説明

抗C型肝炎組成物、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法、およびリモノイド化合物の使用

【課題】抗C型肝炎組成物、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法、およびリモノイド化合物の使用の提供。
【解決手段】下記式(I)に示すリモノイド化合物と、


(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)薬学的に許容される担体または塩類と、を含み、前記抗C型肝炎組成物がC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いられることを特徴とする抗C型肝炎組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗C型肝炎組成物に関し、特に、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いることができるリモノイド化合物を含む組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全世界の人口の約2〜3%(約3億人)がC型肝炎に感染しており、毎年300〜400万の患者が増加する速度で蔓延している。現在のところ、実証かつ承認されている唯一の抗C型肝炎ウイルス薬剤は、α−インターフェロンであり、また、リバビリンは、α−インターフェロンの抗C型肝炎ウイルス効果を高めることが実証かつ承認されている。しかしながら、両者はいずれも重大な副作用を引き起こし、かつ薬剤耐性を形成させることが多い。
【0003】
リモノイド化合物の基本構造は、3つの六員環に1つの五員環を加え、さらに単結合でフラン環を連結させて構成されている。リモノイド化合物は、主にミカン科(Rutaceae)およびセンダン科(Meliaceae)の植物中に存在する。リモノイド化合物のうち、トウセンダニン(toosendanin)は、トウセンダン(Melia toosendan Sieb.Et Zucc.)から分離することができる。トウセンダニンは、主に天然の殺虫剤として用いられているが、現在、トウセンダニンが白血病細胞のアポトーシスを誘導できることがすでに判明している。また、センレンシからトウセンダニンを抽出することもできる。センレンシは、成熟したトウセンダンの果実を乾燥させたものであり、回虫および蟯虫を駆除する漢方薬として用いることができる。
【0004】
しかしながら、リモノイド化合物がC型肝炎を有効に抑制できるか否かについては、現在のところ、まだ明らかとなっていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、抗C型肝炎組成物、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法、およびリモノイド化合物の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、抗C型肝炎組成物であって、分子式が下記式(I)に示すとおりの有効量のリモノイド化合物と、
【0007】
【化1】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【0008】
薬学的に許容される担体または塩類と、を含み、前記抗C型肝炎組成物がC型肝炎ウイルスを抑制するのに用いられることを特徴とする抗C型肝炎組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法であって、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する前記薬剤の活性成分として、有効量のリモノイド化合物を用い、前記リモノイド化合物の分子式が下記式(I)に示すとおりであることを特徴とするC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法を提供する。
【0010】
【化2】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【0011】
さらに、本発明は、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いる薬剤の調製におけるリモノイド化合物の使用であって、前記リモノイド化合物の分子式が下記式(I)に示すとおりであることを特徴とするリモノイド化合物の使用を提供する。
【0012】
【化3】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【0013】
本発明の上記およびその他の課題、特徴ならびに長所がより明らかになるよう、以下に好適な実施例を挙げて、詳細に説明していく。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、植物材料から抽出されるリモノイド化合物を有効成分として含む抗C型肝炎組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、リモノイド化合物を含む組成物を抗C型肝炎薬剤とするものであり、それはC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いることができる。ある実施形態において、本発明の組成物は、有効量のリモノイド化合物と、薬学的に許容される担体または塩類と、を含んでいてよく、リモノイド化合物の分子式は、下記式(I)に示すとおりである。
【0016】
【化4】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【0017】
上記リモノイド化合物は、植物材料から抽出することができる。植物材料としては、トウセンダン(川楝、Melia toosendan Sieb.Et Zucc.)またはクレン(苦楝、Melia azedarach Linn.)が挙げられる。
【0018】
上記リモノイド化合物は、トウセンダニンまたはトリキリンHを含むことができる。トウセンダニンおよびトリキリンHの分子式は、それぞれ下記式(II)および下記式(III)に示すとおりである。
【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
C型肝炎ウイルスレプリコン系は、C型肝炎の研究分野において、すでに現在周知になっていると共に広く認められ、かつ使用されている新薬スクリーニング研究の方法である(ヴィ・ローマン(V.Lohmann)ら,1999,ヘパトーマ細胞系におけるサブゲノムC型肝炎ウイルスRNAの複製(Replication of subgenomic hepatitis C virus RNAs in hepatoma cell line),サイエンス(Science),Vol.285,110−113;アール・バーテンシュラーガー(R.Bartenschlager),2002,C型肝炎ウイルスの複製:薬剤開発のための潜在的な役割(Hepatitis C virus replicons:potential role for drug development),ネイチャー・レビューズ/ドラッグ・ディスカバリー(Nature Reviews/Drug Discovery),Vol.1,911−916;ジェイ・エム・ヴォルリーク(J.M.Vorlijk)ら,2003,慢性C型肝炎患者におけるインターフェロン測定用のレプリコン・ベース・バイオアッセイ(A replicon−based bioassay for the measurement of interferons in patients with chronic hepatitis C),ジャーナル・オブ・ヴァイロロジカル・メソッズ(Journal of Virological Methods),110:201−209)。Huh−luc/neo−ET細胞は、I389luc−ubi−NS3−3’/ET遺伝子構築物を有するC型肝炎ウイルスレプリコン系である。このC型肝炎ウイルスレプリコン系は、C型肝炎ウイルスの配列内部リボソーム進入部位(IRES)が翻訳を行うことにより、ホタルルシフェラーゼ−ユビキチン−ネオマイシンホスホトランスフェラーゼのポリタンパク質を発現することができ、かつ脳心筋炎ウイルス(EMCV)の配列内リボソーム進入部位が翻訳を行うことにより、プロテアーゼ、ヘリカーゼおよびポリメラーゼのポリタンパク質を含むC型肝炎ウイルス非構造タンパク質(NS3−5B)を発現することができる。C型肝炎ウイルスの配列内リボソーム進入部位またはC型肝炎ウイルス非構造タンパク質により構成される複製複合体が試験化合物の影響を受けたとき、ホタルルシフェラーゼ活性も変化する。よって、本発明のリモノイド化合物がC型肝炎ウイルスを抑制する効果は、リモノイド化合物の存在下で、Huh−luc/neo−ET細胞がホタルルシフェラーゼ活性を発現する強度により測定することができる。
【0022】
Huh−luc/neo−ET細胞において、リモノイド化合物のC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、少なくとも約0.5μg/mL未満であり、好ましくは約0.045μg/mLである。また、リモノイド化合物の50%細胞傷害濃度(CC50)とC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)との比は、少なくとも約100よりも大きく、好ましくは約2500よりも大きい。
【0023】
ある実施形態において、リモノイド化合物は、トウセンダニンを含んでいてよく、その分子式は、下記式(II)に示すとおりである。
【0024】
【化7】

【0025】
トウセンダニンは、植物材料から抽出することができる。植物材料としては、トウセンダンまたはクレンが挙げられる。Huh−luc/neo−ET細胞において、トウセンダニンのC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、少なくとも約0.05μg/mL未満であり、また、トウセンダニンの50%細胞傷害濃度(CC50)とC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)との比は、少なくとも約2500よりも大きい。
【0026】
別の実施形態において、リモノイド化合物は、トリキリンHを含んでいてよく、その分子式は、下記式(III)に示すとおりである。
【0027】
【化8】

【0028】
トリキリンHは、植物材料から抽出することができる。植物材料としては、トウセンダンまたはクレンが挙げられる。Huh−luc/neo−ET細胞において、トリキリンHのC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、少なくとも約0.5μg/mL未満であり、また、トリキリンHの50%細胞傷害濃度(CC50)とC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)との比は、少なくとも約100よりも大きい。
【0029】
薬学的に許容される担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤や抗真菌剤、等張剤や吸収遅延剤など、薬学的投与に適合するものが挙げられる。それぞれ異なる投薬形式に応じて、一般的な方法により、本発明の組成物を所定の剤型に製剤化することができる。
【0030】
薬学的に許容される塩類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩類;マグネシウム、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩類;亜鉛塩、アルミニウム塩、ジルコニウム塩などの2価または4価カチオンを含む塩類;アミン塩類;などの無機カチオン塩類が挙げられる。また、薬学的に許容される塩類は、ジシクロヘキシルアミン塩類;メチル−D−グルカミン;アルギニン、リジン、ヒスチジン、グルタミンなどのアミノ酸塩類;などの有機塩類であってもよい。
【0031】
本発明の組成物は、経口、非経口、噴霧吸入によるか、または、植込型容器を介した方式により投与することができる。非経口投与としては、特に限定されるものではないが、例えば、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射、関節内注射、動脈内注射、滑液嚢内注射、胸骨内注射、くも膜下腔内注射、病巣内注射、輸液技術などが挙げられる。また、経口投与としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、カプセル剤、乳剤、水性懸濁液剤、分散液剤、溶液剤などが挙げられる。
【0032】
本発明の組成物における有効成分の通常の一日投与量は、通常は約0.001〜100mg/kg体重、好ましくは約0.005〜50mg/kg体重、より好ましくは約0.01〜10mg/kg体重の範囲内であり、単一投与量または分割投与量で投与することができる。しかし、実際に投与される有効成分の量は、治療する疾患、選択された投与経路、患者の年齢、性別および体重、ならびに、疾患の程度を含む種々の関連因子を考慮して決定されるものであり、したがって、前記投与量は本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
また、本発明は、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する方法を提供する。C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する方法は、必要とする患者に対して、有効量の抗C型肝炎組成物を投与する工程を含み、この抗C型肝炎組成物は、上記式(I)で示されるリモノイド化合物および薬学的に許容される担体または塩類を含む。この抗C型肝炎組成物に適する担体または塩類は、上記のとおりである。
【0034】
別の態様において、本発明は、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法を提供する。
【0035】
本発明の調製方法では、有効量のリモノイド化合物を、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の活性成分として用いる。例えば、有効量のリモノイド化合物を薬学的に許容される担体または塩類と組み合わせることにより、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤を調製する。リモノイド化合物の分子式は、下記式(I)に示すとおりである。
【0036】
【化9】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【0037】
C型肝炎ウイルスレプリコン系試験により、Huh−luc/neo−ET細胞において、リモノイド化合物のC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、少なくとも約0.5μg/mL未満、好ましくは約0.045μg/mLであることが示された。また、リモノイド化合物の50%細胞傷害濃度(CC50)とC型肝炎ウイルス複製の50%阻害濃度(IC50)との比は、少なくとも約100よりも大きく、好ましくは約2500よりも大きい。
【0038】
上記リモノイド化合物は、植物材料から抽出することができる。植物材料としては、トウセンダンまたはクレンが挙げられる。
【0039】
また、上記リモノイド化合物は、トウセンダニンまたはトリキリンHを含むことができる。トウセンダニンおよびトリキリンHの分子式は、それぞれ下記式(II)および下記式(III)に示すとおりである。
【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
さらにまた別の態様において、本発明は、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いる薬剤の調製におけるリモノイド化合物の使用を提供する。前記リモノイド化合物の分子式は、下記式(I)に示すとおりである。
【0043】
【化12】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【0044】
C型肝炎ウイルスレプリコン系試験により、Huh−luc/neo−ET細胞において、上記リモノイド化合物のC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、少なくとも約0.5μg/mL未満、好ましくは約0.045μg/mLであることが示された。また、リモノイド化合物の50%細胞傷害濃度(CC50)とC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)との比は、少なくとも約100よりも大きく、好ましくは約2500よりも大きい。
【0045】
上記リモノイド化合物は、植物材料から抽出することができる。植物材料としては、トウセンダンまたはクレンが挙げられる。
【0046】
また、上記リモノイド化合物は、トウセンダニンまたはトリキリンHを含むことができる。トウセンダニンおよびトリキリンHの分子式は、それぞれ下記式(II)および下記式(III)に示すとおりである。
【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
≪実施例1≫
植物材料からC型肝炎ウイルスを抑制する有効成分を抽出
センレンシアルコール抽出物5.96gを取り、メタノールと水の混合溶媒20mL中に溶解してから、n−ヘキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタンおよび酢酸エチル各15mLで、それぞれ2〜3回抽出し、n−ヘキサン層抽出液、ジエチルエーテル層抽出液、ジクロロメタン層抽出液および酢酸エチル層抽出液をそれぞれ得た。各層の抽出液をそれぞれ濃縮・乾燥した後、n−ヘキサン層抽出物、ジエチルエーテル層抽出物、ジクロロメタン層抽出物および酢酸エチル層抽出物を得て、Huh−luc/neo−ET細胞(C型肝炎ウイルスレプリコン系)を用いて、それらのC型肝炎ウイルスを抑制する活性をそれぞれ測定した。
【0051】
その結果、得られたジエチルエーテル層抽出物(1.113g)がC型肝炎ウイルス複製を抑制する活性を備えていることが判明し、そのC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、0.68±0.11μg/mLであった。
【0052】
ジエチルエーテル層抽出物1.1gを取り、オープンカラムクロマトグラフィー(充填物:シリカゲル33g、寸法:2.2cm×25.3cm)で、異なる混合比率のn−ヘキサンとアセトンを移動相として分離を行い、ジエチルエーテル層抽出物を多数の画分に粗分画し、活性試験により活性成分の画分を選定してから、逆相セミ分取カラムクロマトグラフィーで、水とアセトニトリルを移動相とし、2つの化合物を分離した。次いで、これら2つの化合物について、分光分析および質量分析を行った。
【0053】
第1化合物の分光分析結果は、以下のとおりであった:
H−NMR(500MHz,CDOD):7.39(s,1H);7.19(s,1H);6.16(s,1H);5.34(s,1H);5.20(s,1H);4.71−4.24(m,5H);3.80(s,1H);3.58−3.31(m,1H);2.90−2.54(m,4H);2.19−1.89(m,8H);1.37−1.33(3H);1.14−1.11(3H);0.84(s,3H)。
【0054】
第1化合物の質量分析結果は、以下のとおりであった:
LC−MS/MS:621[M+2×Na];598[M+Na];558[M−O];498[M−O−OAc];438[M−O−2×OAc]
【0055】
以上の結果から、第1化合物は、トウセンダニンであることが確認された。
【0056】
第2化合物の分光分析結果は、以下のとおりであった:
H−NMR(500MHz,CDOD):7.40(s,1H);7.20(s,1H);6.16(s,1H);5.77(s,1H);5.47(s,1H);5.37(s,1H);5.34(s,1H);4.52(s,1H);4.53−4.31(m,2H);3.82(s,1H);3.578(m,1H);2.96−2.87(m,2H);2.48−2.50(m,1H);2.20(m,2H);2.08(sm,2H);1.99(s,3H);1.93(s,3H);1.90(s,3H);1.34−1.29(3H);1.17−1.13(m,3H);0.95−0.88(m,6H);0.83(s,3H)。
【0057】
第2化合物の質量分析結果は、以下のとおりであった:
LC−MS/MS:749[M+2×Na];726[M+Na];635[M−フラン];616[635−COCH(CH;558[616−OAc]
【0058】
以上の結果から、第2化合物は、トリキリンHであることが確認された。
【0059】
≪実施例2≫
1.トウセンダニンのHuh−luc/neo−ET細胞に対する細胞毒性試験
Huh−luc/neo−ET細胞を、2.5×10個/100μL/ウェルの細胞密度で、96ウェル細胞培養プレート(コーニング・インコーポレイション(Corning Incorporation)製、COSTAR,3599)に播種し、インキュベーター(ニューエアー(NUAIR)社製、nu−5510)に入れて培養した。
【0060】
翌日、トウセンダニン試料を、DMEM培地で、それぞれ希釈して、濃度を28.73μg/mL、9.57μg/mL、3.19μg/mL、1.06μg/mL、0.35μg/mL、0.11μg/mL、0.039μg/mLおよび0.013μg/mLとする、または、希釈して、114.92μg/mL、38.33μg/mL、12.77μg/mL、4.25μg/mL、1.42μg/mL、0.46μg/mL、0.16μg/mLおよび0.057μg/mLなど、それぞれ異なる希釈濃度のトウセンダニン培地とし、96ウェルプレート中の元の培地を真空ポンプ(DOAT−704AA)で吸引除去した。その際、細胞を吸引しないように注意した。そして、上記濃度のトウセンダニン培地を、100μL/ウェルの量で、細胞の入った上記96ウェル細胞培養プレートに、それぞれ加えて実験群とし、また、対照群は、細胞に何らの処理もしていない培地を加えたものとした。
【0061】
2日間培養した後、培地を除去してから、1×PBS(1mM KHPO、10mM NaHPO、137mM NaCl、2.7mM KCl)100μLで2回洗浄し、試料の沈殿があるか否かを観察し、これを記録した。続いて、PBSを除去し、各ウェルに0.5mg/mL MTT(シグマ(Sigma)社製、M2128)を含む培地50μLを加え、COインキュベーター中に入れて1時間培養した後、DMSO(リーデル・デ・ヘーン(Riedel−de Haen)製、60153)150μLを加え、ボルテクサー(KS shaker Type 670)で紫色の沈殿を均一に攪拌し、次いで、連続波長マイクロプレート分析システム(モレキュラー・デバイシーズ(Molecular Devices)社製、SPECTRAMAX 190)で、波長560nmにおける細胞の吸光度を測定した。
【0062】
対照群の平均吸光度を100%の細胞生存率(%)とし、各種濃度の試料を加えた実験群の細胞の生存率(%)を計算した。細胞生存率の計算式は、(実験群の吸光度/対照群の吸光度)×100%である。各実験群の試料濃度に対する細胞生存率をプロットしてxy散布図を作成することにより、R値が0.9を超える傾向線の式を求めた。
【0063】
y=50とし、この式に代入して得られるxは、50%の細胞に傷害をもたらす試料濃度(CC50)であり、また、y=85とし、この式に代入して得られるxは、15%の細胞に障害をもたらす試料濃度(CC15)である。試料の特性により、試料濃度が3.19μg/mL、1.06μg/mL、0.35μg/mL、0.11μg/mLおよび0.039μg/mLの実験群から得られた傾向線の式のみを用いて、CC15値を計算した。結果を表1に示す。トウセンダニンの50%細胞傷害濃度(CC50)は、114.8μg/mLより高く、トウセンダニンの15%細胞傷害濃度(CC15)は、0.34μg/mLであった。
【0064】
細胞生存率が85%を超えるとき、この試料は、その濃度(CC15値未満の濃度)以下では、細胞毒性を有しないとみなした。細胞毒性を有しない濃度の試料を選択して、Huh−luc/neo−ET細胞のホタルルシフェラーゼ活性試験を行った(以下に詳述する)。
【0065】
2.ホタルルシフェラーゼ活性の試験によるトウセンダニンのC型肝炎ウイルス複製抑制効果の評価
Huh−luc/neo−ET細胞を、2.5×10個/100μL/ウェルの細胞密度で、96ウェル細胞培養プレート(コーニング・インコーポレイション(Corning Incorporation)製、COSTAR,3599)に播種し、濃度0.15μg/mL、0.075μg/mL、0.038μg/mL、0.019μg/mLおよび0.0085μg/mLのトウセンダニンと共に、それぞれ2日間共培養した。次いで、1×PBS(1mM KHPO、10mM NaHPO、137mM NaCl、2.7mM KCl)100μLで、2回洗浄した後、PBSを吸引除去した。1×細胞溶解液(プロメガ(Promega)社製、E1941)35μLを加えてから、ボルテクサー(KS shaker Type 670)で10分間ボルテックスし、細胞を均一に分散させた。
【0066】
細胞液30μLを吸い取り、ホタルルシフェラーゼ測定用の白96ウェルプレート(ヌンク(NUNC)社製、236108)に加えてから、発光分析緩衝液(21.5mM MgCl、3.7mM ATP、0.1M KHPO)40μLおよび発光基質(1mM D−ルシフェリン)20μLを順次加え、基質を加えた後、直ちに、マイクロプレートルミノメーター(ベルトールド(Berthold)社製、MPL4)で、そのルシフェラーゼ活性(Rlu/s)を測定した。
【0067】
対照群のルシフェラーゼ活性を基準として、実験群のC型肝炎ウイルス抑制率(%)を計算した。抑制率(%)の計算式は、{[(対照群のルシフェラーゼ活性)−(実験群のルシフェラーゼ活性)]/(対照群のルシフェラーゼ活性)}×100%である。試料を連続希釈し、異なる濃度におけるC型肝炎ウイルス複製抑制率を測定した後、ソフトウェア・グラフィット・ファイヴ(grafit5)(エリサクス・ソフトウェア(Erithacus Software)社製)を用いて、C型肝炎ウイルス複製抑制率50%における試料濃度(IC50)を計算した。
【0068】
各実験時において、0.5ng/mLおよび0.1ng/mLのPEG IFN alpha−2aをIC50試験の陽性対照群として用いたほか、1μg/mLのシクロスポリンA(CsA)もIC50試験の陽性対照群として用いた。
【0069】
結果を表1に示す。トウセンダニンのC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、0.045±0.004μg/mLであり、また、トウセンダニンのC型肝炎ウイルス複製に対する90%阻害濃度(IC90)を計算したところ、0.35μg/mLであった。
【0070】
≪実施例3≫
1.トリキリンHのHuh−luc/neo−ET細胞に対する細胞毒性試験
実験の手順は、実施例2と同様としたが、試験試料をトリキリンHに代えた。トリキリンH試料をDMEM培地で希釈し、濃度50μg/mL、25μg/mL、8.33μg/mL、2.78μg/mL、0.93μg/mL、0.31μg/mL、0.1μg/mLおよび0.03μg/mLのトリキリンH培地を、それぞれ作製した。
【0071】
結果を表1に示す。トリキリンHの50%細胞傷害濃度(CC50)は、50μg/mLより高く、トリキリンHの15%細胞傷害濃度(CC15)は、0.7μg/mLであった。
【0072】
2.ホタルルシフェラーゼ活性の試験によるトリキリンHのC型肝炎ウイルス複製抑制効果の評価
実験の手順は、実施例2と同様とし、試験試料をトリキリンHに代えた。Huh−luc/neo−ET細胞を、濃度0.75μg/mL、0.5μg/mL、0.25μg/mLおよび0.125μg/mLのトリキリンHと共に、それぞれ共培養した。
【0073】
結果を表1に示す。トリキリンHのC型肝炎ウイルス複製に対する50%阻害濃度(IC50)は、0.48±0.10μg/mLであり、トリキリンHのC型肝炎ウイルス複製に対する90%阻害濃度(IC90)は、0.9μg/mLであった。
【0074】
【表1】

【0075】
CC50:50%細胞傷害薬剤濃度;
CC15:15%細胞傷害薬剤濃度;
IC50:50%の細胞内のC型肝炎ウイルス複製を抑制する薬剤濃度;
IC90:90%の細胞内のC型肝炎ウイルス複製を抑制する薬剤濃度;
有効係数(EW):50%細胞傷害薬剤濃度/50%の細胞内のC型肝炎ウイルス複製を抑制する薬剤濃度。
【0076】
好適な実施例を挙げて本発明を以上のように説明したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて、いくらかの変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲の記載が基準となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗C型肝炎組成物であって、
分子式が下記式(I)に示すとおりの有効量のリモノイド化合物と、
【化1】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
薬学的に許容される担体または塩類と、
を含み、
前記抗C型肝炎組成物がC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いられることを特徴とする抗C型肝炎組成物。
【請求項2】
前記リモノイド化合物が植物材料から抽出される請求項1に記載の抗C型肝炎組成物。
【請求項3】
前記植物材料がトウセンダンまたはクレンを含む請求項2に記載の抗C型肝炎組成物。
【請求項4】
前記リモノイド化合物がトウセンダニンまたはトリキリンHを含み、前記トウセンダニンおよびトリキリンHの分子式がそれぞれ下記式(II)および下記式(III)に示すとおりである請求項1に記載の抗C型肝炎組成物。
【化2】

【化3】

【請求項5】
前記リモノイド化合物がトウセンダニンを含み、前記トウセンダニンの分子式が下記式(II)に示すとおりである請求項1に記載の抗C型肝炎組成物。
【化4】

【請求項6】
前記トウセンダニンが植物材料から抽出される請求項5に記載の抗C型肝炎組成物。
【請求項7】
前記植物材料がトウセンダンまたはクレンを含む請求項6に記載の抗C型肝炎組成物。
【請求項8】
前記リモノイド化合物がトリキリンHを含み、前記トリキリンHの分子式が下記式(III)に示すとおりである請求項1に記載の抗C型肝炎組成物。
【化5】

【請求項9】
前記トリキリンHが植物材料から抽出される請求項8に記載の抗C型肝炎組成物。
【請求項10】
前記植物材料がトウセンダンまたはクレンを含む請求項9に記載の抗C型肝炎組成物。
【請求項11】
C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法であって、C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する前記薬剤の活性成分として、有効量のリモノイド化合物を用い、前記リモノイド化合物の分子式が下記式(I)に示すとおりであることを特徴とする調製方法。
【化6】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【請求項12】
前記リモノイド化合物が植物材料から抽出される請求項11に記載のC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法。
【請求項13】
前記植物材料がトウセンダンまたはクレンを含む請求項12に記載のC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法。
【請求項14】
前記リモノイド化合物がトウセンダニンまたはトリキリンHを含み、前記トウセンダニンおよびトリキリンHの分子式がそれぞれ下記式(II)および下記式(III)に示すとおりである請求項11に記載のC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療する薬剤の調製方法。
【化7】

【化8】

【請求項15】
C型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いる薬剤の調製におけるリモノイド化合物の使用であって、前記リモノイド化合物の分子式が下記式(I)に示すとおりであることを特徴とするリモノイド化合物の使用。
【化9】

(式中、R1はHまたはOAcを表し、R2はHまたはCOCH(CHを表す)
【請求項16】
前記リモノイド化合物が植物材料から抽出される、請求項15に記載のC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いる薬剤の調製におけるリモノイド化合物の使用。
【請求項17】
前記植物材料がトウセンダンまたはクレンを含む、請求項16に記載のC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いる薬剤の調製におけるリモノイド化合物の使用。
【請求項18】
前記リモノイド化合物がトウセンダニンまたはトリキリンHを含み、前記トウセンダニンおよびトリキリンHの分子式がそれぞれ下記式(II)および下記式(III)に示すとおりである、請求項15に記載のC型肝炎ウイルスを抑制またはC型肝炎を治療するのに用いる薬剤の調製におけるリモノイド化合物の使用。
【化10】

【化11】


【公開番号】特開2011−1345(P2011−1345A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105429(P2010−105429)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】