説明

抗認知症薬物の経皮吸収製剤

【課題】本発明は、抗認知症薬物を1週間程度の長期間にわたり安定に投与すしうる経皮吸収製剤の提供。
【解決手段】抗認知症治療薬物、アミノ基を有する高分子化合物、多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール、多価カルボン酸エステル、およびスチレン系高分子化合物を含んでなる薬物含有層を含んでなる、抗認知症薬物の経皮吸収製剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗認知症薬物を長期間にわたり安定に投与することを可能とする経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老齢者の増加に伴いアルツハイマー等の認知症患者も増大し、患者の介護等が社会問題となっている。一方、抗認知症薬物の開発も急速に進み、例えば、塩酸ドネペジルは、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有する、アルツハイマー病の治療剤として広く使用されている。従来、これら抗認知症薬物は錠剤等により経口的に投与されることが多かった。薬物を患者等に投与する方法には、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、顆粒剤等の経口投与の他に、注射投与、直腸投与等が知られており、その疾患、薬物の性質に応じて適宜選択されている。
【0003】
しかしながら、症状が進んだ認知症患者は抗認知症薬物を服用することが困難となる場合が少なくない。したがって、抗認知症薬物を経皮的に投与することは、症状の進んだ患者の場合、服用の困難を回避して長期間連続して薬物を投与することができ、特に有用であると考えられる。
【0004】
しかし、一般に皮膚は薬物の透過性が低いため、十分に効果を奏する量を皮膚から体内に吸収させることは困難であるとされている。こうした困難を克服するために、従来から抗認知症薬物の経皮吸収製剤が研究されている。
【0005】
例えば、特開平11−315016号公報には、抗認知症性薬物の経皮投与のための軟膏等および直腸投与のための座剤が開示されており、高級アルコールとそのエステル誘導体を含有する基材により、塩酸ドネペジルの経皮吸収性が向上するとされている。
【0006】
また、WO03/032960号公報には、粘着組成物を含む経皮吸収型認知症治療製剤であって、粘着組成物が有効成分を分散して含み、該有効成分が薬理学的に有効な速度で放出され、かつその皮膚透過速度が少なくとも1時間あたり1.2μg/cm以上である製剤が開示されている。さらに、実施例においては、有効成分である塩酸ドネペジルと、疎水性高分子であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と、有機酸塩である酢酸ナトリウムとを含んでなる粘着組成物を含む製剤が開示されており、その24時間の単回投与用製剤のサイズは60cmとされている。
【0007】
また、経皮製剤においては、その有効成分である薬物が製剤中で析出することなく保持され、皮膚上に安定して配置されていることが必要とされる。そこで、これら機能の向上等を勘案して、経皮吸収製剤およびその材料の検討が行われている。
【0008】
例えば、特開平10−182439号公報には、皮膚または経皮の治療系のための付着−および接合剤であって、第三級もしくは第四級アミノ基を含む(メタ)アクリレート共重合体と、酸性基含有のアクリレート−もしくは(メタ)アクリレートポリマー又は共重合体と、軟化剤とからなる付着−接合剤が開示されている。その実施例における軟化剤として、トリエチルシトレート、およびアセチルトリエチルシトレートが開示されている。
【0009】
また、WO02/38139号公報には、アミノ基を有する高分子化合物、酸付加塩を形成している薬物、およびカルボン酸および/またはその塩を含有する経皮吸収型製剤が開示されている。
【0010】
また、特開平4−117323号公報には、粘着基剤および薬物を含む貼付層を支持体上に保持してなる経皮吸収貼付剤において、一定量の酸付加形態にある薬物と、一定量の塩基性窒素を含有し常温で皮膚に粘着性を有しない重合体を含むことを特徴とする経皮吸収貼付剤が開示されている。
【0011】
また、WO2007/129427号公報には、抗認知症薬物の経皮吸収製剤であって、皮膚に貼付される側から順に、粘着層と、中間膜と、薬物含有層とを少なくとも有してなる、リザーバー型の経皮吸収製剤が開示されている。この経皮吸収製剤の薬物含有層は、抗認知症治療薬物と、アミノ基を有する高分子化合物と、多価アルコールと、一種以上のカルボン酸エステルとを少なくとも含んでなり、その貼付期間は、単回投与であっても長期間に設定をすることができ、1週間程度とすることができることが報告されている。
【0012】
しかしながら、抗認知症薬物の投与期間を1週間程度に設定した場合、薬物量の増量に伴い製剤の貼付面積は大きくなり、貼付位置が限定され、患者によっては経皮吸収製剤の使用はしばしば困難となる。したがって、1週間程度の長期間用いられる経皮吸収製剤においては、そのサイズを縮小することが必要とされている。また、経皮吸収製剤のサイズ縮小に際しては、所望の治療効果を得るため、薬物の安定な放出能を保持しつつ、貼付面積当たりの薬物放出量を増加することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−315016号公報
【特許文献2】WO03/032960号公報
【特許文献3】特開平10−182439号公報
【特許文献4】WO02/38139号公報
【特許文献5】特開平4−117323号公報
【特許文献6】WO2007/129427号公報
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、1週間程度の長期間にわたって、安定かつ効率的に、抗認知症薬物を放出しうる、新規経皮吸収製剤を提供することをその目的とする。
【0015】
そして、本発明による経皮吸収製剤は、抗認知症治療薬物、アミノ基を有する高分子化合物、多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール、多価カルボン酸エステル、およびスチレン系高分子化合物を含んでなる薬物含有層を含んでなる。
【0016】
本発明による経皮吸収製剤によれば、1週間程度の長期間にわたり、安定かつ効率的に、抗認知症薬物を放出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による経皮吸収製剤の一実施形態を示す。Aは、経皮吸収製剤の断面図であり、Bは経皮吸収製剤の皮膚接触面図である。
【図2】本発明による経皮吸収剤を用いた1週間のin vitroヒト皮膚透過試験の結果を示すグラフである。
【図3】本発明による経皮吸収製剤を単回投与した場合の1週間の抗認知症薬物のウサギ血漿中濃度推移を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0018】
定義
本明細書において、「アルキル」とは、直鎖状、分岐状または環状のアルキルを意味すし、好ましくは総炭素数が2〜18である。
また、本明細書において、「アルコール」とは、直鎖状、分岐状または環状の飽和または不飽和アルコールを意味する。
【0019】
経皮吸収製剤
本発明による経皮吸収製剤は、上述のように、特定の組成を有する薬物含有層を含んでなる。かかる薬物含有層を有する経皮吸収製剤が、顕著に高い貼付面積当たりの薬物放出量示すとともに、1週間程度の長期間にわたり、薬物を安定に放出しうることは意外な事実である。
【0020】
本発明の抗認知症薬物は、塩基性薬物であることが好ましい。また。本発明の好ましい態様によれば、抗認知症薬物は、含窒素塩基性薬物またはその塩であり、この塩は薬理学上許容される塩であれば特に限定されず、例えば、塩酸塩、酒石酸塩、臭化水素酸塩などが挙げられる。
さらに、上記塩基性薬物またはその塩は、好ましくは塩酸ドネペジル、塩酸メマンチン、酒石酸リバスチグミン、臭化水素酸ガランタミンまたは塩酸タクリンであり、より好ましくは塩酸ドネペジルである。
【0021】
また、薬物含有層における抗認知症薬物の含量は、例えば、0.5〜50質量%とすることができるが、長期投与を勘案すれば、好ましくは10〜40質量%であり、より好ましくは15〜35質量%である。このように、高用量まで薬物を含有しうる薬物含有層は、実際の使用に適した大きさの経皮吸収製剤を製造する上で有利である。
【0022】
また、薬物含有層における、アミノ基を有する高分子化合物は、好ましくは(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成されるコポリマーである。かかるコポリマーは、薬物を安定に保持し、かつ良好な薬物のフラックスを実現する上で有利である。
【0023】
さらに、アミノ基を有する高分子化合物は、好ましくは(メタ)アクリル酸アクリル・(メタ)アクリル酸アルキル・(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルコポリマーであり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸ジC1〜2アルキルアミノC1〜2アルキルと、(メタ)アクリル酸C1〜4アルキル、および(メタ)アクリル酸モノヒドロキシC2〜4アルキルをモノマー単位して含んでなるコポリマーであり、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸メチル・(メタ)アクリル酸ブチル・(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーであり、さらに好ましくはメタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーである。かかるメタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーは、例えば、オイドラギット(登録商標)E100(デグサ社)として市販されている。
【0024】
また、上記アミノ基を有する高分子化合物において、モノマー単位のモル比、分子量等は、当業者が適宜調節することが可能である。
【0025】
また、薬物含有層におけるアミノ基を有する高分子化合物の含量は、好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは10〜25質量%である。
【0026】
上記多価カルボン酸エステルは、好ましくは2〜6価カルボン酸エステルであり、2〜3価カルボン酸C1〜6アルキルエステルであり、より好ましくは2〜3価カルボン酸C1〜6アルキルエステルであり、さらに好ましくは2〜3価カルボン酸C1〜3アルキルエステルであり、さらに好ましくはクエン酸トリC1〜3アルキルエステルまたはセバシン酸ジC1〜3アルキルエステルであり、さらに好ましくはクエン酸トリエチルまたはセバシン酸ジエチルである。
【0027】
また、薬物含有層における多価カルボン酸エステルの含量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは2〜5質量%である。
【0028】
また、多価アルコールは、好ましくは糖アルコールまたはグリコールであり、より好ましくはグリセリンまたはグリコールであり、さらに好ましくは、トリトール、ペンチトール、ヘキシトールおよびグリコールからなる群から選択される少なくとも一つのものである。より具体的には、多価アルコールは、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、d-ソルビトール、キシリトール、マンニトール、ポリエチレングリコールおよびこれらの組み合わせから選択されるものであり、より好ましくはグリセリンである。
【0029】
また、薬物含有層における多価アルコールの含有量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは3〜10質量%である。
【0030】
また、多価アルコール脂肪酸エステルは、好ましくは糖アルコール脂肪酸エステルまたはグリコール脂肪酸エステルであり、より好ましくはソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つのものであり、さら好ましくはソルビタン脂肪酸エステルである。
より具体例には、多価アルコール脂肪酸エステルとしては、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンまたはトリステアリン酸ソルビタン等が挙げられるが、好ましくはモノラウリン酸ソルビタンである。
【0031】
また、薬物含有層における多価アルコール脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは3〜15質量%であり、より好ましくは3〜10質量%である。
【0032】
また、スチレン系高分子化合物は、薬物の放出および保持を妨げない限り特に限定されないが、好ましくはスチレンと、炭素原子2〜8個の重合可能なアルケンとの共重合体であり、より好ましくはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体であり、さらに好ましくはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体である。
【0033】
また、スチレン系高分子化合物において、モノマー単位のモル比、分子量等は当業者によって適宜調節される。
【0034】
また、薬物含有層におけるスチレン系高分子化合物の含量は、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは15〜50質量%である。
【0035】
組み合わせ
本発明における薬物含有層は、上記のような構成成分およびその量を用いる限り、適宜組み合わせて形成することができる。
そして、本発明の好ましい態様によれば、薬物含有層は、塩基性抗認知症薬物またはその塩;(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成される共重合体である、アミノ基を有する高分子化合物;多価アルコール脂肪酸エステル;多価アルコール;多価カルボン酸エステル;およびスチレン系高分子化合物を含んでなる。
【0036】
また、本発明のさらに好ましい態様によれば、薬物含有層は、塩基性抗認知症薬物またはその塩、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成される共重合体であるアミノ基を有する高分子化合物;多価アルコール脂肪酸エステル;多価アルコール;多価カルボン酸エステル;および、スチレンと、炭素原子2〜8個の重合可能なアルケンとの共重合体であるスチレン系高分子化合物を含んでなる。
【0037】
また、本発明のさらに好ましい態様によれば、薬物含有層は、塩基性抗認知症薬物またはその塩、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成される共重合体であるアミノ基を有する高分子化合物;多価アルコール脂肪酸エステル;多価アルコール;2〜6価カルボン酸エステルである多価カルボン酸エステル;および、スチレンと、炭素原子2〜8個の重合可能なアルケンとの共重合体であるスチレン系高分子化合物を含んでなる。
【0038】
また、本発明のさらに好ましい態様によれば、薬物含有層は、塩基性抗認知症薬物またはその塩、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成される共重合体であるアミノ基を有する高分子化合物;多価アルコール脂肪酸エステル;糖アルコールまたはグリコールである多価アルコール;2〜6価カルボン酸エステルである多価カルボン酸エステル;および、スチレンと、炭素原子2〜8個の重合可能なアルケンとの共重合体であるスチレン系高分子化合物を含んでなる。
【0039】
また、本発明のさらに好ましい態様によれば、薬物含有層は、塩基性抗認知症薬物またはその塩、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成される共重合体であるアミノ基を有する高分子化合物;糖アルコール脂肪酸エステルまたはグリコール脂肪酸エステルである多価アルコール脂肪酸エステル;糖アルコールまたはグリコールである多価アルコール;2〜6価カルボン酸エステルである多価カルボン酸エステル;および、スチレンと、炭素原子2〜8個の重合可能なアルケンとの共重合体を含んでなる。
【0040】
また、本発明のさらに好ましい態様によれば、薬物含有層は、塩基性抗認知症薬物またはその塩;メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーであるアミノ基を有する高分子化合物;糖アルコール脂肪酸エステルである多価アルコール脂肪酸エステル;グリセリンまたはグリコールである多価アルコール;セバシン酸エステルまたはクエン酸エステルである多価カルボン酸エステル;およびスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体であるスチレン系高分子化合物を含んでなる。
【0041】
また、上記好ましい組み合わせのいずれかにおいて、塩基性抗認知症薬物またはその塩は、好ましくは塩酸ドネペジル、塩酸メマンチン、酒石酸リバスチグミン、臭化水素酸ガランタミンまたは塩酸タクリンであり、より好ましくは塩酸ドネペジルである。
また、上記好ましい組み合わせのいずれかにおいて、アミノ基を有する高分子化合物は、好ましくは(メタ)アクリル酸アクリル・(メタ)アクリル酸アルキル・(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルコポリマーであり、より好ましくはメタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマーである。
また、上記好ましい組み合わせのいずれかにおいて、多価アルコール脂肪酸エステルは、好ましくは糖アルコール脂肪酸エステルであり、より好ましくはソルビタン脂肪酸エステルである。
また、上記好ましい組み合わせのいずれかにおいて、多価アルコールは、好ましくは、グリセリンまたはグリコールであり、より好ましくはグリセリンである。
また、上記好ましい組み合わせのいずれかにおいて、多価カルボン酸エステルは、好ましくは2〜6価カルボン酸エステルであり、より好ましくは2〜3価カルボン酸C1〜6アルキルエステルであり、さらに好ましくはセバシン酸エステルまたはクエン酸エステルである。
また、上記好ましい組み合わせのいずれかにおいて、スチレン系高分子化合物は、好ましくはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体であり、より好ましくはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合である。
【0042】
また、本発明における薬物含有層の厚さは、薬物量等を勘案して当業者により適宜決定されるが、例えば、50〜150μmとすることができる。なお、上述の薬物含有層はそのまま患者の皮膚に適用することもでき、本発明にはかかる態様も包含される。
【0043】
固定手段
本発明による経皮吸収製剤の薬物含有層は、そのまま経皮吸収製剤として利用してもよいが、薬物含有層の固定手段を含んでなることが好ましい。
【0044】
以下、本発明による経皮吸収製剤の好ましい態様を模式図によって説明する。
図1は、本発明による経皮吸収製剤の一実施形態を表す断面図である。
図1Aに示される通り、経皮吸収製剤は、皮膚側から順に、薬物含有層4、および支持体層3から構成される積層体と、積層体を皮膚上に固定しうる固定手段(1,2)とを備えている。
【0045】
また、固定手段(1,2)は、積層体を被覆するカバー層1と、カバー層1を皮膚に粘着させる粘着層2とを含んでなる。カバー層1は、積層体の皮膚接触面以外の部分を被覆することができるように構成されている。また、粘着層2は、カバー層1の皮膚側に配置されている。また、図1Bは、経皮吸収製剤の皮膚接触面を示しており、粘着層2は、薬物含有層4の周縁部・端部に配置されており、皮膚と粘着することにより、経皮吸収製剤を皮膚上に固定しうる。このような構成は、経皮吸収製剤の皮膚への粘着安定性を維持する上で有利である。
なお、薬物含有層は、そのまま皮膚に接触してもよいし、あるいは、薬物含有層の皮膚側の片面の一部には、薬物透過性を調節するための薬物透過性高分子膜を設置してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0046】
また、粘着層は、皮膚と経皮吸収製剤を接着しうる生体適合性材料であれば特に限定されないが、好ましくはポリアクリレート、ポリジメチルシロキサン、ポリイソブチレンまたはそれらの組み合わせ等である。さらに、粘着層の構成材料には、例えば、公知のタッキファイヤー等を適宜加えてもよい。上述の材料は、薬物透過性膜の表面に添加する補助粘着剤としても用いることができる。
また、粘着層の皮膚への接触面積は、薬物透過性膜の面積、投与期間等、貼付部位等を勘案して適宜決定することができる。
【0047】
また、薬物透過性高分子膜は、薬物の皮膚への放出を制御しうる限り限定されないが、好ましくは薬物を透過しうる孔を有する微孔質膜である。薬物透過性高分子膜の構成材料は、特に減礼されないが、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、およびそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0048】
また、支持体は、伸縮性であっても非伸縮性であってもよい。支持体を構成する具体的な材料としては、薬剤含有層を他の部材から隔離しうる限り特に限定されず、例えば、織布、不織布、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレンまたはそれらの複合素材等が挙げられる。
また、カバーは、例えば、支持体と同様の材料を用いることができる。
【0049】
製造方法
本発明による経皮吸収製剤の好ましい製造方法としては、以下の通りである。
まず、本発明による薬物含有層の構成成分を溶媒中で適宜混合し、溶媒中に構成成分を含む混合液を調整する。次に、この混合液を膏体溶液として用い、ライナー上に塗布する。次に、膏体溶液を60〜120℃程度で乾燥させて薬物含有層を得、所望により、その上に支持体層をラミネートし、積層体を得る。次に、片面に粘着層が配置されたカバーを用意する。次に、カバーの粘着層側の片面と、積層体の支持体層側の片面とを張り合わせ、経皮吸収製剤を得る。なお、この際、粘着層が薬物透過性膜の皮膚側の片面の周縁部または端部を被覆するように、粘着層およびカバーのサイズを予め調整する。
【0050】
上記製造方法において、薬物含有層および粘着層を調製する際に用いられる溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、メタノールまたはエタノール等が挙げられる。
【0051】
用途
本発明による経皮吸収製剤は、抗認知症薬物を安定かつ効率的に生体に投与しうる。よって、経皮吸収製剤の貼付期間は、好ましくは3〜7日間、より好ましくは1週間程度である。もっとも、薬物の投与計画は、薬物の種類、患者の症状、投与期間、製剤のサイズ等に応じ、当業者によって適宜決定してもよい。
【0052】
治療方法
本発明による経皮吸収製剤によれば、1週間程度の長期間であっても、抗認知症薬物を安定して効率的に経皮的に投与することができ、症状が進行した患者においても認知症を効果的に治療することが可能となる。したがって、本発明の別の態様によれば、上記経皮吸収製剤を、生体の皮膚に1週間に1回貼付することを含んでなる認知症の治療方法が提供される。また、1週間に1回貼付の場合、本発明の経皮吸収製剤は、好ましくは抗認知症治療薬物を21 mg〜70 mg/週で投与する。
【0053】
また、上記生体としては、例えば、ウサギ、イヌまたはヒト等が挙げられるが、好ましくはヒトである。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0055】
実施例1
薬物含有層の調製
塩酸ドネペジル、オイドラギット(登録商標)E 100、クエン酸トリエチル、グリセリン、およびSML(ソルビタンモノラウレート)を上記処方の割合で用意し、これらを適量のトルエン中で混合、撹拌した。得られた混合液に、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、Kraton (登録商標)D1111K、Kraton社製)を下記の処方の割合で加え、膏体溶液を得た。
【0056】
【表1】

【0057】
上記膏体溶液を、ポリエチレンテレフタレート製ライナー上に塗工し、70℃15分間乾燥させ、薬物含有層を得た。乾燥後の薬物含有層の量は100g/mとなるように調整した。
次に、薬物含有層のライナーと反対側の片面に支持体層(Scotchpak(商標)9732、3M製)をラミネートした。その後、薬物含有層からライナーを剥離し、積層体を得た。
【0058】
固定手段の設置
Duro-Tak(商標) 87-2287(National Starch & Chemical製)をポリエチレンテレフタレート製ライナー上に塗工し、80℃15分間乾燥させ、粘着層を得た。乾燥後の粘着層の質量は、100g/mとした。次に、ライナーと反対側の粘着層の片面にカバー層(ポリエステル製織布)をラミネートし、固定手段を得た。
次に、固定手段の粘着層上のライナーを剥離し、予め裁断しておいた積層体の支持体層と、固定手段の粘着層とを貼り合わせた。次に、粘着層および薬物含有層により形成される面に、ポリエチレンテレフタレート製ライナーを貼り合わせ、皮膚接触面を整え、裁断を行い、図1と同様の構成の経皮吸収製剤を得た。
【0059】
比較例1
WO2007/129427号公報に記載に準じて、以下の通り、粘着層、微孔性中間膜、および薬物含有層を有するリザーバー型経皮吸収製剤を調製した。
【0060】
薬物含有層の調製
SISに代えて、アクリル系高分子化合物(Duro-Tak(登録商標) 387-2516、National Starch & Chemical社製)を用いる以外、実施例1と同様にして、薬物含有層を調製した。
【0061】
粘着層および経皮吸収製剤の調製
クエン酸トリエチル 12g、ソルビタンモノラウレート 6gおよびアクリル系高分子化合物(Duro-Tak(登録商標)387-2516、National Starch & Chemical社製)239.9g(固形分42.5%)を混合撹拌した。得られた膏体溶液を、その厚さが乾燥後50μmとなるようにポリエチレンテレフタレート製ライナー上に塗布した。次に、ライナー上の膏体溶液を70℃10分間乾燥させて、所望の厚さの粘着層を形成した。この粘着層上に微孔性ポリプロピレン膜(Celgard(登録商標)2400、Celgard Inc.製)をラミネートした。 次に、上記薬物含有層のライナーを剥離し、それを微孔性ポリプロピレン膜の粘着層と反対側の片面にラミネートし、WO2007/129427号公報に記載される構成と同様の経皮吸収製剤を得た。
【0062】
試験例1
in vitro ヒト皮膚透過試験
ヒト皮膚の角質層側に実施例1または比較例1の経皮吸収製剤(適用面積4.5cm)を貼付し、皮膚表面が約32℃となるように温水を循環させたフロースルーセル(5cm)にセットした。レシーバー液としてはリン酸緩衝生理食塩液(pH 7.4)を使用し、レシーバー液のサンプリングは、2.5mL/hrの速さで4時間毎に168時間まで行った。サンプリング溶液は、HPLCにより薬物量を測定した。そして、4時間あたりの透過速度を算出し、単位面積あたりのフラックス(mcg/cm/hr)の平均値を決定した。
【0063】
ヒト皮膚透過試験の結果、フラックス(mcg/cm/hr)の平均値+標準誤差(n=4)の推移は図2に示される通りであった。
また、皮膚透過量(mg/cm2)および最大フラックスJmax(mg/hr/cm2)については、以下の通りであった。
実施例1は、比較例1よりも、皮膚透過量および最大フラックスのいずれも高かった。
【0064】
【表2】

【0065】
試験例2
背部を剃毛したウサギ(オス、10週齢、n=6)に実施例1または比較例1の経皮吸収製剤35cmを1枚貼付し、168時間後に剥離した。経皮吸収製剤を貼付後、2、4、8、12、24、48、72、96、120、144、168、170、172、174、および176時間の時点で採血を行った。得られたドネペジルの血漿中濃度をLC/MS/MSにより測定した。
【0066】
ドネペジルの血漿中濃度の平均値+標準偏差の推移は図3に示される通りであった。
また、最高血中濃度Cmax (ng/mL)および1週間のAUC0-168 (ng・hr/mL)は、以下の通りであった。実施例1は、比較例1と比較して、Cmax (ng/mL)は4.97倍であり、AUCは3.29倍であった。
【0067】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗認知症治療薬物、アミノ基を有する高分子化合物、多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール、多価カルボン酸エステル、およびスチレン系高分子化合物を含んでなる薬物含有層を含んでなる、抗認知症薬物の経皮吸収製剤。
【請求項2】
ヒトに対して1週間に1回貼付するための、請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項3】
21mg〜70mg/週の抗認知症治療薬物を経皮投与するための、請求項2に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
前記抗認知症薬物が塩基性薬物またはその塩である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項5】
前記抗認知症薬物が、塩酸ドネペジル、塩酸メマンチン、酒石酸リバスチグミン、臭化水素酸ガランタミンまたは塩酸タクリンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
前記アミノ基を有する高分子化合物が、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルと、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこれらの組み合わせから選択されるモノマー単位とから構成される共重合体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項7】
前記アミノ基を有する高分子化合物が、(メタ)アクリル酸アクリル・(メタ)アクリル酸アルキル・(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルコポリマーである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項8】
前記多価カルボン酸エステルが2〜6価カルボン酸エステルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項9】
前記多価カルボン酸エステルが、セバシン酸エステルまたはクエン酸エステルである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項10】
前記多価アルコールが、糖アルコールまたはグリコールである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項11】
前記多価アルコールが、グリセリンまたはグリコールである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項12】
前記多価アルコール脂肪酸エステルが、糖アルコール脂肪酸エステルまたはグリコール脂肪酸エステルである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項13】
前記多価アルコール脂肪酸エステルが糖アルコール脂肪酸エステルである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項14】
前記スチレン系高分子化合物が、スチレンと、炭素原子2〜8個の重合可能なアルケンとの共重合体である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項15】
前記スチレン系高分子化合物が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項16】
皮膚側から順に、前記薬物含有層および支持体層を含んでなる積層体と、
該積層体を皮膚上に固定しうる固定手段と
を含んでなる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の経皮吸収製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236773(P2012−236773A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285466(P2009−285466)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(504336157)
【Fターム(参考)】