説明

抗CDH3抗体およびその使用

本発明は、放射性同位体で標識可能な抗CDH3抗体に関する。さらに、本発明は、有効成分として抗CDH3抗体を含む方法および薬学的組成物を提供する。CDH3は膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の細胞において強く発現されるので、本発明は、膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の治療において有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CDH3抗体、該抗体を用いてCDH3関連疾患を治療もしくは予防するためまたは診断するための方法、および、該抗体を含む薬学的組成物または診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
カドヘリンは、カルシウム依存性の細胞間結合を形成し、かつ形態形成においてならびに成体組織および臓器の発達および維持において必須の役割を果たす、細胞間接着糖タンパク質である(非特許文献1)。胚形成中に、特異的なカドヘリンの細胞発現は、細胞選別および組織層形成の過程において極めて重要である同種親和性相互作用をもたらす(非特許文献2〜4)。これらの細胞付着の変化は細胞不安定化において重要な役割を果たし、上皮構造の綿密に調節された分化過程を改変する可能性がある(非特許文献5〜6)。このため、カドヘリンの機能喪失または過剰発現およびこれらのタンパク質を体系化している遺伝子の制御の基礎となる分子機構は、発癌に影響を与える(非特許文献7)。
【0003】
カドヘリンファミリーは、それぞれが特異的な組織分布を示す、古典的なE−カドヘリン、P−カドヘリン、およびN−カドヘリンを含むさまざまなサブファミリーに細分される(非特許文献8)。E−カドヘリンは全ての上皮組織において発現されるが、P−カドヘリン(CDH3)の発現は、前立腺および皮膚を含む重層上皮の基底層または下層、ならびに乳房筋上皮細胞のみに限られる(非特許文献9〜10)。
【0004】
広範な証拠により、異常なP−カドヘリン発現が、細胞増殖、ならびに結腸、乳房、肺、甲状腺、および子宮頚部の腫瘍と関連することも現在明らかとなっている(非特許文献11〜12)。ヒトP−カドヘリンは、外陰部類表皮癌に対して産生されたNCC−CAD−299モノクローナル抗体によって認識される抗原であることが報告された(非特許文献10)。P−カドヘリン媒介性の接着および細胞内シグナル伝達の調節は、インビボでの腫瘍細胞の増殖および生存の低下をもたらすものと予想される。したがって、細胞増殖および固形腫瘍進行においてP−カドヘリンが有するものと思われる中心的な役割を考慮すれば、種々の癌を有する患者に治療的恩恵を提供できるP−カドヘリンに対する抗体を産生することが望ましい。
【0005】
癌特異的分子に対するモノクローナル抗体は、癌治療において有用であることが証明されている(非特許文献13)。乳癌、悪性リンパ腫、および結腸癌に対するトラスツズマブ(非特許文献14)、リツキシマブ(非特許文献15)、およびベバシズマブ(非特許文献16)のようなヒト化抗体またはキメラ抗体の臨床応用の成功例の他に、他の分子標的に対するいくつかのモノクローナル抗体が開発中であり、これらの抗腫瘍活性が評価中である。これらのモノクローナル抗体は、効果的な治療法のない腫瘍を有する患者に希望を与えるものと期待される。これらのモノクローナル抗体に関するその他の重要な課題の一つは、標的分子を発現している細胞に対するこれらの特異的な反応により、重篤な毒性を伴うことなく癌細胞に対して選択的な治療効果を達成することである(非特許文献17〜19、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報第2002/097395号
【特許文献2】国際公開公報第2004/110345号
【特許文献3】国際公開公報第2006/114704号
【特許文献4】国際公開公報第2007/102525号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Conacci-Sorrell M, et al., J Clin Invest, 109:987-91, (2002
【非特許文献2】Nose A, et al., Cell, 54:993-1001, (1988)
【非特許文献3】Steinberg MS, et al.,. Proc Natl Acad Sci USA, 91:206-9, (1994)
【非特許文献4】Takeichi M. Science, 251:1451-5, (1991)
【非特許文献5】Daniel CW, et al., Dev Biol, 169:511-9, (1995)
【非特許文献6】Nose A and Takeichi M. J Cell Biol, 103:2649-58, (1986)
【非特許文献7】Behrens J. Cancer Metastasis Rev, 18:15-30(1999)
【非特許文献8】Takeichi M. Development, 102:639-55(1988)
【非特許文献9】Takeichi M. J Cell Biol 103:2649-58, (1986)
【非特許文献10】Shimoyama Y, et al., Cancer Res, 49:2128-33(1989)
【非特許文献11】Gamallo, Modern Pathology, 14:650-654, (2001)
【非特許文献12】Stefansson, et al., J. Clin. Oncol. 22(7):1242-1252 (2004)
【非特許文献13】Harris, M. Lancet Oncol, 5:292-302 (2004)
【非特許文献14】Baselga, J. Oncology, 61:SuuplSuupl 2 14-21 (2004)
【非特許文献15】Maloney, D.G., et al. Blood, 90:2188-2195 (1997)
【非特許文献16】Ferrara, N., et al. Nat Rev Drug Discov, 3:391-400 (2004)
【非特許文献17】Crist, W.M., et al. J Clin Oncol, 19:3091-3102 (2001)
【非特許文献18】Wunder, J.S., et al. J Bone Joint Surg Am, 80:1020-1033 (1998)
【非特許文献19】Ferguson, W.S. and Goorin, A.M. Cancer Invest, 19:292-315 (2001)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドなどのCDH3ポリペプチドまたはその断片を特異的に認識する、CDH3に対するモノクローナル抗体を提供する。本発明は、90Y標識抗CDH3モノクローナル抗体が、癌細胞株を含有する異種移植マウスにおいて顕著な抗腫瘍効果を有する証拠を提供する。
【0009】
具体的には、本発明は以下に関する:
[1]抗体がH(重)鎖V(可変)領域およびL(軽)鎖V領域を含み、該H鎖V領域および該L鎖V領域が、
(a)SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれる相補性決定領域(CDR)またはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:20に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:36に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:44に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;ならびに
(d)SEQ ID NO:68、72、76もしくは80に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:60に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域
からなる群より選択され、かつ該抗体がCDH3ポリペプチドまたはその部分ペプチドに結合することができる、抗体またはその断片。
典型的な態様において、前記抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体断片、および一本鎖抗体からなる群より選択される。
[2]本発明の抗体またはその断片は、細胞毒性剤、治療剤、放射性同位体標識、または蛍光標識と結合させることができる。典型的な態様において、前記抗体は放射性同位体標識で標識される。より典型的な態様において、前記放射性同位体標識は、90イットリウム(90Y)、125ヨウ素(125I)、および111インジウム(111In)からなる群より選択される。
[3]対象において、CDH3関連疾患を治療もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための方法であって、本発明の抗体またはその断片の有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
[4]対象におけるCDH3関連疾患または該疾患を発症する素因の診断または予後判定のための方法であって、
(a)本発明の抗体または断片と対象由来の試料または標本とを接触させる段階;
(b)試料または標本中のCDH3ポリペプチドを検出する段階;および
(c)対照と比べたCDH3ポリペプチドの相対存在量に基づき、該対象が疾患を患っているかまたはその発症リスクを有するか否かを判定する段階
を含む、方法。
[5]CDH3関連疾患を治療もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための薬学的組成物であって、本発明の抗体またはその断片の有効量および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、組成物。
[6]CDH3関連疾患の診断または予後判定のためのキットであって、本発明の抗体またはその断片を含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、腫瘍増殖に対する90Y標識抗CDH3抗体(クローン#3、#4、#5、および#6)の効果を示す。90Y標識抗CDH3抗体、特にクローン#3、#4、および#6は、ヌードマウスに移植されたH1373細胞の増殖を効果的に抑制したが、非標識抗CDH3抗体の投与による腫瘍増殖の抑制は示されなかった。
【図2】図2は、抗CDH3抗体(クローン#3、#4、#5、および#6)の還元型SDS−PAGE分析を示す。クローン#3、#4、および#5のバンド形成パターンから、IgG重鎖および軽鎖に対応する2本のバンドが明らかになったが、クローン#6のバンド形成パターンからは、2本の重鎖バンドおよび1本の軽鎖バンドが明らかになった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
態様の説明
本発明は抗CDH3抗体、それを含む組成物、および、癌などのCDH3関連疾患の治療または予防におけるそれらの使用に関する。典型的な態様において、抗体は放射性同位体標識で標識される。膵臓癌患者から採取された、膵臓癌細胞および正常細胞の遺伝子発現解析用のcDNAマイクロアレイが報告されている(Nakamura et al.,(2004)Oncogene;23: 2385-400)。その後、膵臓癌細胞において発現が特異的に増強されるいくつかの遺伝子が同定された。細胞膜タンパク質である胎盤カドヘリン(P−カドヘリン;CDH3)はこれらの遺伝子の1つであり、主要臓器での低い発現レベルを示した。副作用の危険性が回避されるので、このような特徴は、癌治療の標的遺伝子にとって適切である。さらに、肺癌細胞株、結腸直腸癌細胞株、前立腺癌細胞株、乳癌細胞株、胃癌細胞株、および肝臓癌細胞株などの他の癌細胞株において、CDH3の同様の過剰発現が確認された(国際公開公報第2007/102525号)。
【0012】
定義
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、指定されたタンパク質またはそのペプチドに対する特異的反応性を有する免疫グロブリンおよびその断片を含むことが意図される。抗体は、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質または放射標識と融合した抗体、および抗体断片を含むことができる。さらに、本明細書において抗体は最も広い意味で使用されており、具体的には、所望の生物学的活性を示す限り、無傷の(intact)モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二つの無傷の抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体断片を網羅する。「抗体」とは全てのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)を指す。
【0013】
「抗体断片」とは無傷の抗体の一部分であり、無傷の抗体の1つまたは複数の抗原結合領域または可変領域を一般的に含む。したがって本発明において、抗体断片は無傷の抗体の1つまたは複数の抗原結合部分を含むことができる。本明細書において用いられる、抗体の「抗原結合部分」という用語は、抗原(例えば、CDH3)に特異的に結合できる能力を保持する抗体の一つまたは複数の免疫学的に活性な断片を指す。抗体の抗原結合機能は全長抗体の断片によって実行されうることが示されている。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片、直鎖状抗体、ならびに一本鎖抗体分子が含まれる。構造にかかわらず、抗体断片は、無傷の抗体によって認識される同一の抗原と結合する。「抗体断片」という用語はまた、特異的抗原に結合する合成ポリペプチドまたは遺伝子操作ポリペプチド、例えば軽鎖可変領域からなるポリペプチド、重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」断片、軽鎖および重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって連結された組換え一本鎖ポリペプチド分子(「scFvタンパク質」)、ならびに超可変領域を模倣したアミノ酸残基からなる最小認識単位も含む。
【0014】
本明細書において用いられる、CDRと「機能的に等価な」という用語は、それを有する抗体に、元のCDRを有する抗体と実質的に等しい抗原結合活性および抗原特異性を与える、CDRを指す。CDRと機能的に等価な例としては、元のCDRに対して1つまたは複数のアミノ酸残基が置換され、欠失され、挿入され、および/または付加されているものが挙げられる。抗原結合活性および抗原特異性が維持される限り、アミノ酸変異の数または割合は特に限定されない。しかしながら、可変領域に含まれる元のCDRのアミノ酸配列の20%またはそれ未満を変化させることが一般的に好ましい。より好ましくは、変異の割合は15%またはそれ未満、10%またはそれ未満、5%またはそれ未満である。好ましい態様において、アミノ酸変異の数は10個またはそれ未満、5個またはそれ未満、4個またはそれ未満、3個またはそれ未満、2個またはそれ未満、1個またはそれ未満である。当業者は、元のCDRの特性を保持する、許容可能な変異を理解するであろう。
【0015】
抗体の産生
本発明では、抗CDH3モノクローナル抗体を用いる。これらの抗体は当技術分野において周知の方法によって提供される。
本発明によって用いられる例示的な抗体産生技術について以下に記載する。
【0016】
(i)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は実質的に均一な抗体の集団から得られる。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、わずかな量で存在しうる可能性のある天然の変異を除き同一である。このように、「モノクローナル」という修飾語は、別個の抗体との混合物ではないという抗体の特徴を示す。
例えばモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256: 495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて産生することができ、または組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によっても産生されうる。
【0017】
ハイブリドーマ法において、マウスまたは他の適切な宿主動物、例えばハムスターなどをCDH3ポリペプチドで免疫して、CDH3ポリペプチドに特異的に結合する抗体を産生するまたは産生できるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をインビトロにおいてCDH3ポリペプチドで免疫してもよい。その後、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いてリンパ球を骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986))。
【0018】
調製したハイブリドーマ細胞を、融合していない親骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する一つまたは複数の物質を含有することが好ましい適切な培養培地中に播種し、その培地中で増殖させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠損している場合、ハイブリドーマ用の培養培地には典型的に、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含めることができ(HAT培地)、これらの物質によってHGPRT欠損細胞の増殖を妨害する。
【0019】
好ましい骨髄腫細胞とは、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高レベルの抗体産生を補助し、かつHAT培地などの培地に感受性を有するものである。好ましい骨髄腫細胞株は、マウス骨髄腫株、例えばSalk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAから入手可能なMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍に由来するもの、ならびに、American Type Culture Collection, Manassas, Virginia, USAから入手可能なSP−2細胞またはX63−Ag8−653細胞を含む。ヒトモノクローナル抗体の産生に関して、ヒト骨髄腫細胞株およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株も記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133: 300 1 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0020】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について分析する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法によって、または、放射免疫測定法(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着測定(ELISA)などの、インビトロ結合測定によって決定される。
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., Anal. Biochem., 107: 220 (1980)の30スキャッチャード分析によって判定することができる。
所望の特異性、親和性、および/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後に、このクローンを限界希釈法によってサブクローニングし、標準的な方法によって増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies : Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986))。この目的に適した培養培地の例として、D−MEM培地またはRPML−1640培地が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は動物における腹水腫瘍のようなインビボで増殖させることもできる。
【0021】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地、腹水、または血清から適切に分離される。
【0022】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として役立つ。DNAを単離すると、発現ベクターの中に配し、これを次に、免疫グロブリンタンパク質を他の方法では産生しない大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクションして、組換え宿主細胞中でのモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの細菌中での組換え発現に関する総説には、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5: 256-262 (1993)およびPluckthun, Immunol. Revs., 130: 151-188 (1992)が含まれる。
【0023】
CDH3に対して反応性を示す特異的抗体または抗体断片を産生するための別の方法とは、細菌中で発現される免疫グロブリン遺伝子またはその一部分をコードする発現ライブラリーを、CDH3タンパク質またはペプチドを用いてスクリーニングすることである。例えば、完全なFab断片、VH領域、およびFv領域をファージ発現ライブラリーを用いて細菌中で発現させることができる。例えば、Ward et al., Nature 341: 544-546 (1989);Huse et al., Science 246: 1275-1281 (1989);およびMcCafferty et al., Nature 348: 552-554 (1990)を参照されたい。例えばCDH3ペプチドを用いてそのようなライブラリーをスクリーニングすることによって、CDH3に対して反応性を有する免疫グロブリン断片を同定することができる。あるいは、抗体またはその断片を産生するためにSCID−huマウス(Genpharmから入手できる)を用いてもよい。
【0024】
さらなる態様において、抗体または抗体断片は、McCafferty et al., Nature, 348: 552-554 (1990)に記載されている技術を用いて作製された抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991)およびMarks et al., J MoL BioL, 222: 581-597 (1991)では、ファージライブラリーを用いたマウス抗体およびヒト抗体の単離についてそれぞれ記載している。その後の刊行物では、鎖シャッフリングによる高親和性(nM範囲)ヒト抗体の産生(Marks et al., BioTechnology, 10: 779-783 (1992))、ならびに非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としての組み合わせ感染およびインビボ組換え(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21: 2265-2266 (1993))について記載されている。このようにこれらの技術は、モノクローナル抗体単離のための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代わる実行可能な手段である。
【0025】
例えば、ヒトの重鎖および軽鎖定常ドメインをコードする配列を相同的なマウス配列と置き換えることにより(米国特許第4,816,567号;Morrison, et al., Proc. Natl Acad. ScL USA, 81: 6851 (1984))、または免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列の全部もしくは一部を共有結合的に連結することにより、DNAを改変することもできる。
【0026】
典型的には、そのような非免疫グロブリンポリペプチドを抗体の定常ドメインの代わりに用いるか、またはそれらを抗体の一方の抗原結合部位の可変ドメインの代わりに用いて、ある抗原に対して特異性を有する一つの抗原結合部位および別の抗原に対して特異性を有するもう一つの抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作製する。
【0027】
本発明は、疾患の治療および/もしくは予防、ならびに/またはCDH3発現細胞の増殖の阻害に適した抗体を提供する。本発明はまた、CDH3関連疾患の診断に適した抗体を提供する。本発明において、マウスモノクローナル抗体クローン#3、#4、および#5の樹立に成功し、これらの抗体、特にクローン#3は、CDH3発現細胞(例えば、癌細胞)の増殖を効果的に抑制することが実証された。さらに、これらのクローンの可変領域内にはグリコシル化部位が存在しない。この特性は、抗体の均一性を支持しうるので、治療薬の開発にとって有利である。
【0028】
また本発明において、グリコシル化部位を持たない、クローン#6のバリアントの樹立に成功した。クローン#6は、さまざまなCDH3発現細胞の増殖を阻害する能力をもつ抗体として実証されているが、H鎖V領域のCDR2内にグリコシル化部位を有する。本発明のバリアントは、グリコシル化部位のアスパラギン残基がセリン残基、トレオニン残基、アラニン残基、またはグルタミン残基に変更されている。
【0029】
マウスモノクローナル抗体クローン#3、クローン#4、および#5のH鎖V領域のアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:4、20、36に示されている。マウスモノクローナル抗体クローン#3、クローン#4、および#5のL鎖V領域のアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:12、28、44に示されている。さらに、クローン#6のバリアントのH鎖V領域のアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:68、72、76、および80に示されている。クローン#6のバリアントのL鎖V領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:60に示されている。
【0030】
H鎖V領域およびL鎖V領域に含まれるCDRは、当技術分野において周知の方法にしたがって決定することができる。例えば、Kabatら(Kabat E. A. et al. (1991) Sequence of Proteins of Immunological Interest. 5th Edition)またはChothiaら(Chothia et al. J. Mol. Biol. (1987) 196; 901-917)によって記載された方法が、CDR決定に関して一般的に用いられる。
【0031】
したがって本発明は、H鎖V領域およびL鎖V領域を含む抗体またはその断片を提供し、ここで該H鎖V領域および該L鎖V領域は、
(a)SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:20に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:36に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:44に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;ならびに
(d)SEQ ID NO:68、72、76もしくは80に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:60に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域
からなる群より選択され、かつここで該抗体は、CDH3ポリペプチドまたはその部分ペプチドに結合することができる。
【0032】
好ましい態様において、Kabatの定義によってCDRを決定してもよい(Kabat E. A. et al. (1991) Sequence of Proteins of Immunological Interest. 5th Edition)。Kabatの定義によって決定された各クローンのCDRを以下に記載する。クローン#3のCDRのアミノ酸配列は、H鎖V領域においてCDR1:SFWIH(SEQ ID NO:6)、CDR2:NIDPSDSETHYNQYFKD(SEQ ID NO:8)、およびCDR3:GGTGFSS(SEQ ID NO:10)であり、L鎖V領域においてCDR1:KASQDIDSYLS(SEQ ID NO:14)、CDR2:RANRLVD(SEQ ID NO:16)、およびCDR3:LQYDEFPRT(SEQ ID NO:18)である。
クローン#4のCDRのアミノ酸配列は、H鎖V領域においてCDR1:SYWMH(SEQ ID NO:21)、CDR2:NIDPSDSETHYNQNFND(SEQ ID NO:24)、およびCDR3:GGTGFAY(SEQ ID NO:26)であり、L鎖V領域においてCDR1:KASQDINNYLG(SEQ ID NO:30)、CDR2:RTDRLIE(SEQ ID NO:32)、およびCDR3:LQYDEFPRM(SEQ ID NO:34)である。
クローン#5のCDRのアミノ酸配列は、H鎖V領域においてCDR1:SYWMH(SEQ ID NO:38)、CDR2:NIDPSDSETHYNQKFNDRA(SEQ ID NO:40)、およびCDR3:GGTGFAY(SEQ ID NO:42)であり、L鎖V領域においてCDR1:KASQDINNYLG(SEQ ID NO:46)、CDR2:RTDRLIE(SEQ ID NO:48)、およびCDR3:LQYDEFPRM(SEQ ID NO:50)である。
クローン#6のバリアントのCDRのアミノ酸配列は、H鎖V領域においてCDR1:SYWIH(SEQ ID NO:54)、CDR2:EIDPSDSYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:70)、EIDPSDTYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:74)、EIDPSDAYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:78)、またはEIDPSDQYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:82)、およびCDR3:SGYGNLFVY(SEQ ID NO:58)であり、L鎖V領域においてCDR1:SATSSVTYMY(SEQ ID NO:62)、CDR2:RTSNLAS(SEQ ID NO:64)、およびCDR3:QHYHIYPRT(SEQ ID NO:66)である。
【0033】
したがって本発明はまた、H鎖V領域およびL鎖V領域を含む抗体またはその断片も提供し、ここで該H鎖V領域および該L鎖V領域は、
(a)SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:10に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:18に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:22に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:24に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:26に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:30に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:32に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:34に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:38に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:40に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:42に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:46に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:48に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:50に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域;および
(d)SEQ ID NO:54に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:70、74、78または82に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:58に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:62に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:64に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:66に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域
からなる群より選択される。
【0034】
上記の「SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:10に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域」におけるH鎖V領域(VH)の1つの例は、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を有するVHである。上記の「SEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域」におけるL鎖V領域(VL)の1つの例は、SEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を有するVLである。
上記の「SEQ ID NO:22に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:24に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:26に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域」におけるVHの1つの例は、SEQ ID NO:20に示されるアミノ酸配列を有するVHである。上記の「SEQ ID NO:30に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:32に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:34に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域」におけるVLの1つの例は、SEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を有するVLである。
上記の「SEQ ID NO:38に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:40に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:42に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域」におけるVHの1つの例は、SEQ ID NO:36に示されるアミノ酸配列を有するVHである。上記の「SEQ ID NO:46に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:48に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:50に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域」におけるVLの1つの例は、SEQ ID NO:44に示されるアミノ酸配列を有するVLである。
上記の「SEQ ID NO:54に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:70、74、78または82に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:58に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域」におけるVHの1つの例は、SEQ ID NO:68、72、76、または80に示されるアミノ酸配列を有するVHである。上記の「SEQ ID NO:62に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:64に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:66に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域」におけるVLの1つの例は、SEQ ID NO:60に示されるアミノ酸配列を有するVLである。
【0035】
したがって、一態様において本発明は、SEQ ID NO:4、20、36、68、72、76、および80からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域ならびに/またはSEQ ID NO:12、28、44、および60からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域を含む抗体、またはその断片を提供する。
好ましい態様において、本発明の抗体は、
(a)SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:20に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:36に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:44に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域;または
(d)SEQ ID NO:68、72、76もしくは80に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:60に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域
を含む。
【0036】
本発明の抗体は従来の方法によって調製することができる。例えば、従来の遺伝子組み換え技術にしたがって、抗体ポリペプチドをコードするポリペプチドを適切なベクターに組み込み、該ベクターを宿主に導入し、かつ該宿主から抗体を産生させることによって、抗体を調製することができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur. J. Biochem. (1990) 192, 767-75を参照されたい)。
【0037】
本発明の抗体のV領域をコードするポリヌクレオチドの核酸配列は、本発明の抗体のV領域のアミノ酸配列から推定することができる。例えば、SEQ ID NO:3および11に示される核酸配列はそれぞれ、クローン#3のVHおよびVLをコードする核酸配列として用いることができる。例えば、SEQ ID NO:19および27に示される核酸配列はそれぞれ、クローン#4のVHおよびVLをコードする核酸配列として用いることができる。例えば、SEQ ID NO:35および43に示される核酸配列はそれぞれ、クローン#5のVHおよびVLをコードする核酸配列として用いることができる。例えば、SEQ ID NO:67、71、75または79、および59に示される核酸配列はそれぞれ、クローン#6のバリアントのVHおよびVLをコードする核酸配列として用いることができる。本発明の抗体のV領域をコードするポリヌクレオチドは、固相技術(Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron (1992) 48, 2223-311; Matthes et al., EMBO J (1984) 3, 801-5)およびオリゴヌクレオチド合成技術(Jones et al. Nature (1986) 321, 522-5)のような従来の方法によって配列情報に基づき合成することができる。
【0038】
抗体V領域をコードするポリヌクレオチドを、抗体定常(C)領域をコードするポリヌクレオチドを含んだ発現ベクターに組み込む。
本発明において用いられる抗体の産生のため、該抗体(抗体遺伝子)をコードするポリペプチドを、発現制御要素(例えば、エンハンサー、プロモーター)の制御下で抗体遺伝子が発現できるように、発現ベクターに組み込む。発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0039】
抗体遺伝子の発現において、抗体のH鎖をコードするポリヌクレオチドとL鎖をコードするポリヌクレオチドを別個の発現ベクターに組み込んでもよく、その後、得られた組み換え発現ベクターを宿主細胞に同時形質転換する。あるいは、抗体のH鎖をコードするポリヌクレオチドとL鎖をコードするポリヌクレオチドの両方を単一の発現ベクターに一緒に組み込んでもよく、その後、得られた組み換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換する(例えば、国際公開公報第94/11523号)。
【0040】
抗体遺伝子は公知の方法によって発現させることができる。哺乳類細胞における発現の場合、従来の有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、およびポリ(A)シグナル(抗体遺伝子の3'末端に対して下流に位置する)を、機能的に連結させることができる。例えば、有用なプロモーター/エンハンサー系として、ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター/エンハンサー系を用いることができる。
他のプロモーター/エンハンサー系、例えば、ウイルス(例えば、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルスおよびサルウイルス40(SV40))に由来するもの、ならびに哺乳類細胞に由来するもの(例えば、ヒト伸長因子1α(HEF1α))を本発明における抗体の発現に用いることもできる。
SV40プロモーター/エンハンサー系が用いられる場合、遺伝子発現はMulliganら(Nature (1979) 277, 108-14.)の方法によって容易に行うことができる。HEF1αプロモーター/エンハンサー系が用いられる場合、遺伝子発現はMizushimaら(Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322.)の方法によって容易に行うことができる。
【0041】
大腸菌における発現の場合、従来の有用なプロモーター、関心対象の抗体を分泌させるためのシグナル配列、および抗体遺伝子を、機能的に連結させることができる。プロモーターとして、lacZプロモーターまたはaraBプロモーターを用いることができる。lacZプロモーターが用いられる場合、遺伝子発現はWardら(Nature (1098) 341, 544-6.; FASBE J. (1992) 6, 2422-7.)の方法によって行うことができ、その一方でaraBプロモーターが用いられる場合、遺伝子発現はBetterら(Science (1988) 240, 1041-3.)の方法によって行うことができる。
【0042】
抗体の分泌のためのシグナル配列に関して、関心対象の抗体が大腸菌の細胞周辺腔に分泌されることが意図される場合、pelBシグナル配列(Lei, S.P. et al, J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-83.)を用いることができる。細胞周辺腔の中に分泌された抗体を単離し、その後、抗体が適切な立体構造をとるように再び折り畳ませる。
【0043】
ウイルス(例えば、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV))などに由来する複製起点を用いることができる。宿主細胞系における遺伝子コピー数を増加させるために、発現ベクターには、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)遺伝子などの選択マーカー遺伝子をさらに含めてもよい。本発明において用いられる抗体の産生に関しては、真核生物および原核生物の細胞系を含む任意の発現系を用いることができる。真核生物細胞には、動物(例えば、哺乳類、昆虫、カビおよび真菌、酵母)の樹立細胞株が含まれる。原核生物細胞には、大腸菌細胞などの細菌細胞が含まれる。本発明において用いられる抗体は、CHO細胞、COS細胞、骨髄腫細胞、BHK細胞、Vero細胞、およびHeLa細胞などの哺乳類細胞において発現されることが好ましい。
【0044】
次に、形質転換された宿主細胞をインビトロまたはインビボで培養して、関心対象の抗体を産生させる。宿主細胞の培養は任意の公知の方法によって行うことができる。本明細書において使用できる培養培地は、DMEM、MEM、RPMI 1640またはIMDM培地であってよい。培養培地は、ウシ胎仔血清(FCS)などの血清サプリメントを含んでもよい。
【0045】
組み換え抗体の産生において、上記の宿主細胞のほかに、トランスジェニック動物を宿主として用いることもできる。例えば、抗体遺伝子を、動物の母乳中で元来産生されるタンパク質(例えば、βカゼイン)をコードする遺伝子の所定部位へ挿入して、融合遺伝子を調製する。抗体遺伝子が導入された融合遺伝子を含むDNA断片を非ヒト動物の胚へ注射し、この胚を次に、雌性動物へ導入する。該胚を体内に有する該雌性動物はトランスジェニック非ヒト動物を産む。関心対象の抗体は該トランスジェニック非ヒト動物またはその子孫から母乳中に分泌される。該抗体を含有する母乳の量を増加させる目的で、適切なホルモンを該トランスジェニック動物に投与することができる(Ebert, K.M. et al, Bio/Technology (1994) 12, 699-702.)。
【0046】
上記のように発現され産生された抗体を、細胞または宿主動物の体から単離し、精製することができる。本発明において用いられる抗体の単離および精製は、アフィニティーカラムに対して行うことができる。抗体の単離および精製に従来用いられる他の方法を用いることもでき;したがって、方法は特に限定されない。例えば、さまざまなクロマトグラフィー、ろ過、限外ろ過、塩析および透析を単独でまたは組み合わせて用いて、関心対象の抗体を単離および精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed. Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0047】
(ii)キメラ抗体およびヒト化抗体
本発明において、キメラ抗体およびヒト化抗体を含む、人工的に改変された組み換え抗体を用いることができる。これらの改変抗体は任意の公知の方法によって調製することができる。例えば、「キメラ抗体」の産生のために開発された技術(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. ScL, (1984) 81: 6851-5.; Neuberger et al., Nature (1984), 312: 604-8.; Takeda et al., Nature (1985) 314: 452-4.)を用いることができる。
【0048】
キメラ抗体とは、異なる部分が異なる動物種に由来する分子であり、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する分子、例えば、「ヒト化抗体」である。
【0049】
本発明によるキメラ抗体は、抗体V領域をコードするDNAを、ヒト抗体C領域をコードするDNAに連結させ、連結産物を発現ベクターに組み込み、得られた組み換え発現ベクターを宿主に導入してキメラ抗体を産生することにより、調製することができる。
ヒト化抗体は「再構成ヒト抗体」とも称され、非ヒト哺乳類(例えば、マウス)の抗体のCDRがヒト抗体のCDRに移植されている。そのようなヒト化抗体を産生するための一般的な遺伝子組み換え手法も公知である(例えば欧州特許第125023号;国際公開公報第96/02576号)。
【0050】
具体的には、マウス抗体CDRがフレームワーク領域(FR)を介して連結されている核酸配列を設計し、該CDRの末端領域および該FRと重複する領域を有するように設計されたプライマーとしていくつかのオリゴヌクレオチドを用いたPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体C領域をコードするDNAに連結し、連結産物を発現ベクターに組み込む。得られた組み換え発現ベクターを宿主に導入し、それによってヒト化抗体を産生する(例えば、国際公開公報第96/02576号)。
【0051】
CDRを介して連結されるFRは、該CDRが機能的な抗原結合部位を形成できるように選択される。必要なら、抗体V領域のFR中のアミノ酸は、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成できるように交換されてもよい(Sato, K. et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-6.)。
【0052】
キメラ抗体は、非ヒト哺乳類抗体に由来するV領域およびヒト抗体に由来するC領域から構成される。ヒト化抗体は、非ヒト哺乳類抗体に由来するCDRならびにヒト抗体に由来するFRおよびC領域から構成される。ヒト化抗体は、人体に対する抗体の抗原性が低減されるので、臨床用途に有用でありうる。
本発明において用いられるキメラ抗体またはヒト化抗体の具体例は、V領域がマウスモノクローナル抗体クローン#3、#4、#5、もしくはクローン#6のバリアントに由来する抗体、または、CDRがマウスモノクローナル抗体クローン#3、#4、#5、もしくはクローン#6のバリアントに由来する抗体である。そのようなキメラ抗体およびヒト化抗体を産生するための方法は、以下に記述される。
【0053】
例えば、初めに、クローン#3、#4、#5の抗体、またはクローン#6のバリアントのV領域またはCDRをコードする遺伝子を、抗体産生細胞のRNAから、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによって調製する(例えば、Larrick et al., 「Methods: a Companion to Methods in Enzymology」, Vol. 2: 106, 1991; Courtenay-Luck, 「Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies」 in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering and Clinical Application; Ritter et al. (eds.), page 166, Cambridge University Press, 1995、およびWard et al., 「Genetic Manipulation and Expression of Antibodies」 in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications; ならびにBirch et al. (eds.), page 137, Wiley-Liss, Inc., 1995を参照されたい)。抗体のV領域またはCDRをコードするポリヌクレオチドを、オリゴヌクレオチド合成技術(例えば、Jones et al. Nature (1986) 321, 522-5)によって合成してもよい。次に、増幅されたまたは合成された産物を従来の手順にしたがってアガロースゲル電気泳動に供し、関心対象のDNA断片を切り出し、回収し、精製して、ベクターDNAに連結する。
【0054】
得られたDNAおよびベクターDNAを、公知の連結キットを用いて連結し、組み換えベクターを構築することができる。ベクターDNAは公知の方法で調製することができる:J. Sambrook, et al., 「Molecular Cloning」, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989。ベクターDNAを制限酵素で消化し、所望のDNAのヌクレオチド配列を公知の方法によって、または自動化シーケンサーを用いて、決定することができる。
【0055】
マウスモノクローナル抗体のLおよびH鎖のV領域をコードするDNA断片がクローニングされたら(以後、抗体のLまたはH鎖はマウス抗体の場合「マウスLまたはH鎖」およびヒト抗体の場合「ヒトLまたはH鎖」とも称される)、マウスV領域をコードするDNAおよびヒト抗体C領域をコードするDNAを連結し、発現させて、キメラ抗体を得る。
【0056】
キメラ抗体を調製するための標準的な方法は、クローニングされたcDNAに存在するマウスシグナル配列およびV領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター内に既に存在するヒト抗体C領域をコードする配列に連結することを含む。あるいは、クローニングされたcDNAに存在するマウスシグナル配列およびV領域配列を、ヒト抗体C領域をコードする配列に連結した後に、哺乳類細胞発現ベクターへの連結を行う。
【0057】
ヒト抗体C領域を含むポリペプチドは、例えば、ヒトH鎖のCγ1、Cγ2、Cγ3もしくはCγ4またはL鎖のCλもしくはCκを含む、ヒト抗体のHまたはL鎖C領域のいずれであってもよい。キメラ抗体を調製するために、2つの発現ベクターを最初に構築する;すなわち、エンハンサー/プロモーター系のような発現制御要素の制御下にマウスL鎖V領域およびヒトL鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクター、ならびにエンハンサー/プロモーター系のような発現制御要素の制御下にマウスH鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクターを構築する。次いで、哺乳類細胞(例えば、COS細胞)のような宿主細胞をこれらの発現ベクターで同時形質転換し、形質転換された細胞をインビトロまたはインビボで培養して、キメラ抗体を産生する(例えば、国際公開公報第91/16928号を参照されたい)。
【0058】
あるいは、クローニングされたcDNA中に存在するマウスシグナル配列ならびにマウスL鎖V領域およびヒトL鎖C領域をコードするDNAと、マウスシグナル配列ならびにマウスH鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAを、単一の発現ベクターに導入し(例えば、国際公開公報第94/11523号を参照されたい)、該ベクターを用いて宿主細胞を形質転換し;次いで、形質転換された宿主をインビボまたはインビトロで培養して、所望のキメラ抗体を産生する。キメラ抗体のH鎖の発現用のベクターは、マウスH鎖V領域をコードするヌクレオチド配列を含むcDNA(以後「H鎖V領域のcDNA」とも称される)を、ヒト抗体のH鎖C領域をコードする核酸配列を含むゲノムDNA(以後「H鎖C領域のゲノムDNA」とも称される)または該領域をコードするcDNA(以後「H鎖C領域のcDNA」とも称される)を含んだ適切な発現ベクターに導入することによって、得ることができる。H鎖C領域は、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4領域を含む。
【0059】
H鎖C領域をコードする、特にCγ1領域をコードするゲノムDNAを有する発現ベクターは、例えば、HEF−PMh−gγ1(国際公開公報第92/19759号)およびDHER−INCREMENT E−RVh−PMl−f(国際公開公報第92/19759号)を含む。あるいは、既述(Liu, A. Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.84, 3439-43, 1987; Reff, M.E. et al., Blood, Vol.83, No.2, 435-45, 1994)のようにヒトPBMC(末梢血単核細胞)由来のcDNAを用いてヒトC領域ライブラリを調製することができる。マウスH鎖V領域をコードするcDNAをこれらの発現ベクターに挿入する場合、PCR法によってcDNAに適切な核酸配列を導入することができる。例えば、cDNAがその5'末端に適切な制限酵素の認識配列を有しかつその開始コドンの直前に、転写効率を改善するためのKozakコンセンサス配列を有するように設計された、PCRプライマー、および、該cDNAがその3'末端に適切な制限酵素の認識配列を有しかつ、ゲノムDNAの一次転写産物を適切にスプライシングしてmRNAを与えるためのスプライスドナー部位を有するように設計されたPCRプライマーを用いてPCRを実施して、これらの適切な核酸配列を発現ベクターに導入することができる。
【0060】
マウスH鎖V領域をコードする構築されたcDNAを、適切な制限酵素で処理することができ、次いでこれを発現ベクターに挿入して、H鎖C領域(Cγ1領域)をコードするゲノムDNAを含んだキメラH鎖発現ベクターを構築する。あるいは、マウスH鎖V領域をコードする構築されたcDNAを、適切な制限酵素で処理し、H鎖C領域Cγ1をコードするcDNAに連結し、pQCXIH(Clontech)のような発現ベクターに挿入して、キメラH鎖をコードするcDNAを含んだ発現ベクターを構築してもよい。
【0061】
キメラ抗体のL鎖の発現用ベクターは、マウスL鎖V領域をコードするcDNAと、ヒト抗体のL鎖C領域をコードするゲノムDNAまたはcDNAとを連結し、適切な発現ベクターに導入することにより、得ることができる。L鎖C領域は、例えば、κ鎖およびλ鎖を含む。マウスL鎖V領域をコードするcDNAを含んだ発現ベクターが構築される場合、認識配列またはKozakコンセンサス配列などの適切な核酸配列をPCR法によって該発現ベクターに導入することができる。
【0062】
ヒトLλ鎖C領域をコードするcDNAの全核酸配列をDNA合成装置によって合成し、PCR法によって構築してもよい。ヒトLλ鎖C領域は少なくとも4つの異なるアイソタイプを有することが公知であり、各アイソタイプを用いて発現ベクターを構築することができる。ヒトLλ鎖C領域をコードする構築されたcDNAと、マウスL鎖V領域をコードする上記の構築されたcDNAとを、適切な制限酵素部位の間で連結し、pQCXIH(Clontech)などの発現ベクターに挿入して、キメラ抗体のLλ鎖をコードするcDNAを含んだ発現ベクターを構築することができる。マウスL鎖V領域をコードするDNAに連結されるヒトLκ鎖C領域をコードするDNAは、例えば、ゲノムDNAを含んだHEF−PMl k−gkから構築することができる(国際公開公報第92/19759号を参照されたい)。あるいは、既述(Liu, A. Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.84, 3439-43, 1987; Reff, M.E. et al., Blood, Vol.83, No.2, 435-45, 1994)のように、ヒトPBMC(末梢血単核細胞)由来のcDNAを用いてヒトC領域ライブラリを調製することもできる。
【0063】
適切な制限酵素の認識配列を、PCR法によって、Lκ鎖C領域をコードするDNAの5'末端および3'末端に導入することができ、上記で構築されたマウスL鎖V領域をコードするDNAとLκ鎖C領域をコードするDNAとを互いに連結し、pQCXIH(Clontech)のような発現ベクターに挿入して、キメラ抗体のLκ鎖をコードするcDNAを含んだ発現ベクターを構築することができる。
【0064】
非ヒト抗体のヒト化は、対応するヒト抗体の配列の代わりにCDR配列を用いることにより、Winterおよび共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321: 522-525 (1986); Reichmann et al., Nature, 332: 323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239: 1534-1536 (1988))に本質的にしたがって、行うことができる。
【0065】
マウスモノクローナル抗体のCDRがヒト抗体に移植されているヒト化抗体を作出するためには、該マウスモノクローナル抗体のFRと該ヒト抗体のFRとの間に高い相同性が存在することが望ましい。したがって、Protein Data Bankを使って、マウスモノクローナル抗体クローン#3、#4、#5、またはクローン#6のバリアントのHおよびL鎖のV領域と、構造が解明されている全ての既知抗体のV領域との間で比較を行う。さらにそれらを、抗体FRの長さ、およびアミノ酸の相同性などに基づいてKabatらが分類したヒト抗体サブグループ(HSG:ヒトサブグループ)と同時に比較する(Kabat, E'.A. et al, US Dep, Health and Human Services, US Government Printing Offices, 1991)。
【0066】
ヒト化抗体V領域をコードするDNAを設計するための第一段階は、設計の基礎としてヒト抗体V領域を選択することである。例えば、マウス抗体V領域のFRと80%超の相同性を有するヒト抗体V領域のFRをヒト化抗体の産生において用いることができる。
【0067】
ヒト化抗体において、抗体のV領域のフレームワーク(FR)領域およびC領域はヒトに由来し、V領域のCDRはマウスに由来する。ヒト化抗体のV領域を含むポリペプチドは、ヒト抗体のDNA断片が鋳型として利用可能である限り、PCR法によってCDR移植と呼ばれる方式で産生することができる。「CDR移植」とは、マウス由来のCDRをコードするDNA断片を作出し、鋳型としてのヒト抗体のCDRと置き換える方法を指す。鋳型として用いられるべきヒト抗体のDNA断片が利用不可能な場合、データベースに登録された核酸配列をDNA合成装置で合成してもよく、ヒト化抗体のV領域のDNAをPCR法によって産生することができる。さらに、アミノ酸配列しかデータベースに登録されていない場合、Kabat,E.A.らによりUS Dep. Health and Human Services, US Government Printing Offices, 1991の中で報じられたような抗体におけるコドン用法に関する知識に基づき、全核酸配列をアミノ酸配列から推定してもよい。この核酸配列をDNA合成装置で合成し、ヒト化抗体V領域のDNAをPCR法によって調製して適切な宿主に導入した後に、発現させ、所望のポリペプチドを産生させることができる。鋳型としてヒト抗体のDNA断片が利用可能である場合、PCR法によるCDR移植の一般的な手順を以下に記述する。
【0068】
最初に、各CDRに対応するマウス由来DNA断片を合成する。CDR1〜3を、先にクローニングされたマウスHおよびL鎖のV領域の核酸配列に基づいて合成する。例えば、ヒト化抗体がマウスモノクローナル抗体クローン#3に基づいて産生される場合、H鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:6(VH CDR1)、8(VH CDR2)および10(VH CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができ;かつL鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:14(VL CDR1)、16(VL CDR2)および18(VL CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができる。ヒト化抗体がマウスモノクローナル抗体クローン#4に基づいて産生される場合、H鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:22(VH CDR1)、24(VH CDR2)および26(VH CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができ;かつL鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:30(VL CDR1)、32(VL CDR2)および34(VL CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができる。ヒト化抗体がマウスモノクローナル抗体クローン#5に基づいて産生される場合、H鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:38(VH CDR1)、40(VH CDR2)および42(VH CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができ;かつL鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:46(VL CDR1)、48(VL CDR2)および50(VL CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができる。ヒト化抗体がクローン#6のマウスモノクローナル抗体バリアントに基づいて産生される場合、H鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:54(VH CDR1)、70、74、78または82(VH CDR2)および66(VH CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができ;かつL鎖V領域のCDR配列はSEQ ID NO:62(VL CDR1)、64(VL CDR2)および66(VL CDR3)に示されるアミノ酸配列であることができる。
【0069】
ヒト化抗体のH鎖V領域のDNAを任意のヒト抗体H鎖C領域、例えば、ヒトH鎖Cγ1領域のDNAに連結させることができる。上記のように、H鎖V領域のDNAを適切な制限酵素で処理し、エンハンサー/プロモーター系のような発現制御要素下のヒトH鎖C領域をコードするDNAに連結して、ヒト化H鎖V領域およびヒトH鎖C領域のDNAを含んだ発現ベクターを作出することができる。
【0070】
ヒト化抗体のL鎖V領域のDNAを任意のヒト抗体L鎖C領域、例えばヒトL鎖Cλ領域のDNAに、連結させてもよい。L鎖V領域のDNAを適切な制限酵素で処理し、エンハンサー/プロモーター系のような発現制御要素下のヒトLλ鎖C領域をコードするDNAに連結して、ヒト化L鎖V領域およびヒトLλ鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクターを作出することができる。
ヒト化抗体のH鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAと、ヒト化L鎖V領域およびヒトL鎖C領域をコードするDNAとを、国際公開公報第94/11523号に開示されているものなどの単一の発現ベクターに導入することもでき、該ベクターを用いて宿主細胞を形質転換することができ、該形質転換された宿主をインビボまたはインビトロで培養して、所望のヒト化抗体を産生することができる。
【0071】
キメラ抗体またはヒト化抗体を産生するため、上記のような2つの発現ベクターを調製する必要がある。したがって、キメラ抗体については、エンハンサー/プロモーターのような発現制御要素の制御下にマウスH鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクター、ならびに、発現制御要素の制御下にマウスL鎖V領域およびヒトL鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクターを構築する。ヒト化抗体については、発現制御要素の制御下にヒト化H鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクター、ならびに発現制御要素の制御下にヒト化L鎖V領域およびヒトL鎖C領域をコードするDNAを含んだ発現ベクターを構築する。
【0072】
次いで、哺乳類細胞(例えば、COS細胞)のような宿主細胞をこれらの発現ベクターで同時形質転換することができ、得られた形質転換細胞をインビトロまたはインビボで培養してキメラ抗体またはヒト化抗体を産生することができる(例えば、国際公開公報第91/16928号を参照されたい)。あるいは、H鎖VおよびC領域をコードするDNAならびにL鎖VおよびC領域をコードするDNAを単一のベクターに連結し、適切な宿主細胞内に形質転換して抗体を産生してもよい。したがって、キメラ抗体の発現において、クローニングされたcDNAに存在するマウスリーダー配列、マウスH鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAと、マウスリーダー配列、マウスL鎖V領域、およびヒトL鎖C領域をコードするDNAとを、例えば国際公開公報第94/11523号に開示されるものなどの単一の発現ベクターに導入することができる。ヒト化抗体の発現において、ヒト化H鎖V領域およびヒトH鎖C領域をコードするDNAと、ヒト化L鎖V領域およびヒトL鎖C領域をコードするDNAとを、例えば国際公開公報第94/11523号に開示されるものなどの単一の発現ベクターに導入することができる。そのようなベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、形質転換された宿主をインビボまたはインビトロで培養して、関心対象のキメラ抗体またはヒト化抗体を産生する。
【0073】
任意の発現系を用いて、本発明のキメラ抗体またはヒト化抗体を産生することができる。例えば真核生物細胞は、樹立された哺乳類細胞株、真菌細胞および酵母細胞などの動物細胞を含み;原核生物細胞は、大腸菌(Escherichia coli)などの細菌細胞を含む。好ましくは、本発明のキメラ抗体またはヒト化抗体はCOS細胞またはCHO細胞のような哺乳類細胞中で発現される。
哺乳類細胞における発現にとって有用な任意の従来のプロモーターを用いることができる。例えば、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)前初期プロモーターを用いることが好ましい。さらに、哺乳類細胞における遺伝子発現用のプロモーターはウイルスプロモーター、例えばレトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルスおよびサルウイルス(SV)40のプロモーター、ならびに哺乳類細胞由来のプロモーター、例えばヒトポリペプチド鎖伸長因子1α(HEF−Iα)のプロモーターを含むことができる。例えば、SV40プロモーターはMulliganらの方法(Nature, 277, 108-14,1979)にしたがって容易に用いることができ;Mizushima,Sらの方法(Nucleic Acids Research, 18, 5322, 1990)はHEF−Iαプロモーターと共に容易に用いることができる。
【0074】
複製起点は、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルスまたはウシパピローマウイルス(BPV)に由来する複製起点を含む。さらに発現ベクターは、宿主細胞系における遺伝子コピー数を増加させるために、ホスホトランスフェラーゼAPH(3')IIもしくはI(neo)、チミジンキナーゼ(TK)、大腸菌キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)またはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の遺伝子を選択マーカーとして含むことができる。
キメラ抗体またはヒト化抗体をコードするDNAで形質転換された形質転換体を培養することによってこのように産生された関心対象のキメラ抗体またはヒト化抗体を、細胞から単離し、次いで精製することができる。
【0075】
関心対象のキメラ抗体またはヒト化抗体の単離および精製は、プロテインAアガロースカラムを用いることによって実行できるが、タンパク質の単離および精製において用いられる任意の方法によっても行うことができ、したがって限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィー、限外ろ過、塩析および透析を任意で選択しまたは組み合わせて、キメラ抗体またはヒト化抗体を単離および精製してもよい。
キメラ抗体またはヒト化抗体を単離した後に、得られた精製抗体の濃度を、ELISAによって決定することができる。
【0076】
キメラ抗体またはヒト化抗体の正常細胞に対する結合活性を含む抗原結合活性またはその他の活性の測定は、任意の公知の方法によって行うことができる(Antibodies A Laboratory Manual, Ed. Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。抗体の抗原結合活性の測定のための方法として、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、EIA(酵素免疫アッセイ)、RIA(放射免疫アッセイ)または蛍光アッセイのような技術を利用することができる。ELISAでは、抗体がプレートに固定化されており、抗体に対する抗原をプレートに添加し、その後、所望の抗体を含有する試料、例えば抗体産生細胞の培養上清または精製抗体を添加する。次に、一次抗体を認識しかつアルカリホスファターゼなどの酵素でタグ付けされている二次抗体をプレートに添加し、これをプレインキュベートする。洗浄後、p−ニトロフェニルホスフェートのような酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、関心対象の試料の抗原結合活性を評価する。抗原結合活性の評価はBIAコア(Pharmacia)を用いて行うこともできる。
【0077】
抗原結合活性を保持するために、好ましい方法により、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを用いた親配列および種々の概念的ヒト化産物の分析の過程によってヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルが一般的に利用可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推定三次元高次構造を例示および表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の検討によって、候補免疫グロブリン配列の機能において残基が果たす可能性の高い役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、標的抗原に対する親和性増大などの所望の抗体の特徴が達成されるように、FR残基をレシピエント配列および移入配列から選択して組み合わせることができる。
【0078】
(iii)抗体断片
さまざまな技術が抗体断片の産生のために開発されている。従来は、無傷の抗体のタンパク質分解消化を介してこれらの断片が得られていた(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992)およびBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照されたい)。しかしながら、これらの断片は現在、組換え宿主細胞によって直接産生することができる。例えば、抗体断片を上記の抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab'−SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的にカップリングして、F(ab')2断片を形成させてもよい(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。別のアプローチによれば、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片の産生のための他の技術は、当業者には明らかであろう。他の態様において、最適な抗体とは一本鎖Fv断片(scFv)である。国際公開公報第93/16185号;米国特許第5,571,894号;および米国特許第5,587,458号を参照されたい。また抗体断片は、例えば米国特許第5,641,870号に例えば記載されているように、「直鎖状抗体」であってもよい。そのような直鎖状抗体断片は単一特異性または二重特異性を有しうる。
【0079】
(iv)二重特異性抗体
二重特異性抗体とは、少なくとも二つの異なる抗原決定基に対する結合特異性を有する抗体である。例示として、細胞防御機構が癌細胞に集中するように、抗癌細胞マーカー結合アームと、T細胞受容体分子(例えばCD2またはCD3)のような白血球上の誘発(triggering)分子またはFcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)、およびFcyRIH(CD16)のようなIgGに対するFc受容体(FcyR)に結合するアームとを組み合わせることができる。また二重特異性抗体を用いて、細胞毒性物質を癌細胞に局在化させることもできる。これらの抗体は、癌細胞マーカー結合アームおよび細胞毒性物質(例えばサポリン、抗インターフェロン−a、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート、または放射性同位体ハプテン)に結合するアームを包含する。二重特異性抗体は、全長の抗体または抗体断片(例えばF(ab)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0080】
二重特異性抗体を作製するための方法は当技術分野において公知である。全長の二重特異性抗体の従来的な産生は、二本の鎖が別々の特異性を有する、二対の免疫グロブリン重鎖−軽鎖の同時発現に基づいている(Millstein et al., Nature, 305: 537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の無作為の組み合わせのために、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうちの1種だけが的確な二重特異性構造を有する。アフィニティークロマトグラフィー段階によって通常行われる、的確な分子の精製は、かなり煩雑であり、産物の収量は低い。類似の手順が国際公開公報第93/08829号に、およびTraunecker et al., EMBO J., 10: 3655-3659 (1991)に開示されている。
【0081】
別のアプローチによると、所望の結合特異性(抗体−抗原の組み合わせ部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合する。ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインと融合させることが好ましい。融合体の少なくとも一つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含有する第一の重鎖定常領域(CHI)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体および必要に応じて免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを、別個の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に同時トランスフェクションする。これにより、構築に用いる、比率が同等でないポリペプチド鎖三本によって最適な収量が得られる態様において、三つのポリペプチド断片の相互の比率を調整する際の高い柔軟性が得られる。しかしながら、等しい比率のポリペプチド鎖少なくとも二本の発現が高収量で起こる場合または比率が特に重要ではない場合には、一つの発現ベクターの中に二つまたは三つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
【0082】
このアプローチの好ましい態様において、二重特異性抗体は、一方のアームにおける第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、およびもう一方のアームにおけるハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第二の結合特異性をもたらす)から構成される。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖が存在しないことにより簡便な分離方法が得られるため、この非対称構造によって、望ましくない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離が容易になることが分かった。このアプローチは国際公開公報第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を作製するさらなる詳細については、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology, 121: 210 (1986)を参照されたい。
【0083】
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチによれば、抗体分子対の間の境界面を遺伝子操作して、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好ましい境界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法において、第一の抗体分子の境界面由来の一つまたは複数の小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)と置き換える。大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えばアラニンまたはトレオニン)と置き換えることにより、大きな側鎖とサイズが同一であるか類似している補完的な「空洞」を、第二の抗体分子の境界面に作製する。これによって、ホモ二量体などのその他の望ましくない最終産物よりもヘテロ二量体の収量を増大させるための機構が得られる。
【0084】
二重特異性抗体は架橋抗体または「ヘテロ結合」抗体を含む。例えば、ヘテロ結合体中の抗体の一方をアビジンとカップリングさせ、もう一方をビオチンとカップリングさせることができる。そのような抗体は例えば、望ましくない細胞に対して免疫系細胞を標的化することが提唱されており(米国特許第4,676,980号)、HIV感染症の治療について提唱されている(国際公開公報第91/00360号、国際公開公報第92/200373号、およびEP 03089)。ヘテロ結合抗体は、任意の好都合な架橋方法を用いて作製することができる。適切な架橋剤は当技術分野において周知であり、米国特許第4,676,980号に、いくつかの架橋技術とともに開示されている。
【0085】
抗体断片から二重特異性抗体を作製するための技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は化学的結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)では、無傷の抗体をタンパク質分解的に切断して、F(ab')2断片を作製する手順について記載している。これらの断片を、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元して、隣接ジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を妨害する。次に、作製されたFab'断片を、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換する。その後、Fab'−TNB誘導体の一つを、メルカプトエチルアミンでの還元によってFab'−チオールに再変換し、等モル量の他のFab'−TNB誘導体と混合して二重特異性抗体を形成させる。作製された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための作用物質として用いることができる。
【0086】
最近の進歩によって大腸菌からFab'−SH断片を直接回収することが容易になっており、それを化学的にカップリングして二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 2 17-225 (1992)では、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の産生について記載している。各Fab'断片を大腸菌から別々に分泌させ、インビトロにおいて指向性の化学的カップリングに供して、二重特異性抗体を形成させる。
【0087】
組換え細胞培養物から直接的に二重特異性抗体断片を作製および単離するための種々の技術も記載されている。例えば、ロイシンジッパーを用いて二重特異性抗体が産生されている(Kostelny et al., J Immunol. 148 (5): 1547-1553 (1992))。FosおよびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合によって二つの異なる抗体のFab'部分に連結した。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元して単量体を形成し、次に再び酸化して抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法を抗体ホモ二量体の産生に利用することもできる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)により記載されている「ダイアボディ」技術によって、二重特異性抗体断片を作製するための代替的な機構が提供されている。この断片は、同一鎖上の二つのドメイン間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、ある断片のVHおよびVLドメインを別の断片の相補的なVLおよびVHドメインと対形成させ、それにより二つの抗原結合部位を形成させる。一本鎖Fv(sFv)二量体の使用により二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J Immunol., 152: 5368 (1994)を参照されたい。
結合価が2を上回る抗体が意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt et al. J; Immunol. 147: 60 (1991)。
【0088】
(v)抗体結合体およびその他の修飾
本発明の抗体を、任意で、細胞毒性物質または治療剤と結合させる。
例えば、治療剤には、癌の治療に有用である任意の化学療法剤が含まれる。化学療法剤の例には、以下が含まれる:チオテパおよびシクロスホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチロールメラミンを含む、エチレンイミンおよびメチルメラミン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノべムビチン、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素;アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6ージアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどの抗生物質;メトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗剤;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸アナログ;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FUなどのピリミジンアナログ;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤(anti−adrenal);フォリン酸などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグルコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトレキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エフロルニチン;酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK@;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2"−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOLO, Bristol−Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTEW, Rh6ne−Poulenc Rorer, Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金アナログ;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;カペシタビン;ならびに、上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体。治療剤にはまた、腫瘍に対するホルモンの作用を調節または阻害するよう作用する抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)−イミダゾール、4ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、オナプリストン、およびトレミフェン(フェアストン)を含む);および抗アンドロゲン剤(例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリン);ならびに上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体も含まれる。
【0089】
カリチアマイシン、メイタンシン(米国特許第5,208,020号)、トリコテセン、およびCC 1065などの低分子毒素の1つまたは複数と抗体との結合体もまた、本明細書において意図される。本発明の好ましい一態様において、1個または複数のメイタンシン分子に抗体を結合させる(例えば、抗体分子あたり約1〜約10個のメイタンシン分子)。メイタンシンを例えばMay SS−Meに変換してもよく、メイタンシノイド−抗体結合体を作製するためにこれを還元してMay−SH3とし、修飾抗体と反応させることができる(Chari et al. Cancer Research 52: 127-131 (1992))。
あるいは、抗体を一つまたは複数のカリケアマイシン分子と結合させることもできる。抗生物質のカリケアマイシンファミリーは、ピコモル以下の濃度で二本鎖DNAを切断することができる。使用できるカリケアマイシンの構造的類似体にはγ1I、α2I、α3I、N−アセチル−γ1I、PSAG、およびOI1が含まれるが、これらに限定されることはない(Hinman et al. Cancer Research 53: 3336-3342 (1993)およびLode et al, Cancer Research 58: 2925-2928 (1998))。
【0090】
使用できる酵素活性をもつ毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害因子、クルシン、クロチン、サポンソウ(sapaonaria officinalis)阻害因子、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、ならびにトリコテセンが含まれる。例えば、1993年10月28日付で公開された国際公開公報第93/21232号を参照されたい。
【0091】
本発明はさらに、種々の放射性同位体に結合した抗体を意図する。例としては111In、2llAt、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、2l2Bi、32P、およびLuの放射性同位体が挙げられる。本発明において、本発明の抗体は使用の直前に放射性核種で標識されてもよく、放射標識抗体として提供されてもよい。周知の技術によって腫瘍特異的な抗体にカップリングされて、腫瘍細胞および組織を特異的に損傷させる部位に送達されうる多数の放射性核種および化学的細胞毒性物質が存在することを当業者は理解するであろう(例えば、1985年9月17日付で刊行されたW.A.Blattlerらの米国特許第4,542,225号;およびPastan et al., 1986, Cell, 47:641-648を参照されたい)。例えば、使用に適したイメージング試薬および細胞毒性試薬には、125I、123I、111In(例えば、Sumerdon et al., 1990, Nucl. Med. Biol., 17:247-254)および99mTc;フルオレセインおよびローダミンのような蛍光標識;ルシフェリンのような化学発光標識、ならびに磁気共鳴イメージングで用いるための常磁性イオン(Lauffer et al., 1991, Magnetic Resonance in Medicine, 22:339-342)が含まれる。当技術分野で公知かつ実践されるプロトコルおよび技術を用いて、そのような試薬により抗体を標識することができる。例えば、抗体の放射標識に関する技術については、Wenzel and Meares, Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy, Elsevier, New York, 1983;Colcer et al., 1986, Meth. Enzymol., 121:802-816;およびMonoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy, Eds. Baldwin et al., Academic Press, 1985, pp. 303-316を参照されたい。正常組織に対する毒性は限定しながら、腫瘍もしくは癌細胞および/または組織に送達される線量を最大化することに関しては、イットリウム−90(90Y)標識モノクローナル抗体が記載されている(例えば、Goodwin and Meares, 1997, Cancer Supplement, 80:2675-2680)。ヨウ素−131(131I)およびレニウム−186を含むがこれらに限定されない他の細胞毒性放射性核種を、本発明のモノクローナル抗体の標識のために用いることもできる。放射性核種のなかでもイットリウム−90(90Y)は放射免疫療法に適している可能性がある。なぜなら、イットリウム−90(90Y)は、より高いβエネルギー(2.3MeV vs 0.61MeV)を腫瘍に送達しかつ5〜10mmの路長(path length)を有し、その結果として、標的細胞と隣接細胞の両方を死滅できる能力が向上するので、イットリウム−90はヨウ素−131(131I)よりも有利であり、特に巨大腫瘍または血管新生の乏しい腫瘍において有利であるためである。
使用される検出可能な/検出用の標識は、使用するイメージング様式にしたがって選択される。例えば、インジウム−111(111In)、テクネチウム−99m(99mTc)またはヨウ素131(131I)のような放射標識を、平面スキャンのためにまたは単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)のために用いることができる。また、フッ素−19のような陽電子放出性の標識を陽電子放出断層撮影法(PET)において用いることもできる。ガドリニウム(III)またはマンガン(II)のような常磁性イオンを磁気共鳴画像法(MRI)において用いることができる。例えばX線、CATスキャンまたはMRIによる、注射後の癌細胞の可視化のために、放射線不透過性標識でモノクローナル抗体を標識することもできる。特に、CDH3関連疾患(例えば癌)については、癌内部の標識の局在性によって疾患の拡大を判定することができる。例えば、CDH3を発現している癌内部に存在しかつ検出可能な標識の量によって、診断される対象における癌または腫瘍の有無の判定が可能になる。
【0092】
抗体と細胞毒性物質との結合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリイルジトリオール)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばアジピミド酸ジメチルHCL)、活性エステル(例えばスベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えばビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えばビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6−ジイソシアネート)、およびビス−活性フッ素化合物(例えば1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)などの、種々の二官能性タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン免疫毒素はVitetta et al. Science 238: 1098 (1987)に記載のように調製することができる。炭素14で標識した1イソチオシアネートベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX−DTPA)は、放射性ヌクレオチドを抗体に結合させるための例示的なキレート剤である(国際公開公報第94/11026号を参照されたい)。リンカーは、細胞中での細胞毒薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性のリンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Charm et al. Cancer Research 52: 127-131 (1992))を用いることができる。
【0093】
あるいは、抗体および細胞毒性物質を含む融合タンパク質を、例えば組換え技術またはペプチド合成により作製することができる。
さらに別の態様において、腫瘍の前標的化における利用のため、抗体を(ストレプトアビジンのような)「受容体」と結合させることができ、ここで、抗体−受容体の結合体を患者に投与し、次に除去剤(clearing agent)を用いて循環系から未結合の結合体を取り除き、その後、細胞毒性物質(例えば放射性ヌクレオチド)と結合させた「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0094】
本発明の抗体を、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法剤、国際公開公報第81/01145号を参照されたい)を活性な抗癌薬へと変換するプロドラッグ活性化酵素と結合させてもよい(例えば、国際公開公報第88/07378号および米国特許第4,975,278号を参照されたい)。
そのような結合体の酵素成分には、プロドラッグをより活性なその細胞毒性形態へと変換させる様式でプロドラッグに対して作用できる、任意の酵素が含まれる。
【0095】
本発明の方法において有用である酵素には、リン酸含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアルカリホスファターゼ;硫酸含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアリールスルファターゼ;非毒性5−フルオロシトシンを抗癌薬フルオロウラシルに変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離薬物に変換するために有用である、セラチアプロテアーゼ、サーモライシン、スブチリシン、カルボキシペプチダーゼ、およびカテプシン(例えばカテプシンBおよびL)などのプロテアーゼ;D−アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに有用な、D−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用な、13−ガラクトシダーゼおよびノイラミニラーゼなどの糖質分解酵素;13−ラクタムで誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用な13−ラクタマーゼ;ならびに、アミン窒素の位置でそれぞれフェノキシアセチル基またはフェニルアセチル基により誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用な、ペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼなどのペニシリンアミダーゼが含まれるが、これらに限定されることはない。あるいは、当技術分野において「アブザイム」としても公知である酵素活性を有する抗体を用いて、本発明のプロドラッグを遊離活性薬物に変換することもできる(例えば、Massey, Nature 328: 457-458 (1987)を参照されたい)。腫瘍細胞集団へのアブザイムの送達のため、本明細書に記載されているように抗体−アブザイム結合体を調製することができる。
【0096】
本発明の酵素を、上記のヘテロ二官能性架橋試薬の使用などの当技術分野において周知の技術によって、抗体に共有結合させることができる。あるいは、本発明の酵素の少なくとも機能的に活性な部分に連結されている、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域を含む融合タンパク質を、当技術分野において周知の組換えDNA技術によって構築することもできる(例えば、Neuberger et al., Nature, 312: 604-608 (1984)を参照されたい)。
【0097】
抗体の他の修飾が本明細書において意図される。例えば抗体を、さまざまな非タンパク性重合体、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体のうち一つと連結することができる。
【0098】
本明細書において開示する抗体はリポソームとして製剤化することもできる。抗体を含有するリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82 : 3688 (1985);Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 77: 4030 (1980);米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号;ならびに1997年10月23日付で公開された国際公開公報第97/38731号に記載されているような当技術分野において公知の方法によって、調製される。循環時間を増大させたリポソームが、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0099】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いる逆相蒸発法によって作製することができる。リポソームを規定の孔径をもつフィルタから押し出して、所望の直径を有するリポソームを得る。本発明の抗体のFab'断片を、ジスルフィド交換反応を介して、Martin et al. J. Biol. Chem. 257: 286-288 (1982)に記載のリポソームと結合させることができる。任意で、化学療法剤をリポソームに含めてもよい(Gabizon et al. ANational Cancer Inst. 81 (19) 1484 (1989)を参照されたい)。
【0100】
本明細書において記載する抗体のアミノ酸配列の修飾が意図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい可能性がある。抗体のアミノ酸配列バリアントは、抗体をコードする核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって、またはペプチド合成によって調製される。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失および/または残基への挿入および/または残基の置換を含む。最終構築物が所望の特徴を保有しているという条件で、最終構築物を得るために欠失、挿入および置換の任意の組み合わせが行われる。アミノ酸の変化により、グリコシル化部位の数または位置の変更のような抗体の翻訳後過程を変化させることもできる。
【0101】
抗体の突然変異誘発のために好ましい位置である特定の残基または領域を同定するために有用な方法は、Cunningham and Wells Science, 244 : 1081-1085 (1989)によって記載されているように「アラニン走査突然変異誘発法」と呼ばれる。ここでは、標的残基または残基群を同定し(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電残基)、抗原とアミノ酸との相互作用に影響を与えるために、中性のまたは負の電荷をもつアミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)で置換する。次に、さらなるまたは他のバリアントを置換部位においてまたはその代わりに導入することにより、置換に対し機能的な感度を示すこれらのアミノ酸位置を正確化する。このように、アミノ酸配列の変化を導入するための部位は予め判定するが、突然変異それ自体の性質を予め判定する必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の性能を解析するため、ala走査法または無作為変異導入法を標的のコドンまたは領域で行い、発現された抗体バリアントを所望の活性に関してスクリーニングする。
【0102】
アミノ酸配列の挿入には、1残基長から、100またはそれ以上の残基長を含有するポリペプチドまで及ぶアミノ末端および/またはカルボキシル末端の融合、ならびに、単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体または細胞毒性ポリペプチドと融合した抗体が挙げられる。抗体分子のその他の挿入バリアントは、酵素、または抗体の血清中半減期を増大させるポリペプチドの、抗体N末端またはC末端との融合を含む。
【0103】
別のタイプのバリアントはアミノ酸置換バリアントである。これらのバリアントでは、抗体分子中の少なくとも一つのアミノ酸残基が異なる残基で置換されている。抗体の置換型変異誘発のために最大の関心対象となる部位には超可変領域が含まれるが、FRの修飾も意図されている。
【0104】
抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、
(a)例えば、シートもしくはへリックス立体構造のような、置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、
(b)標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または
(c)側鎖のかさ高さ
を維持することに対するその影響が有意に異なる置換を選択することによって、達成される。
【0105】
天然に存在する残基は、以下の共通した側鎖の特性に基づく群に分類される:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile
(2)中性親水性:cys、ser、thr
(3)酸性:asp、glu
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg
(5)鎖方向性に影響を与える残基:gly、pro
(6)芳香族:trp、tyr、phe
非保存的置換は、これらのクラスのうち一つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
【0106】
抗体の適切な立体構造の維持に関与していない任意のシステイン残基を、一般的にはセリンと置換し、分子の酸化安定性を向上させかつ異常な架橋結合を抑制することもできる。逆に、システイン結合を抗体に付加して、その安定性を向上させることができる(とりわけ抗体がFv断片のような断片である場合)。
【0107】
特に好ましいタイプの置換バリアントでは、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の一つまたは複数の超可変領域残基の置換を伴う。通常、さらなる開発のために選択される得られたバリアントでは、それらが作製された親抗体と比較して生物学的特性が改善しているであろう。そのような置換バリアントを作製するための簡便な方法は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟である。簡単に言えば、幾つかの超可変領域部位(例えば、6〜7部位)を突然変異させて、各部位における全ての可能なアミノ置換を得る。このようにして作製された抗体バリアントを、糸状ファージ粒子から各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として一価の形で提示させる。ファージに提示されたバリアントを次に、本明細書において開示するようにその生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。修飾の候補となる超可変領域部位を同定するために、アラニン走査突然変異誘発法を行って、抗原結合に有意に寄与している超可変領域残基を同定することができる。あるいはまたはさらに、抗原−抗体複合体の結晶構造を解析して抗体と抗原との間の接触点を同定することも有利でありうる。そのような接触残基および隣接残基は、本明細書において説明する技術による置換の候補である。そのようなバリアントが作製されると、バリアントのパネルを本明細書において記載するようにスクリーニングに供し、さらなる開発のために、一つまたは複数の関連アッセイ法において優れた特性を有する抗体を選択することができる。
【0108】
抗体のアミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子は、当技術分野において公知のさまざまな方法によって調製される。これらの方法は、天然供給源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列バリアントの場合)、または、オリゴヌクレオチドを介した(もしくは部位特異的な)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および以前に調製されたバリアントもしくは非バリアント型の抗体のカセット突然変異誘発による調製を含むが、これらに限定されることはない。
【0109】
本発明において用いられる抗体を修飾して、例えば抗体の抗原依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)および/または補体依存性細胞障害(CDC)を増大させるようにエフェクタ機能を改善することが望ましい場合がある。これは、抗体のFc領域に一つまたは複数のアミノ酸置換を導入することによって達成することができる。あるいはまたはさらに、システイン残基をFc領域に導入し、それによってこの領域での鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にすることができる。このようにして作製されたホモ二量体抗体では、内部移行能力が向上し、かつ/または補体媒介性細胞殺滅および抗体依存性細胞障害(ADCC)が増大しうる。Caron et al., J. Exp Med. 176: 1191-1195 (1992)およびShopes, B. J linmunol 148 : 2918-2922 (1992)を参照されたい。
【0110】
Wolff et al. Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているようにヘテロ二官能性架橋剤を用いて、抗腫瘍活性が増大したホモ二量体抗体を調製することもできる。あるいは、二重Fc領域を有しかつそれによって補体溶解およびADCC能が増大されうる抗体を設計することもできる(Stevenson et al. Anti-CancerDrugDesign 3: 2 19-230 (1989)を参照されたい)。
【0111】
抗体の血清中半減期を増大させるため、例えば米国特許第5,739,277号に記載されているようにサルベージ受容体結合性の抗原決定基を抗体(とりわけ抗体断片)に組み入れることができる。本明細書で用いる「サルベージ受容体結合性の抗原決定基」という用語は、IgG分子のインビボ血清中半減期の増大の原因となるIgG分子(例えば、IgGI、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFc領域の抗原決定基を指す。
【0112】
CDH3関連疾患の診断
本発明の抗体は、癌などのCDH3関連疾患を診断するためのマーカーとして用いることができる。
より具体的には、本発明の抗体を用いて対象由来の試料中のCDH3ポリペプチドを検出することにより、CDH3関連疾患を診断することができる。したがって、本発明は、対象由来の試料において本発明の抗体を用いてCDH3ポリペプチドを検出することにより、対象においてCDH3関連疾患または該疾患の発症素因を診断するための方法を提供する。本方法は以下の段階を含む:
(a)対象由来の試料または検体を本発明の抗体またはその断片と接触させる段階;
(b)試料または検体中のCDH3ポリペプチドを検出する段階;および
(c)対照と比べたCDH3タンパク質の相対存在量に基づき対象が疾患を患っているかまたは疾患を発現するリスクがあるかどうか判断する段階。
典型的な態様において、CDH3関連疾患は癌であり、より具体的には膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌である。
【0113】
あるいは、他の態様において、本発明の抗体を、生体内の癌を検出または可視化するために用いてもよい。より具体的には、本発明は、以下の段階を含む、癌を検出またはイメージングする方法を提供する:
(1)対象に本発明の抗体またはその断片を投与する段階;
(2)生体内における該抗体または断片の蓄積または局在を検出する段階、および
(3)該対象内での該抗体または断片の位置を決定する段階。
あるいは、本発明によると、癌細胞または組織を対象において検出することができる。例えば本発明は、以下の段階を含む、CDH3が発現している癌を対象において検出するための方法を提供する:本発明の抗体またはその断片を対象に投与して、該抗体または断片を対象の細胞または組織中のCDH3ポリペプチドに特異的に結合させる段階;該細胞または組織に結合した該抗体を可視化する段階;および、該細胞または組織中に対する該抗体の結合度合いを正常な対照細胞または組織と比較する段階であって、該対象の細胞または組織対する該抗体の結合度合いが該正常な対照細胞または組織と比べて上昇したことが、該対象における癌の指標となる、段階。
【0114】
好ましくは、生体内へ投与された抗体を追跡するために、検出可能な分子で抗体を標識してもよい。例えば、蛍光物質、発光物質、または放射性同位体で標識された抗体の挙動をインビボで追跡することができる。そのような分子で抗体を標識するための方法は、当技術分野において周知である。
【0115】
蛍光物質または発光物質で標識された抗体は、例えば、内視鏡または腹腔鏡を用いて観察することができる。放射性同位体を用いる場合、放射性同位体の放射能を追跡することによって、抗体の局在をイメージングすることができる。本発明において、インビボでの本発明の抗体の局在または蓄積は、癌細胞の存在を示す。
【0116】
類似の方法が他の抗体にも利用されており、当業者は、体内で検出可能なように結合した抗体または断片の位置のイメージングに適したさまざまな方法を認識するであろう。非限定的な指針として、約10〜1000マイクログラム(mcg)、好ましくは約50〜500mcg、より好ましくは約100〜300mcg、より好ましくは約200〜300mcgの精製抗体が投与される。例えば、ヒトに適用可能な投与量としては、約100〜200mcg/kg体重、または350〜700mg/m体表面積が挙げられる。
【0117】
CDH3関連疾患の診断のためのキット
本発明は、CDH3関連疾患の診断のためのキットを提供する。具体的には、本キットは、CDH3ポリペプチドの検出試薬として、本発明の抗体またはその断片を含む。一態様において、本発明のキットのための抗体を蛍光物質、発光物質、または放射性同位体で標識することができる。抗体を標識するための方法および標識抗体を検出するための方法は、当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明のために利用することができる。
【0118】
さらに本キットは、陽性および陰性の対照試薬、ならびに本発明の抗体を検出するための二次抗体を含むことができる。例えば、健常対象または非癌性組織から得られた組織試料は、有用な陰性対照試薬として役立ちうる。本発明のキットはさらに、緩衝液、希釈液、フィルタ、針、シリンジ、および使用説明を記した添付文書(例えば書面、テープ、CD−ROMなど)を含めて、商業的見地または使用者の立場から望ましい他の材料を含んでもよい。これらの試薬などを、ラベルした容器中に保持することができる。適切な容器としてはボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器はガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成することができる。
【0119】
他の態様において、本発明はさらに、本発明の抗体を含む、診断される対象内の癌の検出、イメージング、または治療に用いるキットを提供する。あるいは本発明は、癌を含むCDH3関連疾患について診断される対象に投与するために本発明の抗体を含む診断剤が使用されるような、該診断剤も提供する。好ましい態様において、本発明の抗体は放射性同位体で標識することができる。例えば、本発明のキットは、キレート剤および放射性物質で修飾された本発明の抗体を含むことができる。MX−DOPAは抗体を修飾するのに好ましいキレート剤である。その一方で、バイオイメージングのためのトレーサーとしてインジウム−111(111In)を用いることができる。あるいは、CDH3関連疾患の放射免疫療法のために、抗体をβ核種、例えばイットリウム−90(90Y)で標識することができる。本発明において、インジウム−111(111In)またはイットリウム−90(90Y)をその塩または溶液として提供してもよい。インジウム−111(111In)またはイットリウム−90(90Y)の適切な塩は塩化物である。
好ましい態様において、CDH3関連疾患は膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌である。
【0120】
治療的使用
本発明の抗体を用いて、CDH3関連疾患を治療および/もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための方法および薬学的組成物を、以下に記載する。典型的な態様において、CDH3関連疾患は癌、例えば膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の細胞であるが、これらに限定されることはない。具体的には、本発明によって対象におけるCDH3関連疾患を治療および/もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための方法は、該対象に本発明の抗体またはその断片の有効量を投与する段階を含む。
【0121】
本発明の対象は、哺乳動物および鳥類の動物を含む動物であってよい。例えば哺乳動物には、ヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、およびイヌが含まれうる。
【0122】
本明細書記載の抗体またはその断片はCDH3ポリペプチドに特異的に結合することができ、したがって該抗体またはその断片が対象に投与されると、該対象内のCDH3ポリペプチドに結合して、癌性細胞などのCDH3発現細胞の増殖を抑制しうる。あるいは、該抗体またはその断片を治療成分と結合させて対象に投与すると、対象内のCDH3ポリペプチドを発現している領域(すなわち罹患領域)に送達されて、治療成分が、罹患領域へと選択的に送達され、そこで作用することができる。そのような治療成分は、癌に対する治療効果を持つとして公知のまたは開発予定の任意の治療物質であってよく、かつ、非限定的に放射性同位体標識および化学療法剤を含む。治療物質として使用できる放射性同位体標識は、β線エネルギーおよびその放出効果、γ線放出の有無、そのエネルギーおよび放出効果、物理的半減期、ならびに標識化手順を含む、種々の要素に依って選択することができる。一般的に、イットリウム(90Yなど)ならびにヨウ素(125Iおよび131Iなど)に基づく放射性同位体標識を用いることができる。化学療法剤は、癌の治療に関して公知のまたは開発予定の任意の薬剤であってよく、メトトレキサート、タキソール、メルカプトプリン、チオグアニン、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル、およびドセタキセルを含むが、これらに限定されることはない。本発明の抗体またはその断片は、CDH3ポリペプチドに選択的に結合可能であるが正常細胞には結合せず、したがって該抗体もしくはその断片または放射性同位体または化学療法剤によって引き起こされる副作用を効果的に回避することができ、それゆえ、治療効果が高くなると考えられる。
【0123】
本明細書記載の抗体またはその断片を、CDH3関連疾患を治療または予防するのに有効な用量で対象に投与することができる。有効な用量とは、治療された対象において健康に良い利益をもたらすのに十分な、抗体またはその断片の量を指す。薬学的組成物が本発明の抗体またはその断片を含む場合に利用できる剤形および投与法を、以下で説明する。
【0124】
必要または所望であれば、CDH3関連疾患を軽減するために、本明細書記載の特異的モノクローナル抗体または断片の混合物のような、異なるモノクローナル抗体のカクテルを投与できることをさらに理解されたい。実際に、罹患細胞上のいくつかの抗原または異なるエピトープを標的化するためのカクテルにおいてモノクローナル抗体またはその断片の混合物を用いることは、抗原のうち一つの下方制御による腫瘍細胞および/または癌細胞の回避を防ぐには特に有利な手法である。
【0125】
本発明による使用のための薬学的組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体または賦形剤を用いて従来の様式で製剤化することができる。したがって本発明は、本発明の抗体またはその断片の有効量および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、CDH3関連疾患を治療もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための薬学的組成物を提供する。
【0126】
抗体またはその断片は、例えばボーラス注射または持続注入を介した注射による非経口投与(すなわち、静脈内投与または筋肉内投与)用に製剤化することができる。注射用の製剤は単位剤形で、例えばアンプルまたは複数回投与容器中に、保存剤を添加して提供することができる。本組成物は、油性または水性の溶剤中で懸濁液、溶液、または乳濁液などの形態を取ってもよく、懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤などの配合剤(formulatory agent)を含んでもよい。あるいは本抗体は、使用前に適切な溶剤、例えば発熱物質非含有滅菌水を用いて構成するための、凍結乾燥された粉末形態でもよい。
【0127】
抗体もしくは断片またはそれに結合した治療成分の毒性および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定するための細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順により、決定することができる。毒性と治療効果の間の用量比が治療指数であり、これはLD/ED比として表すことができる。
【0128】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトでの使用のための投与量範囲を定める際に用いることができる。抗体の投与量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性のないED50を含む循環血漿濃度の範囲内にある。投与量は、採用される剤形、利用される投与経路、ならびに結合する治療成分のタイプおよび量に応じてこの範囲内で変動しうる。本発明の抗体またはその断片に関して、有効用量はまず細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養物で測定されたIC50(すなわち、症状の半数阻害を達成する試験抗体の濃度)を含む循環血漿濃度範囲が達成されるように、動物モデルにおいて用量を定めてもよい。そのような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をさらに正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0129】
対象の状態および年齢ならびに/または投与経路に応じて、当業者は、本発明の薬学的組成物の適切な用量を選択することができる。例えば、本発明の薬学的組成物は、本発明による抗体が一日に対象の体重1kgあたり約3〜約15mcgの量で、好ましくは該対象の体重1kgあたり約10〜約15mcgの量で該対象に投与されるような量で、投与される。投与の間隔および回数は、対象の状態および年齢、投与経路、ならびに薬学的組成物に対する応答を考慮して選択することができる。例えば、薬学的組成物は5〜10日間にわたり、1日1〜5回、好ましくは1日1回対象に投与することができる。
【0130】
別の局面において、放射性同位体で標識された抗体を含む組成物が非経口的に投与される場合、成人1人に対する投与線量は一度に0.1mCi/kg〜1.0mCi/kg、好ましくは0.1mCi/kg〜0.5mCi/kg、およびより好ましくは0.4mCi/kgである。
薬学的組成物は全身的にまたは局所的に投与することができる。有効成分を罹患部位に送達するような標的化送達様式で投与することが好ましい。
【0131】
特定の態様において、本発明の方法および組成物は、メトトレキサート、タキソール、メルカプトプリン、チオグアニン、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル、およびドセタキセルを非制限的に含む化学療法剤の一つまたは組み合わせとともに、癌の治療または予防のために用いられる。
放射線療法に関しては、治療される癌のタイプに応じて任意の放射線療法プロトコルを用いることができる。例えば、これらに限定されるわけではないが、X線照射を施すことができる。γ線を放射する放射性同位体、例えばラジウム、コバルト、および他の元素の放射性同位体などを投与し、組織に曝露してもよい。
【0132】
別の態様において、化学療法または放射線療法は、本発明の抗体を含む方法および組成物を用いてから好ましくは少なくとも1時間後、5時間後、12時間後、1日後、1週間後、1ヶ月後、およびより好ましくは数ヶ月(例えば、最大3ヶ月)後に施される。本発明による方法および組成物を用いた治療の前に、治療と同時に、または治療の後に施される化学療法または放射線療法は、当技術分野において公知の任意の方法によって施すことができる。
【0133】
別の態様において、本発明はまた、CDH3関連疾患を治療または予防するための薬学的組成物の製造における本発明の抗体の使用も提供する。具体的には、本発明はさらに、癌の治療用または予防用の薬学的組成物を製造するための本発明の放射標識抗体の使用を提供する。
【0134】
あるいは、本発明はさらに、CDH3関連疾患の治療または予防における使用のための本発明の抗体を提供する。具体的には、癌に対する放射免疫療法で使用するための本発明の放射標識抗体も提供される。
あるいは、本発明はさらに、有効成分としての本発明の抗体とともに薬学的または生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含む、CDH3関連疾患の治療用または予防用の薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供する。具体的には、本発明はさらに、有効成分としての本発明の放射標識抗体とともに薬学的または生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含む、癌の治療用または予防用の薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供する。
【0135】
別の態様において、本発明はまた、有効成分が本発明の抗体であり、有効成分と薬学的または生理学的に許容される担体とを混合する段階を含む、CDH3関連疾患の治療用または予防用の薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供する。具体的には、本発明はさらに、本発明の放射標識抗体と薬学的または生理学的に許容される担体とを混合する段階を含む、癌の治療用または予防用の薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供する。
【0136】
さらなる態様において、本発明は、診断される対象内の癌のバイオイメージングまたは免疫シンチグラフィーにおいて使用するための本発明の抗体を提供する。あるいは、本発明は、対象内の癌のバイオイメージングまたは免疫シンチグラフィー用の診断薬を製造するための本発明の抗体の使用を提供する。本発明はさらに、本発明の抗体と薬学的または生理学的に許容される担体とを混合する段階を含む、対象内の癌のバイオイメージングまたは免疫シンチグラフィー用の診断薬を製造するための方法またはプロセスを提供する。
本明細書において引用される全ての先行技術文献は、その全体が参照により組み入れられる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
材料および方法
抗体産生
CDH3遺伝子がコードする細胞外ドメイン(SEQ ID NO:83)を、癌細胞に由来するcDNAプールから増幅した。産物をpcDNA3.1(Invitrogen,CA)にクローニングした。CDH3特異的抗体を産生するため、1ヶ月間にわたって2週間おきにドメイン発現ベクター(17.5μg/注射)を皮下注射することにより、マウスを免疫した。抗血清の力価を確認した後、脾細胞をマウスから抽出し、ミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを調製した。癌細胞の表面上の天然CDH3抗原に結合する抗体を産生できるハイブリドーマをスクリーニングした。スクリーニングによって、ハイブリドーマクローン#3、クローン#4、クローン#5、およびクローン#6が抗原特異的抗体を高レベルで産生することを確認し、それゆえこれらのハイブリドーマを、さらなる実験用の抗体を産生させるのに選択した。ハイブリドーマクローン#3、クローン#4、クローン#5、およびクローン#6をマウスに腹腔内注射し、腹水を2〜3週間後に採取した。プロテインAカラム(GE Healthcare,NJ)を用いて腹水から抗体を精製した。
本明細書において、抗体は、クローン#3、クローン#4、クローン#5、およびクローン#6とも称される。
【0138】
細胞培養
ヒト非小細胞肺癌細胞株であるH1373がCDH3ポリペプチドを発現することが確認されたため、これを、インビボにおける治療研究に用いた。H1373はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassasm,VA)から購入し、5%COの加湿雰囲気中37℃で、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI中で維持した。
【0139】
放射標識
ハイブリドーマクローン#3、クローン#4、クローン#5、クローン#6によって産生された抗CDH3マウスモノクローナル抗体、および、正常マウスIgG1(Nordic immunological laboratories,Tiburg,The Netherlands)である対照抗体を、イットリウム−90(90Y)で標識した。二官能性金属イオンキレート剤p−SCN−Bn−DTPA(Macrocyclics,Dallas,TX,USA)により90Yで抗体を標識した。抗体1ミリグラムをそれぞれ、ジメチルホルムアミド中、モル比1:5で該キレート剤に結合させた。37℃で20時間のインキュベーションの後、Biospin Column 6(Bio−Rad,Tokyo,Japan)を用いて抗体−キレート剤複合体を精製した。並行して、90YCl(QSA Global,Brauschweig,Germany)を、0.25M酢酸(pH5.5)とともに室温で5分間プレインキュベートした。90Y標識抗体を得るため、抗体−キレート剤複合体をそれぞれ、プレインキュベートした90YCl溶液とともに37℃で1時間インキュベートした。製造元の使用説明書にしたがってBiospin Column 6を用いて標識抗体を精製した。標識化プロセスの間、これらの抗体の分解は認められなかった。
【0140】
異種移植モデル
動物の世話および治療は群馬大学の動物実験指針および動物実験委員会にしたがって行った。H1373細胞懸濁液100マイクロリットル(細胞1×10個)を3〜5週齢の雌性ヌードマウス(Charles River Laboratories Japan Inc. Yokohama,Japan)の右脇腹へ皮下接種した。これらのマウスを数週間飼養して腫瘍を発生させた。樹立された腫瘍を担腫瘍マウスから分離し、切開して一辺が2mmの立方体の組織断片とした。これらの断片をヌードマウスへ連続的に移植した。移植後、平均腫瘍容積が100mmに達するまでこれらのマウスを飼養した。
【0141】
放射線療法
異種移植マウスを10組の異なる治療群に無作為に割り当てた。90Y標識抗体(4〜10mCi/mg)を上記のように調製した。90Y標識したまたは非標識のクローン#3、クローン#4、クローン#5、またはクローン#6をマウスに静脈内注射した。対照として90Y標識正常マウスIgG1を注射した。注射抗体の放射能を動物1匹あたり100μCiに調整した。治療された異種移植マウスの体重および腫瘍容積を、注射後5週間モニターした。以下の式を用いて腫瘍容積(mm)を算出した:(最短径)×(最長径)×0.5。
【0142】
還元型SDS−PAGE
各5μgの抗CDH3抗体を、4%SDS、125mM Tris−HCl(pH6.8)、20%グリセロール、0.04%ブロモフェノールブルーおよび10%メルカプトエタノールを含めたSDS緩衝液と混合した。加熱後、混合物を4〜20%勾配のSDS−PAGEゲルに適用した。その後、ゲルをクマシーブリリアントブルーR−250(CBB)で染色し、10%メタノールおよび7%酢酸を用いることによって脱色した。ゲルの画像をスキャナによって捕捉した。
【0143】
可変領域のアミノ酸配列の分析
RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて、総RNAをハイブリドーマクローン#3、クローン#4およびクローン#5から抽出した。SuperScript II Reverse Transcriptase(Invitrogen)を用いて、総RNAからcDNAを合成した。NovaTaq DNAポリメラーゼ(Novagen)およびMouse Ig−Primer Set(Novagen)を用いて、モノクローナル抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドを増幅した。増幅用のプライマーは以下の通りである:
重鎖5'プライマーのMuIgVH5'−B;
5'−GGGAATTCATGRAATGSASCTGGGTYWTYCTCTT−3'(SEQ ID NO:84)、
軽鎖5'プライマーのMuIgκVL5'−D(以下のプライマーの混合物);
5'−ACTAGTCGACATGAGGRCCCCTGCTCAGWTTYTTGGIWTCTT−3'(SEQ ID NO:85)および5'−ACTAGTCGACATGGGCWTCAAGATGRAGTCACAKWYYCWGG−3'(SEQ ID NO:86)、
重鎖5'プライマーのMuIgGVH3'−2;
5'−CCCAAGCTTCCAGGGRCCARKGGATARACIGRTGG−3'(SEQ ID NO:87)、ならびに
軽鎖3'プライマーのMuIgκVL3'−1;
5'−CCCAAGCTTACTGGATGGTGGGAAGATGGA−3'(SEQ ID NO:88)。
PCR産物をpCR2.1−TOPO(Invitrogen)にクローニングした。挿入断片領域を配列決定し、クローン#3、クローン#4、およびクローン#5の可変領域(シグナル配列を除く)の核酸配列を決定した。
プライマー配列中の異なるヌクレオチドについて、以下の記号を用いる;
C、G、またはTはB、A、G、またはTはD、A、C、またはTはH、イノシンはI、GまたはTはK、AまたはCはM、AまたはGはR、CまたはGはS、A、C、またはGはV、AまたはTはW、およびCまたはTはY。
【0144】
結果
CDH3標的化放射免疫療法の効力を評価するため、抗CDH3抗体をβ線放射型の同位体90Y(t1/2=64.1時間)で放射標識し、静脈内注射によって腫瘍担持ヌードマウスに投与した。イットリウム−90標識クローン#3、#4、および#6で処理された腫瘍の増殖速度は、抗体と結合したイットリウム−90からの放射によって劇的に低下した(図1)。とりわけ、90Y標識クローン#3およびクローン#6は観察中、H1373異種移植片マウスにおける腫瘍増殖を強く抑制した。他方で、90Y標識対照抗体は腫瘍増殖に対する効果を示さなかった。それゆえ、90Y標識抗体の治療効果は、腫瘍細胞表面に発現されたCDH3ポリペプチドに対するその親和性に依るものと思われた。いずれの抗体で処置したマウスの体重も有意に減少しなかった(データは示さず)。
【0145】
抗CDH3抗体クローン#3、クローン#4、およびクローン#6に結合させたイットリウム−90は、腫瘍に対して注目すべき治療効果を発揮した。それゆえ、CDH3は癌治療にとって魅力的な標的であり、抗CDH3抗体は癌治療のための新規の手段として利用可能である。
【0146】
マウスモノクローナル抗体のH鎖V領域およびL鎖可変領域のアミノ酸配列は、以下のように決定された:
クローン#3、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
QVQLQQPGAELVRPGSSVKLSCKASGYTFTSFWIHWVKQRPMQGLEWIGNIDPSDSETHYNQYFKDRATLTVDRSSSTAYMHLTSLTSEDSAVYYCARGGTGFSSWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:4)(SEQ ID NO:3に示される核酸配列によってコードされる); クローン#3、L鎖可変領域(シグナル配列を除く): DIKMTQSPSSMYASLGERVTITCKASQDIDSYLSWFQQKPGKSPKTLIHRANRLVDGVPSRFSGSGSGQDYSLTISSLEYEDMGIYYCLQYDEFPRTFGGGTKLEIK(SEQ ID NO:12)(SEQ ID NO:11に示される核酸配列によってコードされる);
クローン#4、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
LVQLQQPGAELVRPGSSVKLSCKTSGYTFTSYWMHWIKQRPIQGLEWIGNIDPSDSETHYNQNFNDRATFTVDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVYYCARGGTGFAYWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:20)(SEQ ID NO:19に示される核酸配列によってコードされる); クローン#4、L鎖可変領域(シグナル配列を除く): DIKMTQSPSSMYASLGERVTITCKASQDINNYLGWFQQKPGKSPKTLIHRTDRLIEGVPSRFSGSGSGQDYSLTISSLEYEDVGTYYCLQYDEFPRMFGGGTKLEIK(SEQ ID NO:28)(SEQ ID NO:27に示される核酸配列によってコードされる);
クローン#5、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
LVQLQQPGAELVRPGSSVKLSCKASGYTFTSYWMHWIKQRPIQGLEWIGNIDPSDSETHYNQKFNDRARLTVDKSSSTAYMHLSSLTSEDSAVYYCARGGTGFAYWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:36)(SEQ ID NO:35に示される核酸配列によってコードされる);および クローン#5、L鎖可変領域(シグナル配列を除く): DIKMTQSPSSMYASLGERVTITCKASQDINNYLGWFQQKPGKSPKTLIHRTDRLIEGVPSRFSGSGSGQDYSLTISSLEYEDVGTYYCLQYDEFPRMFGGGTKLDIK(SEQ ID NO:44)(SEQ ID NO:43に示される核酸配列によってコードされる)。
【0147】
Kabatの定義によって決定された抗体のCDR配列は以下の通りである:
クローン#3、VH CDR1はSFWIH(SEQ ID NO:6)(SEQ ID NO:5に示される核酸配列によってコードされる)、VH CDR2はNIDPSDSETHYNQYFKD(SEQ ID NO:8)(SEQ ID NO:7に示される核酸配列によってコードされる)、およびVH CDR3はGGTGFSS(SEQ ID NO:10)(SEQ ID NO:9に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR1はKASQDIDSYLS(SEQ ID NO:14)(SEQ ID NO:13に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR2はRANRLVD(SEQ ID NO:16)(SEQ ID NO:15に示される核酸配列によってコードされる)、およびVL CDR3はLQYDEFPRT(SEQ ID NO:18)(SEQ ID NO:17に示される核酸配列によってコードされる);
クローン#4、VH CDR1はSYWMH(SEQ ID NO:22)(SEQ ID NO:21に示される核酸配列によってコードされる)、VH CDR2はNIDPSDSETHYNQNFND(SEQ ID NO:24)(SEQ ID NO:23に示される核酸配列によってコードされる)、およびVH CDR3はGGTGFAY(SEQ ID NO:26)(SEQ ID NO:25に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR1はKASQDINNYLG(SEQ ID NO:30)(SEQ ID NO:29に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR2はRTDRLIE(SEQ ID NO:32)(SEQ ID NO:31に示される核酸配列によってコードされる)、およびVL CDR3はLQYDEFPRM(SEQ ID NO:34)(SEQ ID NO:33に示される核酸配列によってコードされる);ならびに クローン#5、VH CDR1はSYWMH(SEQ ID NO:38)(SEQ ID NO:37に示される核酸配列によってコードされる)、VH CDR2はNIDPSDSETHYNQKFNDRA(SEQ ID NO:40)(SEQ ID NO:39に示される核酸配列によってコードされる)、およびVH CDR3はGGTGFAY(SEQ ID NO:42)(SEQ ID NO:41に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR1はKASQDINNYLG(SEQ ID NO:46)(SEQ ID NO:45に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR2はRTDRLIE(SEQ ID NO:48)(SEQ ID NO:47に示される核酸配列によってコードされる)、およびVL CDR3はLQYDEFPRM(SEQ ID NO:50)(SEQ ID NO:49に示される核酸配列によってコードされる)。
【0148】
SDS−PAGE分析を還元条件の下で行った。ゲル上のバンドパターンは、IgG重鎖に対応する分子量範囲40〜50kDaおよびIgG軽鎖に対応するより低い分子量範囲20〜30kDaによって特徴付けられた。抗CDH3抗体クローン#3、クローン#4、およびクローン#5は一般的なIgGとして単一の重鎖バンドおよび単一の軽鎖バンドを示した。他方で、抗CDH3抗体クローン#6は二本の重鎖バンドおよび単一の軽鎖バンドを示した。重鎖の可変領域での不完全なグリコシル化によって、還元型SDS−PAGEの際にさらなる重鎖バンドが生じた。図2に示されるように、不完全なグリコシル化は抗体の均一性に影響を与え、かつこれは治療薬の開発に困難を生じうる。それゆえ、H鎖可変領域におけるグリコシル化を回避するために、クローン#6のグリコシル化部位に単一のアミノ酸置換を有する、クローン#6のバリアントを設計した。これらのバリアントは、抗体に基づく制癌剤の開発に対して、クローン#6よりも適切であると考えられる。
【0149】
クローン#6バリアントのH鎖可変領域のアミノ酸配列は以下の通りである(下線は置換されたアミノ酸残基を示す):
クローン#6NS、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
QVQLQQPGAELVKPGTSVKLSCKSSGYTFTSYWIHWVKQRPGHGLEWIGEIDPSDYTYYNQNFKGKATLTIDKSSSTAYMQLNSLTSEDSAVFYCARSGYGNLFVYWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:68)(SEQ ID NO:67に示される核酸配列によってコードされる);
クローン#6NT、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
QVQLQQPGAELVKPGTSVKLSCKSSGYTFTSYWIHWVKQRPGHGLEWIGEIDPSDYTYYNQNFKGKATLTIDKSSSTAYMQLNSLTSEDSAVFYCARSGYGNLFVYWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:72)(SEQ ID NO:71に示される核酸配列によってコードされる);
クローン#6NA、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
QVQLQQPGAELVKPGTSVKLSCKSSGYTFTSYWIHWVKQRPGHGLEWIGEIDPSDYTYYNQNFKGKATLTIDKSSSTAYMQLNSLTSEDSAVFYCARSGYGNLFVYWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:76)(SEQ ID NO:75に示される核酸配列によってコードされる);および
クローン#6NQ、H鎖可変領域(シグナル配列を除く):
QVQLQQPGAELVKPGTSVKLSCKSSGYTFTSYWIHWVKQRPGHGLEWIGEIDPSDYTYYNQNFKGKATLTIDKSSSTAYMQLNSLTSEDSAVFYCARSGYGNLFVYWGQGTLVTVSA(SEQ ID NO:80)(SEQ ID NO:79に示される核酸配列によってコードされる)。
クローン#6バリアントのL鎖可変領域(シグナル配列を除く)のアミノ酸配列は、クローン#6のものと同じである; QIVLTQSPAIMSSSPGEKVTMSCSATSSVTYMYWYQQKPGSSPKPWIFRTSNLASGVPTRFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQHYHIYPRTFGGGTKLEIK(SEQ ID NO:60)(SEQ ID NO:59に示される核酸配列によってコードされる)。
【0150】
Kabatの定義によって決定されたクローン#6バリアントのVH CDR2配列は以下である;クローン#6NSではEIDPSDSYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:70)(SEQ ID NO:69に示される核酸配列によってコードされる)、クローン#6NTではEIDPSDTYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:74)(SEQ ID NO:73に示される核酸配列によってコードされる)、クローン#6NAではEIDPSDAYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:78)(SEQ ID NO:77に示される核酸配列によってコードされる)、およびクローン#6NQではEIDPSDQYTYYNQNFKG(SEQ ID NO:82)(SEQ ID NO:81に示される核酸配列によってコードされる)。
Kabatの定義によって決定された、該バリアントの他のCDR配列はクローン#6のものと同じである;VH CDR1はSYWIH(SEQ ID NO:54)(SEQ ID NO:53に示される核酸配列によってコードされる)、VH CDR3はSGYGNLFVY(SEQ ID NO:58)(SEQ ID NO:57に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR1はSATSSVTYMY(SEQ ID NO:62)(SEQ ID NO:61に示される核酸配列によってコードされる)、VL CDR2はRTSNLAS(SEQ ID NO:64)(SEQ ID NO:63に示される核酸配列によってコードされる)、およびVL CDR3はQHYHIYPRT(SEQ ID NO:66)(SEQ ID NO:65に示される核酸配列によってコードされる)。
【0151】
産業上の利用可能性
本発明は、CDH3を発現する癌を、放射性同位体標識抗CDH3抗体によりインビボで治療できるという発見に、少なくとも部分的に基づく。CDH3は、膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌または肝臓癌において強く発現される遺伝子として報告された。したがって、がん、例えば、膵臓癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌または肝臓癌の治療は、放射性同位体標識で標識された抗CDH3抗体を用いて好都合に行われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体がH(重)鎖V(可変)領域およびL(軽)鎖V領域を含み、該H鎖V領域および該L鎖V領域が、
(a)SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれる相補性決定領域(CDR)またはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:20に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:36に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:44に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域;ならびに
(d)SEQ ID NO:68、72、76もしくは80に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだH鎖V領域、およびSEQ ID NO:60に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域に含まれるCDRまたはそれと機能的に等価なCDRを含んだL鎖V領域
からなる群より選択され、かつ該抗体がCDH3ポリペプチドまたはその部分ペプチドに結合することができる、抗体またはその断片。
【請求項2】
H鎖V領域およびL鎖V領域が、
(a)SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:10に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:14に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:18に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:22に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:24に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:26に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:30に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:32に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:34に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:38に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:40に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:42に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:46に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:48に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:50に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域;および
(d)SEQ ID NO:54に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:70、74、78または82に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:58に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むH鎖V領域、ならびにSEQ ID NO:62に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:64に示されるアミノ酸配列を有するCDR2、およびSEQ ID NO:66に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むL鎖V領域
からなる群より選択される、請求項1記載の抗体またはその断片。
【請求項3】
前記抗体が、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗体断片、および一本鎖抗体からなる群より選択される、請求項1または2記載の抗体またはその断片。
【請求項4】
前記抗体が、SEQ ID NO:4、20、36、68、72、76、および80からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域ならびに/またはSEQ ID NO:12、28、44、および60からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域を含む、請求項3記載の抗体またはその断片。
【請求項5】
前記抗体が、
(a)SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:12に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域;
(b)SEQ ID NO:20に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域;
(c)SEQ ID NO:36に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:44に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域;または
(d)SEQ ID NO:68、72、76、もしくは80に示されるアミノ酸配列を有するH鎖V領域およびSEQ ID NO:60に示されるアミノ酸配列を有するL鎖V領域
を含む、請求項4記載の抗体またはその断片。
【請求項6】
前記抗体が、キメラ抗体である、請求項4または5記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項6記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
前記ヒト化抗体がヒト抗体FR(フレームワーク)領域および/またはヒト抗体C領域をさらに含む、請求項7記載の抗体またはその断片。
【請求項9】
前記抗体が、細胞毒性剤、治療剤、放射性同位体標識、または蛍光標識と結合している、請求項1〜8のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項10】
前記放射性同位体標識が90イットリウム(90Y)および111インジウム(111In)から選択される、請求項9記載の抗体またはその断片。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の抗体または断片の有効量を対象に投与する段階を含む、該対象において、CDH3関連疾患を治療もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための方法。
【請求項12】
対象におけるCDH3関連疾患の診断または該疾患を発症する素因の診断のための方法であって、
(a)請求項1〜10のいずれか一項記載の抗体または断片と対象由来の試料または標本とを接触させる段階;
(b)試料または標本中のCDH3ポリペプチドを検出する段階;および
(c)対照と比べたCDH3ポリペプチドの相対存在量に基づき、該対象が疾患を患っているかまたはその発症リスクを有するか否かを判断する段階
を含む、方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項記載の抗体または断片の有効量および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、CDH3関連疾患を治療もしくは予防するためまたはCDH3発現細胞の増殖を阻害するための薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項記載の抗体または断片を含む、CDH3関連疾患の診断のためのキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−515675(P2013−515675A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529042(P2012−529042)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/JP2009/007333
【国際公開番号】WO2011/080796
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】