説明

抗GFRA1抗体のエフェクター機能を用いて細胞を障害する方法

本発明は、抗GFRA1抗体のエフェクター機能に基づく細胞障害作用の利用に関する。具体的には本発明は、抗GFRA1抗体を有効成分として含有する、GFRA1発現細胞を抗体のエフェクター機能を用いて障害するための方法および薬学的組成物を提供する。GFRA1は乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞において強く発現しているため、本発明は乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、抗GFRA1抗体のエフェクター機能を用いて細胞を障害する方法、またはこの目的のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
乳癌は遺伝的に不均一な疾患であり、女性で最も一般的な悪性腫瘍である。全世界で毎年、推定で約80万件の新たな症例が報告されている(Parkin DM, Pisani P, Ferlay J (1999) CA Cancer J Clin 49:33-64(非特許文献1))。本疾患の処置のための同時併用的な選択肢のうち第一のものは乳房切除術である。原発性腫瘍の外科的除去を行っても、診断時点では検出不可能な微小転移(Saphner T, Tommey DC, Gray R (1996) J Clin Oncol, 14, 2738-2749(非特許文献2))のため、局所または遠隔部位での再発が起こる可能性がある。このような残存細胞または前癌細胞を死滅させるため、手術後には通常、補助療法として細胞毒性剤が投与される。
【0003】
従来の化学療法剤による処置は経験に拠ることが多く、主として組織学的腫瘍パラメータに基づき、具体的なメカニズムの理解が欠如している。このため、標的指向性薬剤が乳癌に対する基礎的な処置となりつつある。タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬はこの種のものを代表する2つであり、転移性乳癌を有する患者にアジュバントまたは化学予防薬として用いた場合に大きな反応があることが証明されている(Fisher B, Costantino JP, Wickerham DL, Redmond CK, Kavanah M, Cronin WM, Vogel V, Robidoux A, Dimitrov N, Atkins J, Daly M, Wieand S, Tan-Chiu E, Ford L, Wolmark N (1998). J Natl Cancer Inst, 90, 1371-1388(非特許文献3);Cuzick J (2002). Lancet 360, 817-824(非特許文献4))。しかしながら、その欠点は、これらの薬剤に対する感受性があるのはエストロゲン受容体を発現している患者のみであることである。最近では、副作用、特に長期のタモキシフェン処置が子宮内膜癌を引き起こす可能性、ならびにアロマターゼを処方された患者のうち閉経後の女性における骨折への有害な影響に関する懸念さえ生じている(Coleman RE (2004). Oncology. 18 (5 Suppl 3),16-20(非特許文献5))。副作用および薬剤耐性の出現のために、同定された作用メカニズムに基づく、選択的で有用な薬剤の新たな分子標的を探索することが明らかに必要である。
【0004】
胃癌は、世界で、特に極東において癌による主な死因の一つであり、全世界で年間約700,000人の新規症例が診断されている。処置に関しては、化学療法が十分でないために手術が主流である。初期段階の胃癌は、外科的切除によって治癒することができるが、進行胃癌の予後は依然として非常に不良である。
【0005】
肝細胞癌(HCC)は世界中で最も一般的な癌の一つであり、その発生率は日本や米国で徐々に上昇しつつある(Akriviadis EA, et al., Br J Surg. 1998 Oct;85(10):1319-31(非特許文献6))。診断分野における最近の医学の進歩は著しいものの、未だに多くのHCC患者が進行期で診断されており、このような患者が疾患から完全に治癒することは依然として困難である。さらに、肝硬変または慢性肝炎の患者ではHCCへのリスクが高いため、このような患者は、原発巣が完全に除去された後であっても複数の肝腫瘍または新規腫瘍を発症し得る。したがって、非常に有効な化学療法薬および予防方法の開発は急務である。
【0006】
腎細胞癌(RCC)は、泌尿器生殖器系の悪性腫瘍の中では3番目に多く、ヒトの全悪性腫瘍の2〜3%に相当する。外科的切除が、限局性RCC腫瘍の患者にとっては最も有効な処置であるが、このような処置は、進行期のRCCの患者には十分ではない。一部の生物医学的な治療法は、〜20%の奏功率を示すことが報告されているが、これは重度の副作用を引き起こす場合があり、一般に患者の生存率を向上させない。外科的処置を受けた患者のうち、約25〜30%が手術後に再発する(Ljungberg B., Alamdari F. I., Rasmuson T. & Roos G. Follow-up guidelines for nonmetastatic renal cell carcinoma based on the occurence of metastases after radical nephrectomy. BJU Int. 84, 405-411 (1999)(非特許文献7);Levy DA., Slaton JW., Swanson DA. & Dinney CP. Stage specific guidelines for surveillance after radical nephrectomy for local renal cell carcinoma. J Urol.159, 1163-1167 (1998)(非特許文献8))。腫瘍段階および外科的成功度は、RCCに対して最も重要な予後因子である;しかし現時点において、このような予後の多様性に影響を及ぼす、基礎となる分子機構はほとんど知られていない。
【0007】
RCC腫瘍は、組織学的特徴を基に、明細胞癌(80%)、乳頭状癌(〜10%)、嫌色素細胞癌(<5%)、顆粒細胞癌、紡錘細胞癌、および嚢胞随伴性癌(5〜15%)に分けられる。これらの組織学的亜型はそれぞれ固有の臨床的挙動を示し、明細胞癌および顆粒細胞癌は、より悪性度の高い臨床的表現型を示す傾向がある。
【0008】
肺癌は、最も一般的な致死的ヒト腫瘍の一つである。非小細胞肺癌(NSCLC)は最も一般的な病型であり、肺腫瘍の80%近くを占める(American Cancer Society, Cancer Facts and Figures 2001, Am. Chem. Soc. Atlanta, 2001(非特許文献9))。大半のNSCLCは進行期まで診断されないため、近年の集学的治療法の進歩にも関わらず、全体的な10年生存率は10%と低く留まったままである(Fry et al., Cancer, 86:1867-76, 1999(非特許文献10))。現在、プラチナを用いた化学療法はNSCLCの基礎的療法であると考えられている。しかしながら薬剤による治療効果は、進行NSCLC患者の生存をある程度延ばすことができる程度に留まっている(Chemotherapy in non-small cell lung cancer:a meta-analysis using updated data on individual patients from 52 randomized clinical trials, Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group, Bmj.311:899-909, 1995(非特許文献11))。チロシンキナーゼ阻害剤の使用を含む多数の標的療法が研究されている。しかしながらこれまでに、望ましい結果が達成された患者の数は限られており、一部の患者においては、治療効果が重篤な副作用を伴った(Kris et al., Proc Am Soc Clin Oncol, 21:292a(A1166), 2002(非特許文献12))。
【0009】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究により、抗腫瘍剤の多くの候補標的分子が見出されてきた。例えば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の治療に有効である(He et al., Cell, 99:335-45, 1999(非特許文献13))。この薬剤は、転写後のファルネシル化に依存するRasに関連する増殖シグナル経路を阻害するために開発された。原癌遺伝子HER2/neuを拮抗する目的のための、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブと併用して抗癌剤を適用するヒトでの臨床試験により、臨床反応の改善および乳癌患者の全体的な生存率の改善が達成されている(Lin et al., Cancer Res, 61:6345-9, 2001(非特許文献14))。チロシンキナーゼ阻害剤STI-571はbcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化する阻害剤である。この薬剤はbcr-ablチロシンキナーゼの恒常的な活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発された。このような薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を阻害するように設計されている(Fujita et al., Cancer Res, 61:7722-6, 2001(非特許文献15))。したがって、癌細胞において、発現が促進される遺伝子産物は通常、新規抗癌剤を開発するための潜在的標的となる。
【0010】
他の癌治療方法として、癌細胞に結合する抗体の使用がある。以下は抗体による癌治療の代表的なメカニズムである。
【0011】
ミサイル治療:
本アプローチにおいて、癌細胞に特異的に結合する抗体に薬剤を結合し、薬剤を癌細胞に特異的に作用させる。副作用が強い薬剤であっても、癌細胞に集中的に作用させることができる。薬剤に加えて、薬剤の前駆体、前駆体を活性型に代謝する酵素などを抗体に結合するアプローチも報告されている。
【0012】
機能性分子を標的とする抗体の利用:
例えば増殖因子受容体または増殖因子に結合する抗体を用いて、増殖因子と癌細胞の結合を阻害するアプローチである。癌細胞には、増殖因子に依存して増殖するものがある。例えば、上皮細胞増殖因子(EGF)または血管内皮増殖因子(VEGF)依存性の癌が知られている。このような癌においては、増殖因子と癌細胞の結合を阻害することで治療効果が期待できる。
【0013】
抗体の細胞障害作用:
ある種の抗原に結合する抗体は、癌細胞に対して細胞障害作用を含む場合がある。このようなタイプの抗体は、抗体分子そのものが、直接的な抗腫瘍効果を含む。癌細胞に対して細胞障害作用を示す抗体は、高い抗腫瘍効果を期待される抗体薬剤として注目されている。
【0014】
【非特許文献1】Parkin DM, Pisani P, Ferlay J (1999) CA Cancer J Clin 49:33-64
【非特許文献2】Saphner T, Tommey DC, Gray R (1996) J Clin Oncol, 14, 2738-2749
【非特許文献3】Fisher B, Costantino JP, Wickerham DL, Redmond CK, Kavanah M, Cronin WM, Vogel V, Robidoux A, Dimitrov N, Atkins J, Daly M, Wieand S, Tan-Chiu E, Ford L, Wolmark N (1998). J Natl Cancer Inst, 90, 1371-1388
【非特許文献4】Cuzick J (2002). Lancet 360, 817-824
【非特許文献5】Coleman RE (2004). Oncology. 18 (5 Suppl 3),16-20
【非特許文献6】Akriviadis EA, et al., Br J Surg. 1998 Oct;85(10):1319-31
【非特許文献7】Ljungberg B., Alamdari F. I., Rasmuson T. & Roos G. Follow-up guidelines for nonmetastatic renal cell carcinoma based on the occurence of metastases after radical nephrectomy. BJU Int. 84, 405-411 (1999)
【非特許文献8】Levy DA., Slaton JW., Swanson DA. & Dinney CP. Stage specific guidelines for surveillance after radical nephrectomy for local renal cell carcinoma. J Urol.159, 1163-1167 (1998)
【非特許文献9】American Cancer Society, Cancer Facts and Figures 2001, Am. Chem. Soc. Atlanta, 2001
【非特許文献10】Fry et al., Cancer, 86:1867-76, 1999
【非特許文献11】Chemotherapy in non-small cell lung cancer:a meta-analysis using updated data on individual patients from 52 randomized clinical trials, Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group, Bmj.311:899-909, 1995
【非特許文献12】Kris et al., Proc Am Soc Clin Oncol, 21:292a(A1166), 2002
【非特許文献13】He et al., Cell, 99:335-45, 1999
【非特許文献14】Lin et al., Cancer Res, 61:6345-9, 2001
【非特許文献15】Fujita et al., Cancer Res, 61:7722-6, 2001
【発明の開示】
【0015】
発明の開示
本発明者らは、細胞障害作用を誘導し、細胞において発現増加を示している遺伝子を標的とすることが可能な抗体を研究した。結果は、それらの細胞が抗GFRA1抗体に接触する場合、強力な細胞障害作用がGFRA1発現細胞において誘導され得ることを明らかとし、したがって、本発明は完成した。
【0016】
具体的には、本発明は、以下の薬学的組成物または方法に関する:
[1]活性成分として抗GFRA1抗体を含む薬学的組成物であって、抗GFRA1抗体が、抗体エフェクター機能を用いてGFRA1発現細胞を障害する(すなわち、細胞を死滅させ、細胞に対して毒性であり、またはそうでなければ増殖もしくは細胞分裂を阻害する)、薬学的組成物。
[2]薬学的組成物は、GFRA1発現細胞と関連している任意の病理学的状態を処置するために用いられる。典型的な態様において、細胞は、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞のような癌細胞である。
[3]本発明の薬学的組成物における抗体は、典型的にモノクローナル抗体である。
[4]いくつかの態様において、本発明の抗体は、抗体依存性の細胞障害作用、補体依存性細胞障害作用、またはその両方のようなエフェクター機能を含む。
[5]GFRA1発現細胞を障害する方法は、以下の段階を含む:a)GFRA1発現細胞を抗GFRA1抗体と接触させる段階。抗体の結合の結果として、抗体のエフェクター機能がGFRA1発現細胞に障害(すなわち細胞障害作用)を引き起こす。
[6]GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための免疫原性組成物。この組成物は、活性成分としてGFRA1ポリペプチド、その免疫学的活性断片、または、ポリペプチドもしくは断片を発現する核酸分子を典型的に含む。
[7]GFRA1ポリペプチド、その免疫学的活性断片、または、ポリペプチドもしくは断片を発現することができる細胞もしくはDNAを投与する段階を含む、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導する方法。
【0017】
本発明は、抗体エフェクター機能を用いてGFRA1発現細胞を障害するための薬学的組成物に関し、ここで組成物は活性成分として抗GFRA1抗体を含む。本発明はまた、抗GFRA1抗体エフェクター機能を用いてGFRA1発現細胞を障害するための薬学的組成物を産生することを目的とする抗GFRA1抗体の使用に関する。本発明の薬学的組成物は、抗GFRA1抗体および薬学的に許容される担体を含む。本発明者らは、乳癌患者から収集された乳癌細胞および正常細胞の遺伝子発現分析についてcDNAマイクロアレイを用いた。
【0018】
続いて、乳癌細胞において特異的に増強された発現を有する多くの遺伝子を同定した。乳癌細胞において発現が変化するこれらの遺伝子のうちの一つの遺伝子であり、主要器官において低い発現レベルを有する細胞質膜タンパク質をコードするグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)ファミリー受容体α1(GFRA1)遺伝子は、癌療法に対して候補標的遺伝子として選択された。主要器官において低い発現レベルを有する遺伝子を選択することによって、副作用の危険を回避することができると考えられた。このような方法で選択される遺伝子によってコードされるタンパク質のうち、抗GFRA1抗体は、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を有することが確認された。さらに、同様の作用は、本遺伝子が過剰発現する胃、肝臓、腎臓、および肺の癌細胞株のような他の癌細胞株において確認された。
【0019】
本発明者らによって得られた知見は、強制的発現系においてc-myc-Hisタグ付加されたGFRA1が細胞質膜において局在化したことを示し、それは免疫蛍光顕微鏡を用いて確認された。GFRA1遺伝子は、そのN末端でシグナルペプチドを含むことが予想されるアミノ酸配列をコードする。上記のように、本タンパク質は主に細胞質膜に局在化することが認められ、したがって膜貫通タンパク質であると考えられた。さらに、主要器官における本遺伝子の低い発現レベル、および乳癌細胞におけるその高い発現は、GFRA1が臨床的なマーカーおよび治療標的として有用であることを証明する。
【0020】
エフェクター機能を用いて癌細胞を破壊するためには、例えば次のような条件が求められる:
癌細胞の膜表面上の多くの抗原分子の発現、
癌組織内での抗原の均一な分布、
抗体と結合した抗原が長く細胞表面に留まっていること。
【0021】
より具体的には、例えば、抗体が認識する抗原が細胞膜表面に発現している必要がある。さらに、癌組織を構成する細胞における抗原陽性細胞の割合ができるだけ高いことが好ましい。全ての癌細胞が抗原陽性であることが理想的な条件である。癌細胞集団において、抗原陽性細胞と陰性細胞が混在する場合、抗体の臨床的な治療効果は望めない可能性がある。
【0022】
通常、できるだけ多くの分子が細胞表面に発現している場合、強力なエフェクター機能が期待できる。さらに、抗原に結合した抗体が細胞内に取り込まれないことが重要である。一部の受容体は、リガンドとの結合の後に細胞内に取り込まれる(エンドサイトーシス)。同様に、細胞表面抗原に結合した抗体が細胞内に取り込まれる場合がある。このような現象によって抗体が細胞内に取り込まれることを、インターナリゼーションと呼ぶ。インターナリゼーションが起きると、抗体定常(Fc)領域が細胞内に取り込まれる。しかしながら、エフェクター機能に必要な細胞または分子は、抗原を発現している細胞の外にある。したがって、インターナリゼーションは、抗体のエフェクター機能を阻害する。したがって、抗体のエフェクター機能を期待する場合、抗体のインターナリゼーションを起こしにくい抗原を選択することが重要である。GFRA1がこのような特徴を備えた標的抗原であることは、本発明者らによって始めて明らかにされた。
【0023】
本発明において「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域が関与する細胞障害作用を指す。または、抗原に結合した抗体のFc領域が、これらの抗原を含む細胞を障害するような作用を駆動する機能を、抗体エフェクター機能と呼ぶこともできる。具体的には、抗体依存性細胞媒介障害作用(Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity;ADCC)、補体依存性細胞障害作用(Compliment Dependent Cytotoxicity;CDC)、および中和活性が、抗体のエフェクター機能として知られている。各機能を以下に説明する。
【0024】
抗体依存性細胞媒介障害作用(ADCC):
IgG、IgE、またはIgAクラスの免疫グロブリンのFc領域に特異的なFc受容体を含む細胞が存在する。対応するFc受容体を含む細胞は、細胞膜などに結合した抗体を認識して結合する。例えば、IgGクラス抗体は、T細胞、NK細胞、好中球、およびマクロファージ上のFc受容体に認識される。これらの細胞は、IgGクラス抗体のFc領域に結合して活性化され、抗体が結合した細胞に対する障害作用を発現する。抗体のエフェクター機能を介して細胞障害作用を獲得する細胞は、エフェクター細胞と呼ばれる。エフェクター細胞の種類に基づいて、ADCCを以下のように区別することができる:
ADMC:IgG依存性マクロファージ媒介細胞障害作用、および
ADCC:IgG依存性NK細胞媒介細胞障害作用。
【0025】
本発明のADCCにおけるエフェクター細胞の種類は限定されない。すなわち、マクロファージをエフェクター細胞とするADMCもまた本発明のADCCに含まれる。
【0026】
特に抗体を用いた癌の治療においては、抗体ADCCが抗腫瘍効果の重要なメカニズムであることが知られている(Nature Med., 6:443-446, 2000)。例えば抗CD20抗体キメラ抗体の治療効果とADCCとの密接な関係が報告された(Blood, 99:754-758, 2002)。したがって、本発明において、抗体のエフェクター機能の中でADCCはまた特に重要である。
【0027】
例えば、ADCCは、既に臨床応用を開始しているハーセプチン(Herceptin)やリツキサン(Rituxan)などの抗腫瘍効果の重要なメカニズムであると考えられている。リツキサンおよびハーセプチンはそれぞれ、非ホジキンリンパ腫および転移性乳癌の治療薬剤である。
【0028】
現在のところ、ADCCによる細胞障害作用メカニズムは、およそ次のように説明される:細胞表面に結合した抗体を介して標的細胞と架橋されたエフェクター細胞が、標的細胞に対して何らかの致死性のシグナルを伝達することによって、標的細胞のアポトーシス誘導すると考えられている。いずれの場合も、エフェクター細胞による細胞障害作用を誘導する抗体は、本発明のエフェクター機能を含む抗体に含まれる。
【0029】
補体依存性細胞障害作用(CDC):
抗原と結合した免疫グロブリンのFc領域は、補体系路を活性化することが知られている。免疫グロブリンのクラスにより、活性化経路が異なる場合があることも明らかにされている。例えばヒト抗体のうち、IgMおよびIgGが古典経路を活性化する。一方、IgA、IgD、およびIgEは、古典経路を活性化しない。活性化された補体は、多くの反応を経て、細胞膜障害活性を含むC5b-9膜侵襲複合体(MAC)を生成する。こうして生成されたMACは、エフェクター細胞に依存することなくウイルス粒子および細胞膜を障害すると考えられている。MACによる細胞障害作用は次のようなメカニズムに基づいている。MACは細胞膜に対する強い結合親和性を含む。細胞膜に結合したMACは細胞膜に穴をあけ、それによって細胞への水の流出入が容易となる。その結果、細胞膜が不安定化され、または浸透圧が変化し、細胞が破壊される。補体の活性化による細胞障害作用は、抗原に結合した抗体の近傍の膜にしか及ばない。そのため、MACによる細胞障害作用は抗体の特異性に依存している。ADCCとCDCは相互に依存することなく細胞障害作用を発現することができる。しかしながら実際には、生体内でこれらの細胞障害作用が、複合的に作用している場合もある。
【0030】
中和活性:
病原体の感染能力および毒素の活性を奪う機能を有する抗体が存在する。抗体による中和は、抗原性可変領域の抗原への結合によって達成される場合と、補体の介在を必要とする場合がある。例えば、抗ウイルス抗体は、ウイルスの感染能の喪失のために補体の介在を必要とする場合がある。補体の関与には、Fc領域が必要である。すなわちこのような抗体は、ウイルスおよび細胞の中和のためにFcを必要とするエフェクター機能を含む抗体である。
【0031】
本発明において、エフェクター機能は、抗体の抗原認識によって引き起こされる生物活性を決定する役割として説明することもできる。本明細書において、好ましい標的細胞は癌細胞である。さらに、様々な抗体のFc領域が担うエフェクター細胞機能は,抗体クラスに大きく依存している。IgG、IgE、およびIgAクラスの抗体のFc領域はそれぞれに特異的なFc受容体に結合し、例えばFc受容体を有する細胞を活性化し,細胞間の抗体輸送において機能する。特にIgGクラス抗体がエフェクター細胞上のFc受容体を介して、これらのエフェクター細胞を活性化し、次いで抗体の可変領域が結合した標的細胞を殺す。これを抗体依存性細胞媒介細胞障害作用(ADCC)と呼ぶ。ADCCにおいては、T細胞、NK細胞、好中球、マクロファージなどがエフェクター細胞として機能する。一方、補体を活性化する機能はIgMおよびIgGクラスの抗体に限られる。抗体の可変領域が結合した細胞を溶解させる機能を特に補体依存性細胞障害作用(CDC)と呼ぶ。
【0032】
これらの中で、本発明において好ましいエフェクター機能は、ADCCもしくはCDCのいずれか、またはその両方である。本発明は、抗GFRA1抗体が、GFRA1発現細胞に結合してエフェクター機能を発現するという知見に基づいている。
【0033】
本発明は、以下の段階を含むGFRA1発現細胞を障害するための方法にも関する:
1)GFRA1発現細胞を抗GFRA1抗体と接触させる段階、および
2)GFRA1発現細胞に結合し細胞を障害する抗体のエフェクター機能を用いる段階。
【0034】
本発明の方法または薬学的組成物において、任意のGFRA1発現細胞は、障害されるかまたは殺傷され得る。例えば乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞は、本発明のGFRA1発現細胞として好ましい。これらのうちで、乳腺癌、乳癌、胃の腺扁平上皮癌、肝細胞癌(HCC)、腎細胞腺癌(RCC)、または非小細胞肺癌(NSCLC)細胞が好ましい。
【0035】
細胞と抗体はインビボまたはインビトロで接触させることができる。癌細胞をGFRA1発現細胞としてインビボで標的にする場合、本発明の方法は実際には癌に対する治療法または予防法である。具体的には、本発明は、以下の段階を含む癌に対する治療法を提供する:
1)GFRA1に結合する抗体を癌患者に投与する段階、および
2)癌細胞に結合した抗体のエフェクター機能を用いて癌細胞を障害する段階。
【0036】
本発明者らは、エフェクター機能を用いて、GFRA1に結合する抗体がGFRA1発現細胞、特に乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞を効果的に障害することを確認した。本発明者らはGFRA1が、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞において高い確率で高発現することを確認した。さらに、正常組織のGFRA1発現レベルは低い。本情報を総合して、抗GFRA1抗体が投与される乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌の治療法は、副作用の危険はほとんど伴わない効果的なものであり得る。
【0037】
本発明の抗体は、それらがエフェクター機能を含む限り、限定されない。例えば、IgA、IgE、またはIgGのFc領域を含む抗体はADCCの発現に不可欠である。同様に、IgMまたはIgGの抗体Fc領域は、CDCを発現するのに好ましい。したがって、これらのクラスに属するヒト由来抗体は本発明において好ましい。ヒト抗体は、ヒトから得られた抗体産生細胞、またはヒト抗体遺伝子を移植したキメラ動物を用いて獲得することができる(Cloning and Stem Cells., 4:85-95, 2002)。
【0038】
さらに、抗体Fc領域は任意の可変領域に接合することができる。具体的には、異種の動物の可変領域にヒトの定常領域を結合したキメラ抗体が公知である。または、ヒト由来の可変領域に任意の定常領域を結合して、ヒト-ヒトキメラ抗体を得ることもできる。さらに、ヒト抗体の可変領域を構成する相補性決定領域(CDR)を異種の抗体のCDRで置換する技術であるCDR移植技術も公知である(「Immunoglobulin genes」, Academic Press (London), pp260-274, 1989; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 91:969-973, 1994)。CDRの置換により、抗体の結合特異性が置換される。すなわち、ヒトGFRA1結合抗体のCDRを移植されたヒト化抗体は、ヒトのGFRA1を認識する。移植された抗体は、ヒト化抗体とも呼ばれる。このようにして得られ、エフェクター機能に必要なFc領域を備えた抗体は、可変領域の由来に関わらず、本発明の抗体として用いることができる。例えば、可変領域が、他のクラスまたは他の種の免疫グロブリンに由来するアミノ酸配列を含んでいる場合であっても、ヒトIgGのFcを含む抗体は、本発明において好ましい。
【0039】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。ヒトに投与する場合であっても、上記のヒトの抗体遺伝子を移植された動物を用いて、ヒトポリクローナル抗体を得ることができる。またはヒト化抗体、ヒト-非ヒトキメラ抗体、およびヒト-ヒトキメラ抗体などの遺伝子工学的技術によって構築された免疫グロブリンを用いることもできる。さらに、ヒト抗体産生細胞をクローン化することによって、ヒトモノクローナル抗体を得る方法も知られている。
【0040】
本発明の抗体を得るために、GFRA1またはその部分ペプチドを含む断片を免疫原として利用することができる。本発明のGFRA1は、任意の種、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物に由来し、より好ましくはヒトに由来し得る。ヒトGFRA1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は公知である(NM_005264)。GFRA1のcDNAヌクレオチド配列をSEQ ID NO:1に記載し、そのヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列をSEQ ID NO:2に記載した。当業者はルーチン的に、与えられたヌクレオチド配列を含む遺伝子を単離し、必要に応じて配列の断片を調製し、標的アミノ酸配列を含むタンパク質を得ることができる。
【0041】
例えばGFRA1タンパク質またはその断片をコードする遺伝子を、公知の発現ベクターに挿入し、宿主細胞を形質転換するために使用することができる。所望のタンパク質またはその断片は、宿主細胞の内外から任意の標準的な方法により回収することができ、かつ抗原として使用することもできる。さらに、タンパク質、その溶解物、および化学的に合成されたタンパク質を、抗原として使用することができる。さらに、GFRA1タンパク質またはその断片を発現する細胞そのものを免疫原として利用することができる。
【0042】
GFRA1の免疫原としてペプチド断片を用いる場合、特に細胞外ドメインであると予測される領域を含むアミノ酸配列を選択することが好ましい。GFRA1のN末端の1〜19位にシグナルペプチドの存在が予測される(Jing S. et al., Cell. (1996) Jun 28;85 (7):1113-24)。したがって、例えばN末端側のシグナルペプチド(19アミノ酸残基)を除く領域は、本発明の抗体を得るための免疫原として好ましい。すなわち、GFRA1の細胞外ドメインに結合する抗体は、本発明の抗体として好ましい。
【0043】
したがって、本発明における好ましい抗体は、エフェクター機能に必要なFcおよび細胞外GFRA1ドメインに結合することができる可変領域を備えた抗体である。ヒトに投与することを目的とする場合には、IgGのFcを備えることが望ましい。
【0044】
任意の哺乳動物をこのような抗原で免疫化することができる。しかしながら、細胞融合において用いる患者の細胞との適合性を考慮することが好ましい。一般に、げっ歯類、ウサギ目、または霊長類を使用する。
【0045】
げっ歯類には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目には、例えばウサギが含まれる。霊長類には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻猿類(旧世界)のサルが含まれる。
【0046】
動物を抗原で免疫化する方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物を免疫化する標準的な方法である。具体的には、抗原は適量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などで希釈および懸濁することができる。所望ならば、抗原懸濁物を、フロイント完全アジュバントなどの適量の標準的なアジュバントと混合し、乳化した後、哺乳動物に投与することができる。これに続いて、適量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原を、4〜21日毎に複数回投与することが好ましい。適切な担体を免疫化に使用することもできる。上記のように免疫化を行った後に、標準的な方法を用いて、所望の抗体量の増加に関して血清を調べることができる。
【0047】
GFRA1タンパク質に対するポリクローナル抗体は、血清中の所望の抗体の増加について調べられた免疫化哺乳動物から調製することができる。これは、これらの動物由来の血液を採取することによって、または任意の通常の方法を用いてそれらの血液から血清を単離することによって達成することができる。ポリクローナル抗体は、ポリクローナル抗体を含む血清、および血清から単離可能なポリクローナル抗体を含む画分を含む。IgGおよびIgMは、GFRA1タンパク質を認識する画分から、例えばGFRA1タンパク質を結合させたアフィニティカラムを用いて、この画分をプロテインAまたはプロテインGのカラムでさらに精製することにより、調製することができる。本発明において、抗血清は、ポリクローナル抗体のまま用いることもできる。または、精製されたIgG、IgMなどを用いることもできる。
【0048】
モノクローナル抗体を調製するため、抗原で免疫化した哺乳動物から免疫細胞を収集し、(上述のように)血清中の所望の抗体レベルの増加を調べ、細胞融合に適用する。細胞融合に使用する免疫細胞は、好ましくは脾臓から得られる。上記の免疫原と融合される他の好ましい親細胞には、例えば哺乳動物のミエローマ細胞、およびより好ましくは、薬剤によって融合細胞を選択するための性質を獲得したミエローマ細胞が含まれる。
【0049】
上記の免疫細胞およびミエローマ細胞は、公知の方法、例えばMilsteinらの方法を用いて融合することができる(Galfre, G. and Milstein, C., Methods. Enzymol, 1981, 73, 3-46)。
【0050】
細胞融合によって産生されるハイブリドーマを、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地で培養することにより、選択することができる。HAT培地における細胞培養は通常、数日から数週間、所望のハイブリドーマを除く他の全ての細胞(融合していない細胞)を死滅させるのに十分な期間、継続する。次いで、標準的な限界希釈を行い、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0051】
非ヒト動物は上記方法におけるハイブリドーマの調製のために抗原で免疫化することができる。さらに、EBウイルスなどに感染した細胞由来のヒトリンパ球は、タンパク質、タンパク質を発現する細胞、またはその懸濁物を用いて、インビトロで免疫化することができる。次いで、免疫化されたリンパ球を、無制限に分裂可能なヒト由来のミエローマ細胞(U266など)と融合させることにより、タンパク質に結合可能な所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマが得られる(公開特許公報(JP-A)昭63-17688)。
【0052】
得られたハイブリドーマを、続いてマウスの腹腔に移植して腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のタンパク質を結合させたアフィニティカラムによって精製することができる。本発明の抗体は、本発明のタンパク質の精製および検出だけでなく、本発明のタンパク質のアゴニストおよびアンタゴニストの候補として使用することもできる。これらの抗体を、本発明のタンパク質に関連する疾患の抗体療法に応用することもできる。得られた抗体をヒトの身体に投与する場合(抗体療法)、ヒト抗体またはヒト化抗体は免疫原性が低いため好ましい。
【0053】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを含むトランスジェニック動物を、タンパク質、タンパク質発現細胞、またはこれらの懸濁物より選択される抗原で免疫化することができる。次いで抗体産生細胞を動物から回収し、ミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これらのハイブリドーマから抗タンパク質ヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、第93-2227号、第94-02602号、第94-25585号、第96-33735号、および第96-34096号を参照されたい)。
【0054】
または、抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化して、モノクローナル抗体の調製に使用することができる。
【0055】
このようにして得られたモノクローナル抗体は、遺伝子工学の方法を用いて調製することができる(例えばBorrebaeck, C.A.K. and Larrick, J.W., Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers, UK, 1990を参照されたい)。例えば抗体をコードするDNAを、ハイブリドーマまたは抗体を産生する免疫化されたリンパ球などの免疫細胞からクローニングし、これらのDNAを適切なベクターに挿入し、宿主細胞に導入して、組換え抗体を調製することができる。本発明には、上述のように調製された組換え抗体を利用することもできる。
【0056】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。このような修飾抗体を本発明に利用することもできる。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。このような修飾法は当技術分野で常套的なものである。抗体を他のタンパク質によって修飾することもできる。タンパク質分子で修飾された抗体は、遺伝子工学によって作成することができる。すなわち、抗体遺伝子と修飾タンパク質分子をコードする遺伝子の融合により、標的タンパク質を発現させることができる。例えば、サイトカインまたはケモカインとの結合によって、抗体のエフェクター機能が強化され得る。実際、IL-2、GM-CSFなどとの融合タンパク質に対して、抗体のエフェクター機能の強化が確認されている(Human Antibody, 10:43-49, 2000)。エフェクター機能を強化するサイトカインまたはケモカインには、IL-2、IL-12、GM-CSF、TNF、好酸球走化性物質(RANTES)などを含むことができる。
【0057】
または本発明の抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域およびヒト抗体由来の定常領域を含むキメラ抗体として、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体として得ることができる。このような抗体は、公知の手法で産生することができる。
【0058】
上述のように得られた抗体を均一になるまで精製することができる。例えば、抗体は、タンパク質を精製および分離する一般的な方法に従って精製および分離することができる。例えば抗体は、アフィニティクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動などを含むがこれらに限定されないカラムクロマトグラフィーを、適切に選択し組み合わせることによって、分離および単離することができる(Antibodies:A Laboratory Manual, Harlow and David, Lane (編), Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0059】
プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティカラムとして使用することができる。使用される例示的なプロテインAカラムには、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0060】
例示的なクロマトグラフィー(アフィニティクロマトグラフィーを除く)には、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィーが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual」 Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。クロマトグラフィーは、HPLCまたはFPLCなどの液相クロマトグラフィーの手順に従って実施することができる。
【0061】
例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光法を用いて、本発明の抗体の抗原結合活性を測定することができる。ELISAでは、本発明の抗体をプレート上に固定し、本発明のタンパク質をプレート上に添加し、次いで抗体を産生する細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を添加する。次に、一次抗体を認識しアルカリホスファターゼなどの酵素でタグ付加された二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションする。洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、試料の抗原結合活性を評価する。タンパク質の断片(C末端またはN末端の断片など)をタンパク質と同様に使用することができる。BIAcore(Pharmacia)を用いて、本発明の抗体の結合活性を評価することができる。
【0062】
さらに、実施例に示すような方法にしたがって、抗体のエフェクター機能を評価することもできる。例えば、エフェクター機能を評価すべき抗体の存在下で、GFRA1を発現する標的細胞をエフェクター細胞と共にインキュベーションする。標的細胞の破壊が検出されれば、その抗体はADCCを誘導するエフェクター機能を含むことが確認できる。抗体またはエフェクター細胞のいずれかが存在しない条件下で、観察される標的細胞の破壊のレベルを対照としてエフェクター機能のレベルと比較することができる。標的細胞として、GFRA1を明らかに発現している細胞を利用することができる。具体的には、実施例においてGFRA1の発現が確認された各種の細胞株を用いることができる。これらの細胞株は、セルバンクから入手することができる。さらに、より強力なエフェクター機能を含むモノクローナル抗体が選択される。
【0063】
本発明において、ヒトまたは他の動物に薬剤として抗GFRA1抗体を投与することができる。本発明において、抗体を投与するヒト以外の動物には、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーが含まれ得る。抗体は、対象に対して直接投与することができ、さらに公知の薬学的調製法を用いて投与剤型に製剤化することができる。例えば必要に応じて、水または他の任意の薬学的に許容される液体を伴う無菌性溶液もしくは懸濁液のような注射可能な形状で非経口的に投与することができる。例えば、このような化合物は、許容される担体または溶媒、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、薬剤としての使用に必要な一般に許容される単位用量へと混合することができる。
【0064】
生理食塩水、グルコース、およびアジュバント(D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノールおよびポリアルコール(例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、ならびに非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)またはHCO-50)などの適切な可溶化剤と共に使用することができる。
【0065】
ゴマ油またはダイズ油を油性液体として用いることができ、これらと共に可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを用いてもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど);安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、および抗酸化剤を製剤に用いることができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0066】
本発明において、抗GFRA1抗体は、例えば動脈内、静脈内、もしくは経皮内、また鼻腔内、経気管支、局所、もしくは筋肉内投与によって患者に投与することができる。点滴または注射による血管内(静脈)投与は、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌患者に抗体を全身投与する一般的な方法の例である。抗体薬剤を、肺における原発巣または転移巣に局所集積させる方法には、気管支鏡を用いた局所注入(気管支鏡検査法)、およびCTガイド下または胸腔鏡による局所注入が含まれる。抗体薬剤を、肝臓における原発巣または転移巣に局所集積させる方法には、肝臓門脈内投与または動脈内注入が含まれる。さらに、動脈内カテーテルを癌細胞に栄養を供給する動脈付近まで挿入し、抗体薬剤のような抗癌剤を局所注入する方法は、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、肺癌の原発巣と同様に転移巣の局所コントロール治療としても有効である。
【0067】
用量および投与方法は、患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて変化するが、当業者であればこれらを慣例的に選択することができる。さらに抗体をコードするDNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、ベクターを治療のために投与することができる。用量および投与方法は、患者の体重、年齢、および状態に応じて変化するが、当業者であればこれらを適切に選択することができる。
【0068】
抗GFRA1抗体は、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能に基づく細胞障害作用が確認できる量で生体に投与することができる。例えば、症状によってある程度の差があるものの、抗GFRA1抗体の用量は、1日当たり、0.1 mg〜250 mg/kgである。通常、成人(体重60kg)1人当たりの投与量は、5 mg〜17.5 g/日、好ましくは5 mg〜10 g/日、およびより好ましくは100 mg〜3 g/日である。投与スケジュールとしては、2日〜10日間隔で、1〜10回、および例えば3〜6回の投与後、経過が観察される。
【0069】
本発明の抗体はエフェクター機能を保持するが、いくつかの態様において、細胞障害性物質を周知の技術を用いて抗体に結合することができる。細胞障害性物質は、非常に多く、多様であり、細胞障害性薬物または毒物もしくはそのような毒物の活性断片を含むが、これらに限定されない。適した毒物およびそれらの対応する断片は、ジフテリアA鎖、外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、オウリスタチン(auristatin)などを含む。細胞障害性物質はまた、放射性同位体を本発明の抗体に共役することによって、または抗体に共有結合したキレート剤に放射性核種を結合することによって作成される放射化学物質を含む。そのような結合体を調製する方法は当技術分野において周知である。
【0070】
加えて本発明は、GFRA1もしくは免疫学的活性GFRA1断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞を有効成分として含む、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための免疫原性組成物を提供する。または本発明は、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための、GFRA1もしくは免疫学的活性GFRA1断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞の免疫原性組成物の製造における使用に関する。
【0071】
抗GFRA1抗体の投与は、それらの抗体のエフェクター機能によって癌細胞を障害する。したがって、GFRA1抗体をインビボで誘導することができれば、抗体の投与と同等の治療効果を達成することができる。抗原を含む免疫原性組成物を投与する場合、インビボで標的抗体を誘導することができる。本発明の免疫原性組成物は、したがって、GFRA1発現細胞に対するワクチン療法において特に有用である。したがって、本発明の免疫原性組成物は、例えば、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌治療のためのワクチン組成物として有用である。
【0072】
本発明の免疫原性組成物は、GFRA1または免疫学的活性GFRA1断片を有効成分として含み得る。免疫学的活性GFRA1断片とは、GFRA1を認識し、かつエフェクター機能を含む抗GFRA1抗体を誘導し得る断片を指す。以下GFRA1および免疫学的活性GFRA1断片を、免疫原性タンパク質として記載する。ある断片が標的抗体を誘導するかどうかは、実際に動物に免疫し、誘導される抗体の活性を確認することによって判定することができる。抗体の誘導およびその活性の確認は、例えば実施例に記載した方法によって実施することができる。例えば、GFRA1の24〜465位に相当するアミノ酸配列を含む断片は、本発明の免疫原として用いることができる。
【0073】
本発明の免疫原性組成物は、有効成分である免疫原性タンパク質と同様に、薬学的に許容される担体を含む。必要に応じて、組成物はまた、アジュバントと組み合わせることができる。アジュバントとして、結核死菌、ジフテリアトキソイド、サポニンなどを利用することができる。
【0074】
または、免疫原性タンパク質をコードするDNA、またはそれらのDNAを発現可能な状態で保持した細胞を、免疫原性組成物として利用することもできる。標的抗原を発現するDNAを免疫原として用いる方法、いわゆるDNAワクチンは周知である。DNAワクチンは、GFRA1またはその断片をコードするDNAを適切な発現ベクターに挿入することにより、得ることができる。
【0075】
ベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどを利用することができる。さらに、免疫原性タンパク質をコードするDNAをプロモーターの下流に機能的に連結したDNAを裸のDNAとして直接細胞に導入し、発現させることも可能である。裸のDNAは、リポソームまたはウイルスエンベロープベクターに封入して細胞に導入することができる。
【0076】
本発明のGFRA1ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、インビボでの免疫応答の誘導にも用いることができ、GFRA1発現細胞に特異的な抗体および細胞障害性Tリンパ球(CTL)の作成を含む。そのような方法において、所望のペプチドによるCTL誘導は、インビボまたはエクスビボのいずれかで抗原提示細胞(APC)を介してペプチドをT細胞へ提示することによって達成することができる。
【0077】
例えば末梢血単核球(PBMC)のような患者の血液細胞を採取し、免疫原性タンパク質を発現することができるベクターで形質転換し、患者に戻すことができる。形質転換された血液細胞は、患者の体内で免疫原性タンパク質を産生し、標的抗体を誘導する。または、患者のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させ、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローンニングして増殖させることで、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0078】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをAPC、特に樹状細胞に接触させることによって増加することが知られている。したがって、APCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0079】
ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なされる。
【0080】
免疫原性タンパク質をコードするDNA、またはそれによって形質転換された細胞を本発明の免疫原性組成物として利用する場合、免疫原性タンパク質、およびそれらの免疫原性を強化する担体タンパク質を併用することができる。
【0081】
上記のように、本発明は、GFRA1、免疫学的活性GFRA1断片、またはそれらを発現することができるDNAもしくは細胞を投与する段階を含む、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための方法を提供する。本発明の方法によって、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌などのGFRA1発現細胞を障害するエフェクター機能を含む抗体が誘導される。その結果、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌などに対する治療効果を得ることができる。
【0082】
本発明の免疫原性組成物は、経口的または非経口的に、0.1 mg〜250 mg/kg/日で投与することができる。非経口的な投与には、皮下注射および静脈内注射が含まれる。成人1人当たりの投与量は、通常、5 mg〜17.5 g/日、好ましくは5 mg〜10 g/日、およびより好ましくは100 mg〜3 g/日である。
【0083】
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、その全体が参照により組み入れられる。
【0084】
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
【0085】
細胞株:
ヒト乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞株は、10%ウシ胎仔血清を添加した適切な培地中で、単層として増殖させた。実験に用いた細胞株を表1に示す。
【0086】
【表1】



*1 Eagle最小必須培地
*2 Dulbecco改変Eagle培地
*3 Leibovitz L-15培地
*4 McCoy 5A改変培地
*5 F-12栄養混合物(HAM)
【0087】
さらに、抗GFRA1抗体によるADCCアッセイに以下の細胞株を用いた。
乳腺癌(BC):MCF-7。
乳癌:MDA-MB-453。
胃腺扁平上皮癌:MKN1。
肝細胞癌(HCC):SNU-398。
腎細胞腺癌(RCC):ACHN。
非小細胞肺癌(NSCLC):NCI-H1793。
【0088】
抗体の作製:
標準のプロトコールに従い、個々のタンパク質特異的抗体を、細菌内で発現させたHisタグ付加融合タンパク質を免疫原として用いて産生させた。これらの融合タンパク質はタンパク質の一部(24〜465残基)に相当するタンパク質部分を含んだ。
【0089】
GFRA1およびc-erbB2に対する半定量的RT-PCR:
総RNAはRneasy(登録商標)キット(QIAGEN)を用いて細胞株から抽出した。さらに、mRNAを、オリゴ(dT)-セルロースカラム(Amersham Biosciences)によって総RNAから精製し、SuperScriptファーストストランド合成システム(Invitrogen)を用いて、逆転写(RT)によってファーストストランドcDNAへと合成した。GAPDHを定量対照としてモニタリングすることにより、その後のPCR増幅のための各ファーストストランドcDNAの適切な希釈物を調製した。本発明者らが用いたプライマー配列は以下である:
GFRA1に対して、5'-CTGAAGCAGAAGTCGCTCTA-3'(SEQ ID NO:3)および
5'-GACAGCTGCTGACAGACCTT-3'(SEQ ID NO:4)、
GAPDHに対して、5'-GTCAGTGGTGGACCTGACCT-3'(SEQ ID NO:5)および
5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(SEQ ID NO:6)。
PCR反応は全て、GeneAmp PCRシステム9700(PE Applied Biosystems)により、94℃ 2分間の初期変性を含み、94℃ 30秒間、58℃ 30秒間、および72℃ 1分間の21サイクル(GAPDHの場合)または30〜40サイクル(GFRA1の場合)からなった。
【0090】
GFRA1の過剰発現は乳癌細胞株MCF-7において見出された(図1)。さらに、様々な癌に対する抗GFRA1抗体(Br003)の有効性を解明するために、GFRA1の発現を確認した。GFRA1の過剰発現は、胃癌細胞株MKN1、肝臓癌細胞株SNU-398、腎臓癌細胞株ACHN、および肺癌細胞株NCI-H1793において判定された。
【0091】
フローサイトメトリー解析:
癌細胞(5×106)を精製ポリクローナル抗体(pAb)またはウサギIgG(対照)と共に、4℃で30分間インキュベーションした。細胞をリン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄した後、FITC標識Alexa Flour 488中4℃で30分間インキュベーションした。細胞をPBSで再度洗浄し、フローサイトメーター(FACSCalibur(登録商標)、Becton Dickinson)で分析してBD CellQuest(商標)Proソフトウェア(Becton Dickinson)により解析した。平均蛍光強度(MFI)は、フローサイトリー強度の比率(各タンパク質特異的抗体による強度/ウサギIgGによる強度)として定義した。
【0092】
抗GFRA1抗体Br003を用いて、MCF-7、MKN1、SNU-398、ACHN、およびNCI-H1793細胞についてGFRA1発現を調べた。結果として、抗GFRA1抗体(Br003)は、ウサギIgG(対照)と比べて高い割合でMCF-7、MKN1、SNU-398、ACHN、およびNCI-H1793細胞に結合した(MFI(平均蛍光強度):それぞれ155.4、5.2、9.3、78.5、および9.4)。
【0093】
ADCCアッセイ法:
標的細胞を、0.8μMのカルセインアセトキシメチルエステル(カルセイン-AM、DOJINDO)と共に、37℃で30分間曝露した。カルセイン-AMは、蛍光性誘導体カルセインを産生する細胞エステラーゼによるカルセイン-AMの切断後、蛍光性となる。アッセイ用に添加する前に標的癌細胞を2回洗浄し、その後96ウェルU底プレートに播種した(4×103細胞/ウェル)。ヒト末梢血単核細胞(PMBC)を健常者から採取し、Ficoll-Paque(Amersham Biosciences)密度勾配遠心分離により分離し、エフェクター細胞として使用した。標的癌細胞(T)およびエフェクター細胞(E)を、様々なE:T比(50:1、25:1、12.5:1、および6.25:1)で、Br003 抗GFRA1抗体(2μg/ウェル)または対照抗体ハーセプチン(2μg/ウェル;Roche)と共に、96ウェルU底プレートでAIM-V培地200μl中で共インキュベーションした。このインキュベーションは、200μLのAIM-V培地(Life Technologies, Inc)中で、37℃で6時間、三連で行った。対照アッセイには、抗GFRA1抗体Br003またはエフェクター細胞のみと共に標的細胞をインキュベーションすることを含んだ。ハーセプチンは、いくつかの実験において対照として用いた。
【0094】
MCF-7、MKN1、SNU-398、ACHN、およびNCI-H1793細胞に対して抗GFRA1抗体(Br003)のADCC作用を、IN Cell Analyzer 1000(Amersham Bioscience)を用いて迅速に得られた生細胞の蛍光画像に基づいて評価した。これらの画像を、Developer tool ver.5.21ソフトウェア(Amersham Bioscience)を用いて、蛍光性被写体またはベシクルを計数することによって生細胞数として数値的に変換した。
【0095】
Br003 抗GFRA抗体のみまたはエフェクター細胞のみと共に標的細胞をインキュベーションして対照アッセイを行った。ハーセプチンは、いくつかの実験において対照として用いた(図2A、2B)。Br003 抗GFRA1抗体それ自体による、MCF-7、MKN1、SNU-398、ACHN、およびNCI-H1793細胞の直接的な細胞障害は見られなかった。しかしながらBr003は、GFRA1を過剰発現するMCF-7、MKN1、SNU-398、ACHN、およびNCI-H1793細胞においてADCCを誘導したが(図3A、4〜7)、一方GFRA1が低発現であるMDA-MB-453細胞に対する影響はなかった(図3B)。
【0096】
産業上の利用可能性
本発明は、GFRA1発現細胞を抗体の細胞障害作用によって障害できるという知見に、少なくとも一部基づいている。GFRA1は、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌で強く発現している遺伝子として本発明者らにより同定された。したがって、GFRA1発現細胞と関連する疾患、例えば乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌の処置は、GFRA1に結合する抗体を用いて適宜行われる。実際、本発明者らが確認した結果は、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞株において、GFRA1抗体の存在下でのADCC効果による細胞障害作用を示した。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】癌細胞におけるGFRA1遺伝子に対する半定量的RT-PCR分析の結果を示す写真である。A;乳癌細胞株。B;胃癌細胞株。C;肝臓癌細胞株。D;腎臓癌細胞株。E;肺癌細胞株。乳癌に対してハーセプチン標的遺伝子であるc-erbB2遺伝子の発現レベルを、パネルAに示す(陽性対照)。
【図2】(A)MDA-MB-453過剰発現c-erbB-2遺伝子、および(B)MCF-7低発現c-erbB-2遺伝子に対するハーセプチンを用いたADCCアッセイの結果を示す。
【図3】それぞれGFRA1過剰発現および低発現乳癌細胞株である、(A)MCF-7および(B)MDA-MB-453に対する抗GFRA1抗体Br003を用いたADCCアッセイの結果を示す。
【図4】GFRA1過剰発現胃癌細胞株であるMKN1に対する抗GFRA1抗体Br003を用いたADCCアッセイの結果を示す。
【図5】GFRA1過剰発現肝臓癌細胞株であるSNU-398に対する抗GFRA1抗体Br003を用いたADCCアッセイの結果を示す。
【図6】GFRA1過剰発現腎臓癌細胞株であるACHNに対する抗GFRA1抗体Br003を用いたADCCアッセイの結果を示す。
【図7】GFRA1過剰発現肺癌細胞株であるNCI-H1793に対する抗GFRA1抗体Br003を用いたADCCアッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体エフェクター機能を含む抗GFRA1抗体を活性成分として含む、GFRA1発現細胞を障害するための薬学的組成物。
【請求項2】
GFRA1発現細胞が、乳癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、または肺癌細胞である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
抗GFRA1抗体がモノクローナル抗体である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
抗体エフェクター機能が、抗体依存性細胞障害作用、もしくは補体依存性細胞障害作用のいずれか、または両方である請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
以下の段階を含む、GFRA1発現細胞を障害するための方法:
a)GFRA1発現細胞を抗GFRA1抗体と接触させる段階、および
b)GFRA1発現細胞に結合した抗体のエフェクター機能によって該細胞を障害する段階。
【請求項6】
GFRA1、その免疫学的活性断片、または、GFRA1もしくはその免疫学的活性断片を発現することができるDNAを有効成分として含む、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための免疫原性組成物。
【請求項7】
GFRA1、その免疫学的活性断片、または、GFRA1もしくはその免疫学的活性断片を発現することができる細胞もしくはDNAを投与する段階を含む、GFRA1発現細胞に対するエフェクター機能を含む抗体を誘導するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−532923(P2008−532923A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537049(P2007−537049)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国際出願番号】PCT/JP2005/004859
【国際公開番号】WO2006/095446
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】