説明

抗菌用塗料及び抗菌熱交換器

【課題】薄塗膜で長期間銀イオンが50ppb以上溶出可能な抗菌性の膜と、その用途とを提供する。
【解決手段】粒径が5μm以下であり銀含有率が15質量%以上である炭酸銀微粒子と樹脂とを含有する抗菌性樹脂膜用の塗料において、前記炭酸銀微粒子の含有量を、前記抗菌性樹脂膜中において14〜88質量%とする。また、該塗料を塗布して形成される抗菌性樹脂膜を熱交換器に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径5μm以下で銀含有率が少なくとも15質量%以上の抗菌剤微粒子を製造する方法、発生する凝縮水中に銀イオンを50ppb以上溶出させることができる抗菌性塗料、及び長期に渡りフィン表面に繁殖するカビの発生を防止することができる抗菌熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
銀を用いた抗菌剤(銀系抗菌剤)は、微粒子粉体として塗料中に分散したり、あるいは樹脂中に混練することによって、抗菌機能を付与させたい塗料や樹脂製品中に添加して使用されている。この際の塗料や樹脂については、塗装の表面や樹脂の表面の滑らかさを確保するために、あるいは塗布又は樹脂コーティングされる製品の伝熱特性等の特性を低下させないように、塗布膜又はコーティング膜を数μm以下の薄膜とすることが望まれている。このため、このような塗料や樹脂に用いられる銀系抗菌剤粒子は、その粒子径が数μm以下の微粒子であることが要望される。
【0003】
銀系抗菌剤粒子には、通常は、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、あるいはリン酸塩等の、粒子径が数μm以下の粒子を担体として、それらの粉体粒子に銀化合物を担持させた粒子が知られている(例えば、特許文献1〜5参照。)。銀系抗菌剤の抗菌作用は銀によるものであるが、従来の銀系抗菌剤粒子の銀含有率は、担体の存在ゆえに高めることが困難であり、通常は10質量%以下に留まっている。
【0004】
このため、担体に銀化合物が担持されてなる銀系抗菌剤粒子の製造では、所定の期間抗菌作用を持続させるために、銀系抗菌剤の製品への添加量として、本来必要とされる銀の量に対して、質量基準で10倍以上の量が通常は必要とされる。
【0005】
このように、従来の銀系抗菌剤においては、銀を担体に担持しているために、この担体の存在が抗菌効果をより長期に持続させること、すなわち製品中の銀密度を上げること、に対して大きな制約となっていた。また、逆に銀含有率100質量%の金属銀粒子を抗菌剤粒子として用いることは、銀の溶解度が極めて低く十分な抗菌効果を得るのは困難である。このためこのような抗菌剤粒子は実用されていない。
【0006】
一方、炭酸銀は銀化合物の中で銀の溶解度が低い方ではあるが、金属銀に比べれば銀の溶解度が高く、抗菌剤としての機能を有する。また、炭酸銀の銀含有率は78質量%であり、炭酸銀自体を微粒子化すれば従来に比べて銀含有率の非常に高い銀系抗菌剤粒子となる。炭酸銀は多くの銀化合物と同様に、光の存在下で感光し、変色する性質があるため、変色が問題になる用途を除けば、微粒子化することにより持続性の高い銀系抗菌剤粒子としての利用が期待できる。
【0007】
炭酸銀はジェットミルやボールミル等の機械的粉砕法で粒径5μm以下に微粒子化することが知られている。しかしながらこの方法は、炭酸銀の硬度が低いために収率が低く、生産効率やコストの観点から検討の余地が残されている。
【0008】
また炭酸銀を含有する抗菌剤には、銀イオン、銀イオンと難水溶性銀塩を生成する対イオン、コア、及び溶媒から難水溶性銀塩を析出させる製造方法が知られている(例えば、特許文献6参照。)。しかしながらこの方法は、抗菌剤中の銀イオンの含有量や抗菌剤の粒径の制御の観点から検討の余地が残されている。
【0009】
さらに、抗菌剤の用途については、例えば特許文献5には、樹脂材料の中へ金属系抗菌剤を混練して調製した塗料を空調設備機器表面へ塗布する方法が記載されている。このような方法において、樹脂材料としてエポキシ樹脂のように有機系樹脂材料を使用する場合、塗料調製や空調設備機器への塗布工程において作業環境への配慮する必要があり、換気設備に対する投資が必要である。このように前記の方法は、作業環境への配慮の観点から検討の余地が残されている。
【0010】
また、空調機器内部の抗菌方法としては、熱交換器上部に銀系抗菌剤を用いて作製した棒状の特殊板をフィン部に挟み込み、凝縮水と共に銀イオンを溶出させ、熱交換器、水受け皿、ドレンホースの流水経路全体を抗菌する方法が知られている(例えば、特許文献7参照)。棒状にすることで総銀イオン量を増やせるため、抗菌効果の持続性を確保することが可能であるが、フィン内に棒状の板を設置することは、気流を妨害・遮蔽することとなり、機器内部の圧力損失を増加させてしまうため、空調機器の運転効率への影響の観点から検討の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−24921号公報
【特許文献2】特開平8−67835号公報
【特許文献3】特開平8−157750号公報
【特許文献4】特開2004−137241号公報
【特許文献5】特開2004−161632号公報
【特許文献6】特開2005−139113号公報
【特許文献7】特開2001−343196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような粉体への銀化合物の担持による方法や機械的粉砕法では困難であった、粒径が5μm以下であり、かつ高い銀含有率の炭酸銀微粒子を簡便にかつ安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本銀系抗菌剤微粒子を用い、薄塗膜で長期間銀イオンが50ppb以上溶出可能な抗菌性の膜と、その用途とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、銀イオンを含有する溶液をAとし、炭酸イオンを含有する溶液をBとし、溶液Aと溶液Bとをコロイド粒子の存在下で混合し炭酸銀微粒子を得る方法において、コロイド粒子の粒子数及び濃度やコロイド粒子と銀との量的条件等の条件を調整することにより、粒径5μm以下の炭酸銀微粒子を得る方法を提供する。
【0015】
すなわち本発明は、銀イオンを含有する溶液Aと炭酸イオンを含有する溶液Bとをコロイド粒子の存在下で混合して炭酸銀微粒子を製造する方法において、コロイド粒子の粒子径をx[nm]とし、溶液A及び溶液Bを混合した混合溶液におけるコロイド粒子の溶媒質量に対する粒子数濃度をy[個/g]とし、前記混合溶液におけるコロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数の比をzとしたときに、コロイド粒子の粒子数濃度yが下記式1で求められる値以上でありかつ下記式2で求められる値以下となり、かつ銀原子の数の比zが下記式3で求められる値未満となるように、溶液A及びBをコロイド粒子存在下で混合する方法を提供する。
式1) y=1.16×1017×(1/x)1.9
式2) y=9.23×1019×(1/x)3.0
式3) z=k×(175.3x2+2196.3x+2793)
(式3中、kは1である。)
【0016】
また本発明は、粒径が5μm以下であり銀含有率が15質量%以上である炭酸銀微粒子と樹脂とを含有する抗菌性樹脂膜用の塗料であって、前記炭酸銀微粒子の含有量が、前記抗菌性樹脂膜中において14〜88質量%である抗菌性樹脂膜用塗料を提供する。
【0017】
さらに本発明は、流体を加熱又は冷却するための熱交換部と、この熱交換部の表面に形成されている抗菌性樹脂膜とを有し、熱交換時に熱交換部の表面に水が存在する熱交換器において、前記抗菌性樹脂膜は、前記本発明の抗菌性樹脂膜用塗料を塗布して形成される抗菌性樹脂膜である抗菌熱交換器を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、銀含有率が15質量%以上であり、従来に比べて銀含有率が高い銀系抗菌剤微粒子として、粒径5μm以下の炭酸銀微粒子を、簡便にかつ安定的に製造することができる。
【0019】
また、本発明によれば、水の存在下で長期間銀イオンを50ppb以上溶出する薄膜を形成できる抗菌用の塗料、及び炭酸銀微粒子による抗菌作用を有する熱交換器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明における炭酸銀微粒子を製造する方法では、銀イオンを含有する溶液Aと炭酸イオンを含有する溶液Bとをコロイド粒子の存在下で混合して炭酸銀微粒子を製造する方法において、コロイド粒子の粒子径をx[nm]とし、溶液A及び溶液Bを混合した混合溶液におけるコロイド粒子の溶媒質量に対する粒子数濃度をy[個/g]とし、前記混合溶液におけるコロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数の比をzとしたときに、コロイド粒子の粒子数濃度yが下記式1で求められる値以上でありかつ下記式2で求められる値以下となり、かつ銀原子の数の比zが下記式3で求められる値未満となるように、溶液A及びBをコロイド粒子存在下で混合する。なお、下記式3中、kは1である。
式1) y=1.16×1017×(1/x)1.9
式2) y=9.23×1019×(1/x)3.0
式3) z=k×(175.3x2+2196.3x+2793)
【0021】
コロイド粒子の粒子径xは、用いられるコロイド粒子の大きさを代表する値であり、コロイド粒子の粒子径xには例えば平均粒子径が挙げられる。本発明では、コロイド粒子には市販の粒子や市販のコロイド水溶液(ゾル)を利用することができ、コロイド粒子の粒子径xは、このような市販品におけるメーカーの公称値(カタログ値)であってもよい。
【0022】
コロイド粒子の粒子径xは、通常は1〜500nmであり、特に限定されない。しかしながら、コロイド粒子は、同じ質量濃度においては粒子径が小さいものほどコロイド粒子の粒子数の濃度は高くなる。このため、式1の値以上式2の値以下の条件を満たしつつ炭酸銀微粒子を量産する観点から、コロイド粒子には粒子径の小さな粒子を用いることが好ましい。実用的にはコロイド粒子の粒子径は50nm未満であることがより好ましく、5〜50nmであることがより一層好ましく、5〜30nmであることがさらに好ましい。
【0023】
コロイド粒子の粒子数濃度yは、溶液A及び溶液Bを混合した混合溶液において、液体媒体(すなわち溶媒、例えば水)の質量[g]に対するコロイド粒子の粒子数[個数]である。前記混合溶液中におけるコロイド粒子の粒子数は、コロイド粒子に市販のコロイド溶液を利用する場合では、市販のコロイド溶液中のコロイド粒子の粒子径x、市販のコロ
イド溶液の比重、及び市販のコロイド溶液中のコロイド粒子の質量濃度から求めることができ、この市販のコロイド溶液を質量既知の水で希釈することにより、調整することができる。
【0024】
コロイド粒子の粒子数濃度yが小さい場合では、得られる炭酸銀微粒子の粒径が大きくなる。炭酸銀微粒子は、背景技術において前述したように膜中に分散させて使用される場合には、粒径が数μm以下であることが望まれている。コロイド粒子の粒子数濃度yが前記式1で求められる値以上であることにより、5μm以下の粒径の炭酸銀微粒子が得られる。また、コロイド粒子の粒子数濃度yが前記式2で求められる値以下であることにより、前記混合溶液のゲル化(固化)が防止される。
【0025】
前記混合溶液におけるコロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数の比zが式3の値未満であることにより、炭酸銀微粒子の巨大化が防止される。また前記混合溶液におけるコロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数の比zは、式3の係数kが0.6であるときの式3の値以上でkが1であるときの式3の値未満であることが好ましく、kが0.8であるときの式3の値以上でkが1であるときの式3の値未満であることがより好ましく、kが1であるときの式3の値未満であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の方法による炭酸銀微粒子の生成機構は、前記混合溶液において、コロイド粒子を核として、その表面に炭酸銀が析出し、この原粒子が成長し、炭酸銀微粒子を生成する機構であると考えられる。前記混合溶液におけるコロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数の比zが大きすぎると、コロイド粒子の表面における炭酸銀の析出と原粒子の成長が進み過ぎ、炭酸銀微粒子が巨大化することがある。コロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数の比zは、コロイド粒子の粒子径xにもよるが、一般的には、105程度かそれ以下で
あることが、生成する炭酸銀微粒子の粒径の制御と炭酸銀微粒子の量産性との観点から好ましい。
【0027】
前記銀原子の数は、前記混合溶液中における銀イオンの数とイオンになっていない銀原子の数との合計である。前記混合溶液中の銀原子の数は、溶液A及び溶液B中の銀原子の数の総和である。以下、銀原子の数、コロイド粒子の粒子数、及び前記混合溶液におけるコロイド粒子数濃度の算出方法をそれぞれ説明する。
【0028】
銀原子の数は、例えば溶液B中に銀化合物が含まれない場合では、下記式4によって求めることができる。
式4) Nag=mac×Wac×NA/Mac
【0029】
式4中、Nagは混合溶液中の銀原子の数[個]であり、macは溶液Aの作製に用いた銀化合物の1分子中の銀原子の数であり、Wacは溶液Aの作製に用いた銀化合物の質量[g]であり、NAはアボガドロ数(6.02×1023[個])であり、Macは溶液Aの作製に用いた銀化合物の分子量である。
【0030】
コロイド粒子の粒子数は、例えば、溶液A及びBのそれぞれにコロイド粒子を含有させて、これらの溶液A、Bを混合して前記混合溶液を得る場合では、下記式5により求めることができる。
式5) Np=Np(A)+Np(B)
【0031】
式5中、Npは混合溶液中のコロイド粒子数[個]であり、Np(A)は溶液A中のコロイド粒子数[個]であり、Np(B)は溶液B中のコロイド粒子数[個]である。
【0032】
Np(A)及びNp(B)は下記式6及び7により求めることができる。
式6) Np(A)=Wp(A)/{ρp(A)×4/3×π×(dp(A)/2)3
式7) Np(B)=Wp(B)/{ρp(B)×4/3×π×(dp(B)/2)3
【0033】
式6中、Wp(A)は溶液A中のコロイド粒子の質量[g]であり、ρp(A)は溶液Aに使用した市販のコロイド溶液のコロイド粒子の密度[g/cm3]であり、dp(A)は溶液Aに使用した市販のコロイド溶液のコロイド粒子の粒子径[cm]である。また式7中、Wp(B)は溶液B中のコロイド粒子の質量[g]であり、ρp(B)は溶液Bに使用した市販のコロイド溶液のコロイド粒子の密度[g/cm3]であり、dp(B)は溶液Bに使用した市販のコロイド溶液のコロイド粒子の粒子径[cm]である。
【0034】
Wp(A)及びWp(B)は下記式8及び9により求めることができ、ρp(A)及びρp(B)は下記式10及び11により求めることができる。
式8) Wp(A)=Csol(A)×Wsol(A)/100
式9) Wp(B)=Csol(B)×Wsol(B)/100
式10) ρp(A)=Csol(A)×ρsol(A)/(1−ρsol(A)+ρsol(A)×Csol(A))
式11) ρp(B)=Csol(B)×ρsol(B)/(1−ρsol(B)+ρsol(B)×Csol(B))
【0035】
式8及び10中、Csol(A)は溶液Aに使用した市販のコロイド溶液のコロイド質量濃
度[質量%]であり、式9及び11中、Csol(B)は溶液Bに使用した市販のコロイド溶
液のコロイド質量濃度[質量%]である。また式8中、Wsol(A)は溶液A中の市販のコ
ロイド溶液の質量[g]であり、式9中、Wsol(B)は溶液B中の市販のコロイド溶液の
質量[g]である。また式10中、ρsol(A)は溶液Aに使用した市販のコロイド溶液の
比重[g/cm3]であり、式11中、ρsol(B)は溶液Bに使用した市販のコロイド溶液の比重[g/cm3]である。ρsol(A)及びρsol(B)は、市販品に添付の物性値をその
まま採用し、又は前記物性値から算出し、又は市販のコロイド溶液若しくは市販のコロイド溶液を希釈したコロイド溶液の体積当たりの質量を測定することによって求めることができる。
【0036】
混合溶液中のコロイド粒子の溶媒質量に対するコロイドの粒子数濃度は、下記式12により求めることができる。
式12) Cp=Np/Wm
【0037】
式12中、Cpは混合溶液中のコロイド粒子の溶媒(水)質量に対するコロイドの粒子
数濃度[個/g]であり、Wmは混合溶液の水(溶媒)の質量[g]である。
【0038】
Wmは下記式13により求めることができる。
式13) Wm=Ww(A)+Wdw(A)+Ww(B)+Wdw(B)
【0039】
式13中、Ww(A)は溶液Aに使用した市販のコロイド溶液中の溶媒(水)の質量[g
]であり、Wdw(A)は溶液A作製時に市販のコロイド溶液の希釈に用いた溶媒(水)の質量[g]であり、Ww(B)は溶液Bに使用した市販のコロイド溶液中の溶媒(水)の質量
[g]であり、Wdw(B)は溶液B作製時に市販のコロイド溶液の希釈に用いた溶媒(水)の質量[g]である。
【0040】
Wdw(A)及びWdw(B)は下記式14及び15により求めることができる。
式14) Ww(A)=(1−Csol(A))×Wsol(A)
式15) Ww(B)=(1−Csol(B))×Wsol(B)
【0041】
また、市販のコロイド溶液を希釈した溶液A又は溶液Bのコロイド質量濃度は、下記式16及び17により求めることができる。ただし式16中、Cdsol(A)は市販のコロイド
溶液を希釈した溶液Aのコロイド質量濃度[質量%]であり、式17中、Cdsol(B)は市販のコロイド溶液を希釈した溶液Bのコロイド質量濃度[質量%]である。
式16) Cdsol(A)=Wp(A)/(Wdw(A)+Wp(A))×100
式17) Cdsol(B)=Wp(B)/(Wdw(B)+Wp(B))×100
【0042】
本発明における溶液A、B、及びコロイド粒子の混合は、コロイド粒子が存在している状態で溶液A中の銀イオンと溶液B中の炭酸イオンとを混合することができれば、特に限定されない。本発明では、市販のコロイド溶液又はそれを希釈したコロイド溶液に溶液A及び溶液Bを混合しても良いし、溶液A及びBのいずれか一方とコロイド溶液との混合液と、溶液A及びBのいずれか他方とを混合しても良いし、溶液A及びコロイド溶液の混合液と溶液B及びコロイド溶液の混合液とを混合しても良い。
【0043】
溶液A及び溶液Bのコロイド粒子の存在下での混合は、コロイド粒子の粒子径に応じて、例えばコロイド粒子の量、コロイド溶液の質量濃度、溶液Aの水の量、溶液A中の銀イオンの量、溶液Aに溶解させる水溶性銀化合物の量、溶液Bの水の量等を調整することによって、前記式1〜3に基づく前記の混合条件に調整することができる。しかしながら、前記混合条件を実現する方法はこれらに限定されない。
【0044】
本発明では、混合溶液におけるコロイド粒子の質量濃度が低くなるように溶液A及びBをコロイド粒子の存在下で混合することが、生成する炭酸銀微粒子の銀含有率を高める観点から好ましい。より具体的には、混合溶液におけるコロイド粒子の質量濃度が10質量%未満以下であることが、銀含有率が15質量%以上である炭酸銀微粒子を製造する観点から好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
前記コロイド粒子には、水中にコロイド状態で存在する固体粒子が特に限定されずに用いられる。前記固体粒子は、密度が小さいほど質量基準の銀含有率の高い炭酸銀微粒子を製造する観点から好ましい。前記固体粒子には、粒子径及び密度が明らかな市販の固体粒子、及びその市販のコロイド溶液を用いることができる。
【0046】
このような固体粒子には例えば金属酸化物の粒子が挙げられる。前記金属酸化物の粒子には、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、亜鉛酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、タンタル酸化物、バナジウム酸化物、スズ酸化物、銅酸化物、銀酸化物、カルシウム酸化物、マグネシウム酸化物、ストロンチウム酸化物、バリウム酸化物、ホウ素酸化物、ガリウム酸化物、イットリウム酸化物、ゲルマニウム酸化物、アンチモン酸化物等の粒子が挙げられる。前記固体粒子は一種類の化合物の粒子であっても良いし、二種以上の化合物の粒子の混合物であっても良い。
【0047】
特に前記コロイド粒子はケイ素酸化物であることが、安価に入手可能であることから好ましい。
【0048】
コロイド粒子の存在下における溶液A及び溶液Bの混合では、溶液Aの銀イオンに対する溶液Bの炭酸イオンが1当量未満であることが、生成する炭酸銀微粒子が凝集して巨大化することを防止する観点から好ましい。溶液Aの銀イオン数に対する溶液B中の炭酸イオン数は、生成する炭酸銀微粒子の粒径の制御と炭酸銀微粒子の量産性との観点から、0.60〜0.99倍(溶液Aの銀イオンに対する溶液Bの炭酸イオンが0.60〜0.99当量)であることがより好ましく、0.80〜0.99倍であることがさらに好ましい。
【0049】
前記溶液Aは、銀イオンと水とを含有する。溶液Aは、銀イオンが含有されるのであれ
ば、他のイオンや界面活性剤のような水溶性の有機成分等の他の成分をさらに含有していても良い。溶液Aは、水溶性の銀化合物を、前記他の成分を含有していても良い水に溶かすことによって得られる。溶液Aは、前記混合溶液において炭酸銀を生成するのに十分な量の銀イオンを含有していれば良いが、銀の含有率を高め、また粒径が5μm以下の炭酸銀微粒子を得る観点から、溶液Aにおける銀イオンの濃度は5.0×10-4mol/L以上であることが好ましい。銀イオンの濃度は溶液Aに溶解している銀化合物の濃度から求められる。また、溶液Aにおける銀イオン濃度は前記式3で求められる値未満において、溶液Aの銀イオン濃度をできるだけ高い濃度とすることが、炭酸銀微粒子の量産の観点からより一層好ましい。
【0050】
溶液Aで使用される銀化合物は水溶性であれば良いが、炭酸銀微粒子の量産性を考慮すると溶解度の高い銀化合物が好ましい。このような銀化合物には、例えば硝酸銀、及びフッ化銀等が挙げられる。中でも、コストが低いことから、前記銀化合物は硝酸銀であることが好ましい。
【0051】
前記溶液Bは炭酸塩と水とを含有する。溶液Bも溶液Aと同様に、炭酸イオンが含有されるのであれば、他のイオンや界面活性剤のような水溶性の有機成分等の他の成分をさらに含有していても良い。溶液Bは、水溶性の炭酸塩を、前記他の成分を含有していても良い水に溶かすことによって得られる。溶液Bは、前記混合溶液において炭酸銀を生成するのに十分な量の炭酸イオンを含有していれば良いが、銀の含有率を高め、また粒径が5μm以下の炭酸銀微粒子を得る観点から、溶液Bにおける炭酸イオンの濃度は2.5×10-4mol/L以上であることが好ましい。炭酸イオンの濃度は溶液Bに溶解している炭酸塩の濃度から求められる。
【0052】
溶液Bで使用される炭酸塩は水溶性であれば良いが、炭酸銀微粒子の量産性を考慮すると溶解度の高い化合物が好ましい。また、前記炭酸塩は、溶液Aと溶液Bとを混合したときに、溶液A中の銀イオンの対イオン(例えば硝酸銀の場合は硝酸イオン)と溶液B中の炭酸イオンの対イオン(例えば炭酸ナトリウムではナトリウムイオン)とが不溶性の塩又は溶解度の低い塩を生成しない化合物であることが好ましい。このような炭酸塩には、例えばアンモニウムと炭酸との塩、アルカリ金属と炭酸との塩、及びアルカリ土類金属と炭酸との塩等が挙げられる。前記炭酸塩は炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムであることが、炭酸銀微粒子の量産性の観点から好ましい。
【0053】
より具体的には、溶液Aの原料として水溶性の銀化合物、例えば硝酸銀、を使用し、この硝酸銀を市販のコロイド溶液又はその希釈品に加え、銀イオンが混合したコロイド水溶液を溶液Aとして得る。また、溶液Bの原料として炭酸塩、例えば炭酸水素ナトリウム、を使用し、この炭酸塩を市販のコロイド溶液又はその希釈品に加え、炭酸イオンが混合したコロイド水溶液を溶液Bとして得る。そして得られた溶液Aと溶液Bとを混合することにより、粒径5μm以下の炭酸銀微粒子を得ることができる。
【0054】
溶液A及びBのコロイド粒子の存在下における混合によって生成した炭酸銀微粒子は、公知の手段を用いて溶液から精製された状態で得ることができる。例えば前記混合による生成物を遠心分離等の公知の手段により溶液から分離し、分離した生成物を再度水中に分散した後遠心分離等によって回収する工程を一回〜複数回行うことにより、炭酸銀微粒子を得ることができる。
【0055】
前述した本発明の方法によれば、粒径が5μm以下で銀含有率が15質量%以上の炭酸微粒子を製造することができる。本発明の方法では、例えば溶液A中の銀イオン、溶液B中の炭酸イオン、及びコロイド粒子の相対的な混合量を、溶液A及びBの混合溶液におけるコロイド粒子の質量濃度やコロイド粒子の粒子径に基づいて調整して混合する。これに
より、混合工程における量的制御は行われるが、混合過程におけるpHの調整や混合後の養生のための温度制御や静置等の煩雑な作業を特に必要としないので、粒径が5μm以下で銀含有率が15質量%以上という、銀含有率が高く、水が存在する系に適用される抗菌剤微粒子として好適な炭酸銀微粒子を簡易に安定して製造することができる。
【0056】
なお、得られた炭酸銀微粒子の粒径は、液体媒体中の粒子又は粒子そのものの体積平均粒径を測定する装置や方法によって測定することができ、例えばレーザー回析・散乱式粒度分布測定器(LMS−30、セイシン企業)によって測定することができる。また得られた炭酸銀微粒子は、必要に応じて分級し、5μm以下の所望の粒径にそろえても良いし、分級品の二種以上を新たに混合しても良い。また、得られた炭酸銀微粒子の銀含有量は、X線光電子分光法によって測定することができる。
【0057】
本発明によれば、生成しようとする炭酸銀微粒子の種類に応じて、本発明で規定する条件の範囲内で適宜調整することにより、粒径が5μm以下で銀含有率が15質量%以上の炭酸銀微粒子を製造することができる。
【0058】
本発明では、コロイド粒子には、固体での密度が2.5g/cm3以下で粒子径が5〜
25nm程度のケイ素酸化物又はその市販のコロイド溶液を用い、炭酸銀微粒子として炭酸銀含有率が44〜88質量%の炭酸銀を製造することが、炭酸銀微粒子の製造における実用性や抗菌剤微粒子としての有用性の観点から特に好ましい。
【0059】
本発明の抗菌性樹脂膜用塗料は、粒径が5μm以下であり銀含有率が15質量%以上である炭酸銀微粒子と樹脂とを含有する。前記炭酸銀微粒子には、前述の本発明の方法で製造された炭酸銀微粒子を用いることができる。本発明の抗菌性樹脂膜用塗料は、前記の本発明の方法で製造された炭酸銀微粒子を、樹脂に分散させる通常の抗菌性塗料の製造方法に従って使用することによって、製造することができる。
【0060】
前記炭酸銀微粒子の含有量は、前記塗料による抗菌性樹脂膜において14〜88質量%(膜の銀含有率で10〜61質量%)である。このような含有量において、本発明の塗料は、水が存在する表面に適用されたときに十分な強度の膜を形成し、かつ抗菌性を長期にわたって発揮する。このような含有量の前記塗料は、例えば炭酸銀微粒子及び樹脂のみからなる塗料において、本発明における炭酸銀微粒子を樹脂に対して0.16〜7.33倍の質量で混合、調製することにより得られる。本発明の塗料において、前記炭酸銀微粒子の含有量が前記抗菌性樹脂膜中において51.0〜77.5質量%(膜の銀含有率で29〜54質量%)であることが、水が存在する表面に本発明の塗料が適用されたときに十分な強度の膜を形成し、かつ抗菌性を長期にわたって発揮する観点からより好ましい。なお、前記膜中の炭酸銀微粒子の含有量は、本発明の塗料中の前記樹脂及び炭酸銀微粒子の総重量に対する炭酸銀微粒子の含有量として求めることができる。
【0061】
前記樹脂には、無機抗菌性微粒子を含有する抗菌性塗料に用いられる樹脂を用いることができる。このような樹脂には、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。前記熱可塑性樹脂には、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、及びポリエステル等が挙げられる。前記熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0062】
前記樹脂は、前記のような樹脂を単独で、又は二種類以上を組み合わせたポリマーブレンドとして使用することができる。前記樹脂が水性エポキシ変性アルキド樹脂のような水性樹脂であることは、本発明の塗料の塗布時における作業環境への配慮(例えば作業環境の整備やそのためのコスト)を軽減させることができる観点から好ましい。
【0063】
本発明の塗料には、炭酸銀微粒子による抗菌作用に影響を及ぼさない範囲において、前述した炭酸銀微粒子及び樹脂以外の他の成分を配合することができる。このような他の成分には、前述した炭酸銀微粒子以外の他の抗菌剤、及び溶剤等が挙げられる。
【0064】
本発明の塗料は、水が存在する(より好ましくは水が流れる)部材の表面に用いることができる。前述したように炭酸銀は感光して変色する特性を有することから、このような外観の変化が問題にならない部分へ本発明の塗料を適用することが好ましい。
【0065】
本発明の抗菌熱交換器は、流体を加熱又は冷却するための熱交換部と、この熱交換部の表面に形成されている抗菌性樹脂膜とを有し、熱交換時に熱交換部の表面に水が存在する熱交換器である。前記抗菌性樹脂膜は、前述の本発明の塗料を塗布して形成される抗菌性樹脂膜である。
【0066】
前記抗菌性樹脂膜は、その厚さが2μm以上であることが、長期にわたって抗菌性を発揮する観点から好ましく、10μm以下であることが、熱交換部においてより高い伝熱効率を実現する観点から好ましく、さらに5μm以下であることが、コストの観点から好ましい。
【0067】
前記熱交換部は特に限定されないが、表面積が大きいことが好ましく、このような熱交換部には例えばプレートフィンが挙げられる。
【0068】
本発明の抗菌熱交換器は、熱交換部の表面に水が存在する状態で抗菌作用を呈する。本発明の抗菌熱交換器は、流体としての水を加熱、冷却する態様や、外気のような、水分を含んだ気体を冷却する態様を含む態様で用いられる。本発明の抗菌熱交換器は、空調用の熱交換器、より具体的には空気調和機の室内機に用いられる熱交換器に好適に用いられる。
【0069】
本発明では、熱交換器から発生する凝縮水量等の、熱交換部に接する水の量が既知であれば、塗料中の抗菌性炭酸銀微粒子含有率と膜厚を調製することで、例えば通常の加速試験の試験結果に基づいて抗菌性能寿命を設計することが可能である。
【実施例】
【0070】
<実施例1> 炭酸銀微粒子の生成
コロイドとして粒子径16nm、密度2.65g/cm3のケイ素酸化物2を含有する
、密度1.21g/cm3のケイ素酸化物ゾル(商品名:CATALOID S−30H、触媒化成工業株式会社製)を0.3質量%で水に含むコロイド水溶液を調製した。得られたコロイド水溶液1Lに硝酸銀24gを加え、溶液Aを作製した。また、前記コロイド水溶液1Lに炭酸水素ナトリウム11.5g(溶液Aの銀に対して約0.97当量)を加え、溶液Bを作製した。次に、溶液Aと溶液Bとを混合攪拌し、AB混合溶液中において炭酸銀微粒子を生成した。なお、AB混合溶液中のコロイド粒子数に対する、銀イオンの数とイオンになっていない銀原子の数の合計である銀原子の数の比は、7.0×104とな
る。得られた炭酸銀微粒子を顕微鏡で観察したところ、粒径5μm以下の炭酸銀微粒子であった。この時、炭酸銀微粒子中の銀含有率は56%である。
【0071】
<実施例2> 炭酸銀微粒子
次に、コロイドの粒子径、コロイド水溶液に含有されるケイ素酸化物ゾルの質量濃度、コロイド粒子数に対する銀原子の数の比、及び炭酸塩の種類を変えて、実施例1と同様の要領で溶液AとBを作製、混合し、AB混合溶液を得て炭酸銀微粒子を生成した。生成した炭酸銀微粒子の状態又は溶液A、Bの状態を表1に、また、そのときのAB混合溶液に
おけるコロイド粒子数に対する銀原子の数の比を表2に、またAB混合溶液におけるコロイド粒子数濃度を表3に、それぞれ示す。なお、表中のケイ素酸化物1、3、4では、これらのケイ素酸化物(いずれのケイ素酸化物も密度は2.65g/cm3)を含有するケ
イ素酸化物ゾルを用いた。ケイ素酸化物1では「FINE CATALOID F−120」、ケイ素酸化物3では「CATALOID SI−50」、ケイ素酸化物4では「CA
TALOID SI−45P」(それぞれ商品名、触媒化成工業株式会社製)を用いた。
【0072】
表1において、○は粒径5μm以下の炭酸銀微粒子が良好に生成したことを示し、×は炭酸銀が巨大粒子として生成し粒径5μm以下とならなかったことを示し、××は、溶液A又は溶液Bがゲル化、固化して炭酸銀微粒子が得られなかったことを示す。前記実施例1の結果は、表1において、ケイ素酸化物2におけるNaHCO3の行、コロイド粒子の
質量濃度0.3質量%の列の交差するマス内に示されている。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
粒子径45nm以下のコロイド粒子を含有するコロイド溶液を用いて溶液A及びBを作製し、溶液A、B混合後のAB混合溶液中において、コロイド粒子の質量濃度10質量%以下の範囲で、かつAB混合溶液におけるコロイド粒子の粒子数に対する銀原子の数(A
B混合溶液における銀イオンの数とイオンになっていない銀原子の数との合計)の比が、2.7×105以下の範囲において、粒径5μm以下の炭酸銀微粒子が良好に生成したこ
とを確認した。また、コロイド粒子の質量濃度及びコロイド粒子数に対する銀原子の数の比が上記の範囲外では、粒径5μm以下の炭酸銀微粒子が良好に得られなかったことを確認した。
【0077】
さらに、表3における粒径5μm以下の炭酸銀微粒子が得られた範囲の下限と上限とのそれぞれについて、コロイド粒子の粒子径xの逆数(1/x)と、そのときのAB混合溶液中のコロイド粒子数濃度との関係を、累乗近似式によって表した。下限値又は上限値の四点が得られた累乗近似式に当てはまらない場合には、溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が0.1〜1.0質量%の範囲の2〜3点を選出して累乗近似式を求めた。
【0078】
より具体的には、表3における前記範囲の下限値の四点、すなわち、xが6におけるコロイド粒子数濃度が3.9×1015(溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が0.1質量%)である点1、xが16におけるコロイド粒子数濃度が6.1×1014(溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が0.3質量%)である点2、xが26におけるコロイド粒子数濃度が3.3×1014(溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が0.7質量%)である点3、及びxが45におけるコロイド粒子数濃度が1.9×1014(溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が2質量%)である点4、の四点から累乗近似式を求めたところ、前記四点のうち、得られた累乗近似式から外れる点3及び点4の二点を除く点1及び点2の二点から累乗近似式をさらに求め、前記式1)を得た。
【0079】
また、表3における前記範囲の上限値の四点、すなわち、xが6におけるコロイド粒子数濃度が4.3×1017である点5、xが16におけるコロイド粒子数濃度が2.3×1016である点6、xが26におけるコロイド粒子数濃度が5.3×1015である点7、及びxが45におけるコロイド粒子数濃度が1.0×1015である点8(いずれも溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が10質量%)、の四点から累乗近似式を求め、前記式2)を得た。
【0080】
さらに、表2における粒径5μm以下の炭酸銀微粒子が得られた範囲の下限について、コロイド粒子の粒子径xと、そのときのAB混合溶液中のコロイド粒子数に対する銀原子の数の比との関係を、多項近似式によって表した。より詳しくは、表2において、前記範囲の下限値よりも小さくかつこの下限値に最も近い値の四点、すなわち、xが6におけるAB混合溶液中のコロイド粒子数に対する銀原子の数が2.2×104(溶液A及びBの
コロイド粒子の質量濃度が0.05質量%)である点9、xが16におけるAB混合溶液中のコロイド粒子数に対する銀原子の数が2.1×105(溶液A及びBのコロイド粒子
の質量濃度が0.1質量%)である点10、xが26におけるAB混合溶液中のコロイド粒子数に対する銀原子の数が1.8×105(溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が
0.5質量%)である点11、及びxが45におけるAB混合溶液中のコロイド粒子数に対する銀原子の数が4.6×105(溶液A及びBのコロイド粒子の質量濃度が1.0質
量%)である点12、の四点から多項近似式を求めたところ、前記四点のうち、得られた多項近似式から外れる点10の一点を除く点9、点11及び点12の三点から多項近似式をさらに求め、前記式3)を得た。
【0081】
<実施例3> 炭酸銀抗菌性塗料及び熱交換器
樹脂材料であるエポキシ変性アルキド樹脂と実施例1で作製した炭酸銀微粒子とを、樹脂材料の固形分重量1に対し、炭酸銀微粒子の固形分重量1.2の割合で混練して、炭酸銀抗菌性塗料を作製した。
【0082】
この塗料を熱交換器のプレートフィン材の表裏面にロールコーターにより3μmの厚さ
で均一に塗布し、抗菌熱交換器を製作した。この時、塗膜中の炭酸銀含有率は54.6質量%(銀含有率:30.6質量%)である。
【0083】
この抗菌熱交換器を使用したファンコイルユニットと、比較試験としてフィン表面にアクリル樹脂が塗布された通常熱交換器を備えた市販のファンコイルユニットを用いて、外気を加湿しながら吸い込み、除湿運転を1年間行った。一定期間ごとに凝縮水中の銀イオン溶出濃度と、熱交換器のプレートフィン表面の付着菌数を測定した。試験結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
抗菌熱交換器の凝縮水中の銀イオン濃度は、本試験期間を通じて常に50ppb以上であり、表面付着菌数も通常熱交換器に比べて常に1/100以下であった。本抗菌熱交換器の抗菌効果が確認された。
【0086】
次に、本炭酸銀抗菌性塗料を塗布したプレートフィン1枚(表面積228cm2)を用
い、以下の方法にて銀溶出量確認の加速試験を行った。
【0087】
常にプレートフィン表面に高温水(約80℃)が流速25mL/minで流れる状態として銀イオンの溶出における加速劣化確認試験を250日間行った。この時の加速係数は、通常の凝縮水温度15℃の場合と比較して約11倍である。この試験期間は、凝縮水が1日24時間、1年の内に6ヶ月発生すると仮定して、約15年半の期間に相当する。一定期間毎に高温水をサンプリングして、銀イオン溶出濃度を測定した。溶出加速試験結果を表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
加速試験の間、プレートフィンから50ppb以上で銀イオンが溶出されることを確認した。このことから、抗菌熱交換器を凝縮水発生期間が6ヶ月とした通常の条件で運転した場合、約15年半の期間、50ppb以上の銀イオンが凝縮水に溶出されることが推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が5μm以下であり銀含有率が15質量%以上である炭酸銀微粒子と樹脂とを含有する抗菌性樹脂膜用の塗料であって、前記炭酸銀微粒子の含有量が、前記抗菌性樹脂膜中において14〜88質量%である抗菌性樹脂膜用塗料。
【請求項2】
抗菌性樹脂膜における炭酸銀微粒子の含有率が51.0〜77.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性樹脂膜用塗料。
【請求項3】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であること特徴とする請求項1または2に記載の抗菌性樹脂膜用塗料。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、及びポリエステルからなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項3記載の抗菌性樹脂膜用塗料。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項3記載の抗菌性樹脂膜用塗料。
【請求項6】
前記樹脂が水性エポキシ変性アルキド樹脂であることを特徴とする請求項5記載の抗菌性樹脂膜用塗料。
【請求項7】
流体を加熱又は冷却するための熱交換部と、この熱交換部の表面に形成されている抗菌性樹脂膜とを有し、熱交換時に熱交換部の表面に水が存在する熱交換器において、
前記抗菌性樹脂膜は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗菌性樹脂膜用塗料を塗布して形成される抗菌性樹脂膜であることを特徴とする抗菌熱交換器。
【請求項8】
前記抗菌性樹脂膜の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項7記載の抗菌熱交換器。
【請求項9】
前記抗菌性樹脂膜の厚さが5μm以下であることを特徴とする請求項8記載の抗菌熱交換器。
【請求項10】
前記熱交換部が気体を冷却するためのプレートフィンであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の抗菌熱交換器。

【公開番号】特開2012−255164(P2012−255164A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176004(P2012−176004)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2007−161422(P2007−161422)の分割
【原出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】