説明

抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体および抗炎症用皮膚外用剤

【課題】熱や光に対して安定化させて保存性がよく、また皮膚浸透性が高く、生体内に広く分布するフォスファターゼによって速やかに加水分解され、しかもヒドロキシフェノール本来の有用な生理活性を発揮でき、かつ加水分解された所定の抗酸化性物質の抗炎症効果により皮膚への安全性が高く、さらに皮膚刺激性の低い新規ポリヒドロキシベンゼン誘導体またはこれを用いた抗炎症用皮膚外用剤または美白化粧料とすることである。
【解決手段】
アスタキサンチン、トコフェロールまたはトコトリエノールからなる抗酸化性物質の水酸基にリン酸をエステル結合させ、このリン酸エステルをポリヒドロキシベンゼンの1以上の水酸基とジエステル結合させたポリヒドロキシフェニルフォスフェートまたはその塩からなる抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体とする。抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、適度な脂溶性があって細胞内に取り込まれやすく、皮膚浸透性にも適した特性を有する。細胞に取り込まれた抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、生体内組織に分布しているフォスファターゼ他の酵素等によってヒドロキシフェノールやアスタキサンチン、トコフェロールもしくはトコトリエノールに加水分解され、有用な効果を生体に及ぼす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリヒドロキシベンゼン誘導体およびこれを含有する抗炎症用皮膚外用剤並びに美白用化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリヒドロキシベンゼン(ヒドロキシフェノールとも別称される。)には、その水酸基の配置によりカテコール、レゾルシン、ハイドロキノンなどの化合物があり、それぞれ抗酸化作用をもつことが知られている。
【0003】
このようなポリヒドロキシベンゼンは、メラニン生成過程の代謝中間物であるドーパキノンからドーパクロムへの生合成を抑制し、さらに黒色メラニンを還元して漂白させる作用を持つことも知られており、このようなメラニン合成抑制作用、メラニン還元作用により皮膚の美白化、しみ、そばかす、黒皮症、肝班等の治療を期待できる美白化粧料の成分として周知である。
【0004】
しかし、ヒドロキシフェノールは、熱や酸化に対して非常に不安定であり、不活性化されたり分解されたりしやすいため、必ずしも十分な生理作用が安定して得られない場合がある。
【0005】
このようなジヒドロキシフェノールであるハイドロキノンにおける不安定性を改善するために、酸化されやすい水酸基をグルコシド化した誘導体としてのアルブチンが知られている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、アルブチンその他のポリヒドロキシベンゼン誘導体は、親水性が高いので、皮膚浸透性が芳しくない欠点を有している。
【0007】
また、欧米では医薬品として用いられているハイドロキノン以外のヒドロキシフェノール誘導体は、美白用製剤として効果の発現がきわめて緩慢であり、充分なものではない。
さらに、美白効果の認められるハイドロキノンは、皮膚に紅斑が生じる場合があるなどの感作性があるため、一般には使用が制限され、充分に安全なものとはいえない。
【0008】
そこで、ハイドロキノンの安全性を向上させるために、これを高級アルコールのアルキルモノエ−テル化するなどの試みがなされたが、エ−テル類は安全性の面で十分に満足するものではない。また、その他にもハイドロキノンのモノテトラヒドロピラニルエ−テル誘導体が知られている(特許文献2)。
【0009】
ところで、安定性および皮膚浸透性の両方が改善されたハイドロキノン誘導体として、ヒドロキシアルキルエーテル配糖体が知られている(特許文献3)。
【0010】
しかし、このようにヒドロキシフェノールの脂溶性を向上させるために、ヒドロキシフェノールの水酸基を脂肪酸でアシルエステル化したものは、保存状態で熱や光に対する経時的な安定性がなく、また水酸基を脂肪酸でアシルエステル化したものでは、表皮中にそれを分解するための十分なエステラーゼやリパーゼが存在しないので、皮膚などの体内でヒドロキシフェノールへの変換を速やかにかつ十分に行なわせることは困難であった。
【0011】
また、ヒドロキシフェノールの水酸基をアシルエステル化したもの、または配糖体化したものは、上記同様に表皮中に充分なエステラーゼやリパーゼ、それにグルコシダーゼが存在しないために、ヒドロキシフェノールへの変換は十分ではなかった。
【0012】
本願の発明者らは、先に出願を行なった際に、上記したヒドロキシフェノール誘導体の安定性および皮膚浸透性を改良するものとして、ヒドロキシフェノールを熱や光に対して安定化させ、保存性がよくて皮膚浸透性を高め、また生体内に広く分布するフォスファターゼによって加水分解でき、ヒドロキシフェノール本来の生理活性を発揮するように、リン酸エステル部にアルキル基を有するヒドロキシフェノールリン酸エステルに係る発明を開示した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭 60−016906号公報
【特許文献2】特開平 06−192062号公報
【特許文献3】特開平 07−291989号公報
【特許文献4】特開2010−105958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述したアルキル基を有するヒドロキシフェノールリン酸エステルにおいてもハイドロキノンを始めとしたヒドロキシフェノール類における皮膚刺激性の問題については、これを充分に解決したものとは言えなかった。
【0015】
そこで、この発明ではヒドロキシフェノール誘導体が有する上記の問題点を一挙に解決し、熱や光に対して安定化させて保存性がよく、また皮膚浸透性が高く、生体内に広く分布するフォスファターゼによって速やかに加水分解され、しかもヒドロキシフェノール本来の有用な生理活性を発揮でき、かつ加水分解された所定の抗酸化性物質の抗炎症効果により皮膚への安全性が高く、さらに皮膚刺激性の低い新規ポリヒドロキシベンゼン誘導体またはこれを用いた抗炎症用皮膚外用剤とすることを課題としている。
【0016】
また、本願の発明では、従来の化粧料の美白成分の問題点を解決し、特にヒドロキシフェノールを熱や光に対して安定化させ、皮膚浸透性が高め、かつ皮膚への安全性を向上し、生体内に広く分布する酵素等によって速やかに分解され、しかもヒドロキシフェノールおよび所定の抗酸化性物質の生理活性作用による美白化粧料とすることも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、この発明においては、アスタキサンチン、トコフェロールまたはトコトリエノールからなる抗酸化性物質の水酸基にリン酸をエステル結合させ、このリン酸エステルをポリヒドロキシベンゼンの1以上の水酸基とジエステル結合させたポリヒドロキシフェニルフォスフェートまたはその塩からなる抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体としたのである。
【0018】
この発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、2以上の水酸基を有するポリヒドロキシベンゼンの水酸基にリン酸を介してアスタキサンチン(3,3'−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4'−ジオン)残基、トコフェロール残基またはトコトリエノール残基をジエステル結合している。
したがって、これらの基を有するこの発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、適度な脂溶性があって細胞内に取り込まれやすく、皮膚浸透性にも適した特性を有する。
【0019】
そして、皮膚に浸透し、細胞に取り込まれたこの発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、エステラーゼやリパーゼがなくても、ほぼ全ての生体内組織に分布しているフォスファターゼ他の酵素等によってヒドロキシフェノールやアスタキサンチン、トコフェロールもしくはトコトリエノールに加水分解され、有用な効果を生体に及ぼすものである。
【0020】
そのような酵素分解により生体の受ける負担は小さく、また分解されたアスタキサンチン、トコフェロールもしくはトコトリエノールによって、抗炎症効果が発揮されるため、ヒドロキシフェノールの皮膚刺激性は低減される。
【0021】
また、フォスファターゼ他の酵素等によって生体内で分解されるまでの抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、熱や光に対して比較的安定な物性を示す。
【0022】
前記したポリヒドロキシベンゼンとしては、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシベンゼン、ペンタヒドロキシベンゼンまたはヘキサヒドロキシベンゼンが挙げられる。このうち、ジヒドロキシベンゼンとしては、カテコール、レゾルシンまたはハイドロキノンがある。
これらのポリヒドロキシベンゼンを用いたこの発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体には、前記した作用効果が充分に得られる。
【0023】
このような酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分として含有する抗炎症用皮膚外用剤または美白用化粧料とすることにより、熱や光に対して安定で保存性がよく、皮膚浸透性が高く、かつ皮膚への安全性が高く、生体内に広く分布する酵素等によって速やかに分解されて、ヒドロキシフェノールおよびアスタキサンチン、トコフェロール、もしくはトコトリエノールの本来の有用な生理活性作用の高い抗炎症用皮膚外用剤または美白用化粧料となる。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、所定の抗酸化性物質の水酸基にリン酸をエステル結合させ、このリン酸エステルをポリヒドロキシベンゼンの1以上の水酸基とジエステル結合させたポリヒドロキシフェニルフォスフェートまたはその塩とすることによって、熱や酸化に不安定なヒドロキシフェノールを安定化でき、使用前の保存状態でヒドロキシフェノールが分解されることを抑制でき、更に使用した際には生体内に広く分布するフォスファターゼによって速やかにヒドロキシフェノールに分解され、ヒドロキシフェノール本来の有用な生理活性を発揮し、しかもアスタキサンチン、トコフェロール、およびトコトリエノールが本来の抗炎症効果を発揮するポリヒドロキシベンゼン誘導体またはこれを有効成分として上記効果を奏する抗炎症用皮膚外用剤となる利点がある。
【0025】
また、上記同じポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分とする美白用化粧料においては、ヒドロキシフェノールを熱や酸化に対して安定化し、美白用化粧料の使用前の保存状態でヒドロキシフェノールが分解されることを抑制でき、更にこれらの化粧料等を使用した際には、皮膚内に存在するフォスファターゼ他の酵素等によって速やかにヒドロキシフェノール及びアスタキサンチン、トコフェロール、もしくはトコトリエノールなどに分解され、ヒドロキシフェノール本来の皮膚の美白に有用な生理活性、すなわち皮膚の美白化、しみ、そばかす、黒皮症、肝班等の治療を発揮できる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明に用いるポリヒドロキシベンゼンは、下記化1の式で示されるものである。
【0027】
【化1】

【0028】
(式中、R1〜R5は、水素(H)または水酸基(OH)を表わし、水素(H)の数は0〜4である。)
【0029】
上記した化1で示されるポリヒドロキシベンゼンは、R1〜R5の水素(H)または水酸基(OH)の組み合わせにより、表1に示される化合物1〜10がある。
【0030】
【表1】

【0031】
また、この発明に用いる所定の抗酸化性物質の水酸基にリン酸をエステル結合させたリン酸ジエステル基は、以下の化2に示されるものである。
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、R6、R7は、水素(H)またはアスタキサンチン残基、トコフェロール残基、もしくはトコトリエノール残基を表わす。ただし、R6=R7=水素(H)である場合を除く。)
【0034】
そして、上述したポリヒドロキシベンゼンの1以上の水酸基と所定のリン酸エステルをジエステル結合させ、ポリヒドロキシフェニルフォスフェートまたはその塩としたこの発明に係る抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体は、以下の化3に示す式で示されるものである。
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、R〜R13の1以上は、アスタキサンチン残基、トコフェロール残基またはトコトリエノール残基を有するリン酸ジエステル基であり、その他のR〜R13は水素(H)または水酸基(OH)である。ただし、R8〜R13のうち水素(H)の数は0〜4である。)
【0037】
また、抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体の塩としては、アスタキサンチンである3,3'−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4'−ジオン、トコフェロールもしくはトコトリエノールを結合したエステル部を有するヒドロキシフェノールリン酸エステルのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩またはカルシウム塩等の無機塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機アミン塩及びL-アルギニン、L-リジン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0038】
抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体を製造するには以下のように行なう。
先ず、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどから選ばれる非極性溶媒を用いて、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどから選ばれる塩基の存在下で、化4で示されるアスタキサンチン、すなわち3,3'−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4'−ジオン、化5で示されるトコフェロールもしくは化6で示されるトコトリエノールに対して、オキシ塩化リンを−20〜20℃で反応させ、化7の式で示される1分子のアスタキサンチン残基、トコフェロール残基もしくはトコトリエノール残基を有するジクロロフォスフェート、または化8の式で示される2分子のアスタキサンチン残基、トコフェロール残基もしくはトコトリエノール残基を有するモノクロロフォスフェートを製造する。
これらを取り出す必要のある場合は、蒸留により単離できるが、上記の非極性溶媒の溶液として次工程へ進んでも良い。
【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
(式中、Rは水素(H)もしくはメチル基(CH)を示す。)
【0042】
【化6】

【0043】
(式中、Rは水素(H)もしくはメチル基(CH)を示す。)
【0044】
【化7】

【0045】
(式中、Rはアスタキサンチン残基、トコフェロール残基またはトコトリエノール残基を示す。)
【0046】
【化8】

【0047】
(式中、R1、Rは、水素(H)またはアスタキサンチン残基、トコフェロール残基またはトコトリエノール残基を表わす。ただし、R=R=水素(H)である場合を除く。)
【0048】
次に、別途ポリヒドロキシベンゼンの1〜5個のフェノール性水酸基の所定数を適当な保護基、例えば、ベンジル基等によって保護する。
【0049】
フェノール性水酸基をベンジル基によって保護したベンジルヒドロキシフェノールは、ヒドロキシフェノールをベンジルクロライドもしくは発煙硫酸などの脱水剤の存在下で、−30℃〜20℃においてフェニル酢酸と反応させ、濾過などの方法により単離できる。
【0050】
また、上記のようにして得られるベンジルヒドロキシフェノールは、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどから選ばれる非極性溶媒下において、さらにトリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどから選ばれる塩基存在下、化7の式で示される1分子のアスタキサンチン残基、トコフェロール残基もしくはトコトリエノール残基を有するジクロロフォスフェート、または化8の式で示される2分子のアスタキサンチン残基、トコフェロール残基もしくはトコトリエノール残基を有するモノクロロフォスフェートと−20℃〜20℃において反応させた後、塩酸、硫酸、酢酸などから選ばれる酸によって−10〜50℃において加水分解する。
【0051】
このようにベンジル基等によって保護したベンジルヒドロキシフェノールと、前記したジクロロフォスフェートまたはモノクロロフォスフェートとを反応させ、リン酸とのエステル化後に前記保護基を接触還元等により脱離し、定法により精製することで前記の化3の式で示されるポリヒドロキシフェニルフォスフェートまたはその塩からなる抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体を製造できる。
【0052】
このとき、残存する塩基を除去するために塩酸、硫酸、酢酸などの酸や塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩の水溶液により洗浄し、非極性溶媒を留去するが、より高品質を要求される場合にはカラムクロマトなどにより、前記した化3の式で示したヒドロキシフェノールリン酸エステルを単離する。
【0053】
またはエタノール、グリセロールなどの溶液で取り出しても良い。このように、この発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体の単離精製方法は、一般的方法に従えばよく、特に制限する必要はない。
【0054】
前記した化3の式で示されるこの発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体の具体的な化合物の例としては、2−アスタキサンチン−ヒドロキシフェニルフォスフェート、2−ジアスタキサンチン−ヒドロキシフェニルフォスフェート、2−アスタキサンチン−ジヒドロキシフェニルフォスフェート、2−トコフェロール−ヒドロキシフェニルフォスフェート、2−ジトコフェロールヒドロキシフェニルフォスフェート、2−トコフェロール−ジヒドロキシフェニルフォスフェート、2−トコトリエノールヒドロキシフェニルフォスフェート、2−ジトコトリエノールヒドロキシフェニルフォスフェート、2−トコトリエノールジヒドロキシフェニルフォスフェート、3−アスタキサンチン−ヒドロキシフェニルフォスフェート、3−ジアスタキサンチン−ヒドロキシフェニルフォスフェート、3−アスタキサンチン−ジヒドロキシフェニルフォスフェート、3−トコフェロール−ヒドロキシフェニルフォスフェート、2−ジトコフェロールヒドロキシフェニルフォスフェート、3−トコフェロール−ジヒドロキシフェニルフォスフェート、3−トコトリエノールヒドロキシフェニルフォスフェート、3−ジトコトリエノールヒドロキシフェニルフォスフェート、3−トコトリエノールジヒドロキシフェニルフォスフェート、4−アスタキサンチン−ヒドロキシフェニルフォスフェート、4−ジアスタキサンチン−ヒドロキシフェニルフォスフェート、4−アスタキサンチン−ジヒドロキシフェニルフォスフェート、4−トコフェロール−ヒドロキシフェニルフォスフェート、2−ジトコフェロールヒドロキシフェニルフォスフェート、4−トコフェロール−ジヒドロキシフェニルフォスフェート、4−トコトリエノールヒドロキシフェニルフォスフェート、4−ジトコトリエノールヒドロキシフェニルフォスフェート、4−トコトリエノールジヒドロキシフェニルフォスフェートなどが挙げられる。
【0055】
また、この発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体においては、これら抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体の塩も使用可能であり、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルギニン等の塩基性アミノ酸、トリエタノールアミン等の有機アミンを用いることができる。
【0056】
そして、この発明の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分として含有する抗炎症用皮膚外用剤または美白化粧料に配合される抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体の塩の含有量は、0.05重量%以上とすることが、抗炎症作用または美白作用を充分に及ぼすようにするために好ましい。0.05重量%未満の含有量では、抗炎症効果または美白効果が望めないか、または確実に得られない。
【0057】
この発明の美白化粧料のpHは、特に限定されるものではないが、化粧料の一般的な保存状態での安定性を高めるために、pH4.0〜9.0とすることが好ましく、その他のpH領域ではエステルの加水分解が起こりやすく安定な製剤が得られないことがある。
【0058】
この発明の美白化粧料は上記必須成分の他に、通常の化粧料、医薬部外品、医薬品等に用いられる各種成分、例えば油性成分、乳化剤、保湿剤、増粘剤、薬効成分、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、香料等を適宜配合することができる。
【0059】
前記した油性成分の具体例としては、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ホホバ油、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、オリーブ油、ヤシ油、高級アルコール、脂肪酸、高級アルコールと脂肪酸のエステル、シリコーン油等が挙げられる。乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン界面活性剤、ステアロイル乳酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤、大豆リン脂質等の両性界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム等のカチオン界面活性剤が挙げられる。保湿剤としては、例えばグリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオールなどが挙げられる。増粘剤としては、例えばカルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ベントナイト等の粘土鉱物等が挙げられる。薬効成分としては、例えば各種ビタミンおよびその誘導体、アラントイン、グリチルリチン酸およびその誘導体、各種動植物抽出物等が挙げられる。
【0060】
この発明の美白化粧料は、前記した所定の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体及びその塩を美白有効成分として配合することの他に、特に限定されず、周知の化粧料の製造方法により製造することができ、一般的な皮膚化粧料に限定されず、医薬部外品、外用医薬品等にも適用でき、それらの剤型は目的に応じて、クリーム状、乳液状、液状、ゲル状、軟膏状、パック状、スティック状、パウダー状等の形態を選択的に採用することができる。
【実施例1】
【0061】
[抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体の製造例1]
アスタキサンチンとオキシ塩化リンを反応させ、1分子のアスタキサンチン残基を有するジクロロフォスフェートであるアスタキサンチンジクロロフォスフェートを合成した。
【0062】
これを別途、p−ヒドロキシフェノールとフェニル酢酸を反応させて得たフェニル酢酸フェノールと反応させ、生成したアスタキサンチン−フェニル酢酸フェノールフォスフェートを塩酸にて加水分解し、洗浄し、単離精製して下記の化9に示すアスタキサンチン−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートを製造した。なお、化9には後述する1H−NMRにおけるピークの帰属番号を併記した。
以下に、製造方法をその合成工程毎に詳細に説明する。
【0063】
【化9】

【0064】
(1) フェニル酢酸フェノールの合成
窒素置換下、フェニル酢酸1307.1g(9.6モル)を−5℃に冷却し、28%発煙硫酸54.3g(0.2モル)を滴下し、p−ヒドロキシフェノール110.1g(1.0モル)を仕込む。同温度で17時間反応させ、濾過、冷アセトンにより洗浄し、210.5gのp−フェニル酢酸フェノール(純度85.4%)をwetケーキとして得た。
【0065】
(2) アスタキサンチンジクロロフォスフェートの合成
窒素置換下、トルエン540mL及びオキシ塩化リン138.0g(0.9モル)を仕込み、−10℃に冷却する。そこに、アスタキサンチン537.1g(0.9モル、1.0モル比)とトリエチルアミン91.1g(0.9モル)の溶液を滴下し、0℃で12時間反応させた。25℃に昇温した後、濾過によりトリエチルアミンの塩酸塩を除去し、116.8gのアスタキサンチンジクロロフォスフェートのトルエン溶液(濃度34.7%)を得た。
【0066】
(3) アスタキサンチン−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートの合成
窒素置換下、トルエン2000mLに上記のp−フェニル酢酸フェノール198.4g(1.0モル)を仕込み、室温でトリエチルアミン202.4gを滴下し、1時間攪拌する。その後、−10℃に冷却し、上記のアスタキサンチンジクロロフォスフェートのトルエン溶液1945.5g(0.9モル)を1時間かけて滴下し、同温度で14時間攪拌する。得られた反応マスに6.7%の塩酸水溶液15047gを加え、35℃で4時間加水分解を行い、トルエン層を10%塩酸/7.1%塩化ナトリウム水溶液1000gで2回洗浄した後、更に20%塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。
【0067】
そして、トルエン層についてカラムクロマトグラフィーを行い、分取したフラクションを減圧濃縮(35℃、2Torr)によりトルエンを留去し、368.7gのアスタキサンチン−p−ヒドロキシフェニルフォスフェート(純度95.2%)を得た。収率は54.6%(対p−ヒドロキシフェノール)であった。
【0068】
得られたアスタキサンチン−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートの分子構造を赤外線吸収スペクトル(IR)および核磁気構造スペクトル(1H−NMR)によって同定し、これらの結果(ピークの位置と対応する基または炭素原子)を表2、3にそれぞれまとめて示した。
これにより得られた化合物が、所期した分子構造のポリヒドロキシベンゼン誘導体である[2−(1,3,3−トリメチル−n−ブチル)−5,7,7−オクチル]−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートであることが確認された。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【実施例2】
【0071】
[ポリヒドロキシベンゼン誘導体の製造例2]
実施例1において、アスタキサンチンの代わりにα−トコフェロールを用いたこと以外は実施例1と全く同様の方法で化合物を得た。
【0072】
なお、得られた化合物の分子構造を下記の化10の式に示し、その分子構造を赤外線吸収スペクトル(IR)および核磁気構造スペクトル(1H−NMR)によって同定し、所期した分子構造のポリヒドロキシベンゼン誘導体であるα−トコフェロール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートであることを確認した。また、ピークの位置と対応する基または水素原子の結果による同定については、実施例1を代表例とし、その記載を省略した。
【0073】
これにより得られた化合物が、所期した分子構造のポリヒドロキシベンゼン誘導体であるα−トコフェロール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェート(純度91.7%)であることが確認できた。その収率は52.9%(対p−ヒドロキシフェノール)であった。
【0074】
【化10】

【実施例3】
【0075】
[ポリヒドロキシベンゼン誘導体の製造例3]
α−トコトリエノール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートのナトリウム塩を以下の方法で製造した。
【0076】
実施例1と全く同様の方法で、α−トコトリエノール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートの反応マスを得て、その反応マスに6.7%の塩酸水溶液15047gを加え、35℃で4時間加水分解を行い、トルエン層を10%塩酸/7.1%塩化ナトリウム水溶液1000gで2回洗浄した後、更に20%塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。
【0077】
そして、トルエン層に30%NaOH水溶液を加え、pHを7に調整する。分液後の水層にエタノールを加え、減圧濃縮により水及びエタノールを留去し、析出した結晶を濾過、乾燥し、α−トコトリエノール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートナトリウム塩(純度94.2%)を得た。その収率は73.6%(対p−ヒドロキシフェノール)であった。
【0078】
なお、得られた化合物の分子構造を下記の化11の式に示し、得られた化合物の分子構造を赤外線吸収スペクトル(IR)および核磁気構造スペクトル(1H−NMR)によって同定し、所期した分子構造のポリヒドロキシベンゼン誘導体であるα−トコトリエノール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートジナトリウム塩であることを確認した。なお、ピークの位置と対応する基または水素原子の結果による同定については、実施例1を代表例とし、その記載を省略した。
【0079】
【化11】

【0080】
上述のように製造例1、2、3で得られたポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分として、以下の表4に示す配合割合で実施例4〜12の化粧料組成物(化粧水)を調製し、美白効果および抗炎症効果の判定を行なった。
【0081】
【表4】

【0082】
[美白効果の判定]
シミ、ソバカスや色黒等の悩みを持つ被験者を一群20名とし、各化粧料を毎日、朝と夜、3ヶ月間塗布して使用させ、3ヶ月後に累積塗布効果を以下の判定基準により自己判定させ、さらに判定結果を以下の基準で評価し、結果を表5中に示した。
【0083】
著効:色素沈着がほとんど目立たなくなった。
有効:薄くなった。
やや有効:やや薄くなった。
無効:変化なし。
【0084】
[評価]
◎:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が80%以上。
○:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が60%以上80%未満。
△:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が40%以上60%未満。
×:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が40%未満。
【0085】
[炎症緩和効果の判定]
シミ、ソバカスや色黒等の悩みを持つ被験者を一群20名とし、各化粧料を毎日、朝と夜、3ヶ月間塗布使用させ、3ヶ月後に累積塗布効果を以下の判定基準により自己判定させ、さらに判定結果を以下の基準で評価し、表5に示した。
【0086】
著効:薬剤による紅斑がまったく確認されなかった。
有効:薬剤による紅斑がわずかしか確認されなかった。
やや有効:薬剤による紅斑が少し確認された。
無効:薬剤による紅斑が確認された。
【0087】
[評価]
◎:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が80%以上。
○:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が60%以上80%未満。
△:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が40%以上60%未満。
×:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が40%未満。
【0088】
【表5】

【0089】
表5の結果からも明らかなように、所定量(0.05重量%以上)のポリヒドロキシベンゼン誘導体を配合した実施例では、少なくとも40%以上、60%または80%の被験者が著効または有効を実感しており、ヒドロキシフェノール本来の皮膚の美白に有用な生理活性を発揮できる美白化粧料であることが確認できた。さらに、p-ジヒドロキシベンゼンで確認されたような薬剤による紅斑についても、所定量(0.05重量%以上)のポリヒドロキシベンゼン誘導体を配合した実施例では緩和できることが確認された。
【0090】
以下に、所定のポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分とする実施例として、化粧料の代表的な処方例を示す。各行右端の数値は配合割合(重量%)である。
【0091】
[実施例13](ゲル状クリーム)
アスタキサンチン−p−ヒドロキシフェニルフォスフェートナトリウム塩 1.0
グリセリン 10.0
エタノール 5.0
水酸化ナトリウム 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.8
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0092】
[実施例14](乳液)
α−トコフェロール−p−ヒドロキシフェニルフォスフェート 2.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
セタノール 0.8
L−アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0093】
[実施例15](クリーム)
α−トコトリエノール−p−ジヒドロキシフェニルフォスフェート 5.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
セタノール 2.0
ミツロウ 3.0
L−アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチン、トコフェロールまたはトコトリエノールからなる抗酸化性物質の水酸基にリン酸をエステル結合させ、このリン酸エステルをポリヒドロキシベンゼンの1以上の水酸基とジエステル結合させることにより、ポリヒドロキシフェニルフォスフェートまたはその塩としたものからなる抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体。
【請求項2】
ポリヒドロキシベンゼンが、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシベンゼン、ペンタヒドロキシベンゼンまたはヘキサヒドロキシベンゼンである請求項1に記載の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体。
【請求項3】
ジヒドロキシベンゼンが、カテコール、レゾルシンまたはハイドロキノンである請求項2に記載の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分として含有する抗炎症用皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗酸化性ポリヒドロキシベンゼン誘導体を有効成分として含有する美白用化粧料。

【公開番号】特開2012−41292(P2012−41292A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182951(P2010−182951)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【特許番号】特許第4879344号(P4879344)
【特許公報発行日】平成24年2月22日(2012.2.22)
【出願人】(592215011)東洋ビューティ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】