銀元素の、歯科材料のための抗菌活性成分としての使用を開示し、そして特許文献8は、銀含有セラミックを含有する、抗菌特性を有する歯科用組成物を記載する。
【0012】
しかし、これらの列挙された活性成分の各々は、ネガティブな特性に悩まされ、これらの特性は、歯科材料におけるこれらの成分の使用を大いに制限し、そしてこれらの物質の臨床的な適切さを疑う。例えば、トリクロサンなどの活性成分は、重合性歯科材料の機械的特性を付与するラジカル重合を抑止し、そして活性成分の使用可能な量を制限する。例えばクロルヘキシジンなどの他の活性成分は、長期間にわたって口腔投与される場合に、歯、舌および充填物の明らかな黒ずみをもたらす(非特許文献1)。さらに、クロルヘキシジンの苦味に起因して、クロルヘキシジンは、味覚の刺激をもたらす。さらに、光に対して安定ではない。日光に曝露されると、毒物学的に問題のあるp−クロロアニリンが形成される(非特許文献2)。銀もまた、黒色の硫化銀、または黄色のリン酸銀の形成により、口腔内で変色をもたらす。さらに、記載した活性成分の使用してもよい範囲は、しばしば不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第89/10736号パンフレット
【特許文献2】独国特許出願公開第19813686号明細書
【特許文献3】米国特許第5385728号明細書
【特許文献4】国際公開第99/20227号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0220416号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1566160号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/058252号パンフレット
【特許文献8】欧州特許出願公開第1374830号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Gjermo PJ,Dent Res,Spec Iss 1989;68:1602−1608
【非特許文献2】Kohlbecker G,Dtsch Zahnaerztl Z 1989;44:273−276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、高い抗菌作用により特徴付けられ、そして記載した欠点を示さない、歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1A)
一般式(I)
【0017】
【化1】

による抗菌活性成分を含有することを特徴とする歯科材料であって、一般式(I)において、
は、H、またはC〜Cアルキル残基であり;
は、直鎖または分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;
は、C〜C20アルキレン残基であり;そして
は、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネートまたはβ−ケトエステルの陰イオンである、
歯科材料。
(項目2A)
式(I)において、
がHであり;
が直鎖Cアルキル残基であり;
が直鎖C10アルキレン残基であり;そして
がCl、アルキルホスフェート、アルキルホスホネートである、
式(I)による活性成分を含有する、上記項目に記載の歯科材料。
(項目3A)
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目4A)
結合剤としての少なくとも1種の重合性エチレン性不飽和モノマー、およびラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目5A)
有機物および/または無機物の充填材または充填材混合物をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目6A)
少なくとも1種の単官能性もしくは多官能性の(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド、あるいはこれらの混合物を、結合剤として含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目7A)
酸性モノマーと非酸性モノマーとの混合物を結合剤として含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目8A)
溶媒をさらに含有し、好ましくは、水、メタノール、エタノール、フェノキシエタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、アセトン、またはこれらの溶媒のうちの2つ以上の混合物を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目9A)
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分;
20重量%〜95重量%、好ましくは30重量%〜90重量%、そして特に好ましくは35重量%〜80重量%の結合剤;
0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.3重量%〜4.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%〜3.5重量%の開始剤;および必要に応じて、
0重量%〜90重量%、好ましくは2重量%〜85重量%、そして特に好ましくは10重量%〜80重量%の充填材;および必要に応じて、
0重量%〜80重量%、特に好ましくは0重量%〜60重量%、そして非常に特に好ましくは0重量%〜40重量%の溶媒、
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目10A)
歯の充填材料、インレーもしくはアンレーのための材料、歯科用セメント、クラウンおよびブリッジのための上張り材料として、あるいは入れ歯のための材料、一時的修復のための材料、または歯科補綴学、保存修復学および予防歯科学のための他の材料として使用するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料を含有する組成物。
(項目11A)
エナメル質/ぞうげ質接着剤として使用するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料を含有する組成物。
(項目12A)
歯の充填物、修復材料、義歯および自然の歯のためのコーティング材料として使用するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料を含有する組成物。
(項目13A)
Streptococcus mutansおよび/または乳酸杆菌属により引き起こされる歯の損傷を予防するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料を含有する組成物。
(項目14A)
Candida albicansにより引き起こされる補綴物非適合性を予防するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料を含有する組成物。
(項目15A)
重合性歯科材料を調製するための組成物であって、該組成物は、式(I)
【0018】
【化2】

による活性成分を含有し、式(I)において、
は、H、またはC〜Cアルキル残基であり;
は、直鎖または分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;
は、C〜C20アルキレン残基であり;そして
は、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネートまたはβ−ケトエステルの陰イオンである、
組成物。
(項目1B)
一般式(I)
【0019】
【化3】

による抗菌活性成分を含有することを特徴とする歯科材料であって、一般式(I)において、
は、H、またはC〜Cアルキル残基であり;
は、直鎖または分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;
は、C〜C20アルキレン残基であり;そして
は、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネートまたはβ−ケトエステルの陰イオンである、
歯科材料。
(項目2B)
式(I)において、
がHであり;
が直鎖Cアルキル残基であり;
が直鎖C10アルキレン残基であり;そして
がCl、アルキルホスフェート、アルキルホスホネートである、
式(I)による活性成分を含有する、上記項目に記載の歯科材料。
(項目3B)
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目4B)
結合剤としての少なくとも1種の重合性エチレン性不飽和モノマー、およびラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目5B)
有機物および/または無機物の充填材または充填材混合物をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目6B)
少なくとも1種の単官能性もしくは多官能性の(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド、あるいはこれらの混合物を、結合剤として含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目7B)
酸性モノマーと非酸性モノマーとの混合物を結合剤として含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目8B)
溶媒をさらに含有し、好ましくは、水、メタノール、エタノール、フェノキシエタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、アセトン、またはこれらの溶媒のうちの2つ以上の混合物を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目9B)
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分;
20重量%〜95重量%、好ましくは30重量%〜90重量%、そして特に好ましくは35重量%〜80重量%の結合剤;
0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.3重量%〜4.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%〜3.5重量%の開始剤;および必要に応じて、
0重量%〜90重量%、好ましくは2重量%〜85重量%、そして特に好ましくは10重量%〜80重量%の充填材;および必要に応じて、
0重量%〜80重量%、特に好ましくは0重量%〜60重量%、そして非常に特に好ましくは0重量%〜40重量%の溶媒、
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料。
(項目10B)
歯の充填材料、インレーもしくはアンレーのための材料、歯科用セメント、クラウンおよびブリッジのための上張り材料として、あるいは入れ歯のための材料、一時的修復のための材料、または歯科補綴学、保存修復学および予防歯科学のための他の材料としての、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料の使用。
(項目11B)
エナメル質/ぞうげ質接着剤としての、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料の使用。
(項目12B)
歯の充填物、修復材料、義歯および自然の歯のためのコーティング材料としての、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料の使用。
(項目13B)
Streptococcus mutansおよび/または乳酸杆菌属により引き起こされる歯の損傷を予防するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料の使用。
(項目14B)
Candida albicansにより引き起こされる補綴物非適合性を予防するための、上記項目のうちのいずれかに記載の歯科材料の使用。
(項目15B)
重合性歯科材料を調製するための、式(I)による活性成分の使用。
【0020】
(摘要)
一般式(I)
【0021】
【化4】

による抗菌活性成分を含有する歯科材料であって、一般式(I)において、 Rは、H、またはC〜Cアルキル残基であり;Rは、直鎖もしくは分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;Rは、C〜C20アルキレン残基であり;そしてAは、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネート、またはβ−ケトエステルの陰イオンである。この歯科材料は、歯の充填材料、インレーもしくはアンレーのための材料、歯科用セメント、エナメル質/ぞうげ質接着剤、クラウンおよびブリッジのための上張り材料、または入れ歯のための材料として特に適切である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、高い抗菌作用により特徴付けられ、そして記載した欠点を示さない、歯科材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、S.mutansを播種した寒天プレート上で、本発明による歯科材料から作製された小板の周囲で形成された阻害ゾーンを示す。これとは異なり、活性成分を含まない歯科材料から作製された小板の周囲には、阻害ゾーンが形成されない。 この試験は、式(I)の活性成分が、重合した歯科材料から効果的な量で放出されることを示す。
【図2】図2は、図1からの拡大したセクションを示す。
【図3】図3は、S.mutansを播種した寒天プレート上の、トリクロサンを1.0重量%の濃度で含有する硬化後の比較例の小板を示す。本発明による歯科材料から作製された小板を用いる場合とは異なり、阻害ゾーンは、トリクロサンを活性成分として含む歯科材料から作製された小板の周囲には形成されない。
【図4】図4は、S.mutansを播種した寒天プレート上の、トリクロサンを3.0重量%の濃度で含有する硬化後の比較例の小板を示す。本発明による歯科材料から作製された小板を用いる場合とは異なり、阻害ゾーンは、トリクロサンを活性成分として含む歯科材料から作製された小板の周囲には形成されない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記目的は、本発明によれば、一般式(I):
【0025】
【化5】

による、ビス(4−アミノ−1−ピリジニウム)塩の群からの抗菌活性成分を含有する歯科材料により達成される。一般式(I)において、可変物R、R、RおよびAは、互いに独立して、以下の意味を有する:
は、H、C〜Cアルキル残基であり、好ましくはHであり;
は、C〜C16アルキル、シクロアルキルまたはアルキルアリール残基であり、好ましくはC〜C12アルキル残基であり;
は、C〜C20アルキレン残基であり、好ましくはC〜C14残基であり;
は、Cl、Br、I、F、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネート、β−ケトエステルの陰イオンである。
【0026】
式(I)において可変物が以下の意味を有する、式(I)による抗菌活性成分が、特に好ましい:
は、Hであり、
は、直鎖Cアルキル残基であり、
は、直鎖C10アルキレン残基であり、
は、Cl、アルキルホスフェート、アルキルホスホネートである。
【0027】
この活性成分は、以下の式(Ia)を有し、そして市販されている。
【0028】
【化6】

本発明による式(I)の抗菌活性成分は、公知の合成プロセス(例えば、米国特許第4,206,215号に記載されているプロセス)によって調製され得る。
【0029】
式(I)の活性成分は、歯科材料を調製するために有利な特性の組み合わせを有することが見出された。一方では、これらの活性成分は、有機モノマーと適合性であるために充分に親油性であり、他方では、これらの活性成分は、その抗菌作用を完全に発揮し得るために高い水溶性を有する。さらに、これらの活性成分は、ラジカル重合を抑止しないことが見出された。
【0030】
本発明による歯科材料は、充填材料および一時的充填材料として(例えば、作製された腔および歯根管のため)、アンダーフィリング材料(underfilling material)として、セメントおよび一時的セメントとして(例えば、間接的修復物を接合するため)、穴、裂溝、歯根管、歯根、ぞうげ質およびエナメル質の表面のための封止剤として、一時的修復材料として(例えば、一時的なクラウンおよびブリッジのための材料として)、接着剤として、コーティング材料として、エッチング剤として、ならびに歯根管封止剤として、特に適切である。
【0031】
好ましい歯科材料は、以下のものである:
接着剤であって、例えば、接着剤の塗布前に酸での基材調整を必要とするエナメル質/ぞうげ質接着剤(トータルエッチ技術);自己エッチングエナメル質/ぞうげ質接着剤。
【0032】
一時的修復材料であって、例えば、複合材ベースの一時的固定セメント;ポリカルボキシレート/酸化亜鉛ベースの一時的固定セメント;複合材ベースの一時的充填材料;ガラスイオノマーベースの一時的充填材料;ポリカルボキシレート/酸化亜鉛ベースの一時的充填材料;一時的複合材またはPMMAベースのクラウン材料およびブリッジ材料。
【0033】
セメントであって、例えば、ガラスイオノマーセメント、ガラスイオノマーハイブリッド材料、ポリカルボキシレートセメント。
【0034】
充填材料であって、例えば、コンポマー充填材料、複合充填材料、複合固定材料、ブラケットセメント。
【0035】
封止剤であって、例えば、裂溝封止剤およびアクリレートコーティング材料。
【0036】
本発明による歯科材料は、好ましくは、0.01重量%〜3.0重量%、特に好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして非常に特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分を含有する。他に記載されない限り、全ての百分率は、歯科材料の全組成に関連する。
【0037】
本発明によれば、重合性歯科材料が特に好ましく、特に、ラジカル重合により硬化し得る歯科材料が好ましい。これらの材料は、式(I)による活性成分に加えて、結合剤としての少なくとも1種の重合性エチレン性不飽和モノマー、ラジカル重合のための開始剤を含有し、そしてまた、有機物および/または無機物の充填材を含有し得る。
【0038】
これらの重合性歯科材料は、
歯の充填材料として、インレーもしくはアンレー、歯科用セメントのための材料として、クラウンおよびブリッジのための上張り材料として、入れ歯のための材料として、一時的修復のための材料または歯科補綴学、保存修復学および予防歯科学のための他の材料として、
エナメル質/ぞうげ質接着剤として、
歯の充填物、修復材料、義歯および自然の歯のためのコーティング材料として、
特に適切である。
【0039】
二酸化ケイ素と、20モル%までの、周期表のI族、II族、III族およびIV族の少なくとも1つの元素の酸化物との非晶質球状粒子が、無機充填材として特に適している。これらは、好ましくは、1.50〜1.58の屈折率、および0.1μm〜1.0μmの平均一次粒径を有する。
【0040】
他の好ましい充填材は、石英、ガラスセラミックまたはガラス粉末、あるいはこれらの混合物である。これらは、好ましくは、同様の1.50〜1.58の屈折率、および0.4μm〜5.0μmの平均粒径を有する。
【0041】
少なくとも2種の異なる充填材を含有する充填材混合物が、特に好ましくは使用される。上記球状二酸化ケイ素粒子をベースとする少なくとも1種の充填材を第一の充填材成分として含有し、そして少なくとも1種の石英、ガラスセラミックおよび/またはガラス粉末を第二の充填材成分として含有する、充填材混合物が好ましい。
【0042】
非晶質球状二酸化ケイ素粒子は、二酸化ケイ素ベースの非晶質球状材料であり、この材料はさらに、周期表のI族、II族、III族およびIV族の少なくとも1つの元素の酸化物を含有する。ストロンチウムおよび/またはジルコニウムの酸化物が、好ましくは使用される。平均一次粒径は、0.1μm〜1.0μm、特に0.15μm〜0.5μmの範囲である。この無機充填材の屈折率は、好ましくは、1.50〜1.58、特に1.52〜1.56である。特に好ましい値は、1.53±0.01である。異なる粒子の混合物もまた使用され得る。この型の充填材は、DE−PS 32 47 800に記載されている。これらの充填材粒子はまた、1μm〜30μmの平均粒径を有する凝集物の混合物として焼結されて存在し得る。
【0043】
同様に好ましい充填材は、石英、ガラスセラミック、および特に、ガラス粉末である。この無機充填材の平均粒径は、0.5μm〜5.0μm、特に1.0μm〜2.0μm、そして特に好ましくは1.0μm〜1.5μmであるべきであり、一方で、屈折率は、1.50〜1.58、特に1.52〜1.56の値を有するべきである。充填材混合物もまた使用され得る。本発明によれば、1.1μm〜1.3μmの範囲の平均粒径を有するBa−シリケートガラス、およびまた、1.1μm〜1.3μmの範囲の平均粒径を有するSr−シリケートガラス、およびまた、1.0μm〜1.6μmの平均粒径を有するLi/Al−シリケートガラスが、好ましくは使用される。このような粉末は、例えば、Reimbold & Strich(Cologne)製のRS超微細ミルを用いて微細粉砕することによって、得られ得る。
【0044】
必要に応じて、第一の充填材成分および/または第二の充填材成分に加えて、なおさらなる充填材が、増大したX線不透明性を達成するために使用され得、この場合、これらの充填材の平均一次粒径は、5.0μmを超えないべきである。このような充填材は、例えば、DE−OS 35 02 594に記載されている。特に好ましく使用されるさらなる充填材は、三フッ化イッテルビウムである。
【0045】
必要に応じて、少量の微細な、発熱性または湿式沈殿したケイ酸が、粘度を調整するために歯科材料に組み込まれ得るが、好ましくは、歯科材料に対して最大5重量%で組み込まれ得る。
【0046】
本発明による歯科材料中の、上記充填材からなる充填材の総量は、意図される用途に依存して、0重量%〜90重量%、好ましくは2重量%〜85重量%、そして特に好ましくは10重量%〜80重量%である。第一の充填材成分の重量百分率は、好ましくは、5%〜60%、特に10%〜30%であり、第二の充填材成分の百分率は、15%〜85%、特に30%〜70%である。各場合において、歯科材料全体に対してである。
【0047】
これらの無機充填材は、好ましくは、シラン化される。例えば、α−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランが、接着促進剤として適切である。使用される接着促進剤の量は、充填材の型およびBET表面積に基づく。
【0048】
歯科材料のために使用され得る全ての結合剤が、重合性有機結合剤として適切であり、特に、単官能性もしくは多官能性の(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド(これらは、単独で使用されても混合物中で使用されてもよい)が、適切である。これらの化合物の例として考慮されるものは、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸グリセロール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸デカンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ドデカンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ビスフェノールA、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、2,2−ビス−4(3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)−フェニルプロパン(bis−GMA)、ならびにまた、イソシアネート(特に、ジイソシアネートおよび/またはトリイソシアネート)と、OH基含有(メタ)アクリレートとの反応生成物である。これの例は、1molのジイソシアン酸ヘキサメチレンと2molのメタクリル酸2−ヒドロキシエチレンとの反応生成物、1molのトリ(6−イソシアナトヘキシル)ビウレットと3molのメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの反応生成物、および1molのジイソシアン酸2,2,4−トリメチルヘキサメチレンと2molのメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの反応生成物であり、これらは以下において、ウレタンジメタクリレートと呼ばれる。
【0049】
N−一置換またはN−二置換のアクリルアミド(例えば、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドまたはN−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド)、およびN−一置換メタクリルアミド(例えば、N−エチルメタクリルアミドまたはN−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド)、ならびにまた、N−ビニルピロリドンおよびアリルエーテル。これらのモノマーは、室温で液体であるので、希釈モノマーとしてもまた適切である。
【0050】
2つ以上のラジカル重合性基を有するモノマーは、架橋モノマーとして適切であり、特に、架橋ピロリドン(例えば、1,6−ビス−(3−ビニル−2−ピロリドニル)−ヘキサン)、または市販のビスアクリルアミド(例えば、メチレンビスアクリルアミドまたはエチレンビスアクリルアミド)、ビス(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N’−ジエチル−1,3−ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3−ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4−ビス(アクリルアミド)ブタンまたは1,4−ビス(アクリロイル)ピペラジン(これは、対応するジアミンと(メタ)アクリル酸クロリドとの反応から合成される))が適切である。
【0051】
本発明による歯科材料は、好ましくは、少なくとも1種の架橋モノマーを含有する。歯科材料中の架橋モノマーの百分率は、好ましくは、10重量%〜95重量%、好ましくは20重量%〜75重量%の範囲である。
【0052】
本発明による歯科材料はまた、ラジカル重合性の酸基含有モノマーを含有し得る。酸基含有モノマーはまた、以下において酸性モノマーと呼ばれる。歯科材料は、好ましくは、酸性モノマーと非酸性モノマーとの混合物を含有する。好ましい酸基は、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基および/またはスルホン酸基であり、これらの基は、酸形態で存在しても、エステルの形態で存在してもよい。ホスホン酸基またはホスフェート基を有するモノマーが好ましい。モノマーは、1つ以上の酸基を有し得、1つ〜2つの酸基を有する化合物が好ましい。
【0053】
好ましい重合性カルボン酸は、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸である。
【0054】
好ましいホスホン酸モノマーは、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−ペンチル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチルフェニルエステルである。
【0055】
好ましい酸性重合性リン酸エステルは、リン酸一水素2−メタクリロイルオキシプロピルおよびリン酸二水素2−メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一水素2−メタクリロイルオキシエチルおよびリン酸二水素2−メタクリロイルオキシエチル、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−一水素ホスフェート、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10−メタクリロイルオキシデシル、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、リン酸二水素6−(メタクリルアミド)ヘキシル、ならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピルアミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートである。
【0056】
好ましい重合性スルホン酸は、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)−プロピルスルホン酸である。
【0057】
歯科材料中の酸性モノマーの百分率は、0重量%〜85重量%、好ましくは0重量%〜60重量%の範囲である。
【0058】
さらに、本発明による歯科材料はまた、溶媒を含有し得、好ましくは、0重量%〜80重量%、特に好ましくは0重量%〜60重量%、そして非常に特に好ましくは0重量%〜40重量%の溶媒を含有し得る。
【0059】
溶媒は主として、接着剤およびコーティング材料において使用される。好ましい溶媒は、水、メタノール、エタノール、フェノキシエタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、アセトンおよびこれらの混合物である。
【0060】
使用される開始剤の型に依存して、歯科材料は、高温で重合性、低温で重合性、または光重合性であり得る。公知の過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチルまたは過安息香酸tert−ブチル)が、高温での重合のための開始剤として使用され得るが、α,α’−アゾ−ビス(イソブチロエチルエステル)、ベンゾピナコールおよび2,2’−ジメチルベンゾピナコールもまた適切である。
【0061】
例えば、ベンゾフェノンおよびその誘導体、ならびにまた、ベンゾインおよびその誘導体もまた、光重合のための開始剤として使用され得る。さらなる好ましい光感作剤は、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4’−ジクロロベンジルおよび4,4’−ジアルコキシベンジルである。カンファーキノンが、特に好ましくは使用される。光感作剤を還元剤と一緒に使用することが好ましい。還元剤の例は、アミン(例えば、シアノエチルメチルアニリン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルジフェニルアミン、N,N−ジメチル−sym−キシリジンおよびN,N−3,5−テトラメチルアニリン)、ならびに4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルである。さらに、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシドの生成物群の光開始剤、またはアシルゲルマニウム化合物もまた、使用され得る。
【0062】
ラジカル生成系(例えば、過酸化ベンゾイルまたは過酸化ラウロイル)が、低温での重合のための開始剤として、アミン(例えば、N,N−ジメチル−sym−キシリジンまたはN,N−ジメチル−p−トルイジン)と一緒に使用される。二重硬化系(例えば、アミンおよび過酸化物と組み合わせた光開始剤)もまた、開始のために使用され得る。UV光硬化性開始剤と可視光硬化性開始剤との混合物もまた、光開始剤として考慮される。
【0063】
歯科材料中のこれらの開始剤の量は、通常0.01重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜3.5重量%である。
【0064】
微細粒子の破片またはビーズの重合体(これは、上記ビニル化合物のホモポリマーまたはコポリマーであり得る)もまた、歯科材料に組み込まれ得る。これらのホモポリマーまたはコポリマーは、次に、記載された無機充填材(これらもまたX線不透過性である)で満たされ得る。歯科材料は、通常の染色剤および安定剤をさらに含有し得る。
【0065】
本発明による歯科材料は、好ましくは、以下の全体的な組成を有する:
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分;
20重量%〜95重量%、好ましくは30重量%〜90重量%、そして特に好ましくは35重量%〜80重量%の結合剤、
0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.3重量%〜4.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%〜3.5重量%の開始剤;および必要に応じて
0重量%〜90重量%、好ましくは2重量%〜85重量%、そして特に好ましくは10重量%〜80重量%の充填材;および必要に応じて
0重量%〜80重量%、特に好ましくは0重量%〜60重量%、そして非常に特に好ましくは0重量%〜40重量%の溶媒。
【0066】
本発明による歯科材料は、例えば、Streptococcus mutansおよび/または乳酸杆菌属により引き起こされる歯の損傷を予防するのに、あるいはまた、Candida albicansにより引き起こされる補綴物非適合性を予防するのに、適切である。
【0067】
本発明は、実施例および図面を参照しながら、以下にさらに詳細に記載される。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
抗菌性エナメル質/ぞうげ質接着剤
式(Ia)による抗菌活性成分の、接着剤処方物のぞうげ質およびエナメル質接着に対する影響を研究するために、以下の組成の混合物を調製した:
(実施例1a:トータルエッチ技術のための抗菌性エナメル質/ぞうげ質接着剤)
(i)17.1重量%の架橋剤であるジメタクリル酸グリセロール(GDMA);
(ii)69重量%の親水性モノマーであるメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA);
(iii)12重量%のエタノール;
(iv)1.0重量%の式(Ia)による抗菌活性成分;
(v)0.5重量%のエチル−p−ジメチルアミノベンゾエート;
(vi)0.4重量%のカンファーキノン。
【0069】
非抗菌性の比較接着剤の場合、上記抗菌活性成分を、対応する量のGDMAで置き換えた。
【0070】
接着値研究(剪断接着強度)
ぞうげ質接着またはエナメル質接着を測定するために、樹脂(Buehler Castolite樹脂)に埋め込んだウシの歯を使用した。最初に、埋め込んだウシの歯を、グリットサイズP500の紙やすりで、ほぼぞうげ質またはエナメル質の位置まで研削した。グリットサイズP1000の紙やすりで短時間微細研削し、水で徹底的に洗浄した後に、この歯を試験片の調製のために準備した。
【0071】
(試験片の調製)
リン酸エッチングゲル(Email Preparator GS,Ivoclar Vivadent AG)を、ぞうげ質またはエナメル質の表面に塗布し、そして30秒間の作用時間後に水で洗浄した。このように調整した表面をペーパータオルで軽く叩いて乾燥させ、次いで、接着剤処方物を塗布した。10秒間の作用時間後、この接着剤の層を、重合光(Astralis(登録商標)7)での照射により20秒間重合させた。このように調製した歯を剪断接着型内にクランプし、充填複合材を2層(最大合計3mm)で、円形Delrin型(直径4mm)によって塗布し、そして各場合に、重合光(Ivoclar Vivadent AG製Astralis(登録商標)7;>500mW/cm)で40秒間、光に曝露した。このように調製した試験片をこの型から取り出し、そして即座に水に入れた。この試験片を37℃で24時間保存した後に、剪断接着強度を、汎用試験機(Zwick Z010)および試験片デバイス(ギロチン)を用いて、0.8mm/分の速度で決定した。達成された接着値を表1に列挙する。
【0072】
(実施例1b:自己エッチング性抗菌性エナメル質/ぞうげ質接着剤)
(i)20重量%の酸モノマーであるリン酸二水素メタクリロイルオキシデシル(MDP);
(ii)20重量%の酸モノマーであるトリメリト酸4−メタクリロイルオキシエチル無水物(4−META);
(iii)28.1重量%の架橋モノマーであるジメタクリル酸ウレタン(UDMA);
(iv)29.3重量%の1:1アセトン/水混合物;
(v)1.0重量%の式(Ia)の抗菌活性成分;
(vi)0.4重量%の光開始剤であるカンファーキノン;
(vii)0.5重量%の共開始剤であるエチル−p−ジメチルアミノベンゾエート;
(viii)0.7重量%の光開始剤である2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド。
【0073】
非抗菌性の比較接着剤の場合、上記抗菌活性成分を、対応する量のUDMAで置き換えた。
【0074】
この自己エッチング性抗菌性エナメル質/ぞうげ質接着剤の接着値の決定を、実施例1aと同様に実施したが、接着剤の塗布前に基材をリン酸で調整しなかったことが異なった。達成された接着値を表1に列挙する。
【0075】
表1から見られ得るように、式(Ia)の抗菌活性成分の添加は、これらの接着剤のぞうげ質接着特性にもエナメル質接着特性にもネガティブな影響を有さない。
【0076】
【表1】

*)抗菌活性成分を含まない
(実施例2)
抗菌性結合材料
以下の組成物を、以下の成分を混合することにより調製した:
(i)50.1重量%のbis−GMA;
(ii)49.1重量%のTEGDMA;
(iii)0.1重量%の式(Ia)の抗菌活性成分;
(iv)0.3重量%のカンファーキノン;
(v)0.4重量%の共開始剤であるGenocure EPD。
【0077】
歯科用重合光(Bluephase(登録商標)C8,Ivoclar Vivadent AG)での光への20秒間の曝露後、この結合材料は完全に硬化した。
【0078】
(実施例3)
ポリカルボキシレート/酸化亜鉛ベースの抗菌性一時的固定セメント
0.3重量%または3.0重量%の式(Ia)の抗菌活性成分を、市販のポリカルボキシレート/酸化亜鉛ベースの一時的固定セメントであるSystemp.cem(Ivoclar Vivadent AG)の開始剤ペーストに組み込んだ。次いで、処理時間(PT)、硬化時間(ST)およびショアD硬度を決定した。これらの結果を表2に要約する。
【0079】
【表2】

*)比較
表2が示すように、0.3重量%または3.0重量%の活性成分(Ia)の添加は、Systemp.cemの硬化に有意なネガティブな影響を有さない。
【0080】
Systemp.cemは、一時的なクラウンおよびブリッジの一時的な固定のための、酸化亜鉛−ポリカルボキシレートベースの2成分の固定セメントである。基剤ペーストは、酸化亜鉛と、グリセロールと、水との混合物からなり、触媒ペーストは、SiO粒子と、ポリアクリル酸と、水と、オリーブ油との混合物からなる。
【0081】
(実施例4)
複合材ベースの抗菌性一時的固定セメント
0.3重量%または3.0重量%の式(Ia)の抗菌活性成分を、市販の複合材ベースの一時的固定セメントであるSystemp.link(Ivoclar Vivadent AG)の基剤ペーストに組み込んだ。次いで、処理時間(PT)、硬化時間(ST)およびショアD硬度を決定した。これらの結果を表3に要約する。
【0082】
【表3】

*)比較
表3が示すように、0.3重量%または3.0重量%の活性成分(Ia)の添加は、Systemp.linkの硬化に有意なネガティブな影響を有さない。
【0083】
Systemp.linkは、予備的なクラウンおよびブリッジの一時的な固定のための、複合材ベースの二重硬化性の2成分固定セメントである。基剤ペーストは、SiO粒子と、破片重合体(splinter polymerisate)と、モノマー混合物と、第三級芳香族アミンとの混合物からなる。触媒ペーストは、SiO粒子と、破片重合体と、モノマー混合物と、過酸化ジベンゾイルと、カンファーキノン/アミン光開始剤系との混合物からなる。
【0084】
(実施例5)
抗菌性一時的充填材料
0.2重量%または0.5重量%の式(Ia)の抗菌活性成分を、市販の複合材ベースの一時的充填材料であるFermit(Ivoclar Vivadent AG)に組み込んだ。歯科用重合光(Bluephase(登録商標),Ivoclar Vivadent AG)での光への20秒間の曝露後、この材料は完全に硬化した。次いで、ショアD硬度を決定した(結果については表4を参照のこと)。
【0085】
【表4】

*)比較
表4が示すように、0.2重量%または0.5重量%の活性成分(Ia)の添加は、Fermitの硬化に有意なネガティブな影響を有さない。
【0086】
Fermitは、青色光で硬化し得る、一時的1成分充填材料である。この組成物は、SiO粒子と、破片重合体と、モノマー混合物と、カンファーキノン/アミン光開始剤系との混合物からなる。
【0087】
(実施例6)
抗菌性コーティング材料
(i)12.0重量%のメタクリル酸メチル;
(ii)66.7重量%のトリアクリル酸ジ−ペンタエリトリトール;
(iii)0.1重量%の式(Ia)の抗菌活性成分;
(iv)7.9重量%のSiOナノ粒子;
(v)11.5重量%のエタノール;
(vi)1.0重量%の2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド;
(vii)0.3重量%のカンファーキノン;および
(viii)0.5重量%の共開始剤であるエチル−p−ジメチルアミノベンゾエート。
【0088】
歯科用重合光(Bluephase(登録商標),Ivoclar Vivadent AG)での光への20秒間の曝露後、コーティング材料は、酸素の抑止なしで完全に硬化した。
【0089】
(実施例7)
抗菌性流動性充填材料
以下の組成を有する複合充填材料を調製した:
【0090】
【表4A】

1)bis−GMA、ウレタンジメタクリレート、エトキシ化bis−EMA
2)バリウムガラス充填材、三フッ化イッテルビウム、混合酸化物。
【0091】
3.0重量%または5.0重量%の式(Ia)の抗菌活性成分を、複合充填材料に組み込んだ。歯科用重合光(Bluephase(登録商標),Ivoclar Vivadent AG)での光への20秒間の曝露後、全硬化深さ(through−curing depth)を決定した。比較のために、抗菌活性成分であるトリクロサンおよび二酢酸クロルヘキシジンもまた、この複合材料に、3.0重量%または5.0重量%の量で組み込み、そして全硬化深さを決定した(結果については表5を参照のこと)。
【0092】
表5が示すように、活性成分(Ia)の添加は、複合材料の全硬化深さに対する有意なネガティブな影響を有さない。他方で、複合材料の全硬化深さは、トリクロサンまたは二酢酸クロルヘキシジンの添加によって、劇的に低下する。
【0093】
【表5】

*)比較
(実施例8)
ラジカル重合に対するトリクロサンおよび式(Ia)の活性成分の影響
3.0重量%のトリクロサンまたは3.0重量%の式(Ia)の抗菌活性成分を、市販の複合材ベースの一時的固定セメントであるSystemp.link(Ivoclar Vivadent AG)(これは、放射線で硬化する)の基剤ペーストに組み込んだ。次いで、化学硬化の場合の処理時間(PT)、硬化時間(ST)およびショアD硬度を決定した。これらの結果を表6に要約する。
【0094】
【表6】

*)比較
表6が示すように、活性成分(Ia)の添加は、Systemp.linkの硬化に有意なネガティブな影響を有さない。他方で、Systemp.linkの化学硬化は、トリクロサンの添加により完全に抑止される。
【0095】
(実施例9)
式(Ia)による活性成分を含む複合材ベースの一時的セメントの抗菌作用の決定
式(Ia)の活性成分を含む一時的歯科用セメントの抗菌作用を決定するために、3.0重量%の式(Ia)の活性成分を、市販のセメントであるSystemp.link(Ivoclar Vivadent AG)に組み込んだ。次いで、10mmの直径および2mmの厚さを有する円形試験片を、対応する材料で小板に形作り、次いで硬化させた。活性成分を含まず、1.0重量%および3.0重量%のトリクロサンを含むSystemp.linkから作製された試験片を、参照として使用した。この後に、細菌株Streptococcus mutansに対する抗菌作用を研究した。寒天プレートの阻害ゾーンの試験を、この目的で使用した。
【0096】
細菌株:S.mutans DSM20723
培養培地:BHIブロス
寒天:BHI
100μlの希釈していないS.mutans培養溶液を寒天プレート上でプレート培養した。次いで、試験片をこれらの寒天プレートに載せた。37℃/5% COで24時間の保存後に、これらのプレートを評価した。
【0097】
図1および図2に見られ得るように、明白な阻害ゾーンが、式(Ia)の活性成分が添加されたSystemp.link小板(光硬化させた)の場合に見られ得る。他方で、参照サンプルは、細菌増殖の阻害を示さなかった(阻害ゾーンが形成されない)。驚くべきことに、1.0重量%または3.0重量%のトリクロサンの添加もまた、阻害ゾーンの形成をもたらさなかった(図3および図4)。この試験は、本発明による歯科材料が、式(I)の活性成分を有効な量で放出することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化7】

による抗菌活性成分を含有することを特徴とする歯科材料であって、一般式(I)において、
は、H、またはC〜Cアルキル残基であり;
は、直鎖または分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;
は、C〜C20アルキレン残基であり;そして
は、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネートまたはβ−ケトエステルの陰イオンである、
歯科材料。
【請求項2】
式(I)において、
がHであり;
が直鎖Cアルキル残基であり;
が直鎖C10アルキレン残基であり;そして
がCl、アルキルホスフェート、アルキルホスホネートである、
式(I)による活性成分を含有する、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分を含有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項4】
結合剤としての少なくとも1種の重合性エチレン性不飽和モノマー、およびラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項5】
有機物および/または無機物の充填材または充填材混合物をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項6】
少なくとも1種の単官能性もしくは多官能性の(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド、あるいはこれらの混合物を、結合剤として含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項7】
酸性モノマーと非酸性モノマーとの混合物を結合剤として含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項8】
溶媒をさらに含有し、好ましくは、水、メタノール、エタノール、フェノキシエタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、アセトン、またはこれらの溶媒のうちの2つ以上の混合物を含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項9】
0.01重量%〜3.0重量%、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜0.6重量%の式(I)による活性成分;
20重量%〜95重量%、好ましくは30重量%〜90重量%、そして特に好ましくは35重量%〜80重量%の結合剤;
0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.3重量%〜4.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%〜3.5重量%の開始剤;および必要に応じて、
0重量%〜90重量%、好ましくは2重量%〜85重量%、そして特に好ましくは10重量%〜80重量%の充填材;および必要に応じて、
0重量%〜80重量%、特に好ましくは0重量%〜60重量%、そして非常に特に好ましくは0重量%〜40重量%の溶媒、
を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項10】
歯の充填材料、インレーもしくはアンレーのための材料、歯科用セメント、クラウンおよびブリッジのための上張り材料として、あるいは入れ歯のための材料、一時的修復のための材料、または歯科補綴学、保存修復学および予防歯科学のための他の材料として使用するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料を含有する組成物。
【請求項11】
エナメル質/ぞうげ質接着剤として使用するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料を含有する組成物。
【請求項12】
歯の充填物、修復材料、義歯および自然の歯のためのコーティング材料として使用するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料を含有する組成物。
【請求項13】
Streptococcus mutansおよび/または乳酸杆菌属により引き起こされる歯の損傷を予防するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料を含有する組成物。
【請求項14】
Candida albicansにより引き起こされる補綴物非適合性を予防するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料を含有する組成物。
【請求項15】
重合性歯科材料を調製するための組成物であって、該組成物は、式(I)
【化8】

による活性成分を含有し、式(I)において、
は、H、またはC〜Cアルキル残基であり;
は、直鎖または分枝鎖のC〜C20アルキル残基であり;
は、C〜C20アルキレン残基であり;そして
は、Cl、Br、I、F、OH、アルキルアルコラートおよびアリールアルコラート、チオレート、NO、BO3−、PO3−、HPO2−、HPO、アルキルホスフェートおよびアリールホスフェート、アルキルホスホネートおよびアリールホスホネート、PF、TiF2−、BF、アセチルアセトネート、β−ジケトネートまたはβ−ケトエステルの陰イオンである、
組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−236211(P2011−236211A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96597(P2011−96597)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(505247661)イフォクレール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】