説明

抗酸化性組成物の製造方法および健康食品

【課題】本発明は、極めて効果の高い抗酸化性組成物を米糠から効率良く製造できる方法と、当該方法で得られた抗酸化性組成物を含む健康食品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る抗酸化性組成物の製造方法は、米糠の水分散液を100℃超で加熱処理する工程、および、加熱処理された米糠をペクチナーゼおよびマンナナーゼにより酵素処理する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化作用を有する組成物を製造するための方法と、当該方法で得られる抗酸化性組成物を含む健康食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米は日本において主食として長らく利用されており、江戸時代頃からは、香味改善のための精米が定着している。精米により大量に生じる米糠は、その油成分ゆえに長期保存が難しく、昔は漬物の糠床や飼料などとしてわずかに利用されていたに過ぎない。現在でも、同じく糠床や飼料として、また、シメジなどの生産の他、主に米油の原料に用いられるようになってはきているが、その利用価値は高いとはいえず、廃棄される場合も多い。
【0003】
しかし米糠は、主に養分を貯蔵している外胚乳、貯蔵タンパク質を含む糊粉層、および芽になるべき胚芽からなり、非常に有用な成分を含んでいる。例えば、かつて国民病といわれた脚気はビタミンB1(チアミン)不足が原因であり、脚気の特効薬となるビタミンB1は米糠に含まれていることはよく知られているところである。
【0004】
近年、米糠に関する研究がさらに進み、米糠には、神経伝達物質であるγ−アミノ酪酸や、抗酸化作用を示すフェルラ酸とそのエステルであるγ−オリザノールなどの有用物質が含まれていることが明らかにされている。そこで、サプリメントや健康食品としての利用が検討されている(特許文献1)。
【0005】
さらに、米糠を原料として有用な化合物や組成物を得る方法も検討されている。例えば特許文献2〜3には、亜臨界水や亜臨界エタノールを用いて米糠から抗酸化性組成物を得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、米糠より製造される米油から抽出・精製して得られる、オリザノールを高濃度に含む油が記載されている。特許文献5には、米糠などを加圧した後、セルラーゼやヘミセルラーゼなどで処理し、酢酸エチルでフェルラ酸を抽出し、さらに、抗がん作用があるといわれているアラビノキシランを残液から得る方法が開示されている。
【0007】
特に最近では、健康志向の高まりもあって、フェルラ酸やオリザノールなど米糠由来の抗酸化性物質に注目が集まっている。抗酸化性物質は、老化や動脈硬化などの原因であるといわれている過酸化物質を中和して、老化や生活習慣病の進行を緩和する。抗酸化性物質には様々なものがあり、生体に害を及ぼすものもあるが、食用や食品製造に用いられている米糠由来のものであれば安全であるので、健康食品などとしての利用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−68523号公報
【特許文献2】特開2006−160825号公報
【特許文献3】特開2007−223990号公報
【特許文献4】特開2007−124917号公報
【特許文献5】特表2003−526355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように米糠には様々な有効成分が含まれており、そのような有効成分としてはフェルラ酸やオリザノールなど抗酸化作用を示す化合物が知られている。また、未知の有効成分が含まれている可能性がある。しかし、従来方法により米糠から得られる抗酸化性物質や抗酸化性組成物の抗酸化作用は、必ずしも満足できるものではなかった。
【0010】
そこで本発明は、極めて効果の高い抗酸化性組成物を米糠から効率良く製造できる方法と、当該方法で得られた抗酸化性組成物を含む健康食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、米糠の水分散液を100℃超で加熱処理した後に特定の酵素の組合せで処理すれば、処理後の組成物に含まれているフェルラ酸による抗酸化作用のみでは説明できない極めて優れた抗酸化作用を示す組成物を容易に製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明に係る抗酸化性組成物の製造方法は、米糠の水分散液を100℃超で加熱処理する工程、および、加熱処理された米糠をペクチナーゼおよびマンナナーゼにより酵素処理する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明方法においては、加熱処理工程を経た米糠をさらにセルラーゼにより酵素処理することが好ましい。おそらく、細胞壁の主構造であるセルロースを分解して細胞壁中の抗酸化性物質が遊離することによると考えられるが、当該酵素処理により、得られる組成物の抗酸化作用がより一層向上する。
【0014】
米糠の水分散液の加熱温度としては、115℃以上が好ましい。かかる温度範囲で優れた抗酸化作用を示す組成物をより一層効率的に製造できることは、本発明者らの実験的知見により確認されている。
【0015】
本発明方法においては、酵素処理の後、固液分離して溶液を得る工程を実施することが好ましい。当該溶液は優れた抗酸化作用を示すことから、抗酸化性物質を含んでいると考えられる。
【0016】
本発明方法においては、加熱処理工程の前に、米糠を脱脂する工程を実施することが好ましい。米糠成分には比較的多くの油成分が含まれており、かかる油成分が酵素反応を阻害する可能性もあり得る。また、本発明に係る抗酸化性物質は水溶性であるので、油成分は不純物であるといえる。よって、事前に油成分の含有量を低減するためである。
【0017】
脱脂方法としては、加圧脱脂が好ましい。米糠の脱脂方法としてはヘキサンなどの有機溶媒を用いた抽出も採用し得るが、残留有機溶媒による害も考えられるので、加圧脱脂がより好適である。
【0018】
本発明に係る健康食品は、上記本発明方法により製造された抗酸化性組成物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
近年、健康志向の高まりに伴って、安全で恒常的な摂取にも適する抗酸化性物質や抗酸化性組成物が求められている。この点において、本発明方法で製造される抗酸化性組成物は米糠を原料とするため安全であり、毎日の摂取も可能であり得る上に、優れた抗酸化作用を示す。また、本発明方法によれば、このような抗酸化性組成物を簡便に製造することができる。従って本発明は、安全で且つ効果の高い抗酸化性組成物や健康食品の提供を可能にするものとして、産業上非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明方法を実施の順番に従って説明する。
【0021】
(1) 脱脂工程
本発明方法では、先ず、米糠を脱脂することが好ましい。米糠成分には18〜19%前後の油成分が含まれており、かかる油成分が酵素反応を阻害する可能性もあり得る。また、本発明に係る抗酸化性物質は水溶性であるので、油成分は不純物であるといえる。よって本工程を実施することにより、事前に油成分の含有量を低減することが好ましい。但し本工程の実施は任意であり、本工程を行わず、精米工程で得られる米糠をそのまま以降の工程に付してもよい。
【0022】
本発明方法の原料は、米糠である。
【0023】
米糠は玄米の精米工程で生じるものであり、精米歩合90%程度までで得られる赤糠、85%程度までで得られる中糠、75%程度までで得られる白糠、さらに精米を進めて得られる特上糠または特白糠に分類される。米糠は、主に玄米の外胚乳、糊粉層、胚芽からなり、精米歩合が高まるほど内胚乳の割合が増えて白色度が増す。本発明では、原料として用いる米糠の種類は特に問わず、上記のいかなる種類の米糠や、それらの混合物を用いることができるが、赤糠を用いることが好ましい。赤糠には内胚乳の割合が少ない一方で外胚乳、糊粉層、胚芽の割合が比較的多く、本発明にとっての重要成分である抗酸化性物質は、内胚乳ではなく外胚乳などにより多く含まれていると考えられる。
【0024】
脱脂方法は特に制限されず、適宜選択すればよい。脱脂方法としては、例えば、有機溶媒による抽出、加熱とそれに続く冷却、加圧などを挙げることができる。これら方法のうち、加圧による脱脂方法が最も好ましい。
【0025】
有機溶媒による抽出では、米糠を有機溶媒に浸漬して油分を抽出した後に固液分離し、米糠を乾燥する。ここで用いられる有機溶媒としては、ヘキサンやアセトンなどを用いることができる。有機溶媒の使用量は米糠が十分に浸漬される程度とすればよく、また、抽出時間は特に制限されず、米糠中の油分が十分に抽出される程度とすればよいが、通常、10分間以上、5時間以下程度とすることができる。また、抽出中、米糠と有機溶媒からなる混合物を攪拌や振とうしてもよい。次いで、濾過や遠心分離などで固液分離した後、脱脂された米糠を乾燥すればよい。乾燥においては、減圧してもよい。
【0026】
米糠の脱脂は、米糠を加熱した後に必要に応じて冷却し、滲出した油分を分離することによっても行うことができる。滲出した油分の分離手段としては常法を用いることができるが、油分には粘性があり、また、その量は通常の濾過が適用できるほど多くないので、遠心分離や減圧濾過を用いることが好ましく、遠心分離がより好ましい。
【0027】
加圧による脱脂は圧搾機械を用いて容易に実施できる上に、有害な有機溶媒の残留の心配が無く、また、他の方法に比べて脱脂効率が高いために好ましい。
【0028】
加圧脱脂を行う前には、脱脂効率をさらに向上させるため、米糠を事前に90℃以上、120℃以下程度で加熱しておくことが好ましい。また、加圧脱脂を行うべき圧搾機械としては、実施規模などに応じた一般的なものを用いることができる。
【0029】
当該工程により、得られる米糠中の油分(脂質)を5質量%以上、15質量%以下程度とすることが好ましい。当該割合が15質量%以下であれば、以降の工程の実施や効率を損なわない程度に十分に油分が除去できたといえる。一方、油分を過剰に除去しようとするとかえって本発明方法全体の効率が低下するおそれがあり得るので、当該割合としては5質量%以上が好ましい。当該割合としては、14質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましい。
【0030】
(2) 粉末化工程
米糠は、事前に粉末化しておくことが好ましい。粉末化しておくことにより、以降の工程の効率をより一層高めることが可能になる。但し、米糠はもともと十分に細かいといえ、通常、当該工程を経なくても有効成分の分離は可能であるので、当該工程は任意であり、必ずしも実施しなくてもよい。
【0031】
粉末化には、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ハンマーミル、サイクロンミルなど通常の粉砕機械を用いることができる。また、粉末化の程度も特に制限されないが、例えば、一般的な粒度分布計により測定される粒度分布から求められる体積平均粒子径で1μm以上、200μm以下程度となるようにすればよい。体積平均粒子径が200μm以下であれば、以降の工程を十分効率的に実施することが可能である。一方、過剰に細かくしようとすれば本発明方法全体の効率が低下するおそれがあり得るので、体積平均粒子径としては1μm以上が好ましい。当該平均粒子径としては、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、また、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0032】
当該工程は任意であって、また、脱脂工程の前後いずれに実施してもよい。但し、粉末化手段によっては油分が滲出することがあり得るので、好適には先ず脱脂工程を実施した後に粉末化工程を実施する。さらに、粉末化工程は、以下に説明する加熱工程の後に実施することも可能である。
【0033】
(3) 加熱工程
当該工程では、上記脱脂工程および/若しくは粉末化工程を経た米糠、または未処理の米糠を水に分散させた上で加熱する。本発明者らによる実験的知見によれば、当該工程と後述する特定の酵素処理工程を経ることによって、極めて抗酸化作用に優れる組成物を効率的に製造することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、おそらく当該工程で細胞組織の少なくとも一部を物理的に破壊し、続く酵素反応の効率を高めているか、或いは有用な抗酸化性物質が遊離し易いようにしていると考えられる。
【0034】
当該工程では、その目的が細胞組織の少なくとも一部を物理的に分解することにある。本発明者らによる実験的知見によれば、単に加熱するのみではなく、米糠を水に分散させて分散液とした上で加熱すると、優れた抗酸化作用を示す組成物を効率良く製造することができる。
【0035】
ここで使用される米糠は、脱脂工程および/若しくは粉末化工程を経た米糠、または未処理の米糠を挙げることができる。分散液の調製に用いられる水は特に制限されず、精製水、蒸留水、RO水、純水、超純水、水道水、井戸水などを用いることができるが、一般的には、安価な水道水や井戸水を用いればよい。
【0036】
分散液における米糠濃度は適宜調整すればよいが、例えば、得られる分散液(米糠と水の合計)に対して0.5質量%以上、40質量%以下程度とすることができる。当該割合が40質量%以下であれば水の量は十分であるといえる一方で、水の量が多過ぎると最終的に得られる抗酸化物質の濃度が過剰に低くなるおそれがあり得るので、当該割合としては0.5質量%以上が好ましい。当該割合としては、1質量%以上がより好ましく、また、30質量%以下がより好ましい。
【0037】
加熱温度は、細胞組織が十分に分解されるよう100℃超とする。100℃以下では細胞組織が十分に分解されず、抗酸化性組成物の製造効率が低下するだけでなく、十分満足できる抗酸化力を有する組成物が得られない。当該加熱温度としては、105℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。一方、当該温度を過剰に高めると大規模な実施が困難になり得、また、風味が低下したり有用成分が分解するおそれがあり得るので、当該温度としては200℃以下が好ましい。より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下とする。なお、加熱中における水分の蒸散を防ぐために、密閉系で加熱する必要がある。さらに、加熱温度を100℃超とするために、加圧条件下で加熱することが好ましい。
【0038】
加熱時間は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、30秒間以上、10時間以下とすることができる。30秒間以上であれば、細胞壁をより確実に分解でき得る一方で、加熱時間が長過ぎると有効成分の分解などのおそれがあり得るので、加熱時間としては10時間以下が好ましい。当該加熱時間としては5分間以上がより好ましく、10分間以上がさらに好ましく、30分間以上がさらに好ましく、1時間以上が特に好ましく、また、8時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましく、4時間以下がさらに好ましく、3時間以下が特に好ましい。
【0039】
加熱後、分散液を放冷し、常温まで冷却することが好ましい。当該工程後、分散液は、そのまま次工程で用いることができる。
【0040】
加熱手段としては、特に制限されないが、例えば、100℃超の加熱が可能な装置として、レトルト殺菌機、超高温瞬間殺菌装置、プレート式加熱機、掻き取り式加熱機、チューブ式加熱機、マイクロ波加熱機、ジュール式加熱機などを挙げることができる。
【0041】
(4) 酵素処理工程
次に、加熱処理された米糠分散液を、ペクチナーゼおよびマンナナーゼにより酵素処理に付す。
【0042】
また、本発明では、さらに、セルロースを分解するためのセルラーゼを用いてもよい。
【0043】
当該工程では、加熱処理工程で有効成分が水中に溶解している可能性もあるので、加熱処理工程を経た分散液をそのまま用いることが好ましい。
【0044】
上記各酵素の使用量、pH、反応温度、反応時間などは、適宜調整すればよい。また、各酵素反応は、順次行ってもよいし、一時に行ってもよい。即ち、いずれかの酵素を添加してその酵素に応じた至適反応条件で反応を行った後、次の酵素を添加してその酵素に応じた至適反応条件で反応を行うという操作を繰り返してもよいし、酵素を全て添加した上で全ての酵素が活性を示す条件に調整して反応を行ってもよい。なお、一時に酵素反応を行う態様は、酵素反応効率が多少低下することもあり得るが、総反応時間を短縮できるので、工業的な大量生産に適している。
【0045】
(5) 固液分離工程
得られた酵素処理液は、抗酸化作用を示すものであるので、そのまま飲用することができる。しかし、本発明に係る抗酸化性物質は水溶性を示し、上記酵素処理液に溶解していると考えられることから、固液分離することが好ましい。但し、当該工程は任意である。
【0046】
固液分離手段は特に制限されないが、例えば、濾過、遠心分離、静置後のデカンテーションなどを用いることができる。
【0047】
(6) 精製工程
上記酵素処理工程後、さらに固液分離した後、或いは固液分離することなく、製品化などのために、さらに精製を進めてもよい。
【0048】
例えば、水分の除去、抽出、塩析、クロマトグラフィ、再結晶などの精製手段を適宜選択または組合せ、抗酸化性物質を精製してもよい。
【0049】
上記の本発明方法で得られた抗酸化性組成物は、食用にもできる米糠由来のものであることから安全で、恒常的な摂取も可能であり、且つ優れた抗酸化作用を示すので、脂質異常症や動脈硬化症などの循環器系疾患;老化;がん;アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患;糖尿病や糖尿病合併症;関節リウマチなどの予防を期待できる健康食品として利用可能である。
【0050】
なお、本発明に係る抗酸化性組成物は、抗酸化性物質として知られるフェルラ酸を含むが、フェルラ酸のみによると考えられる抗酸化作用よりもはるかに高い抗酸化作用を示す。よって、フェルラ酸以外に、何らかの優れた抗酸化性物質が含まれると考えられる。
【0051】
本発明に係る抗酸化性組成物は、一般的な添加成分を添加して、健康食品などの経口組成物とすることができる。このような経口組成物の剤形としては、液剤、シロップ剤、飲料、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、バー、ゼリーなどを挙げることができるが、長期摂取する場合を考慮して、飲料、錠剤、粉末剤、顆粒剤とすることが好ましい。また、添加成分としては、例えば、基剤、賦形剤、着色剤、滑沢剤、矯味剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、安定剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、抗酸化剤、佐薬、緩衝剤、pH調整剤、甘味料、香料などを挙げることができる。これら添加剤の配合量は、本願発明の抗酸化作用を妨げない様な量で有る限り、必要に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
実施例1
玄米(日本産)を精米歩合90%で精製して得られた赤糠を103〜110℃に加熱した後、連続圧搾機(テクノシグマ社製,ミラクルチャンバー)により圧搾することにより脱脂した。得られた脱脂米糠に含まれる脂質含量をジエチルエーテル抽出法により測定したところ、13.5質量%であった。当該脱脂米糠を気流式粉砕機(増野製作所社製,ニューミクロシクロマット)により粉砕し、分級することにより、粒度分布から求められる体積平均粒子径が50μmとなるようにした。
【0054】
上記脱脂米糠粒子を水道水に分散させ、5質量%分散液とした。当該分散液を、オートクレーブを用い、121℃で15分間加熱処理した。室温まで放冷した後、25質量%クエン酸水溶液を用いて分散液のpHを5.0に調整した。
【0055】
上記分散液(30mL)へ表1に示す各酵素を0.1質量%ずつ添加し、反応機器の温度を50℃に設定し、分散液温43℃で20時間攪拌した。次いで、各分散液を遠心分離し、上清を得た。
【0056】
【表1】

【0057】
試験例1 フェルラ酸含有量の測定
上記実施例1の各酵素処理液を遠心分離前に少量ファルコンチューブに入れ、ボルテックスミキサーを用いて十分に攪拌した。次いで、攪拌後の試料を1g秤量して20mL容のメスフラスコに入れ、水:メタノール=50:50の混合溶液を加えて20mLにメスアップした。得られた希釈試料を12000rpmで10分間遠心分離し、上清を得た。得られた上清に含まれるフェルラ酸の濃度を下記条件のHPLCにより測定した。結果を表2に示す。
カラム: Cosmosil 5C18 MS−II 4.6mm×150mm
装置: Agilent HP1100 装置3システム
移動相: 0.5%酢酸:アセトニトリル=88:12
流速: 1.0mL/min
測定波長: UV320nm
試料注入量: 20μL
カラム温度: 40℃
【0058】
試験例2 抗酸化性試験
抗酸化活性の測定キット(CELL BIOLABS社製,OxiSelectTM Oxygen Radical Antioxidant Capacity Activity Assay)を用い、各酵素処理液の抗酸化性を試験した。詳しくは、上記実施例1で得られた上清を65℃で約30分間加温した後、キット付属のAssay Diluentで1000倍希釈した。当該希釈液と、キット付属の抗酸化性物質標準品(トロロックス,ビタミンE様物質)の0〜50μM溶液を、マイクロプレートの別々のウェルに25μL/wellで添加した。また、キット付属の色素(フルオレセイン)をAssay Diluentで1:100で希釈し、マイクロプレートに150μL/wellで添加した。よく混合した後、37℃で30分間インキュベートした。次いで、キット付属のFree Radical InitiatorをPBSに溶解して80mg/mLの溶液とし、マイクロプレートに25μL/wellで添加した。マイクロピペットの先端を使って確実に混合した直後から1時間、3分毎に蛍光量を蛍光プレートリーダー(Ex.:480nm,Em.:520nm)で測定し、測定された蛍光量のグラフの曲線下面積(AUC)を算出した。抗酸化性物質標準品(トロロックス,ビタミンE様物質)の各濃度と曲線下面積から検量線を作成し、当該検量線から各酵素処理液の抗酸化活性(ORAC値)を求めた。
【0059】
また、従来、抗酸化性物質として知られているフェルラ酸の影響を調べるために、上記実施例1における酵素処理前の試料へ上記試験例1で測定された濃度のフェルラ酸を添加した上で、同様に抗酸化活性(ORAC値)を求めた。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
上記結果のとおり、セルロースを分解するセルラーゼ、ペクチンを構成するポリガラクツロン酸の1,4−結合を切断するペクチナーゼ、ヘミセルロースの一種であるグルコマンナンを分解するマンナナーゼ単独で加熱処理済みの米糠を酵素処理する場合であっても、抗酸化作用は認められる(実験例2〜4)。酵素処理を行わない場合であっても抗酸化作用が見られるが(実験例1)、これは、もともと遊離状態で米糠に含まれていた抗酸化性物質や、100℃超の加熱処理により細胞壁や細胞質から遊離した抗酸化性物質によるものであると考えられる。
【0062】
それらに対して、100℃超の加熱処理に加え、ペクチナーゼとマンナナーゼを組合わせて酵素処理をした場合には、上記各酵素を単独で用いた場合に比べてはるかに優れた抗酸化作用が発揮された(実験例5)。ペクチナーゼとマンナナーゼに加えてセルラーゼを用いた場合には、抗酸化作用はさらに向上した(実験例6)。
【0063】
なお、酵素処理液に含まれる濃度のフェルラ酸を未酵素処理液に添加した場合でも抗酸化活性を測定したが、フェルラ酸を添加しない未酵素処理液(実験例1)のORAC値に比べてそれ程の向上効果は認められない。より詳しくは、実験例2〜4において、酵素処理後のORAC値から未酵素処理液にフェルラ酸を添加した場合のORAC値を減ずると、おおよそ実験例1(加熱処理のみで酵素処理無しの場合)のORAC値と同等かそれ以下の値となる。よって、実験例2〜4ではフェルラ酸以外の抗酸化性物質の効果がほとんど得られていないことが分かる。一方、実験例5〜6では、酵素処理後のORAC値から未酵素処理液にフェルラ酸を添加した場合のORAC値を減じた値が、実験例1のORAC値よりも明らかに大きい。従って、ペクチナーゼとマンナナーゼを組合わせて用いた場合に得られる酵素処理液の抗酸化作用は、フェルラ酸のみに由来するものではなく、主にその他の物質の抗酸化作用によるものであると結論付けられた。
【0064】
試験例3 酵素反応の効果の確認試験
まず、上記実施例1のとおり5質量%米糠分散液を121℃で15分間加熱処理した後、溶液部分に含まれる単糖〜五糖類の濃度をHPLCで測定した。また、同様の加熱処理を行った後、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、セルラーゼおよびクロロゲン酸エステラーゼをそれぞれ0.1質量%用いた以外は上記実施例1と同様の条件で、酵素処理を実施した。次いで、溶液部分に含まれる単糖〜五糖類の濃度を同様の条件で測定した。結果を表3に示す。なお、表3中の「−」は測定していないことを示す。
【0065】
【表3】

【0066】
上記結果のとおり、米糠分散液を加熱処理したのみの場合には、単糖類の濃度は比較的低い。なお、検出された果糖とブドウ糖は、ショ糖が加水分解されたことにより生じたものと考えられる。それに対して加熱処理に加えて酵素処理を行うと、果糖やブドウ糖のみならず、加熱処理のみでは未検出であった単糖、特にアラビノースとキシロースが検出された。その理由としては、加熱処理と酵素処理の組合せにより細胞組織に含まれる多糖類の分解が促進されたことが考えられ、また、上記試験例2のとおり加熱処理と酵素処理の組合せにより組成物の抗酸化能が顕著に向上した理由は、細胞組織の分解により内部に含まれていた抗酸化物質が遊離したことによると考えられる。
【0067】
実施例2
市販の半脱脂米糠粉末(三和油脂社製,製品名「ハイブレフ」)を水道水に分散させ、5質量%分散液とした。オートクレーブ(トミー精工社製)を用い、121℃または130℃で当該分散液(約500g)を加熱した。または、100℃で煮沸した後、蒸散した分の水を添加した。
【0068】
上記分散液(30mL)へ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、セルラーゼおよびクロロゲン酸エステラーゼを0.1質量%ずつ添加し、pH5.0、50℃で20時間攪拌した。次いで、各分散液を遠心分離し、上清を得た。
【0069】
得られた上清に含まれるフェルラ酸の濃度を、遠心分離条件を13000rpmで3分間に変更した以外は上記試験例1と同様の条件で測定した。結果を表4に示す。なお、表4中のF値は、各加熱条件に対応する殺菌条件の目安を示す。
【0070】
【表4】

【0071】
上記結果のとおり、米糠分散液の加熱温度を100℃とした場合には、抗酸化性の指標の一つとなるフェルラ酸の遊離率が50%程度と全く十分ではなかった。それに対して当該加熱温度を100℃超にした場合には、フェルラ酸遊離率を明らかに向上させることが可能になった。
【0072】
実施例3
実際の大量生産では加熱温度には限界がある。そこで、米糠分散液の加熱温度と加熱時間について、さらに実験を行った。具体的には、乳酸発酵等に用いられる300L容培養槽(丸菱バイオエンジ社製,最高許容温度:130℃)または600L容培養槽(伊藤忠フーデック社製,最高許容温度:130℃)を用い、250〜270Lまたは550〜570Lの5質量%米糠分散液を表5の条件で処理した後、上記実施例2と同様の条件で酵素反応とフェルラ酸濃度を測定した。また、同様の条件で、同じく抗酸化性の指標となるp−クマル酸濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
上記結果のとおり、加熱温度を125℃まで上げることにより、大量生産に十分適するフェルラ酸遊離率75%以上を達成することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化作用を有する組成物を製造するための方法であって、
米糠の水分散液を100℃超で加熱処理する工程;および
加熱処理された米糠を、ペクチナーゼおよびマンナナーゼにより酵素処理する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
さらに、セルラーゼにより酵素処理する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
米糠の水分散液を115℃以上で加熱処理する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、酵素処理の後、固液分離して溶液を得る工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
加熱処理工程の前に、米糠を脱脂する工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
米糠を加圧により脱脂する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造された抗酸化性組成物を含むことを特徴とする健康食品。

【公開番号】特開2012−214452(P2012−214452A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68246(P2012−68246)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】