説明

抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体およびその産生細胞

【課題】Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片であって、前記機能性断片が、少なくともCDR1領域の特定の配列,CDR2領域の特定の配列,CDR3領域の特定の配列を含む軽鎖可変領域又は、重鎖可変領域を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体、その遺伝子配列及びその産生細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
Gaussia princes(海洋性カイアシ類)由来のGaussiaルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼ系とは異なるATP非依存的な基質coelenterazineの酸化による発光反応を触媒する海洋生物由来のルシフェラーゼである。Gaussiaルシフェラーゼはさらに、有用な発光タンパク質で、ライフサイエンスにおける研究・開発や創薬・診断に利用するにあたり、必要とされる次の様な特長を有する。
(1)他のnative型ルシフェラーゼ(Renilla、ホタル)の触媒する反応よりも発光が強い
(2)分泌型タンパク質として培地中に分泌発現される。
(3)検出感度が高く、微量なルシフェラーゼの検出が可能である。
【0003】
Gaussiaルシフェラーゼは、このような特性が利用されて、高感度発光タンパク質としてレポーターアッセイ系や、タンパク質の細胞内局在を明らかにするために用いられており、生体機能の解明において非常に有用なタンパク質である(特許文献1、2)。Gaussiaルシフェラーゼは、アミノ酸185個からなる小さいタンパク質であり、とても安定である(非特許文献1)。このため他のタンパク質と融合して発現させることが可能であり、その際に対象のタンパク質の機能を損なわない(非特許文献2)。この性質を用いて、高感度のレポーター系が構築されている(非特許文献3)。また注目するタンパク質にこのGaussiaルシフェラーゼを融合タンパク質として発現させることにより、その発光機能を用いて当該タンパク質の発現、組織内局在、細胞内局在、細胞内輸送を可視化し、高精度にて発現の時間空間パターンを明らかにすることができる(非特許文献4)。
Gaussiaルシフェラーゼを特異的に認識するモノクローナル抗体を提供することができれば、上記アッセイ系をより高度化することが可能になる。さらに、抗原であるGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識するだけでなく、その酵素活性を変化させるモノクローナル抗体であれば、Gaussiaルシフェラーゼの細胞内局在をより高精度で確定することができるのでGaussiaルシフェラーゼの有用性を一層高め、用途が広がると考えられるため、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に認識し、かつ発光活性を変化させることのできる抗体の樹立が望まれていた。
しかしながら、このような抗原の機能を変化させることのできる抗体は数少なく、その様な抗体産生細胞の樹立は大変困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−507410号公報
【特許文献2】米国特許第6,232,107号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inouye, S. and Sahara, Y., 2008, Identification of two catalytic domains in a luciferase secreted by the copepod Gaussia princeps. Biochem Biophys Res Commun 365, 96-101
【非特許文献2】Remy, I. and Michnick, S.W., 2006, A highly sensitive protein-protein interaction assay based on Gaussia luciferase. Nat Methods 3, 977-9.
【非特許文献3】Verhaegent, M. and Christopoulos, T.K., 2002, Recombinant Gaussia luciferase. Overexpression, purification, and analytical application of a bioluminescent reporter for DNA hybridization. Anal Chem 74, 4378-85.
【非特許文献4】Badr CE, Hewett JW, Breakefield XO, Tannous BA. A highly sensitive assay for monitoring the secretory pathway and ER stress. PloS One. 2007 Jun 27;2(6):e571.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、Gaussiaルシフェラーゼを認識し、その機能を阻害する分子を、モノクローナル抗体あるいはCDR配列を活性化断片として提供することにある。さらに該抗体を容易にかつ多量に生産しうる細胞を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、以前に、体外に取り出した免疫細胞を免疫賦活物質、特にCpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドを含有する培地で培養することにより、目的抗原を認識するB細胞が特異的に活性化され、かつミエローマ細胞との融合効率が飛躍的に高まることを見いだし、当該抗原特異的抗体産生細胞を片親としたハイブリドーマを用いた抗原特異モノクローナル抗体の産生方法に係る発明を完成させ、特許出願をしている(特許出願2011−020472号)。
本発明者らは、このGaussiaルシフェラーゼの発光機能を変化させる抗体の提供が従来なされなかった理由が、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する陽性クローン数が少ないことに起因するのではないか、という推論をたて、上記本発明者らの開発した効率的な電気的細胞融合法を適用することに思い至った。
その結果、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に強く認識するだけでなく、かつGaussiaルシフェラーゼ活性を阻害して、その発光活性を変化させることのできるモノクローナル抗体産生能を有するハイブリドーマの樹立に成功し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
(1) Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する、抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(2) Gaussiaルシフェラーゼを抗原とし、マウス脾細胞を免疫感作して得られた細胞を、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドからなる免疫賦活物質により活性化させ、次いでミエローマ細胞と融合して得られたハイブリドーマが産生する、前記(1)に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(3) 前記ハイブリドーマがハイブリドーマGL−11−6株(FERM P−22113)、又はGL−61−2株(FERM P−22114)である、前記(2)に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(4) 前記機能性断片が、少なくとも抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体軽鎖可変領域を含むものであり、CDR1領域として配列番号2もしくは5,CDR2領域として配列番号3もしくは6,CDR3領域として配列番号4もしくは7に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(5) 前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号48もしくは50に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、前記(4)に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(6) 前記機能性断片が、少なくとも抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体重鎖可変領域を含むものであり、CDR1領域として配列番号8もしくは11,CDR2領域として配列番号9もしくは12,CDR3領域として配列番号10もしくは13に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(7) 前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号49もしくは51に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、前記(6)に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
(8) Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片をコードする核酸であって、
CDR1領域として配列番号2もしくは5,CDR2領域として配列番号3もしくは6,CDR3領域として配列番号4もしくは7に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を少なくとも含むアミノ酸配列をコードする核酸。
(9) 前記軽鎖可変領域が配列番号48又は50に示されるアミノ酸配列を含む、前記(8)に記載の核酸。
(10) Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片をコードする核酸であって、
CDR1領域として配列番号8もしくは11,CDR2領域として配列番号9もしくは12,CDR3領域として配列番号10もしくは13に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を少なくとも含むアミノ酸配列をコードする核酸。
(11) 前記重鎖可変領域が配列番号49又は51に示されるアミノ酸配列を含む、前記(10)に記載の核酸。
(12) Gaussiaルシフェラーゼを抗原とし、マウス脾細胞を免疫感作して得られた細胞を、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドからなる免疫賦活物質により活性化させ、次いでミエローマ細胞と融合して得られたハイブリドーマであって、Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する、抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(13) ハイブリドーマGL−11−6株(FERM P−22113)、又はGL−61−2株(FERM P−22114)である、前記(11)に記載のハイブリドーマ。
(14) 前記(8)〜(11)のいずれかに記載のGaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片をコードする核酸を用いて形質転換された細胞であって、Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片を産生する形質転換細胞。

【発明の効果】
【0009】
本発明の機能性抗体を用いれば、Gaussiaルシフェラーゼの発光を任意の場所で任意の時間に消滅させることが可能である。これにより、レポーターアッセイの高度化や、組織や細胞内でのGaussiaルシフェラーゼのより高精度な局在の可視化が可能となる。したがって、本発明により発光機能を制御可能なモノクローナル抗体が提供できたことで、創薬アッセイ、医薬あるいは化粧品その他の分野において大いに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】抗Gaussia抗体の発光阻害機能評価の結果を示す図である。
【図2】GL-11-6の重鎖可変領域、軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図3】GL-61-2の重鎖可変領域、軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図4】GL-11-6、GL-61-2の相同性を示す図である。(A)軽鎖可変領域の相同性 (B)重鎖可変領域の相同性
【図5】抗Gaussia抗体のELISAによるGaussiaルシフェラーゼへの親和性を示す図である。
【図6】抗Gaussia抗体のウエスタンブロットによるGaussiaルシフェラーゼ、ドメイン1、ドメイン2への親和性を示す図である。
【図7】抗Gaussia抗体のエピトープを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体
本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体は、Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識するものであり、典型的にはハイブリドーマGL-11-6株(受託番号FERM P−22113)、及びGL-61-2株(FERM P−22114)が産生するモノクローナル抗体である。
それぞれのハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体であるGL-11-6抗体及びGL-61-2抗体の可変領域、及びCDRの配列が決定されている。
具体的には、GL-11-6抗体の軽鎖可変領域(VL),及び重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号48及び配列番号49であり、GL-61-2抗体のVL及びVHのアミノ酸配列が、それぞれ配列番号50及び51であることが決定され、各々の「CDR」領域に対応するCDR配列も決定されている(表1,2)。
したがって、本発明のモノクローナル抗体及びその機能性断片は、上記特定のモノクローナル抗体由来のものに限られず、「Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片」であれば全て包含される。
ここで、本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体における「機能性断片」というとき、抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体の特徴的な機能であるGaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性をし、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する機能を保持する断片であることを意味する。いわゆるFab断片、VL断片、VH断片、scFv断片がこれに相当する。
そのような「機能性断片」は、具体的には、
少なくともCDR1領域として配列番号2もしくは5,CDR2領域として配列番号3もしくは6,CDR3領域として配列番号4もしくは7に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか、又は、
少なくともCDR1領域として配列番号8もしくは11,CDR2領域として配列番号9もしくは12,CDR3領域として配列番号10もしくは13に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含むことを特徴とする。
そして、好ましくは、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、少なくとも
CDR1領域として配列番号2,CDR2領域として配列番号3,CDR3領域として配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むか、又は
CDR1領域として配列番号5,CDR2領域として配列番号6,CDR3領域として配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む機能性断片であるか、あるいは
重鎖可変領域のアミノ酸配列が、少なくとも
CDR1領域として配列番号8,CDR2領域として配列番号9,CDR3領域として配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むか、又は
CDR1領域として配列番号11,CDR2領域として配列番号12,CDR3領域として配列番号13に示されるアミノ酸配列を含む、機能性断片である。
さらに好ましくは、軽鎖可変領域のアミノ酸配列として、配列番号48又は50に示されるアミノ酸配列を含む機能性断片であるか、又は重鎖可変領域のアミノ酸配列として、配列番号49又は51に示されるアミノ酸配列を含む機能性断片である。
本発明の「抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体」というときも同様に、上記機能性断片を包含していればよいから、キメラ抗体又はヒト化抗体なども包含される。
【0012】
2.抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体の製造方法
(1)ハイブリドーマ法
本発明のGaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体は、Gaussiaルシフェラーゼを抗原とし、ハイブリドーマ法により得られたものであるが、この製法についてさらに具体的に説明する。
使用する抗原は、Gaussiaルシフェラーゼ遺伝子(AAG54095:配列番号1)を用いて形質転換した大腸菌からの組換えGaussiaルシフェラーゼを分離精製したものである。
抗体を作製するにあたり、マウスに抗原を腹腔内注入し、免疫する方法を用いた。
次いで、上述の本発明者らが以前に開発した免疫細胞の賦活化法(特許出願2011−020472号)の方法に従い、免疫感作されたマウス体外に取り出した脾細胞を、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドからなる免疫賦活物質を含有する培地で培養し、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に認識するB細胞を活性化させる。次いで、ミエローマ細胞と電気的細胞融合法により細胞融合させ、常法により、HAT培地でハイブリドーマを選別し、さらに限界希釈法により得たハイブリドーマの各クローンの培養上清を、上記抗原を使用した発光アッセイにより測定し、発光を変化させる陽性のハイブリドーマクローンを得る。
この後、Gaussiaルシフェラーゼ抗体産生ハイブリドーマを得、産生能力及び増殖性が良好なクローンをさらにスクリーニングして、本発明のGaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得た。すなわち、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に強く認識し、かつGaussiaルシフェラーゼ活性を阻害して、その発光活性を変化させることのできるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマGL-11-6株、及びGL-61-2株を樹立した。同時に、Gaussiaルシフェラーゼを特異的に強く認識するが発光活性は変化させないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマGL-20-3株も樹立しており、比較のために用いた。
【0013】
以上の通りに得られたハイブリドーマGL-11-6株、及びGL-61-2株は、2011年4月28日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、それぞれ受託番号FERM P−22113、及びFERM P−22114として寄託されている。
上記ハイブリドーマから得られた本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体は、いずれもGaussiaルシフェラーゼの発光を阻害する。
【0014】
(2)遺伝子組換え法
本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体又はその機能的断片については、すでに軽鎖及び重鎖の可変領域、さらにはそれぞれのCDR領域の配列が決定されている(上記1.)ので、これら配列情報を利用して、一般的な遺伝子組換え技術によりCOS細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、NIH3T3細胞、Huvec細胞、Jurkat細胞など汎用の宿主細胞から、大量に製造することが可能である。また、上記CDR領域をヒト由来FR及び定常領域と機能的に繋ぎヒト化抗体を作製すること、又は上記軽鎖及び重鎖の可変領域をヒト由来定常領域と繋ぎキメラ抗体を作製することも可能である。
【0015】
3.本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体の特性
(1)抗体の発光阻害機能の評価
免疫に用いた組換えGaussiaルシフェラーゼを発光バッファーで段階的に希釈してウェル内に分注し(例えば、0.2mg/mLから0.032mg/mL)、室温で反応させる。反応後に発光基質(Coelenterazine)を加え、ルミノメーターで発光を測定する。抗体濃度を変化させて,発光強度を測定することで、発光阻害機能を有することが実証できる。本発明のGL-11-6抗体及びGL-61-2抗体は、いずれも抗体濃度依存的にGaussiaルシフェラーゼの発光を阻害する。一方、発光阻害機能の無いGL-20-3抗体は抗体濃度に関わらず一定の発光を示す。
本発明のGL-11-6抗体及びGL-61-2抗体は、10μgで、1μgのGaussiaルシフェラーゼの発光量を10%以下にまで低下させることができる。
【0016】
(2)抗体の抗原親和性の測定、評価
Gaussiaルシフェラーゼへの抗原親和性の測定には、表面プラズモン共鳴法、ウェスタンブロッティング法、ラジオイムノアッセイ法、競合法などの種々の方法で決定できるが、典型的にはELISA法が用いられる。
具体的には、免疫に用いた精製Gaussiaルシフェラーゼを、ウェル内でコーティング処理、ブロッキング処理を行い、精製抗体の段階的な希釈系列を作製して、1次抗体反応を行う。1次抗体反応溶液を廃棄、洗浄し、アルカリフォスファターゼ標識2次抗体を作用させる。アルカリフォスファターゼ発色基質で発色させ、マイクロプレートリーダーにより波長405nmにおける吸光度を測定する。
本発明のGL-11-6抗体及びGL-61-2抗体は、いずれもGaussiaルシフェラーゼ全体に対しては、比較の高親和性GL-20-3抗体と同様の強い反応を示したが、GaussiaルシフェラーゼN末端断片に対しても、C末端断片に対しても反応しなかった。一方、GL-20-3抗体はC末端断片に対して反応性を示した。このことは、本発明の抗体は両者とも、Gaussiaルシフェラーゼ全体の構造を認識していることが示されている。そして、酵素の発光機能を阻害していることからみて、酵素活性部位の近傍に結合して、基質との結合阻害を起こしているか、又は酵素活性部位の構造を変化させる機能を有していると考えられる。
【0017】
(3)抗原認識部位(エピトープ)配列の検討
GaussiaルシフェラーゼのN末端側から隣り合う15アミノ酸のペプチドが8アミノ酸ずつオーバーラップするよう合成した24種類のペプチドを用い、ELISA法により本発明のGL-11-6抗体及びGL-61-2抗体の各ペプチドへの反応性を観察したところ、両抗体はいずれのペプチドに対しても反応性は見いだせず、比較のGL-20-3抗体がNo.14ペプチドとのみ強い反応性を示したことと対照的な結果を得た。
このことも、前記(2)の結果と同様、本発明のGL-11-6抗体及びGL-61-2抗体が、Gaussiaルシフェラーゼの配列ではなく構造を認識していることを強く示唆するものであり、発光機能が阻害されたことは、酵素活性部位と基質との結合が阻害されたことを意味する。その際、酵素活性部位の近傍に結合することで基質との結合を阻害することが考えられるが、酵素への結合がその立体構造自体を変化させることで、活性部位近傍の構造が変化して基質との結合を阻害する結果を引き起こしている可能性もある。
【0018】
4.本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体の用途
(1)細胞内のGaussiaルシフェラーゼ発光の変化の利用
本発明の抗体は、10μgで、1μgのGaussiaルシフェラーゼの発光量を10%以下にまで低下させることができるため、被検物質を、当該抗体又はその断片に繋いだ融合タンパク質として遺伝子工学的に発現させることで、生体内(細胞内)でGaussiaルシフェラーゼと結合しているターゲットタンパク質との相互作用を,発光量の変化で経時的に観察することができる。これは、反対に本発明の抗体又はその断片をターゲット物質の側に結合させておき、Gaussiaルシフェラーゼと結合した被検物質の挙動を観察することもできる。
そして、本発明では、本発明の2つの抗体のVL及びVH領域と共に、CDR領域の配列も決定しているので、これらの配列を利用してヒトに対する抗原性の少ないヒトキメラ抗体及びヒト化抗体を得ることも可能である。したがって、ヒト生体内での診断用キットとして利用することも可能である。
【0019】
(2)抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体のその他の用途
抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体は上記用途のほかにも様々な用途に使用できる。これらについて以下に例示する。
(a)Gaussiaルシフェラーゼ結合蛋白質の同定・精製
本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体を用いて、カラムを作成することにより、Gaussiaルシフェラーゼ及びその類似タンパク質、またGaussiaルシフェラーゼに特異的に結合する蛋白質の同定・精製を行うことができる。
【0020】
(b)本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体の改変によるルシフェラーゼに対する抗体の作製
本発明の抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体であるGL-11-6及びGL-61-2抗体遺伝子が単離され、軽鎖及び重鎖の可変領域の塩基配列も決定されているので、少なくとも2種類の抗原認識部位(CDR)の遺伝配列を対比し比較検討することで、CDR領域の必須配列を残し、他の部分に変異を導入することにより、抗体の抗原特異性、発光機能阻害活性をさらに高めることが可能となった。さらに、認識機能の異なるモノクローナル抗体やGaussiaルシフェラーゼの発光機能を制御する抗体の作製の可能性もある。

【実施例】
【0021】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0022】
(実施例1)抗原(Gaussiaルシフェラーゼ)の調整
(1−1)Gaussiaルシフェラーゼ発現ベクターの構築
5´末端にHisタグ遺伝子を付加したGaussiaルシフェラーゼ遺伝子(配列番号1)を人工的に合成し、KpnIとSacIで切断し、切断断片を同様の制限酵素で切断したpET-30a(タカラバイオ社)に組み込み発現ベクターを構築した。
【0023】
(1−2)Gaussiaルシフェラーゼの発現
Gaussiaルシフェラーゼ発現ベクターをBL21(DE3)へ導入し、形質転換クローンをクローニングした。形質転換クローンは0.1mM IPTGでGaussiaルシフェラーゼの発現を誘導し、その後回収した大腸菌を破砕し、抗Hisタグ抗体カラムを用いGaussiaルシフェラーゼを精製し抗原を調整した。
【0024】
(実施例2)Gaussiaルシフェラーゼの免疫
抗原Gaussia ルシフェラーゼとFREUND Complete ADJUVANT (シグマ社)を混合し、BALB/cマウス(雌)の腹腔に抗原100μg/匹となるよう投与し、1次免疫を2週間行った。続いて、抗原とFREUND Incomplete ADJUVANT (シグマ社)を混合し、1次免疫と同様に2次免疫を行った。最後の免疫から2週間後にマウスの腹腔に抗原100μgを投与しブーストした。
【0025】
(実施例3)免疫細胞とミエローマ細胞のハイブリドーマ作製
(3−1)免疫細胞の調整
免疫を行ったマウスより脾臓を摘出し、RPMI培養液(シグマ社)中に分散させ、セルストレーナー(BD社)を通し夾雑物を取り除いた。次いで、Lympholyte-M(CEDARLANE社)上に細胞懸濁液を重層し、23℃、1000gで20分間遠心し、赤血球を取り除き、培養液で2回洗浄した。
【0026】
(3−2)免疫細胞の幼若化
上記(3−1)で調整した免疫細胞は0.25μM CpG ODN(配列番号52のホスホロチオエート化、北海道システム・サイエンス株式会社に委託して作成)を添加したRPMI培養液に懸濁し、培養プレートに10mLずつ分注し、37℃、5% CO2インキュベータ内で2日間培養した。
【0027】
(3−3)ミエローマ細胞の調整
エレクトロフュージョン3日前にミエローマ細胞を起眠し、1×106/mLの濃度を超えないようRPMI培養液に懸濁し37℃、5% CO2インキュベータ内で培養した。
【0028】
(3−4)エレクトロフュージョン
幼若化した免疫細胞とミエローマ細胞を各々180gで5分間遠心し、290mOsm Inositol、0.5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化カルシウム、1mMリン酸カリウム、pH7.2バッファーに懸濁し、2回洗浄した。洗浄した細胞を5×106/mLの濃度になるよう185mOsm Inositolバッファーに懸濁し、免疫細胞とミエローマ細胞を1:1で混合した。細胞混合液80μLを2mmギャップ電極のエレクトロフュージョンチャンバーへ添加し、185mOsm Inositolバッファーに懸濁から2分後に電気的細胞融合装置LF100(ベックス社)を用いて、アラインメントパルス35V 30sec、パルス300V 20μsec 2cycle、ポストアラインメントパルス35V 30secを与え、10分間静置し、エレクトロフュージョンを行った。その後、細胞を20% FCS(HyClone社)、5% Briclone(QED BIOSCIENCE社)含有のフェノールレッド不含RPMI培養液10mlに懸濁し96ウェルマイクロプレートに100μL/ウェルで分注し、37℃、5% CO2インキュベータ内で培養した。
【0029】
(実施例4)抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体産生ハイブリドーマの取得
(4−1)抗体産生ハイブリドーマの発光阻害スクリーニング
Gaussia luciferaseを12.5μg/mLとなるよう発光バッファー(200mM NaCl, 50mM Tris, 0.08% Triton X-100 pH7.6)で希釈し、遮光96ウェルマイクロプレートに40μL/ウェルで分注した。上記で7日間培養したハイブリドーマの培養上清50μLを各ウェルに分注し、室温で30分間反応させた。発光基質のCoelenterazineを0.5μMとなるよう発光バッファーで希釈し、40μL/ウェルで分注し10分後にルミノメーター、Centro LB960(ベルトールド社)で発光を測定した。その結果、96ウェル中のNo.11とNo.61の2ウェルのハイブリドーマ培養上清に発光阻害が認められ、1次スクリーニングのみによって機能性抗体を確認した。なお、同時に、比較のために発光阻害はないが抗原親和性の高いクローン(GL-20-3)も採取した。
【0030】
(4−2)ハイブリドーマのクローニング
上記(4−1)で取得した発光阻害陽性ウェルのハイブリドーマを2.5×102/mLとなるよう20%FCS、5% Briclone、1×HAT含有のRPMI培養液に懸濁し、96ウェルマイクロプレートに200μL/ウェルで分注した。その後、37℃、5% CO2インキュベータ内で培養した。培養7日後に顕微鏡下でシングルクローンのみが存在するウェルを確認し、培養上清を回収し、前記(4−1)と同様に発光阻害活性を確認した。発光阻害抗体陽性の2ウェルから各々クローニングを行い、ハイブリドーマクローンGL-11-6とGL-61-2を得た。
【0031】
(実施例5)抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体の取得
(5−1)腹水の作製
GL-11-6とGL-61-2のクローンをそれぞれ2×106/500μLとなるようPBSに懸濁し、マウスの腹腔内に投与した。10日後に腹腔から腹水を回収し、室温で1時間静置後、4℃、3000rpmで15分間遠心し、中間層を回収した。
【0032】
(5−2)腹水からのIgGの精製
腹水3mLを15mLの結合バッファー(PBS pH7.4)で希釈し、1mL Pritein Gカラム(GE社)へ1分間に0.2mLの流速で送液しIgG抗体をカラムに結合する。次いで5mLの結合バッファーを送液しカラムを洗浄後、5mLの溶出バッファー(0.1M Glycine-HCl pH2.7)を送液し抗体を溶出した。溶出した抗体溶液は500μL毎に中和バッファー(1M Tris-HCl pH9.0)を50μLを分注したチューブに回収し、直ちに中和後、各フラクションをOD280で測定し、抗体の濃度を算出した。GL-11-6は2.2mg/mLの濃度で2.2mL、GL-61-2は3.2mg/mLの濃度で1.6mLを回収した。比較のためのGL-20-3も同様に、2.2mg/mLの濃度で1.6mLを回収した。
【0033】
(実施例6)取得抗体の発光阻害機能評価
Gaussiaルシフェラーゼを12.5μg/mLとなるよう発光バッファーで希釈し、遮光96ウェルマイクロプレートに40μL/ウェルで分注した。精製した抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体の各クローン(GL-20-3,GL-11-6,GL-61-2)を0.2mg/mLから0.032mg/mLまで発光バッファーで段階的に希釈し、50μLを各ウェルに分注し、室温で30分間反応した。反応後にCoelenterazineを0.5μMとなるよう発光バッファーで希釈し、40μL/ウェルで分注し、10分後にルミノメーター、Centro LB960(ベルトールド社)で発光を測定した。結果を(図1)に示す。発光阻害機能の無いGL-20-3は抗体濃度に関わらず、一定の発光であったのに対して、GL-11-6とGL-61-2は抗体濃度依存的にGaussiaルシフェラーゼの発光を阻害した。
【0034】
(実施例7)取得抗体のアイソタイプ決定
GL-11-6とGL-61-2のマウス腹水から精製した抗体を0.5μg/mLとなるよう、1%BSA/PBSで希釈し、溶液150μLをMouse Monoclonal Antibody isotyping Kit(IsoStrip、ロシュダイアグノスティック社)を用いてアイソタイプを決定した。結果、GL-11-6のアイソタイプはIgG1、軽鎖はκ鎖、GL-61-2のアイソタイプはIgG1、軽鎖はκ鎖であった。
【0035】
(実施例8)抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体可変領域の遺伝子配列決定
(8−1)可変領域(VL、VH)の増幅
GL-11-6とGL-61-2のハイブリドーマクローンからRneasy Micro Kit(キアゲン社)を用いてトータルRNAを抽出し、cDNA合成キット(Perfect Real Time、タカラバイオ社)で一本鎖cDNAを合成した。得られた一本鎖cDNAを鋳型とし、Mouse Ig-Primer Set(ノバジェン社)を用いてPCRにより軽鎖と重鎖の可変領域(VL、VH)を増幅した。
【0036】
(8−2)可変領域(VL、VH)塩基配列の決定
上記増幅産物をPCR Purification Kit(キアゲン社)で精製し、pGEM-T Vector(プロメガ社)に挿入、TAクローニングの後、シークエンスを行い、VHとVLの塩基配列を決定した(GL-11-6クローン由来のVL塩基配列は配列番号44,VH塩基配列は配列番号45,GL-61-2クローン由来のVL塩基配列は配列番号46、VH塩基配列は配列番号47であった。なお、対応するアミノ酸配列は、それぞれ配列番号48〜51である)。
【0037】
(実施例9)抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体可変領域のアミノ酸配列の解析
各ハイブリドーマクローンVL、VHの決定した塩基配列をもとに、それらにコードされるアミノ酸配列を解析し、CDRとFRの領域を決定した。結果を(図2,3)に示すとともに、軽鎖のCDR部分の配列を(表1)、重鎖のCDR部分の配列を(表2)、に示した。
また、GL-11-6、GL-61-2の相同性を(図4A,B)に示した。

【表1】

【表2】

【0038】
(実施例10) 抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体の抗原親和性
(10−1)ELISAによるGaussiaルシフェラーゼへの親和性測定
実施例1で精製したGaussiaルシフェラーゼをコーティングバッファー(Na2CO3、NaHCO3、pH9.6)で5μg/mLとなるよう調整し、96ウェルマイクロプレートに50μL/ウェルで分注後、4℃で1晩コーティングした。コーティング溶液を廃棄し、0.05% Tween/PBSで1回洗浄し、Blocking reagent(ロシュダイアグノスティック社)を250μL/ウェルで分注し、室温で2時間ブロッキングした。ブロッキング溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで1回洗浄し、精製抗体(GL-20-3、GL-11-6、GL-61-2)を1% BSA/PBSで40μg/mLとなるよう希釈、さらに5倍希釈で希釈系列を作製し、50μL/ウェルで分注後、室温で2時間、1次抗体反応を行った。1次抗体反応溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、アルカリフォスファターゼ標識2次抗体(Anti-Mouse IgG-AP、ケミコン社)を1%BSA/PBSで5000倍希釈し、50μL/ウェルで分注後、室温で1時間1次抗体反応を行った。2次抗体反応溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、アルカリフォスファターゼ発色基質(SIGMAFAST p-Nitrophenyl phosphate tablets、シグマ社)を100μL/ウェルで分注し、室温で発色させ、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を使用し波長405nmにおける吸光度を測定した。結果を(図5)に示した。発光阻害機能を有するGL-11-6とGGL-61-2はコントロールのGL-20-3と比較して、抗原のGaussiaルシフェラーゼに対する親和性は同等あるいはそれ以上であることを示した。
【0039】
(10−2)GaussiaルシフェラーゼN末端側断片、C末端側断片発現ベクターの構築
実施例1で調製したGaussiaルシフェラーゼ発現ベクターをテンプレートとし、N末端側のドメイン1(配列番号18)をプライマー1、プライマー2使用し、N末端側のドメイン2(配列番号19)をプライマー3、プライマー4を使用し、各々、PCRによる遺伝子断片の増幅を行った。用いたプライマー配列を下記に示す。

プライマー1・・・5’-ATCCGGGTCATATGCGTGGCAAACTGCCGGGC-3’ (配列番号14)
プライマー2・・・5’-GATCTCGAGATCCACAATCGCTTCGCCAA-3’ (配列番号15)
プライマー3・・・5’-ATCCGGGTCATATGATTCCGGAAATTCCGGGC-3’ (配列番号16)
プライマー4・・・5’-GATCTCGAGATCGCCGCCCGCGCCTTTAA-3’ (配列番号17)

2%アガロースゲル電気泳動により増幅産物を確認した後、ゲルから増幅産物を切り出し、Wizard SV Gel and PCR clean-Up System(プロメガ社)のキットを用いて使用書に従い、精製した。精製したGaussiaルシフェラーゼN末端側断片、C末端側断片それぞれを2種類の制限酵素(NdeI、XhoI)により切断し、同じ制限酵素で切断し精製したpET30aベクターに組込みGaussiaルシフェラーゼドメイン1とドメイン2の発現ベクターを構築した。Gaussiaルシフェラーゼドメイン1、Gaussiaルシフェラーゼドメイン2の遺伝子配列は下記の通りである。
【0040】
(10−3)Gaussiaルシフェラーゼドメイン1、ドメイン2の発現
構築したGaussiaルシフェラーゼN末端側発現ベクター、GaussiaルシフェラーゼC末端側発現ベクターをBL21(DE3)へ導入し、形質転換クローンをクローニングした。形質転換されたGaussiaルシフェラーゼドメイン1クローンは、0.1mM IPTG、25℃、3時間で発現を誘導し、その後回収した大腸菌を破砕し全画分を回収した。Gaussiaルシフェラーゼドメイン2クローンは、0.4mM IPTG、37℃、3時間で発現を誘導し、その後回収した大腸菌を破砕し全画分を回収した。
【0041】
(10−4)ウエスタンブロットによるGaussiaルシフェラーゼの全長、ドメイン1、ドメイン2への親和性

実施例1で調製したGaussiaルシフェラーゼ2μg、Gaussiaルシフェラーゼドメイン1発現大腸菌破砕液100μL分のタンパク溶液、Gaussiaルシフェラーゼドメイン2発現大腸菌破砕液100μL分のタンパク溶液の3サンプルをサンプルバッファー{0.125Mトリス塩酸バッファー(pH6.8)、10%メルカプトエタノール、4%SDS、20%グリセロール、0.01%ブロモフェノルブルー}と等量ずつ混合し、95℃、5分加熱処理した後、5〜20%SDSポリアクリルアミドグラジエントゲル(スーパーセップエース、Wako社)にアプライし、20mAの定電流で80分間泳動した。泳動が終了したゲルを転写バッファー(25mM Tris塩基、192mM グリシン、20%メタノール)中で、10分間振とうさせながら平衡化した。PVDF膜を転写バッファーで10分間振とうさせながら平衡化した。平衡化したPVDF膜にゲルを重ね、セミドライ式転写装置(Trans-Blot SD、Bio-Rad社)にて80mA、45分間タンパク質を転写した。転写後のPVDF膜を、ブロッキングバッファー{5%スキムミルク、0.05%Tween-20、PBS(pH7.4)}で1時間ブロッキングを行った。GL-11-6、GL-20-3、GL-61-2の腹水をそれぞれブロッキングバッファーで10,000倍(GL-11-6)、30,000倍(GL-20-3、GL-61-2)希釈し、PVDF膜を浸け一次抗体反応を室温で1時間行った。コントロール用に抗Hisタグ抗体(MBL社)をブロッキングバッファーで1,000倍希釈し反応させた。反応後のPVDF膜は洗浄バッファー{0.05%Tween-20、PBS(pH7.4)}で10分、3回洗浄した。二次抗体として抗マウスIgG+IgM-HRP conjugated{ケミコン社}をブロッキングバッファーで10,000倍希釈し、室温で1時間反応させた。反応後のPVDF膜は洗浄バッファー{0.05%Tween-20、PBS(pH7.4)}で10分、4回洗浄した。洗浄後のPVDF膜は、化学発光試薬(Immobilon Western HRP Substrate Luminol Reagent 、Millipore社)を使用書に従って調製後反応させた後、化学発光専用撮影装置{Chemistage CC-16 mini、クラボウ社}を用いて検出した。結果を(図6)に示した。発光阻害機能を有するGL-11-6とGL-61-2及び発光阻害機能を有しないGL-20-3は、いずれも全長のGaussiaルシフェラーゼにバンドが検出され、親和性を有することが示された。しかし、Gaussiaルシフェラーゼドメイン1及び、ドメイン2には親和性を示すバンドが認められなかった。これらの抗体がGaussiaルシフェラーゼへの結合するためには全長が必要であり、ドメイン1、ドメイン2の両ドメインが同時に存在する事によって構成される部位の構造を認識すると考えられる。
【0042】
(実施例11)抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体のエピト-プ決定
(11−1)エピトープマッピングのペプチド合成
GaussiaルシフェラーゼのN末端側から隣り合う15アミノ酸のペプチドが8アミノ酸ずつオーバーラップするよう24種類を合成した。合成したペプチドのアミノ酸配列は(表3)のとおりである。
【表3】

【0043】
(11−2)抗Gaussiaルシフェラーゼ抗体のELISAによるエピトープ決定
Gaussiaルシフェラーゼ5μg/mL、合成ペプチド10μMとなるようコーティングバッファー(Na2CO3、 NaHCO3、 pH9.6)で調整し、96ウェルマイクロプレートに50μL/ウェルで分注後、4℃で1晩コーティングした。コーティング溶液を廃棄し、0.05% Tween/PBSで1回洗浄し、Blocking reagent(ロシュダイアグノスティック社)を250μL/ウェルで分注し、室温で2時間ブロッキングした。ブロッキング溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで1回洗浄し、精製抗体(GL-20-3、GL-11-6、GL-61-2)を1% BSA/PBSで10μg/mLとなるよう希釈し、50μL/ウェルで分注後、室温で2時間、1次抗体反応を行った。1次抗体反応溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、アルカリフォスファターゼ標識2次抗体(Anti-Mouse IgG-AP、ケミコン社)を1% BSA/PBSで5000倍希釈し、50μL/ウェルで分注後、室温で1時間1次抗体反応を行った。2次抗体反応溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、アルカリフォスファターゼ発色基質(SIGMAFAST p-Nitrophenyl phosphate tablets、シグマ社)を100μL/ウェルで分注し、室温で発色させ、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を使用し波長450nmにおける吸光度を測定した。結果を(図7)に示した。コントロールのGL-20-3はGaussiaルシフェラーゼ全長(PC)とペプチドNo.14(配列番号33)に対して反応を示しており、ペプチドNo.14の配列(配列番号33)を特異的に認識して結合することが明らかとなった。他方、GL-11-6とGGL-61-2はGaussiaルシフェラーゼ全長には反応しているが、ペプチドには反応を示さなかった。これは、ウェスタンブロッティングの結果と同様にGaussiaルシフェラーゼの配列ではなく構造を認識していることと共に、酵素活性部位の近傍に抗体が結合することで、発光機能を阻害していることを強く示唆するものである。
【0044】
[配列表フリーテキスト]
1.Gaussia luciferase gene
2.Light chain CDR(GL-11-6)CDR1
3.Light chain CDR(GL-11-6)CDR2
4.Light chain CDR(GL-11-6)CDR3
5.Light chain CDR(GL-61-2)CDR1
6.Light chain CDR(GL-61-2)CDR2
7.Light chain CDR(GL-61-2)CDR3
8.Heavy chain CDR(GL-11-6)CDR1
9.Heavy chain CDR(GL-11-6)CDR2
10.Heavy chain CDR(GL-11-6)CDR3
11.Heavy chain CDR(GL-61-2)CDR1
12.Heavy chain CDR(GL-61-2)CDR2
13.Heavy chain CDR(GL-61-2)CDR3
14.Gaussia luciferase primer-1
15.Gaussia luciferase primer-2
16.Gaussia luciferase primer-3
17.Gaussia luciferase primer-4
18.Gaussia luciferase domain-1ドメイン1遺伝子配列
19.Gaussia luciferase domain-2ドメイン2遺伝子配列
20.Gaussia luciferase peptide-1
21.Gaussia luciferase peptide-2
22.Gaussia luciferase peptide-3
23.Gaussia luciferase peptide-4
24.Gaussia luciferase peptide-5
25.Gaussia luciferase peptide-6
26.Gaussia luciferase peptide-7
27.Gaussia luciferase peptide-8
28.Gaussia luciferase peptide-9
29.Gaussia luciferase peptide-10
30.Gaussia luciferase peptide-11
31.Gaussia luciferase peptide-12
32.Gaussia luciferase peptide-13
33.Gaussia luciferase peptide-14
34.Gaussia luciferase peptide-15
35.Gaussia luciferase peptide-16
36.Gaussia luciferase peptide-17
37.Gaussia luciferase peptide-18
38.Gaussia luciferase peptide-19
39.Gaussia luciferase peptide-20
40.Gaussia luciferase peptide-21
41.Gaussia luciferase peptide-22
42.Gaussia luciferase peptide-23
43.Gaussia luciferase peptide-24
44.Light chain variable region(GL-11-6)
45.Heavy chain variable region(GL-11-6)
46.Light chain variable region(GL-61-2)
47.Heavy chain variable region(GL-61-2)
48.Light chain variable region(GL-11-6)
49.Heavy chain variable region(GL-11-6)
50.Light chain variable region(GL-61-2)
51.Heavy chain variable region(GL-61-2)
52.CpG-oligo deoxy nucleotide

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する、抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項2】
Gaussiaルシフェラーゼを抗原とし、マウス脾細胞を免疫感作して得られた細胞を、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドからなる免疫賦活物質により活性化させ、次いでミエローマ細胞と融合して得られたハイブリドーマが産生する、請求項1に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項3】
前記ハイブリドーマがハイブリドーマGL−11−6株(FERM P−22113)、又はGL−61−2株(FERM P−22114)である、請求項2に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項4】
前記機能性断片が、少なくとも抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体軽鎖可変領域を含むものであり、CDR1領域として配列番号2もしくは5,CDR2領域として配列番号3もしくは6,CDR3領域として配列番号4もしくは7に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項5】
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号48もしくは50に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項6】
前記機能性断片が、少なくとも抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体重鎖可変領域を含むものであり、CDR1領域として配列番号8もしくは11,CDR2領域として配列番号9もしくは12,CDR3領域として配列番号10もしくは13に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項7】
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号49もしくは51に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項6に記載のモノクローナル抗体もしくはその機能性断片。
【請求項8】
Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片をコードする核酸であって、
CDR1領域として配列番号2もしくは5,CDR2領域として配列番号3もしくは6,CDR3領域として配列番号4もしくは7に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を少なくとも含むアミノ酸配列をコードする核酸。
【請求項9】
前記軽鎖可変領域が配列番号48又は50に示されるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片をコードする核酸であって、
CDR1領域として配列番号8もしくは11,CDR2領域として配列番号9もしくは12,CDR3領域として配列番号10もしくは13に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を少なくとも含むアミノ酸配列をコードする核酸。
【請求項11】
前記重鎖可変領域が配列番号49又は51に示されるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
Gaussiaルシフェラーゼを抗原とし、マウス脾細胞を免疫感作して得られた細胞を、CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドからなる免疫賦活物質により活性化させ、次いでミエローマ細胞と融合して得られたハイブリドーマであって、Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する、抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項13】
ハイブリドーマGL−11−6株(FERM P−22113)、又はGL−61−2株(FERM P−22114)である、請求項11に記載のハイブリドーマ。
【請求項14】
請求項8〜11のいずれかに記載のGaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片をコードする核酸を用いて形質転換された細胞であって、Gaussiaルシフェラーゼの発光機能の阻害活性を有し、かつGaussiaルシフェラーゼを特異的に認識する抗Gaussiaルシフェラーゼモノクローナル抗体もしくはその機能性断片を産生する形質転換細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−17412(P2013−17412A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152146(P2011−152146)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】