説明

抗菌繊維製品およびその製造方法

【課題】食品関係の施設、医療、介護関係の施設等における細菌汚染対策、感染防止対策を少額の経費で、多大な労力を用いることなく、簡便に実現する抗菌効果が大きい抗菌製品と抗菌方法を提供することである。
【解決手段】亜鉛イオンあるいは銅イオンの内の少なくとも1種を含有した酸化物である第1成分、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナの内の少なくとも1種の酸化物である第2成分を有し、各成分をそれぞれ少なくとも1種含有した無機系抗菌剤の少なくとも1種と合成高分子ポリビニルアルコールを繊維製品に付着させた抗菌繊維製品による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
食品業界、医療現場などで使用される抗菌性繊維製品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品工場、レストラン等の外食施設、給食施設等の食品関係の施設、医療、介護関係の施設等における細菌、病原菌汚染対策、感染防止対策はますます重要になっている。これらの施設においてはアルコール系の消毒剤、過酸化水素等の漂白殺菌剤が用いられているが、感染を完全に防止するまでに至っていない。病院においては手術室等の感染防止対策は非常に改善されたが、一般病棟まで対策は進んでいない。しかも現在推奨されている手指の消毒の徹底が現場の従事者にとっては大きな負担になっている。消毒の手間が忙しい現場の労働をより厳しいものにしているだけではなく、消毒液による手指の荒れが大きな問題になっている。
米国における研究では病院の洗濯業務の従事者は、他の病院内の職種に比べA型肝炎ウイルスの保持率が有意に高いことが判明している。これから、病院のユニフォーム、シーツ、カーテン等の繊維製品は注意して扱われているにも拘わらず細菌、病原菌で汚染されていると推定されている。過去の感染の有無を判定し易いためにA型肝炎の感染について調査されたが、これは繊維製品が大腸菌等の病原菌で日常的に汚染されていることを示している。
【0003】
病原菌の主たる伝搬は手指の汚染によると推定され、感染防止策としては主として手指の消毒が推奨されている。これはかなりの効果を上げている。しかし、手指が触れる衣類の袖口、ポケットの周囲等が病原菌に汚染されているため、一旦手指の消毒を十分に行っても、その後で手指が衣類の袖口、ポケットに触れることにより再び汚染され、それにより病原菌が伝搬する危険性がある。さらに、手指からカーテン、シーツ、ドアノブ等に病原菌が伝搬し、その後手指が汚染されたカーテン、シーツ、ドアノブ等に触れることにより汚染されることもある。これらの危険は病院のみでなく、食品工場、レストラン等の外食施設、給食施設等の食品関係の施設においても重大な問題である。
これらより、病原菌の汚染防止対策は手術室等の一部の特定領域のみの対策では不十分であり、診察室、患者病棟、その他医療従事者が出入りする全領域について何らかの感染防止策が必要になっている。これは食品関連の施設等の病原菌感染防止を考えるべき全ての施設で考慮すべき課題である。
【0004】
また近年、食品の有効期限、賞味期限を改ざんし延長するなどの問題が多発している。これは勿論製造業者のモラルの問題であるが、一方食品の廃棄による資源の無駄を考えると、何らかの手段で食品の有効期限を延長する必要がある。食品の細菌による汚染を防止することで、有効期限、賞味期限の延長は可能である。細菌の伝搬の重要な経路はこの場合も手指と考えられるので、手指の消毒は勿論重要であるが上記で述べた繊維製品の汚染防止も重要である。
【0005】
繊維製品の細菌汚染対策として従来から抗菌剤を含有した抗菌繊維が提案され、市販されている。これらの抗菌繊維には有機系の抗菌剤、例えばカテキン等の天然化合物、第4級アミン化合物等の合成化合物を繊維の表面に付着させたものがある。これらは洗濯時に抗菌剤が脱落する、あるいは抗菌剤が変性することにより抗菌効果を失う欠点を有する。
また、有機系抗菌剤を合成繊維の空隙に含浸させる、また無機系の銀系抗菌剤を合成繊維に錬り込んだものもある。これらは、洗濯による抗菌効果の低下が少なく好ましいが、洗濯時に必須の殺菌処理である次亜塩素酸処理で抗菌効果を失い易い欠点を有する。また、これらの含浸処理、練り込み加工はその加工自体のコストが高いこと、また繊維の段階で抗菌加工処理が必要なため、織布、不織布等から最終形態の製品にするまでの長い工程に渡り、各種の用途に対応した製品を揃えるために多量の半製品(繊維、布等)の在庫が必要であるため、この点からもコストが高い欠点を有する。
食品工場、調理場等の食品関係の施設、医療、介護関係の施設等で使用する繊維製品は十分な抗菌効果を有し、かつ洗濯、特に80℃の熱湯による洗濯、さらには次亜塩素酸等の漂白処理により、その抗菌効果を失わない必要がある。しかし、従来の抗菌繊維はこれらの処理により抗菌効果を容易に失った。
食品関係の施設、医療、介護関係の施設で使用する繊維製品は十分な殺菌をする必要があるため次亜塩素酸処理が必須である。また、汚染の有無を判断するためにも白色度を上げる必要がありこの点からも次亜塩素酸等による漂白処理が必須である。特に病院の繊維製品は血液の汚染が懸念されるため、次亜塩素酸等による漂白処理が必須である。したがって、次亜塩素酸処理により抗菌性能が低下しない抗菌繊維製品が求められている。
【0006】
有機系抗菌剤は抗菌性能の持続性が劣ること、アトピー等の健康への害があること、カテキンのように着色、変色すること、耐性菌が発生し易いこと、繊維の抗菌加工処理が困難なことと言った問題がある。また、無機系抗菌剤でよく知られている銀系抗菌剤は次亜塩素酸処理で抗菌性能が低下すること、着色、変色すること、高価なことと言った問題がある。またより安価な無機系抗菌剤である酸化亜鉛は抗菌性能が低いこと、微粒子化が困難なため安定な水分散物を得るのが困難なことと、洗濯、漂白処理時に抗菌性能が低下し易い欠点がありほとんど実用されていない。
さらに、有機系の抗菌剤は耐性菌が発生し易いことが大きな問題であった。このため、耐性菌の発生し難い抗菌剤を用いた抗菌繊維製品が求められていた。
【0007】
このように、食品工場、レストラン等の外食施設、給食施設等の食品関係の施設、医療、介護関係の施設等で使用される繊維製品の抗菌性能付与による細菌、病原菌の発生、伝搬防止は緊急の課題にも拘わらず、適切な抗菌剤、抗菌方法が見つからないため現在においても適切な対策が講じられていない。
一方では汚染、感染防止対策には多大な労力と資材が投入され、対策の経費は極めて多額になり、食品工場、レストラン等の外食施設、給食施設等の食品関係の施設、医療、および介護関係の施設の経営を圧迫している。
繊維製品としてはポリエステル繊維製品等の化学合成繊維製品が好ましいことが多いが、ポリエステル繊維製品等の化学合成繊維製品の抗菌製品については、抗菌効果が大きく、その効力が持続し、洗濯・漂白耐性が高くかつ低コストの製品がなく、その解決が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品工場、調理場等の食品関係の施設、医療、介護関係の施設等における細菌汚染対策、感染防止対策を少額の経費で、多大な労力を用いることなく、簡便に十分な抗菌性能を実現する抗菌製品と抗菌方法を提供することである。具体的には抗菌性能に優れ、多数回の洗濯、漂白処理による抗菌性能の低下が小さい抗菌繊維製品を提供することである。さらに、安価で、抗菌加工が容易で、抗菌加工を安価に行え、最終製品に近い形態で抗菌性能を付与する加工ができる抗菌繊維製品の製造方法を提供することである。また、アトピー等の健康障害を起こさず、耐性菌の発生のおそれのない抗菌繊維製品とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)亜鉛イオンあるいは銅イオンの酸化物である第1成分、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナである第2成分を有し、第1成分および第2成分を各々少なくとも1種含有した無機系抗菌剤の少なくとも1種を繊維製品に付着させた抗菌繊維製品において、該抗菌繊維製品の表面に合成高分子ポリビニルアルコールが付着されている抗菌繊維製品。
(2)該無機系抗菌剤が下記式(1)〜(2)で表されるものである第(1)記載の抗菌繊維製品。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
y 1−yO (2)
(式中、Nはマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンを、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。yは0.02<y<0.8である)
(3)該無機系抗菌剤が該式(1)で表される第(2)項記載の抗菌繊維製品。
(4)該無機系抗菌剤の該式(1)および(2)のMがともに亜鉛イオンである第(2)項〜第(3)のいずれかに記載の抗菌繊維製品。
(5)該繊維製品がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維等の合成繊維を少なくとも1種含有することを特徴とする第(1)項〜第(4)項のいずれかに記載の抗菌繊維製品。
(6)該繊維製品がポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維を少なくとも1種含有する第(5)項に記載の抗菌繊維製品。
(7)該繊維製品がポリエステル繊維を含有する第(6)項に記載の抗菌繊維製品。
【0010】
(8)該繊維製品に合成高分子ポリビニルアルコールを付着させた後に無機系抗菌剤を付着させる第(1)項〜第(7)項のいずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
(9)該繊維製品に無機系抗菌剤を付着させた後に合成高分子ポリビニルアルコールを付着させる第(1)項〜第(7)項のいずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
(10)該繊維製品に無機系抗菌剤および合成高分子ポリビニルアルコールを同時に付着させる第(1)項〜第(7)項のいずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
(11)該無機系抗菌剤の水分散物が用いられ、該水分散物の炭素数が5〜22のカルボン酸型アニオン界面活性剤を少なくとも1種含有する水分散物である第(1)項〜第(7)項のいずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
【0011】
本発明の抗菌繊維製品で用いる無機系抗菌剤としては、亜鉛イオンあるいは銅イオンの酸化物である第1成分、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナである第2成分を有し、第1成分および第2成分を各々少なくとも1種含有した無機系抗菌剤が好ましい。第1成分は酸化亜鉛が最も好ましい。第2成分は酸化マグネシウム、酸化カルシウム、アルミナがより好ましく、酸化マグネシウム、アルミナがさらに好ましく、アルミナが最も好ましい。また本発明の無機系抗菌剤は固溶体であることがより好ましい。
【0012】
本発明の無機系抗菌剤は下記式(1)〜(2)で表される無機系抗菌剤がより好ましく、下記式(1)が最も好ましい。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
y 1−yO (2)
(式中、Nはマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンを、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。yは0.02<y<0.8である)
【0013】
本発明の好ましい無機系抗菌剤の例を以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。 ( )内の数字は順に、BET表面積(m/g)、一次粒子の平均粒子サイズ(μm)を表す)
(A−1)Zn0.14Mg0.86O(28、0.07)
(A−2)Zn0.05Ca0.95O(30、0.08)
(A−3)Cu0.05Ca0.95O(29、0.07)
(A−4)Cu0.14Mg0.86O(25、0.08)
(A−5)(ZnO)0.96(Al230.04 (35、0.04)
(A−6)(CuO)0.92(Al230.08(32、0.05)
(A−7)A−1の表面をラウリン酸ナトリウムで修飾した無機系抗菌剤(28、0.06)
(A−8)A−5の表面をラウリン酸ナトリウムで修飾した無機系抗菌剤(33、0.03)
これらはいずれも固溶体であることが、X線回折スペクトルにより確認されている。即ち第1成分特有あるいは第2成分特有の回折スペクトルが実質上観測されず、両成分が原子レベルで均一に混合された結晶に相当する回折スペクトルが得られた。
【0014】
本発明の無機系抗菌剤の一次粒子の平均粒子サイズが0.01〜0.6μmが好ましく、0.02〜0.5μmがより好ましく、0.02〜0.3μmがさらに好ましい。一次粒子の平均粒子サイズは、走査型電子顕微鏡写真上の無作為に選んだ一次粒子100〜150個のサイズを測定して得た。一般に抗菌効果を迅速に働かすためには、極めて大きいBET比表面積が好ましい。しかし、一方では抗菌効果を持続させるためにはある程度以下の値にする必要がある。そのため、BET比表面積は1〜300m/gが好ましく、3〜150m/gがより好ましく、3〜100m/gがさらに好ましい。
【0015】
本発明の無機系抗菌剤は表面処理されることが好ましい。表面処理剤として好ましく用いられるものを例示すれば次の通りである。ステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類;前記高級脂肪酸のアルカリ金属塩;ステアリルアルコール、オレイルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩;ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリルスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリルスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリルスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤類;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノまたはジエステルまたは両者の混合物であって、それらの酸型またはアルカリ金属塩またはアミン塩等のリン酸エステル類;ビニルエトキシシラン、ビニルートリス(2ーメトキシーエトキシ)シラン、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ベーター(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤類;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタネート系カップリング剤類;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸のエステル類。
【0016】
この中でも、高級脂肪酸、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、カップリング剤(シラン系、チタネート系、アルミニウム系)および多価アルコールと脂肪酸のエステル類からなる群から選ばれた表面処理剤の内の少なくとも一種による表面処理が好ましく、さらにステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類および前記高級脂肪酸のアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0017】
本発明の無機系抗菌剤の繊維製品への付着量は、要求される抗菌性能により異なる。付着量が多いほうが抗菌性能は向上し、また洗濯、漂白処理による抗菌性能の低下が小さくなり好ましい。しかし、コストが上がるので必要以上に多量に付着させることは好ましくない。付着量は繊維製品1mあたり0.01〜4.0gが好ましく、0.03〜2.0gがさらに好ましく、0.08〜1.5gが最も好ましい。
【0018】
本発明で好ましい無機系抗菌剤が洗濯および漂白処理時の抗菌性能の低下が小さい理由は、一つは本発明の無機系抗菌剤が酸化されにくい性質のためであるが、これらの処理において本発明の無機系抗菌剤が繊維から脱落し難いことがその主たる理由である。本発明の無機系抗菌剤がこれらの処理中に脱落し難い理由は、本発明の無機系抗菌剤がポリビニルアルコールと結合するためである。また、酸化亜鉛に酸化アルミニウムが固溶化することで、表面の水酸基の性質が変化したこと、微粒子の物理的性質(硬度等)が変化したこと、粒子同士の凝集力が低下し水分散物の分散性が向上したことが考えられる。これらにより繊維との付着が強固になったと思われる。
【0019】
本発明の抗菌繊維製品に好ましく用いられる繊維は、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維がある。
ただし、セルロース繊維等は本発明の無機系抗菌剤を付着し易い性質がある。これに比べ、合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等は本発明の無機系抗菌剤を付着させ難いため、本発明の合成高分子ポリビニルアルコールを用いることにより、本発明の無機系抗菌剤の付着力が大きく向上する。そのため、本発明の抗菌繊維製品としては、り好ましいのはポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維がある。
本発明の合成高分子ポリビニルアルコールの効果(無機系抗菌剤の付着力向上)がより大きく発揮させられる観点でポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維がより好ましい。
最も好ましいのは、ポリエステル繊維である。
またこれらの種々の繊維同士、特にポリエステル繊維等の合成繊維と綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維等との混紡も好ましい。
【0020】
無機系抗菌剤の水分散物には界面活性剤、柔軟剤、高分子化合物(バインダー)、有機溶剤を含有させることができる。特に柔軟剤と無機系抗菌剤をともに含有する水分散物で処理すれば、柔軟剤付与工程で抗菌剤の付与も行うことができ、抗菌剤付与のために新たに工程を増やすことが必要なくなり、低コストでかつ従来の既存の布加工機で抗菌繊維製品を製造することができ好ましい。柔軟剤中でもカチオン界面活性剤である柔軟剤と本発明の無機系抗菌剤の水分散物を同一処理槽にいれても、害がなく良好な柔軟性と抗菌性が同時に布に付与できることが本発明の無機系抗菌剤の好ましい点である。
【0021】
本発明で適用できる柔軟剤は特に限定されず、一般に使用されているエステルアンモニウム型柔軟材を挙げることができる。このようなものとして、例えば、プロピレングリコール、グリセロールエステル、グルコースエステル、ペンタエリトリトールエステル、ショ糖エステル、プロピレングリコールエステル、ビスメチル−α−D−グルコピラノシドエステル、ジ長鎖アルキルジ短鎖アルキル第4級アンモニウム塩等を挙げることができる。特に好ましいものはカチオン界面活性剤であり、具体的にはジオレイルジメチルアンモニウム塩である。
【0022】
本発明の無機系抗菌剤を水その他の溶剤に分散するときに、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤のいずれをも用いることができる。また低分子型界面活性剤、高分子型界面活性剤のいずれも用いることができる。これらの界面活性剤を1種用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤の中では分散の安定性の観点でアニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤がより好ましい。
アニオン界面活性剤の中では柔軟剤溶液に添加しても凝集などを起こさない観点で、カルボン酸型のアニオン界面活性剤が特に好ましい。カルボン酸型以外の硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型等のアニオン界面活性剤は無機系抗菌剤の分散性の観点で好ましい。
【0023】
本発明で用いることができるアニオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、スルホン酸エステル型、リン酸エステル型↓二音界面活性剤がある。具体的には例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、 ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン酸、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム、ラウリルメチルタウリッドナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、モノラウロイルモノエタノールアミドポリオキシエチレンスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム等のN−アシルグルタミン酸、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、N−パルミトイルアスパラギン酸、ジトリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解アルカリ塩等が挙げられる。
【0024】
本発明で用いることができるカルボン酸型アニオン界面活性剤としては炭素数が5〜22のものが好ましい。具体的にはカプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ヤシ脂肪酸等およびその塩が好ましい。塩としてはこれらのナトリウム塩、あるいはカリウム塩が好ましい。
【0025】
本発明で用いることができるノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリエチレンオキシド含有化合物、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アミドジエタノ−ル、アシルグルコシド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられるが、特に好ましくは、ポリエチレンオキシド含有化合物、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー類またはショ糖脂肪酸エステルである。
【0026】
本発明で用いることができる両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、グリシン型などが挙げられる。好ましくは、2ーアルキルーNーカルボキシメチルーNー ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインまたはヤシ 油脂肪酸アミドプロピルベタインである。
これらのアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤は単独で、またはこれらを組み合わせて2種以上用いることができ、その配合量は界面活性剤の総量としては、無機系抗菌剤を含有する分散物、溶液の全量の0.005〜5重量%、好ましくは、0.05〜3重量%である。
【0027】
本発明で用いられる無機系抗菌剤を繊維製品に付与する抗菌方法(すなわち抗菌繊維製品の製造方法)は種々のものがある。無機系抗菌剤を水に分散した無機系抗菌剤含有の水分散物に布を浸漬させる方法(浸漬法)、無機系抗菌剤を水に分散した無機系抗菌剤含有の水分散物を布に噴霧する方法(噴霧法)、無機系抗菌剤を水に分散した無機系抗菌剤含有の水分散物を布に塗布する方法(塗布法)、布にインクジェット法で付着させる方法等を用いることができる。
上記の繊維、布を浸漬する方法、塗布する方法、噴霧する方法、インクジェット法で付着させる方法はいずれも布に加工した段階で行えるため、在庫が少量ですむ為コストが安く、迅速に注文に応じられることもあり好ましい。これらの方法の中では、インクジェット法は設備が新規に必要なため、残りの他の方法よりはコストが高く好ましくない。浸漬する方法、塗布する方法、噴霧する方法の中では、設備のコストが安いことから、上記の浸漬方法、噴霧法が好ましい。さらに、既存の設備を利用でき、かつ付着量の制御が容易であることから浸漬法が最も好ましい。かつ、浸漬法は柔軟剤溶液に抗菌剤の水分散物を追加すれば、工程を増やすことなく抗菌処理ができることからも最も好ましい。含浸させた後にニップローラー、スクイーズローラー、ドクターナイフ等で含浸量を制御することが好ましい。無機系抗菌剤は水分散物に均一に分散されているので、この含浸量(付着量)および水分散物中の無機系抗菌剤の含有量で布への無機系抗菌剤の付着量が決まる。
【0028】
噴霧法は布を裁断後にも容易に抗菌処理ができるため、安価で、迅速に、簡便に抗菌繊維製品を製造する方法として好ましい。噴霧時の液滴のサイズが1〜500μmで噴霧することが好ましく、1〜100μmがより好ましく、1〜20μmが特に好ましい。
【0029】
本発明で用いられる合成高分子ポリビニルアルコールは、通常の酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルを鹸化させた水酸基を持ったビニル樹脂である。合成高分子ポリビニルアルコールであればいずれも好ましく用いることができる。合成高分子ポリビニルアルコールの重合度、けん化度は種々のものを用いることができる。繊維製品に付着させる工程に用いる合成高分子ポリビニルアルコールの水溶液の好ましい性質、すなわち合成高分子ポリビニルアルコールの濃度(溶解度)、溶液粘度が得られる重合度、けん化度を選ぶ必要がある。一般に重合度が上がると溶解性が低下し、また溶液粘度が高くなる。また、けん化度が上がると溶解性が低下し、また溶液粘度が高くなる傾向がある。また、繊維製品に付着後に無機系抗菌剤を保持する能力を高めるためには、重合度は高めで、けん化度は中程度が好ましい。さらに、繊維製品に合成高分子ポリビニルアルコールを付着させる工程で、該合成高分子ポリビニルアルコールを含む水溶液のゲル化を防止することも考慮する必要がある。水溶液のゲル化が進むと繊維製品に付着する成高分子ポリビニルアルコールの量が変化する、あるいは水溶液のハンドリングが困難になる等の好ましくない点がある。該合成高分子ポリビニルアルコール水溶液のゲル化を防止する方法としては、該合成高分子ポリビニルアルコールの種類を適切に選択するのみでなく、その水溶液の該合成高分子ポリビニルアルコールの含有濃度、水溶液のpH(6以下の低めが好ましい)、水溶液の保存温度(30℃以下が好ましい)、水溶液にメチルアルコール(10%から30%含有させることが好ましい)等の有機系溶剤を混合する等種々の方法がある。
合成高分子ポリビニルアルコールはいずれも好ましく用いることができる。たとえば日本合成化学のゴーセノールの種々の品種が挙げられる。特に限定されないが、好ましい例としてたとえば、ゴーセノールKL−20,05,03、KP−08R、KH−17,11、H−17,14,14L,05が挙げられる。
【0030】
本発明で述べる繊維製品とは、繊維そのもの、糸、撚糸、織布、不織布、あるいはユニフォーム、シーツ、カーテン等の最終製品などの種々の形態の繊維を含有する製品を示す。繊維製品に本発明の高分子ポリビニルアルコールを付着させる、あるいは本発明の無機系抗菌剤を付着させる工程は、繊維製品のこれらの種々の形態のいずれでも可能である。織布、不織布の形態で該高分子ポリビニルアルコール、あるいは該無機系抗菌剤を付着させることが安価に抗菌製品を得ることができるので好ましい。
【0031】
本発明の抗菌繊維製品は食品工場、レストラン等の外食施設、給食施設等の食品関係の施設、医療、介護関係の施設等において用いられる、作業着、手術着、看護婦等のユニフォーム、帽子、手袋、靴下、スリッパ、ハンカチ、マスク、下着、寝巻き等の衣類、カーテン、カーペット、椅子のカバー、壁の内張り、タオル等の内装品、シーツ、布団、毛布、肌掛け、枕カバー等の寝具、空調機の空気フィルター、浄水器の水用のフィルター、風呂の循環水のフィルター、各種の器具、用具の保管容器等に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(本発明の無機系抗菌剤A−5の水分散物の調製;水分散物Y−1)
容器(500mL)に300mLの精製水を入れ、それにカルボン酸型アニオン界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを2.0g添加し、さらに無機系抗菌剤A−5を90g、1mm径のアルミナ製のボール200gを投入し、この容器を回転ローラーに載せ、ボールミル機の常法に従い48時間回転分散処理をし、本発明の無機系抗菌剤A−5の水分散物を調製し、これを水で希釈し、A−5を0.6%(これを含め以後%は重量%を意味する)含有する水分散物Y−1を得た。
(本発明の無機系抗菌剤A−5の水分散物の調製;水分散物Y−2)
ラウリン酸ナトリウムの代わりに、スルホン酸型アニオン界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名ライポンLS−250;ライオン(株)製)を2.0g用いた以外は水分散物Y−1と同様にして水分散物Y−2を得た。
(本発明の合成ポリビニルアルコールを含有する水溶液の調製:PVA−1aq.)
日本合成化学製のゴーセノールKH−17の2重量%の水溶液作製し、これをPVA−1aq.とする。
(本発明の抗菌繊維製品の製造方法:合成ポリビニルアルコールおよび無機系抗菌剤の付着方法)
ポリエステル100%の織布をPVA−1aq.に浸漬し、その後にニップローラーを通し、乾燥しKH−17を1mあたり0.1g含有させ、その次に水分散液YZ−1に浸漬し、その後にニップローラーを通し、乾燥しA−5が1mあたり0.3g含有するサンプルH1−1を得た。KH−17、A−5の付着量はニップローラーを通した直後に布に付着した液重量を計量し、それと水溶液のKH−17、水分散液のA−5の各々の含有率より得た。
本発明の無機系抗菌剤A−5の代わりに無機系抗菌剤A−1、A−6、A−8をそれぞれ用いて、H1−1と同様にして各抗菌剤を1mあたり0.3g含有するサンプルH1−2、3、4を得た。無機系抗菌剤A−5の水分散物Y−1の代わりにY−2を用いた以外はH1−1と同様にしてサンプルH1−5を得た。
また、A−5の代わりに酸化亜鉛粒子(一次粒子の平均粒子ザイズ;0.65μm)を用いた以外はH1−1と同様にして酸化亜鉛を1mあたり0.3g含有する比較サンプルC1−11を得た。
また、PVA−1aq.に浸漬しなかった以外は各々H1−1〜5、C1−11と同様に比較例C1−1〜5、12を得た。
【0034】
(洗濯方法)
ワッシャー洗濯機を用い、水量90L に「JAFET標準配合洗剤」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム)120ml を添加
して洗濯液とし、洗濯液に浴比が1:30 になるようサンプル布を投入し、80℃の高温で120分間洗濯をし、その後で家庭洗濯機を用いてすすぎを行った。この高温での洗濯とすすぎ、乾燥の一連の工程1回を、SEKのマニュアルに従い洗濯10回相当とした。下記に示す洗濯10回相当とはこの一連の工程を1回行ったことを示し、洗濯100回相当とはこの工程を10回繰り返したことを示す。
(抗菌性試験方法)
試験方法は、JIS L 1902 (繊維製品の抗菌性能試験方法・抗菌効果)の定量試験法(菌液吸収法)とし、37℃で18時間培養後の生菌数測定法は、混釈平板培養法(コロニー法)を適用した。評価試験は黄色ブドウ球菌で行った。接種細菌生菌数は約1.5×10個であった。
未加工布(ポリエステル100%の織布)
0時間後菌数 3.1×104、18時間後菌数 2.3×107
サンプル名 洗濯回数0回 洗濯回数100回相当
(菌数) (菌数)
H1−1 20未満 20未満 本発明
H1−2 20未満 7.8×102 本発明
H1−3 20未満 2.5×102 本発明
H1−4 20未満 1.5×102 本発明
H1−5 20未満 1.5×102 本発明
C1−11 2.0×102 4.5×106 比較例
C1−1 20未満 3.5×106 比較例
C1−2 20未満 4.0×106 比較例
C1−3 20未満 4.2×106 比較例
C1−4 20未満 3.5×106 比較例
C1−5 20未満 3.2×106 比較例
C1−12 2.0×102 8.5×106 比較例
本発明の合成高分子ポリビニルアルコールと無機系抗菌剤を用いたサンプルH1−1〜5は洗濯100回相当後も高い抗菌性能を示した。一方、比較例の通常の酸化亜鉛粒子を用いたサンプルC1−11は、洗濯前は高い抗菌性能を示したが、洗濯後は抗菌性能が減少し不十分であり、好ましくなかった。また、本発明の合成高分子ポリビニルアルコールを用いなかったサンプルC1−1〜5は、合成高分子ポリビニルアルコールを用いた対応するサンプルH1−1〜5に比べ特に洗濯100回後の抗菌性が低く好ましくなかった。また、抗菌剤の中でも、A−5、8がA−1,6に比べ高い抗菌性能を示し特に好ましかった。
また、カルボン酸型の界面活性剤を用いたサンプルH1−1の方が、スルホン酸型界面活性剤を用いたサンプルH1−5より抗菌性能が優れていて好ましかった。
【実施例2】
【0035】
ポリエステル100%の織布の代わりに綿/ポリエステル=15/85の混紡布を用いた以外は、実施例1のH1−1〜4と同様にサンプルH2−1〜4を得た。市販の抗菌繊維製品(布)を3種以下のように準備した。ポリエステル繊維に繊維の状態で有機系抗菌剤を含浸処理した抗菌布サンプルA(東レ(株)製;商品名マックスペック)、抗菌布サンプルB(テイジン(株)製;商品名バリュー加工)ともに綿/ポリエステル=85/15の混紡布である。また、銀系抗菌剤をポリエステル繊維に練りこみ処理した抗菌布サンプルサンプルC(クラレ(株)製;商品名サニター加工)、これも綿/ポリエステル=85/15の混紡布である。これらの市販の抗菌処理した布と本発明のサンプルH2−1〜5の抗菌性能を比較した。
実施例1に記載の洗濯工程の高温洗濯とすすぎの間に、有効塩素濃度500ppmの次亜塩素酸溶液による漂白処理(90℃、120分間)を入れ、この工程を5回繰り返した(以後この5回繰り返しの工程を洗濯・漂白50回相当と称する)。これらの処理後のサンプルに実施例1と同様の方法で抗菌性を測定した。
なお接種菌種は実施例1の黄色ブドウ球菌の代わりに。緑膿菌を用いた。
未加工布(綿/ポリエステル=15/85の混紡)
0時間後菌数 3.0×104、18時間後菌数 2.2×107
サンプル名 洗濯回数0回 洗濯・漂白回数100回相当
(菌数) (菌数)
H2−1 20未満 20未満 本発明
H2−2 20未満 7.8×102 本発明
H2−3 20未満 6.9×103 本発明
H2−4 20未満 20未満 本発明
A 20未満 5.5×106 比較例
B 2.8×103 4.9×106 比較例
C 20未満 5.2×106 比較例
本発明の無機系抗菌剤および合成高分子ポリビニルアルコールを用いたサンプルH2−1〜4は洗濯および漂白処理後も高い抗菌性能を示した。一方、比較例の有機系抗菌剤あるいは銀系抗菌剤を用いた市販の抗菌布サンプルA,B、Cは洗濯、漂白処理後の抗菌性能が不十分であり、好ましくなかった。
【実施例3】
【0036】
一次粒子の平均粒子サイズが下記のように変化した以外は無機系抗菌剤A−5と同様の抗菌剤を用いた以外は実施例1のサンプルH1−1と同様にしてH3−1〜7を得た。実施例2に記載の洗濯・漂白処理100回相当を実施し、実施例1の抗菌試験方法と同じ方法で抗菌試験(黄色ブドウ球菌)を行い、測定された菌数を下記に示した。
未加工布(綿ブロード)
0時間後菌数 3.4×104、18時間後菌数 2.6×107
サンプル名 一次粒子の平均粒子サイズ 菌数
H4−1 0.01μm 6.6×10
H4−2 0.02 20未満
H4−3 0.05 20未満
H4−4 0.1 20未満
H4−5 0.3 6.4×10
H4−6 0.6 3.7×102
H4−7 1.0 3.6×104

本発明の抗菌剤の一次粒子の平均粒子サイズが0.6μmを超えると抗菌性能が小さくなった。また粒子サイズが0.01μmより小さくなるとやはり抗菌性能が小さくなった。これから本発明の無機系抗菌剤の一次粒子の平均粒子サイズは0.01〜0.6μmが好ましかった。平均粒子サイズが0.01μmのサンプルの抗菌性能がやや低かった原因は、多分水分散液中で無機系抗菌剤の粒子が凝集したため、抗菌活性が低下したことと、繊維への付着力が低下したためと思われる。また、平均粒子サイズが1.0μmのサンプルの抗菌性能が低かった原因は、総表面積が小さいため抗菌活性が低下したことと、繊維への付着力が低下したためと思われる。これより、好ましい一次粒子の平均粒子サイズの領域が存在することが明らかになった。
【実施例4】
【0037】
無機系抗菌剤A−5の付着量を下記のようにした以外は実施例1のサンプルH1−1と同様にしてH4−1〜6を得た。実施例2に記載の洗濯・漂白処理100回相当を実施し、実施例2の方法と同じ抗菌試験方法(緑膿菌)で抗菌性能を評価した。得られた菌数を下記に示した。なお、付着量の調整はニップローラーのニップ圧えお調整し、布への水分散液の付着量を調整し行った。
未加工布(綿ブロード)
0時間後菌数 3.1×104、18時間後菌数 2.8×107
サンプル名 付着量 菌数
H4−1 0.005g/m 2.1×10
H4−2 0.01 9.0×102
H4−3 0.03 40
H4−4 0.10 20未満
H4−5 1.0 20未満
H4−6 1.5 20未満
H4−7 2.0 20未満
H4−8 4.0 20未満
本発明の無機系抗菌剤の付着量が0.01g/mを下回ると抗菌効果はあるものの効果は小さくなった。なお、付着量が増加するとコストが高くなるので好ましくない。
【実施例5】
【0038】
実施例1の無機系抗菌剤A−5の水分散物Y−1に浸漬する代わりに、Y−1を定法の噴霧法でポリエステル100%の織布に噴霧した以外はH1−1と同様にしてサンプルH5−1を得た。噴霧時の液滴の大きさは15μm程度であった。液滴が100μを超えると付着状態がまばらになり、500μmを超えるとまばらの状態はより大きくなり好ましくなかった。このサンプルに実施例2に記載の洗濯・漂白処理100回相当を実施し、実施例2の抗菌試験方法と同じ方法(緑膿菌)で試験し得られた菌数を下記に示した。
未加工布(ポリエステル100%の織布)
0時間後菌数 3.1×104、18時間後菌数 2.8×107
サンプル名 菌数
H5−1 20未満 本発明
噴霧法によっても浸漬法同様の、高い抗菌性能が得られ好ましかった。噴霧法は布の裁断後でも容易に抗菌性能を付与できる好ましい方法である。しかし。付着量を正確に制御する点、および大量の布に加工する場合は既存の布加工機をしようできる点では浸漬法の方が好ましい。噴霧法は手軽に、裁断後あるいは縫製後の繊維製品に迅速に抗菌性を付加できる点で好ましい。
【実施例6】
【0039】
実施例1の無機系抗菌剤A−5の水分散物Y−1に、水と柔軟剤であるジオレイルジメチルアンモニウム塩添加し、A−5を0.6重量%、ジオレイルジメチルアンモニウム塩を1.0重量%含有する水分散液6−Aを得た。Y−1の代わりにY−2を用いた以外は.水分散液6−Aと同様にして水分散液6−Bを得た。
無機系抗菌剤の水分散物としてY−1の代わりにそれぞれ6−A、6−Bを用いた以外はサンプルH1−1と同様にして、サンプルH6−1、H6−2を得た。
これらのサンプルに実施例2に記載の洗濯・漂白処理100回相当を実施し、実施例2の抗菌試験方法(緑膿菌)と同じ方法で抗菌性能を試験し、得られた菌数を下記に示した。
未加工布(綿ブロード)
0時間後菌数 3.1×104、18時間後菌数 2.8×107
サンプル名 菌数
H6−1 20未満 本発明
H6−2 3.5×103 本発明
本発明の無機系抗菌剤の水分散物にカルボン酸系のアニオン界面活性剤を用いたサンプルH6−1は、スルホン酸系の界面活性剤を用いたH6−2より抗菌性能が高く好ましかった。
【実施例7】
【0040】
試験菌体としては黄色ブドウ球菌の代わりに、Escherichia coli NBRC 3301(大腸菌)を用いた以外は実施例3を繰り返し同様の結果を得た。
【実施例8】
【0041】
ポリエステル100%の織布を実施例1記載の水分散液YZ−1に浸漬し、その後にニップローラーを通し、乾燥させた後、実施例1記載のPVA−1aq.に浸漬し、その後にニップローラーを通し、乾燥させた以外は実施例1のサンプルH1−1と同様にして、A−5を1mあたり0.3g、KH−17を1mあたり0.1g含有させたサンプルH8−1を作製した。
また、実施例1記載の水分散液YZ−1に実施例1記載のPVA−1aq.を滴下し、本発明の無機系抗菌剤と合成高分子ポリビニルアルコールを両方含有する水溶液(無機系抗菌剤は分散状態)を得、この水溶液にポリエステル100%の織布を浸漬し、その後にニップローラーを通し、乾燥させた以外は実施例H1−1と同様にしてA−5を1mあたり0.3g、KH−17を1mあたり0.1g含有させたサンプルH8−2を作製した。
これらのサンプルと実施例記載のH1−1、C1−1に、実施例2に記載の方法と同様にして、洗濯・漂白処理50回、100回相当を実施し、実施例2の抗菌試験方法と同じ方法(緑膿菌)で試験し得られた菌数を下記に示した。
未加工布(ポリエステル100%の織布)
0時間後菌数 3.0×104、18時間後菌数 3.2×107
サンプル名 洗濯回数 洗濯・漂白回数 洗濯・漂白回数
0回 50回相当 100回相当
(菌数) (菌数) (菌数)
H1−1 20未満 20未満 20未満 本発明
H8−1 20未満 20未満 2.7×102 本発明
H8−2 20未満 20未満 1.2×103 本発明
C1−1 20未満 2.8×106 4.5×106 比較例
本発明の合成高分子ポリビニルアルコールを用いたサンプルH1−1、H8−1、H8−2はいずれも、合成高分子ポリビニルアルコールを用いなかったC1−1に比べ菌数が小さく(抗菌性能が高く)好ましかった。本発明の3サンプルの中では、ポリエステル100%の織布を合成高分子ポリビニルアルコール水溶液に浸漬後に、無機系抗菌剤水分散物に浸漬したサンプルH1−1が洗濯・漂白100回相当処理後の金子が最も小さく好ましかった。無機系抗菌剤水分散物に浸漬した後に、合成高分子ポリビニルアルコール水溶液に浸漬したサンプルH8−1は、洗濯・漂白処理100回相当後の菌数が、H1−1よりは大きいが、無機系抗菌剤水分散物と合成高分子ポリビニルアルコール水溶液を混合した溶液にポリエステル100%の織布を浸漬したサンプルH8−2よりはあ小さかった。すなわち、合成高分子ポリビニルアルコールを付着後に無機系抗菌剤を付着させる方法が最も好ましく、無機系抗菌剤を付着後に
合成高分子ポリビニルアルコールを付着させる方法がその次に好ましく、両者を混合した溶液で同時に付着させる方法がその次に好ましかった。ただし、いずれの方法も
本発明の合成高分子ポリビニルアルコールを用いない方法(比較例)に比べ抗菌性は著しく高かった。
【実施例9】
【0042】
綿ブロードを用いた以外は実施例1記載のH1−1およびC1−1と同様にしてそれぞれサンプルH9−1、C6−1を作製した。これらのサンプルH9−1、C9−1および実施例1で作製したサンプルH1−1,C1−1を、実施例2に記載の方法と同様にして、洗濯・漂白処理100回相当を実施し、実施例2の抗菌試験方法と同じ方法(緑膿菌)で試験し得られた菌数を下記に示した。
未加工布(綿ブロード)
0時間後菌数 3.1×104、18時間後菌数 3.8×107
サンプル名 洗濯回数0回 洗濯回数100回相当
(菌数) (菌数)
H9−1 20未満 20未満 本発明
H1−1 20未満 20未満 本発明
C9−1 20未満 3.5×103 比較例
C1−1 20未満 3.5×106 比較例
綿ブロードを用いた本発明サンプルH9−1も本発明の合成高分子ポリビニルアルコールを用いなかった比較例サンプルC9−1より抗菌性能が優れ好ましかった。ただし、ポリエステル100%織布を用いた本発明のサンプルH1−1と比較例C1−1に比べ、綿ブロードを用いた本発明のサンプルH9−1と比較例C9−1の抗菌性能の差は小さかった。これは綿ブロード自体の本発明の無機系抗菌剤の付着力が、ポリエステル100%織布の該付着力よりかなり大きいため、本発明の合成高分子ポリビニルアルコールによる無機系抗菌剤の付着力向上効果が小さかったためと思われる。このことより、無機系抗菌剤を付着させる官能基を有する、セルロース繊維製品よりもポリエステル繊維製品の方が、本発明の効果がおおきく好ましいことが判明した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオンあるいは銅イオンの酸化物である第1成分、およびアルカリ土類金属酸化物、あるいはアルミナである第2成分を有し、第1成分および第2成分を各々少なくとも1種含有した無機系抗菌剤の少なくとも1種を繊維製品に付着させたことを特徴とする抗菌繊維製品において、該抗菌繊維製品の表面に合成高分子ポリビニルアルコールが付着されていることを特徴とする抗菌繊維製品。
【請求項2】
該無機系抗菌剤が下記式(1)〜(2)で表されるものであることを特徴とする請求項1記載の抗菌繊維製品。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
y 1−yO (2)
(式中、Nはマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンを、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。yは0.02<y<0.8である)
【請求項3】
該無機系抗菌剤が該式(1)で表されることを特徴とする請求項2記載の抗菌繊維製品。
【請求項4】
該無機系抗菌剤の該式(1)および(2)のMがともに亜鉛イオンであることを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載の抗菌繊維製品。
【請求項5】
該繊維製品がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維等の合成繊維を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌繊維製品。
【請求項6】
該繊維製品がポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項5に記載の抗菌繊維製品。
【請求項7】
該繊維製品がポリエステル繊維を含有することを特徴とする請求項6に記載の抗菌繊維製品。
【請求項8】
該繊維製品に合成高分子ポリビニルアルコールを付着させた後に無機系抗菌剤を付着させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
【請求項9】
該繊維製品に無機系抗菌剤を付着させた後に合成高分子ポリビニルアルコールを付着させることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
【請求項10】
該繊維製品に無機系抗菌剤および合成高分子ポリビニルアルコールを同時に付着させることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。
【請求項11】
該無機系抗菌剤の水分散物が用いられ、該水分散物の炭素数が5〜22のカルボン酸型アニオン界面活性剤を少なくとも1種含有する水分散物であることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載された抗菌繊維製品の製造方法。

【公開番号】特開2011−52338(P2011−52338A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201344(P2009−201344)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(501011875)
【Fターム(参考)】