説明

抗血栓剤としてのアシル化八糖類の使用

本発明は、血栓症の治療および予防を対象とする薬物の調製のための、酸の形態または薬学的に許容される塩のいずれか1つの形態の式(I)の八糖類(式中、Acはアセチル基(I)である。)の使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、八糖類、より具体的にはアシル化八糖類の、抗血栓剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
凝固は、過剰な失血および微生物の侵入を防ぐ防御機構である。しかし、想定外の凝血の形成および転位は有害なことがあり、抗血栓薬は、凝血の形成および増大を防ぐ。
【0003】
ヘパリンおよび低分子量ヘパリン(LMWH)は、血栓塞栓性疾患の管理における現在の標準的療法である。これらの抗凝固活性は、凝固因子、主に活性化第X因子(FXa)およびトロンビン(第IIa因子)の阻害を通じて発揮される。この阻害作用は、セルピンファミリーのセリンプロテアーゼ阻害剤であるアンチトロンビン(AT)とヘパリン種との特定の相互作用によって媒介される。
【0004】
これらの薬剤は、動物源に由来し、未分画ヘパリン(UFH)は、ブタまたはウシ起源の肺または腸粘膜などの組織から単離される。チンザパリン、アルデパリン、ダルテパリン、エノキサパリン、ナドロパリンまたはレビパリンなどのLMWHは、ヘパリンの酵素的または化学的脱重合によって得られる。
【0005】
ヘパリンおよびLMWHは、分子の複合混合物であり、多数の硫酸化多糖類を含有し、それぞれが直鎖の単糖残基からなるポリマーである。したがって、ヘパリンおよびLMWH中に存在する様々な多糖類は、この長さならびにこの化学構造の点で異なる。硫酸化の異なる程度ならびに様々な1→4結合ウロン酸およびグルコサミン二糖単位の存在は、複雑な全体構造を生じさせる(J.Med.Chem.、2003、46、2551−2554)。
【0006】
別のクラスの抗血栓薬は、合成オリゴ糖に存在する。実際に、1980年代初頭に、いくつかのヘパリン鎖中の独特な五糖類ドメインが、アンチトロンビンIIIを結合および活性化するのに必要な最小配列であることが結論付けられた(Biochimie、2003、85、83−89)。フォンダパリヌクスナトリウムは、60を超えるステップの化学合成を介して得られる、この五糖類の合成類似体である。これは、整形および腹部の手術後の血栓症の予防、深部静脈血栓症および肺塞栓症の予防および治療、ならびに冠動脈疾患の治療のために商品化された、第Xa因子の選択的阻害剤である。
【0007】
構造ベースの設計は、結果として、選択的第Xa因子またはXaおよびIIaの二重阻害特性のいずれかを表す、イドラパリヌクスなどの作用期間のより長い類似体をもたらした。改善された薬力学的プロフィールの調査が、アンチトロンビン活性に関してはヘパリンより強力だが、この副作用がない、ヘパリン模倣体を提供することを目的とする、臨床候補SR123781(十六糖類化合物)などのより長いオリゴ糖の合成をもたらした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Med.Chem.、2003、46、2551−2554
【非特許文献2】Biochimie、2003、85、83−89
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、抗血栓化合物の同定のための新規な手法を考案した。LMWHから出発して、分析および分離法の進歩が、ATに対する親和性が測定されている、これらのオリゴ糖成分の一部の単離または配列決定を可能にした(M.Guerriniら、J.Biol.Chem.、2008、vol.283、No.39、26662−26675)。ATに対するこの親和性は、血漿中の所与のオリゴ糖の抗凝固活性とは無関係であることが知られているが、本出願人は、驚くべきことに、M.Guerriniら(前記と同書)によって開示されたオリゴ糖OCTA−4が、強力な抗凝固特性を有する化合物であり、したがって抗血栓剤として使用されるのに特に適合していることを発見した。
【0010】
したがって、本発明は、血栓症の治療および予防で使用する薬物の調製のための、式(I)のオリゴ糖:
【0011】
【化1】

(式中、Acはアセチル基(すなわち式−COCHの基)を表し、波線はピラノース環の平面の下または上のいずれかに位置する結合を示す。)
の使用に関する。
【0012】
式(I)のオリゴ糖は、八糖類である。本発明は、酸の形態または薬学的に許容される塩のいずれか1つの形態の、式(I)の八糖類の使用を包含する。酸の形態において、カルボン酸(−COO)および硫酸(−SO)官能基は、それぞれ、−COOHおよび−SOHの形態をとっている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
式(I)のオリゴ糖の、用語「薬学的に許容される塩」は、1つ以上の−COOおよび/または−SO官能基が、薬学的に許容される陽イオンにイオン結合しているオリゴ糖を意味することが理解される。本発明において使用する好ましい塩は、陽イオンが、アルカリ金属の陽イオンから選ばれる塩であり、さらにより好ましくは、陽イオンがナトリウム(Na)である塩である。
【0014】
本発明によれば、式(I)の化合物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、ATアフィニティークロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィー(HPLC)から選択される直交(混合)分離法を用いることによって、LMWH生成物から得ることができる。
【0015】
以下のプロトコールは、J.Biol.Chem.、2008、vol.283、No.39、26662−26675に記載されているように、ナトリウム塩の形態で、本発明による化合物(I)の調製を詳細に記載している。
【実施例】
【0016】
式(I)の八糖類は、エノキサパリンの八糖類ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)画分から出発する、半分取スケール上でのATアフィニティークロマトグラフィーおよびセチルトリメチルアンモニウム−強陰イオン交換(CTA−SAX)クロマトグラフィーを組み合わせることによって得られる。エノキサパリンのGPCおよび選択された画分の脱塩条件は、Mourier,P.A.J.およびViskov,C.(Analytical Biochem.、2004、332、299−313)によって既に記載されている通りに実施した。八糖類画分を、NaClの段階的な勾配を用いてATセファロースカラム(40×5cm)上でクロマトグラフにかけた。カラムを、Hookら(FEBS Letters、1976、66(1)、90−3)に従って、ヒトAT(1g)をCNBr−活性化セファロース4B(Sigma)にカップリングすることによって調製した。低親和性部分を、6ml/分で、1mMのトリス−HClを用いてpH7.4で緩衝した0.25MのNaCl溶液でカラムから溶出した。高親和性八糖類画分を、NaClのステップ勾配(0.25から3Mの間の範囲のNaCl、1mMのトリス−HCl、pH7.4)で溶出した。NaCl勾配を、伝導率測定によってモニタリングし、流出液中の八糖類を、232nmのUVによって検出した。145mS/cm超で溶出された八糖類を、式(I)の八糖類の精製に使用した。最終精製を、CTA−SAXクロマトグラフィーを使用して達成した。CTA−SAX半分取カラム(25×5cmまたは25×2.2cm)を、Analytical Biochem.(前記と同書)に記載された通りに準備し、Hypersil BDS C18(粒径5μm)を充填した。オリゴ糖分離のための移動相は、0から2.5Mの間で異なる濃度のメタンスルホン酸ナトリウム水溶液(Interchim)であった。pHを、希釈したメタンスルホン酸の添加によって2.5に調整した。分離を、40℃で達成した。移動相中の塩濃度を、60分かけて0から2.5Mに直線的に増加させた。流速は、25×3−cmカラムに対して40ml/分であり、234nmのUV検出を使用した。収集した画分を、Mega Bondelut C18カートリッジ(Varian)上での予備処理後、Sephadex G−10上で中和して、脱塩した。
【0017】
本発明において使用されるオリゴ糖は、薬理学的な研究を経て、この抗血栓特性および治療上活性な物質としてのこの価値を示した。
【0018】
血漿中の抗FXa活性:
AT媒介性FXa阻害を促進するためのオリゴ糖(I)のナトリウム塩の能力を、ほぼ生理的な条件において分析した。抗FXa活性の測定を、製造者の推奨に従って、STA(登録商標)−Rアナライザー(Diagnostica Stago Inc.)上で操作される競合発色アッセイSTA(登録商標)−Rotachrom(登録商標)ヘパリン(Diagnostica Stago Inc.)を用いて実施した。ウシのFXa(Diagnostica Stago Inc.)を使用した。GlaxoSmithKlineによって発売された商業的供給源から得られるフォンダパリヌクスが標準物質であった。これを、正常なプールヒト血漿(Hyphen)中で、濃度を増加させて(0.0218−0.0460−0.0872−0.1740−0.3490−0.4650μmol/L)スパイクした。用量反応直線が示された。本発明のオリゴ糖およびフォンダパリヌクスを、0.0218から0.4650μMの範囲の6つの濃度でテストした。血漿環境中でのATの濃度は、2.25μMであった。精製したオリゴ糖の測定した絶対的な抗Xa活性を、欧州薬局方6.0(01/2008:0828)に従って、IU/mlで表した。相対的な抗FXa活性を、絶対的な活性とフォンダパリヌクスの活性との比から計算した。
【0019】
このテストにおいて、本発明において使用されるオリゴ糖は、1.63IU/mlの絶対的な抗FXa活性を表す。フォンダパリヌクスと比較したこの相対的な抗Xa活性は、2.07倍である。
【0020】
したがって、本発明による式(I)のオリゴ糖は、高い抗血栓特性を表し、抗血栓薬の調製に有用である。結果として得られる薬物は、とりわけ静脈血栓症(例えば、術後の段階の手術患者、がん患者、または運動性が制限された内科患者における)および急性動脈血栓イベントを含めた血栓症の治療および予防、とりわけ心筋梗塞の場合に、有用である。
【0021】
式(I)のオリゴ糖は、単独で、または合成化合物(適切な単糖またはオリゴ糖の基本単位から出発する化学的で段階的な合成によって得られる)であろうと、ヘパリンまたはLMWH源から単離される化合物であろうと、抗血栓オリゴ糖から選択される少なくとも1種の他の有効成分と組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明はまた、この態様の別のものによれば、本発明による式(I)のオリゴ糖、またはこれらの薬学的に許容される塩との塩の有効量の患者への投与を含む、上記の病状の治療および予防のための方法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血栓症の治療および予防で使用する薬物の調製のための、酸の形態または薬学的に許容される塩のいずれか1つの形態である式(I)のオリゴ糖:
【化1】

(式中、Acはアセチル基を表し、波線はピラノース環の平面の下または上のいずれかに位置する結合を示す。)
の使用。
【請求項2】
オリゴ糖がナトリウム塩の形態である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
静脈血栓症および急性血栓イベントの治療および予防で使用する薬物の調製のための、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
式(I)のオリゴ糖が抗血栓オリゴ糖から選択される少なくとも別の有効成分と組み合わせて使用される、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1または請求項2で定義される式(I)のオリゴ糖、または薬学的に許容される塩とのこれらの付加塩の有効量の患者への投与を含む、血栓症の治療および予防のための方法。

【公表番号】特表2012−526099(P2012−526099A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509138(P2012−509138)
【出願日】平成22年5月4日(2010.5.4)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051933
【国際公開番号】WO2010/128448
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】