説明

抗菌製品の製造方法

利用される成分により銀コロイドがインサイチュで形成される、抗菌製品の製造方法が開示される。本方法は、(i)ある極性有機溶媒から選択される溶媒に溶解可能な極性ポリマーを含有する液体を提供する工程;(ii)α−官能性カルボン酸銀から選択される銀塩を前記液体に添加する工程;(iii)混合物を反応させて銀コロイドを形成する工程;及び(iv)混合物から溶媒を分離して抗菌製品を形成する工程を含む。こうして得られた抗菌製品は、シート、フィルム、繊維、コーティング層、特に膜、例えば、限外ろ過、水分離又はガス分離のための半透膜であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は抗菌製品、例えば、ポリマー膜の特殊な製造方法に関する。抗菌製品は、良好な更なる使用特性を維持しながら制御された殺菌効果を示す。このプロセスは物品の抗菌性を適応させる。
【0002】
抗菌性をポリマー物品及びその表面に付与することは、どこで湿潤条件が適用されても又は表面の無菌が要求されても重要である。銀は、2世紀以上にわたり抗菌剤として当該技術分野で使用されているが、その効果が短時間の使用後に消失することがしばしば示されてきた。この望ましくない効果は、浸出、特に溶解可能な銀イオンの形で利用される時の浸出によるためか、又は銀の貯蔵物の緊密な封入によるためである。銀の微量作用の効果は、通常、高い溶解度の銀塩によって提供されたものよりも遥かに低い、移動性の銀種の濃度で既に見られているため、粒子は、銀をゆっくりと長期間にわたって放出するリザーバを含む物品中に組み込まれた。これらの粒子は、通常、溶解度の低い、金属性の銀又はイオン性の銀を含有するか又はそれからなる。
【0003】
良好な活性を維持しながら浸出を防ぐために、粒子は高度に分散した形で、しばしば典型的な粒径5〜100nmのナノ粒子又は銀クラスターの形で、ある一定の銀種の移動性を与え続けて、ポリマーマトリックス中に埋込まれる必要がある。サブミクロンサイズの予め作製された粒子のアグロメレーションは、最終ポリマーマトリックス中への周囲伝達性におけるインサイチュ形成によって回避されてよい;WO09/056401号は、アスコルビン酸による銀の還元、その後のアクリルモノマーの添加、ポリマー分散剤及び真空下での水の除去を記載している。WO09/027396号は、遠心分離後にポリマー中に銀ナノ粒子分散液を得るために、核生成剤として作用し且つ還元剤としてアスコルビン酸を使用するPVPのようなポリマーの存在下で、ある銀カルボキシレートの還元を記載している。別個の要素の添加による望ましくない効果を避けるために、JP−A−2004−307900号は、還元剤として作用するポリマー又は溶媒と組み合わせることを提案している。
【0004】
殺菌剤又は制生剤の生物付着及び浸出の問題は、限外ろ過又は逆浸透のような分離目的に使用される半透膜において顕著である。US−5102547号は、銀粉末及び銀コロイドを含む微量作用の材料を膜中に組み込むための種々の方法を提案している。US−6652751号は、金属塩を含有するポリマー溶液を、還元剤を含有する凝固浴槽と接触させた後に得られる複数の制菌性の膜を比較している。膜製造のために硝酸銀をDMFで還元することによるコロイドのインサイチュ形成は、EP−A−2160946号に教示されている。
【0005】
ここで、コロイド性の銀が、特殊な銀塩のインサイチュ還元による孔形成ポリマーを含有するマトリックス中に効率的に組み込まれ得ることが判明した。本発明の方法は、還元剤の更なる添加又は高エネルギー照射又は高温の適用を行わずに、穏やかな条件下での金属コロイドの形成を可能にする。
【0006】
発明の要約
従って、本発明は主として抗菌製品の製造方法であって、
(i)ケト化合物から選択される極性有機溶媒を含む溶媒に溶解可能な極性ポリマーを含有する液体を提供する工程;
(ii)α−官能性カルボン酸銀から選択される銀塩を前記液体に添加する工程;
(iii)混合物を反応させて銀コロイドを形成する工程;及び
(iv)混合物から溶媒を分離して抗菌製品を形成する工程
を含む、抗菌製品の製造方法に関する。
【0007】
本発明のポリマー物品(即ち、抗菌製品)は、好ましくは、大きな表面/容積比を有する物品、例えば、シート、フィルム、(コーティング)層、織物又は非織物、又は特に例えば、半透膜、例えば、限外ろ過目的、水分離又はガス分離のための膜である。
【0008】
銀金属粒子の従来の製造方法は、熱、照射、超音波、電気化学又はマイクロ波技術、特に化学的還元剤の添加などの金属塩の還元のための種々の方法を使用する。例えば、金属塩は還元剤と反応して金属粒子を形成し;しばしば利用される還元剤としてはホルムアルデヒド、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)及びヒドラジンが挙げられる。本発明の利点は、このような追加の還元剤が、本発明の銀ナノ粒子の形成のために要求されないことであり、代わりに、銀塩の還元及び銀ナノ粒子の形成が本発明の試薬によってインサイチュで行われ且つこれらの工程が組み合わされる。孔形成ポリマーを使用する場合、本プロセスによって孔内に捕捉された銀粒子を含有する材料及び物品が得られ、従って低い浸出性と併せて高い銀の移動度がもたらされる。
【0009】
本発明の好ましい実施態様
工程(i)、(ii)及び(iii)は通常、即時の順序で実施される。工程(ii)での銀塩の添加は、完全な混合で有利に実施される。銀塩は好ましくはそのようなものとして、即ち、固体塩、適した分散液又は溶液として、追加の塩成分を用いずに添加され、固体塩又は分散液として添加することが好ましい。
【0010】
工程(i):液体は溶液又は分散液であってよく、1種以上のポリマー成分を含有してよい。可溶性極性ポリマーは、一般に孔形成ポリマー(例えば、ポリ−N−ビニルピロリドン(PVP)、ビニルアセテートとのPVPコポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)、スルホン化ポリ(エーテル)スルホン(sPES))及び/又はマトリックス形成ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニリデンフルオリド、ポリアミド、ポリイミド、酢酸セルロース、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、高分子炭水化物、可溶性タンパク質、例えば、ゼラチン)及びコポリマー及びそれらの混合物から選択される。
【0011】
可溶性の極性ポリマーは、例えば、1500〜約2500000の範囲である、広範囲の分子量であってよい。本発明の抗菌性のポリマー膜も、WO09/098161号に記載される通り、可溶性の極性ポリマーのような、アルコキシアミン官能性ポリスルホン又はポリスルホン−グラフト−コポリマー、例えば、ポリスルホン−グラフト−ポリ−4−ビニルベンジルクロリドコポリマーをベースとしてよい。
【0012】
極性の有機溶媒は、しばしば、ケト化合物、例えば、エステル、アミド、ラクトン、ラクタム、カーボネート、スルホキシドから選択され、好ましくは、通常、膜製造に使用される溶媒、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、他の環状ラクタム、ラクトン、例えば、ガンマ−ブチロラクトン、カーボネート、又はそれらの混合物から選択される。溶媒は水を微量成分として含有してもよく、好ましい溶媒は、前記極性有機溶媒、又はその混合物、及び水から本質的になる。本発明の文脈において「から本質的になる」とは、こうして表された成分が、溶媒の質量の大部分、即ち、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも70質量%、特に少なくとも90質量%を構成することを意味する。ポリマー対溶媒の比は、好ましくは、例えば、ポリマー対溶媒の比が1:30〜1:1の範囲である、粘性の溶液又は分散液が得られるように選択される。混合物の温度は、一般的には重要ではなく、例えば、5〜250℃の範囲から選択されてよく;好ましくは、混合物は、粘性の溶液が得られるまで、典型的には25〜150℃、好ましくは40〜100℃、最も好ましくは60〜90℃の温度まで加熱される。加熱は、追加の工程(ii)の後に、又は好ましくは工程(ii)の前に行われてよい。
【0013】
工程(ii):α−官能性カルボン酸銀である、銀塩(即ち、銀出発物質)は、しばしば乳酸銀、クエン酸銀、酒石酸銀、安息香酸銀、アクリル酸銀、メタクリル酸銀、シュウ酸銀、トリフルオロ酢酸銀又はそれらの混合物から選択され、好ましくは乳酸銀、クエン酸銀、酒石酸銀であり、最も好ましくは乳酸銀である。銀塩は固体として添加されてよく、好ましくは粉末又は懸濁液の形で、又は溶液として添加されてよい。懸濁液又は溶液は、好ましくは工程(i)に記載される通り、溶媒又は溶媒混合物である。有利には、工程(i)からの混合物への添加は、混合、例えば、撹拌及び/又は音波処理しながら行われ、好ましくは記載された通り加熱された混合物に対して行われる。添加される銀出発物質の量は、しばしば、工程(iv)に存在するポリマーの全量をそれぞれ基準として、1〜100000ppm、好ましくは100〜10000ppm、最も好ましくは1000〜6000ppmの最終的なAg濃度(工程(ii)の後及び任意に下記の通りポリマーの更なる添加の後)が得られるように選択される。
【0014】
工程(iii):工程(i)及び(ii)に記載された成分並びに任意の更なる工程に記載された成分の他に、更なる成分(例えば、還元剤)は一般に添加されない。金属コロイドの形成は、通常、0.5時間〜約20時間以内に完了し、好ましい反応時間は、1〜15時間、典型的には1〜4時間の範囲から選択される。工程(iv)を実施する前、混合物は有利には脱気される。
【0015】
工程(iv):抗菌製品は、しばしばキャスティング又はコーティングプロセスを用いて形成される。溶媒は、例えば、相分離(例えば、典型的には膜の製造に使用される、凝固浴槽)によって、又は従来の乾燥プロセス(例えば、減圧下で)によって除去されてよい。
【0016】
これらのプロセス工程は、通常、順に、即ち、最初に工程(i)、次いで工程(ii)、次いで工程(iii)、次いで工程(iv)の順に実施される。
【0017】
任意の更なる工程:工程(ii)の後及び/又は工程(iii)の後に、及び工程(iv)の前に、工程(i)について記載された種類の1種以上の更なるポリマーを、そのようなものとして又は溶液又は分散液の形で工程(i)について記載された溶媒に添加してよい。好ましい実施態様では、工程(i)は孔形成ポリマー(例えば、PVP)を使用し、マトリックス形成ポリマー(工程(i)について記載されたもの;例えば、ポリエーテルスルホン)を工程(ii)の後に添加する。工程(iv)の後に、金属銀をイオン性、好ましくは非浸出形態に再変換する工程、例えば、金属銀を塩化銀に変換する従来の次亜塩素酸塩処理を行ってよい。
【0018】
更なる添加剤も、(例えば、これらの成分をポリマードープに添加した後に、好ましくは工程(iii)と工程(iv)の間に、又は最終的な物品の表面処理又はコーティングによって)ポリマー物品又は膜中に存在してよい。かかる添加剤としては、抗菌薬、例えば、ジ−又はトリハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル、例えば、ジクロサン又はトリクロサン、3,5−ジメチル−テトラヒドロ−1,3,5−2H−チオジアジン−2−チオン、ビス−トリブチルチノキシド、4.5−ジクロル−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−ブチル−ベンゾイソチアゾリン、10.10’−オキシビスフェノキシアルシン、亜鉛−2−ピリジンチオール−1−オキシド、2−メチルチオ−4−シクロプロピルアミノ−6−(α,β−ジメチルプロピルアミノ)−s−トリアジン、2−メチルチオ−4−シクロプロピルアミノ−6−tert−ブチルアミノ−s−トリアジン、2−メチルチオ−4−エチルアミノ−6−(α,β−ジメチルプロピルアミノ)−s−トリアジン、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル、IPBC、カルベンダジム又はチアベンダゾールが挙げられる。有用な更なる添加剤は、以下に挙げられた材料、又はそれらの混合物から選択されてよい:
【0019】
1. 酸化防止剤:
1.1. アルキル化モノフェノール、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、
1.2. アルキルチオメチルフェノール、例えば、2,4−ジオクチルチオメチル−6−tert−ブチルフェノール、
1.3. ヒドロキノン及びアルキル化ヒドロキノン、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、
1.4. トコフェロール、例えば、α−トコフェロール、
1.5. ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、例えば、2,2’−チオビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、
1.6. アルキリデンビスフェノール、例えば、2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、
1.7. O−、N−及びS−ベンジル化合物、例えば、3,5,3’,5’−テトラ−tert−ブチル−4,4’−ジヒドロキシジベンジルエーテル、
1.8. ヒドロキシベンジル化マロネート、例えば、ジオクタデシル−2,2−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル)マロネート、
1.9. 芳香族ヒドロキシベンジル化合物、例えば、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、
1.10. トリアジン化合物、例えば、2,4−ビス(オクチルメルカプト)−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン、
1.11. ベンジルホスホネート、例えば、ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、
1.12. アシルアミノフェノール、例えば、4−ヒドロキシラウルアニリド、
1.13. β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸と一価又は多価アルコールとのエステル、
1.14. β−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロピオン酸と一価又は多価アルコールとのエステル、
1.15. β−(3,5−ジシクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸と一価又は多価アルコールとのエステル、
1.16. 3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル酢酸と一価又は多価アルコールとのエステル、
1.17. β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のアミド、例えば、N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヘキサメチレンジアミド、
1.18. アスコルビン酸(ビタミンC)、
1.19. アミン系酸化防止剤、例えば、N,N’−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン。
【0020】
2. 紫外線吸収剤及び光安定剤:
2.1. 2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、
2.2. 2−ヒドロキシベンゾフェノン、例えば、4−ヒドロキシ誘導体、
2.3. 置換及び非置換の安息香酸のエステル、例えば、4−tert−ブチル−フェニルサリチレート、
2.4. アクリレート、例えば、エチルα−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、
2.5. ニッケル化合物、例えば、2,2’−チオ−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]のニッケル錯体、
2.6. 立体障害アミン、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、
2.7. オキサミド、例えば、4,4’−ジオクチルオキシオキサニリド、
2.8. 2−(2−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、例えば、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル[又は−4−ドデシル/トリデシルオキシフェニル])−1,3,5−トリアジン。
【0021】
3. 金属不活性剤、例えば、N,N’−ジフェニルオキサミド。
【0022】
4. ホスフィット及びホスホニット、例えば、トリフェニルホスフィット。
【0023】
5. ヒドロキシルアミン、例えば、N,N−ジベンジルヒドロキシルアミン。
【0024】
6. ニトロン、例えば、N−ベンジル−α−フェニルニトロン。
【0025】
7. チオ相乗剤、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート。
【0026】
8. ペルオキシド捕捉剤、例えば、β−チオジプロピオン酸のエステル。
【0027】
10. 塩基性補助安定剤、例えば、メラミン。
【0028】
11. 成核剤、例えば、無機物質、例えば、滑石、金属酸化物。
【0029】
12. 充填剤及び補強剤、例えば、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム。
【0030】
13. 他の添加物、例えば、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、顔料、流動添加剤、触媒、流れ調整剤、蛍光増白剤、防炎加工剤、帯電防止剤及び膨張剤。
【0031】
14. ベンゾフラノン及びインドリノン、例えば、U.S.4,325,863号;U.S.4,338,244号;U.S.5,175,312号;U.S.5,216,052号;U.S.5,252,643号;DE−A−4316611号;DE−A−4316622号;DE−A−4316876号;EP−A−0589839号、EP−A−0591102号;EP−A−1291384号に開示されたもの。
【0032】
有用な安定剤及び添加剤についての更なる詳細は、本願明細書に援用されているWO04/106311号の第55〜65頁のリストも参照されたい。
【0033】
以下の例は、本発明を例示するものであり;特段記載されない限り、室温とは20〜25℃の周囲温度を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)による膜M3の結果を示す。
【図2】図2は走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)による膜M5の結果を示す。
【0035】
実施例及びその他に使用される省略形:
NMP N−メチルピロリドン
PES ポリエーテルスルホン
PVP ポリビニルピロリドン
SEM 走査電子顕微鏡
【0036】
使用される銀塩出発物質(全てアルドリッチから、独国)は、以下のものである:
AgOAc:酢酸銀(CHCOOAg)
AgLac:乳酸銀(CHCH(OH)COOAg)
AgCit:クエン酸銀(クエン酸三銀塩の水和物)
AgBen:安息香酸銀水和物(CCOOAg×HO)
AgTos:p−トルエンスルホン酸銀(CHSOAg)
【0037】
実施例1:ポリマーの存在下での銀コロイドの製造
使用器具は250mlのエルレンマイアーガラス管、磁気撹拌機、熱板である。
【0038】
4gのポリビニルピロリドン(Luvitec K40)を、表1に示す通り、60℃又は90℃で40mlのNMPに溶解する。一定の温度で、表1に示した銀塩を固体としてPVP−NMP溶液に添加し、反応混合物を2時間撹拌する。得られたコロイド状分散液を、以下の実施例2の銀添加剤として直接利用する。
【0039】
分析:粒径分布及び比表面積は、レーザー回折(Mastersizer(登録商標)2000[Malvern];更に以下を参照のこと:http://www.fritsch-laser.de/uploads/media/GIT_analysette_22.pdf;分散液:N−メチルピロリドン)を用いて検出する。こうして得られた混合物中のコロイド状の銀及び銀イオンの含有率を滴定によって測定する:0.1mのHCl(Aldrichから購入)を滴定液として使用し;Ag/AgCl−(KCl 1M)に関してイオン選択性電極を、当量点の指標のための基準として用いる。各試料を2つの部分に分割し、第1の部分を過剰の硝酸で消化して全ての銀をイオン形態に変換し;第2の部分を硝酸処理なしで直接滴定する。検出された銀濃度の差は、有機溶液中のコロイド状Ag(0)の量を表す。結果を以下の表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
例は、官能性カルボン酸、例えば、クエン酸、安息香酸、特に乳酸の銀塩が、ポリマー溶液の存在下でコロイド状分散液を確実に形成することを示す。
【0042】
実施例2:膜の製造
70mlのN−メチルピロリドン(NMP)を、撹拌機を有する3口フラスコ内に置く。ポリビニルピロリドン(Luvitec(登録商標)PVP40K;6.0g)を添加し、混合物を60℃に加熱し、均質で透明な溶液が得られるまで撹拌する。以下の表2に示した濃度に到達するために要求される銀出発物質の量は、6gのNMPまで追加されて且つ20分間にわたり超音波処理され;得られる懸濁液を次いでPVP溶液に添加し、均質になるまで撹拌する。ポリエーテルスルホンUltrason(登録商標)2020PSR(18g)を添加し、粘性で且つ均質な溶液が得られるまで撹拌を続ける。溶液を加熱せずに一晩脱気する(混合物の温度:20〜40℃)。70℃まで再加熱した後、膜をキャスティングナイフ(湿潤厚さ200μm)を用いて室温でガラス板にキャストし、25℃の水凝固浴槽に浸漬する前に30秒間乾燥させる。浸漬の10分後、得られた膜を熱い水(65〜75℃、30分)で濯ぐ。明るい黄色の膜は、不可欠なサブミクロンの銀粒子の導入を示す。
【0043】
一部の膜はNaOCl処理を避ける:膜を上記の通り製造するが;最初に膜を4000ppmのNaOCl(pH11.5、25℃)を含有する凝固浴槽に60〜90秒間浸漬し、次いで純粋な水浴槽に10分間浸漬する。こうして得られた明るい白色の膜は、塩化銀の形成を示す。
【0044】
膜を水(250ml)中に25℃で2週間貯蔵する。室温で乾燥した後、試料を真空(1〜10ミリバール)下にて50℃で15時間乾燥させる。
【0045】
膜は上に薄い表皮層(1〜2ミクロン)を有し且つ下に多孔質の層(厚さ:100〜150ミクロン)を有する連続フィルム(少なくとも10×15cmのサイズ)として得られ、更に以下を特徴とする:上部の空隙幅2.0μm;表皮層1.2μm;厚さ120μm;表皮層の下の孔サイズ1〜3μm(断面SEM分析によって測定)。
【0046】
分析:30〜40mgの膜試料を、密閉したガラス管内で1mlの65%HNO(65%)中で分解させ;透明な溶液が得られるまで270℃で6時間加熱する。銀分析の方法:ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析)。結果を以下の表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
ある試料を、走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いて更に調査し;図1及び2は膜M3及びM5の結果を示す。
【0049】
実施例3:膜の抗菌性
試験をASTM2149に従ってEscherichia coli及びStaphylococcus aureusに対して行う。この試験は、25mlの全容量中1ml当り約10のコロニー形成単位(cfu)の細菌濃度を有する細菌懸濁液中でポリマーフィルム(試験前に小片にカットされる)のアリコットを振盪することによって試験試料の抗菌活性を測定する。E. coliの調査を12.5mlのポリマーフィルムのアリコートの二重測定として行う。全接触時間は24時間である。懸濁液を接触及び培養の前後に系列希釈する。懸濁液中の生存可能な生物の数を決定し、パーセンテージの低下を、初期の計数又は適切な未処理の対照からの回収に基づいて計算する。結果を以下の表3に示す。
【0050】
試験菌株:
Escherichia coli (Ec) DSM682(ATCC10536)
Staphylococcus aureus (Sa) DSM799(ATCC6538)
【0051】
試験条件/試料パラメータ:
Kryo培地の齢 Ec:11d
Sa:15d
接種剤の希釈 Sa:1:40
Ec:1:100
試験媒体 リン酸緩衝液(KHPO
振動モード 相互の振動
曝露温度 室温
曝露時間 24時間
超湿潤剤(superwetting agent)(0.01% Dow Corning) あり
プレーティングするための希釈液 リン酸緩衝液(KHPO
試料の量 30cm/25ml
試料の調製 4片約7.5cm
【0052】
【表3】

【0053】
本発明の膜はE. coli及びS. aureusに対して良好な活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌製品の製造方法であって、
(i)ケト化合物、例えば、エステル、アミド、ラクトン、ラクタム、カーボネート、スルホキシド、又はそれらの混合物から選択される極性有機溶媒を含む溶媒に溶解可能な極性ポリマーを含有する、液体を提供する工程;
(ii)α−官能性カルボン酸銀、乳酸銀、クエン酸銀、酒石酸銀、安息香酸銀、アクリル酸銀、メタクリル酸銀、シュウ酸銀、トリフルオロ酢酸銀、又はそれらの混合物から選択される銀塩を、前記液体に添加する工程;
(iii)混合物を反応させて銀コロイドを形成する工程;及び
(iv)混合物から溶媒を分離して抗菌製品を形成する工程
を含む、抗菌製品の製造方法。
【請求項2】
抗菌製品がシート、フィルム、繊維、コーティング層、又は特に膜、例えば、限外ろ過、水分離又はガス分離のための半透膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
可溶性極性ポリマーが、孔形成ポリマー及び/又はマトリックス形成ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニルとのポリビニルピロリドンコポリマー、ポリエチレングリコール、スルホン化ポリ(エーテル)スルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニリデンフルオリド、ポリアミド、ポリイミド、酢酸セルロース、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、高分子炭水化物、可溶性タンパク質、例えば、ゼラチン、アルコキシアミン官能性ポリスルホン、ポリスルホン−グラフト−コポリマー、例えば、ポリスルホン−グラフト−ポリ−4−ビニルベンジルクロリドコポリマー、並びにそれらのコポリマー及び混合物から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が本質的に前記極性有機溶媒又はそれらの混合物、又は1種以上の前記溶媒と少量の水との混合物からなり、且つ極性有機溶媒が好ましくはN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、他の環状ラクタム、ラクトン、例えば、ガンマ−ブチロラクトン、カーボネートから選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
α−官能性カルボン酸銀である銀塩が、乳酸銀、クエン酸銀、酒石酸銀から選択され、最も好ましくは乳酸銀である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
銀塩を固体として、好ましくは粉末又は懸濁液の形で、又は溶液として工程(ii)において添加する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(iv)に存在するポリマーの全量を基準として、1〜100000ppm、好ましくは100〜10000ppm、最も好ましくは1000〜6000ppmの最終的な銀濃度を得るように添加される銀の量を選択する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(iii)を実施する前に、ポリマー、有機溶媒及び銀塩の他に、銀イオンを金属銀に還元できる化合物を添加せず、且つ銀イオンを金属銀に還元できるUV又はイオン化放射線などの高エネルギー照射を適用しない、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
抗菌製品を、工程(iv)においてキャスティング又はコーティングプロセスによって、特に凝固浴槽におけるキャスティングプロセスによって形成する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(ii)及び/又は工程(iii)の後に、及び工程(iv)の前に、工程(i)について記載された種類の1種以上の更なるポリマーを、ポリマー自体として又は工程(i)について記載された通りの溶媒の溶液又は分散液の形で添加する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ポリビニルピロリドン及び/又は酢酸ビニルとのポリビニルピロリドンコポリマーの溶液を工程(i)で提供した後、銀塩を添加し(工程ii)、その後、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリスルホン及び/又はポリエーテルスルホンを添加するか;又はスルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリスルホン及び/又はポリエーテルスルホンの溶液を工程(i)で提供した後、銀塩を添加し(工程ii)、その後、ポリビニルピロリドン及び/又は酢酸ビニルとのポリビニルピロリドンコポリマーを添加する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
銀粒子を、NaOClなどの好適な酸化ハロゲン化合物で処理して、低溶解度のハロゲン化銀の粒子に変換することによって更なる工程(v)を実施する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法によって得られる半透膜。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−521395(P2013−521395A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556485(P2012−556485)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053457
【国際公開番号】WO2011/110550
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(508095474)ポリマーズ シーアールシー リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Polymers CRC Ltd.
【住所又は居所原語表記】8 Redwood Drive, Notting Hill, Victoria 3168, Australia
【Fターム(参考)】