説明

抗Dモノクローナル抗体

【課題】本願発明は、高いADCC活性を有する抗体を得るためのアッセイを用いて選択される抗体および/または良好な効果を得るために必要なグリカン構造を有する抗体の提供を目的とするものである。
【解決手段】本願発明の抗体組成物は、Fcγグリコシル化部位(Asn297)において、二アンテナ型のグリカン構造を有する精製されたモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体組成物であって、前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造のフコース含量が、65%未満であり、前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造が、60%を超える含量のG0+G1+G0F+G1F型を含む、組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ADCC型のアッセイを用いてモノクローナル抗体を獲得および選択する方法に関するものであり、該抗体は、FcγIII型受容体を活性化することができる。本発明はまた、特定のグリカン構造を有するモノクローナル抗体、該抗体を産生する細胞、産生細胞を製造する方法、および該抗体を含んでなる医薬組成物または診断用試験に関するものである。本発明による抗D抗体は、Rh陰性個体のRh同種免疫、特に新生児溶血症(HDN)の防止に、または特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などの用途に使用できる。
【背景技術】
【0002】
ポリクローナル抗体を用いた受動免疫療法は1970年代以来行われてきた。しかし、ポリクローナル免疫グロブリンの製造にはいくつかの問題がある。フランスでは1997年にボランティアの免疫化が、そのような行為がもたらす倫理的問題のためにうち切られた。フランスでは、ヨーロッパと同じく、免疫ドナーの数が少なくて特定の抗体の十分な供給を確保することができず、例えば米国から高度免疫血漿を輸入する必要があると分かるに至ったのである。従って、この免疫グロブリンの不足により、HDNを防止するための出生前投与という構想は可能なものとならない。
【0003】
様々な研究の結果、ボランティアドナーからの血漿を分画することにより得られるポリクローナル抗体の代わりとして、ヒトモノクローナル抗体が製造されるようになった。
【0004】
モノクローナル抗体にはいくつかの利点がある:それらは妥当なコストで大量に得られ、各バッチの抗体は均質であり、それらは液体窒素中で低温保存されている同じ細胞株によって産生されるので種々のバッチの品質にも再現性がある。ウイルスの混入がないという点で製品の安全性を確保することもできる。
【0005】
いくつかの刊行物には、免疫化されたドナーのB細胞からの、IgGクラスのヒト抗RhDモノクローナル抗体を産生する細胞株の作製について記載されている。Boylston et al. 1980; Koskimies 1980; Crawford et al. 1983; Doyle et al. 1985; Goossens et al. 1987; Kumpel et al. 1989(a)およびMcCann-Carter et al. 1993には、EBVウイルスで形質転換したBリンパ球株の作製について記載されている。Melamed et al. 1985; Thompson et al. 1986 and McCann-Carter et al. 1993は、Bリンパ球(EBVで形質転換されたもの)×ネズミ骨髄腫の融合から得られるヘテロハイブリドーマに関するものである。Goossens et al., 1987は、Bリンパ球(EBVで形質転換されたもの)×ヒト骨髄腫の融合から得られるヘテロハイブリッドに関するものである。Bron et al., 1984およびFoung et al., 1987には、Bリンパ球(EBVで形質転換されたもの)×ヒト−マウスヘテロ骨髄腫の融合から得られるヘテロハイブリッドが記載されており、最後に、Edelman et al., 1997は、バキュロウイルス系を用いて抗Rh(D)をコードする遺伝子でトランスフェクトした昆虫細胞に関するものである。
【0006】
このようなモノクローナル抗体およびそれらを分泌する株に関する特許および特許出願としては、EP576093号(AETS (FR), Biotest Pharma GmbH (Germany);新生児溶血症の予防用組成物は、RhD抗原に対して活性な、サブクラスIgG1およびIgG3の2種のヒトモノクローナル抗体を含んでなる)、RU2094462号、WO85/02413号(Board of Trustees of the Leland Stanford Jr. University,Rh(D)抗原に対するヒトモノクローナル抗体およびその使用)、GB86−10106号(Central Blood Laboratories Authority,RhD抗原に対する比とモノクローナル抗体の製造のためのヘテロハイブリドーマの作出)、EP0251440号(Central Blood Laboratories Authority,ヒト抗RhDを産生するヘテロハイブリドーマ)、WO89/02442号、WO89/02600号およびWO89/024443号(Central Blood Laboratories Authority,ヒト抗Rh(D)モノクローナル抗体)、WO86/07740号(Institut Pasteur, Protein Performance SA, Paris, FR,ヒト抗RhDモノクローナル抗体からの組換えモノクローナル抗体の作製、昆虫細胞におけるその製造およびその使用)、JP88−50710号(International Reagents Corp., Japan,血液型物質Rh(D)因子の決定のための試薬)、JP83−248865号(Mitsubishi Chemical Industries Co., Ltd., Japan,Rh(D)陽性抗原に対するモノクローナル抗体の製造)、CA82−406033号(Queens University at Kingston,ヒトモノクローナル抗体)、およびGB8226513号(University College London,RhD抗原に対するヒトモノクローナル抗体)が挙げられる。
【0007】
モノクローナル抗体の使用には、ポリクローナル抗体の集合物の使用に比べて多くの利点があるが、他方で、有効なモノクローナル抗体を得るのは困難であると考えられる。実際に、本発明に関して、得られた免疫グロブリンのFcγ断片は、エフェクター細胞(マクロファージ、THリンパ球およびNK)の受容体と相互作用してこれを活性化し得るためには、極めて特異な特性を持っていなければならないことが分かった。
【0008】
特定のG免疫グロブリンの生物学的活性は、その分子上、特にそのFc成分上に存在するオリゴ糖の構造に依存する。総てのヒトおよびネズミサブクラスのIgG分子は、各H鎖のCH2ドメインに結合した(ヒトIgGについては残基Asn297において)N−オリゴ糖を有する。このグリカン含有残基がエフェクター分子(Fc受容体および補体)と相互作用する抗体の能力に及ぼす影響はすでに証明されている。ツニカマイシンの存在下で培養することによりヒトIgG1のグリコシル化を阻害すると、例えば、単球およびマクロファージに存在するEcγRI受容体に対するこの抗体の親和性が50倍低下する(Leatherbarrow et al., 1985)。非グリコシル化IgG3はNK細胞のFcγRIII受容体を介してADCC型の細胞溶解を誘導することはできないと報告されていることから(Lund et al., 1990)、FcγIII受容体への結合もまた、IgGにおける炭水化物の欠損によって影響を受ける。
【0009】
しかし、これらのグリカン含有残基の存在が必要なこと以上に、エフェクター機能を誘導する能力の差を生じ得るそれらの構造の不均一性の方がより厳密なものである。個体によって異なるガラクトシル化プロフィール(ヒト血清IgG1)が観察されている。これらの違いは、おそらく、これらの個体の細胞クローン間のガラクトシルトランスフェラーゼおよびその他の酵素の活性の違いを反映している(Jefferis et al., 1990)。翻訳後プロセスのこの通常の不均一性は種々のグリコ型を作り出すが(モノクローナル抗体の場合でさえ)、慢性関節リウマチまたはクローン病など、ある種の病状に関連した非定型構造をもたらすことがあり、これらについては、相当な割合の非ガラクトシル化残基(agalactosylated residues)が示されている(Parekh et al., 1985)。
【0010】
精製分子のグリコシル化プロフィールは複数の働きの結果であり、そのいくつかのパラメーターはすでに研究されている。IgGのタンパク質主鎖、特に末端N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびマンノースα−1,6アームのガラクトース残基と接触しているアミノ酸(IgGのaa246および258)により、種々のイソ型のネズミおよびキメラIgGで行った研究で示されているように(Lund et al., 1993)、優先的な構造(ガラクトシル化)の存在を説明することができる。
【0011】
また、観察された違いによれば、その分子を作製するのに用いた種および細胞タイプに関連する特異性も明らかになる。このように、ヒトIgGのN−グリカンの通常の構造により、二等分の位置にGlcNAc残基を有する二アンテナ型がかなりの割合であることが明らかとなり、これはネズミ細胞によって産生される抗体には存在しない構造である。同様に、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)株により合成されるシアル酸残基はもっぱらα−2,3型のものであるが、ネズミおよびヒト細胞を用いた場合にはそれらはα−2,3およびα−2,6型のものである(Yu Ip et al., 1994)。哺乳類由来のもの以外の発現系における免疫グロブリン産生では、昆虫細胞または植物によって産生されるキシロース残基の存在など、はるかに重要な改変が導入されることがある(Ma et al., 1995)。
【0012】
細胞培養条件(培地の組成、細胞密度、pH、酸素供給等)などのその他の要因は、細胞におけるグリコシルトランスフェラーゼ活性、その結果として分子のグリカン構造に影響すると考えられる(Monica et al., 1993; Kumpel et al., 1994 b)。
【0013】
今般、本発明に関して、短い鎖、低度のシアリル化、および中間挿入物ではない末端マンノースおよび/または末端GlcNAcを有する二アンテナ型の構造は、モノクローナル抗体に強いADCC活性を付与するグリカン構造の共通の特徴であることが分かっている。FcγRIIIを介してエフェクター細胞を活性化し得るこれらの抗体、特に抗Rh(D)抗体を製造する方法もまた開発されている。
【0014】
血液型抗原は、赤血球の表面で発現する膜結合分子の性質によっていくつかの系に分類される。Rh(Rhesus)系はD、C、c、Eおよびeの5分子または5抗原を含む(ISSITT, 1988)。これらの分子のうち、D抗原は、最も免疫原性が高い、すなわち、Rh−D陽性の赤血球がRh陰性個体に輸血された場合に抗D抗体の産生を誘導し得ることから、最も重要である。
【0015】
D抗原は通常コーカサス人の85%で発現し、これらの人々は「Rh陽性」と呼ばれ、従って、これらの人々の25%はRh陰性、すなわち、彼らの赤血球はD抗原を示さない。D抗原の発現においては、低い抗原密度(弱いD抗原により示される)または異なるかもしくは部分的な抗原性(部分的D抗原により示される)のいずれかと関連し得るある種の変異体が存在する。弱いD特性は、それ自体は正常な抗原であるが、赤血球当たりのその部位の数が多少なりとも有意に少ないことにより特徴づけられ、この特徴はメンデルの法則に従って伝達される。部分的なD表現型は、抗D血清抗体を有するRh−D陽性個体において見出されており、よって、これらの部分的なD抗原はモザイク部分のみを有するものと特徴づけることができる。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を用いて行った研究により、D抗原を構成する少なくとも8つのエピトープを有する部分的D抗原の7つのカテゴリーを定義することが可能となった(LOMAS et al., 1989; TIPETT 1988)。
【0016】
抗RhD抗体の重要性は、新生児溶血症(HDN)をもたらすメカニズムの発見をもって明らかとなった。これは、胎盤関門を渡り得る母親の抗RhD抗体の形成を司る胎児母親間の血液型不適合が存在する場合に、ある胎児またはある新生児で見られる種々の病状に相当する。実際、Rh陰性の母親へ送られる胎児のRh陽性の赤血球は、抗D抗体の形成をもたらし得る。
【0017】
Rh陰性の母親の免疫感作後は、IgGクラス抗D抗体は胎盤関門を通過し、胎児のRh陽性赤血球に結合し得る。この結合は、それらの表面Fc受容体を介して免疫コンピテント細胞の活性化をもたらし、やがて増感した胎児赤血球の溶血を引き起こす。反応の強さに応じて、HDNには数段階の重篤度が見られる。
【0018】
HDN診断は出生の前後で行うことができる。出生前診断は、いくつかの免疫血液学的技術を用いて、母親における抗D抗体レベルの上昇に基づいて行なわれる。分娩後診断は、臍帯血サンプルを用いて以下のパラメーターを分析することにより行なうことができる:胎児および父親の血液型の決定、抗D抗体の探査、ヘモグロビンおよびビリルビンのアッセイ。
【0019】
今のところ、HDNの予防処置は、Rh陽性児を出産したRh陰性の血液型を有する総ての女性に対して体系的に、ヒト抗D免疫グロブリン注射によりなされている。最初の実際の免疫予防の試みは1964年に始まった。効果的な防止のためには、免疫グロブリンは免疫感作前、すなわち、出生後72時間以内に注射しなければならず、抗体量は十分なものでなければならない(Rhプラス赤血球0.5mlにつき抗D抗体10μg)。
数種の抗Dモノクローナル抗体が治療上の評価を受けている:BROSSARD/FNTS 1990(非公開);THOMSON/IBGRL 1990;KUMPEL/IBGRL 1994;BELKINA/Institute of hematology, Moscow, 1996;BIOTEST/LFB 1997(非公開)。Rh(D)陽性赤血球のクリアランスの誘導における抗体の臨床効果は、Rh(D)陰性のボランティアにおいて評価された。ある一つのIgG1抗体は抗ポリクローナル免疫グロブリンの場合と同等の効果を示したが、一部の患者においてのみであった(KUMPEL et al., 1995)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Boylston, J.M., Gardner, B., Anderson, R.L., and Hughes-Jones, N.C. Production of human IgM anti D in tissue culture by EB virus-transformed lymphocytes. Scand. J. Immunol. 12: 355-358 (1980).
【非特許文献2】Bron, D., Feinberg, M.B., Teng, N.N.H. and Kaplan, H.S. Production of Human Monoclonal IgG Antibodies against Rhesus (D) Antigen. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 81: 3214-3217 (1984).
【非特許文献3】Chouchane, L., Van Spronsen, A., Breyer, J., Guglielmi, P., and Strosberg, AD. Molecular characterization of a human anti-Rh(D) antibody with a DII segment encoded by a germ-line sequence. Eur. J. Biochem. 1; 207(3): 1115-1121 (1992).
【非特許文献4】Crawford, D.H., Barlow, M.J., Harrison, J.F., Winger, L. and Huehns, E.R. Production of human monoclonal antibody to rhesus D antigen. Lancet, i: 386-388 (1983).
【非特許文献5】Doyle, A., Jones, T.J., Bidwell, J.L. and Bradley, B.A. In vitro development of human monoclonal antibody secreting plasmacytomas. Hum. Immunol. 13: 199-209 (1985).
【非特許文献6】Edelman, L., Margaritte, C., Chaabihi, H., Monchatre, E., Blanchard, D., Cardona, A., Morin, F., Dumas, G., Petres, S. and Kaczorek, M. Obtaining a functional recombinant anti-rhesus (D) antibody using the baculovirus-insect cell expression System. Immunology, Vol. 91(1), 13-19 (1997).
【非特許文献7】Foung, S.K.H., Blunt, J.A., Wu, P.S., Ahearn, P., Winn, L.C., Engleman, E.G. and Grumet, F.C. Human Monoclonal Antibodies to Rho (D). Vox Sang. 53: 44-47 (1987).
【非特許文献8】Goossens, D., Champomier, F., Rouger, P., and Salmon, C. Human Monoclonal Antibodies against Blood Group Antigens: Preparation of a series of stable EBV immortalized B clones producing high levels of antibody of different isotypes and specificities. J. Immunol. Methods 101: 193-200 (1987).
【非特許文献9】Issitt, P.D. Genetics of the Rh Blood Group System: Some Current Concepts. Med. Lab. Sci. 45: 395-404 (1988).
【非特許文献10】Jefferis, R, Lund, J., Mizutani, H., Nakagawa, H., Kawazoe, Y., Arata, Y. and Takahashi, N. A comparative study of the N-linked oligosaccharides structure of human IgG Subclass proteins. Biochem. J., 268: 529-537 (1990).
【非特許文献11】Koskimies, S. Human Lymphoblastoid Cell Line Producing Specific Antibody against Rh-Antigen D. Scand. Immunol. 11: 73 77 (1980).
【非特許文献12】Kumpel, B.M., Goodrick, M.J., Pamphilon, D.H., Fraser, I.D., Poole G.D., Morse, C., Standen, G.R., Chapman, G.E., Thomas, D.P. and Anstee, D.J. Human Rh D monoclonal antibodies (BRAD-3 and BRAD-5) Cause Accelerated Clearance of Rh D + Red blood Cells and Suppression of Rh D Immunization in Rh D Volunteers. Blood, Vol. 86, No. 5, 1701-1709 (1995).
【非特許文献13】Kumpel, B.M., Poole, G.D. and Bradley, B.A. Human Monoclonal Anti-D Antibodies. I. Their Production, Serology, Quantitation and Potential Use as Blood Grouping Reagents. Brit. J. Haemat. 71: 125-129 (1989a).
【非特許文献14】Kumpel, B.M., Rademacher, T.W., Rook, G.A.W., Williams, P.J., Wilson, I.B.M. Galacatosylation of human IgG anti-D produced by EBV-transformed B lymphoblastoid cell lines is dependent on culture method and affects Fc receptor mediated functional activity. Hum. Antibodies and Hybridomas, 5: 143-151 (1994).
【非特許文献15】Leatherbarrow, R.J., Rademacher, T.W., Dwek, R.A., Woof, J.M., Clark, A., Burton, D.R., Richardson, N. and Feinstein, A. Effector functions of monoclonal aglycosylated mouse IgG2a; binding and activation of complement component CI and itneraction with human Fc receptor. Molec. Immun. 22, 407-415 (1985).
【非特許文献16】Lomas, C., Tippett, P., Thompson, K.M., Melamed, M.D. and Hughes-Jones, N.C. Demonstration of seven epitopes on the Rh antigen D using human monoclonal anti-D antibodies and red cells from D categories. Vox Sang. 57: 261-264 (1989).
【非特許文献17】Lund, J., Takahaski, N., Nakagawa, H., Goodall, M., Bentley, T., Hindley, S.A., Tyler, R. and Jefferis, R. Control of IgG/Fc glycosylation: a comparison of oligosaccharides from chimeric human/mouse and mouse subclass immunoglobulin G5.Molec. Immun. 30, No. 8, 741-748 (1993).
【非特許文献18】Lund, J., Tanaka, T., Takahashi, N., Sarmay, G., Arata, Y. and Jefferis, R. A protein structural change in aglycosylated IgG3 correlates with loss of hu FcγRI and Hu FcγRIII binding and/or activation. Molec. Immun. 27, 1145-1153 (1990).
【非特許文献19】Ma, J.K. and Hein, M.B. Immunotherapeutic potential of antibodies produced in plants. Trends Biotechnol. 13, 522-527 (1995).
【非特許文献20】Mc Cann-Carter, M.C., Bruce, M., Shaw, E.M., Thorpe, S.J., Sweeney, G.M., Armstrong, S.S. and James, K. The production and evaluation of two human monoclonal anti-D antibodies. Transf. Med. 3: 187-194 (1993).
【非特許文献21】Melamed. M.D., Gordon, J., Ley, S.J., Edgar, D. and Hughes-Jones, N.C. Senescence of a human lymphoblastoid clone producing anti-Rhesus (D) Eur. J. Immunol. 115: 742-746 (1985).
【非特許文献22】Parekh, R.B., Dwek, R.A., Sutton, B.J., Fernanes, D.L., Leung, A., Stanworth, D., Rademacher, T.W., Mizuochi, T., Taniguchi, T., Matsuta, K., Takeuchi, F., Nagano, Y., Miyamoto, T. and Kobata, A. Association of rheumatoid arthritis and primary osteoarthritis with changes in the glycosylation pattern of total serum IgG. Nature, 316: 452-457 (1985).
【非特許文献23】Rothman, R.J., Perussia, B., Herlyn, D. and Warren, L. Antibody-dependent cytotoxicity mediated by natural killer cells is enhanced by castanospermine-induced alterations of IgG glycosylation. Mol. Immunol. 26(12): 1113-1123 (1989).
【非特許文献24】Shitara K., Nakamura K., Tokutake-Tanaka Y., Fukushima M., and Hanai N. A new vector for the high level expression of chimeric antibodies to myeloma cells. J. Immunol. Methods 167: 271-278 (1994).
【非特許文献25】Thompson, K.M., Hough, D.W., Maddison, P.J., Mclamed, M.D. and Hughes-Jones, N.C. Production of human monoclonal IgG and IgM antibodies with anti D (rhesus) specificity using heterohybridomas. Immunology 58: 157-160 (1986).
【非特許文献26】Thomson, A., Contreras, M., Gorick, B., Kumpel, B., Chapman, G.E., Lane, R.S., Teesdale, P. Hughes-Jones, N.C. and Mollison, P.L. Clearance of Rh D-positive red cells with monoclonal anti-D. Lancet 336: 1147-1150 (1990).
【非特許文献27】Tippett, P. Sub-divisions of the Rh(D) antigen. Med. Lab. Sci. 45: 88-93 (1988).
【非特許文献28】Ware, R.E. and Zimmerman, S.A. Anti-D: Mechanisms of action. Seminars in Hematology, vol. 35, No. 1, supp. 1: 14-22 (1998).
【非特許文献29】Yu, I.P.C., Miller, W.J., Silberklang, M., Mark, G.E., Ellis, R.W., Huang, L., Glushka, J., Van Halbeek, H., Zhu, J. and Alhadeff, J.A. Structural characterization of the N Glycans of a humanized anti-CD18 murine immunoglobulin G. Arch. Biochem. Biophys. 308, 387-399 (1994).
【非特許文献30】Zupanska, B., Thompson, E., Brojer, E. and Merry, A.H. Phagocytosis of Erythrocytes Sensitized with Known Amounts of IgG1 and IgG3 anti-Rh antibodies. Vox Sang. 53: 96-101 (1987).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記の問題に応えるモノクローナル抗体、すなわち、その抗体に特異的なADCC型のアッセイを用いて選択される抗体および/または良好な効果を得るために必要なグリカン構造を有する抗体の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
発明の説明
従って、本発明は、FcγRIIIを発現するエフェクター細胞を活性化し得るモノクローナル抗体を製造する方法であって、以下の工程:
a)ハイブリドーマ、特にヘテロハイブリドーマ、および該抗体をコードする遺伝子を含んでなるベクターでトランスフェクトした動物またはヒト細胞株から選択される細胞株に由来する種々のクローンから得られたモノクローナル抗体を精製する工程、
b)工程a)において得られた各抗体を、
該抗体の標的細胞、
FcγRIII発現細胞を含んでなるエフェクター細胞、
多価IgG
を含んでなる別々の反応混合物に添加する工程、
c)標的細胞の細胞溶解の百分率を決定し、エフェクター細胞を活性化して標的細胞の有意な細胞溶解を生じさせる(FcγRIII型ADCC活性)モノクローナル抗体を選択する工程、
を含んでなるものに関する。
【0023】
これらのクローンは、ヒトBリンパ球(免疫化された個体に由来)と、ネズミ、ヒト、またはヘテロハイブリッド骨髄腫細胞、特にK6H6−B5骨髄腫(ATCC No.CRL1823)との融合によって得られたヘテロハイブリッド細胞株、あるいは、ヒトIgG免疫グロブリンをコードする遺伝子を含むベクターでトランスフェクトされた動物またはヒト細胞株(該株は、特に、CHO−K、CHO−Lec10、CHO Lec−1、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、YB2/0、BHK、K6H6、NSO、SP2/0−Ag 14およびP3X63Ag8.653株から選択され得る)に由来するものとすることができる。
【0024】
多価IgGは、FcγRIIIを介するエフェクター細胞の溶解機構を阻害するために用いられる。
【0025】
本発明による方法では、60%、70%、または80%を超える、好ましくは90%を超える、FcγRIII型ADCCレベルを示す抗体が選択される。
【0026】
標的細胞はパパインで処理した赤血球であってもよい。この場合、一つのウェル当たりに、
約200ng/mlの精製モノクローナル抗体100μl、
パパイン処理された赤血球25μl、すなわち、約1×10細胞、
エフェクター細胞25μl、すなわち、約2×10細胞、および
濃度1〜20mg/mlの多価IgG、特にTEGELINE(商標)(LFB, France)、50μl
が投入される。
【0027】
従って、標的細胞の細胞溶解量を、NHClなどの化学化合物およびin vivoで活性な参照抗体からなる2種の陽性対照、ならびにin vivoで不活性な抗体からなる陰性対照と比較することができる。
【0028】
また、市販のポリクローナル抗体を陽性対照として用い、in vivoクリアランスを誘導することができないモノクローナル抗体を陰性対照として用いることができる。
【0029】
有利には、本発明による方法により、上述のような抗Rh(D)モノクローナル抗体の製造が可能とされる。そして、RhD赤血球が標的細胞として用いられる。
【0030】
従って、本発明は、in vitroにおける生物学的活性のアッセイの開発に基づくものであり、該アッセイでは、測定した活性は、Rh(D)陰性のボランティアにおけるRh(D)陽性赤血球のクリアランスを誘導するそれらの能力について臨床的観点からすでに評価したモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のin vivoにおける生物学的活性と相関する。このアッセイにより、FcγIII型受容体(CD16)によって本質的に誘導される抗体依存性細胞溶解活性=ADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害)の評価が可能となる(なお、FcγI型受容体(CD61)はヒトIgG免疫グロブリン(治療用多価IgGの形態にある)の付加によって飽和される)。このADCCアッセイのFcγRIII特異性は、抗FcγRIIIモノクローナル抗体の存在下での阻害によって確認された(図6参照)。健常者由来の単核細胞は、in vivoにおける生理条件に近いエフェクター/標的(E/T)比で、エフェクター細胞として使用される。これらの条件下では、ポリクローナル免疫グロブリンおよびin vivoで効果がない抗Dモノクローナル抗体(抗体DF5, Goossens et al., 1987、および抗体AD1+AD3, FR92/07893号 LFB/BiotestおよびFOG−1,GB2189506号)の細胞溶解活性は、それぞれ「強い」および「弱い」である。
【0031】
従って、本発明による抗体の選択は、このADCC型アッセイにおいてそれらの生物学的活性を評価することにより行った(実施例1参照)。
【0032】
他の態様によれば、本発明は、上記の方法を用いて得られる抗体に関するものであり、該抗体は、参照ポリクローナル抗体に対して60%、70%、または80%を超える、好ましくは90%を超える、FcγRIII型ADCCレベルを示す。本発明によるモノクローナル抗体は、所定の抗原に対するものであり、FcγRIIIを発現するエフェクター細胞を活性化して、同じ抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の60%、70%、80%を超える、好ましくは90%を超える細胞溶解を生じさせる。有利には、該モノクローナル抗体は、RhDに対するものとされる。それらは、好ましくは、Vero(ATCC No.CCL81)、YB2/0(ATCC No.CRL1662)またはCHO Lec−1(ATCC No.CRL1735)株に由来するクローンによって産生され、IgG1またはIgG3クラスに属するものとすることができる
【0033】
本発明はまた、FcγRIII依存性エフェクター活性を付与する特定のグリカン構造を有する抗体に関する。このような抗体は上述の方法を用いて得ることができ、それらのFcγグリコシル化部位(Asn297)において、短い鎖と低度のシアリル化を伴った二アンテナ型のグリカン構造を有する。好ましくは、それらのグリカン構造は、中間挿入物ではない末端マンノースおよび/または末端GlcNAcを表す。
【0034】
このような抗体は、より特定的には以下の形態から選択される:
【化1】

【0035】
従って、本発明は、そのFcγグリコシル化部位(Asn297)において、短い鎖、低度のシアリル化、および末端結合点を有する中間挿入物ではないマンノースおよびGlcNAcを伴った二アンテナ型のグリカン構造を有するモノクローナル抗体に関する。該抗体は、所定の抗原に対するものであり、FcγRIIIを発現するエフェクター細胞を活性化して、同じ抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の60%、70%、80%を超える、好ましくは90%を超える細胞溶解を生じさせる。
【0036】
より特定的には、本発明は、シアル酸含量が25%、20%、15%または10%、好ましくは5%、4%、3%または2%未満である、上記で定義される抗体および該抗体を含んでなる組成物に関する。
【0037】
同様に、本発明は、フコース含量が65%、60%、50%、40%または30%未満である、上記で定義される抗体および該抗体を含んでなる組成物に関する。好ましくは、フコース含量は20%〜45%、または25%〜40%である。
【0038】
本発明による特に有効な組成物は、例えば、G0+G1+G0F+G1F型については60%を超える、好ましくは80%を超える含量を含むものとされ、ここで、G0F+G1F型は50%未満、好ましくは30%未満であると考えられる。
【0039】
【表1】

【0040】
FcγRIIIを特異的にターゲッティングする別法として、「高マンノース」型の抗体を製造することがある。
【0041】
他の態様によれば、本発明は、上記抗体を産生する細胞に関する。これは、ハイブリドーマ、特にK6H6−B5(ATCC No.CRL1823)を融合相手として得られたヘテロハイブリドーマ、または該抗体をコードする遺伝子を含んでなるベクターでトランスフェクトされた動物またはヒト細胞、特にVero(ATCC No.CCL81)、YB2/0(ATCC No.CRL1662)またはCHO Lec−1(ATCC No.CRL1735)株に由来する細胞とすることができる。これらの細胞は、本発明による方法を用いて選択される細胞株に相当し、該細胞は上記の特徴を有する抗体を産生する。
【0042】
本発明による好ましい抗体は、FcγRIII陽性エフェクター細胞を用いるADCCアッセイにおいて著しい生物学的活性(抗Rh(D)参照ポリクローナル抗体より高いかまたは同等)を示す。FcγRIII受容体を活性化する(結合後)その能力は、細胞内カルシウム流量、活性化シグナル伝達分子のリン酸化、または化学メディエーターの放出の改変を実証するin vitroモデルにおいて確認される。
【0043】
これらの特性は、抗体のFc成分のN−グリコシル化部位におけるオリゴ糖の特定の構造:例えば、短い鎖の存在、低度のガラクトシル化、少ないシアリル化、中間挿入物ではない末端マンノースおよび/または末端GlcNAcを有すること、と関連している。
【0044】
この抗体は、HDNの防止、Rh(D)陽性個体のITPの治療、および抗Dポリクローナル免疫グロブリンの使用が関連するその他のいずれかの用途などの治療用途を有する。
【0045】
本発明による好ましい抗体はまた、抗Rh(D)以外の特異性(例えば、抗癌細胞)も有し得る。それは上記の特性(FcγRIII受容体への結合/その活性化のメカニズム、オリゴ糖の特定の構造に依存する機能活性)を有することができ、癌の、あるいはその作用メカニズムがFcγRIII受容体を介して機能する活性に相当するモノクローナル抗体を用いて治療的または防止的処置が行われる他のいずれかの病状の免疫療法に用いることができる。
【0046】
本発明の他の態様は、本発明による抗体を含んでなる医薬組成物、および医薬品の製造のための該抗体の使用に関する。
【0047】
好ましくは、本発明は、Rh陰性個体のRh同種異系免疫の防止を目的とする医薬品を製造するための、上記の抗Rh(D)抗体の使用に関する。in vivoにおける抗D免疫グロブリンの作用の様式は、その抗体がRh(D)陽性赤血球のD抗原と特異的に結合した後、本質的に脾臓において、これらの赤血球が循環系から排除されるというものである。このクリアランスは、その個体の一次免疫応答の抑制の動的メカニズムに関連していることから、免疫化を防止する。
【0048】
従って、本発明による抗体は、Rh陽性児の出産直後のRh陰性の母親の同種異系免疫を予防するため、および次の妊娠時の新生児溶血症(HDN)を予防するため、RhD不適合の状況下での流産時または子宮外妊娠時、あるいはRhD不適合の状況下での羊水穿刺、絨毛生検または外傷性産科操作による経胎盤出血時において、予防的に使用できる。
【0049】
さらに、本発明による抗体は、血液または不安定血液誘導体によるRh不適合輸血の場合にも使用できる。
【0050】
本発明はまた、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)における治療的使用を目的とする医薬品を製造するための、本発明による抗体の使用に関する。
【0051】
本発明による抗体はまた、免疫療法による癌の治療、またはウイルス性もしくは細菌性病原体によって引き起こされる感染症の治療を目的とする医薬品を製造するためにも使用できる。
【0052】
本発明のさらなる態様は、特に診断のための該抗体の使用に関する。従って、本発明は、上記の抗体を含んでなるキットに関する。
以降の説明においては、後述する図面の説明を参照するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】F60およびT125 YB2/0(R270)のADCC評価。この図面は100および500μg/ウェルのTEGELINE(商標)(LFB, France)存在下で抗体濃度の関数として得られた細胞溶解百分率を表す。本発明による抗体F60およびT125について高い細胞溶解百分率が得られる。
【図2】受容体(FcγRIII)への抗D結合。本発明による抗体F60およびT125について高い結合指数が得られる。
【図3】T125のH鎖を発現させるための発現ベクターT125−H26の構築。
【図4】T125のL鎖を発現させるための発現ベクターT125−K47の構築。
【図5】抗体T125の全体を発現させるための発現ベクターT125−IG24の構築。
【図6】抗FcRIII(CD16)の存在下でのADCC阻害。ADCCアッセイは、市販の抗CD16 3G8(TEBU)(その作用はエフェクター細胞に存在するFcRIII受容体を遮断することである)の存在下で第3.3節に記載の手順に従って確立する。3G8の最終濃度は5μg/ウェル(25μg/ml)である。3G8の不在下で並行して対照実験を行う。試験する3種の抗体はポリ−D WinRho、実施例1に記載の方法に従って得られた抗体F60(Pf155 99/47)、および実施例2に記載の方法に従って得られたR297(Pf210 01/76)である。結果は次の通りである。3G8の存在下で阻害が見られるが、これは試験した3種の抗体によって誘導されたADCCは主としてFcRIII依存性であることを示す。ポリ−D WinRhoの存在下では若干強い阻害が見られる(F60およびR297の阻害がそれぞれ68%および61%であるのに対して、83%)。この違いは、ポリ−Dにおける、I型受容体(FCRIまたはCD64)を阻害し、従って、抗CD16と相乗的に作用する非抗DヒトIgGの存在によるものである可能性がある。
【図7】質量分析法(MS)による抗Dグリカンの特徴づけ。
【図8】R290およびDF5のMSスペクトルの比較。
【図9】MSによる抗D D31DMMのグリコシル化の実験。
【実施例】
【0054】
実施例1:抗Rh(D)抗体を産生するヘテロハイブリッド細胞株の樹立
1−リンパ芽球様およびヘテロハイブリッドクローンの作製:
1.1−リンパ球供給源:
Bリンパ球ドナーは、第33節で記載したADCC活性アッセイでのそれらの抗Rh(D)血清抗体の活性に基づき、プラスマフェレーシスを受けている抗Rh(D)ドナーから選択する。1998年の全血献血後、「バフィーコート」画分(白血球濃縮物)を回収した。
【0055】
1.2−ドナー由来のBリンパ球の不死化
末梢血単核細胞を、Ficoll Plus(Pharmacia)での遠心分離によりその他の成分と分離する。次いで、それらを20%(v/v)のウシ胎児血清(FCS)を含有するIMDMで10細胞/mlまで希釈し、そこに20% のB95−8系(ATCC−CRL1612)の培地上清、0.1μg/mlのシクロスポリンA(Sandoz)、50μg/mlの硫酸ゲンタマイシン(Life Technologies)を加え、丸底96ウェルプレートまたは24ウェルプレート(P24 Greiner)に分配する。その後、これらを37℃、7%CO2のインキュベーター中に置く。3週間後、ADCCによって抗Rh(D)抗体の存在を測定する。
【0056】
陽性のP24プレートウェルの16マイクロウェルの各々を、新しいP24ウェルに移す。培養10〜15日後にこの濃縮を繰り返し、各マイクロウェルをP96、次いでP24で増幅させる。
【0057】
陽性のP96ウェルを集め、平底P24(Nunc)で増幅させる。2〜3日の培養後、ADCCにより抗Rh(D)抗体の存在を調べる。
【0058】
1.3−免疫ロゼット法(IR)による濃縮:
1以上のP24ウェルから誘導された細胞を、パパイン処理したRh(D)陽性の赤血球によるロゼット形成および分離により、特定の細胞を濃縮する:0.9%NaClで洗浄した1容量の赤血球を1容量のパパイン(Merck)溶液、1/1000th(m/v)に加えて37℃で10分間インキュベートした後 、0.9%NaClで3回洗浄する。次いで、細胞をハンクス溶液で1回洗浄し、FCSに懸濁し、パパイン処理した赤血球と1細胞対33赤血球の割合で混合した。この混合物を円錐底遠心チューブに入れ、80gで5分間遠心分離し、さらに溶解しかけた氷中にて1時間インキュベートする。次いで、混合物を慎重に攪拌し、900gで20分間の分離によりFicollをチューブの底に沈殿させる。ロゼットを含むペレットをNH4Cl溶液で5分間溶血させ、照射済ヒト単核細胞を含有するP24において細胞を再び培養する。約1週間後、CELA(段落3.2)およびADCCアッセイにより優れた活性を有する抗Rh(D)抗体の存在について上清を評価する。それまでのサイクルに比べてロゼット形成細胞の割合がかなり高まる場合には、さらなる濃縮サイクルを行う。
【0059】
1.4−リンパ芽球様細胞のクローニング:
IR濃縮細胞を、照射済ヒト単核細胞を含有する丸底96ウェルプレートに、ウェル当たり5および0.5細胞で分配する。約4週間の培養後、ADCCアッセイにより細胞凝集塊を含むウェルの上清を評価する。
【0060】
1.5−ヘテロ融合物:
有利なADCC活性を示すEBV形質転換細胞のクローニングウェルを培養増幅した後、標準PEG技術によりヘテロ骨髄腫K6H6−B5(ATCC CRL−1823)と融合する。融合後、細胞を2×10細胞/ウェルの割合で、アミノプテリンおよびウアバイン(Sigma)を含有する選択培地中にネズミ腹膜内マクロファージを含有する平底P96に分配する。
【0061】
3〜4週間の培養後、ADCCアッセイにより細胞凝集塊を含むウェルの上清を評価する。
【0062】
1.6−ヘテロハイブリドーマのクローニング:
制限希釈によるクローニングを、平底P96で4、2および1細胞/ウェルにおいて行う。2週間後、顕微鏡でウェルの様子を調べて単一クローンを同定し、その後、培地を新しいものに交換する。約2週間後、ADCCアッセイにより細胞凝集塊を含むウェルの上清を評価する。
【0063】
2−選択されたクローンの履歴:
2.1−IgG1を産生するクローン
ドナーd13細胞のEBV形質転換により1つのウェル(T125 2A2と呼ぶ)の選択が可能になり、それを用いて、濃縮2回、IR3回、さらに5細胞/ウェルでのクローニングを逐次行い、2種類のクローンを得た:
1)T125 2A2(5/1)A2(これからDNAを抽出して組換えベクターを作製する);
2)T125(5/1)A2(これをK6H6−B5と融合してF60 2F6を取得し、次いで、5ラウンドのクローニング後にF60 2F6(5)4C4(ライブラリーを準備する前の細胞ストックの構成のために選択されるクローン)を得る)。
【0064】
これはκL鎖を有するIgG1である。
【0065】
【表2】

【0066】
2.2−IgG3産生クローン
IgG1イソ型抗体の調製に用いるものと同じ方法によりIgG3を産生する株を作製した。細胞起源は所定のドナーの全血献血から得られるものであり、そこから「バフィーコート」画分(白血球濃縮物)を回収した。
【0067】
これはκL鎖を有するIgG3である。
【0068】
【表3】

【0069】
3−抗Rh(D)抗体の評価方法:
タンパク質Aセファロース(Pharmacia)でのアフィニティークロマトグラフィー、さらに25mM Trisバッファー、150mM NaCl、pH7.4での透析による精製後、ELISA法により抗体T125の濃度を測定する。次いで、ADCC法によりin vitroにおける生物学的活性を測定する。
【0070】
3.1−ELISA法によるIgGレベルおよびイソ型の測定:
・全IgG
被覆:0.05M炭酸バッファー(pH9.5)中、2μg/mlの抗IgG(Calbiochem)において4℃で一晩。飽和:希釈バッファー(PBS+1%BSA+0.05%Tween20、pH7.2)、周囲温度で1時間。洗浄(各工程で新鮮なものを使用):HO+150mM NaCl+0.05%Tween20。希釈バッファーで約100ng/mlまでのサンプル希釈および100ng/mlに予め希釈したLFB多価ヒトIgGで構成される制御範囲の希釈。周囲温度で2時間のインキュベーション。結合:1/5 000に希釈した抗IgG(Diagnostic Pasteur)、周囲温度で2時間。基質:過ホウ酸ナトリウムを含有するリン酸クエン酸バッファー(Sigma)中、0.5mg/mlのOPD(Sigma)、暗室で10分間。1N HClで反応を停止させ、492nmで読み取る。
【0071】
・κ鎖のアッセイ 被覆:0.05M炭酸バッファー(pH9.5)中、5μg/mlの抗κ(Caltag Lab)において4℃で一晩。飽和:希釈バッファー(PBS+1%BSA+0.05%Tween20、pH7.2)、周囲温度で1時間。洗浄(各工程で新鮮なものを使用):HO+150mM NaCl+0.05%Tween20。希釈バッファーで約100ng/mlまでのサンプル希釈および100ng/mlに予め希釈したLFBモノクローナル抗体AD3T1(κ/γ3)で構成される制御範囲の希釈。周囲温度で2時間のインキュベーション。結合:1/1500に希釈したストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ(Pierce)の存在下で1/1000に希釈したビオチン化抗κ(Pierce)、周囲温度で2時間。基質:過ホウ酸ナトリウムを含有するリン酸クエン酸バッファー(Sigma)中、0.5mg/mlのOPD(Sigma)、暗室で10分間。1N HClで反応を停止させ、492nmで読み取る。
【0072】
3.2−CELA(細胞酵素結合アッセイ)による抗Dの特異的アッセイ:
この方法は、特に抗D抗体以外の非抗D免疫グロブリンが溶解状態で存在する培養段階(EBV形質転換後、早期の段階)の培養物上清を用いる場合に、抗D抗体を特異的にアッセイするために用いられる。
【0073】
原理:抗D抗体をRh陽性赤血球とともにインキュベートした後、アルカリ性ホスファターゼ標識した抗ヒトIgにより検出する。
【0074】
Liss−1%BSA希釈バッファーで希釈した10%のRh+赤血球100μl。希釈バッファーで約500ng/mlまでのサンプル希釈および500ng/mlに予め希釈した精製モノクローナルヒト抗D IgG (DF5、LFB)で構成される制御範囲の希釈。周囲温度で45分間のインキュベーション。洗浄(各工程で新鮮なものを使用):HO+150mM NaCl。結合:PBS+1%BSAで1/4000に希釈した抗IgGアルカリ性ホスファターゼ(Jackson)、周囲温度で1時間30分。基質:1Mジエタノールアミン、0.5mM MgCl、pH9.8中、1mg/mlのPNPP(Sigma)。1N NaOHで反応を停止させ、405nmで読み取る。
【0075】
3.3−ADCC法
ADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害)法により、エフェクター細胞(単核細胞またはリンパ球)の存在下でRh+赤血球の溶解を誘導する(抗D)抗体の能力を測定することが可能になる。
【0076】
Rh陽性型細胞濃縮物の赤血球細胞をパパインで処理(1mg/ml、37℃で10分)した後、0.9%NaClで洗浄する。エフェクター細胞はFicoll(Pharmacia)での遠心分離により少なくとも3つのバフィーコートからなるプールと分離し、続いて25%FCSの存在下での接着工程を行い、9オーダーのリンパ球/単球比を得る。ウェル当たり、以下のもの:100μlの200ng/ml精製抗D抗体、25μlの パパイン処理したRh+赤血球(すなわち、1×10)、25μlのエフェクター細胞(すなわち、2×10)および10および2mg/mlの常用濃度の多価IgG(例えば、Tegeline、LFB)50μlをマイクロ滴定プレート(96ウェル)に投入する。0.25%FCSを含有するIMDMで希釈する。37℃で一晩インキュベーションした後、このプレートを遠心分離し、次いでペルオキシダーゼ活性に特異的な基質(2,7−ジアミノフルオレン、DAF)の存在下で上清に放出されたヘモグロビンを測定する。この結果を細胞溶解率%で示し、NHClにおける全赤血球細胞溶解を100%(100%対照)、さらに抗体を含まない反応混合物を0%(0%対照)とする。
【0077】
以下の式により、特異的な細胞溶解を百分率で算出する:
(ODサンプル−OD0%対照)/(OD100%対照−OD0%対照)×100=%ADCC。
【0078】
図1に示した結果は、ヘテロハイブリッドF60によって産生された抗体の活性を参照抗体のものとの比較において示している:
−抗Rh(D)ポリクローナル抗体POLY−D LFB51およびWinRhO W03(Cangene)=陽性対照;
−モノクローナル抗体DF5(Rh(D)+赤血球(BROSSARD/FNTS、1990、未発表)のクリアランスについてはin vivoにおいて不活性)=陰性対照;
−ポリクローナルWinRhO W03から精製したIgG1(IgG3から分離)。
【0079】
2種類の濃度のヒトIgG(Tegeline LFB)は、陰性対照の活性阻害が、競合するIgGとFcγI型受容体との結合に関係していることを示す目的で用いられる。
【0080】
3.4−FcγRIII(CD16)結合法:
このアッセイにより、IgG1イソ型の抗Rh(D)抗体とFcγRIIIとの結合を評価することが可能となり、特にIgG3抗体を識別することが可能となる。この受容体の単量体IgGに対する親和性が低いときは、予め抗体とD抗原との結合が必要となる。
【0081】
原理:試験する抗体(抗D)を、マイクロ滴定プレートに被覆したRh+赤血球膜に添加し、続いて、それら表面のFcγRIII受容体を発現するトランスフェクトJurkat細胞を加える。遠心分離後、ウェルにCD16 Jurkatを均一にプレーティングすることにより「Rh+膜/抗D/CD16 Jurkat」相互作用を視覚化する。これに対し、相互作用の不在下では、細胞はウェルの中心に集中する。反応強度は+の数で示している。
【0082】
方法:1)抗D抗体(IMDM中1μg/mlにおいて50μl)をCapture R plate(Immunochim)上において37℃で1時間インキュベートした後、水+0.9%NaClで洗浄する。IMDM+10%FCSにCD16 Jurkat(2×106細胞/ml)を加える。37℃で20分間インキュベートした後、遠心分離し、細胞接着性(制御範囲と対照する)を測定する。
【0083】
2)0.2M Tris−HCl、6M尿素、pH5.3〜5.5でCD16 Jurkat細胞を溶解した後、1/5000の抗ヒトIgG−ペルオキシダーゼ(Sanofi Diagnostics Pasteur)を用いるELISAタイプの方法により、Capture R plateに結合した抗Dを曝す。OPD暴露後、492nmで光学密度(O.D.)を読み取る。
【0084】
結果を次のように示す:0〜3の任意の値をCD16 Jurkat細胞の結合およびプレーティングの関数として割り当てる。これらの値を定義された各々のOD区間(0.1のインクリメント)に割り当てる。以下のもの:
* 曲線:赤血球細胞膜に結合した抗D量(X)の関数としてのJurkat細胞の接着性(Y);または
* 各抗体の、各OD区間に(試験した総て抗体に共通する部分に対して).割り当られた各Jurkat細胞結合値(0〜3)の合計に相当する「結合指数」のヒストグラム、のいずれかをプロットする。
【0085】
ヒストグラムの例を図2に示す。
【0086】
IgG1イソタイプの抗Rh(D)抗体(F60およびT125 YB2/0)はポリクローナルIgG1(WinRho)のものに近い結合指数を示すが、陰性対照である抗体DF5およびAD1は結合しない。同様に、IgG3イソ型の抗体(F41)は優れた結合指数を示すが、ポリクローナルWinrhoから精製したIgG3のものより若干弱く、かつ、抗体AD3(調べたその他のIgG3であり、かつAD1との混合物では臨床試験において効果のないもの(Biotest/LFB、1997、未発表))のものより強いものである。
【0087】
実施例2:
組換え抗D抗体(Ab)の産生
1−AbのH鎖およびL鎖をコードするcDNAの単離および増幅
1.1−RNA抽出およびcDNA合成
全RNAを、EBV形質転換により得られた抗DAb−産生クローン(IgG G1/κ)から抽出した:T125 A2(5/1)A2(実施例1の段落2を参照)。
【0088】
オリゴdTプライマーを用いた全RNAの逆転写により、対応するcDNAを合成した。
【0089】
1.2−T125−A2H鎖可変領域:VH/T125−A2配列の増幅
以下のプライマーを用いたT125−A2cDNAの増幅により、VH/T125−A2配列を得る:
T125−A2のVH遺伝子リーダー領域の5’側に位置し、すでに文献に記載された、T125−A2のVH遺伝子と同じVH3−30ファミリーに属するVH遺伝子と関連のあるリーダー配列から推定されるコンセンサスリーダー配列(かっこ内)を導入する、プライマーA2VH5;この配列は1つのEcoRI制限部位(かくがっこ内)と1つのKozak配列(下線部)もまた含んでなる:
A2VH5(配列番号1):
5’−CTCTCC[GAATTC]GCCGCCACC(ATGGAGTTTGGGCTGAGCTGGGT)−3’;
T125−A2の定常領域(CH)の5’に位置する、アンチセンスプライマーGSP2ANP:
GSP2ANP(配列番号2):5’−GGAAGTAGTCCTTGACCAGGCAG−3’。
【0090】
1.3−T125−A2定常領域:CH/T125−A2配列の増幅
以下のプライマーを用いたT125−A2cDNAの増幅により、CH/T125−A2配列を得る:
T125−A2のCH領域の5’に位置する、プライマーG1:
G1(配列番号3):5’−CCCTCCACCAAGGGCCCATCGGTC−3’
CH配列の最初のG塩基が、ここではC(下線部)で置き換えられているため、クローニング後に1つのEcoRI部位が新たに生じる(段落2.1.1を参照);
T125−A2のCHの3’側に位置し、増幅配列の3’側に1つのXbaI部位(下線部)を導入する、アンチセンスプライマーH3’Xba:
H3’Xba(配列番号4):5’−GAGAGGTCTAGACTATTTACCCGGAGACAGGGAGAG−3’。
【0091】
1.4−κL鎖:K/T125−A2配列の増幅
以下のプライマーを用いて、T125−A2cDNAからT125−A2(K/T125−A2配列)完全κ鎖を増幅する:
T125−A2のVK遺伝子リーダー領域の5’側に位置し、T125−A2のVK遺伝子と同じVK1サブグループに属するVK VH遺伝子の数種類のリーダー領域配列から推定されるコンセンサス配列(かっこ内)を導入する、プライマーA2VK3;この配列は1つのEcoRI制限部位(かくがっこ内)と1つのKozak配列(下線部)もまた含んでなる:
A2VK3(配列番号5):
5’−CCTACC[GAATTC]GCCGCCACC(ATGGACATGAGGGTCCCCGCTCA)−3’;
κの3’側に位置し、1つのEcoRI制限部位(下線部)を導入する、アンチセンスプライマーKSE1:
KSE1(配列番号6):
5’−GGTGGTGAATTCCTAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTCTT−3’。
【0092】
図1は、T125−A2のH鎖およびL鎖増幅戦略の概略図を示す。
【0093】
2−発現ベクターの構築
2.1−T125−A2 H鎖の発現ベクター:T125−H26
T125−H26の構築については、図2に概要を示す。これは2段階で行われる:まず第一に、pCI−neoから誘導された発現ベクターV51へのT125−A2定常領域の挿入により中間ベクターV51−CH/T125−A2を構築し(図3)、その後、可変領域をV51−CH/T125−A2中にクローニングする。
【0094】
2.1.1 T125−A2定常領域のクローニング
増幅したCH/T125−A2配列をリン酸化した後、ベクターV51のEcoRI部位に挿入する(図3)。連結は、V51のEcoRI接着末端を「平滑末端」にするためにそれらをクレノウポリメラーゼで予め処理した後に行う。
【0095】
CH/T125−A2の増幅に用いるプライマーG1によれば、それをV51へ挿入した後に、CH/T125−A2の5’に1つのEcoRI部位を新たに作製することが可能である。
【0096】
2.1.2 T125−A2可変領域のクローニング
増幅により得られたVH/T125−A2配列をEcoRIおよびApaIで消化し、その後、ベクターV51−G1/T125−A2のEcoRIおよびApaI部位に挿入する。
【0097】
2.2−T125−A2 L鎖ベクター:T125−K47
T125−K47の構築については図4に示す。PCRにより得られたK/T125−A2配列をEcoRIで消化し、pCI−neoから誘導された発現ベクターV47のEcoRI部位に挿入する(図5)。
【0098】
2.3−T125−A2 H鎖およびL鎖ベクター:T125−IG24
T125−IG24の構築の概略は図6に示している。このベクターは、T125−A2 H鎖およびκ鎖に対する2つの転写ユニットを含むものであり、K/T125−A2に対する転写ユニットを含むT125−K47のSalI−XhoI断片をT125−H26のXhoIおよびSalI部位に挿入することにより得られる。従って、T125−A2のH鎖およびL鎖はCMVプロモーターの制御下で発現される;その他のプロモーター:RSV、IgG H鎖プロモーター、MMLV LTR、HIV、β−アクチンなども用いられる。
【0099】
2.4−T125−A2H鎖およびL鎖特異的リーダーベクター:T125−L
S4
κ鎖のコンセンサスリーダー配列を、「PCR 5’−RACE」(cDNA 5’末端の高速増幅)による産物の配列決定により予めその配列が決定されたT125−A2のリーダー領域の実際の配列で置き換えた、T125−A2発現用の第2のベクターも構築する。
【0100】
このT125−LS4ベクターの構築については図7に記載する。これは2段階で行われる:まず第一に、T125−A2 κ鎖発現用の新規ベクター、T125−KLS18を構築し、その後、2つのH鎖および改変されたL鎖転写ユニットを含む最終的な発現ベクター、T125−LS4を構成する。
【0101】
2.4.1 ベクターT125−KLS18の構築
ベクターT125−K47のκコンセンサスリーダー配列5’部分が、以下のプライマーを用いて行われるK/T125−A2配列の増幅段階中において、T125の特異的なリーダー配列(KLS/T125−A2)で置き換えられる:
リーダー領域の5’部分(かっこ内)を改変し、1つのEcoRI部位(下線部)とさらに1つのKozak配列(かくがっこ内)も導入する、プライマーA2VK9:
A2VK9:5’−CCTACCGAATTC[GCCGCCACC](ATGAGGGTCCCCGCTCAGCTC)−3’;
プライマーKSE1(段落1.4に記載)。
【0102】
その後、起源となるK/T125−A2配列を含むT125−K47のEcoRI断片を、EcoRIによって消化された新規配列KLS/T125−A2で置き換えることによりベクターT125−KLS18が得られる。
【0103】
2.4.2 最終ベクターT125−LS4の構築
改変されたKLS/T125−A2配列を含むT125−KLS18のSalI−XhoI断片を、T125−H26のXhoIおよびSalI部位に挿入する。
【0104】
3−YB2/0株における抗D抗体の産生
3.1−遺伝子増幅を行わない場合
2種類の発現ベクターT125−IG24およびT125−LS4を用いてYB2/0細胞株(ラット骨髄腫、ATCC株 No.1662)をトランスフェクトした。エレクトロポレーション法によるトランスフェクションおよびG418存在下での形質転換体の選択(neo選択)後に数種のクローンを単離した。組換え抗D抗体の産生は、約0.2μg/10細胞/24時間(R270のクローン3B2に対して得られた値)である。この組換え抗体のADCC活性は、ポリ−D対照のもの以上である(図1)。2種類の発現ベクターを用いて産生された抗体では、産生またはADCC活性レベルにおける有意な差はない。
【0105】
3.2−遺伝子増幅を行う場合
用いられる遺伝子増幅系は、メトトレキサート(MTX)耐性の形質転換体の選択に基づくものである。これには、予めDHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)酵素をコードする転写ユニットを組換え抗体の発現ベクターに導入しておくことが必要である(SHITARI et al., 1994)。
【0106】
3.2.1 発現ベクターT125−dhfr13の構築
図8で示すスキームは、ネズミdhfr遺伝子を含むT125−A2発現ベクターの構築について説明するものである。
第1のベクター(V64)は、pCI−neoから誘導されたベクターであるV43から、SV40プロモーターの3’および合成ポリアデニル化配列の5’、neo遺伝子(HindIII−Csp45I断片)をネズミdhfr遺伝子のcDNA(プラスミドpMT2の増幅により得られる)で置き換えることにより構築した(図9)。その後、このベクターを改変し、dhfr転写ユニットの5’に1つのClaI部位を作出する。次いで、dhfr転写ユニットを含むClaI断片をT125−LS4のClaI部位に挿入する。
【0107】
3.2.2 MTX存在下での選択
第1の手段:
エレクトロポレーション法によりベクターT125−dhfr13でトランスフェクトしたYB2/0細胞を、G418存在下で選択する。次いで、組換え抗体産生形質転換体を漸増量のMTX(25nM〜25μM)の存在下での選択に供する。遺伝子増幅プロセスを反映する組換え抗体産生は、MTX選択段階中に進行する。さらに、MTX耐性形質転換体を制限希釈によりクローニングする。得られた各クローンについての組換え抗体産生のレベルおよび安定性を測定する。遺伝子増幅後の抗D抗体産生力は約13(+/−7)μg/10細胞/24時間である。
【0108】
第2の手段:
エレクトロポレーションによりベクターT125−dhfr13でトランスフェクトしたYB2/0細胞を、G418存在下で選択する。最良の組換え抗体産生形質転換体を、制限希釈によりクローニングした後、漸増量のMTXの存在下で選択する。遺伝子増幅プロセスを反映する各クローンによる産生は、MTX選択段階中に進行する。得られた各MTX耐性クローンについての組換え抗体産生のレベルおよび安定性を測定する。
【0109】
4−YB2/0で発現されたT125抗体の活性の測定
タンパク質Aセファロース(Pharmacia)でのアフィニティークロマトグラフィー、さらに25mM Trisバッファー、150mM NaCl、pH7.4での透析による精製後、ELISA法により抗体T125の濃度を測定する。次いで、上記のADCC法により、in vitroにおける生物学的活性を測定する。結果を図1に示す。
【0110】
実施例3:グリカン構造とFcγRIII依存活性との関係の実証:
1−デオキシマンノジリマイシン(DMM)存在下での細胞培養
いくつかの研究論文には、免疫グロブリンのグリコシル化およびそれらの生物学的活性に対する酵素阻害剤の影響について記載されている。ADCC活性の増大についてはROTHMAN et al., 1989によって報告されている。ここでの増大は抗体のその標的に対する親和性の増強によらないものである。DMMの添加によって起こるグリコシル化の改変は、le Golgiに存在するα−1,2マンノシダーゼIの阻害によるものである。これによりポリマンノシル化、非フコシル化構造がより大きな割合で生じることになる。
【0111】
種々の抗Rh(D)抗体産生株をDMMに接触させ、産生したモノクローナル抗体の機能的活性を、培養上清の形で、または精製後に評価した。
【0112】
細胞 (ヘテロハイブリッドまたはリンパ芽球様細胞)を1〜3×10細胞/ml間で接種し、10%のFCSを含有するIMDM培地(Life Technologies)中、20μg/mlのDMM(Sigma, Boehringer)存在下で培養する。培地を3回交換した後、ヒトIgG ELISA、次いでADCCにより培養上清をアッセイする。
【0113】
【表4】

【0114】
デオキシマンノジリマイシン(DMM)存在下での培養によって、
ヒト−マウスハイブリドーマ D31;
ヒトリンパ芽球様株 DF5;
トランスフェクトネズミ株 CHO中のT125;
により産生される、これまでは活性が弱かった抗体のADCC結果が有意に向上する。
【0115】
cloid T125=T125 RI(3)(実施例1に記載)に由来し、培養の継続によりADCC活性が失われた抗体のADCC活性を、DMMの添加により回復させることができる。
【0116】
ヘテロハイブリドーマF60(その産生については実施例1に記載)により産生される抗体の強い活性は、DMM存在下での培養により改変されない。
【0117】
2−種々の細胞株による組換え抗D抗体の産生:
2.1−抗体DF5発現ベクターの作製:
抗体DF5のヌクレオチド配列、ADCCアッセイにおける陰性対照を用いて、この抗体の数種類の株へのトランスフェクションとともに、抗体T125のトランスフェクションを調査する。
【0118】
組換え抗体T125−A2で用いたものと同じ方法で抗体DF5をコードする配列を単離し、増幅する。
【0119】
対応するcDNAを、まず第1に、EBV形質転換により得られた抗D抗体(IgG G1/λ)産生クローン2MDF5より抽出した全RNAから合成する。
【0120】
次いで、下記のプライマーを用いてこれらのcDNAからH鎖およびL鎖の増幅を行う。
【0121】
DF5のH鎖可変領域(VH/DF5配列)の増幅:
DF5のVH遺伝子リーダー領域(かっこ内)(文献に記載された配列:L. Chouchane et al.)の5’に位置する、プライマーDF5VH1;このプライマーは1つのEcoRI制限部位(かくがっこ内)および1つのKozak配列(下線部)もまた含んでなる:
DF5VH1(配列番号8):
5’CTCTCC[GAATTC]GCCGCCACC(ATGGACTGGACCTGGAGGATCCTCTTTTTGGTGG)−3’;
段落1.2(実施例2)にすでに記載した定常領域(CH)の5’に位置する、アンチセンスプライマーGSP2ANP。
【0122】
DF5の定常領域CH(CH/DF5配列)の増幅:段落1.3(実施例2)ですでに記載したプライマーG1およびH3’Xba。
【0123】
DF5のλL鎖の増幅(LBD/DF5配列):
DF5のVL遺伝子リーダー領域の5’に位置し、2MDF5のVL遺伝子と同じVL1サブグループに属するVL遺伝子の数種類のリーダー領域配列から推定されるコンセンサス配列(かっこ内)を導入する、プライマーDF5VLBD1;この配列は1つのEcoRI制限部位(かくがっこ内)と1つのKozak配列(下線部)もまた含んでなる:
DF5VLBD1(配列番号9):
5’CCTACC[GAATTC]GCCGCCACC(ATGGCCTGGTCTCCTCTCCTCCTCAC)−3’;
λの3’に配置され、1つのEcoRI制限部位(下線部)を導入する、アンチセンスプライマーLSE1:
LSE1(配列番号10):
5’−GAGGAGGAATTCACTATGAACATTCTGTAGGGGCCACTGTCTT−3’。
【0124】
抗体T125−A2発現ベクターと同じ構築スキームに従って、抗体DF5のH鎖(DF5−H31)、L鎖(DF5−L10)ならびにH鎖およびL鎖(DF5−IG1)の発現ベクターの構築を行う。起源となる総てのリーダー配列(増幅プライマーに導入される)はこれらの種々のベクターに保存される。
【0125】
2.2−種々の細胞株の抗体T125およびDF5でのトランスフェクション
3種類の発現ベクターT125−IG24、T125−LS4およびDF5−IgG1を用いて種々の株の細胞をトランスフェクトする:エレクトロポレーションまたはトランスフェクション試薬を用いて安定または一時的トランスフェクションを行う。
【0126】
【表5】

【0127】
G418存在下での形質転換体の選択(neo選択)後に数種のクローンを単離した。
【0128】
ヒト化モノクローナル抗体のエフェクター活性の改変は、CHO、NSOおよびYB2/0細胞株について、CROWE et al. (1992)により発現細胞との関連において説明されている。
【0129】
ここで得られた結果から、産生される抗体の機能的特性に関する発現細胞株の重要性が確認される。調べた細胞のうち、Vero、YB2/0およびCHO Lec−1株だけが、ADCCアッセイにおいて強い細胞溶解性を有する組換え抗Rh(D)モノクローナル抗体を発現することが可能である(実施例1および表3を参照)。
【0130】
【表6】

【0131】
3−グリカン構造の研究
ADCC活性を有する4種類の精製産物(F60、およびT125から誘導される3種の組換えタンパク質)についての抗Rh−D抗体のグリカン構造の特徴づけを、本発明のADCCアッセイにおいて不活性または非常に活性の弱い2種類の精製産物(D31およびDF5)との比較において行った。
【0132】
実際には、オリゴ糖を、特異的な酵素による脱グリコシル化、PNGアーゼFにより、Asn297においてタンパク質から分離する。このように放出されるオリゴ糖を蛍光団で標識し、分離し、さらに:
実側質量値と理論質量値とを比較するマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法によるグリカン構造の精密な特徴づけ;
イオン交換HPLC(GlycoSep C)によるシアリル化度の測定;
順相HPLC(GlycoSep N)による、親水性基準に従うオリゴ糖形態の分離および定量;
高速キャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出(HPCE−LIF)によるオリゴ糖類の分離および定量、
を可能とする種々の補助的手法により同定する。
【0133】
1)活性形のグリカンの特徴づけ
検討の対象とした種々の活性形は、F60、ならびにT125から誘導され、YB2/0で産生された3種類の組換え抗体、R290、R297およびR270である。質量分析法によるグリカン構造の精密な特徴づけ(図7)からは、これらの形が総て二アンテナ型のものであることがわかる。R270の場合では、多くのものが非ガラクトシル化(agalactosylated)、非フコシル化型である(G0、実験質量値 1459.37 Da、図1)。その他に、少量の3種類の構造:非ガラクトシル化、フコシル化型(G0F 1605.41 Da)、モノガラクトシル化、非フコシル化型(G1 1621.26 Da)およびモノガラクトシル化、フコシル化型(G1F 1767.43 Da)も同定される。これらの同じ4種の構造は、R290、F60およびR297を特徴づけるものでもある(図1)。ADCCにおいて活性であるこれらの4種類の抗体は、2分岐N−アセチルグルコサミン残基を有するオリゴ糖がないことによっても特徴づけられる。
【0134】
HPLCおよびHPCE−LIFの種々の手法によるグリカン構造の定量(表1)においては、質量により同定された4つの形態:G0、G0F、G1およびG1Fの存在が確認される。特に、組換え産物のシアリル化度が極めて低く(1〜9.4%)、これは酵素的脱シアリル化前後に得られた質量スペクトルの類似性により確認される。フコシル化度は34〜59%の範囲である。
【0135】
2)不活性形
検討の対象とした種々の不活性形は、D31およびDF5である。種々のクロマトグラフィーおよびキャピラリー電気泳動法によるグリカン構造の定量(表1)によれば、これら2種類の抗体のシアリル化度が50%に近く、さらにD31およびDF5各々のフコシル化度が88および100%であることがわかる。これらのシアリル化度およびフコシル化度は、活性形から得られるものよりも著しく高い。
【0136】
グリカン構造の特徴づけによれば、2種類の抗体の多くのものが二アンテナ型のモノシアリル化、ジガラクトシル化、フコシル化型(G2S1F、表1)であることがわかる。D31の質量分析法による特徴づけ(図7)によれば、中間形が主としてモノガラクトシル化、フコシル化型(1767.43 DaのG1F)およびジガラクトシル化、フコシル化型(1929.66 DaのG2F)であることが示される。
【0137】
不活性抗体DF5は、中間挿入物としてGlcNAc残基を有するオリゴ糖の存在により特徴づけられる。特に、質量分析(図8)によれば、主要な中間形であるモノガラクトシル化、フコシル化、2分岐GlcNAc挿入型(G1FB、1851.03 Da)の存在が示される。これに対し、検討の対象とした活性抗体においては、これらの構造形態は検出できないか、または少量しか存在しない。
【0138】
DMMを作用させた後のD31のADCC活性は、10%〜60%の増加を示す。DMM D31のグリカン構造は、オリゴマンノース型(Man5、Man6およびMan7)が存在する点において、D31のものとは異なっている(図9を参照).
【0139】
3)結論
種々の活性抗体は、二アンテナ型および/またはオリゴマンノシド型のN−グリコシル化によりAsn297において改変されている。二アンテナ形態では、このことが、シアリル化度が非常に低く、フコシル化度が低く、ガラクトシル化度が低く、さらにGlcNAcが挿入されていない短鎖構造に関連している。
【0140】
[参考文献]






【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fcγグリコシル化部位(Asn297、EUナンバリング)において、二アンテナ型のグリカン構造を有する精製されたモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体組成物であって、
前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造のフコース含量が、65%未満であり、
前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造が、60%を超える含量のG0+G1+G0F+G1F型を含む、組成物。
【化1】

【請求項2】
フコース含量が30%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フコース含量が20〜45%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
フコース含量が25から40%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体が、抗原に対するものであり、FcγIII型受容体を発現するエフェクター細胞を活性化し、且つ、前記抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の60%を超える、前記抗原を提示する標的細胞の溶解を生じさせるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗原がRhDである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が、抗原に対するものであり、FcγIII型受容体を発現するエフェクター細胞を活性化し、且つ、前記抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の90%を超える、前記抗原を提示する標的細胞の溶解を生じさせるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗原がRhDである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体がIgG1抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体がIgG3抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
Fcγグリコシル化部位(Asn297、EUナンバリング)において、二アンテナ型のグリカン構造を有する精製されたモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体組成物であって、
前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造が、50%未満の含量のG0F+G1F型を含み、
前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造が、60%を越える含量のG0+G1+G0F+G1F型を含む、組成物。
【請求項12】
前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造が、30%未満の含量のG0F+G1F型を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記精製されたモノクローナル抗体のグリカン構造が、80%を越える含量のG0+G1+G0F+G1F型を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記モノクローナル抗体が、抗原に対するものであり、FcγIII型受容体を発現するエフェクター細胞を活性化して、且つ、前記抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の60%を超える、前記抗原を提示する標的細胞の溶解を生じさせるものである、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体が、前記抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の70%を超える、前記抗原を提示する標的細胞の溶解を生じさせるものである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記モノクローナル抗体が、前記抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の80%を超える、前記抗原を提示する標的細胞の溶解を生じさせるものである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体が、前記抗原に対するポリクローナル抗体によって生じる細胞溶解の90%を超える、前記抗原を提示する標的細胞の溶解を生じさせるものである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記モノクローナル抗体がIgG1抗体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項19】
前記モノクローナル抗体がIgG3抗体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項20】
前記モノクローナル抗体が抗Rh(D)抗体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項21】
前記モノクローナル抗体のグリカン構造のシアル酸含量が、25%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記モノクローナル抗体のグリカン構造のシアル酸含量が、25%未満である、請求項11に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−193184(P2012−193184A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−128845(P2012−128845)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2001−575651(P2001−575651)の分割
【原出願日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】(509302803)エルエフビー バイオテクノロジーズ (4)
【Fターム(参考)】