説明

抗菌活性物質に対する感受性が増強された形質転換細胞及びその利用

【課題】
OS-1遺伝子等を用いた新たな抗菌活性検定方法等を開発すること。
【解決手段】
少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞に、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼの遺伝子が機能可能な形で導入されてなることを特徴とする形質転換細胞、及び、
物質の抗菌活性検定方法であって、上記の形質転換細胞を被験物質の存在下で培養する工程、当該工程で培養された形質転換細胞内で発現された細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値を測定する工程、当該工程で測定された細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値と対照との差異に基づき前記被験物質の抗菌活性を評価する工程、を有することを特徴とする検定方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質等を有効成分として含有する殺菌剤は、ある種の植物病原糸状菌類に作用させると、その菌類は高浸透圧ストレスを受けた場合のように細胞内のグリセロール合成が亢進し、細胞内浸透圧を制御しきれずに死滅することが知られている。このような植物病原糸状菌類に対する作用性から、これらの殺菌剤に有効成分として含有される抗菌活性物質の標的蛋白質として浸透圧制御に関わる情報伝達系の蛋白質が予想された。
上記の抗菌活性物質に感受性を示すアカパンカビ(Neurospora crassa)で、浸透圧感受性を有する変異株os-1が報告された。この変異株os-1は、上記の抗菌活性物質に対して抵抗性を示す。当該変異株の解析によって原因遺伝子として浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ遺伝子であるOS-1遺伝子が単離された。このOS-1遺伝子の塩基配列にコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質は、2成分制御系のヒスチジンキナーゼの構造を有するとともに、互いにアミノ酸配列の相同性を有する約90アミノ酸からなるポリペプチドが6回繰返し存在する特徴的な配列領域(以下、繰り返し配列領域と記すこともある。)を有する蛋白質であった(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献5、非特許文献6参照。)。OS-1遺伝子に対して相同性を有する遺伝子が、灰色カビ病糸状菌(Botryotinia fuckeliana)、イネいもち病糸状菌(Magnaporthe grisea)、エンドウ根腐病糸状菌(Fusarium solani)等の植物病原糸状菌類からも単離され、塩基配列及びアミノ酸配列が公開されている。これらOS-1遺伝子に対して相同遺伝子群は真核細胞生物の中でも糸状菌類に特異的に存在することが知られている(例えば、非特許文献4、非特許文献7、非特許文献8参照。)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,939,306号
【非特許文献1】GneneBank accession U50263, U53189, AAB03698, AAB01979
【非特許文献2】Alex, A.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:3416-3421
【非特許文献3】Schumacher, M.M. et al., Current Microbiology 34:340-347
【非特許文献4】GneneBank accession AF396827, AF435964, AAL37947, AAL30826
【非特許文献5】Oshima, M. et al., Phytopathology 92(1):75-80
【非特許文献6】Fujimura, M. et al., J. Pesticide Sci. 25:31-36
【非特許文献7】Fujimura, M. et al., Pesticide Biochem. Physiol. 67:125-133
【非特許文献8】GneneBank accession AB041647, BAB40497
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、OS-1蛋白質及びその当該蛋白質に対して相同性を有する蛋白質群は、糸状菌類に特異的な蛋白質であり、浸透圧制御に関わる重要な蛋白質であることから、抗菌活性物質の標的蛋白質として極めて有用であると考え、当該推測に基づきOS-1遺伝子及び当該遺伝子に対して相同性を有する遺伝子を用いた新たな抗菌活性検定方法や抗菌活性物質を効率的に選抜する方法等の開発を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、発明者は鋭意検討を行った結果、抗菌活性物質に対する感受性が増強された形質転換細胞を見出し、この形質転換細胞を用いた新規な抗菌活性の検定方法、及び、この形質転換細胞を用いた抗菌活性物質を選抜する方法を見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、
1.少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞に、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が機能可能な形で導入されてなることを特徴とする形質転換細胞;
2.導入される細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が、少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞内で、前記の欠損されたハイブリッドセンサーキナーゼの機能を相補する遺伝子であることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;
3.細胞が微生物であることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;
4.微生物が出芽酵母であることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;
5.細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性変異を有するヒスチジンキナーゼであり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性であるヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子であることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;
6.細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼが、植物病原糸状菌由来である、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼであることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;
7.細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼが、灰色カビ病糸状菌、イネいもち病糸状菌、ホウレンソウ萎凋病糸状菌、コムギ葉枯病糸状菌、イネ紋枯病糸状又はトマト疫病糸状菌由来である、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼであることを特徴とする前項1の記載の形質転換細胞;
8.細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列が、配列番号1、配列番号16、配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;9.細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列が、配列番号2、配列番号17、配列番号42、配列番号56又は配列番号69で示される塩基配列であることを特徴とする前項1記載の形質転換細胞;
10.物質の抗菌活性検定方法であって、
前項1記載の形質転換細胞を被験物質の存在下で培養する第一工程、
前記第一工程で培養された形質転換細胞内で発現された細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値を測定する第ニ工程、
前記第ニ工程で測定された細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値と、対照との差異に基づき前記被験物質の抗菌活性を評価する第三工程、
を有することを特徴とする検定方法;
11.細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値が、前記形質転換細胞の生育量であることを特徴とする前項10記載の検定方法。
12.前項10記載の検定方法で評価された抗菌活性に基づき抗菌活性物質を選抜することを特徴とする抗菌活性物質の探索方法;
13.前項12記載の探索方法で選抜された抗菌活性物質。
14.植物病原糸状菌由来であって、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ;
15.植物病原糸状菌由来であって、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド;
16.下記のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とするヒスチジンキナーゼ
<アミノ酸配列>
(a)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列、
(c)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列;
17.下記のいずれかのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とするヒスチジンキナーゼ遺伝子
<アミノ酸配列>
(a)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列、
(c)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列;
18.配列番号42、配列番号56又は配列番号69で示される塩基配列を有するポリヌクレオチド;
19.植物病原糸状菌由来であって、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの取得方法であり、配列番号30乃至40、52、53、64、65、85、及び、86のいずれかで示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより所望のポリヌクレオチドを増幅させる工程、及び、増幅された所望のポリヌクレオチドを回収する工程を有することを特徴とする取得方法;
20.配列番号30乃至40、52、53、64、65、85、及び、86のいずれかで示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、抗菌活性物質に対する感受性が増強された形質転換細胞を提供可能にし、さらに当該形質転換細胞を使用する被験物質の抗菌活性検定方法、及び当該方法を使用する抗菌活性物質の探索方法等を提供可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、詳細に本発明を説明する。
「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞に、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が機能可能な形で導入されてなることを特徴とする形質転換細胞」は、宿主細胞である、「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」に、「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を機能可能な形で導入することによって得られる。ここで「遺伝子を機能可能な形で導入する」とは、欠損したハイブリッドセンサーキナーゼの細胞内での機能を相補するように当該遺伝子を導入すること、言い換えれば、ハイブリッドセンサーキナーゼが欠損したことによって引き起こされる細胞の表現型の変化を欠損前の表現型に戻すことのできる形で当該遺伝子を導入することを意味する。具体的には、例えば、出芽酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)の場合には、ハイブリッドセンサーキナーゼであるSLN1の遺伝子(以下、SLN1遺伝子と記すこともある。)が欠損すると通常の生育条件下で生育不可能という形質を示すが、このSLN1遺伝子が欠損した細胞株に出芽酵母から単離されたSLN1遺伝子を導入することによって、生育可能という形質を示すことを意味する。「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」は、宿主細胞が本来有している少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを、欠損させることによって得られる。まず、以下に、ハイブリッドセンサーキナーゼについて説明する。
【0009】
(2成分制御系とハイブリッドセンサーキナーゼ)
2成分制御系(Two-component regulatory system)は、原核細胞生物で広く用いられている情報伝達系であり、基本的にはセンサーとレギュレーターと呼ばれる2つの蛋白質より構成されることから2成分制御系と呼ばれている。典型的な2成分制御系では、センサー蛋白質はインプット領域とヒスチジンキナーゼ領域とからなり、レギュレーター蛋白質はレシーバー領域とアウトプット領域とから構成される。インプット領域が外界からの刺激を感知すると、ヒスチジンキナーゼ領域の生物種間でよく保存されたアミノ酸配列中のヒスチジン残基がリン酸化、或いは、脱リン酸化される。ここで、ヒスチジン残基のリン酸化はATPを基質とする自己リン酸化反応である。このリン酸基はレギュレーター蛋白質におけるレシーバー領域の生物種間でよく保存されたアミノ酸配列中のアスパラギン酸残基に転移され、このアスパラギン酸残基のリン酸化の有無がレギュレーター蛋白質におけるアウトプット領域の活性を調節している。原核細胞生物の場合、例外もあるが、アウトプット領域は転写調節因子であることが多く、センサー蛋白質が感知した刺激に対して、前述のリン酸基転移を介してレギュレーター蛋白質が遺伝子発現を直接的に制御している。
センサー蛋白質は、前記の典型的な構造とは異なり、もう少し複雑な構造をとる場合もある。例えば、インプット領域とヒスチジンキナーゼ領域とからなる構造に加えて、C末端側にレギュレーター蛋白質に見られるレシーバー領域が続けて存在する場合がある。この場合は、リン酸基の転移様式も複雑になり、センサー蛋白質から、フォスフォトランスミッターと呼ばれるトランスミッター領域を有する仲介蛋白質を経て、レスポンスレギュレーターと呼ばれるレギュレーター蛋白質にリン酸基転移をすることが知られている。即ち、センサー蛋白質のインプット領域で刺激を感知すると、同分子内のヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基から、同分子内のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ、次いで、フォスフォトランスミッターのヒスチジン残基へ、最後に、レスポンスレギュレーターのレシーバー領域のアスパラギン酸残基へとリン酸基転移の信号伝達がなされる。このように、2成分制御系には3つの蛋白質が関与している場合もある。このような3つの蛋白質からなるリン酸基転移の信号伝達に関与し、前記の構造的な特徴を有するセンサー蛋白質を「ハイブリッドセンサーキナーゼ」という。ハイブリッドセンサーキナーゼは、原核細胞生物だけでなく、酵母等の真核細胞生物である微生物又は植物に存在し、様々な刺激やストレスに対する応答に関与している。
ここで、ハイブリッドセンサーキナーゼのインプット領域とは、ヒスチジンキナーゼ領域のN末端側に存在する領域であって、多くの場合には細胞膜貫通領域を有する。この細胞膜貫通領域は、例えば、TMpred program(K. Hofmann & W. Stoffel, Biol. Chem. Hoppe-Seyler, 374, 166 (1993))等の膜貫通領域予測ソフトウエアを用いた構造予測解析により示される。尚、上記のプログラムは、例えば、http://www.ch.embnet.org/software/TMPRED_form.html から一般的に利用可能である。又はイブリッドセンサーキナーゼのヒスチジンキナーゼ領域とは、例えば、インプット領域のC末端側に存在する領域であって、Parkinson,J.S. & Kofoid,E.C. (1989) Annual Review of Genetics 23:311-336、Stock,J.B. et.al.(1989) Microbiological Reviews 53(4):450-490に記載のように一般的なヒスチジンキナーゼに共通の5つの保存モチーフを有することを特徴とする領域であり、例えば、出芽酵母のハイブリッドセンサーキナーゼSLN1では556番目のアミノ酸から908番目のアミノ酸までの領域である。ハイブリッドセンサーキナーゼのレシーバー領域とは、例えば、ヒスチジンキナーゼ領域のC末端側に存在する領域であって、Parkinson,J.S. & Kofoid,E.C. Annual Review of Genetics 23:311-336(1989)、Stock,J.B. et.al.(1989) Microbiological Reviews 53(4):450-490に記載のように一般的なヒスチジンキナーゼに共通の3つの保存モチーフを有することを特徴とする領域であり、例えば、出芽酵母のハイブリッドセンサーキナーゼSLN1では1088番目のアミノ酸から1197番目のアミノ酸までの領域である。
レスポンスレギュレーター以降の情報伝達も、複雑な場合には、前記のようにレギュレーターのアウトプット領域が転写調節因子であるような簡略な系以外に、細胞内で様々な制御に関わるMAPキナーゼカスケードを介して、遺伝子の発現制御を司る転写調節因子へ信号伝達される場合も知られている。
ハイブリッドセンサーキナーゼは、原核細胞生物だけでなく、酵母等の真核細胞生物である微生物又は植物に存在し、様々な刺激やストレスに対する応答に関与している。
以下に具体的なハイブリッドセンサーキナーゼとハイブリッドセンサーキナーゼが関与する情報伝達の例を挙げて説明する。
【0010】
(出芽酵母のハイブリッドセンサーキナーゼ)
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は浸透圧制御に関わる情報伝達にハイブリッドセンサーキナーゼSLN1を用いている。このSLN1は出芽酵母では唯一のヒスチジンキナーゼである。SLN1はインプット領域に細胞膜貫通領域を有する浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼであり、フォスフォトランスミッターYPD1を介して、レスポンスレギュレーターSSK1にリン酸基転移信号を伝達することが知られている。この信号伝達の下流には3つのキナーゼSSK2(MAPKKK)、PBS2(MAPKK)及びHOG1(MAPK)からなるMAPキナーゼカスケードが存在し、グリセロール生合成等の浸透圧適応に関わる遺伝子発現を制御している。レスポンスレギュレーターSSK1のアウトプット領域はSSK2のリン酸化活性を有している。SSK1はレシーバー領域のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、アウトプット領域のリン酸化活性が阻害され、負の制御を受けている。具体的には、通常の浸透圧ではSLN1のヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基が自己リン酸化され、このリン酸基が、同分子内のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ、次いでYPD1のヒスチジン残基へ、最後にSSK1のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ転移する。SSK1のレシーバー領域中のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、SSK1のアウトプット領域のリン酸化活性が抑制され、SSK2、PBS2及びHOG1からなるMAPキナーゼカスケードのリン酸転移が行われないために、グリセロール生合成等の浸透圧適応に関わる遺伝子発現が誘導されない状態にある。一方、高浸透圧条件になると、SLN1においてヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基の自己リン酸化が停止するために、SSK2、PBS2及びHOG1からなるMAPキナーゼカスケードが活性化し、グリセロール生合成等の浸透圧適応に関わる遺伝子発現が誘導されることが知られている(Maeda,T. et.al. (1994) Nature 369:242-245)。
【0011】
(分裂酵母のハイブリッドセンサーキナーゼ)
分裂酵母(Scchizosaccharomyces pombe)では、細胞周期の制御(G2期からM期への移行)や酸化ストレス応答に3種類のハイブリッドセンサーキナーゼPHK1(MAK2)、PHK2(MAK3)及びPHK3(MAK1)が関与している。分裂酵母にはPHK1、PHK2及びPHK3以外にヒスチジンキナーゼが存在しない。PHK1及びPHK2は過酸化水素等の酸化ストレス応答性のヒスチジンキナーゼである(Buck,V. et.el. Mol.Biol. Cell 12:407-419)。3種類のハイブリッドセンサーキナーゼPHK1、PHK2及びPHK3は、フォスフォトランスミッターSPY1(MPR1)を介して、レスポンスレギュレーターMCS4にリン酸基転移信号を伝達することが知られている。この信号伝達の下流には3つのキナーゼWAK1(MAPKKK)、WIS1(MAPKK)及びSTY1(MAPK)からなるMAPキナーゼカスケードが存在し、細胞周期の制御や酸化ストレス応答に関わる遺伝子発現を制御している。レスポンスレギュレーターMCS4のアウトプット領域はWAK1のリン酸化活性を有している。MCS4はレシーバー領域のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、アウトプット領域のリン酸化活性が阻害され、負の制御を受けている。具体的には、通常条件ではPHK1〜3のヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基が自己リン酸化され、このリン酸基が、同分子内のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ、次いでSPYのヒスチジン残基へ、最後にMCS4のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ転移する。MCS4のレシーバー領域中のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、MCS4のアウトプット領域のリン酸化活性が抑制され、WAK1、WIS1及びSTY1からなるMAPキナーゼカスケードのリン酸転移が行われないために、細胞周期の制御やストレス応答に関わる遺伝子発現が誘導されない状態にある。一方、ストレス条件下では、PHK1〜3においてヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基の自己リン酸化が停止するために、WAK1、WIS1及びSTY1からなるMAPキナーゼカスケードが活性化し、細胞周期の制御や酸化ストレス応答に関わる遺伝子発現が誘導される。結果として、分裂酵母の細胞周期のG2期からM期への移行が促進され、分裂中の細胞長が通常より顕著に短くなるという表現型が認められる(Aoyama,K. et.al. (2001) Boisci. Biotechnol. Biochem. 65:2347-2352)。
【0012】
(細菌のハイブリッドセンサーキナーゼ)
原核細胞生物である大腸菌(Escherichia coli)では、きょう膜多糖の生合成(Capsular polysaccharide synthesis)に関わるcpsオペロンの発現制御にハイブリッドセンサーキナーゼRcsCが関与している。RcsCは細胞膜貫通領域を有するヒスチジンキナーゼであり、フォスフォトランスミッターYojNを介して、レスポンスレギュレーターRcsBにリン酸基転移信号を伝達することが知られている。RcsBのアウトプット領域は、cpsオペロンの転写制御活性を有する。具体的には、通常条件では、RcsCのヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基が自己リン酸化され、このリン酸基が、同分子内のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ、次いでYojNのヒスチジン残基へ、最後にRcsBのレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ転移する。RcsBのレシーバー領域中のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、RcsBのアウトプット領域のcpsオペロン転写活性が抑制され、きょう膜多糖の生合成に関わる遺伝子発現が誘導されない状態にある。一方、高浸透圧条件下では、RcsCにおいてヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基の自己リン酸化が停止するために、RcsBのアウトプット領域のcpsオペロン転写活性が活性化し、きょう膜多糖の生合成に関わる遺伝子発現が誘導される(Clarke,D.J. et.al. (2002) J.Bactriol. 184:1204-1208)。
生物発光性の海洋微生物Vibrio harveyiは、自身の細胞密度に応じてルシフェラーゼによる蛍光を発する。この細胞密度応答性の生物発光に関する遺伝子発現制御にハイブリッドセンサーキナーゼLuxN及びLuxQが関与している。LuxN及びLuxQは細胞膜貫通領域を有するヒスチジンキナーゼである。V. harveyiは自身の細胞密度を感知するために、Autoinducerと呼ばれる2種類の物質(AI-1、AI-2)を生産分泌し、AI-1をLuxNが感知し、またAI-2をLuxQが感知することにより情報伝達する。LuxN及びLuxQはフォスフォトランスミッターLuxUを介して、レスポンスレギュレーターLuxOにリン酸基転移信号を伝達することが知られている。LuxOのアウトプット領域は、ルシフェラーゼオペロンの転写制御活性を有する。具体的にLuxNを例にして説明すると、細胞密度が低い場合には、周辺のAI-1が少なくLuxNのインプット領域で感知されないために、LuxNのヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基が自己リン酸化され、このリン酸基が、同分子内のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ、次いでLuxUのヒスチジン残基へ、最後にLuxOのレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ転移する。LuxOのレシーバー領域中のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、LuxOのアウトプット領域のルシフェラーゼオペロン転写活性が抑制され、生物発光に関わる遺伝子発現が誘導されない状態にある。一方、高細胞密度条件下では、AI-1が多くこれがLuxNのインプット領域により感知されるために、LuxNにおいてヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基の自己リン酸化が停止し、LuxOのアウトプット領域のルシフェラーゼオペロン転写活性が活性化して、生物発光が誘導される(Freeman, J.A.et.al. (2000) Mol.Microbiol. 35:139-149)。
【0013】
(植物のハイブリッドセンサーキナーゼ)
高等植物のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、植物ホルモンであるサイトカイニンの受容体蛋白質CRE1、AHK2及びAHK3がハイブリッドセンサーキナーゼである。受容体蛋白質CRE1、AHK2及びAHK3はいずれも細胞膜貫通領域を有するサイトカイニン感受性のヒスチジンキナーゼである(Inoue, T. et.al. (2001) Nature 409:1060-1063)。CRE1はフォスフォトランスミッターAHP1及びAHP2を介して、レスポンスレギュレーターARR1、ARR2及びARR10にリン酸基転移信号を伝達することが知られている。ARR1、ARR2及びARR10のアウトプット領域はサイトカイニン誘導性の遺伝子ARR4〜7の転写制御活性を有すると考えられている。具体的には、サイトカイニン存在下では、CRE1のヒスチジンキナーゼ領域のヒスチジン残基が自己リン酸化され、このリン酸基が、同分子内のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ、次いでAHP1及びAHP2のヒスチジン残基へ、最後にARR1、ARR2及びARR10のレシーバー領域のアスパラギン酸残基へ転移する。ARR1、ARR2及びARR10のレシーバー領域中のアスパラギン酸残基がリン酸化されることによって、ARR1、ARR2及びARR10のアウトプット領域の遺伝子転写活性が促進され、サイトカイニン応答性遺伝子ARR4〜7の発現が誘導される(Hwang, I. & Sheen J. (2001) Nature 413:383-389)。
【0014】
(少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞)
「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」とは、細胞が本来有している少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼの機能が失われた状態にある細胞を意味する。かかる細胞としては、例えば、細胞が本来有している少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼの産生が欠失、抑制又は阻害された細胞、細胞が本来有している少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼの活性が欠失、抑制又は阻害された細胞等をあげることができる。より具体的な例として、SLN1を欠損した出芽酵母、PHK1、PHK2及びPHK3の三者をすべて欠損した分裂酵母、RcsCを欠損した大腸菌、LuxNを欠損したV.harveyi、CRE1を欠損したシロイヌナズナ等を挙げることができる。
「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」を調製するには、例えば、SLN1を欠損した出芽酵母TM182株は、Maeda,T. et.al. (1994) Nature 369:242-245記載の方法を用いることができ、PHK1、PHK2及びPHK3の三者をすべて欠損した分裂酵
母KI011株は、Aoyama,K. et.al. (2001) Boisci.Biotechnol.Biochem. 65:2347-2352記載の方法を用いることができる。また、RcsCを欠損した大腸菌SRC122株はSuzuki,T., et.al. (2001) Plant Cell Physiol. 42:107-113に記載の方法で調製でき、LuxNを欠損したV.harveyi BNL63株はFreeman,J.A. et.al. (2000) Mol.Micobiol. 35:139-149記載の方法で調製できる。さらに、CRE1を欠損したシロイヌナズナは、例えば、Inoue,T. et.al. (2001) Nature 409:1060-1063記載の方法に従って、シロイヌナズナを変異原処理して得られたクローンからサイトカニンに対する応答性が喪失したクローンを選抜し、選抜されたクローンのゲノムDNAを鋳型に、Genebank accession AB049934に掲載されているCRE1ゲノム遺伝子の塩基配列を基に合成されたプライマーを用いてPCRでCRE1ゲノム遺伝子断片を増幅し、その塩基配列を確認することによって、CRE1が発現できない欠損クローンを選抜することができる。
また、前記以外の未知のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞を調製するには、例えば、目的とする細胞のハイブリッドセンサーキナーゼ遺伝子を単離し、当該遺伝子を相同組換え等で欠損させることによって調製することもできる。目的とする細胞のハイブリッドセンサーキナーゼ遺伝子を単離するには、ハイブリッドセンサーキナーゼの構造上の特徴を利用することができる。例えば、ヒスチジンキナーゼ領域及びレシーバー領域には、自己リン酸化されうるヒスチジン残基の周辺及び該ヒスチジン残基からリン酸基を受け取るアスパラギン酸残基の周辺のアミノ酸配列が保存されているので、これらの保存領域の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとするポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)や、前記の保存されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、目的とする細胞のハイブリッドセンサーキナーゼ遺伝子を単離することができる。
単離された遺伝子の塩基配列より推定されるアミノ酸配列を基に、前記の構造上の特徴を有するかどうかを検証することによって、単離された遺伝子がハイブリッドセンサーキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子であることを確認することができる。具体的には、Srikantha,T. et.al. (1998) Microbiology 144:2715-2729記載されているPCR法をあげることができる。PCRやハイブリダイゼーションには、例えば、後述する「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子」を単離する際に用いる実験条件を用いることもできる。
また、例えば、Nagahashi,S. et.al. (1998) Microbiology 144:425-432、Srikantha,T. et.al. (1998) Microbiology 144:2715-2729記載の方法に準じて、SLN1の発現を条件的に抑制した出芽酵母において機能相補性を指標にハイブリッドセンサーキナーゼ遺伝子を単離し、当該遺伝子を欠損した細胞を調製することもできる。
【0015】
(細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ)
次に、前記の「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」に機能可能な形で導入する「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」について説明する。
糸状菌類において、上記のハイブリッドセンサーキナーゼと類似の構造を有するヒスチジンキナーゼが単離されている。このヒスチジンキナーゼは、ハイブリッドセンサーキナーゼで見られるヒスチジンキナーゼ領域及びレシーバー領域を有するが、インプット領域に、多くのハイブリッドセンサーキナーゼに見られる細胞膜貫通領域を持たないことが特徴であり、この細胞膜貫通領域の代わりに、互いにアミノ酸配列相同性を有する約90アミノ酸からなるポリペプチドが約6回繰返し存在する特徴的な構造を有する蛋白質である。このヒスチジンキナーゼからの信号伝達の様式は完全に解明されていないが、浸透圧応答に関与していることが知られている。
本発明において「相同性」とは、2つの遺伝子又は2つのタンパク質間の配列の同一性をいう。前記「相同性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の遺伝子又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このように「相同性」は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。また、「相同性」は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
ここで、「互いにアミノ酸配列相同性を有する約90アミノ酸からなるポリペプチドが約6回繰返し存在する構造」としては、例えば、Alex,L.A. et.al. (1996) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:3416-3421、Ochiai,N. et.al. (2001) Pest Manag.Sci. 57:437-442、Oshima,M. et.al. (2002) Phytopathology 92:75-80等に記載の繰返し配列領域があげられ、かかる構造は、ヒスチジンキナーゼ領域のN末端側に存在する。「約90アミノ酸からなるアミノ酸配列が約6回繰返し存在する構造」には、例えば、約90アミノ酸からなるアミノ酸配列が5回繰り返された後に、端が切られた(truncated)6つ目の繰り返し配列が続く構造、約90アミノ酸からなるアミノ酸配列が6回繰り返された後に、端が切られた(truncated)7つ目の繰り返し配列が続く構造、等も含まれる。具体的には、本発明に記載のヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列における「互いにアミノ酸配列相同性を有する約90アミノ酸からなるアミノ酸配列が約6回繰返し存在する構造」としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列で190番目のアミノ酸から707番目のアミノ酸までの領域、配列番号16で示されるアミノ酸配列で189番目のアミノ酸から706番目のアミノ酸までの領域、配列番号41で示されるアミノ酸配列で176番目のアミノ酸から693番目のアミノ酸までの領域、配列番号55で示されるアミノ酸配列で192番目のアミノ酸から709番目のアミノ酸までの領域、配列番号68で示されるアミノ酸配列で299番目のアミノ酸から911番目のアミノ酸までの領域等を挙げることができる。「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」とは、糸状菌類に特徴的に見られるヒスチジンキナーゼであり、互いにアミノ酸配列相同性を有する約90アミノ酸からなるポリペプチドの繰返し配列領域、ヒスチジンキナーゼ領域及びレシーバー領域を有し、且つ細胞膜貫通領域を持たない構造上の特徴を有し、浸透圧感受性を有する蛋白質を言う。
蛋白質が浸透圧感受性を有することを確認するには、当該蛋白質(ヒスチジンキナーゼ)を細胞から欠損させることによって、当該細胞の浸透圧ストレスに対する感受性が増強することを確認してもよいし、当該蛋白質(ヒスチジンキナーゼ)を前記の浸透圧感受性のハイブリッドセンサーキナーゼSLN1を欠損した出芽酵母に導入することによって、欠損したSLN1の機能が相補され当該酵母が生育可能となることを確認し、当該蛋白質が浸透圧感受性であることを確認することもできる。
糸状菌類の中でも、主に、糸状菌のモデル生物であるアカパンカビ、植物を宿主とした病原微生物である植物病原糸状菌等で「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」の存在が報告されている。
本発明ヒスチジンキナーゼ又はその遺伝子としては、例えば、下記のいずれかのアミノ酸配列を有するヒスチジンキナーゼ又はその遺伝子をあげることができる。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列、
(c)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列
【0016】
ここで、前記(b)にある「アミノ酸が欠失、付加もしくは置換」及び前記(c)にある「95%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシング、該蛋白質が由来する生物の個体差間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異(例えば、部位特異的変異導入法や突然変異処理等によって、天然の蛋白質をコードするDNAに変異を導入し発現させることにより作出された蛋白質が有するアミノ酸配列中に存在するアミノ酸の変異)等が含まれる。
【0017】
前記(b)にある「アミノ酸が欠失、付加もしくは置換」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
【0018】
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個(ここで「数個」とは、2〜約10個程度である。)、又はそれ以上である。かかる改変の数は、本発明の効果を見出すことのできる範囲であれば良い。
【0019】
また前記欠失、付加又は置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
【0020】
本発明において「配列同一性」とは、2つの遺伝子又は2つの蛋白質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の遺伝子又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような「配列同一性」は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。
上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。また、「相同性」は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
【0021】
本発明における配列同一性は、例えば、アミノ酸配列基準の場合には95%以上であることが好ましく、また塩基配列基準の場合にも95%以上であることが好ましい。
【0022】
以下に、より具体的な「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」の例を挙げて説明する。
【0023】
(アパカンカビの細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ)
アカパンカビの浸透圧感受性の変異株os-1より単離されたOS-1遺伝子にコードされる蛋白質OS-1を、「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」として挙げることができる(Schumacher,M.M. et.al. (1997) Current Microbiol. 34:340-347、Alex,L.A. et.al. (1996) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:3416-3421)。OS-1のアミノ酸配列、及び、OS-1遺伝子の塩基配列が公開されており(アミノ酸配列:AAB03698, AAB01979、塩基配列:U50263, U53189)、抗菌活性物質のスクリーニングへの有用性がUS5,939,306に記載されている。アカパンカビ変異株os-1は、野生株より高浸透圧ストレスに感受性が高くなることから、OS-1はアカパンカビにおいて浸透圧適応に関与する浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼであることが分かっている。OS-1はそのアミノ酸配列から、前記の構造的な特徴を有することが知られている。また、アカパンカビ変異株os-1は、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質等を有効成分として含有する殺菌剤に抵抗性を有することも知られている。さらに、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質を有効成分として含有する殺菌剤に抵抗性を示すアカパンカビ変異株より単離されたOS-1変異遺伝子は、OS-1の特徴的な繰返し配列中にアミノ酸置換をもたらすような遺伝子変異が、OS-1遺伝子上に認められた(Miller,T.K. et.al. (2002) Fungl Gen.Biol. 35:147-155)。このようなことから、前記の殺菌剤の有効成分として含まれる抗菌活性物質がアカパンカビのOS-1を標的としていることが予想されている。
【0024】
(灰色カビ病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ)
次に、「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」の具体的な例として、灰色カビ病糸状菌(Botryotinia fuckeliana)のBcOS-1が挙げられる。BcOS-1遺伝子は、アカパンカビOS-1遺伝子の相同遺伝子として単離され、塩基配列及びアミノ酸配列が公開されている(塩基配列:Genebank accession AF396287, AF435964, アミノ酸配列:Genebank accession AAL37947, AAL30826)。BcOS-1はそのアミノ酸配列から、前記の構造的な特徴を有することが知られている。また、灰色カビ病糸状菌のジカルボキシイミド系抗菌活性物質を有効成分として含有する殺菌剤に対する抵抗性株から単離されたBcOS-1遺伝子には、アカパンカビのジカルボキシイミド系抗菌活性物質を有効成分として含有する殺菌剤に対する抵抗性株から単離されたOS-1遺伝子の場合と同様に、BcOS-1の特徴的な繰返し配列中にアミノ酸置換をもたらすような遺伝子変異が、BcOS-1遺伝子上に認められた。
さらに、このBcOS-1を欠損した抗菌活性物質耐性変異株は、野生株より浸透圧感受性が高いことから、BcOS-1が浸透圧感受性のヒスジンキナーゼであることが知れられている(Oshima, M. et.al. (2002) Phytopathology 92:75-80)。
BcOS-1として、より具体的には、実施例に記載したBc-16株より単離された配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するBcOS-1を挙げることができる。
【0025】
(イネいもち病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ)さらに、「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼ」の具体的な例として、イネいもち病糸状菌(Magnaporthe grisea)のHIK1を挙げることができる。HIK1遺伝子は、アカパンカビOS-1遺伝子の相同遺伝子として塩基配列及びアミノ酸配列が公開されている(塩基配列:Genebank accession AB041647, アミノ酸配列:Genebank accession BAB40947)。HIK1はそのアミノ酸配列から、上記のような細胞膜貫通領域を持たない等の構造的な特徴を有することが知られている。また、HIK1遺伝子を欠損したイネいもち病糸状菌は野生株より高い浸透圧感受性が認められ、HIK1が浸透圧感受性のヒスチジンキナーゼであることが示されている。(hppt://www.sci.saitama-u.ac.jp/seitai/iden/Japanese/Abst Symp3.html)
HIK1として、より具体的には、実施例に記載したP-37株より単離された配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するHIK1を挙げることができる。
【0026】
(糸状菌及び酵母の定義)
なお、本発明において「糸状菌」とは「改訂版微生物の分類と同定(上)、長谷川武治編、学会出版センター、1984年(ISBN 4-7622-7399-6)」等に記載されている、変形菌門(Myxomycota)と真正菌門(Eumycota)からなる菌類(fungi)、のうち、酵母(yeast)として分類され得る菌類以外の菌類」を意味する。例えば、変形菌門に分類される糸状菌としては、ネコブカビ綱に属するハクサイ根こぶ病糸状菌(Plasmodiophora brassicae)等があげられる。また真正菌門に分類される糸状菌としては、鞭毛菌亜門に属するジャガイモ疫病糸状菌(Phytophthora infestans)、接合菌亜門に属するサツマイモ軟腐病糸状菌(Rhizopus stolonifer)、立枯病糸状菌(Rhizopus oryzae)、子のう菌亜門に属するアカパンカビ(Neurospora crassa)、コムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)、コムギうどんこ病糸状菌(Erysiphe graminis)、イネ立枯病糸状菌(Linocarpon cariceti)、ごま葉枯病糸状菌(Cochliobolus miyabeanus)、灰色カビ病糸状菌(Botrytinia fuckeliana)、イネいもち病糸状菌(Magnaporthe grisea)、担子菌亜門に属するトウモロコシ黒穂病糸状菌(Ustilago maydis)、コムギさび病糸状菌(Puccinia recondita)、イネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)、不完全菌亜門に属するトマト葉かび病糸状菌(Cladosporium fulvum)、ナシ黒斑病糸状菌(Alternaria kikuchiana)、ホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)等があげられる。
また、酵母(yeast)とは、「改訂版微生物の分類と同定(上)、長谷川武治編、学会出版センター、1984年(ISBN 4-7622-7399-6)」に記載されているように、「主として出芽によって増殖し、単細胞世代が長く、単細胞の増殖で形成するコロニーは毛状にならず、白色ないし明色の糊状となる」ような菌類を意味する。例えば、Saccharomyces属に属するSaccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces属に属するSchizosaccharomyces pombe、Phichia属に属するPhichia burtonii、Candida属に属するCandida albicans等をあげることができる。
【0027】
(ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性変異を有するヒスチジンキナーゼであり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性であるヒスチジンキナーゼ)
前記の「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」は、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性変異を有する。
ここで、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質とは、ジカルボキシイミドを基本骨格とする抗菌活性物質の総称であり、Modern Selective Fungicide Properties, Applications, Mechanisms of Action- 2nd rivesd and enlarged edition Lyr,H. ed. Gustav Fischer Verlag, New York, USA ISBN 3-334-60455-1 Capter 6, p99-118等に記載されている抗菌活性物質を示す。具体的には、化学式(1)に示される構造を有する化合物(Procymidone:以下、化合物(1)と記すこともある。)、化学式(2)に示される構造を有する化合物(Iprodione:以下、化合物(2)と記すこともある。)、化学式(3)に示される構造を有する化合物(Vinclozolin:以下、化合物(3)と記すこともある。)等を挙げることができる。芳香族炭化水素系抗菌活性物質とは、ベンゼン環を基本骨格とする抗菌活性物質の総称であり、Modern Selective Fungicide Properties, Applications, Mechanisms of Action- 2nd rivesd and enlarged edition Lyr,H. ed. Gustav Fischer Verlag, New York, USA ISBN 3-334-60455-1 Capter 5, p75-98等に記載されている抗菌活性物質を示す。具体的には、化学式(4)に示される構造を有する化合物(Quintozene:以下、化合物(4)と記すこともある。)、化学式(5)に示される構造を有する化合物(Tolclofos-methyl:以下、化合物(5)と記すこともある。)等を挙げることができる。また、フェニルピロール系抗菌活性物質とは、フェニルピロールを基本骨格とする抗菌活性物質の総称であり、Modern Selective Fungicide Properties, Applications, Mechanisms of Action- 2nd rivesd and enlarged edition Lyr,H. ed. Gustav Fischer Verlag, New York, USA ISBN 3-334-60455-1 Capter 19, p405-407等に記載されている抗菌活性物質を示す。具体的には、化学式(6)に示される構造を有する化合物(Fludioxonil:以下、化合物(6)と記すこともある。)、化学式(7)に示される構造を有する化合物(Fenpiclonil:以下、化合物(7)と記すこともある。)等を挙げることができる。
【0028】
前記ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素抗菌活性物質及びフェニルピロール系抗菌活性物質の代表的な化合物の化学式を以下に示す。

(1)化学式(1)に示される構造を有する化合物(化合物(1))
【0029】
【化1】


(2)化学式(2)に示される構造を有する化合物(化合物(2))
【0030】
【化2】


(3)化学式(3)に示される構造を有する化合物(化合物(3))
【0031】
【化3】


(4)化学式(4)に示される構造を有する化合物(化合物(4))
【0032】
【化4】


(5)化学式(5)に示される構造を有する化合物(化合物(5))
【0033】
【化5】


(6)化学式(6)に示される構造を有する化合物(化合物(6))
【0034】
【化6】


(7)化学式(7)に示される構造を有する化合物(化合物(7))
【0035】
【化7】

【0036】
「ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性変異」とは、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性を有する糸状菌類の変異株が産生する「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」で見出されうる変異であって、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質に対する抵抗性に関与するアミノ酸置換、付加又は欠失変異を示す。但し、当該変異によって「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」がヒスチジンキナーゼとして機能しなくなる変異は除外する。ここで、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性を有する糸状菌類の変異株は、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質を施用された自然界より単離しうる糸状菌類であっても、糸状菌類をジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質の存在下で人為的に培養すること等により選抜される抵抗性を獲得した糸状菌類でもよい。
具体的には、灰色カビ病糸状菌の「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」であるBcOS-1において、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質に対する抵抗性に関与するアミノ酸置換I365Sが、Oshima,M. et.al. (2002) Phytopathology 92:75-80に報告されている。ここで、「I365S」は365番目のイソロイシンがセリンに置換されていることを意味する。以下、アミノ酸置換を同様に記載する。アカパンカビの「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」であるOS-1遺伝子におけるジカルボキシイミド系抗菌活性物質に対する抵抗性に関与するアミノ酸置換として、T368P、Q388S、E418E、L459M、A578V、G580R、I582M、M639V、A578V、G580G、L625Pが、アミノ酸欠失として680Kが、Miller,T.K. et.al. (2002) Fungal Gen.Biol. 35:147-155で報告されている。ここで、680Kは680番目のリジンが欠失されていることを意味する。以下、アミノ酸欠失を同様に記載する。また、アカパンカビのOS-1遺伝子におけるフェニルピロール系抗菌活性物質に対する抵抗性に関与するアミノ酸置換として、A578V、G580R、L625Pが、Ochiai,N. et.al. (2001) Pest Managenment Sci. 57:437-442で報告されている。
より具体的には、実施例に記載した配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するBcOS-1を挙げることができる。
上記の抵抗性変異以外にも、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質、芳香族炭化水素系抗菌活性物質又はフェニルピロール系抗菌活性物質のいずれかに対する抵抗性を有する糸状菌類の変異株から単離された「細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ」のアミノ酸配列を解析し、感受性の野生株における当該蛋白質のアミノ酸配列と比較することによって、抵抗性変異を見出してもよい。
【0037】
(少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞に、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が機能可能な形で導入されてなる形質転換細胞の作製)
細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ(以下、本発明ヒスチジンキナーゼと記すこともある。)のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が機能可能な形で導入されてなる形質転換細胞は、「本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子」等を、以下のようにして宿主細胞となる「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」に導入することにより得ることができる。以下、当該形質転換細胞の作製方法についてその一例を示す。
【0038】
(1)cDNAの調製
まず、例えば、J.,Sambrook, E.,F.,Frisch, T.,Maniatis著、モレキュラークローニング第 2 版(Molecular Cloning 2nd edition)記載の方法に準じて、糸状菌類から全RNAを調製する。具体的には、例えば、アカパンカビ(Neurospora crassa)、灰色カビ病糸状菌(Botrytinia fuckeliana)、イネいもち病糸状菌(Magnaporthe grisea)、ジャガイモ疫病糸状菌(Phytophthora infestans)、イネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)、ホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)、コムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)、トマト疫病糸状菌(Phytophthora infestans)等からその組織の一部を採取した後、当該組織を液体窒素中で凍結させ、乳鉢等により物理的に磨砕し、(a)得られた磨砕物に、塩酸グアニジンとフェノールとを含む溶液又はSDSとフェノールとを含む溶液を添加して全RNAを得る方法、(b)前述の磨砕物にグアニジンチオシアネートを含む溶液を添加して、さらにCsClを加え遠心分離することにより全RNAを得る方法等を用いればよい。当該操作には、例えば、RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)等の市販のキットを用いることもできる。
【0039】
次いで、このようにして調製された全RNAを用いてcDNAを作製する。例えば、オリゴdT鎖又はランダムプライマーを全RNAにアニールさせた後に、逆転写酵素を作用させることによりcDNAを作製すればよい。またさらに、当該cDNAに、例えば、RNaseH、DNA PolymeraseIを作用させることにより、2本鎖cDNAを作製することができる。当該操作には、SMARTTM PCR cDNA Synthesis Kit(クロンテック社製)、cDNA Synthesis Kit(宝酒造社製)、cDNA Synthesis Kit(アマシャムファルマシア社製)及びZAP-cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)等の市販のキットを用いることができる。
【0040】
(2)クローニング
塩基配列が既知の遺伝子の場合には、上記のように調製されたcDNAから、例えば、公開されている塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRや、公開されている塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を取得することができる。
具体的には、灰色カビ病糸状菌cDNAから配列番号2で示される塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRや、配列番号2で示される塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本発明ヒスチジンキナーゼであるBcOS-1のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を取得することができる。
また、具体的には、イネいもち病糸状菌cDNAから配列番号17で示される塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRや、配列番号17で示される塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本発明ヒスチジンキナーゼであるHIK1のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を取得することができる。
塩基配列が未知の遺伝子の場合には、塩基配列が既知である本発明ヒスチジンキナーゼの塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法、又は、塩基配列及び/又はアミノ酸配列が既知である複数の本発明ヒスチジンキナーゼにおいて相同性の高い塩基配列及び/又はアミノ酸配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって取得することができる。
塩基配列及び/又はアミノ酸配列が既知である複数の本発明ヒスチジンキナーゼにおいて相同性の高い塩基配列及び/又はアミノ酸配列としては、例えば、本発明ヒスチジンキナーゼの構造上の特徴である「約90アミノ酸からなるポリペプチドの繰返し配列領域」、「ヒスチジンキナーゼ領域」、「レシーバー領域」等に見られる保存モチーフの塩基配列及び/又はアミノ酸配列を挙げることができる。
【0041】
より具体的には、灰色カビ病糸状菌のBcOS-1をPCRで取得する場合には、約20bpから約40bp程度の塩基配列、例えば、配列番号2で示される塩基配列の5’非翻訳領域及び3’非翻訳領域からそれぞれ選択した塩基配列に基いて設計、合成されたオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いることができる。当該プライマーセットとしては、例えば、配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのセットをプライマーセットとして挙げることができる。用いられるPCR反応液は、cDNA250ngに、後述するような市販のDNAポリメラーゼ又はキット指定の反応液を添加することにより調製すればよい。PCR反応条件としては、使用するプライマーセットによって適宜変更することができるが、例えば、94℃で2分間保温し、次に約8℃で3分間保温した後、94℃で30秒間次いで55℃で30秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル程度繰り返す条件や、94℃で5秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを5から10サイクル行い、さらに、94℃で5秒間保温し次いで70℃で4分間保温するサイクルを1サイクルとしてこれを20から40サイクル程度繰り返す条件をあげることができる。当該操作には、例えば、Takara HeraculaseTM(宝酒造社製)、Advantage cDNA PCR Kit(クロンテック社製)に含まれるDNAポリメラーゼ、TAKARA Ex Taq(宝酒造社製)、PLATINUMTM PCR SUPER Mix(ライフテックオリエンタル社製)、KOD-Plus-(東洋紡製)等の市販のキットを用いることができる。
また、イネいもち病糸状菌のHIK1をPCRで取得する場合には、例えば、配列番号17で示される塩基配列の5’非翻訳領域及び3’非翻訳領域からそれぞれ選択された塩基配列に基いて設計、合成されたオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いることができる。当該プライマーセットとしては、例えば、配列番号18で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号19で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのセットをプライマーセットとして挙げることができる。用いられるPCR反応液、反応条件は、前記と同様にPCRを実施することによって、HIK1遺伝子を取得することができる。
また、ホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)、コムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)、イネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)、トマト疫病糸状菌(Phytophthora infestans)等、ヒスチジンキナーゼ遺伝子の塩基配列が未知である菌由来の遺伝子の場合には、まず以下のようなPCRによって遺伝子の部分断片を取得すればよい。プライマーセットとしては、例えば、本ヒスチジンキナーゼの構造上の特徴である「繰り返し配列領域」、「ヒスチジンキナーゼ領域」「レシーバー領域」等に見られる保存モチーフのアミノ酸配列に基づいて設計、合成されたオリゴヌクレオチドのセットを用いることができる。当該プライマーセットの具体例としては、配列番号30〜34で示される塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチドと配列番号35〜40で示される塩基配列のいずれかを有するオリゴヌクレオチドとのプライマーセットを挙げることができる。例えばホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)の場合であれば、例えば配列番号33で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと配列番号38で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーとを用い、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で5分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行う。また同様にコムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)の場合であれば、例えば配列番号31で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと配列番号40で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを用い、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で3分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行う。また、イネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)の場合であれば、例えば配列番号30で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと配列番号37で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーとを用い、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で1分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行う。また、トマト疫病糸状菌(Phytophthora infestans)の場合であれば、例えば配列番号31で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーと配列番号37で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーとを用い、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で1分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行う。次いでこのようなPCRによって増幅された部分遺伝子断片の塩基配列を基に、例えばSMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH)を用いることによって、全長遺伝子を取得することができる。
上記のようにして得られた全長遺伝子から、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列の全長をコードする塩基配列が明らかになれば、その塩基配列の部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRにより、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を取得することもできる。
具体的には、ホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)の本発明ヒスチジンキナーゼ遺伝子をPCRで取得する場合には、例えば、配列番号42で示される塩基配列の5’端領域及び3’端領域からそれぞれ選択された塩基配列に基いて設計、合成されたオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いることができる。当該プライマーセットとしては、例えば、配列番号52で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号53で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのセット等を挙げることができる。用いられるPCR反応液、反応条件は、上記と同様にPCRを実施することによって、ホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)由来の本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを取得することができる。
また、コムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)の本発明ヒスチジンキナーゼ遺伝子をPCRで取得する場合には、例えば、配列番号56で示される塩基配列の5’端領域及び3’端領域からそれぞれ選択された塩基配列に基いて設計、合成されたオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いることができる。当該プライマーセットとしては、例えば、配列番号64で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号65で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのセット等を挙げることができる。用いられるPCR反応液、反応条件は、上記と同様にPCRを実施することによって、コムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)由来の本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを取得することができる。
また、イネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)の本発明ヒスチジンキナーゼ遺伝子をPCRで取得する場合には、例えば、配列番号69で示される塩基配列の5’端領域及び3’端領域からそれぞれ選択された塩基配列に基いて設計、合成されたオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いることができる。当該プライマーセットとしては、例えば、配列番号85で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号86で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのセット等を挙げることができる。用いられるPCR反応液、反応条件は、上記と同様にPCRを実施することによって、イネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)由来の本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを取得することができる。
【0042】
ハイブリダイゼーション法を用いる場合には、例えばJ.,Sambrook, E.,F.,Frisch, T.,Maniatis著、モレキュラークローニング第 2 版(Molecular Cloning 2nd edition)記載の方法に準じてクローニングを行うことができる。
灰色カビ病糸状菌のBcOS-1、或いは、未知の本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子を取得する場合に用いられるプローブは、配列番号2で示される塩基配列の部分塩基配列を有するDNA(約200塩基〜約500塩基程度の鎖長)を合成し、当該DNAを、例えば、Random Primed DNA Labelling Kit(ベーリンガー社製)、Random Primer DNA Labelling Kit Ver.2(宝酒造社製)、ECL Direct Nucleic Acid Labelling and Ditection System(アマシャムファルマシア社製)、Megaprime DNA-labelling system(アマシャムファルマシア社製)等を用いた公知の方法に準じてラジオアイソトープ標識又は蛍光標識することにより得ることができる。このようにして得られるプローブは、例えば、灰色カビ病糸状菌のBcOS-1遺伝子等の塩基配列が既知の本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子や、塩基配列が未知の本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子のクローニングに用いることができる。ハイブリダイゼーション条件としては、例えば、ストリンジェントな条件をあげることができ、具体的には、例えば、6×SSC(0.9M NaCl、0.09Mクエン酸三ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v) フィコール400、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、0.1%BSA)、0.5%(w/v) SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、又は100μg/ml変性サケ精子DNAを含むDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム社)中で、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸三ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M NaCl、0.0015Mクエン酸三ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、68℃で30分間保温する条件をあげることができる。
より具体的には、例えば灰色カビ病糸状菌BcOS-1遺伝子を得るためには、灰色カビ病糸状菌cDNAライブラリーファージ液 (約1,000,000pfu)を鋳型にして、TAKARA LA taqTM(宝酒造社製)を用いて、配列番号9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号10に示される塩基配列の相補鎖に相当する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとをプライマーセットとしてPCRを行うことによりプローブとするDNAを増幅し、これを取得すればよい。用いられるPCR反応液は、DNAライブラリー250ngにキット指定の反応液を添加することにより調製すればよい。
PCR反応条件としては、例えば、94℃で2分間保温し、次に8℃で3分間保温した後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、68℃で5分間のサイクルを40サイクル繰り返すことにより増幅を行う条件をあげることができる。
次に、増幅・取得されたDNAを鋳型にして、Megaprime DNA-labelling system(アマシャムファルマシア社製)を用いて、当該キット指定の反応液を用いることにより32Pでラベルされたプローブを作製することができる。このようにして作製されたプローブを用いて通常の方法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い、6×SSC(0.9M NaCl、0.09Mクエン酸三ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v) フィコール400、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、0.1%BSA)、0.5%(w/v) SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、又は100μg/ml変性サケ精子DNAを含むDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム社)中で、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸三ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M NaCl、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、68℃で30分間保温することにより当該プローブにハイブリダイズするクローンを得ることができる。
【0043】
また、塩基配列が既知の本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子は、例えば、公開されている塩基配列に基づいて、例えば、ホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller,M.et al., Nature, 310, 105, 1984)等の通常の方法に準じて、核酸の化学合成を行うことにより調製することもできる。
【0044】
上記のようにして得られた本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子は、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons,Inc.ISBN0-471-50338-X等に記載される通常の方法に準じてベクターにクローニングすればよい。用いられるベクターとしては、例えば、pBlueScriptIIベクター(Stratagene社製)、pUC18/19ベクター(宝酒造社製)、TAクローニングベクター(Invitrogen社製)等をあげることができる。
尚、クローニングされた遺伝子の塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M & W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 560, 1977 等に記載される)やSanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977等に記載される)等により確認すればよい。当該操作には、例えば、Termo Seqenase II dye terminator cycle sequencing kit(アマシャムファルマシア社製)、Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PEバイオシステムズジャパン社製)等の市販キットを用いることができる。
【0045】
(3)発現ベクターの構築
本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子の発現ベクターの構築は、通常の方法(例えば、J.,Sambrook, E.,F.,Frisch, T.,Maniatis著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて行えばよい。
例えば、形質転換する宿主細胞において利用可能なベクター、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるベクターであって、さらに、宿主細胞からの単離・精製が可能であり、検出可能なマーカーを持っていてもよいベクター(具体的には、大腸菌等の細菌を宿主細胞とする場合には、例えば、プラスミドpUC119(宝酒造(株)製)やファージミドpBluescriptII(ストラタジーン社製)等を使用すればよい。酵母を宿主細胞とする場合には、例えば、プラスミドpACT2(Clontech社製)、p415CYC(ATCC87382)、p415ADH(ATCC87374)等を使用すればよい。植物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、プラスミドpBI221(Clontech 社)等を使用すればよい。)に、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を組み込むことにより構築すればよい。
【0046】
本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子の上流に、宿主細胞で機能可能なプロモーターを機能可能な形で結合する形で前記ベクターに組み込むことにより、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を宿主細胞で発現させることが可能となる発現ベクターを構築することができる。ここで、「機能可能な形で結合させる」とは、宿主細胞においてプロモーターの制御下に本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が発現するように、当該プロモーターと本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子とを結合させることを意味する。宿主細胞で機能可能なプロモーターとしては、例えば、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ-pL、λ-pR)等をあげることができる。また、宿主細胞が酵母である場合には、ADH1プロモーターやCYC1プロモーター(尚、ADH1プロモーターは、例えばADH1プロモーター及びCYC1ターミネーターを保持する酵母発現ベクターp415ADH(ATCC87374)から通常の遺伝子工学的方法により調製することができる。CYC1プロモーターは、p415CYC(ATCC87382)から通常の遺伝子工学的方法により調製することができる。)等をあげることができる。宿主細胞が植物細胞である場合には、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)プロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子(OCT)プロモーター、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)由来19Sプロモーター、CaMV由来35Sプロモーター等をあげることができる。
【0047】
また、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を、宿主細胞において機能可能なプロモーターをあらかじめ保有するベクターに組み込む場合には、当該ベクターが保有するプロモーターと本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子とが機能可能な形で結合するように、当該プロモーターの下流に本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子を挿入すればよい。例えば、前述の酵母用プラスミドp415ADHはADH1プロモーターを有しており、当該プラスミドのADH1プロモーターの下流に本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子を挿入すれば、本発明ヒスチジンキナーゼの遺伝子を、例えば、Saccharomyces cerevisiae AH22(IFO10144)やTM182(Maeda,T. et.al. (1994) Nature 369:242-245)等の出芽酵母内で発現させることが可能となる発現ベクターを構築することができる。
【0048】
(4)形質転換細胞の作製
構築された発現ベクターを宿主細胞に通常の方法として導入することにより、本発明において用いられる形質転換細胞を作製することができる。かかる形質転換細胞を作製するために用いられる宿主細胞としては、例えば、細菌、酵母、植物細胞等を挙げることができる。細菌としては、例えば、大腸菌、Vibrio harveyi等を挙げることができる。酵母としては、出芽酵母、分裂酵母を挙げることができ、さらに具体的には、例えば、サッカロマイセス属、スキゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。植物細胞としては、例えば、シロイヌナズナ等の植物細胞を挙げることができる。
発現ベクターを上記の宿主細胞に導入する方法としては、形質転換される宿主細胞に応じた通常の導入方法を適用することができる。例えば、宿主細胞として細菌を用いる場合には、「モレキュラー・クローニング」(J.Sambrookら、コールド・スプリング・ハーバー、1989年)等に記載される塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法等の通常の導入方法を用いることにより前記発現ベクターを宿主細胞に導入することができる。宿主細胞として酵母を用いる場合には、例えば、リチウム法を基にしたYeast transformation kit(Clontech社製)等を用いることにより前記発現ベクターを宿主細胞に導入することができる。また、宿主細胞として植物細胞を用いる場合には、例えば、アグロバクテリウム感染方法(特公平2-58917及び特開昭60-70080)、プロトプラストへのエレクトロポレーション方法(特開昭60-251887及び特開平5-68575)及びパーティクルガン方法(特表平5-508316及び特開昭63-258525)等の通常の導入方法を用いることにより前記発現ベクターを宿主細胞に導入することができる。
【0049】
(本発明ヒスチジンキナーゼに関わる細胞内信号伝達系)
本発明において、前述のようにして作製された形質転換細胞内で発現された本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値を測定するには、形質転換細胞を作製するために使用される宿主細胞が本来有している細胞内信号伝達系を利用すればよい。利用可能な細胞内信号伝達系としては、例えば、前記の出芽酵母の浸透圧制御の細胞内信号伝達、分裂酵母の細胞周期や酸化ストレス応答の細胞内信号伝達、大腸菌のきょう膜多糖類生合成オペロンの発現制御に関わる細胞内信号伝達、生物発光性の海洋微生物Vibrio harveyiの細胞密度感受性の発光制御に関わる細胞内信号伝達、シロイヌナズナのサイトカイニン応答に関わる細胞内信号伝達等を挙げることができる。
【0050】
また、このような形質転換細胞を作製するために使用される宿主細胞として、「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」を使用する。即ち、前記宿主細胞において、宿主細胞固有の少なくとも一つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損していることにより、導入された本発明ヒスチジンキナーゼが、欠損されたハイブリッドセンサーキナーゼの代わりに機能して細胞内信号伝達を行うことができ、例えば、被験物質を当該形質転換細胞に与えた場合には、生育量の変化、形態の変化、形状の変化、細胞内での特定物質の生合成量の変化、特定物質の代謝量の変化等が起こることがある。
このような場合、本発明ヒスチジンキナーゼに作用する被験物質の抗菌活性を、当該形質転換細胞の生育量の変化、形態の変化、形状の変化、細胞内での特定物質の生合成量の変化、特定物質の代謝量の変化等で測定することができる。
一方、形質転換細胞を作製するために使用される宿主細胞において、宿主細胞固有の少なくとも一つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼが欠損されていない場合、当該形質転換細胞の細胞内信号伝達には、宿主細胞固有のハイブリッドセンサーキナーゼからの信号伝達と導入された本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達とが混在する。当該形質転換細胞では、導入された本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量を反映する当該形質転換細胞の生育量の変化、形態の変化、形状の変化、細胞内での特定物質の生合成量の変化、特定物質の代謝量の変化等は、宿主細胞固有のハイブリッドセンサーキナーゼからの細胞内信号伝達量に影響を受け小さくなる。本発明で、宿主細胞固有の少なくとも一つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼが欠損されている宿主細胞を使用することにより、導入された本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量を反映する当該形質転換細胞の生育量の変化、形態の変化、形状の変化、細胞内での特定物質の生合成量の変化、特定物質の代謝量の変化等が大きくなるために、当該形質転換細胞の抗菌活性物質に対する感受性は増強される。このように抗菌活性物質に対する感受性が増強された形質転換細胞は、被験物質の抗菌活性検定や当該検定を用いた抗菌活性物質の探索により有用である。
具体的には、Saccharomyces cerevisiae等の出芽酵母由来の浸透圧センサー機能を有する蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるSLN1遺伝子を欠損させた株(Maeda T et al. Nature:369 242-245(1994))に本発明ヒスチジンキナーゼを導入した場合、欠損されたSLN1の代わりに本発明ヒスチジンキナーゼが信号伝達を行うことによって、導入された本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量を宿主細胞の生育量を指標としてより明確に検出できる。即ち、被験物質が本発明ヒスチジンキナーゼに作用して、本発明ヒスチジンキナーゼからの宿主細胞内の信号伝達量が変化すると、当該形質転換出芽酵母の生育量の変化として明確に測定できる。また、大腸菌由来のハイブリッドセンサーキナーゼであるRcsC遺伝子の欠損株、分裂酵母の細胞周期制御にかかわるPHK1〜3遺伝子の欠損株、Vibrio harveyiの細胞密度感受性の発光制御に関わるLuxN欠損株及びシロイヌナズナのサイトカイニン受容体CRE1欠損株等も、「少なくとも1つ以上のハイブリッドセンサーキナーゼを欠損した細胞」の好ましい態様の一例としてあげることができる。
【0051】
(被験物質の抗菌活性検定方法)
被験物質の抗菌活性検定方法において、本発明ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が導入されてなる形質転換細胞を被験物質の存在下で培養する第一工程の具体的な例としては、例えば、当該形質転換細胞を、被験物質を含む培地で培養することにより、当該形質転換細胞に被験物質を接触させる方法をあげることができる。当該形質転換細胞の培養は、液体培地中にて培養する液体培養や、前記液体培地に寒天等を加えた固体培地上にて培養する固体培養等いずれの形態であってもよいが、前記培地中の被験物質の濃度としては、例えば、約1nM〜約1mMをあげることができ、好ましくは、約10nM〜約100μMがあげられる。培養時間としては、例えば、1時間以上3日程度をあげることができ、好ましくは、25時間から2日程度があげられる。尚、被験物質の抗菌活性の検定する場合には、被験物質を含む培地は抗菌活性物質非添加培地を使用すればよい。
【0052】
前記第一工程で培養された形質転換細胞内で発現された本ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値を測定する。そして、前記第二工程で測定された細胞内信号伝達量又はそれに相関関係を有する指標値と、対照との差異に基づき被験物質の抗菌活性を評価する。例えば、上記のようにして測定された、被験物質として異なる2種以上の物質(例えば、異なる2種以上の物質のうち、少なくとも一つの物質が抗菌活性を有さない物質であることが好ましい。)を各々独立して用いた区における、細胞内信号伝達量又はそれに相関する指標値を比較することにより得られる差異に基づき前記物質の抗菌活性を評価することができる。
【0053】
具体的には、例えば、PTP2 Tyrosine phosphatase遺伝子(Ota et al, Proc.N.A.sci.USA, 89, 2355-2359 (1992))が導入されたSLN1遺伝子欠損株であるTM182(SLN1Δ)株(Maeda T et al. Nature:369 242-245(1994))を宿主細胞として作製された形質転換細胞(即ち、本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達によって細胞生育が直接的に制御される機能を有する形質転換細胞)を使用する場合には、炭素源としてグルコースを用いた培地(寒天培地又は液体培地)、例えば、Glu-Ura-Leu培地での当該形質転換細胞の生育量を指標として抗菌活性を測定すればよい。被験物質を加えたGlu-Ura-Leu培地(抗菌活性物質を含まない培地)を用いた場合、当該形質転換細胞の生育を阻害する被験物質は抗菌活性を有すると評価することができる。尚、対照として、炭素源としてグルコースの代わりにガラクトースを用いた培地、例えば、Gal-Ura-Leu培地、での当該形質転換細胞の生育が、被験物質の有無に関わらず認められることを調べてもよい。
【0054】
Phks遺伝子欠損株である分裂酵母を宿主細胞として作製された形質転換細胞(即ち、本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達によって細胞周期が直接的に制御される機能を有する形質転換細胞)を使用する場合には、当該分裂酵母の分裂様式を顕微鏡下に観察すればよい。被験物質を含みかつ抗菌活性を有する物質を含まない培地を用いた場合、当該形質転換細胞の分裂細胞の細胞長を短くさせうる被験物質は抗菌活性を有すると評価することができる。
次に、cps-LacZが導入されたRcsC遺伝子欠損大腸菌を宿主細胞として作製された形質転換細胞を使用する場合には、X-Galの発色を寒天培地又は液体培地で観察すればよい(Suzuki et al. Plant Cell Physiol 42:107-113(2001))。被験物質を含みかつ抗菌活性を有する物質を含まない培地を用いた場合、当該形質転換細胞を青色に着色させうる被験物質は抗菌活性を有すると評価することができる。
また、LuxN遺伝子欠損V. harveyiを宿主細胞として作製された形質転換細胞(即ち、本発明ヒスチジンキナーゼからの細胞内信号伝達によって生物発光が直接的に制御される機能を有する形質転換細胞)を使用する場合には、当該形質転換微生物が発する蛍光を観察すればよい。被験物質を含みかつ抗菌活性を有する物質を含まない培地を用いた場合、当該形質転換細胞に蛍光を発光させうる被験物質は抗菌活性を有すると評価することができる。
【0055】
さらに、上述の検定方法により評価された抗菌活性に基づき抗菌活性物質を選抜することにより抗菌活性活性物質を探索することもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
実施例1 (灰色カビ病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼBcOS-1遺伝子の単離)
始めに、灰色カビ病菌から全RNAを調製した。ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地、日水製薬)上で生育された灰色カビ病糸状菌(Botryotinia fuckeliana)Bc-16株の菌糸100mgをマイクロスパチュラでかきとり、これを液体窒素中で乳鉢及び乳棒を用いて破砕した。凍結された破砕粉体からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを単離した。
凍結された破砕粉体を液体窒素とともに50mlサンプルチューブに移し、液体窒素が蒸発してなくなった後、キットに添付されたバッファーRLCに1ml当たり10μlのメルカプトエタノールが添加された溶液を加えて攪拌した。さらに、数回のピペッティングで破砕粉体をよく分散させ56℃で3分間保温した。その後、破砕粉体を含む溶液をキットに添付されたQIAshredder spin columnに供し2分間、8,000xgで遠心分離した。ろ過上清を新しいサンプルチューブに移して、0.5倍容の99.5%エタノールを加えてピペッティングでよく混合した。この混合液をキットに添付されたRNeasy mini spin columnに供し1分間、8,000xgで遠心分離した。ろ液を捨て、キットに添付されたバッファーRW1を700μl加えて1分間、8,000xgで遠心分離し、ろ液を廃棄した。さらに、キットに添付されたバッファーRPEを500μl加えて1分間、8,000xgで遠心分離し、ろ液を廃棄した。この操作を2回繰り返した。最後に、上部フィルター部分を新しいサンプルチューブに移して、キットに添付されたRNase-free滅菌水30μlを供し1分間、8,000xgで遠心分離し、ろ液に総RNAを溶出した。この溶出操作を2回繰り返した。溶出された全RNAは260 nmの吸光度から322μg/mlの濃度であった。
次に、全RNAを鋳型としてcDNAをThermoScript RT-PCR System(Invitrogen)を用いて合成した。キットに添付された50mM Oligo(dT)20 1.0μl及び10mM dNTP Mix 2.0μlに、全RNA 2.7μl及び滅菌蒸留水 6.3μlが混合された溶液を65℃で5分間処理し氷上で急冷した。この溶液に、キットに添付された5x cDNA Synthesis Bufferを4μl、0.1M DTTを1μl、RNase OUTを1μl、ThermoScript RTを1μl、滅菌蒸留水を1μl加えて50℃で60分間反応を行い、その後85℃で5分間の加熱処理で反応を停止した。さらに、この反応液にキットに添付されたRNaseHを1μl添加し37℃で20分間反応し鋳型のRNAを分解し、cDNAを合成した。
このcDNAを鋳型として、灰色カビ病糸状菌のBcOS-1遺伝子をPCRで増幅した。配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR反応を行い、配列番号2で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間次いで68℃で6分間の保温サイクルを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。尚、PCR反応液(50μl)は、上記cDNAを2μl、10x Bufferを5μl、2mM dNTPsを5μl、25mM MgSO4を2μl、10μMオリゴヌクレオチドプライマーを各々1μl、滅菌蒸留水を33μl、KOD-Plus-を1μl添加することにより調製された。反応後、反応液の一部を0.8%アガロースゲル電気泳動で分離し、エチジウムブロマイド染色することによって約4kbのBcOS-1遺伝子が増幅されたことを確認した。
【0058】
実施例2 (灰色カビ病糸状菌のBcOS-1遺伝子の発現プラスミド構築と形質転換酵母の作製)
酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADH(ATCC87312)に灰色カビ病糸状菌のBcOS-1遺伝子をクローニングした。実施例1で調製されたBcOS-1遺伝子断片を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って精製した。精製されたBcOS-1遺伝子を制限酵素SpeI及びPstIで消化し、同時に、シャトルベクターp415ADHも制限酵素SpeI及びPstIで消化した後、それぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離して目的とするDNAを含むゲル部分を切り出した。QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って前記ゲルより制限酵素SpeI及びPstIで消化されたBcOS-1を含む遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びPstIで消化されたシャトルベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて添付のマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとPstIとの間にBcOS-1遺伝子断片を挿入し、発現プラスミドpADHBcOS1を構築した。得られた発現プラスミドの塩基配列は、BigDye terminator v3.0 Cycle Sequencing Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用いて添付のマニュアルに従ってシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー(モデル3100、Applied Biosystems)で解析した。シークエンス反応はプライマーとして、配列番号5〜12に示されるいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、96℃で10秒間次いで50℃で5秒間次いで60℃で4分間の保温サイクルを30サイクル繰り返す増幅条件下で行った。
その結果、配列番号2に示された塩基配列が得られ、発現プラスミドpADHBcOS1がBcOS-1遺伝子を保有することが確認された。
調製された発現プラスミドpADHBcOS1をGeitz RD & Woods RA (1994) Molecular Genetics of Yeast: Practical Approaches ed. Johnson JA, Oxford University Press p124-134記載の方法に従って、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22株(IFO10144)及びMaeda T et.al. (1994) Nature vol.369, p242-245記載のTM182株に遺伝子導入した。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母AH22株(AH22-BcOS1)はGlu-Leu寒天培地で選抜し、形質転換出芽酵母TM182株(TM182-BcOS1)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜した。得られたTM182-BcOS1は、Glu-Ura-Leu培地に移植しても生育することを確認した。
【0059】
実施例3 (形質転換出芽酵母の抗菌活性物質感受性試験)
実施例2で作製された形質転換出芽酵母AH22-BcOS1をGlu-Leu培地中30℃で18時間振とう培養した。対照として、AH22株を同様に、Glu培地中30℃で18時間振とう培養した。それぞれの増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液における600 nmの吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母AH22-BcOS1がGlu-Leu培地で200倍に希釈された菌懸濁液と、AH22株がGlu培地で200倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々60 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に2.0μlずつ2箇所に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のように希釈調製された形質転換出芽酵母AH22-BcOS1の菌懸濁液を200μlずつ分注し30℃で48時間静置培養した。もう1枚には、上記のように希釈調製された対照酵母AH22株の菌懸濁液を200μlずつ分注し30℃で48時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
同様に、実施例2で作製された形質転換出芽酵母TM182-BcOS1をGlu-Ura-Leu培地中30℃で18時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母TM182-BcOS1がGlu-Ura-Leu培地で200倍に希釈された菌懸濁液と、対照としてGal-Ura-Leu培地で200倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々60 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に2.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-BcOS1の菌懸濁液を200μlずつ分注し30℃で67時間静置培養した。もう1枚には、上記のように、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-BcOS1の菌懸濁液を200μlずつ分注し30℃で67時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
表1に化学式(1)〜(7)で示される化合物(化合物(1)〜(7))について、形質転換出芽酵母及びその対照である出芽酵母の両者の生育度を示した。形質転換出芽酵母及びその対照である出芽酵母の両者の生育度は、前記化合物の濃度が0 ppmの場合の600 nmにおける吸光度を100として、相対値を百分率で表した。TM182-BcOS1の各被験物質による生育の阻害度は、AH22-BcOS1の各被験物質による生育の阻害度より大きく、TM182-BcOS1はAH22-BcOS1と比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認された。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例4 (ジカルボキシイミド系抗菌活性物質に抵抗性を示す灰色カビ病糸状菌のBcOS-1変異遺伝子の単離)
実施例1で調製されたcDNAを鋳型として、Oshima,M. et.al. (2002) Phytopathology 92,p75-80記載のジカルボキシイミド系抗菌活性物質に抵抗性を示す灰色カビ病糸状菌のBcOS-1変異遺伝子(以下、BcOS-1変異遺伝子と記すこともある。)をPCRで作製した。配列番
号15に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして第一回目のPCR反応を行い、配列番号14で示される塩基配列の塩基番号1081〜3948で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間次いで68℃で6分間の保温サイクルを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。尚、PCR反応液(50μl)は、上記cDNAを2μl、10x Bufferを5μl、2mM dNTPsを5μl、25mM MgSO4を2μl、10μMオリゴヌクレオチドプライマーを各々1μl、滅菌蒸留水を33μl、KOD-Plus-を1μl添加することにより調製された。反応後、実施例1で調製されたcDNAを鋳型として、配列番号3に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び反応液の1μlをプライマーとして第2回目のPCRを行った。反応条件は第一回目のPCRと同条件で行い、反応後、反応液の一部を0.8%アガロースゲル電気泳動で分離し、エチジウムブロマイド染色することによって約4kbのBcOS-1変異遺伝子が増幅されたことを確認した。
【0062】
実施例5 (ジカルボキシイミド系抗菌活性物質に抵抗性を示す灰色カビ病糸状菌BcOS-1変異遺伝子の発現プラスミドの構築と形質転換出芽酵母の作製)
最初に、ジカルボキシイミド系抗菌活性物質に抵抗性を示す灰色カビ病糸状菌BcOS-1変異遺伝子(即ち、BcOS-1変異遺伝子)をベクターpBluescript II SK(+)(TOYOBO)にサブクローニングした。実施例4で調製されたBcOS-1変異遺伝子を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って精製した。精製された約4kbのBcOS-1変異遺伝子を制限酵素SpeI及びPstIで消化し、一方、ベクターpBluescript II SK(+)も制限酵素SpeI及びPstIで消化した後、それぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離して目的とするDNAを含むゲル部分を切り出した。QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びPstIで消化されたBcOS-1変異遺伝子を含む遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びPstIで消化されたベクターpBluescript II SK(+)を回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて、添付のマニュアルに従って、ベクターpBluescript II SK(+)のマルチクローニング部位のSpeIとPstIとの間に前記のBcOS-1変異遺伝子を挿入し、プラスミドpBcOS1-I365Sを構築した。得られたプラスミドの塩基配列はBigDye terminator v3.0 Cycle Sequence FS Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用いて添付のマニュアルに従ってシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー(モデル3100、Applied Biosystems)で解析した。シークエンス反応はプライマーとして、配列番号7〜12に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用い、96℃で10秒間次いで50℃で5秒間次いで60℃で4分間のサイクルを30サイクル繰り返す増幅条件下で行った。その結果、配列番号14に示された塩基配列が得られ、プラスミドpBcOS1-I365SがBcOS-1変異遺伝子を保有することが確認された。
このように調製されたプラスミドpBcOS1-I365Sに含まれるBcOS-1変異遺伝子を酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADHにクローニングし発現プラスミドを構築した。プラスミドpBcOS1-I365Sを制限酵素SpeI及びPstIで消化し、一方、シャトルベクターp415ADHも制限酵素SpeI及びPstIで消化した。これらをそれぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離した後、制限酵素SpeI及びPstIで消化されたBcOS-1変異遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びPstIで消化されたシャトルベクターp415ADHを含むゲル部分を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って前記ゲルより制限酵素SpeI及びPstIで消化されたBcOS-1変異遺伝子断片及び制限酵素SpeI及びPstIで消化されたシャトルベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて、添付のマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとPstIとの間にBcOS-1変異遺伝子を挿入し、発現プラスミドpADHBcOS1-I365Sを構築した。得られた発現プラスミドの塩基配列はBigDye terminator v3.0 Cycle Sequence FS Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用い、添付のマニュアルに従ってシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー(モデル3100、Applied Biosystems)で解析した。シークエンス反応はプライマーとして、配列番号5〜12に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用い、96℃で10秒間次いで50℃で5秒間次いで60℃で4分間の保温サイクルを30サイクル繰り返す増幅条件下で行った。その結果、配列番号14に示された塩基配列が得られ、発現プラスミドpADHBcOS1-I365SがBcOS-1変異遺伝子を保有することが確認された。
調製された発現プラスミドpADHBcOS1-I365Sを実施例2記載の方法に従って、出芽酵母TM182株に遺伝子導入した。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母TM182株(TM182-BcOS1-I365S)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜した。得られたTM182-BcOS1-I365Sは、Glu-Ura-Leu培地に移植しても生育することを確認した。
【0063】
実施例6 (形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365Sの抗菌活性物質感受性試験)
実施例5で作製された形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365SをGlu-Ura-Leu培地中30℃で18時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製する。さらに、形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365SがGlu-Ura-Leu培地で200倍に希釈された菌懸濁液と、対照としてGal-Ura-Leu培地で200倍に希釈された菌懸濁液とを調製する。化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々60 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が 20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に2.0μlずつ2箇所に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365Sの菌懸濁液を200μlずつ分注し30℃で67時間静置培養した。もう1枚には、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365Sの菌懸濁液を200μlずつ分注し30℃で67時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
表2に化学式(1)〜(7)で示される化合物(化合物(1)〜(7))の存在下に培養された形質転換出芽酵母及びその対照である出芽酵母の両者の生育度を示した。形質転換出芽酵母及びその対照である出芽酵母の両者の生育度は、前記化合物の濃度が0 ppmの場合の600 nmにおける吸光度を100として、相対値を百分率で表した。形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365Sの各被験物質による生育の阻害度は、形質転換出芽酵母AH22-BcOS1-I365Sの各被験物質による生育の阻害度より大きく、形質転換出芽酵母TM182-BcOS1-I365Sは形質転換出芽酵母AH22-BcOS1-I365Sと比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認された。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例7 (イネいもち病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼHIK1遺伝子の単離)
最初に、イネいもち病糸状菌から全RNAを調製した。ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地、日水製薬)上で生育されたイネいもち病糸状菌(Pyricularia grisea)P-37株の菌糸100mgをマイクロスパチュラでかきとり、これを液体窒素中で乳鉢及び乳棒を用いて破砕した。凍結された破砕粉体からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを単離した。凍結された破砕粉体を液体窒素とともに50mlサンプルチューブに移し、液体窒素が蒸発してなくなった後、キットに添付されたバッファーRLCに1ml当たり10μlのメルカプトエタノールが添加された溶液を加えて攪拌した。さらに、数回のピペッティングで破砕粉体をよく分散させた後、56℃で3分間保温した。その後、破砕粉体を含む溶液をキットに添付されたQIAshredder spin columnに供し2分間、8,000xgで遠心分離した。ろ過上清を新しいサンプルチューブに移して、0.5倍容の99.5%エタノールを加えてピペッティングでよく混合した。この混合液をキットに添付されたRNeasy mini spin columnに供し1分間、8,000xgで遠心分離した。ろ液を捨て、キットに添付されたバッファーRW1を700μl加えて1分間、8,000xgで遠心分離し、ろ液を廃棄した。さらに、キットに添付されたバッファーRPEを500μl加えて1分間、8,000xgで遠心分離し、ろ液を廃棄した。この操作を2回繰り返した。最後に、上部フィルター分部を新しいサンプルチューブに移して、キットに添付されたRNase-free滅菌水30μlを供し1分間、8,000xgで遠心分離し、ろ液に総RNAを溶出した。この溶出操作を2回繰り返した。
次に、全RNAを鋳型としてcDNAをThermoScript RT-PCR System(Invitrogen)を用いて合成した。キットに添付された50mM Oligo(dT)20 1.0μl及び10mM dNTP Mix 2.0μlに、全RNA 9.0μlが混合された溶液を65℃で5分間処理し氷上で急冷した。この溶液に、キットに添付された5x cDNA Synthesis Bufferを4μl、0.1M DTTを1μl、RNase OUTを1μl、ThermoScript RTを1μl、滅菌蒸留水を1μl加えて50℃で60分間反応を行い、その後85℃で5分間の加熱処理で反応を停止した。さらに、この反応液にキットに添付されたRNaseHを1μl添加し37℃で20分間反応し鋳型のRNAを分解し、cDNAを合成した。
このcDNAを鋳型として、イネいもち病糸状菌のHIK1遺伝子をPCRで増幅した。配列番号18に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号19に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR反応を行い、配列番号17で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間次いで68℃で6分間の保温サイクルを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。尚、PCR反応液(50μl)は、上記cDNAを2μl、10x Bufferを5μl、2mM dNTPsを5μl、25mM MgSO4を2μl、10μMオリゴヌクレオチドプライマーを各々1μl、滅菌蒸留水を33μl、KOD-Plus-を1μl添加することにより調製された。反応後、反応液の一部を1.0%アガロースゲル電気泳動で分離し、エチジウムブロマイド染色することによって約4kbのHIK1遺伝子が増幅されたことを確認した。
【0066】
実施例8 (イネいもち病糸状菌のHIK1遺伝子の発現プラスミド構築及び形質転換酵母の作製)
クローニングベクターpBluescriptSKII(+)にイネいもち病糸状菌のHIK1遺伝子をクローニングした。実施例7で調製されたHIK1遺伝子断片を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って精製した。精製された約4kbのHIK1遺伝子を制限酵素SpeI及びHindIIIで消化し、一方、クローニングベクターpBluescriptSKII(+)(ストラタジーン社製)も制限酵素SpeI及びHindIIIで消化した後、それぞれ1.0%アガロースゲル電気泳動で分離して目的とするDNAを含むゲル部分を切り出した。QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたHIK1を含む遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたクローニングベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて添付のマニュアルに従って、クローニングベクターのマルチクローニング部位のSpeIとHindIIIとの間にHIK1遺伝子断片が挿入されたプラスミドpBlueHIK1を構築した。得られたプラスミドの塩基配列はBigDye terminator v3.0 Cycle Sequence FS Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用いて添付のマニュアルに従ってシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー(モデル3100、Applied Biosystems)で解析した。シークエンス反応はプライマーとして、配列番号20〜29に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用い、96℃で10秒間次いで50℃で5秒間次いで60℃で2分間のサイクルを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。その結果、配列番号17に示された塩基配列が得られ、プラスミドpBlueH1K1がHIK1遺伝子を保有することが確認された。
次に、酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADH(ATCC87312)にイネいもち病糸状菌のHIK1遺伝子を挿入した。上記のように調製されたプラスミドpBlueHIK1を制限酵素SpeI及びHindIIIで消化し、一方、シャトルベクターp415ADH(ATCC87312)も制限酵素SpeI及びHindIIIで消化した後、それぞれ1.0%アガロースゲル電気泳動で分離し、目的とするDNAを含むゲル部分を切り出した。QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付のマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたHIK1を含む遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて添付のマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとHindIIIとの間にHIK1遺伝子断片が挿入されたプラスミドpADHHIK1を構築した。
調製された発現プラスミドpADHHIK1をGeitz RD & Woods RA (1994) Molecular Genetics of Yeast: Practical Approaches ed. Johnson JA, Oxford University Press p124-134記載の方法に従って、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22株(IFO10144)及びMaeda T et.al. (1994) Nature vol.369, p242-245記載のTM182株に遺伝子導入した。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母AH22株(AH22-HIK1)はGlu-Leu寒天培地で選抜し、形質転換出芽酵母TM182株(TM182-HIK1)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜した。得られたTM182-HIK1は、Glu-Ura-Leu培地に移植しても生育することを確認した。
【0067】
実施例9 (形質転換出芽酵母の抗菌活性物質感受性試験)
実施例8で作製された形質転換出芽酵母AH22-HIK1をGlu-Leu培地中30℃で24時間振とう培養した。対照として、AH22株を同様に、Glu培地中30℃で24時間振とう培養した。それぞれの増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるようそれぞれの培地で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母AH22-HIK1の前記菌懸濁液がGlu-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、AH22株の前記菌懸濁液がGlu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々200 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が600 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のように希釈調製された形質転換出芽酵母AH22-HIK1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で23時間静置培養した。
もう1枚には、上記のように希釈調製された対照酵母AH22株の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で27時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
同様に、実施例8で作製された形質転換出芽酵母TM182-HIK1をGlu-Ura-Leu培地中30℃で24時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmの吸光度を測定し、吸光度が0.1となるようそれぞれの培地で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母TM182-HIK1の前記菌懸濁液が、Glu-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、対照としてGal-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々200 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が600 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-HIK1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で27時間静置培養した。もう1枚には、上記のように、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-HIK1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で27時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
表3に化学式(1)〜(7)で示される化合物(化合物(1)〜(7))について、形質転換出芽酵母及びその対照である出芽酵母の両者の生育度を示した。形質転換出芽酵母及びその対照の出芽酵母の両者の生育度は、前記化合物濃度が0 ppmの場合における600 nmの吸光度を100として、相対値を百分率で表した。TM182-HIK1の各被験物質による生育の阻害度は、AH22-HIK1の各被験物質による生育の阻害度より大きく、TM182-HIK1はAH22-HIK1と比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認された。
【0068】
【表3】

【0069】
実施例10 (他の糸状菌からの浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ遺伝子断片の増幅)
(1)ホウレンソウ萎凋病糸状菌の全RNAの調製
ホウレンソウ萎凋病菌から全RNAを単離した。ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地、日水製薬)上で生育されたホウレンソウ萎凋病糸状菌(Fusarium oxysporum)RJN1株の菌糸100mgをマイクロスパチュラでかきとり、これを液体窒素中で乳鉢及び乳棒を用いて破砕した。RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて、実施例1に記載された方法に従って、凍結された破砕粉体からRNAを単離した。
【0070】
(2)コムギ葉枯病糸状菌の全RNAの調製
コムギ葉枯病糸状菌から全RNAを単離した。ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地、日水製薬)上で生育されたコムギ葉枯病糸状菌(Mycospharella tritici)St-8株の胞子を、100mlのPD broth(DIFCO)に加え、500ml容三角フラスコを用いて20℃、150rpm、4日間培養した。培養液8mlを遠心して上清を除き、生重量300mgの菌体を乳鉢に移し、液体窒素中で乳棒を用いて破砕した。RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて、実施例1に記載された方法に従って、凍結された破砕粉体からRNAを単離した。
【0071】
(3)イネ紋枯病糸状菌の全RNAの調製
イネ紋枯病糸状菌から全RNAを単離した。ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地、日水製薬)上で生育されたイネ紋枯病糸状菌(Thanatephorus cucumeris)Rs-18株の菌糸を、100mlのPD broth(DIFCO)に加え、500ml容三角フラスコを用いて25℃で4日間、静置培養した。培養液8mlを遠心して上清を除き、生重量300mgの菌糸を乳鉢に移し、液体窒素中で乳棒を用いて破砕した。RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて、実施例1に記載された方法に従って、凍結された破砕粉体からRNAを単離した。
【0072】
(4)トマト疫病糸状菌の全RNAの調製
トマト疫病糸状菌から全RNAを単離した。ライ麦培地寒天培地(ライ麦60g、ショ糖 15g、寒天 20g / 1L)上で生育されたトマト疫病糸状菌(Phytophthora infestans)Pi-5株の胞子を、20mlのライ麦培地培地(ライ麦60g、ショ糖 15g / 1L)に加え、300ml容三角フラスコを用いて20℃、150rpm、5日間培養した。培養液20mlを遠心して上清を除き、生重量200mgの菌体を乳鉢に移し、液体窒素中で乳棒を用いて破砕した。RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて、実施例1に記載された方法に従って、凍結された破砕粉体からRNAを単離した。
【0073】
(5)PCRによる浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ遺伝子断片の増幅
実施例7で調製されたイネいもち病糸状菌の全RNA、実施例10(1)で調製されたホウレンソウ萎凋病糸状菌の全RNA、又は実施例10(2)で調製されたコムギ葉枯病糸状菌の全RNA、実施例10(3)で調製されたイネ紋枯病糸状菌の全RNA、実施例10(4)で調製されたトマト疫病糸状菌の全RNAを用いて、浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼ遺伝子断片の増幅を行った。
始めに、各々の全RNAを鋳型としてcDNAをThermoScript RT-PCR System(Invitrogen)を用いて合成した。当該キットに添付された50mM Okigo(dT)20 1.0μl及び10mM dNTP Mix 2.0μlに、各々の全RNA 4.0μl及び滅菌蒸留水 5.0μlが混合された溶液を調製し、実施例1に記載された方法に従ってcDNAを合成した。
この各々のcDNAを鋳型として、PCR反応を行った。プライマーとしては、表4に示すプライマー対を用いた。配列番号2で示される塩基配列に基づいてそれぞれのプライマー対を用いたPCRで増幅されると予想されるDNAの大きさを表に示した。
【0074】
【表4】

【0075】
PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で1分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。プライマー対1〜6を用いる場合には、68℃での保温を1分間とした。プライマー対7〜12を用いる場合には、68℃での保温を5分間とした。プライマー対13〜16を用いる場合には、68℃での保温を3分間とした。尚、PCR反応液(25μl)は、上記cDNAを0.5μl、10x bufferを2.5μl、8mM dNTPsを2.5μl、25mM MgSO4を1.0μl、10μM オリゴヌクレオチドプライマーを各0.5μl、滅菌蒸留水を17μl、KOD-Plus-を0.5μl添加することにより調製された。反応後のPCR反応液を、1%又は4%のアガロースゲル電気泳動にて解析した。
イネいもち病糸状菌のcDNAを鋳型とし、プライマー対1、2、3、4、5、6を用いると予測された大きさのDNAの増幅が観察された。ホウレンソウ萎凋病糸状菌のcDNAを鋳型とし、プライマー対2、3、7、8、9、10、11、12を用いると予測された大きさのDNAの増幅が観察された。コムギ葉枯病糸状菌のcDNAを鋳型とし、プライマー対3、5、6、13、14、15、16を用いると予測された大きさのDNAの増幅が観察された。イネ紋枯病糸状菌のcDNAを鋳型とし、プライマー対2、3、5、6を用いると予測された大きさのDNAの増幅が観察された。トマト萎凋病糸状菌のcDNAを鋳型とし、プライマー対5、6を用いると予測された大きさのDNAの増幅が観察された。
【0076】
実施例11 (ホウレンソウ萎凋病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼFoOS-1遺伝子の単離)
(1)ホウレンソウ萎凋病糸状菌FoOS-1遺伝子断片の解析
実施例10(5)で増幅された、ホウレンソウ萎凋病糸状菌のcDNAを鋳型にプライマー対9を用いて行ったPCR反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて添付の取扱説明書に従って、増幅されたDNAを精製した。
精製されたDNAに対し、Ex Taq(TaKaRa)を用いて3'A付加を行った。3'A付加のための反応液(20μl)は、精製されたPCR反応液を15.3μl、10x bufferを2.0μl、10mM dNTPsを2.5μl、及びEx Taqを0.2μl添加することにより調製し、これを72℃で30分間保温した。
このようにして3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、プライマーとして配列番号28、29、45〜48で示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用いて、BigDye Terminator v3.0 Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従ってシークエンス反応を行い、DNAシークエンサー(モデル3100、Applied Biosystems)で解析した。シークエンス反応は、96℃で10秒間次いで50℃で5秒間さらに60℃で2分間の保温を1サイクルとし、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。その結果、配列番号42で示される塩基配列の塩基番号663〜3534で示される塩基配列が読み取られた。
【0077】
(2)ホウレンソウ萎凋病糸状菌FoOS-1遺伝子全長の解析
SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って配列番号42で示される塩基配列の塩基番号663より5'側上流域に伸長するDNAのクローニングを行った。具体的には、実施例10(1)で調製された全RNAを3μl(230ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl、SMART IIA Oligoを1.0μl混合して反応液を調製し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温した。当該反応液に、前記キットに添付された5x First-Strand bufferを2μl、20mM DTTを1μl、10mM dNTP Mixを1μl及びPowerScript Reverse Transcriptaseを1μl加えて混合し、42℃で1.5時間保温した。保温後の反応液に、前記キットに添付されたTricine-EDTA bufferを100μl添加した後、72℃で7分間保温し、5' RACE ready cDNAを調製した。この5' RACE ready cDNAを鋳型にして、5'側上流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、5' RACE ready cDNA を2.5μlに、前記キットに添付された10x Advantage 2 bufferを5.0μl、10mM dNTP Mixを1.0μl、50x Advantage 2 Polymerase Mixを1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号43で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μlとを添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で5秒間次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで70℃で10秒間次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで68℃で10秒間次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを25サイクル繰り返した後、72℃で7分間保温した。当該PCR反応液と、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号29、49、54で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号42で示される塩基配列の塩基番号1〜662で示される塩基配列が読み取られた。
さらに、配列番号42で示される塩基配列の塩基番号3534より3'側下流域に伸長するDNAのクローニングを行った。具体的には、実施例10(1)で調製された全RNAを3μl(230ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl、滅菌蒸留水を1.0μl混合し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温した。該反応液を用いて、5' RACE ready cDNA調製と同様にして3' RACE ready cDNAを調製した。この3' RACE ready cDNAを鋳型にして、3'側下流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、5' RACE ready cDNA を2.5μlに、前記キットに添付された10x Advantage 2 bufferを5.0μl、10mM dNTP Mixを1.0μl、50x Advantage 2 Polymerase Mixを1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号42で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μl添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で5秒間次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで70℃で10秒間次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで68℃で10秒間次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを25サイクル繰り返した後、72℃で7分間保温した。
該PCR反応液と、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを該ベクターに添付の取扱説明書に従ってライゲーションした後、大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号29、50、54で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載した方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号42で示される塩基配列の塩基番号3535〜3882で示される塩基配列が読み取られた。
解析した全ての塩基配列を連結させた結果、配列番号42で示される塩基配列が得られた。配列番号42で示される塩基配列は3882塩基(終止コドンを含む)からなり、1293アミノ酸残基(配列番号41)をコードする塩基配列であった。配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質の分子量は、141818Daと計算された。
【0078】
(3)ホウレンソウ萎凋病糸状菌FoOS-1全長遺伝子の単離
実施例11(2)で調製された5' RACE ready cDNAを鋳型に、ホウレンソウ萎凋病糸状菌のFoOS-1遺伝子をPCRで増幅した。配列番号52で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号53で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR反応を行うことにより、配列番号42で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で6分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。なお、PCR反応液(50μl)は、5' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl、10μM オリゴヌクレオチドプライマーを各1.0μl、滅菌蒸留水を32.5μl、及びKOD-Plus-を1.0μlを添加することにより調製された。反応後、PCR反応液の一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、エチジウムブロマイド染色することにより、約4kbのFoOS-1遺伝子が増幅されたことを確認した。
【0079】
実施例12 (ホウレンソウ萎凋病糸状菌のFoOS-1遺伝子の発現プラスミドの構築と形質転換出芽酵母の作製)
最初に、ホウレンソウ萎凋病糸状菌のFoOS-1遺伝子をpCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。実施例11(3)で調製された約4kbのFoOS-1遺伝子を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って精製した。精製された約4kbのFoOS-1遺伝子に対し、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたFoOS-1遺伝子と、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションすることにより、プラスミドpCRFoOS1を構築した。得られたプラスミドの塩基配列は、実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号29、43〜51、54に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、配列番号42に示された塩基配列が得られ、プラスミドpCRFoOS1がFoOS-1遺伝子を含むことが確認された。
このように調製されたプラスミドpCRFoOS1に含まれるFoOS-1遺伝子を酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADHにクローニングし発現プラスミドを構築した。プラスミドpCRFoOS1を制限酵素SpeI及びPstIで消化し、一方、シャトルベクターp415ADHも制限酵素SpeI及びPstIで消化した。これらをそれぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離した後、制限酵素SpeI及びPstIで消化されたFoOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びPstIで消化されたシャトルベクターp415ADHを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付されたマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びPstIで消化されたFoOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びPstIで消化されたシャトルベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて、当該キットに添付されたマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとPstIとの間にFoOS-1遺伝子を挿入することにより、発現プラスミドpADHFoOS1を構築した。得られた発現プラスミドの塩基配列は実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号43〜53に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、配列番号42に示された塩基配列が得られ、発現プラスミドpADHFoOS1がFoOS-1遺伝子を保有することが確認された。
調製された発現プラスミドpADHFoOS1を実施例2記載の方法に従って、出芽酵母AH22株及び及びTM182株に遺伝子導入した。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母AH22株(AH22-FoOS1)はGlu-Leu寒天培地で選抜し、また形質転換出芽酵母TM182株(TM182-FoOS1)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜した。得られたTM182-FoOS1については、Glu-Ura-Leu培地に移植しても生育することが確認された。
【0080】
実施例13 (形質転換出芽酵母TM182-FoOS1の抗菌活性物質感受性試験)
実施例12で作製された形質転換出芽酵母AH22-FoOS1をGlu-Leu培地中30℃で18時間振とう培養した。対照として、AH22株を同様に、Glu培地中30℃で18時間振とう培養した。それぞれの増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液における600 nmの吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母AH22-FoOS1の前記菌懸濁液がGlu-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、AH22株がGlu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。
化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々600 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のように希釈調製された形質転換出芽酵母AH22-FoOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で26.5時間静置培養した。もう1枚には、上記のように希釈調製された対照酵母AH22株の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で24.5時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
同様に、実施例12で作製された形質転換出芽酵母TM182-FoOS1をGlu-Ura-Leu培地中30℃で18時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母TM182-FoOS1がGlu-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、対照としてGal-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。
化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々600 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に2.0μlずつ2箇所に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-FoOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で25時間静置培養した。もう1枚には、上記のように、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182-FoOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で51時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
表5に化学式(1)〜(7)で示される化合物(化合物(1)〜(7))について、各形質転換出芽酵母の生育度を示した。形質転換出芽酵母の生育度は、前記化合物の濃度が0 ppmの場合の600 nmにおける吸光度を100として、相対値を百分率で表した。形質転換出芽酵母TM182-FoOS1の各被験物質による生育の阻害度は、形質転換出芽酵母AH22-FoOS1の各被験物質による生育の阻害度より大きく、形質転換出芽酵母TM182-FoOS1は形質転換出芽酵母AH22-FoOS1と比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認された。
【0081】
【表5】

【0082】
実施例14 (コムギ葉枯病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼStOS-1遺伝子の単離)
(1)コムギ葉枯病糸状菌StOS-1遺伝子断片の解析
実施例10(4)で増幅された、コムギ葉枯病糸状菌のcDNAを鋳型にプライマー対16を用いて行ったPCR反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した。精製し得られた前記の増幅されたDNAに対し、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。
得られた大腸菌形質転換体から、Ex Taq HS(TaKaRa)を用いたコロニーPCRによってDNA断片を増幅した。PCR反応液(15μl)は、10x bufferを1.5μl、10mM dNTPsを2.25μl、Ex Taq HSを0.15μl、配列番号66で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液と配列番号67で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を各0.4μl、及び滅菌蒸留水を10.3μlを混合し、これに大腸菌形質転換体コロニーの一部を加えて調製した。この反応液を、97℃で2分間保温した後、97℃で15秒間次いで55℃で15秒間さらに72℃で3分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。保温後のPCR反応液を、QIAquick PCR purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した。精製し得られたPCR増幅断片を鋳型とし、プライマーとして配列番号29、54で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号56で示される塩基配列の塩基番号2241〜3603で示される塩基配列が読み取られた。
【0083】
(2)コムギ葉枯病糸状菌StOS-1遺伝子全長の解析
SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って配列番号56で示される塩基配列の塩基番号2241より5'側上流域に伸長するDNAのクローニングを行った。具体的には、実施例10(2)で調製された全RNAを3μl(230ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl、SMART IIA Oligoを1.0μl混合して反応液を調製し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温した。当該反応液に、前記キットに添付された5x First-Strand bufferを2μl、20mM DTTを1μl、10mM dNTP Mixを1μl及びPowerScript Reverse Transcriptaseを1μl加えて混合し、42℃で1.5時間保温した。保温後の反応液に、前記キットに添付されたTricine-EDTA bufferを100μl添加した後、72℃で7分間保温し、5' RACE ready cDNAを調製した。この5' RACE ready cDNAを鋳型にして、KOD-plus-(TOYOBO)を用いて5'側上流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、5' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl及びKOD-Plus-を1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号43で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μlとを添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で2分間の保温し、さらに94℃で15秒間次いで68℃で5分間の保温を1サイクルとしてこれを35サイクル繰り返した。該PCR反応液をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した後、精製し得られたDNAに対して実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号29、54、59〜61で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号56で示される塩基配列の塩基番号1〜2240で示される塩基配列が読み取られた。
さらに、配列番号56で示される塩基配列の塩基番号3603より3'側下流域に伸長するDNAのクローニングを行った。具体的には、実施例10(2)で調製された全RNAを3μl(230ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl及び滅菌蒸留水を1.0μl混合し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温した。当該反応液を用いて、5' RACE ready cDNA調製と同様にして3' RACE ready cDNAを調製した。この3' RACE ready cDNAを鋳型にして、3'側下流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、5' RACE ready cDNA を2.5μlに、前記キットに添付された10x Advantage 2 bufferを5.0μl、10mM dNTP Mixを1.0μl、50x Advantage 2 Polymerase Mixを1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号58で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μlとを添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で5秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで70℃で10秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで68℃で10秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを25サイクル繰り返した後、72℃で7分間保温した。当該PCR反応液と、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号29、54で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号56で示される塩基配列の塩基番号3604〜3924で示される塩基配列が読み取られた。
解析した全ての塩基配列を連結させた結果、配列番号56で示される塩基配列が得られた。配列番号56で示される塩基配列は3924塩基(終止コドンを含む)からなり、1307アミノ酸残基(配列番号55)をコードする塩基配列であった。配列番号55で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質の分子量は、143276Daと計算された。
【0084】
(3)コムギ葉枯病糸状菌StOS-1全長遺伝子の単離
実施例14(2)で調製された5' RACE ready cDNAを鋳型に、コムギ葉枯病糸状菌のStOS-1遺伝子をPCRで増幅した。配列番号64で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
ド及び配列番号65で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、実施例11(3)に記載した方法に従ってPCR反応を行うことにより、配列番号56で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。
PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で6分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。なお、PCR反応液(50μl)は、5' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl、10μM オリゴヌクレオチドプライマーを各1.0μl、滅菌蒸留水を32.5μl、及びKOD-Plus-を1.0μlを添加することにより調製された。
反応後のPCR反応液の一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、エチジウムブロマイド染色することにより約4kbのStOS-1遺伝子が増幅されたことを確認した。
【0085】
実施例15 (コムギ葉枯病糸状菌StOS-1遺伝子の発現プラスミドの構築と形質転換出芽酵母の作製)
最初に、コムギ葉枯病糸状菌StOS-1遺伝子をpCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。実施例14(3)で調製されたStOS-1遺伝子を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って精製した。精製し得られた約4kbのDNAに対して、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションすることにより、プラスミドpCRStOS1を構築した。得られたプラスミドの塩基配列は、実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号29、54、58〜63に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、配列番号56に示された塩基配列が得られ、プラスミドpCRStOS1がStOS-1遺伝子を含むことが確認された。
このように調製されたプラスミドpCR StOS1に含まれるStOS-1遺伝子を酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADHにクローニングすることにより発現プラスミドを構築した。プラスミドpCRStOS1を制限酵素SpeI及びHindIIIで消化し、一方、シャトルベクターp415ADHも制限酵素SpeI及びHindIIIで消化した。これらをそれぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離した後、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたStOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターp415ADHを含むゲル部分を切り出し、これをQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたStOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて、当該キットに添付されたマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとHindIIIとの間にStOS-1遺伝子を挿入することにより、発現プラスミドpADHStOS1を構築した。得られた発現プラスミドの塩基配列は実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号58〜65に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、配列番号56に示された塩基配列が得られ、発現プラスミドpADHFoOS1がStOS-1遺伝子を保有する発現プラスミドであることが確認された。
調製された発現プラスミドpADH StOS1を実施例2記載の方法に従って、出芽酵母AH22株及びTM182株に遺伝子導入した。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母AH22株(AH22- StOS1)はGlu-Leu寒天培地で選抜し、形質転換出芽酵母TM182株(TM182- StOS1)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜した。得られたTM182- StOS1について、Glu-Ura-Leu培地に移植しても生育することが確認された。
【0086】
実施例16 (形質転換出芽酵母TM182- StOS1の抗菌活性物質感受性試験)
実施例15で作製された形質転換出芽酵母AH22- StOS1をGlu-Leu培地中30℃で18時間振とう培養した。対照として、AH22株を同様に、Glu培地中30℃で18時間振とう培養した。それぞれの増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液における600 nmの吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母AH22- StOS1がGlu-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、AH22株がGlu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。
化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々6 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が各々2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が各々20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。
その内の1枚には、上記のように希釈調製された形質転換出芽酵母AH22- StOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で28時間静置培養した。もう1枚には、上記のように希釈調製された対照酵母AH22株の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で24.5時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
同様に、実施例2で作製された形質転換出芽酵母TM182- StOS1をGlu-Ura-Leu培地中30℃で18時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母TM182- StOS1がGlu-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、対照としてGal-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。
化学式(1)〜(3)に示される3種類の化合物(化合物(1)〜(3))が各々6 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、化学式(4)及び(5)に示される2種類の化合物(化合物(4)及び(5))が各々2000 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が各々20 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に2.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。
その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182- StOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で26.5時間静置培養した。もう1枚には、上記のように、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182- StOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で49.5時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
表6に化学式(1)〜(7)で示される化合物(化合物(1)〜(7))について、各形質転換出芽酵母の生育度を示した。形質転換出芽酵母の生育度は、前記化合物の濃度が0 ppmの場合の600 nmにおける吸光度を100として、相対値を百分率で表した。形質転換出芽酵母TM182- StOS1の各被験物質による生育の阻害度は、形質転換出芽酵母AH22- StOS1の各被験物質による生育の阻害度より大きく、形質転換出芽酵母TM182- StOS1は形質転換出芽酵母AH22- StOS1と比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認された。
【0087】
【表6】

【0088】
実施例17 (イネ紋枯病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼRsOS-1遺伝子の単離)
(1)イネ紋枯病糸状菌RsOS-1遺伝子断片の解析
実施例10(5)で増幅された、イネ紋枯病糸状菌のcDNAを鋳型にプライマー対3を用いて行ったPCR反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した。精製し得られた前記の増幅されたDNAに対し、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。
得られた大腸菌形質転換体から、Ex Taq HS(TaKaRa)を用いたコロニーPCRによってDNA断片を増幅した。PCR反応液(15μl)は、10x bufferを1.5μl、10mM dNTPsを2.25μl、Ex Taq HSを0.15μl、配列番号28で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液と配列番号29で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を各0.4μl及び滅菌蒸留水を10.3μlを混合し、これに大腸菌形質転換体コロニーの一部を加えて調製した。この反応液を、97℃で2分間保温した後、97℃で15秒間次いで55℃で15秒間さらに72℃で3分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。保温後のPCR反応液を、QIAquick PCR purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した。精製し得られたPCR増幅断片を鋳型とし、プライマーとして配列番号28、29で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号69で示される塩基配列の塩基番号2838〜3165で示される塩基配列が読み取られた。
【0089】
(2)イネ紋枯病糸状菌RsOS-1遺伝子全長の解析
SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH)を用いて当該キットに付属された取扱説明書に従って配列番号69で示される塩基配列の塩基番号3165より3'側下流域に伸長するDNAのクローニングを行った。具体的には、実施例10(3)で調製された全RNAを3μl(253ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl、水を1.0μl混合して反応液を調製し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温した。当該反応液に、前記キットに添付された5x First-Strand bufferを2μl、20mM DTTを1μl、10mM dNTP Mixを1μl及びPowerScript Reverse Transcriptaseを1μl加えて混合し、42℃で1.5時間保温した。
保温後の反応液に、前記キットに添付されたTricine-EDTA bufferを100μl添加した後、72℃で7分間保温し、3' RACE ready cDNAを調製した。この3' RACE ready cDNAを鋳型にして、KOD-plus-(TOYOBO)を用いて3'側下流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、3' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl及びKOD-Plus-を1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号70で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μlとを添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で2分間の保温し、さらに94℃で15秒間次いで68℃で6分間の保温を1サイクルとしてこれを35サイクル繰り返した。当該PCR反応液をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した後、精製し得られたDNAに対して実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号28、29、73〜76で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号69で示される塩基配列の塩基番号3119〜4317で示される塩基配列が読み取られた。
さらに、配列番号69で示される塩基配列の塩基番号2838より5'側下流域に伸長するDNAのクローニングを行った。具体的には、実施例10(3)で調製された全RNAを3μl(253ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl及びSMART II A oligoを1.0μl混合し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温した。当該反応液を用いて、3' RACE ready cDNA調製と同様にして5' RACE ready cDNAを調製した。この5' RACE ready cDNAを鋳型にして、KOD-plus-(TOYOBO)を用いて5'側上流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、5' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl及びKOD-Plus-を1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号71で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μl添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で2分間保温し、さらに94℃で15秒間次いで68℃で6分間の保温を1サイクルとしてこれを35サイクル繰り返した。こうして得られたPCR反応液1μlを鋳型として、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl及びKOD-Plus-を1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10μMのNested universal primerを1.0μlと、配列番号72で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μlとを添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとした。この反応液を、94℃で2分間保温し、さらに94℃で15秒間次いで68℃で6分間の保温を1サイクルとしてこれを20サイクル繰り返した。該PCR反応液と、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号28、29、77〜82で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、配列番号69で示される塩基配列の塩基番号1〜3042で示される塩基配列が読み取られた。
解析した全ての塩基配列を連結させた結果、配列番号69で示される塩基配列が得られた。配列番号69で示される塩基配列は4317塩基(終止コドンを含む)からなり、1438アミノ酸残基(配列番号68)をコードする塩基配列であった。配列番号68で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質の分子量は、155296Daと計算された。
【0090】
(3)イネ紋枯病糸状菌RsOS-1全長遺伝子の単離
実施例10(5)で調製されたイネ紋枯病糸状菌のcDNAを鋳型に、イネ紋枯病糸状菌のRsOS-1遺伝子をPCRで増幅した。配列番号85で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号86で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとをプライマーとして、実施例11(3)に記載された方法に従ってPCR反応を行うことにより、配列番号69で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。
PCR反応は、KOD-Plus-(TOYOBO)を用いて、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間次いで55℃で30秒間さらに68℃で6分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。なお、PCR反応液(50μl)は、5' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl、10μM オリゴヌクレオチドプライマーを各1.0μl、滅菌蒸留水を32.5μl、及びKOD-Plus-を1.0μlを添加することにより調製された。
反応後のPCR反応液の一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、エチジウムブロマイド染色することにより約4kbのRsOS-1遺伝子が増幅されたことを確認した。
【0091】
実施例18 (イネ紋枯病糸状菌RsOS-1遺伝子の発現プラスミドの構築と形質転換出芽酵母の作製)
最初に、イネ紋枯病糸状菌RsOS-1遺伝子をpCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。実施例17(3)で調製されたRsOS-1遺伝子を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って精製した。精製し得られた約4kbのDNAに対して、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションすることにより、プラスミドpCRRsOS1を構築した。得られたプラスミドの塩基配列は、実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号28、29、70〜73、75、77、78、81〜84に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、配列番号69に示された塩基配列が得られ、プラスミドpCRRsOS1がRsOS-1遺伝子を含むことが確認された。
このように調製されたプラスミドpCR RsOS1を含むRsOS-1遺伝子を酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADHにクローニングすることにより発現プラスミドを構築した。プラスミドpCRRsOS1を制限酵素SpeI及びHindIIIで消化し、一方、シャトルベクターp415ADHも制限酵素SpeI及びHindIIIで消化した。これらをそれぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離した後、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたRsOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターp415ADHを含むゲル部分を切り出し、これをQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたRsOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターを回収した。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて、当該キットに添付されたマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとHindIIIとの間にRsOS-1遺伝子を挿入することにより、発現プラスミドpADHRsOS1を構築した。得られた発現プラスミドの塩基配列は実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号87、88、70〜73、75、77、78、81〜84に示される塩基配列のいずれかからなるオリゴヌクレオチドを用いた。その結果、配列番号69に示された塩基配列が得られ、発現プラスミドpADHRsOS1がRsOS-1遺伝子を保有することが確認された。
調製された発現プラスミドpADH RsOS1を実施例2記載の方法に従って、出芽酵母AH22株及びTM182株に遺伝子導入した。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母AH22株(AH22- RsOS1)はGlu-Leu寒天培地で選抜し、形質転換出芽酵母TM182株(TM182- RsOS1)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜した。得られたTM182- RsOS1についてGlu-Ura-Leu培地に移植しても生育することが確認された。
【0092】
実施例19 (形質転換出芽酵母TM182- RsOS1の抗菌活性物質感受性試験)
実施例18で作製された形質転換出芽酵母AH22- RsOS1をGlu-Leu培地中30℃で18時間振とう培養した。対照として、AH22株を同様に、Glu培地中30℃で18時間振とう培養した。それぞれの増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液における600 nmの吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製した。さらに、形質転換出芽酵母AH22- RsOS1がGlu-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、AH22株がGlu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製した。
化学式(1)〜(5)に示される5種類の化合物(化合物(1)〜(5))が各々600 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が各々60 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のように希釈調製された形質転換出芽酵母AH22- RsOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で29.8時間静置培養した。もう1枚には、上記のように希釈調製された対照酵母AH22株の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で24.8時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
同様に、実施例18で作製された形質転換出芽酵母TM182- RsOS1をGlu-Ura-Leu培地中30℃で18時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製し、さらに、形質転換出芽酵母TM182- RsOS1がGlu-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液を調製した。また対照として、形質転換出芽酵母TM182- RsOS1をGal-Ura-Leu培地中30℃で18時間培養した。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製し、さらに、形質転換出芽酵母TM182- RsOS1がGal-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液を調製した。
化学式(1)〜(5)に示される5種類の化合物(化合物(1)〜(5))が各々600ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液、及び、化学式(6)及び(7)に示される2種類の化合物(化合物(6)及び(7))が各々60 ppmの濃度になるようジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製した。その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182- RsOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で26.8時間静置培養した。もう1枚には、上記のように、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182- RsOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で42.5時間静置培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定した。
表7に化学式(1)〜(7)で示される化合物(化合物(1)〜(7))について、各形質転換出芽酵母の生育度を示した。形質転換出芽酵母の生育度は、前記化合物の濃度が0 ppmの場合の600 nmにおける吸光度を100として、相対値を百分率で表した。形質転換出芽酵母TM182- RsOS1の各被験物質による生育の阻害度は、形質転換出芽酵母AH22- RsOS1の各被験物質による生育の阻害度より大きく、形質転換出芽酵母TM182- RsOS1は形質転換出芽酵母AH22- RsOS1と比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認された。
【0093】
【表7】

【0094】
実施例20 (トマト疫病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼPiOS-1遺伝子の単離)
(1)トマト疫病糸状菌PiOS-1遺伝子断片の解析
実施例10(5)で増幅された、イネ紋枯病糸状菌のcDNAを鋳型にプライマー対6を用いて行ったPCR反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した。精製し得られた前記の増幅されたDNAに対し、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行った。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入した。
得られた大腸菌形質転換体から、Ex Taq HS(TaKaRa)を用いたコロニーPCRによってDNA断片を増幅した。PCR反応液(15μl)は、10x bufferを1.5μl、10mM dNTPsを2.25μl、Ex Taq HSを0.15μl、配列番号28で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液と配列番号29で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を各0.4μl及び滅菌蒸留水を10.3μlを混合し、これに大腸菌形質転換体コロニーの一部を加えて調製した。この反応液を、97℃で2分間保温した後、97℃で15秒間次いで55℃で15秒間さらに72℃で3分間の保温を1サイクルとして、これを35サイクル繰り返す増幅条件下で行った。保温後のPCR反応液を、QIAquick PCR purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した。精製し得られたPCR増幅断片を鋳型とし、プライマーとして配列番号28、29で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析した。その結果、プライマー対6の配列を含む配列番号89で示される塩基配列が読み取られた。
【0095】
(2)トマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子全長の解析
SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って配列番号89で示される塩基配列の5'側上流域に伸長するDNAのクローニングを行うことができる。具体的には、実施例10(4)で調製された全RNAを3μl(200ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl、SMART IIA Oligoを1.0μl混合して反応液を調製し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温する。当該反応液に、前記キットに添付された5x First-Strand bufferを2μl、20mM DTTを1μl、10mM dNTP Mixを1μl及びPowerScript Reverse Transcriptaseを1μl加えて混合し、42℃で1.5時間保温する。保温後の反応液に、前記キットに添付されたTricine-EDTA bufferを100μl添加した後、72℃で7分間保温し、5' RACE ready cDNAを調製する。この5' RACE ready cDNAを鋳型にして、KOD-plus-(TOYOBO)を用いて5'側上流域を増幅するPCRを行った。PCR反応液は、5' RACE ready cDNAを2.5μl、10x bufferを5.0μl、2mM dNTPsを5.0μl、25mM MgSO4を2.0μl、KOD-Plus-を1.0μl混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号89で示される塩基配列の相補配列から選ばれる20〜30塩基からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μlとも添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとする。この反応液を、94℃で2分間の保温し、さらに94℃で15秒間次いで68℃で5分間の保温を1サイクルとしてこれを35サイクル繰り返す。当該PCR反応液をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付された取扱説明書に従って精製した後、精製し得られたDNAに対して実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行う。3'A付加されたDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入する。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製する。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号28、29等で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析する。その結果、トマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子の一部の塩基配列(即ち、トマト疫病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感知性ヒスチジンキナーゼPiOS-1遺伝子の翻訳開始コドンを含む5’端領域の塩基配列)を読み取ることができる。
さらに、配列番号89で示される塩基配列の3'側下流域に伸長するDNAのクローニングを行うことができる。具体的には、実施例10(4)で調製された全RNAを3μl(200ng)に、前記キットに添付されたCDS-primerを1.0μl及び滅菌蒸留水を1.0μl混合し、70℃で2分間保温した後、氷上で2分間保温する。当該反応液を用いて、5' RACE ready cDNA調製と同様にして3' RACE ready cDNAを調製する。この3' RACE ready cDNAを鋳型にして、3'側下流域を増幅するPCRを行う。PCR反応液は、5' RACE ready cDNA を2.5μlに、前記キットに添付された10x Advantage 2 bufferを5.0μl、10mM dNTP Mixを1.0μl及び50x Advantage 2 Polymerase Mixを1.0μlを混合し、プライマーとして前記キットに添付された10x Universal Primer A Mixを5.0μlと、配列番号89で示される塩基配列から選ばれる20〜30塩基からなるオリゴヌクレオチドの10μM溶液を1.0μl添加し、滅菌蒸留水を用いて全量を50μlとする。この反応液を、94℃で5秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで70℃で10秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを5サイクル繰り返し、さらに94℃で5秒間次いで68℃で10秒間次いで72℃で4分間の保温を1サイクルとしてこれを25サイクル繰り返した後、72℃で7分間保温する。当該PCR反応液と、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションした後、これを大腸菌JM109(TaKaRa)に導入する。得られた大腸菌形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを精製する。得られたプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号28,29等で示される塩基配列からなるプライマーを用いて、実施例11(1)に記載された方法に従って塩基配列を解析する。その結果、トマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子の一部の塩基配列(即ち、トマト疫病糸状菌の細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感知性ヒスチジンキナーゼPiOS-1遺伝子の翻訳停止コドンを含む3’端領域の塩基配列)を読み取ることができる。
解析した全ての塩基配列を連結させた結果、配列番号89を含むトマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子の全塩基配列を明らかにすることができる。
【0096】
(3)トマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子全長遺伝子の単離
実施例10(4)で調製されたcDNAを鋳型に、トマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子をPCRで増幅することができる。実施例20(2)の方法で明らかとなったトマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子の塩基配列の開始コドンを含む5'末端側から20塩基目までの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5'末端側にACGACAGTの配列が付加されたオリゴヌクレオチド、と実施例20(2)の方法で明らかとなったトマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子の塩基配列の終止コドンを含む3'末端側から20塩基目までの配列からなるオリゴヌクレオチドの3'末端側にAAGCTTCAGの配列が付加された配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドとをプライマーとして、実施例11(3)に記載された方法に従ってPCR反応を行うことにより、トマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子を含み開始コドンの直前に制限酵素SpeIの認識配列を持ち終止コドンの直後に制限酵素HindIIIの認識配列を持つDNAを増幅する。
反応後のPCR反応液の一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、エチジウムブロマイド染色することにより約4kbのトマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子が増幅されたことを確認する。
【0097】
実施例21 (トマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子の発現プラスミドの構築と形質転換出芽酵母の作製)
最初に、トマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子をpCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)にサブクローニングする。実施例20(3)で調製されたトマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子を含む反応液を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って精製する。精製し得られた約4kbのDNAに対して、実施例11(1)に記載された方法に従って3'A付加を行う。3'A付加された約4kbのDNAと、pCR2.1-TOPOクローニングベクター(Invitrogen)とを、当該クローニングベクターに添付された取扱説明書に従ってライゲーションすることにより、プラスミドpCRPiOS1を構築する。得られたプラスミドの塩基配列は、実施例11(1)に記載された方法に従って解析した。プライマーとして、配列番号28、29等等に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる。その結果、プラスミドpCRPiOS1が配列番号89を含むトマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子を保有することが確認できる。
このように調製されたプラスミドpCR PiOS1に含まれるトマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子を酵母-大腸菌のシャトルベクターp415ADHにクローニングすることにより発現プラスミドを構築する。プラスミドpCRPiOS1を制限酵素SpeI及びHindIIIで消化し、一方、シャトルベクターp415ADHも制限酵素SpeI及びHindIIIで消化する。これらをそれぞれ0.8%アガロースゲル電気泳動で分離した後、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたトマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターp415ADHを含むゲル部分を切り出し、これをQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて当該キットに添付されたマニュアルに従って前記ゲルより、制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたStOS-1遺伝子断片並びに制限酵素SpeI及びHindIIIで消化されたシャトルベクターを回収する。Ligation Kit Ver.2(TaKaRa)を用いて、当該キットに添付されたマニュアルに従って、シャトルベクターのマルチクローニング部位のSpeIとHindIIIとの間にStOS-1遺伝子を挿入することにより、発現プラスミドpADHPiOS1を構築する。得られた発現プラスミドの塩基配列は実施例11(1)に記載された方法に従って解析する。プライマーとして、配列番号28、29等等に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる。その結果、配列番号89を含むトマト疫病糸状菌のOS-1相同遺伝子の塩基配列が得られ、発現プラスミドpADHPiOS1がトマト疫病糸状菌OS-1相同遺伝子を保有することが確認できる。
調製された発現プラスミドpADH PiOS1を実施例2記載の方法に従って、出芽酵母AH22株及びTM182株に遺伝子導入する。得られる形質転換出芽酵母では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、形質転換出芽酵母AH22株(AH22- PiOS1)はGlu-Leu寒天培地で選抜し、形質転換出芽酵母TM182株(TM182- PiOS1)はGal-Ura-Leu寒天培地で選抜する。得られたTM182- PiOS1についてGlu-Ura-Leu培地に移植しても生育することを確認する。
【0098】
実施例22 (形質転換出芽酵母TM182- PiOS1の抗菌活性物質感受性試験)
実施例21で作製された形質転換出芽酵母AH22- PiOS1をGlu-Leu培地中30℃で振とう培養する。対照として、AH22株を同様に、Glu培地中30℃で振とう培養する。それぞれの増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液における600 nmの吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製する。さらに、形質転換出芽酵母AH22- PiOS1がGlu-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、AH22株がGlu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製する。
化学式(1)〜(7)に示される7種類の化合物(化合物(1)〜(7))がジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製する。その内の1枚には、上記のように希釈調製された形質転換出芽酵母AH22- PiOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で静置培養する。もう1枚には、上記のように希釈調製された対照酵母AH22株の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で静置培養する。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定する。
同様に、実施例21で作製された形質転換出芽酵母TM182- PiOS1をGlu-Ura-Leu培地中30℃で培養する。増殖された形質転換出芽酵母の菌懸濁液の600 nmにおける吸光度を測定し、吸光度が0.1となるよう滅菌蒸留水で希釈された菌懸濁液を調製する。さらに、形質転換出芽酵母TM182- PiOS1がGlu-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液と、対照としてGal-Ura-Leu培地で50倍に希釈された菌懸濁液とを調製する。
化学式(1)〜(7)に示される7種類の化合物(化合物(1)〜(7))がジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解された溶液を調製し、当該化合物DMSO溶液と対照としてDMSOとがそれぞれ各穴に1.0μlずつ2箇所(即ち、2ウェル)に分注されたマイクロプレートを2枚作製する。その内の1枚には、上記のようにGlu-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182- PiOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で静置培養する。もう1枚には、上記のように、対照としてGal-Ura-Leu培地で希釈調製された形質転換出芽酵母TM182- PiOS1の菌懸濁液を100μlずつ分注し30℃で静置培養する。培養後、マイクロプレートリーダーで各穴の600 nmの吸光度を測定する。
形質転換出芽酵母TM182- PiOS1の各被験物質による生育の阻害度は、形質転換出芽酵母AH22- PiOS1の各被験物質による生育の阻害度より大きく、形質転換出芽酵母TM182- PiOS1は形質転換出芽酵母AH22- PiOS1と比較して抗菌活性物質に対する感受性が増強した形質転換細胞であることが確認できる。
【0099】
以下に、本発明において使用される培地の組成を記す。
(a)Glu培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、Glucose 20g、Drop-out mix(1) 2.0g、Distilled water 1000ml(b)Glu-Leu培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、Glucose 20g、Drop-out mix(2) 2.0g、Distilled water 1000ml
(c)Glu-Ura-Leu培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、Glucose 20g、Drop-out mix(3) 2.0g、
Distilled water 1000ml
(d)Gal-Ura-Leu培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、
Galactose 20g、Drop-out mix(3) 2.0g、
Distilled water 1000ml

Drop-out mix (1):
Adenine 0.5g、Lysine 2.0g、Alanine 2.0g、Methionine 2.0g、Arginine 2.0g、para-Aminobenzoic acid 0.2g、Asparagine 2.0g、Phenylalanine 2.0g、Aspartic acid 2.0g、Proline 2.0g、Cysteine 2.0g、Serine 2.0g、Glutamine 2.0g、Threonine 2.0g、Glutamic acid 2.0g、Tryptophan 2.0g、Glycine 2.0g、Tyrosine 2.0g、Histidine 2.0g、Valine 2.0g、Inositol 2.0g、Isoleucine 2.0g、Uracil 2.0g、Leucine 10.0g、Distilled water 1000ml
Drop-out mix (2): Leucine(10.0g)を除いたDrop-out mix (1)
Drop-out mix (3): Uracil(2.0g)及びLeucine(10.0g)を除いたDrop-out mix (1)
(e)Glu寒天培地
培地(a)に2%(W/V)の寒天が添加された固体培地。
(f)Glu-Leu寒天培地
培地(b)に2%(W/V)の寒天が添加された固体培地。
(g)Glu-Ura-Leu寒天培地
培地(c)に2%(W/V)の寒天が添加された固体培地。
(h)Gal-Ura-Leu寒天培地
培地(d)に2%(W/V)の寒天が添加された固体培地。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によって、抗菌活性物質に対する感受性が増強された形質転換細胞を提供可能にし、さらに当該形質転換細胞を使用する被験物質の抗菌活性検定方法、及び当該方法を使用する抗菌活性物質の探索方法等を提供可能にした。
【配列表フリーテキスト】
【0101】
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号6
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号9
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号10
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号11
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号12
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号15
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号18
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号19
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号20
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号21
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号22
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号23
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号24
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号25
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号26
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号27
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号28
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号29
シークエンスのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号30
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配列番号31
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号32
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号33
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号34
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号35
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配列番号36
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号37
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配列番号38
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配列番号39
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配列番号40
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配列番号43
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配列番号44
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配列番号45
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配列番号46
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配列番号47
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配列番号48
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配列番号49
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配列番号50
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配列番号51
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配列番号52
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配列番号53
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配列番号54
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配列番号57
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配列番号58
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配列番号59
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配列番号60
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配列番号61
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配列番号62
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配列番号63
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配列番号64
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配列番号65
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配列番号66
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配列番号67
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配列番号70
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配列番号71
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配列番号72
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配列番号73
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配列番号74
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配列番号75
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配列番号76
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配列番号77
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配列番号78
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配列番号79
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配列番号80
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配列番号81
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配列番号82
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配列番号83
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配列番号84
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配列番号85
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配列番号86
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配列番号87
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配列番号88
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とするヒスチジンキナーゼ。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性蛋白質のアミノ酸配列、
(c)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性蛋白質のアミノ酸配列
【請求項2】
下記のいずれかのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とするヒスチジンキナーゼ遺伝子。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性蛋白質のアミノ酸配列、
(c)配列番号41、配列番号55又は配列番号68で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、かつ細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性蛋白質のアミノ酸配列
【請求項3】
配列番号42、配列番号56又は配列番号69で示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
植物病原糸状菌由来であって、細胞膜貫通領域を有さない浸透圧感受性ヒスチジンキナーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドの取得方法であり、配列番号30乃至40、52、53、64、65、85、及び、86のいずれかで示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより所望のポリヌクレオチドを増幅させる工程、及び、増幅された所望のポリヌクレオチドを回収する工程を有することを特徴とする取得方法。
【請求項5】
配列番号30乃至40、52、53、64、65、85、及び、86のいずれかで示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。

【公開番号】特開2009−268473(P2009−268473A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188273(P2009−188273)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【分割の表示】特願2003−354761(P2003−354761)の分割
【原出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】