説明

抗高血圧ペプチド

本発明は、医薬調製物、栄養補助食品における有効成分として、または食品添加物として使用し得る新規抗高血圧ペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、医薬品、栄養補助食品における有効成分として、または食品添加物として使用し得る新規抗高血圧ペプチドに関する。
【0002】
発明の背景
高血圧症、すなわち、高血圧は、世界で約1億7千万人の人々が発症している疾患である。高血圧は、臨床的には、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上と定義されている。高血圧症は、多くの場合、冠動脈疾患、卒中および心筋梗塞の原因であるため、それらの人々にとって深刻な脅威である。
【0003】
高血圧症の原因は、ほとんどの場合、分かっていないが、高血圧症の一調節因子であるレニン−アンジオテンシン機構はよく研究されている。この機構では、アンジオテンシンIと呼ばれるペプチドがアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用によって切断される。この反応生成物であるアンジオテンシンIIは強力な血管収縮薬である。アンジオテンシンIIは、血管壁の平滑筋の収縮を刺激することによって、高血圧症を誘発する。さらに、アンジオテンシンIIは、ブラジキニン(血圧を降下させるペプチド)の分解を促す。そのため、酵素ACEを阻害することによって、高血圧症を誘発するペプチドであるアンジオテンシンIIの形成が阻止されるだけでなく、血圧を降下させるペプチド(ブラジキニン)の分解も阻害される。この酵素を阻害することによって、これらのプロセスが阻止されることから、ACEの阻害薬は抗高血圧作用を有する。
【0004】
高血圧症を治療するための医薬品はいくつか市場に出ている。このような、いわゆるACE阻害薬の例が;ベナゼプリル(ロテンシン);カプトプリル(カポテン);カプトプリル/ヒドロクロロチアジド(カポジド);マレイン酸エナラプリル(バソテック);フォシノプリルナトリウム(モノプリル);リシノプリル(プリニビル、ゼストリル);キナプリル/炭酸マグネシウム(アキュプリル);ラミプリル(アルテース);トランドラプリル(Mavik)である。これらの医薬品は血圧を降下させるのに有効であるが、これらのACE阻害薬のマイナス面は、夜間の空咳、めまい、立ちくらみおよび頭痛の発生をはじめとするそれらの副作用である。ACE阻害薬はまた、カリウム蓄積と腎臓の問題を引き起こすことはあるため、カリウムレベルと腎臓機能をモニタリングする必要がある。さらに、ACE阻害薬は総て、生命を脅かし得る重度のアレルギー反応を引き起こす可能性があると思われる。
【0005】
また、食材からもたらされるいくつかのペプチドが、高血圧症を治療する可能性について研究されてきた。これらのペプチドはACEを阻害するうえ、ヒト安全性試験によれば、副作用は全く生じないようである。1日用量、1日につき最大30グラムでは、ACE阻害薬に典型的な夜間の空咳などの副作用は全く生じなかった。
【0006】
いくつかの食品が、ACEを阻害するペプチドの単離に利用されてきた。例えば、ウシ乳汁、大豆、ニワトリの筋肉およびツナのタンパク質画分からペプチドが同定された。ACE阻害ペプチドを含有するタンパク質加水分解物は、すでに数種類が市場に出回っており、栄養補助食品または食品添加物として販売されている。
【0007】
ACE阻害作用についての研究には、乳汁タンパク質から得られるペプチドが最適なものであろう。数種類のペプチドが単離されており、それらのペプチドは高血圧のラットに加えて、ヒトにおいてさえも研究されている(総説については、FitzGerald and Meisel 2000, British Journal of Nutrition 84, S33-S37参照)。抗高血圧作用を有する乳汁由来ペプチドの例は、乳汁の発酵中に産生するVal−Pro−Pro(VPP)およびIle−Pro−Pro(IPP)である。これらのACE阻害ペプチドは、高血圧ラットおよび高血圧ヒトにおいて高血圧を降下させる。
【0008】
しかしながら、現在までに見つけられているACE阻害ペプチドの多くは、消化管において吸収されないか、または分解されないために、高血圧を降下しない。そのため、ACEの阻害薬であるということだけでは、高血圧の被験体において高血圧を降下させ得るペプチドとしては不十分であり、そのようなペプチドは生物学的に利用可能なものであり、無傷で血管壁の平滑筋のレニン−アンジオテンシン機構に達することが必要である。よって、無傷で吸収され、高血圧被験体において抗高血圧作用を発揮する新規ACE阻害ペプチドを同定することが望ましいであろう。
【0009】
発明の概要
従って、本発明は、その態様の1つにおいて、抗高血圧作用を有する新規食物由来ペプチドを提供する。本発明に含まれるACE阻害ペプチドは、配列番号1、配列番号2および配列番号3、アミノ酸8個以下を有する、前記アミノ酸配列を含んでなるペプチド、これらのペプチドの断片、ならびに前記ペプチドおよびそれらの断片の付加塩、エステル、溶媒和物および無水物である。ペプチド、配列番号1、配列番号2および配列番号3は、ヤギ乳汁とヒツジ乳汁の両方の加水分解カゼイン画分から単離され、同定されている。
【0010】
本発明のもう1つの態様は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、これらのアミノ酸配列を含んでなるペプチドおよびこれらのペプチドの断片、ならびに前記ペプチドおよびそれらの断片の付加塩、エステル、溶媒和物および無水物からなる群から選択されるペプチドの1つ以上を含んでなる抗高血圧組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらにもう1つの態様は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、これらのアミノ酸配列を含んでなるペプチドおよびこれらのペプチドの断片、またはそれらの許容される付加塩、エステル、溶媒和物および無水物からなる群から選択されるペプチドの1つ以上を含んでなる医薬組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる態様は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、これらのアミノ酸配列を含んでなるペプチドおよびこれらのペプチドの断片、またはそれらの許容される付加塩、エステル、溶媒和物および無水物からなる群から選択されるペプチドの1つ以上を含んでなる抗高血圧組成物を含有する食品組成物およびタンパク質加水分解物を提供することである。
【0013】
本発明のもう1つの態様は、高血圧症に伴って起こる卒中、冠動脈性心臓病、心筋梗塞、メタボリック症候群、末梢血管疾患または腹大動脈瘤のような心血管疾患を軽減または予防する方法を提供することであり、その方法は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、これらのアミノ酸配列を含んでなるペプチドおよびこれらのペプチドの断片、またはそれらの許容される付加塩、エステル、溶媒和物および無水物からなる群から選択されるペプチドの有効量を投与することを含む。
本発明の最後の態様は、本発明のペプチドおよび加水分解物の製造方法である。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様に含まれるペプチドは、以下に示すものである:
アミノ酸8個以下を有する、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される配列から選択されるアミノ酸配列を含んでなるペプチド。
配列番号4、配列番号5および配列番号6に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド。
配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド。
配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの断片。
配列番号7、配列番号8および配列番号9に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド断片。
【0015】
また、本発明の第1の態様には、ペプチドの誘導体、例えば、既述のペプチドの酸付加塩または塩基付加塩、特に、医薬上許容される塩、エステル、溶媒和物および無水物も含まれる。
【0016】
上記のペプチドおよびそれらの断片において、Tyrはアミノ酸L−チロシンを表し、GlyはL−グリシンを表し、ProはL−プロリンを表し、IleはL−イソロイシンを表し、AsnはL−アスパラギンを表し、SerはL−セリンを表し、LeuはL−ロイシンを表し、ValはL−バリンを表し、PheはL−フェニルアラニンを表し、GluはL−グルタミン酸を表し、そして、LysはL−リシンを表す。本発明に含まれる総てのペプチドは、酵素、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害する新規ペプチドであり、それらのペプチドが消化管から無傷で吸収される結果として、高血圧症が予防または軽減される。このために、これらのペプチドの1つを治療量で使用してもよいし、これらのペプチドの任意の組み合わせを使用してもよい。これらのペプチドについての有効量は決定されており、1日につき体重1kg当たり2mg〜200mg間、好ましくは1日につき体重1kg当たり10mg〜50mgの間であることが分かった。記載される有効量とは、本発明に含まれるペプチドの合量であり、この有効量によって、高血圧被験体(subject)における収縮期血圧を10mmHg以上降下させ得る。
【0017】
本発明の第2の態様は、本発明の少なくとも1つのペプチドまたはそれらの誘導体を含んでなる組成物を含む。特に、前記組成物は、本発明の少なくとも1つのペプチドまたはそれらの医薬上許容される誘導体と、医薬上許容される担体と、結合剤および/または補助材料を含んでなる医薬組成物である。前記ペプチドまたはそれらの誘導体は、好ましくは組成物中、哺乳類において高血圧を降下させるのに有効な量で存在する。担体材料、結合剤および/または補助材料は、処方物または調製物の他の成分と組み合わせることができ、処置された生物に副作用を及ぼさないように、医薬的にも薬理学的にも許容されるものでなけらばならない。医薬組成物は単回投与形態であり得る。その組成物は、薬理学分野において公知の方法に従って製造される。投与に適した有効物質の適切な量は、特に、現場での治療の関数として変化し得る。一般に、単回投与用処方物中の有効物質の濃度は、処方物総量の5%〜95%である。本発明のペプチドまたはそれらの誘導体は、好ましくは組成物中、哺乳類において高血圧を降下させるのに有効な量で存在する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つのペプチドまたはそれらの誘導体を含んでなる食品組成物である。前記ペプチドまたはそれらの誘導体は、好ましくは組成物中、哺乳類において高血圧を降下させるのに有効な量で存在する。好ましい食用組成物は、飲料、煎じ食品(infused food)、乳汁、ヨーグルト、チーズ、香味乳飲料、パン、ケーキ、バター、マーガリン、ソース、香辛料、サラダドレッシング、フルーツジュース、シロップ、デザート、アイシングおよびフィリング、ソフト冷凍製品、糖菓、チューインガムならびに中間食品から選択される。また、本発明は、食品組成物として、ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁から得られる、本発明のペプチドまたはそれらの誘導体の少なくとも1つが富化されたタンパク質加水分解物も意図する。本発明の好ましいタンパク質加水分解物において、請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの塩の合量がタンパク質加水分解物の0.1%〜5%の間、好ましくは1%〜2%の間(乾燥重量)である。栄養補助食品および食品原料成分を含む食用組成物の製造において本発明のペプチドおよびそれらの誘導体、ならびにタンパク質加水分解物を用いることができることは明らかである。
【0019】
本発明に含まれるペプチドは、それを必要としている人に実質的な純粋な形で投与することができるし、より複雑な組成物の一部として与えることもできる。ペプチド総和の実質的に純粋な形態は、純度が少なくとも50重量%と定義される。ペプチドを、それを必要としている人により複雑な混合物の一部として与える場合には、その人に与えるこの混合物の量は、本発明に記載されるペプチド総和が有効量に達するような量であるべきである。これらのペプチドを含むか、またはそれらのペプチドが添加される得る混合物の例は、乾燥タンパク質抽出物、加水分解タンパク質抽出物、乾燥植物抽出物、カカオパウダー、乾燥食用組成物などである。記載されるペプチドを必要としている人は、本発明のペプチドを、医薬組成物として、これらのペプチドを含む組成物の一部として、例えば、栄養補助食品として、またはこれらのペプチドが有効量で添加された食品マトリックスの一部として、純粋な形態で消費することができる。本発明のペプチドを含む抗高血圧組成物を添加し得る食品マトリックスの例としては、飲料、煎じ食品、乳汁、ヨーグルト、チーズ、香味乳飲料、パン、ケーキ、バター、マーガリン、ソース、香辛料、サラダ用ドレッシング、フルーツジュース、シロップ、デザート、アイシングおよびフィリング、ソフト冷凍製品、糖菓、チューインガムおよび中間食品が挙げられる。
【0020】
本発明のさらなる態様は、医薬として用いるための、特に、哺乳類における高血圧症、卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、メタボリック症候群、末梢血管疾患または腹大動脈瘤の治療または予防に用いるための本発明のペプチドまたはそれらの誘導体、本発明の組成物または加水分解物である。同様に、本発明のペプチドまたはそれらの誘導体を、医薬の製造において、特に、哺乳類における高血圧症、卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、メタボリック症候群、末梢血管疾患または腹大動脈瘤の治療用または予防用の医薬の製造において使用することができる。
【0021】
本発明のもう1つの態様は、本発明のペプチドの製造のための方法である。従って、それらのペプチドは、以下に示す工程を含む方法によって製造することができる:
a)ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁、好ましくは脱脂粉乳、のカゼイン画分を得る工程。このカゼイン画分は、好ましくは精密濾過によるか、または酸性化によって得られる。
b)そのカゼイン画分をプロテアーゼを用いて加水分解する工程。製造すべきペプチドに応じて、異なるプロテアーゼを使用する必要がある。従って、配列番号1、配列番号2または配列番号3の配列を有するペプチドを得るためには、サブチリシンまたは同等のプロテアーゼが使用され、任意のバチルス(Bacillus)種、例えば、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のサブチリシン酵素が有用である。また、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の配列を含んでなるペプチド、特に、配列番号4、配列番号5もしくは配列番号6の配列を有するペプチドまたは前記ペプチドの断片、特に、配列番号7、配列番号8もしくは配列番号9の配列を有する断片を得るためには、プロテアーゼ、例えば、トリプシン、キモトリプシンまたはサーモリシンが使用される。
c)加水分解工程後に、プロテアーゼを、好ましくは熱処理、例えば、加水分解物を90℃に10分間加熱すること、によるか、または酸性化によって不活性化する工程。
d)本発明のペプチドを、さらに、限外濾過、ナノフィルトレーション、クロマトグラフィーまたは電気透析などの方法により単離し、精製する工程。
本発明のペプチドは、固相合成法(Atherton and Sheppard (1989). Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach, Oxford, IRL Press)によっても製造することができる。
本発明のさらにもう1つの態様は、本発明のタンパク質加水分解物の製造である。従って、前記加水分解物は、以下に示す工程を含む方法によって製造することができる:
a)ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁、好ましくは脱脂粉乳、のカゼイン画分を得る工程。このカゼイン画分は、好ましくは精密濾過によるか、または酸性化によって得られる。
b)そのカゼイン画分をプロテアーゼを用いて加水分解する工程。加水分解物の組成に応じて、異なるプロテアーゼを使用する必要がある。
c)加水分解工程後に、プロテアーゼを、好ましくは熱処理、例えば、加水分解物を90℃に10分間加熱すること、によるか、または酸性化によって不活性化する工程。
d)さらに、その混合物の本発明のペプチドを富化する工程。
e)所望により、その加水分解物を乾燥させて、粉末を得る工程。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例1
抗高血圧組成物の製造
ヤギ乳汁500Lのカゼイン画分を、乳汁をpH3.0に調整することによって得、乳漿タンパク質を遠心分離により除去した。カゼインタンパク質を蒸発濃縮し、1L当たりタンパク質10gとした。次に、カゼイン溶液に、プロテアーゼ、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のサブチリシン(Genencor社製Multifect P-3000、1容量%)を添加し、55℃にて3時間培養した。加熱すること(100℃にて10分間)により反応を終了させ、その混合物を、最後に乾燥させた。ペプチドをHPLCにより精製し、記載されている微小配列決定法(Matsudaira P. A Practical Guide to Protein and Peptide Purification for Microsequencing. Academic Press 1993)により同定した。簡潔には、カゼイン加水分解物をAKTA Explorer(Amersham Biosciences)において、Resource RP(Amersham Biosciences)カラムと水−アセトニトリルの直線勾配(0〜100%、流速0.2ml)を用いるカラムクロマトグラフィーにより分画した。画分1mlを集め、標準的な酵素アッセイ法によりACE阻害測定を実施した(Wu et al. 2002 J. Chromatography 950, 125-130)。画分番号17は高いACE阻害活性を示し、この画分を2回目の精製に用いた。この際、ペプチドの分離は、以下の条件を用いたHPLC(Waters)により行った;Zorbax 17カラム材料、溶出剤としてトリフルオロ酢酸および流速0.5ml/分。図1に典型的な分離を示している。画分0.5mlを集め、それらのACE阻害能力を判定した。3つの画分(図1参照)にACE阻害活性があることが分かり、それらの画分を微小配列決定に用いた(Eurosequence, Netherlandsにより実施)。このようにして、カゼイン加水分解物において以下の新規ACE阻害ペプチドを同定した:配列番号1、配列番号2および配列番号3。3つのものは総て、β−カゼインから得られたペプチド、配列番号1(β−CN f78−83)、配列番号2(β−CN f84−
87)および配列番号3(β−CN f181−184)である。得られた加水分解物中の各ペプチドの量は、質量検出器(Waters)を備えたHPLCにより測定した。各ペプチドについての標準曲線を純粋な合成ペプチドを用いて作成した。加水分解物中の各ペプチドの量は、おおよそで、配列番号1;0.30重量%、配列番号2;0.28重量%および配列番号3;0.19重量%であった。ヒツジ乳汁500Lおよびウシ乳汁500Lを用いて、本実施例に記載の手順を繰り返した。ヒツジ乳汁から得られた加水分解物において、3種類のペプチド総てが確認された(配列番号1(β−CN f78−83);0.39重量%、配列番号2(β−CN f84−87);0.36重量%および配列番号3(β−CN f181−184);0.25重量%)が、これらのペプチドはウシ乳汁から得られた加水分解物には存在しなかった。実施例4、5および6に記載される試験には、ヤギ乳汁から得られた加水分解物を用いた。
【0023】
実施例2
アンジオテンシン変換酵素の阻害
本発明に含まれるペプチドのIC50値を決定するために、純粋なペプチド(純度>95重量%)を10μmol規模でのカスタム固相合成により製造し、続いてHPLCにより精製した(合成および精製はEurosequence, Netherlandsにより実施)。ACEアッセイには、精製ACE酵素(Sigma)を使用した(Wu et al. 2002 J. Chromatography 950, 125-130)。配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するペプチドがACEの強力な阻害薬であることが分かった(以下の表を参照)。配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含んでなるペプチド、特に、配列番号4、配列番号5および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するペプチドも優れたACE阻害薬である(以下の表を参照)。最後に、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示されるアミノ酸配列の断片であるペプチド(それぞれ、配列番号7、配列番号8および配列番号9)をACE阻害活性について試験した。それらのIC50値から分かるように、これらのペプチドも優れたACE阻害薬である(以下の表を参照)。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例3
抗高血圧ペプチドのバイオアベイラビリティ
ペプチド(配列番号1、配列番号2および配列番号3)(純度>95重量%、各500μg)をマウス(Balb/C、3ヶ月齢)に経口投与した。2時間後、マウスを犠牲にし、血液サンプルを採取した。その血液サンプルを遠心分離後(5分、3000g)、血漿を回収し、乾燥させ、酢酸エチルに再懸濁した。次に、サンプルをHPLC−MSにより分析し、血漿サンプル中に存在する本発明のペプチドの量を標準曲線を用いて算定した。それらの経口投与の2時間後、3種類のペプチド総てが血漿サンプル中に以下の量で見られた:配列番号1:7.5μg/ml、配列番号2:1.2μg/mlおよび配列番号3:0.9μg/ml。これらの結果は、本発明のペプチドが生物学的に利用可能であり、消化管から無傷で吸収されるということを示している。
【0026】
実施例4
高血圧ラットにおける血圧降下作用
本試験では自然高血圧発症ラット(雌)を使用した。試験期間は、6週齢のラット10匹に、実施例1の組成物(配列番号1、配列番号2および配列番号3の配列を有するペプチドを富化したヤギカゼイン加水分解物)をそれらの飲料水に溶かして与えた。これらのラットは1日当たり実施例1の組成物約70〜90mgの間を摂取すると推定された。別のラット10匹を対照として使用した。両群のラットには、飼料(標準的な食物)と飲料水を自由に摂取させた。試験開始時と2週間経過するごとに収縮期血圧を測定した(標準的なtail cuff法)。図2は、試験期間の両群における収縮期血圧の経過を示す図である。対照ラットでは、収縮期血圧が齢6週間から、定常状態に達する14週間まで着実に増加した。実施例1に記載の組成物を消費したラットの群では、同様に収縮期血圧が14週間まで増加したが、その増加は有意に低下していた(14週間について、p<0.005)。また、14週間以降の収縮期血圧は対照群よりも有意に低かった(p<0.001)。これらの結果は、本発明のペプチドを含む実施例1の組成物が自然高血圧発症ラットにおいて収縮期血圧の降下を引き起こすということをはっきりと示している。本発明者らは、実施例1の組成物が抗高血圧組成物であると推断する。
【0027】
実施例5
高血圧ヒトにおける血圧降下作用
40名の投薬治療を行っていない非喫煙者、高血圧の男性(20名)および女性(20名)を2群に無作為化した。20名には、毎日5週間、実施例1の組成物(配列番号1、配列番号2および配列番号3の配列を有するペプチドを富化したヤギカゼイン加水分解物)25グラムを水で服用し、通常の生活習慣を守るように指示した。残る20名のボランティアには、毎日5週間、プラシーボ(粉乳)25グラムを水で服用し、通常の生活習慣を守るように指示した。参加者は、毎週、早朝に、血圧測定、採血、副作用の評価、食事の評価および一般モニタリングについてGeneral Clinical Research Clinicに報告した。
【0028】
処置の10日後に、収縮期血圧と弛緩期血圧の両方において有意な降下が起こり、試験中持続した。プラシーボを服用した対照群とは対照的に、実施例1の組成物を服用したボランティアでは、平均して、収縮期血圧(平均12mmHgの降下)と弛緩期血圧(平均8mmHgの降下)が降下した。両群間には、肝機能および腎機能などの処置に関連する副作用には差がなかった。
これらの試験結果に基づき、本発明に記載される抗高血圧ペプチドを含有する実施例1の組成物は、未治療の高血圧患者における収縮期血圧と弛緩期血圧の両方を降下させる。
【0029】
実施例6
抗高血圧組成物を含有する食品の製造
富化ジュースを以下の成分を用いて製造した。
【0030】
【表2】

【0031】
加工技術
濃縮ジュースに、水および水溶性成分を加えて、最終製品を製造した。次に、実施例1の抗高血圧組成物(配列番号1、配列番号2および配列番号3の配列を有するペプチドを富化したヤギカゼイン加水分解物)を添加し、混合し、得られた製品を低温殺菌し、ホモジナイズした。最後に、製品を冷却し、パッケージングした。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に含まれるペプチド(配列番号1、配列番号2および配列番号3)の精製中に得られたHPLCクロマトグラムを示す図である。矢印は、微小配列決定(microsequencing)に用いられる、ACE阻害活性を有する画分を示している。
【図2】自然高血圧発症ラットの収縮期血圧に対する実施例1の組成物の効果を示す図である。白丸は対照群における収縮期血圧を示し、黒四角は実施例1の組成物の消費群における収縮期血圧を示している。データは平均±SEM(各群、n=10)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸8個以下を有する、配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される配列から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、ペプチド。
【請求項2】
配列番号4、配列番号5および配列番号6に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
少なくとも3個のアミノ酸を有する、請求項3に記載のペプチドの断片。
【請求項5】
配列番号7、配列番号8および配列番号9に示される配列から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項4に記載のペプチドの断片。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のペプチドの酸付加塩または塩基付加塩、特に、医薬上許容される塩、エステル、溶媒和物および無水物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の少なくとも1つのペプチドまたはそれらの誘導体を含んでなる、組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の誘導体が医薬上許容されること、および医薬上許容される担体が存在することを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体が哺乳類において高血圧を降下させるのに有効な量で存在する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜6に記載の少なくとも1つのペプチドまたはそれらの誘導体を含んでなる、食品組成物。
【請求項11】
請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体が哺乳類において高血圧を降下させるのに有効な量で存在することを特徴とする、請求項10に記載の食品組成物。
【請求項12】
飲料、煎じ食品、乳汁、ヨーグルト、チーズ、香味乳飲料、パン、ケーキ、バター、マーガリン、ソース、香辛料、サラダドレッシング、フルーツジュース、シロップ、デザート、アイシングおよびフィリング、ソフト冷凍製品、糖菓、チューインガムならびに中間食品から選択される食品である、請求項10または請求項11に記載の食品組成物。
【請求項13】
ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁から得られる、請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体の少なくとも1つが富化された、タンパク質加水分解物。
【請求項14】
請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの塩の合量がタンパク質加水分解物の0.1%〜5%の間、好ましくは1%〜2%の間(乾燥重量)である、請求項13に記載のタンパク質加水分解物。
【請求項15】
栄養補助食品、食品原料成分または食用組成物の製造における、請求項1〜6に記載のペプチドまたは請求項13および請求項14に記載のタンパク質加水分解物の使用。
【請求項16】
医薬として用いるための、請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体。
【請求項17】
哺乳類における高血圧症、卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、メタボリック症候群、末梢血管疾患または腹大動脈瘤の治療または予防に用いるための、請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体。
【請求項18】
医薬として用いるための、請求項7〜12に記載の組成物、ならびに請求項13および請求項14に記載の加水分解物。
【請求項19】
哺乳類における高血圧症、卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、メタボリック症候群、末梢血管疾患または腹大動脈瘤の治療または予防に用いるための、請求項7〜12に記載の組成物、ならびに請求項13および請求項14に記載の加水分解物。
【請求項20】
医薬の製造における、請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体の使用。
【請求項21】
哺乳類における高血圧症、卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、メタボリック症候群、末梢血管疾患または腹大動脈瘤の治療用または予防用の医薬の製造における、請求項1〜6に記載のペプチドまたはそれらの誘導体の使用。
【請求項22】
請求項1、請求項2、請求項4および請求項5に記載のペプチドの製造方法であって、
a)ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁のカゼイン画分を得る工程、
b)そのカゼイン画分をプロテアーゼを用いて加水分解する工程、
c)プロテアーゼを不活性化する工程、
d)そのペプチドを単離する工程
を含む、方法。
【請求項23】
請求項3に記載のペプチドの製造方法であって、
a)ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁のカゼイン画分を得る工程、
b)そのカゼイン画分をサブチリシンを用いて加水分解する工程、
c)サブチリシンを不活性化する工程、
d)そのペプチドを単離する工程
を含む、方法。
【請求項24】
請求項13および請求項14に記載のタンパク質加水分解物の製造方法であって、
a)ヤギ乳汁またはヒツジ乳汁のカゼイン画分を得る工程、
b)そのカゼイン画分をプロテアーゼを用いて加水分解する工程、
c)プロテアーゼを不活性化する工程、
d)その混合物の、請求項1〜6に記載のペプチドを富化する工程
を含む、方法。
【請求項25】
e)加水分解物を乾燥させて粉末を得る工程
をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
プロテアーゼがサブチリシンである、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項27】
サブチリシンが、バチルス種の発酵培養液から得られた1種以上の化合物もしくはバチルス種の細胞抽出物から得られた1種以上の化合物、またはバチルス種の発酵培養液から得られた1種以上の化合物を固定化している固相支持体もしくはバチルス種の細胞抽出物から得られた1種以上の化合物を固定化している固相支持体を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
バチルス種がバチルス・アミロリクエファシエンスである、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−523940(P2007−523940A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500165(P2007−500165)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001992
【国際公開番号】WO2005/082927
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504371550)プレバ、バイオテック、ソシエダッド、アノニマ (2)
【氏名又は名称原語表記】PULEVA BIOTECH, S.A.
【Fターム(参考)】