説明

抗菌透明膜形成用組成物と抗菌透明膜及びそれを備えたプラスチック基材並びに表示装置

【課題】繊細な色調や可視光線の透過性が要求される部材等に抗菌膜を形成することが可能な抗菌透明膜形成用組成物と抗菌透明膜及びそれを備えたプラスチック基材並びに表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌透明膜形成用組成物は、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子と、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の親水性微粒子と、平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下の水中油型エマルジョン樹脂とを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌透明膜形成用組成物と抗菌透明膜及びそれを備えたプラスチック基材並びに表示装置に関し、特に詳しくは、医療機器及び医療用品、台所用品、事務機器及び事務用品、電気機器等に好適に用いられ、優れた抗菌性を有する膜を形成することが可能な抗菌透明膜形成用組成物、この抗菌透明膜形成用組成物により形成された抗菌透明膜、及びこの抗菌透明膜を備えたプラスチック基材、並びにこの抗菌透明膜やプラスチック基材を備えた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生志向の高まりから抗菌性製品に対する需要が高まっており、医療機器及び医療用品、台所用品、事務機器及び事務用品、電気機器等に利用される汎用材料に抗菌性が付与されている。
この汎用材料に抗菌性を付与する手段としては、汎用材料中に抗菌剤を分散させることにより、複合材料とする方法が一般的である。
例えば、有機物に抗菌性を有する金属微粒子を含有させた有機−無機複合材料(非特許文献1、2)、積層構造中に抗菌剤を含む樹脂層を含むハードコートフィルム等が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−234523号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G. Carotenuto et al. "Preparation and characterization of nano-sized Ag/PVP composites for optical applications", THE EUROPEAN PHYSICAL JOURNAL vol.B 16 P.11-17 (2000年)
【非特許文献2】K. Ghosh et al. "Mechanical properties of Silver-powder-filled polypropylene composites", Journal of Applied Polymer Science vol.60 P.323-331 (1996年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の有機物に抗菌性を有する金属微粒子を含有させた有機−無機複合材料では、金属微粒子が凝集し易く、したがって、この有機−無機複合材料を用いて塗膜を形成した場合、塗膜の透明性が低く、場合によっては塗膜が着色するという問題点があった。
そのため、繊細な色調や可視光線の透過性が要求される部材等に抗菌膜を形成することが難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、繊細な色調や可視光線の透過性が要求される部材等に抗菌膜を形成することが可能な抗菌透明膜形成用組成物と抗菌透明膜及びそれを備えたプラスチック基材並びに表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子と、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の親水性微粒子と、平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下の水中油型エマルジョン樹脂とを含有した組成物とすれば、この組成物中においては抗菌性を有する金属微粒子同士の凝集が無く、さらには、この組成物を用いて膜を形成した際に、抗菌性を有する金属微粒子と親水性微粒子とが膜中にて、一次粒子が繋がることで鎖状構造体等の多様な構造体を形成することにより、抗菌性と透明性を併せ持った塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の抗菌透明膜形成用組成物は、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子と、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の親水性微粒子と、平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下の水中油型エマルジョン樹脂とを含有してなることを特徴とする。
【0009】
前記水中油型エマルジョン樹脂の質量(M)と前記金属微粒子及び前記親水性微粒子の合計質量(M)との比(M:M)は、2:1〜40:1の範囲内であることが好ましい。
前記親水性酸化物微粒子は、導電性を有する金属酸化物微粒子であることが好ましい。
【0010】
本発明の抗菌透明膜は、本発明の抗菌透明膜形成用組成物により形成されてなることを特徴とする。
【0011】
本発明のプラスチック基材は、本発明の抗菌透明膜を備えてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の表示装置は、少なくとも表示面に、本発明の抗菌透明膜及び本発明のプラスチック基材のいずれか一方または双方を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗菌透明膜形成用組成物によれば、部材に、透明性かつ抗菌性に優れた抗菌透明膜を付与することができる。したがって、繊細な色調や可視光線の透過性が要求される部材等に対しても、繊細な色調や可視光線の透過性を損なうことなく透明性及び抗菌性に優れた抗菌透明膜を付与することができる。
さらに、親水性微粒子を導電性を有する金属酸化物微粒子とすれば、上記の抗菌透明膜に導電性を付与することができる。したがって、部材に、導電性、透明性かつ抗菌性に優れた抗菌透明導電膜を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例3の塗膜を示す透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。
【図2】本発明の実施例3の塗膜を示す走査透過型電子顕微鏡像(STEM像)である。
【図3】比較例4の塗膜を示す透過型電子顕微鏡像である。
【図4】比較例6の塗膜を示す透過型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の抗菌透明膜形成用組成物と抗菌透明膜及びそれを備えたプラスチック基材並びに表示装置を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
[抗菌透明膜形成用組成物]
本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物は、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子と、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の親水性微粒子と、平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下の水中油型エマルジョン樹脂とを含有してなる組成物である。
【0017】
本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物中における、抗菌性を有する金属微粒子、親水性微粒子及び水中油型エマルジョン樹脂の合計の含有率は、抗菌透明膜形成用組成物中でこれらの粒子が凝集して沈降しない程度であればよく、特に限定されないが、塗膜にする際の組成物のハンドリング性を鑑みれば、10質量%以上かつ40質量%以下が好適である。
【0018】
抗菌透明膜形成用組成物中における、水中油型エマルジョン樹脂の質量(M)と、金属微粒子及び親水性微粒子の合計質量(M)との比(M:M)は、2:1〜40:1の範囲内であることが好ましい。
【0019】
「抗菌性を有する金属微粒子」
上記の抗菌性を有する金属微粒子としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、水銀(Hg)等の金属微粒子の他、これらの金属の化合物からなる微粒子、これらの混合物、これらの金属のうち1種以上を無機微粒子に担持させた複合微粒子も含む。
【0020】
これらの金属微粒子の中でも、強い抗菌性を発現する点で、銀単体、または銀を含む化合物、これらの混合物、銀を酸化ケイ素等の無機微粒子に担持させた複合微粒子が好ましい。
【0021】
この金属微粒子の平均一次粒子径は、3nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは3nm以上かつ20nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。
ここで、金属微粒子の平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下であれば、この抗菌透明膜形成用組成物を用いて塗膜を形成する際に、抗菌性を有する金属微粒子と親水性微粒子とが膜中にて、一次粒子が繋がることで鎖状構造体等の多様な構造体を形成することにより、金属微粒子の凝集を防止することができる。また、金属微粒子の表面積が大きくなるので、抗菌性が発現し易くなり、しかも透明性を維持することができる。
【0022】
この場合、金属微粒子の平均一次粒子径が3nm未満では、金属微粒子の表面活性が高くなりすぎてしまい、親水性微粒子の存在下においても凝集し易くなるので好ましくなく、また、平均一次粒子径が30nmを超えると、金属微粒子が光の散乱を引き起こし易くなり、透明性が低下するので好ましくない。
このように、金属微粒子の平均一次粒子径を上記の範囲とすることで、透明性と抗菌性を併せ持つ膜を形成することができる。
【0023】
この金属微粒子の抗菌透明膜形成用組成物の全体質量に対する含有率は、0.01質量%以上かつ1.0質量%以下が好ましい。
ここで、金属微粒子の含有率が0.01質量%未満では、抗菌性が十分に発現しないので好ましくなく、一方、含有率が1.0質量%を超えると、金属微粒子による着色が生じてしまい、外観における色調が変色するので好ましくない。
【0024】
「親水性微粒子」
この親水性微粒子としては、親水性を有する微粒子であればよく、特に限定されない。このような親水性微粒子としては、例えば、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の親水性金属微粒子、酸化ケイ素(SiO)、酸化ホウ素(B)等の親水性非金属酸化物微粒子、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化鉄(Fe、Fe)、酸化亜鉛(ZnO),五酸化アンチモン(Sb)等の親水性金属酸化物微粒子、アルミノケイ酸塩、アンチモン含有酸化スズ(ATO:Antimony Tin Oxide)、スズ含有酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)等の親水性金属複合酸化物が挙げられる。
これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
この親水性微粒子の平均一次粒子径は、3nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは3nm以上かつ20nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。このように、親水性微粒子の平均一次粒子径を上記範囲とすることにより、抗菌透明膜形成用組成物中にて、抗菌性を有する金属微粒子同士が繋がることで鎖状構造体等の多様な構造体を形成させて、これらの金属微粒子同士の凝集を防止することにより、良好な透明性が得られる。
【0026】
この親水性微粒子は、ある一定の固形分濃度範囲、特に10質量%以上かつ50質量%以下の濃度範囲においては、この親水性微粒子を分散媒中に分散させた分散液がゾル状態からゲル状態に変化する、いわゆるゾル−ゲル相転移を起こす性質を有することが好ましい。
また、この親水性微粒子は、水系分散媒中に単独で分散した場合、良好に分散することが好ましい。
【0027】
この親水性微粒子の抗菌透明膜形成用組成物の全体質量に対する含有率は、0.1質量%以上かつ20質量%以下が好ましい。
含有率が0.1質量%未満の場合には、微粒子同士の繋がりが悪くなり、十分な導電性が発現しない虞があるので好ましくない。一方、含有率が20質量%を超えると、微粒子による着色が生じる虞があり、この着色は得られた抗菌透明膜の外観を悪化させるので好ましくない。
【0028】
この親水性微粒子は、その他の性質として、表面電荷を帯びていることが好ましい。例えば、この親水性微粒子をpH6〜8の水中に分散させた場合、この親水性微粒子の表面電荷は−80mV以上かつ−20mV以下であることが好ましく、−60mV以上かつ−30mV以下であることがより好ましい。
これらの性質を有する親水性微粒子は、その微粒子自体が互いに繋がることで鎖状構造体等の多様な構造体を形成し易く、また、他の親水性微粒子となじみがよく、抗菌性を有する金属微粒子と繋がって鎖状構造体等の多様な構造体を形成し易いという優れた性質を有している。
【0029】
この抗菌性を有する金属微粒子及び親水性微粒子は、一次粒子同士が繋がることで、下記に示すような(1)鎖状構造体、(2)分岐鎖状構造体、(3)網目状構造体、あるいはこれらの構造体のうち2種以上を結合させた複合構造体を取ることができる。
ここで、「一次粒子同士が繋がる」とは、一次粒子同士が接触しているのみならず、一次粒子間に3nm以下の間隙がある場合も含む。その理由は、一次粒子間に3nm以下の間隙があっても、トンネル効果等により導電性が維持され、また抗菌性を有する金属微粒子の凝集を防ぐことができるからである。
【0030】
(1)鎖状構造体
親水性微粒子(一次粒子)が1つずつ一本の鎖のように繋がって並んだ一本鎖の構造体が、複数本配列した状態、複数本が集合して絡み合った状態、これら両方の状態が混ざった状態、のいずれかの状態となったものである。抗菌性を有する金属微粒子は、これら一本鎖の構造体に担持されるか、あるいは一本鎖の構造体中に存在している。
【0031】
(2)分岐鎖状構造体
親水性微粒子(一次粒子)が1つずつ一本の鎖のように繋がって並んだ一本鎖の構造体が、この一本鎖が途中で分岐して枝分かれした状態、分岐して枝分かれした分岐鎖同士が集合して絡み合った状態、これら両方の状態が混ざった状態、のいずれかの状態となったものである。抗菌性を有する金属微粒子は、この分岐鎖状構造体に担持されるか、あるいは分岐鎖状構造体中に存在している。
【0032】
(3)網目状構造体
親水性微粒子(一次粒子)が1つずつ一本の鎖のように繋がって並んだ一本鎖の構造体が、この一本鎖が幾重にも分岐して網目状となった状態、この一本鎖同士が互いに絡み合って全体が網目状となった状態、これら両方の状態が混ざった状態、のいずれかの状態となったものである。抗菌性を有する金属微粒子は、この網目状構造体に担持されるか、あるいは網目状構造体中に存在している。
【0033】
さらに、得られた抗菌透明膜に導電性を付与する場合には、バンドギャップが3.0eV以上の半導体金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。このような半導体金属酸化物微粒子としては、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)の群から選択される1種または2種以上を含む半導体金属酸化物粒子が挙げられる。
このような半導体金属酸化物粒子としては、例えば、アンチモン含有酸化スズ(ATO:Antimony Tin Oxide)微粒子、スズ含有酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)微粒子、酸化スズ(SnO)微粒子等が挙げられる。
これらの親水性微粒子の中でも、鎖状構造体等の多様な構造体が形成し易く、導電性も有する点で、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子、スズ含有酸化インジウム(ITO)微粒子が好ましい。
【0034】
「水中油型エマルジョン樹脂」
この水中油型エマルジョン樹脂は、極性溶媒中に分散粒径が10nm以上かつ100μm以下にて分散しているエマルジョン樹脂であればよく、特に限定されない。ここで、極性溶媒とは、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類(2価アルコール類)、水を80質量%以上含有する水性分散媒を意味する。
このような水中油型エマルジョン樹脂を用いることにより、本実施形態の抗菌性を有する金属微粒子と親水性微粒子が抗菌透明膜形成用組成物中に良好な状態で分散し、塗膜にする際に、一次粒子が繋がることで鎖状構造体等の多様な構造体が形成し易くなる。
【0035】
このような水中油型エマルジョン樹脂としては、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩ビ酢ビ共重合体樹脂、ポバールブチラール樹脂、アクリル樹脂等の水分散性または水溶性の樹脂が好適である。
これらの中でも、マレイン化ポリタジエン、マレイン化脂肪酸エステル、マレイン化油、アルキド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢ビコポリマー、エポキシ樹脂等の水分散性または水溶性の樹脂が好ましく、より好ましくは水性ポリエステル樹脂、ポリスチレンラテックス、紫外線硬化型アクリル樹脂エマルジョンである。水中油型エマルジョン樹脂は市販されているものもある。
【0036】
この水中油型エマルジョン樹脂の平均分散粒径は、10nm以上かつ100μm以下が好ましく、より好ましくは10nm以上かつ50μm以下、さらに好ましくは10nm以上かつ10μm以下である。
平均分散粒径を上記の範囲に制御することにより、エマルジョン樹脂粒子、親水性微粒子、抗菌性を有する金属微粒子が、抗菌透明膜形成用組成物中に安定して均一に分散させることができる。
【0037】
なお、上記の「平均分散粒径」とは、動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置を用いて測定された、累積体積粒度分布が50体積%(D50)における粒子径を意味する。
【0038】
この水中油型エマルジョン樹脂は、上記の抗菌透明膜形成用組成物中に9質量%以上かつ39質量%以下含有させることが好ましい。この水中油型エマルジョン樹脂の含有率を上記の範囲で制御することにより、水中油型エマルジョン樹脂粒子、親水性微粒子、抗菌性を有する金属微粒子が、抗菌透明膜形成用組成物中に安定して均一に分散させることができ、塗膜を形成する際のハンドリングが容易となる。
【0039】
このように、抗菌性を有する金属微粒子及び親水性微粒子の一次粒子径と、水中油型エマルジョン樹脂の平均分散粒径とを、それぞれ上記の範囲とすることにより、抗菌透明膜形成用組成物中にこれらを安定して分散させることができる理由は次のように考えられる。
水中油型エマルジョン樹脂粒子の平均分散粒径が、親水性微粒子および抗菌性を有する金属微粒子の平均一次粒子径よりもある一定以上大きい場合には、水中油型エマルジョン樹脂が親水性微粒子や抗菌性を有する金属微粒子間に存在することにより、水中油型エマルジョン樹脂が、親水性微粒子や抗菌性を有する金属微粒子が凝集することを防止すると考えられる。
【0040】
既に述べたように、水中油型エマルジョン樹脂の質量(M)と、金属微粒子及び親水性微粒子の合計質量(M)との比(M:M)は、2:1〜40:1の範囲内とされている。したがって、水中油型エマルジョン樹脂粒子が抗菌性を有する金属微粒子及び親水性微粒子に対して十分多く存在することとなるので、抗菌性を有する金属微粒子と親水性微粒子が凝集するのをより防止することができるので好ましい。
【0041】
本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物においては、透明性かつ抗菌性を低下させない範囲で、極性溶媒、消泡剤、レベリング剤、撥水剤、撥油剤、親油剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤等の添加剤を適宜添加しても良い。
【0042】
[抗菌透明膜形成用組成物の製造方法]
本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物の製造方法としては、上記の抗菌性を有する金属微粒子、親水性微粒子、水中油型エマルジョン樹脂を均一に混合させることができればよく、特に限定されず、公知の撹拌方法を用いることができる。
【0043】
「抗菌性を有する金属微粒子の製造方法」
抗菌性を有する金属微粒子の製造方法としては、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子が得られる方法であれば、種類を問わず用いることが可能である。例えば、アトマイザー法、粉砕法、還元法等、いずれも用いることができる。
【0044】
還元法としては、例えば、金属イオンを水系溶液中で還元する方法がある。
この方法では、抗菌性を有する金属を含む塩を水系溶媒中に溶解することにより、溶液中に金属イオンの水和物を生成し、次いで、この溶液中の金属イオンを物理的化学的手段により還元することで、溶液中に金属微粒子が分散した金属粒子分散液を得ることができる。この分散液においては、金属微粒子の分散状態を安定化させるために、クエン酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の分散剤を添加してもよい。
【0045】
上記の還元法の他に、例えば、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて溶液中の金属イオンを還元する方法、光線照射により溶液中の金属イオンを還元し析出させる方法等を用いることができる。また、還元する際に、目的とする金属イオンのほかに、複数種類のイオンを共存させておくことにより、単一またはコアシェル層などに分離した、異種元素から構成される金属微粒子を得ることができる。例えば、抗菌性を有する金属として銀を用いる場合には、添加する金属イオン種としては、金、パラジウム、白金、ニッケル、ルテニウム、鉄等の中から1種または2種以上を選択することにより、銀微粒子の表面にこれらの金属の被膜が形成されたコアシェル構造の金属微粒子を得ることができる。
【0046】
「親水性微粒子の製造方法」
本実施形態の親水性微粒子は、公知の方法で得ることができる。得られた親水性微粒子は水系分散液に安定的に分散させておくことが好ましい。
この親水性微粒子を水系分散液中にて安定的に分散させるためには、親水性微粒子同士が適当に反発することにより互いに凝集しないように、適当な表面電荷を帯びていることが好ましい。
【0047】
この親水性微粒子の表面電荷は、例えば、電気泳動・レーザードップラー型ゼーター電位計等を用いて測定することができる。
この親水性微粒子の表面電荷の具体的な数値としては、例えば、pHが5以上かつ7以下の水中に分散した場合、−80mV以上かつ−20mV以下の範囲が好ましく、より好ましくは−60mV以上かつ−30mV以下の範囲である。
このような表面電荷を有する親水性微粒子を水熱合成法にて作製する場合には、反応前駆体に含まれるアルカリ成分および塩成分の含有率を制御することが重要である。
【0048】
本実施形態の親水性微粒子として、例えば、酸化スズ微粒子を水熱合成法にて作製する場合、反応温度は150℃以上かつ400℃以下の範囲であることが好ましい。また、アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製する場合、反応温度は250℃以上かつ400℃以下の範囲であることが好ましい。この場合、反応温度が250℃未満であると、異種元素が均一に含有されず、結晶性の高い金属酸化物が生成し難く、また、反応温度を400℃を超えると、水の臨界点を超えることから反応系の制御が難しくなり、生産の安定性が悪くなるので好ましくない。
【0049】
「水中油型エマルジョン樹脂」
水中油型エマルジョン樹脂は特に限定されず、市販の水中油型エマルジョン樹脂で平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下のものを用いればよい。
【0050】
ここで、本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物が従来にない優れている点を有する理由は以下の通りであると考えられる。
抗菌性を有する金属微粒子及び親水性微粒子が水中油型エマルジョン樹脂中に分散した場合、エマルジョン樹脂の分散粒径が大きいので、抗菌性を有する金属微粒子と親水性微粒子は、エマルジョン樹脂粒子の周囲で凝集せずに分散している状態である。
【0051】
この抗菌膜形成用組成物を塗工して塗膜を形成し乾燥する過程では、抗菌性を有する金属微粒子と親水性微粒子は、乾燥により分散媒が蒸発するのに伴い、徐々にエマルジョン樹脂粒子に近接し、付着していく。
最終的に分散媒が蒸発して完全に除去されるに伴い、この乾燥過程でエマルジョン樹脂粒子も破裂し、エマルジョン樹脂粒子に付着していた抗菌性を有する金属微粒子及び親水性微粒子は、親水性同士でなじみがよいことから互いに近接し合い、さらには互いに繋がり、最終的には一次粒子が繋がることで鎖状構造体等の多様な構造体を形成すると考えられる。
【0052】
なお、抗菌透明膜形成用組成物中においては、抗菌性を有する金属微粒子の凝集は、エマルジョン樹脂の存在により物理的に防止される。そして、乾燥過程でエマルジョン樹脂が破裂するに伴い、抗菌性を有する金属微粒子が親水微粒子と鎖状構造体等の多様な構造体を形成することで、抗菌性を有する金属微粒子同士が凝集するのが防止される。これにより、本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物により形成される塗膜は、透明性と抗菌性を併せ持つことができると考えられる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物によれば、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子と、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の親水性微粒子と、平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下の水中油型エマルジョン樹脂とを含有したので、この組成物を塗工して塗膜を形成した際に、金属微粒子と親水性微粒子とが鎖状構造体等の多様な構造体を形成することにより、金属微粒子が凝集するのを防止することができる。したがって、抗菌性と透明性を併せ持つ塗膜を得ることができる。
【0054】
[抗菌透明膜]
本実施形態の抗菌透明膜は、本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物により形成された膜である。
本実施形態の抗菌透明膜は、基材上に上記の抗菌透明膜形成用組成物を塗工して塗膜を形成し、次いで、この塗膜を硬化させることにより形成することができる。
【0055】
この抗菌透明膜を作製する工程には、基材上に上記の抗菌透明膜形成用組成物を塗工して塗膜を形成する工程と、上記の塗膜を硬化させる工程とを含む。
塗工方法としては、基材上に塗膜が所定の厚みで形成できる方法であればよく、例えば、スピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法、スプレー法、はけ塗り法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0056】
これらの塗工方法では、乾燥後の膜厚が0.5μm以上かつ10μm以下、好ましくは1μm以上かつ6μm以下となるように、塗膜の膜厚を調整する。
膜厚を上記範囲とすることで、良好な透明性及び抗菌性を有する膜が得られる。
また、抗菌透明膜形成用組成物の親水性微粒子が導電性を有する金属酸化物微粒子の場合には、良好な透明性、抗菌性及び導電性を有する膜が得られる。
【0057】
塗膜の硬化方法としては、用いたエマルジョン樹脂の種類に応じて、適宜、光照射による光硬化、または加熱による熱硬化を行うことで、抗菌透明膜を得ることができる。
【0058】
本実施形態の抗菌透明膜によれば、本実施形態の抗菌透明膜形成用組成物により形成したので、良好な抗菌性及び透明性が得られる。また、親水性微粒子が導電性を有する金属酸化物微粒子の場合には、良好な導電性も得られる。
【0059】
[プラスチック基材]
本実施形態のプラスチック基材は、その1つの面または複数の面に本実施形態の抗菌透明膜を備えている。例えば、プラスチックシートやプラスチックフィルムの場合には、シートやフィルムの一方の面または両面に、本実施形態の抗菌透明膜を備えている。
【0060】
プラスチック基材としては、プラスチック製の基材であれば特に限定されず、例えば、アクリルシート、高弾性のアクリルゴムを含有したアクリルシート、アクリル−スチレン共重合シート、ポリスチレンシート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PETフィルム、TACフィルム等を挙げることができる。また、これらの基材は、上記の基材のうち1種を単独で用いてもよく、1種または2種以上を積層した積層構造としてもよい。
【0061】
プラスチック基材上に抗菌透明膜を形成する方法は、上記の抗菌透明膜の形成方法と全く同様であるから、説明を省略する。
本実施形態のプラスチック基材によれば、本実施形態の抗菌透明膜を備えたので、良好な抗菌性及び透明性を得ることができる。また、親水性微粒子が導電性を有する金属酸化物微粒子である場合には、良好な導電性を得ることができる。
【0062】
[表示装置]
本実施形態の表示装置は、少なくとも表示面に、本実施形態の抗菌透明膜及び本実施形態のプラスチック基材のいずれか一方または双方を備えている。
表示装置としては、少なくとも表示面に抗菌性及び透明性が必要とされる表示装置であればよく、特に限定されず、例えば、タッチパネルディスプレイ、液晶表示ディスプレイ(LCD)、発光ダイオードディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ(ELD)、蛍光ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の表示装置が挙げられる。
【0063】
表示装置の表示面に、本実施形態の抗菌透明膜及び本実施形態のプラスチック基材のいずれか一方または双方を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いればよい。
例えば、表示装置の表示面に本実施形態の抗菌透明膜を形成する場合、上述した抗菌透明膜の形成方法と同様に、表示面に、例えば、スピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法、スプレー法、ローラー法、はけ塗り法等により上記の抗菌膜形成用組成物を塗工して塗膜を形成し、次いで、この塗膜を硬化させることにより形成することができる。
また、表示装置の表示面に本実施形態のプラスチック基材を取り付ける場合、上記の抗菌透明膜の形成方法と全く同様にして抗菌透明膜を形成したプラスチック基材を表示面に装着または貼着することにより形成することができる。
【0064】
本実施形態の表示装置によれば、少なくとも表示面に、本実施形態の抗菌透明膜及び本実施形態のプラスチック基材のいずれか一方または双方を備えたので、良好な抗菌性及び透明性を有する表示面を得ることができる。また、親水性微粒子が導電性を有する金属酸化物微粒子である場合には、良好な導電性を有する表示面を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、ここでは、実施例及び比較例の抗菌透明膜形成用組成物として、抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を用いた。
【0066】
[実施例1]
「銀微粒子水分散液の作製」
硝酸銀0.1質量部とクエン酸0.1質量部を、蒸留水100質量部に溶解し、反応原液とした。
次いで、この反応原液を20℃に保ちつつ攪拌しながら、0.1%水素化ホウ素ナトリウム水溶液100質量部を徐々に加え、2時間反応させた後、エバポレータを用いて濃縮し、銀微粒子を3質量%含む銀微粒子水分散液(AD1)を得た。
得られた銀微粒子の平均一次粒子径は5nmであった。
【0067】
「アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製」
塩化スズ五水和物(SnCl・5HO)670質量部と塩化アンチモン(SbCl)46.2質量部を、6N塩酸3000質量部に投入し溶解した。
次いで、得られた溶液を攪拌しながら25質量%のアンモニア水を200質量部加え、沈殿物を生成させた。
次いで、得られた沈殿物を濾過洗浄して塩化アンモニウム(NHCl)を除去し、さらに水を加えて固形分の濃度が1質量%となるように調整し、反応原料とした。
次いで、この反応原料をオートクレーブに入れて350℃にて5時間加熱し、その後、エバポレータを用いて濃縮し、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子を30質量%含むATO微粒子分散液(ATOS1)を得た。
【0068】
「抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物の作製」
上記の銀微粒子水分散液(AD1)1.5質量部と、上記のATO微粒子分散液(ATOS1)1.5質量部と、側鎖としてカルボキシル基を有するアクリルポリマーからなる紫外線硬化型樹脂水溶液 W101(固形分20質量%、分散粒径200nm;日本合成化学社製)70質量部と、光重合開始剤 イルガキュア500(チバスペシャルティケミカルズ社製)1質量部とを、脱イオン水16質量部とエタノール10質量部とを混合して得られた溶液に投入して分散し、実施例1の抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1に準じて銀微粒子水分散液(AD1)及びATO微粒子分散液(ATOS1)を作製した。
次いで、上記の銀微粒子水分散液(AD1)1.5質量部と、上記のATO微粒子分散液(ATOS1)1.5質量部と、ポリエステル樹脂水溶液 バイロナールMD−1100(固形分30%、分散粒径100nm;東洋紡社製)50質量部とを、脱イオン水37質量部とエタノール10質量部とを混合して得られた溶液に投入して分散し、実施例2の抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を得た。
【0070】
[比較例1]
実施例1に準じて銀微粒子水分散液(AD1)を作製した。
次いで、上記の銀微粒子水分散液(AD1)1.5質量部と、側鎖としてカルボキシル基を有するアクリルポリマーからなる紫外線硬化型樹脂水溶液 W101(固形分20質量%、分散粒径200nm;日本合成化学社製)70質量部と、光重合開始剤 イルガキュア500(チバスペシャルティケミカルズ社製)1質量部とを、脱イオン水17.5質量部とエタノール10質量部とを混合して得られた溶液に投入して分散し、表面親水性金属酸化物微粒子を含有しない比較例1の膜形成用組成物を得た。
【0071】
[比較例2]
実施例1に準じて銀微粒子水分散液(AD1)を作製した。
次いで、上記の銀微粒子水分散液(AD1)1.5質量部と、ポリエステル樹脂水溶液 バイロナールMD−1100(固形分30%、分散粒径100nm;東洋紡社製)50質量部とを、脱イオン水38.5質量部とエタノール10質量部とを混合して得られた溶液に投入して分散し、表面親水性金属酸化物微粒子を含有しない比較例2の膜形成用組成物を得た。
【0072】
[比較例3]
実施例1に準じてATO微粒子分散液(ATOS1)を作製した。
次いで、上記のATO微粒子分散液(ATOS1)1.5質量部と、側鎖としてカルボキシル基を有するアクリルポリマーからなる紫外線硬化型樹脂水溶液 W101(固形分20質量%、分散粒径200nm;日本合成化学社製)70質量部と、光重合開始剤 イルガキュア500(チバスペシャルティケミカルズ社製)1質量部とを、脱イオン水17.5質量部とエタノール10質量部とを混合して得られた溶液に投入して分散し、抗菌性を有する金属微粒子を含有しない比較例3の膜形成用組成物を得た。
【0073】
[実施例3]
「抗菌透明膜の形成」
実施例1に準じて抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を得た。
次いで、アクリル樹脂基板として、厚み2mmの透明なアクリル樹脂板材 デラグラス(旭化成社製)を用い、このアクリル樹脂基板上に、上記の抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を、バーコート法により乾燥膜厚が3μmとなるように塗布して、塗膜を形成した。
次いで、この塗膜を、高圧水銀ランプ(120W/cm)を用いて紫外線を300mJ/cmの工ネルギーとなるように露光して硬化させ、アクリル樹脂基板上に塗膜を形成した。
【0074】
「塗膜の評価」
塗膜の構造を、透過型電子顕微鏡(TEM)H−800(日立製作所社製)を用いて観察した。この塗膜の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を図1に示す。図1によれば、微粒子が一本の鎖のように繋がって一本鎖を形成し、さらに、この一本鎖が幾重にも分岐して網目状となった網目状構造体を形成しており、この網目状構造体により塗膜が構成されていることが確認された。
【0075】
また、この塗膜の組成分析を,電界放出形電子顕微鏡(FE−SEM)JEM−2100F(日本電子株式会社製)に付属しているエネルギー分散型X線分光器(EDX)EX−2300を用いて行った。この塗膜の走査透過型電子顕微鏡像(STEM像)を図2に示す。
その結果、ATOの網目状構造体中に銀が組み込まれて、ATOと銀が網目状構造体を形成していることが確認された。
【0076】
塗膜の全光線透過率及びヘーズ値を、日本工業規格JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準じて、ヘーズメーター(Automatic HazeMeter Model TC−H3DPK;東京電色社製)を用いて空気を基準として測定した。
その結果、この塗膜の全光線透過率は89%、ヘーズ値は0.5%であった。一方、塗膜を形成していないアクリル樹脂基板そのものの全光線透過率は91%、ヘーズ値は0.2%であった。
【0077】
塗膜の表面抵抗を、表面抵抗計 ロレスタAP(三菱油化社製)を用いて測定した。その結果、表面抵抗値は1.0×1010Ω/cmであった。
また、塗膜の抗菌性試験を、日本工業規格JIS Z 2801「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じて行った。その結果、大腸菌・黄色ブドウ球菌に対して優れた抗菌性能を有することが確認された。
以上により、実施例3の塗膜は、良好な導電性と透明性と抗菌性を有することが確認された。
【0078】
[実施例4]
「抗菌透明膜の形成」
実施例2に準じて抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を得た。
次いで、アクリル樹脂基板として、厚み2mmの透明なアクリル樹脂板材 デラグラス(旭化成社製)を用い、このアクリル樹脂基板上に、上記の抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物を、バーコート法により乾燥膜厚が3μmとなるように塗布して、塗膜を形成した。
次いで、この塗膜を、80℃にて10分間加熱して硬化させ、アクリル樹脂基板上に塗膜を形成した。
【0079】
「塗膜の評価」
塗膜の評価を、実施例3に準じて行った。
得られた塗膜を、透過型電子顕微鏡(TEM)H−800(日立製作所社製)を用いて観察した結果、微粒子が一本の鎖のように繋がって一本鎖を形成し、さらに、この一本鎖が幾重にも分岐して網目状となった網目状構造体を形成しており、この網目状構造体により塗膜が構成されていることが確認された。
得られた塗膜の全光線透過率は89%、ヘーズ値は0.5%であった。また、表面抵抗値は1.0×1010Ω/cmであった。また、抗菌性試験により、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して優れた抗菌性能を有することが確認された。
以上により、実施例4の塗膜は、良好な導電性と透明性と抗菌性を有することが確認された。
【0080】
[比較例4]
実施例1に準じて得られた抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物の替わりに比較例1に準じて得られた膜形成用組成物を用いた以外は、実施例3に準じて比較例4の塗膜を得、この塗膜の評価を実施例3に準じて行った。
得られた塗膜を、透過型電子顕微鏡(TEM)H−800(日立製作所社製)を用いて観察した。この塗膜の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を図3に示す。図3によれば、塗膜中に銀微粒子の凝集体が存在していることが確認された。
【0081】
この塗膜の全光線透過率は75%、ヘーズ値は30%であった。また、表面抵抗値は1.0×1013Ω/cmであった。また、抗菌性試験により、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して優れた抗菌性能を有することが確認された。
以上により、比較例4の塗膜は、表面親水性金属酸化物微粒子を含有していないために、優れた抗菌性能を有するものの、導電性を有さないのは勿論のこと、透明性も劣っていることが確認された。
【0082】
[比較例5]
実施例2に準じて得られた抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物の替わりに比較例2に準じて得られた膜形成用組成物を用いた以外は、実施例4に準じて比較例5の塗膜を得、この塗膜の評価を実施例3に準じて行った。
得られた塗膜を、透過型電子顕微鏡(TEM)H−800(日立製作所社製)を用いて観察した結果、塗膜中に銀微粒子の凝集体が存在していることが確認された。
【0083】
この塗膜の全光線透過率は75%、ヘーズ値は30%であった。また、表面抵抗値は1.0×1013Ω/cmであった。また、抗菌性試験により、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して優れた抗菌性能を有することが確認された。
以上により、比較例5の塗膜は、表面親水性金属酸化物微粒子を含有していないために、優れた抗菌性能を有するものの、導電性を有さないのは勿論のこと、透明性も劣っていることが確認された。
【0084】
[比較例6]
実施例2に準じて得られた抗菌性を有する透明導電膜形成用組成物の替わりに比較例3に準じて得られた膜形成用組成物を用いた以外は、実施例4に準じて比較例6の塗膜を得、この塗膜の評価を実施例3に準じて行った。
得られた塗膜を、透過型電子顕微鏡(TEM)H−800(日立製作所社製)を用いて観察した。この塗膜の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を図4に示す。図4によれば、塗膜中に微粒子が一本の鎖のように繋がった鎖状構造体が形成されていることが確認された。
【0085】
この塗膜の全光線透過率は90%、ヘーズ値は0.5%であった。また、表面抵抗値は1.0×1010Ω/cmであった。
しかしながら、抗菌性試験により、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して抗菌性能を有さないことが確認された。
以上により、比較例6の塗膜は、抗菌性を有する金属微粒子を含有していないために、抗菌性能が劣っていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の抗菌性を有する金属微粒子と、平均一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の親水性微粒子と、平均分散粒径が10nm以上かつ100μm以下の水中油型エマルジョン樹脂とを含有してなることを特徴とする抗菌透明膜形成用組成物。
【請求項2】
前記水中油型エマルジョン樹脂の質量(M)と前記金属微粒子及び前記親水性微粒子の合計質量(M)との比(M:M)は、2:1〜40:1の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の抗菌透明膜形成用組成物。
【請求項3】
前記親水性酸化物微粒子は、導電性を有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の抗菌透明膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の抗菌透明膜形成用組成物により形成されてなることを特徴とする抗菌透明膜。
【請求項5】
請求項4記載の抗菌透明膜を備えてなることを特徴とするプラスチック基材。
【請求項6】
少なくとも表示面に、請求項4記載の抗菌透明膜及び請求項5記載のプラスチック基材のいずれか一方または双方を備えてなることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10892(P2013−10892A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145430(P2011−145430)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】