説明

抗菌消臭スプレー剤

【課題】セレウス菌などの耐熱性芽胞菌に対しても効果を発揮するとともに、噴霧性が良好な抗菌消臭スプレー剤を提供する。
【解決手段】ポリヘキサメチレンビグアナイド及びその塩などのビグアナイド誘導体を含む水性組成物からなり、コーン・プレート型回転粘度計を用いて測定した温度25℃、コーン角度2度、コーン半径2cm及びずり応力0.01Paでのずり速度が1×10−3−1〜1×10−1であることを特徴とする抗菌消臭スプレー剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種繊維製品をはじめとして、一般家屋や工場施設などの様々な室内環境に対して噴霧することにより、抗菌や消臭を行うために用いられる抗菌消臭スプレー剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に着用後に毎回洗濯しないスーツやセーター等の衣料は、体臭(汗・皮脂臭)が蓄積し、不快臭が発生する原因となる。また、じゅうたんや玄関マット、カーテンなどの内装材も洗濯することが難しく、不快臭が発生する問題がある。これらの不快臭の主な原因は、菌による汗、皮脂などの分解と考えられており、菌の増殖を抑制すれば、不快臭を抑制することができる。
【0003】
菌の増殖を抑えるカチオン系抗菌剤の1つとして、塩化ベンザルコニウムが知られている。しかしながら、塩化ベンザルコニウムは、対象となる微生物の範囲が狭く、様々な菌が付着する可能性がある繊維製品においては、抗菌効果を十分に発揮させることができないという問題がある。代表的には、昨今問題となっているセレウス菌などの耐熱性芽胞菌には効果がないなどの問題がある。そのため、十分な抗菌効果を得るためには、多量に付着させる必要があった。
【0004】
下記特許文献1には、繊維製品を、抗菌成分、ポリカルボン酸若しくはその塩及び架橋剤を含む組成物で処理する抗菌性繊維製品の製造方法が記載され、該抗菌成分として、ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物を用いることが開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、組成物で処理した後に繊維製品を、例えば180℃で熱処理して架橋させる必要がある。そのため、家庭で実施するにはアイロン加工が必要であるという問題があり、また、架橋剤が添加されているため衣類の持つ風合いを損なったり、化合物自体が黄変して衣類を変色させたりするといった問題がある。
【0005】
一方、下記特許文献2には、壁、タイル、テーブル表面、ガラスや皿などの硬質面を除菌、洗浄する方法として、ビグアナイド系抗菌剤、精油又はその活性物質、及び有機酸又はその塩を含む組成物を用いることが開示されている。特許文献2には、該組成物をスプレー剤として用いることも開示されているが、ビグアナイド誘導体を特定のずり速度を持ったスプレー剤として用いることにより、とりわけ繊維製品に対して優れた効果が奏される点については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−105674号公報
【特許文献2】特表2003−531247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、セレウス菌などの耐熱性芽胞菌に対しても効果を発揮し、少ない使用量で十分な抗菌効果を発揮できるとともに、液だれ防止性に優れ、更に、噴霧後の熱処理が不要で、風合いを損なうおそれがない抗菌消臭スプレー剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る抗菌消臭スプレー剤は、ビグアナイド誘導体を含む水性組成物からなり、コーン・プレート型回転粘度計を用いて測定した温度25℃、コーン角度2度、コーン半径2cm及びずり応力0.01Paでのずり速度が1×10−3−1〜1×10−1であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る抗菌消臭スプレー剤であると、スプレーによる処理によって、セレウス菌などの耐熱性芽胞菌を含む幅広い微生物に対して抗菌効果を発揮することができ、少ない使用量で十分な抗菌消臭効果を発揮することができる。また、低い応力でもずり速度が大きく、そのためトリガー式スプレーを用いた場合の噴霧性が良好で抗菌消臭処理が可能であり、また液だれ防止性に優れており、更に噴霧後の熱処理の必要もなく、風合いを損なうおそれもない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係る抗菌消臭スプレー剤は、抗菌剤としてビグアナイド誘導体を含む水性組成物からなる。ビグアナイド誘導体は、グアニジン基が2個結合してなるビグアナイドの誘導体であり、各種ビグアナイド系化合物及びその塩が含まれる。かかるビグアナイド系抗菌剤は、微生物スペクトルが広いため、対象となる微生物が多く、幅広い微生物に対し抗菌効果を発揮し、また少量使用でも十分な抗菌効果を発揮することができる。また、セレウス菌のような耐熱性芽胞菌に対しても、常温で抗菌効果を発揮することができる。
【0012】
上記ビグアナイド誘導体としては、ポリヘキサメチレンビグアナイド及びその塩、クロルヘキシジン及びその塩、並びに、シアノグアニジンとポリアルキレンアミンとの縮合反応物等が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(1)で表されるポリヘキサメチレンビグアナイド及びその塩の少なくとも1種が特に好ましく用いられる。
【化1】

【0013】
式中、n=3〜16であることが好ましい。ポリヘキサメチレンビグアナイドの塩としては、塩酸塩、硫酸塩、又は有機酸塩などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0014】
なお、クロルヘキシジンの塩としては、グルコン酸塩、塩酸塩、酢酸塩などが好ましく用いられる。
【0015】
実施形態に係る抗菌消臭スプレー剤は、該ビグアナイド誘導体を含む水性組成物であり、即ち、溶媒として水を含んだ液状組成物である。このように抗菌消臭スプレー剤は、ビグアナイド誘導体の水溶液であることを基本とするが、グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの一価アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどの各種溶媒を含むものであってもよい。
【0016】
抗菌消臭スプレー剤におけるビグアナイド誘導体の含有量は、特に限定されないが、組成物全体の0.005〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量%であり、更に好ましくは0.01〜2質量%である。また、水の含有量も特に限定されないが、組成物全体の60〜99.99質量%であることが好ましく、より好ましくは80〜99.9質量%であり、更に好ましくは90〜99.8質量%である。
【0017】
抗菌消臭スプレー剤には、上記ビグアナイド誘導体及び溶媒の他、ビグアナイド誘導体以外の抗菌剤成分、界面活性剤(乳化剤)、オイル類、消臭剤、安定化剤、香料、着色剤、紫外線遮蔽剤、殺虫防虫剤および防臭剤など、様々な任意成分を含んでもよい。
【0018】
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の各種界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタインなどが挙げられる。
【0019】
オイル類としては、ホボハ油およびマカデミアナッツ油などの天然油脂、流動パラフィンおよびワセリンなどの高級アルコール、ラウリン酸およびミリスチン酸などの高級脂肪酸、アミノ変性シリコーンおよびエポキシ変性シリコーンなどのシリコーンなどが挙げられる。
【0020】
実施形態に係る抗菌消臭スプレー剤は、コーン・プレート型回転粘度計を用いて測定した温度:25℃、コーン角度:2度、コーン半径:2cm及びずり応力:0.01Paでのずり速度が1×10−3−1〜1×10−1であることを特徴とする。このようなずり速度を持つ水性組成物を用いることにより、噴霧性が良好で、噴霧後の定着性、液だれ防止性、塗布時の伸び、塗布後の仕上がり(噴霧むらの少なさ)に優れている。この点について詳述すると、一般に液体には、与える応力とずり速度が比例するものや、ある応力まではずり速度はほとんど増加しないがその応力を超えるとずり速度の増加割合が大きくなるものなどがある。これに対し、トリガー式スプレー容器などの公知のスプレー容器を用いる場合、これらは与える応力が低いため、かかる低応力でも、吸い上げチューブからノズルへの吸い上げ、更にはノズルからの噴霧を可能にすることが求められる。そのため、低応力でもずり速度が大きいことがトリガー式スプレーでは重要であり、本発明では、このような低応力でのずり速度を大きく設定することにより、トリガー式スプレーを用いた場合の噴霧を可能としている。上記水性組成物のずり速度が1×10−3−1未満では、繊維製品に対して均一な噴霧ができず、繊維製品全体にわたって十分な抗菌性を得ることができない。すなわち、この場合、低応力であるトリガー式スプレーでは、噴霧した繊維製品の表面において抗菌剤が付着した部分と付着していない部分ができてしまい、均一な噴霧が難しい。また、この場合、水性組成物は粘性を持ちながらノズルを通過するので、ノズル詰まりなどを発生しやすい。逆に、ずり速度が1×10−1を超えると、抗菌剤が拡散されるために十分な抗菌性を得ることができない。すなわち、この場合、噴霧した水性組成物は、噴霧部分だけでなく、その周りにもにじむように広がるので、十分な量の抗菌剤を付着させることが難しくなる。これは繊維製品に噴霧する場合の特有の問題である。また、ずり速度が大きすぎると、液だれ防止性も低下する。なお、該ずり速度は0.01〜50s−1であることがより好ましい。ずり速度を上記数値範囲内に調整するための手法は特に限定されず、上記溶媒や界面活性剤の種類及び量などを適宜に設定すればよい(例えば、多価アルコールの配合量を多くするほど、ずり速度は小さくなる傾向がある。)。なお、上記特許文献1のような高分子化合物を配合すると、低応力でのずり速度が小さくなりすぎて、上記数値範囲内に設定することが困難となり、トリガー式スプレーではノズル詰まりが生じやすいので、特に限定するものではないが、高分子化合物は配合しないことが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る抗菌消臭スプレー剤は、スプレー容器内に収容することにより抗菌消臭スプレー装置として用いられる。スプレー容器としては、上記抗菌消臭スプレー剤を容易に充填でき、噴霧を可能として、スプレー装置として機能するものであれば、適宜使用することができ、例えば、トリガー式スプレー容器(直圧型あるいは蓄圧型)や、定量噴霧可能なディスペンサータイプのポンプ式スプレー容器など、公知のスプレー容器を用いることができる。
【0022】
本実施形態にかかる抗菌消臭スプレー剤は、スーツやセーター、コートなどの様々な家庭用衣類、じゅうたんや玄関マット、カーテン、布団などの内装材などの各種繊維製品に対してスプレーして用いることができる。噴霧量は、特に限定されず、これら繊維製品の表面が湿る程度でもよい。また、噴霧後に熱処理などの後処理は不要であり、自然乾燥により抗菌処理が行うことができる。そのため、繊維製品に付着した菌の増殖を効果的に抑制して、臭いの発生や、カビの発生を防止でき、衛生的で清潔な状態を維持することができる。また、処理対象は繊維製品には限られず、例えば、一般家屋の壁面、工場などの各種施設の床面など、様々な室内環境に対しても、スプレーして用いることができ、それらの室内環境の抗菌や消臭を行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0024】
下記表1に示す配合に従い、実施例及び比較例の水性組成物を調製した。各水性組成物について、ずり速度を測定するとともに、これら水性組成物を抗菌消臭スプレー剤として用いて抗菌処理を行った後、抗菌性、風合い及び液だれ性を評価した。表1中の各成分の詳細、ずり速度の測定方法、抗菌処理方法、及び、各評価方法は、以下の通りである。
【0025】
[各成分の詳細]
・グリセリン脂肪酸エステル:三菱化学フーズ社製「リョートーポリグリエステル」
・ポリオキシアルキレンラウリルエーテル:第一工業製薬社製「ノイゲンLP−180」
・ポリアクリル酸:第一工業製薬社製「シャロールAN−103P」
・グリセロールポリグリシジルエーテル:日新EM社製「Quetol−812」
・ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩:ゲンブ株式会社製「バイオドクター」、上記式(1)で表されるポリヘキサメチレンビグアナイドの塩酸塩
・塩化ベンザルコニウム:第一工業製薬株式会社製「カチオーゲンBC−50」
【0026】
[ずり速度の測定方法]
コーン・プレート型回転粘度計(株式会社ユービーエム製「Rheosol−G2000」)を用いて、温度25℃、コーン角度2度、コーン半径2cm及びずり応力0.01Paの条件で測定した。
【0027】
[抗菌処理方法]
5cm×5cmに裁断した綿布をオートクレーブで滅菌処理した。滅菌処理した綿布に、市販のトリガー式スプレー(霧吹き)を用いて、表1に示す水性組成物(抗菌消臭スプレー剤)を5mL噴霧し、30秒間静置して、試験用サンプルとした。なお、比較例3では、上記の噴霧後に、180℃でキュア(熱処理)を行い、放冷後のものを試験用サンプルとした。
【0028】
[抗菌性]
(殺菌対象菌)
殺菌対象とする耐熱性菌として、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)(以下、セレウス菌という。)を用いた。セレウス菌は、好気性の芽胞形成桿菌であり、耐熱性の芽胞を形成する。セレウス菌液としては、1mL当たり2.0×10cfu(コロニー形成単位)のセレウス菌を含む液を使用した。
【0029】
(抗菌試験)
上記試験用サンプルの布上に、セレウス菌液50μLを添加して浸み込ませ、乾燥した。その後、該布に20mLの滅菌水を加え、布上の菌を抽出した。この抽出液をセレウス菌培地(セレウス菌の一次分離に用いるNGKGNaCl培地)に添加した。35℃±2℃で48時間培養した。培養後、培地上のコロニーをカウントした。評価は、試験用サンプル3枚の試験後の平均コロニー数を算出し、この平均値により行った。
【0030】
[風合い]
男女5人のパネラーに、試験用サンプルに触れてもらい、下記の4段階の風合いを評価し、その平均値を求めた。そして、平均値が0以上1未満を「○(良)」、1以上2未満を「△」、2以上3以下を「×(不良)」と評価した。
0:変化なし
1:わずかに硬い
2:硬い
3:硬い上に、手指に付着物がある。
【0031】
[液だれ性]
上記抗菌試験に用いたものと同様の綿布を垂直に吊し、水平方向に20cmの距離から、上記トリガー式スプレーにて連続して30回噴霧し、綿布からの液だれの有無を確認した。液だれがないものを「○(良)」、液だれが見られるものを「×(不良)」で評価した。
【0032】
【表1】

【0033】
結果は表1に示す通りであり、比較例1、2は、塩化ベンザルコニウムを使用したために、十分な抗菌効果が得られなかった。また、比較例2は、抗菌剤の使用量が多いため、噴霧後の生地にべとつきが発生してしまった。比較例3及び5では、低応力でのずり速度が小さすぎて、トリガー式スプレーでの噴霧性に劣っており、そのため、抗菌効果に劣っていた。また、比較例3では、架橋により風合いが悪化していた。逆に、比較例4では、低応力でのずり速度が大きすぎて、十分な抗菌性が得られておらず、また液だれ防止性にも劣っていた。
【0034】
これに対し、実施例1〜4であると、セレウス菌のコロニー数が100cfu/100cm以下、より詳細には10cfu/100cm未満であり、優れた抗菌効果が示された。また、噴霧性が良好であり、噴霧後の定着性、液だれ防止性に優れており、塗布時の伸び、塗布後の仕上がり(噴霧むらの少なさ)にも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビグアナイド誘導体を含む水性組成物からなり、コーン・プレート型回転粘度計を用いて測定した温度25℃、コーン角度2度、コーン半径2cm及びずり応力0.01Paでのずり速度が1×10−3−1〜1×10−1であることを特徴とする抗菌消臭スプレー剤。
【請求項2】
前記ビグアナイド誘導体が下記一般式(1)で表されるポリヘキサメチレンビグアナイド及びその塩の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の抗菌消臭スプレー剤。
【化1】

(式中、n=3〜16)
【請求項3】
繊維製品に対するスプレー用である請求項1又は2記載の抗菌消臭スプレー剤。

【公開番号】特開2012−171926(P2012−171926A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36105(P2011−36105)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】