抗CD3抗体およびその使用方法
【課題】単離された完全ヒトモノクローナルCD3抗体またはそのフラグメントを提供すること。
【解決手段】上記抗体またはそのフラグメントは、以下:a.CD3陽性(CD3+)細胞に結合するが、CD3陰性(CD3−)細胞には結合しない、b.CD3の細胞表面発現レベルまたは活性を調節する、およびc.T細胞レセプターの細胞表面発現レベルまたは活性を低下させる、の特性を有する。一局面において、上記抗体が、マウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害する。別の局面において、上記抗体が、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合する。
【解決手段】上記抗体またはそのフラグメントは、以下:a.CD3陽性(CD3+)細胞に結合するが、CD3陰性(CD3−)細胞には結合しない、b.CD3の細胞表面発現レベルまたは活性を調節する、およびc.T細胞レセプターの細胞表面発現レベルまたは活性を低下させる、の特性を有する。一局面において、上記抗体が、マウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害する。別の局面において、上記抗体が、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、完全ヒト抗CD3抗体、並びにこれらの抗体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
身体の免疫系は、例えば、負傷、感染および新生組織形成を含む種々の状態に対する防御として作用し、別々ではあるが相互に関連した2つのシステムである細胞性免疫系および体液性免疫系により媒介される。一般的に言えば、体液性の系は抗体または免疫グロブリンと呼ばれる可溶性産物により媒介される。これらの抗体または免疫グロブリンは、この系により身体にとって外来性であると認識された産物と結合し、これらを中和する能力を有する。対照的に、細胞性免疫系は、種々の治療上の役割を果たすT細胞と呼ばれる特定の細胞の動員を含む。
【0003】
ヒトおよび動物の両方の免疫系には、2つの主要なクラスのリンパ球、即ち胸腺由来細胞(T細胞)および骨髄由来細胞(B細胞)が含まれる。成熟T細胞は、胸腺から出て、組織とリンパ管と血流との間で循環する。T細胞は、免疫学的特異性を示し、細胞媒介免疫反応(例えば、移植片拒絶)に直接関与する。T細胞は、種々の外来性の構造体(抗原)に対して、すなわちこれらに反応して作用する。多くの例において、これらの外来性の抗原は、感染の結果として宿主細胞上に発現される。しかし、外来性の抗原は、新生組織形成または感染により改変されている宿主からも生じ得る。T細胞は自身では抗体を分泌しないが、T細胞は通常、第2のクラスのリンパ球であるB細胞による抗体分泌のために必要とされる。
【0004】
T細胞は、それらの細胞表面上に存在する抗原決定基によって、並びに機能的活性および外来性抗原認識によって、一般に規定される種々のサブセットを含む。CD8+細胞などのT細胞のいくつかのサブセットは、免疫系における機能調節を果たすキラー細胞/サプレッサー細胞であり、一方、CD4+細胞などの他の細胞は、炎症反応および体液性反応を促進するのに役立つ。
【0005】
ヒトの末梢Tリンパ球は、外来性抗原、モノクローナル抗体、ならびにフィトヘマトグルチニン(phytohemayglutinin)およびコンカナバリンAなどのレクチンを含む種々の薬物により刺激されて、有糸分裂をすることができる。活性化は、おそらく細胞膜上の特定の部位へのマイトジェンの結合により起こるが、これらのレセプターの性質およびその活性化のメカニズムは、完全には解明されていない。増殖の誘導が、T細胞活性化の唯一の指標である。この細胞の基本状態または休止状態における改変として規定される、活性化の他の指標としては、リンホカイン産生および細胞傷害性細胞活性の増加が挙げられる。
【0006】
T細胞の活性化は、反応しているT細胞集団上に発現された種々の細胞表面分子の関与に依存する複合的な現象である。例えば、抗原特異性T細胞レセプター(TcR)は、2つのクローンのような配置をとる(clonally distributed)内在性膜糖タンパク質鎖である、アルファ(α)およびベータ(β)、またはガンマ(γ)およびデルタ(δ)を含む、ジスルフィド結合したヘテロダイマーから構成され、低分子量の不変のタンパク質の複合体(一般に、CD3(以前はT3と呼ばれた)と名付けられる)と非共有結合している。
【0007】
TcRアルファ鎖およびTcRベータ鎖により、抗原特異性が決まる。CD3構造体は、TcRアルファベータ(TcRαβ)がそのリガンドに結合したときに開始される活性化信号の伝達要素であるアクセサリ分子を表している。TcRの糖タンパク質鎖の定常領域および可変領域(多型性)の両方が存在する。多型性TcR可変領域が、異なる特異性を有するT細胞のサブセットを規定する。外来性のタンパク質の全体またはより小さなフラグメントを抗原として認識している抗体とは異なり、TcR複合体は、主要組織適合性複合体(MHC)分子に関連して必ず提示される、抗原の小さなペプチドとのみ、相互作用する。これらのMHCタンパク質は、種を通じて無作為に分散する、高度に多型性である別の分子の組を表す。従って、活性化は通常、TcRと主要なMHCタンパク質に結合した外来性のペプチド抗原との3粒子(triparticle)相互作用を必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
本発明は、CD3を特異的に指向する、完全ヒトモノクローナル抗体を提供する。代表的なモノクローナル抗体としては、本明細書に記載された28F11、27H5、23F10および15C3が挙げられる。あるいは、このモノクローナル抗体は、28F11、27H5、23F10または15C3と同じエピトープに結合する抗体である。本明細書でそれぞれ言及されているこれらの抗体は、huCD3抗体である。このhuCD3抗体は、以下の特性の1つ以上を有する:抗体はCD3陽性(CD3+)細胞には結合するがCD3陰性(CD3−)細胞には結合しないこと、huCD3抗体はCD3またはT細胞レセプター(TcR)の細胞表面発現レベルまたは活性の変化(例えば、低下)を含む抗原性調節を誘導すること、huCD3抗体はマウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害すること、またはhuCD3抗体はアミノ酸配列EMGGITOTPYKVSISGT(配列番号21)を完全に含むかもしくは一部分含むCD3のエピトープに結合することである。本発明のhuCD3抗体は、CD3に対する結合について、マウスの抗CD3抗体OKT3と競合し、そしてhuCD3抗体への曝露は、CD2、CD4またはCD8の細胞表面発現に影響することなくCD3および/またはTcRを除去するかもしくはマスキングする。CD3および/またはTcRのマスキングは、制御されていないT細胞の活性化が起きる自己免疫疾患において望ましいT細胞の活性化の、喪失または低減をもたらす。CD3のダウン・レギュレーションは、従来の免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを用いる場合に観察される一過性の抑制と比べて、長期にわたる(例えば、少なくとも数ヶ月間)T細胞活性化の低減をもたらす。
【0009】
抗原性調節は、細胞、例えば、リンパ球の表面上のCD3−T細胞レセプター複合体の再分配および排除を意味している。細胞表面発現のレベルまたは細胞上のTcRの活性のレベルの低下は、TcRの量が減少するかまたは機能が低下することを意味している。細胞表面発現のレベルまたはCD3の活性のレベルの調節は、細胞表面上のCD3の量またはCD3の機能が変わること、例えば、低下することを意味している。CD3の量または細胞の原形質膜において発現されたTcRの量は、例えば、huCD3抗体と細胞が接触した際のCD3またはTcRの内在化により減少する。あるいは、細胞とhuCD3抗体との接触の際、CD3またはTcRがマスキングされる。
【0010】
マウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合の阻害は、マウスのOKT3抗体がTリンパ球の細胞表面におけるCD3と複合体を形成する能力の低下として規定されている。
【0011】
huCD3抗体は、配列番号2、配列番号6、配列番号10または配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖可変部分、および配列番号4、配列番号8、配列番号16〜20または配列番号25〜26のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部分を含む。3つの重鎖CDRには、GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)、QMGYWHFDL(配列番号29)、SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)、およびAIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)からなる群から選択される配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%より多く同一なアミノ酸配列が含まれることが好ましく、そして、3つのCDRを有する軽鎖には、RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPPLT(配列番号32)、RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)、QQRSNWPWT(配列番号45)、DASSLES(配列番号46)、およびQQFNSYPIT(配列番号47)のアミノ酸配列からなる群から選択される配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%またはそれより多く同一であるアミノ酸配列が含まれることが好ましい。この抗体はCD3に結合する。
【0012】
本発明のhuCD3抗体は、以下の特性の少なくとも2個以上(即ち、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上)を示す:該抗体がヒトDP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされるかまたはヒトDP50VH生殖細胞系列遺伝子配列と相同である核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(VH)を含むこと、該抗体がヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされるかまたはヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列と相同である核酸配列によりコードされる軽鎖可変領域(VL)を含むこと、該抗体がヒトL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列またはヒトL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列と相同である核酸配列によりコードされたVLを含むこと、該抗体がアミノ酸配列YGMH(配列番号58)を含むVHCDR1領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列DSVKG(配列番号59)を含むVHCDR2領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列IWYX1GX2X3X4X5YX6DSVKG(配列番号60)を含むVHCDR2領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列XAXBGYXCXDFDXE(配列番号61)を含むVHCDR3領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列GTGYNWFDP(配列番号62)またはアミノ酸配列QMGYWHFDL(配列番号63)を含むVHCDR3領域を含むこと、該抗体がCDR3領域に対してC末端側である位置(この位置はCDR3領域に対してC末端側にある可変領域内にある)においてアミノ酸配列VTVSS(配列番号64)を含むこと、該抗体がCDR3領域に対してC末端側である位置(この位置はCDR3領域に対してC末端側にある可変領域内にある)においてアミノ酸配列GTLVTVSS(配列番号65)を含むこと、該抗体がCDR3領域に対してC末端側である位置(この位置はCDR3領域に対してC末端側にある可変領域内にある)においてアミノ酸配列WGRGTLVTVSS(配列番号66)を含むこと、該抗体がアミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合すること、ならびに、該抗体が234位、235位、265位、または297位におけるアミノ酸残基またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含み、該抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出が、234位、235位、265位、または297位またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含まない抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出に比べて低下すること。本明細書に記載された重鎖残基の番号の付け方は、例えば、米国特許第5,624,821号および5,648,260号に示されるEUインデックスの付け方(Kabatら,「Proteins of Immunological Interest」,US Dept.of Health & Human Services(1983)を参照のこと)である。これらの特許の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0013】
いくつかの局面では、huCD3抗体はアミノ酸変異を含む。この変異は、定常領域内に存在する。この変異は、改変されたエフェクタ機能を有する抗体をもたらす。抗体のエフェクタ機能は、Fcレセプターまたは補体成分などのエフェクタ分子に対する抗体の親和性を変える(即ち、増強するかまたは低減する)ことにより改変される。抗体のエフェクタ機能を変える(例えば、免疫系の種々の反応を増強するか抑制する)ことにより、免疫反応の種々の局面を制御することができる。例えば、この変異は、T細胞からのサイトカインの放出を減少することができる抗体をもたらす。例えば、変異は、アミノ酸残基234、235、265、または297またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に存在する。この変異は、234位、235位、265位、または297位のいずれかにおいてアラニン残基をもたらすか、または235位にグルタミン酸残基をもたらすか、あるいはこれらの組み合わせをもたらすことが、好ましい。用語「サイトカイン」は、当該分野で公知の全てのヒトサイトカインを意味し、細胞表面上に発現される細胞外レセプターに結合し、それにより、IL−2、IFN−ガンマ、TNF−a、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10およびIL−13を含むが、これらに限定されない細胞機能を調節する。
【0014】
サイトカインの放出は、例えば、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)およびOKT3(マウスの抗T細胞抗体)のような抗T細胞抗体を使用することによって起こる一般的な臨床合併症である、サイトカイン放出症候群(CRS)として公知の中毒症状に導くことができる。この症候群は、TNF、IFNガンマおよびIL−2のようなサイトカインを循環中に過剰に放出することによって特徴づけられる。CRSは、この抗体のCD3への結合(この抗体の可変領域を介する)およびこの抗体の他の細胞上のFcレセプターおよび/または補体レセプターへの結合(この抗体の定常領域を介する)が同時に起きることに起因し、それにより、T細胞を活性化し、低血圧、発熱および悪寒によって特徴付けられる全身性炎症反応を生じるサイトカインを放出する。CRSの症状としては、発熱、悪寒、悪心、嘔吐、低血圧および呼吸困難がある。したがって、本発明のhuCD3抗体は、重鎖定常領域によって媒介される、インビボの1種以上のサイトカインの放出を予防する、1つ以上の変異を含む。
【0015】
本発明の完全ヒトCD3抗体は、例えば、Fc領域におけるL234L235からA234E235への変異を含み、それにより、このhuCD3抗体にさらされたサイトカイン放出は、顕著に低減するか、または消失する(例えば、図11A、11Bを参照のこと)。下で実施例4において記載されるように、本発明のhuCD3抗体のFc領域におけるL234L235からA234E235への変異は、このhuCD3抗体がヒトの白血球にさらされた場合にサイトカインの放出を低減するかもしくは消失させるが、以下に記載される変異は、かなりのサイトカイン放出能力を維持する。例えば、サイトカイン放出の有意な低減は、Fc領域においてL234L235からA234E235への変異を有するhuCD3抗体への曝露の際のサイトカインの放出を、下に記載される1つ以上の変異を有する別の抗CD3抗体への曝露の際のサイトカイン放出のレベルと比較することにより規定される。Fc領域における他の変異としては、例えば、L234L235からA234A235へ、L235からE235へ、N297からA297へ、およびD265からA265へ、が挙げられる。
【0016】
あるいは、huCD3抗体は、生殖細胞系列核酸残基により核酸残基を置換する、1つ以上の変異を含む核酸によりコードされる。「生殖細胞系列核酸残基」は、定常領域または可変領域をコードする生殖細胞系列遺伝子に自然に存在する核酸残基を意味する。「生殖細胞系列遺伝子」は、生殖細胞(即ち、卵子または精子になるように運命づけられた細胞)において見出されるDNAである。「生殖細胞系列変異」は、生殖細胞または1細胞ステージの受精卵で起きた特定のDNAにおける遺伝性の変化を意味し、子孫に伝えられた場合、このような変異は身体のあらゆる細胞に組み込まれる。生殖細胞系列変異は、1つの身体の細胞ににおいて獲得される体細胞変異とは対照的である。いくつかの場合には、可変領域をコードしている生殖細胞系列DNA配列内のヌクレオチドは、変異形成(即ち、体細胞変異)され、異なるヌクレオチドにより置換される。したがって、本発明の抗体は、生殖細胞系列核酸残基により核酸を置換する1つ以上の変異を含む。生殖細胞系列抗体遺伝子としては、例えば、DP50(登録番号:IMGT/EMBL/GenBank/DDBJ:L06618)、L6(登録番号:IMGT/EMBL/GenBank/DDBJ:X01668)およびL4/18a(登録番号:EMBL/GenBank/DDBJ:Z00006)が挙げられる。
【0017】
huCD3抗体の重鎖は、例えば、DP50生殖細胞系列遺伝子などの生殖細胞系列V(可変)遺伝子に由来する。DP50生殖細胞系列遺伝子の核酸およびアミノ酸配列としては、例えば、以下に示す核酸およびアミノ酸配列が挙げられる。
【0018】
【化1】
(配列番号68)
【0019】
【化2】
(配列番号69)
本発明のhuCD3抗体は、ヒトのDP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされた重鎖可変(VH)領域を含む。DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列は、例えば、図5の配列番号48に示されている。本発明のhuCD3抗体は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列に対して少なくとも80%相同である核酸配列によりコードされているVH領域を含む。好ましくは、該核酸配列は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列に対して少なくとも98%、99%相同である。huCD3抗体のVH領域は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされたVH領域のアミノ酸配列に対して少なくとも80%相同である。好ましくは、huCD3抗体のVH領域のアミノ酸配列は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされたアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされた配列に対して少なくとも98%、99%相同である。
【0020】
また、本発明のhuCD3抗体は、ヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされた軽鎖可変(VL)領域をも含む。ヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列は、例えば、図6の配列番号74に示され、ヒトL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列は、図7の配列番号53に示されている。あるいは、huCD3抗体は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかに少なくとも80%相同である核酸配列によりコードされているVL領域を含む。好ましくは、該核酸配列は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかに対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかに対して少なくとも98%、99%相同である。huCD3抗体のVL領域は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかによりコードされるVL領域のアミノ酸配列に対して少なくとも80%相同である。好ましくは、huCD3抗体のVL領域のアミノ酸配列は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかによりコードされたアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかによりコードされた配列に対して少なくとも98%、99%相同である。
【0021】
本発明のhuCD3抗体は、例えば、DP50生殖細胞系列に由来する、部分的に保存されたアミノ酸配列を有する。例えば、本発明のhuCD3抗体のCDR1領域は、少なくとも、連続するアミノ酸配列YGMH(配列番号58)を有する。
【0022】
このhuCD3抗体のCDR2は、例えば、少なくとも、連続するアミノ酸配列DSVKG(配列番号59)を含む。例えば、CDR2領域は、連続するアミノ酸配列IWYX1GX2X3X4X5YX6DSVKG(配列番号60)を含み、ここで、X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、任意のアミノ酸を表す。例えば、X1、X2、X3およびX4は、親水性アミノ酸である。本発明のいくつかのhuCD3抗体において、X1はアスパラギンまたはアスパラギン酸塩であり、X2はアルギニンまたはセリンであり、X3はリジンまたはアスパラギンであり、X4はリジンまたはグルタミンであり、X5はアスパラギン酸塩、アスパラギンまたはチロシンであり、そして/またはX6はバリンまたはアラニンである。例えば、VHCDR2領域は、AIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号69)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号70)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号71)およびVIWYDGSNKYYADSVKG(配列番号72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
例えば、huCD3抗体のCDR3領域は、少なくとも連続アミノ酸配列XAXBGYXCXDFDXE(配列番号61)を含み、ここで、XA、XB、XC、XDおよびXEは任意のアミノ酸を表す。本発明のいくつかのhuCD3抗体において、XAおよびXBは中性アミノ酸であり、XDは芳香族アミノ酸であり、XEは疎水性アミノ酸である。例えば、XAはグリシンまたはグルタミンであり、XBはスレオニンまたはメチオニンであり、XCはアスパラギンまたはトリプトファンであり、XDはトリプトファンまたはヒスチジンであり、および/またはXEはプロリンまたはロイシンである。例えば、CDR3領域は、連続するアミノ酸配列GTGYNWFDP(配列番号62)または連続するアミノ酸配列QMGYWHFDL(配列番号63)のいずれかを含む。
【0024】
huCD3抗体は、アミノ酸配列WVRQAPGKGLEWV(配列番号73)を含むフレームワーク2領域(FRW2)を含む。本発明のhuCD3抗体は、アミノ酸配列RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCA(配列番号74)を含むフレームワーク3領域(FRW3)を含む。
【0025】
いくつかのhuCD3抗体は、CDR3領域に対してC末端側にある位置において、連続するアミノ酸配列VTVSS(配列番号64)を含む。例えば、該抗体は、CDR3領域に対してC末端側にある位置において、連続するアミノ酸配列GTLVTVSS(配列番号65)を含む。他のhuCD3抗体は、CDR3領域に対してC末端である位置において、連続するアミノ酸配列WGRGTLVTVSS(配列番号66)を含む。配列番号66のアルギニン残基は、例えば、28F11 huCD3抗体(配列番号2)および23F10 huCD3抗体(配列番号6)のVH配列に示されている。
【0026】
別の局面では、本発明は、被験体にhuCD3抗体を投与することにより免疫関連疾患の症状を処置、予防または緩和する方法を提供する。必要に応じて、該被験体は、第2の薬剤(抗炎症性化合物または免疫抑制性化合物が挙げられるがこれらに限定されない)をさらに投与される。例えば、I型糖尿病または成人性潜在型自己免疫性糖尿病(Latent Autoimmune Diabetes in the Adult:LADA)を有する被験体はまた、例えば、GLP−1またはベータ細胞休止性(resting)化合物(即ち、カリウム・チャンネル開口薬のような、インスリン放出を低減するかまたは阻害する薬剤)のような、第2の薬剤を投与される。
【0027】
適切な化合物としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリン・ミクロエマルジョンを含む)、タクロリマス、コルチコステロイド類、スタチン類、インターフェロン・ベータ、Remicade(Infliximab)、Enbrel(Etanercept)およびHumira(Adalimumab)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
該被験体は、例えば、自己免疫性疾患または炎症性障害のような免疫関連疾患を罹患しているか、または、該疾患を発症しやすい。
【0029】
別の局面において、本発明は、器官もしくは組織の移植の前、移植の間および/または移植の後に本発明のhuCD3抗体を被験体に投与する方法を、提供する。例えば、本発明のhuCD3抗体は、器官または組織の移植後の拒絶反応を治療するか、または予防するために使用される。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
単離された完全ヒトモノクローナルCD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体が、以下:
a.CD3陽性(CD3+)細胞に結合するが、CD3陰性(CD3−)細胞には結合しない、
b.CD3の細胞表面発現レベルまたは活性を調節する、および
c.T細胞レセプターの細胞表面発現レベルまたは活性を低下させる、
の特性を有する、抗体またはそのフラグメント。
(項目2)
上記抗体が、マウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害する、項目1に記載の抗体。
(項目3)
上記抗体が、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合する、項目1に記載の抗体。
(項目4)
上記抗体が、234位、235位、265位、または297位におけるアミノ酸残基またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含み、T細胞からサイトカインの放出を低下させる、項目1に記載の抗体。
(項目5)
上記変異が、上記位置においてアラニン残基またはグルタミン酸残基をもたらす、項目4に記載の抗体。
(項目6)
上記抗体がIgG1イソ型であり、少なくとも234位における第1の変異および235位における第2の変異を含み、該第1の変異は234位にアラニン残基をもたらし、該第2の変異は235位にグルタミン酸残基をもたらす、項目1に記載の抗体。
(項目7)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)、QMGYWHFDL(配列番号29)、SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)、およびAIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた重鎖を有し、そしてRASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPPLT(配列番号32)、RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)、QQRSNWPWT(配列番号45)、DASSLES(配列番号46)、およびQQFNSYPIT(配列番号47)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた軽鎖を有し、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目8)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)、QMGYWHFDL(配列番号29)、SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)、およびAIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた重鎖を有し、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目9)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、配列番号2、配列番号6、配列番号10および配列番号22からなる群から選択される重鎖可変アミノ酸配列を含み、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目10)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPPLT(配列番号32)、RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)、QQRSNWPWT(配列番号45)、DASSLES(配列番号46)、およびQQFNSYPIT(配列番号47)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた軽鎖を有し、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目11)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、配列番号4、配列番号8、配列番号16〜配列番号20、配列番号25および配列番号26からなる群から選択される軽鎖可変アミノ酸配列を含み、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目12)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、CDR1およびCDR2を含む重鎖可変(VH)領域を含み、該領域が、ヒトDP50VH生殖細胞系遺伝子配列によってコードされているか、またはDP50VH生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である核酸配列によってコードされている、抗体またはそのフラグメント。
(項目13)
DP50VH生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である上記核酸配列が、DP50VH生殖細胞系遺伝子配列に対して少なくとも90%相同である、項目12に記載の抗体。
(項目14)
ヒトL6VL生殖細胞系遺伝子配列によってコードされているか、またはL6VL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である核酸配列によってコードされている軽鎖可変(VL)領域をさらに含む、項目12に記載の抗体。
(項目15)
L6VL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である上記核酸配列が、L6VL生殖細胞系遺伝子配列に対して少なくとも90%相同である、項目14に記載の抗体。
(項目16)
ヒトL4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列によってコードされているか、またはL4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である核酸配列によってコードされているVL領域をさらに含む、項目12に記載の抗体。
(項目17)
L4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である上記核酸配列が、L4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列に対して少なくとも90%相同である、項目16に記載の抗体。
(項目18)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列YGMH(配列番号58)を含むVHCDR1領域を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目19)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列DSVKG(配列番号59)を含むVHCDR2領域を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目20)
上記VHCDR2領域は、アミノ酸配列IWYX1GX2X3X4X5YX6DSVKG(配列番号60)を含む、項目19に記載の抗体。
(項目21)
X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、任意のアミノ酸を表す、項目20に記載の抗体。
(項目22)
X1、X2、X3およびX4は、親水性アミノ酸である、項目20に記載の抗体。
(項目23)
X1は、アスパラギンまたはアスパラギン酸塩である、項目20に記載の抗体。
(項目24)
X2は、アルギニンまたはセリンである、項目20に記載の抗体。
(項目25)
X3は、リジンまたはアスパラギンである、項目20に記載の抗体。
(項目26)
X4は、リジンまたはグルタミンである、項目20に記載の抗体。
(項目27)
X5は、アスパラギン酸塩、アスパラギンまたはチロシンである、項目20に記載の抗体。
(項目28)
X6は、バリンまたはアラニンである、項目20に記載の抗体。
(項目29)
上記VHCDR2領域は、AIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号69)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号70)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号71)およびVIWYDGSNKYYADSVKG(配列番号72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、項目20に記載の抗体。
(項目30)
単離された完全ヒト抗モノクローナルCD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列XAXBGYXCXDFDXE(配列番号61)を含むVHCDR3領域を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目31)
XA、XB、XC、XD、およびXEは、任意のアミノ酸を表す、項目30に記載の抗体。
(項目32)
XAおよびXBは、中性のアミノ酸である、項目30に記載の抗体。
(項目33)
XDは、芳香族アミノ酸である、項目30に記載の抗体。
(項目34)
XEは、疎水性のアミノ酸である、項目30に記載の抗体。
(項目35)
XAは、グリシンまたはグルタミンである、項目30に記載の抗体。
(項目36)
XBは、スレオニンまたはメチオニンである、項目30に記載の抗体。
(項目37)
XCは、アスパラギンまたはトリプトファンである、項目30に記載の抗体。
(項目38)
XDは、トリプトファンまたはヒスチジンである、項目30に記載の抗体。
(項目39)
XEは、プロリンまたはロイシンである、項目30に記載の抗体。
(項目40)
上記VHCDR3領域は、アミノ酸配列GTGYNWFDP(配列番号62)またはアミノ酸配列QMGYWHFDL(配列番号63)を含む、項目30に記載の抗体。
(項目41)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体がアミノ酸配列WVRQAPGKGLEWV(配列番号73)を含むフレームワーク2領域(FRW2)を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目42)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCA(配列番号74)を含むフレームワーク3領域(FRW3)を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目43)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、CDR3領域に対してC末端側に配置された可変領域を含み、該可変領域は、該CDR3領域に対してC末端側の位置においてアミノ酸配列VTVSS(配列番号64)を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目44)
上記抗体は、上記CDR3領域に対してC末端側に配置された可変領域を含み、該可変領域は、該CDR3領域に対してC末端側の位置においてアミノ酸配列GTLVTVSS(配列番号65)を含む、項目43に記載の抗体。
(項目45)
上記抗体は、上記CDR3領域に対してC末端側に配置された可変領域を含み、該可変領域は、該CDR3領域に対してC末端側の位置においてアミノ酸配列WGRGTLVTVSS(配列番号66)を含む、項目43に記載の抗体。
(項目46)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合する、抗体またはそのフラグメント。
(項目47)
上記抗体は、234位、235位、265位、または297位におけるアミノ酸残基またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含み、該抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出が、234位、235位、265位、または297位またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含まない抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出に比べて低下する、項目1〜項目46のいずれか1項に記載の単離された抗体。
(項目48)
上記変異は、上記位置において、アラニン残基またはグルタミン酸残基をもたらす、項目47に記載の抗体。
(項目49)
上記抗体は、少なくとも234位における第1の変異および235位における第2の変異を含み、該第1の変異は234位においてアラニン残基をもたらし、該第2の変異は235位においてグルタミン酸残基をもたらす、項目47に記載の抗体。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、huCD3抗体28F11の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図1Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図1Bは、図1Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、これらのCDRはボックスにより強調されている。図1Cは、該軽鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図1Dは、図1Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、これらのCDRはボックスにより示されている。
【図2】図2は、huCD3抗体23F10の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図2Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図2Bは、図2Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図2Cは、該軽鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図2Dは、図2Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示している。
【図3−1】図3は、huCD3抗体27F5の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図3Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図3Bは、図3Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図3Cは、27H5クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている5つのヌクレオチド配列を示し、図3Dは、図3Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされる5つのアミノ酸配列を示し、図3Eは、クローン27H5由来の5つの軽鎖のアラインメントであり、最後の行の星印(*)(標識を付けたキー(KEY))はその列の保存されたアミノ酸を表し、キー行のコロン(:)は保存的変異を表し、キー行のピリオド(.)は半保存的変異を表している。
【図3−2】図3は、huCD3抗体27F5の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図3Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図3Bは、図3Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図3Cは、27H5クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている5つのヌクレオチド配列を示し、図3Dは、図3Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされる5つのアミノ酸配列を示し、図3Eは、クローン27H5由来の5つの軽鎖のアラインメントであり、最後の行の星印(*)(標識を付けたキー(KEY))はその列の保存されたアミノ酸を表し、キー行のコロン(:)は保存的変異を表し、キー行のピリオド(.)は半保存的変異を表している。
【図3−3】図3は、huCD3抗体27F5の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図3Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図3Bは、図3Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図3Cは、27H5クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている5つのヌクレオチド配列を示し、図3Dは、図3Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされる5つのアミノ酸配列を示し、図3Eは、クローン27H5由来の5つの軽鎖のアラインメントであり、最後の行の星印(*)(標識を付けたキー(KEY))はその列の保存されたアミノ酸を表し、キー行のコロン(:)は保存的変異を表し、キー行のピリオド(.)は半保存的変異を表している。
【図4】図4は、huCD3抗体15C3の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示であり、図4Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図4Bは、図4Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図4Cは、15C3クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている2つのヌクレオチド配列を示し、図4Dは、図4Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされた2つのアミノ酸配列を示している。
【図5】図5は、15C3 huCD3抗体、27H5 huCD3抗体および28F11 huCD3抗体、並びにDP−50生殖細胞系列配列、ヒト重鎖結合5−02配列、およびヒト重鎖結合2配列の重鎖可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図6】図6は、15C3 huCD3抗体(可変軽鎖1、即ち「VL1」)および28F11 huCD3抗体、並びにL6生殖細胞系列配列、ヒトカッパ結合4配列およびヒトカッパ結合1配列のVκIII可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図7】図7は、15C3 huCD3抗体(可変軽鎖2、即ち「VL2」)および27H5 VL2 huCD3抗体、並びにL4/18a生殖細胞系列配列、ヒトカッパ結合4配列およびヒトカッパ接合5配列のVκI可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図8】図8は、27H5 VL1 huCD3抗体およびDPK22、並びにヒトカッパ結合5配列のVκII可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図9A】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9B】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9C】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9D】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図10】図10は、CD3イプシロン鎖のアミノ酸配列に由来するペプチドアレイ上の完全ヒトモノクローナル抗体28F11の結合パターンを示す図である。
【図11】図11は、野生型の28F11 huCD3抗体(28F11WT)、L234L235からA234A235への変異を有する変異28F11 huCD3抗体(28F11AA)、およびL234L235からA234E235への変異を有する変異28F11 huCD3抗体(28F11AE)に曝露された際の、サイトカイン放出のレベルを示す一連のグラフである。図11Aは、これらの抗体に曝露された際のTNF−アルファ放出のレベルを示し、図11Bは、インターフェロン・ガンマ放出のレベルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(詳細な説明)
本発明は、CD3イプシロン鎖(CD3ε)に対して特異的な完全ヒト抗体モノクローナルを提供する。これらの抗体は、それぞれ、本明細書中でhuCD3抗体と呼ばれる。
【0032】
CD3は、成熟Tリンパ球内の少なくとも5個の膜結合ポリペプチドの複合体であり、これらのポリペプチドは、互いに非共有結合し、そしてT細胞レセプターと非共有結合している。CD3複合体としては、ガンマ鎖、デルタ鎖、イプシロン鎖、ゼータ鎖およびイータ鎖(サブユニットとも呼ばれる)が挙げられる。マウスの抗体であるOKT3、SP34、UCHT1または64.1により例示されるように、これらの鎖の幾つかに対する非ヒトモノクローナル抗体が、開発されている。(例えば、Juneら,J.Immunol.136:3945〜3952(1986);Yangら,J.Immunol.137:1097〜1100(1986);およびHaywardら,Immunol.64:87〜92(1988)を参照のこと)。
【0033】
本発明のhuCD3抗体は、2系統のトランスジェニックマウス(HuMabTMマウスおよびKMTMマウス(Medarex,Princeton NJ))を免疫化することにより産生された。
【0034】
本発明のhuCD3抗体は、以下の特性の1つ以上を有する:huCD3抗体はCD3陽性(CD3+)細胞には結合するが、CD3陰性(CD3−)細胞には結合しないこと、huCD3抗体はCD3およびT細胞レセプター(TcR)の細胞表面発現レベルの変化を含む抗原性調節を誘導すること、またはhuCD3抗体はマウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害すること。本発明のhuCD3抗体は、CD3への結合についてマウスの抗CD3抗体OKT3と競合し、huCD3抗体への曝露の際CD2、CD4またはCD8の細胞表面発現に影響することなくCD3および/またはTcRを除去するか、マスキングする。CD3および/またはTcRのマスキングは、T細胞活性化の喪失または低減をもたらす。
【0035】
本発明のhuCD3抗体は、プロセシングされた(即ち、リーダー配列なしの)ヒトCD3イプシロン・サブユニットの27位から43位までのアミノ酸残基を完全に含むかまたは一部分含む、CD3に結合する。ヒトCD3イプシロン・サブユニットのアミノ酸配列は、例えば、Genbank登録番号NP_000724、AAA52295、P07766、A32069、CAA27516およびAAH49847に示されている。例えば、huCD3抗体は、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含む、CD3エピトープに結合する。このエピトープに結合する例示的なhuCD3モノクローナル抗体は、本明細書に記載される28F11抗体である。28F11抗体は、以下の配列番号1に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号2)および配列番号3に示された核酸配列によりコードされる軽鎖可変領域(配列番号4)を含む(図1A〜1D)。
【0036】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定された相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている(図1B、1Dおよび図5、6も参照のこと)。(Chothia,Cら,Nature 342:877〜883(1989)、Kabat,EAら,Sequences of Protein of immunological interest,第5版,US Department of Health and Human Services,US Government Printing Office(1991)を参照のこと)。28F11抗体の重鎖CDRは、以下の配列を有する:GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)およびQMGYWHFDL(配列番号29)。28F11抗体の軽鎖CDRは、以下の配列を有する:RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)およびQQRSNWPPLT(配列番号32)。
>28F11 VH ヌクレオチド配列:(配列番号1)
【0037】
【化3】
>28F11 VH アミノ酸配列:(配列番号2)
【0038】
【化4】
>28F11 VL ヌクレオチド配列:(配列番号3)
【0039】
【化5】
>28F11 VL アミノ酸配列:(配列番号4)
【0040】
【化6】
該23F10抗体は、下の配列番号5に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号6)、および配列番号7に示された核酸配列によりコードされる軽鎖可変領域(配列番号8)を含む。
【0041】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定されたCDRを含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている。(図2B、2Dも参照のこと)。23F10抗体の重鎖CDRは以下の配列を有する:GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)およびQMGYWHFDL(配列番号29)。23F10抗体の軽鎖CDRは以下の配列を有する:RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)およびQQRSNWPPLT(配列番号32)。
>23F10 VH ヌクレオチド配列:(配列番号5)
【0042】
【化7】
>23F10 VH アミノ酸配列:(配列番号6)
【0043】
【化8】
>23F10 VL ヌクレオチド配列:(配列番号7)
【0044】
【化9】
>23F10 VL アミノ酸配列:(配列番号8)
【0045】
【化10】
27H5抗体は、下の配列番号9に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号10)、ならびに、配列番号11〜15に示された核酸配列によりコードされる配列番号16〜20に示されたアミノ酸配列から選択される軽鎖可変領域を含む。本明細書の実施例2に記載されるように、HuNab(登録商標)トランスジェニックマウスに由来する単一クローン・ハイブリドーマは、単一の重鎖について複数の軽鎖を産生することができる。産生された重鎖と軽鎖との各組み合わせは、本明細書の実施例2に記載されるように、最適機能についてテストされる。
【0046】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定されたCDRを含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている。(図3B、3D、5および7〜8も参照のこと)。27H5抗体の重鎖CDRは以下の配列を有する:SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)。27H5抗体の軽鎖CDRは以下の配列を有する:RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)。
>27H5 VH ヌクレオチド配列:(配列番号9)
【0047】
【化11】
>27H5 VH アミノ酸配列:(配列番号10)
【0048】
【化12】
>27H5 VL1 ヌクレオチド配列:(配列番号11)
【0049】
【化13】
>27H5 VL2 ヌクレオチド配列:(配列番号12)
【0050】
【化14】
>27H5 VL3 ヌクレオチド配列:(配列番号13)
【0051】
【化15】
>27H5 VL4 ヌクレオチド配列:(配列番号14)
【0052】
【化16】
>27H5 VL5 ヌクレオチド配列:(配列番号15)
【0053】
【化17】
>27H5 VL1 アミノ酸配列:(配列番号16)
【0054】
【化18】
>27H5 VL2 アミノ酸配列:(配列番号17)
【0055】
【化19】
>27H5 VL3 アミノ酸配列:(配列番号18)
【0056】
【化20】
>27H5 VL4 アミノ酸配列:(配列番号19)
【0057】
【化21】
>27H5 VL5 アミノ酸配列:(配列番号20)
【0058】
【化22】
15C3抗体は、下の配列番号21に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号22)、ならびに、配列番号23〜24に示された核酸配列によりコードされる配列番号25〜26に示されたアミノ酸配列から選択される軽鎖可変領域を含む。本明細書の実施例2に記載されたように、HuNab(登録商標)トランスジェニックマウスに由来する単一クローン・ハイブリドーマは、単一の重鎖について複数の軽鎖を産生することができる。産生された重鎖と軽鎖との各組み合わせは、本明細書の実施例2に記載されたように、最適機能についてテストされる。
【0059】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定されたCDRを含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている(図4B、4D、および5〜7も参照のこと)。15C3抗体の重鎖CDRは、以下の配列を有する:SYGMH(配列番号33)、AIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)およびGTGYNWFDP(配列番号35)。15C3抗体の軽鎖CDRは、以下の配列を有する:RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPWT(配列番号45)、RASQGISSALA(配列番号39)、DASSLES(配列番号46)、QQFNSYPIT(配列番号47)。
>15C3 VH ヌクレオチド配列:(配列番号21)
【0060】
【化23】
>15C3 VH アミノ酸配列:(配列番号22)
【0061】
【化24】
>15C3 VL1 ヌクレオチド配列:(配列番号23)
【0062】
【化25】
>15C3 VL2 ヌクレオチド配列:(配列番号24)
【0063】
【化26】
>15C3 VL1 アミノ酸配列:(配列番号25)
【0064】
【化27】
>15C3 VL2 アミノ酸配列:(配列番号26)
【0065】
【化28】
本発明のhuCD3抗体としてはまた、配列番号2、配列番号6、配列番号10または配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%またはそれより多く同一である重鎖可変アミノ酸配列および/または配列番号4、配列番号8、配列番号16〜20または配列番号25〜26のアミノ酸配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%またはそれより多く同一である軽鎖可変アミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。
【0066】
あるいは、該モノクローナル抗体は、28F11、27H5、23F10または15C3と同じエピトープに結合する抗体である。
【0067】
特に規定されていない限り、本発明に関連して使われる科学技術用語は、当業者に普通に理解される意味を有する。さらに、文脈により特に必要としない限り、単数形は複数を含み、複数形は単数を含む。一般に、本明細書に記載された細胞および組織培養、分子生物学、ならびに、タンパク質およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの化学およびハイブリダイゼーションに関連して、これらの技術において用いられる術語は、当該分野で周知であり、普通に使われている。標準的技術は、組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、組織培養および形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)について使われる。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様明細書に従って実施されるか、または当該分野で普通に達成されているように実施されるか、もしくは本明細書に記載されたように実施される。前述の技術および手順は、当該分野で周知であり、かつ本明細書を通して引用され、考察されている種々の一般的かつより詳細な参考文献に記載されている、従来的方法により実施される。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989))を参照のこと。本明細書に記載された分析化学、合成有機化学、薬化学(medicinal chemistry)および薬化学(pharmaceutical chemistry)に関連して使われた学術用語およびこれらの化学の実験手順および技術は、周知のものであり、当該分野で普通に使われている。標準的技術は、化学合成、化学分析、薬学的調製、処方、送達および患者の処置に使用されている。
【0068】
本開示に従って使用されている以下の用語は、特に明示しない限り、以下の意味を有すると理解される。
【0069】
本明細書で使われている用語「抗体」は、免疫グロブリン(Ig)分子(即ち、抗原に特異的に結合する(抗原と免疫反応する)抗原結合部位を含む分子)および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を意味している。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)2フラグメントおよびFab発現ライブラリが挙げられるが、これらに限定されない。「特異的に結合する」または「免疫反応する」は、該抗体が所望の抗原の1つ以上の抗原決定基と反応し、そして他のポリペプチドとは反応(即ち、結合)しないか、またははるかに低い親和性(Kd>10−6)にて結合することを意味する。
【0070】
基本的な抗体構造ユニットは、テトラマーを含むことが公知である。各テトラマーは、の同一なポリペプチド鎖の2つの対から構成され、各対は、1つの「軽い」鎖(25kDa)および1つの「重い」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識を司る約100〜110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を司る定常領域を規定する。ヒトの軽鎖は、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファおよびイプシロンとして分類され、抗体のイソ型をそれぞれIgM、IgD、IgAおよびIgEとして規定する。軽鎖内および重鎖内で、可変領域および定常領域は、約12個以上のアミノ酸の「J」領域により結合され、重鎖はまた、約10個以上のアミノ酸の「D」領域をも含む。一般に、Fundamental Immunology,第7章(Paul,W.ら,第2版,Raven Press,N.Y.(1989))を参照のこと。各軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。
【0071】
本明細書で使われている、用語「モノクローナル抗体」(MAb)または「モノクローナル抗体組成物」は、独特の軽鎖遺伝子産物および独特の重鎖遺伝子産物からなる抗体分子の1つの分子種のみを含む、抗体分子の集団を意味する。特に、モノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)は、集団のすべての分子において同一である。MAbは、MAbに対する独特の結合親和性により特徴づけられる抗原の特定のエピトープと免疫反応し得る抗原結合部位を含む。
【0072】
一般に、ヒトから得られた抗体分子は、分子内に存在する重鎖の性質により互いに異なる、IgG、IgM、IgA、IgEおよびIgDのいずれかのクラスに関連している。特定のクラスは、IgG1、IgG2などのようなサブクラスを有する。さらに、ヒトにおいて、軽鎖は、カッパ鎖であってもラムダ鎖であってもよい。
【0073】
用語「抗原結合部位」または「結合部分」は、抗原結合に関与する免疫グロブリン分子の部分を意味している。抗原結合部位は、重(H)鎖および軽(L)鎖のN末端可変(V)領域のアミノ酸残基により形成される。重鎖および軽鎖のV領域内の3つの非常多様性のある部分(stretch)は、「超可変領域」と呼ばれ、「フレームワーク領域」すなわち「FR」として公知であるより保存的な隣接する部分(stretch)の間に介在する。したがって、用語「FR」は、天然において、免疫グロブリンにおける超可変領域の間または該領域に隣接して見出される、アミノ酸配列をいう。1つの抗体分子において、軽鎖の3つの超可変領域および重鎖の3つの超可変領域は、3次元空間において互いに関連して配置され、抗原結合表面を形成する。抗原結合表面は、結合した抗原の3次元表面に対して相補的であり、重鎖および軽鎖各々の3つの超可変領域は、「相補性決定領域」もしくは「CDR」と呼ばれる。アミノ酸の各ドメインへの割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987および1991)),またはChotia & Lesk J.Mol.Biol.196;901〜917(1987),Chothiaら,Nature 342:878〜883(1989)の定義に従っている。
【0074】
本明細書で使われている、用語「エピトープ」は、免疫グロブリン、scFvまたはT細胞レセプターに特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基を含む。用語「エピトープ」は、免疫グロブリンまたはT細胞レセプターに特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基を含む。エピトープの決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子を分類する化学的に活性な表面からなり、通常、特異的な3次元構造特性、並びに特異的な電荷特性を有する。抗体は、解離定数が≦1μM、好ましくは≦100nMおよび最も好ましくは≦10nMである場合に、抗原に特異的に結合すると言われている。
【0075】
本明細書で使われている、用語「免疫学的結合」および「免疫学的結合特性」は、免疫グロブリン分子と、免疫グロブリンが特異的であるところの抗原との間で起きる型の非共有結合的相互作用を意味している。免疫学的結合相互作用の強度、または親和性は、該相互作用の解離定数(Kd)により表され得、Kdが小さいほど大きな親和性を表す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当該分野で周知の方法を用いて定量される。このような方法の1つは、抗原結合部位/抗原複合体形成および解離の速度を測定する方法であり、これらの速度は該複合体のパートナーの濃度、相互作用の親和性および両方向の速度に等しく影響を及ぼす幾何学的パラメーターに依存する。したがって、「結合速度定数(on rate constant)」(Kon)および「解離速度定数(off rate constant)」(Koff)の両方は、濃度ならびに結合および解離の実際の速度により決定され得る。(Nature 361:186〜87(1993))。Koff/Konの比により、親和性に関係のないすべてのパラメータを削除することができ、該比は解離定数Kdに等しい。(一般的に、Daviesら(1990)Annual Rev Biochem 59:439〜473を参照のこと)。本発明の抗体は、放射性リガンド結合試験または当業者に公知の類似の試験のようなアッセイによって測定された場合、平衡結合定数(Kd)が≦1μM、好ましくは≦100nMおよび最も好ましくは≦100pM〜1pMである場合に、CD3エピトープに特異的に結合すると言われている。
【0076】
ヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体(例えば、モノクローナル抗体28F11、27H5、23F10または15C3)と同じ特異性を有する場合、前者のヒトモノクローナル抗体は、後者である本発明のヒトのモノクローナル抗体がCD3抗原ポリペプチドに結合することを妨げるか否かを確認することにより、前者が後者と同じ特異性を有することを過度の実験なしに決定し得ることを、当業者は理解するであろう。テストされているヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトのモノクローナルと競合している場合(本発明のヒトのモノクローナル抗体による結合の低下によって示される)、これら2つのモノクローナル抗体は、同じエピトープに結合するか、または密接に関連しているエピトープに結合する。ヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体の特異性を有するかどうかを決定するための別の方法は、本発明のヒトのモノクローナル抗体を、通常は反応性であるCD3抗原ポリペプチドと共に予め培養し、次いで、テストされるヒトモノクローナル抗体を添加して、テストされるヒトのモノクローナル抗体がCD3抗原ポリペプチドに結合する能力を阻害されるかどうかを決定する方法である。テストされるヒトのモノクローナル抗体が阻害されるならば、おそらく、該抗体は、本発明のモノクローナル抗体と同じであるか、または機能的に同等である、エピトープ特異性を有する。
【0077】
当該分野内で公知の種々の手順が、CD3タンパク質のようなタンパク質に対して指向されるモノクローナル抗体、またはこれらのタンパク質の誘導体、フラグメント、アナログ、ホモログ、またはオルソログに対して指向されるモノクローナル抗体の産生のために使われる。(例えば、参考として本明細書中に援用される、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow E,およびLane D,1988,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照のこと)。完全ヒト抗体は、CDRを含む軽鎖および重鎖両方の配列全体がヒトの遺伝子由来である、抗体分子である。このような抗体は、本明細書中で「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」と呼ばれる。ヒトモノクローナル抗体は、例えば、下の実施例1に記載された手順を用いて調製される。ヒトのモノクローナル抗体はまた、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら,1983 Immunol Today 4:72を参照のこと)、およびヒトのモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら,1985 In:MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77〜96を参照のこと)を用いることによっても調製され得る。ヒトのモノクローナル抗体は、ヒトのハイブリドーマ(Coteら,1983.Proc Natl Acad Sci USA 80:2026〜2030)を用いるか、またはインビトロでエプスタイン−バーウイルスを用いてヒトB細胞を形質転換すること(Coleら,1985 In:MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77〜96を参照のこと)により、利用され得、そして産生され得る。
【0078】
抗体は、主に免疫血清のIgG画分を提供する、タンパク質Aまたはタンパク質Gを用いた親和性クロマトグラフィーのような周知の技術により精製される。その後、または代替的に、所望の免疫グロブリンの標的である特定の抗原またはこれらのエピトープは、免疫親和性クロマトグラフィーにより免疫特異性抗体を精製するためにカラムに固定化され得る。免疫グロブリンの精製は、例えば、D.Wilkinson(The Scientist,published by The Scientist,Inc.,Philadlphia PA,Vol.14,No.8(2000年4月17日),pp.25〜28)により考察されている。
【0079】
例えば、抗体の免疫関連疾患の処置における有効性を高めるために、エフェクター機能に関して本発明の抗体を改変することが望ましい。例えば、システィン残基をFc領域に導入して、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。このようにして作り出されたホモ二量体抗体は、改善された内在化能力を有し得、そして/またはより高い補体媒介性細胞殺傷性および抗体依存性細胞性傷害活性(ADCC)を有し得る。(Caronら,J.Exp.Med.,176:1191〜1195(1992)およびShopes,J.Immunol.,148:2918〜2922(1992)を参照のこと)。あるいは、2つのFc領域を有し、それにより、補体溶解能力およびADCC能力が増強され得るような、抗体を設計することができる。(Stevensonら,Anti−Cancer Drug Design,3:219〜230(1989)を参照のこと)。
【0080】
本発明はまた、Fv2huCD3フラグメント、Fab2huCD3フラグメント、Fab’huCD3フラグメントおよびF(ab’)2huCD3フラグメント、単鎖huCD3抗体、二重特異性huCD3抗体およびヘテロ結合体huCD3抗体をも包含する。
【0081】
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する抗体である。今回の場合、結合特異性のうちの1つは、CD3に対するものである。第2の結合標的は、任意の他の抗原であり、有利なのは、細胞表面タンパク質またはレセプター、あるいはレセプターサブユニットである。
【0082】
二重特異性抗体を作製する方法は、当該分野公知である。従来、二重特異性抗体の組換え体産生は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の共発現に基づいており、2つの重鎖は異なる特異性を有する(MilsteinおよびCuello,Nature,305,537〜539(1983))。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の無作為な組み合わせに起因して、これらのハイブリドーマ(クオドロマ)は、10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうちの1つだけが、的確な二重特異性構造を有する。この的確な分子の精製は、通常、親和性クロマトグラフィ工程によって達成される。類似の手順は、1993年5月13日公開の国際公開第93/08829号、およびTrauneckerら,EMBO J.,10:3655〜3659(1991)において開示されている。
【0083】
所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体ー抗原結合部位)は、融合されて免疫グロブリン定常ドメイン配列になることができる。融合は、ヒンジ、CH2およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを用いて行われるのが好ましい。軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましく、これらの融合体のうちの少なくとも1つに存在する。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、および、所望される場合、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAが、別々の発現ベクター内に挿入され、適切な宿主生物に共トランスフェクションされる。二重特異性抗体を作製する方法のさらなる詳細については、例えば、Sureshら,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照のこと。
【0084】
国際公開第96/27011号に記載されている別のアプローチによると、一対の抗体分子の間の界面は、組み換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の百分率を最大にするように設計することができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3領域の少なくとも一部を含む。この方法において、第1抗体分子の界面から1つ以上の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置換される。大きなアミノ酸側鎖を比較的小さな側鎖(アラニンまたはスレオニン)で置換することにより、大きな側鎖と同一または類似のサイズの補償(compensatoly)「空洞(cavity)」が、第2抗体分子の界面上に作られる。これにより、ホモ二量体のような望ましくない他の最終産物を上回って、ヘテロ二量体の収量を増加させるメカニズムが提供される。
【0085】
二重特異性抗体は、完全抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製され得る。抗体フラグメントから二重特異性抗体を産生する技術は、文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製され得る。Brennanら,Science 229:81(1985)には、インタクトな抗体がタンパク質分解により開裂されて、F(ab’)2フラグメントを作り出す手順が記載されている。これらのフラグメントは、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元され、近接するジチオールを安定化させることにより、分子間ジスルフィドの形成を防止する。作り出されたFab’フラグメントは、次いで、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に転換される。Fab’−TNB誘導体の1つは、次いで、メルカプトエチルアミンを用いた還元によりFab’−チオールに再転換され、等モル量の他のFab’−TNB誘導体と混合され、二重特異性抗体を形成する。産生された二重特異性抗体は、酵素を選択的に固定化する薬剤として使用され得る。
【0086】
さらに、Fab’フラグメントは、E.coliから直接回収され、化学的に結合されて、二重特異性抗体を形成することができる。Shalabyら,J.Exp.Med.175:217−225(1992)には、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)2分子の産生が記載されている。各Fab’フラグメントは、E.coliから別々に分泌され、インビトロで指向される化学結合に供されて、二重特異性抗体を形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、ErbB2レセプターを過剰発現する細胞および正常なヒトT細胞に結合することができ、並びにヒトの乳癌標的に対してヒト細胞傷害性のリンパ球の溶解活性を引き起こすことができた。
【0087】
組換え細胞培養物から二重特異性抗体フラグメントを直接作り、そして単離する、種々の技術もまた、記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシン・ジッパーを用いて産生されている。Kostelnyら,J.Immunol.148(5):1547〜1553(1992)。Fosタンパク質およびJunタンパク質からのロイシン・ジッパー・ペプチドは、遺伝子融合により2種の異なる抗体のFab’部分に連結された。抗体ホモ二量体は、ヒンジ領域において還元されてモノマーを形成し、次いで、再度酸化されて抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法はまた、抗体ホモ二量体の産生にも利用される。Hollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444〜6448(1993)により記載された「ダイアボディ(diabody)」技術により、二重特異性フラグメントを作製するための代替メカニズムが提供された。該フラグメントは、同じ鎖の2つのドメインの間で対形成するには短すぎるリンカーにより、軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、1つのフラグメントのVHおよびVLドメインは、別のフラグメントの相補性VHおよびVLドメインと対形成し、それにより、2つの抗原結合部位を形成せざるを得ない。単鎖Fv(sFv)二量体の使用により二重特異性抗体フラグメントを作る別の方法も報告されている。Gruberら,J.Immunol.152:5368(1994)を参照のこと。
【0088】
2よりも多い原子価を有する抗体が、企図される。例えば、三重特異性抗体が、調製され得る。Tuttら,J.Immunol.147:60(1991)。
【0089】
例示的な二重特異性抗体は、2種の異なるエピトープに結合することができ、そのうちの少なくとも1つは、本発明のタンパク質抗原に由来している。あるいは、免疫グロブリン分子の抗抗原性アームは、白血球(例えば、T細胞レセプター分子(例えば、CD2、CD3、CD28またはB7))上またはIgG(FcγR)のFcレセプター(FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16))上の誘発(triggering)分子に結合するアームと結合させることができ、それによって、細胞防御メカニズムを特定の抗原が発現する細胞に集中させる。二重特異性抗体はまた、特定の抗原を発現する細胞に細胞傷害性薬剤を方向付けるためにも使うことができる。これらの抗体は、抗原結合性アームおよび細胞傷害性薬剤またはEOTUBE、DPTA、DOTAまたはTETAのような放射性核種キレート化剤を結合するアームを有する。目的の別の二重特異性抗体は、本明細書に記載されたタンパク質抗原に結合し、さらに、組織因子(TF)に結合する。
【0090】
ヘテロ結合体化抗体もまた、本発明の範囲内にある。ヘテロ結合体化抗体は、2つの共有結合した抗体から構成されている。このような抗体は、例えば、望ましくない細胞に対して免疫系細胞を標的化すること(米国特許第4,676,980号)、HIV感染の処置に使うこと(国際公開第91/00360号;国際公開第92/200373号;欧州特許第03089号)が提案されている。これらの抗体は、架橋剤を含む方法を含む合成タンパク質化学において公知の方法を用いて、インビトロで調製され得ることが検討されている。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いるか、またはチオエーテル結合を形成することにより、構築することができる。この目的のための適切な試薬の例としては、イミノチオレート、メチル−4−メルカプトブチルイミデートおよび、例えば、米国特許第4,676,980号で開示されたものが挙げられる。
【0091】
本発明は、また、細胞傷害性薬剤に結合体化された抗体を含む免疫結合体にも関連し、細胞傷害性薬剤は、例えば、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物に由来する酵素的に活性な毒素、またはこれらのフラグメント)、または放射線同位体(即ち、放射性結合体)である。
【0092】
酵素的に活性な毒素および使用可能なこれらのフラグメントとしては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性フラグメント、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファサルシン、Aleurites fordiiタンパク質類、dianthinタンパク質類、Phytolaca americanaタンパク質類(PAPI、PAPIIおよびPAP−S)、Momordica charantiaインヒビター、クルシン、クロチン(crotin)、Sapaonaria officinalisインヒビター、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコセセンズ(tricothecenes)が挙げられる。種々の放射性核種が放射結合体化抗体の産生に利用できる。例としては212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reが挙げられる。
【0093】
抗体と細胞傷害性薬剤との結合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、イミノチオレート(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCLなど)、活性エステル類(ジスクシンイミジル・スベラート)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(トリエン−2,6−ジイソシアネートなどの)、およびビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)などの種々の二官能性タンパク質結合剤を用いて作られる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら,Science 238:1098(1987)に記載されているように作ることができる。炭素14標識化1−イソチオシアネートベンジル−3−メチルジエチレン・トリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、放射性核種を抗体に結合体化するための例示的なキレート化剤である。(国際公開第94/11026号を参照のこと)。
【0094】
当業者は、広範な種々の使用され得る部分が、本発明の得られた抗体または他の分子に結合され得ることを理解するであろう。(例えば、「Conjugate Vaccines」,Contributions to Microbiology and Immunology,J.M.Cruse and R.E.Lewis,Jr(編),Carger Press,New York,(1989)を参照のこと)。なお、この文献の全内容は本明細書中で参考として援用される。
【0095】
抗体およびその他の部分がそれぞれの活性を保持する限り、これら2つの分子を結合する任意の化学反応により、結合が達成される。この連結には、多くの化学メカニズム、例えば、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合および錯体形成が含まれ得る。しかし、好ましい結合は共有結合である。共有結合は、既存の側鎖の直接的縮合または外部架橋分子の組み込みのいずれかにより達成される。多くの二価または多価の連結剤が、本発明の抗体のようなタンパク質分子を他の分子に結合させる場合に有用である。例えば、代表的な結合剤としては、チオエステル類、カルボジイミド類、スクシンイミド・エステル類、ジイソシアネート類、グルタルアルデヒド、ジアゾベンゼン類およびヘキサメチレンジアミン類のような有機化合物が挙げられる。この列挙は、当該分野で公知の種々の種類の結合剤を網羅したものではなく、より一般的な結合剤の例示である。(KillenおよびLindstrom,Jour.Immun.133:1335〜2549(1984);Jansenら,Immunological Reviews 62:185〜216(1982);Vitettaら,Science 238:1098(1987)を参照のこと)。好ましいリンカーは、文献に記載されている。(例えば、MBS(M−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシサクシンイミド・エステル)の使用について記述されているRamakrishnan,Sら,Cancer Res.44:201〜208(1984)を参照のこと)。オリゴペプチドリンカーにより抗体に結合されたハロゲン化アセチル・ヒドラジン誘導体の使用について記述されている米国特許第5,030,719号も参照のこと。特に好ましいリンカーとしては、(i)EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・ヒドロクロリド、(ii)SMPT(4−スクシンイミジルオキシカルボニル−アルファ−メチル−アルファ−(2−ピリジル(pridyl)−ジチオ)−トルエン(Pierce Chem.Co.,Cat.(21558G);(iii)SPDP(スクシンイミジル−6[3−(2−ピリジル−ジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(Pierce Chem.Co.,Cat#21651G);(iv)Sulfo−LC−SPDP(スルホスクシンイミジル−6[3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(Pierce Chem.Co.,Cat#2165−G);および(v)EDCに接合したスルホ−NHS(N−ヒドロキシスルホ−スクシンイミド:Pierce Chem.Co.,Cat.#24510)がある。
【0096】
上に記載されたリンカーには、異なる特性を有する成分が含まれ、したがって、物理化学的特性が異なる結合体がもたらされる。例えば、アルキル・カルボキシレート類のスルホ−NHSエステル類は、芳香族カルボキシレート類のスルホ−NHSエステル類よりも安定性がよい。NHSエステル含有リンカーは、スルホ−NHSエステル類よりも安定性が劣る。さらに、リンカーSMPTには、立体障害のあるジスルフィド結合が含まれ、安定性の向上した複合体を形成することができる。ジスルフィド結合は、インビトロで開裂され、利用できる結合体が少ししか得られないので、一般に、安定性が低い。特に、スルホ−NHSは、カルボジイミド結合の安定性を高めることができる。カルボジイミド結合(EDCなど)は、スルホ−NHSと併用して使用した場合、カルボジイミド結合反応単独よりも加水分解に対して耐性であるエステル類を形成する。
【0097】
本明細書で使われている用語「単離されたポリヌクレオチド」は、ゲノム起源、cDNA起源、合成起源またはこれらの組み合わせを起源とするポリヌクレオチドであって、この「単離されたポリヌクレオチド」は、その起源により、(1)「単離されたポリヌクレオチド」が天然において見出されるポリヌクレオチドのすべてまたは一部を伴わないか、(2)天然において連結されていないポリヌクレオチドに作動可能に連結されるか、または(3)より大きな配列の一部として天然に存在することはない、ポリヌクレオチドを意味する。
【0098】
本明細書で「単離タンパク質」と呼ばれている用語は、cDNA起源、組換えRNA起源、合成起源またはこれらの組み合わせの起源のタンパク質を意味し、該タンパク質は、その起源または由来の源により、「単離タンパク質」は、(1)天然において見出されるタンパク質を伴わないか、(2)同じ源からの他のタンパク質、例えば、海洋性タンパク質を含まないか、(3)異なる種由来の細胞により発現されるか、または(4)天然に存在しない。
【0099】
本明細書で一般用語として用いられている用語「ポリペプチド」は、ポリペプチド配列の天然タンパク質、フラグメントまたはアナログを意味している。したがって、天然タンパク質フラグメントおよびアナログは、ポリペプチド属の種である。本発明により好ましいポリペプチドとしては、図1B、2B、3Bおよび4Bにより表されるヒト重鎖免疫グロブリン分子、および図1D、2D、3Dおよび4Dにより表されるヒト重鎖免疫グロブリン分子、重鎖免疫グロブリン分子を軽鎖免疫グロブリン分子(例えば、カッパ軽鎖免疫グロブリン分子)とを含む組み合わせによって形成される抗体分子、およびその逆により形成される抗体分子、並びにこれらのフラグメントおよびアナログが挙げられる。
【0100】
本明細書で使われ、対象に適用された用語「天然に存在する」は、対象が天然匂いて見出され得る事実を意味している。例えば、天然の供給源から単離され得る生物(ウイルスを含む)中に存在するが、研究室他においてヒトにより意図的に改変されていない、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0101】
本明細書で使われている用語「作動可能に連結された」は、そのように記載された成分の位置を意味し、これらの成分の位置は、これらの成分を意図した方法で機能させることを可能にする関係にある。コード配列に「作動可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が制御配列に適応できる条件下で達成されるように連結される。
【0102】
本明細書で使われている用語「制御配列」は、制御配列が連結されるコード配列の発現およびプロセシングを生じるのに必要である、ポリヌクレオチド配列を意味している。このような制御配列の性質は、原核生物の宿主生物によって異なり、このような制御配列には、一般に、真核生物中のプロモーター、リボソーム結合部位および転写終止配列が含まれ、一般に、このような制御配列には、プロモーターおよび転写終止配列が含まれる。用語「制御配列」は、最小限、その存在が発現およびプロセシングに必須であるすべての成分を含むことを意図しており、その存在が有利であるさらなる成分(例えば、リーダー配列および融合パートナー配列)を含むことができる。本明細書で「ポリヌクレオチド」と呼ばれている用語は、長さが少なくとも10塩基のヌクレオチド(リボヌクレオチドかデオシヌクレオチドのいずれか、またはいずれかの型のヌクレオチドの変形態)のポリマー性ホウ素を意味している。この用語には、DNAの一本鎖および二本鎖の形態が含まれている。
【0103】
本明細書でオリゴヌクレオチドと呼ばれている用語は、天然に存在するオリゴヌクレオチド連結、および存在しないオリゴヌクレオチド連結により一緒に連結された、天然に存在するヌクレオチド、および改変ヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは、一般に、長さ200塩基以下を含むポリヌクレオチド・サブセットである。オリゴヌクレオチドは、長さが10〜60塩基であることが好ましく、長さが12塩基、13塩基、14塩基、15塩基、16塩基、17塩基、18塩基、19塩基または20〜40塩基であることが最も好ましい。オリゴヌクレオチドは、通常、例えば、プローブの場合、一本鎖である。しかし、オリゴヌクレオチドは、例えば、遺伝子変異体の構築に使用する場合二本鎖であり得る。本発明のオリゴヌクレオチドは、センスかアンチセンスのいずれかのオリゴヌクレオチドである。
【0104】
本明細書で「天然に存在するヌクレオチド」と呼ばれた用語としては、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドが挙げられる。本明細書で「改変ヌクレオチド」と呼ばれた用語としては、改変されたかまたは置換された糖類などを有するヌクレオチドが挙げられる。本明細書で「ヌクレオチド連結」と呼ばれた用語としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレルエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホルアニラデート、ホスホロンミデートなどのオリゴヌクレオチド連結が挙げられる。例えば、LaPlancheら,Nucl.Acids Res.14:9081(1986);Stecら,J.Am.Chem.Soc.106:6077(1984);Steinら,Nucl.Acids Res.16:3209(1988);Zonら,Anti Cancer Drug Design 6:539(1991);Zonら,Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,pp.87〜108(F.Eckstein,Ed.,Oxford University Press,Oxford England(1991));Stecら,米国特許第5,151,510号;Uhlmann and Peyman Chemical Reviews 90:543(1990)を参照のこと。オリゴヌクレオチドは、所望される場合、検出のための標識を含むことができる。
【0105】
本明細書で「選択的にハイブリダイズする」と呼ばれた用語は、検出可能かつ特異的に結合することを意味する。本発明に従うポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびこれらのフラグメントは、非特異的な核酸に対する感知可能な量の検出可能な結合を最小限にするハイブリダイゼーション条件および洗浄条件下において、核酸鎖に対して選択的にハイブリダイズする。当該分野で公知であり、本明細書で論じられた選択的なハイブリダイゼーション条件を達成するためには、高ストリンジェンシー条件が使われる。一般に、本発明のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびフラグメントと目的の核酸配列との間の核酸配列相同性は、少なくとも80%、より代表的には相同性が少なくとも85%、90%、95%、99%および100%に増加するのが好ましい。2つのアミノ酸配列は、これらの配列の間に部分的または完全な同一性があるならば相同である。例えば、85%の相同は、これら2つの配列が、マッチングが最大になるように並べられている場合、アミノ酸の85%が同一であることを意味している。(マッチングされている2つの配列のいずれかにおける)ギャップが、5以下の最大マッチングギャップ長が許容されるのが好ましく、2以下が許容されればより好ましい。あるいは、好ましくは、2つのタンパク質配列(または少なくとも長さ30アミノ酸のタンパク質配列に由来するポリペプチド配列)は、これらが、変異データマトリックスおよび6以上のギャップペナルティを有するプログラムALIGNを用いて、(標準偏差ユニットにおいて)5を超えた配列スコアを有するならば、本明細書で用語「相同」が使用される場合、相同である。Dayoff,M.O.,in Atlas of Protein Sequence and Structure,pp.101−110(Volume5,National Biomedical Research Foundation(1972))およびこの巻に対する補遺2,pp.1〜10を参照のこと。2つの配列およびその一部は、これらのアミノ酸がALIGNプログラムを用いて最適に整列された場合、50%以上同一であればより好ましい相同である。用語「〜に相当する」は、ポリヌクレオチド配列が基準ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部に対して相同(即ち、同一ではあるが、厳密には進化的には関係していない)であること、およびポリペプチド配列が基準ポリペプチド配列と同一であることを意味するために本明細書で使われる。対照的に、用語「相補的である」は、相補性配列が、基準ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部と相同であることを意味するために本明細書で使われる。例として、ヌクレオチド配列「TATAC」は基準配列「TATAC」に相当し、基準配列「GTATA」に対して相補的である。
【0106】
以下の用語は、2個以上のポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の配列関係を説明するために使われる:「基準配列」、「比較ウインドウ」、「配列同一性」、「配列同一性の百分率」および「実質的に同一」。「基準配列」は、配列を比較するための基礎として使われる規定された配列であり、基準配列は、例えば、配列の列挙において与えられる全長cDNAまたは遺伝子配列のセグメントとしての比較的大きな配列のサブセットであるか、または完全なcDNAまたは遺伝子配列を含んでもよい。一般に、基準配列は、長さが少なくとも18ヌクレオチドまたは6アミノ酸であり、またはしばしば24ヌクレオチドまたは8アミノ酸であり、または多くの場合48ヌクレオチドまたは16アミノ酸である。2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、各々が(1)2つの分子の間で類似している配列(即ち、完全なポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の一部)を含み、(2)さらに、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で異なっている(divergent)配列を含むことができるので、2つ(またはそれ以上)の分子間の配列比較は、代表的に、配列類似性の局部領域を同定し、比較するための「比較ウインドウ」上で2つの分子の配列を比較することによりなされる。本明細書で使われる「比較ウインドウ」は、少なくとも18の連続するヌクレオチド位置または6のアミノ酸の概念的セグメントを意味し、このウインドウでは、ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、少なくとも18の連続するヌクレオチドまたは6のアミノ酸配列の基準配列と比較され、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の部分には、2つの配列の最適アラインメントの基準配列(これは付加または欠失を含まない)と比較された20パーセント以下の付加、欠失、置換など(即ち、ギャップ)が含まれる。比較ウインドウを整列させるための配列の最適アラインメントは、Smith and Waterman Adv.Appl.Math.2:482(1981)による局部相同アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同整列アルゴリズムにより、Pearson and Lipman Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)85:2444(1988)の類似性に関する検査方法により、これらのアルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、およびWisconsin Genetics Software Package Release 7.0におけるTFASTA、(Genetics Computer Group、575 Science Dr.,Madison,Wis.)、Geneworks、またはMac Vector software packages)のコンピュータ制御された実施により、または試験により行われ、種々の方法により作り出された最良のアラインメント(即ち、比較ウインドウの上で相同の最高の百分率を生じる)が選択される。
【0107】
用語「配列同一性」は、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列が(即ち、ヌクレオチド毎または残基毎のベースで)比較ウインドウの上で同一であることを意味している。用語「配列同一性の百分率」は、比較ウインドウの上で2つの最適整列された配列を比較し、同一核酸塩基(例えば、A、T、C、G、UまたはI)または残基が両配列内で生じる位置の数を決定し、マッチングした位置の数を得て、マッチングした位置の数を比較ウインドウにおける位置の総数(即ち、ウインドウ・サイズ)で割り算し、この結果を100倍して配列同一性の百分率を得る。本明細書で使われている用語「実質的に同一」は、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の特徴を示し、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸は、少なくとも18ヌクレオチド(6アミノ酸)の位置の比較ウインドウの上で、しばしば少なくとも24〜48ヌクレオチド(8〜16アミノ酸)の位置のウインドウの上で基準配列と比較した時に、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90〜95%、より普通には99%の配列同一性を含む。配列同一性の百分率は、比較ウインドウの上で基準配列の合計20%以下の欠失または付加を含み得る配列に対して基準配列を比較することにより計算される。基準配列はより大きな配列のサブセットでもよい。
【0108】
本明細書で使われている、20種の従来のアミノ酸およびこれらの略語は、従来の用法に従う。Immunology−A Synthesis(2nd Edition,E.S.Golub and D.R.Gren,Eds.,Sinauer Associates,Sunderland7 Mass.(1991))。20種の従来のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸類)、α−,α−ジ置換アミノ酸類、N−アルキルアミノ酸類、乳酸、および他の従来のものでないアミノ酸のような非天然アミノ酸も、本発明のポリペプチドの適切な成分である。従来のものでないアミノ酸の例としては、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、ε−N,N,N−トリメチルリジン、ε−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、σ−N−メチルアルギニン、および他の類似のアミノ酸およびイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書で使われるポリペプチド表記法では、標準用法および慣例によると、左手方向はアミノ末端方向であり、右手方向はカルボキシ末端方向である。
【0109】
同様に、特に明示しない限り、一本鎖ポリヌクレオチド配列の左手端部は5’端部であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左手方向は5’方向と呼ばれる。新生RNA転写物の5’から3’への付加の方向は、RNAと同じ配列を有するDNA鎖上の転写方向配列領域と呼ばれ、そしてRNA転写物の5’端部に対して5’側である配列は「上流配列」と呼ばれ、RNAと同じ配列を有するDNA鎖上の配列領域であってRNA転写物の3’端部に対して3’側である配列領域は、「下流配列」と呼ばれる。
【0110】
ポリペプチドに適用されたように、用語「実質的に同一」は、2つのペプチド配列が、デフォルト・ギャップ重量を用いたプログラムGAPまたはBESTFITなどにより最適に整列された場合、少なくとも80パーセント、好ましくは少なくとも90パーセント、より好ましくは少なくとも95パーセント、最も好ましくは少なくとも99パーセントの配列同一性を共有することを意味する。
【0111】
同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換基により異なるのが好ましい。
【0112】
保存的アミノ酸置換基は、類似の側鎖を有する残基の互換性を意味している。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシ側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリンおよびスレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニンおよびヒスチジンであり、そして硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システィンおよびメチオニンである。好ましい保存アミノ酸置換グループは、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、およびアスパラギン−グルタミンである。
【0113】
本明細書で論議されたように、抗体または免疫グロブリン分子のアミノ酸配列の小さな変化は、アミノ酸配列の変化を少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、および最も好ましくは99%に維持している場合、本発明により包含されることが企図される。特に、保存的アミノ酸置換が企図されている。保存的置換は、アミノ酸の側鎖に関連しているアミノ酸のファミリー内で起きる置換である。遺伝子にコードされたアミノ酸は、一般に、次のようなファミリーに分類される:(1)酸性アミノ酸はアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩であり、(2)塩基性アミノ酸はリジン、アルギニン、ヒスチジンであり、(3)非極性アミノ酸はアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンであり、(4)非荷電極性アミノ酸はグリシン、アスパラギン、グルタミン、システィン、セリン、スレオニン、チロシンである。親水性アミノ酸としては、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸塩、グルタミン、グルタミン酸塩、ヒスチジン、リジン、セリンおよびスレオニンがある。疎水性アミノ酸には、アラニン、システィン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシンおよびバリンが挙げられる。アミノ酸の他のファミリーとしては、(i)脂肪族ヒドロキシ・ファミリーであるセリンおよびスレオニン、(ii)アミド含有ファミリーであるアスパラギンおよびグルタミン、(iii)脂肪族ファミリーであるアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、(iv)芳香族ファミリーであるフェニルアラニン、トリプトファン、チロシンが挙げられる。例えば、イソロイシンまたはバリンとロイシンとの、グルタミン酸塩とアスパラギン酸塩との、セリンとスレオニンとの単独の置換、または構造的に関連のあるアミノ酸とアミノ酸との類似の置換は、特に該交換がフレームワーク部位内のアミノ酸を含まないならば、得られる分子の結合または特性に対して大きな効果を持たないことを予測することは、合理的である。アミノ酸置換が機能性ペプチドを生じるかどうかは、ポリペプチド誘導体の特定の活性を試験することにより容易に決めることができる。アッセイは本明細書に詳細に記載されている。抗体または免疫グロブリン分子のフラグメントまたはアナログは、当業者により容易に調製され得る。フラグメントまたはアナログの好ましいアミノ末端およびカルボキシ末端は、機能的ドメインの境界の近くに存在する。構造的ドメインおよび機能的ドメインは、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列データを公開配列データベースまたは独自の配列データベースと比較することにより識別することができる。好ましくは、構造および/または機能が既知の他のタンパク質中に存在する、配列モチーフまたは予測されたタンパク質の立体構造のドメインを同定するために、コンピュータによる比較方法が使われる。既知の3次元構造に折りたたまれるタンパク質配列を同定する方法が、公知である。Bowie et al.Science,253:164(1991)。したがって、前述の例は、本発明による構造的ドメインおよび機能的ドメインを規定するために使われる配列モチーフおよび構造的立体構造を、当業者が理解し得ることを実証している。
【0114】
好ましいアミノ酸置換基は、(1)タンパク質分解に対する感受性を低減し、(2)酸化に対する感受性を低減し、(3)タンパク質複合体を形成する結合親和性を変え、(4)結合親和性を変え、および(4)このようなアナログの他の物理化学的または機能的特性を与えるか、または改変するものである。アナログは、天然に存在するペプチド配列以外の配列の種々のムテインを含むことができる。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(保存的アミノ酸置換が好ましい)は、天然に存在する配列において(好ましくは、分子間接触を形成するドメイン外のポリペプチドの部分において)作製され得る。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特性をほとんど変えない(例えば、置換アミノ酸は親配列中に存在する螺旋を壊す傾向はなく、親配列を特徴づける他の型の二次構造を混乱させる傾向もない)。当該分野で認められたポリペプチドの二次構造および三次構造の複数の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));and Thornton et al.Nature 354:105(1991)に記載されている。
【0115】
本明細書で使われる用語「ポリペプチド・フラグメント」は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端が欠失しているポリペプチドを意味するが、残りのアミノ酸配列は、例えば、全長cDNA配列から推定された天然に存在する配列における対応する位置と同一である。フラグメントの長さは、代表的に、少なくとも5、6、8または10アミノ酸、好ましくは少なくとも14アミノ酸、より好ましくは少なくとも20アミノ酸、通常少なくとも50アミノ酸、より一層好ましくは少なくとも70アミノ酸である。本明細書で用いられる用語「アナログ」は、推定されたアミノ酸配列の一部と実質的に同一である少なくとも25個のアミノ酸のセグメントを含み、以下の特性の少なくとも1つを有するポリペプチドを意味している:(1)適切な条件下におけるCD3への特異的な結合、(2)適切なCD3結合を遮断する能力、または(3)インビトロまたはインビボでCD3発現細胞の増殖を阻害する能力。代表的に、ポリペプチドアナログには、天然に存在する配列について保存的アミノ酸置換(または付加または欠失)が含まれている。アナログの長さは、代表的に、少なくとも20アミノ酸長、好ましくは少なくとも50アミノ酸長以上であり、天然に存在するポリペプチドの全長と同じ程度であってもよい。
【0116】
ペプチドアナログは、鋳型ペプチドの特性に類似した特性を有する非ペプチド薬物として製薬産業で普通に使われる。これらの型の非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣物」と呼ばれる。Fauchere,J.Adv.Drug Res.15:29(1986);Veber and Freidinger TINS p.392(1985);およびEvance et al.J.Med.Chem.30:1229(1987)。このような化合物は、コンピュータによる分子モデリングの助けをかりて開発されることも多い。治療上有用なペプチドに構造上似ているペプチド模倣物は、同等の治療効果または予防効果を生み出すために使われる。一般に、ペプチド模倣物は、ヒトの抗体などのパラダイムポリペプチド(即ち、生化学特性または薬理活性を有するポリペプチド)と構造上似ているが、当該分野で周知の方法により、−CH2NH−、−CH2S−、−CH2−CH2−、−CH=CH−(シスおよびトランス)、−COCH2−、CH(OH)CH2−、および−CH2SO−からなる群から選択される結合により任意に置換された1つ以上のペプチド結合を有する。同じ型のD−アミノ酸(例えば、L−リジンの代わりにD−リジン)を有する共通配列の1つ以上のアミノ酸の系統的置換が、より安定なペプチドを作り出すために使われる。さらに、共通配列または実質的に同一な共通配列変形態様を含む制約されたペプチドは、例えば、分子内ジスルフィド架橋(これが該ペプチドを環化する)を形成しうる内部システィン残基を添加することにより、当該分野で公知の方法(Rizo and Gierasch Ann.Rev.Biochem.61:387(1992))により作り出され得る。
【0117】
用語「薬剤」は、本明細書では、化合物、化合物の混合物、生物学的高分子または生物学的材料から作られた抽出物を示すために使われる。
【0118】
本明細書で使われている、用語「標識」または「標識化」は、放射性標識されたアミノ酸の組み込みまたは印を付けられたアビジン(例えば、光学的な方法または熱量測定方法により検出することができる蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)により検出されうるビオチニル部分をポリペプチドに取り付けることによる、検出可能なマーカーの組み込みを意味する。特定の状況では、標識またはマーカーも治療薬となり得る。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識化する種々の方法が、当該分野で公知であり、使用され得る。ポリペプチドの標識の例としては、放射性同位体または放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニドリン光体)、酵素標識(例えば、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ、p−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ)、化学発光、ビオチニル・グループ、二次レポータ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープ・タグ)により認識された所定のポリペプチド・エピトープがあるが、これらに限定されない。いくつかの実施例では、標識は、潜在的な立体障害を低減するために種々の長さのスペーサーアームにより取り付けられる。本明細書で使われている用語「薬剤もしくは薬物」は、患者に適切に投与された場合、所望の治療効果を誘導しうる化合物または組成物を意味している。
【0119】
本明細書の他の化学用語は、The McGraw−Hill Dictionary of Chemical Terms(Parker,S.,Ed.,McGraw−Hill,San Francisco(1985))により例示されている当該分野の従来の用法に従って使われている。
【0120】
用語「抗新生物剤」は、ヒトの新生物、特に、癌腫、肉腫、リンパ腫または白血病のような特に悪性(癌性)の病変の発症または進行を阻害する機能的特性を有する薬剤を意味するために、本明細書中で使われる。転移の阻害は、多くの場合、抗新生物剤の特性である。
【0121】
本明細書で使われている場合、「実質的に純粋」は、対象種が存在する優勢な種であることを意味し(即ち、モルベースで、その種が組成物中の他のいかなる種よりも豊富に存在する)、好ましくは、実質的に精製された画分は、対象種が、存在するすべての高分子の少なくとも約50%(モルベースで)を含む組成物である。
【0122】
一般に、実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在するすべての高分子種の約80%を超えて、より好ましくは、約85%、90%、95%および99%を超えて対象種を含む。最も好ましくは、該対象種は、該組成物が本質的には単一の高分子種からなる必須の均一性(汚染種は、従来の検出方法では組成物内において検出することができない)まで精製される。
【0123】
患者という用語には、ヒトおよび獣医の被験動物が含まれる。
【0124】
(ヒト抗体および抗体のヒト化)
huCD3抗体は、例えば、全体ヒト抗体を発現できる異種マウスを免疫化することにより作り出される(実施例1を参照のこと)。IgG huCD3抗体は、例えば、トランスジェニックマウスにより産生されたIgM抗CD3抗体を変換することにより作り出される(実施例2を参照のこと)。あるいは、このようなhuCD3抗体は、例えば、ヒト配列のみを含む抗体を用いたファージディスプレイ(phase-display)方法を用いて開発される。このようなアプローチは、例えば、国際公開第92/01047号および米国特許第6,521,404号において当該分野では周知の方法である。なお、これらの特許は本明細書に参考として援用される。このアプローチにおいて、軽鎖および重鎖の無作為な対を保有するファージのコンビナトリアルライブラリは、CD3またはこれらのフラグメントの天然の源または組換え源を用いて選別される。
【0125】
本発明には、少なくとも1つの工程に、トランスジェニック非ヒト動物を、ヒトCD3で免疫化する工程が包含されているプロセスにより、huCD3抗体を産生する方法が含まれている。この異種移植(xenogenic)非ヒト動物の内因性重鎖および/またはカッパ軽鎖遺伝子座の一部は、無効にされ、抗原に反応して免疫グロブリンをコードする遺伝子を作り出すのに必要な再配列をすることができない。さらに、少なくとも1つのヒト重鎖遺伝子座および少なくとも1つのヒト軽鎖遺伝子座が、動物に安定的にトランスフェクトされている。したがって、投与された抗原に反応して、ヒト遺伝子座は再配列して、抗原に対して免疫特異的なヒトの可変領域をコードする遺伝子を与える。したがって、免疫化の際、xenomouseは、完全ヒト免疫グロブリンを分泌するB細胞を産生する。
【0126】
異種移植非ヒト動物を産生する種々の技術が、当該分野において周知である。例えば、米国特許第6,075,181および6,150,584号を参照のこと。1つの戦略では、異種(ヒト)の重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子が、宿主の生殖細胞系(例えば、精子または卵細胞)に導入され、別の工程では、対応する宿主遺伝子が相同組換えを用いた不活性化により非機能性にされる。ヒトの重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、適切な真核微生物または原核微生物において再構築され、得られるDNAフラグメントが適切な宿主、例えば、受精したマウスの卵細胞または胚幹細胞の前核に導入される。内因性宿主免疫グロブリン遺伝子座の不活性化は、宿主細胞、特に胚幹細胞または受精したマウスの卵細胞の前核において、相同組換えによって適切な遺伝子座の標的化された破壊により達成される。標的化された破壊は、標的遺伝子座における傷(lesion)もしくは欠失または遺伝子座内への挿入(例えば、選択可能なマーカーの挿入)に付随する標的遺伝子座内の欠失の導入を含むことができる。胚幹細胞の場合、一部は改変胚幹細胞に由来するキメラ動物が作製され、このキメラ動物は、生殖細胞系に遺伝子改変を伝えることができる。導入されたヒトの免疫グロブリン遺伝子座を有する宿主と、不活性化内因性遺伝子座を有する系統との交配により、抗体の産生が純粋に異種、例えば、ヒトである動物を生じる。
【0127】
代わりの戦略では、ヒトの重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の少なくとも一部が、胚幹細胞における相同組換えにより対応する内因性免疫グロブリン遺伝子座を直接置換するために使われる。これは、内因性免疫グロブリンの不活性化および置換を同時にもたらす。これに次いで、胚幹細胞由来細胞が生殖細胞系に寄与することができるキメラ動物を生成する。
【0128】
例えば、ヒトの抗CD3抗体を発現するB細胞クローンが、異種非ヒト動物から取り出され、当該分野内で公知の種々の方法により不死化される。このようなB細胞は、動物の血液に直接得られ得るか、または脾臓、扁桃腺、リンパ節および骨髄を含むがこれらに限定されないリンパ系組織から得られ得る。得られた不死化B細胞は、インビトロで播種されて培養され、臨床的に適用できる大量のhuCD3抗体を産生することができる。あるいは、1つ以上のヒト可変領域を有する免疫グロブリンをコードする遺伝子が回収され得、該遺伝子は、抗体を直接得るかまたはこの抗体の単鎖Fv分子から構成される個別の鎖を得るために、異なる細胞型(哺乳類細胞培養系を含むがこれらに限定されない)において発現され得る。
【0129】
さらに、異種非ヒト動物により作り出された完全ヒトCD3抗体の組全体は、最適特性を有する1つのクローンを同定するために選別される。このような特性としては、例えば、ヒトCD3タンパク質への結合親和性、相互作用の安定性、並びに完全ヒト抗CD3抗体のイソ型が挙げられる。次いで、所望の特性を有する組全体に由来するクローンは、代替の細胞系において、従来の組換え技術またはトランスジェニック技術を用いて、これらの特性を有する抗体を作り出すためのさらなる操作のために、所望の可変領域をコードするヌクレオチド配列の源として使われる。
【0130】
この一般的な戦略は、1994年に刊行されたように、第1のXenoMouseTM系統の生成に関連して実証された。Green et al.Nature Genetics 7:13〜21(1994)を参照のこと。この方法は、1990年1月12日に出願された米国特許出願第07/466,008、1990年11月8日に出願された07/610,515、1992年7月24日に出願された07/919,297、1992年7月30日に出願された07/922,649、1993年3月15日に出願された08/031,801、1993年8月27日に出願された08/112,848、1994年4月28日に出願された08/234,145、1995年1月20日に出願された08/376,279、1995年4月27日に出願された08/430,938、1995年6月5日に出願された08/464,584、1995年6月5日に出願された08/464,582、1995年6月5日に出願された08/463,191、1995年6月5日に出願された08/462,837、1995年6月5日に出願された08/486,853、1995年6月5日に出願された08/486,857、1995年6月5日に出願された08/486,859、1995年6月5日に出願された08/462,513、1996年10月2日に出願された08/724,752、および1996年12月3日に出願された08/759,620号および米国特許第6,162,963、6,150,584、6,114,598、6,075,181および5,939,598号および特許第3 068 180、3 068 506、および3 068 507号においてさらに考察され、説明されている。Mendez et al.Nature Genetics 15:146〜156(1997)およびGreen and Jakobovits J.Exp.Med.:188:483〜495(1998)も参照のこと。1996年6月12日に許可発行された欧州特許第0 463 151号、1994年2月3日に発行された国際特許出願公開第94/02602号、1996年10月31日に発行された国際特許出願第96/34096、1998年6月11日に発行された98/24893、2000年12月21日に発行された00/76310号も参照のこと。
【0131】
代替のアプローチにおいて、他は、「ミニ遺伝子座」アプローチを利用した。ミニ遺伝子座アプローチでは、外因性Ig遺伝子座は、Ig遺伝子座からの部分(個々の遺伝子)の包含により模倣される。したがって、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、ミュー定常領域、および第2定常領域(好ましくは、ガンマ定常領域)が、動物に挿入するための構築物内に形成される。この方法は、Surani et al.の米国特許第5,545,807号、およびLonbergおよびKayの米国特許第5,545,806、5,625,825、5,625,126、5,633,425、5,661,016、5,770,429、5,789,650、5,814,318、5,877,397、5,874,299、および6,255,458号、KrimpenfortおよびBermsの米国特許第5,591,669および6,023,010号、Berns et al.の米国特許第5,612,205、5,721,367および5,789,215号、ChoiおよびDunnの米国特許第5,643,763号、およびGenPharm Internationalの1990年8月29日に出願された米国特許出願第07/574,748、1990年8月31日に出願された07/575,962、1991年12月17日に出願された07/810,279、1992年3月18日に出願された07/853,408、1992年6月23日に出願された07/904,068、1992年12月16日に出願された07/990,860、1993年4月26日に出願された08/053,131、1993年7月22日に出願された08/096,762、1993年11月18日に出願された08/155,301、1993年12月3日に出願された081161,739、1993年12月10日に出願された08/165,699、1994年3月9日に出願された08/209,741号に記載されている。欧州特許第0 546 073号、国際特許出願公開第92/03918、92/22645、92/22647、92/22670、93/12227、94/00569、94/25585、96/14436、97/13852、および98/24884号および米国特許第5,981,175号も参照のこと。さらに、Taylor et al.,1992,Chen et al.,1993,Tuaillon et al.,1993,Choi et al.,1993,Lonberg et al.,(1994),Taylor et al.,(1994),およびTuaillon et al.,(1995),Fishwild et al.,(1996)も参照のこと。
【0132】
ミニ遺伝子座アプローチの利点は、Ig遺伝子座の部分を含む構築物が作り出され得、動物に導入することができる迅速性にある。しかし、ミニ遺伝子座アプローチの大きな欠点は、理論上、少数のV、DおよびJの各遺伝子の包含により多様性が十分導入されないことである。実際に、発表された研究はこの懸念を支持しているようである。B細胞の発生およびミニ遺伝子座アプローチの使用により産生された動物の抗体産生は、妨げられるようである。したがって、本発明を取り巻く研究は、一貫して、より大きな多様性を達成し、動物の免疫レパートリを再構成するためにIg遺伝子座の大きな部分の導入に向けられている。
【0133】
Kirinは、微小細胞融合により、染色体の大きな断片または染色体全体が導入されている、マウスからのヒト抗体の生成も実証した。欧州特許出願公開第773,288および843,961号を参照のこと。
【0134】
ヒトの抗マウス抗体(HAMA)反応は、この産業をキメラ抗体またはさもないとヒト化抗体の調製に導いた。キメラ抗体はヒト定常領域および免疫可変領域を有するが、特定のヒト抗キメラ抗体(HACA)反応は、特に抗体の慢性用量または多回用量の利用において観察されるであろうことが予測される。したがって、HAMAまたはHACA反応の懸念および/または効果を下げるためにCD3に対する完全ヒト抗体を提供することが望ましい。
【0135】
低減した免疫原性を有する抗体の産生もまた、適切なライブラリを用いるヒト化技術および表示技術を介して達成される。マウスの抗体または他の種からの抗体が、当該分野で周知の技術を用いてヒト化または霊長類化(primatize)され得ることが理解される。例えば、Winter and Harris Immunol Today 14:43 46(1993)およびWright et al.Crit.Reviews in Immunol.12125〜168(1992)を参照のこと。目的の抗体は、CH1、CH2、CH3、ヒンジドメインおよび/またはフレームワークドメインを、対応するヒト配列により置換するように、組換えDNA技術によって設計され得る(国際公開第92102190号および米国特許第5,530,101、5,595,089、5,693,792、5,693,792、5,714,350および5,777,085号を参照のこと)。キメラ免疫グロブリン遺伝子を構築する場合にIg cDNAを使用することもまた、当該分野で公知である(Liu et al.P.N.A.S.84:3439(1987)およびJ.Immunol.139:3521(1987))。mRNAは、抗体を産生するハイブリドーマまたは他の細胞から単離され、cDNAの産生に使われる。目的のcDNAは、特異的なプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により増幅される(米国特許第4,683,195および4,683,202号)。あるいは、目的の配列を単離するためにライブラリが作られ、選別される。該抗体の可変領域をコードするDNA配列は、次いで、ヒト定常領域配列に融合される。ヒト定常領域遺伝子の配列は、Kabat et al.(1991)Sequences of Proteins of immunological Interest,N.I.H.publication no.91−3242において見出され得る。ヒトC領域遺伝子は、公知のクローンから容易に利用できる。イソ型の選択は、補体固定または抗体依存性細胞性傷害活性における活性のような所望のエフェクター機能によって導かれる。好ましいイソ型は、IgG1、IgG3およびIgG4である。ヒト軽鎖定常領域のカッパまたはラムダのいずれかが使われ得る。キメラヒト化抗体は、次いで、従来の方法により発現される。
【0136】
Fv、F(ab’)2およびFabのような抗体フラグメントは、インタクトなタンパク質の切断(例えば、プロテアーゼによる)または化学的切断によって調製され得る。あるいは、短縮型(trancated)遺伝子が設計される。例えば、F(ab’)2フラグメントの一部をコードするキメラ遺伝子は、CH1ドメインおよびH鎖のヒンジ領域をコードするDNA配列を含み、その後、翻訳停止コドンにより短縮型分子を生じる。
【0137】
H領域およびLJ領域の共通配列は、J領域内に有用な制限部位を導入し、その後、ヒトC領域セグメントにV領域セグメントを連結するためのプライマー(prier)として使用するためのオリゴヌクレオチドを設計するために使われ得る。C領域cDNAは、ヒト配列における類似の位置に制限部位を置くために部位特異的変異誘発によって改変され得る。
【0138】
発現ベクターとしては、プラスミド、レトロウイルス、YAC、EPV由来エピソームなどが挙げられる。便利なベクターは、任意のVHまたはVL−31配列が容易に挿入され得るか、または発現され得るように、設計された適切な制限部位を有する、機能的に完全なヒトCHまたはCL免疫グロブリン配列をコードするベクターである。このようなベクターにおいて、スプライシングは、通常、挿入されたJ領域のスプライスドナー部位とヒトC領域に先行するスプライス受容部位との間で起こり、そしてまた、ヒトCHエキソン内で起きるスプライス領域においても起きる。ポリアデニル化および転写終結は、コード領域の下流の天然染色体部位で起きる。得られるキメラ抗体は、レトロウイルスLTR、例えば、SV−40初期プロモータ(Okayama et al.Mol.Cell.Bio.3:280(1983))、ラウス肉腫ウイルスLTR(Gorman et al.P.N.A.S.79:6777(1982))、およびモロニーマウス白血病ウイルスLTR(Grosschedl et al.Cell 41:885(1985))を含む任意の強力なプロモータに結合され得る。また、天然のIgプロモータなどが使われることが、理解される。
【0139】
さらに、ヒト抗体または他の種からの抗体は、非限定で、ファージ・ディスプレイ、レトロウイルス・ディスプレイ、リボソーム・ディスプレイ、および当該分野で周知の技術を用いる他の技術を含む、ディスプレイ型の技術により作り出され、得られる分子は、親和性成熟のようなさらなる成熟(このような技術は当該分野で周知である)を受けることができる。Wright and Harris(上記を参照のこと)、Hanes and Plucthau PEAS USA 94:4937〜4942(1997)(リボソーム・ディスプレイ)、Parmley and Smith Gene 73:305〜318(1988)(ファージ・ディスプレイ)、Scott TIB5 17:241〜245(1992)、Cwirla et al.PNAS USA 87:6378〜6382(1990)、Russel et al.Nucl.Acids Research 21:1081〜1085(1993)、Hoganboom et al.Immunol.Reviews 130:43〜68(1992)、Chiswell and McCafferty TIBTECH;10:80〜8A(1992)、および米国特許第5,733,743号。ディスプレイ技術がヒトではない抗体を産生するために利用される場合、このような抗体は、上で記述されたように、ヒト化され得る。
【0140】
これらの技術を用いると、抗体は、CD3発現細胞、CD3自身、CD3の形態、これらのエピトープまたはペプチド、およびその発現ライブラリを作り出すことができ(例えば、米国特許第5,703,057号を参照のこと)、次いで、これらの抗体は上で記述された活性に関して上で記述されたように選別される。
【0141】
(他の治療薬の設計および作製)
本発明従い、ならびにCD3について本明細書中で産生されて特徴づけられる抗体の活性に基づいて、抗体部分より優れた他の治療様式の設計は容易になる。このような治療様式としては、非限定で、二重特異性抗体、免疫毒素、放射性標識化治療薬、ペプチド治療薬、遺伝子治療(特に体内)、アンチセンス治療薬、および低分子のような進歩した抗体治療薬の作製が挙げられる。
【0142】
例えば、二重特異性抗体に関連して、(i)1つはCD3に対して特異性をもち、別の抗体は第2の分子に対して特異的である、一緒に結合体化される2つの抗体、(ii)CD3に対して特異的な1つの鎖および第2の分子に対して特異的な第2の鎖を有する単一の抗体、または(iii)CD3および他の分子に対して特異性を有する一本鎖抗体を含む、二重特異性抗体が作り出され得る。このような二重特異性抗体は、例えば、(i)および(ii)に関連する周知の技術(例えば、Fanger et al.Immunol Methods 4:72〜81(1994)およびWright and Harris(前出)を参照のこと)を用いて、そして(iii)に関連する周知の技術(例えば、Traunecker et al.Int.J.Cancer(Suppl.)7:51〜52(1992)を参照のこと)を用いて、作り出され得る。各々の場合において、第2の特異性は、非限定で、CD16またはCD64(例えば、Deo et al.18:127(1997)を参照のこと)またはCD89(例えば、Valerius et al.Blood 90:4485〜4492(1997)を参照のこと)を含む重鎖活性化レセプターに対して作られ得る。前述の方法に従って調製された二重特異性抗体は、CD3を発現する細胞、特に本発明のCD3抗体が有効である細胞を、殺傷する傾向がある。
【0143】
免疫毒素に関連して、抗体は、当該分野で周知の技術を利用して、免疫毒素として作用するように改変され得る。例えば、Vietta Immunol Today 14:252(1993)を参照のこと。米国特許第5,194,594号も参照のこと。放射性標識化抗体の調製に関連して、このような改変抗体もまた、当該分野で周知の技術を利用して容易に調製され得る。例えば、Junghaus et al.in Cancer Chemotherapy and Biotherapy 655〜686(2d edition,Chafner and Long,eds.,Lippincott Raven(1996))を参照のこと。米国特許第4,681,581、4,735,210、5,101,827、5,102,990(再発行特許第35,500号)、5,648,471、および5,697,902号も参照のこと。免疫毒素および放射性標識化分子の各々は、CD3を発現する細胞、特に本発明の抗体が有効である細胞を、殺傷する傾向がある。
【0144】
治療用ペプチドの作製に関連して、CD3、および本発明の抗体のようなCD3に対する抗体、またはペプチドライブラリーの選別に関連した構造情報を利用することにより、CD3に対して指向される治療用ペプチドが作製され得る。ペプチド治療薬の設計および選別は、Houghten et al.Biotechniques 13:412〜421(1992)、Houghten PNAS USA 82:5131〜5135(1985)、Pinalla et al.Biotechniques 13:901〜905(1992)、Blake and Litzi−Davis BioConjugate Chem.3:510〜513(1992)に関連して論じられている。免疫毒素および放射性標識化分子もまた、抗体に関連して上で論じられたペプチド部分に関連した類似の様式で、調製され得る。CD3分子(またはスプライシング変形態様もしくは代替形態など)が疾患プロセスにおいて機能的に活性であると仮定すると、従来技術により、CD3分子に対する遺伝子治療薬またはアンチセンス治療薬を設計することもまた可能である。このような様式は、CD3の機能を調節する場合に利用されうる。CD3に関連して、本発明の抗体は、該抗体に関連した機能的アッセイの設計および使用を容易にする。アンチセンス治療薬についての設計および戦略は、国際特許出願公開第94/29444号で詳細に論じられている。遺伝子治療薬のデザインおよび方法は周知である。しかし、特に、身体内を含む遺伝子治療薬技術の使用は、特に有効であることが判明している。例えば、Chen et al.Human Gene Therapy 5:595〜601(1994)およびMarasco Gene Therapy 4:11〜15(1997)を参照のこと。遺伝子治療薬に関連した一般的設計および検討は、国際特許出願公開第97/38137号でも論じられている。
【0145】
CD3分子の構造から収集された知識および本発明の抗体のような本発明に従う他の分子とのCD3分子の相互作用などは、さらなる治療様式を合理的に設計するために利用することができる。これに関連して、X線結晶学、コンピュータによる分子モデリング(CAMM)、定量的または定性的な構造−活性との関係(QSAR)、および類似の技術のような合理的薬剤設計技術は、薬剤発見の努力を集中させるために利用することができる。合理的な設計により、CD3の活性を改変または調節するために使用され得る、分子または分子の特異な形態と相互作用することができるタンパク質または合成構造体の予測が可能になる。このような構造体は、化学的に合成されても、生物システムにおいて発現されてもよい。このアプローチは、Capsey et al.Genetically Engineered Human Therapeutic Drugs(Stockton Press,NY(1988))において概説されている。さらに、組み合わせライブラリを、設計し得、合成し得、そして高い選別処理能力のような選別プログラムにおいて使用することができる。
【0146】
(治療薬の投与および処方)
本発明による治療薬の投与は、適切なキャリア、賦形剤、および輸送、送達、耐性などを改善するために処方物中に組み込まれる他の薬剤と共に投与されることが、理解される。多数の適切な処方物が、すべての薬剤師に公知である処方として見出され得る:Remington’s Pharmaceutical Sciences(15th ed,Mack Publishing Company,Easton,PA(1975)),特にその中のBlaug,SeymourによるChapter 87。これらの処方物としては、例えば、散在、ペースト、軟膏、ジェリー剤、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小包(LipofectinTMなど)、DNA結合体、無水吸収ペースト、油中水型および水中油型エマルジョン、エマルジョン・カーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール類)、半固体ゲル類およびカーボワックス含有半固体混合物が挙げられる。前述の混合物のいずれかが、処方物中の活性成分が処方物により不活性化されておらず、処方物が投与経路に生理学的に適合性であり、耐性である場合、本発明による処置および治療において適切である。Baldrick P.”Pharmaceutical excipient development:the need for preclinical guidance.”Regul.Toxicol Pharmacol.32(2):210〜8(2000),Wang W.”Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals.”Int.J.Pharm.203(1−2):1〜60(2000),Charman WN”Lipids,lipophilic drugs,and drug delivery−some emerging concepts.”J Pharm Sci.89(8):967〜78(2000),Powell et al.”Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA J Pharm Sci Technol.52:238〜311(1998)および薬剤師に周知の処方物、賦形剤およびキャリアに関連したさらなる情報について、これらの中の引用文献も参照のこと。
【0147】
本発明のhuCD3抗体を含む本発明の治療処方物は、例えば、自己免疫疾患または炎症性障害のような免疫関連疾患に関連した症状を処置または緩和するために使われる。
【0148】
自己免疫疾患としては、例えば、後天性免疫不全症候群(エイズ、これは自己免疫成分を有するウイルス性疾患である)、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫アジソン病、自己免疫溶血性貧血、自己免疫肝炎、自己免疫内耳炎(AIED)、自己免疫リンパ球増殖性症候群(ALPS)、自己免疫血小板減少紫斑病(ATP)、ベーチェット病、心筋症、セアリックスプルー疱疹状皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症脱髄性多発神経障害(CIPD)、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、デゴス病、若年性皮膚筋炎、円板状ループス、特発性混合型クリオグロブリン血症、腺維筋肉病−腺維筋炎、グレーブス病、ギラン−バレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺腺維症、特発性血小板減少紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性慢性関節炎(スチル病)、若年性関節リウマチ、メニエール病、混合型結合組織疾患、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、結筋性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症(進行性全身性硬化症(PSS)、全身性硬化症(SS)としても知られる)、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性紅斑性狼瘡、タカヤス動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、白斑およびウエグナー肉芽腫症が挙げられる。
【0149】
炎症疾患としては、例えば、慢性および急性炎症疾患が挙げられる。炎症疾患の例としては、アルツハイマー病、ぜんそく、アトピー性アレルギー、アレルギー、アテローム性動脈硬化症、気管支ぜんそく、湿疹、糸球体腎炎、移植片対宿主病、溶血性貧血、変形性関節症、敗血症、脳卒中、組織および器官の移植、脈管炎、糖尿病性網膜症および換気装置に誘発された肺の損傷が挙げられる。
【0150】
1つの実施例では、本発明のhuCD3抗体組成物は、例えば、GLP−1またはベータ細胞休止化合物(即ち、カリウム・チャンネル開口薬などのインスリンの放出を低減するか、さもなければ阻害する化合物)などの第2の薬剤と併用して投与される。適切なGLP−1化合物の例は、例えば、発行された米国特許出願公開第20040037826号に記載されており、適切なベータ細胞休止化合物は発行された米国特許出願公開第20030235583号に記載されており、これらの特許の各々は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0151】
別の実施例では、免疫関連疾患の処置に使われたhuCD3抗体組成物は、既知の種々の抗炎症性化合物および/または免疫抑制化合物のいずれかと併用して投与される。適切な既知の化合物としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリンのミクロエマルジョンを含む)、タクロリムス、コルチコステロイド類、スタチン類、インターフェロン・ベータ、Remicade(Infliximab)、Enbrel(Etanercept)およびHumira(Adalimumab)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0152】
例えば、慢性関節リウマチの治療では、本発明のhuCD3抗体組成物が、コルチコステロイド類、メトトレキサート、シクロスポリンA、スタチン類、Remicade(Infliximab)、Enbrel(Etanercept)および/またはHumira(Adalimumab)と共に投与され得る。
【0153】
ブドウ膜炎の治療では、huCD3抗体組成物は、例えば、コルチコステロイド類、メトトレキサート、シクロスポリンA、シクロホスファミドおよび/またはスタチン類と併用して投与することができる。同様に、クローン病または乾癬のような疾患に苦しむ患者は、本発明のhuCD3抗体組成物およびRemicaide(Infliximab)、および/またはHumira(Adalimumab)を併用して処置を受けることができる。
【0154】
多発性硬化症の患者は、本発明のhuCD3抗体組成物を、例えば、グラチラマー・アセテート(Copaxone)、インターフェロン・ベータ−1a(Avonex)、インターフェロン・ベータ−1a(Rebif)、インターフェロン・ベータ−1b(BetaseronまたはBetaferon)、ミトキサントロン(Novantrone)、デキサメタゾン(Decadron)、メチルプレドニゾロン(Depo−Medrol)および/またはプレドニゾン(Deltasone)および/またはスタチン類と併用して受けることができる。
【0155】
本発明は、免疫関連疾患に付随する症状または器官移植後の拒絶反応に付随する症状を治療または緩和する方法も提供する。例えば、本発明の組成物は、本明細書に記載された自己免疫疾患および炎症疾患のいずれかの症状を処置または緩和するために使うことができる。
【0156】
本発明の治療用組成物は、器官または組織移植における免疫抑制剤としても使われる。本明細書で使われている「免疫抑制剤」は、免疫系に対するその作用が、免疫反応(この反応が自然に起きるか、それとも人工的に引き起こされるか、この反応は先天性免疫系、適応免疫系、または両方の系の一部として起きるかどうかにかかわらない)に含まれる少なくとも1つの経路の活性の即時低下または遅延低下に導く薬剤を意味している。これらの免疫抑制huCD3抗体組成物は、器官または組織の移植の前、移植の間、および/または移植の後に、被験体に投与される。例えば、本発明のhuCD3抗体は、器官または組織移植後の拒絶反応を、治療または予防するために使われる。
【0157】
1つの実施例では、本発明の免疫抑制huCD3抗体組成物は、例えば、上に記載されたGLP−1またはベータ細胞休止化合物などの第2の薬剤と併用して投与される。
【0158】
別の実施例では、これらの免疫抑制huCD3抗体組成物は、種々の公知の抗炎症性化合物および/または免疫抑制化合物と共に投与される。本発明の免疫抑制huCD3抗体と共に使用するのに適した抗炎症性化合物および/または免疫抑制化合物としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリンのミクロエマルジョンを含む)、タクロリムス、コルチコステロイド類およびスタチン類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0159】
本発明のさらに別の実施例では、huCD3抗体は自己反応性抗体の存在を検出されたヒト個人に投与される。このような自己反応性抗体は、ヒト個人において内因的に発現された1つ以上のタンパク質に対して結合親和性を有する抗体として当該分野内で公知である。本発明の1つの態様では、ヒト個人は、具体的には、当該分野内で周知である1つ以上の自己免疫疾患に関与する自己反応性抗体の存在についてテストされる。1つの特定の実施形態では、ヒト患者は、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼおよび/またはIA−2タンパク質に対する抗体の存在についてテストされ、次いで、1つ以上のこのような自己反応性抗体が陽性と検出されると、huCD3抗体を投与される。
【0160】
本発明の別の実施形態では、ヒトの組織への免疫細胞の補充を予防、低減または減少するためにヒトである被験体にhuCD3抗体が投与される。本発明のhuCD3抗体は、ヒトの疾患の組織部位への異常または無秩序な免疫細胞の補充に付随する状態を予防および処置するために、huCD3抗体を必要とする被験体に投与される。
【0161】
本発明の別の実施形態では、ヒト組織への免疫細胞の溢出および漏出を予防、軽減および/または減少するために、ヒト被験体にhuCD3抗体が投与される。したがって、本発明のhuCD3抗体は、ヒトの疾患の組織部位への異常または無秩序な免疫細胞の浸潤に付随する状態を予防および/または処置するために投与される。
【0162】
本発明の別の実施形態では、huCD3抗体は、ヒト身体内のサイトカインの放出により媒介された効果を予防、軽減または減少するために、ヒト被験体に投与される。用語「サイトカイン」は、細胞表面上で細胞外レセプターに結合し、それにより細胞機能を調節する当該分野内で公知のすべてのヒトサイトカインを意味し、IL−2、IFN−g、TNF−a、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10およびIL−13を含むがこれらに限定されない。
【0163】
サイトカインの放出は、サイトカイン放出症候群(CRS)として公知の中毒状態をもたらし得、CRSは、例えば、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)およびOKT3(マウスの抗ヒトCD3抗体)などの抗Т細胞抗体を使用した場合に起きる一般的な臨床的合併症である。この症候群は、血流中へのTNF、IFN−ガンマおよびIL−2などのサイトカインの過剰な放出によって特徴づけられる。CRSは、CD3への抗体の(抗体の可変領域を介した)結合、および他の細胞上におけるFcレセプターおよび/または補体レセプターへの抗体の(抗体の定常領域を介した)結合が同時に起こることの結果として生じ、それによりТ細胞の活性化によってサイトカインを放出し、低血圧、発熱および悪寒により特徴づけられる全身性炎症反応を生じる。CRSの症状としては、熱、悪寒、悪心、吐き気、低血圧および呼吸困難が挙げられる。したがって、本発明のhuCD3抗体は、インビボの1種以上のサイトカインの異常な放出および産生を防止するために設計された1つ以上の変異を含む。
【0164】
本発明の別の実施形態では、huCD3抗体は、ヒト身体内のサイトカインレセプターの放出により媒介された効果を予防、低減または減少するためにヒト被験体に投与される。用語「サイトカインレセプター」は、1つ以上のサイトカインに結合する、本明細書で規定される当該分野内のすべてのヒトサイトカインレセプターを意味し、前述のサイトカインを含むがこれらに限定されない。したがって、本発明のhuCD3抗体は、ヒト身体内の1つ以上のサイトカインレセプターの異常な活性化、結合または連結反応により媒介された状態を処置および/または予防するために投与される。さらに、インビボのhuCD3抗体の投与は、このようなヒト被験体内のサイトカインレセプターにより媒介される細胞内シグナル伝達を枯渇させるであろう。
【0165】
本発明の1つの態様では、huCD3抗体は、膵臓のベータ細胞の機能の低下の際に、ヒト個人へ投与される。1つの実施形態では、該個人は、当該分野において公知であるベータ細胞機能、インスリン分泌またはc−ペプチドレベルについてテストされる。次いで、いずれかの指標が十分低下していることが分かると、ヒト個人は、ベータ細胞機能の自己免疫破壊のさらなる進行を防止するために十分な用量のhuCD3抗体を投与される。
【0166】
(診断薬および予防薬の処方)
本発明の完全ヒト抗CD3MAbは、診断用処方物および予防要処方物において使われる。1つの実施形態では、本発明のhuCD3 MAbは、前述の自己免疫疾患の1つを発症するリスクがある患者に投与される。1つ以上の前述の自己免疫疾患に対する患者の素因は、遺伝子型、血清学的マーカーまたは生化学的マーカーを用いて決めることができる。例えば、特定のHLAサブタイプおよび血清学的抗体(インスリン、GAD65およびIA−2に対して)の存在は、I型糖尿病を示している。
【0167】
本発明の別の実施形態では、huCD3抗体は、前述の自己免疫疾患を1つ以上有すると診断されたヒト個人に投与される。診断されると、huCD3抗体は、自己免疫の作用を和らげるか、または逆転するために投与される。このような1つの実施例においては、I型糖尿病と診断されたヒト個人は、膵臓の機能を回復し、膵臓内への自己免疫性浸潤の損傷を最小限に押さえるために十分な用量のhuCD3抗体を投与される。別の実施形態において、慢性関節リウマチと診断されたヒト個人は、肢関節への免疫細胞の浸潤および肢関節の破壊を軽減するためにhuCD3抗体を投与される。
【0168】
本発明の抗体は、患者試料中のCD3の検出にも有用であり、したがって、診断薬としても有用である。例えば、本発明のhuCD3抗体は、患者試料中のCD3レベルを検出するために、生体外試験、例えば、ELISAにおいて使われる。
【0169】
1つの実施形態では、本発明のhuCD3抗体は、固体支持体(例えば、マイクロタイター・プレートのウェル)上に固定される。固定された抗体は、テスト試料中に存在し得る任意のCD3の捕捉抗体として役立つ。固定された抗体を患者試料に接触させる前に、固体支持体は、分析物の非特異的吸着を防ぐためにミンクタンパク質またはアルブミンなどの遮断薬によりすすがれ、処理される。
【0170】
次いで、ウェルを、抗原を含む疑いのあるテスト試料または標準量の抗原を含む溶液で処理した。このような試料は、例えば、病理診断薬と考えられる抗原の循環レベルを有する疑いのある被験体からの血清試料である。テスト試料または標準試料をすすいだ後、固体支持体は、検出できるように標識化した二次抗体で処理される。標識化二次抗体は、検出抗体として役立つ。検出可能な標識のレベルは測定され、テスト試料中のCD3抗原の濃度は、標準試料から作られた標準曲線と比較して決められる。
【0171】
インビトロ診断アッセイにおいて本発明のhuCD3抗体を用いて得られた結果に基づいて、CD3抗原の発現レベルに基づいて、被験体の疾患(例えば、自己免疫疾患または炎症性疾患)の段階を決めることができることが、理解される。任意の疾患について、血液試料は、該疾患の種々の段階にあると診断された被験体、および/または該疾患の治療上の処置における種々の時点にある被験体から採取される。進行または治療の各段階について統計学的に有意な結果が得られる試料集団を用いて、各段階の特徴と考えられる抗原の濃度範囲が指定される。
【0172】
本明細書で引用されたすべての刊行物および特許文書は、あたかもこのような各刊行物または文書が、具体的且つ個別に、本明細書に参考として援用されることを示されたかのように、本明細書に参考として援用される。刊行物および特許文書の引用は、任意の刊行物および特許文書が適切な先行技術であることを承認する意図はなく、刊行物および特許文書の内容または日付を承認するものでもない。明細書により記述されている本発明は、本発明が種々の実施態様において実行することができ、前述の説明および以下に述べる実施例は例示のためのものであり、後に続く請求の範囲を制限するものではないことを、当業者は認めるであろう。
【実施例】
【0173】
行われた実験および得られた結果を含む以下の実施例は、例示するためだけのものであり、本発明を制限するものと解釈すべきではない。
【0174】
(実施例1:huCD3抗体の作製)
免疫化戦略:完全ヒトhuCD3抗体を作り出すために、2系列のトランスジェニックマウス(HuMab(登録商標)マウスおよびKMTMマウス(Medarex,Princeton NJ)を利用した。最初の免疫化戦略は、マウス抗体を作り出す文献から十分に立証されたプロトコルに従った。(例えば、Kung P,et al.,Science;206(4416):347〜9(1979);Kung PC,et al.,Transplant Proc.(3 Suppl 1):141〜6(1980);Kung PC,et al.,Int J Immunopharmacol.3(3):175〜81(1981)を参照のこと)。当該分野で公知の標準プロトコルでは、HuMAb(登録商標)マウスまたはKMTMマウスにおいて完全ヒトhuCD3抗体を産生することはできなかった。例えば、以下の免疫化戦略は成功せず、HuMAb(登録商標)マウスまたはKMTMマウスのいずれにも機能性抗体を産生しなかった。
【0175】
−胸腺細胞のみまたはT細胞のみを用いた免疫化
−組換えヒトCD3物質のみを用いた免疫化
−Freundのアジュバント中の組換えCD3物質を用いた免疫化
−Freundのアジュバント中の細胞を用いた免疫化
−胸腺細胞またはT細胞を可溶性CD3と共に投与した免疫化
−胸腺細胞またはT細胞を組換えCD3発現細胞と共に投与した免疫化
これらの先行技術免疫化戦略が、HuMAb(登録商標)マウスまたはKMTMマウスではなくBALB/cマウスで使われる場合、これらの方法は、ヒト抗CD3抗体ではなくマウスの抗CD3抗体を産生する。
【0176】
したがって、以下のパラメータを変えることにより新規な免疫付与方法を開発した。
【0177】
−用いた免疫原の種類
−注入の頻度
−用いたアジュバントの種類
−用いた同時刺激技術の種類
−用いた免疫化の経路
−融合に用いた二次リンパ組織の種類
例えば、(i)CD3のみを発現するウイルス粒子を用いた免疫化、および(ii)T細胞、胸腺細胞と共に、または組換えCD3を発現するためにトランスフェクトされた細胞と共に投与された同時刺激シグナル(例えば、CD40、CD27またはこれらの組み合わせ)を用いた免疫化、を含む一連の新規な免疫化戦略を開発した。
【0178】
本明細書では「過剰追加投与プロトコル」と呼ばれる第1の新規な免疫化戦略によって、HuMAb(登録商標)マウス(Medarex,Inc.,Princeton,NJ)またはKMTMマウス(Medarex,Inc.,Kirin)に、ヒト細胞、例えば、胸腺細胞またはT細胞を最初に注入することにより免疫化した。胸腺細胞および/またはT細胞の注入後、1〜8週間の範囲の時点で、1回またはそれ以上の「過剰追加投与」注射をマウスにした。過剰追加投与注射には、例えば、可溶性CD3タンパク質(例えば、組換え可溶性CD3タンパク質)、胸腺細胞またはT細胞の追加注射、CD3によりトランスフェクトされた細胞、高レベルのCD3を発現するウイルス粒子、およびこれらの組み合わせが含まれるものとした。例えば、過剰追加投与注射には、可溶性CD3タンパク質とCD3によりトランスフェクトされた細胞の組み合わせが含まれる。
【0179】
好ましくは、過剰追加投与免疫化プロトコルでは、免疫化されたマウスに、リンパ節および/または脾臓の融合の6日前と3日前の2回、最後の過剰追加投与注射をした。例えば、KMマウスTMでは、融合組織は脾臓に由来し、HuMAb(登録商標)マウスでは、融合組織は、リンパ節および/または脾臓組織に由来する。
【0180】
過剰追加投与免疫化プロトコルの1つの実施例では、1つのHuMAbTMマウスを、0日、7日および28日の3回、ヒト胸腺細胞(約106個の細胞)を用いて免疫化した。ヒトCD3δ鎖およびε鎖(CHO/CD3,約106個の細胞)をコードするcDNAを用いてトランスフェクトされたチャイニーズ卵巣細胞株(CHO)を、次いで、47日と65日とに注入した。高いレベルのCD3δεをその表面で発現するウイルス粒子を用いた別の追加免疫を、79日にした。最後に、121日と124日とに可溶性組換えヒトCD3δεを該マウスに注射し、127日にリンパ節の融合をした。
【0181】
すべての免疫化では、アジュバントとしてRibi(Corixa Corp.,Seattle WA)を皮下に与えた。全部で8.5×106個の細胞を融合した。470個のハイブリドーマから選別された7個だけが、完全ヒト抗CD3抗体を産生し、完全ヒト抗CD3抗体のすべては、IgM分子であった。これらの抗CD3抗体のうち2つが、臨床治療候補薬として選択された(図1〜3)。
【0182】
過剰追加投与免疫化プロトコルの第2の実施例では、1匹のKMTMマウスに、0日および25日に可溶性組換えヒトCD3δεを用いて2度免疫付与した。次いで、40日、49日および56日に追加免疫のためにヒト胸腺細胞(約106個の細胞)を使った。可溶性組換えCD3δεを、70日、77日、84日および91日に2度注射した。ヒトCD3δ鎖およびヒトCD3ε鎖(EL4/CD3,約106個の細胞)をコードするcDNAを用いてトランスフェクトしたマウスT細胞株を、次いで、98日に注射した。最後に、101日に可溶性組み換えヒトCD3δεを該マウスに注射し、104日に脾臓の融合をした。免疫化を、Ribiアジュバントを使用した70日目を除いて、アジュバントとしてAlumを腹腔内に投与した。0日、25日、84日および91日にCpGを同時刺激剤として使用した。全部で1.27×108個の細胞を融合した。743個のハイブリドーマから選別された5個だけが、完全ヒト抗CD3抗体を産生し、産生された抗体のすべては、IgG分子であった。これらの完全ヒト抗CD3抗体の1つは、臨床治療候補薬として選択された(図4)。
【0183】
選択基準:臨床治療候補薬は、次のような基準を用いて選択された。まず、CD3陽性細胞への抗体結合 対 CD3陰性細胞への抗体結合を分析した。この分析のために、Jurkat CD3陽性細胞(J+)およびJurkat CD3陰性細胞(J−)を種々の抗体を用いて培養し、結合をフローサイトメトリーにより評価した(図9A)。第2に、競合試験において、CD3陽性細胞へのマウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体の結合を阻害する候補抗体の能力をJ+細胞を用いて評価し、競合をフローサイトメトリーにより評価した(図9B)。次に、CD3の抗原性調節およびヒト末梢血T細胞の表面からのTCRをフローサイトメトリーにより評価した(図9C)。最後に、T細胞増殖アッセイを、CFSEを用いて着色したヒト末梢血T細胞を用いて行い、細胞分裂を、フローサイトメトリーにより評価した(図9D)。
【0184】
(実施例2:ヒト抗CD3抗体のイソ型切り替え)
実施例1に記載された新規なプロトコルを用いて産生されたいくつかのhuCD3抗体は、IgM抗体であった。これらのIgM抗体を、IgG抗体、好ましくはIgG1抗体に「変換」した。例えば、IgM抗体を、クローニング方法により変換し、該方法では、IgM抗体をコードする遺伝子のVDJ領域を、アロ型Fガンマ1をコードする遺伝子を含むベクターから得られたIgG1重鎖遺伝子にクローニングした。軽鎖の変換については、IgM配列を、カッパ領域を含むベクター内にクローニングした。Medarexマウス、例えば、HuMab(登録商標)マウスでは、対立遺伝子排除の欠如により、多数の軽鎖を産生した。
【0185】
重鎖と軽鎖との各組み合わせを、製造者のガイドラインに従ってFuGENE6(Roche Diagnostics)を用いて293T細胞にトランスフェクトした。分泌されたモノクローナル抗体を、最適化機能について(例えば、実施例1に記載された選択基準を用いて、標的抗原結合について)テストした。
【0186】
(実施例3:huCD3抗体を用いた抗原性調節)
本発明のhuCD3抗体は、抗原性調節をすることができ、該調節は、抗体結合により誘導されたCD3−TCR複合体の再分布および削除として規定されている。例えば、CD4を含むT細胞上の他の分子の細胞表面発現は、本発明の抗CD3抗体に曝露することにより改変されない(図9C)。
【0187】
(実施例4:huCD3抗体により作製した傷害性サイトカイン放出症候群の低減)
好ましくは、本発明のhuCD3抗体には、サイトカイン放出症候群を変えるような変異が、Fc領域において含まれる。上に記載されたように、サイトカイン放出症候群(CRS)は、一般的な急性合併症であり、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)およびOKT3(マウスのCD3抗体)などの抗T細胞抗体を使用した場合に起きる。この症候群は、TNF、IFN−ガンマおよびIL−2などのサイトカインの循環への過度の放出により特徴づけられる。活性化されたT細胞により放出されたサイトカインは、低血圧、発熱および悪寒により特徴づけられる、重篤な感染において見られるものに類似した型の全身性炎症反応を発症する。CRSの症状には、例えば、熱、悪寒、悪心、吐き気、低血圧および呼吸困難がある。
【0188】
本発明のhuCD3抗体には、1つ以上の変異が含まれ、該変異は、インビボで、1つ以上のサイトカインの重鎖定常領域を媒介した生体内放出を防ぐ。1つの実施形態では、本発明のhuCD3抗体は改変IgGγ1骨格に1つ以上の以下の変異を有するIgG分子である:”γ1N297A”(297位のアスパラギン残基がアラニン残基で置換されている)、”γ1L234/A,L235/A”(234位および235位のロイシン残基がアラニン残基で置換されている)、”γ1L234/A;L235/E”(234位のロイシン残基がロイシンで置換され、235位のロイシン残基がグルタミン酸残基で置換されている)、”γ1L235/E”(235位のロイシン残基がグルタミン酸残基で置換されている)、”γ1D265/A”(265位のアスパラギン酸残基がアラニン残基で置換されている)。本明細書に記載された重鎖残基の番号は、例えば、米国特許第5,624,821および5,648,260号に示されているEUインデックス番号(Kabat et al.,”Proteins of Immunological Interest”,US Dept.of Health & Human Services(1983)を参照のこと)である。なお、これらの特許の内容は、その全体が本明細書参考として援用される。
【0189】
本発明のhuCD3抗体において使用されうる、他のIgGγ1骨格の改変としては、例えば、330位のアラニン残基がセリン残基で置換されている”A330/S”、および/または331位のプロリン残基がセリン残基で置換されている”P331/S”が挙げられる。
【0190】
Fc領域にL234L235からA234E235への変異を有する本発明の完全ヒトCD3抗体は、独特の機能、即ち、huCD3抗体の存在下でのサイトカイン放出の除去を有する。先行研究は、実際に、LからEへの変異の使用から教示されている(例えば、Xu et al.,Cellular Immunology,200,pp.16〜26(2000),at p.23を参照のこと)。しかし、位置234および235におけるこれら2つの変異(即ち、L234L235からA234E235へ)は、末梢ヒト血液単球核インビトロ試験システムで評価されたように、サイトカイン放出症候群を除去した(図11A,11B)。この試験では、末梢ヒト血液単球核は、フィコール勾配を用いて単離され、CFSEで標識化される。CFSE標識化細胞を、次いで、96ウェルプレートに入れた。種々の濃度に希釈されたモノクローナル抗体を添加し、37℃で72時間培養した。6時間後、50μlの上澄みを除去し、ELISAによるTNF放出を評価した。48時間後、50μlの上澄みを除去し、ELISAによりIFN−γ放出を評価した。72時間後、細胞を回収し、CFSE標識強度を用いてFACSにより評価した。
【0191】
したがって、野生型重鎖とは対照的に、および他(例えば、TolerX(無グリコシル化変異),Bluestone(L234L235からA234A235への変異)(例えば、米国特許第5,885,573号)を参照のこと)により記述された一連の他の変異体とは対照的に、これらはすべて有意なレベルのサイトカイン放出作用を保持し、本発明のhuCD3抗体のL234L235からA234E235への変異はサイトカイン放出現象を示さない。残りのサイトカイン放出作用のレベルは、野生型Fcについては100%、Bluestone(L234L235からA234A235への)変異については約50〜60%であり、および本明細書に記載されたAla/Glu Fc変異体については検出できなかった(図11A,11B)。
【0192】
(実施例5:huCD3抗体−結合エピトープのペプチドアレイによる同定)
種々のモノクローナル抗体のエピトープに含まれるアミノ酸残基を決定するために、多数のペプチドの合成およびELISA選別を用いた。(例えば、Geysen et al.,J Immunol Methods,vol.102(2):259〜74(1987)を参照のこと)。本明細書に記載された実験では、CD3イプシロン鎖のアミノ酸配列に由来する重複ペプチドのアレイは、Jerini(Berlin,Germany)から購入し、次いで、本発明の完全ヒト抗CD3mAbによる結合パターンについてテストした。
【0193】
アレイ内のペプチドは、膜支持体上で直接化学合成する「スポット合成」技術を用いて作製した(Frank and Overwin,Meth Mol Biol.vol.66:149〜169(1996);Kramer and Schneider−Mergener,Meth Mol Biol.vol.87:25〜39(1998)を参照のこと)。直鎖状14量体ペプチドは、N末端を自由(即ち、非結合)なままにし、C末端によりWhatman50セルロース支持体に共有結合していた。標準ウエスタン・ブロッティング技術を用いて、これらの固体相結合ペプチドは、28F11モノクローナル抗体が、N末端に近接してアミノ酸の重複する組を認識していることを明らかにした(図10)。
【0194】
(他の実施形態)
本発明は、本発明の詳細な説明と併せて記述されてきたが、前述の説明は例示することを意図しており、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲により規定される。他の態様、利点、および変形態様は次の特許請求の範囲内にある。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、完全ヒト抗CD3抗体、並びにこれらの抗体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
身体の免疫系は、例えば、負傷、感染および新生組織形成を含む種々の状態に対する防御として作用し、別々ではあるが相互に関連した2つのシステムである細胞性免疫系および体液性免疫系により媒介される。一般的に言えば、体液性の系は抗体または免疫グロブリンと呼ばれる可溶性産物により媒介される。これらの抗体または免疫グロブリンは、この系により身体にとって外来性であると認識された産物と結合し、これらを中和する能力を有する。対照的に、細胞性免疫系は、種々の治療上の役割を果たすT細胞と呼ばれる特定の細胞の動員を含む。
【0003】
ヒトおよび動物の両方の免疫系には、2つの主要なクラスのリンパ球、即ち胸腺由来細胞(T細胞)および骨髄由来細胞(B細胞)が含まれる。成熟T細胞は、胸腺から出て、組織とリンパ管と血流との間で循環する。T細胞は、免疫学的特異性を示し、細胞媒介免疫反応(例えば、移植片拒絶)に直接関与する。T細胞は、種々の外来性の構造体(抗原)に対して、すなわちこれらに反応して作用する。多くの例において、これらの外来性の抗原は、感染の結果として宿主細胞上に発現される。しかし、外来性の抗原は、新生組織形成または感染により改変されている宿主からも生じ得る。T細胞は自身では抗体を分泌しないが、T細胞は通常、第2のクラスのリンパ球であるB細胞による抗体分泌のために必要とされる。
【0004】
T細胞は、それらの細胞表面上に存在する抗原決定基によって、並びに機能的活性および外来性抗原認識によって、一般に規定される種々のサブセットを含む。CD8+細胞などのT細胞のいくつかのサブセットは、免疫系における機能調節を果たすキラー細胞/サプレッサー細胞であり、一方、CD4+細胞などの他の細胞は、炎症反応および体液性反応を促進するのに役立つ。
【0005】
ヒトの末梢Tリンパ球は、外来性抗原、モノクローナル抗体、ならびにフィトヘマトグルチニン(phytohemayglutinin)およびコンカナバリンAなどのレクチンを含む種々の薬物により刺激されて、有糸分裂をすることができる。活性化は、おそらく細胞膜上の特定の部位へのマイトジェンの結合により起こるが、これらのレセプターの性質およびその活性化のメカニズムは、完全には解明されていない。増殖の誘導が、T細胞活性化の唯一の指標である。この細胞の基本状態または休止状態における改変として規定される、活性化の他の指標としては、リンホカイン産生および細胞傷害性細胞活性の増加が挙げられる。
【0006】
T細胞の活性化は、反応しているT細胞集団上に発現された種々の細胞表面分子の関与に依存する複合的な現象である。例えば、抗原特異性T細胞レセプター(TcR)は、2つのクローンのような配置をとる(clonally distributed)内在性膜糖タンパク質鎖である、アルファ(α)およびベータ(β)、またはガンマ(γ)およびデルタ(δ)を含む、ジスルフィド結合したヘテロダイマーから構成され、低分子量の不変のタンパク質の複合体(一般に、CD3(以前はT3と呼ばれた)と名付けられる)と非共有結合している。
【0007】
TcRアルファ鎖およびTcRベータ鎖により、抗原特異性が決まる。CD3構造体は、TcRアルファベータ(TcRαβ)がそのリガンドに結合したときに開始される活性化信号の伝達要素であるアクセサリ分子を表している。TcRの糖タンパク質鎖の定常領域および可変領域(多型性)の両方が存在する。多型性TcR可変領域が、異なる特異性を有するT細胞のサブセットを規定する。外来性のタンパク質の全体またはより小さなフラグメントを抗原として認識している抗体とは異なり、TcR複合体は、主要組織適合性複合体(MHC)分子に関連して必ず提示される、抗原の小さなペプチドとのみ、相互作用する。これらのMHCタンパク質は、種を通じて無作為に分散する、高度に多型性である別の分子の組を表す。従って、活性化は通常、TcRと主要なMHCタンパク質に結合した外来性のペプチド抗原との3粒子(triparticle)相互作用を必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の概要)
本発明は、CD3を特異的に指向する、完全ヒトモノクローナル抗体を提供する。代表的なモノクローナル抗体としては、本明細書に記載された28F11、27H5、23F10および15C3が挙げられる。あるいは、このモノクローナル抗体は、28F11、27H5、23F10または15C3と同じエピトープに結合する抗体である。本明細書でそれぞれ言及されているこれらの抗体は、huCD3抗体である。このhuCD3抗体は、以下の特性の1つ以上を有する:抗体はCD3陽性(CD3+)細胞には結合するがCD3陰性(CD3−)細胞には結合しないこと、huCD3抗体はCD3またはT細胞レセプター(TcR)の細胞表面発現レベルまたは活性の変化(例えば、低下)を含む抗原性調節を誘導すること、huCD3抗体はマウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害すること、またはhuCD3抗体はアミノ酸配列EMGGITOTPYKVSISGT(配列番号21)を完全に含むかもしくは一部分含むCD3のエピトープに結合することである。本発明のhuCD3抗体は、CD3に対する結合について、マウスの抗CD3抗体OKT3と競合し、そしてhuCD3抗体への曝露は、CD2、CD4またはCD8の細胞表面発現に影響することなくCD3および/またはTcRを除去するかもしくはマスキングする。CD3および/またはTcRのマスキングは、制御されていないT細胞の活性化が起きる自己免疫疾患において望ましいT細胞の活性化の、喪失または低減をもたらす。CD3のダウン・レギュレーションは、従来の免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを用いる場合に観察される一過性の抑制と比べて、長期にわたる(例えば、少なくとも数ヶ月間)T細胞活性化の低減をもたらす。
【0009】
抗原性調節は、細胞、例えば、リンパ球の表面上のCD3−T細胞レセプター複合体の再分配および排除を意味している。細胞表面発現のレベルまたは細胞上のTcRの活性のレベルの低下は、TcRの量が減少するかまたは機能が低下することを意味している。細胞表面発現のレベルまたはCD3の活性のレベルの調節は、細胞表面上のCD3の量またはCD3の機能が変わること、例えば、低下することを意味している。CD3の量または細胞の原形質膜において発現されたTcRの量は、例えば、huCD3抗体と細胞が接触した際のCD3またはTcRの内在化により減少する。あるいは、細胞とhuCD3抗体との接触の際、CD3またはTcRがマスキングされる。
【0010】
マウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合の阻害は、マウスのOKT3抗体がTリンパ球の細胞表面におけるCD3と複合体を形成する能力の低下として規定されている。
【0011】
huCD3抗体は、配列番号2、配列番号6、配列番号10または配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖可変部分、および配列番号4、配列番号8、配列番号16〜20または配列番号25〜26のアミノ酸配列を有する軽鎖可変部分を含む。3つの重鎖CDRには、GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)、QMGYWHFDL(配列番号29)、SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)、およびAIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)からなる群から選択される配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%より多く同一なアミノ酸配列が含まれることが好ましく、そして、3つのCDRを有する軽鎖には、RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPPLT(配列番号32)、RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)、QQRSNWPWT(配列番号45)、DASSLES(配列番号46)、およびQQFNSYPIT(配列番号47)のアミノ酸配列からなる群から選択される配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%またはそれより多く同一であるアミノ酸配列が含まれることが好ましい。この抗体はCD3に結合する。
【0012】
本発明のhuCD3抗体は、以下の特性の少なくとも2個以上(即ち、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上)を示す:該抗体がヒトDP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされるかまたはヒトDP50VH生殖細胞系列遺伝子配列と相同である核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(VH)を含むこと、該抗体がヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされるかまたはヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列と相同である核酸配列によりコードされる軽鎖可変領域(VL)を含むこと、該抗体がヒトL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列またはヒトL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列と相同である核酸配列によりコードされたVLを含むこと、該抗体がアミノ酸配列YGMH(配列番号58)を含むVHCDR1領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列DSVKG(配列番号59)を含むVHCDR2領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列IWYX1GX2X3X4X5YX6DSVKG(配列番号60)を含むVHCDR2領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列XAXBGYXCXDFDXE(配列番号61)を含むVHCDR3領域を含むこと、該抗体がアミノ酸配列GTGYNWFDP(配列番号62)またはアミノ酸配列QMGYWHFDL(配列番号63)を含むVHCDR3領域を含むこと、該抗体がCDR3領域に対してC末端側である位置(この位置はCDR3領域に対してC末端側にある可変領域内にある)においてアミノ酸配列VTVSS(配列番号64)を含むこと、該抗体がCDR3領域に対してC末端側である位置(この位置はCDR3領域に対してC末端側にある可変領域内にある)においてアミノ酸配列GTLVTVSS(配列番号65)を含むこと、該抗体がCDR3領域に対してC末端側である位置(この位置はCDR3領域に対してC末端側にある可変領域内にある)においてアミノ酸配列WGRGTLVTVSS(配列番号66)を含むこと、該抗体がアミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合すること、ならびに、該抗体が234位、235位、265位、または297位におけるアミノ酸残基またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含み、該抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出が、234位、235位、265位、または297位またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含まない抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出に比べて低下すること。本明細書に記載された重鎖残基の番号の付け方は、例えば、米国特許第5,624,821号および5,648,260号に示されるEUインデックスの付け方(Kabatら,「Proteins of Immunological Interest」,US Dept.of Health & Human Services(1983)を参照のこと)である。これらの特許の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0013】
いくつかの局面では、huCD3抗体はアミノ酸変異を含む。この変異は、定常領域内に存在する。この変異は、改変されたエフェクタ機能を有する抗体をもたらす。抗体のエフェクタ機能は、Fcレセプターまたは補体成分などのエフェクタ分子に対する抗体の親和性を変える(即ち、増強するかまたは低減する)ことにより改変される。抗体のエフェクタ機能を変える(例えば、免疫系の種々の反応を増強するか抑制する)ことにより、免疫反応の種々の局面を制御することができる。例えば、この変異は、T細胞からのサイトカインの放出を減少することができる抗体をもたらす。例えば、変異は、アミノ酸残基234、235、265、または297またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に存在する。この変異は、234位、235位、265位、または297位のいずれかにおいてアラニン残基をもたらすか、または235位にグルタミン酸残基をもたらすか、あるいはこれらの組み合わせをもたらすことが、好ましい。用語「サイトカイン」は、当該分野で公知の全てのヒトサイトカインを意味し、細胞表面上に発現される細胞外レセプターに結合し、それにより、IL−2、IFN−ガンマ、TNF−a、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10およびIL−13を含むが、これらに限定されない細胞機能を調節する。
【0014】
サイトカインの放出は、例えば、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)およびOKT3(マウスの抗T細胞抗体)のような抗T細胞抗体を使用することによって起こる一般的な臨床合併症である、サイトカイン放出症候群(CRS)として公知の中毒症状に導くことができる。この症候群は、TNF、IFNガンマおよびIL−2のようなサイトカインを循環中に過剰に放出することによって特徴づけられる。CRSは、この抗体のCD3への結合(この抗体の可変領域を介する)およびこの抗体の他の細胞上のFcレセプターおよび/または補体レセプターへの結合(この抗体の定常領域を介する)が同時に起きることに起因し、それにより、T細胞を活性化し、低血圧、発熱および悪寒によって特徴付けられる全身性炎症反応を生じるサイトカインを放出する。CRSの症状としては、発熱、悪寒、悪心、嘔吐、低血圧および呼吸困難がある。したがって、本発明のhuCD3抗体は、重鎖定常領域によって媒介される、インビボの1種以上のサイトカインの放出を予防する、1つ以上の変異を含む。
【0015】
本発明の完全ヒトCD3抗体は、例えば、Fc領域におけるL234L235からA234E235への変異を含み、それにより、このhuCD3抗体にさらされたサイトカイン放出は、顕著に低減するか、または消失する(例えば、図11A、11Bを参照のこと)。下で実施例4において記載されるように、本発明のhuCD3抗体のFc領域におけるL234L235からA234E235への変異は、このhuCD3抗体がヒトの白血球にさらされた場合にサイトカインの放出を低減するかもしくは消失させるが、以下に記載される変異は、かなりのサイトカイン放出能力を維持する。例えば、サイトカイン放出の有意な低減は、Fc領域においてL234L235からA234E235への変異を有するhuCD3抗体への曝露の際のサイトカインの放出を、下に記載される1つ以上の変異を有する別の抗CD3抗体への曝露の際のサイトカイン放出のレベルと比較することにより規定される。Fc領域における他の変異としては、例えば、L234L235からA234A235へ、L235からE235へ、N297からA297へ、およびD265からA265へ、が挙げられる。
【0016】
あるいは、huCD3抗体は、生殖細胞系列核酸残基により核酸残基を置換する、1つ以上の変異を含む核酸によりコードされる。「生殖細胞系列核酸残基」は、定常領域または可変領域をコードする生殖細胞系列遺伝子に自然に存在する核酸残基を意味する。「生殖細胞系列遺伝子」は、生殖細胞(即ち、卵子または精子になるように運命づけられた細胞)において見出されるDNAである。「生殖細胞系列変異」は、生殖細胞または1細胞ステージの受精卵で起きた特定のDNAにおける遺伝性の変化を意味し、子孫に伝えられた場合、このような変異は身体のあらゆる細胞に組み込まれる。生殖細胞系列変異は、1つの身体の細胞ににおいて獲得される体細胞変異とは対照的である。いくつかの場合には、可変領域をコードしている生殖細胞系列DNA配列内のヌクレオチドは、変異形成(即ち、体細胞変異)され、異なるヌクレオチドにより置換される。したがって、本発明の抗体は、生殖細胞系列核酸残基により核酸を置換する1つ以上の変異を含む。生殖細胞系列抗体遺伝子としては、例えば、DP50(登録番号:IMGT/EMBL/GenBank/DDBJ:L06618)、L6(登録番号:IMGT/EMBL/GenBank/DDBJ:X01668)およびL4/18a(登録番号:EMBL/GenBank/DDBJ:Z00006)が挙げられる。
【0017】
huCD3抗体の重鎖は、例えば、DP50生殖細胞系列遺伝子などの生殖細胞系列V(可変)遺伝子に由来する。DP50生殖細胞系列遺伝子の核酸およびアミノ酸配列としては、例えば、以下に示す核酸およびアミノ酸配列が挙げられる。
【0018】
【化1】
(配列番号68)
【0019】
【化2】
(配列番号69)
本発明のhuCD3抗体は、ヒトのDP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされた重鎖可変(VH)領域を含む。DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列は、例えば、図5の配列番号48に示されている。本発明のhuCD3抗体は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列に対して少なくとも80%相同である核酸配列によりコードされているVH領域を含む。好ましくは、該核酸配列は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列に対して少なくとも98%、99%相同である。huCD3抗体のVH領域は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされたVH領域のアミノ酸配列に対して少なくとも80%相同である。好ましくは、huCD3抗体のVH領域のアミノ酸配列は、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされたアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、DP50VH生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされた配列に対して少なくとも98%、99%相同である。
【0020】
また、本発明のhuCD3抗体は、ヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列によりコードされた軽鎖可変(VL)領域をも含む。ヒトL6VL生殖細胞系列遺伝子配列は、例えば、図6の配列番号74に示され、ヒトL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列は、図7の配列番号53に示されている。あるいは、huCD3抗体は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかに少なくとも80%相同である核酸配列によりコードされているVL領域を含む。好ましくは、該核酸配列は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかに対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかに対して少なくとも98%、99%相同である。huCD3抗体のVL領域は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかによりコードされるVL領域のアミノ酸配列に対して少なくとも80%相同である。好ましくは、huCD3抗体のVL領域のアミノ酸配列は、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかによりコードされたアミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、96%、97%相同であり、より好ましくは、L6VL生殖細胞系列遺伝子配列またはL4/18aVL生殖細胞系列遺伝子配列のいずれかによりコードされた配列に対して少なくとも98%、99%相同である。
【0021】
本発明のhuCD3抗体は、例えば、DP50生殖細胞系列に由来する、部分的に保存されたアミノ酸配列を有する。例えば、本発明のhuCD3抗体のCDR1領域は、少なくとも、連続するアミノ酸配列YGMH(配列番号58)を有する。
【0022】
このhuCD3抗体のCDR2は、例えば、少なくとも、連続するアミノ酸配列DSVKG(配列番号59)を含む。例えば、CDR2領域は、連続するアミノ酸配列IWYX1GX2X3X4X5YX6DSVKG(配列番号60)を含み、ここで、X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、任意のアミノ酸を表す。例えば、X1、X2、X3およびX4は、親水性アミノ酸である。本発明のいくつかのhuCD3抗体において、X1はアスパラギンまたはアスパラギン酸塩であり、X2はアルギニンまたはセリンであり、X3はリジンまたはアスパラギンであり、X4はリジンまたはグルタミンであり、X5はアスパラギン酸塩、アスパラギンまたはチロシンであり、そして/またはX6はバリンまたはアラニンである。例えば、VHCDR2領域は、AIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号69)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号70)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号71)およびVIWYDGSNKYYADSVKG(配列番号72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
例えば、huCD3抗体のCDR3領域は、少なくとも連続アミノ酸配列XAXBGYXCXDFDXE(配列番号61)を含み、ここで、XA、XB、XC、XDおよびXEは任意のアミノ酸を表す。本発明のいくつかのhuCD3抗体において、XAおよびXBは中性アミノ酸であり、XDは芳香族アミノ酸であり、XEは疎水性アミノ酸である。例えば、XAはグリシンまたはグルタミンであり、XBはスレオニンまたはメチオニンであり、XCはアスパラギンまたはトリプトファンであり、XDはトリプトファンまたはヒスチジンであり、および/またはXEはプロリンまたはロイシンである。例えば、CDR3領域は、連続するアミノ酸配列GTGYNWFDP(配列番号62)または連続するアミノ酸配列QMGYWHFDL(配列番号63)のいずれかを含む。
【0024】
huCD3抗体は、アミノ酸配列WVRQAPGKGLEWV(配列番号73)を含むフレームワーク2領域(FRW2)を含む。本発明のhuCD3抗体は、アミノ酸配列RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCA(配列番号74)を含むフレームワーク3領域(FRW3)を含む。
【0025】
いくつかのhuCD3抗体は、CDR3領域に対してC末端側にある位置において、連続するアミノ酸配列VTVSS(配列番号64)を含む。例えば、該抗体は、CDR3領域に対してC末端側にある位置において、連続するアミノ酸配列GTLVTVSS(配列番号65)を含む。他のhuCD3抗体は、CDR3領域に対してC末端である位置において、連続するアミノ酸配列WGRGTLVTVSS(配列番号66)を含む。配列番号66のアルギニン残基は、例えば、28F11 huCD3抗体(配列番号2)および23F10 huCD3抗体(配列番号6)のVH配列に示されている。
【0026】
別の局面では、本発明は、被験体にhuCD3抗体を投与することにより免疫関連疾患の症状を処置、予防または緩和する方法を提供する。必要に応じて、該被験体は、第2の薬剤(抗炎症性化合物または免疫抑制性化合物が挙げられるがこれらに限定されない)をさらに投与される。例えば、I型糖尿病または成人性潜在型自己免疫性糖尿病(Latent Autoimmune Diabetes in the Adult:LADA)を有する被験体はまた、例えば、GLP−1またはベータ細胞休止性(resting)化合物(即ち、カリウム・チャンネル開口薬のような、インスリン放出を低減するかまたは阻害する薬剤)のような、第2の薬剤を投与される。
【0027】
適切な化合物としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリン・ミクロエマルジョンを含む)、タクロリマス、コルチコステロイド類、スタチン類、インターフェロン・ベータ、Remicade(Infliximab)、Enbrel(Etanercept)およびHumira(Adalimumab)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
該被験体は、例えば、自己免疫性疾患または炎症性障害のような免疫関連疾患を罹患しているか、または、該疾患を発症しやすい。
【0029】
別の局面において、本発明は、器官もしくは組織の移植の前、移植の間および/または移植の後に本発明のhuCD3抗体を被験体に投与する方法を、提供する。例えば、本発明のhuCD3抗体は、器官または組織の移植後の拒絶反応を治療するか、または予防するために使用される。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
単離された完全ヒトモノクローナルCD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体が、以下:
a.CD3陽性(CD3+)細胞に結合するが、CD3陰性(CD3−)細胞には結合しない、
b.CD3の細胞表面発現レベルまたは活性を調節する、および
c.T細胞レセプターの細胞表面発現レベルまたは活性を低下させる、
の特性を有する、抗体またはそのフラグメント。
(項目2)
上記抗体が、マウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害する、項目1に記載の抗体。
(項目3)
上記抗体が、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合する、項目1に記載の抗体。
(項目4)
上記抗体が、234位、235位、265位、または297位におけるアミノ酸残基またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含み、T細胞からサイトカインの放出を低下させる、項目1に記載の抗体。
(項目5)
上記変異が、上記位置においてアラニン残基またはグルタミン酸残基をもたらす、項目4に記載の抗体。
(項目6)
上記抗体がIgG1イソ型であり、少なくとも234位における第1の変異および235位における第2の変異を含み、該第1の変異は234位にアラニン残基をもたらし、該第2の変異は235位にグルタミン酸残基をもたらす、項目1に記載の抗体。
(項目7)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)、QMGYWHFDL(配列番号29)、SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)、およびAIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた重鎖を有し、そしてRASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPPLT(配列番号32)、RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)、QQRSNWPWT(配列番号45)、DASSLES(配列番号46)、およびQQFNSYPIT(配列番号47)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた軽鎖を有し、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目8)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)、QMGYWHFDL(配列番号29)、SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)、およびAIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた重鎖を有し、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目9)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、配列番号2、配列番号6、配列番号10および配列番号22からなる群から選択される重鎖可変アミノ酸配列を含み、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目10)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPPLT(配列番号32)、RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)、QQRSNWPWT(配列番号45)、DASSLES(配列番号46)、およびQQFNSYPIT(配列番号47)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む3つのCDRを備えた軽鎖を有し、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目11)
単離された完全ヒトモノクローナル抗体であって、該抗体が、配列番号4、配列番号8、配列番号16〜配列番号20、配列番号25および配列番号26からなる群から選択される軽鎖可変アミノ酸配列を含み、該抗体は、CD3に結合する、抗体。
(項目12)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、CDR1およびCDR2を含む重鎖可変(VH)領域を含み、該領域が、ヒトDP50VH生殖細胞系遺伝子配列によってコードされているか、またはDP50VH生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である核酸配列によってコードされている、抗体またはそのフラグメント。
(項目13)
DP50VH生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である上記核酸配列が、DP50VH生殖細胞系遺伝子配列に対して少なくとも90%相同である、項目12に記載の抗体。
(項目14)
ヒトL6VL生殖細胞系遺伝子配列によってコードされているか、またはL6VL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である核酸配列によってコードされている軽鎖可変(VL)領域をさらに含む、項目12に記載の抗体。
(項目15)
L6VL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である上記核酸配列が、L6VL生殖細胞系遺伝子配列に対して少なくとも90%相同である、項目14に記載の抗体。
(項目16)
ヒトL4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列によってコードされているか、またはL4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である核酸配列によってコードされているVL領域をさらに含む、項目12に記載の抗体。
(項目17)
L4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列に対して相同である上記核酸配列が、L4/18aVL生殖細胞系遺伝子配列に対して少なくとも90%相同である、項目16に記載の抗体。
(項目18)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列YGMH(配列番号58)を含むVHCDR1領域を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目19)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列DSVKG(配列番号59)を含むVHCDR2領域を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目20)
上記VHCDR2領域は、アミノ酸配列IWYX1GX2X3X4X5YX6DSVKG(配列番号60)を含む、項目19に記載の抗体。
(項目21)
X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、任意のアミノ酸を表す、項目20に記載の抗体。
(項目22)
X1、X2、X3およびX4は、親水性アミノ酸である、項目20に記載の抗体。
(項目23)
X1は、アスパラギンまたはアスパラギン酸塩である、項目20に記載の抗体。
(項目24)
X2は、アルギニンまたはセリンである、項目20に記載の抗体。
(項目25)
X3は、リジンまたはアスパラギンである、項目20に記載の抗体。
(項目26)
X4は、リジンまたはグルタミンである、項目20に記載の抗体。
(項目27)
X5は、アスパラギン酸塩、アスパラギンまたはチロシンである、項目20に記載の抗体。
(項目28)
X6は、バリンまたはアラニンである、項目20に記載の抗体。
(項目29)
上記VHCDR2領域は、AIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号69)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号70)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号71)およびVIWYDGSNKYYADSVKG(配列番号72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、項目20に記載の抗体。
(項目30)
単離された完全ヒト抗モノクローナルCD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列XAXBGYXCXDFDXE(配列番号61)を含むVHCDR3領域を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目31)
XA、XB、XC、XD、およびXEは、任意のアミノ酸を表す、項目30に記載の抗体。
(項目32)
XAおよびXBは、中性のアミノ酸である、項目30に記載の抗体。
(項目33)
XDは、芳香族アミノ酸である、項目30に記載の抗体。
(項目34)
XEは、疎水性のアミノ酸である、項目30に記載の抗体。
(項目35)
XAは、グリシンまたはグルタミンである、項目30に記載の抗体。
(項目36)
XBは、スレオニンまたはメチオニンである、項目30に記載の抗体。
(項目37)
XCは、アスパラギンまたはトリプトファンである、項目30に記載の抗体。
(項目38)
XDは、トリプトファンまたはヒスチジンである、項目30に記載の抗体。
(項目39)
XEは、プロリンまたはロイシンである、項目30に記載の抗体。
(項目40)
上記VHCDR3領域は、アミノ酸配列GTGYNWFDP(配列番号62)またはアミノ酸配列QMGYWHFDL(配列番号63)を含む、項目30に記載の抗体。
(項目41)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体がアミノ酸配列WVRQAPGKGLEWV(配列番号73)を含むフレームワーク2領域(FRW2)を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目42)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列RFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCA(配列番号74)を含むフレームワーク3領域(FRW3)を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目43)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、CDR3領域に対してC末端側に配置された可変領域を含み、該可変領域は、該CDR3領域に対してC末端側の位置においてアミノ酸配列VTVSS(配列番号64)を含む、抗体またはそのフラグメント。
(項目44)
上記抗体は、上記CDR3領域に対してC末端側に配置された可変領域を含み、該可変領域は、該CDR3領域に対してC末端側の位置においてアミノ酸配列GTLVTVSS(配列番号65)を含む、項目43に記載の抗体。
(項目45)
上記抗体は、上記CDR3領域に対してC末端側に配置された可変領域を含み、該可変領域は、該CDR3領域に対してC末端側の位置においてアミノ酸配列WGRGTLVTVSS(配列番号66)を含む、項目43に記載の抗体。
(項目46)
単離された完全ヒトモノクローナル抗CD3抗体またはそのフラグメントであって、該抗体は、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含むエピトープに結合する、抗体またはそのフラグメント。
(項目47)
上記抗体は、234位、235位、265位、または297位におけるアミノ酸残基またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含み、該抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出が、234位、235位、265位、または297位またはこれらの組み合わせにおいて重鎖内に変異を含まない抗体の存在下におけるT細胞からのサイトカインの放出に比べて低下する、項目1〜項目46のいずれか1項に記載の単離された抗体。
(項目48)
上記変異は、上記位置において、アラニン残基またはグルタミン酸残基をもたらす、項目47に記載の抗体。
(項目49)
上記抗体は、少なくとも234位における第1の変異および235位における第2の変異を含み、該第1の変異は234位においてアラニン残基をもたらし、該第2の変異は235位においてグルタミン酸残基をもたらす、項目47に記載の抗体。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、huCD3抗体28F11の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図1Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図1Bは、図1Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、これらのCDRはボックスにより強調されている。図1Cは、該軽鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図1Dは、図1Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、これらのCDRはボックスにより示されている。
【図2】図2は、huCD3抗体23F10の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図2Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図2Bは、図2Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図2Cは、該軽鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図2Dは、図2Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示している。
【図3−1】図3は、huCD3抗体27F5の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図3Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図3Bは、図3Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図3Cは、27H5クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている5つのヌクレオチド配列を示し、図3Dは、図3Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされる5つのアミノ酸配列を示し、図3Eは、クローン27H5由来の5つの軽鎖のアラインメントであり、最後の行の星印(*)(標識を付けたキー(KEY))はその列の保存されたアミノ酸を表し、キー行のコロン(:)は保存的変異を表し、キー行のピリオド(.)は半保存的変異を表している。
【図3−2】図3は、huCD3抗体27F5の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図3Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図3Bは、図3Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図3Cは、27H5クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている5つのヌクレオチド配列を示し、図3Dは、図3Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされる5つのアミノ酸配列を示し、図3Eは、クローン27H5由来の5つの軽鎖のアラインメントであり、最後の行の星印(*)(標識を付けたキー(KEY))はその列の保存されたアミノ酸を表し、キー行のコロン(:)は保存的変異を表し、キー行のピリオド(.)は半保存的変異を表している。
【図3−3】図3は、huCD3抗体27F5の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示である。図3Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図3Bは、図3Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図3Cは、27H5クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている5つのヌクレオチド配列を示し、図3Dは、図3Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされる5つのアミノ酸配列を示し、図3Eは、クローン27H5由来の5つの軽鎖のアラインメントであり、最後の行の星印(*)(標識を付けたキー(KEY))はその列の保存されたアミノ酸を表し、キー行のコロン(:)は保存的変異を表し、キー行のピリオド(.)は半保存的変異を表している。
【図4】図4は、huCD3抗体15C3の軽鎖可変領域および重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の一連の表示であり、図4Aは、該重鎖の可変領域をコードしているヌクレオチド配列を示し、図4Bは、図4Aで示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を示し、図4Cは、15C3クローンの該軽鎖の可変領域をコードしている2つのヌクレオチド配列を示し、図4Dは、図4Cで示されたヌクレオチド配列によりコードされた2つのアミノ酸配列を示している。
【図5】図5は、15C3 huCD3抗体、27H5 huCD3抗体および28F11 huCD3抗体、並びにDP−50生殖細胞系列配列、ヒト重鎖結合5−02配列、およびヒト重鎖結合2配列の重鎖可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図6】図6は、15C3 huCD3抗体(可変軽鎖1、即ち「VL1」)および28F11 huCD3抗体、並びにL6生殖細胞系列配列、ヒトカッパ結合4配列およびヒトカッパ結合1配列のVκIII可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図7】図7は、15C3 huCD3抗体(可変軽鎖2、即ち「VL2」)および27H5 VL2 huCD3抗体、並びにL4/18a生殖細胞系列配列、ヒトカッパ結合4配列およびヒトカッパ接合5配列のVκI可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図8】図8は、27H5 VL1 huCD3抗体およびDPK22、並びにヒトカッパ結合5配列のVκII可変領域を示すアラインメントである。CDR領域は、各配列について示される。
【図9A】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9B】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9C】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9D】図9Aは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体を用いた、Jarkat細胞の表面におけるCD3分子への抗体結合を示すグラフである。図9Bは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体が、CD3陽性細胞へのマウスの抗CD3抗体OKT3の結合を阻害する能力を示すグラフである。図9Cは、本発明の28F11 huCD3抗体、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体による、ヒト末梢血T細胞の表面由来のCD3およびTCRの抗原性調節を示すグラフである。図9Dは、本発明の28F11、27H5 VL1 huCD3抗体、27H5 VL2 huCD3抗体、15C3 VL1 huCD3抗体および15C3 VL2 huCD3抗体を含む種々の抗CD3抗体の、T細胞の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図10】図10は、CD3イプシロン鎖のアミノ酸配列に由来するペプチドアレイ上の完全ヒトモノクローナル抗体28F11の結合パターンを示す図である。
【図11】図11は、野生型の28F11 huCD3抗体(28F11WT)、L234L235からA234A235への変異を有する変異28F11 huCD3抗体(28F11AA)、およびL234L235からA234E235への変異を有する変異28F11 huCD3抗体(28F11AE)に曝露された際の、サイトカイン放出のレベルを示す一連のグラフである。図11Aは、これらの抗体に曝露された際のTNF−アルファ放出のレベルを示し、図11Bは、インターフェロン・ガンマ放出のレベルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(詳細な説明)
本発明は、CD3イプシロン鎖(CD3ε)に対して特異的な完全ヒト抗体モノクローナルを提供する。これらの抗体は、それぞれ、本明細書中でhuCD3抗体と呼ばれる。
【0032】
CD3は、成熟Tリンパ球内の少なくとも5個の膜結合ポリペプチドの複合体であり、これらのポリペプチドは、互いに非共有結合し、そしてT細胞レセプターと非共有結合している。CD3複合体としては、ガンマ鎖、デルタ鎖、イプシロン鎖、ゼータ鎖およびイータ鎖(サブユニットとも呼ばれる)が挙げられる。マウスの抗体であるOKT3、SP34、UCHT1または64.1により例示されるように、これらの鎖の幾つかに対する非ヒトモノクローナル抗体が、開発されている。(例えば、Juneら,J.Immunol.136:3945〜3952(1986);Yangら,J.Immunol.137:1097〜1100(1986);およびHaywardら,Immunol.64:87〜92(1988)を参照のこと)。
【0033】
本発明のhuCD3抗体は、2系統のトランスジェニックマウス(HuMabTMマウスおよびKMTMマウス(Medarex,Princeton NJ))を免疫化することにより産生された。
【0034】
本発明のhuCD3抗体は、以下の特性の1つ以上を有する:huCD3抗体はCD3陽性(CD3+)細胞には結合するが、CD3陰性(CD3−)細胞には結合しないこと、huCD3抗体はCD3およびT細胞レセプター(TcR)の細胞表面発現レベルの変化を含む抗原性調節を誘導すること、またはhuCD3抗体はマウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体のTリンパ球への結合を阻害すること。本発明のhuCD3抗体は、CD3への結合についてマウスの抗CD3抗体OKT3と競合し、huCD3抗体への曝露の際CD2、CD4またはCD8の細胞表面発現に影響することなくCD3および/またはTcRを除去するか、マスキングする。CD3および/またはTcRのマスキングは、T細胞活性化の喪失または低減をもたらす。
【0035】
本発明のhuCD3抗体は、プロセシングされた(即ち、リーダー配列なしの)ヒトCD3イプシロン・サブユニットの27位から43位までのアミノ酸残基を完全に含むかまたは一部分含む、CD3に結合する。ヒトCD3イプシロン・サブユニットのアミノ酸配列は、例えば、Genbank登録番号NP_000724、AAA52295、P07766、A32069、CAA27516およびAAH49847に示されている。例えば、huCD3抗体は、アミノ酸配列EMGGITQTPYKVSISGT(配列番号67)を完全に含むかまたは一部分含む、CD3エピトープに結合する。このエピトープに結合する例示的なhuCD3モノクローナル抗体は、本明細書に記載される28F11抗体である。28F11抗体は、以下の配列番号1に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号2)および配列番号3に示された核酸配列によりコードされる軽鎖可変領域(配列番号4)を含む(図1A〜1D)。
【0036】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定された相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている(図1B、1Dおよび図5、6も参照のこと)。(Chothia,Cら,Nature 342:877〜883(1989)、Kabat,EAら,Sequences of Protein of immunological interest,第5版,US Department of Health and Human Services,US Government Printing Office(1991)を参照のこと)。28F11抗体の重鎖CDRは、以下の配列を有する:GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)およびQMGYWHFDL(配列番号29)。28F11抗体の軽鎖CDRは、以下の配列を有する:RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)およびQQRSNWPPLT(配列番号32)。
>28F11 VH ヌクレオチド配列:(配列番号1)
【0037】
【化3】
>28F11 VH アミノ酸配列:(配列番号2)
【0038】
【化4】
>28F11 VL ヌクレオチド配列:(配列番号3)
【0039】
【化5】
>28F11 VL アミノ酸配列:(配列番号4)
【0040】
【化6】
該23F10抗体は、下の配列番号5に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号6)、および配列番号7に示された核酸配列によりコードされる軽鎖可変領域(配列番号8)を含む。
【0041】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定されたCDRを含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている。(図2B、2Dも参照のこと)。23F10抗体の重鎖CDRは以下の配列を有する:GYGMH(配列番号27)、VIWYDGSKKYYVDSVKG(配列番号28)およびQMGYWHFDL(配列番号29)。23F10抗体の軽鎖CDRは以下の配列を有する:RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)およびQQRSNWPPLT(配列番号32)。
>23F10 VH ヌクレオチド配列:(配列番号5)
【0042】
【化7】
>23F10 VH アミノ酸配列:(配列番号6)
【0043】
【化8】
>23F10 VL ヌクレオチド配列:(配列番号7)
【0044】
【化9】
>23F10 VL アミノ酸配列:(配列番号8)
【0045】
【化10】
27H5抗体は、下の配列番号9に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号10)、ならびに、配列番号11〜15に示された核酸配列によりコードされる配列番号16〜20に示されたアミノ酸配列から選択される軽鎖可変領域を含む。本明細書の実施例2に記載されるように、HuNab(登録商標)トランスジェニックマウスに由来する単一クローン・ハイブリドーマは、単一の重鎖について複数の軽鎖を産生することができる。産生された重鎖と軽鎖との各組み合わせは、本明細書の実施例2に記載されるように、最適機能についてテストされる。
【0046】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定されたCDRを含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている。(図3B、3D、5および7〜8も参照のこと)。27H5抗体の重鎖CDRは以下の配列を有する:SYGMH(配列番号33)、IIWYDGSKKNYADSVKG(配列番号34)、GTGYNWFDP(配列番号35)。27H5抗体の軽鎖CDRは以下の配列を有する:RASQSVSSSYLA(配列番号36)、GASSRAT(配列番号37)、QQYGSSPIT(配列番号38)、RASQGISSALA(配列番号39)、YASSLQS(配列番号40)、QQYYSTLT(配列番号41)、DASSLGS(配列番号42)、WASQGISSYLA(配列番号43)。
>27H5 VH ヌクレオチド配列:(配列番号9)
【0047】
【化11】
>27H5 VH アミノ酸配列:(配列番号10)
【0048】
【化12】
>27H5 VL1 ヌクレオチド配列:(配列番号11)
【0049】
【化13】
>27H5 VL2 ヌクレオチド配列:(配列番号12)
【0050】
【化14】
>27H5 VL3 ヌクレオチド配列:(配列番号13)
【0051】
【化15】
>27H5 VL4 ヌクレオチド配列:(配列番号14)
【0052】
【化16】
>27H5 VL5 ヌクレオチド配列:(配列番号15)
【0053】
【化17】
>27H5 VL1 アミノ酸配列:(配列番号16)
【0054】
【化18】
>27H5 VL2 アミノ酸配列:(配列番号17)
【0055】
【化19】
>27H5 VL3 アミノ酸配列:(配列番号18)
【0056】
【化20】
>27H5 VL4 アミノ酸配列:(配列番号19)
【0057】
【化21】
>27H5 VL5 アミノ酸配列:(配列番号20)
【0058】
【化22】
15C3抗体は、下の配列番号21に示された核酸配列によりコードされる重鎖可変領域(配列番号22)、ならびに、配列番号23〜24に示された核酸配列によりコードされる配列番号25〜26に示されたアミノ酸配列から選択される軽鎖可変領域を含む。本明細書の実施例2に記載されたように、HuNab(登録商標)トランスジェニックマウスに由来する単一クローン・ハイブリドーマは、単一の重鎖について複数の軽鎖を産生することができる。産生された重鎖と軽鎖との各組み合わせは、本明細書の実施例2に記載されたように、最適機能についてテストされる。
【0059】
Chothiaら,1989、E.A.Kabatら,1991により規定されたCDRを含むアミノ酸は、下でボックスにより強調されている(図4B、4D、および5〜7も参照のこと)。15C3抗体の重鎖CDRは、以下の配列を有する:SYGMH(配列番号33)、AIWYNGRKQDYADSVKG(配列番号44)およびGTGYNWFDP(配列番号35)。15C3抗体の軽鎖CDRは、以下の配列を有する:RASQSVSSYLA(配列番号30)、DASNRAT(配列番号31)、QQRSNWPWT(配列番号45)、RASQGISSALA(配列番号39)、DASSLES(配列番号46)、QQFNSYPIT(配列番号47)。
>15C3 VH ヌクレオチド配列:(配列番号21)
【0060】
【化23】
>15C3 VH アミノ酸配列:(配列番号22)
【0061】
【化24】
>15C3 VL1 ヌクレオチド配列:(配列番号23)
【0062】
【化25】
>15C3 VL2 ヌクレオチド配列:(配列番号24)
【0063】
【化26】
>15C3 VL1 アミノ酸配列:(配列番号25)
【0064】
【化27】
>15C3 VL2 アミノ酸配列:(配列番号26)
【0065】
【化28】
本発明のhuCD3抗体としてはまた、配列番号2、配列番号6、配列番号10または配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%またはそれより多く同一である重鎖可変アミノ酸配列および/または配列番号4、配列番号8、配列番号16〜20または配列番号25〜26のアミノ酸配列と少なくとも90%、92%、95%、97%98%、99%またはそれより多く同一である軽鎖可変アミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。
【0066】
あるいは、該モノクローナル抗体は、28F11、27H5、23F10または15C3と同じエピトープに結合する抗体である。
【0067】
特に規定されていない限り、本発明に関連して使われる科学技術用語は、当業者に普通に理解される意味を有する。さらに、文脈により特に必要としない限り、単数形は複数を含み、複数形は単数を含む。一般に、本明細書に記載された細胞および組織培養、分子生物学、ならびに、タンパク質およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの化学およびハイブリダイゼーションに関連して、これらの技術において用いられる術語は、当該分野で周知であり、普通に使われている。標準的技術は、組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、組織培養および形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)について使われる。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様明細書に従って実施されるか、または当該分野で普通に達成されているように実施されるか、もしくは本明細書に記載されたように実施される。前述の技術および手順は、当該分野で周知であり、かつ本明細書を通して引用され、考察されている種々の一般的かつより詳細な参考文献に記載されている、従来的方法により実施される。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989))を参照のこと。本明細書に記載された分析化学、合成有機化学、薬化学(medicinal chemistry)および薬化学(pharmaceutical chemistry)に関連して使われた学術用語およびこれらの化学の実験手順および技術は、周知のものであり、当該分野で普通に使われている。標準的技術は、化学合成、化学分析、薬学的調製、処方、送達および患者の処置に使用されている。
【0068】
本開示に従って使用されている以下の用語は、特に明示しない限り、以下の意味を有すると理解される。
【0069】
本明細書で使われている用語「抗体」は、免疫グロブリン(Ig)分子(即ち、抗原に特異的に結合する(抗原と免疫反応する)抗原結合部位を含む分子)および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を意味している。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)2フラグメントおよびFab発現ライブラリが挙げられるが、これらに限定されない。「特異的に結合する」または「免疫反応する」は、該抗体が所望の抗原の1つ以上の抗原決定基と反応し、そして他のポリペプチドとは反応(即ち、結合)しないか、またははるかに低い親和性(Kd>10−6)にて結合することを意味する。
【0070】
基本的な抗体構造ユニットは、テトラマーを含むことが公知である。各テトラマーは、の同一なポリペプチド鎖の2つの対から構成され、各対は、1つの「軽い」鎖(25kDa)および1つの「重い」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識を司る約100〜110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を司る定常領域を規定する。ヒトの軽鎖は、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファおよびイプシロンとして分類され、抗体のイソ型をそれぞれIgM、IgD、IgAおよびIgEとして規定する。軽鎖内および重鎖内で、可変領域および定常領域は、約12個以上のアミノ酸の「J」領域により結合され、重鎖はまた、約10個以上のアミノ酸の「D」領域をも含む。一般に、Fundamental Immunology,第7章(Paul,W.ら,第2版,Raven Press,N.Y.(1989))を参照のこと。各軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。
【0071】
本明細書で使われている、用語「モノクローナル抗体」(MAb)または「モノクローナル抗体組成物」は、独特の軽鎖遺伝子産物および独特の重鎖遺伝子産物からなる抗体分子の1つの分子種のみを含む、抗体分子の集団を意味する。特に、モノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)は、集団のすべての分子において同一である。MAbは、MAbに対する独特の結合親和性により特徴づけられる抗原の特定のエピトープと免疫反応し得る抗原結合部位を含む。
【0072】
一般に、ヒトから得られた抗体分子は、分子内に存在する重鎖の性質により互いに異なる、IgG、IgM、IgA、IgEおよびIgDのいずれかのクラスに関連している。特定のクラスは、IgG1、IgG2などのようなサブクラスを有する。さらに、ヒトにおいて、軽鎖は、カッパ鎖であってもラムダ鎖であってもよい。
【0073】
用語「抗原結合部位」または「結合部分」は、抗原結合に関与する免疫グロブリン分子の部分を意味している。抗原結合部位は、重(H)鎖および軽(L)鎖のN末端可変(V)領域のアミノ酸残基により形成される。重鎖および軽鎖のV領域内の3つの非常多様性のある部分(stretch)は、「超可変領域」と呼ばれ、「フレームワーク領域」すなわち「FR」として公知であるより保存的な隣接する部分(stretch)の間に介在する。したがって、用語「FR」は、天然において、免疫グロブリンにおける超可変領域の間または該領域に隣接して見出される、アミノ酸配列をいう。1つの抗体分子において、軽鎖の3つの超可変領域および重鎖の3つの超可変領域は、3次元空間において互いに関連して配置され、抗原結合表面を形成する。抗原結合表面は、結合した抗原の3次元表面に対して相補的であり、重鎖および軽鎖各々の3つの超可変領域は、「相補性決定領域」もしくは「CDR」と呼ばれる。アミノ酸の各ドメインへの割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987および1991)),またはChotia & Lesk J.Mol.Biol.196;901〜917(1987),Chothiaら,Nature 342:878〜883(1989)の定義に従っている。
【0074】
本明細書で使われている、用語「エピトープ」は、免疫グロブリン、scFvまたはT細胞レセプターに特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基を含む。用語「エピトープ」は、免疫グロブリンまたはT細胞レセプターに特異的に結合することができる任意のタンパク質決定基を含む。エピトープの決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子を分類する化学的に活性な表面からなり、通常、特異的な3次元構造特性、並びに特異的な電荷特性を有する。抗体は、解離定数が≦1μM、好ましくは≦100nMおよび最も好ましくは≦10nMである場合に、抗原に特異的に結合すると言われている。
【0075】
本明細書で使われている、用語「免疫学的結合」および「免疫学的結合特性」は、免疫グロブリン分子と、免疫グロブリンが特異的であるところの抗原との間で起きる型の非共有結合的相互作用を意味している。免疫学的結合相互作用の強度、または親和性は、該相互作用の解離定数(Kd)により表され得、Kdが小さいほど大きな親和性を表す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当該分野で周知の方法を用いて定量される。このような方法の1つは、抗原結合部位/抗原複合体形成および解離の速度を測定する方法であり、これらの速度は該複合体のパートナーの濃度、相互作用の親和性および両方向の速度に等しく影響を及ぼす幾何学的パラメーターに依存する。したがって、「結合速度定数(on rate constant)」(Kon)および「解離速度定数(off rate constant)」(Koff)の両方は、濃度ならびに結合および解離の実際の速度により決定され得る。(Nature 361:186〜87(1993))。Koff/Konの比により、親和性に関係のないすべてのパラメータを削除することができ、該比は解離定数Kdに等しい。(一般的に、Daviesら(1990)Annual Rev Biochem 59:439〜473を参照のこと)。本発明の抗体は、放射性リガンド結合試験または当業者に公知の類似の試験のようなアッセイによって測定された場合、平衡結合定数(Kd)が≦1μM、好ましくは≦100nMおよび最も好ましくは≦100pM〜1pMである場合に、CD3エピトープに特異的に結合すると言われている。
【0076】
ヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体(例えば、モノクローナル抗体28F11、27H5、23F10または15C3)と同じ特異性を有する場合、前者のヒトモノクローナル抗体は、後者である本発明のヒトのモノクローナル抗体がCD3抗原ポリペプチドに結合することを妨げるか否かを確認することにより、前者が後者と同じ特異性を有することを過度の実験なしに決定し得ることを、当業者は理解するであろう。テストされているヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトのモノクローナルと競合している場合(本発明のヒトのモノクローナル抗体による結合の低下によって示される)、これら2つのモノクローナル抗体は、同じエピトープに結合するか、または密接に関連しているエピトープに結合する。ヒトモノクローナル抗体が本発明のヒトモノクローナル抗体の特異性を有するかどうかを決定するための別の方法は、本発明のヒトのモノクローナル抗体を、通常は反応性であるCD3抗原ポリペプチドと共に予め培養し、次いで、テストされるヒトモノクローナル抗体を添加して、テストされるヒトのモノクローナル抗体がCD3抗原ポリペプチドに結合する能力を阻害されるかどうかを決定する方法である。テストされるヒトのモノクローナル抗体が阻害されるならば、おそらく、該抗体は、本発明のモノクローナル抗体と同じであるか、または機能的に同等である、エピトープ特異性を有する。
【0077】
当該分野内で公知の種々の手順が、CD3タンパク質のようなタンパク質に対して指向されるモノクローナル抗体、またはこれらのタンパク質の誘導体、フラグメント、アナログ、ホモログ、またはオルソログに対して指向されるモノクローナル抗体の産生のために使われる。(例えば、参考として本明細書中に援用される、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow E,およびLane D,1988,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照のこと)。完全ヒト抗体は、CDRを含む軽鎖および重鎖両方の配列全体がヒトの遺伝子由来である、抗体分子である。このような抗体は、本明細書中で「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」と呼ばれる。ヒトモノクローナル抗体は、例えば、下の実施例1に記載された手順を用いて調製される。ヒトのモノクローナル抗体はまた、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら,1983 Immunol Today 4:72を参照のこと)、およびヒトのモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら,1985 In:MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77〜96を参照のこと)を用いることによっても調製され得る。ヒトのモノクローナル抗体は、ヒトのハイブリドーマ(Coteら,1983.Proc Natl Acad Sci USA 80:2026〜2030)を用いるか、またはインビトロでエプスタイン−バーウイルスを用いてヒトB細胞を形質転換すること(Coleら,1985 In:MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77〜96を参照のこと)により、利用され得、そして産生され得る。
【0078】
抗体は、主に免疫血清のIgG画分を提供する、タンパク質Aまたはタンパク質Gを用いた親和性クロマトグラフィーのような周知の技術により精製される。その後、または代替的に、所望の免疫グロブリンの標的である特定の抗原またはこれらのエピトープは、免疫親和性クロマトグラフィーにより免疫特異性抗体を精製するためにカラムに固定化され得る。免疫グロブリンの精製は、例えば、D.Wilkinson(The Scientist,published by The Scientist,Inc.,Philadlphia PA,Vol.14,No.8(2000年4月17日),pp.25〜28)により考察されている。
【0079】
例えば、抗体の免疫関連疾患の処置における有効性を高めるために、エフェクター機能に関して本発明の抗体を改変することが望ましい。例えば、システィン残基をFc領域に導入して、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。このようにして作り出されたホモ二量体抗体は、改善された内在化能力を有し得、そして/またはより高い補体媒介性細胞殺傷性および抗体依存性細胞性傷害活性(ADCC)を有し得る。(Caronら,J.Exp.Med.,176:1191〜1195(1992)およびShopes,J.Immunol.,148:2918〜2922(1992)を参照のこと)。あるいは、2つのFc領域を有し、それにより、補体溶解能力およびADCC能力が増強され得るような、抗体を設計することができる。(Stevensonら,Anti−Cancer Drug Design,3:219〜230(1989)を参照のこと)。
【0080】
本発明はまた、Fv2huCD3フラグメント、Fab2huCD3フラグメント、Fab’huCD3フラグメントおよびF(ab’)2huCD3フラグメント、単鎖huCD3抗体、二重特異性huCD3抗体およびヘテロ結合体huCD3抗体をも包含する。
【0081】
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する抗体である。今回の場合、結合特異性のうちの1つは、CD3に対するものである。第2の結合標的は、任意の他の抗原であり、有利なのは、細胞表面タンパク質またはレセプター、あるいはレセプターサブユニットである。
【0082】
二重特異性抗体を作製する方法は、当該分野公知である。従来、二重特異性抗体の組換え体産生は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の共発現に基づいており、2つの重鎖は異なる特異性を有する(MilsteinおよびCuello,Nature,305,537〜539(1983))。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の無作為な組み合わせに起因して、これらのハイブリドーマ(クオドロマ)は、10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうちの1つだけが、的確な二重特異性構造を有する。この的確な分子の精製は、通常、親和性クロマトグラフィ工程によって達成される。類似の手順は、1993年5月13日公開の国際公開第93/08829号、およびTrauneckerら,EMBO J.,10:3655〜3659(1991)において開示されている。
【0083】
所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体ー抗原結合部位)は、融合されて免疫グロブリン定常ドメイン配列になることができる。融合は、ヒンジ、CH2およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを用いて行われるのが好ましい。軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましく、これらの融合体のうちの少なくとも1つに存在する。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、および、所望される場合、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAが、別々の発現ベクター内に挿入され、適切な宿主生物に共トランスフェクションされる。二重特異性抗体を作製する方法のさらなる詳細については、例えば、Sureshら,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照のこと。
【0084】
国際公開第96/27011号に記載されている別のアプローチによると、一対の抗体分子の間の界面は、組み換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の百分率を最大にするように設計することができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3領域の少なくとも一部を含む。この方法において、第1抗体分子の界面から1つ以上の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置換される。大きなアミノ酸側鎖を比較的小さな側鎖(アラニンまたはスレオニン)で置換することにより、大きな側鎖と同一または類似のサイズの補償(compensatoly)「空洞(cavity)」が、第2抗体分子の界面上に作られる。これにより、ホモ二量体のような望ましくない他の最終産物を上回って、ヘテロ二量体の収量を増加させるメカニズムが提供される。
【0085】
二重特異性抗体は、完全抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製され得る。抗体フラグメントから二重特異性抗体を産生する技術は、文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製され得る。Brennanら,Science 229:81(1985)には、インタクトな抗体がタンパク質分解により開裂されて、F(ab’)2フラグメントを作り出す手順が記載されている。これらのフラグメントは、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元され、近接するジチオールを安定化させることにより、分子間ジスルフィドの形成を防止する。作り出されたFab’フラグメントは、次いで、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に転換される。Fab’−TNB誘導体の1つは、次いで、メルカプトエチルアミンを用いた還元によりFab’−チオールに再転換され、等モル量の他のFab’−TNB誘導体と混合され、二重特異性抗体を形成する。産生された二重特異性抗体は、酵素を選択的に固定化する薬剤として使用され得る。
【0086】
さらに、Fab’フラグメントは、E.coliから直接回収され、化学的に結合されて、二重特異性抗体を形成することができる。Shalabyら,J.Exp.Med.175:217−225(1992)には、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)2分子の産生が記載されている。各Fab’フラグメントは、E.coliから別々に分泌され、インビトロで指向される化学結合に供されて、二重特異性抗体を形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、ErbB2レセプターを過剰発現する細胞および正常なヒトT細胞に結合することができ、並びにヒトの乳癌標的に対してヒト細胞傷害性のリンパ球の溶解活性を引き起こすことができた。
【0087】
組換え細胞培養物から二重特異性抗体フラグメントを直接作り、そして単離する、種々の技術もまた、記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシン・ジッパーを用いて産生されている。Kostelnyら,J.Immunol.148(5):1547〜1553(1992)。Fosタンパク質およびJunタンパク質からのロイシン・ジッパー・ペプチドは、遺伝子融合により2種の異なる抗体のFab’部分に連結された。抗体ホモ二量体は、ヒンジ領域において還元されてモノマーを形成し、次いで、再度酸化されて抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法はまた、抗体ホモ二量体の産生にも利用される。Hollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444〜6448(1993)により記載された「ダイアボディ(diabody)」技術により、二重特異性フラグメントを作製するための代替メカニズムが提供された。該フラグメントは、同じ鎖の2つのドメインの間で対形成するには短すぎるリンカーにより、軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、1つのフラグメントのVHおよびVLドメインは、別のフラグメントの相補性VHおよびVLドメインと対形成し、それにより、2つの抗原結合部位を形成せざるを得ない。単鎖Fv(sFv)二量体の使用により二重特異性抗体フラグメントを作る別の方法も報告されている。Gruberら,J.Immunol.152:5368(1994)を参照のこと。
【0088】
2よりも多い原子価を有する抗体が、企図される。例えば、三重特異性抗体が、調製され得る。Tuttら,J.Immunol.147:60(1991)。
【0089】
例示的な二重特異性抗体は、2種の異なるエピトープに結合することができ、そのうちの少なくとも1つは、本発明のタンパク質抗原に由来している。あるいは、免疫グロブリン分子の抗抗原性アームは、白血球(例えば、T細胞レセプター分子(例えば、CD2、CD3、CD28またはB7))上またはIgG(FcγR)のFcレセプター(FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16))上の誘発(triggering)分子に結合するアームと結合させることができ、それによって、細胞防御メカニズムを特定の抗原が発現する細胞に集中させる。二重特異性抗体はまた、特定の抗原を発現する細胞に細胞傷害性薬剤を方向付けるためにも使うことができる。これらの抗体は、抗原結合性アームおよび細胞傷害性薬剤またはEOTUBE、DPTA、DOTAまたはTETAのような放射性核種キレート化剤を結合するアームを有する。目的の別の二重特異性抗体は、本明細書に記載されたタンパク質抗原に結合し、さらに、組織因子(TF)に結合する。
【0090】
ヘテロ結合体化抗体もまた、本発明の範囲内にある。ヘテロ結合体化抗体は、2つの共有結合した抗体から構成されている。このような抗体は、例えば、望ましくない細胞に対して免疫系細胞を標的化すること(米国特許第4,676,980号)、HIV感染の処置に使うこと(国際公開第91/00360号;国際公開第92/200373号;欧州特許第03089号)が提案されている。これらの抗体は、架橋剤を含む方法を含む合成タンパク質化学において公知の方法を用いて、インビトロで調製され得ることが検討されている。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いるか、またはチオエーテル結合を形成することにより、構築することができる。この目的のための適切な試薬の例としては、イミノチオレート、メチル−4−メルカプトブチルイミデートおよび、例えば、米国特許第4,676,980号で開示されたものが挙げられる。
【0091】
本発明は、また、細胞傷害性薬剤に結合体化された抗体を含む免疫結合体にも関連し、細胞傷害性薬剤は、例えば、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物に由来する酵素的に活性な毒素、またはこれらのフラグメント)、または放射線同位体(即ち、放射性結合体)である。
【0092】
酵素的に活性な毒素および使用可能なこれらのフラグメントとしては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性フラグメント、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、アルファサルシン、Aleurites fordiiタンパク質類、dianthinタンパク質類、Phytolaca americanaタンパク質類(PAPI、PAPIIおよびPAP−S)、Momordica charantiaインヒビター、クルシン、クロチン(crotin)、Sapaonaria officinalisインヒビター、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)およびトリコセセンズ(tricothecenes)が挙げられる。種々の放射性核種が放射結合体化抗体の産生に利用できる。例としては212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reが挙げられる。
【0093】
抗体と細胞傷害性薬剤との結合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、イミノチオレート(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCLなど)、活性エステル類(ジスクシンイミジル・スベラート)、アルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(トリエン−2,6−ジイソシアネートなどの)、およびビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)などの種々の二官能性タンパク質結合剤を用いて作られる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら,Science 238:1098(1987)に記載されているように作ることができる。炭素14標識化1−イソチオシアネートベンジル−3−メチルジエチレン・トリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、放射性核種を抗体に結合体化するための例示的なキレート化剤である。(国際公開第94/11026号を参照のこと)。
【0094】
当業者は、広範な種々の使用され得る部分が、本発明の得られた抗体または他の分子に結合され得ることを理解するであろう。(例えば、「Conjugate Vaccines」,Contributions to Microbiology and Immunology,J.M.Cruse and R.E.Lewis,Jr(編),Carger Press,New York,(1989)を参照のこと)。なお、この文献の全内容は本明細書中で参考として援用される。
【0095】
抗体およびその他の部分がそれぞれの活性を保持する限り、これら2つの分子を結合する任意の化学反応により、結合が達成される。この連結には、多くの化学メカニズム、例えば、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合および錯体形成が含まれ得る。しかし、好ましい結合は共有結合である。共有結合は、既存の側鎖の直接的縮合または外部架橋分子の組み込みのいずれかにより達成される。多くの二価または多価の連結剤が、本発明の抗体のようなタンパク質分子を他の分子に結合させる場合に有用である。例えば、代表的な結合剤としては、チオエステル類、カルボジイミド類、スクシンイミド・エステル類、ジイソシアネート類、グルタルアルデヒド、ジアゾベンゼン類およびヘキサメチレンジアミン類のような有機化合物が挙げられる。この列挙は、当該分野で公知の種々の種類の結合剤を網羅したものではなく、より一般的な結合剤の例示である。(KillenおよびLindstrom,Jour.Immun.133:1335〜2549(1984);Jansenら,Immunological Reviews 62:185〜216(1982);Vitettaら,Science 238:1098(1987)を参照のこと)。好ましいリンカーは、文献に記載されている。(例えば、MBS(M−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシサクシンイミド・エステル)の使用について記述されているRamakrishnan,Sら,Cancer Res.44:201〜208(1984)を参照のこと)。オリゴペプチドリンカーにより抗体に結合されたハロゲン化アセチル・ヒドラジン誘導体の使用について記述されている米国特許第5,030,719号も参照のこと。特に好ましいリンカーとしては、(i)EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・ヒドロクロリド、(ii)SMPT(4−スクシンイミジルオキシカルボニル−アルファ−メチル−アルファ−(2−ピリジル(pridyl)−ジチオ)−トルエン(Pierce Chem.Co.,Cat.(21558G);(iii)SPDP(スクシンイミジル−6[3−(2−ピリジル−ジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(Pierce Chem.Co.,Cat#21651G);(iv)Sulfo−LC−SPDP(スルホスクシンイミジル−6[3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(Pierce Chem.Co.,Cat#2165−G);および(v)EDCに接合したスルホ−NHS(N−ヒドロキシスルホ−スクシンイミド:Pierce Chem.Co.,Cat.#24510)がある。
【0096】
上に記載されたリンカーには、異なる特性を有する成分が含まれ、したがって、物理化学的特性が異なる結合体がもたらされる。例えば、アルキル・カルボキシレート類のスルホ−NHSエステル類は、芳香族カルボキシレート類のスルホ−NHSエステル類よりも安定性がよい。NHSエステル含有リンカーは、スルホ−NHSエステル類よりも安定性が劣る。さらに、リンカーSMPTには、立体障害のあるジスルフィド結合が含まれ、安定性の向上した複合体を形成することができる。ジスルフィド結合は、インビトロで開裂され、利用できる結合体が少ししか得られないので、一般に、安定性が低い。特に、スルホ−NHSは、カルボジイミド結合の安定性を高めることができる。カルボジイミド結合(EDCなど)は、スルホ−NHSと併用して使用した場合、カルボジイミド結合反応単独よりも加水分解に対して耐性であるエステル類を形成する。
【0097】
本明細書で使われている用語「単離されたポリヌクレオチド」は、ゲノム起源、cDNA起源、合成起源またはこれらの組み合わせを起源とするポリヌクレオチドであって、この「単離されたポリヌクレオチド」は、その起源により、(1)「単離されたポリヌクレオチド」が天然において見出されるポリヌクレオチドのすべてまたは一部を伴わないか、(2)天然において連結されていないポリヌクレオチドに作動可能に連結されるか、または(3)より大きな配列の一部として天然に存在することはない、ポリヌクレオチドを意味する。
【0098】
本明細書で「単離タンパク質」と呼ばれている用語は、cDNA起源、組換えRNA起源、合成起源またはこれらの組み合わせの起源のタンパク質を意味し、該タンパク質は、その起源または由来の源により、「単離タンパク質」は、(1)天然において見出されるタンパク質を伴わないか、(2)同じ源からの他のタンパク質、例えば、海洋性タンパク質を含まないか、(3)異なる種由来の細胞により発現されるか、または(4)天然に存在しない。
【0099】
本明細書で一般用語として用いられている用語「ポリペプチド」は、ポリペプチド配列の天然タンパク質、フラグメントまたはアナログを意味している。したがって、天然タンパク質フラグメントおよびアナログは、ポリペプチド属の種である。本発明により好ましいポリペプチドとしては、図1B、2B、3Bおよび4Bにより表されるヒト重鎖免疫グロブリン分子、および図1D、2D、3Dおよび4Dにより表されるヒト重鎖免疫グロブリン分子、重鎖免疫グロブリン分子を軽鎖免疫グロブリン分子(例えば、カッパ軽鎖免疫グロブリン分子)とを含む組み合わせによって形成される抗体分子、およびその逆により形成される抗体分子、並びにこれらのフラグメントおよびアナログが挙げられる。
【0100】
本明細書で使われ、対象に適用された用語「天然に存在する」は、対象が天然匂いて見出され得る事実を意味している。例えば、天然の供給源から単離され得る生物(ウイルスを含む)中に存在するが、研究室他においてヒトにより意図的に改変されていない、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0101】
本明細書で使われている用語「作動可能に連結された」は、そのように記載された成分の位置を意味し、これらの成分の位置は、これらの成分を意図した方法で機能させることを可能にする関係にある。コード配列に「作動可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が制御配列に適応できる条件下で達成されるように連結される。
【0102】
本明細書で使われている用語「制御配列」は、制御配列が連結されるコード配列の発現およびプロセシングを生じるのに必要である、ポリヌクレオチド配列を意味している。このような制御配列の性質は、原核生物の宿主生物によって異なり、このような制御配列には、一般に、真核生物中のプロモーター、リボソーム結合部位および転写終止配列が含まれ、一般に、このような制御配列には、プロモーターおよび転写終止配列が含まれる。用語「制御配列」は、最小限、その存在が発現およびプロセシングに必須であるすべての成分を含むことを意図しており、その存在が有利であるさらなる成分(例えば、リーダー配列および融合パートナー配列)を含むことができる。本明細書で「ポリヌクレオチド」と呼ばれている用語は、長さが少なくとも10塩基のヌクレオチド(リボヌクレオチドかデオシヌクレオチドのいずれか、またはいずれかの型のヌクレオチドの変形態)のポリマー性ホウ素を意味している。この用語には、DNAの一本鎖および二本鎖の形態が含まれている。
【0103】
本明細書でオリゴヌクレオチドと呼ばれている用語は、天然に存在するオリゴヌクレオチド連結、および存在しないオリゴヌクレオチド連結により一緒に連結された、天然に存在するヌクレオチド、および改変ヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは、一般に、長さ200塩基以下を含むポリヌクレオチド・サブセットである。オリゴヌクレオチドは、長さが10〜60塩基であることが好ましく、長さが12塩基、13塩基、14塩基、15塩基、16塩基、17塩基、18塩基、19塩基または20〜40塩基であることが最も好ましい。オリゴヌクレオチドは、通常、例えば、プローブの場合、一本鎖である。しかし、オリゴヌクレオチドは、例えば、遺伝子変異体の構築に使用する場合二本鎖であり得る。本発明のオリゴヌクレオチドは、センスかアンチセンスのいずれかのオリゴヌクレオチドである。
【0104】
本明細書で「天然に存在するヌクレオチド」と呼ばれた用語としては、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドが挙げられる。本明細書で「改変ヌクレオチド」と呼ばれた用語としては、改変されたかまたは置換された糖類などを有するヌクレオチドが挙げられる。本明細書で「ヌクレオチド連結」と呼ばれた用語としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレルエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホルアニラデート、ホスホロンミデートなどのオリゴヌクレオチド連結が挙げられる。例えば、LaPlancheら,Nucl.Acids Res.14:9081(1986);Stecら,J.Am.Chem.Soc.106:6077(1984);Steinら,Nucl.Acids Res.16:3209(1988);Zonら,Anti Cancer Drug Design 6:539(1991);Zonら,Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,pp.87〜108(F.Eckstein,Ed.,Oxford University Press,Oxford England(1991));Stecら,米国特許第5,151,510号;Uhlmann and Peyman Chemical Reviews 90:543(1990)を参照のこと。オリゴヌクレオチドは、所望される場合、検出のための標識を含むことができる。
【0105】
本明細書で「選択的にハイブリダイズする」と呼ばれた用語は、検出可能かつ特異的に結合することを意味する。本発明に従うポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびこれらのフラグメントは、非特異的な核酸に対する感知可能な量の検出可能な結合を最小限にするハイブリダイゼーション条件および洗浄条件下において、核酸鎖に対して選択的にハイブリダイズする。当該分野で公知であり、本明細書で論じられた選択的なハイブリダイゼーション条件を達成するためには、高ストリンジェンシー条件が使われる。一般に、本発明のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびフラグメントと目的の核酸配列との間の核酸配列相同性は、少なくとも80%、より代表的には相同性が少なくとも85%、90%、95%、99%および100%に増加するのが好ましい。2つのアミノ酸配列は、これらの配列の間に部分的または完全な同一性があるならば相同である。例えば、85%の相同は、これら2つの配列が、マッチングが最大になるように並べられている場合、アミノ酸の85%が同一であることを意味している。(マッチングされている2つの配列のいずれかにおける)ギャップが、5以下の最大マッチングギャップ長が許容されるのが好ましく、2以下が許容されればより好ましい。あるいは、好ましくは、2つのタンパク質配列(または少なくとも長さ30アミノ酸のタンパク質配列に由来するポリペプチド配列)は、これらが、変異データマトリックスおよび6以上のギャップペナルティを有するプログラムALIGNを用いて、(標準偏差ユニットにおいて)5を超えた配列スコアを有するならば、本明細書で用語「相同」が使用される場合、相同である。Dayoff,M.O.,in Atlas of Protein Sequence and Structure,pp.101−110(Volume5,National Biomedical Research Foundation(1972))およびこの巻に対する補遺2,pp.1〜10を参照のこと。2つの配列およびその一部は、これらのアミノ酸がALIGNプログラムを用いて最適に整列された場合、50%以上同一であればより好ましい相同である。用語「〜に相当する」は、ポリヌクレオチド配列が基準ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部に対して相同(即ち、同一ではあるが、厳密には進化的には関係していない)であること、およびポリペプチド配列が基準ポリペプチド配列と同一であることを意味するために本明細書で使われる。対照的に、用語「相補的である」は、相補性配列が、基準ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部と相同であることを意味するために本明細書で使われる。例として、ヌクレオチド配列「TATAC」は基準配列「TATAC」に相当し、基準配列「GTATA」に対して相補的である。
【0106】
以下の用語は、2個以上のポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の配列関係を説明するために使われる:「基準配列」、「比較ウインドウ」、「配列同一性」、「配列同一性の百分率」および「実質的に同一」。「基準配列」は、配列を比較するための基礎として使われる規定された配列であり、基準配列は、例えば、配列の列挙において与えられる全長cDNAまたは遺伝子配列のセグメントとしての比較的大きな配列のサブセットであるか、または完全なcDNAまたは遺伝子配列を含んでもよい。一般に、基準配列は、長さが少なくとも18ヌクレオチドまたは6アミノ酸であり、またはしばしば24ヌクレオチドまたは8アミノ酸であり、または多くの場合48ヌクレオチドまたは16アミノ酸である。2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、各々が(1)2つの分子の間で類似している配列(即ち、完全なポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の一部)を含み、(2)さらに、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で異なっている(divergent)配列を含むことができるので、2つ(またはそれ以上)の分子間の配列比較は、代表的に、配列類似性の局部領域を同定し、比較するための「比較ウインドウ」上で2つの分子の配列を比較することによりなされる。本明細書で使われる「比較ウインドウ」は、少なくとも18の連続するヌクレオチド位置または6のアミノ酸の概念的セグメントを意味し、このウインドウでは、ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、少なくとも18の連続するヌクレオチドまたは6のアミノ酸配列の基準配列と比較され、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の部分には、2つの配列の最適アラインメントの基準配列(これは付加または欠失を含まない)と比較された20パーセント以下の付加、欠失、置換など(即ち、ギャップ)が含まれる。比較ウインドウを整列させるための配列の最適アラインメントは、Smith and Waterman Adv.Appl.Math.2:482(1981)による局部相同アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同整列アルゴリズムにより、Pearson and Lipman Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)85:2444(1988)の類似性に関する検査方法により、これらのアルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、およびWisconsin Genetics Software Package Release 7.0におけるTFASTA、(Genetics Computer Group、575 Science Dr.,Madison,Wis.)、Geneworks、またはMac Vector software packages)のコンピュータ制御された実施により、または試験により行われ、種々の方法により作り出された最良のアラインメント(即ち、比較ウインドウの上で相同の最高の百分率を生じる)が選択される。
【0107】
用語「配列同一性」は、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列が(即ち、ヌクレオチド毎または残基毎のベースで)比較ウインドウの上で同一であることを意味している。用語「配列同一性の百分率」は、比較ウインドウの上で2つの最適整列された配列を比較し、同一核酸塩基(例えば、A、T、C、G、UまたはI)または残基が両配列内で生じる位置の数を決定し、マッチングした位置の数を得て、マッチングした位置の数を比較ウインドウにおける位置の総数(即ち、ウインドウ・サイズ)で割り算し、この結果を100倍して配列同一性の百分率を得る。本明細書で使われている用語「実質的に同一」は、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の特徴を示し、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸は、少なくとも18ヌクレオチド(6アミノ酸)の位置の比較ウインドウの上で、しばしば少なくとも24〜48ヌクレオチド(8〜16アミノ酸)の位置のウインドウの上で基準配列と比較した時に、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90〜95%、より普通には99%の配列同一性を含む。配列同一性の百分率は、比較ウインドウの上で基準配列の合計20%以下の欠失または付加を含み得る配列に対して基準配列を比較することにより計算される。基準配列はより大きな配列のサブセットでもよい。
【0108】
本明細書で使われている、20種の従来のアミノ酸およびこれらの略語は、従来の用法に従う。Immunology−A Synthesis(2nd Edition,E.S.Golub and D.R.Gren,Eds.,Sinauer Associates,Sunderland7 Mass.(1991))。20種の従来のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸類)、α−,α−ジ置換アミノ酸類、N−アルキルアミノ酸類、乳酸、および他の従来のものでないアミノ酸のような非天然アミノ酸も、本発明のポリペプチドの適切な成分である。従来のものでないアミノ酸の例としては、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、ε−N,N,N−トリメチルリジン、ε−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、σ−N−メチルアルギニン、および他の類似のアミノ酸およびイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書で使われるポリペプチド表記法では、標準用法および慣例によると、左手方向はアミノ末端方向であり、右手方向はカルボキシ末端方向である。
【0109】
同様に、特に明示しない限り、一本鎖ポリヌクレオチド配列の左手端部は5’端部であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左手方向は5’方向と呼ばれる。新生RNA転写物の5’から3’への付加の方向は、RNAと同じ配列を有するDNA鎖上の転写方向配列領域と呼ばれ、そしてRNA転写物の5’端部に対して5’側である配列は「上流配列」と呼ばれ、RNAと同じ配列を有するDNA鎖上の配列領域であってRNA転写物の3’端部に対して3’側である配列領域は、「下流配列」と呼ばれる。
【0110】
ポリペプチドに適用されたように、用語「実質的に同一」は、2つのペプチド配列が、デフォルト・ギャップ重量を用いたプログラムGAPまたはBESTFITなどにより最適に整列された場合、少なくとも80パーセント、好ましくは少なくとも90パーセント、より好ましくは少なくとも95パーセント、最も好ましくは少なくとも99パーセントの配列同一性を共有することを意味する。
【0111】
同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換基により異なるのが好ましい。
【0112】
保存的アミノ酸置換基は、類似の側鎖を有する残基の互換性を意味している。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシ側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリンおよびスレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニンおよびヒスチジンであり、そして硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システィンおよびメチオニンである。好ましい保存アミノ酸置換グループは、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、およびアスパラギン−グルタミンである。
【0113】
本明細書で論議されたように、抗体または免疫グロブリン分子のアミノ酸配列の小さな変化は、アミノ酸配列の変化を少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、および最も好ましくは99%に維持している場合、本発明により包含されることが企図される。特に、保存的アミノ酸置換が企図されている。保存的置換は、アミノ酸の側鎖に関連しているアミノ酸のファミリー内で起きる置換である。遺伝子にコードされたアミノ酸は、一般に、次のようなファミリーに分類される:(1)酸性アミノ酸はアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩であり、(2)塩基性アミノ酸はリジン、アルギニン、ヒスチジンであり、(3)非極性アミノ酸はアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンであり、(4)非荷電極性アミノ酸はグリシン、アスパラギン、グルタミン、システィン、セリン、スレオニン、チロシンである。親水性アミノ酸としては、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸塩、グルタミン、グルタミン酸塩、ヒスチジン、リジン、セリンおよびスレオニンがある。疎水性アミノ酸には、アラニン、システィン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシンおよびバリンが挙げられる。アミノ酸の他のファミリーとしては、(i)脂肪族ヒドロキシ・ファミリーであるセリンおよびスレオニン、(ii)アミド含有ファミリーであるアスパラギンおよびグルタミン、(iii)脂肪族ファミリーであるアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、(iv)芳香族ファミリーであるフェニルアラニン、トリプトファン、チロシンが挙げられる。例えば、イソロイシンまたはバリンとロイシンとの、グルタミン酸塩とアスパラギン酸塩との、セリンとスレオニンとの単独の置換、または構造的に関連のあるアミノ酸とアミノ酸との類似の置換は、特に該交換がフレームワーク部位内のアミノ酸を含まないならば、得られる分子の結合または特性に対して大きな効果を持たないことを予測することは、合理的である。アミノ酸置換が機能性ペプチドを生じるかどうかは、ポリペプチド誘導体の特定の活性を試験することにより容易に決めることができる。アッセイは本明細書に詳細に記載されている。抗体または免疫グロブリン分子のフラグメントまたはアナログは、当業者により容易に調製され得る。フラグメントまたはアナログの好ましいアミノ末端およびカルボキシ末端は、機能的ドメインの境界の近くに存在する。構造的ドメインおよび機能的ドメインは、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列データを公開配列データベースまたは独自の配列データベースと比較することにより識別することができる。好ましくは、構造および/または機能が既知の他のタンパク質中に存在する、配列モチーフまたは予測されたタンパク質の立体構造のドメインを同定するために、コンピュータによる比較方法が使われる。既知の3次元構造に折りたたまれるタンパク質配列を同定する方法が、公知である。Bowie et al.Science,253:164(1991)。したがって、前述の例は、本発明による構造的ドメインおよび機能的ドメインを規定するために使われる配列モチーフおよび構造的立体構造を、当業者が理解し得ることを実証している。
【0114】
好ましいアミノ酸置換基は、(1)タンパク質分解に対する感受性を低減し、(2)酸化に対する感受性を低減し、(3)タンパク質複合体を形成する結合親和性を変え、(4)結合親和性を変え、および(4)このようなアナログの他の物理化学的または機能的特性を与えるか、または改変するものである。アナログは、天然に存在するペプチド配列以外の配列の種々のムテインを含むことができる。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(保存的アミノ酸置換が好ましい)は、天然に存在する配列において(好ましくは、分子間接触を形成するドメイン外のポリペプチドの部分において)作製され得る。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特性をほとんど変えない(例えば、置換アミノ酸は親配列中に存在する螺旋を壊す傾向はなく、親配列を特徴づける他の型の二次構造を混乱させる傾向もない)。当該分野で認められたポリペプチドの二次構造および三次構造の複数の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));and Thornton et al.Nature 354:105(1991)に記載されている。
【0115】
本明細書で使われる用語「ポリペプチド・フラグメント」は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端が欠失しているポリペプチドを意味するが、残りのアミノ酸配列は、例えば、全長cDNA配列から推定された天然に存在する配列における対応する位置と同一である。フラグメントの長さは、代表的に、少なくとも5、6、8または10アミノ酸、好ましくは少なくとも14アミノ酸、より好ましくは少なくとも20アミノ酸、通常少なくとも50アミノ酸、より一層好ましくは少なくとも70アミノ酸である。本明細書で用いられる用語「アナログ」は、推定されたアミノ酸配列の一部と実質的に同一である少なくとも25個のアミノ酸のセグメントを含み、以下の特性の少なくとも1つを有するポリペプチドを意味している:(1)適切な条件下におけるCD3への特異的な結合、(2)適切なCD3結合を遮断する能力、または(3)インビトロまたはインビボでCD3発現細胞の増殖を阻害する能力。代表的に、ポリペプチドアナログには、天然に存在する配列について保存的アミノ酸置換(または付加または欠失)が含まれている。アナログの長さは、代表的に、少なくとも20アミノ酸長、好ましくは少なくとも50アミノ酸長以上であり、天然に存在するポリペプチドの全長と同じ程度であってもよい。
【0116】
ペプチドアナログは、鋳型ペプチドの特性に類似した特性を有する非ペプチド薬物として製薬産業で普通に使われる。これらの型の非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣物」と呼ばれる。Fauchere,J.Adv.Drug Res.15:29(1986);Veber and Freidinger TINS p.392(1985);およびEvance et al.J.Med.Chem.30:1229(1987)。このような化合物は、コンピュータによる分子モデリングの助けをかりて開発されることも多い。治療上有用なペプチドに構造上似ているペプチド模倣物は、同等の治療効果または予防効果を生み出すために使われる。一般に、ペプチド模倣物は、ヒトの抗体などのパラダイムポリペプチド(即ち、生化学特性または薬理活性を有するポリペプチド)と構造上似ているが、当該分野で周知の方法により、−CH2NH−、−CH2S−、−CH2−CH2−、−CH=CH−(シスおよびトランス)、−COCH2−、CH(OH)CH2−、および−CH2SO−からなる群から選択される結合により任意に置換された1つ以上のペプチド結合を有する。同じ型のD−アミノ酸(例えば、L−リジンの代わりにD−リジン)を有する共通配列の1つ以上のアミノ酸の系統的置換が、より安定なペプチドを作り出すために使われる。さらに、共通配列または実質的に同一な共通配列変形態様を含む制約されたペプチドは、例えば、分子内ジスルフィド架橋(これが該ペプチドを環化する)を形成しうる内部システィン残基を添加することにより、当該分野で公知の方法(Rizo and Gierasch Ann.Rev.Biochem.61:387(1992))により作り出され得る。
【0117】
用語「薬剤」は、本明細書では、化合物、化合物の混合物、生物学的高分子または生物学的材料から作られた抽出物を示すために使われる。
【0118】
本明細書で使われている、用語「標識」または「標識化」は、放射性標識されたアミノ酸の組み込みまたは印を付けられたアビジン(例えば、光学的な方法または熱量測定方法により検出することができる蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)により検出されうるビオチニル部分をポリペプチドに取り付けることによる、検出可能なマーカーの組み込みを意味する。特定の状況では、標識またはマーカーも治療薬となり得る。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識化する種々の方法が、当該分野で公知であり、使用され得る。ポリペプチドの標識の例としては、放射性同位体または放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニドリン光体)、酵素標識(例えば、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ、p−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ)、化学発光、ビオチニル・グループ、二次レポータ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープ・タグ)により認識された所定のポリペプチド・エピトープがあるが、これらに限定されない。いくつかの実施例では、標識は、潜在的な立体障害を低減するために種々の長さのスペーサーアームにより取り付けられる。本明細書で使われている用語「薬剤もしくは薬物」は、患者に適切に投与された場合、所望の治療効果を誘導しうる化合物または組成物を意味している。
【0119】
本明細書の他の化学用語は、The McGraw−Hill Dictionary of Chemical Terms(Parker,S.,Ed.,McGraw−Hill,San Francisco(1985))により例示されている当該分野の従来の用法に従って使われている。
【0120】
用語「抗新生物剤」は、ヒトの新生物、特に、癌腫、肉腫、リンパ腫または白血病のような特に悪性(癌性)の病変の発症または進行を阻害する機能的特性を有する薬剤を意味するために、本明細書中で使われる。転移の阻害は、多くの場合、抗新生物剤の特性である。
【0121】
本明細書で使われている場合、「実質的に純粋」は、対象種が存在する優勢な種であることを意味し(即ち、モルベースで、その種が組成物中の他のいかなる種よりも豊富に存在する)、好ましくは、実質的に精製された画分は、対象種が、存在するすべての高分子の少なくとも約50%(モルベースで)を含む組成物である。
【0122】
一般に、実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在するすべての高分子種の約80%を超えて、より好ましくは、約85%、90%、95%および99%を超えて対象種を含む。最も好ましくは、該対象種は、該組成物が本質的には単一の高分子種からなる必須の均一性(汚染種は、従来の検出方法では組成物内において検出することができない)まで精製される。
【0123】
患者という用語には、ヒトおよび獣医の被験動物が含まれる。
【0124】
(ヒト抗体および抗体のヒト化)
huCD3抗体は、例えば、全体ヒト抗体を発現できる異種マウスを免疫化することにより作り出される(実施例1を参照のこと)。IgG huCD3抗体は、例えば、トランスジェニックマウスにより産生されたIgM抗CD3抗体を変換することにより作り出される(実施例2を参照のこと)。あるいは、このようなhuCD3抗体は、例えば、ヒト配列のみを含む抗体を用いたファージディスプレイ(phase-display)方法を用いて開発される。このようなアプローチは、例えば、国際公開第92/01047号および米国特許第6,521,404号において当該分野では周知の方法である。なお、これらの特許は本明細書に参考として援用される。このアプローチにおいて、軽鎖および重鎖の無作為な対を保有するファージのコンビナトリアルライブラリは、CD3またはこれらのフラグメントの天然の源または組換え源を用いて選別される。
【0125】
本発明には、少なくとも1つの工程に、トランスジェニック非ヒト動物を、ヒトCD3で免疫化する工程が包含されているプロセスにより、huCD3抗体を産生する方法が含まれている。この異種移植(xenogenic)非ヒト動物の内因性重鎖および/またはカッパ軽鎖遺伝子座の一部は、無効にされ、抗原に反応して免疫グロブリンをコードする遺伝子を作り出すのに必要な再配列をすることができない。さらに、少なくとも1つのヒト重鎖遺伝子座および少なくとも1つのヒト軽鎖遺伝子座が、動物に安定的にトランスフェクトされている。したがって、投与された抗原に反応して、ヒト遺伝子座は再配列して、抗原に対して免疫特異的なヒトの可変領域をコードする遺伝子を与える。したがって、免疫化の際、xenomouseは、完全ヒト免疫グロブリンを分泌するB細胞を産生する。
【0126】
異種移植非ヒト動物を産生する種々の技術が、当該分野において周知である。例えば、米国特許第6,075,181および6,150,584号を参照のこと。1つの戦略では、異種(ヒト)の重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子が、宿主の生殖細胞系(例えば、精子または卵細胞)に導入され、別の工程では、対応する宿主遺伝子が相同組換えを用いた不活性化により非機能性にされる。ヒトの重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、適切な真核微生物または原核微生物において再構築され、得られるDNAフラグメントが適切な宿主、例えば、受精したマウスの卵細胞または胚幹細胞の前核に導入される。内因性宿主免疫グロブリン遺伝子座の不活性化は、宿主細胞、特に胚幹細胞または受精したマウスの卵細胞の前核において、相同組換えによって適切な遺伝子座の標的化された破壊により達成される。標的化された破壊は、標的遺伝子座における傷(lesion)もしくは欠失または遺伝子座内への挿入(例えば、選択可能なマーカーの挿入)に付随する標的遺伝子座内の欠失の導入を含むことができる。胚幹細胞の場合、一部は改変胚幹細胞に由来するキメラ動物が作製され、このキメラ動物は、生殖細胞系に遺伝子改変を伝えることができる。導入されたヒトの免疫グロブリン遺伝子座を有する宿主と、不活性化内因性遺伝子座を有する系統との交配により、抗体の産生が純粋に異種、例えば、ヒトである動物を生じる。
【0127】
代わりの戦略では、ヒトの重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の少なくとも一部が、胚幹細胞における相同組換えにより対応する内因性免疫グロブリン遺伝子座を直接置換するために使われる。これは、内因性免疫グロブリンの不活性化および置換を同時にもたらす。これに次いで、胚幹細胞由来細胞が生殖細胞系に寄与することができるキメラ動物を生成する。
【0128】
例えば、ヒトの抗CD3抗体を発現するB細胞クローンが、異種非ヒト動物から取り出され、当該分野内で公知の種々の方法により不死化される。このようなB細胞は、動物の血液に直接得られ得るか、または脾臓、扁桃腺、リンパ節および骨髄を含むがこれらに限定されないリンパ系組織から得られ得る。得られた不死化B細胞は、インビトロで播種されて培養され、臨床的に適用できる大量のhuCD3抗体を産生することができる。あるいは、1つ以上のヒト可変領域を有する免疫グロブリンをコードする遺伝子が回収され得、該遺伝子は、抗体を直接得るかまたはこの抗体の単鎖Fv分子から構成される個別の鎖を得るために、異なる細胞型(哺乳類細胞培養系を含むがこれらに限定されない)において発現され得る。
【0129】
さらに、異種非ヒト動物により作り出された完全ヒトCD3抗体の組全体は、最適特性を有する1つのクローンを同定するために選別される。このような特性としては、例えば、ヒトCD3タンパク質への結合親和性、相互作用の安定性、並びに完全ヒト抗CD3抗体のイソ型が挙げられる。次いで、所望の特性を有する組全体に由来するクローンは、代替の細胞系において、従来の組換え技術またはトランスジェニック技術を用いて、これらの特性を有する抗体を作り出すためのさらなる操作のために、所望の可変領域をコードするヌクレオチド配列の源として使われる。
【0130】
この一般的な戦略は、1994年に刊行されたように、第1のXenoMouseTM系統の生成に関連して実証された。Green et al.Nature Genetics 7:13〜21(1994)を参照のこと。この方法は、1990年1月12日に出願された米国特許出願第07/466,008、1990年11月8日に出願された07/610,515、1992年7月24日に出願された07/919,297、1992年7月30日に出願された07/922,649、1993年3月15日に出願された08/031,801、1993年8月27日に出願された08/112,848、1994年4月28日に出願された08/234,145、1995年1月20日に出願された08/376,279、1995年4月27日に出願された08/430,938、1995年6月5日に出願された08/464,584、1995年6月5日に出願された08/464,582、1995年6月5日に出願された08/463,191、1995年6月5日に出願された08/462,837、1995年6月5日に出願された08/486,853、1995年6月5日に出願された08/486,857、1995年6月5日に出願された08/486,859、1995年6月5日に出願された08/462,513、1996年10月2日に出願された08/724,752、および1996年12月3日に出願された08/759,620号および米国特許第6,162,963、6,150,584、6,114,598、6,075,181および5,939,598号および特許第3 068 180、3 068 506、および3 068 507号においてさらに考察され、説明されている。Mendez et al.Nature Genetics 15:146〜156(1997)およびGreen and Jakobovits J.Exp.Med.:188:483〜495(1998)も参照のこと。1996年6月12日に許可発行された欧州特許第0 463 151号、1994年2月3日に発行された国際特許出願公開第94/02602号、1996年10月31日に発行された国際特許出願第96/34096、1998年6月11日に発行された98/24893、2000年12月21日に発行された00/76310号も参照のこと。
【0131】
代替のアプローチにおいて、他は、「ミニ遺伝子座」アプローチを利用した。ミニ遺伝子座アプローチでは、外因性Ig遺伝子座は、Ig遺伝子座からの部分(個々の遺伝子)の包含により模倣される。したがって、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、ミュー定常領域、および第2定常領域(好ましくは、ガンマ定常領域)が、動物に挿入するための構築物内に形成される。この方法は、Surani et al.の米国特許第5,545,807号、およびLonbergおよびKayの米国特許第5,545,806、5,625,825、5,625,126、5,633,425、5,661,016、5,770,429、5,789,650、5,814,318、5,877,397、5,874,299、および6,255,458号、KrimpenfortおよびBermsの米国特許第5,591,669および6,023,010号、Berns et al.の米国特許第5,612,205、5,721,367および5,789,215号、ChoiおよびDunnの米国特許第5,643,763号、およびGenPharm Internationalの1990年8月29日に出願された米国特許出願第07/574,748、1990年8月31日に出願された07/575,962、1991年12月17日に出願された07/810,279、1992年3月18日に出願された07/853,408、1992年6月23日に出願された07/904,068、1992年12月16日に出願された07/990,860、1993年4月26日に出願された08/053,131、1993年7月22日に出願された08/096,762、1993年11月18日に出願された08/155,301、1993年12月3日に出願された081161,739、1993年12月10日に出願された08/165,699、1994年3月9日に出願された08/209,741号に記載されている。欧州特許第0 546 073号、国際特許出願公開第92/03918、92/22645、92/22647、92/22670、93/12227、94/00569、94/25585、96/14436、97/13852、および98/24884号および米国特許第5,981,175号も参照のこと。さらに、Taylor et al.,1992,Chen et al.,1993,Tuaillon et al.,1993,Choi et al.,1993,Lonberg et al.,(1994),Taylor et al.,(1994),およびTuaillon et al.,(1995),Fishwild et al.,(1996)も参照のこと。
【0132】
ミニ遺伝子座アプローチの利点は、Ig遺伝子座の部分を含む構築物が作り出され得、動物に導入することができる迅速性にある。しかし、ミニ遺伝子座アプローチの大きな欠点は、理論上、少数のV、DおよびJの各遺伝子の包含により多様性が十分導入されないことである。実際に、発表された研究はこの懸念を支持しているようである。B細胞の発生およびミニ遺伝子座アプローチの使用により産生された動物の抗体産生は、妨げられるようである。したがって、本発明を取り巻く研究は、一貫して、より大きな多様性を達成し、動物の免疫レパートリを再構成するためにIg遺伝子座の大きな部分の導入に向けられている。
【0133】
Kirinは、微小細胞融合により、染色体の大きな断片または染色体全体が導入されている、マウスからのヒト抗体の生成も実証した。欧州特許出願公開第773,288および843,961号を参照のこと。
【0134】
ヒトの抗マウス抗体(HAMA)反応は、この産業をキメラ抗体またはさもないとヒト化抗体の調製に導いた。キメラ抗体はヒト定常領域および免疫可変領域を有するが、特定のヒト抗キメラ抗体(HACA)反応は、特に抗体の慢性用量または多回用量の利用において観察されるであろうことが予測される。したがって、HAMAまたはHACA反応の懸念および/または効果を下げるためにCD3に対する完全ヒト抗体を提供することが望ましい。
【0135】
低減した免疫原性を有する抗体の産生もまた、適切なライブラリを用いるヒト化技術および表示技術を介して達成される。マウスの抗体または他の種からの抗体が、当該分野で周知の技術を用いてヒト化または霊長類化(primatize)され得ることが理解される。例えば、Winter and Harris Immunol Today 14:43 46(1993)およびWright et al.Crit.Reviews in Immunol.12125〜168(1992)を参照のこと。目的の抗体は、CH1、CH2、CH3、ヒンジドメインおよび/またはフレームワークドメインを、対応するヒト配列により置換するように、組換えDNA技術によって設計され得る(国際公開第92102190号および米国特許第5,530,101、5,595,089、5,693,792、5,693,792、5,714,350および5,777,085号を参照のこと)。キメラ免疫グロブリン遺伝子を構築する場合にIg cDNAを使用することもまた、当該分野で公知である(Liu et al.P.N.A.S.84:3439(1987)およびJ.Immunol.139:3521(1987))。mRNAは、抗体を産生するハイブリドーマまたは他の細胞から単離され、cDNAの産生に使われる。目的のcDNAは、特異的なプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により増幅される(米国特許第4,683,195および4,683,202号)。あるいは、目的の配列を単離するためにライブラリが作られ、選別される。該抗体の可変領域をコードするDNA配列は、次いで、ヒト定常領域配列に融合される。ヒト定常領域遺伝子の配列は、Kabat et al.(1991)Sequences of Proteins of immunological Interest,N.I.H.publication no.91−3242において見出され得る。ヒトC領域遺伝子は、公知のクローンから容易に利用できる。イソ型の選択は、補体固定または抗体依存性細胞性傷害活性における活性のような所望のエフェクター機能によって導かれる。好ましいイソ型は、IgG1、IgG3およびIgG4である。ヒト軽鎖定常領域のカッパまたはラムダのいずれかが使われ得る。キメラヒト化抗体は、次いで、従来の方法により発現される。
【0136】
Fv、F(ab’)2およびFabのような抗体フラグメントは、インタクトなタンパク質の切断(例えば、プロテアーゼによる)または化学的切断によって調製され得る。あるいは、短縮型(trancated)遺伝子が設計される。例えば、F(ab’)2フラグメントの一部をコードするキメラ遺伝子は、CH1ドメインおよびH鎖のヒンジ領域をコードするDNA配列を含み、その後、翻訳停止コドンにより短縮型分子を生じる。
【0137】
H領域およびLJ領域の共通配列は、J領域内に有用な制限部位を導入し、その後、ヒトC領域セグメントにV領域セグメントを連結するためのプライマー(prier)として使用するためのオリゴヌクレオチドを設計するために使われ得る。C領域cDNAは、ヒト配列における類似の位置に制限部位を置くために部位特異的変異誘発によって改変され得る。
【0138】
発現ベクターとしては、プラスミド、レトロウイルス、YAC、EPV由来エピソームなどが挙げられる。便利なベクターは、任意のVHまたはVL−31配列が容易に挿入され得るか、または発現され得るように、設計された適切な制限部位を有する、機能的に完全なヒトCHまたはCL免疫グロブリン配列をコードするベクターである。このようなベクターにおいて、スプライシングは、通常、挿入されたJ領域のスプライスドナー部位とヒトC領域に先行するスプライス受容部位との間で起こり、そしてまた、ヒトCHエキソン内で起きるスプライス領域においても起きる。ポリアデニル化および転写終結は、コード領域の下流の天然染色体部位で起きる。得られるキメラ抗体は、レトロウイルスLTR、例えば、SV−40初期プロモータ(Okayama et al.Mol.Cell.Bio.3:280(1983))、ラウス肉腫ウイルスLTR(Gorman et al.P.N.A.S.79:6777(1982))、およびモロニーマウス白血病ウイルスLTR(Grosschedl et al.Cell 41:885(1985))を含む任意の強力なプロモータに結合され得る。また、天然のIgプロモータなどが使われることが、理解される。
【0139】
さらに、ヒト抗体または他の種からの抗体は、非限定で、ファージ・ディスプレイ、レトロウイルス・ディスプレイ、リボソーム・ディスプレイ、および当該分野で周知の技術を用いる他の技術を含む、ディスプレイ型の技術により作り出され、得られる分子は、親和性成熟のようなさらなる成熟(このような技術は当該分野で周知である)を受けることができる。Wright and Harris(上記を参照のこと)、Hanes and Plucthau PEAS USA 94:4937〜4942(1997)(リボソーム・ディスプレイ)、Parmley and Smith Gene 73:305〜318(1988)(ファージ・ディスプレイ)、Scott TIB5 17:241〜245(1992)、Cwirla et al.PNAS USA 87:6378〜6382(1990)、Russel et al.Nucl.Acids Research 21:1081〜1085(1993)、Hoganboom et al.Immunol.Reviews 130:43〜68(1992)、Chiswell and McCafferty TIBTECH;10:80〜8A(1992)、および米国特許第5,733,743号。ディスプレイ技術がヒトではない抗体を産生するために利用される場合、このような抗体は、上で記述されたように、ヒト化され得る。
【0140】
これらの技術を用いると、抗体は、CD3発現細胞、CD3自身、CD3の形態、これらのエピトープまたはペプチド、およびその発現ライブラリを作り出すことができ(例えば、米国特許第5,703,057号を参照のこと)、次いで、これらの抗体は上で記述された活性に関して上で記述されたように選別される。
【0141】
(他の治療薬の設計および作製)
本発明従い、ならびにCD3について本明細書中で産生されて特徴づけられる抗体の活性に基づいて、抗体部分より優れた他の治療様式の設計は容易になる。このような治療様式としては、非限定で、二重特異性抗体、免疫毒素、放射性標識化治療薬、ペプチド治療薬、遺伝子治療(特に体内)、アンチセンス治療薬、および低分子のような進歩した抗体治療薬の作製が挙げられる。
【0142】
例えば、二重特異性抗体に関連して、(i)1つはCD3に対して特異性をもち、別の抗体は第2の分子に対して特異的である、一緒に結合体化される2つの抗体、(ii)CD3に対して特異的な1つの鎖および第2の分子に対して特異的な第2の鎖を有する単一の抗体、または(iii)CD3および他の分子に対して特異性を有する一本鎖抗体を含む、二重特異性抗体が作り出され得る。このような二重特異性抗体は、例えば、(i)および(ii)に関連する周知の技術(例えば、Fanger et al.Immunol Methods 4:72〜81(1994)およびWright and Harris(前出)を参照のこと)を用いて、そして(iii)に関連する周知の技術(例えば、Traunecker et al.Int.J.Cancer(Suppl.)7:51〜52(1992)を参照のこと)を用いて、作り出され得る。各々の場合において、第2の特異性は、非限定で、CD16またはCD64(例えば、Deo et al.18:127(1997)を参照のこと)またはCD89(例えば、Valerius et al.Blood 90:4485〜4492(1997)を参照のこと)を含む重鎖活性化レセプターに対して作られ得る。前述の方法に従って調製された二重特異性抗体は、CD3を発現する細胞、特に本発明のCD3抗体が有効である細胞を、殺傷する傾向がある。
【0143】
免疫毒素に関連して、抗体は、当該分野で周知の技術を利用して、免疫毒素として作用するように改変され得る。例えば、Vietta Immunol Today 14:252(1993)を参照のこと。米国特許第5,194,594号も参照のこと。放射性標識化抗体の調製に関連して、このような改変抗体もまた、当該分野で周知の技術を利用して容易に調製され得る。例えば、Junghaus et al.in Cancer Chemotherapy and Biotherapy 655〜686(2d edition,Chafner and Long,eds.,Lippincott Raven(1996))を参照のこと。米国特許第4,681,581、4,735,210、5,101,827、5,102,990(再発行特許第35,500号)、5,648,471、および5,697,902号も参照のこと。免疫毒素および放射性標識化分子の各々は、CD3を発現する細胞、特に本発明の抗体が有効である細胞を、殺傷する傾向がある。
【0144】
治療用ペプチドの作製に関連して、CD3、および本発明の抗体のようなCD3に対する抗体、またはペプチドライブラリーの選別に関連した構造情報を利用することにより、CD3に対して指向される治療用ペプチドが作製され得る。ペプチド治療薬の設計および選別は、Houghten et al.Biotechniques 13:412〜421(1992)、Houghten PNAS USA 82:5131〜5135(1985)、Pinalla et al.Biotechniques 13:901〜905(1992)、Blake and Litzi−Davis BioConjugate Chem.3:510〜513(1992)に関連して論じられている。免疫毒素および放射性標識化分子もまた、抗体に関連して上で論じられたペプチド部分に関連した類似の様式で、調製され得る。CD3分子(またはスプライシング変形態様もしくは代替形態など)が疾患プロセスにおいて機能的に活性であると仮定すると、従来技術により、CD3分子に対する遺伝子治療薬またはアンチセンス治療薬を設計することもまた可能である。このような様式は、CD3の機能を調節する場合に利用されうる。CD3に関連して、本発明の抗体は、該抗体に関連した機能的アッセイの設計および使用を容易にする。アンチセンス治療薬についての設計および戦略は、国際特許出願公開第94/29444号で詳細に論じられている。遺伝子治療薬のデザインおよび方法は周知である。しかし、特に、身体内を含む遺伝子治療薬技術の使用は、特に有効であることが判明している。例えば、Chen et al.Human Gene Therapy 5:595〜601(1994)およびMarasco Gene Therapy 4:11〜15(1997)を参照のこと。遺伝子治療薬に関連した一般的設計および検討は、国際特許出願公開第97/38137号でも論じられている。
【0145】
CD3分子の構造から収集された知識および本発明の抗体のような本発明に従う他の分子とのCD3分子の相互作用などは、さらなる治療様式を合理的に設計するために利用することができる。これに関連して、X線結晶学、コンピュータによる分子モデリング(CAMM)、定量的または定性的な構造−活性との関係(QSAR)、および類似の技術のような合理的薬剤設計技術は、薬剤発見の努力を集中させるために利用することができる。合理的な設計により、CD3の活性を改変または調節するために使用され得る、分子または分子の特異な形態と相互作用することができるタンパク質または合成構造体の予測が可能になる。このような構造体は、化学的に合成されても、生物システムにおいて発現されてもよい。このアプローチは、Capsey et al.Genetically Engineered Human Therapeutic Drugs(Stockton Press,NY(1988))において概説されている。さらに、組み合わせライブラリを、設計し得、合成し得、そして高い選別処理能力のような選別プログラムにおいて使用することができる。
【0146】
(治療薬の投与および処方)
本発明による治療薬の投与は、適切なキャリア、賦形剤、および輸送、送達、耐性などを改善するために処方物中に組み込まれる他の薬剤と共に投与されることが、理解される。多数の適切な処方物が、すべての薬剤師に公知である処方として見出され得る:Remington’s Pharmaceutical Sciences(15th ed,Mack Publishing Company,Easton,PA(1975)),特にその中のBlaug,SeymourによるChapter 87。これらの処方物としては、例えば、散在、ペースト、軟膏、ジェリー剤、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小包(LipofectinTMなど)、DNA結合体、無水吸収ペースト、油中水型および水中油型エマルジョン、エマルジョン・カーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール類)、半固体ゲル類およびカーボワックス含有半固体混合物が挙げられる。前述の混合物のいずれかが、処方物中の活性成分が処方物により不活性化されておらず、処方物が投与経路に生理学的に適合性であり、耐性である場合、本発明による処置および治療において適切である。Baldrick P.”Pharmaceutical excipient development:the need for preclinical guidance.”Regul.Toxicol Pharmacol.32(2):210〜8(2000),Wang W.”Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals.”Int.J.Pharm.203(1−2):1〜60(2000),Charman WN”Lipids,lipophilic drugs,and drug delivery−some emerging concepts.”J Pharm Sci.89(8):967〜78(2000),Powell et al.”Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA J Pharm Sci Technol.52:238〜311(1998)および薬剤師に周知の処方物、賦形剤およびキャリアに関連したさらなる情報について、これらの中の引用文献も参照のこと。
【0147】
本発明のhuCD3抗体を含む本発明の治療処方物は、例えば、自己免疫疾患または炎症性障害のような免疫関連疾患に関連した症状を処置または緩和するために使われる。
【0148】
自己免疫疾患としては、例えば、後天性免疫不全症候群(エイズ、これは自己免疫成分を有するウイルス性疾患である)、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫アジソン病、自己免疫溶血性貧血、自己免疫肝炎、自己免疫内耳炎(AIED)、自己免疫リンパ球増殖性症候群(ALPS)、自己免疫血小板減少紫斑病(ATP)、ベーチェット病、心筋症、セアリックスプルー疱疹状皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症脱髄性多発神経障害(CIPD)、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、デゴス病、若年性皮膚筋炎、円板状ループス、特発性混合型クリオグロブリン血症、腺維筋肉病−腺維筋炎、グレーブス病、ギラン−バレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺腺維症、特発性血小板減少紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性慢性関節炎(スチル病)、若年性関節リウマチ、メニエール病、混合型結合組織疾患、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、結筋性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症(進行性全身性硬化症(PSS)、全身性硬化症(SS)としても知られる)、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性紅斑性狼瘡、タカヤス動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、白斑およびウエグナー肉芽腫症が挙げられる。
【0149】
炎症疾患としては、例えば、慢性および急性炎症疾患が挙げられる。炎症疾患の例としては、アルツハイマー病、ぜんそく、アトピー性アレルギー、アレルギー、アテローム性動脈硬化症、気管支ぜんそく、湿疹、糸球体腎炎、移植片対宿主病、溶血性貧血、変形性関節症、敗血症、脳卒中、組織および器官の移植、脈管炎、糖尿病性網膜症および換気装置に誘発された肺の損傷が挙げられる。
【0150】
1つの実施例では、本発明のhuCD3抗体組成物は、例えば、GLP−1またはベータ細胞休止化合物(即ち、カリウム・チャンネル開口薬などのインスリンの放出を低減するか、さもなければ阻害する化合物)などの第2の薬剤と併用して投与される。適切なGLP−1化合物の例は、例えば、発行された米国特許出願公開第20040037826号に記載されており、適切なベータ細胞休止化合物は発行された米国特許出願公開第20030235583号に記載されており、これらの特許の各々は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0151】
別の実施例では、免疫関連疾患の処置に使われたhuCD3抗体組成物は、既知の種々の抗炎症性化合物および/または免疫抑制化合物のいずれかと併用して投与される。適切な既知の化合物としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリンのミクロエマルジョンを含む)、タクロリムス、コルチコステロイド類、スタチン類、インターフェロン・ベータ、Remicade(Infliximab)、Enbrel(Etanercept)およびHumira(Adalimumab)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0152】
例えば、慢性関節リウマチの治療では、本発明のhuCD3抗体組成物が、コルチコステロイド類、メトトレキサート、シクロスポリンA、スタチン類、Remicade(Infliximab)、Enbrel(Etanercept)および/またはHumira(Adalimumab)と共に投与され得る。
【0153】
ブドウ膜炎の治療では、huCD3抗体組成物は、例えば、コルチコステロイド類、メトトレキサート、シクロスポリンA、シクロホスファミドおよび/またはスタチン類と併用して投与することができる。同様に、クローン病または乾癬のような疾患に苦しむ患者は、本発明のhuCD3抗体組成物およびRemicaide(Infliximab)、および/またはHumira(Adalimumab)を併用して処置を受けることができる。
【0154】
多発性硬化症の患者は、本発明のhuCD3抗体組成物を、例えば、グラチラマー・アセテート(Copaxone)、インターフェロン・ベータ−1a(Avonex)、インターフェロン・ベータ−1a(Rebif)、インターフェロン・ベータ−1b(BetaseronまたはBetaferon)、ミトキサントロン(Novantrone)、デキサメタゾン(Decadron)、メチルプレドニゾロン(Depo−Medrol)および/またはプレドニゾン(Deltasone)および/またはスタチン類と併用して受けることができる。
【0155】
本発明は、免疫関連疾患に付随する症状または器官移植後の拒絶反応に付随する症状を治療または緩和する方法も提供する。例えば、本発明の組成物は、本明細書に記載された自己免疫疾患および炎症疾患のいずれかの症状を処置または緩和するために使うことができる。
【0156】
本発明の治療用組成物は、器官または組織移植における免疫抑制剤としても使われる。本明細書で使われている「免疫抑制剤」は、免疫系に対するその作用が、免疫反応(この反応が自然に起きるか、それとも人工的に引き起こされるか、この反応は先天性免疫系、適応免疫系、または両方の系の一部として起きるかどうかにかかわらない)に含まれる少なくとも1つの経路の活性の即時低下または遅延低下に導く薬剤を意味している。これらの免疫抑制huCD3抗体組成物は、器官または組織の移植の前、移植の間、および/または移植の後に、被験体に投与される。例えば、本発明のhuCD3抗体は、器官または組織移植後の拒絶反応を、治療または予防するために使われる。
【0157】
1つの実施例では、本発明の免疫抑制huCD3抗体組成物は、例えば、上に記載されたGLP−1またはベータ細胞休止化合物などの第2の薬剤と併用して投与される。
【0158】
別の実施例では、これらの免疫抑制huCD3抗体組成物は、種々の公知の抗炎症性化合物および/または免疫抑制化合物と共に投与される。本発明の免疫抑制huCD3抗体と共に使用するのに適した抗炎症性化合物および/または免疫抑制化合物としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリンのミクロエマルジョンを含む)、タクロリムス、コルチコステロイド類およびスタチン類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0159】
本発明のさらに別の実施例では、huCD3抗体は自己反応性抗体の存在を検出されたヒト個人に投与される。このような自己反応性抗体は、ヒト個人において内因的に発現された1つ以上のタンパク質に対して結合親和性を有する抗体として当該分野内で公知である。本発明の1つの態様では、ヒト個人は、具体的には、当該分野内で周知である1つ以上の自己免疫疾患に関与する自己反応性抗体の存在についてテストされる。1つの特定の実施形態では、ヒト患者は、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼおよび/またはIA−2タンパク質に対する抗体の存在についてテストされ、次いで、1つ以上のこのような自己反応性抗体が陽性と検出されると、huCD3抗体を投与される。
【0160】
本発明の別の実施形態では、ヒトの組織への免疫細胞の補充を予防、低減または減少するためにヒトである被験体にhuCD3抗体が投与される。本発明のhuCD3抗体は、ヒトの疾患の組織部位への異常または無秩序な免疫細胞の補充に付随する状態を予防および処置するために、huCD3抗体を必要とする被験体に投与される。
【0161】
本発明の別の実施形態では、ヒト組織への免疫細胞の溢出および漏出を予防、軽減および/または減少するために、ヒト被験体にhuCD3抗体が投与される。したがって、本発明のhuCD3抗体は、ヒトの疾患の組織部位への異常または無秩序な免疫細胞の浸潤に付随する状態を予防および/または処置するために投与される。
【0162】
本発明の別の実施形態では、huCD3抗体は、ヒト身体内のサイトカインの放出により媒介された効果を予防、軽減または減少するために、ヒト被験体に投与される。用語「サイトカイン」は、細胞表面上で細胞外レセプターに結合し、それにより細胞機能を調節する当該分野内で公知のすべてのヒトサイトカインを意味し、IL−2、IFN−g、TNF−a、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10およびIL−13を含むがこれらに限定されない。
【0163】
サイトカインの放出は、サイトカイン放出症候群(CRS)として公知の中毒状態をもたらし得、CRSは、例えば、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)およびOKT3(マウスの抗ヒトCD3抗体)などの抗Т細胞抗体を使用した場合に起きる一般的な臨床的合併症である。この症候群は、血流中へのTNF、IFN−ガンマおよびIL−2などのサイトカインの過剰な放出によって特徴づけられる。CRSは、CD3への抗体の(抗体の可変領域を介した)結合、および他の細胞上におけるFcレセプターおよび/または補体レセプターへの抗体の(抗体の定常領域を介した)結合が同時に起こることの結果として生じ、それによりТ細胞の活性化によってサイトカインを放出し、低血圧、発熱および悪寒により特徴づけられる全身性炎症反応を生じる。CRSの症状としては、熱、悪寒、悪心、吐き気、低血圧および呼吸困難が挙げられる。したがって、本発明のhuCD3抗体は、インビボの1種以上のサイトカインの異常な放出および産生を防止するために設計された1つ以上の変異を含む。
【0164】
本発明の別の実施形態では、huCD3抗体は、ヒト身体内のサイトカインレセプターの放出により媒介された効果を予防、低減または減少するためにヒト被験体に投与される。用語「サイトカインレセプター」は、1つ以上のサイトカインに結合する、本明細書で規定される当該分野内のすべてのヒトサイトカインレセプターを意味し、前述のサイトカインを含むがこれらに限定されない。したがって、本発明のhuCD3抗体は、ヒト身体内の1つ以上のサイトカインレセプターの異常な活性化、結合または連結反応により媒介された状態を処置および/または予防するために投与される。さらに、インビボのhuCD3抗体の投与は、このようなヒト被験体内のサイトカインレセプターにより媒介される細胞内シグナル伝達を枯渇させるであろう。
【0165】
本発明の1つの態様では、huCD3抗体は、膵臓のベータ細胞の機能の低下の際に、ヒト個人へ投与される。1つの実施形態では、該個人は、当該分野において公知であるベータ細胞機能、インスリン分泌またはc−ペプチドレベルについてテストされる。次いで、いずれかの指標が十分低下していることが分かると、ヒト個人は、ベータ細胞機能の自己免疫破壊のさらなる進行を防止するために十分な用量のhuCD3抗体を投与される。
【0166】
(診断薬および予防薬の処方)
本発明の完全ヒト抗CD3MAbは、診断用処方物および予防要処方物において使われる。1つの実施形態では、本発明のhuCD3 MAbは、前述の自己免疫疾患の1つを発症するリスクがある患者に投与される。1つ以上の前述の自己免疫疾患に対する患者の素因は、遺伝子型、血清学的マーカーまたは生化学的マーカーを用いて決めることができる。例えば、特定のHLAサブタイプおよび血清学的抗体(インスリン、GAD65およびIA−2に対して)の存在は、I型糖尿病を示している。
【0167】
本発明の別の実施形態では、huCD3抗体は、前述の自己免疫疾患を1つ以上有すると診断されたヒト個人に投与される。診断されると、huCD3抗体は、自己免疫の作用を和らげるか、または逆転するために投与される。このような1つの実施例においては、I型糖尿病と診断されたヒト個人は、膵臓の機能を回復し、膵臓内への自己免疫性浸潤の損傷を最小限に押さえるために十分な用量のhuCD3抗体を投与される。別の実施形態において、慢性関節リウマチと診断されたヒト個人は、肢関節への免疫細胞の浸潤および肢関節の破壊を軽減するためにhuCD3抗体を投与される。
【0168】
本発明の抗体は、患者試料中のCD3の検出にも有用であり、したがって、診断薬としても有用である。例えば、本発明のhuCD3抗体は、患者試料中のCD3レベルを検出するために、生体外試験、例えば、ELISAにおいて使われる。
【0169】
1つの実施形態では、本発明のhuCD3抗体は、固体支持体(例えば、マイクロタイター・プレートのウェル)上に固定される。固定された抗体は、テスト試料中に存在し得る任意のCD3の捕捉抗体として役立つ。固定された抗体を患者試料に接触させる前に、固体支持体は、分析物の非特異的吸着を防ぐためにミンクタンパク質またはアルブミンなどの遮断薬によりすすがれ、処理される。
【0170】
次いで、ウェルを、抗原を含む疑いのあるテスト試料または標準量の抗原を含む溶液で処理した。このような試料は、例えば、病理診断薬と考えられる抗原の循環レベルを有する疑いのある被験体からの血清試料である。テスト試料または標準試料をすすいだ後、固体支持体は、検出できるように標識化した二次抗体で処理される。標識化二次抗体は、検出抗体として役立つ。検出可能な標識のレベルは測定され、テスト試料中のCD3抗原の濃度は、標準試料から作られた標準曲線と比較して決められる。
【0171】
インビトロ診断アッセイにおいて本発明のhuCD3抗体を用いて得られた結果に基づいて、CD3抗原の発現レベルに基づいて、被験体の疾患(例えば、自己免疫疾患または炎症性疾患)の段階を決めることができることが、理解される。任意の疾患について、血液試料は、該疾患の種々の段階にあると診断された被験体、および/または該疾患の治療上の処置における種々の時点にある被験体から採取される。進行または治療の各段階について統計学的に有意な結果が得られる試料集団を用いて、各段階の特徴と考えられる抗原の濃度範囲が指定される。
【0172】
本明細書で引用されたすべての刊行物および特許文書は、あたかもこのような各刊行物または文書が、具体的且つ個別に、本明細書に参考として援用されることを示されたかのように、本明細書に参考として援用される。刊行物および特許文書の引用は、任意の刊行物および特許文書が適切な先行技術であることを承認する意図はなく、刊行物および特許文書の内容または日付を承認するものでもない。明細書により記述されている本発明は、本発明が種々の実施態様において実行することができ、前述の説明および以下に述べる実施例は例示のためのものであり、後に続く請求の範囲を制限するものではないことを、当業者は認めるであろう。
【実施例】
【0173】
行われた実験および得られた結果を含む以下の実施例は、例示するためだけのものであり、本発明を制限するものと解釈すべきではない。
【0174】
(実施例1:huCD3抗体の作製)
免疫化戦略:完全ヒトhuCD3抗体を作り出すために、2系列のトランスジェニックマウス(HuMab(登録商標)マウスおよびKMTMマウス(Medarex,Princeton NJ)を利用した。最初の免疫化戦略は、マウス抗体を作り出す文献から十分に立証されたプロトコルに従った。(例えば、Kung P,et al.,Science;206(4416):347〜9(1979);Kung PC,et al.,Transplant Proc.(3 Suppl 1):141〜6(1980);Kung PC,et al.,Int J Immunopharmacol.3(3):175〜81(1981)を参照のこと)。当該分野で公知の標準プロトコルでは、HuMAb(登録商標)マウスまたはKMTMマウスにおいて完全ヒトhuCD3抗体を産生することはできなかった。例えば、以下の免疫化戦略は成功せず、HuMAb(登録商標)マウスまたはKMTMマウスのいずれにも機能性抗体を産生しなかった。
【0175】
−胸腺細胞のみまたはT細胞のみを用いた免疫化
−組換えヒトCD3物質のみを用いた免疫化
−Freundのアジュバント中の組換えCD3物質を用いた免疫化
−Freundのアジュバント中の細胞を用いた免疫化
−胸腺細胞またはT細胞を可溶性CD3と共に投与した免疫化
−胸腺細胞またはT細胞を組換えCD3発現細胞と共に投与した免疫化
これらの先行技術免疫化戦略が、HuMAb(登録商標)マウスまたはKMTMマウスではなくBALB/cマウスで使われる場合、これらの方法は、ヒト抗CD3抗体ではなくマウスの抗CD3抗体を産生する。
【0176】
したがって、以下のパラメータを変えることにより新規な免疫付与方法を開発した。
【0177】
−用いた免疫原の種類
−注入の頻度
−用いたアジュバントの種類
−用いた同時刺激技術の種類
−用いた免疫化の経路
−融合に用いた二次リンパ組織の種類
例えば、(i)CD3のみを発現するウイルス粒子を用いた免疫化、および(ii)T細胞、胸腺細胞と共に、または組換えCD3を発現するためにトランスフェクトされた細胞と共に投与された同時刺激シグナル(例えば、CD40、CD27またはこれらの組み合わせ)を用いた免疫化、を含む一連の新規な免疫化戦略を開発した。
【0178】
本明細書では「過剰追加投与プロトコル」と呼ばれる第1の新規な免疫化戦略によって、HuMAb(登録商標)マウス(Medarex,Inc.,Princeton,NJ)またはKMTMマウス(Medarex,Inc.,Kirin)に、ヒト細胞、例えば、胸腺細胞またはT細胞を最初に注入することにより免疫化した。胸腺細胞および/またはT細胞の注入後、1〜8週間の範囲の時点で、1回またはそれ以上の「過剰追加投与」注射をマウスにした。過剰追加投与注射には、例えば、可溶性CD3タンパク質(例えば、組換え可溶性CD3タンパク質)、胸腺細胞またはT細胞の追加注射、CD3によりトランスフェクトされた細胞、高レベルのCD3を発現するウイルス粒子、およびこれらの組み合わせが含まれるものとした。例えば、過剰追加投与注射には、可溶性CD3タンパク質とCD3によりトランスフェクトされた細胞の組み合わせが含まれる。
【0179】
好ましくは、過剰追加投与免疫化プロトコルでは、免疫化されたマウスに、リンパ節および/または脾臓の融合の6日前と3日前の2回、最後の過剰追加投与注射をした。例えば、KMマウスTMでは、融合組織は脾臓に由来し、HuMAb(登録商標)マウスでは、融合組織は、リンパ節および/または脾臓組織に由来する。
【0180】
過剰追加投与免疫化プロトコルの1つの実施例では、1つのHuMAbTMマウスを、0日、7日および28日の3回、ヒト胸腺細胞(約106個の細胞)を用いて免疫化した。ヒトCD3δ鎖およびε鎖(CHO/CD3,約106個の細胞)をコードするcDNAを用いてトランスフェクトされたチャイニーズ卵巣細胞株(CHO)を、次いで、47日と65日とに注入した。高いレベルのCD3δεをその表面で発現するウイルス粒子を用いた別の追加免疫を、79日にした。最後に、121日と124日とに可溶性組換えヒトCD3δεを該マウスに注射し、127日にリンパ節の融合をした。
【0181】
すべての免疫化では、アジュバントとしてRibi(Corixa Corp.,Seattle WA)を皮下に与えた。全部で8.5×106個の細胞を融合した。470個のハイブリドーマから選別された7個だけが、完全ヒト抗CD3抗体を産生し、完全ヒト抗CD3抗体のすべては、IgM分子であった。これらの抗CD3抗体のうち2つが、臨床治療候補薬として選択された(図1〜3)。
【0182】
過剰追加投与免疫化プロトコルの第2の実施例では、1匹のKMTMマウスに、0日および25日に可溶性組換えヒトCD3δεを用いて2度免疫付与した。次いで、40日、49日および56日に追加免疫のためにヒト胸腺細胞(約106個の細胞)を使った。可溶性組換えCD3δεを、70日、77日、84日および91日に2度注射した。ヒトCD3δ鎖およびヒトCD3ε鎖(EL4/CD3,約106個の細胞)をコードするcDNAを用いてトランスフェクトしたマウスT細胞株を、次いで、98日に注射した。最後に、101日に可溶性組み換えヒトCD3δεを該マウスに注射し、104日に脾臓の融合をした。免疫化を、Ribiアジュバントを使用した70日目を除いて、アジュバントとしてAlumを腹腔内に投与した。0日、25日、84日および91日にCpGを同時刺激剤として使用した。全部で1.27×108個の細胞を融合した。743個のハイブリドーマから選別された5個だけが、完全ヒト抗CD3抗体を産生し、産生された抗体のすべては、IgG分子であった。これらの完全ヒト抗CD3抗体の1つは、臨床治療候補薬として選択された(図4)。
【0183】
選択基準:臨床治療候補薬は、次のような基準を用いて選択された。まず、CD3陽性細胞への抗体結合 対 CD3陰性細胞への抗体結合を分析した。この分析のために、Jurkat CD3陽性細胞(J+)およびJurkat CD3陰性細胞(J−)を種々の抗体を用いて培養し、結合をフローサイトメトリーにより評価した(図9A)。第2に、競合試験において、CD3陽性細胞へのマウスの抗ヒトOKT3モノクローナル抗体の結合を阻害する候補抗体の能力をJ+細胞を用いて評価し、競合をフローサイトメトリーにより評価した(図9B)。次に、CD3の抗原性調節およびヒト末梢血T細胞の表面からのTCRをフローサイトメトリーにより評価した(図9C)。最後に、T細胞増殖アッセイを、CFSEを用いて着色したヒト末梢血T細胞を用いて行い、細胞分裂を、フローサイトメトリーにより評価した(図9D)。
【0184】
(実施例2:ヒト抗CD3抗体のイソ型切り替え)
実施例1に記載された新規なプロトコルを用いて産生されたいくつかのhuCD3抗体は、IgM抗体であった。これらのIgM抗体を、IgG抗体、好ましくはIgG1抗体に「変換」した。例えば、IgM抗体を、クローニング方法により変換し、該方法では、IgM抗体をコードする遺伝子のVDJ領域を、アロ型Fガンマ1をコードする遺伝子を含むベクターから得られたIgG1重鎖遺伝子にクローニングした。軽鎖の変換については、IgM配列を、カッパ領域を含むベクター内にクローニングした。Medarexマウス、例えば、HuMab(登録商標)マウスでは、対立遺伝子排除の欠如により、多数の軽鎖を産生した。
【0185】
重鎖と軽鎖との各組み合わせを、製造者のガイドラインに従ってFuGENE6(Roche Diagnostics)を用いて293T細胞にトランスフェクトした。分泌されたモノクローナル抗体を、最適化機能について(例えば、実施例1に記載された選択基準を用いて、標的抗原結合について)テストした。
【0186】
(実施例3:huCD3抗体を用いた抗原性調節)
本発明のhuCD3抗体は、抗原性調節をすることができ、該調節は、抗体結合により誘導されたCD3−TCR複合体の再分布および削除として規定されている。例えば、CD4を含むT細胞上の他の分子の細胞表面発現は、本発明の抗CD3抗体に曝露することにより改変されない(図9C)。
【0187】
(実施例4:huCD3抗体により作製した傷害性サイトカイン放出症候群の低減)
好ましくは、本発明のhuCD3抗体には、サイトカイン放出症候群を変えるような変異が、Fc領域において含まれる。上に記載されたように、サイトカイン放出症候群(CRS)は、一般的な急性合併症であり、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)およびOKT3(マウスのCD3抗体)などの抗T細胞抗体を使用した場合に起きる。この症候群は、TNF、IFN−ガンマおよびIL−2などのサイトカインの循環への過度の放出により特徴づけられる。活性化されたT細胞により放出されたサイトカインは、低血圧、発熱および悪寒により特徴づけられる、重篤な感染において見られるものに類似した型の全身性炎症反応を発症する。CRSの症状には、例えば、熱、悪寒、悪心、吐き気、低血圧および呼吸困難がある。
【0188】
本発明のhuCD3抗体には、1つ以上の変異が含まれ、該変異は、インビボで、1つ以上のサイトカインの重鎖定常領域を媒介した生体内放出を防ぐ。1つの実施形態では、本発明のhuCD3抗体は改変IgGγ1骨格に1つ以上の以下の変異を有するIgG分子である:”γ1N297A”(297位のアスパラギン残基がアラニン残基で置換されている)、”γ1L234/A,L235/A”(234位および235位のロイシン残基がアラニン残基で置換されている)、”γ1L234/A;L235/E”(234位のロイシン残基がロイシンで置換され、235位のロイシン残基がグルタミン酸残基で置換されている)、”γ1L235/E”(235位のロイシン残基がグルタミン酸残基で置換されている)、”γ1D265/A”(265位のアスパラギン酸残基がアラニン残基で置換されている)。本明細書に記載された重鎖残基の番号は、例えば、米国特許第5,624,821および5,648,260号に示されているEUインデックス番号(Kabat et al.,”Proteins of Immunological Interest”,US Dept.of Health & Human Services(1983)を参照のこと)である。なお、これらの特許の内容は、その全体が本明細書参考として援用される。
【0189】
本発明のhuCD3抗体において使用されうる、他のIgGγ1骨格の改変としては、例えば、330位のアラニン残基がセリン残基で置換されている”A330/S”、および/または331位のプロリン残基がセリン残基で置換されている”P331/S”が挙げられる。
【0190】
Fc領域にL234L235からA234E235への変異を有する本発明の完全ヒトCD3抗体は、独特の機能、即ち、huCD3抗体の存在下でのサイトカイン放出の除去を有する。先行研究は、実際に、LからEへの変異の使用から教示されている(例えば、Xu et al.,Cellular Immunology,200,pp.16〜26(2000),at p.23を参照のこと)。しかし、位置234および235におけるこれら2つの変異(即ち、L234L235からA234E235へ)は、末梢ヒト血液単球核インビトロ試験システムで評価されたように、サイトカイン放出症候群を除去した(図11A,11B)。この試験では、末梢ヒト血液単球核は、フィコール勾配を用いて単離され、CFSEで標識化される。CFSE標識化細胞を、次いで、96ウェルプレートに入れた。種々の濃度に希釈されたモノクローナル抗体を添加し、37℃で72時間培養した。6時間後、50μlの上澄みを除去し、ELISAによるTNF放出を評価した。48時間後、50μlの上澄みを除去し、ELISAによりIFN−γ放出を評価した。72時間後、細胞を回収し、CFSE標識強度を用いてFACSにより評価した。
【0191】
したがって、野生型重鎖とは対照的に、および他(例えば、TolerX(無グリコシル化変異),Bluestone(L234L235からA234A235への変異)(例えば、米国特許第5,885,573号)を参照のこと)により記述された一連の他の変異体とは対照的に、これらはすべて有意なレベルのサイトカイン放出作用を保持し、本発明のhuCD3抗体のL234L235からA234E235への変異はサイトカイン放出現象を示さない。残りのサイトカイン放出作用のレベルは、野生型Fcについては100%、Bluestone(L234L235からA234A235への)変異については約50〜60%であり、および本明細書に記載されたAla/Glu Fc変異体については検出できなかった(図11A,11B)。
【0192】
(実施例5:huCD3抗体−結合エピトープのペプチドアレイによる同定)
種々のモノクローナル抗体のエピトープに含まれるアミノ酸残基を決定するために、多数のペプチドの合成およびELISA選別を用いた。(例えば、Geysen et al.,J Immunol Methods,vol.102(2):259〜74(1987)を参照のこと)。本明細書に記載された実験では、CD3イプシロン鎖のアミノ酸配列に由来する重複ペプチドのアレイは、Jerini(Berlin,Germany)から購入し、次いで、本発明の完全ヒト抗CD3mAbによる結合パターンについてテストした。
【0193】
アレイ内のペプチドは、膜支持体上で直接化学合成する「スポット合成」技術を用いて作製した(Frank and Overwin,Meth Mol Biol.vol.66:149〜169(1996);Kramer and Schneider−Mergener,Meth Mol Biol.vol.87:25〜39(1998)を参照のこと)。直鎖状14量体ペプチドは、N末端を自由(即ち、非結合)なままにし、C末端によりWhatman50セルロース支持体に共有結合していた。標準ウエスタン・ブロッティング技術を用いて、これらの固体相結合ペプチドは、28F11モノクローナル抗体が、N末端に近接してアミノ酸の重複する組を認識していることを明らかにした(図10)。
【0194】
(他の実施形態)
本発明は、本発明の詳細な説明と併せて記述されてきたが、前述の説明は例示することを意図しており、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲により規定される。他の態様、利点、および変形態様は次の特許請求の範囲内にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の単離された完全ヒトモノクローナルCD3抗体またはそのフラグメント。
【請求項1】
本明細書に記載の単離された完全ヒトモノクローナルCD3抗体またはそのフラグメント。
【図1】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−211154(P2012−211154A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−131755(P2012−131755)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2007−515684(P2007−515684)の分割
【原出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(506198562)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131755(P2012−131755)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2007−515684(P2007−515684)の分割
【原出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(506198562)
【Fターム(参考)】
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