説明

抗HCVコア蛋白質モノクローナル抗体

【課題】 C型肝炎ウイルス(以下、HCVと略記する)の検出または定量に用いる、抗HCVコア蛋白質モノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】 HCVコア蛋白質のN末から41〜50番のアミノ酸配列部位を認識するモノクローナル抗体。特に、ハイブリドーマKTM−145(FERM BP−6838)が産生する、HCVコア蛋白質のN末から41〜50番のアミノ酸配列部位を認識するモノクローナル抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルス(以下、HCVと略記する)の検出または定量に用いる、抗HCVコア蛋白質モノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の原因であるウイルスの検査は、抗体検査、抗原検査および遺伝子検査と種々の方法で行われている。ウイルスに対する抗体検査およびウイルス自身の抗原検査は、免疫測定法が主流でウイルス感染の診断や輸血用血液のウイルススクリーニング検査、ウイルス治療におけるモニターなどに幅広く活用されている。また、遺伝子検査は遺伝子を増幅させるポリメラーゼ・チェイン・リアクション(polymerase chain reaction:PCR)法,リガーゼ・チェイン・リアクション(ligase chain reaction:LCR)法,ヌクレイック・アシド・シークエンス・ベースド・アンプリフィケーション(nucleic acid sequence based amplification:NASBA)法や標識化効率を上げたブランチド・ディーエヌエー(branched DNA:bDNA)法などが開発され、高感度な測定が可能となっている。
【0003】
遺伝子検査は確定診断といった目的とともに、前述の抗体検査や抗原検査では検出できない感度領域での検査や治療におけるウイルス排除評価などで活用されている。最近では、遺伝子増幅法を抗体検査や抗原検査では感度的に検出できないウイルス感染初期での輸血血液のスクリーニング検査に応用しようとしている。
しかしながら、遺伝子検査は、操作が煩雑で特殊な装置を必要とすること、技術的な熟練を要すこと、高いコスト、再現性や測定精度が悪いこと、大量検体処理に向かないこと、検体中の阻害因子により偽陰性化すること、蛋白質に比べ核酸自体が検体中で不安定であること、遺伝子の増幅化効率が一定ではないことなどの問題点を抱えている。ウイルス由来の核酸がRNAである場合はさらに不安定で、操作の過程や検査検体の保存状態により値が大きく振れることが報告されている。
【0004】
ウイルスに対する抗体測定は生体内の免疫機構によって生成するウイルスに対する抗体を検出するもので、ウイルス感染の影響を観察する方法である。従って個体によっては抗原に対する抗体産生が異なり、高い抗体価を示すものや、全く抗体を産生しない個体が存在する。また抗体量は必ずしもウイルス量と相関しないことから実際の病態や体内のウイルス量を予測することが難しい。またウイルス感染初期では抗体が産生されておらず、感染初期での検出が不可能なこと、さらに抗体の非特異的な反応も認められることなどから正確な判定ができない問題点がある。
【0005】
抗原検査はウイルス由来の抗原を検出する方法で、各種ウイルス由来抗原測定系が発売されている。抗原検査はウイルス由来の抗原を認識する抗体を用いた免疫測定が中心であるが、遺伝子増幅法と比較すると感度が不足している。そのためウイルス量が少なくなると十分に検出できない問題点がある。また体内ではウイルスと共にウイルスに対する抗体が共存しており、この共存抗体が免疫測定の材料である抗体と競合反応するために感度良く抗原を測定することができない場合がある。HBVや他の肝炎ウイルス、HIVなどにおいても抗原測定法が存在するが、PCRといった遺伝子増幅法と比較して感度面で劣っており、診断や治療のマーカーとして十分と言えるものではない。
【0006】
最近になってHCVの内部抗原であるHCVコア蛋白質測定系が開発されている(特許文献1)。本法は遺伝子を測定する方法と比較して簡便でかつ安定に測定できHCVの確定診断や、治療における効果予測、治療効果判定に使えるキットである。しかし感度はPCR定量法と比較して不足しており、HCVコア蛋白質測定だけで診断や治療のモニターができる訳ではないという問題点を抱えている。実際該方法の検出限界は8pg/mL(PCRタイターに換算して104〜5ウイルス粒子/mL)であり、PCRに比べ検出限界は10倍以上高い。したがって治療効果を判定する際、8pg/mL以下になった検体は陰性と判定されてしまい、低値でのウイルス量を把握することはできない。
【0007】
一般的に抗原と抗体との反応において高濃度の塩を使用することは、抗原と抗体の反応を阻害すること、また抗原抗体反応物から抗原を解離させることが知られている。例えば、超高感度酵素免疫測定法[石川栄治著、学会出版センター、(1993)]の第9章には、以下のように記載されている。「タンパク質の固相への非特異吸着は種々の条件により増減するので、非特異的吸着が減少するような条件にすれば血清干渉は少なくなるはずである。インスリンのサンドイッチ法で、抗インスリンIgG不溶化ポリスチレンボールと血清のインキュベーション濃度を下げ、時間を短縮すると血清干渉は少なくなる(表IX−14)(Ruan et al.,1986)。また、無機塩の濃度を高くするとタンパク質の固相への非特異吸着が減少するので、血清干渉を減少させることができる。(表IX−15、図IX−18〜IX―21)(Hashida et al.,1983)。無機塩の種類により効果的な濃度が異なるが、あまり高い濃度では免疫反応そのものが阻害される。食塩では0.3〜0.4mol/lが上限であろう。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−29427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、血液事業や健康診断におけるスクリーニング用途のように多数の検体を処理するのに適した、HCV陽性検体を簡便で高感度に検出または定量するHCV抗原検出または定量方法およびそれに用いる検出または定量試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、意外にも、アルカリ性ホスファターゼ標識した抗HCVコア蛋白質抗体を用いることにより、高濃度の塩を含む水溶液中でHCVコア蛋白質と抗原抗体反応を行わせると、アルカリ性ホスファターゼ以外の標識物質で標識した抗HCVコア蛋白質抗体を用いる場合と異なり、免疫反応を阻害することなく該抗原をより高感度に検出することができることを見出し本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、下記(1)〜(2)に関する。
(1) HCVコア蛋白質のN末から41〜50番のアミノ酸配列部位を認識するモノクローナル抗体。
(2) ハイブリドーマKTM−145(FERM BP−6838)が産生する(1)記載のモノクローナル抗体。
【発明の効果】
【0012】
本発明はC型肝炎の原因であるHCV由来の抗原を感度良く検出するための免疫測定方法と免疫測定方法に用いる試薬およびキットを提供する。本発明により、従来のHCVコア抗原測定系では検出できない検体を感度良く検出することができ、HCVの抗原検査に幅広く活用できる。またPCRによる高感度な遺伝子測定法と同等な感度を有する免疫測定を簡便に構築でき、医学分野へ幅広く貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のアルカリ性ホスファターゼ標識した抗HCVコア蛋白質抗体中のアルカリ性ホスファターゼとしては、いかなる起源のアルカリ性ホスファターゼも使用できる。例えば、大腸菌等の微生物および牛等の動物由来のアルカリ性ホスファターゼがあげられる。
【0014】
本発明のアルカリ性ホスファターゼ標識した抗HCVコア蛋白質抗体中の抗HCVコア蛋白質抗体としては、特開平7−145194号またはHepatology, 16, 886 (1992)に記載のHCVコア蛋白質に反応する抗体であればいずれでも使用できる。該HCVコア蛋白質は、特開平7−145194号、特開平8−29427号ならびにHepatology, 16, 886 (1992)に記載の遺伝子組換え方法を用いて調製することができる。該抗体は、前述の遺伝子組換えHCVコア蛋白質を免疫原として用い、公知のモノクローナル抗体の製造法に従い製造することができる。モノクローナル抗体の製造法としては、例えば「富山朔二編、単クローン抗体実験マニュアル、講談社」等に記載された方法により行うことができる。
【0015】
このようにして得られた免疫原を投与する動物としてはマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ニワトリなどがあげられ、モノクローナル抗体作製にはマウス、ラットを用いるのが好ましい。免疫方法としては、例えば[西道、豊島、新生化学実験講座、1, 389 (1990)、東京化学同人]等に記載の方法を用いて行うことができる。例えば免疫原をフロイントの完全または不完全アジュバントにエマルジョン化し、腹腔内、皮下、筋肉内に投与することにより行われる。例えば、7ないし30日、好ましくは12ないし16日間隔の一定間隔をおいて2回以上好ましくは2回〜4回投与し、免疫を完成させることができる。
【0016】
抗体産生細胞の採取源としては免疫した動物の脾臓、リンパ節、末梢血液などがあげられる。また免疫を行っていない動物の脾臓、リンパ節、末梢血液等より抗体産生担当細胞を取り出し、これら細胞に対し直接免疫を行って抗体産生細胞とする所謂 in vitro 免疫[新井、太田、実験医学、6, 43(1988)]を行った細胞を用いてもよい。
【0017】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞との細胞融合を行う際に使用する骨髄腫細胞は特に限定はないが、抗体産生細胞と同種の動物由来の細胞株を使用するのが好ましい。また適切に細胞融合が行われた細胞のみを効率よく選択するために、特定の薬物マーカーを有する骨髄腫細胞が好ましい。例えば8−アザグアニン耐性の骨髄腫細胞はヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含有した培地(以下、HAT培地と称する。)中では生育できないが、この細胞と正常細胞とが融合した細胞はHAT培地中で生育できるようになり、未融合の骨髄腫細胞と区別できることから好んで使用される。具体的にはP3×63−Ag.8.653[ジャーナル・オブ・イムノロジー(J. Immunol.),123, 1548 (1979)]やP3×63−Ag.8.U1[Curr. Topics. Microbiol. Immunol.,81, 1 (1978)](以下、単にP3U1と略記する。)、Sp/O−Ag14[ネイチャー(Nature), 276, 269 (1978)]などがあげられる。
【0018】
細胞融合はケーラーとミルシュタイン[ネイチャー(Nature), 256, 495 (1975)]によって開発された方法ならびにその改良方法が応用できる。良く用いられる方法としては抗体産生細胞と骨髄腫細胞を10〜3:1の割合で混合し、30〜50%のポリエチレングリコール(平均分子量1,500〜6,000)を融合剤に用いて処理する方法である。また電気パルスにより融合することもできる[大河内ら、実験医学、6, 50 (1988)]。
【0019】
細胞融合を終えた細胞は選択培地(例えばHAT培地)に浮遊し、96ウェル培養プレートのような後の目的細胞選択に有利な培養容器を用いて融合細胞のみを生育させる。融合細胞のみが選択的に生育した段階で、HCVコア蛋白質に対する抗体を産生している細胞のみを選択する。この選択は融合細胞の培養上清中の目的抗体の有無を、例えば酵素免疫測定や放射線免疫測定などの方法を用いて調べる。選択された細胞はたとえば限界希釈法や軟寒天培地法などの方法を用いて単クローン化し、HCVコア蛋白質特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞株を樹立する。
【0020】
モノクローナル抗体は樹立したハイブリドーマ細胞株を適当な培地で培養してその培養液を回収し、あるいは細胞株を動物の腹腔内に移植して腹水中で増殖させて腹水を回収し、得られた培養液または腹水から得ることが出来る。培養液あるいは腹水中の抗体は必要に応じて精製して使用することができる。精製方法としては例えば硫酸アンモニウムを用いた塩析分画、イオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー法、プロテインAやプロテインGを用いたアフィニティカラムクロマトグラフィー法、さらに抗原を固相化したゲルを用いるアフィニティカラムクロマトグラフィー法など様々な方法またはこれらの方法を組合わせた方法があげられる。また、本発明に使用する抗体としては上述の方法で得られた抗体をペプシン等の酵素処理および/または還元処理して得られるFab、Fab'、F(ab)2などの抗体フラグメントを用いてもよい。
【0021】
本発明の抗体としては、HCVコア蛋白質のN末から11〜50番目のアミノ酸配列の内、少なくとも5個の連続するアミノ酸配列を認識する抗体であるものが好ましい。本発明のモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマの具体例としては、ハイブリドーマKTM−145、ハイブリドーマKTM−153、ハイブリドーマKTM−157、ハイブリドーマKTM−163およびハイブリドーマKTM−167等があげられる。
【0022】
ハイブリドーマKTM−145、ハイブリドーマKTM−153、ハイブリドーマKTM−157、ハイブリドーマKTM−163およびハイブリドーマKTM−167は、平成11年8月12日付で、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−6838、FERM BP−6839、FERM BP−6840、FERM BP−6841およびFERM BP−6842としてそれぞれ寄託されている。ハイブリドーマKTM−145、ハイブリドーマKTM−153、ハイブリドーマKTM−157、ハイブリドーマKTM−163およびハイブリドーマKTM−167の生産するモノクローナル抗体を、以下それぞれ単にKTM−145、KTM−153、KTM−157、KTM−163およびKTM−167と称する。
【0023】
本発明のアルカリ性ホスファターゼ標識した抗HCVコア蛋白質抗体は、該抗HCVコア蛋白質抗体と該アルカリ性ホスファターゼとの間に共有結合を作る方法を利用して結合させたものである。該方法としては、例えばグルタールアルデヒド法、過ヨウ素酸法、マレイミド法、ピリジル・ジスルフィド法、公知の架橋剤を用いる方法などをあげることができる(例えば石川栄治著「酵素免疫測定法」医学書院発行参照)。
【0024】
具体的調製方法としては、例えば、イミノチオラン等でスルフヒドリル化した抗体と、SMCC(succinimidyl 4-[N-maleimidomethyl]-cyclohexane-1-carboxylate)でマレイミド化したアルカリ性ホスファターゼを混合して調製することができる。
本発明の高濃度の塩を含む水溶液とは、無機塩を0.5M以上含有する水溶液をいう。無機塩としては、ハロゲン化アルカリ金属塩があげられ、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等があげられる。無機塩濃度としては0.5M〜飽和濃度が好ましく、1〜3Mがより好ましい。該高濃度の塩を含む溶液には、必要に応じて緩衝剤、塩化ナトリウム以外の塩、界面活性剤、血清、防腐剤、免疫反応における非特異的吸着阻害剤等を含有していてもよい。
【0025】
緩衝剤としては、特に制限がないが、トリス緩衝剤等があげられる。界面活性剤としては、例えばトリトンX−100、トリトンX−705、ツイーン20等があげられる。防腐剤としては、アジ化ナトリウム等があげられる。血清としては、正常マウス血清等があげられる。塩化ナトリウム以外の塩としては、塩化亜鉛、塩化マグネシウム等があげられる。免疫反応における非特異的吸着阻害剤としては、例えば牛血清アルブミン、カゼイン等の蛋白質があげられ、市販品としてはブロックエース(大日本製薬社製)等があげられる。
【0026】
本発明の対象となる検体としては、例えば全血、血清、血漿、尿、リンパ液などがあげられる。HCV抗原の有無を検出すべき検体は、そのまま用いても良いが、ウイルス分画剤などを用いて濃縮処理したものを用いることができる。具体的分画剤としてはポリエチレングリコール(PEG)試薬,パーコールといった密度勾配用試薬などがあげられる。PEGの分子量および使用濃度は特に限定されないが、分子量1,000〜20,000のものが好ましく、使用濃度は3〜10%の範囲が好ましい。
【0027】
また検体は、蛋白質変性作用、蛋白質可溶化作用、蛋白質分散作用を有する試薬で処理することが好ましい。該試薬としては、例えばカオトロピック物質、アルカリ剤、酸性剤および界面活性剤などがあげられ、カオトロピック物質またはアルカリ剤が好ましい。カオトロピック物質としてはウレア、塩酸グアニジン、グアニジウムチオシアン酸塩などがあげられ、ウレアや塩酸グアニジンが好ましい。塩酸グアニジンの濃度は1〜8Mが好ましい。
【0028】
アルカリ剤としては水溶液中でpH10以上のアルカリを示すアルカリ剤であれば良く、例えば水酸化アルカリ金属塩があげられ、好ましくは水酸化ナトリウム溶液があげられる。酸性剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロル酢酸等があげられる。界面活性剤としては、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性界面活性剤があげられる。
【0029】
検体の処理としては、カオトロピック物質とアルカリ剤での併用処理が好ましい。アルカリ剤での処理は45〜55℃の温度で行うことが好ましい。酸性剤またはアルカリ剤で処理した検体は中和処理した後抗原抗体反応に供するのが好ましい。中和には、酸性剤を使用した場合にはアルカリを、アルカリ剤を使用した場合には酸性剤をそれぞれ使用するが、いずれの場合にも高い緩衝能を持つ溶液も用いることができる。
【0030】
本発明の免疫測定方法には特に制限が無いが、例えばサンドイッチ法等のように免疫測定法で幅広く行われている方法があげられる。具体的には、本発明の免疫測定方法は抗体結合固相およびアルカリ性ホスファターゼ標識されたHCVコア蛋白質抗体を用いて周知の1ステップ法、ディレイ1ステップ法、2ステップ法などのサンドイッチ法により行うことがでる。サンドイッチ法としては、2ステップ法が好ましい。例えば、抗体結合固相と抗原を含む検体とを水溶液中でインキュベーションした後、固相を洗浄液で洗浄する。次に標識抗体と高濃度の塩を含む水溶液を加え、さらにインキュベーションした後、固相を再び洗浄する。次いで、固相上に形成された免疫複合体のアルカリ性ホスファターゼ活性の測定を行う方法である。
【0031】
固相は従来の免疫測定に使用される各種固相を用いることができる。固相としては例えばプラスチック製の試験管、マイクロプレートウエル、ガラスビーズ、プラスチックビーズ、各種メンブレン、磁性粒子などをあげることができる(例えば石川栄治著「酵素免疫測定法」医学書院発行参照)。固相に結合させる抗体は、前述の抗HCVコア蛋白質モノクローナル抗体があげられ、アルカリ性ホスファターゼで標識された抗体とは異なるエピトープを認識する抗体を用いることが好ましい。固相と抗体との結合は、物理吸着、化学結合等公知の方法で行うことができる。
【0032】
アルカリ性フォスファターゼ活性は、色原体、蛍光試薬、発光試薬等を用いて常法(丸尾文治監修、酵素ハンドブック、朝倉書店)で測定することができる。色原体としては、様々なものが知られておりいずれも使用可能であるが、高感度な検出が可能である酵素サイクリング反応試薬、具体的には補酵素NADの酸化―還元をサイクルさせる酵素を用いる酵素サイクリング反応試薬[AmpliQ、ダコ(DAKO)社製]等があげられる。蛍光試薬としては、4−メチルウンベリフェロン誘導体、2−ヒドロキシビフェニル誘導体等があげられる。
【0033】
発光試薬としてはジオキセタン構造を持つ誘導体、具体的にはAMPPD[3−(2'−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3''−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン]、CDP−スター[4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1、2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニル リン酸二ナトリウム]、CSPD[3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニル リン酸二ナトリウム]などがあげられる。またジオキセタン構造を有さないルミゲン(Lumigen)誘導体APS化合物([10−メチル−9(10H)−アクリジニルイデン]フェノキシメチル リン酸二ナトリウム塩)などがあげられる。
【0034】
本発明の定量試薬は、アルカリ性ホスファターゼ標識した抗HCVコア蛋白質抗体、0.5M〜飽和濃度の塩およびアルカリ性ホスファターゼ活性測定用試薬を含む。該定量試薬は、また抗HCVコア蛋白質抗体を固定化した固相を含む試薬、HCVコア蛋白質標準品を含む試薬等を含む。本発明の定量試薬は前述の各試薬がキットの形態で構成されていてもよい。
【0035】
該キットは、さらに検体濃縮試薬を含む試薬、検体処理試薬を含む試薬等が組み込まれていてもよい。検体濃縮試薬としては、上述の分画剤があげられる。検体処理試薬としては前述の蛋白質変性作用、蛋白質可溶化作用、蛋白質分散作用を有する試薬があげられる。アルカリ性ホスファターゼ定量試薬とは、前述の色原体、蛍光試薬または発光試薬等を含有する試薬があげられる。抗HCVコア蛋白質抗体としては、例えば前述のモノクローナル抗体があげられる。
【0036】
以下の実施例は本発明を具体的に説明するものであるが、これによって本発明の範囲を制限するものではない。なお、血清検体は、ユニグローブ(Uniglobe)社またはボストン・バイオメディカ(Boston Biomedica, Inc.:BBI)社より購入したものを用いた。
【0037】
参考例1 HCVコア蛋白質の作製
特開平8−29427号公報に記載の方法に従い、HCVコア蛋白質のN末から125アミノ酸残基を有する遺伝子組換えHCVコア蛋白質を調製し精製した。精製された遺伝子組換えHCVコア蛋白質はバイオラッド蛋白質定量キット(バイオラッド社製)およびBCA蛋白質定量キット(ピアス社製)で蛋白質濃度を算出した。
【0038】
参考例2 抗HCVコア蛋白質抗体の作製
参考例1で得られたHCVコア蛋白質25〜100μgを、フロイント完全アジュバンドでエマルジョン化しBALB/CマウスまたはSDラットに初回免疫を行った。2〜3週間後、HCVコア蛋白質25〜100μgをフロイント不完全アジュバンドでエマルジョン化し、追加免疫を行った。抗体価の上昇を確認後、HCVコア蛋白質25〜100μgを静脈内に投与し、その3〜4日後、マウスから脾臓を取り出し脾細胞を調製した。次に前もってRPMI−1640培地で培養したマウスミエローマ細胞(P3U1)と脾細胞を1:2〜1:5の比率で混合し、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合を行った。融合した細胞はHAT培地に浮遊した後、96ウエル培養プレートに分注し37℃炭酸ガスインキュベーターで培養した。抗HCVコア蛋白質抗体のスクリーニングは以下のようにして実施した。
【0039】
HCVコア蛋白質を8M塩酸グアニジン溶液または10Mウレア溶液で2μg/mLに懸濁し、96ウエルELISAプレート(Nunc社製)に50μl/ウエル分注し、4℃一晩放置することによりHCVコア蛋白質をプレートに吸着させた。1%牛血清アルブミン(以下、BSAと略する)を含むリン酸緩衝液含有生理食塩水(以下、PBS溶液と略する)でブロッキングした後、融合した細胞の培養上清50μlを各ウエルに加えて室温で1時間反応させた。洗浄後パーオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を加え、室温1時間反応させた。洗浄後基質ABTSを加え発色が見られるウエルを選択し、HCVコア蛋白質を認識する抗体を産生するハイブリドーマKTM−145、ハイブリドーマKTM−153、ハイブリドーマKTM−157、ハイブリドーマKTM−163およびハイブリドーマKTM−167を取得した。該ハイブリドーマをそれぞれプリスタン等で処理したマウス腹腔に移植し腹水中に産生されてくるモノクローナル抗体を取得した。該モノクローナル抗体の精製は常法(富山朔二編、単クローン性抗体実験マニュアル、講談社)に従いプロテインAカラムを用いて精製した。得られた抗体はそれぞれKTM−145,KTM−153、KTM−157、KTM−163およびKTM−167と命名した。
【0040】
参考例3 モノクローナル抗体の反応特異性
参考例2で得られたモノクローナル抗体の反応特異性はHCVコア蛋白質または大腸菌のライゼートを吸着させた96ウエルマイクロタイタープレートを用いて確認した。その結果、KTM−145、KTM−153、KTM−157、KTM−163およびKTM−167はHCVコア蛋白質と特異的に反応することが確認された。また同様にウエスタンブロットでも同様の反応性を確認した。さらにHCVコア蛋白質の部分ペプチドを用いて抗体の認識するHCVコア蛋白質のエピトープを解析した結果、KTM−145はHCVコア蛋白質のN末から41番目〜50番目を、KTM−153は11番目〜30番目を、KTM−157は31番目〜50番目を、KTM−163とKTM−167は21番目〜40番目をそれぞれ認識することが確認された。
【0041】
参考例4 アルカリ性ホスファターゼ標識モノクローナル抗体の作製法
参考例2で取得したモノクローナル抗体とアルカリ性ホスファターゼ(ベーリンガー・マンハイム社製)を常法(石川栄治著、酵素免疫測定法、医学書院発行)に従いマレイミド法によって結合させた。モノクローナル抗体5mgを50mMトリスバッファー(pH8)で透析し、イミノチオランを用いてスルフヒドリル化した。イミノチオラン化した抗体はセファデックスG−25カラム(ファルマシア社製)でフリーのイミノチオランを除去した。アルカリ性ホスファターゼは、マレイミド試薬SMCC(ピアス社製)を用いてマレイミド化し、G−25カラムでフリーのSMCCを除去した。
【0042】
上述のスルフヒドリル化したモノクローナル抗体とマレイミド化したアルカリ性ホスファターゼを混合し、4℃で一晩反応させた。反応後生成したアルカリ性ホスファターゼで標識化されたモノクローナル抗体をセファクリルS−200カラム(ファルマシア社製)で精製した。精製したアルカリ性ホスファターゼ標識抗体は標識抗体希釈液[50mMトリスバッファー(pH7.6)、10mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、20%ブロックエース(大日本製薬社製)を含む水溶液]で所定濃度に希釈し酵素標識免疫測定法(ELISA)に用いた。
【0043】
参考例5 抗HCVコア蛋白質抗体を固定した固相の作製
参考例2で得られたモノクローナル抗体を終濃度5μg/mLになるように0.1%アジ化ナトリウムを含むPBSで希釈し、固相用の96穴マイクロタイタープレートの各ウエルに200μlずつ添加した。4℃で1晩静置後、PBSで洗浄し、0.1%BSAを含むPBSを300μl加え4℃で1晩静置しブロッキングした。
【0044】
参考例6 パーオキシダーゼ酵素標識モノクローナル抗体の作製
参考例2で得られたモノクローナル抗体とパーオキシダーゼ(東洋紡社製)とを常法(石川栄治著、酵素免疫測定法、医学書院発行)に従いマレイミド法によって結合させた。モノクローナル抗体5mgを50mMトリスバッファー(pH8)で透析し、イミノチオランを用いてスルフヒドリル化した。イミノチオラン化した抗体はセファデックスG−25カラム(ファルマシア社製)でフリーのイミノチオランを除去した。パーオキシダーゼは、マレイミド試薬SMCC(ピアス社製)を用いてマレイミド化し、セファデックスG−25カラムでフリーのSMCCを除去した。
上述のスルフヒドリル化したモノクローナル抗体とマレイミド化したパーオキシダーゼとを混合し、4℃で一晩反応させ、パーオキシダーゼで標識化されたモノクローナル抗体を取得し、セファクリルS−200カラム(ファルマシア社製)で精製した。精製した標識抗体は標識抗体希釈液[50mMトリスバッファー(pH7.6)、10mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、20%ブロックエース(大日本製薬社製)を含む水溶液]で所定濃度に希釈しELISAに用いた。
【実施例1】
【0045】
遺伝子組換えHCVコア蛋白質の測定
参考例1で得られた遺伝子組換えHCVコア蛋白質を0または100pg/mLとなるよう0.1%BSAを含むPBSで希釈した。
希釈された遺伝子組換えHCVコア蛋白質溶液を参考例5で作製されたマイクロプレート上の各ウエルへ200μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。洗浄液(AMPAK増感系試薬添付、ダコ社製)で洗浄後、参考例4で得られた標識抗体を添加した。標識抗体は50mMトリスバッファー(pH7.6)、10mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、20%ブロックエース(大日本製薬社製)および0〜3Mの塩化ナトリウムを含む溶液で希釈して用い、各ウエルへ200μlずつ添加した。室温で1時間攪拌反応後、洗浄液で洗浄後、発色試薬である酵素サイクリング反応試薬(ダコ社製)200μLを添加し室温で攪拌しながら20分間反応させた。該試薬に添付されている停止液を100μl添加し、主波長490nm、副波長660nmで吸光度を測定した。本実験では固相用としてKTM−145をアルカリ性ホスファターゼ標識用としてKTM−163を用いた。
【0046】
結果を第1表に示す。第1表中、各抗原濃度に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
標識抗体を含む希釈液中の塩化ナトリウム濃度を高めることで、抗原のない試験区(0pg/mL)では、塩化ナトリウム濃度を高めても吸光度はほとんど変化しないのに対し、抗原が存在する試験区(100pg/mL)では、塩化ナトリウム濃度を高めることにより得られる吸光度が増加した。表中、S/N比とは、抗原非存在区(0pg/mL)での吸光度に対する抗原存在区(100pg/mL)での吸光度の比を示す。塩化ナトリウムを添加することで、S/N比が増加し、抗原をより高感度に検出することが可能となることが判る。すなわち、塩化ナトリウムを使用しない場合、抗原が存在しても吸光度の増加が抗原非存在検体に比べわずかしかなく、抗原陽性と判定できないサンプルでも、本発明の方法を適用することにより、抗原陽性と判定できることを示している。
【実施例2】
【0049】
遺伝子組換えHCVコア蛋白質の測定
参考例1で得られた遺伝子組換えHCVコア蛋白質を0〜20pg/mLの濃度範囲になるよう0.1%BSAを含むPBSで希釈した。
希釈された遺伝子組換えHCVコア蛋白質溶液を参考例5で作製されたマイクロプレートの各ウエルへ200μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。洗浄液(AMPAK増感系試薬添付、ダコ社製)で洗浄後、参考例4で得られた標識抗体を添加した。標識抗体は50mMトリスバッファー(pH7.6)、10mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、20%ブロックエース(大日本製薬社製)および0〜2Mの塩化ナトリウムを含む溶液で希釈して用い、各ウエルへ200μlずつ添加した。室温で1時間攪拌反応後、洗浄液で洗浄後、発色試薬である酵素サイクリング反応試薬(ダコ社製)200μLを添加し室温で攪拌しながら40分間反応させた。該試薬に添付されている停止液を100μl添加し、主波長490nm、副波長660nmで吸光度を測定した。本実験では固相用としてKTM−145をアルカリ性ホスファターゼ標識用としてKTM−163を用いた。
【0050】
結果を第2表に示す。第2表中、各抗原濃度に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0051】
【表2】

【0052】
標識抗体を含む希釈液中の塩化ナトリウム濃度を高めることで、抗原のない試験区では、塩化ナトリウム濃度を高めても吸光度はほとんど変化しないのに対し、抗原が存在する試験区では、塩化ナトリウム濃度を高めることにより得られる吸光度が増加した。このことは、塩化ナトリウムを使用しない場合、抗原が存在しても吸光度の増加が、抗原非存在検体に比べわずかしかなく、抗原陽性と判定できないサンプルでも、本発明の方法を適用することにより、抗原陽性と判定できることを示している。
【実施例3】
【0053】
検出限界
参考例1で取得された遺伝子組換えHCVコア蛋白質を0〜10pg/mLの濃度範囲になるよう0.1%BSAを含むPBSで希釈した。
希釈された遺伝子組換えHCVコア蛋白質溶液を参考例5で得られたマイクロプレートの各ウエルへ200μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。洗浄液(AMPAK増感系試薬添付、ダコ社製)で洗浄後、参考例4で得られた標識抗体を添加した。標識抗体は50mMトリスバッファー(pH7.6)、10mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、20%ブロックエース(大日本製薬社製)および0または1Mの塩化ナトリウムを含む溶液で希釈して用い、各ウエルへ200μlずつ添加した。室温で1時間攪拌反応後、洗浄液で洗浄後、発色試薬である酵素サイクリング反応試薬(ダコ社製)100μLを添加し室温で攪拌しながら30分間反応させた。該試薬に添付されている停止液を100μl添加し、主波長490nm、副波長660nmで吸光度を測定した。本実験では固相用としてKTM−145をアルカリ性ホスファターゼ標識用としてKTM−163を用いた。
【0054】
結果を第3表に示す。第3表中、各塩濃度に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0055】
【表3】

【0056】
標識抗体を含む希釈液中の塩化ナトリウム濃度を高めることで、抗原の存在を検出できる抗原濃度が極めて低濃度となった。第3表に示すように、塩化ナトリウム無添加では1pg/mLで抗原0の吸光度と10mAbsオーダーの差が認められるのみであるのに対し、1Mの塩化ナトリウムを添加することにより、0.125pg/mLで抗原0の吸光度と10mAbsオーダーの差が認められ検出感度が向上した。
【0057】
比較例1
参考例1で取得された遺伝子組換えHCVコア蛋白質を0、10、100または1000pg/mLとなるよう0.1%BSAを含むPBSで希釈した。
希釈された遺伝子組換えHCVコア蛋白質溶液を参考例5で作製されたマイクロプレートの各ウエルへ200μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。洗浄液(AMPAK増感系試薬添付、ダコ社製)で洗浄後、参考例6で得られたパーオキシダーゼ標識抗体を添加した。標識抗体は50mMトリスバッファー(pH7.2)、0.1%BSAおよび0〜4Mの塩化ナトリウムを含む溶液で希釈して用い、各ウエルへ200μlずつ添加した。室温で1時間攪拌反応後、洗浄液で洗浄後、発色試薬であるTMB(テトラメチルベンジジン、インタージェン社製)200μLを添加し室温で攪拌しながら30分間反応させた。1N硫酸を100μl添加し発色反応を停止させ、主波長450nm、副波長660nmで吸光度を測定した。本実験では固相用としてKTM−145をパーオキシダーゼ標識用としてKTM−163を用いた。
【0058】
結果を第4表に示す。第4表中、各抗原濃度に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0059】
【表4】

【0060】
パーオキシダーゼ標識抗体を用いた場合、抗原が存在しない反応系では塩化ナトリウムを添加すると反応特異性が低下した。また、抗原の存在する反応系で塩化ナトリウム濃度を上げても反応特異性の向上は認められなかった。
【実施例4】
【0061】
ヒト検体の測定
特開平8−29427号公報記載の方法でヒト血清を処理した。すなわち、血清検体200μlに20%のPEG4000を50μl加え、氷上で1時間静置した。4000×g,5分間,4℃の条件で遠心分離後、沈殿画分を50mMトリス緩衝液(pH8.0)50μlで懸濁し、さらに0.5Mの水酸化ナトリウム溶液を50μl加え37℃,30分間処理した。その後0.3%のトリトンX−100を含む0.5Mのリン酸水素ナトリウム溶液50μLで中和した。最後に0.1%BSA−PBS溶液300μLを加えて3倍に希釈し測定用の溶液とした。測定対象は抗HCV抗体陽性の血清検体(Uni−2および0401)と対照として正常人の血清検体を用い、実施例1と同様に試験し吸光度(Abs)を測定した。結果を第5表に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
第5表に示すように、正常人血清検体を用いたときは標識抗体を含む溶液中の塩化ナトリウム濃度を高めても吸光度がわずかにしか増加しないが、抗HCV抗体陽性血清検体を用いたときは、標識抗体を含む溶液中の塩化ナトリウム濃度を高めることにより、得られる吸光度が増加した。これによりより低濃度の抗原を含む検体でも抗原陽性判定が可能となる。またS/N比より、塩化ナトリウム濃度は、0.5〜3M、特に1〜3Mで感度が大幅に上昇することがわかる。
【実施例5】
【0064】
検体の塩酸グアニジンとアルカリ処理
血清検体200μlに20%のPEG4000を50μl加え、氷上で1時間静置した。4000×g,5分間,4℃の条件で遠心分離後、沈殿を0〜8Mの塩酸グアニジンを含む50mMトリス緩衝液(pH8.0)50μlで懸濁し変性させた。さらに0.5Mの水酸化ナトリウム溶液を50μl加え37℃,30分間処理後、0.5Mのリン酸水素ナトリウム溶液で中和した。その後0.1%BSA−PBS溶液で3倍に希釈し測定用の溶液とした。測定は、塩化ナトリウム濃度を1Mとする以外は実施例4と同様の方法で行った。測定対象は正常人血清検体、抗HCV抗体陽性の3血清検体(U−19、U−21およびU−29)を用いた。結果を第6表に示す。第6表中、各検体に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0065】
【表6】

【0066】
第6表に示されるように塩酸グアニジンの濃度依存的に吸光度が上昇することがわかる。
【実施例6】
【0067】
ウレアと塩酸グアニジンを用いて、実施例5と同様な手法で試験した。ウレアの濃度は10Mとし塩酸グアニジンの濃度は8Mとした。検体は正常人血清検体と抗HCV抗体陽性の4血清検体(104,106、187および197)を用いた。結果を第7表に示す。第7表中、各処理試薬に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0068】
【表7】

【0069】
第7表に示すように、検体104および検体197では、ウレア処理した場合は正常人血清と吸光度の顕著な差は認められず、陽性を判定できなかったが、塩酸グアニジンで血清を処理することで陽性と判定できた。
【実施例7】
【0070】
アルカリ処理における温度検討
実施例6においてアルカリ処理における温度条件を代える以外は実施例6と同様に試験した。血清検体は、6、9および138を用い、アルカリ処理における温度は37℃、50℃、70℃、100℃とした。結果を第8表に示す。第8表中、各検体に対する数字は吸光度(Abs)を示す。
【0071】
【表8】

【0072】
第8表に示すように、血清のアルカリ処理温度は50℃近傍が好ましいことがわかる。
【実施例8】
【0073】
各種検出方法との比較
本発明による測定は以下の通り行った。各種血清検体200μlに20%のPEG4000を50μl加え、氷上で1時間静置した。4000×g,5分間,4℃で遠心分離後、沈殿を8Mの塩酸グアニジンを含む50mMトリス緩衝液(pH8.0)50μlで懸濁し変性させた。さらに0.5Mの水酸化ナトリウム溶液を50μl加え50℃,30分間処理後、0.3%トリトンX−100を含む0.5Mのリン酸水素ナトリウム溶液で中和した。その後0.1%BSA−PBS溶液で3倍に希釈し測定用の溶液とした。測定は、標識抗体溶液中に塩化ナトリウムを2M使用する以外は実施例4記載の方法と同様にして行った。
【0074】
また、HCVコア蛋白質を測定するキットであるイムノチェック,F−HCVAgコア(国際試薬社製、以下単にHCVコア蛋白質測定キットという)、抗HCV抗体を測定するキットである第III世代抗HCV抗体(オーソ社製、以下単に抗HCV抗体測定キットという)およびPCR法によりHCVのRNAを測定するキットであるアンプリコア定性(ロッシュ社製、以下単にRNA測定キットという)の各市販試薬を用いて同一検体を測定し本発明方法と感度を比較した。結果を第9表に示す。第9表中、判定欄の「−」は検出できないことを、判定欄の「+」は検出できることを示す。
【0075】
【表9】

【0076】
第9表に示すように、本発明方法によればHCVコア蛋白質測定キット(国際試薬社製)では検出できない検体まで検出可能である。正常人を除くこれら血清検体は抗HCV抗体陽性であり、RNA測定キット(ロッシュ社製)で検査した検体はHCV陽性と判定されている。血清検体での感度はHCVコア蛋白質測定キット(国際試薬社製)では10ウイルス/mLであるが、本発明方法を用いるとRNA測定キット(ロッシュ社製)と同等の10ウイルス/mLが検出可能となる。
【実施例9】
【0077】
抗体の組合わせ
固相に使用する抗体と、アルカリ性ホスファターゼ標識する抗体の種類を代え、検体として、HCV非感染血清とHCV感染血清を用い、標識抗体を希釈する水溶液の塩化ナトリウム濃度を0または1Mとする以外は実施例6と同様に試験しそれぞれ吸光度を測定し、S/N比を求めた。結果を第10表に示す。第10表中、各塩化ナトリウム濃度に対する数字はS/N比を示す。
【0078】
【表10】

【0079】
第10表に示すように、固相に使用する抗体と標識抗体いずれの組合わせにおいても、標識抗体を希釈する溶液中に塩化ナトリウムを添加することで、S/N比が増加した。このことは、HCV感染検体がより感度良く検出できることを示している。
【実施例10】
【0080】
検出限界
検体(U14およびU19)溶液を1倍とし、正常血清溶液で系列希釈した検体を調製した。系列希釈した検体200μlに20%のPEG4000を50μl加え、氷上で1時間静置した。4000×g,5分間,4℃で遠心分離後、沈殿を8Mの塩酸グアニジンを含む50mMトリス緩衝液(pH8.0)50μlで懸濁し変性させた。さらに0.5Mの水酸化ナトリウム溶液を50μl加え50℃,30分間処理後、0.3%トリトンX−100を含む0.5Mのリン酸水素ナトリウム溶液で中和した。その後0.1%BSA−PBS溶液で3倍に希釈し測定用の溶液とした。各希釈検体を実施例4記載の方法で測定した。標識抗体溶液中の塩化ナトリウムの濃度は2Mとした。
【0081】
参考例1で得られた既知濃度のHCVコア蛋白質を標準物質としてそれぞれ検量線を作成し、各検体の吸光度(Abs)からHCVコア蛋白質量を求めた。U14検体を用いた結果を第11表に、U19検体を用いた結果を第12表にそれぞれ示す。
【0082】
【表11】

【0083】
【表12】

【0084】
第11表および第12表に示すように、本発明の定量方法は、HCVコア蛋白質を0.1pg/mLオーダーまで検出することが可能である。
【実施例11】
【0085】
セロコンバージョンパネル検体でのHCVコア抗原の検出
市販セロコンバージョンパネルPHV908(BBI社)を検体として実施例8記載の方法でHCVコア抗原を測定した。HCVコア抗原は正常人の吸光度を1.0としてそれに対する比率(S/N)で表した。
また、該検体を抗HCV抗体測定キット(オルソ社製)でも測定した。抗体価はカットオフインデックス(S/CO)で表され、1.0以上が陽性と判定される。結果を第13表に示す。
【0086】
【表13】

【0087】
第13表に示すように、本願発明の方法によれば、抗HCV抗体が陽性になる前にコア抗原を検出することができ感染初期で検出が可能であった。
【実施例12】
【0088】
HCVコア蛋白質定量用試薬キット
下記の各試薬からなる試薬キットを構成した。
抗体コートプレート(参考例2で得られたKTM−145を用いて参考例5と同様に調製したもの)
検体希釈液
(0.1%BSAを含有するPBSおよび1%正常マウス血清を含む水溶液)
酵素標識抗体
(参考例2で得られたKTM−163を参考例4と同様に調製したもの)
標準抗原 0pg/mLおよび10pg/mL
(参考例1で得られたHCVコア蛋白質を、0.067%BSA含有PBS、0.89M 塩酸グアニジン、5.56mM トリス緩衝液(pH8)、0.056M 水酸化ナトリウム、0.056M リン酸二水素ナトリウム、0.005% トリトンX−100を含む溶液に、0または10pg/mLとなるように溶解したもの)
標識抗体希釈液
[50mM トリス緩衝液(pH7.6)、10mM 塩化マグネシウム、0.2mM 塩化亜鉛、20% ブロックエース、2M 塩化ナトリウム、0.1%アジ化ナトリウム、0.1% トリトンX−705および1% 正常マウス血清を含む]
発色試薬
[酵素サイクリング反応試薬(AmpliQ、ダコ社製)に含まれる発色試薬]
停止液
[酵素サイクリング反応試薬(AmpliQ、ダコ社製)に含まれる停止液]
【0089】
沈殿試薬
(20%PEG4000)
分散試薬
[8M塩酸グアニジンおよび50mMトリス緩衝液(pH8)]
アルカリ試薬
(0.5M 水酸化ナトリウム溶液)
中和試薬
(0.5Mリン酸二水素ナトリウムおよび0.3%トリトンX−100)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HCVコア蛋白質のN末から41〜50番のアミノ酸配列部位を認識するモノクローナル抗体。
【請求項2】
ハイブリドーマKTM−145(FERM BP−6838)が産生する請求項1記載のモノクローナル抗体。

【公開番号】特開2009−197033(P2009−197033A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139868(P2009−139868)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【分割の表示】特願2000−247146(P2000−247146)の分割
【原出願日】平成12年8月17日(2000.8.17)
【出願人】(000162478)協和メデックス株式会社 (42)
【Fターム(参考)】