説明

抗CDH3抗体のエフェクター機能を用いて細胞を障害する方法

本発明は、抗CDH3抗体のエフェクター機能に基づく細胞障害作用の利用に関する。具体的には本発明は、抗CDH3抗体を活性成分として含有する、CDH3発現細胞を抗体のエフェクター機能を用いて障害するための方法および薬学的組成物を提供する。CDH3は膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌細胞において強く発現しているため、本発明は膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、内容が全体として参照により本明細書に組み入れられる2006年2月28日に出願された米国特許仮出願第60/778,079号の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、抗CDH3抗体のエフェクター機能を用いて細胞を障害する方法、またはこの目的のための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膵臓癌患者の死亡率は、他のどの種類の悪性腫瘍よりも悪く、5年生存率はわずか4%である(Greenlee et al., (2001) CA. Cancer J. Clin.; 51: 15-36.(非特許文献1))。この悪性腫瘍の不良な予後は、初期診断の難しさ、および現在の治療法への一般に不良な応答の両方を反映する(DiMagno et al., (1999) Gastroenterology; 117: 1464-84(非特許文献2); Greenlee etal., (2001) CA. Cancer J. Clin.; 51: 15-36.(非特許文献1))。特に、初期段階および治癒の可能性がある段階で本疾患を検出するための臨床的に利用可能な腫瘍マーカーは存在しない。現在では外科的切除が唯一の可能な治療であるが、診断時に外科的切除が可能な症例は、本癌の患者の20%未満を占めるにすぎない(DiMagno et al., (1999) Gastroenterology; 117: 1464-84(非特許文献2); Klinkenbijl et al., (1999) Ann Surg.; 230:776-82; discussion 782-4(非特許文献3))。超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)、およびスパイラルCTが、家族性膵臓癌の危険性がある個体をスクリーニングするために利用可能である(Brentnall et al., (1999) Ann Intern Med.; 131: 247-55(非特許文献4))が、これらのアプローチは、すべての無症候性の個体をスクリーニングするには時間および費用対効果の点で実用的ではない。そのため、感度が高くかつ膵臓癌に特異的である腫瘍マーカーを発見する必要がある。進行期にあるほぼすべての患者が、いかなる処置にも応答することができない。この状況を克服するため、分子技術に基づく治療法を確立するためにいくつかの臨床試験が試みられてきた。そのような試験は、例えば、MMP阻害剤、Rasファルネシルトランスフェラーゼを阻害するように設計された薬剤、および抗体に基づくアプローチを含む(Hao and Rowinsky, (2002) Cancer Invest.;20:387-404.(非特許文献5); Laheru et al., (2001) Cancer J.;7:324-37.(非特許文献6); Rosenberg, (2000) Drugs;59:1071-89.(非特許文献7))。しかしながら、これまでのところ、これらの実験は本疾患に対して著しい効果を達成してはいない。
【0004】
肺癌は、最も一般的な致死的ヒト腫瘍の一つである。非小細胞肺癌(NSCLC)は最も一般的な病型であり、肺腫瘍の80%近くを占める(American Cancer Society, Cancer Facts and Figures 2001, Am. Chem. Soc. Atlanta(非特許文献8))。大半のNSCLCは進行期まで診断されないため、近年の集学的治療法の進歩にもかかわらず、全体的な10年生存率は10%と低く留まったままである(Fry et al., (1999) Cancer; 86: 1867-76(非特許文献9))。現在、プラチナを用いた化学療法がNSCLCの基礎的治療法であると考えられている。しかしながら、薬剤による治療作用は、進行NSCLC患者の生存をある程度延ばすことができる程度に留まっている((1995) Bmj.; 311: 899-909(非特許文献10))。チロシンキナーゼ阻害剤の使用を含む多数の標的療法が研究されている。しかしながらこれまでに、望ましい結果が達成された患者の数は限られており、一部の患者においては、治療効果が重篤な副作用を伴った(Kris et al., (2002) Proc Am Soc Clin Oncol.; 21: 292a(A1166)(非特許文献11))。
【0005】
結腸直腸癌は、先進国において、がんによる死因の主な原因である。具体的には、米国において13万件を超える新たな結腸直腸癌の症例が、毎年報告されている。結腸直腸癌は、すべてのがんの約15%に相当する。これらのうち、およそ5%は遺伝性の遺伝的欠損に直接関連している。近年の治療法の進歩にもかかわらず、進行癌患者の予後は依然として非常に不良である。腫瘍抑制遺伝子および/または癌遺伝子の変化が発癌に関与していることが分子研究により明らかにされてきたが、正確なメカニズムは依然として解明されていない。
【0006】
前立腺癌(PRC)は、男性で最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、世界的に重大な健康問題となっている。これは、米国においてがんによる死因の二番目に多い原因である(Gleenlee, R. T., et al. (2001) CA Cancer J Clin; 51: 15-36(非特許文献1))。PRCの発生率は、西洋式の食事の普及および高齢者人口数の増加に従って先進国で着実に上昇しつつある。西洋風の生活様式を採用することによって、日本においても本疾患で死亡する患者数は増加している(Kuroishi, T. (1995) Klinika; 25: 43-8.(非特許文献12))。現在、PRCの診断は、前立腺特異抗原(PSA)の血清レベルの増加に基づく。初期の診断は、治癒手術の機会を提供する。限局性PRCの患者は通常処置され、そのおよそ70%は前立腺全摘出術によって治癒可能である(Roberts, W. W., et al. (2001) Urology; 57: 1033-7.(非特許文献13); Roberts, S. G., et al. (2001) Mayo Clin Proc;76:576-81.(非特許文献14))。PRCの増殖が最初はアンドロゲン依存性であるため、進行したまたは再発した疾患患者の多くは、アンドロゲン除去療法で処置される。これらの患者の多くが最初はアンドロゲン除去療法に応答するが、疾患は最終的にはアンドロゲン非依存性PRCに進行し、その時点では腫瘍はもはやアンドロゲン除去療法に応答性ではない。
【0007】
PRCのための処置の最も深刻な臨床的問題の一つは、このアンドロゲン非依存性PRCがいかなる他の治療にも非応性であることであり、アンドロゲン非依存性増殖のメカニズムを理解してPRCに対するアンドロゲン除去療法以外の新たな治療法を確立することが、PRCの管理のための緊急の課題である。
【0008】
乳癌は遺伝的に不均一な疾患であり、女性で最も一般的な悪性腫瘍である。全世界で毎年、推定で約80万件の新たな症例が報告されている(Parkin DM, et al., (1999) CA Cancer J Clin 49:33-64(非特許文献15))。本疾患の処置のための同時併用的な選択肢のうち第一のものは乳房切除術である。原発性腫瘍の外科的除去を行っても、診断時点では検出不可能な微小転移(Saphner T, et al., (1996) J Clin Oncol; 14: 2738-46(非特許文献16))のため、局所または遠隔部位での再発が起こる可能性がある。このような残存細胞または前癌細胞を死滅させるため、手術後には通常、補助療法として細胞毒性剤が投与される。
【0009】
従来の化学療法剤による処置は経験に拠ることが多く、ほとんど組織学的腫瘍パラメータに基づき、具体的なメカニズムの理解が欠如している。このため、標的指向性薬剤が乳癌に対する基礎的な処置となりつつある。タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬はこの種のものを代表する2つであり、転移性乳癌を有する患者にアジュバントまたは化学予防薬として用いた場合に大きな反応があることが証明されている(Fisher B, et al., (1998). J Natl Cancer Inst; 90: 1371-88(非特許文献17);Cuzick J, et al., (2002). Lancet; 360: 817-24(非特許文献18))。しかしながら、その欠点は、これらの薬剤に対する感受性があるのはエストロゲン受容体を発現している患者のみであることである。最近では、副作用、特に長期のタモキシフェン処置が子宮内膜癌を引き起こす可能性、ならびにアロマターゼを処方された患者のうち閉経後の女性における骨折への有害な影響に関する懸念さえ生じている(Coleman RE. (2004). Oncology; 18 (5 Suppl 3); 16-20(非特許文献19))。副作用および薬剤耐性の出現のために、同定された作用メカニズムに基づく、選択的で有用な薬剤の新たな分子標的を探索することが明らかに必要である。
【0010】
胃癌は、世界で、特に極東において、がんによる死因の主な原因であり、全世界で年間約700,000人の新規症例が診断されている。処置に関しては、化学療法が十分でないために手術が主流である。初期段階の胃癌は、外科的切除によって治癒することができるが、進行胃癌の予後は依然として非常に不良である。
【0011】
肝細胞癌(HCC)は世界中で最も一般的ながんの一つであり、その発生率は日本や米国で徐々に上昇しつつある(Akriviadis EA, et al., (1998) Br J Surg. ;85:1319-31(非特許文献20))。診断分野における最近の医学の進歩は著しいものの、未だに多くのHCC患者が進行期で診断されており、このような患者が疾患から完全に治癒することは依然として困難である。さらに、肝硬変または慢性肝炎の患者ではHCCへのリスクが高いため、このような患者は、原発巣が完全に除去された後であっても複数の肝腫瘍または新規腫瘍を発症し得る。したがって、非常に有効な化学療法薬および予防方法の開発は急務である。
【0012】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究により、抗腫瘍剤の多くの候補標的分子が見出されてきた。例えば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の治療に有効である(Sun J et al., (1998) Oncogene, 16: 1467-73(非特許文献21))。この薬剤は、転写後のファルネシル化に依存するRasに関連する増殖シグナル経路を阻害するために開発された。原癌遺伝子HER2/neuを拮抗する目的のための、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブと併用して抗癌剤を適用するヒトでの臨床試験により、臨床反応の改善および乳癌患者の全体的な生存率の改善が達成されている。チロシンキナーゼ阻害剤STI-571はbcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化する阻害剤である。この薬剤はbcr-ablチロシンキナーゼの恒常的な活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発された。このような薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を阻害するように設計されている(O’Dwyer ME and Druker BJ, Curr Poin Oncol, 12:594-7, 2000(非特許文献22))。したがって、癌細胞において、発現が促進される遺伝子産物は通常、新規抗癌剤を開発するための潜在的標的となる。
【0013】
他の癌治療方法として、癌細胞に結合する抗体の使用がある。以下は抗体による癌治療の代表的なメカニズムである。
【0014】
ミサイル治療:
本アプローチにおいて、癌細胞に特異的に結合する抗体に薬剤を結合し、薬剤を癌細胞に特異的に作用させる。副作用が強い薬剤であっても、癌細胞に集中的に作用させることができる。薬剤に加えて、薬剤の前駆体、前駆体を活性型に代謝する酵素などを抗体に結合するアプローチも報告されている。
【0015】
機能性分子を標的とする抗体の利用:
例えば増殖因子受容体または増殖因子に結合する抗体を用いて、増殖因子と癌細胞の結合を阻害するアプローチである。癌細胞には、増殖因子に依存して増殖するものがある。例えば、上皮細胞増殖因子(EGF)または血管内皮増殖因子(VEGF)依存性の癌が知られている。このような癌においては、増殖因子と癌細胞の結合を阻害することで治療効果が期待できる。
【0016】
抗体の細胞障害作用:
ある種の抗原に結合する抗体は、癌細胞に対して細胞障害性応答を誘導することができる。このようなタイプの抗体は、抗体分子そのものが、直接的な抗腫瘍効果を誘導する。癌細胞に対して細胞障害作用を示す抗体は、高い抗腫瘍効果を期待される抗体薬剤として注目されている。
【0017】
【非特許文献1】Greenlee et al., (2001) CA. Cancer J. Clin.; 51: 15-36
【非特許文献2】DiMagno et al., (1999) Gastroenterology; 117: 1464-84
【非特許文献3】Klinkenbijl et al., (1999) Ann Surg.; 230:776-82; discussion 782-4
【非特許文献4】Brentnall et al., (1999) Ann Intern Med.; 131: 247-55
【非特許文献5】Hao and Rowinsky, (2002) Cancer Invest.;20:387-404
【非特許文献6】Laheru et al., (2001) Cancer J.;7:324-37
【非特許文献7】Rosenberg, (2000) Drugs;59:1071-89
【非特許文献8】American Cancer Society, Cancer Facts and Figures 2001, Am. Chem. Soc. Atlanta
【非特許文献9】Fry et al., (1999) Cancer; 86: 1867-76
【非特許文献10】(1995) Bmj.; 311: 899-909
【非特許文献11】Kris et al., (2002) Proc Am Soc Clin Oncol.; 21: 292a(A1166)
【非特許文献12】Kuroishi, T. (1995) Klinika; 25: 43-8
【非特許文献13】Roberts, W. W., et al. (2001) Urology; 57: 1033-7
【非特許文献14】Roberts, S. G., et al. (2001) Mayo Clin Proc;76:576-81
【非特許文献15】Parkin DM, et al., (1999) CA Cancer J Clin 49:33-64
【非特許文献16】Saphner T, et al., (1996) J Clin Oncol; 14: 2738-46
【非特許文献17】Fisher B, et al., (1998). J Natl Cancer Inst; 90: 1371-88
【非特許文献18】Cuzick J, et al., (2002). Lancet; 360: 817-24
【非特許文献19】Coleman RE. (2004). Oncology; 18 (5 Suppl 3); 16-20
【非特許文献20】Akriviadis EA, et al., (1998) Br J Surg. ;85:1319-31
【非特許文献21】Sun J et al., (1998) Oncogene, 16: 1467-73
【非特許文献22】O’Dwyer ME and Druker BJ, Curr Poin Oncol, 12:594-7, 2000
【発明の開示】
【0018】
発明の概要
本発明者らは、細胞障害作用を誘導し、細胞において発現増加を示している遺伝子を標的とすることが可能な抗体を研究した。結果は、それらの細胞が抗CDH3抗体に接触する場合、強力な細胞障害作用がCDH3発現細胞において誘導され得ることを明らかとし、したがって、本発明は完成した。
【0019】
具体的には、本発明は、以下の薬学的組成物または方法に関する:
[1]活性成分として抗CDH3抗体を含む薬学的組成物であって、抗CDH3抗体が、抗体エフェクター機能を用いてCDH3発現細胞を障害する(すなわち、細胞を死滅させ、細胞に対して毒性であり、またはそうでなければ増殖もしくは細胞分裂を阻害する)、薬学的組成物。
[2]薬学的組成物は、CDH3発現細胞と関連している任意の病理学的状態を処置するために用いられる。典型的な態様において、細胞は、膵臓癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および肝臓癌細胞のような癌細胞である。
[3]本発明の薬学的組成物における抗体は、典型的にモノクローナル抗体である。
[4]いくつかの態様において、本発明の抗体は、抗体依存性の細胞障害作用、補体依存性細胞障害作用、またはその両方のようなエフェクター機能を含む。
[5]CDH3発現細胞を障害する方法は、以下の段階を含む:(a)CDH3発現細胞を抗CDH3抗体と接触させる段階。抗体の結合の結果として、抗体のエフェクター機能がCDH3発現細胞に障害(すなわち細胞障害作用)を引き起こす。
[6]CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための免疫原性組成物。この組成物は、活性成分としてCDH3ポリペプチド、その免疫学的活性断片、または、ポリペプチドもしくは断片を発現する核酸分子を典型的に含む。
[7]CDH3ポリペプチド、その免疫学的活性断片、または、ポリペプチドもしくは断片を発現することができる細胞もしくはDNAを投与する段階を含む、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を使用して疾患を処置する方法。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、抗体エフェクター機能を用いてCDH3発現細胞を障害するための薬学的組成物に関し、ここで組成物は活性成分として抗CDH3抗体を含む。本発明はまた、抗CDH3抗体エフェクター機能を用いてCDH3発現細胞を障害するための薬学的組成物を産生することを目的とする抗CDH3抗体の使用に関する。本発明の薬学的組成物は、抗CDH3抗体および薬学的に許容される担体を含む。
【0021】
本発明者らは、膵臓癌患者から収集された膵臓癌細胞および正常細胞の遺伝子発現分析についてcDNAマイクロアレイを用いた (Nakamura et al., (2004) Oncogene; 23: 2385-400)。続いて、膵臓癌細胞において特異的に増強された発現を有する多くの遺伝子を同定した。膵臓癌細胞において発現が変化するこれらの遺伝子のうちの一つの遺伝子であり、主要器官において低い発現レベルを有する細胞質膜タンパク質をコードする、胎盤のカドヘリン (P-カドヘリン; CDH3)遺伝子は、膵臓癌療法に対して標的遺伝子として選択された。主要器官において低い発現レベルを有する遺伝子を選択することによって、副作用の危険が回避される。このような方法で選択される遺伝子によってコードされるタンパク質のうち、抗CDH3抗体は、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を有することが確認された。さらに、同様の作用は、本遺伝子が過剰発現する肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および肝臓癌の細胞株のような他の癌細胞株において確認された。
【0022】
本発明者らによって得られた知見は、強制的発現系においてc-myc-Hisタグ付加されたCDH3が細胞質膜において局在化したことを示し、それは免疫蛍光顕微鏡を用いて確認された。CDH3遺伝子は、そのN末端でシグナルペプチドを含むことが予想されるアミノ酸配列をコードする。上記のように、本タンパク質は主に細胞質膜に局在化することが認められ、したがって膜貫通タンパク質であると考えられた。さらに、主要器官における本遺伝子の低い発現レベル、および膵臓癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および肝臓癌の細胞におけるその高い発現は、CDH3が臨床的なマーカーおよび治療標的として有用であることを証明する。
【0023】
エフェクター機能を用いて癌細胞を破壊するためには、例えば次のような条件が好ましい:
癌細胞の膜表面上で多数の抗原分子の発現、
癌組織内での抗原の均一な分布、
抗体と結合した抗原が長く細胞表面に留まっていること。
【0024】
より具体的には、例えば、抗体が認識する抗原が細胞膜表面に発現している必要がある。さらに、癌組織を構成する細胞における抗原陽性細胞の割合ができるだけ高いことが好ましい。全ての癌細胞が抗原陽性であることが理想的な条件である。癌細胞集団において、抗原陽性細胞と陰性細胞が混在する場合、抗体の臨床的な治療効果は望めない可能性がある。
【0025】
通常、できるだけ多くの分子が細胞表面に発現している場合、強力なエフェクター機能が期待できる。さらに、抗原に結合した抗体が細胞内に取り込まれないことが重要である。一部の受容体は、リガンドとの結合の後に細胞内に取り込まれる(エンドサイトーシス)。同様に、細胞表面抗原に結合した抗体が細胞内に取り込まれる場合がある。このような現象によって抗体が細胞内に取り込まれることを、インターナリゼーションと呼ぶ。インターナリゼーションが起きると、抗体定常(Fc)領域が細胞内に取り込まれる。しかしながら、エフェクター機能に必要な細胞または分子は、抗原を発現している細胞の外にある。したがって、インターナリゼーションは、抗体のエフェクター機能を阻害する。したがって、抗体のエフェクター機能を期待する場合、抗体のインターナリゼーションを起こしにくい抗原を選択することが重要である。CDH3がこのような特徴を備えた標的抗原であることは、本発明者らによって初めて明らかにされた。
【0026】
「単離された」または「精製された」ポリペプチドとは、糖質、脂質、またはタンパク質が由来する細胞もしくは組織源からの他の夾雑タンパク質などの細胞材料を実質的に含まないか、または、化学的に合成した場合には化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないポリペプチドである。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、ポリペプチドがそこから単離されるまたは組換え技術により産生される細胞の細胞成分より分離される、ポリペプチドの調製物を含む。したがって、細胞材料を実質的に含まないポリペプチドは、約30%、20%、10%、または5%(乾燥重量で)未満の異種タンパク質(本明細書において「夾雑タンパク質」とも呼ぶ)を有するポリペプチドの調製物を含む。ポリペプチドを組換え技術により産生する場合、ポリペプチドはまた、好ましくは培地を実質的に含まず、タンパク質調製物の体積の約20%、10%、または5%未満の培地を有するポリペプチドの調製物を含む。ポリペプチドを化学合成によって産生する場合、ポリペプチドは好ましくは化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まず、タンパク質調製物の体積の約30%、20%、10%、5%(乾燥重量で)未満の、タンパク質合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質を有するポリペプチドの調製物を含む。特定のタンパク質調製物が単離されたまたは精製されたポリペプチドを含むことは、例えば、タンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクマシーブリリアントブルー染色の後に単一のバンドが出現することによって示され得る。好ましい態様において、本発明の抗体またはその断片は、単離されているかまたは精製されている。
【0027】
「単離された」または「精製された」核酸分子とは、核酸分子の天然源に存在する他の核酸分子から分離されている核酸分子である。cDNA分子のような「単離された」または「精製された」核酸分子は、組換え技術により産生した場合は他の細胞材料もしくは培地を実質的に含まないことが可能であり、または、化学的に合成した場合は化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないことが可能である。好ましい態様において、本発明の抗体またはその断片をコードする核酸分子は、単離されているかまたは精製されている。
【0028】
「抗体」および「免疫グロブリン」とは、同じ一般構造特性を有する糖タンパク質である。抗体が特異抗原に対して結合特異性を示すのに対して、免疫グロブリンは、抗体および抗原特異性が規定されていない他の抗体様分子の両方を含む。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって低いレベルで、およびミエローマによって増加したレベルで産生される。
【0029】
「天然の抗体および免疫グロブリン」とは、通常、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖と連結するが、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数は異なる。各重鎖および軽鎖は、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VH)を有し、続いて多数の定常ドメイン(CH)を有する。各軽鎖は、一方の末端に可変ドメイン(VL)、およびもう一方の末端に定常ドメイン(CL)を有し;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると考えられている(Chothia et al., (1985) J Mol Biol.; 186: 651-63; Novotny and Haber, (1985) Proc Natl Acad Sci USA.; 82: 4592-6)。本発明において使用する抗体は、以下に説明するように、天然の抗体、または、組換え発現もしくは他の操作の産物のいずれかであることができる。
【0030】
「可変ドメイン」という用語は、抗体間で配列が大幅に異なり、かつ各特定の抗体の、特定の抗原に対する結合および特異性において使用される、抗体の特定の部分を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメイン両方に存在する相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ぶ3個のセグメントに、可変性が集中している。可変ドメインの、より高度に保存されている部分を、フレームワーク(FR)と呼ぶ。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、主としてβシート配置を取って3個のCDRにより連結されている4個のフレームワーク領域を含み、3個のCDRは連結ループを形成し、ある場合にはβシート構造の一部を形成する。各鎖におけるCDRはフレームワーク領域によって互いに極めて接近して保持され、もう一方の鎖由来のCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に貢献する(Kabat et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md.)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合には直接関与しないが、抗体依存性細胞毒性への抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0031】
抗体のパパイン消化によって、「Fab」断片と呼ばれる、それぞれ単一の抗原結合部位を有する2個の同一の抗原結合断片、および残りの「Fc」断片が生成される。ペプシン処理によっては2個の抗原結合部位を有するF(ab')2断片が生じる。「Fv」とは、完全な抗原を認識して結合する部位を含む最小抗体断片である。この領域は、1個の重鎖可変ドメインおよび1個の軽鎖可変ドメインの、堅固な非共有結合性会合の二量体からなる。各可変ドメインの3個のCDRがVH-VL二量体の表面上で抗原結合部位を規定するように相互作用するのは、本配置においてである。集合的に、6個のCDRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(換言すれば、抗原に対して特異的な3個のCDRのみを含む、Fvの片割れ)であっても、完全な結合部位より低い親和性ではあるものの、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0032】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第一定常ドメイン(CH-1)を含む。Fab'断片は、重鎖CH-1ドメインのC末端における、抗体ヒンジ領域由来の一つまたは複数のシステインを含む数個の残基の付加によって、Fab断片とは異なる。Fab'-SHは本明細書において、定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab'を示す。F(ab')2抗体断片は、元々、断片の間にヒンジシステインを有するFab'断片のペアとして産生された。他の抗体断片の化学的結合もまた公知である。
【0033】
任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてκ(カッパ)およびλ(ラムダ)と呼ばれる、2種類の明らかに異なるタイプの一つに割り当てることができる。
【0034】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは異なるクラスに割り当てることができる。5個の主要な免疫グロブリンのクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在し、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類することができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および三次元配置は周知である。
【0035】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質の抗体の集団から取得される抗体を指し、すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量存在する可能性がある潜在的な天然の変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、単一の抗原部位に指向される。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物と対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対して指向される。特異性に加えて、ハイブリドーマ培養によって合成でき、他の免疫グロブリンが夾雑し得ない点で、モノクローナル抗体は有利である。したがって、修飾語「モノクローナル」とは、抗体の実質的に均質の集団から取得されるような抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein, (1975) Nature;256:495-7によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することができ、または、組換えDNA法(Cabilly et al., (1984) Proc Natl Acad Sci USA.;81:3273-7)によって作製することができる。
【0036】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、所望の生物活性を示す限り、「キメラ」抗体または免疫グロブリン、ならびにそのような抗体の断片を具体的に含み、「キメラ」抗体または免疫グロブリンにおいて、重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来するかまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同であり、一方、鎖の残りの部分は、別の種に由来するかまたは別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同である(Cabilly et al.,前記; Morrison et al., (1984) Proc Natl Acad Sci USA.;81:6851-5)。最も典型的には、キメラ抗体または免疫グロブリンは、ヒトおよびマウスの抗体断片、一般にはヒト定常領域およびマウス可変領域を含む。
【0037】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化された」形態とは、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む特別なキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはその断片である。そのような断片は、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、または抗体の他の抗原結合サブ配列も含む。大部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基によって置換されていてもよい。本発明において、ヒト化抗体におけるフレームワークの数個、2個、または好ましくは1個が非ヒト残基によって置換されていてもよい。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入されたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含むことができる。抗体の性能をさらに洗練して最適化するために、これらの修飾を行う。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、かつ、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域である、少なくとも1個、および典型的には2個の可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えられる。任意で、ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含むと考えられる。さらなる詳細については、Jones et al., (1986) Nature;321:522-5; Riechmann et al., (1988) Nature;332:323-7; Presta, (1992) Curr Opin Struct Biol. 2:593-6を参照されたい。
【0038】
ヒトフレームワークおよび定常領域に加えてヒト可変領域を含む完全なヒト抗体を使用することもできる。そのような抗体は、当技術分野において公知である様々な技術を用いて産生することができる。例えば、インビトロの方法には、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用が含まれる(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381-8 (1991))。同様に、トランスジェニック動物、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的にまたは完全に不活性化されているマウス中にヒト免疫グロブリン座を導入することによって、ヒト抗体を作製することができる。このアプローチは、例えば米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0039】
「一本鎖Fv」または「sFv」抗体断片は、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインは一本鎖ポリペプチド鎖中に存在している。好ましくは、Fvポリペプチドは、VHとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含み、それによってsFvが抗原結合のために望ましい構造を形成することが可能になる。自然に凝集するが化学的には分離している抗体V領域由来の軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドを、抗原結合部位の構造と実質的に類似した三次元構造へ折りたたむと考えられるsFv分子へと変換するための化学構造を識別するために、多くの方法が記載されている(米国特許第5,091,513号、第5,132,405号、および第4,946,778号;Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994))。本発明における「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域に関係する細胞障害作用を指す。または、エフェクター機能とは、抗体の抗原認識によって誘発される生物活性を決定する役割として説明することもできる。例えば、抗原に結合した抗体のFc領域がこれらの抗原を含む細胞を障害する効果を駆動する機能を、抗体エフェクター機能と呼ぶこともできる。本明細書において、好ましい標的細胞は、癌細胞である。具体的には、抗体依存性細胞媒介細胞障害作用(Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity:ADCC)、補体依存性細胞障害作用(Complement Dependent Cytotoxicity:CDC)、および中和活性が、抗体エフェクター機能として知られている。各機能を以下に説明する。
【0040】
抗体依存性細胞媒介細胞障害作用(ADCC):
様々な抗体のFc領域が果たすエフェクター細胞機能は、抗体クラスに大きく依存する。IgG、IgE、またはIgAクラスの免疫グロブリンのFc領域に特異的なFc受容体を含む細胞が存在する。IgG、IgE、およびIgAクラスの抗体のFc領域はそれぞれ、特異的なFc受容体に結合し、対応するFc受容体を含む細胞は、細胞膜などに結合した抗体を認識して結合する。その結果、例えば、Fc受容体を有する細胞が活性化され、細胞間の抗体輸送において機能する。
【0041】
例えば、IgGクラスの抗体は、T細胞、NK細胞、好中球、およびマクロファージ上のFc受容体に認識される。これらの細胞はIgGクラスの抗体のFc領域に結合して活性化され、これらの抗体が結合した細胞に対して細胞障害作用を発現する。抗体エフェクター機能を介して細胞障害作用を獲得する、T細胞、NK細胞、好中球、マクロファージなどの細胞を、エフェクター細胞と呼ぶ。特に、IgGクラスの抗体は、エフェクター細胞上のFc受容体を介してこれらの細胞を活性化し、次いで抗体の可変領域が結合した標的細胞を殺傷する。これを、抗体依存性細胞媒介細胞障害作用(ADCC)と呼ぶ。エフェクター細胞の種類に基づいて、ADCCを以下のように区別することができる:
ADMC:IgG依存性マクロファージ媒介細胞障害作用、および
ADCC:IgG依存性NK細胞媒介細胞障害作用。
【0042】
本発明のADCCにおけるエフェクター細胞の種類は限定されない。すなわち、マクロファージをエフェクター細胞とするADMCもまた本発明のADCCに含まれる。
【0043】
特に抗体を用いた癌の治療においては、抗体ADCCが抗腫瘍効果の重要なメカニズムであることが知られている(Clynes RA, et al., (2000) Nature Med., 6:443-6)。例えば抗CD20抗体キメラ抗体の治療効果とADCCとの密接な関係が報告された(Cartron G, et al., (2002) Blood, 99:754-8)。したがって、本発明において、抗体のエフェクター機能の中でADCCはまた特に重要である。
【0044】
例えば、ADCCは、既に臨床応用を開始しているハーセプチン(Herceptin)やリツキサン(Rituxan)などの抗腫瘍効果の重要なメカニズムであると考えられている。リツキサンおよびハーセプチンはそれぞれ、非ホジキンリンパ腫および転移性乳癌の治療薬剤である。
【0045】
現在のところ、ADCCによる細胞障害作用メカニズムは、およそ次のように説明される:細胞表面に結合した抗体を介して標的細胞と架橋されたエフェクター細胞が、標的細胞に対して何らかの致死性のシグナルを伝達することによって、標的細胞のアポトーシス誘導すると考えられている。いずれの場合も、エフェクター細胞による細胞障害作用を誘導する抗体は、本発明のエフェクター機能を含む抗体に含まれる。
【0046】
関心対象の分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されたようなインビトロADCCアッセイを行ってもよい。代替的に、または追加的に、関心対象の分子のADCC活性を、インビボで、例えば、Clynes et al., (1998) Proc Natl Acad Sci USA.;95:652-56において開示されているような動物モデルにおいて評価してもよい。
【0047】
補体依存性細胞障害作用(CDC):
抗原と結合した免疫グロブリンのFc領域は、補体系路を活性化することが知られている。免疫グロブリンのクラスにより、活性化経路が異なる場合があることも明らかにされている。例えばヒト抗体のうち、IgMおよびIgGが古典経路を活性化する。一方、IgA、IgD、およびIgEは、古典経路を活性化しない。すなわち、補体を活性化する機能は、IgMおよびIgGクラスの抗体に限定される。特に、抗体の可変領域が結合した細胞を溶解させる機能は、補体依存性細胞障害作用(CDC)と呼ばれる。
【0048】
活性化された補体は、多くの反応を経て、細胞膜障害活性を含むC5b-9膜侵襲複合体(MAC)を生成する。こうして生成されたMACは、エフェクター細胞に依存することなくウイルス粒子および細胞膜を障害すると考えられている。MACによる細胞障害作用は次のようなメカニズムに基づいている。MACは細胞膜に対する強い結合親和性を含む。細胞膜に結合したMACは細胞膜に穴をあけ、それによって細胞への水の流出入が容易となる。その結果、細胞膜が不安定化され、または浸透圧が変化し、細胞が破壊される。活性化された補体による細胞障害作用は、抗原に結合した抗体の近傍の膜にしか及ばない。そのため、MACによる細胞障害作用は抗体の特異性に依存している。ADCCとCDCは相互に依存することなく細胞障害作用を発現することができる。しかしながら実際には、生体内でこれらの細胞障害作用が、複合的に作用している場合もある。
【0049】
関心対象の分子のCDC活性を評価するために、例えばGazzano-Santoro et al., (1997) J Immunol Methods.;202:163-71に記載されるCDCアッセイを行ってもよい。
【0050】
中和活性:
病原体の感染能力および毒素の活性を奪う機能を有する抗体が存在する。抗体による中和は、抗原性可変領域の抗原への結合によって達成される場合と、補体の介在を必要とする場合がある。例えば、抗ウイルス抗体は、ウイルスの感染能の喪失のために補体の介在を必要とする場合がある。補体の関与には、Fc領域が必要である。すなわちこのような抗体は、ウイルスおよび細胞の中和のためにFcを必要とするエフェクター機能を含む抗体である。
【0051】
これらの中で、本発明において好ましいエフェクター機能は、ADCCもしくはCDCのいずれか、またはその両方である。本発明は、抗CDH3抗体が、CDH3発現細胞に結合してエフェクター機能を発現するという知見に基づいている。
【0052】
本発明は、以下の段階を含むCDH3発現細胞を障害するための方法にも関する:
(1)CDH3発現細胞を抗CDH3抗体と接触させる段階、および
(2)CDH3発現細胞に結合した抗体のエフェクター機能を用いて該細胞を障害する段階。
【0053】
本発明の方法または薬学的組成物において、任意のCDH3発現細胞は、障害されるかまたは殺傷され得る。例えば膵臓癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および肝臓癌細胞は、本発明のCDH3発現細胞として好ましい。これらのうちで、膵癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸直腸癌、前立腺癌、乳管癌、胃の管状腺癌、肝細胞癌(HCC)、または細胞が好ましい。
【0054】
細胞と抗体はインビボまたはインビトロで接触させることができる。癌細胞をCDH3発現細胞としてインビボで標的にする場合、本発明の方法は実際には癌に対する治療法または予防法である。具体的には、本発明は、以下の段階を含む癌に対する治療法を提供する:
(1)CDH3に結合する抗体を癌患者に投与する段階、および
(2)癌細胞に結合した抗体のエフェクター機能を用いて癌細胞を障害する段階。
【0055】
本発明者らは、エフェクター機能を用いて、CDH3に結合する抗体がCDH3発現細胞、特に膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌細胞を効果的に障害することを確認した。本発明者らはCDH3が、膵臓癌、肺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および肝臓癌細胞において高い確率で高発現することを確認した。さらに、正常組織のCDH3発現レベルは低い。本情報を総合して、抗CDH3抗体が投与される膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の治療法は、副作用の危険はほとんど伴わない効果的なものであり得る。
【0056】
IgA、IgE、またはIgGのFc領域を含む抗体は、ADCCを発現するために好ましい。同様に、IgMまたはIgGの抗体Fc領域は、CDCを発現するために好ましい。しかしながら、本発明の抗体は、所望のエフェクター機能を含む限り限定されない。例えば、残基または配列の様々な置換を行うことによって、Fc部分の変異体、類似体、または誘導体を構築してもよい。
【0057】
変異体(または類似体)ポリペプチドは、一つまたは複数のアミノ酸残基をFcアミノ酸配列に追加する挿入変異体を含む。挿入は、タンパク質のいずれかの末端もしくは両方の末端にあってもよく、または、Fcアミノ酸配列の内部領域内に位置してもよい。いずれかの末端または両方の末端に追加的な残基を有する挿入変異体は、例えば、融合タンパク質、およびアミノ酸タグまたは標識を含むタンパク質を含むことができる。例えば、Fc分子は、特に、分子を大腸菌(E. coli)などの細菌細胞において組換え技術により発現させる場合、N末端のMetを任意で含んでもよい。
【0058】
Fc欠失変異体においては、Fcポリペプチドにおける一つまたは複数のアミノ酸残基が除去される。欠失は、Fcポリペプチドの一方もしくは両方の末端で、またはFcアミノ酸配列内の一つもしくは複数の残基の除去を伴って実施することができる。したがって、欠失変異体は、Fcポリペプチド配列のすべての断片を含む。
【0059】
Fc置換変異体においては、Fcポリペプチドの一つまたは複数のアミノ酸残基が除去されて別の残基で置換される。一つの局面において、置換は天然において保存的であるが、本発明は非保存的である置換を包含する。
【0060】
好ましくは、親ポリペプチドFc領域は、ヒトFc領域、例えば、天然配列のヒトFc領域、ヒトIgG1(Aおよび非Aアロタイプ)またはヒトIgG3のFc領域である。一つの態様において、ADCCが改善された変異体は、天然配列のIgG1またはIgG3 Fc領域および変異体の抗原結合領域を有する抗体よりも実質的にさらに効果的にADCCを媒介する。好ましくは、変異体は、Fc領域の298位、333位、および334位の残基の2個もしくは3個の置換を含むか、または本質的にそれらからなる。免疫グロブリン重鎖における残基のナンバリングは、参照により本明細書に特に組み入れられるKabat et al.,(前記)におけるEUインデックスのものである。最も好ましくは、298位、333位、および334位の残基が置換される(例えば、アラニン残基で)。さらに、ADCC活性が改善されたFc領域変異体を生成するためには、ADCCを媒介するのに重要なFcRであると考えられているFcγRIIIに対する結合親和性が改善されたFc領域変異体を、一般に作製すると考えられる。例えば、そのような変異体を生成するために、256、290、298、312、326、330、333、334、360、378、または430位の任意の一つまたは複数のアミノ酸において親Fc領域中にアミノ酸修飾(例えば、挿入、欠失、または置換)を導入してもよい。FcγRIIIに対する結合親和性が改善された変異体はさらに、FcγRIIに対する結合親和性が減少している場合もあり、特に、抑制性のFcγRIIb受容体に対する親和性が減少している場合もある。
【0061】
任意の事象において、任意の種々のアミノ酸挿入、欠失、および/または置換(例えば、1〜50アミノ酸、好ましくは1〜25アミノ酸、より好ましくは1〜10アミノ酸)が企図され、本発明の範囲内である。保存的なアミノ酸置換が一般に好ましいと考えられる。さらに、改変は、ペプチド模倣体またはD-アミノ酸などの改変アミノ酸の形態である場合がある。
【0062】
あるいは、本発明において、ADCC活性は、Fc領域に付加した糖鎖など、アミノ酸配列以外の生化学的性質を変えることによって増強され得る。例えば、IgGにフコース残基が存在しないことによってADCC活性が増強し得ることが報告された(Shinkawa et al., J. Biol Chem., Vol.278, No.5, pp.3466-3473, 2003)。したがって、Fc領域のフコース残基が欠けている抗体は、本発明の好ましい抗体である。より具体的には、ADCC活性を増強するため、Fc領域のCH2ドメインに付加したフコース残基を除去してもよい。Fc領域のフコース残基が欠けている抗体の発現のための宿主細胞として、CHO以外の細胞を使用してもよい。フコース残基は、CHOにおいて高発現しているα-1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)によって抗体に付加された。
【0063】
したがって、これらのクラスに属するヒト由来抗体は本発明において好ましい。ヒト抗体は、ヒトから得られた抗体産生細胞、またはヒト抗体遺伝子を移植したキメラ動物を用いて獲得することができる(Ishida I, et al., (2002) Cloning and Stem Cells., 4:91-102)。
【0064】
さらに、抗体Fc領域は任意の可変領域に接合することができる。具体的には、異種の動物の可変領域にヒトの定常領域を結合したキメラ抗体が公知である。または、ヒト由来の可変領域に任意の定常領域を結合して、ヒト-ヒトキメラ抗体を得ることもできる。さらに、ヒト抗体の可変領域を構成する相補性決定領域(CDR)を異種の抗体のCDRで置換する技術であるCDR移植技術も公知である(“Immunoglobulin genes” (1989) Academic Press (London), pp260-274; Roguska MA. et al., (1994) Proc Natl Acad Sci USA, 91: 969-73)。CDRの置換により、抗体の結合特異性が置換される。すなわち、ヒトCDH3結合抗体のCDRを移植されたヒト化抗体は、ヒトのCDH3を認識する。移植された抗体は、ヒト化抗体とも呼ばれる。このようにして得られ、エフェクター機能に必要なFc領域を備えた抗体は、可変領域の由来に関わらず、本発明の抗体として用いることができる。例えば、可変領域が、他のクラスまたは他の種の免疫グロブリンに由来するアミノ酸配列を含んでいる場合であっても、ヒトIgGのFcを含む抗体は、本発明において好ましい。
【0065】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。ヒトに投与する場合であっても、上記のヒトの抗体遺伝子が導入された動物を用いて、ヒトポリクローナル抗体を得ることができる。またはヒト化抗体、ヒト-非ヒトキメラ抗体、およびヒト-ヒトキメラ抗体などの遺伝子工学的技術によって構築された免疫グロブリンを用いることもできる。さらに、ヒト抗体産生細胞をクローン化することによって、ヒトモノクローナル抗体を得る方法も知られている。
【0066】
本発明の抗体を得るために、CDH3またはその部分ペプチドを含む断片を免疫原として利用することができる。本発明のCDH3は、任意の種、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物に由来し、より好ましくはヒトに由来し得る。ヒトCDH3のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は公知である。CDH3 (GenBankアクセッション番号 BC041846)のcDNAヌクレオチド配列をSEQ ID NO:1に記載し、そのヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列をSEQ ID NO:2 (GenBankアクセッション番号 AAH41846.1)に記載した。当業者は日常的に、与えられたヌクレオチド配列を含む遺伝子を単離し、必要に応じて配列の断片を調製し、標的アミノ酸配列を含むタンパク質を得ることができる。
【0067】
例えばCDH3タンパク質またはその断片をコードする遺伝子を、公知の発現ベクターに挿入し、宿主細胞を形質転換するために使用することができる。所望のタンパク質またはその断片は、宿主細胞の内外から任意の標準的な方法により回収することができ、かつ抗原として使用することもできる。さらに、タンパク質、その溶解物、および化学的に合成されたタンパク質を、抗原として使用することができる。さらに、CDH3タンパク質またはその断片を発現する細胞そのものを免疫原として利用することができる。
【0068】
CDH3の免疫原としてペプチド断片を用いる場合、特に細胞外ドメインであると予測される領域を含むアミノ酸配列を選択することが好ましい。CDH3のN末端の1〜26位にシグナルペプチドの存在が予測される(Shimoyama Y, et al., (1989) J Cell Biol.; 109(4 Pt 1): 1787-94)。したがって、例えばN末端側のシグナルペプチド(26アミノ酸残基)を除く領域は、本発明の抗体を得るための免疫原として好ましい。すなわち、CDH3の細胞外ドメインに結合する抗体は、本発明の抗体として好ましい。
【0069】
したがって、本発明における好ましい抗体は、エフェクター機能に必要なFcおよび細胞外ドメインに結合することができる可変領域を備えた抗体である。ヒトに投与することを目的とする場合には、IgGのFcを備えることが望ましい。
【0070】
任意の哺乳動物をこのような抗原で免疫化することができる。しかしながら、細胞融合において用いる親細胞との適合性を考慮することが好ましい。一般に、げっ歯類、ウサギ目、または霊長類を使用する。
【0071】
げっ歯類には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目には、例えばウサギが含まれる。霊長類には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻猿類(旧世界)のサルが含まれる。
【0072】
動物を抗原で免疫化する方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物を免疫化する標準的な方法である。具体的には、抗原は適量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などで希釈および懸濁することができる。所望ならば、抗原懸濁物を、フロイント完全アジュバントなどの適量の標準的なアジュバントと混合し、乳化した後、哺乳動物に投与することができる。これに続いて、適量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原を、4〜21日毎に複数回投与することが好ましい。適切な担体を免疫化に使用することもできる。上記のように免疫化を行った後に、標準的な方法を用いて、所望の抗体量の増加に関して血清を調べることができる。
【0073】
CDH3タンパク質に対するポリクローナル抗体は、血清中の所望の抗体の増加について調べられた免疫化哺乳動物から調製することができる。これは、これらの動物由来の血液を採取することによって、または任意の通常の方法を用いてそれらの血液から血清を単離することによって達成することができる。ポリクローナル抗体は、ポリクローナル抗体を含む血清、および血清から単離可能なポリクローナル抗体を含む画分を含む。IgGおよびIgMは、CDH3タンパク質を認識する画分から、例えばCDH3タンパク質を結合させたアフィニティカラムを用いて、この画分をプロテインAまたはプロテインGのカラムでさらに精製することにより、調製することができる。本発明において、抗血清は、ポリクローナル抗体として用いることもできる。または、精製されたIgG、IgMなどを用いることもできる。
【0074】
モノクローナル抗体を調製するため、抗原で免疫化した哺乳動物から免疫細胞を収集し、(上述のように)血清中の所望の抗体レベルの増加を調べ、細胞融合に適用する。細胞融合に使用する免疫細胞は、好ましくは脾臓から得られる。上記の免疫原と融合される他の好ましい親細胞には、例えば哺乳動物のミエローマ細胞、およびより好ましくは、薬剤によって融合細胞を選択するための性質を獲得したミエローマ細胞が含まれる。
【0075】
上記の免疫細胞およびミエローマ細胞は、公知の方法、例えばMilsteinらの方法を用いて融合することができる(Galfre, G. and Milstein, C., (1981) Methods. Enzymol, 73: 3-46)。
【0076】
細胞融合によって産生されるハイブリドーマを、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地で培養することにより、選択することができる。HAT培地における細胞培養は通常、数日から数週間、所望のハイブリドーマを除く他の全ての細胞(融合していない細胞)を死滅させるのに十分な期間、継続する。次いで、標準的な限界希釈を行い、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0077】
非ヒト動物は上記方法におけるハイブリドーマの調製のために抗原で免疫化することができる。さらに、EBウイルスなどに感染した細胞由来のヒトリンパ球は、タンパク質、タンパク質を発現する細胞、またはその懸濁物を用いて、インビトロで免疫化することができる。次いで、免疫化されたリンパ球を、無制限に分裂可能なヒト由来のミエローマ細胞(U266など)と融合させることにより、タンパク質に結合可能な所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマが得られる(公開特許公報(JP-A)昭63-17688)。
【0078】
得られたハイブリドーマを、続いてマウスの腹腔に移植して腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のタンパク質を結合させたアフィニティカラムによって精製することができる。本発明の抗体は、本発明のタンパク質の精製および検出だけでなく、本発明のタンパク質のアゴニストおよびアンタゴニストの候補として使用することもできる。これらの抗体を、本発明のタンパク質に関連する疾患の抗体療法に応用することもできる。得られた抗体をヒトの身体に投与する場合(抗体療法)、ヒト抗体またはヒト化抗体は免疫原性が低いため好ましい。
【0079】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを含むトランスジェニック動物を、タンパク質、タンパク質発現細胞、またはこれらの懸濁物より選択される抗原で免疫化することができる。次いで抗体産生細胞を動物から回収し、ミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これらのハイブリドーマから抗タンパク質ヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、第94-02602号、第94-25585号、第96-33735号、および第96-34096号を参照されたい)。
【0080】
または、抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化して、モノクローナル抗体の調製に使用することができる。
【0081】
このようにして得られたモノクローナル抗体は、遺伝子工学の方法を用いて調製することができる(例えばBorrebaeck, C.A.K. and Larrick, J.W., (1990) Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers, UKを参照されたい)。例えば抗体をコードするDNAを、ハイブリドーマまたは抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞からクローニングし、これらのDNAを適切なベクターに挿入し、宿主細胞に導入して、組換え抗体を調製することができる。本発明には、上述のように調製された組換え抗体を利用することもできる。
【0082】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。このような修飾抗体を本発明に利用することもできる。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。このような修飾法は当技術分野で常套的なものである。抗体を他のタンパク質によって修飾することもできる。タンパク質分子で修飾された抗体は、遺伝子工学によって作成することができる。すなわち、抗体遺伝子と修飾タンパク質分子をコードする遺伝子の融合により、標的タンパク質を発現させることができる。例えば、サイトカインまたはケモカインとの結合によって、抗体のエフェクター機能が強化され得る。実際、IL-2、GM-CSFなどとの融合タンパク質に対して、抗体のエフェクター機能の強化が確認されている((Penichet ML, et al., (2001) Hum Antibodies., 10: 43-9)。エフェクター機能を強化するサイトカインまたはケモカインには、IL-2、IL-12、GM-CSF、TNF、好酸球走化性物質(RANTES)などを含むことができる。
【0083】
または本発明の抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域およびヒト抗体由来の定常領域を含むキメラ抗体として、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体として得ることができる。このような抗体は、公知の手法で産生することができる。
【0084】
キメラ産物およびCDR移植産物をコードするDNA配列を調製するために分子生物学の標準的な技術を使用してもよい。関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いることによって調製する(例えば、Larrick et al., “Methods: a Companion to Methods in Enzymology”, vol. 2: page 106 (1991); Courtenay-Luck, “Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies” in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering and Clinical Application; Ritter et al. (eds.), page 166 (Cambridge University Press, 1995), and Ward et al., “Genetic Manipulation and Expression of Antibodies” in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications; Birch et al. (eds.), page 137 (Wiley-Liss, Inc., 1995)を参照されたい)。キメラ産物およびCDR移植産物をコードするDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成技術を用いて完全にまたは部分的に合成してもよい。部位特異的突然変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応技術を、必要に応じて使用してもよい。例えば、Jones et al., (1986) Nature; 321: 522-5により記載されたようなオリゴヌクレオチド指定合成(oligonucleotide directed synthesis)を使用してもよい。また、例えばVerhoeyen et al., (1988) Science; 239: 1534-6またはRiechmann et al.,(前記)により記載されたような、既存の可変領域のオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発を使用してもよい。また、例えばQueen et al., (1989) Proc Natl Acad Sci USA.;86:10029-33; PCT公開公報 WO 90/07861により記載されたような、ギャップを有するオリゴヌクレオチドのT4 DNAポリメラーゼを用いた酵素的補填を使用してもよい。
【0085】
CDR移植重鎖および軽鎖をコードするDNA配列の発現のために、任意の適当な宿主細胞/ベクター系を使用してもよい。特に、FAbおよび(Fab')2断片、ならびに特にFv断片および一本鎖抗体断片、例えば一本鎖Fvなどの抗体断片の発現のために、細菌、例えば大腸菌および他の微生物系を使用してもよい。特に、完全な抗体分子を含むさらに大きなCDR移植抗体産物の産生のためには、真核生物、例えば哺乳動物の宿主細胞発現系を使用してもよい。適当な哺乳動物宿主細胞には、CHO細胞、およびミエローマまたはハイブリドーマ細胞株が含まれる。
【0086】
上述のように得られた抗体を均一になるまで精製することができる。例えば、抗体は、タンパク質を精製および分離する一般的な方法に従って精製および分離することができる。例えば抗体は、アフィニティクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動などを含むがこれらに限定されないカラムクロマトグラフィーを、適切に選択し組み合わせることによって、分離および単離することができる(Antibodies:A Laboratory Manual, Harlow and David, Lane (編), Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0087】
プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティカラムとして使用することができる。使用される例示的なプロテインAカラムには、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0088】
例示的なクロマトグラフィー(アフィニティクロマトグラフィーを除く)には、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィーが含まれる(“Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual” Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。クロマトグラフィーは、HPLCまたはFPLCなどの液相クロマトグラフィーの手順に従って実施することができる。
【0089】
例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光法を用いて、本発明の抗体の抗原結合活性を測定することができる。ELISAでは、本発明の抗体をプレート上に固定し、本発明のタンパク質をプレート上に添加し、次いで抗体を産生する細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を添加する。次に、一次抗体を認識しアルカリホスファターゼなどの酵素でタグ付加された二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションする。洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、試料の抗原結合活性を評価する。タンパク質の断片(C末端またはN末端の断片など)をタンパク質と同様に使用することができる。BIAcore(Pharmacia)を用いて、本発明の抗体の結合活性を評価することができる。
【0090】
さらに、実施例に示すような方法にしたがって、抗体のエフェクター機能を評価することもできる。例えば、エフェクター機能を評価すべき抗体の存在下で、CDH3を発現する標的細胞をエフェクター細胞と共にインキュベーションする。標的細胞の破壊が検出されれば、その抗体はADCCを誘導するエフェクター機能を含むことが確認できる。抗体またはエフェクター細胞のいずれかが存在しない条件下で、観察される標的細胞の破壊のレベルを対照としてエフェクター機能のレベルと比較することができる。標的細胞として、CDH3を明らかに発現している細胞を利用することができる。具体的には、実施例においてCDH3の発現が確認された各種の細胞株を用いることができる。これらの細胞株は、セルバンクから入手することができる。さらに、より強力なエフェクター機能を含むモノクローナル抗体が選択され得る。
【0091】
本発明において、ヒトまたは他の動物に薬剤として抗CDH3抗体を投与することができる。本発明において、抗体を投与するヒト以外の動物には、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーが含まれ得る。抗体は、対象に対して直接投与することができ、さらに公知の薬学的調製法を用いて投与剤型に製剤化することができる。例えば必要に応じて、水または他の任意の薬学的に許容される液体を伴う無菌性溶液もしくは懸濁液のような注射可能な形状で非経口的に投与することができる。例えば、このような化合物は、許容される担体または溶媒、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、薬剤としての使用に必要な一般に許容される単位用量へと混合することができる。
【0092】
生理食塩水、グルコース、およびアジュバント(D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノールおよびポリアルコール(例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、ならびに非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)またはHCO-50)などの適切な可溶化剤と共に使用することができる。
【0093】
ゴマ油またはダイズ油を油性液体として用いることができ、これらと共に可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを用いてもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど);安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、および抗酸化剤を製剤に用いることができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0094】
本発明において、抗CDH3抗体は、例えば動脈内、静脈内、経皮内、鼻腔内、経気管支、局所、もしくは筋肉内投与によって患者に投与することができる。点滴または注射による血管内(静脈)投与は、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌患者に抗体を全身投与する一般的な方法の例である。抗体薬剤を、肺における原発巣または転移巣に局所集積させる方法には、気管支鏡を用いた局所注入(気管支鏡検査法)、およびCTガイド下または胸腔鏡による局所注入が含まれる。抗体薬剤を、肝臓における原発巣または転移巣に局所集積させる方法には、肝臓門脈内投与または動脈内注入が含まれる。さらに、動脈内カテーテルを癌細胞に栄養を供給する動脈付近まで挿入し、抗体薬剤のような抗癌剤を局所注入する方法は、膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の原発巣と同様に転移巣の局所コントロール治療としても有効である。
【0095】
用量および投与方法は、患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて変化するが、当業者であればこれらを慣例的に選択することができる。さらに抗体をコードするDNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、ベクターを治療のために投与することができる。用量および投与方法は、患者の体重、年齢、および状態に応じて変化するが、当業者であればこれらを適切に選択することができる。
【0096】
抗CDH3抗体は、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能に基づく細胞障害作用が確認できる量で生体に投与することができる。例えば、症状によってある程度の差があるものの、抗CDH3抗体の用量は、1日当たり、0.1 mg〜250 mg/kgである。通常、成人(体重60kg)1人当たりの投与量は、5 mg〜17.5 g/日、好ましくは5 mg〜10 g/日、およびより好ましくは100 mg〜3 g/日である。投与スケジュールとしては、2日〜10日間隔で、1〜10回、および例えば3〜6回の投与後、経過が観察される。
【0097】
本発明の抗体はエフェクター機能を保持するが、いくつかの態様において、細胞障害性物質を周知の技術を用いて抗体に結合することができる。細胞障害性物質は、非常に多く、多様であり、細胞障害性薬物または毒物もしくはそのような毒物の活性断片を含むが、これらに限定されない。適した毒物およびそれらの対応する断片は、ジフテリアA鎖、外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、オウリスタチン(auristatin)などを含む。細胞障害性物質はまた、放射性同位体を本発明の抗体に共役することによって、または抗体に共有結合したキレート剤に放射性核種を結合することによって作成される放射化学物質を含む。そのような結合体を調製する方法は当技術分野において周知である。
【0098】
あるいは、膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および肝臓癌などのCDH3発現細胞と関連する疾患を遺伝子治療によって処置または予防するために、抗体またはその機能的な誘導体をコードする配列を含む核酸を投与する。遺伝子治療とは、発現したまたは発現可能な核酸を対象に投与することによって行う治療を指す。本発明の本態様において、核酸は、予防または治療効果を媒介するコードされた抗体または抗体断片を生成する。
【0099】
当技術分野において利用可能な遺伝子治療のための任意の方法を、本発明に従って使用することができる。例示的な方法を以下に説明する。
【0100】
遺伝子治療の方法の一般的な総説は、Goldspiel et al., (1993) Clin. Pharm.; 12: 488-505; Wu and Wu, (1991) Biotherapy; 3: 87-95; Tolstoshev, (1993) Ann Rev Pharmacol Toxicol.; 32: 573-96; Mulligan, (1993) Science; 260: 926-32; Morgan and Anderson, (1993) Ann Rev Biochem.;62:191-217; Clare Robinson, Trends Biotechnol.;11(5):155-215を参照されたい。使用することができる組換えDNA技術の分野において一般的に公知である方法は、Ausubel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY (1993); Kriegler, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY (1990)に記載されている。
【0101】
好ましい局面において、本発明の組成物は抗体をコードする核酸を含み、該核酸は、適当な宿主において抗体、またはその断片、またはそのキメラタンパク質、またはその重鎖もしくは軽鎖を発現する発現ベクターの一部である。特に、このような核酸は、抗体コード領域と機能的に連結したプロモーター、好ましくは異種のプロモーターを有し、該プロモーターは、誘導性または構成的、および任意で組織特異的である。別の特定の態様において、抗体コード配列および任意の他の所望の配列にゲノムの所望の部位で相同組換えを促進する領域が隣接する核酸分子が使用され、このようにして抗体をコードする核酸の染色体内発現を提供する(Koller and Smithies, (1989) Proc Natl Acad Sci USA.; 86: 8932-5; Zijlstra et al., (1989) Nature; 342:435-8)。具体的な態様において、発現した抗体分子は一本鎖抗体である;あるいは、核酸配列は、抗体の重鎖および軽鎖の両方、またはその断片をコードする配列を含む。
【0102】
核酸の対象への送達は、対象が核酸もしくは核酸を保持するベクターに直接曝露される直接的な送達であるか、または、細胞が最初にインビトロで核酸を用いて形質転換され、次いで対象に移植される間接的な送達であるかのいずれかであり得る。これらの二つのアプローチは、それぞれインビボまたはエクスビボ遺伝子治療として公知である。
【0103】
具体的な態様において、核酸配列はインビボで直接投与され、そこで発現してコード産物を生成する。これは当技術分野において公知である多くの方法のうちの任意のもの、例えば、それらが細胞内になるように適切な核酸発現ベクターの一部として構築して投与することによって、例えば、欠損または弱毒化レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを用いた感染によって(米国特許第4,980,286号を参照されたい)、または裸DNAの直接注入によって、または微粒子銃(例えば、遺伝子銃;Biolistic, Dupont)の使用によって、または脂質もしくは細胞表面受容体でのコーティングまたはトランスフェクション剤によって、リポソーム、微粒子、もしくはマイクロカプセルへの封入によって、または核に入ることが公知であるペプチドに結合して投与することによって、受容体媒介エンドサイトーシスを受けるリガンドに結合した状態で投与することによって(例えば、Wu and Wu, (1987) J Biol Chem.;262:4429-32を参照されたい)(受容体を特異的に発現する標的細胞型に使用することができる)などにより、達成することができる。別の態様において、リガンドがエンドソームを妨害する融合性ウイルスペプチドを含む核酸‐リガンド複合体を形成することができ、核酸がリソソーム分解を回避することが可能になる。さらに別の態様において、特異的受容体を標的とすることによって、細胞特異的取り込みおよび発現について核酸をインビボで標的化することができる(例えば、PCT公開公報 WO 92/06180、WO 92/22635、WO 92/20316、WO 93/14188、またはWO 93/20221を参照されたい)。あるいは、核酸は、細胞内に導入し、相同組換えによって発現のために宿主細胞DNA内に組込むことができる(Koller and Smithies, (1989) Proc Natl Acad Sci USA.; 86:8932-5; Zijlstra et al., (1989) Nature; 342:435-8)。
【0104】
具体的な態様において、本発明の抗体またはその断片をコードする核酸配列を含むウイルスベクターを使用する。例えば、レトロウイルスベクターを使用することができる(Miller et al., (1993) Methods Enzymol.; 217:581-99を参照されたい)。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムの正しいパッケージングおよび宿主細胞DNAへの組込みに必要な成分を含む。遺伝子治療において使用する抗体をコードする核酸配列を、遺伝子の対象への送達を促進する一つまたは複数のベクター中にクローニングする。レトロウイルスベクターについてのさらなる詳細は、化学療法に対して幹細胞をさらに耐性にするようにmdr 1遺伝子を造血幹細胞に送達するためのレトロウイルスベクターの使用を記載している、Boesen et al., (1994) Biotherapy;6:291-302において見出され得る。遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を例証している他の参照文献は以下である:Clowes et al., (1994) J Clin Invest.;93:644-51; Kiem et al., (1994) Blood;83:1467-73; Salmons and Gunzberg, (1993) Hum Gene Ther.;4:129-41; Grossman and Wilson, (1993) Curr Opin Genet Dev.;3:110-4。
【0105】
アデノウイルスは遺伝子治療において使用することができる他のウイルスベクターである。アデノウイルスは特に、気道上皮へ遺伝子を送達するのに魅力的な媒体である。アデノウイルスは天然で気道上皮に感染し、そこで軽度の疾患を引き起こす。アデノウイルに基づく送達系の他の標的は、肝臓、中枢神経系、内皮細胞、および筋肉である。アデノウイルスは非分裂細胞に感染することが可能である利点を有する。Kozarsky and Wilson, (1993) Curr Opin Genet Dev.; 3:499-503は、アデノウイルスに基づく遺伝子治療の総説を示す。Bout et al., (1994) Hum Gene Ther.; 5:3-10は、アカゲザルの気道上皮に遺伝子を導入するためのアデノウイルスベクターの使用を実証する。遺伝子治療におけるアデノウイルスの使用の他の例は、Rosenfeld et al., (1991) Science;252:431-4; Rosenfeld et al., (1992) Cell;68:143-55; Mastrangeli et al., (1993) J Clin Invest.;91:225-34; PCT公開公報 WO 94/12649; Wang et al., (1995) Gene Ther.;2:775-83において見出され得る。好ましい態様において、アデノウイルスベクターを使用する。
【0106】
アデノ随伴ウイルス(AAV)もまた遺伝子治療において適宜使用する(Walsh et al., (1993) Proc Soc Exp Biol Med.; 204:289-300;米国特許第5,436,146号)。
【0107】
遺伝子治療の別のアプローチは、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、またはウイルス感染などの方法によって組織培養において細胞に遺伝子を導入する段階を含む。通常、導入の方法は、選択可能なマーカーの細胞への導入を含む。次いで細胞を選択下に置き、導入遺伝子を取り込んで発現している細胞を単離する。続いてこれらの細胞を対象に送達する。
【0108】
本態様において、結果として生じた組換え細胞のインビボ投与に先立って、核酸を細胞に導入する。そのような導入は、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、核酸配列を含有するウイルスベクターまたはバクテリオファージベクターを用いた感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子導入、ミクロセル媒介遺伝子導入、スフェロプラスト融合などを含むがこれらに限定されない、当技術分野において公知である任意の方法によって行うことができる。外来遺伝子の細胞への導入のために多くの技術が当技術分野において公知であり(例えば、Loeffler and Behr, (1993) Methods Enzymol.; 217:599-618; Cotton et al., 1993, Methods Enzymol.; 217:618-44; Cline MJ. Pharmacol Ther. 1985; 29(1):69-92.を参照されたい)、レシピエント細胞の必要な発生的および生理的機能が妨害されないならば、本発明に従って使用してもよい。核酸が細胞によって発現可能であり、好ましくは遺伝性かつ細胞の子孫によって発現可能であるように、技術は核酸の細胞への安定な導入を提供すべきである。
【0109】
結果として生じた組換え細胞は、当技術分野において公知である様々な方法によって対象に送達することができる。組換え血液細胞(例えば、造血幹細胞または造血前駆細胞)は好ましくは静脈内に投与する。使用に想定される細胞の量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、当業者であれば決定することができる。
【0110】
遺伝子治療の目的のために核酸を導入することができる細胞は、任意の所望の入手可能な細胞型を包含し、上皮細胞、内皮細胞、ケラチン生成細胞、繊維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞;Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、巨核球、顆粒球などの血液細胞;様々な幹細胞または前駆細胞、特に、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られるような造血幹細胞または造血前駆細胞を含むがこれらに限定されない。好ましい態様において、遺伝子治療に使用する細胞は、対象にとって自己である。
【0111】
組換え細胞を遺伝子治療に使用する態様において、抗体またはその断片をコードする核酸配列を、細胞またはその子孫によって発現可能であるように細胞に導入し、次いでその組換え細胞を治療効果のためにインビボに投与する。具体的な態様において、幹細胞または前駆細胞を使用する。単離してインビトロで維持することができる任意の幹細胞および/または前駆細胞を、本発明の本態様に従って潜在的に使用することができる(例えば、PCT公開公報 WO 94/08598; Stemple and Anderson, (1992) Cell;71:973-85; Rheinwarld, (1980) Methods Cell Biol;21A:229-54; Pittelkow and Scott, (1986) Mayo Clin Proc.;61:771-7を参照されたい)。
【0112】
具体的な態様において、遺伝子治療の目的のために導入する核酸は、翻訳の適切な誘導物質の有無を制御することによって核酸の発現を制御可能であるように、コード領域に機能的に連結した誘導性プロモーターを含む。
【0113】
加えて本発明は、CDH3もしくは免疫学的活性CDH3断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞を活性成分として含む、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための免疫原性組成物を提供する。または本発明は、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための、CDH3もしくは免疫学的活性CDH3断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞の免疫原性組成物の製造における使用に関する。
【0114】
抗CDH3抗体の投与は、それらの抗体のエフェクター機能によって癌細胞を障害する。したがって、抗CDH3抗体をインビボで誘導することができれば、抗体の投与と同等の治療効果を達成することができる。抗原を含む免疫原性組成物を投与する場合、インビボで標的抗体を誘導することができる。本発明の免疫原性組成物は、したがって、CDH3発現細胞に対するワクチン療法において特に有用である。したがって、本発明の免疫原性組成物は、例えば、膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌治療のためのワクチン組成物として有用である。
【0115】
本発明の免疫原性組成物は、CDH3または免疫学的活性CDH3断片を活性成分として含み得る。免疫学的活性CDH3断片とは、CDH3を認識し、かつエフェクター機能を含む抗CDH3抗体を誘導し得る断片を指す。以下CDH3および免疫学的活性CDH3断片を、免疫原性タンパク質として記載する。ある断片が標的抗体を誘導するかどうかは、実際に動物に免疫し、誘導される抗体の活性を確認することによって判定することができる。抗体の誘導およびその活性の確認は、例えば実施例に記載した方法によって実施することができる。例えば、CDH3の382〜654位に相当するアミノ酸配列を含む断片は、本発明の免疫原として用いることができる。
【0116】
本発明の免疫原性組成物は、活性成分である免疫原性タンパク質と同様に、薬学的に許容される担体を含む。必要に応じて、組成物はまた、アジュバントと組み合わせることができる。アジュバントとして、結核死菌、ジフテリアトキソイド、サポニンなどを利用することができる。
【0117】
または、免疫原性タンパク質をコードするDNA、またはそれらのDNAを発現可能な状態で保持した細胞を、免疫原性組成物として利用することもできる。標的抗原を発現するDNAを免疫原として用いる方法、いわゆるDNAワクチンは周知である。DNAワクチンは、CDH3またはその断片をコードするDNAを適切な発現ベクターに挿入することにより、得ることができる。
【0118】
ベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどを利用することができる。さらに、免疫原性タンパク質をコードするDNAをプロモーターの下流に機能的に連結したDNAを裸DNAとして直接細胞に導入し、発現させることも可能である。裸DNAは、リポソームまたはウイルスエンベロープベクターに封入して細胞に導入することができる。
【0119】
本発明のCDH3ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、インビボでの免疫応答の誘導にも用いることができ、CDH3発現細胞に特異的な抗体および細胞障害性Tリンパ球(CTL)の産生を含む。そのような方法において、所望のペプチドによるCTL誘導は、インビボまたはエクスビボのいずれかで抗原提示細胞(APC)を介してペプチドをT細胞へ提示することによって達成することができる。
【0120】
例えば末梢血単核球(PBMC)のような患者の血液細胞を採取し、免疫原性タンパク質を発現することができるベクターで形質転換し、患者に戻すことができる。形質転換された血液細胞は、患者の体内で免疫原性タンパク質を産生し、標的抗体を誘導する。または、患者のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させ、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることで、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0121】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをAPC、特に樹状細胞に接触させることによって増加することが知られている。したがって、APCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0122】
ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なされる。
【0123】
免疫原性タンパク質をコードするDNA、またはそれによって形質転換された細胞を本発明の免疫原性組成物として利用する場合、免疫原性タンパク質、およびそれらの免疫原性を強化する担体タンパク質を併用することができる。
【0124】
上記のように、本発明は、CDH3、免疫学的活性CDH3断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞を投与する段階を含む、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための方法を提供する。本発明の方法によって、肺癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌などのCDH3発現細胞を障害するエフェクター機能を含む抗体が誘導される。その結果、膵臓癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌などに対する治療効果を得ることができる。
【0125】
本発明の免疫原性組成物は、経口的または非経口的に、0.1 mg〜250 mg/kg/日で投与することができる。非経口的な投与には、皮下注射および静脈内注射が含まれる。成人1人当たりの投与量は、通常、5 mg〜17.5 g/日、好ましくは5 mg〜10 g/日、およびより好ましくは100 mg〜3 g/日である。
【0126】
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、その全体が参照により組み入れられる。
【0127】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
【0128】
細胞株:
ヒト膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌細胞株は、10%または20%のウシ胎仔血清を添加した適切な培地中で、単層として増殖させた。実験に用いた細胞株を表1に示す。
【0129】
【表1】


E-MEM; Eagle最小必須培地
F-12; F-12栄養混合物(HAM)
L-15; Leibovitz L-15培地
McCoy; McCoy 5A改変培地
RPMI; RPMI 1640培地
ATCC; American Type Culture Collection
HSRRB; ヒューマンサイエンス研究資源バンク(Health Science Research Resources Bank)
JFCR; 財団法人癌研究会(Japanese foundation for cancer research)
TKG; 東北大学加齢医学研究所(Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University)
【0130】
さらに、抗CDH3抗体を用いたADCCアッセイにおいて以下の細胞株を使用した。
膵臓癌細胞株 KLM-1
肺癌細胞株 CNI-H358
結腸直腸癌細胞株 HCT-116
前立腺癌細胞株 PC-3
乳癌細胞株 HCC1143およびHCC1937
胃癌細胞株 MKN7
肝臓癌細胞株 SNU-449
【0131】
抗体の構築
標準的なプロトコールに従い、個々のタンパク質特異抗体を、医学生物学研究所(Medical Biological Laboratories:MBL;名古屋、日本)において、細菌内で発現させたHisタグ付加融合タンパク質を免疫原として用いて産生させた。これらの融合タンパク質は、タンパク質の一部(382〜654残基)に相当するタンパク質部分を含んだ。
【0132】
CDH3に対する半定量的RT-PCR:
全RNAを、Rneasy(登録商標)キット(QIAGEN)を用いて細胞株から抽出した。さらに、オリゴ(dT)-セルロースカラム(Amersham Biosciences)により全RNAからmRNAを精製し、SuperScript First-Strand Synthesis System(Invitrogen)を用いて、逆転写(RT)によってファーストストランドcDNAへと合成した。GAPDHを定量対照としてモニタリングすることにより、その後のPCR増幅のために各ファーストストランドcDNAの適切な希釈物を調製した。本発明者らが使用したプライマー配列は以下である。
CDH3に対して、
5’-CTGAAGGCGGCTAACACAGAC -3’ (SEQ.ID.NO.3) および
5’-TACACGATTGTCCTCACCCTTC-3’ (SEQ.ID.NO.4)
c-erbB2に対して、
5’-GTATTTGATGGTGACCTGGGAAT-3’ (SEQ.ID.NO.5) および
5’-CCCCTGGGTCTTTATTTCATCT-3’ (SEQ.ID.NO.6)
GAPDHに対して、
5’-GTCAGTGGTGGACCTGACCT-3’ (SEQ.ID.NO.7) および
5’-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3’ (SEQ.ID.NO.8)
β-アクチンに対して、
5’-GAGGTGATAGCATTGCTTTCG-3’ (SEQ.ID.NO.9) および
5’-CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC-3’ (SEQ.ID.NO.10)
すべてのPCR反応は、GeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems)における、94℃ 2分間の初期変性を含み、GAPDHの場合94℃ 30秒間、58℃ 30秒間、および72℃ 1分間の21サイクル、c-erbB2の場合32サイクル(アニーリング温度は62℃から58℃へ徐々に低下させた)、β-アクチンの場合20サイクル(アニーリング温度は62℃から57℃へ徐々に低下させた)、またはCDH3の場合28サイクル(アニーリング温度は62℃から56℃へ徐々に低下させた)からなった。
【0133】
CDH3の過剰発現が膵臓癌細胞株KLM-1において見出された(図1A)。さらに、様々な癌に対する抗CDH3ポリクローナル抗体(BB039)の有効性を解明するために、CDH3の発現を確認した。CDH3の過剰発現は、肺癌細胞株CNI-H358、結腸直腸癌細胞株HCT-116、前立腺癌細胞株PC-3、乳癌細胞株HCC-1143およびHCC-1937、胃癌細胞株MKN7、肝臓癌細胞株SNU-449において判定された(図1B〜G)。
【0134】
フローサイトメトリー解析
癌細胞(5×106)を、精製ポリクローナル抗体(pAb)またはウサギIgG(対照)と4℃で30分間インキュベートした。細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、次いでFITC標識Alexa Flour 488(Invitrogen)中4℃で30分間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、フローサイトメーター(FACSCalibur(登録商標)、Becton Dickinson)で分析して、BD CellQuest(商標)Proソフトウェア(Becton Dickinson)により解析した。平均蛍光強度(MFI)は、フローサイトメトリー強度の比(各タンパク質特異抗体による強度/ウサギIgGによる強度)として定義した。
【0135】
CDH3過剰発現細胞を用いて、抗CDH3抗体の細胞表面への結合率を調査した。その結果、抗CDH3ポリクローナル抗体(BB039)は、ウサギIgG(対照)よりも高い割合で、KLM-1、CNI-H358、HCT-116、PC-3、HCC1143、HCC1937、MKN7、SNU-449、およびPK-45P細胞に結合した(MFI:それぞれ124.09、145.96、78.44、56.77、151.2、67.32、102.7、75.67、および8.51)。
【0136】
ADCCアッセイ
標的細胞を、0.8μMのカルセインアセトキシメチルエステル(カルセイン-AM, DOJINDO)に30分間37℃で曝露した。カルセイン-AMは、蛍光性誘導体カルセインを産生する細胞エステラーゼによるカルセイン-AMの切断の後、蛍光性となる。標的癌細胞を、アッセイに添加する前にAIM-V培地(Life Technologies, Inc.)で2回洗浄し、次いで96ウェルU底プレートに播種した(4×103細胞/ウェル)。ヒト末梢血単核球(PBMC)を健常ボランティアから入手して、Ficoll-Paque(Amersham Biosciences)密度勾配遠心分離によって分離し、エフェクター細胞として使用した。標的癌細胞およびエフェクター細胞を様々なE:T比で、抗CDH3抗体BB039(1μg/ウェル)または対照抗体ハーセプチン(10μg/ウェル;Roche)と、200μlのAIM-V培地中で96ウェルU底プレートにおいて3連で、6時間、37℃で共インキュベートした。これらの細胞に対する抗CDH3ポリクローナル抗体(BB039)のADCC効果を、IN Cell Analyzer 1000(Amersham Bioscience)を用いて迅速に得られる生細胞の蛍光画像に基づいて評価した。これらの画像を、Developer tool ver.5.21ソフトウェア(Amersham Bioscience)を用いて蛍光性物体または小胞を計数することによって生細胞数(標的細胞についての細胞面積)として数値的に変換した。
【0137】
対照アッセイは、標的細胞の、抗CDH3抗体BB039のみまたはエフェクター細胞のみとのインキュベーションを含んだ。いくつかの実験においてハーセプチンを対照として使用した。
【0138】
BB039抗CDH3ポリクローナル抗体自体による細胞の直接的な細胞障害は、観察されなかった。しかしながら、BB039抗CDH3ポリクローナル抗体は、CDH3を過剰発現するKLM-1、NCI-H358、HCT-116、PC-3、HCC1143、HCC1937、MKN7、およびSNU-449細胞においてADCCを誘導し(図3A〜H)、一方、CDH3が低発現であるPK-45P細胞に対しては効果を示さなかった(図3I)。
【0139】
産業上の利用可能性:
本発明は、CDH3発現細胞を抗体の細胞障害作用によって障害できるという発見に、少なくとも一部基づいている。CDH3は、膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌において強く発現している遺伝子として本発明者らにより同定された。したがって、CDH3発現細胞と関連する疾患、例えば膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌の処置は、CDH3に結合する抗体を用いて適宜行われる。実際、本発明者らが確認した結果は、膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌細胞株において、抗CDH3抗体の存在下で、ADCC効果による細胞傷害作用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】癌細胞におけるCDH3遺伝子に対する半定量的RT-PCR解析の結果を示す写真である。A;膵臓癌細胞株。B;肺癌細胞株。C;結腸直腸癌細胞株。D;前立腺癌細胞株。E;乳癌細胞株。F;胃癌細胞株。G;肝臓癌細胞株。
【図2】A;c-erbB-2遺伝子が過剰発現するKLM-1、および、B;c-erbB-2遺伝子が低発現するPK-45Pに対するハーセプチンを用いたADCCアッセイの結果を示す。
【図3】CDH3が過剰発現する、A;膵臓癌細胞株KLM-1、B;肺癌細胞株CNI-H358、C;結腸直腸癌細胞株HCT-116、D;前立腺癌細胞株PC-3、EおよびF;乳癌細胞株HCC1143およびHCC1937、G;胃癌細胞株MKN7、H;肝臓癌細胞株SNU-449、ならびに、I;低発現膵臓癌細胞株PK-45Pそれぞれに対する、抗CDH3ポリクローナル抗体BB039を用いたADCCアッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体エフェクター機能を含む抗CDH3抗体を活性成分として含む、CDH3発現細胞を障害するための薬学的組成物。
【請求項2】
CDH3発現細胞が、膵臓癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、または肝臓癌細胞である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
抗CDH3抗体がモノクローナル抗体である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
抗体エフェクター機能が、抗体依存性細胞障害作用、もしくは補体依存性細胞障害作用のいずれか、または両方である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
以下の段階を含む、CDH3発現細胞を障害するための方法:
(a)CDH3発現細胞を抗CDH3抗体と接触させる段階、および
(b)CDH3発現細胞に結合した抗体のエフェクター機能によって該細胞を障害する段階。
【請求項6】
CDH3、その免疫学的活性断片、または、CDH3もしくはその免疫学的活性断片を発現することができるDNAを活性成分として含む、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための免疫原性組成物。
【請求項7】
CDH3、その免疫学的活性断片、または、CDH3もしくはその免疫学的活性断片を発現することができる細胞もしくはDNAを投与する段階を含む、CDH3発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【公表番号】特表2009−528257(P2009−528257A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539959(P2008−539959)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/JP2007/054374
【国際公開番号】WO2007/102525
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】