説明

抗血管新生療法を受容可能な被験体の同定

本発明は、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定する方法であって、被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定し、該量を適当な参照量と比較することに基づく方法に関する。例えば、トロポニンTの参照量は10pg/mlであり、血管新生に対する好ましい治療薬は抗VEGF抗体である。また本発明は、本発明の方法の実施に適合されたキット及びデバイスも包含する。好ましい実施形態では、ナトリウム利尿ペプチドも測定する。これらのマーカーのレベルが高いことは、抗血管新生療法の間の心血管系合併症のリスクを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定する方法であって、被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定し、該量を適当な参照量と比較することに基づく方法に関する。また本発明は、本発明の方法の実施に適合されたキット及びデバイスも包含する。
【背景技術】
【0002】
現代医学の目標は、特定の個人向けの又は個人に合わせた治療レジメンを提供することである。それは、患者一人一人のニーズ又はリスクを考慮に入れた治療レジメンである。過剰増殖疾患は、多くの場合、ヒト又は動物生理学に重大な影響をもたらす。多くの重篤な疾患、例えば癌は、細胞の望ましくない増殖増大により引き起こされる。具体的には、癌疾患は、最も生命を脅かす病的状態の一部、例えばヒトの癌による主要な死因となる肺癌を含む。
【0003】
癌治療のための様々な手法が存在し、例えば外科手術、化学療法、放射線療法、及び免疫療法などがある。新しく非常に有望な癌治療法は、抗血管新生療法である。抗血管新生療法の基本となる原理は、腫瘍が、血管内に新生血管が形成されている場合にしか増殖することができないということである。血管新生阻害薬で腫瘍内の血管の増生を止めることにより、腫瘍が拡張して体内に伝播する手段が有意に減少する。血管新生阻害薬であるベバシズマブ(Bevacizumab)(Avastin)の投与は、腫瘍における新生血管の形成を阻害するように設計された最初の米国食品医薬品局(FDA)承認の生物学的治療薬である。ベバシズマブ自体は、血管内皮増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体である。例えば、ベバシズマブは、転移性結腸直腸癌における生存を有意に改善することがわかっている。FDAはまた、癌治療、例えば、多発性骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、消化管間質腫瘍及び腎癌などのための他の抗血管新生医薬も承認している。さらに多くの抗血管新生癌治療薬が承認を待っている状態である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、抗血管新生薬による癌患者の治療の非常に有益な効果はいくつかの問題により妨げられている。新生血管形成を阻害する治療法には有害な副作用(特に心血管系合併症)があるため、一部の患者を危険にさらす恐れもある。従って、例えばソラフェニブは、ソラフェニブで治療した患者の2.9%に急性冠症候群を誘発したことが示されている(2007, Annals of Oncology, Volume 18, No. 11, 1906-1907)。
【0005】
従って、(i)抗血管新生薬を用いる治療を受容可能な被験体を同定し、(ii)将来的な抗血管新生薬の摂取の結果として心不全及び/又は急性心血管系事象のリスクが高くなるであろう被験体を同定するために、対策及び手段が求められている。
【0006】
しかし、こうした手段及び対策はまだ報告されていない。従って、本発明の基礎となる技術的課題は、上述のニーズを満たす手段及び方法の提供とみなされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題は、特許請求の範囲及び本明細書中の以下で特徴付けられる実施形態により解決される。
【0008】
従って、本発明は、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定するステップ、
(b)ステップ(a)において測定された心筋トロポニンの量を心筋トロポニンの適当な参照量と比較するステップ、及び
(c)抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定するステップ
を含む方法に関する。
【0009】
本発明の方法により、抗血管新生療法を必要とする患者が、該療法を受容可能であるかどうか評価することが可能となる。好ましくは、本発明の方法を実施することにより、抗血管新生療法を開始すべきか否かについて決定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】癌に罹患した被験者及び健常個体におけるNT-proBNP及びトロポニンTを示す。75パーセンタイルの中央値を示し、nは個体数である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、好ましくはin vitro法である。さらに、本方法は、上で明示的に記載したステップに加えてさらなるステップを含んでもよい。例えば、さらなるステップは、サンプルの前処理又は本方法により得られた結果の評価に関連しうる。本発明の方法はまた、抗血管新生療法を必要とする被験体の確認及び細分類に用いることもできる。本方法は、手動で実施してもよいし、又は自動化により支援してもよい。好ましくは、ステップ(a)、(b)及び/又は(c)は、自動化により、例えばステップ(a)及び/若しくは(b)では測定に好適なロボット及びセンサー装置により、又はステップ(c)ではコンピュータにより実行される計算により、全体的又は部分的に支援可能である。
【0012】
本明細書において用いられる「同定する」という用語は、被験体が、抗血管新生療法を受容可能であるか否かを評価することを意味する。抗血管新生療法を受容可能である被験体は、好ましくは、該療法の結果としての、該療法により生じる有害な副作用(特に心不全、急性心血管系事象、高血圧、又は他の血管系事象、例えば卒中、末梢動脈疾患、及び/若しくは腹部アンギーナ)を患うリスクは高くならないが、抗血管新生療法を受容可能ではない被験体は、(この治療レジメンを開始した場合には)この抗血管新生治療レジメンの結果として有害な副作用を患うリスクが高くなる。当業者であれば理解するように、この評価は、通常、同定対象の被験体の全て(すなわち100%)に対して正しいことが意図するものではない。しかし、この用語は、被験体の統計学的に有意な一部を同定可能である(例えばコホート研究における1コホート)ことを要する。当業者であれば、他に苦労なく種々の周知の統計学的評価ツールを用いて、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、一部が統計学的に有意であるかどうかを決定することが可能である。詳細な内容は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見い出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。より好ましくは、集団の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の被験体を本発明の方法により正確に同定することができる。
【0013】
本明細書で用いられる「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。
【0014】
しかし、上述した本発明の方法においては、被験体は「抗血管新生療法を必要とする」べきであることを想定している。しかし被験体は、サンプルを取得する時点において抗血管新生療法を受けている必要はない。従って、被験体は、サンプルを取得する際に抗血管新生療法を受けているものではない。
【0015】
「抗血管新生療法を必要とする被験体」は、好ましくは癌、より好ましくは転移性癌に罹患している被験体である。上記癌が、例えば以下に挙げるどの種類の癌でもよいことは理解されるべきである:神経芽細胞腫、腸癌、例えば直腸癌、結腸癌、腺腫性ポリポーシス性癌及び遺伝性非ポリポーシス性結腸直腸癌、食道癌、口唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、髄様甲状腺癌、乳頭様甲状腺癌、濾胞性甲状腺癌、未分化甲状腺癌、腎癌、腎実質癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛癌、膵癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、膀胱癌、黒色腫、脳腫瘍、例えばグリア芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽腫及び末梢性神経外胚葉腫瘍、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性髄膜腫、基底細胞腫、テラトーマ、網膜芽細胞腫、脈絡膜黒色腫、セミノーマ、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉種、線維肉種、ユーイング肉種及び形質細胞腫。好ましくは、上記癌は当分野で公知の多様な種の癌であり、以下のものを含む:神経芽細胞腫、腸癌、例えば直腸癌、結腸癌、家族性腺腫性ポリポーシス性癌及び遺伝性非ポリポーシス性結腸直腸癌、食道癌、口唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、髄様甲状腺癌、乳頭様甲状腺癌、濾胞性甲状腺癌、未分化甲状腺癌、腎癌、腎実質癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛癌、膵癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、膀胱癌、黒色腫、脳腫瘍、例えばグリア芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽腫及び末梢性神経外胚葉腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病リンパ腫、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性髄膜腫、基底細胞腫、テラトーマ、網膜芽細胞腫、脈絡膜黒色腫、セミノーマ、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉種、線維肉種、ユーイング肉種及び形質細胞腫。
【0016】
特に、上記癌は、転移性結腸癌(結腸直腸(大腸)癌としても知られる)、非小細胞肺癌、腎細胞癌、多形性膠芽腫、卵巣癌、転移性前立腺癌、及び膵癌からなる群より選択されることが想定される。
【0017】
また、本発明の方法では、抗血管新生療法を必要とする被験体が、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性、関節リウマチ又は乾癬に罹患していることも考えられる。
【0018】
さらに、本発明では、被験体が、心血管系合併症に罹患するリスクがあること、又は心血管系合併症に罹患している被験体であることもそれぞれ想定される。上記心血管系合併症は、臨床的に明らかな場合もあるが、臨床的にまだ明らかではない場合もある。本発明の方法は、抗血管新生療法によりすでに存在する心血管系合併症が悪化する又はそのリスクが高くなる可能性があるため、特に、こうした被験体に有益である。本発明の方法により、抗血管新生療法の結果として、心血管の状態が悪化する又は悪化しない被験体を同定することができる。
【0019】
「心血管系合併症」に罹患している被験体は、好ましくは心血管系疾患、機能障害、又は当業者に公知の事象に罹患している被験体である。特に、上記被験体は、虚血性心疾患、心不全、冠動脈性疾患(特に安定性冠動脈性疾患)、虚血性心疾患、拡張型心筋症、安定狭心症、うっ血性心不全の臨床症状を呈示しうる。
【0020】
心血管系合併症に罹患している被験体は、臨床症状(例えば、呼吸困難、胸の痛み;また、以下のNYHA分類を参照のこと)を呈示しうる。特に、心血管系疾患の症状は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による機能的分類体系に分類されている。クラスIの患者には、心血管系疾患のはっきりとした症状はない。身体活動に制限はなく、通常の身体活動を行っても過度の疲労、動悸又は呼吸困難(息切れ)を引き起こさない。クラスIIの患者は身体活動にわずかに制限がある。これらの患者は安静時は快適であるが、通常の身体活動で疲労、動悸又は呼吸困難を生じる。クラスIIIの患者は身体動作に著しい制限が認められる。これらの患者は安静時は快適であるが、通常以下の身体活動で疲労、動悸又は呼吸困難が生ずる。クラスIVの患者は不快感なしにいずれの身体活動も行うことができない。これらの患者は安静時でも心臓の機能不全の症状を示す。どんな身体活動でも行うと、不快感が増大する。心血管系合併症の別の特徴は、「左心室駆出率」(LVEF)(また、「駆出率」としても知られる)であろう。健康な心臓を有する個体は通常、LVEFが損なわれておらず、これは一般には50%を超えると記載されている。症候性の収縮期心疾患を有するほとんどの個体は40%以下のLVEFを有する。
【0021】
好ましくは、本発明において心血管系合併症に罹患している被験体は、中間のNYHAクラス、好ましくはNYHAクラスI、II又はIII、最も好ましくはNYHAクラスIIに割り当てることができる。
【0022】
また、抗血管新生療法を必要とする被験体は、心血管系合併症が検出されていない(本発明の方法を実施する時点で、さらに正確には、分析しようとするサンプルが取得された時点で、検出されていない)被験体である。
【0023】
本明細書で用いられる「抗血管新生療法」という用語は、好ましくは血管(好ましくは新生血管、より好ましくは心筋に血液を送る、従って心筋に供給する血管)の形成を低減又は阻害することを目的とする治療レジメンを包含し、従って、血管新生、特に、心筋に血液を送達する血管の形成を阻害することができる治療レジメンを包含する。上記治療レジメンは当分野で周知であり、好ましくは既存の血管、及び/又は上皮前駆細胞から新しい血管の形成を低減/阻害するものである。好ましくは、抗血管新生療法は、薬物に基づく抗血管新生療法に関する。
【0024】
好ましくは、抗血管新生療法に使用すべき薬物は低い心臓毒性しかなく、さらに好ましくは、上記薬物は心臓毒性が一切なく、従って、心臓毒性ではない。本発明に関連して、薬物は、好ましくは、心筋細胞が該薬物と接触したときに、心筋細胞の損傷及び/又は壊死を誘発する場合には、心臓毒性であるとみなされる。本発明に関連して、心臓毒性薬物は、心筋細胞と直接接触したときに、心筋細胞の損傷及び/又はアポトーシス(好ましくは、心筋細胞の損傷及び/又は心筋細胞のアポトーシス)を誘発する薬物である。薬物が、直接接触したときに、心筋細胞の損傷及び/又はアポトーシスを誘発するか否かを決定する方法は当分野において周知である。
【0025】
本発明の方法は、VEGFアンタゴニスト(好ましくは、VEGF-Aアンタゴニスト)、特にVEGFに特異的な(好ましくは、VEGF-Aに特異的な)抗体で処置される被験体に特に有利である。従って、抗血管新生療法は、好ましくはVEGFアンタゴニストの摂取、より好ましくはVEGFに対する抗体の摂取、最も好ましくはVEGF-Aに対する抗体の摂取により行われる。「VEGFアンタゴニスト」という用語は、好ましくはVEGF活性を阻害、低減又は干渉することができる分子に関し、該活性としては1以上のVEGF受容体、特にVEGF受容体1又は2(VEGFR-1又はVEGFR-2)との結合が挙げられる。WO/2008/063932号(開示内容についてその全文を参照として本明細書に組み込むものとする)は、様々なVEGFアンタゴニストを記載している。好ましくは、用語「抗血管新生療法」は、VEGFに特異的に結合し、これにより、少なくとも1つのVEGF受容体との、特にVEGF受容体1又は2(VEGFR-1又はVEGFR-2)との相互作用に負の影響をもたらす抗VEGF抗体により行われる。VEGFアンタゴニストはまた、好ましくは、VEGFを標的とするアンチセンス分子、VEGFを標的とするRNAアプタマー、並びにVEGF又はVEGF受容体(特にVEGFR-1又はVEGFR-2)を標的とするリボザイムも包含する。
【0026】
抗VEGF抗体として、限定するものではないが、抗体A4.6.1、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))、ラニビズマブ(Lucentis(登録商標)、WO98/45331号又はChenら、J Mol Biol 293:865-881 (1999)を参照)G6、B20、2C3、並びに、例えば、以下の文献に記載されているその他のものがある:US2003/0190317、米国特許第6,582,959号及び第6,703,020号;WO98/45332号;WO2005/044853号;EP 0666868B1;並びにPopkovら、Journal of Immunological Methods 288:149-164 (2004)。最も好ましくは、本発明の抗VEGF抗体はベバシズマブである。
【0027】
本発明の方法では、以下に挙げるものも抗血管新生療法に適しているものとして想定される:腫瘍壊死因子αに対する抗体、低分子量チロシンキナーゼ阻害薬、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害薬(マリマスタット、AG3340、COL-3、ネオバスタット、BMS-275291)、内皮細胞の細胞増殖及び細胞遊走を阻害する薬物、血管新生の刺激因子に負の制御をもたらす薬物、内在性血管新生阻害物質の形成を刺激する薬物、血管新生刺激因子の結合を阻害する薬物、内皮細胞のアポトーシスを誘導する薬物、内皮細胞のアポトーシスを誘導する薬物、内皮細胞の細胞遊走を阻害する薬物。また、本発明の方法では、低分子量EGFR阻害剤(上皮増殖因子受容体アンタゴニスト)、例えばエルロチニブ、ゲフィチニブ、及びラパチニブも想定される。さらに、エンドスタチン(O'Reillyら、(1997) Cell 88: 277-285)、アンジオスタチン(O'Reillyら、(1994) Cell 79: 315-328)も想定される。
【0028】
PlFGに対する抗体及びPlGFのアンタゴニスト(PlGF:胎盤増殖因子)が抗血管新生薬であることは当分野において公知である。しかし、抗体は腫瘍内の血管の成長を阻害するが、心血管系に有意に有害な副作用をもたらさないことが明らかにされた(Fischer ら、2007, Cell, 131, 463-475参照)。従って、本発明に関連して、抗血管新生療法は、好ましくは、P1GFのアンタゴニストの投与を含まず、より好ましくは、この用語は、PlGFに特異的に結合する抗体の投与を含まない。
【0029】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、又は組織若しくは器官に由来するサンプルを意味する。体液のサンプルは周知技術によって取得することができ、好ましくは、血液、血漿、血清、又は尿のサンプルを含み、好ましくは、血液、血漿又は血清のサンプルを含む。組織又は器官サンプルは、例えば生検によって、任意の組織又は器官から取得することができる。分離細胞は、遠心又はセルソーティング等の分離技術によって、体液又は組織若しくは器官から取得することができる。好ましくは、細胞、組織又は器官サンプルは、本明細書に記載するペプチドを発現又は産生する細胞、組織又は器官から取得する。
【0030】
本発明の方法は、抗血管新生療法を開始すべき被験体についてのものである。従って、サンプルは、好ましくは、抗血管新生療法を開始する直前に取得する。特に、抗血管新生療法を開始する前の1日以内、3日以内、1週間以内、より好ましくは1ヶ月以内にサンプルを取得することが想定される。
【0031】
「心筋トロポニン」という用語は、心臓の細胞、好ましくは心内膜下の細胞で発現される全てのトロポニンアイソフォームを意味する。これらのアイソフォームは、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4: 681-686 及び Ferrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に記載されるように、当技術分野で十分に特性決定されている。好ましくは、心筋トロポニンは、トロポニンT及び/又はトロポニンIを指す。本発明に関して最も好ましい心筋トロポニンはトロポニンTである。
【0032】
ヒトトロポニンT及びヒトトロポニンIのアミノ酸配列は、Anderson, 前掲及びFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に開示されている。「心筋トロポニン」という用語はまた、上述の特定のトロポニンの変異体、すなわち、好ましくはトロポニンT又はトロポニンIの変異体を包含する。そのような変異体は、特定の心筋トロポニンと少なくとも同一の本質的な生物学的性質及び免疫学的性質を有する。具体的には、上記変異体が、本明細書において記載する同一の特定のアッセイにより、例えば、該心筋トロポニンを特異的に認識するポリクロナール抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイにより、検出可能な場合には、それらは、同一の本質的な生物学的性質及び免疫学的性質を有する。さらに、本発明に関して記載する変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加に起因して異なるアミノ酸配列を有し、この場合、変異体のアミノ酸配列は、依然として、好ましくは、特定のトロポニンのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を有することが理解されるだろう。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定することができる。好ましくは、同一性の程度は2つの最適にアライメントした配列を比較ウインドウにわたって比較することにより決定され、その際、比較ウインドウ中のアミノ酸配列の断片は最適なアライメントのために、参照配列(付加若しくは欠失を含んでいない)と比較して付加若しくは欠失(例えば、ギャップやオーバーハング)を含んでいてもよい。パーセンテージは2つの配列の双方で同一のアミノ酸残基が存在する位置の数から一致している位置の数を求め、一致している位置の数を比較ウインドウ中の位置の総数で除し、その解に100を乗じて、配列同一性のパーセンテージを得ることにより算出される。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith及びWatermannのローカルホモロジーアルゴリズム(Add. APL. Math. 2:482(1981))によって、Needleman及びWunschのホモロジーアライメントアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443(1970))によって、Pearson及びLipmanの類似性探索法(Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 85:2444(1988))によって、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group(GCG), 575 Science Dr., Madison, WI中のGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)によって、又は目視による検討により行うことができる。比較のために2つの配列が同定されている場合は、GAP及びBESTFITを用いてそれらの最適なアライメントを決定することによって、同一性の程度を求めることが好ましい。好ましくは、ギャップウエイトについてのデフォルト値5.00、ギャップウエイトレングスについてのデフォルト値0.30を用いる。上記変異体は、アレル変異体、又は他の任意の生物種特異的なホモログ、パラログ若しくはオーソログであってもよい。さらに、本明細書において記載する変異体としては、特定のポリペプチド又は上述のタイプの変異体の断片が、上に記載した本質的な免疫学的性質及び生物学的性質を有するものである限り、含まれる。そのような断片は、例えば、ポリペプチドの分解産物でありうる。さらには、リン酸化やミリスチル化のような翻訳後修飾に起因して異なる変異体が挙げられる。
【0033】
本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドの量の測定は、その量又は濃度を、好ましくは半定量的又は定量的に測定することに関する。測定は、直接的又は間接的に実施可能である。直接的測定は、ペプチド自体又はポリペプチド自体から得られるシグナル及びサンプル中に存在するペプチドの分子数と直接的に相関するシグナル強度に基づいてペプチド又はポリペプチドの量又は濃度を測定することに関する。そのようなシグナル(本明細書中では強度シグナルと称することもある)は、例えば、ペプチド又はポリペプチドの特定の物理的性質又は化学的性質の強度値を測定することにより取得可能である。間接的測定としては、二次成分(すなわち、ペプチド自体でもポリペプチド自体でもない成分)、又は生物学的読取り系、例えば、測定可能な細胞応答、リガンド、標識、若しくは酵素反応生成物から得られるシグナルを測定することが挙げられる。
【0034】
本発明において、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するためのすべての公知の手段により達成可能である。該手段は、種々のサンドイッチアッセイ方式、競合アッセイ方式、又は他のアッセイ方式で標識分子を利用しうるイムノアッセイのデバイス及び方法を含む。該アッセイでは、ペプチド又はポリペプチドの存在又は不在の指標となるシグナルが発生するであろう。さらに、シグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量に直接的又は間接的に相関する(例えば反比例する)ものもある。さらなる好適な方法は、ペプチド又はポリペプチドに特異的な物理的性質又は化学的性質、例えば、その正確な分子質量又はNMRスペクトルを測定することを含む。該方法としては、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイに連結された光学デバイス、バイオチップ、分析装置、例えば、質量分析計、NMR分析器、又はクロマトグラフィー装置が含まれる。さらに、方法としては、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化若しくはロボット化イムノアッセイ(例えば、ElecsysTM分析器を用いて実施可能)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ、例えば、Roche-HitachiTM分析器を用いて実施可能)、及びラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-HitachiTM分析器を用いて実施可能)が挙げられる。
【0035】
好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、(a)その強度がペプチド又はポリペプチドの量の指標となる細胞応答を引き起こすことができる細胞を、適切な時間にわたり、該ペプチド又はポリペプチドと接触させるステップ、及び(b)細胞応答を測定するステップを含む。細胞応答を測定するために、好ましくは、サンプル又は処理済サンプルを細胞培養物に添加して、内部又は外部の細胞応答を測定する。細胞応答としては、レポーター遺伝子の測定可能な発現、又はペプチド、ポリペプチド若しくは小分子などの物質の分泌が挙げられる。発現又は物質は、ペプチド又はポリペプチドの量と相関する強度シグナルを生成するものとする。
【0036】
また好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチド又はポリペプチドから取得可能な特異的強度シグナルを測定するステップを含む。以上に記載したように、そのようなシグナルは、質量スペクトルで観測されるペプチド若しくはポリペプチドに特異的なm/z変量又はペプチド若しくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルで観察されるシグナル強度でありうる。
【0037】
ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、好ましくは、(a)ペプチドを特異的リガンドに接触させるステップ、(b)(場合により)非結合リガンドを除去するステップ、及び(c)結合リガンドの量を測定するステップを含む。結合リガンドは、強度シグナルを生成するであろう。本発明において、結合は、共有結合及び非共有結合の両方を包含する。本発明において、リガンドは、本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドに結合する任意の化合物、例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸又は小分子でありうる。好ましいリガンドとしては、抗体、核酸、ペプチド又はポリペプチド、例えば、ペプチド又はポリペプチドに対するレセプター又は結合性パートナー、及び、ペプチドに対する結合ドメインを含むそれらの断片、並びにアプタマー、例えば、核酸アプタマー又はペプチドアプタマーが挙げられる。そのようなリガンドの調製方法は、当技術分野で周知である。例えば、好適な抗体又はアプタマーの同定及び作製もまた、供給業者により提供される。当業者は、より高いアフィニティ又は特異性を有するそのようなリガンドの誘導体の開発方法に精通している。例えば、ランダム突然変異を核酸、ペプチド又はポリペプチドに導入することが可能である。次に、当技術分野で公知のスクリーニング手順、例えば、ファージディスプレイにより、これらの誘導体を結合に関して試験することが可能である。本明細書において記載する抗体には、ポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の両方、並びにそれらのフラグメント、例えば、抗原又はハプテンに結合可能なFv、Fab、及びF(ab)2フラグメントが含まれる。本発明はまた、一本鎖抗体、及び所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とが組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体を包含する。ドナー配列は、通常、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造上及び/又は機能上関連するアミノ酸残基を含んでもよい。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製可能である。好ましくは、リガンド又は作用剤は、ペプチド又はポリペプチドに特異的に結合する。本発明において、特異的結合は、リガンド又は作用剤が分析対象のサンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチド又は物質に実質的に結合する(それらと「交差反応する」)ものであってはならないことを意味する。特異的に結合するペプチド又はポリペプチドは、任意の他の関連するペプチド又はポリペプチドより好ましくは少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらにより好ましくは少なくとも50倍高いアフィニティで結合する必要がある。非特異的結合は、それが、例えば、ウェスタンブロット上のサイズにより又はサンプル中の比較的高い存在量により、依然として同定可能でありかつ明確に測定可能である場合には、許容できる。リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法により測定可能である。好ましくは、該方法は、半定量的又は定量的である。好適な方法について、以下で説明する。
【0038】
第1に、リガンドの結合は、例えば、NMR又は表面プラズモン共鳴により、直接測定できる。
【0039】
第2に、リガンドが対象ペプチド又は対象ポリペプチドの酵素活性の基質としても機能する場合には、酵素反応生成物を測定することが可能である(例えば、切断された基質の量を、例えばウェスタンブロットにおいて、測定することにより、プロテアーゼの量を測定することが可能である)。あるいは、リガンドが酵素の性質自体を呈するものであれば、「リガンド/ペプチド若しくはポリペプチド」複合体又はそれぞれペプチド若しくはポリペプチドと結合したリガンドを好適な基質と接触させて、強度シグナルの生成により検出を行うことが可能である。酵素反応生成物の測定では、好ましくは、基質の量は飽和状態である。また、反応前に、検出可能な標識で基質を標識することも可能である。好ましくは、サンプルを適切な時間にわたり基質と接触させる。適切な時間とは、検出可能な(好ましくは測定可能な)量の生成物が生成するのに必要な時間を意味する。生成物の量を測定する代わりに、所与の(例えば検出可能な)量の生成物が出現するのに必要な時間を測定することも可能である。
【0040】
第3に、リガンドを共有結合又は非共有結合で標識に結合させることにより、リガンドの検出及び測定を行うことが可能である。標識は、直接的又は間接的な方法により実施可能である。直接的標識は、標識をリガンドに(共有結合又は非共有結合で)直接結合させることを含む。間接的標識は、一次リガンドに二次リガンドを(共有結合又は非共有結合で)結合させることを含む。二次リガンドは、一次リガンドに特異的に結合するものでなければならない。該二次リガンドは、好適な標識に結合させてもよいし、かつ/又は二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(レセプター)であってもよい。シグナルを増大させるために、二次、三次又はより高次のリガンドが用いられることもある。好適な二次及びより高次のリガンドとしては、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が挙げられる。当技術分野で公知のように、リガンド又は基質を1種以上のタグで「タグ標識」することも可能である。その場合、そのようなタグは、より高次のリガンドの標的でありうる。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端に存在する。好適な標識は、適切な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば「磁性ビーズ」、常磁性標識及び超常磁性標識など)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素活性標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に好適な基質としては、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート、Roche Diagnosticsから既製のストック溶液として入手可能)、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)が挙げられる。好適な酵素-基質の組み合わせを用いれば、当技術分野で公知の方法(例えば、感光性フィルム又は好適なカメラシステムを用いる方法)により測定できる呈色反応生成物、蛍光又は化学発光を生成させることが可能である。酵素反応の測定に関しては、上に示した判定基準が同じように適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えば、Alexa 568)が挙げられる。さらなる蛍光標識は、例えば、Molecular Probes(Oregon)から入手可能である。さらに、蛍光標識として量子ドットの使用も想定される。典型的な放射性標識としては、35S、125I、32P、33Pなどが挙げられる。放射性標識は、任意の公知の適切な方法、例えば、感光性フィルム又はホスファーイメージャーにより、検出可能である。本発明において好適な測定方法としては、この他に、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電解発生化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、比朧法、ラテックス増強比濁法若しくはラテックス増強比朧法、又は固相免疫試験が挙げられる。当技術分野で公知のさらなる方法(例えば、ゲル電気泳動、2次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロッティング、及び質量分析)を、単独で、又は標識化若しくは上に記載の他の検出方法と組み合わせて、使用することが可能である。
【0041】
ペプチド又はポリペプチドの量はまた、好ましくは、次のように測定することができる:(a)上で特定されたペプチド又はポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、ペプチド又はポリペプチドを含むサンプルと接触させて、(b)支持体に結合したペプチド又はポリペプチドの量を測定する。リガンド(好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体、及びアプタマーからなる群より選択される)は、好ましくは、固相化形態で固体支持体上に存在する。固体支持体を製造するための材料は、当技術分野で周知であり、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレーのウェル及び壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。リガンド又は作用剤は、多種多様な担体に結合可能である。周知の担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然セルロース及び変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、並びにマグネタイトが挙げられる。担体の性質は、本発明の目的では、可溶性又は不溶性のいずれも可能である。該リガンドの固定化/固相化に好適な方法は、周知であり、例えば限定されるものではないが、イオン性相互作用、疎水性相互作用、共有結合相互作用などが挙げられる。本発明では、アレイとして「懸濁アレイ」を使用することも想定される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1): 9-12)。そのような懸濁アレイでは、マイクロビーズやマイクロスフェアなどの担体は、懸濁状態で存在する。アレイは、標識化されていてもよい、さまざまなリガンドを担持するさまざまなマイクロビーズ又はマイクロスフェアで構成される。そのようなアレイ、例えば、固相化学及び光感受性保護基に基づくアレイの製造方法は、広く知られている(米国特許第5,744,305号)。
【0042】
本明細書で用いる「量」という用語は、ポリペプチド若しくはペプチドの絶対量、該ポリペプチド若しくはペプチドの相対量、又は該ポリペプチド若しくはペプチドの相対濃度、さらにはそれらと相関する若しくはそれから導くことのできる任意の値若しくはパラメータを包含する。そのような値又はパラメータは、直接的測定により該ペプチドから得られるいずれも特異的な物理的性質又は化学的性質に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルの強度値を含む。さらに、本明細書中の他の箇所に記載された間接的測定により得られるすべての値又はパラメータ、例えば、ペプチドに応答する生物学的読取り系から決定される応答レベル、又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが含まれる。上述の量又はパラメータと相関する値もまた、いずれも標準的な数学演算により取得可能であることが理解されよう。
【0043】
本明細書において用いられる「比較する」という用語は、分析対象のサンプルに含まれるペプチド又はポリペプチドの量を、本明細書の他の箇所において記載された適当な参照源の量と比較することを包含する。本明細書で用いる比較は、対応するパラメータ又は値の比較を意味すると理解される。例えば、絶対量は絶対参照量と比較され、濃度は参照濃度と比較され、又は試験サンプルから得られた強度シグナルは、参照サンプルの同一タイプの強度シグナルと比較される。本発明の方法のステップ(b)に記載の比較は、手動で実施してもよいし又はコンピュータにより支援してもよい。コンピュータにより支援される比較では、測定量の値をデータベース中に格納された適当な参照に対応する値とコンピュータプログラムにより比較することが可能である。コンピュータプログラムはさらに、比較の結果を評価することが可能である。すなわち、好適な出力形式で所望の評価を自動で提供することが可能である。ステップ(a)において測定された量と参照量との比較に基づいて、被験体が抗血管新生療法を受容可能であるか否かを評価することが可能である。従って、参照量は、比較した量の差異又は類似性のいずれかにより抗血管新生療法を受容可能である被験体を同定可能なように選択すべきである。
【0044】
従って、本明細書において用いられる「参照量」という用語は、抗血管新生療法を受容可能である又は受容可能ではない被験体を同定することができるポリペプチドの量を意味する。従って、参照は、(i)抗血管新生療法を受容可能であることがわかってる被験体(特に、その癌の治療が成功し、抗血管新生療法の有害な副作用、例えば心不全及び/又は心血管系事象を患わなかった被験体)、あるいは(ii)抗血管新生療法を受容可能ではないことがわかっている被験体(例えば、該療法の有害な副作用、例えば心不全及び/又は心血管系事象を患った被験体)のいずれかから導くことができる。
【0045】
さらに、参照量は好ましくは閾値を規定する。適当な参照量又は閾値量は、試験サンプルと共に(すなわち同時に又は順次的に)分析しようとする参照サンプルから本発明の方法により決定することができる。閾値として用いうる好ましい参照量は、正常値の上限(ULN)、すなわち被験体集団(例えば臨床試験に登録された患者)において見出される生理学的な量の上限値から導くことができる。所与の被験体集団のULNを種々の周知の技法により決定することができる。
【0046】
より好ましくは、参照は、参照被験体の群(すなわち抗血管新生療法を受容可能であることがわかっている被験体群、抗血管新生療法を受容可能ではないことがわかっている被験体群)、試験対象の被験体を含む集団について少なくとも1つの特徴的な特性の値を測定し、本明細書の他の箇所で記載しているものなどの適当な統計学的方法(例えば中央値、平均、四分位、PLS-DA、ロジスティック回帰法、ランダムフォレスト分類(random forest classification)又は閾値を与える他の方法)によって参照を算出することによって得られるだろう。閾値は、診断及び予後判定試験の感度及び特異度の所望の臨床設定を考慮に入れるべきである。
【0047】
従って、本発明に関して記載する、心筋トロポニン、好ましくはトロポニンTの閾値量を規定する参照量は、好ましくは7 pg/ml、より好ましくは30又は20 pg/ml、さらにより好ましくは10 pg/mlである。
【0048】
好ましくは、心筋トロポニンの参照量よりも少ない量の心筋トロポニンは、被験体が抗血管新生療法を受容可能であることを示す。
【0049】
好ましくは、心筋トロポニンの参照量よりも多い量の心筋トロポニンは、被験体が抗血管新生療法を受容可能ではないことを示す。この被験体については、抗血管新生療法以外の治療法を検討すべきである。また本発明では、抗血管新生療法を受容可能ではない被験体が、好ましくはPlGFアンタゴニスト、好ましくはPlGFに対する抗体(PlGF:胎盤増殖因子、本明細書中のPlGFに関する説明を参照のこと)を用いた治療法を受容可能であることが想定される。従って、一実施形態において、本発明の方法により、被験体が抗血管新生療法又はPlGF抗体を用いる治療法に適格であるか否かを区別することが可能となる。
【0050】
抗血管新生薬による処置を受ける腫瘍患者は、急性心血管系事象及び心不全(上記参照)のリスクが増大する。本発明の基礎となる研究では、心筋トロポニンTの量の測定、及びその測定量と参照量との比較が、抗血管新生療法を受容可能な腫瘍患者又は抗血管新生療法を受容可能ではない腫瘍患者を信頼性をもって同定するために必要であるという知見であった。
【0051】
本発明に関して行われた実験は、心筋トロポニンレベルの増加を示す被験体が抗血管新生薬を用いて治療すべきではないことを強く示唆している。その理由は、これらの患者が、将来的に急性心血管系事象を患うリスクが上昇しているためである。抗血管新生薬は、腫瘍内の新生血管の形成を阻止するだけではなく、新生血管の形成が望まれるアテローム硬化性領域における新生血管の形成をも阻止する。本発明に関して行われた実験の結果は、本明細書で記載するバイオマーカーレベルの増加が、新生血管の成長及び/又は形成を防止する薬物の摂取の際に、急性心血管系事象のリスクが上昇することを示している。具体的には、種々の腫瘍を有する患者を含む患者コホートの血清サンプルにおいてトロポニンTの量を測定した。この実験では、腫瘍患者における心血管系合併症の有病率が予測されたよりもはるかに高く、抗血管新生療法からあまり利益を受けないと思われる被験体、具体的には事前に検出されない心血管系合併症を有する被験体を同定する必要が明らかにあることが示された。患者が抗血管新生療法を受容可能ではないことがわかった場合には、リスクのある被験体に行おうとする高いコストの療法を回避することができる。
【0052】
さらに、本発明の方法は、携帯可能なシステム、例えば試験ストリップにおいて実施することができるため、有利である。
【0053】
まとめると、トロポニンT量が増加している患者は、抗血管新生薬物療法を受けた場合に(該療法の結果として)、心不全及び/又は急性心血管系事象に罹患するリスクが高い。その量が増加していない患者は、抗血管新生薬物療法を受けた場合に心不全及び/又は急性心血管系事象に罹患するリスクが高くない。
【0054】
さらに、トロポニンTに加えて、NT-proBNPの量もまた上で記載した患者のサンプルにおいて測定した。NT-proBNPの測定によって、さらに診断及び予後判定の価値が付加されることが示された。この結果は、NT-proBNP及びトロポニンTの両方のレベルが増加している被験体が、抗血管新生療法の薬物治療を受けた場合に、心血管系事象を患うリスクが高いことを示す。従って、ナトリウム利尿ペプチド及び心筋トロポニンの両方を測定する場合には、心筋トロポニンを単一マーカーとして単独で測定する場合と比較して、被験体の統計学的により有意な割合を正確に同定することができる。しかし、心筋トロポニン単独の測定でも、高い有意性で被験体を同定することが可能である。
【0055】
従って、本発明の方法は、患者のサンプルにおけるナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップと、そのように測定された量を参照量と比較するステップをさらに含む。
【0056】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型及び脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型のペプチド、並びに同じ予想能力を有するそれらの変異体を含む。本発明において、ナトリウム利尿ペプチドはANP型及びBNP型のペプチドとそれらの変異体を含む(例えば、Bonow, 1996, Circulation 93: 1946-1950を参照)。ANP型ペプチドはプレ-プロANP、プロANP、NT-proANP(NT-プロANP)、及びANPを含む。BNP型ペプチドはプレ-プロBNP、プロBNP、NT-proBNP(NT-プロBNP)、及びBNPを含む。プレ-プロペプチド(プレ-プロBNPの場合、134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含んでおり、これは酵素的に切断されてプロペプチドを放出する(プロBNPの場合、108アミノ酸)。このプロペプチドはさらにN末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-proBNPの場合、76アミノ酸)及び活性ホルモン(BNPの場合、32アミノ酸、ANPの場合、28アミノ酸)に切断される。本発明において好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proANP、ANP、NT-proBNP、BNP、及びそれらの変異体である。ANP及びBNPは活性ホルモンでありかつそれぞれの不活性対応物であるNT-proANP及びNT-proBNPより短い半減期を有する。BNPは血液中で代謝されるが、NT-proBNPは血液中で無傷分子として循環し、それ自体は腎で排出される。NT-proBNPのin-vivo半減期は、20分であるBNPの半減期より120分長い(Smith 2000, J Endocrinol. 167: 239-46)。NT-proBNPの分析前状態はより頑強で、サンプルの中央実験室への輸送が容易である(Mueller 2004, Clin Chem Lab Med 42: 942-4)。血液サンプルは室温にて数日間貯蔵することができ、又は郵送若しくは配送しても回収ロスはない。対照的に、BNPの室温又は4℃における48時間貯蔵は、少なくとも20%の濃度低下をもたらす(Mueller 前掲、Wu 2004, Clin Chem 50: 867-73)。それ故に、時間経過又は目的の性質に応じて、ナトリウム利尿ペプチドの活性型又は不活性型のいずれかの測定が有利でありうる。本発明においてより好ましいナトリウム利尿ペプチドは、BNP及びNT-proBNP又はそれらの変異体である。本発明において最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proBNP又はそれらの変異体である。上で簡単に考察した通り、本発明に関して記載するヒトNT-proBNPは、ヒトNT-proBNP分子のN末端部分に対応する、好ましくは76アミノ酸長を含むポリペプチドである。ヒトBNP及びNT-proBNPの構造は、先行技術において、例えば、WO 02/089657号、WO 02/083913号、又はBonow 前掲において、既に詳細に記載されている。好ましくは、本発明で使用されるヒトNT-proBNPはEP 0 648 228 B1に開示されたヒトNT-proBNPである。これらの先行技術の文献は、そこに開示されたNT-proBNP及びその変異体の特定の配列について参照により本明細書に組み入れるものとする。本発明において記載するNT-proBNPはさらに、上述したヒトNT-proBNPの上記特定の配列のアレル変異体及び他の変異体を包含する。具体的には、ヒトNT-proBNPに対して、アミノ酸レベルで少なくとも60%の同一性、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有する変異体ポリペプチドが想定される。同一性の程度を決定する方法は本明細書の他の箇所に記載されている。さらに、診断手段により又はそれぞれの全長ペプチドに対するリガンドにより認識されるタンパク質分解生成物もまた実質的に類似し、また想定される。また、ヒトNT-proBNPのアミノ酸配列と比較してアミノ酸欠失、置換及び/又は付加を有する変異体ポリペプチドは、上記ポリペプチドがNT-proBNPの性質を有する限りにおいて、包含される。本明細書において記載するNT-proBNPの性質は免疫学的及び/又は生物学的性質である。好ましくは、上記NT-proBNP変異体は、NT-proBNPの免疫学的性質と同等の免疫学的性質(すなわちエピトープ組成)を有する。従って、上記変異体はナトリウム利尿ペプチドの量の測定に用いられる上記の手段又はリガンドにより認識可能である必要がある。NT-proBNPの生物学的及び/又は免疫学的性質は、Karlら(Karl 1999, Scand J Clin Invest 230:177-181)、Yeoら(Yeo 2003, Clinica Chimica Acta 338:107-115)に記載のアッセイにより検出することができる。変異体にはまた、翻訳後修飾ペプチド、例えばグリコシル化ペプチドなども含まれる。さらに、本発明において、変異体はまた、サンプルの採取後に修飾された、例えば、標識(特に放射性又は蛍光標識)とペプチドとの共有結合又は非共有結合により修飾されたペプチド又はポリペプチドである。
【0057】
適当な参照量を決定する方法は、本明細書において上に記載している。
【0058】
本発明に関して記載する、ナトリウム利尿ペプチド、好ましくはNT-proBNPの閾値量を規定する参照量は、好ましくは250 pg/ml、400、500又は1000 pg/mlである。NT-proBNPの上記閾値のうち、250 pg/mlが最も好ましい閾値である(好ましくは血清サンプル中の閾値)。
【0059】
好ましくは、心筋トロポニンの参照量よりも少ない量の心筋トロポニン及びナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも少ない量のナトリウム利尿ペプチドは、被験体が抗血管新生療法を受容可能であることを示す。
【0060】
好ましくは、心筋トロポニンの参照量よりも多い量の心筋トロポニン及びナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも多い量のナトリウム利尿ペプチドは、被験体が抗血管新生療法を受容可能ではないことを示す。この被験体については、抗血管新生療法以外の治療法を検討すべきである。
【0061】
被験体のサンプルにおいて、(i)心筋トロポニンの量が心筋トロポニンの参照量よりも多く、ナトリウム利尿ペプチドの量がナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも少ない場合、又は(ii)心筋トロポニンの量が心筋トロポニンの参照量よりも少なく、ナトリウム利尿ペプチドの量がナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも多い場合には、該被験体を抗血管新生薬を用いて処置する場合に注意深くモニターする必要がある。
【0062】
さらに本発明は、将来的な抗血管新生療法の結果としての急性心血管系事象のリスクを予測する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定するステップ、
(b)ステップ(a)で測定された心筋トロポニンの量を心筋トロポニンの適当な参照量と比較するステップ、及び
(c)該被験体について将来的な抗血管新生療法(好ましくは、将来的な抗血管新生薬の摂取)の急性心血管系事象のリスクを予測するステップ
を含む方法に関する。
【0063】
「予測する」という用語は、被験体が、(将来的に)抗血管新生薬を摂取する場合には、ある規定期間の窓(予測窓)内に、心血管系事象、好ましくは急性心血管系事象を発症する確率を評価することについて用いられる。そのため、上述した方法は、抗血管新生薬を受容する候補である被験体のリスクを評価するために特に有利である。従って、サンプルは、抗血管新生療法を開始する直前に取得することが好ましい。特に、抗血管新生療法を開始する前の1日以内、3日以内、1週間以内、より好ましくは1ヶ月以内にサンプルを取得することが想定される。
【0064】
予測窓とは、被験体が(抗血管新生薬を摂取した場合に)予測された確率で心血管系事象を発症する又は死亡する期間である。予測窓は、本発明の方法による分析時の、被験体の残りの全寿命とすることができる。しかし、好ましくは、予測窓は、抗血管新生療法を開始した後、1ヶ月、6ヶ月、又は1、2、3、4、5若しくは10年間の期間である。当業者であれば理解されようが、このような評価は通常は分析対象の被験体の100%について正確であることは意図していない。しかし、この用語は、分析対象の被験体のうちの統計学的に有意な一部について妥当であることを要する。ある一部が統計学的に有意であるかは、当業者であれば、追加の労力なく、様々な周知の統計学的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などを用いることによって決定することができる。詳細な内容は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。好ましくは、所与のコホートの少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%の被験体について、本発明により想定される確率で予想が正確となる。
【0065】
本明細書で用いられる「急性心血管系事象のリスクを予測する」という用語は、本発明の方法で分析される被験体を以下のいずれかに割り当てることをいう:正常、すなわち急性心血管系事象を発症するリスクが上昇していない、従って平均的なリスクの集団の被験体群、又はそのリスクが上昇した被験体群、又は有意にそのリスクが上昇した被験体群。本発明において記載するリスクの上昇(高いリスク)とは、所定の予測窓内で心血管系事象を発症するリスクが、ある被験体について、本明細書で規定する被験体集団の心血管系事象の平均リスクの点で上昇していることを意味する。平均リスクは、好ましくは1年間という予測窓で、1.5〜2.0%の範囲内、好ましくは2.0%未満である。本明細書で用いられるリスクの上昇とは、1年間という予測窓で、好ましくは2.0%超のリスク、好ましくは4.0%超、最も好ましくは3.0%〜5.0%のリスクに関する。本明細書で用いられるリスクの有意な上昇とは、1年間という予測窓で、好ましくは5.0%超のリスク、好ましくは5.0%〜8.0%の範囲内又はそれ以上のリスクに関する。
【0066】
急性心血管系事象は、好ましくは急性冠症候群(ACS)である。ACS患者は不安定狭心症(UAP)又は心筋梗塞(MI)を示す可能性がある。MIはST上昇型MI(STEMI)又は非ST上昇型MI(NSTEMI)でありうる。ACSを発症すると、それに引き続いて左心室機能不全(LVD)、及び心不全の症状が起こりうる。急性心血管系事象を診断する方法は当技術分野で周知である。
【0067】
好ましくは、被験体が抗血管新生療法を受けようとする場合、被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量が参照量よりも多いことは、急性心血管系事象のリスクが高い被験体を示す。好ましい参照量については本明細書の上記参照のこと。
【0068】
好ましくは、被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量が参照量よりも少ないことは、急性心血管系事象のリスクが高くない、従って平均的なリスクである被験体を示す(将来的に抗血管新生療法を受ける場合)。
【0069】
ナトリウム利尿ペプチドも測定する場合には、以下を適用する:
好ましくは、心筋トロポニンの参照量よりも少ない量の心筋トロポニン及びナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも少ない量のナトリウム利尿ペプチドは、急性心血管系事象のリスクが高くない、従って平均的なリスクである被験体を示す(好ましい参照量については本明細書の上記参照)。
【0070】
好ましくは、心筋トロポニンの参照量よりも多い量の心筋トロポニン及びナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも多い量のナトリウム利尿ペプチドは、急性心血管系事象のリスクが高い被験体を示す(好ましい参照量については本明細書の上記参照)。
【0071】
前述した方法のステップを実施することにより、上で定義した被験体について、好ましくは前記療法の結果としての、高血圧、心不全又は他の血管系事象(特に卒中、末梢動脈疾患、及び/若しくは腹部アンギーナ)に罹患するリスクも予測することができる。
【0072】
さらに、本発明は、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定するデバイスであって、抗血管新生療法を必要とする被験体のサンプルにおける心筋トロポニン(好ましくはトロポニンT)の量を測定する手段と、該手段によって測定された量を心筋トロポニンの参照量と比較する手段であって、これにより抗血管新生療法を受容可能な被験体が同定される及び/又は将来的に抗血管新生療法を受ける被験体における急性心血管系事象のリスクが予測される上記手段とを備えるデバイスに関する。
【0073】
好ましくは、前記デバイスは、被験体のサンプルにおけるナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPの量を測定する手段と、該手段により測定された量をナトリウム利尿ペプチドの参照量と比較する手段とをさらに備える。
【0074】
本明細書で用いられる「デバイス」という用語は、抗血管新生療法を受容可能である被験体の同定を可能にするために、互いが動作可能となるよう連結された少なくとも前記手段を含む手段からなるシステムに関する。心筋トロポニン及びナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための好ましい手段、並びに比較を実施するための手段は、本発明の方法に関連して上に開示されている。手段を動作可能に連結する方法は、デバイスに組み込まれる手段の種類に応じて異なる。例えば、ペプチドの量を自動的に測定する手段を適用する場合、所望の結果が得られるように、該自動作動手段により得られたデータを例えばコンピュータプログラムにより処理することが可能である。好ましくは、そのような場合、これらの手段は、単一のデバイス内に含まれる。従って、該デバイスは、アプライされたサンプル中のペプチド又はポリペプチドの量を測定するための分析ユニット、及び評価を行うべく得られたデータを処理するためのコンピュータユニットを備えることができる。他の選択肢として、ペプチド又はポリペプチドの量を測定するために検査ストリップのような手段を使用する場合、比較のための手段は、測定量を参照量に割り当てる対照ストリップ又は対照表を含んでもよい。検査ストリップは、好ましくは、本明細書中で記載されるペプチド又はポリペプチドに特異的に結合するリガンドと結合されている。ストリップ又はデバイスは、好ましくは、該リガンドへの該ペプチド又は該ポリペプチドの結合を検出する手段を含む。検出のための好ましい手段については、本発明の方法に関する実施形態に関連して上に開示されている。そのような場合、マニュアルに定められる指示及び解釈に基づいてシステムの利用者がその量の測定結果とその診断値又は予後判定値とを結びつけるという意味で、手段は動作可能に連結されている。手段は、そのような実施形態では、別個のデバイスとして存在してもよいが、好ましくは、キットとして一緒にパッケージングされる。当業者は、さらなる苦労なく手段を連結する方法を理解している。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識がなくても適用可能なものであり、例えば、単にサンプルを充填すればよい検査ストリップ又は電子デバイスである。結果は、臨床医による解釈を必要とする未加工データの出力として得ることができる。しかし好ましくは、デバイスの出力は、その解釈のために臨床医を必要としないように処理された、すなわち評価済の未加工データである。さらなる好ましいデバイスは、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、その量を測定しようとするポリペプチドを特異的に認識するリガンドに結合された固体支持体、表面プラズモン共鳴デバイス、NMR分光計、質量分析計など)、又は本発明の方法に関して上で参照した評価ユニット/デバイスを備える。
【0075】
また本発明では、本発明の方法の実施に適合されたキットであって、前記方法を実施するための説明書と、抗血管新生療法を必要とする被験体のサンプルにおける心筋トロポニン(好ましくはトロポニンT)の量を測定する手段と、該手段によって測定された量を心筋トロポニン(好ましくはトロポニンT)の参照量と比較する手段であって、抗血管新生療法を受容可能な被験体の同定及び/又は(将来的に)抗血管新生療法を受ける被験体における急性心血管系事象のリスクの予測を可能にする上記手段とを備えるキットも想定される。
【0076】
好ましくは、前記キットは、被験体のサンプルにおけるナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPの量を測定する手段と、該手段により測定された量をナトリウム利尿ペプチドの参照量と比較する手段とをさらに備える。
【0077】
本明細書で用いる「キット」という用語は、本発明の前記化合物、手段又は試薬の集合を指し、これらは一緒にパッケージングされてもよいし、されなくてもよい。キットの成分は別々のバイアルで(すなわち別の部分のキットとして)構成されてもよいし、又は単一バイアルで提供されてもよい。さらに、本発明のキットは、本明細書において前述した方法の実施に用いられることが理解されるだろう。好ましくは、全ての成分は、上に記載の方法を実施するために即時使用可能に提供されることが想定される。さらに、キットは前記方法を実施するための説明書を含むことが好ましい。説明書は、紙又は電子形式のユーザマニュアルにより提供され得る。例えば、マニュアルは、本発明のキットを用いて前述の方法を実施する際に得られた結果を解釈するための説明を含み得る。
【0078】
最後に、本発明は、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定するための心筋トロポニンの使用に関する。より好ましくは、本発明は、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定するための心筋トロポニン及びナトリウム利尿ペプチドの使用に関する。
【0079】
本明細書中で引用された参考文献はすべて、それらの全開示内容に関して参照により本明細書に援用されるものとし、かつ該開示内容は本明細書中に具体的に述べられているものとする。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は、本発明を説明するものにすぎず、本発明の範囲を限定するものであると解釈されるべきではない。
【0081】
[実施例1]
血清及び血漿サンプルにおけるトロポニンT及びNT-proBNPの測定
様々な形態の腫瘍に罹患している合計324人の患者においてトロポニンT及びNT-proBNPを測定した。驚くことに、腫瘍患者の大半(56%)は、心不全を示す125 pg/mlを超えるNT-proBNPレベルを示した。さらに、腫瘍患者の85%が、心臓組織の壊死を示す検出可能なレベルのトロポニンT(1 pg/mlより多いレベルのトロポニンT)を有した。患者の29%では、10 pg/mlをも超えるトロポニンTレベルが測定された。
【0082】
まとめると、本発明の基礎となる研究の結果は、心筋トロポニン(及びNT-proBNP)の測定によって、抗血管新生療法の結果として心血管系事象のリスクがある被験体を同定し、それゆえ抗血管新生療法を受容可能である又は受容可能ではない被験体を同定することができることを示している。
【0083】
[実施例2]
59歳の男性患者は進行性大腸癌に罹患している。患者は、冠動脈疾患の病歴があり、そのため2つの移植ステントを有している。進行性大腸癌のため適当な治療が必要である。患者を検査し、血清サンプルにおいてトロポニンT(11 pg/ml)及びNT-proBNP(620 pg/ml)を測定する。さらにLVEFを測定すると(35%)、低下した左心室の収縮期機能障害を示した。続いて被験体に心臓負荷検査を行う。心臓負荷検査は、非可逆性灌流不全を有する心筋の領域のみを示し(また可逆性灌流不全の領域はない)、心筋の再灌流は行われない。VEGF阻害剤を用いた処置を開始する。治療の開始から4ヵ月後、患者は心筋梗塞に罹患する。
【0084】
[実施例3]
以前喫煙していた62歳の男性患者は心筋梗塞に罹患している。3年後、進行性大腸癌と診断され、適切な癌治療を必要としている。左心室駆出率(LVEF)を心エコー検査で測定すると(40%)、軽度の収縮期機能障害を示す。さらに、患者のサンプル中のトロポニンTの量(12 pg/ml)及びNT-proBNPの量(410 pg/ml)を測定する。患者に心臓負荷検査に行うと、心筋後壁の領域に機能障害性収縮(可逆性灌流不全)があることがわかる。冠動脈造影法を実施すると、機能障害性収縮の領域に血液を供給する動脈の80%狭窄が明らかになる。罹患心筋領域の良好な脈管再生から4週間後、トロポニンT(4 pg/ml)及びNT-proBNP(180 pg/ml)を再度測定する。VEGF阻害剤を用いた治療を開始する。治療中、患者は有害な副作用を被らなかった。
【0085】
[実施例4]
治療を開始する前及び治療期間中に、ベバシズマブで処置した27人の患者から得た血清サンプル中のトロポニンT及び/又はNT-proBNPのレベルを測定した。患者の大部分(80%を超える)はマーカーのレベルが不変のままであった。すなわち、有意な増加はなく、上記療法が心血管系に有害な副作用をもたらさなかったことを示している。しかし、患者の一部においてマーカー測定値の有意な増加がみられ、これは心血管系合併症のリスクを示す。以下にいくつかの例を示す。
【0086】
患者(ID番号4201):治療の開始時、並びに治療の開始から14日、21日及び35日後にサンプルを取得した(心血管系に有害な副作用なし)
【表1】

【0087】
患者(ID番号4208):治療を開始してから13日及び57日後のトロポニンT及びNT-proBNP。マーカー測定値の有意な増加が観察されたが、これは心血管系合併症のリスクを示す。
【表2】

【0088】
患者(ID番号4210):治療の開始時、並びに治療の開始から14日後にサンプルを取得した。治療開始時にトロポニンTレベルは有意に増加していた(同様にNT-proBNPレベル:1916 pg/ml)。治療期間中、トロポニンTのさらなる増加がみられたが、これは心血管系合併症のリスク増大を示す。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定する方法であって、該被験体が抗血管新生療法を必要としており、
(a)被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定するステップ、
(b)ステップ(a)で測定された心筋トロポニンの量を心筋トロポニンの参照量と比較するステップ、及び
(c)抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定するステップ
を含む方法。
【請求項2】
サンプルが、上記療法を開始する前1ヶ月以内に取得したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験体が癌に罹患している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗血管新生療法が抗VEGF抗体の投与によるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
心筋トロポニンの参照量よりも少ない量の心筋トロポニンは、被験体が抗血管新生療法を受容可能であることを示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
心筋トロポニンの参照量よりも多い量の心筋トロポニンは、被験体が抗血管新生療法を受容可能ではないことを示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
心筋トロポニンがトロポニンTであり、トロポニンTの参照量が10 pg/mlである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
被験体のサンプルにおけるナトリウム利尿ペプチドの量を測定するステップ、及びそのように測定された量を参照量と比較するステップをさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
心筋トロポニンの参照量よりも少ない量の心筋トロポニン、及びナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも少ない量のナトリウム利尿ペプチドは、被験体が抗血管新生療法を受容可能であることを示す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
心筋トロポニンの参照量よりも多い量の心筋トロポニン、及びナトリウム利尿ペプチドの参照量よりも多い量のナトリウム利尿ペプチドは、被験体が抗血管新生療法を受容可能ではないことを示す、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ナトリウム利尿ペプチドがNT-proBNPであり、NT-proBNPの参照量が250 pg/mlである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
将来的な抗血管新生療法の急性心血管系事象のリスクを予測する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定するステップ、
(b)ステップ(a)で測定された心筋トロポニンの量を心筋トロポニンの適当な参照量と比較するステップ、及び
(c)被験体について将来的な抗血管新生療法の急性心血管系事象のリスクを予測するステップ
を含む方法。
【請求項13】
抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定するデバイスであって、抗血管新生療法を必要とする被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定する手段と、該手段によって測定された量を心筋トロポニンの参照量と比較する手段であって、これにより抗血管新生療法を受容可能な被験体が同定される上記手段とを備えるデバイス。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法の実施に適合されたキットであって、前記方法を実施するための説明書と、抗血管新生療法を必要とする被験体のサンプルにおける心筋トロポニンの量を測定する手段と、該手段によって測定された量を心筋トロポニンの参照量と比較する手段であって、抗血管新生療法を受容可能な被験体を同定することができる上記手段とを備えるキット。
【請求項15】
被験体のサンプルにおけるナトリウム利尿ペプチドの量を測定する手段と、該手段により測定された量を参照量と比較する手段をさらに備える、請求項13に記載のデバイス又は請求項14に記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2011−528797(P2011−528797A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519175(P2011−519175)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059505
【国際公開番号】WO2010/010153
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】