説明

抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤

【課題】本発明の目的は、鳥インフルエンザウイルスの感染経路となる呼吸器(特に鼻腔粘膜)において、抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生を増強させる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】ラクトバチルスONRIC b0240株には、鼻腔粘膜において抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生を増強させる作用があり、当該乳酸菌を抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤の有効成分として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤に関する。より詳細には、本発明は、呼吸器、特に鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を増強させることにより、鳥インフルエンザの感染予防効果や感染後の症状軽減効果を奏し得る、抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤に関する。更に、本発明は、当該抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤を利用した鳥インフルエンザの感染予防用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス感染は、四季のある地域では毎年冬季に発生し、一定周期で世界的規模の流行を引き起こし、死亡例を伴う集団感染を引き起こす。ウイルス感染初期には、抗インフルエンザウイルス薬剤投与による有効性が示されているが、投与時期を見誤ると効果が半減する。また、インフルエンザウイルス感染による脳症は重篤な疾病であり、特に乳幼児期や高齢者にとっては注意しなければならない感染症の一つである。近年、鳥インフルエンザウイルス(H5N1)が鳥から人に感染する事例が数多く報告され、鳥インフルエンザウイルスに起因するパンデミックは世界中で脅威となっており、その対策が急がれている。
【0003】
現在、鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンが開発され、注射型ワクチン製剤の備蓄等が進められているが、これらのワクチン製剤では、血中での抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体濃度を上昇させることができても、感染部位である呼吸器における抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体を誘導することはできない。そのため、従来の注射型ワクチン製剤では、感染後の症状軽減には有効であるが、十分な感染予防が期待できない。また、一般に、抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生を鼻腔内で増大させることは困難であると考えられている。このような事情から、呼吸器における抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生を増強させる方法の確立が切望されている。
【0004】
一方、本発明者等は、ラクトバチルスONRIC b0240株(FERM BP-10065)(以下、b0240株と表記することもある)には、腸管内で免疫賦活作用を発揮することを報告している。しかしながら、当該乳酸菌が、鼻腔粘膜において、抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生に与える影響については明らかにされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解消することを目的とする。より具体的には、本発明は、鳥インフルエンザウイルスの感染経路となる呼吸器(特に鼻腔粘膜)において、抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生を増強させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討したところ、驚くべきことに、b0240株には、鼻腔粘膜において抗鳥インフルエンザウイルス特異的抗体の産生を増強させる作用があることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ラクトバチルスONRIC b0240(FERM BP-10065)からなる乳酸菌を有効成分とする、抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤。
項2. 鳥インフルエンザワクチンの投与前、投与時、及び投与後の内の少なくとも1つの時期に使用される、項1に記載の産生促進剤。
項3. 鳥インフルエンザウイルスがH5N1型である、項1又は2に記載の産生促進剤。
項4. 前記乳酸菌が、生菌、死菌又はその菌体処理物の状態で含まれる、項1乃至3のいずれかに記載の産生促進剤。
項5. 経口投与される、項1乃至4のいずれかに記載の産生促進剤。
項6. 項1乃至5のいずれかに記載の産生促進剤と、鳥インフルエンザワクチン製剤が、別々に収容されてなる、鳥インフルエンザの感染予防用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤によれば、鼻腔粘膜において抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を促進させることができるので、鳥インフルエンザの感染予防効果及び症状軽減効果を有効に発揮させることが可能になる。特に、本発明の抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤は、鳥インフルエンザウイルスワクチンの投与前後に使用することによって、鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生量を増大させるのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1において、b0240株(試験群1及び2)及び生理食塩水(コントロール群1及び2)の投与によって、マウスの鼻腔粘膜において産生された抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体価を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
I. 抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤
本発明の抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤(以下、単に「産生促進剤」と表記することもある)は、ラクトバチルスONRIC b0240(FERM BP-10065)からなる乳酸菌を有効成分として含有することを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の産生促進剤の有効成分として使用されるラクトバチルスONRIC b0240株は、天然物から単離された乳酸菌であり、平成15年8月6日に、日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6に住所を有する独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(AIST)に寄託番号FERM P-19470として寄託され、現在、国際寄託に移管されており、その国際寄託番号はFERM BP-10065である。ラクトバチルスONRIC b0240株の菌学的性質については、既知である。なお、本発明で使用されるb0240株は、国際寄託の時点では、ラクトバチルス・プランタラムに属すると分類されていたが、その後の分類基準の変更(Francois Bringle et al., International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, Vol. 55, 2005, p.1629-1634)に伴い、本菌株は、ラクトバチルス・ペントーサスに分類されることになった。
【0012】
本発明で使用されるb0240株は、生菌の状態のまま使用してもよく、また死菌又は菌体処理物の状態で使用してもよい。ここで、生菌とは、生きた状態の乳酸菌であり、生きた乳酸菌を凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させた菌体粉末も含まれる。また、死菌とは、生きた状態の乳酸菌を、加熱処理、放射線処理等の物理的処理に供して殺菌された状態の乳酸菌であり、殺菌された状態の乳酸菌が凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させた菌体粉末も含まれる。また、菌体処理物とは、乳酸菌をホモジナイズ処理、酵素処理、超音波処理等で破壊した菌体破砕物であり、当該菌体破砕物を凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させた菌体破砕物の粉末も含まれる。本発明で使用されるb0240株は、好ましくは生菌又は死菌の凍結乾燥状態のものである。
【0013】
本発明で使用されるb0240株は、当該菌株の生育に適した培地で培養することによって増殖させることができる。具体的には、MRS培地、LBS培地、Rogosa培地等の培地中で30℃で16時間程度培養することによって、増殖させることができる。また、菌体は、上記培養後に、例えば、培養液を遠心分離(3,000rpm、4℃、10分間)して集菌することにより得ることができる。
【0014】
また、本発明の産生促進剤では、b0240株で乳を発酵することにより得られる発酵乳、又は当該発酵乳を凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させて粉末化したものを有効成分として使用することもできる。b0240株を用いた発酵乳の製造は、当業界で公知の方法に従って行うことができる。
【0015】
本発明の産生促進剤の有効成分として、生菌状態のb0240株を使用する場合、本発明の産生促進剤には、当該乳酸菌の下部消化管での定着を促進させるために、当該乳酸菌の生育に必要とされる栄養成分を含有させることが望ましい。このような栄養成分としては、例えば、グルコース、澱粉、蔗糖、乳糖、デキストリン、ソルビトール、フラクトース等の炭素源;酵母エキス、ペプトン等の窒素源;ビタミン類;ミネラル類;微量金属元素;その他の栄養成分等の各成分を挙げることができる。ビタミン類としては、具体的には、ビタミンB、ビタミンD、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等を例示できる。微量金属元素としては、具体的には、亜鉛、セレン等を例示できる。その他の栄養成分としては、具体的には、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラクチュロース、ラクチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等の各種オリゴ糖を例示できる。
【0016】
また、本発明の産生促進剤は、必要に応じて薬学的に許容される製剤担体を含有することができる。このような製剤担体としては、水性媒体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、浸透圧調節剤、付湿剤、pH調節剤、甘味料、香料、色素等が例示される。より具体的には、上記製剤担体として、水、生理食塩水等の水性媒体;乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等の崩壊剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤;ゼラチン、アラビアガム、デキストリン、メチルチセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、ペクチン、トラガントガム、カゼイン、アルギン酸等の増粘剤;リオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等の界面活性剤;ステビア、サッカリン、アセスルファムK、アスパラテーム、スクラロース等の甘味料等が例示される。
【0017】
本発明の産生促進剤の製剤形態については、特に制限されないが、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の固形形態;液剤、懸濁剤、乳剤等の液状形態が挙げられる。また、本発明の産生促進剤は、マイクロカプセル、ソフトカプセル、ハードカプセル等に充填されて、カプセル剤の形態をとることもできる。
【0018】
本発明の産生促進剤は、b0240株の含有量は、該剤の1日当たりの投与量を考慮し、更に製剤形態、使用目的等に応じて適宜設定される。具体的には、本発明の産生促進剤が固形形態であれば、該剤の総量当たり、b0240株の含有量は0.001〜100重量%、好ましくは0.01〜100重量%、更に好ましくは0.04〜80重量%が挙げられ、また本発明の産生促進剤が液状形態であれば、該剤の総量当たり、b0240株の含有量は0.00008〜40重量%、好ましくは0.0008〜40重量%、更に好ましくは0.004〜4重量%が挙げられる。
【0019】
本発明の産生促進剤の投与量は、適用対象者の年齢や性別等によって異なるが、通常、成人の1日当たりの投与量としては、b0240株が乾燥菌体重量換算で0.4〜4000mg、好ましくは1〜1000mg、更に好ましくは4〜400mgに相当する量が例示される。また、本発明の産生促進剤は、1日に1回又は数回に分けて投与することができる。
【0020】
また、本発明の産生促進剤が、様々な鳥インフルエンザウイルス株に対しても有効であるが、適用対象として好適な鳥インフルエンザウイルスの株としてはH5N1型が挙げられる。
【0021】
本発明の産生促進剤は、経口投与によって投与され、呼吸器、特に鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を増強させることができる。それ故、本発明の産生促進剤は、鳥インフルエンザウイルスの感染を予防する目的で鳥インフルエンザ予防剤として使用することができ、更には鳥インフルエンザ感染の症状を軽減させる目的で鳥インフルエンザ治療剤として使用することもできる。
【0022】
とりわけ、本発明の産生促進剤は、鳥インフルエンザワクチンの投与によって誘導される抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を、鼻腔粘膜において増強させる作用が顕著に優れている。即ち、本発明の産生促進剤は、鳥インフルエンザワクチンと併用することにより、鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を増強させ、ひいては鳥インフルエンザ感染予防効果を高めることができる。このように、本発明の産生促進剤を鳥インフルエンザワクチンと併用する場合、本発明の産生促進剤の投与時期は、鳥インフルエンザワクチンの投与前、投与時、及び投与後の内の少なくとも1つの時期であればよいが、好ましくは、鳥インフルエンザワクチンの投与6週間前〜投与6週間後までの間、更に好ましくは、鳥インフルエンザワクチンの投与3週間前〜投与5週間後までの間が挙げられる。これらの投与時期の間に、毎日又は2〜7日毎に、前述する投与量を投与すればよい。また、本発明の産生促進剤と併用される鳥インフルエンザワクチンは、皮下又は筋注投与により投与されてもよいが、鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生量を一層増大させるために経鼻投与により投与されてもよい。
【0023】
なお、鳥インフルエンザワクチンの製造方法は公知である。例えば、HAワクチンは、ワクチン製造用の鳥インフルエンザウイルスを発育鶏卵に接種して増殖させ、漿尿液から精製、濃縮したウイルスをエーテルで部分分解し、更にホルマリンで不活化することにより製造される。本発明の産生促進剤と併用される鳥インフルエンザワクチンは、公知の製造方法に準じて作成されたもの、又は市販品を使用できる。本発明の効果をより顕著に奏させるとの観点から、本発明の産生促進剤と併用される鳥インフルエンザワクチンとして、好適にはHAワクチンが例示される。
【0024】
また、鳥インフルエンザワクチンは、薬学的に許容される製剤担体と共に製剤化されたものを使用でき、更に必要に応じてアジュバントと共に製剤化されていてもよい。アジュバントとしては、例えば、リポ多糖体、リポタンパク質、ペプチドグリカン、非メチル化CpG DNA、二本鎖RNA(poly I:C、poly A:U、poly G:C等)、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、アミノ酸のオクタデシルエステル、ポリホスファゼン、百日咳菌、水酸化ベリリウム、ISCOM(Immune-stimukating complex)、BCG、ムラミルジペプチド、IL-1、IL-2、IL-12、IFN-γ等が挙げられる。特に、アジュバントとしてpoly I:Cの使用は、本発明の産生促進剤の作用によって、鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生の増大を一層顕著ならしめることができるので、好適である。poly I:Cとは、ポリイノシン酸(pI)とポリシチジン酸(pC)とを含む二本鎖RNAである。
【0025】
本発明の産生促進剤と併用される鳥インフルエンザワクチンの用量については、慣用的方法で決定される安全且つ効果的な量であればよいが、例えば、HAワクチンの場合であれば、成人に対する用量として、HAタンパク質の量が0.1〜100μgの範囲内であればよい。また、アジュバントの用量についても、慣用的方法で決定される安全且つ効果的な量をアジュバントの種類に応じて適宜設定される。例えば、アジュバントとしてリン酸アルミニウムや水酸化アルミニウム等のアルムニウム塩を使用する場合であれば、成人に対するアジュバントの用量として0.1〜1000μgが挙げられる。
【0026】
II. 鳥インフルエンザの感染予防用キット
前述するように、上記産生促進剤は、鳥インフルエンザワクチンと併用することにより、鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を増強させ、その結果として鳥インフルエンザ感染予防効果を高めることができる。そこで、本発明は、更に、上記産生促進剤と、鳥インフルエンザワクチン製剤が、別々に収容されてなる、鳥インフルエンザの感染予防用キットを提供する。
【0027】
本発明の感染予防用キットに使用される鳥インフルエンザワクチン製剤は、鳥インフルエンザワクチン及び薬学的に許容される製剤担体を含む製剤であり、必要に応じてアジュバントが含まれていてもよい。このような鳥インフルエンザワクチン製剤としては、従来公知のものを使用できる。
【0028】
また、本発明の感染予防用キットに含まれる上記産生促進剤と鳥インフルエンザワクチン製剤の使用方法は、前記「I.抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤」に記載の通りである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1
1.b0240株の菌体懸濁液
b0240株の種菌をMRS(de Man-Rogosa-Sharpe)培地に接種し、33℃で24時間、ポリプロピレン製ボトル内で密封下で静置培養を行った。培養後、培地を遠心して菌体を集菌した(11400g、10分間、4℃)。回収した菌体を生理食塩水で洗浄し、遠心して菌体を集菌した(11400g、10分間、4℃。この洗浄操作を合計2回実施した。次いで、洗浄後に回収した菌体をオートクレーブにて121℃で15分間加熱滅菌処理した。次いで、得られた死菌体を凍結乾燥して、b0240株の菌体粉末を得た。この菌体粉末を50mg/mLの濃度で生理食塩水に懸濁させて、菌体懸濁液を得た。
【0030】
2.鳥インフルエンザワクチン製剤
鳥インフルエンザ(H5N1)HAワクチン(Protein Sciences社製 H5N1(A/Vietnam/1203/04、Lot.No.45-05034-2))100μg/mL、及びアジュバント(Sigma社製 合成二本鎖RNA(poly I:C sodium salt γ-irradiated、Lot.No.057K4053))100μg/mLの濃度で含むPBS(-)を、鳥インフルエンザワクチン製剤として使用した。
【0031】
3.b0240株の鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生増強作用の評価試験
5週齢雌性BALB/cマウスを日本チャールス・リバー(株)より購入し、約1週間検疫した。検疫では、体重及び一般状態の観察を行い、体重の減少や健康状態の異常を発見した個体を除外した。
【0032】
検疫終了後、体重を基にして、表1に示す4群(各群10匹)に分けて、その時点を0日目として試験を開始した。試験期間中は、被検物として、b0240株の菌体懸濁液0.2mL(試験群1及び2)又は生理食塩水0.2mL(コントロール群群1及び2)を連日経口投与した。また、試験開始21日目に4群の全てに初回免疫を行い、試験開始49日目に試験群2及びコントロール群2に追加免疫を行った。免疫は、麻酔(塩酸ケタミン/塩酸キシラジンの混合麻酔)下にて、マウスの両方の鼻孔内に鳥インフルエンザワクチン製剤をそれぞれ5μLずつ点鼻投与した。なお、試験期間中は、マウスには、飼料(「マウス・ラット・ハムスター用固形飼料MF」(オリエンタル酵母社製))を自由に摂取させ、更に給水瓶にて水道水を自由給水させ、温度24±1℃、湿度55±10%、明暗サイクル:明期07:00-19:00、暗期19:00-07:00とした。
【0033】
試験終了時に、麻酔下にて気道から鼻腔へカニューレを挿管し、1.0 mlの洗浄液(0.1% BSA含有PBS)を鼻腔内に流し込み、鼻腔洗浄液を回収した。回収した鼻腔洗浄液に含まれる抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体をELISA法にて測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
4.試験結果
各群のマウスから試験後に回収された鼻腔洗浄液に含まれる抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体価を測定した結果を図1に示す。この結果から、b0240株を投与した群(試験群1及び2)では、生理食塩水を投与した群(コントロール群1及び2)に比べて、鼻腔粘膜において抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体価が高いことが判明した。以上の結果から、b0240株の投与は、鼻腔粘膜における抗鳥インフルエンザウイルス特異的IgA抗体の産生を増強する効果があることが明らかとなった。
【受託番号】
【0036】
FERM BP-10065

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルスONRIC b0240(FERM BP-10065)からなる乳酸菌を有効成分とする、抗鳥インフルエンザウイルス抗体の産生促進剤。
【請求項2】
鳥インフルエンザワクチンの投与前、投与時、及び投与後の内の少なくとも1つの時期に使用される、請求項1に記載の産生促進剤。
【請求項3】
鳥インフルエンザウイルスがH5N1型である、請求項1又は2に記載の産生促進剤。
【請求項4】
前記乳酸菌が、生菌、死菌又はその菌体処理物の状態で含まれる、請求項1乃至3のいずれかに記載の産生促進剤。
【請求項5】
経口投与される、請求項1乃至4のいずれかに記載の産生促進剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の産生促進剤と、鳥インフルエンザワクチン製剤が、別々に収容されてなる、鳥インフルエンザの感染予防用キット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−222329(P2010−222329A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73744(P2009−73744)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】