説明

抗菌膜付き透明物品、および抗菌膜形成溶液

【課題】 抗菌性のみならず透明性にも優れた抗菌膜が形成された透明物品であり、さらに赤外線吸収能を有することも可能とした、耐摩耗性に優れた透明物品を提供する。
【解決手段】 透明基体と、
該基体表面に、ゾルゲル法によるケイ素酸化物を主成分とし、銀微粒子および/または銀イオンを含み、かつ透明性を有する銀含有抗菌膜が形成され、
前記銀含有抗菌膜に、JIS R 3212に規定されたテーバ摩耗試験を施した後に、前記銀含有抗菌膜が前記透明基体から剥離せず、
前記銀含有抗菌膜の、JIS Z 2801に規定された抗菌試験における、抗菌活性値が2.0以上である、抗菌膜付き透明物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有抗菌膜が形成された抗菌膜付き透明物品、および該抗菌膜を形成するための抗菌膜形成溶液に関する。特に、抗菌性とともに、耐摩耗性に優れ、さらに赤外線遮蔽機能を有する抗菌膜付き透明物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や、電子、電気機器などで、直接皮膚に触れる部分に抗菌性を持たせた製品が市販されている。例えば、特許第2988789号公報のように、二層タイプの抗菌膜を利用した電話機や、特開2002−337277号公報のように、紫外線硬化型の抗菌膜を利用したタッチパネルタイプなどである。
このほかにも、特開平11−110133号公報による、ポリシラザンと抗菌剤とキシレン等を用いて抗菌性膜を形成したタッチセンサ用ガラス基板や、特開平11−279540号公報による抗菌性透明撥水膜などもある。
【0003】
ところで、ゾルゲル法は、金属の有機または無機化合物の溶液を出発原料とし、溶液中の化合物の加水分解反応および縮重合反応によって、溶液を金属の酸化物または水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらにゲル化させて固化し、このゲルを加熱して酸化物固体を得る方法である。
【0004】
このゾルゲル法は、低温でのシリカ系膜の形成を可能とする。しかし、熔融法により得たシリカ系膜と比較すると、機械的強度、特に膜の耐摩耗性に劣るという問題があった。
【0005】
本発明者は、国際公開第2005/095298号パンフレットにおいて、ゾルゲル法の改良により、インジウムスズ酸化物(ITO)およびアンチモンスズ酸化物(ATO)などの赤外線カットオフ成分を、その機能を維持した状態で含みながらも、耐摩耗性に優れたシリカ系膜(赤外線遮蔽膜)を有する赤外線カットガラスを提案した。この膜は、テーバ摩耗試験に対し、熔融法により得たガラス板に匹敵する程に優れた耐摩耗性を有する。
【特許文献1】特許第2988789号公報
【特許文献2】特開2002−337277号公報
【特許文献3】特開平11−110133号公報
【特許文献4】特開平11−279540号公報
【特許文献5】国際公開第2005/095298号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許第2988789号公報で開示されている抗菌性電話機の膜構成は、抗菌層とシリカ層の二層構成である。このため、二度の塗布工程が必要となり、製造上コスト的な面で不利となる。さらに、使用されている抗菌剤の粒径は1μm以上と大きく、透明物品には利用できない。
【0007】
特開2002−337277号公報に開示の技術は、透明性を有するタッチパネル用前面板における抗菌性に関し、平均粒径が1μm程度の抗菌剤を使用している。透明性に問題はないとされるが、可視光の波長より大きな平均粒径を持つ抗菌剤により光が散乱して、透明性が低下することは明らかである。
【0008】
特開平11−110133号では、キシレンのような有機溶剤を用いており、環境問題の観点から望ましくない。
【0009】
特開平11−279540号公報による抗菌性透明膜では、酸化チタンの表面に銀を付着させて抗菌性微粒子としている。膜を形成する際に、実施例では300℃で30分間焼成しており、コーティング液の作製は、2液の混合を必要としている。
【0010】
一方、国際公開第2005/095298号パンフレットに開示されている赤外線遮蔽膜は、優れた赤外線吸収能を示すに留まる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による抗菌膜付き透明物品は、
透明基体と、
該基体表面に、ゾルゲル法によるケイ素酸化物を主成分とし、銀微粒子および/または銀イオンを含み、かつ透明性を有する銀含有抗菌膜が形成され、
前記銀含有抗菌膜に、JIS R 3212に規定されたテーバ摩耗試験を施した後に、前記銀含有抗菌膜が前記透明基体から剥離せず、
前記銀含有抗菌膜の、JIS Z 2801に規定された抗菌試験における、抗菌活性値が2.0以上である、ことを要旨とする。
【0012】
また本発明による抗菌膜形成溶液は、
アルコールおよび/または水を含む溶媒と、
強酸(ただし塩酸と硝酸とを除く)触媒と、
4官能のアルコキシシランと、
銀微粒子および/または銀イオンとを、
含んでなる、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による抗菌膜付き透明物品は、透明であり、かつ耐摩耗性にも優れた特徴を有する。加えて、赤外線遮蔽の機能を賦与することもできる。
また本発明による抗菌膜形成溶液を、基体の表面に塗布し、乾燥・熱処理すれば、抗菌膜を形成した抗菌膜付き透明物品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の抗菌膜付き透明物品は、例えば、以下の製造方法により得ることができる。すなわち、アルコールおよび水を含む溶媒と、強酸(ただし塩酸と硝酸とを除く)触媒と、4官能のアルコキシシランと、銀微粒子および/または銀イオンとを含んでなる抗菌膜形成溶液を、透明基体の表面に塗布し、これを熱処理して、透明基体の表面に抗菌膜を形成する。
【0015】
(抗菌膜形成溶液)
形成溶液中に溶媒として含まれるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコールなどを例示できる。さらに1-メトキシ-2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノールを含んでもよい。
【0016】
形成溶液中に溶媒として含まれる水のモル数は、シリコン原子の総モル数に対し、5倍以上、例えば5倍〜20倍、とすることが好ましい。
【0017】
この形成溶液に含まれる4官能のアルコキシシランとしては、シリコンアルコキシドが好ましい。
【0018】
シリコンアルコキシドの濃度は、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して、3質量%を超えて30質量%以下の範囲にあることが望ましく、3質量%を超えて13質量%未満の範囲にあることが好ましく、3質量%を超えて9質量%以下の範囲にあることがより好ましい。形成溶液におけるシリコンアルコキシドの濃度が高すぎると、基体から剥離するようなクラックが膜中に発生することがある。
【0019】
シリコンアルコキシドを添加した形成溶液のpHを2程度に調整するとともに、当該溶液に、理論値よりも過剰な量の水を含有させることにより、テーバ摩耗試験に対して優れた耐摩耗性を発現させる。
【0020】
形成溶液に触媒として含まれる強酸の濃度は、強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときの、プロトンの質量モル濃度で表示して、0.001〜0.2mol/kgの範囲とする。
【0021】
この強酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸を用いることができる。強酸のうち、パラトルエンスルホン酸に代表される揮発性の酸は、加熱により揮発し、硬化後の抗菌膜中に残存しないので、好ましく用いることができる。なお、硬化後の抗菌膜中に酸が残ると、膜硬度が低下してしまうことがある。
【0022】
ゾルゲル法において触媒として広く用いられる塩酸は、形成溶液中で塩化銀を生成し、形成した抗菌膜の透明性を損ねてしまうという問題がある。
また、硝酸は揮発性である点から、ゾルゲル法における触媒として好ましい。しかし、この硝酸を触媒として用いると、銀が酸化されやすくなり、銀微粒子を取り囲む分散剤が機能しなくなり、分散状態を確保しにくくなる。
これらの理由から、本発明に用いる強酸触媒としては、塩酸と硝酸とを除く。
【0023】
本発明における抗菌膜に抗菌性を賦与するために、膜中に銀微粒子および/または銀イオンを含ませる。また銀微粒子を含ませる場合、抗菌膜の透明性を確保するために、可視光線の波長よりも十分に小さい粒径の銀微粒子を用いるとよい。例えば、銀微粒子の粒径が100nmを超えると、レイリー散乱によって光が著しく反射され、膜が白化して透明性が低下する場合がある。このような観点から、銀微粒子の粒径は100nm以下であることが好ましい。このような粒径を持ち、形成溶液の調製が容易な銀微粒子としては、例えば住友電工製の銀微粒子水分散液(Agインキ)を用いればよい。銀がイオンの形態で含まれる場合は、特に透明性には影響しない。
【0024】
膜中に含まれる銀は、微粒子の形態でも、イオンの形態のどちらでもよい。微粒子の形態であれば徐放性を有しているので、長期間の抗菌性を発現させるのに好ましい。イオンの形態で含まれていると、溶出しやすく、即効性のある抗菌作用を発現させるのに好ましい。もちろん両方の形態で含まれていれば、両方の特性が得られる。また用途によって、含まれる形態を選択してもよいし、微粒子とイオンの割合を最適化すればよい。
【0025】
形成溶液中における、銀微粒子および/または銀イオンの濃度は、0.00001〜1.5質量%、好ましくは0.001〜1質量%、さらには0.01〜0.1質量%とすることが好ましい。この濃度を0.00001質量%以上、特には0.01質量%以上とすると、形成される膜における抗菌性能がより確実に発揮される。一方この濃度を、1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下とすると、形成される膜の透明度をより確実に高めることができる。
【0026】
銀による抗菌作用のメカニズムは完全には明らかにされていないが、銀イオン説と活性酸素説が有力である。本発明の抗菌膜では、前者により機能を発現していると、本発明者は考えている。
【0027】
抗菌膜から溶出した銀イオンや膜表面に存在していた銀イオンは、付着した細菌の持つ呼吸鎖酵素の−SH基(スルフヒドリル基)に作用し、−SAgという状態に変質される。一般に細菌は、細胞膜と細胞壁間に呼吸鎖酵素という呼吸を維持するための酵素を持っており、その中でも−SH基を有する酵素は、たんぱく質構造の維持や酵素活性において重要な酵素として位置づけられている。この酵素の失活により、菌が死滅することになるのである。
【0028】
また銀の抗菌作用は、空気中のOHと反応してイオン化し、負に帯電した銀イオンと細菌間で生じる、静電気の相互作用によるものである可能性もある。活性酸素説である場合には、毒性の強いヒドロキシルラジカル(・OH)が生成されることで、細菌を失活させることになる。
【0029】
そこで、銀による抗菌作用を有する材料を形成するに際して、抗菌活性が高くなるように、粒径が100nm以下の微粒子の形態で、ゾルゲル材料の中に含ませ、抗菌膜を形成する。 こうすることで、高い抗菌性能を有しつつ、透明性にも優れ、耐摩耗性も持つ透明物品を製造できる。
【0030】
さらにこの抗菌膜は、JIS Z 2801フィルム密着法による抗菌試験における、無加工試験片の培養後の生菌数の対数値と、加工試験片の培養後の生菌数の対数値との差から、抗菌活性値を算出することができる。
本発明による抗菌膜が有すべき抗菌活性値は2.0以上であり、好ましくは3.0以上である。試験菌株としては、例えば黄色ブドウ球菌および大腸菌などに代表される細菌を用いるとよい。
【0031】
本発明における抗菌膜形成溶液には、さらにITO(インジウムスズ酸化物)およびATO(アンチモンスズ酸化物)から選ばれる少なくとも一方を含ませることもできる。こうすると、初期状態において波長1550nmの光線の透過率が30%以下であるような赤外線遮蔽機能をも賦与できる。
なお、ITOおよびATOを含ませる場合にも、銀微粒子と同様な理由から、その粒径は100nm以下であることが望ましい。
【0032】
本発明による抗菌膜は、上述のとおり、JIS R 3212に規定されたテーバ摩耗試験を適用しても基体から剥離しない。また、テーバ摩耗試験の後に測定した、当該テーバ摩耗試験を適用した部分のヘイズ率を4%以下、さらには3%以下、とすることもできる。JIS R 3212によるテーバ摩耗試験は、市販のテーバ摩耗試験機を用いて実施できる。この試験は、上述のJISに規定されているとおり、500g重の荷重を印加しながら行う、回転数1000回の摩耗試験である。
【0033】
抗菌膜の厚さは、例えば250nmを超え10μm以下であり、好ましくは300nmを超え10μm以下であり、さらに好ましくは500nm以上10μm以下である。この厚さは、1μm以上、さらには1μmを超えていてもよく、5μm以下であってもよい。上述の製造方法によれば、250nmを超える程度に厚い抗菌膜を、形成溶液の一度の塗布により形成することも可能である。
【0034】
透明基体としては、ガラス板または樹脂板を例示できる。厚さが0.1mmを超える、さらには0.3mm以上、特に0.5mm以上の透明基体を用いると、クラックの発生やテーバ摩耗試験後の膜剥離をより確実に防止できる。基体の厚さの上限は特に制限されないが、例えば20mm以下、さらには10mm以下であってよい。
【0035】
以上述べてきたように、本発明による抗菌膜は、比較的低温の加熱のみで、熔融法により得たガラス板に匹敵する程度の、優れた耐摩耗性を有する。この抗菌膜を、建築物用窓ガラスや自動車に代表される車両用窓ガラス、携帯電話や携帯音楽プレーヤー、パソコンなど、電子機器の表示部の前面透明板に適用しても、十分実用に耐える。
【0036】
さらに抗菌膜に、赤外遮蔽物質であるITOおよび/またはATOを含ませれば、赤外遮蔽機能をも賦与できる。このような抗菌膜付き透明物品は、車両または建築物の窓ガラスとして好適に使用できる。
ITOおよび/またはATOを含ませた抗菌膜付き透明物品における、赤外線吸収能は、波長1550nmにおける光線の透過率が30%以下、さらには25%以下、特には20%以下の範囲にあるとよい。
【0037】
形成溶液の塗布工程においては、環境の相対湿度を40%未満に保持しながら、塗布することが望ましい。相対湿度を40%未満、さらには30%以下に制御すると、環境中の水分の過剰な取り込みを防止でき、形成した抗菌膜が緻密な構造体となる。相対湿度の下限値は特に限定されないが、形成溶液の取り扱い性(塗布性)を高める観点からは、15%以上、さらには20%以上に制御することが好ましい。
【0038】
熱処理工程においては、基体上に塗布された形成溶液に含まれる液体成分、例えば水やアルコール溶媒を除去する。より詳しくは、水やアルコール溶媒の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部が除去される。この工程は、室温(25℃)下での風乾工程と、これに続いて行われる、室温よりも高温の温度範囲、例えば100℃以上250℃以下、さらには200℃以下の雰囲気下での焼成工程とにより行うとよい。
【0039】
風乾工程は、相対湿度が40%未満、さらには30%以下に制御した雰囲気下で行うことが好ましい。相対湿度を当該範囲に制御することにより、膜におけるクラックの発生をより確実に防止できる。相対湿度の下限値は特に限定されない。例えば15%、さらには20%であってよい。なお、この風乾工程は、場合によって省略することもできる。
【0040】
本発明における抗菌膜形成溶液には、さらに親水性有機ポリマーを含ませることができる。
この親水性有機ポリマーとしては、ポリオキシアルキレン基(ポリアルキレンオキシド構造)を含むポリマー、より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテル系のポリマーなどを使用すればよい。また、ポリビニルピロリドン系、ポリビニルカプロラクタム系のポリマーなどを使用してもよい。
【0041】
形成溶液中における親水性有機ポリマーの総濃度は、シリコンアルコキシドの濃度をSiO2濃度により表示した場合、当該SiO2に対して60質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましい。当該濃度が高すぎると、加熱硬化後の膜強度が低下してしまう場合があるからである。
他方、当該濃度が低すぎると、収縮による膜中の応力を緩和することができずクラックが発生することがある。それゆえ、親水性有機ポリマーの総濃度は、上記SiO2に対して0.1質量%以上、特に5質量%以上とすることが好ましい。
【0042】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0043】
(実施例1)
表1に示した各成分(銀微粒子分散液を除く)を混合し、20℃で4時間撹拌した。続いて、これに、銀微粒子分散液(銀を22.5質量%含む水溶液、住友電工製)0.004gを添加し、20℃で30分間撹拌して、形成溶液を調製した。
【0044】
表中の略号は、以下のようである。
・EtOH:エチルアルコール(片山化学製)、
・TEOS:テトラエトキシシラン(信越化学製)、
・シリケート40:エチルシリケート40(コルコート製)、
・PTS:パラトルエンスルホン酸一水和物(片山化学製)、
・HCl:濃塩酸(35質量%、関東化学製)、
・i−BuOH:イソブチルアルコール(関東化学製)、
・界面活性剤:ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)、
・PEG200:ポリエチレングリコール200(関東化学製)、
・HDFDTMS:ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン(信越化学製、LS−4875)
・銀分散液:銀微粒子を22.5質量%含む水溶液(住友電工製)、
・ITO分散液:ITO微粒子を40質量%含むエチルアルコール溶液(三菱マテリアル製)、
【0045】
【表1】

【0046】
次に、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm、以下「ガラス板」と呼ぶ)上に、相対湿度30%の室温下で、形成溶液をフローコート法にて塗布した。塗布した形成溶液を室温で約15分間風乾し、続いて予め200℃に昇温したオーブンに投入することにより20分間加熱し、その後冷却することにより、抗菌膜付きガラス板を作製した。
【0047】
こうして得た抗菌膜は、クラックがなく、透明度の高い膜であった。抗菌試験は、JIS Z 2801に準拠して行った。すなわち、試験菌株には黄色ブドウ球菌、大腸菌を用いて、上述のように生菌数の対数値の差から、抗菌活性値を算出した。無加工試験片はガラスを用いた。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。この抗菌膜の厚さおよびテーバ試験前後のヘイズ率を表3に示す。
テーバ摩耗試験は、JIS R 3212に準拠して行った。市販のテーバ摩耗試験機(TABER INDUSTRIES社製5150 ABRASER)を用い、500gの荷重で1000回摩耗を行った。
ヘイズ率は、スガ試験機社製HGM−2DPを用いて測定した。
なお、ブランクとして、ガラス板についての各種特性についても表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と比べてITO微粒子を添加した例である。実施例1に準じ、表1に示すように形成溶液を調製した。ITO分散液は、銀分散液を添加し20℃で1分間撹拌した後に添加し、20℃で30分間撹拌して、形成溶液を調製した。
【0052】
得られた抗菌膜は、クラックのない透明度の高い膜であった。抗菌試験は実施例1と同様にして、抗菌活性値を算出した。その結果を表2に示す。
【0053】
また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。この抗菌膜の厚さ、テーバ試験前後のヘイズ率など特性を表3に示す。
【0054】
この膜の波長1550nmの光線の透過率についても表3に示す。波長1550nmの光線の透過率は、分光光度計(島津製作所製UV-3000PC)を用いて測定した。
【0055】
(実施例3)
実施例3は、実施例1と比べて銀微粒子の濃度を高めた例である。実施例1に準じ、表1に示すように形成溶液を調製した。
【0056】
得られた抗菌膜は、実施例1および2と比べて透明性は劣るが、クラックのない膜が得られた。また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。抗菌試験は、実施例1と同様にして、抗菌活性値を算出した。その結果を表2に示す。
【0057】
また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。この抗菌膜の厚さ、テーバ試験前後のヘイズ率など特性を表3に示す。
【0058】
(比較例1)
比較例1は、形成溶液にエチルシリケート40を含み、銀微粒子を含まず、ITO微粒子を含む形成溶液を使用し、オーブン内での保持時間を18分間とした。作業手順は実施例2に準じた。
【0059】
得られた抗菌膜は、実施例1および2と比べて透明性は劣るが、クラックのない膜が得られた。また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。抗菌試験は、実施例1と同様にして、抗菌活性値を算出した。その結果を表2に示す。
【0060】
また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。この抗菌膜の厚さ、テーバ試験前後のヘイズ率など特性を表3に示す。
【0061】
(比較例2)
比較例2は、強酸触媒として塩酸を用い、さらにヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを含む形成溶液を使用した。基本的に、実施例2に準じた(ただし、銀微粒子とITO微粒子を含まない)。
【0062】
得られた抗菌膜は、実施例1および2と比べて透明性は劣るが、クラックのない膜が得られた。また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。抗菌試験は、実施例1と同様にして、抗菌活性値を算出した。その結果を表2に示す。
【0063】
また、テーバ摩耗試験後の膜剥離もなかった。この抗菌膜の厚さ、テーバ試験前後のヘイズ率など特性を表3に示す。
【0064】
(比較例3)
比較例3は、基本的に実施例3におけるパラトルエンスルホン酸に代えて、塩酸を触媒として用いた例である。
【0065】
形成溶液を目視にて観察すると、銀が数mm程度の塊となって析出している様子が認められ、形成溶液として成立しなかった。
【0066】
(抗菌性)
表2に示すように、実施例1および2、3の抗菌膜付きガラス板は、いずれも抗菌活性値2以上であり、特に黄色ブドウ球菌を試験菌株として用いた場合には4以上であり、実施例1および3では大腸菌を試験菌株として用いた場合でも4以上と抗菌性能に優れていた。
さらに、実施例2のように赤外線遮蔽能を賦与することも可能である。
【0067】
(テーバ試験、ヘイズ率)
各実施例において得られた抗菌膜付きガラス板は、いずれも膜の表面に対するテーバ試験後に剥離することはなく、表2に示すように実施例1および2では耐摩耗試験後のヘイズ率が2.6%以下と十分に低く、建築物用および自動車に代表される車両用の窓ガラス、さらに携帯電話および携帯音楽プレーヤー、パーソナルコンピュータの表示部に適用するに十分な実用性を有していた。
【0068】
なお、自動車用の窓ガラスでは、テーバ試験後のヘイズ率は4%以下が求められている。以上の結果から、本発明の抗菌膜付きガラス板は、耐摩耗性に優れているので、車両や建築物の室内側や室外側を問わず、用いることができる。
また、携帯電話および携帯音楽プレーヤー、パーソナルコンピュータなどの電子機器の表示部に適用する場合には、その優れた耐摩耗性を生かして、抗菌膜付き透明物品を外に向けた状態で配置することが望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基体と、
該基体表面に、ゾルゲル法によるケイ素酸化物を主成分とし、銀微粒子および/または銀イオンを含み、かつ透明性を有する銀含有抗菌膜が形成され、
前記銀含有抗菌膜に、JIS R 3212に規定されたテーバ摩耗試験を施した後に、前記銀含有抗菌膜が前記透明基体から剥離せず、
前記銀含有抗菌膜の、JIS Z 2801に規定された抗菌試験における、抗菌活性値が2.0以上である、抗菌膜付き透明物品。
【請求項2】
前記銀含有抗菌膜が親水性有機ポリマーを含む、請求項1に記載の抗菌膜付き透明物品。
【請求項3】
前記銀微粒子の粒径が100nm以下である、請求項1に記載の抗菌膜付き透明物品。
【請求項4】
前記銀含有抗菌膜が、さらにITO微粒子および/またはATO微粒子を含む、請求項1に記載の抗菌膜付き透明物品。
【請求項5】
前記透明基体がガラス板である、請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌膜付き透明物品。
【請求項6】
前記透明基体が樹脂基板である、請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌膜付き透明物品。
【請求項7】
前記透明物品が、電子機器表示部の前面透明板である、請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌膜付き透明物品。
【請求項8】
アルコールおよび水を含む溶媒と、
強酸(ただし塩酸と硝酸とを除く)触媒と、
4官能のアルコキシシランと、
銀微粒子および/または銀イオンとを、
含んでなる抗菌膜形成溶液。
【請求項9】
前記強酸が、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸またはシュウ酸のうちの少なくともいずれか1つである、請求項8に記載の抗菌膜形成溶液。
【請求項10】
さらに親水性有機ポリマーを含む、請求項8に記載の抗菌膜形成溶液。
【請求項11】
さらにITOおよびATO微粒子を含む、請求項8に記載の抗菌膜形成溶液。
【請求項12】
前記形成溶液が、フルオロアルキル鎖を含む化合物を含まない、請求項8〜10のいずれかに記載の抗菌膜形成溶液。
【請求項13】
前記銀微粒子の粒径が100nm以下である、請求項8〜10のいずれかに記載の抗菌膜形成溶液。

【公開番号】特開2008−213206(P2008−213206A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51134(P2007−51134)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】