説明

抗血栓薬とピラゾロン誘導体との組み合わせ薬剤

【課題】副作用の少ない安全な虚血疾患の治療及び/又は予防のための医薬を提供すること。
【解決手段】組織プラスミノーゲン活性化因子と組み合わせて使用される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、虚血疾患の治療剤又は予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓薬とピラゾロン誘導体とを含む組み合わせ薬剤に関するものであり、さらに詳細には、本発明は、各種の虚血疾患の治療及び/又は予防のために有効な、上記の組み合わせ薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞急性期の治療薬として抗血栓薬(血栓溶解剤、抗凝固剤、血小板凝集抑制剤)が従来から用いられているが、抗血栓薬は血管内の血栓対策と循環改善に治療の重点がおかれており、治療戦略上重要な薬剤である。抗血栓薬としては、組織プラスミノーゲン活性化因子(以下、t−PAと略す場合がある)、ウロキナーゼ(UK)、ヘパリン、アルガトロバン、オザグレルナトリウム、アスピリン、チクロピジン等が知られている。
【0003】
しかしながら、抗血栓薬を大量に投与したり、抗血栓薬の投与が遅れたりすると脳出血という副作用により症状が悪化することが報告されているように、解決すべき課題も少なくない。
【0004】
また、近年開発されたラジカルスカベンジャーのエダラボン(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)(特公平5−35128号公報)はフリーラジカル消去作用、細胞膜脂質の過酸化抑制作用等により、虚血周辺部位(ペナンブラ)における神経細胞を保護し、虚血障害を最低限度に止めることが可能である。また、エダラボンは、血液凝固、血小板凝集等に影響を及ぼさず、出血性の副作用が少ないことが特性としてあげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−35128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、副作用の少ない安全で、かつ高い臨床効果を有する虚血疾患の治療及び/又は予防のための医薬を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記抗血栓薬によるより安全性の高い臨床効果を高めるべく、種々の検討を行った結果、式(I)で示されるピラゾロン誘導体と抗血栓薬を併用することにより副作用の少ない安全で、かつ高い臨床効果を有する虚血疾患の治療及び/又は予防のための医薬を提供しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、抗血栓薬と下記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物とを含む組み合わせ薬剤が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表わし;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表わし;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基又は非置換の、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
【0011】
また、本発明によれば、抗血栓薬と上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物とを同時に、別々に、又は経時的に投与する組み合わせ薬剤が提供される。
【0012】
抗血栓薬の好ましい例は、血栓溶解剤、抗凝固剤、血小板凝集抑制剤を挙げることができる。血栓溶解剤の好ましい例としては、t−PAが挙げられ、抗凝固剤の好ましい例としては抗トロンビン剤、血小板凝集抑制剤の好ましい例としてはトロンボキサン合成酵素阻害剤を挙げることができる。抗トロンビン剤の具体例としては例えば、(2R,4R)−4−メチル−1−[N2((RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルフォニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸一水和物(一般名:アルガトロバン)
【化2】

が挙げられ、トロンボキサン合成酵素阻害剤の具体例としては、(E)−3−[p−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]−2−プロペノエートナトリウム(一般名:オザグレルナトリウム)
【化3】

を挙げることができる。
【0013】
本発明における抗血栓薬の特に好ましい例としては、t−PA、(2R,4R)−4−メチル−1−[N2((RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルフォニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸一水和物、及び(E)−3−[p−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]−2−プロペノエートナトリウムを挙げることができ、さらに好ましくは、(2R,4R)−4−メチル−1−[N2((RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルフォニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸一水和物、及び(E)−3−[p−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]−2−プロペノエートナトリウムを挙げることができる。
【0014】
好ましくは、式(I)で示されるピラゾロン誘導体は3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである。
好ましくは、本発明の組み合わせ薬剤は、虚血疾患の治療及び/又は予防のために使用する。虚血疾患の具体例としては、各種の虚血性疾患若しくはそれに基づく各種の疾患、即ち、脳梗塞、脳卒中等の脳血管障害、又はそれらに起因する脳機能低下、血管性痴呆、加齢に伴う脳血管組織病変等の諸種脳疾患;心筋梗塞、心不全等の心筋虚血に基づく諸種心疾患及び諸種末梢循環障害等を挙げることができる。好ましい例としては、脳梗塞急性期に伴う神経徴候、日常作動性障害、機能障害;発症後48時間以内の脳血栓症急性期(ラクネを除く)に伴う神経症候(運動麻痺)、日常生活動作(歩行、起立、座位保持、食事)障害;脳血栓症(急性期)に伴う運動障害を挙げることができる。
【0015】
さらに本発明によれば、抗血栓薬と上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物とを同時に、別々に、又は経時的に、投与する虚血疾患の治療剤及び/又は予防剤が提供される。
さらに本発明によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含有する抗血栓薬投与時の機能予後改善剤が提供される。
【0016】
本発明の別の側面によれば、薬学的に有効量の抗血栓薬と薬学的に有効量の上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物とを、ヒトを含む哺乳動物に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含む、虚血疾患を治療及び/又は予防する方法が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、組み合わせ薬剤の製造における、抗血栓薬と上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明で用いるピラゾロン誘導体は、抗血栓薬と併用することで抗血栓薬の機能障害抑制作用を増強させ、また、抗血栓薬の副作用や再開通障害による症状の悪化を最小限に抑え、より安全性の高い臨床効果をもたらすことができる。
本発明の組み合わせ薬剤は、各種の虚血疾患若しくはそれに基づく各種の疾患、即ち、脳梗塞、脳卒中等の脳血管障害、又はそれらに起因する脳機能低下、血管性痴呆、加齢に伴う脳血管組織病変等の諸種脳疾患;心筋梗塞、心不全等心筋虚血に基づく諸種心疾患及び諸種末梢循環障害等の予防・治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の組み合わせ薬剤は、抗血栓薬と本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体又はその薬学的に許容される塩とを含む。
【0020】
本発明で用いる抗血栓薬としては、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)、ウロキナーゼ(UK)、ヘパリン、アルガトロバン、オザグレルナトリウム、アスピリン、チクロピジン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい抗血栓薬としては、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)が挙げられる。特に好ましい抗血栓薬の別の例としては、、抗トロンビン剤及び/又はトロンボキサン合成酵素阻害剤が挙げられ、具体的には(2R,4R)−4−メチル−1−[N2((RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルフォニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸一水和物(アルガトロバン)及び/又は(E)−3−[p−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]−2−プロペノエートナトリウム(オザグレルナトリウム)を挙げることができる。
【0021】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、以下の式(I')又は(I”)で示される構造をもとりうる。従って、式(I')又は(I”)の構造をとる化合物も本発明の有効成分に含まれる。
【0022】
【化4】

【0023】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基としては、フェニル基ならびにメチル基、ブチル基、メトキシ基、ブトキシ基、塩素原子及び水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。
1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
【0024】
1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロボキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
2の定義におけるアリールオキシ基としては、フエノキシ基、p−メチルフエノキシ基、p−メトキシフエノキシ基、p−クロロフエノキシ基、p−ヒドロキシフエノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0025】
2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロボキシ基、イソプロボキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロボキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0026】
本発明に用いる式(I)の化合物の具体例としては、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン 1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(4−プロボキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン 1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3,3',4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン 1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン 1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン 1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン 1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0027】
本発明の薬剤の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、ニコチン酸、酒石酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルタミン、L−グルタミン等のアミンとの塩が挙げられる。また、グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0028】
本発明の薬剤の有効成分としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の水和物、又は上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを例示することができる。また、上記式(I)で表される化合物は、置換基の種類により1以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。本発明の医薬の有効成分としては、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いてもよい。
【0029】
なお、本発明で用いる式(I)の化合物は公知化合物であり、例えば、特公平5−31523号公報、特公平5−35128号公報などに記載されている。
【0030】
本発明で用いる抗血栓薬の投与量は、一般に非経口投与で0.01〜100mg/kg・日、好ましくは0.1〜10mg/kg・日であり、経口投与で0.1〜1000mg/kg・日、好ましくは0.5〜50mg/kg・日である。上記投与量は1日1〜3回で投与するのが好ましい。また、上記投与量は、年齢、病態、症状により適宜増減することが更に好ましい。
【0031】
本発明で用いる式(I)で示されるピラゾロン誘導体の投与量は一般に非経口投与で0.01〜100mg/kg・日、好ましくは0.1〜10mg/kg・日であり、経口投与で0.1〜1000mg/kg・日、好ましくは0.5〜50mg/kg・日である。上記投与量は1日1〜3回で投与するのが好ましい。また、上記投与量は、年齢、病態、症状により適宜増減することが更に好ましい。
【0032】
本発明の組み合わせ薬剤は、抗血栓薬と式(I)で示されるピラゾロン誘導体とを別々に製剤化して個別に投与してもよい。この場合、抗血栓薬と式(I)で示されるピラゾロン誘導体は同時に投与してもよいし、別々に投与してもよく、さらには経時的に投与してもよい。あるいはまた、抗血栓薬と式(I)で示されるピラゾロン誘導体とを単一の製剤に製剤化して同時に投与してもよい。
【0033】
本発明においては、抗血栓薬と式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0034】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0035】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0036】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0037】
本発明の薬剤の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する薬剤として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、散剤、顆粒剤、硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、又はトローチ剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、吸入剤、坐剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の組み合わせ薬剤のうちの式(I)で示されるピラゾロン誘導体としては、上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0038】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例においてt−PA、オザグレルナトリウム、アルガトロバンは市販されているグルトパ(登録商標;三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、キサンボン(登録商標;キッセイ薬品工業株式会社製造・販売)、ノバスタン(登録商標;三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)を用いたが、有効成分としてtPA、オザグレルナトリウム、アルガトロバンを含有するものであれば製造販売会社に関係なく使用することができる。
【実施例】
【0039】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0040】
実施例1:
(実験方法)
Wistar系ラットをウレタン(1.2g/kg,i.p.)麻酔下に大腿静脈内に装着したカニューレにより、生理食塩液又はt−PA 1mg/kg(1mg=58万IU;4mL/kg,1mL/hr)を持続注入した。持続注入開始55分後にエダラボン(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)3mg/kg又は生理食塩液を静脈内に投与し、その5分後に尾を先端より2mmの場所で素早く剃刀で切断した。尾からの出血を15秒毎に濾紙で拭い、止血までの時間を最長30分まで測定した。
【0041】
(実験結果)
t−PAの出血時間に対する結果を表1に示す(表中の数値はいずれも平均値±S.E.)。
t−PA投与群は対照群(生理食塩液)に比較して、出血時間は有意に延長することが認められた。これに対し、エダラボン併用群はエダラボン単独投与群と比べて、出血時間に有意な影響を及ぼさなかった。よって、エダラボンはt−PAと副作用をもたらすことなく併用可能であることが明らかである。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2:
(試験方法)
脳梗塞と診断された患者37名を表2に示すように群分けして薬剤を投薬した。投与量及び投与方法を次に示す。
オザグレルナトリウム:オザグレルナトリウム80mgを適当量の電解質液又は糖液に溶解し1日朝夕2回、1回2時間かけて持続静注を2週間行った。
【0044】
アルガトロバン:はじめの2日間はアルガトロバン60mg/120mlを適当量の輸液で希釈し、24時間かけて持続点滴静注を行い、その後の5日間はアルガトロバン10mg/20mlを適当量の輸液で希釈し1日朝夕2回、1回3時間かけて点滴静注した。
オザグレルナトリウム+エダラボン:オザグレルナトリウム80mgを適当量の電解質液又は糖液に溶解し1日朝夕2回、1回2時間かけて持続静注を2週間行うと同時に、エダラボン30mg/20mlを適当量の生理食塩液に希釈し1日朝夕2回、1回30分かけて点滴静注を2週間行った。
【0045】
アルガトロバン+エダラボン:はじめの2日間はアルガトロバン60mg/120mlを適当量の輸液で希釈し、24時間かけて持続点滴静注を行い、その後の5日間はアルガトロバン10mg/20mlを適当量の輸液で希釈し1日朝夕2回、1回3時間かけて点滴静注すると同時に、エダラボン30mg/20mlを適当量の生理食塩液に希釈し1日朝夕2回、1回30分かけて点滴静注を2週間行った。
【0046】
(試験結果)
投与開始1ヶ月以内の退院日(入院中の場合1ヶ月後)にモディファイドランキンスケール(Modified Rankin Scale)により評価した機能予後の結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

*:OZAはオザグレルナトリウムをNOVはアルガトロバンを表す
【0048】
ここで、グレードが意味することについて簡単に説明する。グレード0:全く症状なし、グレード1:症状はあるが特に問題となる障害はない(通常の日常生活及び活動は可能)、グレード2:軽度の障害(以前の活動は障害されているが、介助なしに自分のことができる)、グレード3:中等度の障害(何らかの介助を必要とするが、独歩可能)、グレード4:比較的重度の障害(歩行や日常生活に介助を要す)、グレード5:重度の障害(ベッド上の生活、失禁、常に看護や注意を必要とする)、グレード6:死亡。
【0049】
(比較例)
Therapeutic Research, Vol.19(4), 1333-1345, 1998にエダラボン単独投与時のモディファイドランキンスケールによる評価結果が出ている。
評価方法及びその結果:脳梗塞急性期患者8名にエダラボン(30mg/20ml)を生理食塩液100mlにて希釈し、1日2回(朝・夕)14日間、1回30分かけて持続点滴静注した。薬剤投与期間中は薬効評価に影響を与える可能性のある薬剤の併用は避けた。投与開始3ヶ月時あるいは3ヶ月以内の退院時のモディファイドランキンスケールは以下の通りである。
【0050】
【表3】

【0051】
グレード1:症状はあるが特に問題となる障害なし
グレード2:軽度障害
グレード4:比較的重度障害
【0052】
モディファイドランキンスケールの評価時が実施例は投与開始後1ヶ月以内であるのに対して、比較例では3ヶ月以内となっている点が異なっている。しかしながらその他について相違点はない。そこで、この結果と実施例で得られた結果をみると、グレード0の比率は抗血栓薬単独35.3%、エダラボン単独0%に対して抗血栓薬とエダラボンとの併用した場合には55.0%であった。このことから、抗血栓薬とエダラボンを併用すると単なる相加効果ではなく、相乗効果が発揮され、機能予後が良いことが示された。
【0053】
本出願が主張する優先権の基礎となる出願である特願2001−279645及び特願2001−365032の明細書に記載の内容は全て、本明細書の開示の一部として本明細書中に引用により取り込むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織プラスミノーゲン活性化因子と組み合わせて使用される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む、虚血疾患の治療剤又は予防剤。
【請求項2】
組織プラスミノーゲン活性化因子と3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物とを、同時に、別々に又は経時的に投与する、請求項1に記載の虚血疾患の治療剤又は予防剤。
【請求項3】
虚血疾患が脳梗塞急性期に伴う神経徴候、日常作動性障害、又は機能障害である、請求項1又は2に記載の虚血疾患の治療剤又は予防剤。

【公開番号】特開2010−43132(P2010−43132A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266970(P2009−266970)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2003−528541(P2003−528541)の分割
【原出願日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】