説明

抗菌用ポリウレタン

【課題】 より高い抗菌性を有するポリウレタンの提供。
【解決手段】 金属捕捉性部位を有する金属捕捉性活性水素化合物がポリマー骨格に組み込まれたポリウレタンと、前記ポリウレタンの金属捕捉性部位により保持されている抗菌性金属成分とを有することを特徴とする、抗菌用ポリウレタン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌用ポリウレタンに関し、特に、金属捕捉性部位を有する活性水素化合物がポリマー骨格に組み込まれたポリウレタンを含有する抗菌用ポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンフォームは様々な用途に使用される。例えば、自動車や、電車車両等の座席シートや、天井、壁などの内部に設けられる吸音材などの住宅建築用材料や、他ファンデーション用パフ、医療用パッド等のコスメティック・メディカル用品などが挙げられる。これらの用途において、かび等の菌類が繁殖することにより臭気などの問題を有する場合には、ポリウレタンフォームに抗菌性が付与されることが求められる場合がある。
【0003】
そこで、ポリウレタンフォーム発泡原料に対して、銀、銅、亜鉛、金属イオンをゼオライトに保持させたもの等の無機系抗菌剤を添加して当該抗菌剤と一体発泡させることにより、ポリウレタンフォーム中に抗菌剤が一体に分散した、抗菌性を有するポリウレタンフォームを得る方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−114812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の方法により得られるポリウレタンフォームでは、十分な抗菌効果が得られなかった。そこで、本発明は、より高い抗菌性を有するポリウレタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、金属捕捉性部位を有する金属捕捉性活性水素化合物がポリマー骨格に組み込まれたポリウレタンと、前記ポリウレタンの金属捕捉性部位により保持されている抗菌性金属成分とを有することを特徴とする、抗菌用ポリウレタンである。
【0007】
本発明(2)は、前記金属捕捉性活性水素化合物が、アルギン酸若しくはその塩、又は、ヌクレオチド鎖であることを特徴とする、前記発明(1)の抗菌用ポリウレタンである。
【0008】
本発明(3)は、前記抗菌性金属成分が、銀、銅、亜鉛からなる群から選ばれるいずれか一種の金属成分であることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)の抗菌用ポリウレタンである。
【0009】
本発明(4)は、前記抗菌性金属成分が、0.01〜10wt%含まれることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの抗菌用ポリウレタンである。
【0010】
本発明(5)は、前記ポリウレタンが、前記金属捕捉性活性水素化合物と、少なくとも二つのイソシアナト基を有するプレポリマーと、を少なくとも反応させて得られるポリウレタンであることを特徴とする、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの抗菌用ポリウレタンである。
【0011】
本発明(6)は、前記ポリウレタンが、発泡ポリウレタンであることを特徴とする、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの抗菌用ポリウレタンである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る抗菌用ポリウレタンは、金属捕捉性部位がポリウレタン表面に存在しており、更に当該金属捕捉性部位によってウレタン表面に抗菌性金属成分を保持しているため、当該抗菌性金属成分と抗菌の対象物である液体や気体等の流動物との接触効率が高いので、特に顕著な抗菌性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
構成
本発明に係る抗菌用ポリウレタンは、金属捕捉性部位を有する活性水素化合物がポリマー骨格に組み込まれたポリウレタンと、前記ポリウレタンの金属捕捉性部位により保持されている抗菌性金属成分とを有することを特徴とする。「ポリマー骨格に組み込まれた」とは、縮合反応又は付加反応により、ポリウレタンの主鎖又は側鎖に共有結合を介して組み込まれている、又は、ポリウレタンに含まれる官能基の一部と結合を有していることを意味する。
【0014】
本発明に係る抗菌用ポリウレタンは、金属捕捉性部位がポリウレタン表面に存在しており、更に当該金属捕捉性部位によってウレタン表面に抗菌性金属成分を保持することが出来るため、当該抗菌性金属成分と抗菌の対象物である液体や気体等の流動物との接触効率が高いので、特に顕著な抗菌性を有する。また、本発明による抗菌用ポリウレタンによれば、従来とは異なり、ウレタンポリマー骨格に組み込んだ金属捕捉性部位によって、抗菌性金属成分を保持しているので、金属の含有率を顕著に高めることも可能であるので、優れた抗菌性を発揮すると考えられる。尚、ここでウレタンの表面とは、ウレタンと、他の液体又は気体等の外界との界面を意味し、例えば、ウレタンが発泡ポリウレタンである場合には、発泡内に形成されるセルなどの表面もまたここで言うウレタン表面に該当する。
【0015】
本発明に係るポリウレタンは発泡ポリウレタンであることが好適である。発泡体であることによって、ポリウレタンの表面積が大きくなるため、より多くの抗菌性金属成分を保持することが可能となるため、より高い抗菌性を発揮する。
【0016】
また、本発明に係るポリウレタンは親水性ポリウレタンであることが好適である。親水性であることにより、より多くの水分を吸収し易くなるため、抗菌性金属成分を保持させ易くなるほか、抗菌対象となる水性液体との接触がし易くなる。
以下、本発明に係る抗菌用ポリウレタンの各構成要件について詳細に説明する。
【0017】
<ポリウレタン>
次に、本発明に係る「ポリウレタン」は、通常のポリウレタンと同様、活性水素化合物と、少なくとも二つのイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物とを少なくとも反応させることにより得られる構造体であるが、前記活性水素化合物の少なくとも一部として金属捕捉性部位を有する活性水素化合物を用いることが好適である。この結果、得られるポリウレタンは、金属捕捉部位を有する活性水素化合物を当該ポリウレタンのポリマー骨格に共有結合を介して結合しているため、金属捕捉性部位が、当該ポリウレタンから溶出しにくくなる。ポリウレタンを得る反応において添加されるものとしては、上記活性水素化合物、イソシアネート化合物のほかに、発泡剤、触媒、界面活性剤、整泡剤や、その他添加物などが含まれうる。
【0018】
「活性水素化合物」とは、イソシアナト基と反応性を有する水素原子を有する化合物を指し、例えば、電気陰性度の大きなOやN等に結合したOHやNH等を有する化合物(例えば有機化合物)を挙げることができる。
【0019】
「金属捕捉性部位」とは、金属を捕捉可能である部位を意味する。
【0020】
尚、本発明に係る「ポリウレタン」は、特に限定されず、軟質、半硬質、硬質等の一切を含み、用途の広範性と作業性の観点から、軟質が好ましい。また、本発明に係る「ポリウレタン」は、非発泡(ソリッド)でも、独立気泡の発泡体でも、連続気泡の発泡体でもよい。但し、処理効果からは連続気泡の発泡体が好ましい。
【0021】
ここで、当該ポリウレタンを製造する際に使用される各種原料を順番に説明する。
【0022】
(活性水素化合物)
「活性水素化合物」としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基、メルカプト基等の活性水素基を有する化合物が挙げられ、より具体的には、少なくとも二つの水酸基を有するポリオールや、少なくとも二つのアミノ基を有するポリアミンが挙げられる。「活性水素化合物」の少なくとも一部は、金属捕捉性活性水素化合物であることが好適である。ここで金属捕捉性活性水素化合物とは、金属捕捉性部位を有する活性水素化合物を意味する。尚、金属捕捉性活性水素化合物は、金属捕捉性部位に加えて、少なくとも二つの活性水素基を有する活性水素化合物であることが好適である。金属捕捉性部位としては、特に限定されないが、例えば、金属捕捉基や、ヌクレオチド鎖が挙げられる。金属捕捉基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、リン酸基、スルホン基等が挙げられる。これらの中でもカルボキシル基を有することが好適である。尚、これらの金属捕捉基を有する化合物の塩であってもよい。より具体的に金属捕捉性活性水素化合物としては、特に限定されないが、アルギン酸、ヌクレオチド鎖が挙げられる。
【0023】
ここで、アルギン酸は、β−1,4−結合のD−マンヌロン酸(M)とα−1,4結合のL−グルロン酸(G)が連なった鎖状構造である(後述のように、天然の褐藻類から抽出した場合、原料の種類や季節によりM/G比が異なる)。尚、本明細書にいう「アルギン酸」とは、アルギン酸のみならず、アルギン酸塩やアルギン酸誘導体(但し、カルボキシル基及び水酸基は完全には修飾されていないものに限られる)をも包含し、例えば、アルギン酸;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムといったアルギン酸塩;アルギン酸プロピレングリコール(例えば30〜150cP)といった部分エステルのようなアルギン酸誘導体を挙げることができる。これらの中では、水溶性のアルギン酸塩(好適にはアルカリ金属塩、特に好適にはアルギン酸ナトリウム)が好適である。また、「アルギン酸」の重合度は、特に限定されないが、例えば、80〜600が好適であり、300〜400程度がより好適である。ここで、製造コストや不要物利用等に鑑みると、天然物中のアルギン酸を利用することが好適である。例えば、アルギン酸は、褐藻類に含まれる食物繊維として知られている。ここで、アルギン酸の原料となる褐藻類は、特に限定されず、例えば、食用となるコンブやワカメの他、非食用である等の理由から産業上殆ど利用されないスジメ、アイヌワカメ、ウガノモクも利用可能である。更に、ダシを取った後の廃棄コンブ等も利用可能である。尚、褐藻類からアルギン酸を抽出する方法は、例えば、「釧路水試だより No.85(2005)13−15」に記載されている。
【0024】
本発明のヌクレオチド鎖は、一本鎖又は二本鎖のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを意味し、塩基組成、塩基配列の順序、塩基配列の長さなどは特に制限されず、任意のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドが使用できる。このようなヌクレオチド鎖として、一本鎖若しくは二本鎖DNA、一本鎖若しくは二本鎖RNA、一本鎖若しくは二本鎖cDNA、DNA/RNAハイブリッド、cDNA/DNAハイブリッド、cDNA/RNAハイブリッドなどが例示される。インターカレーションを利用して優れた捕捉性を発揮できる点で二重螺旋構造をとる二本鎖ヌクレオチド鎖が好ましい。本発明では、上記ヌクレオチド鎖を1種以上使用してもよい。上記ヌクレオチド鎖は、大腸菌又は酵母などの微生物、あるいは動植物の任意の部位・器官・組織などから慣用の方法で得ることができる。例えば、ニワトリ、ウシ、又はブタなどの動物の精巣又は胸腺などから得ることができる。特に、サケ、ニシン、マス、タラなどの魚類の白子は、核に多量のDNAなどのヌクレオチド鎖を含み、しかも従来は廃棄されていたことから、ヌクレオチド鎖を安価に大量生産するための原料として適している。白子からヌクレオチド鎖を得るには、例えば、白子の皮、筋、血管などを除去した後、油分を除き、精製すればよい。あるいは、本発明のヌクレオチド鎖はバイオテクノロジー的手法や化学合成などにより人工的に合成することもできる。
【0025】
ここで、ポリウレタンの物性としては、吸水性が高いことが理想的である。そのため、当該ポリウレタンは、親水性ポリウレタンであることが好適である。この場合、「他の活性水素化合物」として、親水性の高分子ポリオール(例えば、オキシエチレン単位やヒドロキシエチルアクリル酸単位のような親水性単位を含むもの)を添加することが好適である。具体例として、親水性で軟質のポリウレタンを形成するために、任意成分として用いられる「他の活性水素化合物」としては、ポリエーテルポリオールが好ましく、一種でも二種以上の併用でも差し支えなく、分子中に平均2.0〜3.5の水酸基を有するものが好ましい。尚、後述の界面活性剤として配合される水酸基含有界面活性剤が、併用されるポリオールの一部を構成してもよい。
【0026】
ここで、親水性のポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、及び、ポリオールのオキシエチレン単位が10重量%以上の、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の共重合体が例示され、部分的に他の構成単位、例えばオキシトリメチレン単位やオキシテトラメチレン単位を含む共重合体であってもよい。オキシエチレン単位は、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上で、親水性が顕著となる。共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でも差し支えない。直鎖状ポリエーテルポリオールは、出発物質として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのような二価アルコールを用い、エチレンオキシド及び必要に応じてプロピレンオキシドのような環状オキシド化合物を開環重合させて、合成することができる。分岐鎖状ポリエーテルポリオールは、出発物質としてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビトール、グルコース、スクロースのような三価以上の多価アルコールを用い、上記と同様の環状オキシド化合物を開環重合させて合成することにより、上記の多価アルコールに由来する分岐単位を分子中に含ませることができる。また、別法として、まず二官能性のポリオールを合成し、次いで三価以上の多価アルコールと反応させて、分子中に分岐を導入することもできる。ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、通常、800〜4,000、好ましくは900〜3,500である。
【0027】
(イソシアネート化合物)
次に、「少なくとも二つのイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物」は、分子中に少なくとも二個のイソシアナト基を含む限り特に限定されず、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、上記二者の混合物、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、上記二者の混合物、m−キシレンジイソシアネート、テトラメチルm−キシレンジイソシアネートのような芳香族イソシアネート化合物;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのような脂肪族または脂環式イソシアネート化合物;それらのイソシアヌレート体、アロファネート体、ビウレット体等が例示され、トリレンジイソシアネート及びジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0028】
また、これらのイソシアネート化合物を、ポリオール等の活性水素化合物とあらかじめ反応させたプレポリマーを使用することも可能である。例えば、少なくとも二つのイソシアナト基を有するイソシアネート化合物と、高分子ポリオールとを反応させて得られる、分子末端にイソシアナト基を少なくとも二つ有するプレポリマーを、イソシアネート化合物として用いることもできる。高分子ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール(例えば、前記した「他の活性水素化合物」としてのポリエーテルポリオール)やポリエステルポリオールが挙げられる。これらの中でも、特に、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネート又は両者の混合物をポリオールと反応させて得られるプレポリマーを用いることが好ましい。
【0029】
イソシアネート化合物の配合量は、プレポリマーの末端がイソシアナト基含有基で閉塞され、水との反応で、アルギン酸やヌクレオチド鎖がポリマー骨格に組み込まれるポリウレタンが形成され、その可撓性や硬度に経時変化がないことから、ポリオールの水酸基に対するイソシアナト基の数は1.5〜3.5個が好ましく、2.0〜3.0個がさらに好ましい。
【0030】
ここで、前述のようにポリウレタンとしては「親水性ポリウレタン」が好適であるところ、当該親水性ポリウレタンを製造する際には、「少なくとも二つのイソシアナト基を有するイソシアネート化合物」の少なくとも一部に当該プレポリマーを用いることが好適である。
【0031】
以上で、本発明に係るポリウレタンを製造する際の主材料を説明したので、以下では補助成分を説明する。
【0032】
(発泡剤)
活性水素化合物と、イソシアネート化合物の反応により、ポリウレタンを得る際に、発泡剤を添加することが好適である。発泡剤としては、水が挙げられる。特に、金属捕捉性活性水素化合物と、プレポリマーとを反応させる際に、水中で当該反応を行なって発泡ポリウレタンを得ることが好適である。
【0033】
(触媒)
その他、活性水素化合物(例えば、アルギン酸、ポリオール等)と少なくとも二つのイソシアナト基を有するイソシアネート化合物(例えば、前述のプレポリマー)との反応に際し、より低い温度及び/又はより短時間に反応を完了させるために、触媒を配合してもよい。このような触媒としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチルテトラメチレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアザ[2.2.2]ビシクロオクタン、N−エチルモルホリンのようなアミン類;オクタン酸スズ、ナフテン酸スズ、オクタン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛のような金属有機酸塩;ジブチルスズジオクトアート、ジブチルスズジラウラートのような有機スズ化合物;アセチルアセトナト鉄のような金属キレート化合物等が例示される。また、これらの触媒のほかに、ジイソシアネート化合物の二量化、三量化を促進する触媒、例えばピリジンのような第三級アミンを配合することもできる。
【0034】
(界面活性剤、整泡剤)
更に、好適なポリウレタンである「親水性ポリウレタン」を製造する場合には、プレポリマーと水と金属捕捉性活性水素化合物(場合により、親水性ポリオールも)との反応によるポリウレタンの形成をより均一に行う(乳化状態で行う)ために、界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル塩型、ポリマー型のような両性界面活性剤、並びに;オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルのようなノニオン型界面活性剤が好ましく用いられ、1種でも2種以上を併用してもよい。ここで、均質で良好な発泡体を得るためには、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体;ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルのようなノニオン型界面活性剤、及び/又は、ポリシロキサン・ポリオキシアルキレングラフト共重合体のような整泡剤の存在下で発泡させることが好ましい。
【0035】
尚、これらの界面活性剤のうち、オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体のように、分子中に複数個の水酸基を有するものは、プレポリマーのイソシアナト基と反応して、ポリウレタンの一部を構成する。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのように、分子中に1個の水酸基を有するものは、プレポリマーのイソシアナト基と反応して、ポリウレタンの側鎖を構成するため、活性水素化合物としても使用されうる。
【0036】
(その他添加物)
その他、必要に応じて、充填剤、着色剤、安定剤等を配合してもよく、更に、用途に応じて、当該用途で必須又は好適である各種成分(例えば、難燃成分、殺菌成分、香料成分等)を配合してもよい。
【0037】
<抗菌性金属成分>
本発明に係る抗菌用ポリウレタンは、金属捕捉性部位により保持されている抗菌性金属成分を有する。抗菌性金属成分としては、抗菌性を有する金属であれば特に限定されないが、銀、亜鉛、銅からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属成分が好適である。前記金属成分の形態は、特に限定されず、金属であってもよいし、金属イオンであってもよい。本発明においては、これらの金属を前記ポリウレタンのポリマー骨格に組み込まれた金属捕捉性部位に保持させて使用する。すなわち、これらの抗菌性金属成分は、従来技術のようにポリウレタンの内部に埋め込まれるようにして使用されるのではなく、ポリウレタンの表面に形成された金属捕捉基により捕捉された状態でポリウレタン中に存在すると考えられる。したがって、これらの抗菌性金属成分がポリウレタン表面に露出したような状態で存在するため、より効率的に抗菌性を発揮できる状態で保持されることとなるため、高い抗菌性を発揮すると考えられる。
【0038】
抗菌性金属成分源としては、水溶液となる金属含有物質であれば特に限定されない。ここで、抗菌性金属成分源として用いられる銀としては、例えば、硝酸銀、酢酸銀等が挙げられる。同じく亜鉛としては、例えば、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。同じく銅としては、例えば、塩化銅、硝酸銅等が挙げられる。抗菌性金属成分の抗菌用ポリウレタン中の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01〜10wt%が好適であり、0.05〜10wt%がより好適であり、0.05〜3wt%が更に好適である。
【0039】
製造方法
次に、本発明に係る抗菌用ポリウレタンの製造方法を説明する。尚、上記のポリウレタンの項目においても、製造方法に関連した記載を一部既に行っているので、当該記載に関しては省略することとする。まず、本製造方法は、少なくとも金属捕捉性活性水素化合物と、少なくとも二個のイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む。当該工程において、イソシアネート化合物としてプレポリマーを用いて、更に、反応の系に、発泡剤としての水を添加することにより、発泡ポリウレタンを製造するプレポリマー法を用いることが好適である。プレポリマーは、優れた反応性と、優れた機械的特性(柔軟性及び弾力性)とを併せ持つものとなる。また、プレポリマーと水分との反応性によって、機械的特性に優れた発泡ポリウレタンを得ることができる。以下、プレポリマー法を例にとり、典型的な製造方法(特に限定されるものではない)を説明する。
【0040】
より詳細には、本発明でのプレポリマー法においては、末端にイソシアナト基を有するプレポリマーを製造するプレポリマー製造工程と、金属捕捉性活性水素化合物と当該プレポリマーとを水中で反応させる発泡ポリウレタン製造工程とを有する。
【0041】
まず、プレポリマー製造工程においては、撹拌機及び加熱・冷却装置を備えた反応槽を、窒素のような不活性気体の雰囲気にして、ポリオールを仕込み、例えばポリエチレングリコール(平均分子量1,000)の場合は、温度を45±5℃で撹拌しつつ、必要に応じてトリメチロールプロパンのような多官能性化合物を加えて昇温し、脱水反応によって分子中に三官能性単位と三個の水酸基を有し、分岐点のトリメチロールプロパン単位以外はオキシエチレン単位からなるポリエーテルポリオールを得る。続いて液温50〜60℃で、少なくとも二個のイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物を添加する。110±5℃で2時間反応させることによって、分子末端にイソシアナト基を有するプレポリマーを合成することができる。50℃以下に冷却してフィルタを通すことにより、プレポリマーを精製することもできる。尚、反応は、無触媒でも進行するが、必要に応じて触媒を添加してもよい。ここで、当該プレポリマーを製造する際には、ポリオールの水酸基に対して、イソシアナト基のモル比が1.5〜3.5となるように反応させることが好ましく、2.0〜3.0となるように反応させることが更に好ましい。
【0042】
一方、続いて、発泡ポリウレタン製造工程においては、金属捕捉性活性水素化合物と、プレポリマーとを発泡させながら反応させることにより発泡ポリウレタンを得る。ここで、発泡させる方法は特に水中で当該水分と反応させることにより発泡させることが好適である。本工程では、より詳細には、水に金属捕捉性活性水素化合物を添加し、必要に応じて触媒、界面活性剤及び/又は整泡剤等の添加剤を配合したアルギン酸等の金属捕捉性活性水素化合物の水溶液を調製する。そして、上記プレポリマーと当該水溶液を、室温で激しく混合してエマルション状態で反応させ、架橋と発泡を進行させて、親水性ポリウレタンを得る。尚、当該親水性ポリウレタンの製造に際しては、過剰の水を使用し、比較的低い温度で発泡体を形成させる。したがって、当該方法は、アルギン酸や、ヌクレオチド鎖の熱分解を防止できるという観点から好適である。
【0043】
尚、上記のようなプレポリマー法によらず、いわゆるワンショット法により金属捕捉性活性水素化合物、水、並びに、必要に応じて触媒、整泡剤及び/又は界面活性剤を配合して分散させたプレミックスに、イソシアネート化合物を室温で激しく混合して反応させ、架橋と発泡を進行させて、同様にポリウレタンを得ることもできる。
【0044】
続いて、得られたポリウレタンと金属を接触させて、金属捕捉性部位に抗菌性金属成分を保持させることにより、本発明に係る抗菌用ポリウレタンを得ることができる。例えば、抗菌性金属塩の水溶液に、ポリウレタンを含浸させて抗菌性金属成分を捕捉させる。その後、ポリウレタンを洗浄、乾燥してもよい。
【0045】
ここで、ポリウレタンの含浸時間は、例えば、1分〜48時間が好適であり、1時間〜35時間がより好適であり、20時間〜30時間が特に好適である。接触させる際に用いる抗菌性金属塩の水溶液の濃度は、例えば、0.01mmol%以上が好適である。上限は特に限定されないが例えば、1000mmol%である。
【0046】
用途
本発明に係る抗菌用ポリウレタンは、抗菌性が要求される用途に使用され、例えば、生活用品(例えば、壁、シートのクッション、ソファー)、医療用品、衛生用品、電化製品等、ヒトや動物の生活環境に配される製品に用いられる。
【0047】
より詳細には、自動車・建築機械・鉄道車両等の座席用クッション、カバー生地ラミネート裏打ち材、ドアトリム・センタピラガーニッシュ等緩衝材、シーリング材、床天井等吸音・制振材等の車両四輪関連用品や、サドル、エアフィルタ、オイルフィルタ、ヘルメット内張り、ライダークッション等の二輪関連用品や、各種吸音材、空調用フィルタ、液密・気密シール材、防音フローリング材等の機器関連用品や、椅子、座イス、ソファー、置きクッション等の家具や、マットレス、掛け及び敷き布団、まくら、ベッドパッド等の寝具や、座布団、各種クッション、カーペット・マット類裏打ち、コタツ敷・掛け等のインテリア関連用品や、精密機器、食品・果物梱包材、鮮魚トレー敷き等の包装用品や、キッチンクリーナー、ボディーソープ用クリーナー、靴磨クリーナー、洗車用クリーナー、オムツ用サイドギャザ−、靴(表皮材裏打ち、中敷き、インナブーツ)、スリッパ芯、縫いぐるみ等詰め物、化粧用パフ等の日用雑貨や、肩・ブラジャー等のパッド、防寒材ライナー等の衣料用品や、育苗用・園芸用土壌、水耕栽培用資材、魚養殖用資材、フェンス衝撃吸収壁、運動用着地マット、マネキンボデイー、船舶椅子用クッション、遊具ボール、音響効果室吸音材、車椅子用クッション、保温・断熱材等の用途で使用される。
【0048】
これらの中でも、育苗用・園芸用土壌、水耕栽培用資材、魚養殖用資材として用いることが好適である。これらの用途に用いることによって、農薬などの除菌剤をまかなくても除菌ができるため、農作物や、魚の汚染の心配がない。その他、例えば、自動車のシート素材として、用いられれば、抗菌用ポリウレタンを用いることにより、例えば、汗の臭いなどを防止することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって、本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の例において、部は重量部、配合比などは重量比(重量%等)を示す。また、本発明の技術的範囲は、これらの例によって限定されるものではない。
【0050】
製造例1(プレポリマーの製造)
数平均分子量1,000のポリエチレングリコール100部を反応槽に仕込み、50℃に加温して液状にし、次いで65℃まで昇温して、トリメチロールプロパン4.7部及び水酸化カリウム1.0部を加えて攪拌し、トリメチロールプロパンを融解させ、脱水反応によって末端反応性の中間体を得た。40℃まで冷却して水酸化カリウムを中和することにより、分子中に三官能性単位と三個の水酸基を有し、分岐点のトリメチロールプロパン単位以外はオキシエチレン単位からなるポリエーテルポリオールを得た。これに、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの80:20の混合物54部を加えて、110℃で2時間反応させることにより、分子末端がイソシアナト基で閉塞されたプレポリマーP−1を、淡黄色液状物として得た。NCO基含量は8.5%、25℃における粘度は27.5Pa・sであった。その数平均分子量は、1,800であった。
【0051】
製造例2(親水性発泡ポリウレタン(アルギン酸フォーム)の製造)
アルギン酸ナトリウム{和光純薬(株)製 1級アルギン酸ナトリウム 300−400}1部と両末端に水酸基を有するポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンブロック共重合体(ポリオキシプロピレン部分の数平均分子量1,750、オキシエチレン単位含量20)1部を水100部に加えて攪拌し、界面活性剤(前記ブロック共重合体)が分散したアルギン酸水溶液を調製した。これを激しく攪拌しながら、先に合成したプレポリマーP−1の100部と20℃で混合し、乳化状態で反応させて、アルギン酸が架橋体構造に組み込まれたウレタンフォームを得た。フォームは水を含んでいるので、室温で1日自然放置して、水分を揮散させた。得られたウレタンフォームは、セル数50/25mm、密度85kg/m3の連続気泡であった。このフォームを水に浸漬したところ、自重に対して18倍の吸水があり、親水性であった。
【0052】
製造例3(プレポリマーの製造)
ミキサーを備えた反応槽を窒素雰囲気にして温度を45℃に設定し、平均分子量1,000のポリエチレングリコール100部を仕込み、攪拌しつつ昇温して、トリメチロールプロパン4.7部を添加して融解させ、水酸化カリウム1部を加えて、脱水反応によって、三官能性単位と分子末端に水酸基を有し、オキシエチレン単位からなるポリエーテルポリオールを得た。次いで液温を50〜60℃に保ち、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの80:20の混合物53.5部を加えて、110℃で2時間反応させることにより、分子末端がイソシアナト基で閉塞された、プレポリマーP−2を淡黄色液状物として得た。50℃以下に冷却してろ過し、以下の実験に供した。平均分子量は約1,800、NCO基含量は8.5 g/100g、25℃における粘度は19Pa・sであった。
【0053】
製造例4(DNAウレタンフォーム)
製造例4において、上記のプレポリマーP−2(製造例3)のほかに下記の材料を用いた。
D−1:サケ白子由来DNA、3重量%水溶液、(有)バイオケム製、DNA‐Na‐HP(ヒモ)窒素12.4%以上、燐8%以上
E−1:両末端に水酸基を有するポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンブロック共重合体、ポリオキシプロピレン部分の平均分子量1,750、オキシエチレン単位含量20
【0054】
上記製造例3で得たP−2の100部とD−1の100部とを混合し、そこにE−1を1部添加して常温で発泡させた。この発泡物を室温で3日間放置して線収縮が乾燥前の85%になるまで乾燥させ、ポリウレタンフォームを得た(連続気泡発泡体、密度85kg/m、セル数50個/25mm)。
【0055】
実施例1(抗菌用ポリウレタンの製造:アルギン酸)
0.1mmol/L(100μmol/L)硝酸銀水溶液に、製造例2(アルギン酸)のポリウレタンを24時間含浸させ、洗浄、乾燥して、銀を発泡ポリウレタン中に定着させた。結果、実施例1に係る抗菌性ポリウレタンが得られた。
【0056】
実施例2(抗菌用ポリウレタンの製造:DNA)
0.1mmol/L(100μmol/L)硝酸銀水溶液に、製造例4(DNA)のポリウレタンを24時間含浸させ、洗浄、乾燥して、銀を発泡ポリウレタン中に定着させた。結果、実施例2に係る抗菌性ポリウレタンが得られた。
【0057】
比較例
銀ゼオライト0.5wt%水溶液100gに対して、ウレタンポレポリマー100gを添加して、反応及び発泡させて比較例の抗菌性ポリウレタンが得られた。尚、ここで用いた銀ゼオライトは、シナネンゼオミック社製ゼオミックを用いた。
【0058】
金属含有量測定
次の抗菌試験において使用するウレタンフォームへの金属付着含有量の測定を行なうべく、分析行程において邪魔となる、有機物である「ウレタンフォーム部」を前処理、硝酸(1+1)に溶出し、測定波長328.1nm及び338.3nmにてフレーム原子吸光法にて測定を行なった。結果、DNAを用いた場合(実施例2)、全重量に対して0.44wt%であり、アルギン酸を用いた場合(実施例1)には、0.56wt%であった。
【0059】
抗菌試験
抗菌製品技術協議会 試験法(2003年度版)の抗菌加工製品の抗菌力評価試験法 試験法II(2003年度版)(シェーク法)に基づいて抗菌力評価試験を行なった。ここでは、表面積合計32±5cmとし、振とう条件下後に経時的に菌数を測定した。結果を表1〜3に示した。尚、ここでDNA−Agは、実施例2に係る抗菌用ポリウレタンであり、ALG−Agは実施例1に係る抗菌用ポリウレタンであり、Zomicは、比較例の銀ゼオライトを用いたポリウレタンである。Blankは、水100gにNB9000Bプレポリマー100gを用いて作製したポリウレタンであり、厚さ3mmのサンプルである。上段のControlは、実施例及び比較例におけるコントロール実験で値であり、下段のControlは、Blankとの関係でのコントロール実験で値である。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属捕捉性部位を有する金属捕捉性活性水素化合物がポリマー骨格に組み込まれたポリウレタンと、前記ポリウレタンの金属捕捉性部位により保持されている抗菌性金属成分とを有することを特徴とする、抗菌用ポリウレタン。
【請求項2】
前記金属捕捉性活性水素化合物が、アルギン酸若しくはその塩、又は、ヌクレオチド鎖であることを特徴とする、請求項1記載の抗菌用ポリウレタン。
【請求項3】
前記抗菌性金属成分が、銀、銅、亜鉛からなる群から選ばれるいずれか一種の金属成分であることを特徴とする、請求項1又は2記載の抗菌用ポリウレタン。
【請求項4】
前記抗菌性金属成分が、0.01〜10wt%含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の抗菌用ポリウレタン。
【請求項5】
前記ポリウレタンが、前記金属捕捉性活性水素化合物と、少なくとも二つのイソシアナト基を有するプレポリマーと、を少なくとも反応させて得られるポリウレタンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の抗菌用ポリウレタン。
【請求項6】
前記ポリウレタンが、発泡ポリウレタンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の抗菌用ポリウレタン。

【公開番号】特開2012−188600(P2012−188600A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54828(P2011−54828)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】