説明

抗骨髄腫薬としてのイソチオシアネート誘導体の使用

要約
本発明は、骨髄腫治療のための薬剤を調製するための、以下の式(I、II)を有するグルコモリンギンおよびそのデスチオグルコシドの使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗骨髄腫薬としてのグルコモリンギンまたは対応するイソチオシアネート誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
植物は、化学的予防活性を有する最も重要な化合物源である。この中で、アブラナ科(Brassicaceae)(例えば、ブロッコリー、芽キャベツ、カリフラワーなど)において産生されるイソチオシアネート(ITC)は、ITCに誘発された腫瘍増殖阻害についてのSidranskyの最初の研究[1]以来、現在、多くの興味を引きつけている。
【0003】
植物において、ITCは、グルコシノレート(GL)と呼ばれる不活性な前駆物質の形で貯蔵され、ミロシナーゼ(MYR、E.C.1.2.1.147)(通常の条件下でGLから物理的に単離されるチオグルコシドグルコヒドロラーゼ)が関与する酵素加水分解による組織損傷後に、放出させることができる[2、3]。
【0004】
ヒトを含む哺乳動物の腸管微生物叢は、ミロシナーゼ様の活性を有するので、GLは、これらの消化管においてもITCへ変換させることができる[4、5]。
【0005】
ITCは、様々な生体内前臨床試験において、腫瘍増殖の阻害因子であると報告されており[6−8]、その上、疫学調査により、アブラナ科の食事摂取と、肺癌、乳癌および結腸癌の発症リスクとの間に反比例の関係があることが示された[9〜11]。
【0006】
ITCは、癌の進行に対する防御作用を示す多くの作用を有する。すなわち、ITCは、i)Nrf−2経路を通り、グルタチオンS転移酵素(GST)およびキノン還元酵素(QR)のような第二相酵素を誘発することができ[12〜15]、ii)細胞周期停止およびアポトーシスを引き起こすことができ[16〜18]、iii)第一相酵素およびNF−κB関連遺伝子を阻害することができる[19、20]。
【0007】
スルホラファンは、化学的予防薬としての役割により、近年広範囲に研究され、様々な研究により、新規な化学療法の化合物としてのその潜在的使用が実証された[7、11、20]。
【0008】
グルコモリンギン(GMG)は、グルコシノレート(GL)群の中では珍しい一員であり、その側鎖に第2の糖残基を含有する特異な特徴を示す。このGLは、14種類から成るワサビノキ(Moringaceae)属に属する植物(この中では、M.オレイフェラ(M.oleifera)が最も広く分布している)において存在する、典型的な二次代謝産物である。M.オレイフェラは、多くの熱帯または赤道地域で成長する多目的な樹木である。この植物の種子および他の部分の医療価値が、民間療法において長い間認識されてきた[21]。GMGのミロシナーゼ加水分解から生じるグリコシル化イソチオシアネート(GMG−ITC)は、広範囲の生物活性を表すことが示され、効果的な抗腫瘍促進活性を発揮することも示された[22]。GMG−ITCは、純GMGから出発して、多量に精製することができる。GMG−ITCは、液体で揮発性で刺激臭を有する他の天然の生物活性なITCとは異なり、室温で固体、無臭および安定な化合物である。
【0009】
多発性骨髄腫は、形質細胞の悪性疾患であり、骨格破壊、腎不全、貧血および高カルシウム血により特徴付けられる[23]。診断時の年齢中央値は、68歳である。骨髄腫は、白人人口では全ての悪性疾患の1%、黒人人口では2%を占め、全ての血液癌の中では、それぞれ13%および33%を占める[24]。
【0010】
骨髄腫治療としては、補助的治療および静注化学療法が挙げられ、若年患者には、これに続いて高用量化学療法および自己移植も挙げられる[25]。骨髄腫の生物学についての理解を活用することが、新たな治療的手法の開発につながる[26]。この新たな治療法を用いる骨髄腫の治療では大幅な進展があったが、現在、標準療法の代用の役割はない。したがって、新規の、より活性のある、かつ/または代替となる薬剤が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sidransky H,Ito N,Verney E.(1966),J Natl Cancer Inst.1966 Nov;37(5):677-86
【非特許文献2】Fenwick,G.R.,Heaney,R.K.& Mullin,W.J.(1983),CRC Crit.Rev.Food Sci.Nutr.18:123-201
【非特許文献3】Fahey.J.W.,Zalcmann,A.T.& Talaly,P.(2001), Phytochemisty 56:5-51.
【非特許文献4】Shapiro TA,Fahey JW,Wade KL,Stephenson KK,Talalay P.(1998),Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.1998 Dec;7(12):1091-100
【非特許文献5】Getahun SM,Chung FL.(1999),Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.1999May;8(5):447-51
【非特許文献6】Zhang Y,Talalay P.(1994),Cancer Res.1994 Apr 1;54(7Suppl):1976s-1981s.Review.
【非特許文献7】Hecht SS.(2000),Drug Metab Rev.20 Aug-Nov;32(3-4):395-411.Review
【非特許文献8】Conaway,C.C.,Yang,Y.-M.& Chug,F.-L.(2002),Curr.Drug Metab.3:233-255
【非特許文献9】Fowke JH,Chung FL,Jin F,Qi D,Cai Q,Conaway C,Cheng JR,Shu XO,Gao YT,Zheng W.(2003),Cancer Res.2003 Jul 15;63(14):3980-6.
【非特許文献10】Zhao B,Seow A,Lee EJ,Poh WT,Teh M,Eng P,Wang YT,Tan WC,Yu MC,Lee HP.(2001),Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.2001 Oct;10(10):1063-7
【非特許文献11】Conaway CC,Wang CX,Pittman B,Yang YM,Schwartz JE,Tian D, Mclntee EJ,Hecht SS,Chung FL.(2005),Cancer Res.Sep 15;65(18):8548-57.
【非特許文献12】Steinlellner,H.,Rabot,S.,Freywald,C.,Nobis,E.,Scharf,G.Chabicvsky,M.,Knasmu ller, S.& Kassie,F.(2001),Mutat.Res.480-481:285-297.
【非特許文献13】Talalay,P.& Fahey,J.W.(2001),J.Nutr. 131:3027S-3033S.
【非特許文献14】Brooks,J.D.,Paton,V.G & Vidanes,G.(2001),Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.10:949-954
【非特許文献15】McWalter GK,Higgins LG,McLellan LI,Henderson CJ,Song L,Thornalley PJ,Itoh K,Yamamoto M,Hayes JD.(2004),J Nutr Dec:134(12Suppl):3499S-3506S.
【非特許文献16】Xu C,Shen G,Chen C,Gelinas C,,Kong AN.(2005),Oncogene.Jun 30;24(28):4486-95
【非特許文献17】Heiss E,Herhaus C,Klimo K,Bartsch H,Gerhauser C.(2001),J Biol Chem.2001 Aug 24;276(34):32008-15.
【非特許文献18】Anwar F.,Latif S.,Ashraf M.,Gilani A.H.(2007),Phytother Res 21 17-25.
【非特許文献19】Guevara A.P.,Vargas C.,Sakurai H.,Fujiwara Y.,Hashimoto K.,Maoka T.,Kozuka M.,Ito Y.,Tokuda H.,Nishino H.(1999),Mutation Research 440:181-188.
【非特許文献20】yle RA,Raikumar SV(2004).,Doldman L.,Ausiello DA.,eds.Cecile texbooks of medicine.22nd ed.Philadelphia: W.B.Saunders:1184-95.
【非特許文献21】Longo PL(2001).,Braunwald E,Kasper D,Faucci A.eds Harrison'sprinciples of internal medicine,15th edn,vol.1:727-33.
【非特許文献22】yle RA,Raikumar SV(2004).,N Engl J Med,351:1860-73.
【非特許文献23】Sirohi B.,Powles R.(2004),The Lancet,vol 363:875-887.
【非特許文献24】Barillari J,Gueyrard D,Rollin P,Iori R.(2001), Fitoterapia 72,760-764.
【非特許文献25】Barillari J,Canistro D,Paolini M,Ferroni F,Pedulli GF,Iori R,Valgimigli L.(2005),J.Agric.Food Chem.53,2475-2482.
【非特許文献26】EEC Regulation No1864/90(1990) Enclosure VIII.Offic.Eur.Commun.L170:27-34
【非特許文献27】Pessina A,Thomas RM,Palmieri S,Luisi PL.(1990),Arch.Biochem.Biophys.280;383-389.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の説明
ここで、以下の式:
【0013】
【化1】

【0014】
を有するグルコモリンギン(GMG)またはそのデスチオグルコシド(GMG−ITC)は、骨髄腫の細胞株に対する顕著な細胞毒性を備えることが分かった。この活性は、また実験モデルにおける生体内でも確認された。
【0015】
したがって、本発明は、骨髄腫の治療、特に多発性骨髄腫の治療のための薬剤を調製するための、GMGまたはGMG−ITCのいずれかの使用に関する。
【0016】
熟考の上での治療的使用のために、GMGまたはGMG−ITCは、よく知られた方法に従って、特に、腸内または非経口投与のための剤形に適切に調合されるであろう。
【0017】
適切な組成物の例としては、錠剤、カプセル、筋内または静脈内注射のための滅菌溶液もしくは懸濁液などが挙げられる。実際の用量および治療プロトコルは、従来通り数種の因子、すなわち薬物動態学的および毒物学的特性、患者の条件(体重、性別および年齢)、疾患の段階(stadiation)に依存するであろう。熟練した開業医は、確認された方法に従って、最も有効な投薬計画を容易に決定するであろう。ヒトの治療有効量は、GMGおよびGMG−ITC両方の制限毒性を考慮して、より高用量もまた除外できないが、1mg/Kg/1日〜30mg/Kg/1日の間で変動するであろうと考えられる。
【0018】
GMGおよびGMG−ITCは、単独療法として、または骨髄腫の治療にすでに利用可能な、他の既知の化学療法剤と組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明を、ここで、以下の例でより詳細に説明する。
例1 化合物の単離および精製
GMGおよびGRAは、それぞれ、モリンガ・オレイフェラL.(Moringa oleifera L.)(カラシノキ科)およびブラッシカ・オレラケアL.(Brassica oleracea L.)(アブラナ科;変種acephara;亜種laciniata)種子からそれぞれ単離された。両GLは、以前に報告された方法[27、28]に従って、アニオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーによる、2つの連続ステップで精製した。個々のGLは、1H NMR分光法および13C NMR分光法によって特徴付け、精製物を、ISO 9167−1法[29]に従って、脱スルホ化誘導体のHPLC分析によって分析すると、ピーク面積値基準の収量が約99%であったが、これらは吸湿性が高いため、重量基準で約90〜92%であった。酵素MYRは、報告された方法[30]にいくつかの変更を加えて、シロガラシL.(Sinapis alba L.)の種子から単離した。本試験で使用した貯蔵液は、可溶性タンパク質の比活性度が約60単位/mgであり、H2O中で34U/mlに希釈した後、4℃で保存した。1MYR単位は、pH6.5および37℃において、シニグリンを1μモル/分で加水分解できる酵素量として規定した。MYR溶液は、使用するまで滅菌蒸留水中、4℃で保管した。GMG−ITCは、ミロシナーゼ触媒によるGMGの加水分解を介して生成させた(37℃において、pH6.5の0.1Mリン酸バッファー中で行った)。反応混合物は、7.0グラムの純GMGを350mLのバッファー中で溶解した後、40Uのミロシナーゼを加え、溶液を37℃で4〜6時間保存して調製した。純GMGのGMG−ITCへの完全な変換は、脱スルホ化誘導体のHPLC分析によって確認し[29]、これにより、我々は、反応混合物中におけるGMGの完全消失まで、還元を監視することができた。次に、アセトニトリルを、最終濃度が10%になるまで混合物に加え、GMG−ITCを逆相クロマトグラフィーによって精製した(この操作は、Frac−900フラクションコレクターおよびUVモニターUPC−900(Amersham Bioscences)を備え付けたAKTA−FPLCに接続した、LiChrospher RP−C18(MERCK)またはSOURCE15 RPC(Amersham Biosciences)を充填したHR16/10カラムを使用して行った)。アセトニトリル10%で洗浄後、溶出を、60%のアセトニトリルまで勾配をかけて行った。画分を収集し、Inertsil ODS3カラム(250x3mm、5mm)を有する、Hewlett−Packardモデル1100 HPLCシステムを用いて分析した。クロマトグラフィーは、30℃において、流速1mL/分で、水(A)およびアセトニトリル(B)の直線勾配を、20分間でBの30%から80%かける溶出により行った。GMG−ITCの溶出は、229nmにおける吸収を監視しながら、ダイオードアレイで検出した。GMG−ITC(ピーク純度>99%)を含有する画分を収集し、溶媒をロータリーエバポレーター内での濃縮により除去し、最終溶液を凍結乾燥した。GMG−ITCを、1H NMRおよび13C NMR、ならびに質量分析法により特徴付け、明白に同定した。
例2 生物学的結果
試験管内データ:
表1は、グルコモリンギンに対するH460ヒト肺腫瘍細胞株の感受性を示す。ミロシナーゼ存在下のGMGの濃度増大は、細胞毒性作用をもたらす。
【0020】
【表1】

【0021】
一連のヒト腫瘍細胞株に対するモリンガ由来のイソチオシアネート(GMG−ITC)の細胞毒性。同表において参照基準としてITCのスルホラファン(GRA)で得られた値を次の表2で報告する。
【0022】
【表2】

【0023】
表中で報告したデータから、骨髄腫細胞株は、異なる腫瘍型の他の腫瘍細胞株と比べて、ITCの細胞毒性が高いことが明確に示されている。
生体内試験
表3では、皮下注射で移植したヒト骨髄腫の腫瘍細胞株を有するSCIDマウスに生体内投与したGMG−ITCの抗腫瘍活性を報告する。
【0024】
【表3】

【0025】
ヒト卵巣癌A2780においてGMG−ITCを試験すると、以下の表4に報告する通り、抗腫瘍活性は低かった。
【0026】
【表4】

【0027】
[参考文献]

【0028】

【0029】

【0030】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄腫治療のための薬剤を調製するための、以下の式:
【化1】

を有するグルコモリンギンおよびそのデスチオグルコシドの使用。
【請求項2】
前記薬剤がグルコモリンギンである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬剤がグルコモリンギンのデスチオグルコシドである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記骨髄腫が多発性骨髄腫である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2011−509955(P2011−509955A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542529(P2010−542529)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010768
【国際公開番号】WO2009/089889
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(591092198)インデナ エッセ ピ ア (52)
【Fターム(参考)】