説明

抗菌活性を有するペプチド

【課題】抗菌作用を有し、細菌の種又は株の判別や同定をより簡便に行うことができる方法に有用なペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター又は乳酸菌、並びにこれらを利用した、抗菌剤、培地、医薬組成物、飲食品添加物、動物用飼料添加物、化粧品添加物、抗菌方法、及び、リステリア属菌の種類、リステリア モノサイトゲネスの菌株、乳酸菌の菌株、腸球菌の菌株等の判別方法又は判別キットを提供すること。
【解決手段】ペディオシンのアミノ酸配列の一部と、エンテロシンのアミノ酸配列の一部とからなる特定のアミノ酸配列を有するペプチドを作製した。これらのペプチドは抗菌作用を有し、また、これらのペプチドを用いることにより、細菌の種又は株の判別をより簡便に行うことができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌活性を有するペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター又は微生物、並びにこれらを利用した、抗菌剤、培地、医薬組成物、飲食品添加物、動物用飼料添加物、化粧品添加物、抗菌方法、リステリア属菌の種類の判別方法又は判別キット、リステリア モノサイトゲネスの菌株の判別方法又は判別キット、乳酸菌の菌株の判別方法又は判別キット、及び腸球菌の菌株の判別方法又は判別キットに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品、動物用飼料などの製造、包装、及び貯蔵等の工程中に混入した雑菌の菌種の判別や特定を行うことは、衛生管理上極めて重要になっており、様々な技術が開発されている。例えば、特定の細菌を検出するためのオリゴヌクレオチドを用いて、特定の細菌を検出する手法(例えば、特許文献1及び2参照)、特定の細菌由来のタンパク質に対する抗体を用いて、特定の細菌を検出する手法(例えば、特許文献3参照)、特定の細菌を検出するための選択培地を用いて、特定の細菌を検出する手法(例えば、特許文献4参照)などがある。
【0003】
しかしながら、オリゴヌクレオチドや抗体を用いた手法では、高価な装置や試薬を必要とする上、専門的知識を要するため、多検体を日常的に扱う衛生管理には適していない。一方、選択培地を用いた手法は、安価で容易ではあるが、精度が不十分であるため、厳密な分類を要する雑菌汚染源の特定や類似菌の検出に用いることはできない。そのため、雑菌汚染源の菌種の判別や同定をより簡便に行うことができる手法の開発が求められている。
【0004】
ところで、食品、医薬品、化粧品、動物用飼料などの製造、包装、及び保存等において雑菌の混入を防ぐために、抗菌作用を有する乳酸菌産生バクテリオシンの開発がなされている(例えば、特許文献5及び6、並びに非特許文献1参照)。これらのバクテリオシンは、熱耐性でヒトの腸管の消化酵素により分解されるため安全性が最も高く、生産菌の近縁の細菌に対しても抗菌作用を有することが知られている。しかしながら、これらのバクテリオシンは、特定の菌に対する活性しかもたないため、別の菌に対して活性を有するバクテリオシンや広い抗菌スペクトルを有するバクテリオシンの探索や、遺伝子工学的手法を用いた改変バクテリオシン(例えば、非特許文献2参照)の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平11−18780号公報
【特許文献2】特開平5−219997号公報
【特許文献3】特開平10−31022号公報
【特許文献4】特表2004−524017号公報
【特許文献5】特開平5−320017号公報
【特許文献6】特表2004−504815号公報
【非特許文献1】Appl Environ Microbiol. 1992 Aug;58(8):2360-7
【非特許文献2】Biochemistry. 2002 Jul 30;41(30):9508-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、抗菌作用を有し、細菌の種又は株の判別や同定をより簡便に行うことができる方法に有用なペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター又は乳酸菌、並びにこれらを利用した、抗菌剤、培地、医薬組成物、飲食品添加物、動物用飼料添加物、化粧品添加物、抗菌方法、リステリア属菌の種類の判別方法又は判別キット、リステリア モノサイトゲネスの菌株の判別方法又は判別キット、乳酸菌の菌株の判別方法又は判別キット、及び腸球菌の菌株の判別方法又は判別キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、乳酸菌Pediococcus acidilacticiが生産するバクテリオシンであるペディオシン(Pediocin)と、乳酸菌Enterococcus faeciumが生産するバクテリオシンであるエンテロシン(Enterocin)とを用いて、ペディオシンのアミノ酸配列の一部とエンテロシンのアミノ酸配列の一部を置換した様々なハイブリッドペプチドを作製し、所定量を培養液に添加して段階的に希釈した後、各希釈率の希釈培養液中でリステリア属菌、乳酸菌、又は腸球菌を培養して、各ペプチドの各濃度における、リステリア属菌、乳酸菌、腸球菌等に対する抗菌活性を測定した。
【0007】
その結果、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「EP」と称する。)及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Addau」と称する。)は、Listeria monocytogenes(L. monocytogenes)だけでなく、Listeria seeligeri(L. seeligeri)に対しても優れた抗菌活性を有することが明らかになった。また、EP及びAddauは、Pediococcus pentosaceus(P. pentosaceus) JCM 2026株だけでなく、Pediococcus acidilactici(P. acidilactici) IAM 1233株やLeuconostoc Mesenteroides(Leu. Mesenteroides) IAM 13004株に対しても優れた抗菌活性を有することが明らかになった。さらに、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Del」と称する。)は、ペディオシンやエンテロシンに比べ、P. pentosaceus JCM 2026株に対する抗菌活性が弱く、Leu. Mesenteroides IAM 13004株に対して抗菌活性が強いことが明らかになった。また、EP、Addau、及びDelは、ペディオシンやエンテロシンに比べ、Enterococcus faecalis(E. faecalis) IAM 10065に対する抗菌活性が強いことが明らかになった。
【0008】
さらに、各希釈率の希釈培地での培養により、菌種・菌株ごとに各バクテリオシンに対する感受性が異なることが明らかになった。このことから、各希釈率の希釈培地で各種類又は各株の菌を培養することによって得られる、生育の状態を指標としたパターン図を用いて、サンプル中の菌を各希釈率の希釈培地で培養することにより得られるパターンを比較評価することにより、リステリア属菌の種類若しくは菌株、乳酸菌の菌株、腸球菌の菌株等の判別をより簡便(迅速、容易、かつ、精度よく)に行うことができることが明らかになった。
【0009】
このようにして、本発明者は本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るペプチドは、ペディオシンのアミノ酸配列の一部と、エンテロシンのアミノ酸配列の一部とからなり、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列を有する。また、上記ペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、抗菌活性を有するペプチドも本発明に含まれる。但し、ペディオシン及びエンテロシンは除く。
【0011】
また、本発明に係るポリヌクレオチド又はその塩基配列に相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドは、上述のペプチドをコードする。
【0012】
さらに、本発明に係る組換えベクターは、上述のポリヌクレオチドを含有することを特徴とする。上述のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターは、例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、HIVベクター等のウイルスベクターや、トランスポゾン又はプラスミドベクターなどである。
【0013】
また、本発明に係る微生物は、上述の組み換えベクターを含有し、含有する該ベクターが発現する上述のペプチドに耐性を有することを特徴とする。前記微生物としては、乳酸菌であることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る抗菌剤は、上述のペプチド又は微生物を有効成分として含有する。前記抗菌剤は、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア属菌に対して抗菌作用を有することが望ましい。また、前記抗菌剤は、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis) IAM(IAM Culture Collections, Institute for Molecular and Cellular Bioscience, University of Tokyo, Japan) 10065等の腸球菌に対して抗菌作用を有することが望ましい。
【0015】
また、本発明に係る培地は、上述のペプチドを有効成分として含有する。
【0016】
本発明に係る医薬組成物は、上述のペプチド又は組換えベクターを有効成分として含有する。前記医薬組成物は、例えば、感染症を改善するためのものである。前記感染症は、例えば、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の感染又は増殖に起因するものである。
【0017】
本発明に係る飲食品添加物、動物飼料添加物、化粧品添加物等は、上述のペプチド又は微生物を有効成分として含有する。
【0018】
また、本発明に係る抗菌方法は、食品、動物用飼料、化粧品、若しくは医薬品、又はそれらの包装物、若しくは、製造若しくは加工に使用する備品を抗菌する方法であって、上述のペプチド又は微生物を有効成分として含有する組成物を用いることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る判別方法は、リステリア属菌の種類を判別する方法であって、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelに対する、L. innocua(Listeria innocua)、L. ivanovii(Listeria ivanovii)、L. monocytogenes、L. grayi(Listeria grayi)、L. seeligeri、及びL. welshimeri(Listeria welshimeri)の耐性の違いを基にして、前記6種類のリステリア属菌のいずれであるかを判別することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る判別方法は、リステリア属菌の種類を判別する方法であって、エンテロシン、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第1の培地と、ペディオシン、エンテロシン、Delを所定の濃度で含む第2の培地と、ペディオシン又はDelを所定の濃度で含む第3の培地と、EP又はAddauを所定の濃度で含む第4の培地と、を用いてサンプル中のリステリア属菌をそれぞれ培養する工程と、培養した各培地中の前記リステリア属菌の生育又は増殖を、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない第5の培地で前記サンプル中のリステリア属菌を培養した場合のものと比較評価する工程と、前記各培地中で、L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、及びL. welshimeriをそれぞれ培養し、前記各培地における各菌の生育又は増殖を、前記第5の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中のリステリア属菌が、L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、及びL. welshimeriのいずれであるかを判別する工程と、を含む。なお、前記第1乃至第4の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じ場合には、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。
【0021】
本発明に係る判別方法は、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株を判別する方法であって、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelに対する、L. monocytogenes ATCC(American Type Culture Collection) 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD(Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University) 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024の耐性の違いを基にして、前記5種類のリステリア属菌のいずれであるかを判別することを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る判別方法は、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株を判別する方法であって、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第1の培地と、エンテロシン、EP、又はDelを所定の濃度で含む第2の培地と、エンテロシン、EP、又はDelを所定の濃度で含む第3の培地と、ペディオシン又はAddauを所定の濃度で含む第4の培地と、を用いてサンプル中のL. monocytogenesをそれぞれ培養する工程と、培養した各培地中の前記L. monocytogenesの生育又は増殖を、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない第5の培地で前記サンプル中のL. monocytogenesを培養した場合のものと比較評価する工程と、前記各培地中で、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024をそれぞれ培養し、前記各培地における各菌の生育又は増殖を、前記第5の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中のL. monocytogenesが、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024のいずれであるかを判別する工程と、を含む。なお、前記第1乃至第4の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じ場合には、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なり、第1乃至第4の培地のうち、いずれか1の培地には配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドが含まれている。
【0023】
本発明に係る判別方法は、乳酸菌の菌株を判別する方法であって、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelに対する、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM(Japan Collection of Microorganisms) 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae(Lactobacillus zeae) IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) IAM 1120の耐性を基にして、前記6種類の乳酸菌のいずれであるかを判別することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る判別方法は、乳酸菌の菌株を判別する方法であって、所定の濃度のエンテロシンを含む第1の培地と、ペディオシン又はエンテロシンを所定の濃度で含む第2の培地と、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第3の培地と、下記の(a)〜(c)の培地のうち2以上の培地と、を用いてサンプル中の乳酸菌をそれぞれ培養する工程と、培養した各培地中の前記乳酸菌の生育又は増殖を、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない第8の培地で前記サンプル中の乳酸菌を培養した場合のものと比較評価する工程と、前記各培地中で、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120をそれぞれ培養し、前記各培地における各菌の生育又は増殖を、前記第8の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中の乳酸菌が、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120のいずれであるかを判別する工程と、を含む。
(a) ペディオシン、EP、Addau、若しくはDelを所定の濃度で含む第4の培地、又は、Delを所定の濃度で含む第5の培地
(b) ペディオシン、EP、又はAddauを所定の濃度で含む第6の培地
(c) 所定の濃度のエンテロシンを含む第7の培地
なお、前記第1乃至第7の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じ場合には、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。
【0025】
本発明に係る判別方法は、腸球菌の菌株を判別する方法であって、EP、Addau、及びDelに対する、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065の耐性を基にして、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065のいずれであるかを判別することを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る判別方法は、腸球菌の菌株を判別する方法であって、EP、Addau、又はDelを含む第1の培地を用いてサンプル中の腸球菌を培養する工程と、培養した培地中の前記腸球菌の生育又は増殖を、EP、Addau、及びDelを含まない第2の培地で前記サンプル中の腸球菌を培養した場合のものと比較評価する工程と、前記第1の培地中で、E. faecalis IAM 1119及びE. faecalis IAM 10065をそれぞれ培養し、前記第1の培地における各菌の生育又は増殖を、前記第2の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中の腸球菌が、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065であるかを判別する工程と、を含む。
【0027】
本発明に係るキットは、リステリア属菌の種類を判別するためのキットであって、下記の(a)〜(d)のいずれかの組み合わせを含む。
(a) エンテロシンと、ペディオシン及び/又はDelと、EP又はAddauとの組み合わせ
(b) EPと、ペディオシン及び/又はDelとの組み合わせ
(c) Addauと、ペディオシン及び/又はDelとの組み合わせ
(d) Delと、EP又はAddauとの組み合わせ
【0028】
また、本発明に係るキットは、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株を判別するためのキットであって、下記の(a)〜(e)のいずれかの組み合わせを含む。
(a) ペディオシンと、エンテロシン、EP、及びDelからなるグループから選ばれる1又は2以上のペプチドとの組み合わせ
(b) エンテロシンと、ペディオシン及び/又はAddauとの組み合わせ
(c) EPと、ペディオシン及び/又はAddauとの組み合わせ
(d) Addauと、エンテロシン、EP、及びDelからなるグループから選ばれる1又は2以上のペプチドとの組み合わせ
(e) Delと、ペディオシン及び/又はAddauとの組み合わせ
【0029】
さらに、本発明に係るキットは、乳酸菌の菌株を判別するためのキットであって、エンテロシンと、EP、Addau、又はDelとを含む。
【0030】
また、本発明に係るキットは、腸球菌の菌株を判別するためのキットであって、EP、Addau、又はDelを含む。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、抗菌作用を有し、細菌の種又は株の判別や同定をより簡便に行うことができる方法に有用なペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター又は乳酸菌、並びにこれらを利用した、抗菌剤、培地、医薬組成物、飲食品添加物、動物用飼料添加物、化粧品添加物、抗菌方法、リステリア属菌の種類の判別方法又は判別キット、リステリア モノサイトゲネスの菌株の判別方法又は判別キット、乳酸菌の菌株の判別方法又は判別キット、及び腸球菌の菌株の判別方法又は判別キットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0033】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0034】
==抗菌活性を有するペプチド==
上述のように、ペディオシンのアミノ酸配列(配列番号4参照)の一部と、エンテロシンのアミノ酸配列(配列番号5参照)の一部とからなる、EP、Addau、又はDelは、ペディオシンやエンテロシンとは異なる抗菌スペクトルを有することが明らかになった。このことから、EP、Addau、及びDelのいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドも同様に、ペディオシンやエンテロシンとは異なる抗菌スペクトルを有すると考えられる。
【0035】
また、ペディオシン、エンテロシン等のクラスIIaのバクテリオシンは、N末端側に細胞膜に結合するためのYGNGVモチーフを有し、C末端側に細胞膜に貫通して孔を形成するためのαへリックス領域と、抗菌活性に重要なジスルフィド結合とを有することが知られている。従って、EP、Addau、又はDelにおいて、上記の作用や結合を損しない範囲内で、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列を有するペプチド(ペディオシンやエンテロシンを除く。)は、EP、Addau、Del等と同様に、ペディオシンやエンテロシンとは異なる抗菌スペクトルを有すると考えられる。
【0036】
以上のことから、EP、Addau、又はDelを有するペプチドや、このペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列を有するペプチドなどを有効成分として含有する組成物は、抗菌剤として有用である。また、上述のペプチドに、例えば、His、GST、FLAGなどのタグが結合したペプチドも同様の抗菌活性を有し、抗菌剤として有用であると考えられる。
【0037】
なお、上述のペプチドの作製は、有機化学的に合成することができる。また、適切なエンハンサー/プロモーターをもつ発現ベクターに、上述のペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入し、組換えベクターを作製し、あるいは、Hisタグ、GSTタグなどのタグをコードするポリヌクレオチドと、上述のペプチドをコードするポリヌクレオチドとを融合した融合ポリヌクレオチドを挿入し、この融合ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターを作製し、大腸菌、乳酸菌等の細菌や、イースト、動物細胞などに導入して上述のペプチドを発現させて精製することにより得ることとしてもよい。また、上記ポリヌクレオチド又は上記融合ポリヌクレオチドをin vitroで転写させて得られたmRNAを、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S30抽出液、麦芽抽出液、小麦胚抽出液などを用いたインビトロ翻訳システムにより翻訳させて得ることとしてもよい。なお、上述のポリヌクレオチドとしては、例えば、EPをコードするポリヌクレオチド(配列番号6参照)、Addauをコードするポリヌクレオチド(配列番号7参照)、Delをコードするポリヌクレオチド(配列番号8参照)などを挙げることができる。
【0038】
==本発明に係るペプチドの用途==
本発明に係るペプチドは、L. monocytogenes等のリステリア属菌やE. faecalis IAM 10065等の腸球菌などの病原性細菌に対して抗菌作用を有することから、本発明に係るペプチドを有効成分として含有する組成物を、細菌の感染又は増殖に起因する感染症に対する医薬組成物として用いることにより、感染症の予防、進行抑制、又は治療を行うことが可能となる。
【0039】
また、本発明に係るペプチドを細胞に発現させるためのプラスミドと、高分子キャリアとの複合体も、標的組織にプラスミドを運び、そこでペプチドを発現させることが可能であることから、感染症に対する医薬組成物となりうる。高分子キャリアとして、前記プラスミドを細胞内に導入することが可能な物質であればどのようなものを用いてもよく、例えば、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポロタミン、キトサン、合成ペプチド、又はデンドリマーなどを用いることができる。
【0040】
さらに、上述の組換えベクターを含有する細胞、細菌・酵母等の微生物又はウイルスを本発明に係るペプチドの代わりに医薬組成物に含ませることとしてもよい。これにより、生体内の標的部位において、本発明に係るペプチドを細胞外に放出させることができるようになる。上述の組換えベクターを含有する細胞等は、例えば、動物細胞に、本発明に係るペプチドを発現できる組換えベクターを、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、アデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターを用いたウイルス感染法、又はカルシウムを用いたトランスフェクション法などの公知の方法によって導入することにより作製することができるが、細菌やウイルス等を医薬組成物に用いる場合には、毒性や副作用が生じないようにするために、細菌やウイルス等を遺伝子操作等の公知の方法により、増殖しないように変異させておくことが好ましい。
【0041】
以上のような医薬組成物を、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に対し、例えば、経口投与、あるいは、静脈内又は腹腔内投与することにより、感染症の予防、進行抑制、又は治療を行うことが可能となる。なお、経口投与する場合には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの製剤にしてもよく、腹腔内又は静脈内に投与する場合には、注射剤、坐剤などの製剤にしてもよい。これらの製剤は、従来使用されている製剤添加物(例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味矯臭剤、溶剤、安定剤など)を用いて、常法により製造することができる。
【0042】
また、本発明に係るペプチドや、これを産生する乳酸菌・酵母などの微生物等を有効成分として含有する組成物は、抗菌作用を有することから、この組成物を食品、医薬品、化粧品、動物用飼料などの製造、包装、及び貯蔵等の工程において、食品、医薬品、化粧品、動物用飼料などの添加物、あるいは、抗菌剤として使用することにより、雑菌(特に、食中毒を引き起こすL. monocytogenes)の混入を防止することができ、衛生管理上極めて有用である。
【0043】
さらに、本発明に係るペプチドは、肉色素の変色の原因菌であるLeu. mesenteroidesに対して優れた抗菌作用を有していることから、本発明に係るペプチドを有効成分として含有する組成物は、肉色素変色防止剤として有用である。また、本発明に係るペプチドは、ヨーグルトやチーズなどの発酵スターターとして利用されるLb. delbrueckii subsp. bulgaricusやLactobacillus zeaeに対する抗菌活性が弱く、それ以外の乳酸菌に対しては抗菌活性が強いことから、本発明に係るペプチドを生産する乳酸菌(Lb. delbrueckii subsp. bulgaricusやLactobacillus zeae)は、ヨーグルトやチーズなどの生産の際、目的以外の乳酸菌の混入を防止できるため、発酵スターターとして有用である。
【0044】
==菌種・菌株の判別方法==
L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、L. welshimeri等のリステリア属菌を、各ペプチドを各濃度で含む培地を用いて培養し、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない培地(コントロール培地)で培養した場合の生育又は増殖と比較し、その程度を調べた結果、表1のような結果になることが明らかになった。
【表1】

【0045】
このことから、表2の結果となるような4種類の培地を用いてリステリア属菌をそれぞれ培養し、コントロール培地で培養した際の生育又は増殖と比較し、その程度を評価することによってリステリア属菌の種類(L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、L. welshimeri等)を判別することができることが示された。従って、表2の結果が得られるように4種類の、ペプチド及びその濃度を組み合わせた培地を選択することによって、上記リステリア属菌の種類を判別することができる。
【表2】

【0046】
以上のことから、エンテロシン、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第1の培地と、ペディオシン、エンテロシン、又はDelを所定の濃度で含む第2の培地と、ペディオシン又はDelを所定の濃度で含む第3の培地と、EP又はAddauを所定の濃度で含む第4の培地と、を用いてサンプル中のリステリア属菌をそれぞれ培養し、各培地中のリステリア属菌の生育又は増殖を、コントロール培地でサンプル中のリステリア属菌を培養した際の生育又は増殖と比較評価し、その後、表2に示すパターン図を用いることにより、サンプル中のリステリア属菌が、L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、及びL. welshimeriのいずれであるかを判別することが可能であることが明らかになった。なお、表1から明らかであるが、第1乃至第4の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じであっても、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。
【0047】
また、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、L. monocytogenes RIMD 1205024等のリステリア モノサイトゲネスを、各ペプチドを各濃度で含む培地を用いて培養し、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない培地(コントロール培地)で培養した場合の生育又は増殖と比較し、その程度を調べた結果、表3のような結果になることが明らかになった。
【表3】

【0048】
このことから、表4の結果となるような4種類の培地を用いてリステリア モノサイトゲネスをそれぞれ培養し、コントロール培地で培養した際の生育又は増殖と比較し、その程度を評価することによってリステリア モノサイトゲネスの菌株(L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、L. monocytogenes RIMD 1205024等)を判別することができることが示された。従って、表4の結果が得られるように4種類の、ペプチド及びその濃度を組み合わせた培地を選択することによって、上記リステリア モノサイトゲネスの菌株を判別することができる。
【表4】

【0049】
以上のことから、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第1の培地と、エンテロシン、EP、又はDelを所定の濃度で含む第2の培地と、エンテロシン、EP、又はDelを所定の濃度で含む第3の培地と、ペディオシン又はAddauを所定の濃度で含む第4の培地と、を用いてサンプル中のリステリア モノサイトゲネスをそれぞれ培養し、各培地中のリステリア モノサイトゲネスの生育又は増殖を、コントロール培地でサンプル中のリステリア モノサイトゲネスを培養した際の生育又は増殖と比較評価し、その後、表4に示すパターン図を用いることにより、サンプル中のリステリア モノサイトゲネスが、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024のいずれであるかを判別することが可能であることが明らかになった。なお、表3から明らかであるが、第1乃至第4の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じであっても、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。
【0050】
さらに、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、Lb. delbrueckii subsp. Bulgaricus IAM 1120等の乳酸菌を、各ペプチドを各濃度で含む培地を用いて培養し、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない培地(コントロール培地)で培養した場合の生育又は増殖と比較し、その程度を調べた結果、表5のような結果になることが明らかになった。
【表5】

【0051】
このことから、表6に示すいずれかのパターンの結果となるような5種類の培地を用いて乳酸菌をそれぞれ培養し、コントロール培地で培養した際の生育又は増殖と比較し、その程度を評価することによって乳酸菌の菌株(P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、Lb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120等)を判別することができることが示された。従って、表6の結果が得られるように5種類の、ペプチド及びその濃度を組み合わせた培地を選択することによって、上記乳酸菌の菌株を判別することができる。
【表6】

【0052】
以上のことから、所定の濃度のエンテロシンを含む第1の培地と、ペディオシン又はエンテロシンを所定の濃度で含む第2の培地と、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第3の培地と、下記の(a)〜(c)の培地のうち2以上の培地と、を用いてサンプル中の乳酸菌をそれぞれ培養し、各培地中の乳酸菌の生育又は増殖を、コントロール培地でサンプル中の乳酸菌を培養した際の生育又は増殖と比較評価し、その後、表4に示すパターン図を用いることにより、サンプル中の乳酸菌が、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120のいずれであるかを判別することが可能であることが明らかになった。
(a) ペディオシン、EP、Addau、又はDelを所定の濃度で含む第4の培地、又は、Delを所定の濃度で含む第5の培地
(b) ペディオシン、EP、又はAddauを所定の濃度で含む第6の培地
(c) 所定の濃度のエンテロシンを含む第7の培地
【0053】
なお、表6から明らかであるが、第1乃至第7の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じであっても、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。
【0054】
また、E. faecalis IAM 1119、E. faecalis IAM 10065等の腸球菌を、各ペプチドを各濃度で含む培地を用いて培養し、ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDelを含まない培地(コントロール培地)で培養した場合の生育又は増殖と比較し、その程度を調べた結果、表7のような結果になることが明らかになった。
【表7】

【0055】
このことから、EP、Addau、又はDelを含む培地を用いてサンプル中の腸球菌を培養し、腸球菌の生育又は増殖を、コントロール培地でサンプル中の腸球菌を培養した際の生育又は増殖と比較評価することで、サンプル中の腸球菌が、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065であるかを判別することが可能であることが明らかになった。
【0056】
なお、上述において、各菌の生育又は増殖は、公知の手法により調べることができるが、その簡便さから、例えば、吸光度を測定したり、pH指示薬(菌が増殖するにつれて酸性側に培地が移行する)によりpH値を測定したりすることによって調べることが望ましい。
【0057】
以上のことから、少なくとも、エンテロシンと、ペディオシン及び/又はDelと、EP又はAddauとを含むキット、EPと、ペディオシン及び/又はDelとを含むキット、Addauと、ペディオシン及び/又はDelとを含むキット、Delと、EP又はAddauとを含むキットは、リステリア属菌の種類の判別に有用である。
【0058】
また、少なくとも、ペディオシンと、エンテロシン、EP、及びDelからなるグループから選ばれる1又は2以上のペプチドとを含むキット、エンテロシンと、ペディオシン及び/又はAddauとを含むキット、EPと、ペディオシン及び/又はAddauとを含むキット、Addauと、エンテロシン、EP、及びDelからなるグループから選ばれる1又は2以上のペプチドとを含むキット、Delと、ペディオシン及び/又はAddauとを含むキットは、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株の判別に有用である。
【0059】
さらに、少なくとも、エンテロシンと、EP、Addau、又はDelとを含むキットは、乳酸菌の菌株の判別に有用である。また、少なくとも、EP、Addau、又はDelを含むキットは、腸球菌の菌株の判別に有用である。
【0060】
なお、前記キットは、ペプチドの代わりに、各ペプチドが所定の濃度で添加された培地又はその培地の組成物を含ませることとしてもよい。また、前記キットには、ペプチド以外に、ブロモクレゾールパープル等の公知のpH指示薬を含ませることとしてもよい。
【0061】
上述のような判別方法及び判別キットを用いることにより、培養のみでリステリア属菌の種類、リステリア モノサイトゲネス(L. monocytogenes)の菌株、乳酸菌の菌株、腸球菌の菌株等を判別することが可能になる。従って、これらの判別方法及び判別キットは、食品の安全性確保に貢献するものと考えられる。また、上述のリステリア属菌の種類の判別方法や判別キットなどを用いることにより、従来行われていた、糖の発酵性、資化性試験、β溶血試験、CAMP(Christic-Atkin-Munch-Peterson)テスト等の煩雑な試験を行うことなく、培養のみでヒトに対して病原性を示すL. monocytogenesをほかのリステリア属の菌と容易に区別することができるようになり、様々な現場において検査が可能となる。
【0062】
さらに、上述のリステリア モノサイトゲネス(L. monocytogenes)の菌株の判別方法や判別キットなどを用いることにより、RAPD(Random amplified polymorphic DNA)、MLST(multilocus sequence Typing)等の方法によって区別することができなかった、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、L. monocytogenes RIMD 1205024等の血清型4bに属する菌株を培養のみで容易に区別することが可能になる。
【0063】
また、発酵食品の製造において使用される発酵スターター(乳酸菌)と、発酵中に混入される雑菌(発酵スターターと近縁の乳酸菌)との判別を容易に行うことができるものと期待でき、発酵食品の製造工程における雑菌の混入のモニタリングとして有用であり、発酵食品の品質管理が容易になると考えられる。さらには、腸球菌の菌株の判別を容易に行うことができるので、VREの院内感染経路をたどる手段として有用であると考えられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び図を用いてより詳細に説明する。
【0065】
[実施例1]pFLAG-Pediocinの作製
ペディオシン部分をコードするDNA断片は、以下の2段階PCRによって合成した。まず、互いに鋳型としても機能する、3′末端領域の配列が相補的である二つのプライマーMalFプライマー(10pmol;配列番号11参照)及びMalRプライマー(10pmol;配列番号12参照)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(2.5 units)を混合して、変性1分(95℃)、アニーリング1分(50℃)、伸長10分(72℃)の条件でPCRを行った。得られた産物(配列番号9に示される塩基配列のうち、20〜117番目の塩基配列からなるDNA断片)を鋳型として用い、MalExtFプライマー(25pmol;配列番号13参照)、MalExtRプライマー(25pmol;配列番号14参照)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(2.5 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行って、鋳型の両側に配列を付加して全長を合成した。この反応により得られたDNA断片をBam HI及びEco RIで切断し、2%アガロースゲルを用いた電気泳動法により分離してペディオシンのDNA断片(配列番号9参照)を精製した。このペディオシンのDNA断片を、Ligation High(Toyobo社)を用いて、Bam HI及びEco RIで切断したpUC18(Takara Bio社)に組み込み、プラスミドpUC18-4を作製した。
【0066】
次に、プラスミドpUC18-4を鋳型として用い、pUCHinFプライマー(25pmol;配列番号15参照)、pUCEcoRプライマー(25pmol;配列番号16参照)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(2.5 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った。得られたDNA断片をHin dIII及びEco RIで切断し、得られた断片を、Ligation High(Toyobo社)を用いて、FLAGタグを含むpFLAG-ATS(Sigma社)に組み込み、プラスミドpFLAG-Pediocinを作製した。
【0067】
[実施例2]pFLAG-Enterocinの作製
ペディオシンと同様に、エンテロシン部分をコードするDNA断片を、以下の2段階PCRによって合成した。EntFプライマー(10pmol;配列番号17参照)、EntRプライマー(10pmol;配列番号18参照)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(2.5 units)を混合して、変性1分(95℃)、アニーリング1分(50℃)、伸長10分(72℃)の条件でPCRを行った。得られた産物(配列番号10に示される塩基配列のうち、43〜111番目の塩基配列からなるDNA断片)を鋳型として用い、EntAExtFプライマー(25pmol;配列番号19参照)、EntACRプライマー(25pmol;配列番号20参照)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(2.5 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃) 行った。この反応により得られたDNA断片をHin dIII及びEco RIで切断し、2%アガロースゲルを用いた電気泳動法により分離してエンテロシンのDNA断片(配列番号10参照)を精製した。このエンテロシンのDNA断片を用いて、実施例1に記載の方法と同様にpFLAG-ATS(Sigma社)に組み込み、プラスミドpFLAG-Enterocinを作製した。
【0068】
[実施例3]pFLAG-EPの作製
プラスミドpFLAG-Pediocinを鋳型として用い、Ent plus PAプライマー(25pmol;配列番号21参照)、pUCEcoRプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った(1stPCR)。
【0069】
次に、プラスミドpFLAG-Enterocinを鋳型にして、1stPCRにより得られた産物、EntAExtFプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った(2ndPCR)。
【0070】
その後、2ndPCRにより得られた産物を鋳型として用い、EntAExtFプライマー(25pmol)、pUCEcoRプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った(3rdPCR)。3rdPCRにより得られたDNA断片をHin dIII及びEco RIで切断し、2%アガロースゲルを用いた電気泳動法により分離してEPのDNA断片(配列番号6参照)を精製した。このEPのDNA断片を用いて、実施例1に記載の方法と同様にpFLAG-ATS(Sigma社)に組み込み、プラスミドpFLAG-EPを作製した。
【0071】
[実施例4]pFLAG-Delの作製
プラスミドpFLAG-EPを鋳型として用い、TTHSGdelプライマー(25pmol;配列番号22参照)、pUCEcoRプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った。得られたDNA断片をHin dIII及びEco RIで切断し、2%アガロースゲルを用いた電気泳動法により分離してDelのDNA断片(配列番号8参照)を精製した。このDelのDNA断片を用いて、実施例1に記載の方法と同様にpFLAG-ATS(Sigma社)に組み込み、プラスミドpFLAG-Delを作製した。
【0072】
[実施例5]pFLAG-Addauの作製
プラスミドpFLAG-Pediocinを鋳型として用い、TTHSGaddプライマー(25pmol;配列番号23)、pUCEcoRプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った。得られたDNA断片をHin dIII及びEco RIで切断し、2%アガロースゲルを用いた電気泳動法により分離してAddauのDNA断片(配列番号7参照)を精製した。このAddauのDNA断片を用いて、実施例1に記載の方法と同様にpFLAG-ATS(Sigma社)に組み込み、プラスミドpFLAG-Addauを作製した。
【0073】
[実施例6]pFLAG-PEの作製
プラスミドpFLAG- Enterocinを鋳型として用い、PA plus Entプライマー(25pmol;配列番号24参照)、EntACRプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った(1stPCR)。
【0074】
次に、プラスミドpFLAG-Pediocinを鋳型にして、1stPCRにより得られた産物、pUCHinFプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った(2ndPCR)。
【0075】
その後、2ndPCRにより得られた産物を鋳型として用い、pUCHinFプライマー(25pmol)、EntACRプライマー(25pmol)、Mg2+(2mM)、dNTP mixture(0.2mM)、ExTaq(1.25 units)を混合して、3分(95℃)の変性反応後に25サイクルの変性30秒(95℃)、アニーリング30秒(55℃)、伸長30秒(72℃)の条件でPCRを行い、最後に伸長反応を10分間(72℃)行った(3rdPCR)。3rdPCRにより得られたDNA断片をHin dIII及びEco RIで切断し、2%アガロースゲルを用いた電気泳動法により分離してPEのDNA断片(配列番号25参照)を精製した。このPEのDNA断片を用いて、実施例1に記載の方法と同様にpFLAG-ATS(Sigma社)に組み込み、プラスミドpFLAG-PEを作製した。
【0076】
[実施例7]バクテリオシンの精製
実施例1〜6に記載の方法により得られた、FLAGタグ(DYKDDDDKVKL;配列番号26参照)を有する各プラスミド(ペディオシン、エンテロシン、EP、Addau、及びDel)をそれぞれ大腸菌株JE5505(国立遺伝学研究所より供与)に遺伝子導入し、アンピシリンを含むLB培地(DIFCO Laboratories社)を用いて各大腸菌を37℃で培養し、培地のOD600が0.2の時点でIsopropyl β-D-thiogalactopyranoside (IPTG) 700mmolを添加して発現を誘導した。IPTG添加後、2〜3時間培養し、培養上清を遠心(10,000×g、4℃で15分間)により回収した。次に、各培養上清をpH=5.8に調整し、イオン交換クロマトグラフィーカラム(5-ml SP Sepharose Fast Flow cation-exchange column, Amersham Biosciences社)かけ、0.2M NaClを含む40mMリン酸バッファー(pH=5.8)で洗浄した後、1.2M NaClを含む40mMリン酸バッファー(pH=5.8)で溶出した。各溶出画分に5%(vol/vol)の2-プロパノールと0.1%(vol/vol)のトリフルオロ酢酸を加えた後、逆相クロマトグラフィーカラム(3-ml Resource reverse-phase column, Amersham Biosciences社)にかけ、0.1%(vol/vol)のトリフルオロ酢酸を含む2-プロパノールの直線濃度勾配により溶出し、溶出液を遠心エバポレーターにより乾燥させ、各ペプチド(バクテリオシン)を得た。
【0077】
[実施例8]マイクロプレートアッセイ
精製されたバクテリオシンの量は280nmにおける吸光度から決定した。バクテリオシンのモル吸光係数は個々のアミノ酸残基の寄与から計算した。その結果をもとに、各々の精製バクテリオシンを40ng/μlとなるように調整した。2倍ずつ段階希釈したバクテリオシン溶液2μl、MRS培地(DIFCO Laboratories社;乳酸菌、腸球菌用)またはBHI培地(Brain Heart Infusion;Oxoid社;リステリア菌用)100μl、被検菌希釈液10μl、純水88μlを混合した溶液を96穴プレートのウェルへと注いだ。被検菌は一晩前培養したものをOD660=0.001となるように希釈したものを用いた。上述のようにして準備された96穴プレートを30℃にて10〜13時間培養したのちに、マイクロプレートリーダーにてOD660の吸光度を測定した。被検菌の生育度は以下の計算により算出し、以下のように菌の生育度を3段階に分けて分類した。
P:培地100μl、純水90μl、被検菌希釈液10μl
N:培地100μl、純水100μl
T:培地100μl、純水88μl、被検菌希釈液10μl、バクテリオシン2μl
P, N, T のOD660の値を求め、以下の式に代入した。
【0078】
被検菌の生育度 = 100×(T-N)/(P-N)
被検菌の生育度の分類 : 0 〜 30 → −
31 〜 60 → ±
61 〜 → +
【0079】
結果は、表1、3、5及び7にそれぞれ示した通りである。なお、表には示していないが、FLAG-PEペプチド(PEのアミノ酸配列:配列番号27参照)に関しては、ほとんど全ての場合において、抗菌活性が検出されなかった。従って、ペディオシンのアミノ酸配列の一部とエンテロシンのアミノ酸配列の一部を置換した場合、必ずしももとのペプチドの抗菌活性が保持されるわけではないことが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペディオシンのアミノ酸配列の一部と、エンテロシンのアミノ酸配列の一部とからなり、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドにおいて、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、抗菌活性を有するペプチド(ペディオシン及びエンテロシンを除く。)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド、又はその塩基配列に相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターを含有し、含有する該ベクターが発現する請求項1又は2に記載のペプチドに耐性を有する微生物。
【請求項6】
乳酸菌であることを特徴とする請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、又は請求項5若しくは6に記載の微生物を有効成分として含有する抗菌剤。
【請求項8】
リステリア属菌に対して抗菌作用を有することを特徴とする請求項7に記載の抗菌剤。
【請求項9】
リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)に対して抗菌作用を有することを特徴とする請求項8に記載の抗菌剤。
【請求項10】
腸球菌に対して抗菌作用を有することを特徴とする請求項7に記載の抗菌剤。
【請求項11】
エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis) IAM(IAM Culture Collections, Institute for Molecular and Cellular Bioscience, University of Tokyo, Japan) 10065に対して抗菌作用を有することを特徴とする請求項10に記載の抗菌剤。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有する培地。
【請求項13】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、又は請求項4に記載の組換えベクターを有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項14】
感染症を改善することを特徴とする請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記感染症が、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の感染又は増殖に起因することを特徴とする請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、又は請求項5若しくは6に記載の微生物を有効成分として含有する飲食品添加物。
【請求項17】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、又は請求項5若しくは6に記載の微生物を有効成分として含有する動物用飼料添加物。
【請求項18】
請求項1に記載のペプチド、又は請求項5若しくは6に記載の微生物を有効成分として含有する化粧品添加物。
【請求項19】
食品、動物用飼料、化粧品、若しくは医薬品、又はそれらの包装物、若しくは、製造若しくは加工に使用する備品を抗菌する方法であって、
請求項1若しくは2に記載のペプチド、又は請求項5若しくは6に記載の微生物を有効成分として含有する組成物を用いることを特徴とする抗菌方法。
【請求項20】
リステリア属菌の種類を判別する方法であって、
ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する、L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、及びL. welshimeriの耐性の違いを基にして、前記6種類のリステリア属菌のいずれであるかを判別する方法。
【請求項21】
リステリア属菌の種類を判別する方法であって、
エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第1の培地と、
ペディオシン、エンテロシン、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第2の培地と、
ペディオシン又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第3の培地と、
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第4の培地と、
(第1乃至第4の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じ場合には、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。)
を用いてサンプル中のリステリア属菌をそれぞれ培養する工程と、
培養した各培地中の前記リステリア属菌の生育又は増殖を、ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含まない第5の培地で前記サンプル中のリステリア属菌を培養した場合のものと比較評価する工程と、
前記各培地中で、L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、及びL. welshimeriをそれぞれ培養し、前記各培地における各菌の生育又は増殖を、前記第5の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中のリステリア属菌が、L. innocua、L. ivanovii、L. monocytogenes、L. grayi、L. seeligeri、及びL. welshimeriのいずれであるかを判別する工程と、
を含むことを特徴とする判別方法。
【請求項22】
リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株を判別する方法であって、
ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する、L. monocytogenes ATCC(American Type Culture Collection) 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD(Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University) 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024の耐性の違いを基にして、前記5種類のリステリア属菌のいずれであるかを判別する方法。
【請求項23】
リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株を判別する方法であって、
ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第1の培地と、
エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第2の培地と、
エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第3の培地と、
ペディオシン又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第4の培地と、
(第1乃至第4の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じ場合には、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なり、第1乃至第4の培地のうち、いずれか1の培地には配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドが含まれている。)
を用いてサンプル中のL. monocytogenesをそれぞれ培養する工程と、
培養した各培地中の前記L. monocytogenesの生育又は増殖を、ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含まない第5の培地で前記サンプル中のL. monocytogenesを培養した場合のものと比較評価する工程と、
前記各培地中で、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024をそれぞれ培養し、前記各培地における各菌の生育又は増殖を、前記第5の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中のL. monocytogenesが、L. monocytogenes ATCC 19115、L. monocytogenes ATCC 13932、L. monocytogenes RIMD 1205005、L. monocytogenes RIMD 1205021、及びL. monocytogenes RIMD 1205024のいずれであるかを判別する工程と、
を含むことを特徴とする判別方法。
【請求項24】
乳酸菌の菌株を判別する方法であって、
ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM(Japan Collection of Microorganisms)2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120の耐性を基にして、前記6種類の乳酸菌のいずれであるかを判別する方法。
【請求項25】
乳酸菌の菌株を判別する方法であって、
所定の濃度のエンテロシンを含む第1の培地と、
ペディオシン又はエンテロシンを所定の濃度で含む第2の培地と、
配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第3の培地と、
下記の(a)〜(c)の培地のうち2以上の培地と、
(a) ペディオシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、若しくは配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第4の培地、又は、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第5の培地
(b) ペディオシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを所定の濃度で含む第6の培地
(c) 所定の濃度のエンテロシンを含む第7の培地
(第1乃至第7の培地のうち2以上の培地に含まれるペプチドが同じ場合には、それらの培地に含まれるペプチドの濃度はそれぞれ異なる。)
を用いてサンプル中の乳酸菌をそれぞれ培養する工程と、
培養した各培地中の前記乳酸菌の生育又は増殖を、ペディオシン、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含まない第8の培地で前記サンプル中の乳酸菌を培養した場合のものと比較評価する工程と、
前記各培地中で、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120をそれぞれ培養し、前記各培地における各菌の生育又は増殖を、前記第8の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中の乳酸菌が、P. acidilactici IAM 1233、P. pentosaceus JCM 2026、P. pentosaceus JCM 5890、Leu. mesenteroides IAM 13004、Lb. zeae IAM 12473、及びLb. delbrueckii subsp. bulgaricus IAM 1120のいずれであるかを判別する工程と、
を含むことを特徴とする判別方法。
【請求項26】
腸球菌の菌株を判別する方法であって、
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065の耐性を基にして、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065のいずれであるかを判別する方法。
【請求項27】
腸球菌の菌株を判別する方法であって、
配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む第1の培地を用いてサンプル中の腸球菌を培養する工程と、
培養した培地中の前記腸球菌の生育又は増殖を、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含まない第2の培地で前記サンプル中の腸球菌を培養した場合のものと比較評価する工程と、
前記第1の培地中で、E. faecalis IAM 1119及びE. faecalis IAM 10065をそれぞれ培養し、前記第1の培地における各菌の生育又は増殖を、前記第2の培地で各菌を培養した場合のものと比較評価することにより示された所定の濃度の各ペプチドと前記各菌の生育又は増殖との関係から、前記サンプル中の腸球菌が、E. faecalis IAM 1119又はE. faecalis IAM 10065であるかを判別する工程と、
を含むことを特徴とする判別方法。
【請求項28】
リステリア属菌の種類を判別するためのキットであって、
下記の(a)〜(d)のいずれかの組み合わせを含むことを特徴とする判別キット。
(a) エンテロシンと、ペディオシン及び/又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
(b) 配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、ペディオシン及び/又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、ペディオシン及び/又は配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
(d) 配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
【請求項29】
リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の菌株を判別するためのキットであって、
下記の(a)〜(e)のいずれかの組み合わせを含むことを特徴とする判別キット。
(a) ペディオシンと、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドからなるグループから選ばれる1又は2以上のペプチドとの組み合わせ
(b) エンテロシンと、ペディオシン及び/又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
(c) 配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、ペディオシン及び/又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、エンテロシン、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドからなるグループから選ばれる1又は2以上のペプチドとの組み合わせ
(e) 配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、ペディオシン及び/又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドとの組み合わせ
【請求項30】
乳酸菌の菌株を判別するためのキットであって、
エンテロシンと、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドとを含むことを特徴とする判別キット。
【請求項31】
腸球菌の菌株を判別するためのキットであって、
配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含むことを特徴とする判別キット。


【公開番号】特開2006−230336(P2006−230336A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52679(P2005−52679)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】