説明

抗HLA抗体を利用した新規医薬品

【課題】インターフェロンによる、抗HLAクラスI抗体の作用の増強。
【解決手段】インターフェロンが細胞のHLA-Aの発現および抗HLAクラスI抗体による細胞障害にどのような効果を及ぼすかについて、抗HLAクラスI抗体として2D7-DB抗体を用い、IM-9細胞株を対象に試験を行った結果、IFNαまたはIFNγにより、HLA-Aの発現が上方制御されることが実証された。さらに、WST-8アッセイにより、インターフェロンと抗HLAクラスI抗体を併用した場合の細胞生存度を検討ところ、2D7-DBとIFNαまたはIFNγとの組み合わせにより、細胞死活性が増大することがわかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターフェロンによる、抗HLAクラスI抗体の作用の増強に関する。
【背景技術】
【0002】
HLA クラスI抗原は、3つのドメイン(α1、α2、α3)からなる45KDのα鎖と、12KDのβ2ミクログロブリンのヘテロダイマーによって形成される。HLA分子の主な役割は、細胞の中で作られる8〜10程度のアミノ酸でできた抗原ペプチドをCD8+T細胞に提示することであり、これによって誘導される免疫応答や免疫寛容に非常に重要な役割を担っている。HLAはクラスIとクラスIIに分類される。クラスIには、HLA-A、B、C等の存在が知られている(以下において、HLA−Aを「HLAクラスIA」とも称する)。
【0003】
また、HLA クラスIA抗原の抗体によるライゲーションで、細胞増殖抑制や細胞死誘導効果がリンパ球細胞において観察されており、HLA分子のシグナル伝達分子としての可能性も示唆されている。
【0004】
すなわち、例えばヒトHLA クラスIAのα1ドメインに対する抗体B9.12.1、α2ドメインに対する抗体W6/32、α3ドメインに対する抗体TP25.99, A1.4は、活性化リンパ球に対して細胞増殖を抑制するとの報告がある(非特許文献1,2)。また、α1ドメインに対する二種類の抗体MoAb90, YTH862は、活性化リンパ球に対してアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献2, 3, 4)。この2つの抗体によって誘導されるアポトーシスはカスパーゼを介した反応であることが明らかにされており(非特許文献4)、このことからリンパ細胞で発現するHLA クラスIA抗原は、アポトーシスの信号伝達にも関与していると推測されている。
【0005】
さらに、ヒトHLA クラスIAのα3ドメインに対する抗体 5H7(非特許文献5)、マウスMHCクラス Iのα2ドメインに対する抗体RE2(非特許文献6)も、活性化リンパ球などに細胞死を誘導することが報告されている。
【0006】
ヒト骨髄腫細胞を免疫して得られたモノクローナル抗体2D7も、HLAクラスIを認識する抗体であり、該2D7を低分子化(Diabody化)することにより、ヒト骨髄腫細胞株に対して短時間で激しい細胞死を誘導することが報告されている。2D7 diabodyは、各種ヒト骨髄腫細胞株、および、活性化リンパ球細胞に対して強い細胞死誘導活性を示し、マウスにヒト骨髄腫細胞株を移植した多発性骨髄腫モデルマウスにおいても、有意な延命効果を示したことから、骨髄腫治療薬として開発が進められている(特許文献1,2, 非特許文献7 なお特許文献2は基礎出願の出願時において未公開である。)。このような、HLAクラスI関与の細胞死誘導を利用した治療をさらに発展させれば、骨髄腫等に対する有効性の高い医薬品が開発されるものと期待されるが、抗HLAクラスI分子抗体の作製およびその低分子化以外については、上記細胞死誘導利用の新規医薬品に関する報告がない。
【0007】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2004/033499
【特許文献2】WO2005/056603
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fayen et al., Int. Immunol 10: 1347-1358(1998)
【非特許文献2】Genestier et al., Blood 90: 3629-3639 (1997)
【非特許文献3】Genestier et al., Blood 90: 726-735 (1997)
【非特許文献4】Genestier et al., J. Biol. Chem. 273: 5060-5066 (1998)
【非特許文献5】Woodle et al., J. Immunol. 158: 2156-2164 (1997)
【非特許文献6】Matsuoka et al., J. Exp. Med. 181: 2007-2015 (1995)
【非特許文献7】Kimura et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 325: 1201-1209 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、抗HLAクラスI抗体を利用した新規医薬品を創出することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を行った。HLAクラスIの細胞表面発現はインターフェロン(以下において、場合により「IFN」とも記載する)刺激により亢進されることが知られている。本発明者らは、インターフェロンが細胞のHLA-Aの発現および抗HLAクラスI抗体による細胞障害にどのような効果を及ぼすかについて、抗HLAクラスI抗体として2D7-DB抗体(2D7-Diabody抗体、非特許文献7、以下において2D7-Diabody抗体を「2D7-DB」とも称する。)を用い、IM-9細胞株を対象に試験を行った。その結果、IFNαまたはIFNγにより、HLA-Aの発現が上方制御されることが実証された。さらに、WST-8アッセイにより、インターフェロンと抗HLAクラスI抗体を併用した場合の細胞生存度を検討した。その結果、2D7-DBとIFNαまたはIFNγとの組み合わせにより、細胞死誘導活性が増大することがわかった。従来、抗HLAクラスI抗体の作用増強は抗体の低分子化技術に頼っていたが、この新規知見により、低分子化とは全く異なる手法によって抗HLAクラスI抗体の作用を増強することが可能となった。すなわち本発明は、抗HLAクラスI抗体による細胞死誘導の増強に関し、具体的には以下の発明を提供するものである。
(1)インターフェロン及び抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物、
(2)インターフェロンと併用することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物、
(3)インターフェロンと同時に投与することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物、
(4)インターフェロン投与後に投与することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物、
(5)抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、上記(1)から(4)のいずれかに記載の医薬組成物、
(6)抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、上記(1)から(5)のいずれかに記載の医薬組成物、
(7)インターフェロン及び抗HLAクラスI抗体を有効成分とする細胞死誘導剤、
(8)抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、上記(7)に記載の細胞死誘導剤、
(9)抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、上記(7)または(8)に記載の細胞死誘導剤、
(10)抗HLAクラスI抗体と併用することを特徴とする、インターフェロンを含有する医薬組成物、
(11)抗HLAクラスI抗体と同時に投与することを特徴とする、インターフェロンを含有する医薬組成物、
(12)抗HLAクラスI抗体投与前に投与することを特徴とする、インターフェロンを含有する医薬組成物、
(13)インターフェロンを有効成分とする、抗HLAクラスI抗体の作用増強剤、
(14)抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンを同時に投与する工程を含む、腫瘍の治療及び/または予防方法、
(15)抗HLAクラスI抗体を投与する工程、及びインターフェロンを投与する工程を含む、腫瘍の治療及び/または予防方法、
(16)抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンを同時に投与する工程を含む、自己免疫疾患の治療及び/または予防方法、
(17)抗HLAクラスI抗体を投与する工程及びインターフェロンを投与する工程を含む、自己免疫疾患の治療及び/または予防方法、
(18)抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、上記(14)から(17)のいずれかに記載の治療及び/または予防方法、
(19)抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、上記(14)から(18)のいずれかに記載の治療及び/または予防方法、
(20)上記(1)記載の医薬組成物または上記(7)記載の細胞死誘導剤を製造するための、抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンの使用、
(21)抗HLAクラスI抗体として抗HLA-A抗体を用いることを特徴とする、上記(20)に記載の抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンの使用、
(22)抗HLAクラスI抗体として低分子化抗体を用いることを特徴とする、上記(20)または(21)に記載の抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンの使用、
(23)医薬組成物または細胞死誘導剤が腫瘍の治療及び/または予防用である、上記(20)から(22)のいずれかに記載の抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンの使用、
(24)医薬組成物または細胞死誘導剤が自己免疫疾患の治療及び/または予防用である、上記(20)から(22)のいずれかに記載の抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンの使用、
(25)上記(2)から(4)のいずれかに記載の医薬組成物を製造するための、抗HLAクラスI抗体の使用、
(26)抗HLAクラスI抗体として抗HLA-A抗体を用いることを特徴とする、上記(25)に記載の抗HLAクラスI抗体の使用、
(27)抗HLAクラスI抗体として低分子化抗体を用いることを特徴とする、上記(25)または(26)に記載の抗HLAクラスI抗体の使用、
(28)医薬組成物が腫瘍の治療及び/または予防用である、上記(25)から(27)のいずれかに記載の抗HLAクラスI抗体の使用、
(29)医薬組成物が自己免疫疾患の治療及び/または予防用である、上記(25)から(27)のいずれかに記載の抗HLAクラスI抗体の使用、
(30)抗HLAクラスI抗体を含む細胞死誘導剤の作用増強剤を製造するための、インターフェロンの使用、
(31)抗HLAクラスI抗体を含む腫瘍の治療および/または予防剤の作用増強剤を製造するための、インターフェロンの使用、
(32)抗HLAクラスI抗体を含む自己免疫疾患治療および/または予防剤の作用増強剤を製造するための、インターフェロンの使用、
(33)抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、上記(30)から(32)のいずれかに記載のインターフェロンの使用、
(34)抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、上記(30)から(33)のいずれかに記載のインターフェロンの使用、
(35)抗HLAクラスI抗体及びインターフェロンを併用することを特徴とする、細胞死誘導方法、
(36)抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、上記(35)に記載の細胞死誘導方法、
(37)抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、上記(35)または(36)に記載の細胞死誘導方法、
(38)インターフェロンを投与することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体の作用増強方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】2D7-DB媒介性細胞障害に及ぼすIFNの効果を示す図である。(A) 骨髄腫細胞のHLA-A発現に及ぼすIFNの効果を示す。IM-9細胞をIFN-α(100 U/ml)またはIFN-γ(100 U/ml)で48時間処理した。フローサイトメトリーにより、HLA-Aの細胞表面発現を2D7を用いて解析した。IFN処理細胞の染色特性を太線で、未処理のものを実線で示す。陰性対照染色を点線で示す。(B) IFNによる2D7-DB媒介性細胞障害の亢進を示すグラフである。IM-9細胞をIFN-α(100 U/ml)またはIFN-γ(100 U/ml)で48時間処理し、次いで2D7-DB(0.1または1μg/ml)と共に24時間培養した。WST-8アッセイにより細胞生存度を決定した。データは三重測定値(障害を受けた細胞数/全体の細胞数)の平均値±SDを示す(*p<0.05)。
【図2】多発性骨髄腫(MM)患者由来の骨髄細胞におけるHLA-Aの発現パターンを示す図である。(A) 患者番号17由来のBMMCを、FITC標識2D7 mAbおよびPE標識抗CD38 mAbを用いて、フローサイトメトリーにより解析した。細胞にゲートをかけた後(R1、CD38陽性MM細胞;R2、骨髄性細胞;およびR3、リンパ球)、各細胞集団をHLA-A発現について評価した。(B) 22名のMM患者由来のBMMCを、HLA-A発現について解析した。データは、各細胞集団についての幾何平均蛍光強度(Geo MFI)として示した。
【図3】MM細胞における抗HLAクラスI抗体の細胞障害活性を示す図である。(A) MM細胞に及ぼす様々な抗HLAクラスI mAbの効果を検討した結果のグラフ。IM-9細胞または患者番号13に由来する精製MM細胞を、2D7、W6/32、B9.12.1、およびJOAN-1等の抗HLA-AクラスI mAbと共に、10μg/ml F(ab')2ヤギ抗マウスIgG抗体も加えて24時間培養した。他の実験では、ヤギ抗マウスIgG抗体の非存在下で細胞を2D7-DBと共に培養した。WST-8アッセイまたはトリパンブルー排除試験により、細胞生存度を決定した。データは3つ組測定値の平均値を示す。(B) 2D7-DB処理後の骨髄腫細胞の形態学的所見。患者番号18由来の精製MM細胞を、2D7-DB(1μg/ml)の存在下または非存在下で24時間培養した。次いで細胞をスライドグラス上で固定し、ライト・ギムザで染色した(原本の倍率、x1000)。(C) 患者のMM細胞における2D7-DBの細胞障害活性を示すグラフ。CD138陽性MM細胞を6名の患者から精製し、2D7-DB(0.1または1μg/ml)と共に24時間培養した。トリパンブルー排除試験により細胞生存度を決定した。データは2つ組の平均値を示す。
【図4】骨髄細胞に及ぼす2D7-DBの効果を示す図である。(A) 2D7-DBによる患者のMM細胞の根絶の様子を示す。患者番号12に由来する全BMMCを、2D7-DB(1μg/ml)の存在下または非存在下で48時間培養した。細胞を培養した後、FITC標識抗HLA-ABC mAbおよびPE標識抗CD38 mAb を用いて、MM細胞の集団をフローサイトメトリーにより判定した。側方散乱光(SS)プロファイルおよびCD38発現に従って、MM細胞領域(R1)にゲートをかけた。(B) 同じ患者由来のBMMCを、2D7-DB(1μg/ml)の存在下または非存在下で48時間培養した。次いで細胞をスライドグラス上で固定し、ライト・ギムザで染色した(原本の倍率、x400)。(C) 患者番号12に由来するBMMCの接着性画分を24ウェルプレートで培養した。間質細胞が増殖した後、患者のMM細胞(1x106/ml)をそのプレートで24時間培養し、次いで2D7-DB(1μg/ml)で48時間処理した。結果は3つの独立した実験の代表的なものである。
【図5】ヒト骨髄腫の異種移植モデルにおける2D7-DBの治療効力を示す図である。SCIDマウスの静脈内にARH-77細胞(6x106/マウス)を接種した。1日、2日、および3日目に、7匹のマウスの群を、2D7-DBまたはPBSを静脈内に注射することによって処置した。(A) 24日目に、ELISAによりヒトIgGの血清濃度を測定した。データは、7匹のマウスの平均値±SDを示す(*p<0.05)。(B)これらのSCIDマウスの生存のカプラン・マイヤー解析(**p<0.05)。
【図6】(A)各種シグナル伝達阻害薬で前処理した骨髄腫細胞株RPMI8226に2D7-DBを添加した後の細胞傷害活性を示す図である。Caspase阻害剤(z-VAD-fmk)、MAPキナーゼ阻害剤(PD98059)、PI-3キナーゼ阻害剤(Wortmannin)による処理は、2D7-DBの細胞傷害活性に対し影響を与えなかった。Rho GTP阻害剤(Clostridium difficile toxin B)、アクチン重合阻害剤による処理は、2D7-DBの細胞傷害活性をほぼ完全に抑制した。(B)腫瘍細胞株を2D7-DBで処理し、2D7-DBとアクチンの局在を観察した結果の写真である。骨髄腫細胞株ARH-77では、2D7処理によってアクチン凝集が起こり、さらに上記アクチン凝集はアクチン重合阻害剤(Latrunculin A)の前処理によって抑制された。骨髄ストローマ細胞株KM102では、2D7処理によるアクチン凝集は認められなかった。
【図7】(A)2D7-DBの細胞傷害にかかわるシグナル伝達をウエスタンブロット法で検討した結果の図である。細胞株(RPMI8226、KM102、Jurkat)を2D7-DBで刺激したところ、KM102細胞株においてリン酸化FAKが検出された。(B)2D7-DBの細胞傷害にかかわるシグナル伝達をウエスタンブロット法で検討した結果の図である。細胞株(RPMI8226、KM102)を2D7-DBで刺激したところ、KM102においてリン酸化Aktが認められた。(C)2D7-DBの細胞傷害にかかわるシグナル伝達をウエスタンブロット法で検討した結果の図である。細胞株(RPMI8226、KM102)を2D7-DBで刺激し、リン酸化ERK1、リン酸化ERk2、リン酸化MAPKが検出されるかどうか検討した。(D)2D7-DBによるアポトーシス誘導の有無を検討した結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、インターフェロンと抗HLAクラスI抗体の併用に関する。本発明者らによって、インターフェロンの併用が抗HLAクラスI抗体の作用を増強することが初めて示された。
【0014】
一般に、インターフェロンとは、ウイルス、二本鎖RNA、レクチンなどによって動物細胞から誘発される抗ウイルス作用をもったタンパク質または糖タンパク質の総称である。抗ウイルス作用の他、細胞増殖抑制作用、免疫調節作用を有する。産生細胞、特異的受容体との結合能、生物・物理化学的性質から数種のタイプに分類され、主要なものとしてはα、β、γがあるが、このほか、IFNω、IFNτの存在が知られている。さらにインターフェロンαには、20種以上のサブタイプの存在が知られている。現在、天然型のみならず、PEG化、コンセンサスインターフェロン等の各種遺伝子組み換え型の製剤が開発・上市されている。例えば、インターフェロン製剤の一例として、PEG-インターフェロンα2aの製剤である、Pegasys(Roche社)を挙げることができる。
【0015】
本発明におけるインターフェロンは、上記タイプのいずれでもよいが、好ましくはαまたはγである。また、本発明におけるインターフェロンは、抗HLAクラスI抗体による細胞死誘導を増強する限り、天然型、人工的に変異された遺伝子組み換え型、天然に存在する変異体、融合タンパク質、又はこれらの断片などのいずれであってもよい。本発明におけるインターフェロンの由来に特に制限はなく、例えば、ヒト、チンパンジー、オランウータン、イヌ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ブタ、ネコ、マウス、モルモット、ラット、ウサギなどを由来とすることができるが、これらに限らずその他の哺乳動物を由来とすることができる。好ましくはヒト由来のインターフェロンである。
【0016】
ヒトインターフェロンα又はγのアミノ酸配列は公知であり、例えば、インターフェロンαであればGenBank:NM_0240013に記載のアミノ酸配列を用いることができ、インターフェロンγであればGenBank:NM_000619に記載のアミノ酸配列を用いることができる。インターフェロンαのアミノ酸配列を配列番号1に、塩基配列を配列番号2に、インターフェロンγのアミノ酸配列を配列番号3に、同γの塩基配列を配列番号4に示す。上記インターフェロンは、当業者に周知の方法によって調製可能である。例えば、ヒト由来のインターフェロン産生細胞から周知手段によりmRNAを調製してcDNAライブラリーを作製し、該cDNAライブラリーの中から、配列番号2または配列番号4に記載の塩基配列の全部または一部の塩基配列からなるプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズするcDNAを選択し、該cDNAを適当な宿主・ベクター系を用いて発現させ、得られたタンパク質を精製することにより調製可能である。宿主・ベクター系は、後述の、抗体の製造に使用可能な宿主・ベクター系の例の中から使用してもよい。または、配列番号2または配列番号4に記載の塩基配列に基づいてプライマーを設計し、ヒト由来のインターフェロン産生細胞から調製したmRNAを鋳型にして上記プライマーを用いてRT-PCRを実施し、得られたcDNAを発現させて調製することもできる。
【0017】
上記ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するポリヌクレオチドの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0018】
このようなハイブリダイゼーション技術を利用して単離されるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、通常、本発明者らにより同定されたポリペプチドとアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは少なくとも95%以上、さらに好ましくは少なくとも97%以上(例えば、98から99%)の配列の相同性を指す。アミノ酸配列の同一性は、例えば、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえば score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0019】
また上記配列のインターフェロンに限らず、上記配列のインターフェロンに類似するポリペプチドも、抗HLAクラスI抗体による細胞死誘導を増強する限り、本発明において好適に用いることができる。このようなポリペプチドとして、配列番号1記載のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、付加または/および挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、抗HLAクラスI抗体細胞死誘導増強作用を有するポリペプチド、配列番号3記載のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、付加または/および挿入されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、抗HLAクラスI抗体細胞死誘導増強作用を有するポリペプチド、配列番号2記載の塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、抗HLAクラスI抗体細胞死誘導増強作用を有するポリペプチド、配列番号4記載の塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、抗HLAクラスI抗体細胞死誘導増強作用を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0020】
このようなポリペプチドは、当業者に周知の方法によって調製することができる。例えば、配列番号2または4に記載の塩基配列の全部または一部をプローブとし、インターフェロン産生細胞から調製したcDNAライブラリーの中からハイブリダイズするクローンを選択し、発現させることで調製することができる。または、配列番号2または4記載の塩基配列に、PCRによる変異導入法やカセット変異法などの当業者に周知の遺伝子改変方法を施し、部位特異的にまたはランダムに変異を導入することによって、調製することができる。または配列番号2または4記載の塩基配列に変異を導入した配列を、市販の核酸合成装置によって合成することも可能である。
【0021】
このようにして調製したポリペプチドが、抗HLAクラスI抗体による細胞死誘導を増強するかどうかについては、公知方法によって検討することができる。例えば、HLAクラスI 発現細胞を被検ポリペプチドと接触させ、該細胞の細胞生存度をWST-8アッセイやトリパンブルー排除試験等により求めることができる。具体的には、本明細書の参考例2に記載の方法によって検討可能である。
【0022】
本発明において、抗HLAクラスI抗体とは、HLAクラスIに分類される分子を認識する抗体である。本発明において、HLAとは、ヒト白血球抗原を意味する。HLA分子はクラスIとクラスIIに分類され、クラスIとしてはHLA-A、B、C、E、F、G、H、Jなどが知られており、クラスIIとしてはHLA-DR、DQ、DPなどが知られている。本発明において、抗HLAクラスI抗体が認識する抗原は、HLAクラスIに分類される分子であれば特に制限されないが、好ましくはHLA-Aである。本発明において、白血球は生体防御に関係する血液細胞である。一般に、白血球にはリンパ球(B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、キラーT細胞、NK細胞)、単球(マクロファージ)、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)などが含まれる。本発明における白血球としては、リンパ球(B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、キラーT細胞、NK細胞)、単球(マクロファージ)、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)等いかなる白血球でもよい。
【0023】
本発明においてHLAクラスIを認識する抗体は、HLAクラスIを認識する限り特に限定されないが、特異的にHLAクラスIを認識する抗体であることが好ましい。
【0024】
HLAクラスIを認識する抗体は、既に公知の抗体でもよく、又、HLAクラスIを抗原とし、当業者に公知の方法により作製された抗HLAクラスI抗体でもよい。抗体の作製は、具体的には、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0025】
HLAクラスIタンパク質若しくはその断片を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウイルスを用いた方法(WO98/46777など)等に準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。その後、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、得られたcDNAの配列を公知の方法により解読すればよい。
【0026】
抗HLAクラスI抗体は、HLAクラスIと結合する限り特に由来に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。又、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体なども使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体等であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0027】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0028】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0029】
本発明において好ましい抗HLAクラスI抗体として、低分子化抗HLAクラスI抗体を挙げることができる。低分子化抗体とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。本発明の抗体断片は、全長抗体の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましいのはVHとVLの両方を含む断片である。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(シングルチェインFv)、などを挙げることができるが、好ましくはscFv (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun,「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))である。このような抗体断片を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0030】
本発明における低分子化抗体は、全長抗体よりも分子量が小さくなることが好ましいが、例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどの多量体を形成すること等もあり、全長抗体よりも分子量が大きくなることもある。
【0031】
本発明において好ましい低分子化抗体は、抗体のVHを2つ以上及びVLを2つ以上含み、これら各可変領域を直接あるいはリンカー等を介して間接的に結合した抗体である。結合は、共有結合でも非共有結合でもよく、また、共有結合と非共有結合の両方でもよい。さらに好ましい低分子化抗体は、VHとVLが非共有結合により結合して形成されるVH-VL対を2つ以上含んでいる抗体である。この場合、低分子化抗体中の一方のVH-VL対と他方のVH-VL対との間の距離が、全長抗体における距離よりも短くなる抗体が好ましい。
【0032】
本発明において特に好ましい低分子化抗体はDiabody又はsc(Fv)2である。Diabodyは、可変領域と可変領域をリンカー等で結合したフラグメント(例えば、scFv等)(以下、Diabodyを構成するフラグメント)を2つ結合させて二量体化させたものであり、通常、2つのVLと2つのVHを含む。Diabodyを構成するフラグメント間の結合は非共有結合でも、共有結合でもよいが、好ましくは非共有結合である。
【0033】
Diabodyを構成するフラグメントは、VLとVHを結合したもの、VLとVLを結合したもの、VHとVHを結合したもの等を挙げることができるが、好ましくはVHとVLを結合したものである。Diabodyを構成するフラグメント中において、可変領域と可変領域を結合するリンカーは特に制限されないが、同一フラグメント中の可変領域の間で非共有結合がおこらない程度に短いリンカーを用いることが好ましい。そのようなリンカーの長さは当業者が適宜決定することができるが、通常2〜14アミノ酸、好ましくは3〜9アミノ酸、特に好ましくは4〜6アミノ酸である。この場合、同一フラグメント上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため、同一鎖上のVLとVHの間で非共有結合がおこらず、単鎖V領域フラグメントが形成されない為、他のフラグメントとの非共有結合による二量体を形成する。さらに、Diabody作製と同じ原理で、Diabodyを構成するフラグメントを3つ以上結合させて、トリマー、テトラマーなどの多量体化させた抗体を作製することも可能である。
【0034】
本発明におけるDiabodyとしては、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するDiabodyまたは配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)したアミノ酸配列を有するDiabodyであって、配列番号:5に記載の配列を有するDiabodyと機能的に同等なDiabodyや、配列番号:6のCDR(又は可変領域)および配列番号:7のCDR(又は可変領域)のアミノ酸配列を有するDiabodyまたは配列番号:6のCDR(又は可変領域)および配列番号:7のCDR(又は可変領域)のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸配列が変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)したアミノ酸配列を有するDiabodyであって、配列番号:6のCDR(又は可変領域)および配列番号:7のCDR(又は可変領域)の配列を有するDiabodyと機能的に同等なDiabodyを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
ここで「機能的に同等」とは、対象となるDiabodyが、配列番号:5に記載の配列を有するDiabody、または配列番号:6のCDR(又は可変領域)および配列番号:7のCDR(又は可変領域)の配列を有するDiabodyと同等の活性(例えば、HLA-Aへの結合活性、細胞死誘導活性など)を有することを意味する。
【0036】
変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。
【0037】
また、配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するDiabodyまたは、配列番号:6のCDR(又は可変領域)および配列番号:7のCDR(又は可変領域)の配列を有するDiabodyを、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的としてヒト化、キメラ化してもよい。
【0038】
配列番号:6に記載されているアミノ酸配列で、1番目〜134番目が可変領域に相当し、50番目〜54番目がCDR1、69番目〜85番目がCDR2、118番目〜134番目がCDR3に相当する。配列番号:7に記載されているアミノ酸配列で、1番目〜128番目が可変領域に相当し、46番目〜55番目がCDR1、71番目〜77番目がCDR2、110番目〜128番目がCDR3に相当する。
【0039】
sc(Fv)2は、2つの重鎖可変領域([VH])及び2つの軽鎖可変領域([VL])をリンカー等で結合して一本鎖ポリペプチドにした抗体である(Hudson et al., J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。sc(Fv)2は、例えば、2つのscFv(シングルチェインFv) (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun,「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))をリンカー等で結合することにより作製することが可能である。リンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー、例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996に開示されるリンカー等を用いることができるが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、通常、1〜100アミノ酸、好ましくは5〜30アミノ酸、特に好ましくは12〜18アミノ酸(例えば、15アミノ酸)である。
結合される2つの重鎖可変領域と2つの軽鎖可変領域の順序は特に限定されず、どのような順序で並べられていてもよく、例えば、以下のような配置を挙げることができる。
[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
本発明においては、好ましくは、[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]の配置を有するsc(Fv)2である。
【0040】
重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を会合させた場合に、抗原結合活性を有する限り、一部を欠損させてもよいし、他のポリペプチドを付加してもよい。又、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。
【0041】
本発明において、抗体の可変領域を結合するリンカーは、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー、例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを用いることができる。
【0042】
本発明において好ましいリンカーはペプチドリンカーである。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、通常、1〜100アミノ酸、好ましくは3〜50アミノ酸、更に好ましくは5〜30アミノ酸、特に好ましくは12〜18アミノ酸(例えば、15アミノ酸)である。
【0043】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列としては、例えば、以下のような配列を挙げることができる。
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:22)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:23)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:24)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:25)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:26)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:27)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:28)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:29)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser[配列番号:24])n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly[配列番号:25])n
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。
【0044】
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ−BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
【0045】
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となるが、全て同じリンカーを用いてもよいし、異なるリンカーを用いてもよい。
【0046】
本発明において、好ましいsc(FV)2の例としては、以下の(a)〜(i)のいずれかに記載の抗体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(a) 配列番号:10、11、12に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、2、3を有する重鎖可変領域を含むsc(Fv)2。
(b) 配列番号:13、14、15に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、2、3を有する軽鎖可変領域を含むsc(Fv)2。
(c) 配列番号:10、11、12に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、2、3を有する重鎖可変領域および配列番号:13、14、15に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、2、3を有する軽鎖可変領域を含むsc(Fv)2。
(d) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むsc(Fv)2。
(e) 配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含むsc(Fv)2。
(f) 配列番号:17に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含むsc(Fv)2。
(g) 配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するsc(Fv)2。
(h) 配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するsc(Fv)2。
(i) (a)〜(h)のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入され、かつ本発明の抗体と機能的に同等の活性を有するsc(Fv)2。
【0047】
なお、配列番号:16、17はそれぞれ2D7重鎖可変領域の塩基配列、アミノ酸配列を示し、当該領域における、50番目〜54番目がCDR1(配列番号:10)、69番目〜85番目がCDR2(配列番号:11)、118番目〜123番目がCDR3(配列番号:12)に相当する。また、配列番号:18、19はそれぞれ2D7軽鎖可変領域の塩基配列、アミノ酸配列を示し、当該領域における、46番目〜55番目がCDR1(配列番号:13)、71番目〜77番目がCDR2(配列番号:14)、110番目〜118番目がCDR3(配列番号:15)に相当する。また、上記重鎖可変領域と軽鎖可変領域をリンカーでつないだscFVをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号:20に、scFVのアミノ酸配列を配列番号:21に示し、本発明のsc(FV)2をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号:8に、sc(FV)2のアミノ酸配列を配列番号:9に示す。
【0048】
また、配列番号:9に記載のアミノ酸配列を有するsc(Fv)2または、配列番号:9に記載のアミノ酸配列からなるCDR(又は可変領域)を有するsc(Fv)2を、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的としてヒト化(Humanized)、キメラ(Chimeric)化してもよい。これらの人為的に改変した抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0049】
ここで「機能的に同等」とは、対象となる抗体が、配列番号:9に記載の配列を有するsc(FV)2、または配列番号:9に記載のアミノ酸配列からなるCDR(又は可変領域)を有するsc(FV)2と同等の活性(例えば、HLA-Aへの結合活性、細胞死誘導活性、など)を有することを意味する。
【0050】
あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法としては、ポリペプチドに変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、本発明の抗体に適宜変異を導入することにより、該抗体と機能的に同等な抗体を調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、本発明の抗体のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、該抗体と機能的に同等な抗体もまた本発明の抗体に含まれる。
【0051】
変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。また、抗体の定常領域などのアミノ酸配列は当業者に公知である。
【0052】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0053】
上述の抗体は当業者に公知の方法により製造することができる。具体的には、目的とする抗体のDNAを発現ベクターへ組み込む。その際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0054】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
【0055】
抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043 )、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0056】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379 )を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0057】
大腸菌以外にも、例えば、本発明のポリペプチドを製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0058】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0059】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0060】
本発明においてインターフェロンと抗HLAクラスI抗体との併用とは、インターフェロンと抗HLAクラスI抗体を共に投与または使用(以下、単に「投与」と記載する。)することを意味し、投与の順番や投与間隔などで限定されるものではない。本発明のインターフェロンと抗HLAクラスI抗体の投与の順番は、インターフェロン投与後に抗HLAクラスI抗体を投与、インターフェロンと抗HLAクラスI抗体を同時に投与、抗HLAクラスI抗体投与後にインターフェロンを投与、のいずれの順番でもよいが、好ましくはインターフェロン投与後に抗HLAクラスI抗体を投与またはインターフェロンと抗HLA クラスI抗体を同時に投与することであり、さらに好ましくはインターフェロン投与後に抗HLAクラスI抗体を投与することである。
【0061】
インターフェロン投与後に抗HLAクラスI抗体を投与する場合、インターフェロンと抗HLAクラスI抗体の投与間隔は特に限定されず、投与経路や剤形等の要因を考慮して設定することができる。あえて投与間隔の一例を挙げるとすれば、通常、0時間〜72時間であり、好ましくは0時間〜24時間であり、さらに好ましくは0時間〜12時間である。
【0062】
本発明において抗HLAクラスI抗体の作用とは、抗体が抗原に結合することにより生じる生物学的作用をいい、具体的な例としては、細胞死誘導作用、アポトーシス誘導作用、細胞増殖抑制作用、細胞分化抑制作用、細胞分裂抑制作用、細胞増殖誘導作用、細胞分化誘導作用、細胞分裂誘導作用、細胞周期調節作用などを挙げることができる。本発明においてインターフェロンにより増強される上記活性は、抗HLAクラスI抗体が有する活性であれば如何なるものでもよいが、好ましくは細胞死誘導作用または細胞増殖抑制作用である。
【0063】
細胞死誘導作用、細胞増殖抑制作用などの上記作用の対象となる細胞は特に限定されないが、血球系細胞や浮遊細胞が好ましい。血球系細胞の具体的な例としては、リンパ球(B細胞、T細胞)、好中球、好酸球、好塩基球、単球(好ましくは活性化した末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell、PBMC))、多発性骨髄腫(ミエローマ、MM)細胞などを挙げることができるが、リンパ球(B細胞、T細胞)、ミエローマ細胞が好ましく、T細胞またはB細胞(特に活性化したB細胞または活性化したT細胞)、ミエローマ細胞が最も好ましい。浮遊細胞は、細胞を培養した際、細胞がガラスやプラスチックなどの培養器の表面に付着することなく、浮遊状で増殖する細胞である。これに対し、接着細胞(付着細胞)とは、細胞を培養した際、ガラスやプラスチックなどの培養器の表面に付着する細胞である。
【0064】
本発明においては、抗HLAクラスI抗体をインターフェロンと併用して投与することにより、例えば、血液腫瘍(造血器腫瘍)などの腫瘍(具体的な例として、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、形質細胞異常症(骨髄腫、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症)、骨髄増殖性疾患(真性赤血球増加症、本態性血小板血症、特発性骨髄繊維症)など)や自己免疫疾患(具体的な例として、リウマチ、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性水疱症、自己免疫性副腎皮質炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性精巣炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性レセプター病、自己免疫不妊、クローン病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、バセドウ病、若年性糖尿病、アジソン病、重症筋無力症、水晶体性ブドウ膜炎、乾癬、ベーチェット病など)のような疾患の治療、予防などをおこなうことが可能である。好ましい適用症としては、血液腫瘍、特に好ましい適用症としては、多発性骨髄腫を挙げることができる。
【0065】
抗HLAクラスI抗体はインターフェロンとともに一つの医薬組成物とすることができる。また、抗HLAクラスI抗体は、インターフェロンと併用することを特徴とする、医薬組成物とすることができる。すなわち、抗HLAクラスI抗体は、「インターフェロンと併用することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体および製剤上許容しうる担体を含む医薬組成物」の製造のために使用することができる。また、インターフェロンは、抗HLAクラスI抗体と併用することを特徴とする、医薬組成物とすることができる。すなわち、インターフェロンは、「抗HLAクラスI抗体と併用することを特徴とする、インターフェロンおよび製剤上許容しうる担体を含む医薬組成物」の製造のために使用することができる。
【0066】
上記の製剤上許容しうる担体とは、それ自体は上記の活性を有さない材料であって、上記の薬剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。製剤上許容しうる担体は、例えば、安定剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、賦形剤、懸濁化剤、乳化剤、溶解補助剤、などとして用いられる。
【0067】
例えば、安定剤としては、0.2%程度のゲラチンやデキストラン、0.1-1.0%のグルタミン酸ナトリウム、あるいは約5%の乳糖や約2%のソルビトールなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。保存剤としては、0.01%程度のチメロサールや0.1%程度のベータプロピオノラクトンなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0068】
注射剤を調製する場合、必要により、pH 調製剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内注射剤とする。注射剤は、溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって、固形製剤として、用時調製の製剤としてもよい。また、一投与量を容器に収納してもよく、また、投与量を同一の容器に収納してもよい。
【0069】
本発明における投与は、経口的、または非経口的のいずれでもよい。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。注射剤を投与する方法としては、対象となる生物体の体内の一部分(臓器等の一組織)を標的として局所的に投与を行っても良いし、血管に投与することにより、生物体全体に本発明の抗体を循環させてもよい。また、複数箇所の標的に同時に投与を行ってもよい。また、投与すべき抗体をコードする遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。本発明の方法の効果をもたらすタンパク質をコードする遺伝子を生体に導入し、発現させる手法は公知である。また、本発明の抗体を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または治療薬をコードする配列の標的化遺伝子送達により投与することも可能である。
【0070】
投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分の種類などにより異なるが、通常成人一人あたり、一回につき0.1mgから1000mgの範囲で投与することができる。しかし、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量よりも少ない量で充分な場合もあり、また上記の範囲を超える投与量が必要な場合もある。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1]2D7-DB媒介性細胞障害に及ぼすインターフェロン(IFN)の効果
HLAクラスIの細胞表面発現はIFN刺激により亢進されるため、HLA-Aの発現および2D7-DBによる細胞障害に及ぼすIFNの効果を、IM-9細胞を用いて試験した。IM-9細胞をIFN-α(100 U/ml、オーアイエフ250 万IU、大塚製薬)またはIFN-γ(100 U/ml、オーガンマ100、大塚製薬)で48時間処理した後、フローサイトメトリーを行った。上記IFN-αのアミノ酸配列を配列番号:1、塩基配列を配列番号:2、上記IFN-γのアミノ酸配列を配列番号:3、塩基配列を配列番号:4に示す。フローサイトメトリー解析から、IFNαまたはIFNγで刺激した後、HLA-Aの発現が上方制御されることが実証された(図1A)。
さらに、IM-9細胞をIFN-α(100 U/ml)またはIFN-γ(100 U/ml)で48時間処理し、次いで2D7-DB(1μg/ml)と共に24時間培養し、WST-8アッセイにより細胞生存度を決定した。その結果として、2D7-DBとIFNαまたはIFNγとの組み合わせにより、細胞死活性が増大した(図1B)。
【0072】
[参考例1]腫瘍細胞株におけるHLAクラスIの発現
腫瘍細胞株および多発性骨髄腫患者由来の骨髄腫細胞における2D7 mAbの反応性を、フローサイトメトリーにより試験した。
使用した腫瘍細胞株は以下のとおり調製した。骨髄腫細胞株RPMI 8226、Bリンパ芽球性細胞株(IM-9、Raji、HS-Sultan、およびDaudi)、Tリンパ芽球性細胞株CEM、慢性骨髄性白血病細胞株K562、肺腺癌細胞株A549、結腸腺癌細胞株COLO 201、および胃腺癌細胞株MKN-1は、ヒューマンサイエンス資源バンク(Health Science Resources Bank)(日本、大阪)から入手した。骨髄腫細胞株U266-B1、Bリンパ芽球性細胞株ARH-77、Tリンパ芽球性細胞株Jurkat、乳癌細胞株MCF-7、肝細胞癌HepG2、腎淡明細胞癌Caki-2、および悪性黒色腫MeWoは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(バージニア州、マナッサス)から入手した。EBV-形質転換B細胞株YNは、Yasuhiko Nishioka博士(徳島大学)からの分与による。これらの細胞株を、10%ウシ胎仔血清(Gibco BRL、ニューヨーク州、グランドアイランド)およびペニシリン(100 U/ml)を添加したRPMI-1640培地(Sigma-Aldrich、ミズーリ州、セントルイス)中、5%CO2の加湿大気において37℃で培養した。
【0073】
また患者MM細胞は、以下のとおりに調製した。まず、DurieおよびSalmon分類に従って(Durie, B.G., and S.E. Salmon. 1975. A clinical staging system for multiple myeloma. Correlation of measured myeloma cell mass with presenting clinical features, response to treatment, and survival. Cancer 36:842-854)、MM患者の診断および臨床病期分類を行なった。徳島大学倫理委員会の承認を得てインフォームドコンセントを行なった後、患者から骨髄検体を採取した。フィコール-ハイパーク(Ficoll-Hypaque)(密度1.077)遠心分離により、骨髄単核細胞(BMMC)を分離した。CD138マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、カリフォルニア州、オーバーン)を用いて、BMMCから患者のMM細胞をさらに精製した。
【0074】
フローサイトメトリーによるHLAクラスIの細胞表面発現解析は、FITC標識2D7 mAbまたはFITC標識抗HLA-ABC共通領域mAb(Chemicon、カリフォルニア州、サンディエゴ)を用いて、以下のとおり行った。細胞(5 x105個)をPBSで2回洗浄し、FITC標識2D7 mAbまたはFITC標識抗HLA-ABC共通領域mAbと共に氷上で40分間インキュベートした。MM患者由来のBMMCは、PBS中に溶解した2%γグロブリンと共に氷上で15分間インキュベートし、ミエローマ細胞にゲートをかけるため、FITC標識2D7 mAbおよびPE標識抗CD38 mAb(BD Bioscience、カリフォルニア州、サンノゼ)で染色した。次に細胞をPBSで2回洗浄し、EPICS XLフローサイトメーター(Beckman Coulter、日本)により解析した。いくつかの実験では、HLAクラスI発現を解析する前に、細胞をIFNαまたはIFNγで48時間刺激した。HLAクラスIの発現レベルは、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)を用いてGeo MFIとして評価した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、ARH-77、YN、IM-9、RPMI 8226、およびU226等のMM細胞株およびBリンパ芽球性細胞株は、2D7 mAbまたは抗HLA-ABC 共通領域mAbで認識されるHLAクラスIが高レベルに発現していた。HLAクラスI発現のレベルは、T細胞株および他の系譜の癌細胞株において比較的低かった。K562細胞はHLA-AおよびHLA-B遺伝子を欠いているため(Johnson, D. R. 2000. Differential expression of human major histocompativility class I loci: HLA-A, -B, and -C. Hum Immunol. 61:389-396.)、2D7抗原(HLA-A)の発現を示さないが、HLAクラスIの低発現を示した。Daudi細胞はβ2-ミクログロブリンを産生せず(Rosa, F., M. Fellous, M. Dron, M. Tovey, and M. Revel. 1983. Presence of an abnormal beta 2-microglobulin mRNA in Daudi cells: induction by interferon. Immunogenetics 17:125-131.)、細胞表面にHLAクラスI分子を発現しなかった。
【0077】
次に、MM患者のBMMCにおけるHLA-A発現を試験した。FITC標識2D7 mAbおよびフィコエリトリン(PE)標識抗CD38 mAbにより、BMMCを染色した。CD38発現および側方散乱光プロファイルに従って細胞にゲートをかけ、骨髄腫細胞、骨髄性細胞、およびリンパ球を含むそれぞれの細胞集団をHLA-A発現について解析した。図2Aに示すように、HLA-Aの発現レベルは、正常骨髄性細胞およびリンパ球と比較して骨髄腫細胞において高かった。22名のMM患者のBM検体を解析したところ、幾何平均蛍光強度によって示される骨髄腫細胞におけるHLA-Aの発現レベルは(Geo MFI、1309±1130[平均値±SD])、骨髄性細胞(201±209)またはリンパ球(91±44)それぞれと比較して有意に高かった(図2B)。MM細胞におけるHLA-Aの発現は、MMの臨床病期とは関連がなかった。さらに、2カラーフローサイトメトリーから、末梢血幹細胞収集物中のCD34+細胞が低レベルでHLA-Aを発現することが示された(Geo MFI、109±16、n=3)。
【0078】
[参考例2]骨髄腫細胞に及ぼすHLAクラスI抗体の効果
MM細胞株および患者のMM細胞に及ぼす抗HLAクラスI mAbの細胞障害効果を試験した。
以下のとおり細胞障害性アッセイを行った。まず、患者のMM細胞(2x106個/ml)または細胞株(5x105個/ml)を、10% FCSを添加したRPMI 1640培地中、様々な濃度の2D7、W6/32、B9.12.1、およびJOAN-1等の抗HLAクラスI mAbと共に37℃で30分間インキュベートし、次に10μg/ml F(ab')2ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories、ペンシルバニア州、ウェストグローブ)と共に24時間インキュベートした。細胞株に関してはWST-8アッセイ(Kishida Chemical、日本、大阪)により、患者由来の初代MM細胞に関してはトリパンブルー色素排除試験により、細胞生存度を測定した。アネキシンVおよびPI染色(MEBCYTOアポトーシスキット、MBL、日本、名古屋)のフローサイトメトリー解析により、アポトーシスの誘導を判定した。
【0079】
W6/32、B9.12.1、およびJOAN-1等の抗HLAクラスI mAbは、単独では細胞の生存度に影響を及ぼさなかった(データは示さず)。しかし、二次ヤギ抗マウスIgG抗体の存在下では、これらの抗HLAクラスI mAbは、MM細胞株、Bリンパ芽球性細胞株(ARH-77、IM-9、およびU266)、および患者のMM細胞の凝集を用量依存的様式で誘導した。細胞の凝集により、WST-8アッセイまたはトリパンブルー排除試験によって確認される細胞死がもたらされた。これらの抗HLAクラスI mAbを二次抗体で架橋してから24時間後の、IM-9細胞および患者のMM細胞の細胞生存度を、図3Aに示した。2D7 mABは、W6/32、B9.12.1、およびJOAN-1よりも効率的にIM-9の細胞生存度を阻害した。新たに単離したMM細胞の細胞生存度もまた、二次抗体の存在下で2D7 mAbにより阻害された。この細胞凝集および細胞死は、以前に報告されたように(非特許文献7)、1時間以内に迅速に起こり、6時間後に最大に達した。
【0080】
[参考例3]2D7-DBの細胞障害効果
次に、MM細胞株および患者のMM細胞に及ぼす、2D7 mAbの一本鎖Fv型(2D7-DB)の細胞障害効果を試験した。細胞障害アッセイは基本的に上述と同様に行ったが、二次ヤギ抗マウスIgG抗体を添加せずに試験した。
【0081】
IM-9細胞および患者のMM細胞の両方において、2D7-DBによって2D7 mAbよりもさらに著しく細胞生存度が低下した(図3A)。重要なことには、新たに単離したMM細胞は、MM細胞株よりも2D7-DBに対する感受性が高かった。形態学的研究から、患者のMM細胞のほとんどが、2D7-DB処理をしてから24時間以内に細胞質空胞変性を示したことが明らかになった(図3B)。6人の患者から精製したMM細胞に対する2D7-DBの効果を解析したところ、24時間処理した後、細胞生存度は、0.1μg/ml 2D7-DBでは51±18.4%(平均値±SD)まで、1μg/ml 2D7-DBでは26±17.6%(平均±SD)まで減少した(図3C)。2D7-DBの感受性は、患者のMM細胞におけるHLA-A発現のレベルと関連していた。対照的に、正常骨髄性細胞またはリンパ球の細胞生存度は、以前に報告されたように、これらの用量の2D7-DBによって影響を受けなかった。
【0082】
他の造血細胞に及ぼす2D7-DBの影響を判定するため、MM患者の骨髄中の造血細胞におけるHLA-Aの発現、およびこの造血細胞に及ぼす2D7-DBの影響を試験した。全BMMCを2D7-DBで24時間処理した後、細胞集団をフローサイトメトリーにより調べた。図4Aに示すように、MM患者の全BMMC画分からCD38+ MM細胞が選択的に激減していた。抗HLA-ABC mAbによりこれらの残存した細胞を解析したところ、HLAクラスIを過剰発現する骨髄腫細胞集団のみが選択的に除去されていた(図4A)。これらの知見は、2D7-DBが、正常骨髄性細胞またはリンパ球に影響を及ぼすことなく、MM細胞の死を選択的に誘導するという形態学的研究からも確認された(図4B)。
【0083】
さらに、コロニーアッセイにより、造血前駆細胞に及ぼす2D7-DBの影響を判定した。MethoCultアッセイ(Stem Cell Technologies、カナダ、バンクーバー)を用い、顆粒球マクロファージコロニー形成単位および赤芽球バースト形成単位を測定した。2D7-DB(1μg/ml)は、造血前駆細胞アッセイにより、顆粒球マクロファージコロニー形成単位および赤芽球バースト形成単位の増殖を有意に阻害しなかった(データは示さず)。
【0084】
MM細胞の増殖および生存においてMM細胞と骨髄微小環境の相互作用が重要な役割を果たすことから、MM細胞および骨髄間質細胞に及ぼす2D7-DBの影響を試験した。新たに単離したMM細胞を、24ウェルプレート中、骨髄間質細胞の存在下で培養し、次いで2D7-DBで24時間処理した。図4Cに示すように、2D7-DBで処理することにより、骨髄間質細胞に接着した患者のMM細胞は効率的に除去されたが、正常間質細胞は有意な影響を受けなかった。同様に、接着性ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)においても、2D7-DBによる細胞障害は認められなかった(データは示さず)。
【0085】
[参考例4]2D7-DBのインビボ抗腫瘍効果
最後に、ヒト骨髄腫異種移植モデルにおいて、2D7-DBのインビボ有効性を評価した。まず、2D7-DBのインビボ細胞障害活性を評価するため、文献(Ozaki, S., M. Kosaka, S. Wakatsuki, M. Abe, Y. Koishibara, and T. Matsumoto. 1997. Immunotherapy of multiple myeloma with a monoclonal antibody directed against a plasma cell-specific antigen, HM1.24. Blood 90:3179-3186)の記載と同様にして、重症複合免疫不全(SCID)マウスへのヒト骨髄腫異種移植を確立した。残存しているナチュラルキラー細胞を根絶するため、腫瘍を接種する1日前に、上記SCIDマウスに10μLのウサギ抗アシアロGM1抗血清(Wako Chemicals、日本、大阪)を腹腔内注射した。次に尾静脈を介した静脈内注射により、ARH-77細胞(6x106個)を上記SCIDマウスに接種し、それぞれ7匹のマウスからなる2群に分割した。ARH-77細胞を接種してから1日、2日、および3日後に、1日に2回、8 mg/kgの2D7-DBまたはリン酸緩衝食塩水(PBS)の静脈内注射によりSCIDマウスを処置し、生存の期間をモニターした。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により、24日目にヒトMタンパクの血清レベルを測定した。
【0086】
図5Aに示すように、2D7-DBで処置したマウスでは、24日目の血清Mタンパクレベルが対照マウスと比較して(74±66μg/ml)顕著に減少していた(20±19μg/ml、平均値±SD)。さらに、2D7-DBでの処置により、散在性ARH腫瘍を有するマウスの生存が顕著に長期化した(図5B)。これらのマウスの体重によって示される、2D7-DBによる処置に関連した毒性は見られなかった。これらの結果から、2D7-DBはインビボにおいて抗腫瘍活性を与えることが示唆される。
【0087】
[参考例5]2D7-DBの抗腫瘍機序
低分子型HLA抗体(2D7-DB)の抗腫瘍機序については、HLA クラスIAに結合した2D7DBが細胞内アクチン骨格系を破壊することで引き起こされている可能性が強く示唆されている(特許文献1)。今回本発明者らは、2D7-DBの抗腫瘍機序についてさらに検討を加えた。まず、各種シグナル伝達阻害薬を用いて60分間前処理をし、2D7-DB (1μg/mL)添加後における骨髄腫細胞株RPMI 8226の細胞傷害に及ぼす影響について検討を行った (図6A)。Caspase阻害剤 (z-VAD-fmk, 5μM)やMAPキナーゼ阻害剤 (PD 98059, 10μM)、PI-3キナーゼ阻害剤 (Wortmannin, 10μM)については、2D7-DBの細胞傷害活性に対する作用は認められなかった。しかしながら、Rho GTPaseの阻害剤であるClostridium difficile toxin B (TcdB, 10 pM)やアクチン重合阻害剤であるcytochalasin D (1μM)とlatrunculin A (0.1μM)は2D7-DBの細胞傷害活性をほぼ完全に抑制した。これらの結果から、2D7-DBによる細胞傷害にはRho GTPaseの活性を介したアクチン重合が関与していることが示唆された。
さらに、細胞のアクチン染色を行い、2D7-DB(緑)とアクチン(赤)との局在について検討した(図6B)。骨髄腫細胞株ARH-77細胞を2D7-DB (1μg/mL)で処理した10分後には、細胞質におけるアクチンの著明な凝集が観察され、一部の細胞においては細胞傷害によりアクチンが流出していた。しかしながら、アクチン重合阻害剤latrunculin A (0.1μM)で30分間前処理した場合には、2D7-DBを添加した後もアクチンは細胞周囲に局在したままで凝集は認められなかった。一方,HLA-Aを発現している骨髄ストローマ細胞株KM102においては、2D7-DBによるアクチン凝集は認められず、2D7-DBによるアクチン凝集作用と細胞傷害活性は骨髄腫細胞やリンパ系細胞に特異的なものであり、2D7-DBは骨髄腫や自己免疫疾患などに有用である一方で、正常組織に対する影響は少ないものと考えられた。
次に,2D7-DBの細胞傷害に関わるシグナル伝達についてWestern blotにより検討した(図7ABC)。KM102細胞においては、2D7-DB(1μg/mL)で刺激した後にFAKやAkt、 ERKのリン酸化が検出され、これらのシグナル伝達経路が活性化されたものと考えられた。一方、RPMI 8226細胞においては、これらのシグナル伝達経路の活性化は認められず、2D7-DBの刺激は細胞種によって異なっていることが明らかとなった。また、一般にFAK、Akt、ERKは細胞生存に関与するシグナル経路であることから、2D7-DBはKM102細胞に対しては細胞増殖に作用する可能性が考えられた。
最後に、2D7-DBによるアポトーシス誘導の有無について検討した (図7D)。RPMI 8226を2D7-DBで刺激した場合には、アポトーシスの特徴であるcaspaseの活性化やPARPの断片化などは認められなかった。このことより,2D7-DBによる細胞傷害はいわゆるアポトーシスとは異なり、アクチン凝集という機序によるものと考えられた。
インターフェロンはアポトーシスを誘導することにより細胞傷害作用を発揮するものと考えられており,この過程にはJak-StatやMAPキナーゼ,Pl3キナーゼなどのシグナル伝達分子が関与していると報告されている(文献J Interferon Cytokine Res. 2005 Dec;25(12):799-810. Apoptosis. 2003 Jun;8(3):237-49.)。一方,2D7-DBはアクチン凝集により標的細胞を破壊することから,図7に示したように,これらのシグナル伝達に関わる分子の活性化は生じていないことが確認された。このように,2D7-DBとインターフェロンにより誘導される細胞傷害機序は異なっており,これらの併用療法においては増強効果が認められたものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、抗HLAクラスI抗体を含む新規医薬組成物が提供された。本発明の医薬組成物は、抗HLAクラスI抗体とインターフェロンの併用により、細胞死誘導等の抗HLAクラスI抗体の作用を強く増強する。本発明の医薬組成物は、抗HLAクラスI抗体の作用による一段と高い薬効を発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロン及び抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物。
【請求項2】
インターフェロンと併用することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物。
【請求項3】
インターフェロンと同時に投与することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物。
【請求項4】
インターフェロン投与後に投与することを特徴とする、抗HLAクラスI抗体を有効成分とする医薬組成物。
【請求項5】
抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、請求項1から4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
インターフェロン及び抗HLAクラスI抗体を有効成分とする細胞死誘導剤。
【請求項8】
抗HLAクラスI抗体が抗HLA-A抗体である、請求項7に記載の細胞死誘導剤。
【請求項9】
抗HLAクラスI抗体が低分子化抗体である、請求項7または8に記載の細胞死誘導剤。
【請求項10】
抗HLAクラスI抗体と併用することを特徴とする、インターフェロンを含有する医薬組成物。
【請求項11】
抗HLAクラスI抗体と同時に投与することを特徴とする、インターフェロンを含有する医薬組成物。
【請求項12】
抗HLAクラスI抗体投与前に投与することを特徴とする、インターフェロンを含有する医薬組成物。
【請求項13】
インターフェロンを有効成分とする、抗HLAクラスI抗体の作用増強剤。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−176972(P2012−176972A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110590(P2012−110590)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2007−516330(P2007−516330)の分割
【原出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】