説明

抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤

【課題】活性酸素(フリーラジカル)による皮膚老化や皮膚疾患を防止・抑制する優れたフリーラジカル捕捉能を有し、かつ優れたコラーゲン産生促進作用を有する新しい植物由来の抗酸化剤、コラーゲン産生促進剤を提供する。
【解決手段】シソ科テンニンソウ属(Leucosceptrum)ミカエリソウ(Leucosceptrum stellipila (Miq.) の抽出物を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤に関し、より詳しくは、植物抽出物を有効成分として含む抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線により活性酸素が発生することは周知である。活性酸素のうち、フリーラジカル型のものは脂質などの酸化性基質と反応すると、連鎖的な酸化反応を誘発する。したがって、フリーラジカルとなる活性酸素は、皮膚等の身体組織に対するダメージを増幅する。
【0003】
皮膚は、常時、酸素や紫外線にさらされるため、フリーラジカルによる酸化ストレスのダメージが最も大きな組織である。近年では、紫外線により発生した種々の活性酸素が、皮脂や脂質の過酸化、蛋白変性、酵素阻害等を引き起こし、それが、短期的には皮膚の炎症などを誘発する。また、長期的には、老化やガンなどの原因となると考えられている。
【0004】
また、活性酸素や過酸化脂質は、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎、乾癬などの皮膚疾患にも関与すると考えられている。このように、皮膚老化や皮膚疾患には、活性酸素(フリーラジカルやO2-)が深く関与している。
【0005】
フリーラジカルやO2-を捕捉する能力を備える物質は、ラジカル連鎖反応を抑制したり、停止させたりすることができ、例えば抗酸化剤と呼ばれているものが相当する。
したがって、抗酸化剤を配合した皮膚外用剤は、光酸化ストレスによる皮膚老化(例えば、シミ、しわ、たるみなど)の予防・改善効果が期待できる。また、フリーラジカルが関連する各種皮膚疾患用皮膚外用剤としても、予防・改善効果が期待できる。
【0006】
酸化防止剤として知られているビタミンEやビタミンCは、生体内におけるフリーラジカル捕捉型抗酸化物質である。また、BHTやBHAの合成抗酸化物質も知られている。また、植物由来の酸化防止剤としては、シイタケ、エノキタケ、シメジ、カワラタケ、マツタケ、マンネンタケ、ホウウロクタケ、ナメコ、その他の担子菌類の抽出物が報告されている(特許文献1〜3)。さらに、ゴマノハグサ科モウズイカ属植物の抽出物からなる抗酸化剤や(特許文献4)、ムラサキ科カキバチシャノキ属植物の抽出物からなる抗酸化剤(特許文献5)が報告されている。
【0007】
一方、皮膚は外側から角層、表皮層、基底膜及び真皮より構成されており、真皮はその中でも最も領域の広い部分である。膠原線維、弾性線維、糖タンパク質、プロテオグリカンが複合的に三次元状に広がった不均一の構造をしており、それぞれの構造物は液相を保有したゲル状態にある。膠原線維は主にコラーゲンからなり、その中でもI型コラーゲンが全体の80%を占める。I型コラーゲンのほかにはIII、IV、VII、IX及びXII型コラーゲンの存在が知られている。老化皮膚に見られるしわ・たるみの発生は、外見上の加齢変化の主たるものであり、多くの中高年齢者にとって切実な問題となっている。しわ・たるみの成因の一つは、皮膚組織が加齢に伴ない菲薄化することによる。老化した皮膚において、真皮の主要なマトリックス成分であるI 型コラーゲン線維の減少が著しく、このことが皮膚の厚さが減少する主たる原因となっている可能性が高い。
従って、I型コラーゲンの産生を促進させてI型コラーゲン量を維持することが、しわ・たるみの予防・改善に有効であると考えられる。また、さらにI型、III型コラーゲンの産生促進は皮膚の創傷治癒の改善にも有効である。
【0008】
従来、I型、III型コラーゲンの産生を促進させることで皮膚の加齢変化を予防・改善する天然物由来の成分としては、例えば、ダイゼイン、ダイズジン、ゲニスタイン、およびゲニスチンから選ばれるイソフラボン化合物、フィトステロールや(特許文献6参照)、特定の植物プランクトンの抽出物(特許文献7参照)が報告されている。
【0009】
また、特許文献8には、保湿作用を有する植物抽出物の一つとしてミカエリソウの抽出物が挙げられている。本発明はミカエリソウ抽出物による抗酸化作用やI型コラーゲン産生促進作用に関するものであるが、特許文献8の記載と本発明の内容とは全く異なるものである。
即ち、特許文献8の保湿効果は水分残存率(%)で評価したものであるが、乾燥によるしわは、肌に潤いを補う保湿剤によって改善することができ、多くの化粧品に配合されてきた。一方、加齢に伴う新陳代謝の低下によってできるしわ(縮緬様のしわ)は、主に真皮線維芽細胞のコラーゲン産生量の低下によっておこるものだからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−317016号公報
【特許文献2】特開平6−65575号公報
【特許文献3】特開昭59−124984号公報
【特許文献4】特開平11−171723号公報
【特許文献5】特開平11−171720号公報
【特許文献6】特開2001−39849号公報
【特許文献7】特開2007−186471号公報
【特許文献8】特開2004−323406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のようなことから、植物由来の抗酸化剤、コラーゲン産生促進剤について、新たな抗酸化効果、コラーゲン産生促進効果を奏する植物を見出すことが求められている。
本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、優れた抗酸化作用やコラーゲン産生促進作用を有する新しい植物由来の抗酸化剤、コラーゲン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、このような現状に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、従来効果のあることが知られていなかった特定の植物抽出物に優れた抗酸化作用およびコラーゲン産生促進作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、シソ科テンニンソウ属(Leucosceptrum)ミカエリソウ(Leucosceptrum stellipila (Miq.) の抽出物を含むことを特徴とする抗酸化剤である。
【0014】
本発明は、シソ科テンニンソウ属(Leucosceptrum)ミカエリソウ(Leucosceptrum stellipila (Miq.) の抽出物を含むことを特徴とするコラーゲン産生促進剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の抗酸化剤は、優れた抗酸化作用を有しており、活性酸素(フリーラジカルやO2-)による皮膚老化や皮膚疾患を防止・抑制する優れたフリーラジカル捕捉能を有するものである。
【0016】
本発明のコラーゲン産生促進剤は、コラーゲン産生を促進する効果に優れ、かつ安全なものである。よって本発明のコラーゲン産生促進剤によれば、コラーゲンの産生を促進して、コラーゲン量を維持することができ、しわ・たるみの予防・改善及び皮膚創傷治癒を促進し、コラーゲン不足に起因する種々の症状の改善に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるミカエリソウ抽出物のSOD様活性の結果を示す図である。
【図2】本発明によるミカエリソウ抽出物のDPPHラジカル消去活性の結果を示す図である。
【図3】本発明によるミカエリソウ抽出物のコラーゲン産生促進活性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。
本発明で用いられる植物であるミカエリソウ(Leucosceptrum stellipila (Miq.)は見返り草とも表記される。シソ科テンニンソウ属(Leucosceptrum)に属する植物であり、日本の主に本州の山地に群生する落葉小高木である。
【0019】
本発明の植物抽出物に、抗酸化作用やコラーゲン産生促進作用があるという報告はこれまでになく、いずれも本発明者らによって初めて見出されたものである。
【0020】
本発明に用いられるミカエリソウの抽出物は、葉、茎、または全草を適宜、そのまま、乾燥あるいは粉砕した後、溶媒にて抽出することにより得られる。抽出は室温静置で行っても良いが、必要に応じて加温、攪拌、加熱還流により抽出を促進することが可能である。得られた抽出液は、そのまま、あるいは適宜濾過・濃縮・脱色などの処理を施して用いることが出来る。また、一旦溶媒を除去した後に、抽出に用いた溶媒とは異なる溶媒に再溶解して用いることも可能である。得られた抽出物を活性炭やカラムマトグラフィーなどによりさらに精製して用いることも可能である。
【0021】
本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール、1,3−ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルコール類、含水エタノールや含水メタノールのような含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル、クロロホルム等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができるが、特に含水エタノール(例えば50%エタノール)が好ましい。
また、これらの抽出物を溶媒分画や活性炭処理やカラムクロマトグラフィーなどにより精製して用いても良い。
【0022】
本発明の抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤はミカエリソウの抽出物を含むことを特徴とするが、本発明の効果を損なわない範囲において他の種々の成分を含有することが出来る。
【0023】
本発明の抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤は、皮膚外用基剤に配合して、抗酸化作用およびコラーゲン産生促進作用に基づく皮膚外用剤とすることができる。これらの皮膚外用剤は、特に化粧料、医薬品、医薬部外品等の分野において好適に用いることができる。
【0024】
本発明の抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤を含む皮膚外用剤における植物抽出物の配合量は、ミカエリソウ抽出物成分の乾燥残分として、通常0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上である。配合量が少なすぎると効果が十分に発揮されない。上限は本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されないが、過剰に配合しても増量に見合った顕著な効果が得られないこと、また、製剤設計や使用性などにおいて悪影響を及ぼすこともあることなどから、通常10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0025】
本発明の抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤を含む皮膚外用剤は、本発明による抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤を皮膚外用基剤に配合して製造される。皮膚外用剤には、上記必須成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、植物エキス類、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0026】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、アルコキシサリチル酸および/またはその塩類等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0027】
本発明の抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤を含む皮膚外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【実施例】
【0028】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
最初に、本実施例で用いた植物抽出物の調製方法、抗酸化効果(活性酸素消去効果およびラジカル消去効果)、コラーゲン産生促進効果に関する試験方法とその結果について説明する。
【0029】
1.試料の調製
(製造例1)
ミカエリソウ(見返り草)の葉と茎の乾燥粉砕物12gに50%エタノールを10倍量加えて室温にて1週間かけて抽出後、4℃にて1晩放置し、ろ過後不溶物を取り除いた。得られたろ過液を50%エタノールエキスと呼び、さらに凍結乾燥して得られた固形物を50%エタノールエキス乾固物と呼び、2.5g(収率;21%)を得た。
(製造例2)
ミカエリソウ(見返り草)の葉と茎の乾燥粉砕物12gにメタノールを10倍量加えて室温にて1週間かけて抽出後、4℃にて1晩放置し、ろ過後不溶物を取り除いた。得られたろ過液をメタノールエキスと呼び、さらに凍結乾燥して得られた固形物をメタノールエキス乾固物と呼び、2.0g(収率;16%)を得た。
【0030】
2.活性酸素消去作用(SOD;スーパーオキシドディスムターゼ様活性)の測定法およびその結果
(1)原理
本酵素(SOD)は皮膚の老化(シワの発生、老人性色素斑など)を加速させる原因であるといわれる活性酸素の1つであるスーパーオキサイドアニオンO2-を過酸化水素と酸素に分解する酵素である。すなわちスーパーオキサイドアニオンの検出方法としてニトロブルートエラゾリウムを用い、その減少について還元呈色反応を利用して阻害率を求めることで被験成分のSOD様活性とする。詳細について以下記載する。
【0031】
(2)手順
発色試薬は、ニトロブルーテトラゾリウム(0.24nmol/l),キサンチン0.4mmol/lを0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、酵素原液としてはキサンチンオキシダーゼ(Butter milk由来)0.049単位/mlを0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解して用いた。ブランク液は0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)を用い、反応停止液はドデシル硫酸ナトリウム(690mmol/l)を用いた。
操作手順は製造例により得られたエキス乾固物を20%DIMSO(Dimethyl sulfoxide)溶液にてそれぞれの濃度に希釈後、96穴プレートに10μlづつ分取し発色試薬100μlを添加し混和した。本検には酵素液を、盲検にはブランク液をそれぞれ100μlづつ添加し、37℃で28分間正確に加温した後、反応停止液20μl添加することで反応を止めた。測定はプレートリーダーを用い吸光度560nmにて実施した。なお検体数は1群n=4(穴)で実施した。
【0032】
(3)計算方法
SOD様活性は、以下の式にあてはめて算出した。
SOD様活性(阻害率%)=((Ebl-(Ebl-bl))−(Es-(Es-bl)))/( Ebl-(Ebl-bl))*100
=1-(Es-(Es-bl))/(Ebl-(Ebl-bl))*100
Ebl;試験試料を除いた溶液に酵素液を加えた溶液の波長560nmの吸光度
(Ebl-bl);試験試料を除いた溶液に酵素液を除いた溶液の波長560nmの吸光度
Es;試験試料の溶液に、酵素液を加えた溶液の波長560nmの吸光度
(Es-bl);試験試料の溶液に酵素液を除いた溶液の560nmの吸光度
【0033】
(4)結果
結果を図1に示す。図1(a)は、製造例2で調製したメタノールエキス乾固物のSOD様活性を示す図であり、図1(b)は、製造例1で調製した50%エタノールエキス乾固物のSOD様活性を示す図である。
図1(a)(b)から、ミカエリソウ抽出物のSOD様活性は、50%エタノールエキス乾固物、メタノールエキス乾固物において活性を有することが明らかとなった。
【0034】
3.ラジカル消去作用(DPPH;ラジカル消去試験法)の測定法およびその結果
(1)原理
DPPHラジカルは可視域(517nm)に吸収波長を持ち、かつ還元されると吸収波長がなくなることを利用し、被験物質のラジカル消去能を吸光度の低下から評価する。
【0035】
(2)手順
1mM DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl,Mw;394.32)の保存液をDIMSO(Dimethyl sulfozide)を用いて調製し、使用時に0.1mM DPPH溶液に希釈して評価に供した。試験試料は20%DIMSO溶液にて希釈し、10μlづつn=4(穴)として96穴プレートに分注し、直ちに0.1mM DPPH 90μlを添加後、室温にて10分間ゆっくり攪拌しながら反応させた。測定はプレートリーダーを用い、517nmの吸光度を測定しラジカル消去能を評価した。
【0036】
(3)計算方法
ラジカル消去活性は、以下の式にあてはめて算出した。
ラジカル消去率(%)=((Ct-Cb)-(St-Sb))/(Ct-Cb)*100
=1−(St-Sb)/(Ct-Cb))*100
Ct;試験試料を除いた溶液にDPPHを加えた溶液の波長517nmの吸光度
Cb;試験試料を除いた溶液にDPPHを除いた溶液の波長517nmの吸光度
St;試験試料の溶液にDPPHを加えた溶液の波長517nmの吸光度
Sb;試験試料の溶液にDPPHを除いた溶液の波長517nmの吸光度
【0037】
(4)結果
結果を図2に示す。図2の■は、製造例2で調製したメタノールエキス乾固物のDPPHラジカル消去活性を示す図であり、図2の□は、製造例1で調製した50%エタノールエキス乾固物のDPPHラジカル消去活性を示す図である。
図2から分かるように、ミカエリソウの50%エタノールエキス乾固物の溶液およびメタノールエキス乾固物の溶液のDPPH活性は、無添加群と比較し有意な活性が認められた。
【0038】
4.線維芽細胞のコラーゲン産生促進作用の試験法およびその結果
(1)手順
ヒト皮膚由来の線維芽細胞HF0(K)P=8.5を400万個培養し、10万個/穴で24穴に播種し、0.5%FBS/DMEで培養した。翌日試験試料であるメタノールエキス乾固物または50%エタノールエキス乾固物の濃度が10ppmおよび100ppmとなるように添加するとともに、0.25mMとなるようアスコルビン酸リン酸マグネシウムを添加し、次に血清濃度が0.5%FBS/DMEMとなるよう調製した。正対照としてはTGF−β(2ng/μl)を用いた。3日間培養後、培養上清の総コラーゲン量を測定した。培養上清中に分泌されたI型コラーゲンの量は酵素免疫吸着測定法(ELISA)を用いて測定した。すなわち抗PIPモノクローナル抗体プレートに標準抗体液を100μlづつ加え、あらかじめ調製した標準液は培養上清中の20μlずつ添加し、37℃で3時間反応した。反応液を捨て、PBSで4回洗浄後、基質溶液(3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン溶液)を100μlずつ加えて室温で15分間反応させ、抗体プレート・PIP抗原・標準抗体の結合体をつくった。次に1N硫酸を溶解した反応停止液を100μl加えよく攪拌し反応をとめた。蒸留水を対照として450nmでマイクロプレートリーダーにて405nmの吸光度を測定し、I型コラーゲン量を算出した。またコラーゲン産生促進作用(I型コラーゲン量/細胞数)を評価するために細胞数の測定を行った。以下に細胞数測定法を記載する。
【0039】
(2)細胞数測定法
(2−1)手順
試験試料の添加3日後に培地を吸引除去し、5%FBSで洗浄後、60μlのHoechstを12mlのHoechst培地に加えて攪拌し、その500μlを6ウェルプレートに添加した。37℃で1時間反応させた後、96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(励起波長355nm、測定波長460nm)を用いて細胞数を算出した。
【0040】
(2−2)計算方法
コラーゲン産生促進作用は、以下の式を用いて算出した。
コラーゲン産生促進率(%)=(試験試料を添加した細胞が産生するI型コラーゲン量/試験試料を添加した群の細胞数)÷(試験試料を添加していない細胞が産生するI型コラーゲン量/試験試料を添加していない群の細胞数)×100
なお細胞毒性によるコラーゲン産生量の増加を排除するために、細胞増殖率が20%に満たない細胞毒性が高い群は、コラーゲン産生促進データから外すこととした。
【0041】
(3)結果
結果を図3に示す。図3は製造例2で調製したメタノールエキス乾固物の溶液と製造例1で調製した50%エタノールエキス乾固物の溶液のコラーゲン産生促進作用を示す図である。
ミカエリソウのメタノールエキス乾固物および50%エタノールエキス乾固物のコラーゲン産生促進作用は、50%エタノール乾固物の方がメタノール乾固物と比較して高く、50%エタノール乾固物は添加濃度10ppmおよび100ppmにおいて無添加と比較し、有意なコラーゲン産生促進作用が認められた。
【0042】
以上の結果から本発明のミカエリソウ抽出物は優れた抗酸化効果およびコラーゲン産生促進効果を示すことから、ヒトの肌に対してもすぐれた抗酸化作用、コラーゲン産生促進作用を奏するものである。したがって、該植物抽出物を外用剤に配合して、肌の老化を防ぎ、若々しく健康な肌の状態を維持する抗老化剤や各種皮膚疾患治療剤として用いることができる。
【0043】
以下に、種々の剤型の本発明による抗酸化剤およびコラーゲン産生促進剤の配合例を処方例として説明する。本発明はこの処方例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
各処方中のミカエリソウ抽出物含量は抽出溶媒を除去した後の乾燥残分量として表した。
【0044】
配合処方例1(化粧水) 質量%
トリメチルグリシン 1.0
本坑酸化剤ミカエリソウ/50%エタノールエキス乾固物 0.0001
グリセリン 1.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
アルギン酸ナトリウム 0.1
エチルアルコール 5.0
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル 0.2
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
フェノキシエタノール 適量
香料 適量
精製水 残余
【0045】
配合処方例2(化粧水) 質量%
本坑酸化剤ミカエリソウ/メタノールエキス乾固物/50%−1,3ブタンジオール置換液 0.1
グリセリン 2.0
1,3−ブチレングリコール 4.0
ポリオキシエチレンメチルグルコシド 1.0
PEG/PPG−14/7ジメチルエーテル 3.0
エリスリトール 1.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
ジイソステアリン酸ポリグリセリル 0.3
トリエチルヘキサノイン 0.3
EDTA3ナトリウム 適量
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
フェノキシエタノール 適量
精製水 残余
【0046】
配合処方例3(化粧水) 質量%
トラネキサム酸 1.0
4−メトキシサリチル酸カリウム 1.0
リポ酸 0.1
ハマメリス葉エキス 0.1
ヒポタウリン 0.1
クララエキス 0.1
トウニンエキス 0.1
ブナの芽エキス 0.1
本坑酸化剤ミカエリソウ/50%エタノールエキス 0.01
アスコルビン酸リン酸マグネシウム 0.1
チオタウリン 0.1
緑茶エキス 0.1
西洋ハッカエキス 0.1
イリス根エキス 1.0
トリメチルグリシン 1.0
グリセリン 1.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.05
エチルアルコール 5.0
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル 0.2
EDTA3ナトリウム 適量
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
フェノキシエタノール 適量
香料 適量
精製水 残余
【0047】
配合処方例4(乳液) 質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
酢酸トコフェロール 0.5
本コラーゲン産生促進剤ミカエリソウ/50%エタノールエキス乾固物 0.001
L−グルタミン酸ナトリウム 0.05
ウイキョウエキス 0.1
酵母エキス 0.1
ジオウエキス 0.1
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 0.1
グリセリン 6.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリオキシエチレンメチルグルコシド 3.0
ヒマワリ油 1.0
スクワラン 2.0
イソドデカン 4.0
ジメチルポリシロキサン 3.0
キサンタンガム 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.1
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1
エチルアルコール 5.0
水酸化カリウム 適量
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
ベンガラ 適量
黄酸化鉄 適量
エチルパラベン 適量
香料 適量
精製水 残余
【0048】
配合処方例5(日中用乳液) 質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
本抗酸化剤ミカエリソウ/メタノールエキス乾固物/50%−1,3ブタンジオール置換液 0.1
酢酸トコフェロール 0.1
1,3−ブチレングリコール 5.0
スクワラン 0.5
イソドデカン 10.0
イソヘキサデカン 25.0
ジメチルポリシロキサン 2.0
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 1.5
トリメチルシロキシケイ酸 1.0
4−t−ブチル−4´−メトキシジベンゾイルメタン 1.0
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 5.0
ジパラメトキシ桂皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 1.0
シリコーン被覆微粒子酸化チタン 4.0
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 0.5
球状ポリエチレン末 3.0
タルク 5.0
EDTA3ナトリウム 適量
フェノキシエタノール 適量
香料 適量
精製水 残余
【0049】
配合処方例6(乳液) 質量%
D−アルギニン 0.1
ローヤルゼリーエキス 0.1
酵母エキス 0.1
本コラーゲン産生促進剤ミカエリソウ/50%−1,3−ブタンジオール抽出物 1.0
グリチルレチン酸ステアリル 0.05
酢酸トコフェロール 0.1
アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 7.0
ポリエチレングリコール1500 2.0
流動パラフィン 7.0
ワセリン 3.0
ベヘニルアルコール 1.0
バチルアルコール 2.0
ホホバ油 1.0
ステアリン酸 0.5
イソステアリン酸 0.5
ベヘニン酸 0.5
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 3.0
2−エチルヘキサン酸セチル 3.0
モノステアリン酸グリセリン 1.0
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.15
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
水酸化カリウム 適量
メチルパラベン 適量
香料 適量
精製水 残余
【0050】
配合処方例7(乳液) 質量%
アスコルビン酸グルコシド 1.5
トラネキサム酸 1.0
酢酸トコフェロール 0.1
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
本コラーゲン産生促進剤ミカエリソウ/50%エタノールエキス 0.01
パントテニルエチルエーテル 0.1
グリチルレチン酸ステアリル 0.1
グリセリン 7.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリエチレングリコール20000 0.5
ワセリン 2.0
ホホバ油 3.0
スクワラン 2.0
ヒドロキシステアリン酸フィトステリル 0.5
ベヘニルアルコール 0.5
バチルアルコール 0.2
ジメチルポリシロキサン 2.0
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.0
イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 3.0
4−t−ブチル−4´−メトキシジベンゾイルメタン 0.1
ジパラメトキシ桂皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 0.1
キサンタンガム 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.2
エタノール 5.0
水酸化カリウム 適量
ピロ亜硫酸ナトリウム 適量
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
EDTA3ナトリウム 適量
黄酸化鉄 適量
パラオキシ安息香酸エステル 適量
精製水 残余
【0051】
配合処方例8(クリーム) 質量%
本コラーゲン産生促進剤ミカエリソウ/50%エタノール抽出物 1.0
4−メトキシサリチル酸カリウム 3.0
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 8.0
ステアリン酸 2.0
ステアリルアルコール 7.0
水添ラノリン 2.0
スクワラン 5.0
2−オクチルドデシルアルコール 6.0
ポリオキシエチレンセチルアルコールエーテル 3.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
水酸化カリウム 適量
エチルパラベン 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
【0052】
配合処方例9(クリーム) 質量%
4−メトキシサリチル酸カリウム 1.0
3−O−エチルアスコルビン酸 1.0
本コラーゲン産生促進剤ミカエリソウ/50%エタノールエキス 0.1
コエンザイムQ10 0.03
トラネキサム酸 2.0
酢酸トコフェロール 0.1
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
パントテニルエチルエーテル 0.1
グリチルレチン酸ステアリル 0.1
グリセリン 7.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリエチレングリコール20000 0.5
ワセリン 2.0
ベヘニルアルコール 0.5
バチルアルコール 0.2
スクワラン 2.0
ヒドロキシステアリン酸フィトステリル 0.5
ホホバ油 3.0
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 1.0
ジメチルポリシロキサン 2.0
イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1.5
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
キサンタンガム 0.1
エタノール 5.0
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
黄酸化鉄 適量
EDTA3ナトリウム 適量
水酸化カリウム 適量
パラオキシ安息香酸エステル 適量
精製水 残余
【0053】
配合処方例10(二層タイプ日中用乳液) 質量%
トラネキサム酸 2.0
4−メトキシサリチル酸カリウム 1.0
本坑酸化剤ミカエリソウ/メタノールエキス乾固物/50%−1,3ブタンジオール置換液 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.02
グルタチオン 1.0
チオタウリン 0.05
クララエキス 1.0
ジプロピレングリコール 5.0
ジメチルポリシロキサン 5.0
イソヘキサデカン 25.0
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 2.0
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 0.5
ブチルエチルプロパンジオール 0.5
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 7.5
トリメチルシロキシケイ酸 5.0
球状ポリアクリル酸アルキル粉末 5.0
パルミチン酸デキストリン被覆微粒子酸化亜鉛 15.0
EDTA3ナトリウム 適量
メチルパラベン 適量
フェノキシエタノール 適量
香料 適量
精製水 残余
【0054】
配合処方例11(ジェル) 質量%
4−メトキシサリチル酸カリウム 0.1
オドリコソウエキス 0.1
本坑酸化剤ミカエリソウ/メタノールエキス乾固物/50%−1,3ブタンジオール置換液 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
アスコルビン酸グルコシド 2.0
酢酸トコフェロール 0.1
オウゴンエキス 0.1
ユキノシタエキス 0.1
グリセリン 2.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリエチレングリコール1500 3.0
ポリエチレングリコール20000 3.0
寒天末 1.5
キサンタンガム 0.3
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.05
オクタン酸セチル 3.0
ジメチルポリシロキサン 5.0
ヘキサメタリン酸ナトリウム 適量
ジブチルヒドロキシトルエン 適量
黄酸化鉄 適量
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
水酸化ナトリウム 適量
フェノキシエタノール 適量
香料 適量
精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シソ科テンニンソウ属(Leucosceptrum)ミカエリソウ(Leucosceptrum stellipila (Miq.) の抽出物を含むことを特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
シソ科テンニンソウ属(Leucosceptrum)ミカエリソウ(Leucosceptrum stellipila (Miq.) の抽出物を含むことを特徴とするコラーゲン産生促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144446(P2012−144446A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1706(P2011−1706)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】