説明

抗血栓剤

【課題】抗血栓作用を有する天然抽出物及びこれらを含有する血栓症や血栓による血行悪化を予防・改善できる医薬品、医薬部外品又は食品を提供することを目的とする。
【解決手段】マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリの抽出物が優れた抗血栓作用を示した。また、霊芝抽出物を併用することにより、相乗的な効果が得られた。これらの抽出物を含有する食品、医薬部外品、医薬品は、抗血栓作用を有し、血栓症の改善ばかりでなく、血栓が関与する動脈硬化、皮膚のくすみ、痴呆、肩こり、頭痛などの症状の予防や改善に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓作用を有する新規な成分に関し、その成分としてはマリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリの抽出物が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
血小板は血栓形成において極めて重要な因子である。すなわち、血栓の形成は、血管内の損傷などに起因して、アラキドン酸などにより血小板の凝集能が高まり血栓形成に至るといわれている。血栓が大量に形成されると、その形成部位から先の血流が著しく悪くなり、組織に重大な障害を引き起こし、血栓症が起こる。
例えば、心臓や脳の血管に血栓が形成されると、心筋梗塞、脳梗塞を引き起こし、生命に危険をもたらす。また、重度の血栓ではなくても、正常状態よりも血栓の量が増加すると、動脈硬化、痴呆、血圧異常、めまい、肩こり、頭痛、腰痛、関節痛、目のかすみ、不眠、動悸、息切れ、不整脈などの症状を引き起こす。また、その他に血流の悪化によって起こりうる、皮膚のくすみ、くまなどの症状も引き起こす。
【0003】
従って、血栓の形成を防止し、血栓に起因する種々の疾患を治療するには血小板凝集を抑制することが有効である。
【0004】
従来の血栓症治療剤としては、アセチルサリチル酸、パナルジンなどが使用されている。最近では、天然物に薬効を望む傾向があり、様々な研究がなされているがさらに安全で効果の高いものが望まれている。本発明に用いるマリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリの抽出物はこれまで抗血栓作用の報告はなく、また、霊芝抽出物との相乗効果の報告もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血栓症や血栓による血行悪化を予防・改善できる抗血栓剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な事情により、本発明者らは鋭意研究した結果、種々の植物抽出物の中から、マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリの抽出物に優れた抗血栓作用を見出し、さらには霊芝抽出物と併用することにより相乗的に効果が得られることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明で使用するマリーゴールド(Tagetes Paturaなど)は、キク科に属し、メキシコが原産地である。花の抽出物が好ましく、さらには、カロテノイド色素であるルテインがマリーゴールド抽出物中20%以上含有するものが好ましい。ルテインはほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれ、強力な抗酸化作用を持つことが知られている。
ルテインは主に水晶体や黄斑部に存在し、黄斑変性症予防改善効果が多くの臨床試験により確認されている。
【0008】
本発明で使用するパッションフラワー(Passiflora incarnata L.)とは、トケイソウ科に属し、ブラジル南部が原産で、熱帯地方で栽培されている。全草がハーブティとして用いられ、成分としては、フラボノイド、アルカロイドなどが含まれている。
【0009】
本発明で使用するアイブライト(Euphrasia officinalis)とは、ゴマノハグサ科に属し、ヨーロッパ、日本で栽培されている。全草がハーブティーとして用いられている。本発明においては、一般に流通していることから入手が容易である葉を使用することが好ましい。
【0010】
本発明で使用するニガウリ(Momorodica charatia L.)とは、熱帯アジア原産の夏野菜で、特に沖縄県において広く栽培され、古くから夏バテ予防のために食されている。果実の果汁が好ましい。最近ではニガウリに血糖降下作用があることも明らかになっており(特許文献1)、更にビタミンCを豊富に含むことからも健康食材として注目を集め、その消費は増加しつつある。
【0011】
【特許文献1】特願2006−303856号公報
【0012】
本発明で使用する霊芝には赤霊芝及び黒霊芝などが含まれ、生薬「霊芝」に用いられる担子菌であり、マンネンタケ科(Ganodermataceae)、マンネンタケ属(Ganoderma)に属し、学名は、赤霊芝(赤芝、学名:Ganoderma lucidum)、黒霊芝(黒芝、学名:G.japonicum、G.sinense、G.atrum)といわれている。また、マンネンタケ属のキノコについては、中国の薬学古書である「本草綱目」や「神農本草経」には、黒霊芝(黒芝)のほか、赤霊芝(赤芝)、紫霊芝(紫芝)、青霊芝(青芝)、黄霊芝(黄芝)及び白霊芝(白芝)が存在すると記載されている。赤霊芝や黒霊芝は広く中国や日本市場などで流通しているものを用いることができるし、自生品や栽培品を用いても良い。
【0013】
赤霊芝はマンネンタケの代表として一般的であり、抗血栓効果が知られている(特許文献2)。また、黒霊芝についても抗血栓効果に関する報告がある(特許文献3)。
【0014】
【特許文献2】特開昭57−112331号公報
【特許文献3】特願2003−400191号公報
【0015】
マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリの植物体の抽出方法としては、例えば、植物体を細かく切断し、溶媒を加えて抽出する方法が挙げられる。抽出は、室温で行ってもよいし、加熱してもよい。抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈及び濾過処理、活性炭などによる脱色、脱臭処理などをして用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を行い、乾燥物として用いても良い。霊芝についても同様に抽出することができる。
【0016】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなど)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、石油エーテルなど)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテルなど)が挙げられる。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。
【0017】
本発明の抗血栓剤には、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内で、希釈剤を用いることもできる。希釈剤としては固体、液体、半固体でもよく、たとえば次のものが挙げられる。すなわち、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、香料、保存料、溶解補助剤、溶剤などである。具体的には、乳糖、ショ糖、ソルビット、マンニット、澱粉、沈降性炭酸カルシウム、重質酸化マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セルロース又はその誘導体、アミロペクチン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、カカオ脂、ラウリン脂、ワセリン、パラフィン、高級アルコールなどである。
【0018】
本発明の抗血栓剤は、食品、医薬部外品又は医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、経口用として散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤などである。非経口用として注射液にすることができる。また、座薬とすることもできる。
【0019】
本発明に用いる抗血栓剤の摂取量は、投与形態、使用目的、年齢、体重などによって異なるが、各抽出物の固形分の合計として、0.1〜5,000mg/日、好ましくは1〜500mg/日の範囲で1日1回から数回経口投与できる。もちろん前記したように、投与方法や投与量は種々の条件で変動するので、上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要がある場合もある。また、製剤化における薬効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗血栓剤は、マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリの抽出物を有効成分とし、優れた抗血栓作用を有するものであり、血栓症の改善ばかりでなく、血栓が関与する動脈硬化、皮膚のくすみ、痴呆、肩こり、頭痛などの症状の予防や改善に有効である。また、霊芝の抽出物を併用することによりさらに優れた効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を詳細に説明するため、本発明の実施例として製造例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
製造例1 マリーゴールド抽出物
マリーゴールドの花100gにエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してマリーゴールド抽出物を1.8g得た。(ルテイン含有率:20%)
【0023】
製造例2 パッションフラワー抽出物
パッションフラワーの地上部の乾燥物100gに精製水1kg、及びエタノール1kgを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してパッションフラワー抽出物を2.1g得た。
【0024】
製造例3 アイブライト抽出物
アイブライトの乾燥物(地上部)100gに精製水1.6kg及びエタノール0.4kgを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してアイブライト抽出物を1.4g得た。
【0025】
製造例4 ニガウリ抽出物
生ニガウリ果実2kgをフレンチプレスで圧搾抽出し、搾汁1.4L(搾汁率70%)を得た。その搾汁350mLを凍結乾燥することにより、ニガウリ抽出物9.9gを得た。
【0026】
製造例5 赤霊芝抽出物
赤霊芝子実体の乾燥物100gに精製水2Lを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して赤霊芝抽出物を6.0g得た。
【0027】
製造例6 黒霊芝抽出物
黒霊芝子実体の乾燥物1.5kgにエタノール20Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、黒霊芝抽出物を9.0g得た。
【実施例2】
【0028】
血小板凝集抑制作用
文献(嘉久志寿人,四家勉,早崎洋子,松原尚志,内田清久,本間義春,川角浩,竹内良夫,日本薬理学雑誌,Vol.95,335−346,1990,Born,G.V.R.,Nature,Vol.194,927−929,1962)を参考に行った。
エーテル麻酔下でラットの心臓より3.8%クエン酸ナトリウム1容に対し血液9容の割合で採血し、室温で1,000rpm、15分遠心後上清を採取し多血小板血漿(Platelet−Rich Plasma:PRP)とした。残りの血液は室温で3,000rpm、15分遠心し乏血小板血漿(Platelet−Poor Plasma:PPP)を得、PRPとPPPを等量混合したもの(A液とする)を試験に用いた。
血小板凝集反応はBornの方法に準じて、血小板凝集計(NBS HEMA TRACER 601、二光バイオサイエンス)を用いて測定した。すなわちA液180マイクロLに試験試料溶液20マイクロLを加え、37℃で1分間撹拌(1,000rpm)予備加熱後血小板凝集惹起物質(ADP)22マイクロLを添加し、血小板の凝集により生じた透光度の変化を経時的に記録した。血小板の凝集率はPRP及びPPPの透光度をそれぞれ0%及び100%とし、凝集剤添加後の最大透光度を最大凝集率とした。血小板凝集抑制率は以下の式で算出した。
血小板凝集抑制率(%)={1−(凝集剤添加後の最大透光度)/(凝集剤添加前の最大透光度)}×100
【0029】
マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライトやニガウリの抽出物と赤霊芝又は黒霊芝の抽出物の併用による血小板凝集抑制作用は、以下の式で算出した。
併用効果(倍)=(マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト、ニガウリの抽出物のうち1種と赤霊芝又は黒霊芝の抽出物の併用による血小板凝集抑制率)/{(マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト、ニガウリの抽出物のうち1種の抽出物による血小板凝集抑制率)+(赤霊芝又は黒霊芝の抽出物による血小板凝集抑制率)}
【0030】
これらの実験結果を表1及び表2に示した。その結果、本発明の抗血栓剤であるマリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト、ニガウリの抽出物は、いずれも濃度依存的な血小板凝集抑制作用を示した。さらに、赤霊芝又は黒霊芝の抽出物と併用することにより、単独での効果と比較して、血小板凝集抑制作用の相乗効果を示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【実施例3】
【0033】
本発明の抗血栓剤は、処方例として下記の製剤化を行うことができる。これらの製剤は血栓症の改善ばかりでなく、血栓が関与する動脈硬化、皮膚のくすみ、痴呆、肩こり、頭痛などの症状の予防や改善に有効である。
【0034】
処方例1 散剤
処方 配合量(部)
1.マリーゴールド抽出物(製造例1) 10
2.パッションフラワー抽出物(製造例2) 10
3.乾燥コーンスターチ 20
4.微結晶セルロース 60
[製法]成分1〜4を混合し、散剤とする。
【0035】
処方例2 錠剤
処方 配合量(部)
1.アイブライト抽出物(製造例3) 4
2.ニガウリ果汁末(製造例4) 8
3.乾燥コーンスターチ 25
4.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20
5.微結晶セルロース 33
6.ポリビニルピロリドン 7
7.タルク 3
[製法]成分1〜5を混合し、次いで成分6の水溶液を結合剤として加えて顆粒成形する。成形した顆粒に成分7を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0036】
処方例4 飲料
処方 配合量(部)
1.マリーゴールド抽出物(製造例1) 0.1
2.黒霊芝抽出物(製造例6) 0.2
3.エタノール 2
4.ステビア 0.05
5.リンゴ酸 5
6.香料 0.1
7.精製水 92.55
[製法]成分1、2及び3を混合する。次いで、成分4、5、6及び7を加えて混合する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト、ニガウリの抽出物は、高い抗血栓作用を有するため、食品、医薬部外品又は医薬品などに配合することにより、血栓症の予防や改善、血栓が関与する動脈硬化、皮膚のくすみ、痴呆、血圧異常、めまい、肩こり、頭痛、腰痛、関節痛の予防や改善などに有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マリーゴールド、パッションフラワー、アイブライト及びニガウリから選ばれた1種又は2種以上の抽出物を含有することを特徴とする抗血栓剤。
【請求項2】
霊芝の抽出物を含有することを特徴とする請求項1記載の抗血栓剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項記載の抗血栓剤を有効成分として含有する血栓症の予防や改善を目的とする医薬品、医薬部外品又は食品。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれか1項記載の抗血栓剤を有効成分として含有し、血栓が関与する動脈硬化、皮膚のくすみ、痴呆、血圧異常、めまい、肩こり、頭痛、腰痛、関節痛の予防や改善を目的とする医薬品、医薬部外品又は食品。

【公開番号】特開2012−131754(P2012−131754A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286988(P2010−286988)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】