説明

抗菌防カビ性包装材

【課題】透明性を維持したままで、加熱後も抗菌性を充分に保持した包装体を提供する。
【解決手段】熱収縮性フィルム又はストレッチフィルムの容器と接触する面に積層した透明インキ中に、イソチアゾリン系化合物を上記透明インキの固形分に対して1.2重量%以上3.9重量%以下含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗菌防カビ性を有する包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や飲料、洗剤などに用いる容器を包装するフィルムとして、熱収縮性フィルムやストレッチフィルムが広く使われている。この熱収縮性フィルムは、単に包装するために用いるだけではなく、特許文献1に記載のイミダゾール系防カビ剤やトリアゾール系防カビ剤などの化合物を積層して、この熱収縮性フィルムの容器と接触する面に抗菌性を持たせることによって、包装する容器に対する抗菌性を発揮させることが行われている。
【0003】
包装用に用いるフィルムの他の具体例としては、例えば特許文献2に記載の、天然物由来の抗カビ剤を含むコーティング層を設けたフィルムや、特許文献3に記載の、アルカリ又はアルカリ土類金属のアルミノ珪酸塩内に抗菌性を有する銀、銅、亜鉛を取り込んだ抗菌性無機材料を抗菌剤として含んだ抗菌性シュリンクフィルムなどが挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−329505号公報
【特許文献2】特開2002−1878号公報
【特許文献3】特開平9−248875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の化合物を熱収縮性フィルムに用いた場合には、収縮させる際にかける熱によって防カビ剤の抗菌防カビ効果が低下してしまうことがあった。また、特許文献2及び特許文献3に記載のフィルムでは、用いる抗菌剤によってフィルムの透明性が低下してしまい、見栄えが悪くなることがあった。さらに、フィルムに用いる抗菌防カビ剤の種類と量によっては、菌やカビだけではなく人体にも影響する場合があった。
【0006】
そこでこの発明は、透明性を確保し、加熱後も抗菌性を充分に保持でき、かつ安全性の高い包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、包装対象物と接触する側の熱収縮性フィルム又はストレッチフィルムの面に透明インキを積層させた積層体からなる包装材であり、上記透明インキ中にイソチアゾリン系化合物を上記透明インキの固形分に対して1.2重量%以上3.9重量%以下含有させた抗菌防カビ性包装材により上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0008】
熱収縮性フィルム又はストレッチフィルムに、イソチアゾリン系化合物を透明インキ中に含有させたものを積層させることで、加熱後も抗菌防カビ効果を維持した包装材とすることができる。また、含有させるイソチアゾリン系化合物の透明インキの固形分に対する濃度は1.2〜3.9重量%で済むため、人体への影響を抑えることができる。さらに、透明インキの透明性を維持して積層するので、フィルムに印刷がされていてもその表示を妨げずに済む。
【0009】
また、この発明にかかる抗菌防カビ性包装材を用いて容器などの包装対象物を包装すると、この抗菌防カビ性包装材と包装対象物との間に付着するカビや雑菌などの繁殖を抑えることができる。これにより、水回りに置く製品の容器などの種々の包装対象物において、清潔性を保つ効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明は、包装対象物と接触する側の熱収縮性フィルム又はストレッチフィルムの面に透明インキを積層させた積層体からなる包装材であり、上記透明インキ中に所定量のイソチアゾリン系化合物を含有させた抗菌防カビ性包装材である。
【0011】
上記包装対象物とは、上記包装材で包装する対象物をいい、例えば、洗剤、シャンプーやリンスなどの水回りに置く容器、調味料や飲料などの容器といった、水分や湿気と隣接して、カビなどが生息しやすい環境に置く容器が挙げられる。またこれら以外にも、MDやCDなどのパッケージや、医薬品などの包装に用いてもよい。この発明にかかる抗菌防カビ性包装材で包装することにより、上記包装材と上記包装対象物との間でカビなどの雑菌が繁殖することを抑えることができる。
【0012】
上記の熱収縮性フィルム又はストレッチフィルム(以下、これらをまとめて「フィルム」という。)には、一般的に用いられる熱収縮性フィルムやストレッチフィルムを用いることができる。なお、上記熱収縮性フィルムとは、熱をかけることで収縮する性質を有するフィルムをいい、上記ストレッチフィルムとは、手や機械により伸ばし広げて使用可能なフィルムをいう。これらのフィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのポリスチレン系フィルム、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルム、環状オレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリ塩化ビニリデン系フィルムなどの1軸延伸フィルムや2軸延伸フィルムが挙げられる。また、これらのフィルムの構成成分を単独で用いたフィルムでもよいし、2種類以上の構成成分を混合して得られるフィルムでもよい。さらに、これらのフィルムの一種類又は複数種類を積層させたものでもよい。さらにまた、これらのフィルムに上記透明インキを積層する前に、予め一般的なインキを印刷などにより塗工したものでもよい。
【0013】
上記フィルムに積層させる上記透明インキとは、顔料を含まないメジウムインキで、ボトルとの摩擦による傷を防止するためなどに用いられるものである。例えば、水又は水とアルコールとを混合した水性溶媒に、アクリル樹脂、アクリル共重合体、ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、水性ポリアミド樹脂などを分散させたエマルジョンなどの水性のものや、トルエンなどの有機溶媒にウレタン樹脂や、アクリル−ウレタン共重合体などを溶解させたものが挙げられる。この発明において用いる上記透明インキのヘイズ値は、塗布量と塗布したフィルムにもよるが、厚さ1μmになるようにフィルムに塗布した場合には5.0以下であることが望ましい。この透明インキとして用いることができるインキとしては、例えば大日精化工業(株)製STR MXメジウム(A)などが挙げられる。
【0014】
上記透明インキには、公知の硬化剤や添加剤を含有させることが出来る。上記硬化剤としては、公知の硬化剤を任意に使用することができ、例えば、イソシアネート化合物を含有する硬化剤が挙げられる。また、上記添加剤としては、例えば、体質顔料、ワックス、合成樹脂粉末、可塑剤などを配合してもよい。
【0015】
上記透明インキに含有させる上記イソチアゾリン系化合物とは、イソチアゾリン環構造を有する化合物をいい、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記イソチアゾリン系化合物の、上記透明インキ中の含有量は、上記透明インキの固形分に対して、1.2重量%以上であることが必要であり、1.9重量%以上であるとより好ましい。1.2重量%未満であると、この発明にかかる効果を充分に発揮できないおそれがあるためである。一方で、3.9重量%以下であることが必要であり、3.1重量%以下であるとより好ましい。3.9重量%の濃度があれば充分な効果が発揮できる一方で、3.9重量%を超えると、人体への影響が無視できなくなるおそれがある他、薬剤を必要以上に添加するため無駄が生じることとなる。
【0017】
上記イソチアゾリン系化合物を上記透明インキに含有させる方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な方法で混合すればよい。この上記イソチアゾリン系化合物を含有した上記透明インキを上記フィルムの上記包装対象物と接触する面に積層することによってこの発明にかかる抗菌防カビ性包装材が得られる。
【0018】
上記透明インキを上記フィルムの上記包装対象物と接触する側の面に積層して上記積層体を得る方法としては、一般的な塗工方法を用いることができる。この塗工方法としては、具体的には、塗布、噴射、浸漬が挙げられる。上記の塗布とは刷毛やロール等で塗るなどの行為を示し、上記の噴射とはスプレーで吹き付けるなどの行為を示し、上記の浸漬とは溶液で濡らしたり溶液中に沈めたりといった行為を示す。また、これら以外の方法でも、この発明にかかる抗菌防カビ性包装材としての効果が得られる程度の量となる上記イソチアゾリン系化合物を含んだ透明インキを積層させることができるものであれば、特に制限されるものではない。
【0019】
上記のように上記イソチアゾリン系化合物を上記透明インキに含有させた上記積層体の透明インキ層の透明性は、特に印刷を部分的に施すラベルに用いると効果的であり、透明なシュリンクフィルムの透明感を損なうことなく防カビ性を発揮できる。
【0020】
この発明にかかる抗菌防カビ性包装材を、上記包装対象物に対して、上記透明インキ層を積層した側の面を接触させて包装することで、上記包装対象物との間にカビや雑菌などが繁殖することを抑えることができる。
【0021】
また、この発明にかかる抗菌防カビ性包装材は、上記包装対象物と接触する側の面だけではなく、反対側の面にも上記のイソチアゾリン系化合物を含有した透明インキを積層していてもよい。このような抗菌防カビ性包装材を用いて包装すると、上記包装対象物と接触する内側だけではなく、外側に対しても抗菌防カビ効果が得られる。
【0022】
なお、この発明にかかる抗菌防カビ性包装材を熱収縮させて容器に付着させる際の温度は、80〜95℃であることが好ましい。95℃を超える高温で熱収縮させると、上記イソチアゾリン系化合物であっても抗菌防カビ効果が減少するおそれがあるからである。また、80℃以下では熱収縮が充分に行えないおそれがある。
【実施例】
【0023】
以下、この発明について具体例を示して詳細に説明する。
【0024】
(試料の作成方法(実施例3を除く。))
まず、横一軸ポリスチレン製の熱収縮性フィルム(シーアイ化成(株)製:EPS−45TD、厚さ50μm)に、各種防カビ剤をメジウムインキ(大日精化工業(株)製:STR MXメジウム(A))に混合し、マイヤーバーで乾燥後の膜厚が1μmになるように塗工し、風乾させた。
【0025】
風乾後、塗工した面が内側になるように筒状ヒートシール機でシールし、95×95mm片のガラス板にかぶせ、85℃の熱風乾燥機内で1分以上処理し、収縮させた。それを手で取り外して試料とし、下記の試験に用いた。
【0026】
(実施例1)
防カビ剤としてイソチアゾリン系防カビ剤(2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン)を透明インキの固形分に対して1.2重量%混合したインキを用い試料を得た。この試料について後述の評価を行った。
【0027】
(実施例2)
防カビ剤の混合量を、透明インキの固形分に対して3.9重量%とした以外は実施例1と同様に試料を得て、評価を行った。
【0028】
(比較例1)
防カビ剤の混合量を、透明インキの固形分に対して1.0重量%とした以外は実施例1と同様に試料を得て、評価を行った。
【0029】
(比較例2)
防カビ剤としてイミダゾール系防カビ剤((±)−1−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(2−プロペニルオキシ)エチル]−1H−イミダゾール、一般名:ジクロフルアニド)を使用した以外は実施例1と同様に試料を得て、評価を行った。
【0030】
(比較例3)
防カビ剤の混合量を、透明インキに対して3.9重量%とした以外は比較例2と同様に試料を得て、評価を行った。
【0031】
(比較例4)
防カビ剤としてトリアゾール系防カビ剤(α−[2−(4−ジクロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール、一般名デブコナゾール)を使用した以外は実施例1と同様に試料を得て、評価を行った。
【0032】
(比較例5)
防カビ剤の混合量を、透明インキに対して3.9重量%とした以外は比較例4と同様に試料を得て、評価を行った。
【0033】
(実施例3)
試料の作成において、実施例1の熱収縮性フィルムに、まず白インキ(大日精化工業(株)製:シュリンクPS用フィルム白インキ)を、インキ膜厚が乾燥後に1μmになるように塗工し、風乾させた。乾燥させた後、その上に、イソチアゾリン系防カビ剤をメジウムインキの固形分に対して1.2重量%混合したインキを、このインキの膜厚が乾燥後に1μmの厚さになるように塗工し、風乾して、フィルムと透明インキの間に印刷層のある試料を得た。なお、熱収縮性フィルム、イソチアゾリン系防カビ剤、メジウムインキは、実施例1と同じものを用いた。
【0034】
(供試カビ)
各々の実施例において、下記のカビについて評価を行った。
・カビ1:Aspergillus niger (FERM S−1)
・カビ2:Penicillium citrinum (FERM S−5)
・カビ3:Cladosporium cladosporioides (FERM S−8)
【0035】
(カビ抵抗性評価)
試料の透明インキを積層した側に、上記の供試カビを0.5mLずつ摂取し、28±2℃、湿度95%の環境を保持しながら4週間培養した。その後、試料表面に生じた菌糸の発育状態を肉眼で観察し、以下の様に判定した。その結果を表1に示す。
【0036】
0:試料の摂取した部分に菌糸の発育が認められない。なお、各例の表中右側の数値は発育阻止巾のmm数を示す。
1:試料の摂取した部分に菌糸の発育が認められ、その部分の面積は全面積の1/3を越えない。
2:試料の摂取した部分に菌糸の発育が認められ、その部分の面積は全面積の1/3を越える。
【0037】
【表1】

【0038】
(ヘイズ測定法)
村上色材技術研究所製:HM−65Wを用いてJIS K 7105に従い、ヘイズ(曇値)を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
(滴下法による評価)
滅菌シャーレに素寒天培地(寒天20g、水1000ml)を20mL分注し、固化後、試料を貼り付けた。次に、各々の供試カビの胞子懸濁液(それぞれのカビについて、JIS Z 2911の4.5.2の手順に従い調製したものを使用)を含むカビ用寒天培地を試料上に1滴滴下し、28℃で7日間培養し、試料上のカビの発育の有無を観察した。その観察結果を以下のように分類した。その結果を表2に示す。
【0040】
(−−−)……滴下寒天の全面にカビの発育なし
(−−)………滴下寒天の上部のみカビの発育あり
(−)…………滴下寒天の全面にカビの発育があるが、試料上にはカビの発育なし
(+)…………試料上の接点1mm以内にカビの発育あり
(++)………試料上の接点から2mm程度までカビの発育あり
(+++)……試料上の接点2mm以上カビの発育あり
【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装対象物と接触する側の熱収縮性フィルム又はストレッチフィルムの面に透明インキを積層させた積層体からなる包装材であり、
上記透明インキ中にイソチアゾリン系化合物を上記透明インキの固形分に対して1.2重量%以上3.9重量%以下含有させた抗菌防カビ性包装材。
【請求項2】
上記包装対象物が容器である、請求項1に記載の抗菌防カビ性包装材。

【公開番号】特開2006−256017(P2006−256017A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74959(P2005−74959)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】