説明

抗齲蝕性口腔用組成物及び飲食品

【課題】口腔関連疾患において特に齲蝕の予防改善のために、グルコシルトランスフェラーゼの阻害に優れた物質であって、渋味や苦味の強いエピガロカテキン−3−O−ガレートに代わる、風味がよく、かつ人体に対して安全性が極めて高く、低濃度の口腔用組成物の提供。
【解決手段】ポリフェノールオキシダーゼ(ラッカーゼ)処理緑茶エキスに含まれるエピテアフラガリンおよび/またはエピテアフラガリン−3−O−ガレートを有効成分として含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピテアフラガリン類を含有する口腔用組成物及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔の二大疾患である齲蝕(虫歯)と歯周病はともに病原性細菌により引き起こされる感染性疾患であり、性別や年齢に関わらず最も罹患率の高い疾患の一つである。齲蝕は、歯の成分の約97%を占めるリン酸カルシウムが、ミュータンスレンサ球菌と総称される一連の口腔レンサ球菌の産生する酸により溶解(脱灰)する現象である。一方、歯周病は、歯周組織に原発し、その機能を侵す病的状態で、歯垢(プラーク)中の細菌が原因で生じた炎症性疾患である。歯周病は歯周炎と歯肉炎に分類される。
【0003】
齲蝕は、まず歯の表面層にミュータンスレンサ球菌などの口腔細菌が定着することにより始まる。このミュータンスレンサ球菌が産生するグルコシルトランスフェラーゼの酵素作用により、歯のエナメル質表面に、食物中のショ糖が変換された粘着性多糖類(グルカン)が生成し、そのグルカンを土台にして、ストレプトコッカスを始めとする様々な口腔内細菌が繁殖すると、グルカンが次第に不溶化し、これと菌の凝集塊とが層となり歯垢(プラーク)が形成される。一方、口腔内細菌が産生する有機酸によって歯の表面のpHが5.5以下に低下すると齲蝕が発生、進行する。
【0004】
このようにして生成したプラークの層が次第に厚くなると、層中の歯により近い部分では細菌の持つ活性酸素除去酵素の働きによりプラーク中の酵素が消費され、酸素の多い好気条件下から酸素の少ない嫌気条件下に移行されていく。
【0005】
プラークの嫌気条件が進行すると今まで生育不可能であった偏性嫌気性細菌が繁殖できる条件となり、菌数が増加する。こういった状況になるとプラークの層が厚くなり、歯根から歯周ポケットもプラークに覆われてくる。この状態がさらに進展すると歯周病を経て歯槽膿漏になる。
【0006】
したがって、プラークの形成を抑制することは、齲蝕の予防または改善のためには非常に有効な手段である。
【0007】
こうした疾病の改善・予防あるいは健康増進に有用な生物や植物が、世界各地で探索されている。しかし生物の乱獲は資源保護、生物多様性条約の観点から好ましいものではなく、また植物についても産地や栽培履歴等のトレーサビリティーが不十分で安全性を担保できない原料を用いた健康食品が市場に出回り、深刻な副作用や社会的混乱を引き起こしている。
【0008】
茶(Camellia sinensis)はツバキ科(Theaceae)に属する多年生の木本性常緑樹で、最も長い歴史を持つ飲料原料であり、2005年には日本では100,000トン、世界では3,201,000トン生産されていることから、原料に茶を用いることは安心・信頼できるものがある。
【0009】
既に緑茶には種々の機能性が明らかにされており、グルコシルトランスフェラーゼ阻害効果(非特許文献1参照)が報告されている。その生理活性の中心は茶カテキンの一種であるエピガロカテキン 3−O−ガレートである場合が多い(非特許文献2参照)。
【0010】
食品や飲料でエピガロカテキン 3−O−ガレートの作用を得るには、高濃度のカテキ
ンを使用する必要があるが、高濃度のカテキンを用いるとカテキン自体の“苦味”と“渋味”が強く、お茶本来の風味を損なってしまう。そこで、“苦味”や“渋味”をマスキングするために、シクロデキストリンを併用する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、β-シクロデキストリンには毒性があることが、世界食品添加物合同専門会議(JECFA)の安全性評価で確認されたことから、EU諸国ではその使用量が規制され、“苦味”“渋味”を緩和するための十分なマスキング処理が施せなくなってきている。
【0011】
このことから、齲蝕を予防改善するための、風味よく、マスキング処理が不要である茶由来重合カテキンが期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−254511号公報(第7頁、表1)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chemical & pharmaceutical bulletin、Pharmaceutical Society of Japan,1990年、38巻、3冊、p.717−720
【非特許文献2】Vitamins and Hormones、Academic Press、2001年、62巻、p.1−94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
口腔関連疾患のうち、特に齲蝕の予防改善に効果のある組成物であって、渋味や苦味の問題がない、風味がよく、かつ人体に対して安全性が高い口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ラッカーゼ処理した緑茶エキスに含まれるエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン 3-O−ガレート(以下、エピテアフラガリン類という)に、齲蝕の原因因子であるグルコシルトランスフェラーゼの阻害効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本願の第1の発明は、茶由来重合カテキンを含有するグルコシルトランスフェラーゼ活性阻害作用を有する口腔用組成物である。
【0017】
第2の発明は、前記記載の茶由来重合カテキンが、エピテアフラガリン及び/またはエピテアフラガリン 3−O−ガレートである口腔用組成物である。
【0018】
第3の発明は、前記記載のエピテアフラガリン及びまたはエピテアフラガリン 3−O−ガレートが、エピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートを含有する茶抽出物に没食子酸を添加し、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて得られる口腔用組成物である。
【0019】
第4の発明は、齲蝕改善及び/または予防に用いる口腔用組成物である。
【0020】
第5の発明は、齲蝕改善及び/または予防に用いる飲食品、含嗽剤又は口腔洗浄剤である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、グルコシルトランスフェラーゼ阻害効果を見出したことから、齲蝕に対する高い予防効果を得られる口腔用組成物を提供できた。
【0022】
更に、“渋味”の強いエピガロカテキン 3−O−ガレートに代わる成分、即ち、本発明で得られたエピテアフラガリン類により、味をマスキングするための添加物が不要となり、安全性が高く、“苦味”や“渋味”のない剤を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】エピテアフラガリン類のグルコシルトランスフェラーゼに対する阻害効果
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
エピテアフラガリン及びエピテアフラガリン 3−O−ガレートは下記化学式で表される。
【0025】
【化1】


【化2】



【0026】
そこで、本願発明者が先に見出した製造方法で、エピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートに、没食子酸の存在下、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて、エピテアフラガリン類に変換して製造する(特開20007−319140号公報参照)。
【0027】
上記方法の原料となるエピガロカテキン 3−O−ガレートは、茶抽出物に含まれることから、エピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートを含有する茶抽出物に没食子酸を添加し、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて、エピテアフラガリン類を含有する混合物を製造することができる。茶抽出物としては、例えば、緑茶抽出物、ウーロン茶抽出物、または紅茶抽出物を挙げることができる。
【0028】
(緑茶抽出物)
緑茶は、ツバキ属(Camellia)植物の葉の抽出物であり、主にCamellia sinensis、Camellia assamicaの新芽を原料として、それを乾燥させたものである。緑茶抽出物としては、例えば、SD緑茶エキスパウダーNo.16714(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、サンフェノンBG(太陽化学株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0029】
(ウーロン茶抽出物)
ウーロン茶は、緑茶抽出物と同様の茶葉を一定時間発酵させ、その後加熱して発酵を停止したものである(半発酵茶)。ウーロン茶抽出物としては、例えば、FDウーロン茶エ
キスパウダーNo.16297(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0030】
(紅茶抽出物)
紅茶は、緑茶抽出物と同様の茶葉を強発酵させ、その後加熱して発酵を停止したものである(強発酵茶)。紅茶抽出物としては、例えば、SD紅茶エキスパウダーNo.16691(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0031】
茶抽出物の例を以下の表1に示す。但し、これらの茶抽出物は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0032】
【表1】

【0033】
まず、茶抽出物に含まれるエピガロカテキン及びエピガロカテキン 3−O−ガレートの総量に対して、没食子酸の添加をモル比で1〜10とする。好ましくはモル比で2〜5とするのが適当である。なぜならば、モル比を6以上にしてもエピテアフラガリン類の生成量増加に対してあまり影響がないからである。
ポリフェノールオキシダーゼは、エピガロカテキンをエピテアフラガリンに変換することができ、かつエピガロカテキン 3−O−ガレートをエピテアフラガリン 3−O−ガレートに変換することができる酵素であれば、特に制限はない。
【0034】
ポリフェノールオキシダーゼは遊離の酵素または固定化酵素であることができる。ポリフェノールオキシダーゼは遊離の酵素である場合、ポリフェノールオキシダーゼは没食子酸を添加した茶抽出物に所定量添加し、所定時間、所定温度で変換反応を行う。
【0035】
例えば、ポリフェノールオキシダーゼの所定量は、茶抽出物を0.5〜15(w/v)%を含む溶液1mLに対して10〜200Uの範囲である。10U以下であると、反応の進行が遅く、エピテアフラビン類生成量が減少し、200U以上になると、反応の進行が速すぎて後処理工程の制御が困難になってしまう。
【0036】
そして変換反応における所定時間は10分〜15時間、所定温度は20〜60℃の範囲
が望ましい。反応時間が短過ぎるとエピテアフラガリン類の生成が不十分となり、長過ぎると沈殿物が生じ、風味を損ねる。また温度が低すぎると反応が進行しにくく、高過ぎると酵素が失活してしまう。
【0037】
ポリフェノールオキシダーゼによる変換反応後に、茶抽出物を加熱して酵素を失活させることが必要である。加熱条件は70〜90℃で、2〜10分とすることが適当である。
【0038】
茶抽出物にどの程度のエピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートが含有されているかは、茶抽出物により異なる。例えば、SD緑茶エキスパウダーでは、エピガロカテキンが約10(w/w)%、エピガロカテキン 3−O−ガレートが約13(w/w)%ほど含まれている。従って、例えば茶抽出物を1%含む溶液は、エピガロカテキンが約1mg/mL、エピガロカテキン 3−O−ガレートが約1.3mg/mLになる。
【0039】
上記製造方法により得られるエピテアフラガリン類またはエピテアフラガリン類含有混合物は、そのまま飲食品に加えて、本発明の飲食品とすることができる。本発明の飲食品は、具体的には飲料であり、より具体的には茶飲料である。茶飲料としては、例えば、緑茶飲料、緑茶風飲料、ウーロン茶飲料、ウーロン茶風飲料、紅茶飲料、または紅茶風飲料を挙げることができる。本発明の飲料は、エピテアフラガリン類を、例えば、0.0001〜0.5質量%含有するものであることができる。
【0040】
また、上記製造方法により得られるエピテアフラガリン類またはエピテアフラガリン類含有混合物は、そのまま飲食品に添加して利用することもできるが、没食子酸存在下で茶抽出物をポリフェノールオキシダーゼで処理した液を、抽出・精製または濃縮を行い、噴霧乾燥または凍結乾燥し、整粒によりエキス粉末を調製することもできる。こうした濃縮溶液またはエキス粉末を各種形態の食品およびヘルスケア製品の原料として供することもできる。
【0041】
濃縮溶液またはエキス粉末を適用できる食品としては、例えば、ガム、菓子、キャンディー、サプリメント等を挙げることができる。濃縮溶液またはエキス粉末を適用できるヘルスケア製品としては、例えば、口腔洗浄液、歯磨きペースト等を挙げることができる。
【実施例】
【0042】

実施例として、エピテアフラガリン類、ラッカーゼ処理緑茶エキス、口腔用飲食品及び含嗽剤を調製した。

【0043】
(実施例1)エピテアフラガリン
エピガロカテキン2gを水150mLに加えて攪拌した(氷冷)。フェリシアン化カリウム5g及び炭酸水素ナトリウム3g/水30mL、ピロガロール1.4g/水30mLを滴加した。反応液を酢酸エチル抽出(100mL×3)し、減圧下、溶媒留去し、カラムクロマト精製(ポリアミド C−200 10g(カラム径2cm)、水/エタノール混液で展開)によりエピテアフラガリン溶出画分を集め、水/メタノ−ルで再結晶し、黄橙色結晶260mgを得た。
【0044】
(実施例2)エピテアフラガリン 3−O−ガレート
エピガロカテキン 3−O−ガレート4gを水300mLに加えて攪拌した(氷冷)。フェリシアン化カリウム10g、炭酸水素ナトリウム6g/水60mL、ピロガロール2
.8g/水60mLを滴加した。反応液を酢酸エチル抽出(100mL×3)し、減圧下、溶媒留去し、カラムクロマト精製(ポリアミド C−200 50g(カラム径3cm)、水/エタノール混液で溶出)によりエピテアフラガリン 3−O−ガレート溶出画分を集め、水/メタノ−ルで再結晶し橙色結晶840mgを得た。
【0045】
(実施例3)ラッカーゼ処理緑茶エキスの調製
緑茶エキス(カメリアエキス40R(太陽化学))1g及び没食子酸一水和物(純正化学)0.48gを取り、水100mLに溶解した。ラッカーゼダイワY120(天野エンザイム、108,000U/g)0.0093〜0.093gを添加し、反応温度45〜50℃で、1〜2hr反応した。反応後、反応液を加熱処理して放冷し凍結乾燥し、得られた乾燥粉末をラッカーゼ処理緑茶エキスとした。当該エキス中には、エピテアフラガリンが0.1〜0.4%(w/w)、エピテアフラガリン 3−O−ガレートが0.2〜1.5%(w/w)含まれていた。
【0046】
(比較例1)エピガロカテキン 3−O−ガレート
太陽化学株式会社製サンフェノンEGCgを用いた。
【0047】
(試験例1)グルコシルトランスフェラーゼに対する阻害効果 その1
1)試験方法
(1)使用菌株 口腔由来細菌であるストレプトコッカスに属するストレプトコッカス ソブリヌス(Streptococcus sobrinus、ATCC27351)
【0048】
(2)グルコシルトランスフェラーゼ酵素液の調製
ストレプトコッカス ソブリヌス ATCC27351菌株をブレインハートインヒュージョン培地(BHI、日水製薬株式会社製)10mLで37℃、18〜24hr予備培養した。ブレインハートインヒュージョン培地30mLを予備培養した培地に加え、37℃、18時間前培養した。さらに前培養した培養液を300mLのブレインハートインヒュージョン培地へ移し、一晩培養後、7000rpmで15分間遠心分離により菌体を除去した上澄液を得た。氷中下、この上澄液に硫酸アンモニウムを50%飽和になるまで添加して沈殿物を集めた。生じた沈殿物を10,000rpmで15分間遠心分離して回収し、0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(pH6.5)2mLに溶解し、同一の緩衝液に対して5℃で一晩透析し、グルコシルトランスフェラーゼ酵素液とした。
【0049】
(3)グルコシルトランスフェラーゼ阻害活性の測定
グルコシルトランスフェラーゼ酵素液60μL、0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(pH6.5)100μL、0.2%アジ化ナトリウム溶液100μL、10%ショ糖溶液100μL、並びに、実施例で得られた試料溶液10μLを加え、さらに全量1000μLとなる量の水を加えた。ポリプロピレンチューブ中でこれを30°に傾斜させて、37℃、20hr酵素反応させた。反応後は静かに3回転させ上澄液を除き、不溶性グルカンの付着面を上に向けたまま1mLずつ3回蒸留水を加え、静かに3回転させ上澄液を除いた。さらに1mLずつ3回蒸留水を用いて、ポリプロピレンチューブ内に残る不溶性グルカンを試験管にとり、不溶性グルカンをピペッティングにより分散・懸濁させ、550nmの吸光度を測定した。なお、グルコシルトランスフェラーゼ酵素液の添加量は対照ブランクの吸光度が0.9〜1.0を与える量とした。また、試料溶液の代わりに水を用いて同様の操作をしたものを対照ブランクとした。グルコシルトランスフェラーゼ阻害率(%)は、試料反応溶液の吸光度をA、対照ブランクの吸光度をBとしたとき、(1−A/B)×100(%)で算出した。また、阻害率が50%となる試料濃度(μg/mL)を求め、I
C50値とした。
【0050】
2)試験結果
図1から明らかなように、いずれも濃度依存的にグルコシルトランスフェラーゼを阻害し、IC50は表2に示すとおり、比較例1として用いたエピガロカテキン 3−O−ガレートよりも6〜7倍低濃度でも同程度の効果が得られることが明らかになった。
【0051】
【表2】

【0052】
(試験例2)グルコシルトランスフェラーゼに対する阻害効果 その2
1)試験方法
(1)使用菌株 口腔由来細菌であるストレプトコッカスに属するストレプトコッカス ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)ATCC27351
【0053】
(2)グルコシルトランスフェラーゼ酵素液の調製
ストレプトコッカス ソブリヌス ATCC27351菌株をソイビーンカゼインダイジェスト培地(SCD培地、ダイゴ−和光純薬工業)10mLで37℃、18〜24hr予備培養し、10.5LのSCD培地へ移し、一晩培養後、7,000rpmで15分間遠心分離により菌体を除去した上澄液を得た。氷中下、この上澄液に硫酸アンモニウムを50%飽和になるまで添加して沈殿物を集めた。生じた沈殿物を10,000rpmで15分間遠心分離して回収し、0.02mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0)20mLに溶解し、同一の緩衝液に対して5℃で一晩透析し、透析液22mLを得た。
【0054】
この液を0.02mol/Lリン酸ナトリウム塩緩衝液(pH7.0)で平衡化したDEAE−Toyopearl M650(東ソー)(内径3×高さ22cm、充填量90mL)に添加し、0.02mol/Lリン酸ナトリウム塩緩衝液(pH7.0)300mLで充填剤に非吸着成分を溶出させた。続いて、円筒型密度勾配装置のA液に0.02mol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)250mL、B液に1.0mol/L塩化ナトリウムを含む0.02mol/Lリン酸ナトリウム塩緩衝(pH7.0)250mLを用いてリニアグラジエントにて吸着部を溶出し、グルコシルトランスフェラーゼ活性のある画分を回収した。その回収した画分5mmol/Lリン酸ナトリウム塩緩衝液(pH7.0)に対して5℃で一晩透析し、凍結乾燥した。この凍結乾燥品に水を加えてグルコシルトランスフェラーゼ粗精製液とした。
【0055】
(3)グルコシルトランスフェラーゼ阻害活性の測定
グルコシルトランスフェラーゼ粗精製液150μL、0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(pH6.5)100μL、0.2%アジ化ナトリウム溶液100μL、10%ショ糖溶液100μL、並びに、実施例3で得られた試料溶液10μLを加え、さらに全量1000μLとなる量の水を加えた。ポリプロピレンチューブ中でこれを30°に傾斜させて、37℃、24hr酵素反応させた。反応後は静かに3回転させ上澄液を除き、不溶性グルカンの付着面を上に向けたまま1mLずつ3回蒸留水を加え、静かに3回転させ上澄液を
除いた。さらに1mLずつ3回蒸留水を用いて、ポリプロピレンチューブ内に残る不溶性グルカンを試験管にとり、不溶性グルカンをピペッティングにより分散・懸濁させ、550nmの吸光度を測定した。また、試料溶液の代わりに水を用いて同様の操作をしたものを対照ブランクとした。グルコシルトランスフェラーゼ阻害率(%)は、試料反応溶液の吸光度をA、対照ブランクの吸光度をBとしたとき、(1−A/B)×100(%)で算出した。また、阻害率が50%となる試料濃度(μg/mL)を求め、IC50値とした。
【0056】
2)試験結果
IC50は表3に示すとおり、比較例1として用いたエピガロカテキン 3−O−ガレートよりも2倍低濃度でも同程度の効果が得られることが明らかになった。
【0057】
【表3】

【0058】
(実施例4)口腔用飲食品
下記組成の各成分を混合し、打錠機を用いて、口腔用飲食品(口腔用清涼剤)1錠あたり250mg)を製した。
ラッカーゼ処理緑茶エキス 20%
紅茶抽出物 10%
結晶セルロース 56%
ショ糖脂肪酸エステル 4%
微粒二酸化ケイ素 2%
精製寒天 8%
【0059】
(実施例5)含嗽剤又は口腔洗浄剤
下記組成を撹拌混合し、含嗽剤を得た。
塩酸クロルヘキシジン 0.05%
ラウリル硫酸ナトリウム 5.0%
メチルパラベン 0.1%
ラッカーゼ処理緑茶エキス 1.0%
香料 0.2%
精製水 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶由来重合カテキンを有効成分として含有することを特徴とする、グルコシルトランスフェラーゼ活性阻害作用を有する口腔用組成物。
【請求項2】
請求項1記載の茶由来重合カテキンが、エピテアフラガリン及び/またはエピテアフラガリン 3−O−ガレートである請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
請求項2記載のエピテアフラガリン及び/またはエピテアフラガリン 3−O−ガレートが、エピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートを含有する茶抽出物に没食子酸を添加し、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて得られる、請求項1〜2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
齲蝕改善及び/または予防に用いる請求項1〜3記載の口腔用組成物。
【請求項5】
齲蝕改善及び/または予防に用いる請求項1〜3記載の飲食品、含嗽剤又は口腔洗浄剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221191(P2009−221191A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34750(P2009−34750)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】