説明

抗EphA4抗体のエフェクター機能を用いて細胞を障害する方法

本発明は、抗EphA4抗体のエフェクター機能に基づく細胞障害作用の利用に関する。具体的には本発明は、EphA4発現細胞を抗体のエフェクター機能を用いて障害するための、方法および抗EphA4抗体を有効成分として含む薬学的組成物を提供する。EphA4は膵癌細胞において強く発現しているため、本発明は膵癌の治療において特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2006年2月28日に提出された米国特許仮出願第60/777,794号の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗EphA4抗体のエフェクター機能を用いて細胞を障害する方法、およびそのために有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
膵癌はあらゆる悪性腫瘍の中で最も死亡率の高いものの一つであり、患者の5年生存率は4%である。毎年およそ28,000人の患者が膵癌と診断されており、ほぼすべての患者がその疾患のために死亡する(Greenlee, R. T., et al., (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36(非特許文献1))。この悪性腫瘍の予後が不良であることは、早期診断が困難であることおよび現行の治療法に対する反応性が乏しいことの結果である(Greenlee, R. T., et al. (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36(非特許文献2), Klinkenbijl, J. H., et al. (1999) Ann Surg, 230: 776-82; discussion 782-4(非特許文献3))。特に、この疾患の早期の治癒可能な段階での信頼のおけるスクリーニングを可能にする腫瘍マーカーは、現時点では同定されていない。
【0004】
発癌メカニズムの解明を目的とした研究により、抗腫瘍剤の開発のための多くの候補標的分子が明らかにされてきた。例えば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の治療に有効であることが示されている(Sun J et al., (1998) Oncogene, 16 : 1467-73(非特許文献4))。この薬剤は、転写後のファルネシル化に依存するRasに関連する増殖シグナル経路を阻害するために開発された。原癌遺伝子HER2/neuに拮抗するための、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブと併用して抗癌剤を適用するヒトでの臨床試験により、臨床反応の改善が達成され、乳癌患者の全体的な生存率が改善された。チロシンキナーゼ阻害剤STI-571はbcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化する阻害剤である。この薬剤は、bcr-ablチロシンキナーゼの恒常的な活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発された。このような薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を阻害するように設計されている(Molina MA, et al., (2000) Cancer Res, 16:4744-9(非特許文献5))。したがって、癌細胞において、発現が促進される遺伝子産物は一般に、新規抗癌剤を開発するための標的となる可能性がある。
【0005】
他の癌治療方法は、癌細胞に結合する抗体の使用を含む。以下は抗体による癌治療の代表的な機序である。
【0006】
ミサイル治療:
このアプローチでは、癌細胞に特異的に結合する抗体に薬剤を結合し、それにより薬剤を癌細胞に特異的に作用させる。この標的分配(targeted distribution)により、副作用が強い薬剤であっても、癌細胞に集中的に作用させることができる。薬剤に加えて、薬剤の前駆体、前駆体を活性型に代謝する酵素などを抗体に結合するアプローチも報告されている。
【0007】
機能性分子を標的とする抗体の利用:
このアプローチは、例えば増殖因子受容体または増殖因子に結合する抗体を用いて、増殖因子と癌細胞の結合を阻害する。癌細胞の増殖には、増殖因子に大きく依存するものがある。例えば、細胞増殖に関して、上皮細胞増殖因子(EGF)または血管内皮増殖因子(VEGF)依存性であることが知られている癌もある。このような癌においては、増殖因子と癌細胞の結合を阻害することで治療効果が期待できる。
【0008】
抗体の細胞障害作用:
ある種の抗原に結合する抗体は、癌細胞において細胞障害作用を達成する場合がある。このようなタイプの抗体は、抗体分子そのものが、直接的な抗腫瘍効果を有する。癌細胞に対して細胞障害作用を示す抗体は、高い抗腫瘍効果を期待される抗体薬剤として注目されている。
【0009】
【非特許文献1】Greenlee, R. T., et al., (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36
【非特許文献2】Greenlee, R. T., et al. (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36
【非特許文献3】Klinkenbijl, J. H., et al. (1999) Ann Surg, 230: 776-82; discussion 782-4
【非特許文献4】Sun J et al., (1998) Oncogene, 16 : 1467-73
【非特許文献5】Molina MA, et al., (2000) Cancer Res, 16:4744-9
【発明の開示】
【0010】
発明の開示
本発明者らは以前に、EphA4が膵癌細胞において発現がアップレギュレートされる膵癌関連遺伝子であることを開示した。その全体が参照により組み入れられるWO 2004/031412を参照のこと。彼らはさらに、EphA4に対するsiRNAが膵細胞の増殖を抑制することも開示した。その全体が参照により組み入れられるWO 2005/083086を参照のこと。本発明において、本発明者らは、癌細胞において発現の増加を示すEphA4などの遺伝子に注目して、細胞障害作用を誘導することのできる抗体について研究した。その結果から、EphA4発現細胞で、それらの細胞を抗EphA4抗体と接触させると強力な細胞障害作用が誘導されうることが明らかになり、それをもって本発明が完成した。
【0011】
具体的には、本発明は、以下の薬学的組成物または方法に関する:
[1]EphA4発現細胞を障害するための薬学的組成物であって、抗EphA4抗体を活性成分として含有し、該抗体が抗体エフェクター機能を持つ、組成物;
[2]EphA4発現細胞が膵癌細胞である、[1]の薬学的組成物;
[3]抗EphA4抗体がモノクローナル抗体である、[1]の薬学的組成物;
[4]抗体エフェクター機能が、抗体依存性細胞障害作用または補体依存性細胞障害作用のいずれかまたは両方である、[1]の薬学的組成物;
[5]抗体がVH鎖およびVL鎖で構成され、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と命名されたCDRアミノ酸配列を有し、各VH鎖およびVL鎖内の各CDRのアミノ酸配列が以下からなる群より選択される、[1]の薬学的組成物:
ヒト VH CDR1 : ELSMH (SEQ ID NO: 10)、
ヒト VH CDR2 : GFDPEDGETIYAQKFQG (SEQ ID NO: 11)、
ヒト VH CDR3 : AQPFHWGDDAFDI (SEQ ID NO: 12)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGSNTVN (SEQ ID NO: 15)、
ヒト VL CDR2 : SNNQRPS (SEQ ID NO: 16)、
ヒト VL CDR3 : AAWDDSLNGPV (SEQ ID NO: 17); および
ヒト VH CDR1 : SNSAAWN (SEQ ID NO: 20)、
ヒト VH CDR2 : RTYYRSKWYNDYAVSVKS (SEQ ID NO: 21)、
ヒト VH CDR3 : DSLRSFDY (SEQ ID NO: 22)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGNNYVS (SEQ ID NO: 24)、
ヒト VL CDR2 : DNNKRPS (SEQ ID NO: 25)、
ヒト VL CDR3 : GTWDSSLSAVV (SEQ ID NO: 26);
[6]ヒトVHがSEQ ID NO:27または29のアミノ酸配列に対応し、ヒトVLがSEQ ID NO:28または30のアミノ酸配列に対応する、[5]の組成物;
[7]抗体がヒトIgG1のFc領域をさらに含む、[5]の組成物;
[8]VH鎖およびVL鎖で構成される抗体であって、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と命名されたCDRアミノ酸配列を有し、各VH鎖およびVL鎖内の各CDRのアミノ酸配列が以下からなる群より選択される、抗体:
ヒト VH CDR1 : ELSMH (SEQ ID NO: 10)、
ヒト VH CDR2 : GFDPEDGETIYAQKFQG (SEQ ID NO: 11)、
ヒト VH CDR3 : AQPFHWGDDAFDI (SEQ ID NO: 12)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGSNTVN (SEQ ID NO: 15)、
ヒト VL CDR2 : SNNQRPS (SEQ ID NO: 16)、
ヒト VL CDR3 : AAWDDSLNGPV (SEQ ID NO: 17); および
ヒト VH CDR1 : SNSAAWN (SEQ ID NO: 20)、
ヒト VH CDR2 : RTYYRSKWYNDYAVSVKS (SEQ ID NO: 21)、
ヒト VH CDR3 : DSLRSFDY (SEQ ID NO: 22)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGNNYVS (SEQ ID NO: 24)、
ヒト VL CDR2 : DNNKRPS (SEQ ID NO: 25)、
ヒト VL CDR3 : GTWDSSLSAVV (SEQ ID NO: 26);
[9]ヒトVHがSEQ ID NO:27または29のアミノ酸配列に対応し、ヒトVLがSEQ ID NO:28または30のアミノ酸配列に対応する、[8]の抗体;
[10]ヒトIgG1のFc領域をさらに含む、[8]の抗体;
[11][8]の抗体をコードする、単離されたポリヌクレオチド;
[12][11]のポリヌクレオチドを含有するベクター;
[13][12]のベクターを含有する、単離された宿主細胞;
[14]抗体を産生するためのプロセスであって、前記ポリヌクレオチドが発現されるように[13]の宿主細胞を培養する段階、および宿主細胞培養物から該抗体を回収する段階を含む、プロセス;
[15]EphA4発現細胞を障害するための薬学的組成物であって、[11]のポリヌクレオチド、またはそれを含有するベクターを含有する、組成物;
[16]EphA4発現細胞を障害するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)EphA4発現細胞を抗EphA4抗体と接触させる段階、および
(b)該細胞と結合した該抗体のエフェクター機能によってEphA4発現細胞を障害する段階;
[17]EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を有する抗体を誘導するための免疫原性組成物であって、活性成分として、EphA4、その免疫学的活性断片、またはEphA4もしくはその免疫学的活性断片を発現しうるDNAを含む、組成物;
[18]EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を有する抗体を誘導するための方法であって、EphA4、その免疫学的活性断片、またはEphA4もしくはその免疫学的活性断片を発現しうる細胞もしくはDNAを投与する段階を含む、方法;ならびに
[19]対象に抗EphA4抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を投与する段階を含む、対象における膵癌を治療または予防するための方法であって、該抗体が抗体エフェクター機能を持つ、方法。
【0012】
本発明は、抗体のエフェクター機能を用いてEphA4発現細胞を障害するための薬学的組成物に関し、ここで組成物は活性成分として抗EphA4抗体を含有する。本発明はまた、抗EphA4抗体のエフェクター機能を用いてEphA4発現細胞を障害するための薬学的組成物を産生することを目的とする抗EphA4抗体の使用に関する。本発明の薬学的組成物は、抗EphA4抗体および薬学的に許容される担体より構成される。
【0013】
本発明者らは、前立腺癌および膵癌の患者から収集された前立腺癌細胞または膵癌細胞、および正常細胞の遺伝子発現分析についてcDNAマイクロアレイを用いた。続いて、膵癌細胞において特異的に増強された発現を有する多くの遺伝子を同定した。膵癌細胞において発現が変化するこれらの遺伝子のうちの一つの遺伝子であり、主要器官において低い発現レベルを有する細胞質膜タンパク質をコードするEph受容体A4(本明細書では「EphA4」と呼ぶ)遺伝子が、膵癌の治療のための候補標的遺伝子として選択された(Nakamura T, et al. (2004) Oncogene. 2004 Mar 25;23(13) : 2385-400)。主要器官において低い発現レベルを有する遺伝子を選択することによって、副作用の危険を回避することができると推定された。このような方法で選択される遺伝子によってコードされるタンパク質のうち、抗EphA4抗体が、EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を有すると確認された。
【0014】
本発明者らによって得られた知見は、強制的発現系においてc-myc-Hisタグ付加されたEphA4が細胞質膜に局在化したことを示し、それは免疫蛍光顕微鏡を用いて確認された。EphA4遺伝子は、そのN末端でシグナルペプチドとして機能することが予想されるアミノ酸配列をコードする。上記のように、本タンパク質は主に細胞質膜に局在化することが観察され、したがって膜貫通タンパク質であると推定された。さらに、主要器官におけるこの遺伝子の低い発現レベル、および膵癌細胞におけるその高い発現は、EphA4が臨床的なマーカーおよび治療標的として有用であることを証明した。
【0015】
エフェクター機能を用いて癌細胞を破壊するためには、例えば次のような条件が求められる:
・癌細胞の膜表面上での多数の抗原分子の発現、
・癌組織内での抗原の均一な分布、
・抗体と結合した抗原が長く細胞表面に留まっていること。
【0016】
より具体的には、例えば、抗体が認識する抗原が細胞膜表面に発現している必要がある。さらに、癌組織を構成する細胞における抗原陽性細胞の割合ができるだけ高いことが好ましい。全ての癌細胞が抗原陽性であることが理想的な条件である。癌細胞集団において抗原陽性細胞と陰性細胞が混在する場合、それらに特異的な抗体の臨床的な治療効果は有意に減弱されうる。
【0017】
一般に、最大限の数の分子が細胞表面に発現している場合、強力なエフェクター機能が期待できる。さらに、そのような抗原に結合した抗体が細胞内に取り込まれないことが重要である。一部の受容体は、リガンドとの結合の後に細胞内に取り込まれる(エンドサイトーシス)。同様に、細胞表面抗原に結合した抗体が細胞内に取り込まれる場合がある。このような現象によって抗体が細胞内に取り込まれることを、インターナリゼーションと呼ぶ。インターナリゼーションが起きると、抗体の定常(Fc)領域が細胞内に取り込まれる。しかしながら、エフェクター機能に必要な細胞または分子は、抗原発現細胞の外にとどまる。そのため、抗体のエフェクター機能が所望される場合、抗体の限られたインターナリゼーションを引き起こす抗原を選択することが重要である。EphA4がこのような特徴を備えた標的抗原であることは、本発明者らによって始めて明らかにされた。
【0018】
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という語は、別に明確に示されない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0019】
「単離された」または「精製された」ポリペプチドとは、細胞材料、例えば糖質、脂質、もしくはそのタンパク質が由来する細胞もしくは組織源からの他の混入タンパク質などを実質的に含まない、かつ/または化学合成された場合には前駆化学物質もしくは他の化学物質を実質的に含まない、ポリペプチドのことである。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、ポリペプチドの調製物を含有し、該ポリペプチドは、該ポリペプチドがそこから単離されるか組換え的に産生される細胞の細胞成分から分離されている。したがって、細胞材料を実質的に含まないポリペプチドには、異種タンパク質(本明細書では「混入タンパク質」とも称する)を(乾燥重量で)約30%、20%、10%、または5%未満しか有しないポリペプチドの調製物が含まれる。ポリペプチドが組換え的に産生される場合には、それは培地も実質的に含まないことが好ましく、これには培地がタンパク質調製物の容積の約20%、10%、または5%未満であるポリペプチドの調製物が含まれる。タンパク質が化学合成によって産生される場合には、それは前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まないことが好ましく、これにはタンパク質の合成に関わる前駆化学物質または他の化学物質がタンパク質調製物の容積の(乾燥重量で)約30%、20%、10%、5%未満であるポリペプチドの調製物が含まれる。特定のタンパク質調製物が単離または精製されたポリペプチドを含有することは、例えば、タンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色の後の単一バンドの出現によって示すことができる。好ましい一態様において、本発明の抗体またはそれらの断片は単離または精製されている。
【0020】
「単離された」または「精製された」核酸分子は、その核酸分子の天然源に存在する他の核酸分子から分離されたものである。「単離された」または「精製された」核酸分子、例えばcDNA分子は、組換え法によって産生された場合には他の細胞材料もしくは培地を実質的に含まない場合がありうる、または化学合成された場合には前駆化学物質もしくは他の化学物質を実質的に含まない場合がありうる。好ましい一態様において、本発明の抗体またはその断片をコードする核酸分子は単離または精製されている。
【0021】
「抗体」および「免疫グロブリン」は、同じ構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体は特定の抗原に対する結合特異性を呈し、一方、免疫グロブリンは抗体と、その抗原特異性が規定されていない他の抗体様分子との両方を含む。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって低レベルで、骨髄腫によってより高いレベルで産生される。
【0022】
「天然の抗体および免疫グロブリン」は、典型的には、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同一な軽(L)鎖および2つの同一な重(H)鎖で構成される。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖と連結しているが、異なる免疫グロブリンのアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数は異なることがある。各重鎖および軽鎖はまた、規則的な間隔で配置された鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は一方の端に可変領域(VH)を有し、それに続いて複数の定常領域(CH)を有する。各軽鎖は一方の端に可変領域(VL)を有し、もう一方の端に定常領域(CL)を有する;軽鎖の定常領域は重鎖の第1の定常領域と整列し、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖の可変領域間のインターフェースを形成すると考えられている(Chothia et al., (1985) J Mol Biol.;186:651-63; Novotny and Haber, (1985) Proc Natl Acad Sci USA.;82:4592-6)。
【0023】
「可変」という用語は、可変領域のある部分が配列に関して抗体間で大きく異なり、このためそれぞれの特定の抗体の、その特定の抗原への結合および特異性に関わると推定されるという事実を指す。しかし、可変性は抗体の可変領域全体に均一に分布しているわけではない。むしろそれは一般に、軽鎖および重鎖の両方の可変領域にある、「相補性決定領域」(「CDR」としても知られる)と呼ばれる3つの区域、すなわち超可変領域に集中している。可変領域の中で比較的高度に保存されている部分はフレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ、主としてβ-シート配置をとる4つのフレームワーク領域を含み、それらには、連結するループを形成し、場合によってはβ-シート構造の一部を形成する3つのCDRが連結している。各鎖内のCDRはフレームワーク領域に近接して結び付けられており、他の鎖からのCDRとともに、抗体の三次元的な抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md)。定常領域は、抗体の抗原との結合に直接的には関わらないが、例えば抗体依存性細胞障害作用における抗体の関与といったさまざまなエフェクター機能を呈する。
【0024】
抗体にパパイン消化を施すと、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と呼ばれる2つの同一な抗原結合断片、および残りの「Fc」断片が得られる。ペプシン処理を行うと、2つの抗体結合部位を有するF(ab')2断片が得られる。「Fv」は、完全な抗原認識・結合部位を含有する最小の抗体断片である。この領域は一般に、重鎖および軽鎖の可変領域が1つずつ非共有結合によって強固に会合した二量体で構成される。この配置において、それぞれの可変領域の3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定する。これらの6つのCDRはまとまって、抗原に対する結合特異性を抗体に付与する。しかし、単一の可変領域(または抗原に対して特異的なCDR 3つのみで構成される、Fvの半分)であっても、結合部位全体と比べると親和性は低いものの、抗原を認識してそれと結合する能力を有する。
【0025】
Fab断片もまた、軽鎖の定常領域および重鎖の第1の定常領域(CH-1)を含有する。Fab'断片は、重鎖CH-1領域のカルボキシ末端に、抗体ヒンジ領域に由来する1つまたは複数のシステインを含む少数の残基が付加されている点で、Fab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常領域のシステイン残基が遊離チオール基を有するFab'の、本明細書での呼称である。F(ab')2抗体断片は当初、ヒンジシステインを間に有するFab'断片の対として産生された。抗体断片の他の化学的カップリングも当技術分野で公知である。
【0026】
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、その定常領域のアミノ酸配列に基づいて、κ(カッパ)およびλ(ラムダ)とそれぞれ呼ばれる2つの明確に異なる種類のうち1つに割り当てることができる。
【0027】
免疫グロブリンは、その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、種々のクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2といったサブクラス(アイソタイプ)にさらに細分することができる。免疫グロブリンの種々のクラスに対応する重鎖定常領域は、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。免疫グロブリンの種々のクラスのサブユニット構造および三次元配置は、当技術分野において周知である。
【0028】
本明細書で用いる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団、すなわち、わずかな量で存在しうる天然の突然変異の可能性を除き、集団内の個々の抗体が同一であるような集団から得られる抗体のことを指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位を対象とする。さらに、種々の異なる決定基(エピトープ)を対象とする種々の抗体を典型的に含む、従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマの培養によって合成可能であり、他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。このように、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られた抗体の特徴を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生を要すると解釈されるべきではない。例えば、本発明のモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein, (1975) Nature.;256:495-7によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することもでき、または組換えDNA法(Cabilly et al., (1984) Proc Natl Acad Sci USA.;81:3273-7)によって作製することもできる。
【0029】
本明細書に記載のモノクローナル抗体は、特に、重鎖および/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来する抗体、または特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一もしくは相同であり、一方、鎖の残りの部分が、もう1つの種に由来する抗体、またはもう1つの抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一もしくは相同である「キメラ型」の抗体または免疫グロブリン、ならびに所望の生物活性を示す限りにおいて、そのような抗体の断片も含む(Cabilly et al., 前記; Morrison et al., (1984) Proc Natl Acad Sci USA.;81:6851-5)。最も通常のキメラ型の抗体または免疫グロブリンは、ヒトおよびネズミの抗体断片、一般にヒト定常領域およびマウス可変領域で構成される。
【0030】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、ネズミ)抗体とは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する特異的なキメラ型の免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはその断片のことである。このような断片には、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、および抗体の他の抗原結合性部分配列も含まれる。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する、非ヒト種、例えば、マウス、ラット、またはウサギのCDR由来の残基(ドナー抗体)によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基によって置換されてもよい。本発明の文脈においては、ヒト化抗体におけるフレームワークのうち少数、2つ、または好ましくは1つのみが、非ヒト残基のそれによって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入されたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含有してもよい。これらの修飾は一般に、抗体の性能をさらに改良および最適化するために導入される。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変領域の実質的にすべてを含むと考えられ、ここで、CDR領域のすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域である。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのFcの、少なくとも一部分も含むことが最適である。さらなる詳細については、Jones et al., (1986)Nature.;321:522-5; Riechmann et al., (1988)Nature.;332:323-7; Presta, (1992)Curr Opin Struct Biol. 2:593-6を参照のこと。
【0031】
「一本鎖Fv」すなわち「sFv」抗体断片は、抗体のVH領域およびVL領域で構成され、これらの領域は単一のポリペプチド鎖に存在する。Fvポリペプチドはさらに、VH領域とVL領域との間に、sFvが抗原結合のために必要な所望の三次元構造を形成することを可能にするポリペプチドリンカーを含むことが好ましい。抗体V領域に由来する自然に凝集するが化学的には分離している軽鎖および重鎖ポリペプチドを、抗原結合部位の構造と実質的に同様な三次元構造へとフォールディングするsFv分子に変換させる化学構造を見分けるための、数々の方法が記載されている(米国特許第5,091,513号、第5,132,405号、および第4,946,778号;Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenberg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994))。
【0032】
上述したFc領域(断片、結晶化性)は抗体の「Y」字の基部(stem)に由来し、それぞれが2〜3個の定常領域(抗体のクラスによる)に寄与する2つの重鎖で構成される。Fcはさまざまな細胞受容体および補体タンパク質と結合する。このようにして、Fcは抗体の種々の生理的作用(オプソニン化、細胞溶解、肥満細胞、好塩基球、および好酸球の脱顆粒、ならびに他のプロセス)を媒介する。
【0033】
いくつかの細胞(例えば、肥満細胞および食細胞)は、抗体と結合するための特異的な受容体を細胞表面に有する。これらはFc受容体と呼ばれており、その名前が示唆するように、これらの受容体はいくつかの抗体(例えば、IgA、IgG、IgE)のFc領域と相互作用する。特定の抗体と特定の細胞上のFc受容体との結合は、その細胞のエフェクター機能を誘発すると考えられ(例えば、食細胞は貪食し、肥満細胞は脱顆粒すると考えられる)、最終的には、侵入してくる微生物の破壊をもたらすと考えられる。Fc受容体はアイソタイプ特異的であり、このことは、種々の状況においては特定の免疫機序のみを必要として抗原に応答するということから、免疫系に大きな柔軟性を与える。したがって、本発明の文脈において、「エフェクター機能」という用語は、抗体のFc領域に関わる細胞障害作用を指す。あるいは、エフェクター機能を、抗体の抗原認識によって誘発される生物活性を規定する役割として説明することもできる。例えば、抗原と結合した抗体のFc領域がそれらの抗原を発現する細胞を障害するという効果を働かせる機能もまた、抗体のエフェクター機能と呼ぶことができる。本明細書において、好ましい標的細胞は癌細胞である。
【0034】
抗原に対する抗体の結合が直接的な生物学的効果を有しないことも往々にしてある。むしろ、有意な生物学的効果は抗体の二次的な「エフェクター機能」の結果である。免疫グロブリンはさまざまなこれらのエフェクター機能を媒介する。通常、特定のエフェクター機能を遂行する能力は、抗体がその抗原と結合することを必要とする。しかし、あらゆる免疫グロブリンがすべてのエフェクター機能を媒介するわけではない。公知の抗体エフェクター機能の例には、以下のものが含まれる:抗体依存性細胞媒介性細胞障害作用(ADCC)、補体依存性細胞障害作用(CDC)、および中和活性。各機能について以下に述べる。
【0035】
抗体依存性細胞媒介性細胞障害作用(ADCC):
さまざまな抗体のFc領域によって遂行されるエフェクター細胞機能は、抗体のクラスに大きく依拠する。免疫グロブリンのクラスIgG、IgE、またはIgAのFc領域に対して特異的なFc受容体を含有する細胞が存在する。IgG、IgE、およびIgAクラスの抗体のFc領域はそれぞれ、特定のFc受容体と結合し、対応するFc受容体を発現する細胞は細胞膜などに結合した抗体を認識してそれと結合する。結果として、例えば、Fc受容体を有する細胞は活性化されて、細胞間抗体輸送において機能する。
【0036】
例えば、IgGクラスの抗体は、T細胞、NK細胞、好中球、およびマクロファージ上のFc受容体によって認識される。これらの細胞はIgGクラスの抗体のFc領域と結合してそれによって活性化され、これらの抗体が結合した細胞に対する細胞障害作用を発現する。抗体のエフェクター機能を介して細胞障害作用を獲得するT細胞、NK細胞、好中球、マクロファージなどの細胞は、エフェクター細胞と呼ばれる。特に、IgGクラスの抗体は、これらの細胞上のFc受容体を介してエフェクター細胞を活性化し、続いて抗体の可変領域が結合した標的細胞を死滅させる。これは抗体依存性細胞媒介性細胞障害作用(ADCC)と呼ばれる。ADCCはエフェクター細胞の種類に基づいて以下のように分けることができる:
ADMC:IgG依存性マクロファージ媒介性細胞障害作用、および
ADCC:IgG依存性NK細胞媒介性細胞障害作用。
【0037】
本発明のADCCにおけるエフェクター細胞の種類は限定されない。言い換えると、本発明のADCCは、マクロファージがエフェクター細胞であるADMCも含む包含する。
【0038】
抗体ADCCは、抗腫瘍効果のカンファレンスにおいて、特に抗体を用いる癌治療において、重要な機序であることが知られている(Clynes RA, et al., (2000) Nature Med., 6: 443-6)。例えば、抗CD20抗体キメラ抗体の治療効果とADCCとの間の密接な関係が報告されている(Cartron G, et al., (2002) Blood, 99: 754-8)。したがって、本発明の文脈においては、ADCCは、抗体のエフェクター機能のうちでも特に重要である。
【0039】
ADCCは、モノクローナル抗体の臨床的有効性のための鍵となるエフェクター機能であり、特に癌治療の分野でそうである。例えば、ADCCは、臨床応用がすでに始まっているリツキサン(Rituxan)、ハーセプチンなどの抗腫瘍効果において重要な機序であると考えられている。リツキサンおよびハーセプチンはそれぞれ非ホジキンリンパ腫および転移性乳癌の治療のための公知の治療薬である。
【0040】
現在、ADCCを介した細胞障害作用の機序は、おおむね以下のように説明されている:細胞表面に結合した抗体を介して標的細胞と架橋しているエフェクター細胞は、ある種の致死的シグナルを標的細胞に伝達することにより、標的細胞のアポトーシスを誘導すると考えられている。より具体的には、ADCCは主として、活性化活性および阻害活性の両方を有する密接に関連したFcγ受容体のセットによって媒介される。いかなる場合にも、エフェクター細胞によって細胞障害作用を誘導する抗体は、本発明の文脈におけるエフェクター機能を持つ抗体に含まれる。
【0041】
関心対象の分子のADCC活性を評価するためには、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されたものなどのインビトロADCCアッセイを実施することができる。代替的または追加的に、関心対象の分子のADCC活性を、インビボで、例えば、Clynes et al.,(1998) Proc Natl Acad Sci USA.;95:652-56に開示されたものなどの動物モデルで評価することもできる。
【0042】
補体依存性細胞障害作用(CDC):
抗原と結合した免疫グロブリンのFc領域は、補体経路を活性化することが知られている。免疫グロブリンのクラスにより、活性化経路が異なる場合があることも明らかにされている。例えばヒト抗体のうち、IgMおよびIgGが古典経路を活性化する。一方、IgA、IgD、およびIgEは、古典経路を活性化しない。すなわち、補体を活性化する機能はIgMおよびIgGクラスの抗体に限られる。抗体の可変領域が結合した細胞を溶解させる機能を特に、補体依存性細胞障害作用(CDC)と呼ぶ。
【0043】
活性化された補体は、多くの反応を経て、細胞膜障害活性を有するC5b-9膜侵襲複合体(MAC)を産生する。こうして作製されたMACは、エフェクター細胞に依存することなくウイルス粒子および細胞膜を障害すると考えられている。MACによる細胞障害作用は以下に基づいている。MACは細胞膜に対する強い結合親和性を持つ。細胞膜に結合したMACは細胞膜に穴をあけ、それによって細胞への水の流出入が容易となる。その結果、細胞膜が不安定化し、または浸透圧が変化し、細胞が破壊される。活性化された補体による細胞障害作用は、抗原に結合した抗体の近傍の膜にしか及ばない。そのため、MACによる細胞障害作用は抗体の特異性に依存している。ADCCとCDCは相互に依存することなく細胞障害作用を発現することができる。しかしながら実際には、生体内でこれらの細胞障害作用が、複合的に作用している場合もある。
【0044】
関心対象の分子のCDC活性を評価するために、CDCアッセイ、例えばGazzano-Santoro et al., (1997) J Immunol Methods. ; 202 : 163-71において記載されるようなCDCアッセイを実施してもよい。
【0045】
中和活性:
病原体の感染力および毒素の活性を奪うことが可能な抗体は、当技術分野において公知である。抗体による中和は、抗原性可変領域の抗原への結合を通じて達成されうる、または代わりに、補体の介在を必要とする場合がある。例えば、抗ウイルス抗体は、ウイルスの感染力を奪うために補体の介在を必要とする場合がある。補体の関与には、Fc領域が不可欠である。したがって、このような抗体は、ウイルスおよび細胞の中和のためにFcを必要とするエフェクター機能を持つ。
【0046】
これらの中で、本発明において好ましいエフェクター機能は、ADCCもしくはCDCのいずれかまたはその両方である。本発明は、特定の抗EphA4抗体が、EphA4発現細胞に結合してエフェクター機能を発現するという知見に基づいている。
【0047】
本発明は、EphA4発現細胞を障害するための方法にも関し、このような方法は以下の段階を含む:
(1)EphA4発現細胞を抗EphA4抗体と接触させる段階、および
(2)EphA4発現細胞に結合した抗体のエフェクター機能を用いてEphA4発現細胞を障害する段階。
【0048】
本発明の方法または薬学的組成物において、任意のEphA4発現細胞が、障害されるかまたは殺傷され得る。例えば、膵癌細胞は、本発明のEphA4発現細胞として好ましい。これらのうちで、膵癌細胞(pancreatic carcinoma cell)が好ましい。
【0049】
細胞と抗体はインビボまたはインビトロで接触させることができる。癌細胞をEphA4発現細胞としてインビボで標的にする場合、本発明の方法は事実上、癌に対する治療法または予防法である。具体的には、本発明は、以下の段階を含む癌の治療法を提供する:
(1)EphA4に結合する抗体を癌患者に投与する段階、および
(2)癌細胞に結合した抗体のエフェクター機能を用いて癌細胞を障害する段階。
【0050】
本発明者らは、エフェクター機能を用いて、EphA4に結合する抗体がEphA4発現細胞、特に膵癌細胞を効果的に障害することを確認した。本発明者らはまた、EphA4が膵癌細胞において高い確率で高発現することを確認した。さらに、正常組織のEphA4発現レベルは低い。総合すると、この情報は、抗EphA4抗体が投与される膵癌の治療法が、副作用の危険はほとんど伴わない効果的なものであり得ることを示唆する。
【0051】
IgA、IgE、またはIgGのFc領域を含む抗体はADCCの発現に不可欠である。同様に、IgMまたはIgGの抗体Fc領域は、CDCを発現するのに好ましい。
【0052】
しかし、本発明の抗体は、所望のエフェクター機能を持つ限り、限定されない。Fc部分の変異体、類似体、または誘導体は、例えば、残基または配列をさまざまに置換することによって構築することができる。特に、本発明は、結果として得られるエフェクター機能が向上するように、最適化されたFcγ受容体の親和性および特異性を伴って作られたFc変異体で構成された抗体を意図する。
【0053】
変異体(または類似体)ポリペプチドには、1つまたは複数のアミノ酸残基がFcアミノ酸配列に追加されている挿入変異体が含まれる。挿入はタンパク質の一方もしくは両方の末端に位置してもよく、またはFcアミノ酸配列の内部領域に配置されてもよい。追加的な残基を一方または両方の末端に有する挿入変異体には、例えば、融合タンパク質、およびアミノ酸タグまたは標識を含むタンパク質が含まれうる。例えば、Fc分子は、特に分子が大腸菌などの細菌細胞において組換え的に発現される場合には、任意でN末端Metを含有してもよい。
【0054】
Fc欠失変異体では、Fcポリペプチドの中の1つまたは複数のアミノ酸残基が除去されている。欠失はFcポリペプチドの一方もしくは両方の末端で生じさせてもよく、またはFcアミノ酸配列の中の1つもしくは複数の残基の除去によってもよい。そのため、欠失変異体にはFcポリペプチド配列のすべての断片が含まれる。
【0055】
Fc置換変異体の文脈においては、Fcポリペプチドの1つまたは複数のアミノ酸残基が除去されて代替的な残基によって置き換えられる。当業者は、単一のアミノ酸または低いパーセンテージのアミノ酸を改変する、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、または置換により、元のアミノ酸側鎖の性質の保存がもたらされることを認識すると考えられる。それらは「保存的置換」または「保存的修飾」と呼ばれ、この時、タンパク質の改変により、同様の機能を有するタンパク質が生じる。機能的に同様なアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野で周知である。アミノ酸側鎖の性質の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通に有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含有する側鎖(S、T、Y);イオウ原子を含有する側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含有する側鎖(D、N、E、Q);塩基を含有する側鎖(R、K、H);および芳香族を含有する側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8つの群はそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含有する:
(1)アラニン(A)、グリシン(G);
(2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
(4)アルギニン(R)、リジン(K);
(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
(7)セリン(S)、トレオニン(T);および
(8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照)。
【0056】
一局面において、置換物は本質的に保存的である。しかし、本発明はそれに限定されず、ポリペプチドが必要な抗体エフェクター機能を保持する限り、非保存的な置換物も含む。
【0057】
好ましくは、親ポリペプチドFc領域はヒトFc領域、例えば、天然配列のヒトFc領域ヒトIgG1(Aおよび非Aアロタイプ)またはヒトIgG3のFc領域である。一態様において、ADCCが改良された変異体は、天然配列のIgG1またはIgG3を有する抗体のFc領域、および変異体の抗原結合領域よりも、ADCCを実質的により効果的に媒介する。好ましくは、変異体は、Fc領域の298位、333位、および334位の残基のうちの2つまたは3つの置換を含むか、または本質的にそれらからなる。免疫グロブリン重鎖における残基の付番方式は、Kabatら(前記)におけるようなEUインデックス(EU index)のそれであり、これは参照により本明細書に明確に組み入れられる。298位、333位、および334位の残基が(例えば、アラニン残基によって)置換されていることがより好ましい。さらに、ADCC活性が改良されたFc領域変異体を作製するために、ADCCを媒介するための重要なFcRであると考えられているFcγRIIIに対する結合親和性が改良されたFc領域変異体が一般に作られる。例えば、そのような変異体を作製するために、親Fc領域に、アミノ酸位置256、290、298、312、326、330、333、334、360、378、または430のうちの任意の1つまたは複数においてアミノ酸修飾(例えば、挿入、欠失、または置換)を導入してもよい。FcγRIIIに対する結合親和性が改良された変異体がさらに、FcγRIIに対する結合親和性の低下、特にFcγRIIb受容体の阻害に対する親和性の低下を有してもよい。
【0058】
必要な抗体エフェクター機能を保つためには、少数または低いパーセンテージのアミノ酸のみを修飾する(付加する、欠失させる、挿入する、または置換する)ことが好ましい。しかしながら、多数の変異体アミノ酸の挿入、欠失、および/または置換(例えば、1〜50個のアミノ酸、好ましくは1〜25個のアミノ酸、より好ましくは1〜10個のアミノ酸)も想定され、本発明の範囲に含まれる。あるいは、修飾されるアミノ酸のパーセンテージは好ましくは20%またはそれ未満であり、より好ましくは15%またはそれ未満であり、より好ましくは10%であり、さらにより好ましくは1〜5%である。保存的アミノ酸置換が一般に好ましいが、本発明はそれに限定されない。さらに、改変物がペプチド模倣物またはD-アミノ酸などの改変アミノ酸の形態にあってもよい。
【0059】
あるいは、本発明において、Fc領域に付加された糖鎖のように、アミノ酸配列以外の生化学的性質を改変することによってADCC活性を向上させることもできる。例えば、IgGのフコース残基の欠如によってADCC活性が向上しうることが報告されている(Shinkawa et al., (2003) J. Biol. Chem.: 278(5): 3466-73)。したがって、Fc領域のフコース残基を欠く抗体が本発明の文脈において好ましい。より具体的には、ADCC活性を向上させるために、Fc領域のCH2領域に結合しているフコース残基を除去してもよい。CHO以外の細胞を、Fc領域のフコース残基を欠く抗体の発現のための宿主細胞として用いることもできる。本発明においては、フコース残基を、CHOにおいて高発現されるα1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)によって抗体に付加した。
【0060】
したがって、これらのクラスに属するヒト由来抗体は本発明において好ましい。ヒト抗体は、ヒトから得られた抗体産生細胞、またはヒト抗体遺伝子を移植したキメラ動物を用いて獲得することができる(Ishida I, et al., (2002) Cloning and Stem Cells., 4:91-102)。
【0061】
さらに、抗体Fc領域は任意の可変領域に接合することができる。具体的には、異なる動物種の可変領域にヒトの定常領域を結合したキメラ抗体が当技術分野において公知である。あるいは、ヒト由来の可変領域に任意の定常領域を結合して、ヒト-ヒトキメラ抗体を得ることもできる。さらに、ヒト抗体の可変領域に対応する相補性決定領域(CDR)を異種抗体のCDRで置換する技術であるCDR移植技術も公知である(「Immunoglobulin genes」, Academic Press (London), pp260-274, 1989; Roguska MA, et al., (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 91:969-73)。CDRの置換により、抗体の結合特異性が置換される。すなわち、ヒトEphA4結合抗体のCDRを移植されたヒト化抗体は、ヒトのEphA4を認識する。移植された抗体は、ヒト化抗体とも呼ばれる。このようにして得られ、エフェクター機能に不可欠なFc領域を備えた抗体は、可変領域の由来に関わらず、本発明の抗体として用いることができる。例えば、可変領域が、他のクラスまたは他の種の免疫グロブリンに由来するアミノ酸配列を含んでいる場合であっても、ヒトIgGのFcを含む抗体は、本発明において好ましい。
【0062】
本発明の抗体のVH領域およびVL領域はそれぞれ、フレームワーク領域によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と命名された3つのCDRを含む。CDRのアミノ酸配列は、抗体がEphA4と特異的に結合しうる限り、特に限定されない。好ましいCDRアミノ酸配列の例には以下のものが含まれるが、これらに限定されない:
ヒト VH CDR1 : ELSMH (SEQ ID NO: 10)、
ヒト VH CDR2 : GFDPEDGETIYAQKFQG (SEQ ID NO: 11)、
ヒト VH CDR3 : AQPFHWGDDAFDI (SEQ ID NO: 12)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGSNTVN (SEQ ID NO: 15)、
ヒト VL CDR2 : SNNQRPS (SEQ ID NO: 16)、
ヒト VL CDR3 : AAWDDSLNGPV (SEQ ID NO: 17); および
ヒト VH CDR1 : SNSAAWN (SEQ ID NO: 20)、
ヒト VH CDR2 : RTYYRSKWYNDYAVSVKS (SEQ ID NO: 21)、
ヒト VH CDR3 : DSLRSFDY (SEQ ID NO: 22)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGNNYVS (SEQ ID NO: 24)、
ヒト VL CDR2 : DNNKRPS (SEQ ID NO: 25)、
ヒト VL CDR3 : GTWDSSLSAVV (SEQ ID NO: 26)。
【0063】
より好ましい一態様において、VHはSEQ ID NO:27または29のアミノ酸配列に対応し、VLはSEQ ID NO:28または30のアミノ酸配列に対応する。
【0064】
上記のように、本発明の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。ヒトに投与する場合であっても、上記のヒトの抗体遺伝子を移植された動物を用いて、ヒトポリクローナル抗体を得ることができる。あるいは、ヒト化抗体、ヒト-非ヒトキメラ抗体、およびヒト-ヒトキメラ抗体などの遺伝子工学的技術によって構築された免疫グロブリンを用いることもできる。さらに、ヒト抗体産生細胞をクローニングすることによって、ヒトモノクローナル抗体を得る方法も公知である。
【0065】
本発明の抗体を得るために、EphA4またはその部分ペプチドを含む断片を免疫原として利用することができる。本発明のEphA4は、任意の種、好ましくは、例えばヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来し得る。ヒトEphA4のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は当技術分野において公知である。そのために、EphA4のcDNAヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号NM_004438)をSEQ ID NO:1に記載し、そのヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列をSEQ ID NO:2(GenBankアクセッション番号NP_004429)に記載した。当業者は、示されたヌクレオチド配列を含有する遺伝子を慣例的に単離し、必要に応じて配列の断片を調製し、標的アミノ酸配列に対応するタンパク質を得ることができる。
【0066】
例えばEphA4タンパク質またはその断片をコードする遺伝子を、公知の発現ベクターに挿入し、宿主細胞を形質転換するために使用することができる。所望のタンパク質またはその断片は、宿主細胞の内外から任意の標準的な方法により回収することができ、かつ抗原として使用することもできる。加えて、タンパク質、その溶解物、および化学的に合成されたタンパク質を、抗原として使用することができる。さらに、EphA4タンパク質またはその断片を発現する細胞そのものを免疫原として利用することができる。
【0067】
EphA4の免疫原としてペプチド断片を用いる場合、特に細胞外領域であると予測される領域を含むアミノ酸配列を選択することが好ましい。シグナルペプチドは、EphA4のN末端において1〜19位に伸びて存在すると推定される。したがって、例えばN末端のシグナルペプチド(すなわち、最初の19アミノ酸残基)を除く領域は、本発明の抗体を得るための免疫原として好ましい。換言すると、EphA4の細胞外領域に結合する抗体は、本発明の抗体として好ましい。
【0068】
したがって、本発明における好ましい抗体は、エフェクター機能に不可欠なFcと細胞外EphA4領域に結合することができる可変領域とを備えた抗体である。ヒトに投与することを目的とする場合には、IgGのFcを備えることが望ましい。
【0069】
任意の哺乳動物をこのような抗原で免疫化することができる。しかし、細胞融合において用いる親細胞との適合性を考慮することが好ましい。一般に、げっ歯類、ウサギ目、または霊長類が好ましい。
【0070】
げっ歯類には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目には、例えばウサギが含まれる。霊長類には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻猿類(旧世界)のサルが含まれる。
【0071】
動物を抗原で免疫化する方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物を免疫化する標準的な方法である。具体的には、抗原は適量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などで希釈および懸濁することができる。所望ならば、抗原懸濁物を、フロイント完全アジュバントなどの適量の標準的なアジュバントと混合し、乳化した後、哺乳動物に投与することができる。これに続いて、適量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原を、4〜21日毎に複数回投与することが好ましい。適切な担体を免疫化に使用することもできる。上記のように免疫化を行った後に、標準的な方法を用いて、所望の抗体レベルの増加に関して血清を調べることができる。
【0072】
EphA4タンパク質に対するポリクローナル抗体は、所望の抗体の増加について血清を調べられた免疫化哺乳動物から調製することができる。これは、これらの動物から血液を採取することによって、または任意の通常の方法を用いてそれらの血液から血清を単離することによって達成することができる。本発明の文脈において、ポリクローナル抗体は、ポリクローナル抗体を含有する血清、および血清から単離したポリクローナル抗体を含有する画分を含む。IgGおよびIgMは、EphA4タンパク質を認識する画分から、例えばEphA4タンパク質を結合させたアフィニティカラムを用い、次いでこの画分をプロテインAまたはプロテインGのカラムでさらに精製することにより、調製することができる。本発明において、抗血清は、ポリクローナル抗体のまま用いることもできる。あるいは、精製されたIgG、IgMなどを用いることもできる。
【0073】
モノクローナル抗体を調製するため、抗原で免疫化した哺乳動物から免疫細胞を収集し、(上記のように)血清中の所望の抗体レベルの増加を調べ、細胞融合に適用してもよい。細胞融合に使用する免疫細胞は、好ましくは脾臓から得られる。上記の免疫原と融合される他の好ましい親細胞には、限定されないが、哺乳動物のミエローマ細胞、およびより好ましくは、薬剤によって融合細胞を選択するための性質を獲得したミエローマ細胞が含まれる。
【0074】
上記の免疫細胞およびミエローマ細胞は、公知の方法、例えばMilsteinらの方法(Galfre, G. and Milstein, C., (1981) Methods. Enzymol. : 73, 3-46)を用いて融合することができる。
【0075】
細胞融合によって産生されるハイブリドーマを、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンより構成される培地)などの標準的な選択培地で培養することにより、選択することができる。HAT培地における細胞培養は通常、数日から数週間、所望のハイブリドーマを除く他の全ての細胞(融合していない細胞)を死滅させるのに十分な期間、継続する。次いで、標準的な限界希釈を行ってもよく、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0076】
非ヒト動物は上記方法におけるハイブリドーマを調製するために抗原で免疫化することができる。さらに、EBウイルスなどに感染した細胞由来のヒトリンパ球は、タンパク質、タンパク質を発現する細胞、またはその懸濁物を用いて、インビトロで免疫化することができる。次いで、免疫化されたリンパ球を、無制限に分裂可能なヒト由来のミエローマ細胞(U266など)と融合させてもよく、それにより、タンパク質に結合可能な所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマが得られる(公開特許公報(JP-A)昭63-17688)。
【0077】
得られたハイブリドーマを、続いてマウスの腹腔に移植して腹水を抽出してもよい。得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のタンパク質を結合させたアフィニティカラムを用いて精製することができる。本発明の抗体は、本発明のタンパク質の精製および検出だけでなく、本発明のタンパク質のアゴニストおよびアンタゴニストの候補として使用することもできる。これらの抗体を、本発明のタンパク質に関連する疾患の抗体療法に応用することもできる。得られた抗体をヒトの身体に投与する場合(抗体療法)、ヒト抗体またはヒト化抗体は免疫原性が低いため好ましい。
【0078】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを持つトランスジェニック動物を、タンパク質、タンパク質発現細胞、またはこれらの懸濁物より選択される抗原で免疫化することができる。次いで抗体産生細胞を該動物から回収することができ、ミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これらのハイブリドーマから抗タンパク質ヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、第94-02602号、第94-25585号、第96-33735号、および第96-34096号を参照されたい)。
【0079】
あるいは、抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞を、癌遺伝子を用いて不死化させ、モノクローナル抗体の調製に使用することができる。
【0080】
このようにして得られたモノクローナル抗体は、遺伝子工学の方法を用いて調製することができる(例えばBorrebaeck, C.A.K. and Larrick, J.W., (1990) Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers, UKを参照されたい)。例えば抗体をコードするDNAを、ハイブリドーマまたは抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞からクローニングし、これらのDNAを適切なベクターに挿入し、宿主細胞に導入して、組換え抗体を調製することができる。上述のように調製された組換え抗体もまた本発明において意図される。
【0081】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。このように修飾された抗体も本発明に利用することができる。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。このような修飾法は当技術分野で常套的なものである。抗体を他のタンパク質によって修飾することもできる。タンパク質分子で修飾された抗体は、遺伝子工学によって産生することができる。すなわち、抗体遺伝子と修飾タンパク質分子をコードする遺伝子との融合により、標的タンパク質を発現させることができる。例えば、サイトカインまたはケモカインとの結合によって、抗体のエフェクター機能が向上され得る。実際、IL-2、GM-CSFなどとの融合タンパク質について、抗体のエフェクター機能の向上が確認されている(Penichet ML, et al., (2001) Human Antibodies, 10:43-49)。エフェクター機能を向上するサイトカインまたはケモカインには、IL-2、IL-12、GM-CSF、TNF、好酸球走化性物質(RANTES)などを含むことができる。
【0082】
あるいは本発明の抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域およびヒト抗体由来の定常領域を含有するキメラ抗体として、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含有するヒト化抗体として得ることができる。このような抗体は、公知の手法で産生することができる。
【0083】
分子生物学の標準的な手法を用いて、キメラ産物およびCDR移植産物をコードするDNA配列を調製してもよい。関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって調製することができる(例えば、Larrick et al., “Methods: a Companion to Methods in Enzymology", vol. 2: page 106 (1991); Courtenay-Luck, “Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies" in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering and Clinical Application; Ritter et al. (eds.), page 166 (Cambridge University Press, 1995)およびWard et al., “Genetic Manipulation and Expression of Antibodies" in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications; Birch et al. (eds.), page 137 (Wiley-Liss, Inc., 1995)を参照)。キメラ産物およびCDR移植産物をコードするDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成法を用いて完全にまたは部分的に合成することができる。部位指定突然変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応の手法を適宜用いてもよい。例えば、Jones et al.,(1986) Nature.;321:522-5によって記載されたようなオリゴヌクレオチド指定合成を用いてもよい。また、例えば、Verhoeyen et al.,(1988)Science.;239:1534-6またはRiechmann et al.,(前記)に記載されたような、既存の可変領域のオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発を用いてもよい。また、例えば、Queen et al.,(1989) Proc Natl Acad Sci USA.;86:10029-33; PCT公報WO 90/07861によって記載されたような、T4 DNAポリメラーゼを用いた、ギャップを有するオリゴヌクレオチドにおける酵素的充填を用いてもよい。
【0084】
任意の適した宿主細胞/ベクター系を、CDR移植重鎖および軽鎖をコードするDNA配列の発現のために用いてもよい。例えば大腸菌などの細菌系、および他の微生物系を、特にFAbおよび(Fab')2断片などの抗体断片、とりわけFv断片および一本鎖抗体断片、例えば一本鎖Fvsの発現のために用いてもよい。真核生物、例えば、哺乳動物宿主細胞発現系を、特に、完全な抗体分子を含む、より大きなCDR移植抗体産物の産生のために用いてもよい。好適な哺乳動物宿主細胞には、CHO細胞および骨髄腫細胞株またはハイブリドーマ細胞株が含まれる。
【0085】
上述のように得られた抗体を均一になるまで精製することができる。例えば、抗体は、タンパク質を精製および分離する一般的な方法に従って精製および分離することができる。例えば抗体は、アフィニティクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動などを含むがこれらに限定されないカラムクロマトグラフィーを、適切に選択し組み合わせることによって、分離および単離することができる(Antibodies:A Laboratory Manual, Harlow and David, Lane (編), Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0086】
プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティカラムとして使用することができる。使用される例示的なプロテインAカラムには、Hyper D、POROS、およびSepharose FF(Pharmacia)が含まれる。
【0087】
例示的なクロマトグラフィー(アフィニティクロマトグラフィーを除く)には、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィーが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual」 Daniel R. Marshak et al., (1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。クロマトグラフィーは、HPLCまたはFPLCなどの液相クロマトグラフィーの手順に従って実施することができる。
【0088】
例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光法を用いて、本発明の抗体の抗原結合活性を測定することができる。ELISAでは、本発明の抗体を典型的にプレート上に固定し、本発明のタンパク質をプレート上に添加し、次いで抗体を産生する細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含有する試料を添加する。次に、一次抗体を認識しアルカリホスファターゼなどの酵素でタグ付加された二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションする。洗浄後、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、試料の抗原結合活性を評価する。タンパク質の断片(C末端またはN末端の断片など)をタンパク質と同様に使用することができる。BIAcore(Pharmacia)を用いて、本発明の抗体の結合活性を評価することができる。
【0089】
さらに、実施例に概要を述べるような方法にしたがって、抗体のエフェクター機能を評価することもできる。例えば、エフェクター機能を評価すべき抗体の存在下で、EphA4を発現する標的細胞をエフェクター細胞と共にインキュベーションすることができる。標的細胞の破壊が検出されれば、その抗体はADCCを誘導するエフェクター機能を持つことが確認できる。抗体またはエフェクター細胞のいずれかが存在しない条件下で、観察される標的細胞の破壊のレベルを対照としてエフェクター機能のレベルと比較することができる。EphA4を明らかに発現している細胞を標的細胞として利用することができる。具体的には、実施例においてEphA4の発現が確認された各種の細胞株を用いることができる。これらの細胞株は、細胞バンクから入手することができる。さらに、より強力なエフェクター機能を持つモノクローナル抗体が選択されうる。
【0090】
本発明において、ヒトまたは他の動物に薬剤として抗EphA4抗体を投与することができる。本発明において、抗体を投与するヒト以外の動物には、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーが含まれ得るが、これらに限定されない。抗体は、対象に直接投与することができ、さらに公知の薬学的調製法を用いて投与剤型に製剤化することができる。例えば必要に応じて、水または他の任意の薬学的に許容される液体を伴う滅菌溶液もしくは懸濁液のような注射可能な形状で非経口的に投与することができる。例えば、このような化合物は、許容される担体または溶媒、例えば滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、薬剤としての使用に不可欠な一般に許容される単位用量へと混合することができる。
【0091】
生理食塩水、グルコース、およびアジュバント(D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらはまた、アルコール、具体的にはエタノールおよびポリアルコール(例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、ならびに非イオン性界面活性剤(例えばPolysorbate 80(商標)またはHCO-50)などの適切な可溶化剤と共に使用することができる。
【0092】
ゴマ油またはダイズ油を油性液体として用いることができ、可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを含んでもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど)、安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、および抗酸化剤を製剤に含むことができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0093】
本発明において、抗EphA4抗体は、例えば動脈内、静脈内、経皮内、鼻腔内、経気管支、局所、もしくは筋肉内投与によって患者に投与することができる。点滴または注射による血管内(静脈)投与は、膵癌患者に抗体を全身投与する一般的な方法の例である。抗体薬剤を、肺における原発巣または転移巣に局所集積させる方法には、気管支鏡を用いた局所注入(気管支鏡検査法)、およびCTガイド下または胸腔鏡による局所注入が含まれる。抗体薬剤を、肝臓における原発巣または転移巣に局所集積させる方法には、肝門内注入または動脈内注入による局所注入が含まれる。さらに、動脈内カテーテルを癌細胞に栄養を供給する動脈付近まで挿入し、抗体薬剤のような抗癌剤を局所注入する方法は、膵癌の原発巣と同様に転移巣の局所コントロール治療としても有効である。
【0094】
用量および投与方法は、患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて変化するが、当業者であればこれらのパラメータを慣例的に決定することができる。さらに、抗体をコードするDNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、該ベクターを治療のために投与することができる。用量および投与方法は、患者の体重、年齢、および状態に応じて変化するが、当業者であればこれらを適切に選択することができる。
【0095】
抗EphA4抗体は、EphA4発現細胞に対するエフェクター機能に基づく細胞障害作用が確認できる量で生体に投与することができる。例えば、症状によってある程度の差があるものの、抗EphA4抗体の典型的な用量は、1日当たり、0.1 mg〜250 mg/kgの範囲である。通常、成人(体重60kg)1人当たりの投与量は、5 mg〜17.5 g/日、好ましくは5 mg〜10 g/日、およびより好ましくは100 mg〜3 g/日である。投与スケジュールは、2日〜10日間隔で1〜10回であり、かつ例えば3〜6回の投与後、経過が観察される。
【0096】
本発明の抗体はエフェクター機能を保持するが、いくつかの態様において、細胞障害作用物質を周知の技術を用いて抗体に結合することができる。細胞障害作用物質は、非常に多く、多様であり、細胞障害作用薬物または毒物もしくはそのような毒物の活性断片を含むが、これらに限定されない。好適な毒物およびそれらの対応する断片は、ジフテリアA鎖、外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、オウリスタチン(auristatin)などを含むが、これらに限定されない。細胞障害作用物質はまた、放射性同位体を本発明の抗体に共役することによって、または抗体に共有結合したキレート剤に放射性核種を結合することによって作製される放射化学物質を含む。そのような結合体を調製する方法は当技術分野において周知である。
【0097】
あるいは、抗体またはその機能的誘導体をコードする核酸配列を、EphA4発現細胞と関連のある疾患、例えば膵癌を遺伝子治療によって治療または予防するために投与することもできる。遺伝子治療とは、発現されたまたは発現可能な核酸を対象に投与することによって行われる治療法を指す。本発明のこの態様において、核酸はそれがコードする抗体または抗体断片を産生し、続いてそれらが予防的または治療的な効果を媒介する。
【0098】
当技術分野で利用可能な遺伝子治療の方法の任意のものを、本発明に従って用いることができる。例示的な方法を以下に記載する。
【0099】
遺伝子治療の方法の一般的な総説については、Goldspiel et al., (1993) Clin. Pharm.;12:488-505; Wu and Wu, (1991) Biotherapy.;3:87-95; Tolstoshev, (1993) Ann Rev Pharmacol Toxicol.;32:573-96; Mulligan, (1993) Science.;260:926-32; Morgan and Anderson, (1993) Ann Rev Biochem.;62:191-217; Clare Robinson Trends Biotechnol.;11(5):155-215を参照されたい。組換えDNA技術の分野で広く知られた利用可能な方法は、Ausubel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY (1993); Kriegler, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY (1990)に記載されている。
【0100】
好ましい一局面において、本発明の組成物は、抗体をコードする核酸を含み、該核酸は、好適な宿主において抗体またはその断片もしくはキメラタンパク質もしくは重鎖もしくは軽鎖を発現する発現ベクターの一部である。特に、このような核酸は、抗体コード領域と機能的に連結されたプロモーター、好ましくは異種プロモーターを有し、該プロモーターは誘導性または構成的であり、かつ任意で組織特異的である。もう1つの特定の態様においては、抗体をコードする配列および任意の他の所望の配列が、ゲノム中での所望の部位での相同組換えを促す領域に隣接しており、それにより抗体をコードする核酸の染色体内発現をもたらす核酸分子が用いられる(Koller and Smithies, (1989) Proc Natl Acad Sci USA.;86:8932-5; Zijlstra et al., (1989) Nature.;342:435-8)。特定の態様において、発現される抗体分子は一本鎖抗体である;あるいは、核酸配列は、抗体の重鎖および軽鎖の両方またはそれらの断片をコードする配列を含みうる。
【0101】
対象への核酸の送達は、対象が核酸もしくは核酸を有するベクターに直接曝露されるというように直接的でもよく、または細胞をインビトロでまず核酸によって形質転換し、続いて対象に移植するというように間接的でもよい。これらの2つのアプローチは、それぞれインビボまたはエクスビボの遺伝子治療として公知である。
【0102】
一態様において、核酸配列をインビボで直接投与することができ、ここで、該核酸配列が発現して、コードする産物が産生される。これは、当技術分野で公知のさまざまな方法のうちの任意のものによって達成することができる:例えば、核酸配列を適切な核酸発現ベクターの一部として構築し、それらが細胞内にくるようにそれらを投与することによって;例えば、欠損もしくは弱毒化レトロウイルスベクターまたは他のウイルスベクターを用いた感染によって(米国特許第4,980,286号を参照);または裸のDNAの直接注射によって;または微粒子銃(例えば、遺伝子銃;Biolistic, Dupont)の使用によって;または脂質もしくは細胞表面受容体もしくはトランスフェクト剤によるコーティングによって;リポソーム、微粒子、もしくはマイクロカプセル中への封入によって;または核に入ることが公知であるペプチドに連結して該核酸配列を投与することによって;受容体を介したエンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu, (1987) J Biol Chem.;262:4429-32を参照)を受けるリガンドに連結して該核酸配列を投与すること(これは該受容体を特異的に発現する細胞種の標的化のために用いることができる)などによって、達成することができる。もう1つの態様においては、リガンドがエンドソームを破壊するための膜融合性ウイルスペプチドを含み、核酸がリソソーム分解を回避することを可能にする、核酸-リガンド複合体を形成させることができる。さらにもう1つの態様においては、特定のレセプターを標的とすることにより、細胞特異的な取り込みおよび発現のために核酸をインビボで標的にすることができる(例えば、PCT公報WO 92/06180、WO 92/22635、WO 92/20316、WO 93/14188、またはWO 93/20221を参照)。あるいは、核酸を細胞内に導入して、相同組換えによって発現のために宿主細胞DNA内に取り込ませることもできる(Koller and Smithies, (1989) Proc Natl Acad Sci USA.;86:8932-5; Zijlstra et al., (1989) Nature.;342:435-8)。
【0103】
一態様において、本発明の抗体またはそれらの断片をコードする核酸配列を含有するウイルスベクターが用いられる。例えば、レトロウイルスベクターを用いることができる(Miller et al., (1993) Methods Enzymol.;217:581-99を参照)。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムの正しいパッケージングおよび宿主細胞DNA内への組み込みのために必要な構成要素を含有する。遺伝子治療に用いようとする抗体をコードする核酸配列を、対象への遺伝子の送達を容易にする1つまたは複数のベクターにクローニングする。レトロウイルスベクターに関するさらなる詳細は、幹細胞の化学療法に対する耐性を高めるために、mdr 1遺伝子を造血幹細胞に送達するためのレトロウイルスベクターの使用を記載しているBoesen et al.,(1994)Biotherapy.;6:291-302に見出すことができる。遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を例証している他の参考文献には以下がある:Clowes et al., (1994) J Clin Invest.;93:644-51; Kiem et al., (1994) Blood.;83:1467-73; Salmons and Gunzberg, (1993) Hum Gene Ther.;4:129-41; Grossman and Wilson, (1993) Curr Opin Genet Dev.;3:110-4。
【0104】
遺伝子治療に用いうるウイルスベクターのもう1つの例はアデノウイルスである。アデノウイルスは、遺伝子を気道上皮に送達するために特に魅力的な媒体である。アデノウイルスはもともと気道上皮を感染させ、そこで軽症疾患を引き起こす。アデノウイルスに基づく送達システムの他の標的は、肝臓、中枢神経系、内皮細胞、および筋肉である。アデノウイルスには、非分裂性の細胞を感染させることができるという利点がある。Kozarsky and Wilson, (1993) Curr Opin Genet Dev.;3:499-503は、アデノウイルスに基づく遺伝子治療の総説を提示している。Bout et al., (1994) Hum Gene Ther.;5:3-10は、アカゲザルの気道上皮に遺伝子を移入するためのアデノウイルスベクターの使用を実証している。遺伝子治療におけるアデノウイルスの使用の他の例は、Rosenfeld et al., (1991) Science.;252:431-4; Rosenfeld et al., (1992) Cell.;68:143-55; Mastrangeli et al., (1993) J Clin Invest.;91:225-34; PCT公報WO 94/12649; Wang et al., (1995) Gene Ther.;2:775-83に見出すことができる。好ましい一態様においては、アデノウイルスベクターが用いられる。
【0105】
アデノ随伴ウイルス(AAV)も、遺伝子治療における使用が提唱されている(Walsh et al., (1993) Proc Soc Exp Biol Med.;204:289-300; 米国特許第5,436,146号)。
【0106】
遺伝子治療のためのもう1つのアプローチは、電気穿孔、リポフェクション、リン酸カルシウムを介したトランスフェクション、またはウイルス感染などの方法によって、遺伝子を組織培養中の細胞に移入することを伴う。通常、移入の方法は、細胞への選択マーカーの移入を含む。続いて、移入遺伝子を取り込んで発現している細胞を単離するために、細胞を選択に供する。続いて、対象にそのような細胞を送達しうる。
【0107】
この態様において、核酸は、結果的に得られる組換え細胞のインビボ投与の前に細胞に導入される。このような導入は、トランスフェクション、電気穿孔、マイクロインジェクション、前記核酸配列を含有するウイルスベクターもしくはバクテリオファージベクターによる感染、細胞融合、染色体を介した遺伝子移入、微小核体を介した遺伝子移入、スフェロプラスト融合などを含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の任意の方法によって行うことができる。細胞への外来遺伝子の導入のための手法は当技術分野で数多く知られており(例えば、Loeffler and Behr, (1993) Methods Enzymol.;217:599-618; Cotton et al., 1993, Methods Enzymol.;217:618-44; Cline MJ. Pharmacol Ther. 1985;29(1):69-92を参照)、レシピエント細胞の必要な発達上および生理的な機能が破壊されない限り、本発明に従って用いることができる。核酸が細胞によって発現され、好ましくはその細胞子孫に遺伝され発現されることが可能なように、前記手法には、細胞への核酸の安定的な移入が含まれるべきである。
【0108】
結果的に得られた組換え細胞は、当技術分野で公知のさまざまな方法によって対象に送達することができる。組換え血液細胞(例えば、造血幹細胞または前駆細胞)は、静脈内に投与されることが好ましい。用いることが想定される細胞の量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、当業者によって決定可能である。
【0109】
遺伝子治療を目的として核酸を導入することのできる細胞には、入手可能な任意の所望の細胞種が含まれ、これには上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、肝細胞;血液細胞、例えばTリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、巨核球、顆粒球など;さまざまな幹細胞または前駆細胞、特に造血幹細胞または前駆細胞、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られるものが含まれるがこれらに限定されない。好ましい一態様において、遺伝子治療のために用いられる細胞は対象にとって自家である。
【0110】
組換え細胞が遺伝子治療に用いられる一態様において、抗体またはその断片をコードする核酸配列を、それらがその細胞またはその子孫によって発現されうるように細胞に導入することができ、続いて組換え細胞を治療効果のためにインビボで投与する。特定の一態様において、幹細胞または前駆細胞が用いられる。インビトロで単離し維持することのできる任意の幹細胞および/または前駆細胞は、本発明のこの態様に従って用いることができる可能性がある(例えば、PCT公報WO 94/08598;Stemple and Anderson, (1992) Cell.;71:973-85; Rheinwald, (1980) Methods Cell Biol.;21A:229-54; Pittelkow and Scott, (1986) Mayo Clin Proc.;61:771-7を参照)。
【0111】
好ましい一態様において、遺伝子治療を目的として導入される核酸には、適切な転写誘導因子の有無を制御することによって核酸の発現を制御できるように、コード領域と機能的に連結された誘導性プロモーターが含まれる。
【0112】
加えて本発明は、EphA4もしくは免疫学的活性EphA4断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞を有効成分として含有する、EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を持つ抗体を誘導するための免疫原性組成物を提供する。あるいは本発明は、EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を持つ抗体を誘導するための、EphA4もしくは免疫学的活性EphA4断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞の、免疫原性組成物の生産における使用に関する。
【0113】
抗EphA4抗体の投与は、それらの抗体のエフェクター機能を通じて癌細胞を障害する。したがって、EphA4抗体をインビボで誘導することができれば、抗体の投与と同等の治療効果を達成することができる。抗原により構成される免疫原性組成物を投与する場合、インビボで標的抗体を誘導することができる。本発明の免疫原性組成物は、したがって、EphA4発現細胞に対するワクチン療法において特に有用である。したがって、本発明の免疫原性組成物は、例えば、膵癌治療のためのワクチン組成物として有用である。
【0114】
本発明の免疫原性組成物は、EphA4または免疫学的活性EphA4断片を有効成分として含み得る。本発明の文脈において、免疫学的活性EphA4断片とは、EphA4を認識し、かつエフェクター機能を持つ抗EphA4抗体を誘導し得る断片を指す。以下、EphA4および免疫学的活性EphA4断片を、免疫原性タンパク質として記載する。所与の断片が標的抗体を誘導するかどうかは、実際に動物に免疫し、誘導される抗体の活性を確認することによって判定することができる。抗体の誘導およびその活性の確認は、例えば実施例に記載する方法を用いて実施することができる。
【0115】
本発明の免疫原性組成物は、有効成分である免疫原性タンパク質と同様に、薬学的に許容される担体を含有してもよい。必要に応じて、該組成物はまた、アジュバントと組み合わせることができる。アジュバントとして、結核死菌、ジフテリアトキソイド、サポニンなどを利用することができる。
【0116】
あるいは、免疫原性タンパク質をコードするDNA、またはそれらのDNAを発現可能な状態で保持している細胞を、免疫原性組成物として利用することもできる。標的抗原を発現するDNAを免疫原として用いる方法、いわゆるDNAワクチンは周知である。DNAワクチンは、EphA4またはその断片をコードするDNAを適切な発現ベクターに挿入することにより、得ることができる。
【0117】
レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどは、適切なベクターの例である。さらに、免疫原性タンパク質をコードするDNAをプロモーターの下流に機能的に連結したDNAを裸のDNAとして直接細胞に導入し、発現させることも可能である。裸のDNAは、リポソームまたはウイルスエンベロープベクターに封入して細胞に導入することができる。
【0118】
本発明のEphA4ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、インビボでの免疫応答の誘導にも用いることができ、EphA4発現細胞に特異的な抗体および細胞障害作用Tリンパ球(CTL)の産生を含む。そのような方法において、所望のペプチドによるCTL誘導は、インビボまたはエクスビボのいずれかで抗原提示細胞(APC)を介してペプチドをT細胞へ提示することによって達成することができる。
【0119】
例えば、末梢血単核球(PBMC)などの患者の血液細胞を採取することができ、免疫原性タンパク質を発現することができるベクターで形質転換し、患者に戻すことができる。続いて、形質転換された血液細胞は、患者の体内で免疫原性タンパク質を産生し、標的抗体を誘導する。あるいは、患者のPBMCを採取することができ、エクスビボでポリペプチドに接触させ、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることで、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0120】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをAPC、特に樹状細胞に接触させることによって増加することが知られている。したがって、APCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0121】
ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なされる。
【0122】
免疫原性タンパク質をコードするDNA、またはそれによって形質転換された細胞を本発明の免疫原性組成物として利用する場合、免疫原性タンパク質、およびそれらの免疫原性を向上する担体タンパク質を併用することができる。
【0123】
上記のように、本発明は、EphA4、免疫学的活性EphA4断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞を投与する段階を含む、EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を持つ抗体を誘導するための方法を提供する。本発明の方法によって、膵癌などのEphA4発現細胞を障害するエフェクター機能を保持する抗体が誘導される。その結果、膵癌などに対する治療効果を得ることができる。
【0124】
本発明の免疫原性組成物は、経口的または非経口的に、0.1 mg〜250 mg/kg/日で投与することができる。非経口的な投与には、皮下注射および静脈内注射が含まれる。成人1人当たりの投与量は、通常、5 mg〜17.5 g/日、好ましくは5 mg〜10 g/日、およびより好ましくは100 mg〜3 g/日である。
【0125】
本発明はまた、対象における癌を治療または予防するための方法も提供する。いくつかの態様において、本方法は、抗EphA4抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を投与する段階を含み、ここで該抗体は抗体エフェクター機能を持つ。
【0126】
本明細書で引用したすべての先行技術の参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。
【0127】
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例を参照しながら本発明について詳細に記載する。しかし、そこに記載された材料、方法などは本発明の諸局面を例示しているに過ぎず、本発明の範囲を限定することは全く意図していない。このため、そこに記載されたものと同様または等価である材料、方法などを、本発明の実施または検査のために用いてもよい。
【0128】
細胞株:
ヒト結腸癌または膵癌細胞株を、10%ウシ胎仔血清を加えた適切な培地中で単層として増殖させた。実験に用いた細胞株は表1に示されている。
【0129】
(表1)膵癌細胞株

*1 東北大学加齢医学研究所
*2 イーグル最小必須培地
*3 マッコイ5A培地を改変
【0130】
さらに、以下の細胞株を、抗EphA4抗体を用いるADCCアッセイに用いた。膵癌:MIAPaca-2。
【0131】
ヒト抗体:
培養細胞を用いたファージ発現ライブラリーのスクリーニング
EphA4に対するヒトscFV抗体のスクリーニングのために、ヒトscFV抗体をコードするファージライブラリーAIMS4(WO 01/62907)を用いた。このスクリーニング方法は第P2005-185281A号に記載されている。
【0132】
1次スクリーニングのために、まず、EphA4の高発現を伴うMIAPaca-2細胞を15cm培養皿で培養し、2mg/mlコラゲナーゼI(Gibco BRL)/細胞解離緩衝液(Gibco BRL)で収集して、冷PBSで洗浄した。ヒト抗体ファージライブラリーの溶液(2×1013cfu)を4×107個の細胞、BSA、およびNaN3/MEMと混合した。続いて最終濃度を1% BSA-0.1% NaN3/MEMに調整して総容積1.6mlとし、混合物を4℃で4時間ゆっくり撹拌した。その後、反応溶液の半分を2つの管にそれぞれ分配し、有機溶媒(フタル酸ジブチル:シクロヘキサン=9:1)上にて3000rpmで2分間遠心分離した。上清を除去した後に、細胞を0.7mlの1% BSA/MEM中に再懸濁させ、等容積の低極性溶媒上にて遠心分離した。この段階を2回繰り返した。上清を除去し、続いて細胞を0.3ml PBS中に再懸濁させ、液体窒素で凍結させて、37℃で融解させた。
【0133】
これらのファージを20mlの大腸菌DH12S(OD 0.5)に1時間かけて感染させ、感染細胞を600mlの2×YTGA培地(2×YT、200μg/ml硫酸アンピシリン、1%グルコース)に移して、30℃で一晩培養した。その10mlを200mlの2×YTA培地(2×YT、200μg/ml硫酸アンピシリン)に添加し、37℃で1.5時間培養した。さらにインキュベートした後、1×1011個のヘルパーファージ KO7を添加し、37℃で1時間、再び培養した。上記の1時間のインキュベーション後に、800mlの2×YTGAK(2×YT、200μg/ml硫酸アンピシリン、0.05%グルコース、50μg/mlカナマイシン)を添加して、30℃で一晩培養した。この培養物を8000rpmで10分間遠心分離した。その上清を200mlのPEG液(20%ポリエチレングリコール6000、2.5M NaCl)と混合し、8000rpmで10分間遠心分離してファージをペレット化した。このペレットを10mlのPBS中に懸濁させ、懸濁液の一部を、ファージに感染した大腸菌の数の検査のために用いた。
【0134】
2次スクリーニングのために、0.8mlの反応溶液(1% BSA-0.1% NaN3/MEM)、培養細胞(2×107個)、および1次スクリーニングを行ったファージ(1×1010個)を用いた。反応溶液の総容積は、1次スクリーニングに用いたものの半分であった。3次スクリーニングは、EPHA4をトランスフェクトした2×107個の293T細胞および2次スクリーニングを行った1×109個のファージを用いた点を除き、第2のスクリーニングの手順と同様であった。
【0135】
抗体クローンのDNAシークエンシング、発現の確認、および細胞ELISA
上記の通りにスクリーニングして希釈した大腸菌を、続いて、100μg/mlのアンピシリンを含む栄養寒天培地上で培養した。得られたコロニーを単離し、2×YTGA培地中30℃で一晩インキュベートした。DNAをPI-50(Kurabo)によって培養物から得て、DNA配列をジデオキシ法によって決定した。
【0136】
さらに、0.05mlの培養物を1.2mlの2×YTAI(2×YT、200μg/ml 硫酸アンピシリン、0.5mM IPTG)中30℃で培養し、15000rpmでの5分間の遠心分離によって上清を収集した。
【0137】
抗体の発現はcp3融合タンパク質として検出した。より具体的には、上清をMaxisorp(商標)(NUNC)と37℃で2時間反応させ、反応した溶液を吸引した。抗体を含むプレートを5% BSAにより37℃で2時間ブロックし、ブロッキング溶液を除去した。0.05% Tween/PBSで1:2000に希釈したウサギ抗cp3抗体(MBL)を該プレートに添加し、室温で1時間反応させ、その後PBSで洗浄した。0.05% Tween/PBSで1:2000に希釈したHRPタグ付加ヤギ抗ウサギIgG抗体(MBL)を該プレートに添加し、室温で1時間反応させ、その後PBSで洗浄した。100μlのOPD溶液を該プレートに添加し、室温で15分間反応させた上で、2M硫酸アンモニウムを添加することによって反応を停止させた。融合タンパク質は、492nmでの吸光度をSPECTRAmax 340PC(Molecular Devices)によって測定することにより検出した。
【0138】
細胞ELISAの操作は以下の通りとした。まず、1×105個の細胞を96ウェルプレート中で一晩培養し、培地を200μlの5%脱脂乳/PBSと置き換えた。氷上に3時間静置した後、100μlの上清および100μlの10%脱脂乳を混合し、氷上に一晩置いた。氷上でPBS貯蔵液により5回洗浄した後、細胞を100μlの5μg/mlマウス抗cp3モノクローナル抗体、5%脱脂乳/PBSと4℃で2時間反応させた。氷上でPBS貯蔵液により5回洗浄した後、25μlのペルオキシダーゼタグ付加ENVISION+Polymer試薬および75μlのl5%脱脂乳/PBSからなる溶液を細胞と4℃で2時間反応させた。氷上でPBS貯蔵液により5回洗浄した後、2M硫酸アンモニウムを添加することによって反応を停止させ、反応混合物の492nmでの吸光度をSPECTRAmax 340PC(Molecular Devices)によって測定した。
【0139】
抗原との陽性反応がフローサイトメトリーによって確かめられたヒトscFV抗体を変換し、IFA中の完全なIgG形態とした。
【0140】
これらの2つのクローンは以下のアミノ酸配列を有した。
65:SEQ ID NO:9(VH)およびSEQ ID NO:14(VL)
336:SEQ ID NO:19(VH)およびSEQ ID NO:23(VL)。
【0141】
これらのヒトscFV抗体を変換し、IFA中の完全なIgG形態とした。以下のアミノ酸配列を、重鎖(CH)および軽鎖(CL)の定常領域として用いた。
CH (CH1、CH2、およびCH3):
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEAPHNHYTQKSLSLSPGK (SEQ ID NO: 13)
CL:
QPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS (SEQ ID NO: 18)
【0142】
EphA4に対する半定量的RT-PCR:
総RNAはRneasy(登録商標)キット(QIAGEN)を用いて細胞株から抽出した。さらに、mRNAを、オリゴ(dT)-セルロースカラム(Amersham Biosciences)によって総RNAから精製し、SuperScriptファーストストランド合成システム(Invitrogen)を用いて、逆転写(RT)によってファーストストランドcDNAへと合成した。GAPDHおよびβ-アクチンを定量対照としてモニタリングすることにより、その後のPCR増幅のための各ファーストストランドcDNAの適切な希釈物を調製した。用いられたプライマー配列は以下である:
EphA4に対して5’-GAAGGCGTGGTCACTAAATGTAA-3’ (SEQ.ID.NO.3) および
5’-TTTAATTTCAGAGGGCGAAGAC-3’ (SEQ.ID.NO.4)、
GAPDHに対して、5’-GTCAGTGGTGGACCTGACCT-3’ (SEQ.ID.NO.5) および
5’-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3’ (SEQ.ID.NO.6) 、
β-アクチンに対して、5’-GAGGTGATAGCATTGCTTTCG-3’ (SEQ.ID.NO.7) および
5’-CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC-3’ (SEQ.ID.NO.8)。
【0143】
PCR反応は全て、GeneAmp PCRシステム9700(PE Applied Biosystems)により、94℃ 2分間の初期変性を含み、GAPDHに対して、94℃ 30秒間、58℃ 30秒間、および72℃ 1分間の21サイクル、β-アクチンに対して20サイクル、またはEphA4に対して28〜32サイクルからなった。
【0144】
EphA4の過剰発現は膵癌細胞株Miapaca-2において見出された(図1)。さらに、様々な癌に対する抗EphA4ヒト抗体の有効性を解明するために、EphA4の発現を確認した。
【0145】
フローサイトメトリー解析:
癌細胞(5×106)を精製ポリクローナル抗体(pAb)、モノクローナル抗体(mAb)、ウサギIgG(pAbに対する対照)、またはマウスIgG(mAbに対する対照)と共に、4℃で30分間インキュベーションした。細胞をリン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄した後、FITC標識Alexa Flour 488中で、4℃で30分間インキュベーションした。細胞をPBSで再度洗浄し、フローサイトメーター(FACSCalibur(登録商標)、Becton Dickinson)で分析して、BD CellQuest(商標)Proソフトウェア(Becton Dickinson)により解析した。平均蛍光強度(MFI)は、フローサイトリー強度の比率(各タンパク質特異的抗体による強度/ウサギIgGによる強度)として定義した。
【0146】
EphA4過剰発現細胞を用いて、細胞表面の抗EphA4抗体の結合率を調べた。結果として、抗EphA4ヒト抗体65および336は、ヒトIgG(対照)と比べて高い割合でMIAPaca-2細胞に結合した(MFI(平均蛍光強度):それぞれ12.64および15.54)。
【0147】
ADCCアッセイ法:
標的細胞を、0.8μMのカルセインアセトキシメチルエステル(カルセイン-AM、DOJINDO)に37℃で30分間曝露した。カルセイン-AMは、蛍光誘導体カルセインを産生する細胞エステラーゼによるカルセイン-AMの切断後、蛍光性となる。標的癌細胞をアッセイ用に添加する前に2回洗浄し、その後96ウェルU底プレートに播種した(4×103細胞/ウェル)。ヒト末梢血単核細胞(PMBC)を健常者から採取し、Ficoll-Paque(Amersham Biosciences)密度勾配遠心分離を用いて分離し、エフェクター細胞として使用した。標的癌細胞(T)およびエフェクター細胞(E)を、E:T比100:1で、様々な濃度(0、0.01、0.1、1、10、100μg/ウェル)の抗EphA4ヒト抗体または対照抗体ハーセプチン(Roche)と共に、96ウェルプレートでAIM-V培地250μl中で共インキュベーションした。このインキュベーションは、250μLのAIM-V培地(Life Technologies, Inc)中で、37℃で6時間、三連で行った。対照アッセイには、抗EphA4ヒト抗体またはエフェクター細胞のみと共に標的細胞をインキュベーションすることが含まれた。ハーセプチンは、いくつかの実験において対照として用いた。
【0148】
これらの細胞に対する抗EphA4ヒト抗体(65および336)のADCC作用を、IN Cell Analyzer 1000(Amersham Bioscience)を用いて迅速に得られた生細胞の蛍光画像に基づいて評価した。これらの画像を、Developer tool ver.5.21ソフトウェア(Amersham Bioscience)を用いて、蛍光被写体またはベシクルを計数することによって生細胞数として数値的に変換した(標的細胞のための細胞領域)。
【0149】
ハーセプチンを、いくつかの実験において対照として用いた。65および336 抗EphA4ヒト抗体それ自体による、MIAPaca-2細胞の直接的な細胞障害は見られなかった。しかし65および336 抗EphA4ヒト抗体は、EphA4を過剰発現するMIAPaca-2細胞においてADCCを誘導したが(図2)、一方EphA4が低発現であるPK-45P細胞に対する影響はなかった(図2)。
【0150】
産業上の利用可能性:
本発明は、EphA4発現細胞を抗体の細胞障害作用によって障害することができるという知見に、少なくとも一部基づいている。EphA4は、膵癌で強く発現している遺伝子として本発明者らにより同定された。したがって、EphA4発現細胞と関連する疾患、例えば膵癌の治療は、EphA4に結合する抗体を用いて適宜行われる。本発明者らが実際に確認した結果は、膵癌細胞株において、EphA4抗体の存在下でのADCC効果による細胞障害作用を示した。
【0151】
本発明について、詳細にかつその特定の態様を参照しながら記載してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変を行うことが可能であることが当業者にとって明らかであり、その境界は添付の特許請求の範囲に示される。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】膵癌細胞株におけるEphA4遺伝子に関する半定量的RT-PCR分析の結果を示した写真である。
【図2】EphA4を過剰発現および低発現する膵癌細胞株であるMIAPaca-2およびPK-45Pに対する、ハーセプチンならびに抗EphA4ヒト抗体65および336を用いたADCCアッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体エフェクター機能を持つ抗EphA4抗体を活性成分として含む、EphA4発現細胞を障害するための薬学的組成物。
【請求項2】
EphA4発現細胞が、膵癌細胞である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
抗EphA4抗体がモノクローナル抗体である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
抗体エフェクター機能が、抗体依存性細胞障害作用もしくは補体依存性細胞障害作用のいずれかまたは両方である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
抗体がVH鎖およびVL鎖を含み、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と命名されたCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖内の各CDRのアミノ酸配列が以下からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的組成物:
ヒト VH CDR1 : ELSMH (SEQ ID NO: 10)、
ヒト VH CDR2 : GFDPEDGETIYAQKFQG (SEQ ID NO: 11)、
ヒト VH CDR3 : AQPFHWGDDAFDI (SEQ ID NO: 12)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGSNTVN (SEQ ID NO: 15)、
ヒト VL CDR2 : SNNQRPS (SEQ ID NO: 16)、
ヒト VL CDR3 : AAWDDSLNGPV (SEQ ID NO: 17); および
ヒト VH CDR1 : SNSAAWN (SEQ ID NO: 20)、
ヒト VH CDR2 : RTYYRSKWYNDYAVSVKS (SEQ ID NO: 21)、
ヒト VH CDR3 : DSLRSFDY (SEQ ID NO: 22)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGNNYVS (SEQ ID NO: 24)、
ヒト VL CDR2 : DNNKRPS (SEQ ID NO: 25)、
ヒト VL CDR3 : GTWDSSLSAVV (SEQ ID NO: 26)。
【請求項6】
ヒトVHがSEQ ID NO:27または29のアミノ酸配列を含み、ヒトVLがSEQ ID NO:28または30のアミノ酸配列を含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
抗体がヒトIgG1のFc領域をさらに含む、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
VH鎖およびVL鎖を含む抗体であって、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と命名されたCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖内の各CDRのアミノ酸配列が以下からなる群より選択される、抗体:
ヒト VH CDR1 : ELSMH (SEQ ID NO: 10)、
ヒト VH CDR2 : GFDPEDGETIYAQKFQG (SEQ ID NO: 11)、
ヒト VH CDR3 : AQPFHWGDDAFDI (SEQ ID NO: 12)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGSNTVN (SEQ ID NO: 15)、
ヒト VL CDR2 : SNNQRPS (SEQ ID NO: 16)、
ヒト VL CDR3 : AAWDDSLNGPV (SEQ ID NO: 17); および
ヒト VH CDR1 : SNSAAWN (SEQ ID NO: 20)、
ヒト VH CDR2 : RTYYRSKWYNDYAVSVKS (SEQ ID NO: 21)、
ヒト VH CDR3 : DSLRSFDY (SEQ ID NO: 22)、
ヒト VL CDR1 : SGSSSNIGNNYVS (SEQ ID NO: 24)、
ヒト VL CDR2 : DNNKRPS (SEQ ID NO: 25)、
ヒト VL CDR3 : GTWDSSLSAVV (SEQ ID NO: 26)。
【請求項9】
ヒトVHがSEQ ID NO:27または29のアミノ酸配列を含み、ヒトVLがSEQ ID NO:28または30のアミノ酸配列を含む、請求項8記載の抗体。
【請求項10】
ヒトIgG1のFc領域をさらに含む、請求項8記載の抗体。
【請求項11】
請求項8記載の抗体をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項13】
請求項12記載のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項14】
抗体を産生するためのプロセスであって、前記ポリヌクレオチドが発現されるように請求項13記載の宿主細胞を培養する段階、および宿主細胞培養物から該抗体を回収する段階を含む、プロセス。
【請求項15】
EphA4発現細胞を障害するための薬学的組成物であって、請求項11記載のポリヌクレオチド、またはそれを含むベクターを含む、組成物。
【請求項16】
EphA4発現細胞を障害するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)EphA4発現細胞を抗EphA4抗体と接触させる段階、および
(b)該細胞と結合した該抗体のエフェクター機能によってEphA4発現細胞を障害する段階。
【請求項17】
EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を持つ抗体を誘導するための免疫原性組成物であって、活性成分として、EphA4、その免疫学的活性断片、またはEphA4もしくはその免疫学的活性断片を発現しうるDNAを含む、組成物。
【請求項18】
EphA4発現細胞に対するエフェクター機能を持つ抗体を誘導するための方法であって、EphA4、その免疫学的活性断片、またはEphA4もしくはその免疫学的活性断片を発現しうる細胞もしくはDNAを投与する段階を含む、方法。
【請求項19】
対象に抗EphA4抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を投与する段階を含む、対象における膵癌を治療または予防するための方法であって、該抗体が抗体エフェクター機能を持つ、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−531273(P2009−531273A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539960(P2008−539960)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/JP2007/053858
【国際公開番号】WO2007/102383
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】