説明

抗血栓性を有する白金含有セラミックス組成物及びそれを含む物品

【課題】生体に対して血行促進作用、温熱作用、保温作用を有し、冷え性や関節痛に効果を有する白金を含むセラミックス組成物のこれら以外の用途である抗血栓性組成物を提供する。
【解決手段】(i)アルミナと、(ii)シリカ及び酸化チタンから選択される1種以上と、(iii)白金又は白金化合物、パラジウム又はパラジウム化合物、イリジウム又はイリジウム化合物及びロジウム又はロジウム化合物から選択される元素又はその化合物の1種以上とを含む抗血栓性組成物。及びこれを含む衣服、寝具等の物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓性を有する白金含有セラミックス組成物に関する。より詳細には、アルミナと、シリカ又は酸化チタンから選択される1種以上と、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム又はそれらの化合物から選択される1種以上とを含有する抗血栓性組成物、及びこの組成物を混入した抗血栓性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白金を含むセラミックスが遠赤外線放射材として注目されている。遠赤外線は、放射・輻射波長が数〜約400μm領域の電磁波であって、加熱効果、乾燥効果に優れる。このため、遠赤外線放射体としてのセラミックスは、表面を過剰に加熱することなく内部まで均一に加熱できることから高品質の食品加工分野にも活用されてきた。また、遠赤外線放射材を繊維に練り込み又は表面に塗布した、遠赤外線効果を有する繊維は、寝具、洋服、下着等に幅広く用いられている。
【0003】
例えば、特開昭62−184088号公報には、アルミナとシリカとプラチナとを含む遠赤外線放射用の粉末が食品類の熟成、日持ちや食味の向上に効果を有することが記載されている。
【0004】
特開平3−190990号公報には、アルミナとチタンとプラチナととを含む赤外線微弱エネルギー放射用の粉末が食品類の熟成、日持ちや食味の向上に効果を有し、この粉末を含む合成繊維が血行を促進させ、温熱効果を有し、冷え性や関節痛の症状に効果があることが記載されている。
また、特開平3−241025号公報及び特開平4−73226号公報には、アルミナとシリカとプラチナとからなる遠赤外線放射用粉末をナイロン又はポリエステルに混合して得た糸から製造した織物が生体に対して極めて良好な保温性を奏することが記載されている。
【0005】
上記のように、白金を含むセラミックス組成物が生体に対して血行促進作用、温熱作用、保温作用を有し、冷え性や関節痛に効果を有することが知られているが、かかる組成物をこれ以外の用途に応用することが求められている。
したがって、本発明は、白金を含むセラミックス組成物の新規な用途を開拓することを目的とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、白金を含むセラミックス組成物を鋭意検討した結果、この組成物は、これを生体の皮膚付近に存在させることにより、血栓形成の防止効果、すなわち抗血栓性を発揮することを知見し、本発明に想到した。
本発明は、(i)アルミナと、(ii)シリカ及び酸化チタンから選択される1種以上と、(iii)白金又は白金化合物、パラジウム又はパラジウム化合物、イリジウム又はイリジウム化合物及びロジウム又はロジウム化合物から選択される元素又はその化合物の1種以上とを含む抗血栓性組成物である。
本発明は、更に(iv)銀もしくは銀化合物又は金もしくは金化合物から選択される1種以上を含む、上記の抗血栓性組成物に関する。
また、本発明は、上記の抗血栓性組成物を含む抗血栓性物品、特に衣服及び寝具にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の組成物に含有される成分(i)「アルミナ」(Al23)は、焼結性に優れる純度99.9%以上の高純度アルミナ(酸化アルミニウム)を用いるのが好ましい。アルミナとして、上市されている粉末状の高純度アルミナを用いることができる。前記成分(i)の含有量は、好ましくは20〜60重量部、より好ましくは30〜50重量部である。また、前記成分(i)の粒径は、本発明の組成物を使用する製品及び使用する態様に依存するが、通常の粒径、例えば数μm以下のものを用いることができる。繊維に混入させて用いる場合は、前記成分(i)の粒径は、その繊維径に依存して、2μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、例えば約0.3μmの粒径に調整することが好ましい。
【0008】
本発明の組成物に含有される成分(ii)「シリカ」(SiO2)は、純度99.8%以上の高純度シリカが好ましく、上市されている、例えば超微粒子状無水シリカを用いることができる。シリカの粒径は、前記成分(i)と同様である。
【0009】
本発明の組成物に含有される成分(ii)「酸化チタン」(TiO2)の純度、粒径及び配合量は、上記前記成分(ii)と同様である。上市されている超微粒子状酸化チタンを用いることができる。また、純度80%以上の二酸化チタンの粗粒子から、造粒精製して得られた高純度で微細な二酸化チタンを用いることができる。
【0010】
本発明の組成物中に、シリカ又は酸化チタンから選択される1種以上の成分(ii)は、好ましくは40〜80重量部、より好ましくは50〜70重量部含有される。
【0011】
本発明の抗血栓性組成物において、前記成分(ii)としては酸化チタンが好ましい。
【0012】
本発明の組成物に含有される成分(iii)「白金又は白金化合物、パラジウム又はパラジウム化合物、イリジウム又はイリジウム化合物及びロジウム又はロジウム化合物から選択される元素又はその化合物の1種以上」は、好ましくは、コロイドの形態で添加される。酸素と水素とを吸着するいわゆるコロイド活性化を期待できるからである。成分(iii)としては、白金又は白金化合物が好ましい。成分(iii)は、本発明の組成物中、金属として、好ましくは0.0005〜0.010重量部、より好ましくは0.001〜0.004重量部含まれる。また、成分(iii)としては、粒径約0.7〜4nm(7〜40Å)で、例えば塩酸溶液中にコロイド分散させた、成分(iii)の分散コロイド(以下、成分(iii)コロイドという)を用いることが好ましい。成分(iii)はコロイド中に、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%、より好ましくは0.8〜1.2重量%含有されるものが用いられ、コロイド中の成分(iii)濃度を考慮して、組成物中に0.0005〜0.010重量部含有されるように加えられる。なお、成分(iii)コロイドの調製方法は、慣用の方法を用いることができる。例えば、商業的に上市されている、例えば白金1重量%含有の白金コロイド溶液を用いることができる。
【0013】
本発明の組成物で任意に用いられる成分(iv)「銀もしくは銀化合物又は金もしくは金化合物」は、粉末の形態で用いることが好ましく、上市されている銀粉末を用いることができる。本発明の組成物中に、銀として、0〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.7〜2.0重量部含まれる。
【0014】
また、本発明の組成物は、窒化ケイ素を含むことができる。窒化ケイ素は、水素の働きをよくし、水素イオンの移動方向を特定の方向に規制する役割をするものと考えられている。ただし、窒化ケイ素を含有させる場合は、3重量部以下の量が好ましい。
【0015】
本発明の抗血栓性組成物は、アルミナと、シリカ及び酸化チタンから選択される1種以上とを、それぞれ、コロイドに分散させた白金又は白金化合物と混合し、白金をそれぞれの粒子に担持させ、白金を担持した粒子を撹拌混合し、次いで、必要であれば、これに銀もしくは金又はこれらの化合物の粉末を混合することにより製造することができる。また、所定量のアルミナ粒子にのみ、所定量の白金コロイドを加え、つぎに白金を担持したアルミナに、シリカ、酸化チタンを加えて撹拌混合し、銀粉末を加えて、再度撹拌混合して製造することもできる。
【0016】
更に、本発明の組成物は、白金コロイドを、前記成分(i)、前記成分(ii)、及び任意成分である前記成分(iv)の1種以上からなる粉末原料と混合し、任意に噴霧可能な流動性を有するまで溶媒などで希釈し、噴霧した後約50〜150℃で約10分〜1時間加熱することによって製造することができる。希釈する溶媒は、本発明の組成物の効果を阻害しない溶媒であれば用いることができ、例えば、純水、アルコールなどが挙げられる。分散性を向上させるため、公知の分散剤を添加することができる。
【0017】
本発明の抗血栓性組成物は、微粒子粉末として製造することができ、粒径0.1〜2.0μmが好ましく、0.2〜1.0μmがより好ましい。
【0018】
本発明は、上記の抗血栓性組成物を含む抗血栓性物品にも関する。物品としては、例えば、下着(パンツ、タイツ、ストッキング、ズボン下等)、寝衣(パジャマ、寝巻き、ネグリジェ等)洋服(セーター、シャツ、ズボン、スカート、ブラウス等)、和服(着物、丹前、じゅばん等)、エプロン等の衣服、布団、布団カバー、毛布、シーツ、敷パット、枕、枕カバー、マットレス等の寝具、靴下、帽子、ネクタイ、ハンカチ、帯などの服飾品、靴などの履物、じゅうたんなどの床敷物、カーテン類、ベッド、いすなどの家具などが挙げられ、特に衣服、寝具が好ましい。
【0019】
本発明の抗血栓性物品は、抗血栓性組成物を、例えば、物品素材の中に練り込むことによって、又は物品の表面に付着することによって製造することができる。
【0020】
例えば、寝具や寝衣素材の繊維中に抗血栓性組成物を練り込むには、繊維材料の合成高分子材料に抗血栓性組成物0.1〜25重量%、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.3〜1.5重量%を混合し、この混合物を慣用の紡糸法、例えば溶融法を用いて、フィラメントや中空糸等に紡糸して得た糸から織物や編物を製造し、これから慣用の方法で、布団、シーツ、毛布、敷パット、枕カバーシャツ、ズボン、パジャマ等の寝具や寝衣を製造する方法を採用できる。上記のようにして得られた本発明の組成物を含む糸を、本発明の組成物を含まない他の糸、例えば木綿、麻、絹、羊毛等の天然糸や合成糸と混紡することにより各種の織物及び寝具や寝衣とすることもできる。
【0021】
また、本発明の抗血栓性組成物を合成樹脂材料に混合し、この混合物から球状、楕円状、円筒状、板状、積層状、パイプ状等の任意の形状の成型物を作成することによって、抗血栓性組成物を物品素材の中に練り込むことができ、例えば得られたパイプは枕の芯材とすることができる。
【0022】
物品に抗血栓性組成物を付着するには、抗血栓性組成物と合成高分子材料とからなる混合物を物品にスプレー、ディッピング又はコーティングする方法を採用することができる。
【0023】
ここで、合成高分子材料には、ナイロン、ビニロン、エステル、アクリル、ウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、アセテート等が含まれる。
【0024】
本発明の物品の製造において、必要に応じて、例えば、酸化マグネシウム、マイカ、炭酸カルシウム、ゼオライト等の触媒、可塑材、紫外線吸収剤、充填剤、着色剤、着色防止剤、難燃剤、ブリードアウト防止剤、安定剤、耐熱剤、蛍光増白剤等の各種の添加剤を配合することができる。
【0025】
上記の方法、特に抗血栓性組成物を物品素材の中に練り込む方法によって得られた物品は、抗血栓組成物の各成分が繊維や成型した物品中に強固に固着しているため、抗血栓性組成物の含量が低下するのを防止することができる。また、このような方法により、本発明の組成物の含有量を、従来法と比較して増加させることができる。
【0026】
本発明の寝具の素材として利用できるのは、例えば、抗血栓性組成物を含む糸(フィラメント、ステープル)、中空糸、織物、編物、不織布、任意の形状(例えば、球状、楕円状、円筒状、板状、積層状、パイプ状等の成型物などである。
【実施例】
【0027】
以下に示す実施例は、本発明の範囲を限定することなく、その代表的な実施態様を示すものである。
【0028】
〔実施例1〕 抗血栓性組成物の製造(1)
市販のアルミナ、シリカ及び酸化チタン(チタニア)を、いずれも粒度1μm以下になるように粒度調整し、次いで、それぞれ33重量部づつに対し、白金1%含有の白金コロイド溶液(田中貴金属株式会社製;粒径40オングストローム)0.083重量部づつ(すなわち白金として0.0008重量部づつ)を別々に混合し、コロイド混合物を作製した。つぎに、この混合物99.25重量部に、粒径0.2〜1.0μm、平均粒径0.7μmの銀粉末(田中貴金属株式会社製)1.0重量部を加えた。したがって、本実施例の組成物における各物質の配合比は、アルミナ:33.0025重量%、シリカ:33.0025重量%、酸化チタン:33.0025重量%、白金:0.0025重量%、銀:0.99重量%であった。
【0029】
〔実施例2〕 抗血栓性組成物の製造(2)
組成物中の含有量を、アルミナ:49.499重量%、酸化チタン(チタニア):49.499重量%、白金:0.002重量%及び銀:1.0重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、組成物を形成した。得られた組成物を、噴霧可能な流動性を有するまで純水で希釈し、噴霧して均一に分散させ、その後、約50〜150℃で約10分〜1時間加熱し、微粒子粉末形態の組成物を製造した。
【0030】
〔実施例3〕 抗血栓性繊維の製造方法
実施例2で得られた組成物をポリエステルチップに5重量%混入しマスターバッチを作製した。このマスターバッチを繊維紡績時にポリエステルに対して10重量%混入し抗血栓性繊維(ポリエステル)を作製した。したがって、ポリエステル繊維中の抗血栓性組成物の比率は0.5重量%であった。また、製造した繊維は、I:長繊維(フィラメント)75デニール72フィラメント、及び
II:短繊維(ステープル)6デニール51mm中空糸であった。
【0031】
〔実施例4〕 抗血栓性パイプの製造
実施例2で得られた組成物をポリエチレンチップに5重量%混入しマスターバッチを作製した。さらに、このマスターバッチをポリエチレンパイプ製作時に10重量%混入した。したがって、パイプ中の組成物の比率は0.5重量%であった。また、得られたパイプは、直径(外径)5mm、長さ7mmであった。
【0032】
〔実施例5〕 各種の抗血栓性寝具及び寝衣の製造
実施例3及び4で得られた繊維及びパイプから、常法により、以下の寝具及び寝衣を製造した。
(1)シーツ
形状:フラット型、幅150cm×長さ230cm
繊維混率:抗血栓性繊維100%(ポリエステル)
その他:平織り(縦糸、横糸とも抗血栓性繊維100%)
(2)毛布
形状:両面起毛型、幅140cm×長さ200cm
繊維混率:起毛部 抗血栓性繊維50%(ポリエステル)、綿50%
その他:起毛部 抗血栓性繊維(ポリエステル)綿混40番手双糸使用
(3)敷パット
形状:幅90cm×長さ185cm×厚さ2cm、重量1.5kg
繊維混率:中わた 抗血栓性繊維100%(ポリエステル)
側生地 抗血栓性繊維100%生地(ポリエステル)
その他:キルティング加工
(4)枕
形状:5分割充填物(パイプ)微調節可能型、幅60cm×たて50cm(全体)
成分:充填物 抗血栓性パイプ100%(ポリエチレン)、本体袋 綿100%、本体カバー 綿100%
その他:枕の充填物(中味)を5つのメッシュ袋に分割して充填することで、頭の位置の微調節を可能にした構造を有し、5つめのメッシュ袋は本体カバーに装着し、首から肩の部分をサポートする構造を有した。
(5)シャツ
形状:丸首長袖
繊維混率:抗血栓性繊維97%(ポリエステル)・ポリウレタン3%生地使用
(6)ズボン
形状:長ズボン
繊維混率:抗血栓性繊維97%(ポリエステル)・ポリウレタン3%生地使用
【0033】
〔実施例6〕 抗血栓性の試験
A.緒言
循環血流は生理的な状態では血管内では凝固せず流動性を保って循環している。これは血管内皮細胞のもつ抗血栓性と血液凝固・線溶系の動的バランスが保持されているためである。血小板・血液凝固因子は止血に必要な量の数倍〜10倍も血中に備わっている。それに対して凝固制御系の因子類の数は少なく血中濃度も低い状態である。このため凝固反応は促進系が抑制系に比べて優位になっているが、内皮細胞依存的に効率よく制御されて血行が維持されている。
今回、血栓状態にはなく、血栓準備状態より更に正常にちかい日常生活を営んでいるドック入院20例の対象の理解と協力により本発明の抗血栓性寝具及び寝衣の使用による凝固・線溶系の変動について検討した。
【0034】
B.実験方法
対象:人間ドック入院受診者20名からなった。
方法:対象を封筒法により、I群・II群に分けた。対象を以下のように(表1参照)、午後2時より2時間、2種類の寝具および寝衣を用いて午睡させた。午睡中、室温は24℃に固定し、午睡前1時間は飲水を禁止した。
I群:第1日目 本発明の寝具及び寝衣(抗血栓性シーツ、毛布、敷パット、枕、シャツ及びズボン)使用
第2日目 通常の寝具及び寝衣(シーツ、毛布、敷パット、枕、シャツ及びズボン)使用使用
II群:第1日目 通常の寝具及び寝衣使用
第2日目 本発明の寝具及び寝衣使用
【0035】
【表1】


なお、通常の寝具及び寝衣は以下のものを使用した。
(7)シーツ
形状:フラット型、幅150cm×長さ230cm
繊維混率:綿100%
その他:平織り(縦糸、横糸とも綿100%)
(8)毛布
形状:両面起毛型、幅140cm×長さ200cm
繊維混率:綿100%
(9)敷パット
形状:幅90cm×長さ185cm×厚さ2cm、重量1.5kg
繊維混率:中わた 綿100%、側生地 綿100%生地
その他:キルティング加工
(10)枕
形状:5分割充填物(パイプ)微調節可能型、幅60cm×たて50cm(全体)
成分:充填物 ポリエチレンパイプ100%、本体袋 綿100%、
本体カバー 綿100%
その他:枕の充填物(中味)を5つのメッシュ袋に分割して充填することで、頭の位置の微調節を可能にした構造を有し、5つめのメッシュ袋は本体カバーに装着し、首から肩の部分をサポートする構造を有した。
(11)シャツ
形状:丸首長袖
繊維混率:ポリエステル100%生地使用
(12)ズボン
形状:長ズボン
繊維混率:ポリエステル100%生地使用
期間:平成13年2月21日〜3月15日まで
【0036】
C.検査項目
1.腋窩体温、体重
2.全血粘度、血漿粘度、一般血液検査及び凝固・線溶系機能
(a) APTT、PT、HPT、TT、ATIII、カテコラミン(3種)
(b) P−セレクチン、PAI−1、β−TG、TX−B2
(c) t−PA、NO、PGI−2、TM、MDA−LDL
1.及び2.は、午睡直前及び午睡開始2時間後に採血して測定した。採血量は30ml/回であった。全ての対象に凝固・線溶系の検査を表2の如く施行した。
【0037】
【表2】


【0038】
3.橈骨動脈血管径
入院中任意の時間に測定した。
以上検査施行上、特に採血法に於いて組織液の混入があると測定値変動が起き易いために、原則的に、ダブルシリンジ法か留置針設置法によって採血を施行した。
【0039】
4.年令分布について
20例の症例を49才までと50〜59才、60才以上に分けて年令分布をみると、次の如くであった。
年令 症例 平均年令
27〜49 8(1) 37.5
50〜59 6(3) 54.5
60〜71 6(4) 64.8
( )内は女性
男性12名 27才より65才 平均年令 45.1才
女性 8名 46才より71才 平均年令 59.4才
全平均年令 50.8才
【0040】
D.症例の要因分析
ドック入院の症例であるので、健康状態に関して疾病の有無と日常生活上の注意事項、要精密検査、要治療の判定がされた。最近のドック検査は生活習慣病に重点がおかれているので、これに準拠し、要因として体重・脂質・血糖値・動脈硬化性病変の有無と肝機能障害に重点をおき症例を検討した。
上記の各要因に対し、表3の如く点数を按分し、健康状態により正常例(A群)、他疾患例(B群)と生活習慣病或はその多数要因例(C群)の3群に分け、A・B・C群の各要因に対する配点を施行すると、表4、5、6の如き結果となった。
更に通常の寝具及び寝衣を使用した対照群をK群、本発明の寝具及び寝衣使用群をPL群とした。
K・PL群に対応して生活習慣病関連要因によって配点区分されたA・B・C群において血液凝固・線溶系の変動を検討した。
表4、5、6でみられる様に仔細に検討すると健康な状態より脂質の増加が先行し、次第に脂質が増強するにつれ体重増加、動脈硬化性病変(喫煙により増強)、糖尿病及び肝障害(主に飲酒)が発生する傾向がみられた。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】


【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
E.基準値内変動について
入院ドックに関連した一般採血検査以外に凝固・線溶系に関する検査項目は19種類と多岐に亘っている。
K群(通常の寝具及び寝衣使用)とPL群(本発明の寝具及び寝衣使用)について、夫々寝具及び寝衣使用前後に採血した。午睡前後の検査で一般血液検査(赤・白血球、Hb、Ht、MCH、MCHC、PLT)と凝固能検査でTT(s、%)PT(s、%)、APTT(s、%)と電解質(Na、K、Cl、Ca)について、K・PL群の各A・B・C群で午睡による影響は正常な基準値内の変化であり、殆んど大差のない変動であるため、ここでは凝固・線溶系における午睡による影響をK・PL群について検討した。
尚午睡前検査をBefore、午睡後検査をAfterとして表現し検討した。
【0046】
F.症例の検討
(a) 血管内皮系(表7参照)
血管内皮細胞は強い抗凝固作用をもち、強力な陰性荷電を帯びているため、同じ陰性荷電の血小板と互いに反発し合っている。更に内皮細胞はNO(一酸化窒素)、PGI2(プロスタサイクリン)を放出し、血小板機能を抑制し、TM(トロンボモジュリン)、t−PA(tissue plasminogen activator)を産生放出して、総合的に強い抗血栓活性を発揮している。
t−PA、PGF1α(6−ケト−プロスタグランジン1α)、TM、亜硝酸イオン、硝酸イオンの産生量に関してはK・PL群の午睡前後において、PGFのみがK群で午睡後に約10%の増加がみられ、PL群では約10%の低下傾向がみられた。t−PA、TM、NOに関してはそれぞれ基準値内の変動域を汞した。
血管内皮系に関して、PGFの量がK群Afterで約10%(5〜15%の変動域)増加し、PL群Afterでは寧ろ約10%(−7〜−27%の変動域)低下する傾向にあった。
この点より血小板機能に関してK群AfterではPGF増加傾向のため血小板に対し抑制的に働き、PL群AfterではPGF減少傾向のため血小板機能を促進的(向血栓形成)に作用する傾向があった。
【表7】

【0047】
(b) 血小板系(表8参照)
PAI−1、P−セレクチン、TX−B2、PLTの変動は血小板機能の活性化の指標となる。血小板は正常では静的状態を保持して血管内皮細胞機能優位の状態で血管内皮細胞表面の糖蛋白の陰性荷電のため反発し合って血小板の血管壁の粘着・凝集が抑制されている。PAI−1、P−セレクチン、TX−B2、血小板数の変動は表8の通りである。
PAI−1はK群Afterで平均21%の低下傾向(−7〜−33%の変動域)、PL群Afterでは平均3.1%の増加傾向(−9.8〜+8.2%の変動域)であった。
P−セレクチンはK・PLのA群で増加傾向、B・CはK群で減少(−23〜−18.7%)するがPL群ではB・Cは軽度に減少する(−3〜−3.4%)。
TX−B2はK−C群で著明に増加しPL−C群では明らかに減少している。即ちPAI−1、P−セレクチンはK−PL群を通じて微妙に減少増加を示しているがTX−B2を加えて総合的に血小板機能を検討すると、K群Afterでは血小板機能はトータルとして促進され血栓形成傾向に向い、PL群AfterではTX−B2の減少傾向がみられ、血小板機能抑制のため傾向的には向出血傾向を示していると思われる。これは血小板内部でのトロンボキサンA2の産生の低下、阻害を意味し、本発明の抗血栓性繊維使用による血小板機能活性化の鎮静を示している。
【表8】

【0048】
(c) 凝固系とその関連物質(表9参照)
凝固第I因子であるフィブリノゲン、第IV因子のCa++とトロンビン制御因子であるアンチトロンビンとMDA−LDLを一括して検討した。
Ca以外の電解質(K、Na、Cl)は殆んど1mEq/L内の生理的基準値内の変動に推移し、TT、HPTの変動も極めて小範囲の変動であるため表としての検討は省略した。
MDA−LDLに関してもK・PL群ともに午睡後に軽度の低下を示しているが、この程度の変動ではMDA−LDLが内皮細胞のTM、t−PAの発現を抑え、組織因子PAI−1の発現を強めて内皮細胞の抗血栓作用を低下させる程度の変化はみられないと思われた。
PT、APTTに関しても、PTはK・PL両群で明らかな変動はみられなかった。APTTはK群では軽度増加、PL群では軽度低下傾向がみられるので内因子系凝固反応系がK群に較べPL群では午睡後に軽度延長傾向がみられた。
【表9】


【0049】
(d) その他、BV、PVとCA(カテコラミン)(表10参照)
午睡による影響で体温上昇がみられ、発汗作用を伴う様になると血液が濃縮され、ヘマトクリット値が増加するため、全血粘度の上昇がみられ、更にカテコラミンの過剰分泌傾向がみられると脾臓内血管収縮作用により、赤血球、血小板の増加と血小板機能の活性化がみられ、更に凝固系の亢進と共に全血粘度、血漿粘度が増加することを予想していた。実際は表10の如く全血・血漿粘度、Ht値の変動は午睡によりK・PL両群のAfter全例に減少傾向がみられた。
カテコラミン3種類のうち最も興味深いのはノルアドレナリンの変動である。K・PL群のBeforeでは何れも上限値を上下する程度に高値を示しているが、AfterではK・PL群ともに共通してノルアドレナリン量が平均45〜55%台に減少している。ノルアドレナリン量が半減するため交感神経の受容体の刺激作用が低下するため、抹消血管抵抗減弱のため循環血液量の低下と血流速度の減速のためBV、PVの低下がみられる。
【表10】

【0050】
G.考察
凝固・線溶系関与する因子としてPAI−1、P−セレクチン、TX−B2の変動が注目されるのでこれらに関して考察する。
1.PAI−1、P−セレクチン
PAI−1は血管内皮細胞・血管平滑筋細胞や脂肪細胞で産生され、t−PAの主要な阻害因子である。血小板中にも存在して血小板凝集に伴って放出される。この血小板由来のPAI−1は主に血栓部位で放出され、可逆的にフィブリンに結合しフィブリン周囲に濃縮された形で存在し、t−PAの活性を中和している。
対照群(K群)のA・B・C群ではPAI−1は減少傾向を示すがPL−B・C群では多少増加傾向を示している。
表7のt−PAの検討でK・PL群ともに共通して午睡後に低下傾向を示し、t−PAの消費増加傾向はみられないので、PAI−1の消長と一応平衡状態にあると思われる。更にP−セレクチン例でK−C群の減少傾向は著明であるがPL−C群では僅かに減少するにすぎない。
これらの事実は、PAI−1、P−セレクチンの生成に関してC群(生活習慣病)ではK群に比しPL群では著明な低下を起こさない。即ちC群では血小板機能の低下がK群ではみられるが、PL群ではみられないか、非常に軽微である事を示している。トータルとしての血小板機能はTX−B2の消長で述べる様にPL−C群Afterで著明に抑制されていると思われる。
【0051】
2.TX−B2
血小板は活性化されると強力な血小板活性化物質であるTX−A2を産生し、周囲の血小板の活性を促進するというポジティブフィードバック経路を有しているがTX−A2は極めて不安定な物質で半減期約20秒でTX−B2に分解される。TX−B2の増減は血小板機能の活性化の状態を示している。
TX−B2はK−A・B群、PL−A・B群では午睡後には減少傾向を示している。これに反しK−C群では午睡後には著明に増加傾向が見られるのにPL−C群AFterでは明らかに減少傾向を示している。
この事実は生活習慣病に罹患している症例では、通常の寝具使用後による体温上昇は血小板機能を活性化し、TX−B2の著明な増加がみられ、血栓準備状態に限りなく近づいている事を示し、PL群(本発明の寝具及び寝衣使用例)ではTX−B2の増加が抑制されることは血小板機能の活性低下を意味し、血栓準備状態が鎮静化されている事を示している。
この様なTX−B2のPL−C群に於ける著明な生成・減少傾向はTX−A2合成経路に関与するシクロオキシゲナーゼ、ホスホリパーゼA2などの酵素活動を阻害するアスピリン、インドメタシンなどの抗炎症、鎮痛剤に類似する作用を示していると思われる。
【0052】
3.トロンビン制御機構に関して
生体内変性物質である糖化蛋白(AGE)、酸化変性LDLは内皮細胞のTM、t−PAの発現機能を抑え、逆に組織因子、PAI−1の発現を強め内皮細胞の抗血栓作用を低下させると云われる。表9でMDA−LDLの午睡による消長をみると、K群平均14.2%減、PL群平均14.7%減と減少しているため内皮細胞のTM、t−PA発現機能の抑制が弱まるため内皮細胞の抗血栓作用は維持されている。
更に表7によりTM、t−PAの消長をみるとTMは殆んど変動なくt−PAはK群平均15.8%減、PL群平均8.9%減でPL群の方が内皮細胞の抗血栓機能の低下は少ないと判断される。更にフィブリノゲン、ATIIIの変動は表9によると、
K群 フィブリノゲン量 平均6.5%減 0.6秒遅延
PL群 フィブリノゲン量 平均6.6%減 0.6秒遅延
で殆んど大差がない。
ATIIIは表9の如くK群平均7.8%減、PL群平均6.4%減である。通常ATIIIは生成トロンビン量に対し可成り過剰に存在するためこの程度の減少ではトロンビン生成量に対し充分に対処できる状態である。このため生成されたトロンビンはフィブリノゲン、TM(トロンボモジュリン)、ATIIIにより結合されその活性が充分に制御されている。即ちトロンビン制御機構はよく機能していると判断される。この点より酸化変性LDL、t−PA、TM、ATIIIの消長を総合して考慮すると、K群よりPL群の方が午睡後の血管内皮細胞の抗血栓性がよく保持されていると思われる。
【0053】
H.総括
本発明の寝具及び寝衣を用いて午睡による血液凝固・線溶系の機能の変化について検討した。
血管内皮系機能についてt−PA、TM、NOの変動域は少なく、PGFのみがK群で増加(血小板機能抑制的)しPL群ではPGFが減少傾向(血小板機能促進的)を示している。血小板機能ではTX−B2の変動が非常に特徴的であり殊に生活習慣病のみられるK−C群Afterで増加傾向を示し、PL−C群で明らかな減少傾向がみられる。
PGFの変動を考慮してもTX−B2の変動は、totalとしてK群Afterでは血小板機能が促進的(向血栓形成)に、PL群Afterでは血小板機能が抑制的(抗血栓形成即ち出血傾向ぎみ)に影響されている。尚、フィブリノゲン、TM、ATIIIによるトロンビン抑制機構はよく保持されている。
カテコラミンに関しては殊にノルアドレナリン量がK・PL両群ともBeforeでは上限値量に近い値を示しているがAfterでは半減するためα受容体作用低下のためBV、PVの低下傾向がみられる。
興味深い点は、前述の如くTX−B2の変動はC群のK−Afterで増加し、PL−Afterでは逆に著明に減少し、PGFはPL−Afterで減少する事は、所謂アスピリンジレンマと同じ現象であると考えられることである。即ち本発明の組成物の作用により血小板及び血管内皮におけるシクロオキシゲナーゼの酵素作用の抑制は、表8に見られる様にTX−B2の産生はPL−C群Afterで強く阻害され、PGFの産生低下は軽度であることによりPGF低下による血栓形成傾向より、TX−B2の減少による抗血栓作用促進の意義が大であると考えられ、トータルとして午睡後にみられる本発明の組成物の抗血栓作用の傾向はアスピリン少量使用の際と同じ様に優位に出血傾向に陥らずに抗血栓性優位に作用すると判断される。
【0054】
〔実施例7〕 本発明の抗血栓性組成物のマイナスイオン放出効果及び抗菌性
本発明の抗血栓性組成物は一種のセラミックスであり、人体より放射された微量の生育光線(5〜15ミクロンに該当)を吸収・共鳴して1.2〜1.5倍に増幅して新しい生育光線を放射する。即ち遠赤外線効果を示すと共に放射エネルギーの深達力は波長の平方根に比例するため、波長の長い程深達力は大きくなるが、本発明の組成物は吸収エネルギーの増幅放射作用と分子の並進作用によりエネルギーの深達力およびマイナスイオン(OH−)効果を高めている。
本発明の組成物を含む繊維からは、マイナスイオンを効率よく放出することが燃焼試験(酸素指数法JIS K7201に準拠)により明らかとなり、認められた。(表11参照)
ここで、試料として、本発明の組成物(実施例2)を含む繊維(ポリエステル)100%および通常のポリエステル繊維100%のフィルター(ノーマルフィルター)をそれぞれ作製し、酸素と窒素の混合ガスをそれぞれのフィルターに通し、キシレンを燃焼させ、その際の最低酸素濃度を測定した。
【0055】
【表11】


【0056】
また、本発明の抗血栓性組成物を含有する繊維は、FDA(アメリカ連邦食品医薬品局)およびAATCC(アメリカ繊維化学技術・染色技術協会)の定める厳しい抗菌効果試験にも合格した(表12参照)。
なお、抗菌効果試験は、黄色ブドウ球菌と肺炎桿菌をシャーレに接種し、本発明の抗血栓性繊維とポリエステル繊維(コントロール)の接種直後と接種24時間後の菌数を測定した。
【0057】
【表12】

【0058】
よって、本発明の組成物を含む繊維は、病院内感染、家庭内感染を防ぐ繊維としても大いに注目されるべき繊維である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の組成物及びこれを含む寝具及び寝衣等の物品は、出血傾向に陥らずに抗血栓性を優位に作用させことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アルミナと、(ii)シリカ及び酸化チタンから選択される1種以上と、(iii)白金又は白金化合物、パラジウム又はパラジウム化合物、イリジウム又はイリジウム化合物及びロジウム又はロジウム化合物から選択される元素又はその化合物の1種以上とを含む抗血栓性組成物。
【請求項2】
更に、(iv)銀もしくは銀化合物又は金もしくは金化合物から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を含む抗血栓性物品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物を含む抗血栓性衣服。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の組成物を含む抗血栓性寝具。
【請求項6】
抗血栓性組成物としての、(i)アルミナと、(ii)シリカ及び酸化チタンから選択される1種以上と、(iii)白金又は白金化合物、パラジウム又はパラジウム化合物、イリジウム又はイリジウム化合物及びロジウム又はロジウム化合物から選択される元素又はその化合物の1種以上と、必要に応じ(iv)銀もしくは銀化合物又は金もしくは金化合物から選択される1種以上とを含む組成物の使用。
【請求項7】
抗血栓性物品の製造における、(i)アルミナと、(ii)シリカ及び酸化チタンから選択される1種以上と、(iii)白金又は白金化合物、パラジウム又はパラジウム化合物、イリジウム又はイリジウム化合物及びロジウム又はロジウム化合物から選択される元素又はその化合物の1種以上と、必要に応じ(iv)銀もしくは銀化合物又は金もしくは金化合物から選択される1種以上とを含む組成物の使用。

【公開番号】特開2008−239606(P2008−239606A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29181(P2008−29181)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【分割の表示】特願2004−510809(P2004−510809)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(500254192)
【Fターム(参考)】