説明

抗CD81抗体を有効成分として含有する炎症性腸疾患の予防または治療剤

本発明により、CD81遺伝子の発現抑制、CD81の発現抑制または機能(活性)抑制を指標としたスクリーニング系をIBDの予防、改善または治療薬の探索に利用することができる。また、抗CD81抗体をIBDの予防、改善または治療剤の有効成分として非常に有効である。 更にCD81遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを、IBDの疾患マーカーとして利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;以下「IBD」と略する場合もある)の予防、改善または治療に有効な物質をスクリーニングする方法、並びに該方法によって得られる上記物質や抗CD81抗体を有効成分とするIBDの予防、改善または治療薬に関する。
また本発明は、炎症性腸疾患(IBD)診断に有用な疾患マーカー、およびかかる疾患マーカーを利用したIBDの検出方法(診断方法)に関する。
【背景技術】
腸は、生体の生命活動に必須である栄養分・水分を消化吸収する器官である。一方で病原体などの異物を排除するための免疫防御機能も備えており相反する性質をバランスよく制御することで生命の維持を担っている器官でもある。しかしこれら機能バランスに異常が生じると、この動的平衡状態が破綻し様々な腸疾患が引き起こされることが知られている。特に近年患者数が増加してきている炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBDと略される)は、スルファサラジン等の5−アミノサリチル酸製剤やステロイド等の薬物療法では満足できる治療効果が得られておらず、そのため腸切除手術、白血球除去等で治療している状態であり、よりよい薬物が必要とされている。
炎症性腸疾患(IBD)は、その病態から潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UCと略される)とクローン病(Crohn’s disease;CDと略される)とに分類されている。近年、抗TNF抗体などのタンパク製剤がクローン病の治療剤として有効であることが知られている(Lancet.342,173−174,1993)。しかしながら高価な薬剤でありステロイド耐性の患者のみの適応であり、また潰瘍性大腸炎に対する効果も弱いことから、未だ満足できる医療状況に無いのが現状である。炎症性腸疾患は緩解と再燃を繰り返す病気であり、QOL(=Quality Of Life)が非常に悪く、薬物療法の満足度が未だに低い疾患である。そのため有効な治療薬の開発が医療現場において渇望されている。
さらに、個々の患者によって薬物療法への反応が異なっており、現在用いられている治療薬すべてにおいて薬物療法に反応しない炎症性腸疾患(IBD)患者が存在している。また、遺伝子多型と疾患感受性の解析からインターロイキン−1の多型やNOD2遺伝子の多型が疾患原因遺伝子と考えられるケースがあり、基礎医学的な研究においても個々の患者による病態発症の遺伝的背景に差異のあることが明らかになりつつある(Current Opinion in Anti−inflammatory & Immunomodulatory Investigational Drugs.2,272−274,2000)。
最近の医療現場では、炎症性腸疾患(IBD)に限らず、個々の患者の症状に合わせて治療法を的確に選択することが望まれるようになってきている。高齢化社会でのQOL(Quality of life)向上の必要性が認識されてきた近年では、特に、万人に共通した治療ではなく、個々の患者の症状に合わせて適切な治療が施されることが強く求められている。このような所謂テイラーメイド治療を行うためには、個々の疾患について患者の症状やその原因(遺伝的背景)を的確に反映する疾患マーカーが有用であり、その探索並びに開発を目指した研究が精力的に行われているのが現状である。
CD81は、広範な細胞に発現している26kDaの表面分子であり、B細胞上ではCD21、CD19、Leu13と複合体を形成してB細胞活性化の閾値を下げる作用がある。T細胞はCD4、CD8と会合し細胞内に刺激情報を伝達する。これらのことからCD81は、異種抗原に対する免疫応答に重要な働きをしていると考えられる。また、各種インテグリン類と生理的かつ機能的に関与しており、B細胞上のVLA−4(α4β1インテグリン)や、胸腺細胞上のLFA−1(αLβ2インテグリン)を活性化させる。
CD81と関連のある疾患としてはC型肝炎が挙げられる。C型肝炎ウイルス(HCV)のエンベロープ蛋白E2領域をプローブとしてヒトTリンパ種(E2との結合性が高い細胞クローン)由来cDNA発現ライブラリーからE2結合分子のスクリーニングが行われ、ヒトCD81分子がE2と結合することや、かかるCD81分子上のE2結合領域がHCVのRNAと結合し、この結合がHCV感染を中和する抗体により阻害されることが報告されている(Science 282,938−941,1998)。つまりCD81がHCVの受容体として働きC型肝炎の発症に関与することが知られている。
また、HCV感染により自己免疫疾患が重症化することが知られており、CD81が慢性的HCV感染における重症度と関連していること、更にCD81がリウマチ因子と関連していることが報告されている(Clinical & Experimental Immunology.128(2):353−8,2000)。HCV感染が炎症性腸疾患の危険因子となりうるとの報告もある(Gastroenterologie Clinique et Biologique.24(1):77−81,2000)。
【発明の開示】
本発明は、炎症性腸疾患の予防、改善または治療に有用な薬物をスクリーニングする方法、並びに該疾患の予防、改善または治療剤を提供することを目的とする。
さらに本発明は炎症性腸疾患の診断や治療に有用な疾患マーカー、および該疾患マーカーを利用した炎症性腸疾患の検出方法(遺伝子診断方法)を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行っていたところ、従来は炎症性腸疾患(IBD)との関連が明らかではなかったCD81遺伝子が、IBD惹起性細胞においてIBD非惹起性細胞と比較して有意に発現上昇していることを見出した。実施例に記載のように、IBD惹起細胞とは正常動物に移入することでIBDを引き起こす能力を有する細胞集団を意味し、IBD非惹起細胞とは正常動物に移入してもIBDを引き起こさない細胞集団を意味する。具体的には、例えば、IBD惹起細胞とは、IBD発症マウス由来リンパ系細胞をStaphyloccocal enterotoxin B(SEB)で刺激培養した細胞が挙げられ、IBD非惹起細胞とは、IBD発症マウス由来リンパ系細胞を無刺激培養、あるいはIBD惹起能を抑制する活性が知られている特開2002−161084の化合物である3−chloro−2−[1−(4−morpholin−4−ylphenyl)cyclobutyl]−4,5,6,7−tetrahydropyrazolo[1,5−a]pyrimidine(以下、「化合物A」と略する場合もある。)の存在下でSEBにて刺激培養した細胞が挙げられる。
更に、本発明者らは、化合物AがCD3陽性T細胞の中のCD81陽性細胞内の炎症性サイトカインであるインターフェロンγ生成を抑制することを見出し、また、抗CD81抗体が炎症性腸疾患モデル動物の治療に有効であることも明らかにした。
以上のように、本発明者らは、CD81遺伝子の発現抑制、当該遺伝子によりコードされるタンパク質の発現抑制または機能(活性)抑制を指標としたスクリーニング系は、新たなメカニズムに基づく炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療薬の探索に有効であることを明らかにした。また、抗CD81抗体が炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤として有用であり、CD81遺伝子若しくはCD81の発現産物(タンパク質)が、炎症性腸疾患(IBD)の優れた疾患マーカーであるとの知見も得た。
本発明はかかる知見を基礎にして完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、下記に掲げるものである:
(1) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、CD81遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とCD81遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCD81遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程、
(2) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、CD81の発現量を減少させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とCD81を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCD81の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記タンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81の発現量を減少させる被験物質を選択する工程、
(3) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、CD81の機能(活性)を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をCD81に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるCD81の機能(活性)を測定し、該機能(活性)を被験物質を接触させない場合のCD81の機能(活性)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81の機能(活性)を抑制する被験物質を選択する工程、
(4) CD81の機能(活性)が、フィブロネクチン結合活性であることを特徴とする、前記(3)記載のスクリーニング方法、
(5) CD81の機能(活性)が細胞接着活性であることを特徴とする、前記(3)記載のスクリーニング方法、
(6) CD81発現細胞であるB細胞を用いることを特徴とする前記(3)乃至(5)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(7) IBDの予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、前記(1)乃至(6)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(8) CD81遺伝子の発現を減少させる物質を有効成分とする、IBDの予防、改善または治療剤、
(9) CD81遺伝子の発現を減少させる物質が前記(1)記載のスクリーニング法により得られるものである、前記(8)記載のIBDの予防、改善または治療剤、
(10) CD81の発現量または機能(活性)を抑制する物質を有効成分とする、IBDの予防、改善または治療剤、
(11) CD81の発現量または機能(活性)を抑制する物質が、前記(2)乃至(6)のいずれかに記載のスクリーニング法により得られるものである、前記(10)記載のIBDの予防、改善または治療剤、
(12) 抗CD81抗体を有効成分とする前記(10)記載のIBDの予防、改善または治療剤、
(13) 抗CD81抗体が哺乳類のCD81に対する抗体である、前記(12)記載のIBDの予防、改善または治療剤、
(14) CD81の塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドを有効成分とする、前記(8)記載のIBDの予防、改善または治療剤、
(15) CD81遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;以下IBD)の疾患マーカー、
(16) IBDの検出においてプローブまたはプライマーとして使用される前記(15)記載の疾患マーカー、
(17) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、IBDの検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと前記(15)または(16)記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、IBDの罹患を判断する工程、
(18) 工程(c)におけるIBDの罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、前記(17)に記載のIBDの検出方法、
(19) CD81を認識する抗体を含有する、IBDの疾患マーカー、
(20) IBDの検出においてプローブとして使用される前記(19)記載の疾患マーカー、
(21) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むIBDの検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と前記(19)または(20)記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、IBDの罹患を判断する工程、
(22) 工程(c)におけるIBDの罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる前記(21)記載のIBDの検出方法。
上記のように、本発明によれば、CD81遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング系、CD81の発現または機能(活性)を抑制する物質のスクリーニング系、これらのスクリーニング系で見出された物質を有効成分とするIBDの予防、改善または治療剤、および抗CD81抗体を有効成分とするIBDの予防、改善または治療剤が提供される。また、IBDの疾患マーカー、該疾患の検出系も提供される。
本発明は、前述するように、IBD非惹起性細胞に比べて、IBD惹起性細胞のCD81遺伝子の発現が上昇しており、抗CD81抗体が炎症性腸疾患モデル動物に対して治療効果を示すという知見に基づく。
従って、CD81の遺伝子およびその発現産物並びにそれらからの派生物(例えば、遺伝子断片、抗体など)は、CD81遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング、あるいはCD81発現または機能(活性)を抑制する物質のスクリーニングに有用であり、該スクリーニングによって得られる物質は、炎症性腸疾患の予防、改善および治療薬として有効である。また、抗CD81抗体やCD81遺伝子のアンチセンス核酸(アンチセンスヌクレオチド)は炎症性腸疾患の予防、改善および治療薬として有用である。
更にCD81遺伝子及びその発現産物〔タンパク質、(ポリ)(オリゴ)ペプチド〕は、炎症性腸疾患(IBD)の解明、診断、予防及び治療に有効に利用することができ、かかる利用によって医学並びに臨床学上、有用な情報や手段を得ることができる。個体(生体組織)における、上記遺伝子の発現またはその発現産物の検出、または該遺伝子の変異またはその発現異常の検出は、炎症性腸疾患の解明や診断に有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC−IUB Communication on Biological Nomenclature,Eur.J.Biochem.,138:9(1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(3−1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1の特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E−valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
本明細書において「CD81遺伝子」または「CD81のDNA」といった用語を用いる場合も、特に言及しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトCD81遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトCD81遺伝子(GenBank Accession No.NM_004356)や、そのマウスホモログおよびラットホモログなどが包含される。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
本明細書において「CD81タンパク質」または単に「CD81」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトCD81やその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No.P18582)に記載のアミノ酸配列を有するヒトCD81や、そのマウスホモログおよびラットホモログなどが包含される。
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
本明細書において「抗CD81抗体」とは、CD81を特異的に認識する抗体であればよく、具体的には、CD81遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「CD81」ともいう)を特異的に認識することのできる抗体であればよい。
本明細書において「IBD」とは、inflammatory bowel diseaseの略であり、日本では炎症性腸疾患と呼ばれる。炎症性腸疾患は、病態から潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UCと略される)とクローン病(Crohn’s disease:CDと略される)を含む疾患である。
さらに本明細書において「疾患マーカー」とは、炎症性腸疾患(IBD)の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を診断するために、また炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、炎症性腸疾患(IBD)の罹患に関連して生体内、特に大腸組織において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子及びタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
さらに本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、炎症性腸疾患(IBD)に伴い本発明のCD81遺伝子の発現が上昇する組織を指す。具体的には大腸組織及びその周辺組織などを指す。
以下、CD81遺伝子(ポリヌクレオチド)並びにこの発現産物(CD81)、およびそれらの派生物(抗CD81抗体など)について、具体的な用途を説明する。
(1)候補薬のスクリーニング方法
(1−1)遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法
本発明は、CD81遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質とCD81遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCD81遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、CD81遺伝子を発現する培養細胞全般を挙げることができる。CD81遺伝子の発現は、公知のノーザンブロット法やRT−PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。当該スクリーニングに用いられる細胞としては、具体的には、例えば、(A)炎症性腸疾患(IBD)の動物モデルより単離、調製した腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、(B)種々の刺激剤で処理又は未処理の腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、(C)本発明遺伝子のいずれかを導入した細胞を挙げることができる。
ここで前記(A)のIBDの動物モデルとしては、IBDの動物モデルとして周知であるれば如何なる動物モデルをもよく、具体的には、自然発症IBDモデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)、化学物質誘発モデル(ジニトロクロロベンゼン誘発モデル(ラット)、酢酸モデル(ラット)、トリニトロスルホン酸誘発モデル(マウス、ラット、ウサギ)、デキストラン硫酸誘発モデル(マウス、ラット、ハムスター)、カラゲナン誘発モデル(ラット、モルモット)、インドメタシン誘発モデル(ラット)等)、トランスジェニック/ミュータント(IL−2ノックアウトマウス、IL−10ノックアウトマウス、TCRノックアウトマウス等)、または移入モデル(CD45RBhi移入SCIDマウス等)等を挙げることができる。また腸管組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の初代培養細胞などを挙げることができる。
前記(B)の腸管組織由来の細胞としては、大腸(結腸)由来の株化細胞が好ましく、具体的にはCaco−2細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATCC株番号HTB−37)、HT−29細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATCC株番号HTB−38)またはCOLO 205細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATCC株番号CCL−222)等を挙げることができる。またリンパ系組織由来の細胞としては、リンパ球、単球、マクロファージ、好中球、好酸球およびそれらの株化細胞が好ましく、具体的にはRAW 264.7細胞(マウス単球由来、ATCC株番号TIB−71)、U−937細胞(ヒト組織球性リンパ腫由来、ATCC株番号CRL−1593.2)、THP−1細胞(ヒト単球由来、ATCC株番号TIB−202)またはJurkat細胞(ヒトT細胞リンパ腫由来、ATCC株番号TIB−152)等を挙げることができる。刺激剤は、具体的にはリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等を挙げることができる。これら刺激剤で刺激することにより、細胞は炎症部位の環境により近い活性化状態になることが知られている。
前記(C)の本発明遺伝子導入細胞としては、前記(A)(B)の細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちL−929(結合組織由来、ATCC株番号CCL−1)、C127I(乳癌組織由来、ATCC株番号CRL−1616)、Sp2/0−Ag14(骨髄腫由来、ATCC株番号CRL−1581)、NIH3T3(胎児組織由来、ATCC株番号CRL−1658)等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK−21(シリアンハムスター仔腎組織由来、ATCC株番号CCL−10)、CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣由来、ATCC株番号CCL−61)等のハムスター由来細胞、COS1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CRL−1650)、CV1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CCL−70)、Vero(アフリカミドリザル腎組織由来、大日本製薬株式会社)等のサル由来細胞、HeLa(子宮けい部癌由来、大日本製薬株式会社)、293(胎児腎由来、ATCC株番号CRL−1573)等のヒト由来細胞、およびSf9(Invitrogen Corporation)、Sf21(Invitrogen Corporation)等の昆虫由来細胞などを挙げることができる。
さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(CD81遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つCD81遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
実施例に示すように、炎症性腸疾患(IBD)惹起性細胞において、炎症性腸疾患(IBD)非惹起性細胞に比して、特異的にCD81遺伝子が発現上昇しており、抗CD81抗体はIBDモデル動物に対して治療効果を示す。この知見から、CD81遺伝子の発現は炎症性腸疾患(IBD)と因果関係があると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、このCD81遺伝子の発現レベルを指標として、CD81遺伝子の発現を減少させる物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、IBDの緩和/抑制作用を有する(IBDに対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、CD81遺伝子の発現を減少させる物質を探索することによって、IBDの予防、改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質の選別は、具体的には、被験物質を添加した細胞のCD81遺伝子の発現レベルが、被験物質を添加しない細胞のそのレベルに比して低くなることを指標にして行うことができる。また、CD81遺伝子の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質[例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等]の存在下において誘導される発現が候補物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導条件下で候補物質を接触させた細胞のCD81遺伝子の発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として行うことができる。
このような本発明のスクリーニング方法における遺伝子発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明の疾患マーカーとを用いて、後述の(4−1)項に記述するように、公知の方法であるノーザンブロット法、RT−PCR法、あるいはDNAチップなどを利用する方法に従って実施できる。指標とする遺伝子発現レベルの変動(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を接触させた細胞におけるCD81遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を接触させない対照細胞における発現量と比較して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。
またCD81遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、CD81遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来のタンパク質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のCD81遺伝子の発現抑制物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含されるものであり、この意味において、請求項1、請求項5および請求項6に記載する「CD81遺伝子」の概念には、CD81遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。
なお、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記のルシフェラーゼ遺伝子のほか、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、及びエクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子を例示できる。
また、ここでCD81遺伝子の発現制御領域は、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。CD81遺伝子の発現制御領域は、例えば(i)5’−RACE法(例えば、5’full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施される)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’−上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。また融合遺伝子の作成、およびマーカー遺伝子由来の活性測定は公知の方法で行うことができる。
本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、CD81遺伝子の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質は、CD81遺伝子の発現を抑制することによって、大腸組織障害の発症、進行を抑制し、よって、炎症性腸疾患(IBD)を予防、改善または治療する薬物の有力な候補物質となる。
(1−2)タンパク質の発現量を指標とするスクリーニング方法
本発明は、CD81(CD81タンパク質)の発現を減少させる物質をスクリーニングする方法を提供する。
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質とCD81を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCD81の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記タンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
本発明スクリーニングに用いられる細胞は、内在性および外来性を問わず、CD81遺伝子を発現し、発現産物としてのCD81を有する培養細胞全般を挙げることができる。CD81の発現は、遺伝子産物であるタンパク質を公知のウエスタン法にて検出することにより、容易に確認することができる。該細胞としては、具体的には、前記(1−1)項に示されるような細胞などが挙げられる。また当該細胞には、その細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分なども含まれる。
実施例に示すように、IBD惹起性細胞では、IBD非惹起性細胞に比して、特異的にCD81遺伝子が発現上昇しており、抗CD81抗体はIBDモデル動物に対して治療効果を示す。これらの知見から、CD81の発現は炎症性腸疾患(IBD)と因果関係があると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、CD81のタンパク発現レベルを指標として、その発現量を減少させる物質(発現レベルを正常に戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、IBDの緩和/抑制作用を有する(IBDに対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、CD81のタンパク発現量を減少させる物質を探索することによって、炎症性腸疾患(IBD)の予防薬、改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質の選別は、具体的にはCD81を発現産生している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞におけるCD81のタンパク量(レベル)が、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のその量(レベル)に比して低くなることを指標として行うことができる。また、CD81の発現産生に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質[例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL−1、IL−6、IL−12、IL−18、TNFα、IFNγ等)等]によって誘導される当該タンパクの産生が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞のCD81遺伝子の発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として選別を行うことができる。
本発明のスクリーニング方法にかかるCD81の産生量は、前述したように、例えば本発明疾患マーカーなどの抗体(例えばヒトCD81タンパク質またはそのホモログを認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(CD81遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞や細胞膜画分と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
(1−3)タンパク質の機能(活性)を指標とするスクリーニング方法
本発明は、CD81の機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法は次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質をCD81に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるCD81の機能(活性)を測定し、該機能(活性)を被験物質を接触させない場合のCD81の機能(活性)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81の機能(活性)を抑制する被験物質を選択する工程。
本発明のスクリーニング方法おいては、CD81の公知の機能・活性に基づく如何なる機能・活性測定方法をも利用することができる。すなわち、CD81の公知の機能・活性測定系に被験物質を添加し、当該CD81の公知の機能・活性を抑制・阻害する被験物質を、炎症性腸疾患(IBD)に対して改善/治療効果を有する候補物質として選択するスクリーニング方法であれば、本発明のスクリーニング方法の範疇に含まれる。
前記本発明のスクリーニングは、CD81を含む細胞または該細胞から調製した細胞画分と、被験物質とを接触させることにより行うことができる。
また、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、内在性及び外来性を問わず、CD81を発現し得る細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、前記(1−1)項に示されるような細胞などを用いることができる。また細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。
前記スクリーニングにおいて用いられるCD81は公知のタンパク質であり、CD81遺伝子の配列情報(配列番号1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換細胞の培養、および必要に応じて培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning,T.Maniatis et al.,CSH Laboratory(1983),DNA Cloning,DM.Glover,IRL PRESS(1985))などに準じて行うことができる。
具体的には、CD81をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、CD81タンパク質を得ることができる。
実施例に示すように、炎症性腸疾患(IBD)惹起性細胞では、IBD非惹起性細胞に比して、特異的にCD81遺伝子が発現上昇しており、抗CD81抗体はIBDモデル動物に対して治療効果を示す。この知見から、CD81の機能(活性)亢進は、炎症性腸疾患(IBD)と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、CD81の機能(活性)を指標として、CD81の機能(活性)を抑制する物質を探索する方法が包含される。本発明スクリーニング方法によれば、CD81の機能(活性)を抑制する物質を探索でき、かくして炎症性腸疾患(IBD)の緩和/抑制作用を有する(IBDに対して改善/治療効果を発揮する)候補物質が提供される。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、CD81の機能(活性)を抑制する物質を探索することによって、炎症性腸疾患(IBD)の予防剤、改善剤または治療剤の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質の選別は、具体的には、CD81タンパク質の機能(活性)を抑制(低下)させる物質の探索は、CD81を含む細胞または該細胞から調製した細胞画分に被験物質を接触させた場合に得られるタンパク質の機能(活性)が、被験物質を添加しない対照の細胞または細胞画分の上記タンパク質の機能(活性)に比して低くなることを指標として行うことができる。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、蛋白質(CD81に対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記水溶液、細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
本発明のCD81の機能(活性)に基づくスクリーニング方法として、具体的には以下に述べる方法が例示される。
(A)結合阻害活性を指標とするスクリーニング−1
CD81は細胞表面分子であり、その結合物質としてはフィブロネクチンが知られている。従って、この公知の性質に基づいて、CD81の機能(活性)の変動をもたらす被験物質(候補物質)のスクリーニングを行うことができる。すなわち、本発明タンパク質であるCD81と、フィブロネクチンなどのCD81に結合する物質(以下「CD81結合物質」と称する場合がある。)との結合を指標として行うことができる。この場合、具体的には、CD81タンパク質とCD81結合物質との結合を阻害する被検物質を候補物質として選択することができる。
すなわち結合阻害活性に基づく本発明のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むものが例示される:
(a)被験物質の存在下で、CD81とCD81結合物質とを接触させる工程、
(b)上記反応の結果生じた結合量を測定し、当該結合量を、被験物質非存在下で上記(a)を行うことによって生じる結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c)上記(b)の結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を変動させる被験物質を選択する工程。
この場合、結合物質とCD81との結合阻害あるいは増強は、(i)結合物質に結合することによって、CD81と結合物質の結合を阻害あるいは増強する態様のもの、(ii)CD81に結合することによって、CD81と結合物質の結合を阻害あるいは増強する態様のもの、を例示することができるが、結合を阻害あるいは増強するものであれば特に限定されない。
(B)結合阻害活性を指標とするスクリーニング−2
CD81は別名TAPA−1とも称され、リンパ球の分化、増殖、活性化や接着の機能があり、その発現にはインテグリンと生理的かつ機能的に関与している。抗CD81抗体を用いた検討でB細胞上のインテグリンα4β1(VLA−4)を活性化する事やB細胞に抗原提示されたT細胞からのIL−4産生を増加することが報告されている。インテグリンα4β1は、細胞外基質フィブロネクチンと結合することから、CD81はB細胞のフィブロネクチンへの結合を促す(Behr S and et al.J Exp Med 182:1191−1199(1995))。
従って、CD81の公知の性質であるインテグリンα4β1依存性B細胞のフィブロネクチン結合活性を測定することによって、CD81の機能(活性)を抑制する抑制物質または候補物質をスクリーニングすることができる。この場合、候補物質は、具体的には例えば被検物質(候補物質)の存在下で、抗CD81抗体を接触させることによるB細胞のフィブロネクチン結合活性が、被検物質(候補物質)の非存在下で抗CD81抗体を接触させることによるB細胞のフィブロネクチン結合に比して減少する(抑制される)場合に、選択することができる。
すなわちCD81の細胞接着活性に基づくスクリーニング方法としては、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むものが例示される:
(a)被験物質の存在下で、CD81発現細胞と抗CD81抗体を接触させる工程、
(b)上記(a)における、B細胞のフィブロネクチン結合活性を測定し、当該活性値を、被験物質非存在下で前記細胞と抗CD81抗体を接触させることによって得られるフィブロネクチン結合活性値(対照活性値)と比較する工程、
(c)上記(b)の結果に基づいて、対照活性値に比して活性値を減少させる被験物質を選択する工程。
CD81の機能(活性)に基づくスクリーニング方法である前記(A)と(B)のスクリーニングは、CD81を発現している細胞や該細胞画分などを用いて実施することができる。CD81を発現している細胞とは、具体的には、前記(1−1)項に示される細胞、CD81を天然に発現している細胞、およびCD81をコードする遺伝子を細胞に導入して作製した形質転換細胞などが挙げられる。(B)のスクリーニング方法で用いられるCD81発現細胞はB細胞であってもよい。
CD81発現細胞の細胞膜を用いる場合は、例えば、細胞に低張バッファーを添加し、細胞を低張破壊した後、ホモジナイズし、遠心分離することにより細胞膜画分の沈殿物を得る。そしてこの沈殿物をバッファーに懸濁することにより、受容体を含有する細胞膜画分を得ることができる。得られた細胞膜画分は、抗体を結合させたカラム等により常法で精製することもできる。
当該形質転換細胞は、Molecular Cloning 2nd Edt.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書に従い、当業者にとって公知の方法で調製することができる。例えば、CD81のcDNAをpCAGGS(Gene 108,193−199(1991))、pcDNA1.1、pcDNA3.1誘導体(インビトロジェン社)などの公知の発現ベクターに挿入する。その後、適当な宿主に導入し、培養することにより、導入したCD81のDNAに対応するタンパク質を発現させた形質転換細胞を作製することができる。宿主としては、一般的に広く普及している、CHO細胞、C127細胞、BHK21細胞、COS細胞などを用いることができるが、これに限定されることなく、酵母、細菌、昆虫細胞などを用いることもできる。
CD81のcDNAを有する発現ベクターの宿主細胞への導入方法としては、公知の発現ベクターの宿主細胞への導入方法であれば、どのような方法でもよく、例えばリン酸カルシウム法(J.Virol.,52,456−467(1973))、LT−1(Panvera社製)を用いる方法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Gibco−BRL社製)を用いる方法などが挙げられる。
本発明タンパクは、そのままで用いても良いし、任意の標識物質で標識されたものを用いることもできる。ここで標識物質としては、放射性同位体(H、14C、35S、125I等)、蛍光物質(Molecular Probes社Alexa Protein Labeling Kits等)、化学発光物質(Assay Designs社Chemiluminescence Labeling Kit等)、ビオチン(Pierce社EZ−Link Biotinylation Kits等)、マーカータンパク質、またはペプチドタグなどを例示することができる。マーカータンパク質としては、例えばアルカリフォスファターゼ(Cell,63,185−194,1990)、抗体のFc領域(Genbank accession number M87789)、またはHRP(Horse radish peroxidase)などの従来公知のマーカータンパク質を挙げることができる。またペプチドタグとしては、例えばMycタグ、Hisタグ、FLAGタグなどの従来公知のペプチドタグを挙げることができる。
また、抗CD81抗体は、例えば市販の抗CD81抗体(ファーミンジェン社製)を購入することによって入手できる。
フィブロネクチン結合活性は、J Exp Med,1995,182:1191−1199を参考にして容易に測定することができる。
かくして選抜取得される被験物質は、炎症性腸疾患(IBD)を緩和、抑制(予防、改善、治療)する薬物の有力な候補となる。
上記(1−1)〜(1−3)に記載する本発明のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらにIBDのモデル動物である(1)自然発症IBDモデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)、(2)化学物質誘発モデル(ジニトロクロロベンゼン誘発モデル(ラット)、酢酸モデル(ラット)、トリニトロスルホン酸誘発モデル(マウス、ラット、ウサギ)、デキストラン硫酸誘発モデル(マウス、ラット、ハムスター)、カラゲナン誘発モデル(ラット、モルモット)、インドメタシン誘発モデル(ラット)等)、(3)トランスジェニック、ミュータント(IL−2ノックアウトマウス、IL−10ノックアウトマウス、TCRノックアウトマウス等)、または(4)移入モデル(CD45RBhi移入SCIDマウス等)を用いた薬効試験、安全性試験、さらにIBD患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的なIBDの改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
上記動物モデルはいずれも当業者にとって公知であり、例えば「In vivo models of Inflammation」D.W.Morganら編(1999、Birkhauser Verlag Basel/Switzerland)に記載された動物モデルを用いることができる。具体的には、自然発症IBDモデル(C3H/HeJBirマウス、Cotton top tamarins等)は、Gastroenterology、107巻、1726−1735頁(1994)等に記載の方法により作製することができる。また、化学物質(2,4,6−ニトロベンゼンスルホン酸等が用いられる。)誘発モデルは、Gastroenterology、96巻、795−803頁(1989)等に記載の方法により作製することができる。
なお、上記(1−1)〜(1−3)に記載するスクリーニング方法は、炎症性腸疾患(IBD)の改善または治療薬の候補物質を選別するのみならず、IBDの改善または治療薬(候補薬)が、CD81遺伝子の発現を減少させるか否か、あるいはCD81の発現若しくは機能・活性を抑制するか否かを評価、確認するために用いることができる。すなわち本発明のスクリーニング方法の範疇には、候補物質の探索のみならず、このような評価あるいは確認を目的とするものも含まれる。
(2)炎症性腸疾患(IBD)の改善・治療剤
(2−1)本発明の抗CD81抗体
本発明はIBDの予防、改善または治療に有効である抗CD81抗体を提供する。本発明で使用される抗CD81抗体は、炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療効果を示すものであればよく、何ら限定はされない。
本発明で使用される抗CD81抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗CD81抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はCD81と結合することにより、CD81発現細胞の除去、CD81の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断あるいは活性化する。
抗CD81抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、CD81を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗CD81抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトCD81は、公知の方法によって得られる。
CD81の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞表面のCD81を感作抗原として用いればよい。また、CD81発現細胞、例えば全てのリンパ系細胞を感作抗原として用いてもよい。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBSや生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4−21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney,J.F.et al.J.Immnol.(1979)123,1548−1550)、P3X63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81,1−7)、NS−1(Kohler.G.and Milstein,C.Eur.J.Immunol.(1976)6,511−519)、MPC−11(Margulies.D.H.et al.,Cell(1976)8,405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(1978)276,269−270)、F0(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35,1−21)、S194(Trowbridge,I.S.J.Exp.Med.(1978)148,313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277,131−133)等が適宜使用される。
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.、Methods Enzymol.(1981)73,3−46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1−10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000−6000程度のPEG溶液を通常、30−60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602、WO 94/25585、WO 96/34096、WO 96/33735参照)。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C.A.K.and Larrick J.W.THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochemistry(1979)18,5294−5299)、AGPC法(Chomczynski,P.et al.,Anal.Biochem.(1987)162,156−159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5’−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5’−RACE法(Frohman,M.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85,8998−9002、Belyavsky,A.et al.,Nucleic Acids Res.(1989)17,2919−2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92−19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92−19759参照)。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR;framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 92−19759参照)。
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
キメラ抗体、ヒト型化抗体には、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、ヒト型化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、ヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3’側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan,R.C.et al.,Nature(1979)277,108−114)、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima,S.and Nagata,S.Nucleic Acids Res.(1990)18,5322)に従えば容易に実施することができる。
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward,E.S.et al.,Nature(1989)341,544−546、Ward,E.S.et al.FASEB J.(1992)6,2422−2427)、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better,M.et al.Science(1988)240,1041−1043)に従えばよい。
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al J.Bacteriol.(1987)169,4379−4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランス
フェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser,SPECTRUM Biotechnology Applications,1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(1994)12,699−702)。
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウイルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda,S.et al.,Nature(1985)315,592−594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian,K.−C.Ma et al.,Eur.J.Immunol.(1994)24,131−138)。
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94−11523参照)。
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976、Better,M.& Horwitz,A.H.Methods in Enzymology(1989)178,476−496、Plueckthun,A.& Skerra,A.Methods in Enzymology(1989)178,476−496、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology(1989)121,652−663、Rousseaux,J.et al.,Methods in Enzymology(1989)121,663−669、Bird,R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137参照)。
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12−19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本願特許請求の範囲でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本願特許請求の範囲でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLCを用いてもよい。
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(−)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAGO製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio−Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
本発明の抗CD81抗体は、前述の(1)項に記載するCD81の発現変動を検出するためのスクリーニングツール、または後述の(3)項に記載の診断薬(疾患マーカー)としても用いることができる。
(2−2)本発明のアンチセンスポリヌクレオチド
本発明はIBDの予防、改善または治療に有効である、CD81の塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドを提供する。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、CD81遺伝子の塩基配列に相補的な、または実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するものであり、CD81遺伝子の発現を抑制し得る作用を有するものであれば、いずれのアンチセンスポリヌクレオチドであってもよく、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。
ここで、実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、CD81遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などが挙げられる。特に、CD81遺伝子の塩基配列のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドが好適である。具体的には、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な、もしくは実質的に相補的な配列、またはその一部分を有するアンチセンスポリヌクレオチドなどが挙げられる。
アンチセンスポリヌクレオチドは通常、10〜1000個程度、好ましくは15〜500個程度、更に好ましくは16〜30個程度の塩基から構成される。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンスDNAを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)は、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換されていてもよい。これらのアンチセンスポリヌクレオチドは、公知のDNA合成装置などを用いて製造することができる。
かかるアンチセンスポリヌクレオチドは、CD81遺伝子のRNAとハイブリダイズすることができ、該RNAの合成または機能を阻害することができるか、あるいは該RNAとの相互作用を介してCD81遺伝子の発現を調節・制御することができる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、生体内および生体外で本発明のタンパク質遺伝子の発現を調節・制御するのに有用であり、また病気などの治療に有用である。タンパク質遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、ポリペプチド翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどは、好ましい対象領域として選択しうるが、タンパク質遺伝子内の如何なる領域も対象として選択しうる。目的核酸と、対象領域の少なくとも一部に相補的なポリヌクレオチドとの関係については、目的核酸が対象領域とハイブリダイズすることができる場合は、その目的核酸は、当該対象領域のポリヌクレオチドに対して「アンチセンス」であるということができる。
アンチセンスポリヌクレオチドは、2−デオキシ−D−リボースを含有しているポリヌクレオチド、D−リボースを含有しているポリヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオチドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、RNA、DNAまたは修飾された核酸(RNA、DNA)である。修飾された核酸の具体例としては、核酸の硫黄誘導体、チオホスフェート誘導体、ポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものなどが挙げられる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、例えば、以下のように設計されうる。すなわち、細胞内でのアンチセンスポリヌクレオチドをより安定なものにする、アンチセンスポリヌクレオチドの細胞透過性をより高める、目標とするセンス鎖に対する親和性をより大きなものにする、また、もし毒性があるような場合はアンチセンスポリヌクレオチドの毒性をより小さなものにする。このような修飾は、例えばPharm Tech Japan,8巻,247頁または395頁,1992年、Antisense Research and Applications,CRC Press,1993年などで数多く報告されている。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、リポゾーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療により適合した、付加された形態で供与されてもよい。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端または5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端または5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。アンチセンスポリヌクレオチドの阻害活性は、本発明のスクリーニング方法を用いて調べることができる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、前述のように2本鎖であってもよく、CD81をコードするRNAに結合し、該RNAを破壊またはその機能を抑制するものであればよい。すなわち、CD81をコードするRNAの一部とそれに相補的なRNAを含有する2本鎖RNA等も本発明のアンチセンスポリヌクレオチドに含まれる。
(2−3)本発明の炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤
本発明は、炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療剤を提供するものである。
本発明は、CD81がIBD惹起性細胞に高発現しており、抗CD81抗体がIBDモデル動物に対して治療効果を示すという新たな知見から、CD81遺伝子発現を抑制する物質、CD81の発現量または機能(活性)を低下させる物質、および抗CD81抗体が炎症性腸疾患の予防、改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。
したがって、本発明が提供するIBDの予防、改善および治療剤は、CD81遺伝子の発現を抑制する物質、CD81の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質または抗CD81抗体を有効成分とするものである。
当該有効成分となる、CD81遺伝子の発現を抑制する物質、あるいはCD81の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質は、上記のスクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、選別された物質に関する情報に基づいて定法に従って工業的に製造されたものであってもよい。また、IBDモデル動物を用いた薬効試験、安全性試験、更にIBDに罹患した患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的なIBDの改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
CD81遺伝子発現を抑制する物質、あるいはCD81の発現量もしくは機能(活性)を低下させる物質は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、1日投与用量として、数mg〜2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。
本発明には、CD81タンパク質の機能(活性)を抑制する活性を有する抗CD81抗体を有効成分として含有する炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤も含まれる。
抗CD81抗体を有効成分として含有する薬剤は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
抗CD81抗体を有効成分として含有する薬剤自体は、公知の製剤学的方法により製剤化した薬剤として投与を行う。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で使用できる。また、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、ベヒクル、防腐剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80TM、HCO−50と併用してもよい。
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
また、患者の年齢、症状により適宜投与量を選択することができる。例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mg〜1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の治療薬はこれらの投与量に制限されるものではない。
本発明には、CD81タンパク質の発現を抑制するためのヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤も含まれる。前述のCD81遺伝子発現を抑制する物質、あるいはCD81の発現量もしくは機能(活性)を低下させる物質がDNAによりコードされるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がCD81遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
上記アンチセンスポリヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を抑制する方法により実施できる。
アンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちCD81の発現を抑制することができ、かくしてCD81の機能(活性)を抑制することができる。
アンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは10〜1000塩基、さらに好ましくは15〜500塩基、最も好ましくは16〜30塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは10〜1000塩基、さらに好ましくは15〜500塩基、最も好ましくは16〜30塩基の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,12(15),全頁(1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えば本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)−リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、CD81遺伝子に対するアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001〜100mg、好ましくは約0.001〜10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスポリヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×10pfu〜1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスポリヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×10細胞/body〜1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
さらに、本発明は、(i)本発明のタンパク質をコードするRNAの一部とそれに相補的なRNAを含有する二重鎖RNA、(ii)前記二重鎖RNAを含有してなる医薬、(iii)本発明のタンパク質をコードするRNAの一部を含有するリボザイム、(iv)前記リボザイムを含有してなる医薬、(v)前記リボザイムをコードする遺伝子(DNA)を含有する発現ベクターなども提供する。上記アンチセンスポリヌクレオチドと同様に、二重鎖RNA、リボザイムなども、本発明のDNAから転写されるRNAを破壊またはその機能を抑制することができる。本発明のCD81またはそれをコードするDNAの機能を抑制することができる二重鎖RNA、リボザイムなどは、生活習慣病、特に糖尿病の予防・治療剤などとして使用することができる。
二重鎖RNAは、公知の方法(例、Nature,411巻,494頁,2001年)に準じて、本発明のポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。リボザイムは、公知の方法(例、TRENDS in Molecular Medicine,7巻,221頁,2001年)に準じて、本発明のポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。例えば、公知のリボザイムの配列の一部を本発明のタンパク質をコードするRNAの一部に置換することによって製造することができる。本発明のタンパク質をコードするRNAの一部としては、公知のリボザイムによって切断され得るコンセンサス配列NUX(式中、Nはすべての塩基を、XはG以外の塩基を示す)の近傍の配列などが挙げられる。上記の二重鎖RNAまたはリボザイムを上記予防・治療剤として使用する場合、アンチセンスポリヌクレオチドと同様にして製剤化し、投与することができる。また、前記(v)の発現ベクターは、公知の遺伝子治療法などと同様に用い、上記予防・治療剤として使用する。
(3)炎症性腸疾患(IBD)の疾患マーカーおよびその応用
(3−1)ポリヌクレオチド
本発明におけるCD81遺伝子は、TAPA−1遺伝子とも呼ばれる公知遺伝子である。例えばヒト由来のCD81遺伝子としては、配列番号1に示すポリヌクレオチドが知られており(GenBank Accession No.NM_004356)、その取得方法についてもPrasad SSら,Brain Res.,639,73−84,1994に記載されるように公知である。
本発明は、前述するように、炎症性腸疾患(IBD)惹起性細胞において、IBD非惹起性細胞に比して、CD81遺伝子が特異的に発現上昇しているという知見を発端に、この遺伝子発現の有無や発現の程度を検出することによって上記IBDの罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという知見に基づくものである。
上記ポリヌクレオチドは、従って、被験者における上記遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者が炎症性腸疾患(IBD)に罹患しているか否かまたはその罹患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
また上記ポリヌクレオチドは、前述の(1−1)項に記載するような炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、CD81遺伝子の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
本発明の疾患マーカーは、前記CD81遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなることを特徴とするものである。
具体的には、本発明の疾患マーカーは、配列番号1に記載のCD81遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/またはそれに相補的なポリヌクレオチドからなるものを挙げることができる。
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、前記CD81遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列または該塩基配列において、少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel(1987,Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology,Vol.152,Academic Press,San Diego CA)に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、前記CD81遺伝子の塩基配列またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
さらに上記正鎖のポリヌクレオチド及び相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。
本発明の炎症性腸疾患(IBD)の疾患マーカーは、具体的には、CD81遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またこれら前記本発明遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、CD81遺伝子、またはこれに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT−PCR法においては、CD81遺伝子、またはこれに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
本発明の疾患マーカーは、例えば配列番号1で示されるCD81遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer3(http://www.genome.wi.mit.edu/cgi−bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記CD81遺伝子の塩基配列をprimer3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
本発明の疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
(3−2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド
本発明において炎症性腸疾患(IBD)の検出(診断)は、被験者の生体組織、特に大腸組織等におけるCD81遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。この場合、上記本発明の疾患マーカーは、上記遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
本発明疾患マーカーを炎症性腸疾患(IBD)の検出(遺伝子診断)においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するものが例示できる。
本発明の疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT−PCR法、in situハイブリダーゼーション法などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によって炎症性腸疾患(IBD)におけるCD81遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、若しくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
また、生体組織におけるCD81遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明の疾患マーカーは当該DNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、アフィメトリックス社のGene Chip Human Genome U95 A,B,C,D,Eの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明疾患マーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中での本発明遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。
上記DNAチップは、CD81遺伝子と結合し得る1種または2種以上の本発明疾患マーカーを含んでいれば良い。複数の疾患マーカーを含むDNAチップの利用によれば、ひとつの生体試料について、同時に複数の遺伝子の発現の有無または発現レベルの評価が可能である。
本発明の疾患マーカーは、炎症性腸疾患(IBD)の診断、検出(罹患の有無や罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該疾患マーカーを利用した炎症性腸疾患(IBD)の診断は、被験者の生体組織と正常者の生体組織におけるCD81遺伝子の遺伝子発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の生体組織と正常者の生体組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。
具体的にはCD81遺伝子が、炎症性腸疾患(IBD)惹起性細胞において、IBD非惹起性細胞と比較して有意に発現上昇しているので、被験者の生体組織で発現しており、該発現量が正常者の生体組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多ければ、被験者について炎症性腸疾患(IBD)の罹患が疑われる。
(3−3)抗体
本発明は、炎症性腸疾患(IBD)の疾患マーカーとして、CD81遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「CD81」ともいう)を特異的に認識することのできる抗体を提供する。
当該抗体として、具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するCD81タンパク質を特異的に認識することのできる抗体を挙げることができる。前記(2−1)項に記載の抗体を用いることもできる。
本発明は、前述するように、CD81遺伝子がIBD惹起性細胞においてIBD非惹起性細胞と比較して有意に発現上昇しているという知見を発端に、この遺伝子の発現産物(タンパク質)の有無やその発現の程度を検出することによって上記炎症性腸疾患(IBD)の罹患の有無や罹患の程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を正確に行うことができるという発想に基づくものである。
上記抗体は、従って、被験者における上記タンパク質の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者が炎症性腸疾患(IBD)に罹患しているか否かまたはその疾患の程度を診断することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
また上記抗体は、前述の(1−2)項に記載するような炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療に有用な候補物質のスクリーニングにおいて、CD81の発現変動を検出するためのスクリーニングツール(疾患マーカー)としても有用である。
ヒト由来のCD81も公知のタンパク質であり、その取得方法についても文献(BREN DAN J.CLASSONら,J Exp Med,169,1497−1502,1989)に記載されるように公知である。
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、CD81を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらにこれら本発明タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology,Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したCD81を用いて、あるいは常法に従ってこれら本発明タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したCD81、あるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley and Sons.Section 11.4〜11.11)。
抗体の作製に免疫抗原として使用されるCD81は公知のタンパク質であり、例えば前記(1−3)項に記載したように、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号:1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning,T.Maniatis et al.,CSH Laboratory(1983),DNA Cloning,DM.Glover,IRL PRESS(1985))などに準じて行うことができる。
また、CD81の部分ペプチドは、本発明により提供されるアミノ酸配列の情報(配列番号:2)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
なお、本発明のCD81には、配列番号:2に示す各アミノ酸配列に関わるタンパク質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記配列番号:2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ改変前の元のタンパク質と免疫学的に同等の活性を有するタンパク質を挙げることができる。
ここで同等の免疫学的活性を有するタンパク質としては、適当な動物あるいはその細胞において特定の免疫反応を誘発し、かつCD81に対する抗体と特異的に結合する能力を有するタンパク質を挙げることができる。
なお、タンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その免疫学的活性が保持される限り制限はない。免疫学的活性を喪失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られるタンパク質がCD81と同等の免疫学的活性を保持している限り、特に制限されないが、タンパク質の構造保持の観点から、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性並びに両親媒性など、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe及びTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn及びGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Asp及びGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、Arg及びHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
本発明抗体は、また、CD81の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、CD81と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つCD81のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム−パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
本発明の抗体は、CD81に特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記タンパク質を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるCD81のタンパク発現の有無を検出するためのプローブとして有用である。
具体的には、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製した組織抽出物やタンパク質を用いて、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、本発明抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、CD81を検出することができる。
炎症性腸疾患(IBD)の診断に際しては、被験者の生体組織におけるCD81と正常な生体組織におけるこのタンパク質との量の違いを判定すればよい。この場合、タンパク量の違いには、タンパクのある/なし、あるいはタンパク量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的には、CD81遺伝子が、IBD惹起性細胞においてIBD非惹起性細胞と比較して発現が増加しているので、被験者の前記生体組織においてCD81が存在しており、該量が正常な生体組織での量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多いことが判定されれば、炎症性腸疾患(IBD)の罹患が疑われる。
(4)炎症性腸疾患(IBD)の検出方法(診断方法)
本発明は、前述した本発明疾患マーカーを利用した炎症性腸疾患(IBD)の検出方法(診断方法)を提供するものである。
具体的には、本発明の検出方法(診断方法)は、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこに含まれる炎症性腸疾患(IBD)に関連するCD81遺伝子の遺伝子発現レベル、およびこの遺伝子に由来するタンパク質(CD81)を検出し、その発現量またはそのタンパク質量を測定することにより、炎症性腸疾患(IBD)の罹患の有無またはその程度を検出(診断)するものである。また本発明の検出(診断)方法は、例えば炎症性腸疾患(IBD)患者において、該疾患の改善のために治療薬を投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を検出(診断)することもできる。
本発明の検出方法は次の(a)、(b)及び(c)の工程を含むものである:
(a)被験者の生体試料と本発明の疾患マーカーを接触させる工程、
(b)生体試料中のCD81遺伝子の遺伝子発現レベル、またはCD81のタンパク質の量を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)(b)の結果をもとに、炎症性腸疾患(IBD)の罹患を判断する工程。
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(大腸組織及びその周辺組織など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から調製されるRNA含有試料、若しくはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料、または上記組織から調製されるタンパク質を含む試料を挙げることができる。かかるRNA、ポリヌクレオチドまたはタンパク質を含む試料は、被験者の大腸組織の一部をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収し、そこから常法に従って調製することができる。
本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
(4−1)測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
測定対象物としてRNAを利用する場合、炎症性腸疾患(IBD)の検出は、具体的に下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記本発明の疾患マーカー(CD81遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又は該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、炎症性腸疾患(IBD)の罹患を判断する工程。
測定対象物としてRNAを利用する場合は、本発明の検出方法(診断方法)は、該RNA中のCD81遺伝子の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、前述のポリヌクレオチドからなる本発明の疾患マーカー(CD81遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチド)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などの公知の方法を行うことにより実施できる。
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のCD81遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、疾患マーカーの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS−1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT−PCR法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のCD81遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のCD81遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT−PCR Reagents(Applied Biosystems社製)で該プロトコールに従ってRT−PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明の疾患マーカーから調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。また、上記DNAチップとして、CD81遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定が可能なDNAチップを用いることもできる。かかる遺伝子の発現レベルを検出、測定することができるDNAチップとしては、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A,B,C,D,Eを挙げることができる。かかるDNAチップを用いた、被験者RNA中のCD81遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定については、実施例において詳細に説明する。
(4−2)測定対象の生体試料としてタンパク質を用いる場合
測定対象物としてタンパク質を用いる場合は、本発明の炎症性腸疾患(IBD)の検出方法(診断方法)は、生体試料中のCD81を検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と抗体に関する本発明の疾患マーカー(CD81を認識する抗体)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、炎症性腸疾患(IBD)の罹患を判断する工程。
より具体的には、抗体に関する本発明の疾患マーカーとして抗体(CD81を認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などの公知方法で、CD81を検出、定量する方法を挙げることができる。
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS−1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
なお、上記において測定対象とするCD81の機能(活性)は、既に知られており、該タンパク質の量と機能乃至活性とは一定の相関関係を有している。従って、上記タンパク質の量の測定に代えて、該タンパク質の機能(活性)の測定を行うことによっても、本発明の炎症性腸疾患(IBD)の検出(診断)を実施することができる。すなわち本発明は、CD81の公知の機能(活性)を指標として、これを公知の方法(具体的には前述の(1−3)項を参照)に従って測定、評価することからなる、炎症性腸疾患(IBD)の検出(診断)方法をも包含する。
(4−3)炎症性腸疾患(IBD)の診断
炎症性腸疾患(IBD)の診断は、被験者の生体組織(大腸組織など)におけるCD81遺伝子の遺伝子発現レベル、もしくはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(CD81)の量、機能若しくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、正常な生体組織(大腸組織など)における当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
この場合、正常な生体組織から採取調製した生体試料(RNAまたはタンパク質を含む試料)が必要であるが、これらは炎症性腸疾患(IBD)に罹患していない人の生体組織(大腸組織など)をバイオプシ等で採取するか、もしくは腸管洗浄液等から回収することによって取得することができる。なお、ここでいう「炎症性腸疾患(IBD)に罹患していない人」とは、少なくとも炎症性腸疾患(IBD)の自覚症状がなく、好ましくは他の検査方法、例えば内視鏡検査や、注腸X腺検査、消化管の生検などの結果、炎症性腸疾患(IBD)でないと診断された人をいう。なお、当該「炎症性腸疾患(IBD)に罹患していない人」を以下、本明細書では単に正常者という場合もある。
被験者の生体組織と正常な生体組織(炎症性腸疾患(IBD)に罹患していない人の生体組織)との遺伝子発現レベルまたはタンパク質の量(レベル)の比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常な生体組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたCD81遺伝子の遺伝子発現レベル、若しくはこれらの遺伝子の発現産物であるタンパク質(CD81)の量(レベル)の平均値または統計的中間値を、正常者の遺伝子発現レベル若しくはタンパク質の量として、比較に用いることができる。
被験者が炎症性腸疾患(IBD)であるかどうかの判断は、該被験者の生体組織におけるCD81遺伝子の遺伝子発現レベル、またはその発現産物であるタンパク質レベルが、正常者のそれらのレベルと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うこともできる。
また、被験者のCD81遺伝子の遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルが、正常者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者は炎症性腸疾患(IBD)であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【実施例】
[実施例1]
炎症性腸疾患(IBD)病態惹起性細胞の調製
2,4,6−Trinitrobenzene sulphonic acid(TNBS)誘発IBD動物モデルはGastroenterology、96巻、795−803頁(1989)等に記載の方法を参考にして作製することができる。
(1)感作液の作成
0.5g卵白アルブミン(Sigma社製)と0.5g KCO(ナカライテスク社製)を25ml注射用蒸留水に溶解した(卵白アルブミン溶液)。25mlの0.1M KCOに0.5g TNBS(ナカライテスク社製)を溶解した(TNBS溶液)。卵白アルブミン溶液とTNBS溶液を混合し、室温で一晩攪拌した。攪拌した溶液を透析膜(Spectra/Por Membrane MWCO:10,000、Spectrum Medical Industries Inc.社製)で0.01M NaHCO(ナカライテスク社製)に透析した。透析した溶液をBCA Protein Assay Reagent(Pierce社製)でタンパク定量した。2mg/ml溶液を感作液として冷凍保存し使用時に溶解して用いた。
(2)TNBS誘発炎症性腸疾患モデル
4−6週齢のSJL/Jマウス(日本チャールズリバー社から購入した)背部に完全フロイントアジュバント(CFA:Difco社製)と2mg/ml感作液を乳化液として、0.1ml/headで皮下注射(感作)した。感作7日後に10mg/ml TNBS 50%エタノール(ナカライテスク社製)溶液をエーテル麻酔下で直腸内投与(0.2ml/headを肛門より3cmまでゾンデを挿入して注入:チャレンジ)し大腸炎症状は便の状態(正常便(スコアー:0)、軟便(スコアー:1)、下痢(スコアー:2))でスコアー判定し、大腸炎を発症しているマウスをチャレンジ6日後に安楽死させ、脾臓と腸間膜リンパ節を摘出した。
(3)細胞培養
腸間膜リンパ節細胞と溶血剤処理した脾臓細胞を培養フラスコ(75Tフラスコ;岩城硝子社製)に10%胎児牛血清(BIOWHITTAKER社製)、1%Antibiotic−antimycotic含有D−MEM(Invitrogen社製)中で10個播種し、以下の3種類の条件下で48時間細胞培養した。細胞培養は5%CO、37℃でCOインキュベーター内で行い、培養後の細胞を回収し、TRIZOL(LIFE TECHNOLOGIE社製)で溶解し−80℃で保存した。なお、化合物Aとは、IBD動物モデルに投与して大腸炎を治癒する活性とIBD惹起能を抑制する活性を有する化合物で特開2002−161084に記載の化合物、3−chloro−2−[1−(4−morpholin−4−ylphenyl)cyclobutyl]−4,5,6,7−tetrahydropyrazolo[1,5−a]pyrimidineである。
A:添加剤なし
B:0.2μg/ml Staphyloccocal enterotoxin B(Sigma社製)添加
C:0.2μg/ml Staphyloccocal enterotoxin B(Sigma社製)と化合物A10μM添加)
条件AとCの細胞は、正常マウスに移入しても、正常マウスが腸炎症状を引き起こさないIBD非惹起細胞であるが、条件Bの細胞は、正常マウスに移入する事で腸炎症状を引き起こすIBD惹起細胞である。つまり、A、Cの細胞に対するBの細胞の遺伝子変化を検出することで大腸炎の病態を惹起する原因因子を見出すことができる。
[実施例2]
IBD惹起細胞およびIBD非惹起細胞のDNAチップ利用による遺伝子発現解析
(1)トータルRNAからcDNAの調製
実施例1で得られたTRIZOL抽出液から添付プロトコールに従いトータルRNAを調製した。このトータルRNAをRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)で精製した後に、以下のcDNA合成を行った。500ngのトータルRNAからSuperScript Choice System(インビトロジェン社製)を利用してcDNAを合成した。ただし、プライマーには100pmolのT7−(24)dTプライマー(アマシャムファルマシアバイオテック社製)を用いた。合成したcDNAをDNA精製カラム(キアゲン社製)で精製し、エタノール沈殿で濃縮した後、当該cDNAを鋳型にin vitro転写(MEGAscript T7 Kit:アンビオン社製)によりcRNAを合成した。cRNAをRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)で精製し、このcRNAをもとに再度SuperScript Choice System(インビトロジェン社製)を利用してcDNAを合成した。この2回目のcDNA合成では、ファーストストランド(センス)合成時のプライマーにランダムヘキサマーを、セカンドストランド(アンチセンス)合成時にT7−(24)dTプライマーを用いた(注:cRNA=アンチセンス)。合成したcDNAをDNA精製カラムで精製後、濃度を測定した。以上の操作により実施例1で調製した各トータルRNAから、各cDNAを取得した。
(2)cDNAからラベル化cRNAの調製
各cDNA200ng相当量に、DEPC処理水を加え22μLとし、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin Labeled Ribonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μL、該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させて、ラベル化cRNAを調製した。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えたのち、RNeasy Mini Kit(GIAGEN社製)を用いて添付プロトコールに従い、調製したラベル化cRNAを精製した。
(3)ラベル化cRNAのフラグメント化
各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mMトリス−酢酸 pH8.1(Sigma社製)、500mM酢酸カリウム(Sigma社製)、150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加えた反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによって、ラベル化cRNAをフラグメント化した。
(4)フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Control Oligo B2(Amersham社製)4μL、100×Control cRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製)40μg、Acetylated BSA(Gibco−BRL社製)200μg、2×MES Hybridization Buffer(200mM MES、2M[Na],40mM EDTA、0.02%Tween20(Pierce社製)、pH6.5〜6.7)200μL、及びDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプロープアレイを得た。
(5)プローブアレイの染色
上記で得られたハイブリダイズ済みプローブアレイそれぞれからハイブリカクテルを回収除去した後、Non−Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20、0.005%Antifoam0−30(Sigma社製))で満たした。次にNon−Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaCl、0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station400(Affymetrix社製)の所定の位置にフラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後染色プロトコールEuKGE−WS2に従って、1次染色液(10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin(SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0−30)、2次染色液(100μg/mL Goat IgG(Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti−Streptavidin antibody(Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20、0.005%Antifoam0−30)により染色した。
(6)プローブアレイのスキャン、及び(7)遺伝子発現量解析
染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上の遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationを行ったのち、各サンプルにおける各プローブ(各遺伝子)の発現量(average difference)を算出した。同一のプローブにつき、サンプルの種類ごとに遺伝子発現量の平均値を求め、さらに各サンプル種類間における発現量の変化率を求めた。
[実施例3]
発現変動解析
実施例2で行ったDNAチップ解析による遺伝子発現の解析結果から、Staphyloccocal enterotoxin B(以下「SEB」と略する場合もある。)を添加しない炎症性腸疾患(IBD)非惹起細胞に比べて、SEBを添加した炎症性腸疾患(IBD)惹起細胞において発現が増加あるいは減少しているプローブセットを最初に選び出した。
その中から、SEBで刺激したIBD惹起細胞と比して、SEBと化合物Aを添加したIBD非惹起細胞で発現が減少あるいは増加している486プローブを選択した。
次にこれら486プローブの中から、より病態との関連性の高いプローブを選択する目的で、免疫・炎症関連遺伝子、細胞表面分子、成長因子遺伝子である56プローブを選び出した。さらにこれら56プローブの中からIBDの病態に関与し、解析した細胞の中に含まれる細胞集団の変動に限局することで薬剤ターゲットとなる機能を有する遺伝子を選別した。
その結果、IL−17遺伝子、IL−9遺伝子、Lymphotoxinα遺伝子、IL−10 receptor β遺伝子、DAP12遺伝子、TCR Vγ4遺伝子、Integrinβ1遺伝子、CD81遺伝子、CDw40遺伝子およびPaired−Ig−like receptor A1遺伝子の、計10遺伝子が選択された(表1)。
無刺激で培養したIBD非惹起細胞は、SEB刺激をすることにより病態惹起能が亢進してIBD惹起細胞となるが、このIBD惹起細胞に化合物Aを添加すると病態惹起能が抑制されてIBD非惹起細胞となる。そのため、SEB刺激で遺伝子発現量が増加し、当該化合物を添加することにより遺伝子発現量が減少したIL−17遺伝子、IL−9遺伝子、TCR Vγ4遺伝子、CD81遺伝子およびCDw40遺伝子は(表1)、炎症性腸疾患を反映した疾患マーカーとして応用可能な遺伝子であると考えられ、これらの遺伝子の発現あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパクの発現や機能(活性)を減少させることで炎症性腸疾患の発症や病態の進行を抑制あるいは改善することができると考えられた。また、SEB刺激で遺伝子発現量が減少し、当該化合物を添加することにより遺伝子発現量が増加したLymphotoxinα遺伝子、IL−10 receptor β遺伝子、DAP12遺伝子、Integrinβ1遺伝子およびPaired−Ig−like receptor A1遺伝子についても(表1)、炎症性腸疾患を反映した疾患マーカーとして応用可能な遺伝子であると考えられ、これらの遺伝子の発現あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパクの発現や機能(活性)を増加させることで炎症性腸疾患の発症や病態の進行を抑制あるいは改善することができると考えられた。表中において、「Cont」は添加剤なしの細胞、「SEB」はSEB添加した細胞、「SEB+化合物」はSEBと化合物Aを添加した細胞のGene chip解析結果を表わしている。

[実施例4]
細胞内IFN−γに対する化合物Aの作用
実施例3で選出した10遺伝子(IL−17遺伝子、IL−9遺伝子、Lymphotoxinα遺伝子、IL−10 receptor β遺伝子、DAP12遺伝子、TCR Vγ4遺伝子、Integrinβ1遺伝子、CD81遺伝子、CDw40遺伝子およびPaired−Ig−like receptor A1遺伝子)の他に炎症性腸疾患の病原因子として既知であるインターフェロンガンマ(IFN−γ:J.Exp.Med 182:1281−1290(1995))も、DNAチップ解析による遺伝子発現の解析結果では、SEBを添加しないIBD非惹起細胞に比べて、SEBを添加したIBD惹起細胞において発現が増加していた。さらにSEBで刺激したIBD惹起細胞と比して、SEBと化合物Aを添加したIBD非惹起細胞で発現が減少している因子であった。
次に化合物Aが作用する細胞集団が、化合物Aによって炎症性腸疾患(IBD)惹起能が抑制される細胞集団と同じであるという仮説を立てて、IBD惹起細胞集団を見い出す検討を行った。具体的には、細胞内IFN−γは検出が容易であることから、実施例3で選出した因子のいずれかを発現する各細胞集団に化合物Aを作用させ、細胞内IFN−γ量を指標とすることにより、実施例3で選出した因子のうちどの因子が実際にIBD惹起能に深く関与しているのか検討した。
なお、細胞内IL−9と細胞内Lymphotoxinαの検出は解析試薬等がなく検討出来なかった。IL−17は、抗IL−17抗体が大腸炎モデルの症状を悪化させる事が報告され(日本消化器関連学会週間(DDW−Japan2003)、消化器病ポスター337、滋賀医大・消化器内科)、IL−17は大腸炎を改善する因子であることが示唆されたため、目的である大腸炎惹起因子の探索とは逆の作用を示すことが分かり解析対象から除外した。さらに細胞表面分子であるIntegrinβ1は発現細胞が多種多様であり、解析結果から化合物Aの作用する細胞集団の同定は出来ないと判断して解析対象から除外した。細胞表面分子であるDAP12は、解析試薬等がないので検討ができなかった。
(1)細胞の調製と培養
実施例1の方法で腸間膜リンパ節細胞と溶血剤処理した脾臓細胞を調製し、培養フラスコ(25Tフラスコ;岩城硝子社製)に10%胎児牛血清(BIOWHITTAKER社製)、1%Antibiotic−antimycotic含有D−MEM(Invitrogen社製)中で3.3x10個播種し、以下の2種類の条件下で48時間細胞培養した。培地に4.5ul BD GolgiStop(BD Biosciences社製)を添加し、さらに12時間培養した。細胞培養は5%CO、37℃でCOインキュベーター内で行った。培養後の細胞を回収しCD81陽性T細胞内IFN−γを測定した。
A:1μg/ml Staphyloccocal enterotoxin B(Sigma社製)添加
B:1μg/ml Staphyloccocal enterotoxin B(Sigma社製)と特開2002−161084の化合物10μM添加)
(2)細胞内IFN−γの測定
細胞を回収し、染色バッファー(0.09%アジ化ナトリウム、1%牛血清アルブミン含有リン酸バッファー)に懸濁した。トリパンブルーで生細胞数を計測し、細胞10個/100ulをエッペンドルフチューブに入れ、抗CD16/CD32抗体を1ul添加し、4℃、15分間インキュベーションした。細胞洗浄後、FITC(フルオロイソチオシアネート)標識抗体とビオチン標識抗抗体を1ug/10cells(染色バッファー50ul中)で細胞に添加し、4℃、15分間インキュベーションした。FITC標識抗体としては、抗TCRVγδ抗体、抗CD4抗体、抗TCRVβ3抗体、抗CD3抗体、抗CD40抗体、抗CD49d抗体を使用し、ビオチン標識抗体としては、抗CD40L抗体、抗CD81抗体、抗IL−10R抗体を使用した。細胞洗浄後、1ulストレプトアビジン標識PerCPを1ug/10cells(染色バッファー50ul中)で細胞に添加し、4℃、15分間インキュベーションした。洗浄後の細胞を遠心分離して、BD Cytofix/Cytopermを0.1ml/tube添加し、20分間、4℃でインキュベーションした。1xBD Perm/Wash solution 1ml/tubeで2回洗浄した後にペレットとした。50ulの1xBD Perm/Wash solution中でPE(フィコエリトリン)標識抗IFN−γ抗体を1ug/10cellsで細胞に添加し、4℃、30分間インキュベーションした。1xBD Perm/Wash solution 1ml/tubeで2回洗浄した後に上清を捨て遠心分離で沈殿した細胞をほぐし、染色バッファーに置換後にFACSCalibur(BD Biosciences社製)で解析した。遠心分離は、4,000r.p.m.、3min、4℃(遠心機:TOMY MRX−152、ローター:TMA−6)で行った。FITCはFL1、PEはFL2、PerCPはFL3で、それぞれの蛍光強度を測定した。用いた抗体はビオチン標識抗IL−10R抗体はBiolegend社製であり、その他の抗体は全てBD Biosciences社製を用いた。
その結果を表2に記載した。各種細胞表面マーカーを有している細胞集団の存在率(%)と化合物Aにより減少した細胞内IFN−γ陽性細胞を100としたときに、各細胞集団内に存在する化合物Aにより減少した細胞内IFN−γ陽性細胞の割合(表中の「化合物反応細胞」)、および各種細胞集団1%あたりの化合物反応細胞の割合(表中の「化合物反応細胞÷存在率」、化合物Aにより減少した細胞内IFN−γ陽性細胞の存在頻度)を示した。遺伝子発現変動で見出されたTCRVγ4陽性細胞を調べるための実験では入手できる試薬である抗TCRVγδ抗体を、CDw40陽性細胞を調べるための実験では入手できる試薬である抗CD40抗体を、IL−10Rβ陽性細胞を調べるための実験では入手できる試薬である抗IL−10R抗体を使用した。IL−10R陽性細胞は、明確な細胞集団として検出できなかったため、結果が得られなかった。

表2の結果から、CD3細胞(=T細胞)が、化合物Aが作用する細胞集団の全てであることが分かった(表中の化合物反応細胞が細胞表面マーカーCD3では103.4%)。さらにCD3陽性細胞の中のCD81陽性細胞が化合物Aにより最も細胞内IFN−γが減少する細胞集団を高頻度に含んでいることも分かった(表中の化合物反応細胞/存在率が細胞表面マーカーCD81 in CD3では11.1)。化合物AはIBDの病態惹起能を抑制することから、CD3陽性CD81陽性細胞が炎症性腸疾患の病態を発症させる細胞であった。これらの検討結果から、CD81がT細胞上の病態惹起細胞マーカーであり、炎症性腸疾患の病態を引き起こし、進展させる病原因子であることが明らかとなった。
[実施例5]
抗CD81抗体のTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸)誘発マウス大腸炎モデルに対する薬理効果
(1)TNP−OVAの調製
0.5g卵白アルブミン(OVA:Sigma社製)と0.5g K2CO3(ナカライテスク社製)を25ml注射用蒸留水に溶解した(OVA溶液)。25mlの0.1M K2CO3に0.5g 2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS:ナカライテスク社製)を溶解した(TNBS溶液)。OVA溶液とTNBS溶液を混合し、室温で一晩攪拌した。攪拌した溶液を透析膜(Spectra/P or Membrane MWCO:10,000、Spectrum Medical Industries Inc.社製)で0.01M NaHCO3(ナカライテスク社製)に透析した。透析した溶液をBCA Protein Assay Reagent(Peirce社製)でタンパク定量した。
(2)群分け、感作、チャレンジおよび投薬
5週齢のマウス(SJL/JorlIcoCrj、♂、日本チャールス.リバー社製)背部に完全フロイントアジュバント(CFA:Difco Laboratories社製)と2mg/ml TNP−OVAの1:1乳化液を0.1ml/headで皮下注射(感作)した。感作7日後に10mg/ml TNBS 50%エタノール溶液をエーテル麻酔下で注腸(0.2ml/headを肛門より3cmまでゾンデを挿入して注入:チャレンジ)した。チャレンジ5日後の体重と症状スコアーで1群8匹、3群で群分けした。
群は0.1mg(0.2ml)/head抗CD81抗体溶液(Clone:2F7、Southernbiotech社製)投与群、0.2ml/head溶媒投与病態コントロール群、200mg/kgスルファサラジン(SSZ:Sigma社製)投与群を設定した。投薬は抗体投与群と病態コントロール群には群分け日と群分け2日後に腹腔内投与し、SSZは群分け日から1日1回連日経口投与した。群分け5日後に実験を終了した。SSZ溶液は0.5%メチルセルロース(ナカライテスク社製)溶液に懸濁した。
(3)体重測定および症状スコアー判定
群分け日から群分け5日後までの腸炎症状観察を行った。腸炎症状は便の状態(正常便(スコアー:0)、軟便(スコアー:1)、下痢(スコアー:2))でスコアー判定した。死亡個体は結果より除いた。統計処理はSteelの検定で病態コントロール群、抗CD81抗体投与群とSSZ投与群での総当りの多群比較を行った(*;0.01<p<0.05、**;p<0.01)。
(4)大腸の長さ測定
実験終了日に高濃度CO2で安楽死させた後に大腸を摘出し、長さを測定した。各群の大腸の長さは、Bartlettの検定後にDunnetの検定で病態コントロール群、抗CD81抗体投与群とSSZ投与群での総当りの統計処理を行った(*;0.01<p<0.05、**;p<0.01)。
その結果を表3に示した。抗CD81抗体によりTNBS誘発大腸炎マウスの腸炎症状と腸管長の短縮はSSZと同等に改善されていた。この結果により、抗CD81抗体は炎症性腸疾患の予防、改善および治療剤となり得ることが明らかとなった。

[実施例6]
CD81遺伝子発現抑制剤のスクリーニング
Jurkat細胞(ヒトT細胞リンパ腫由来)、NC−37細胞(ヒト末梢リンパ芽球由来、ATCC株番号CCL−214)、CCRF−SB細胞(ヒト急性リンパ芽球性白血病B細胞由来、ATCC株番号CCL−120)、CCRF−CEM細胞(ヒト急性リンパ芽球性白血病T細胞由来、ATCC株番号CCL−119)、MOLT−3細胞(ヒト急性リンパ芽球性白血病T細胞由来、ATCC株番号CRL−1552)、CCRF−HSB−2細胞(ヒト急性リンパ芽球性白血病T細胞由来、ATCC株番号CCL−120.1)、IM−9細胞(ヒト末梢リンパ芽球由来、ATCC株番号CCL−159)、EB−3細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−85)、CA46細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CRL−1648)、Daudi細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−213)、Namalwa細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CRL−1432)、Raji細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−86)、Ramos(RA1)細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−1596)、RPMI 1788細胞(ヒト末梢リンパ球由来、ATCC株番号CCL−156)、RPMI 6666細胞(ヒトホジキン病リンパ芽球由来、ATCC株番号CCL−113)、U−937細胞(ヒト組織球性リンパ腫由来、ATCC株番号CRL−1593)、B−ATL1細胞(ヒト成人T細胞白血病患者B細胞由来)、B−ATL2細胞(ヒト成人T細胞白血病患者B細胞由来)、B−ATL7細胞(ヒト成人T細胞白血病患者B細胞由来)、B−ATL8細胞(ヒト成人T細胞白血病患者B細胞由来)、OKM−2T細胞(ヒト成人T細胞白血病患者T細胞由来)またはOKM−3T細胞(ヒト成人T細胞白血病患者T細胞由来)(いずれも大日本製薬株式会社より購入することができる)、またはヒト末梢血リンパ球を、10%不活性化牛胎児血清、2mMグルタミン、50IU/mlペニシリン、50mg/mlストレプトマイシン含有Dulbecco’s Modified Eagle培地を用い、37℃、CO濃度5%の条件下で培養する。
計数した細胞を24穴組織培養プレートに0.6−1.2x10cells/cmで播種し、37℃、CO濃度5%で培養する。これらの細胞に対して刺激剤(ホルボール12−ミリステート13アセテート、コンカナバリン、リポポリサッカライド、サイトカイン(インターフェロン類、Tumor necrosis factor、インターロイキン類)、抗T細胞表面抗原抗体、抗B細胞表面絵抗原抗体、あるいはButyrate)の存在下で被験物質含有溶液(100μM、10μM、および1μMの各濃度の被験物質を含む溶液)を添加する。ここで対照実験として、被験物質無添加の細胞についても同様の培養を行う(コントロール)。
これらの各培養細胞より抽出したRNAを用いて実施例2に記載された方法で遺伝子発現量を解析する。その結果、CD81遺伝子の発現を、被験物質(候補物質)を接触させない対照細胞における発現量と比較して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)させる被験物質を、炎症性腸疾患(IBD)を緩和、制御(改善、治療)する候補化合物として選択する。
[実施例7]
CD81の機能(活性)抑制剤のスクリーニング
フィブロネクチン(Sigma)をコートするために、24穴培養プレート(Falcon Labware社製)にPBSで10μg/mlの濃度に調製したフィブロネクチンを37℃、3時間吸着させた後にPBSで3回洗浄する。抗CD81抗体を反応させたヒトB細胞(Daudi細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−213、大日本製薬株式会社社製)、Namalwa細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CRL−1432、大日本製薬株式会社社製)、Raji細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−86、大日本製薬株式会社社製)、Ramos(RA1)細胞(ヒトバーキットリンパ腫由来、ATCC株番号CCL−1596、大日本製薬株式会社社製))を洗浄後に1x10個/ウエルでプレートに播種し37℃、20分間インキュベーションしてからPBSで3回洗浄し3%グルタルアルデヒドで固定化する。プレートに結合した細胞は約400倍の顕微鏡観察下で計測して求める。抗CD81抗体は市販品(ファーミンジェン等)として入手できる。
被験物質のB細胞フィブロネクチン結合活性の抑制率は、以下の式:
{[(被験物質非存在下での細胞数)−(被験物質存在下での細胞数)]/(被験物質非存在下での細胞数)}x100%で表される。
B細胞フィブロネクチン結合活性の抑制率が10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上変動した系に添加していた被験物質を、炎症性腸疾患(IBD)を緩和、制御(改善、治療)する候補化合物として選択する。
【産業上の利用可能性】
本発明によって、炎症性腸疾患(IBD)惹起性細胞において、IBD非惹起性細胞と比較してCD81遺伝子が特異的に発現増大していること、および抗CD81抗体が炎症性腸疾患の治療に有効であることが明らかとなった。
抗CD81抗体を有効成分とする薬剤は、炎症性腸疾患患者に該疾患の治療剤として利用することができる。また、CD81遺伝子の発現と炎症性腸疾患(IBD)との関連性から、CD81遺伝子の発現の抑制、または当該遺伝子がコードするタンパク質の発現や機能(活性)の抑制を指標とすることによって、炎症性腸疾患の治療薬となり得る候補薬をスクリーニングし選別することが可能である。
更にCD81遺伝子は、炎症性腸疾患の遺伝子診断に用いられるマーカー遺伝子(プローブ、プライマー)として有用であり、かかるマーカー遺伝子によれば炎症性腸疾患であるかどうかを明らかにすることができ(診断精度が向上)、これによりより適切な治療を施すことが可能となる。
【配列表】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、CD81遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とCD81遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCD81遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【請求項2】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、CD81の発現量を減少させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とCD81を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCD81の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記タンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【請求項3】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、CD81の機能(活性)を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をCD81に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるCD81の機能(活性)を測定し、該機能(活性)を被験物質を接触させない場合のCD81の機能(活性)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CD81の機能(活性)を抑制する被験物質を選択する工程。
【請求項4】
IBDの予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、請求項1乃至3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
CD81遺伝子の発現を減少させる物質を有効成分とする、IBDの予防、改善または治療剤。
【請求項6】
CD81遺伝子の発現を減少させる物質が請求項1記載のスクリーニング法により得られるものである、請求項5記載のIBDの予防、改善または治療剤。
【請求項7】
CD81の発現量または機能(活性)を抑制する物質を有効成分とする、IBDの予防、改善または治療剤。
【請求項8】
CD81の発現量または機能(活性)を抑制する物質が、請求項2または3に記載のスクリーニング法により得られるものである、請求項7記載のIBDの予防、改善または治療剤。
【請求項9】
抗CD81抗体を有効成分とする請求項7記載のIBDの予防、改善または治療剤。
【請求項10】
抗CD81抗体が哺乳類のCD81に対する抗体である、請求項9記載のIBDの予防、改善または治療剤。
【請求項11】
CD81遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドからなる、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;以下IBD)の疾患マーカー。
【請求項12】
IBDの検出においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項11記載の疾患マーカー。
【請求項13】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、IBDの検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項11または12記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、IBDの罹患を判断する工程。
【請求項14】
工程(c)におけるIBDの罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、請求項13に記載のIBDの検出方法。
【請求項15】
CD81を認識する抗体を含有する、IBDの疾患マーカー。
【請求項16】
IBDの検出においてプローブとして使用される請求項15記載の疾患マーカー。
【請求項17】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むIBDの検出方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と請求項15または16記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、IBDの罹患を判断する工程。
【請求項18】
工程(c)におけるIBDの罹患の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項17記載のIBDの検出方法。

【国際公開番号】WO2005/021792
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513518(P2005−513518)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012616
【国際出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】