説明

抗IgEワクチン

【課題】IgE分子のεH鎖のFc部分から誘導される抗原性ペプチドを、IgE介在性アレルギーの治療及び予防のワクチンとして使用するための組成物及び方法の提供。
【解決手段】IgE分子のCH3ドメインのフラグメントを含む1以上の抗原性ペプチドを含む免疫原性組成物であって、前記1以上の抗原性ペプチドが特定の配列番号のフラグメントのアミノ酸配列を含み、動物に投与したときアナフィラキシーを起こさない抗IgE免疫応答を誘導するものである、前記免疫原性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgE分子のε重鎖のFc部分から誘導される抗原性ペプチドの、IgE介在アレルギー性障害の治療及び予防のワクチンとしての使用についての組成物及び方法に関する。特に、本発明は、所望により異種担体タンパク質にカップルしたIgE分子のCH3ドメイン又はCH3−CH4ドメイン連結部から誘導される少なくとも1つの抗原性ペプチドを含んでなる組成物に関する。本発明の組成物はまたアジュバントを含む場合がある。本発明の組成物は抗IgE抗体を誘発し、それは血清及び他の体液中の可溶性(フリー)IgEに結合するが、受容体結合性IgEとは架橋結合しない。さらに本発明は、IgE介在性アレルギー障害の治療又は予防のために動物、好ましくは哺乳動物、及び最も好ましくはヒトへ本発明の組成物を投与する方法と、IgE介在性アレルギー障害の治療についてワクチン及び他の治療法を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫介在性アレルギー(過敏性)反応は、アレルギー症状の発現につながる根底の機序により、4つのタイプ(I〜IV)に分類される。I型アレルギー反応は、ヒスタミンのような血管作用物質のマスト細胞及び好塩基球からのIgE介在性放出により特徴づけられる。これら物質の放出と後続するアレルギー症状の表出は、アレルゲンに結合したIgEがマスト細胞及び好塩基球の表面にあるその受容体に架橋結合することによって開始される。
【0003】
IgE抗体は、ジスルフィド結合により「Y」形の配置でつながった2つの同一なH(重)鎖と2つの同一なL(軽)鎖からなる複合分子である。各L鎖は1つの定常ドメイン(CL)に連結した1つの可変(VL)ドメインからなり、各H鎖は1つの可変(VH)ドメインと4つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、及びCH4;それぞれCε1、Cε2、Cε3、及びCε4としても知られる)からなる。IgE抗体の2つのアームはIgE抗体が特異抗原(アレルゲン)に結合する部位を含み、各アームはFab(抗原結合フラグメント)フラグメントと言われる。IgE抗体のテールは、抗体のFabフラグメントから分離されたときに適切な実験条件下で結晶を形成し得るので、Fc(結晶性フラグメント)と呼ばれる。IgE抗体のFcフラグメントはCε2、Cε3及びCε4ドメインからなり、IgE抗体の生物学的に活性な構造(例、受容体に結合する部位)を含有する。
【0004】
IgE抗体の産生には、3つの細胞;抗原提示細胞(APC)、Tリンパ球(ヘルパーT細胞;Th)及び抗体産生細胞(Bリンパ球;B細胞)間の相互作用及び協調作用が必要とされる。異物であるアレルゲンが(例えば、環境アレルゲンの吸入、ある食物の摂取、又は皮膚を介して)被検者の体内に初めて導入されると、このアレルゲンはAPC(例、マクロファージ)により取り込まれ、次いでAPCはアレルゲンより小さい分子(エピトープ)に消化及び処理する。これらフラグメントは、主要組織適合性複合タンパク質(MHC)として知られる特定の分子と結びついて、APCの表面上に提示される。APCの表面に提示されたアレルゲンフラグメント/MHC複合体は、特定のTリンパ球の表面にある受容体により認識されて結合される。この認識及び結合の反応がTリンパ球の活性化と、後続するインターロイキン−4(IL−4)のようなサイトカインの発現及び分泌につながる。これらサイトカインは、問題となるアレルゲンに特異的なB細胞(即ち、このアレルゲンに結合し得る免疫グロブリン受容体をその表面上に発現するB細胞)の増殖、クローン増大及び分化を誘発し、究極的にこれらB細胞からのIgE抗体の産生をもたらす。活性化されたTリンパ球とIgE産生B細胞の一部は、最終的に、記憶T細胞及び記憶B細胞と呼ばれる細胞のプールに決定付けられる。これは、後にこのアレルゲンに曝されたときにアレルゲンをより速やかに認識することができる。
【0005】
I型アレルギー反応に罹患している個体では、2回目のアレルゲン曝露により、IgE産生に必要な3細胞相互作用に記憶B及びT細胞が関与することの結果として、このアレルゲンに特異的な高レベルのIgE抗体が産生される。2回目の抗原曝露の間に産生された高レベルのIgE抗体は、アレルゲン結合性IgEによりマスト細胞及び好塩基球上のIgE受容体と架橋結合し、次いでそれがこれら細胞の活性化と、I型アレルギー疾患の臨床症状の原因となる薬理学的メディエーターの放出につながる。
【0006】
IgEに対して異なるアフィニティーを有する2種の受容体が同定され、特徴づけられている。高アフィニティー受容体(FcεRI)はマスト細胞及び好塩基球の表面上に発現されている。低アフィニティー受容体(FcεRII/CD23)は、B細胞、T細胞、マクロファージ、好酸球及びランゲルハンス細胞を含む、多くの細胞型で発現している。高アフィニティーIgE受容体は3つのサブユニット(α、β及びγ鎖)からなる。いくつかの研究は、IgEの結合に関与するのはα鎖だけであり、β及びγ鎖(これらは膜貫通タンパク質か細胞質タンパク質である)はシグナル伝達反応に必要であることを示している。IgEがマスト細胞及び好塩基球上のFcεRIに結合するのに必要なIgE構造を同定することは、IgE介在性アレルギーの治療又は予防の戦略を設計するのにきわめて重要である。例えば、IgE受容体結合部位の解明が、受容体を担う細胞にIgEが in vivo で結合することを阻止するペプチド又は低分子を同定することにつながる可能性がある。
【0007】
この15年間にわたり、IgE上のFcεRI結合部位を決定するために多種多様なアプローチが利用されてきた。これらのアプローチは5つの異なるカテゴリーへ分類され得る。第一のアプローチでは、IgE分子のFc部分の一部に対応する低ペプチドが産生され、IgEをその受容体から阻害するそれらの能力について分析された。例えば、Nakamura et al., EP0263655(1988年4月13日公開)、Burt et al., 1987, European Journal Immunology, 17: 437-440; Helm et al., 1988, Nature 331: 180-183; Helm et al., 1989, PNAS 86: 9465-9469; Vercelli et al., 1989, Nature 338: 649-651; Nio et al., 1990, Peptide Chemistry, 2: 203-208; Nio et al., 1993, FEBS Lett. 319: 225-228; 及び Nio et al., 1992 FEBS Lett. 314: 229-231 を参照のこと。これらの研究に記載されているペプチドの多くはIgEのその受容体への結合を阻害することが示されたものの、IgE結合の原因となる配列については試験ごとに異なっていた。
【0008】
Helm et al.(1988, Nature 331: 180-183)は、IgEのCH2及びCH3ドメインの間にある連結部に広がる75個のアミノ酸のペプチドを同定し、このペプチドがネーティブなIgE分子に近いアフィニティーでIgE受容体に結合することを示した。一方、Basu et al.(1993, Journal of Biological Chemistry 268: 13118-13127)は、IgE分子から様々なフラグメントを発現させ、CH3とCH4ドメインの両方を含有するフラグメントだけがIgEに結合することができて、CH2ドメインは結合に必要でないことを見出した。Vangelista et al.(1999, Journal of Clinical Investigation 103: 1571-1578)は、IgEのCH3ドメインだけを発現させ、このドメインだけでIgE受容体に結合し、IgEのその受容体への結合を防ぐことができることを示した。Basu et al. とVangelista et al.の結果は一致せず、上記に引用した Helm et al.の結果とも矛盾する。
【0009】
IgE上のFcRI結合部位を同定する第二のアプローチでは、CH2ドメイン、CH3ドメイン又はCH4ドメインの一部に対応するペプチドに対するポリクローナル抗体が産生され、IgE上の受容体結合部位を探すのに使用された(Robertson et al. 1988, Molecular Immunol. 25: 103-118)。Robertson et al.は、CH4ドメインに由来するペプチドにより規定されるアミノ酸残基は受容体結合に関わっていそうにないが、IgEのCH3ドメインに由来するペプチドにより規定されるアミノ酸残基はIgE受容体結合部位(アミノ酸387−401)に最も隣接している可能性が高いと結論した。しかしながら、抗CH3ペプチド抗体がIgE負荷したマスト細胞からヒスタミンを放出させたので、このことは、CH3ペプチドにより規定されるアミノ酸では真のIgE受容体結合部位が明確にされず、抗CH3ペプチド抗体がアナフィラキシーを引き起こす可能性があることを示した。
【0010】
IgE上のFcεRI結合部位を同定する第三のアプローチでは、数名の研究者が、受容体結合に関わるアミノ酸残基を同定しようとして、IgEの突然変異体を産生した(例えば、Schwarzbaum et al., 1989, European Journal of Immunology 19: 1015-1023; Weetall et al., 1990, Journal of Immunology 145: 3849-3854; 及び Presta et al., 1994, Journal of Biological Chemistry 269: 26368-26373 を参照のこと)。Schwartzbaum et al.は、CH4ドメイン内のアミノ酸残基442でプロリンをヒスチジンに点突然変異させたマウスIgE抗体がIgE受容体に対して2倍減少したアフィニティーを有することを示した。Schwartzbaum et al.は、IgE抗体のCH4ドメインがIgEのその受容体への結合に関わっていると結論したが、Schwartzbaum の結論は、マウスIgEのその高アフィニティー受容体への結合にはIgE抗体のCH4ドメインではなく、CH2及びCH3ドメインの部分が関わるとする Weetall et al.の結論と矛盾する。さらに、Schwartzbaum et al.の結論は、FcεRIへの結合に重要なIgE抗体のアミノ酸残基はCH3ドメイン内に位置するというPresta et al.の結論とも矛盾する。
【0011】
IgE上のFcεRI結合部位を同定する第四のアプローチでは、キメラIgE分子が構築され、FcεRIへ結合する能力について分析された。Weetall et al., 同上は、マウスIgE−ヒトIgGのキメラ分子系列を構築し、IgE受容体への結合性を試験した。 Weetall et al., 同上は、受容体結合にCH4ドメインは参画せず、CH2とCH3ドメインがいずれもマスト細胞上の高アフィニティー受容体への結合に必要であると結論した。別の研究で、Nissim et al.(1993, Journal of Immunol 150: 1365-1374)は、 ヒトIgE−マウスIgEのキメラ系列がFcεRIへ結合する能力について試験し、FcεRIへの結合にはCH3ドメインだけが必要とされると結論した。Nissim et al.による結論は、IgEのCH3ドメインだけがFcεRIへ結合するという Vangelista et al.による結論を確証するが、Weetall et al.と Robertson et al.の結論とは矛盾する。
【0012】
Presta et al., 同上は、CH2をヒトIgE由来のCH3で置換したキメラのヒトIgGを産生した。受容体結合について試験すると、このキメラはFcεRIへ結合したものの、ネーティブIgEに比較して4倍減少したアフィニティーであった。Presta et al.の結果は、Nissim et al.の結果の確証になるようにみえるが、上記に引用した、Weetall et al., Helm et al., 及び Basu et al.,のそれとは矛盾する。IgEのその受容体への結合に必須である正確なアミノ酸残基を明確にしようとするさらなる試みにおいて、Presta et al.は、ヒトIgEのCH2−CH3ヒンジ部とCH3ドメイン由来の3つのループに対応する特定のアミノ酸残基をヒトIgG内部の類似位置へ挿入し、この突然変異体をIgGELと呼んだ。残念ながら、受容体結合性についてこのIgGEL変異体を試験すると、ネーティブなIgE、又は完全長のCH3ドメインが完全長のCH2ドメインに置換したIgGに比較して、ごく弱い結合しか示さなかった。
【0013】
IgE上のFcεRI結合部位を同定する第五のアプローチでは、モノクローナル抗体が開発され、FcεRIに対するIgE結合を阻止する能力について分析された。例えば、Del Prado et al., 1991, Molecular immunology 28: 839-844; Keegan et al., 1991, Molecular Immunology 28: 1149-1154; Hook et al., 1991, Molecular Immunology 28: 631-639; Takemoto et al., 1994, Microbiology and Immunology 38: 63-71; 及び Baniyash et al., 1988, Molecular Immunology 25: 705-711 を参照のこと。多くのモノクローナル抗体が開発されてきたが、多くの場合、これらモノクローナル抗体により認識されるアミノ酸配列が同定されてなかったり、又は同定され得ないために、真のIgE受容体結合部位についてほとんど情報を提供してこなかった。さらに、開発されたモノクローナル抗体は、受容体結合に直接関わるIgE残基の結合及びマスキングによるのではなく、立体障害やIgE分子内の重大なコンホメーション変化の誘導によりIgEがその受容体へ結合することを阻止する可能性がある。
【0014】
上記の論考から、IgE上の受容体結合部位を同定するために設計された種々のアプローチが一致しない結果を生んだことが明らかである。受容体結合に必須なIgEのアミノ酸残基を同定することの困難さは、受容体へ結合するために使用されるIgE上の部位が、合成ペプチドにより模倣され得るような、直線状のアミノ酸配列ではないかもしれないという可能性により、さらに複雑なものになり得る。むしろ、結合部位は、IgEタンパク質配列内の離れたところにあって、IgEのネーティブな三次元構造においてのみごく近傍に集結される、多数のアミノ酸により形成される配座(コンホメーション)決定基であるのかもしれない。IgE変異体、IgEキメラ、及びモノクローナル抗IgE抗体を用いた数々の試験は、結合部位が配座決定基であることを強く示唆する。
【0015】
現在では、IgE介在性アレルギー反応は、マスト細胞及び好塩基球から放出される血管作用物質の効果を打ち消すことによって、アレルギー反応に関連した症状を軽減しようとする抗ヒスタミン剤やコルチコステロイド剤のような薬物で治療される。高用量の抗ヒスタミン剤及びコルチコステロイド剤には、腎毒性や胃腸毒性のような重篤な副作用がある。従って、I型アレルギー反応を治療する他の方法が求められている。
【0016】
I型アレルギー障害を治療する1つのアプローチは、血清中の可溶性(フリー)IgEと反応し、IgEがマスト細胞及び好塩基球上のその受容体に結合することを阻止し、受容体結合性IgEとは結合しない(即ち、アナフィラキシーを起こさない)モノクローナル抗体を産生することである。そのような2種類のモノクローナル抗体(rhuMab E25とCGP56901)がIgE介在性アレルギー反応の治療を目的とする臨床開発の後期段階にある(Chang, T. W., 2000, Nature Biotechnology 18: 157-62 を参照のこと)。これらモノクローナル抗体により認識されるIgE分子のアミノ酸残基の同一性については知られてなく、これらモノクローナル抗体はIgE上の配座決定基を認識すると仮定されている。
【0017】
治療用抗IgEモノクローナル抗体を用いた臨床治験の初期結果は、これらの治療法がアトピー性アレルギーの治療に有効であることを示唆しているが、モノクローナル抗体をアレルギーの長期治療に使用することにはいくつかの重大な短所がある。第一に、これらモノクローナル抗体は元来ネズミにおいて産生されたので、マウスの配列をヒトのコンセンサスIgG配列に置き換えるように再処理しなければならなかった(Presta et al., 1993, The Journal of Immunology 151: 2623-2632)。この「ヒト化」法によりヒトの配列を95%含有するモノクローナル抗体が産生されたが、マウス起源の配列はいくつか残っている。これら抗IgE抗体を用いた治療はこの抗体を長期間にわたりしばしば投与することを必要とするので、治療されたアレルギー患者では、この治療用抗体の内部に依然として残るマウスの配列に対する抗体反応を生じる可能性がある。治療用抗IgEに対する抗体の誘発は、少なくとも一部の患者において、これら抗IgE抗体の治療効果を無効にすることだろう。第二に、これら抗体を用いた治療のコストは、治療効果を誘発するのにこれらモノクローナル抗体の高用量が必要とされるので、非常に高くなるだろう。さらに、これらの抗体が投与される頻度と投与経路は不便なものである。IgE介在性障害の治療にとってより魅力的な戦略は、抗IgE抗体の産生を誘発するペプチドを投与することである。
【0018】
IgE介在性アレルギー反応にとって最も有望な治療の1つは、内因性IgE上の適切なアナフィラキシー非産生エピトープに対する能動免疫化である。Stanworth et al.(米国特許第5,601,821号)は、異種担体タンパク質がカップルした、ヒトIgEのCH4ドメインに由来するペプチドの、アレルギーワクチンとしての使用に関する戦略について説明した。しかしながら、このペプチドは、可溶性ネーティブIgEと反応する抗体の産生を誘発することが示されていない。さらに、Hellman(米国特許第5,653,980号)は、異種担体タンパク質に融合した完全長のCH2−CH3ドメイン(約220個のアミノ酸の長さ)に基づいた、抗IgEワクチン組成物を提唱した。しかしながら、Hellman により提唱されたこの抗IgEワクチン組成物により誘発される抗体は、IgE分子のCH2及びCH3ドメインのある部分に対する抗体がマスト細胞及び好塩基球の表面にあるIgE受容体と架橋結合し、アナフィラキシーのメディエーターの産生をもたらすので、アナフィラキシーを生じる可能性がきわめて高い(例えば、Stadler et al., 1993, Int. Arch. Allergy and Immunology 102: 121-126 を参照のこと)。従って、IgE介在性アレルギー反応を治療するための、アナフィラキシー抗体を誘発しないワクチンが依然求められている。
【0019】
アナフィラキシーの誘発に関わる有意義な懸念から、動物へ投与されたときに抗IgEポリクローナル抗体の産生を誘発し得るミモトープ(mimotope)からなる、I型アレルギー障害の治療に対するもう1つのアプローチが開発された(例えば、Rudolf et al., 1998, Journal of Immunology 160: 3315-3321 を参照のこと)。Kricek et al.(国際公開WO97/31948号)は、ファージディスプレイされたペプチドライブラリーをモノクローナル抗体のBSWI7でスクリーニングして、IgE受容体結合部位のコンホメーションを模倣し得るペプチドミモトープを同定した。これらのミモトープは、フリーのネーティブIgEと反応するが受容体結合性IgEとは反応せず、IgEがその受容体に結合することを阻止するポリクローナル抗体を誘発するために使用し得るだろう。Kricek et al.により、IgE分子のいかなる部分とも相同ではなく、従って、本発明に開示されるペプチドとは異なるペプチド・ミモトープが開示された。
【0020】
抗IgEワクチンの開発が直面する主要な難題は、アレルギーの被検者を免疫化し、アナフィラキシー非産生ポリクローナル抗体(即ち、受容体結合性IgEには結合しないポリクローナル抗IgE抗体)を誘発するために安全に使用し得る、アナフィラキシー非産生IgE決定基を表出するアミノ酸に関する正確な情報が不足していることである。本発明のペプチド組成物は、アナフィラキシー非産生であるように選択される;即ち、このペプチド組成物は、マスト細胞又は好塩基球に結合したIgEの架橋結合を引き起こし得る抗IgE抗体の産生を生じない。従って、本発明のペプチドは優れた安全性プロフィールを有し、完全長のCH2−CH3ドメインに基づいて開示されたワクチンから配列組成により差別化される。
【0021】
IgE介在性アレルギーの治療に対して意図される療法の安全性及び効力は、通常マウス、ラット及びイヌのような動物モデルで評価される。喘息、アトピー性皮膚炎及び食物アレルギーのようないくつかのタイプのIgE介在性アレルギーに対し、様々なマウス及びラットのモデルが開発されてきた(Xin-Min Li, et al., J. Allergy Clin. Immunol 1999, 103: 206-214, Xui-Min et al., J. Allergy Clin. Immunol 2001, 107: 693-702)。これらのモデルは低分子をベースとする治療モダリティの評価に有用であるが、それらはワクチンをベースとする治療の評価に適してはいない。これは、非げっ歯類の種、例えばイヌに対するワクチンの開発に使用されるIgE由来ペプチドエピトープがマウス及びラットのそれとは有意に異なり得るからである。天然に存在するイヌのアレルギーモデルは利用可能である(例えば、Ermel RW, et al., Laboratory Animal Science 1997, 47: 40-48)が、これらのモデルは開発するのに長い時間がかかり、一回にごく限られた数の動物しか得られない。さらに、これらのイヌは、いったんワクチンの試験に使用すると、次ぎからの試験には使用し得ない。イヌはノミアレルゲンのようなアレルゲンに実験的に感作し得るが、上記に論じた制限がやはりあてはまる(例えば、McDermott, MJ, et al., Molecular Immunology, 2000, 37: 361-375)。従って、所望されるターゲット種におけるアレルギーの治療のためにワクチン及び他の治療法を迅速に評価することを可能にするために、イヌにおいて高レベルのIgEとI型過敏症の臨床徴候を誘発するための適切な方法が求められている。
【0022】
リシンは、トウゴマに見出されるレクチンで、多種多様な抗原に対して向けられたIgE産生を強めることが見出されている。例えば、抗原とともにリシンを投与すると、本来はIgEが低いラットにおいてIgEの産生を高めることができる(例えば、Underwood, SL et al.; Immunology, 1995; 85: 256-61, Underwood, SL et al.; Int Arch Allergy immunol. 1995; 107: 119-21 及びDiaz-Sanchez D. et al.; Immunology, 1991; 72: 297-303)。いくつかの研究は、リシンが、活性化CD8+Tリンパ球の集団を選好的に阻害することによってIgE応答を高めることを示した。これらCD8+細胞は、Bリンパ球にIgEを発現させるクラススイッチシグナルを提供する、CD4+リンパ球により放出されるTh2サイトカイン(IL−4、IL−10及びIL−5)をダウンレギュレートする逆調節サイトカイン(例、γ−インターフェロン)を発現すると考えられている(Noble A et al.; Immunology 1993, 80: 326 及びDiaz-Sanchez D. et al.; Immunology, 1993; 78: 226-236)。これまでの研究はまた、免疫抑制性のCD8+Tリンパ球の養子移入を受けたラットでは、ハチ毒ホスホリパーゼA2に対するIgE応答が90%減少したことを示している(Diaz-Sanchez D. et al.; Immunology, 1993; 78: 226-236)。CD4+細胞に比較すると、この調節性CD8+Tリンパ球の集団は、リシンレクチンに対する高アフィニティー受容体を有する。このレクチンが活性化細胞へ入った後に、細胞のタンパク質合成が阻害され、細胞死をもたらす。抗原及びリシンで免疫化したラットは、免疫化から7〜21日後に起こるCD8+Tリンパ球の40%減少により、CD4/CD8比の劇的な増加を示す(Diaz-Sanchez D. et al.; Immunology, 1993; 78: 226-236)。
【0023】
このように、アレルギーモデルの開発を促進して迅速化するには、アレルゲン及びリシンへの同時曝露の後で正常なイヌにおいて高レベルのIgEを誘発することとアレルギーの臨床徴候を同時誘発することについて、本発明の方法において提供されるようなニーズが存在する。本方法では、すぐに入手できる正常なイヌを利用し、比較的短い時間にイヌの大部分を感作させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、IgE分子のεH鎖のFc部分から誘導される抗原性ペプチドを、IgE介在性アレルギーの治療及び予防のワクチンとして使用するための組成物及び方法を提供する。特に、本発明は、IgE分子のCH3ドメインから誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原量を含んでなる、IgE介在性アレルギー障害の治療及び予防用の組成物を提供する。
【0025】
好ましくは、本発明の組成物は、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原量を含む。さらに好ましい本発明の組成物は、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原量を含む。図10〜16は、そのようなヒトCH3/CH4ペプチド配列を図示する。
【0026】
この抗原性ペプチドは、直接投与によるか、又は体細胞遺伝子治療を使用する「プロドラッグ」として間接的に供給され得る。
本発明はまた、IgE分子のCH3ドメインから誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量と1つ又はそれ以上の製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物を提供する。1つの態様では、本発明の医薬組成物は、IgE分子のCH3ドメインから誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量と1つ又はそれ以上の製剤的に許容される担体を含む。もう1つの態様では、本発明の医薬組成物は、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部から誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量と1つ又はそれ以上の製剤的に許容される担体を含む。
【0027】
特定の態様では、本発明の医薬組成物は、1つ又はそれ以上の医薬担体と、IgE分子のCH3ドメインから誘導される抗原性ペプチドと異種担体タンパク質を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質の免疫原的に有効な量を含む。もう1つの特定の態様では、本発明の医薬組成物は、1つ又はそれ以上の医薬担体と、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部から誘導される抗原性ペプチドと異種担体タンパク質を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質の免疫原的に有効な量を含む。
【0028】
好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、1つ又はそれ以上の医薬担体と、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量を含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、1つ又はそれ以上の医薬担体と、異種担体タンパク質にカップルした、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7のアミノ酸配列を含んでなる抗原性融合タンパク質を含む。
【0029】
さらに好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、1つ又はそれ以上の医薬担体と、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量を含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、1つ又はそれ以上の医薬担体と、異種担体タンパク質にカップルした、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を含んでなる抗原性融合タンパク質を含む。
【0030】
本発明はまた、IgE分子のCH3ドメインから誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量、製剤的に許容される担体、及びアジュバントを含んでなる医薬組成物を提供する。アジュバントには、抗原に対する免疫応答を増強し得る化合物が含まれる。有効であり得るアジュバントの例には、限定しないが、水酸化アルミニウム、モノリン脂質A(MPLA)、アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン、単純免疫刺激オリゴヌクレオチド、IL−12、IL−2又はIL−1のようなサイトカイン、サポニン、及びコレラトキシン、易熱性トキシンのような細菌性トキシン、及びそれらの遺伝学的に変化させた誘導体が含まれる。
【0031】
1つの態様では、本発明の医薬組成物は、IgE分子のCH3ドメインから誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量、製剤的に許容される担体、及びアジュバントを含む。もう1つの態様では、本発明の医薬組成物は、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部から誘導される1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量、製剤的に許容される担体、及びアジュバントを含む。もう1つの態様では、本発明の医薬組成物は、医薬担体、アジュバント、及びIgE分子のCH3ドメインから誘導される抗原性ペプチドと異種担体タンパク質を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質の免疫原的に有効な量を含む。さらにもう1つ態様では、本発明の医薬組成物は、医薬担体、アジュバント、及びIgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部から誘導される抗原性ペプチドと異種担体タンパク質を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質の免疫原的に有効な量を含む。
【0032】
好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、医薬担体、アジュバント、及び配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量を含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、医薬担体、アジュバント、及び異種担体タンパク質にカップルした、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質の免疫原的に有効な量を含む。
【0033】
さらに好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、医薬担体、アジュバント、及び配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原的に有効な量を含む。なおもう1つの好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、医薬担体、アジュバント、及び異種担体タンパク質にカップルした、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質の免疫原的に有効な量を含む。
【0034】
本発明はまた、IgE介在性アレルギー障害の治療又は予防のために動物、好ましくは哺乳動物、及び最も好ましくはヒトへ本発明の組成物を投与する方法を提供する。本発明の組成物は、動物、好ましくは伴侶動物(例、イヌ、ネコ、及びウマ)及び家畜(例、ウシ、及びブタ)のような哺乳動物、及び最も好ましくはヒトへ投与されるのに適している。本発明の組成物は、免疫応答、例えばIgE分子に特異性があるポリクローナル抗体の産生を誘発するのに有効な量で投与される。1つの態様では、本発明の組成物が、IgEがその受容体に結合するのに必要なIgE分子のFc部分(即ち、IgE分子のCH3ドメイン)に特異性があるポリクローナル抗体の産生を誘発するのに有効な量で投与される。好ましい態様では、本発明の組成物が、血清及び他の体液中の可溶性(フリー)IgEに結合し、IgEがマスト細胞及び好塩基球の上にあるその高アフィニティー受容体に結合することを防ぎ、受容体結合性IgEとは架橋結合しない抗IgE抗体の産生を誘発するのに有効な量で投与される。従って、本発明の組成物は、IgE介在性アレルギー障害の治療及び予防のためにアナフィラキシーを誘発しないポリクローナル抗体の産生を誘発するのに有効な量で投与される。
【0035】
本発明はまた、抗IgEワクチンの効果をイヌにおいて評価する方法を提供し、前記方法は、イヌにおいて過敏症を誘発するのに十分な量のアレルゲン及びリシンの同時投与によりイヌをこのアレルゲンへ感作させること、次いでこのアレルゲンでチャレンジして、このチャレンジ・アレルゲンに対して生じるイヌの敏感性を観察することを含む。本発明の特定の態様には、アレルゲンがノミアレルゲンであるか、又は回虫アレルゲンのような食物アレルゲンであるものが含まれる。本方法の1つの態様では、過敏症がI型過敏症である。本方法のもう1つの態様では、感作により、過敏症になったイヌにおいて、過敏症になっていないイヌにおいて見出されるよりも高いレベルのIgEが生じる。
【0036】
さらに本発明は、抗IgEワクチンの効果をイヌにおいて評価するためにイヌにおいて高レベルのIgEと過敏症の臨床徴候を誘発する方法を提供し、前記方法は、イヌにおいて過敏症を誘発するのに十分な量のアレルゲン及びリシンの同時投与によりイヌをこのアレルゲンへ感作させること、次いでこのアレルゲンでチャレンジして、このチャレンジ・アレルゲンに対して生じるイヌの敏感性を観察することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、RBSペプチド1〜4(それぞれ、配列番号:1〜4)で免疫化したウサギから得られた血清の、ニュートラビジン(neutravidin)プレート上にコートしたそれぞれのRBSペプチドに対するELISA反応性を示す。
【図2】図2は、RBSペプチド1〜4(それぞれ、配列番号:1〜4)で免疫化したウサギから得られた血清の、完全長のイヌIgEタンパク質に対するELISA反応性を示す。
【図3】図3は、配列番号:1;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図4】図4は、配列番号:2;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図5】図5は、配列番号:3;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図6】図6は、配列番号:4;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図7】図7は、配列番号:5;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図8】図8は、配列番号:6;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図9】図9は、配列番号:7;イヌCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図10】図10は、配列番号:8;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図11】図11は、配列番号:9;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図12】図12は、配列番号:10;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図13】図13は、配列番号:11;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図14】図14は、配列番号:12;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図15】図15は、配列番号:13;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図16】図16は、配列番号:14;ヒトCH3/CH4ペプチド配列を示す。
【図17】図17は、配列番号:15;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図18】図18は、配列番号:16;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図19】図19は、配列番号:17;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図20】図20は、配列番号:18;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図21】図21は、配列番号:19;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図22】図22は、配列番号:20;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図23】図23は、配列番号:21;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図24】図24は、配列番号:22;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図25】図25は、配列番号:23;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図26】図26は、配列番号:24;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図27】図27は、配列番号:25;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図28】図28は、配列番号:26;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図29】図29は、配列番号:27;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【図30】図30は、配列番号:28;イヌCH3/CH4ヌクレオチド配列を示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明は、IgE分子のεH鎖のFc部分から誘導される抗原性ペプチドを、IgE介在性アレルギーの治療及び予防のワクチンとして使用するための組成物及び方法を提供する。特に、本発明は、IgE分子のCH3ドメインから誘導される抗原性ペプチドの免疫原量を含んでなる、IgE介在性アレルギー障害の治療及び予防用の組成物を提供する。好ましくは、本発明の組成物は、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7(図3〜9)のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原量を含む。さらに好ましい本発明の組成物は、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14(図10〜16)のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドの免疫原量を含む。
【0039】
本発明の抗原性ペプチドは、IgE分子のCH3ドメイン又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含み、アナフィラキシーではない、抗IgE抗体の産生を誘発する。本発明はまた、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部のアミノ酸配列を含んでなる抗原性ペプチドを含み、これがアナフィラキシーではない抗IgE抗体を誘発する。特に、本発明の抗原性ペプチドは、血清及び他の体液中の可溶性(フリー)IgEに結合し、IgEがマスト細胞及び好塩基球の上にあるその高アフィニティー受容体に結合することを防ぎ、受容体結合性IgEとは架橋結合しない抗IgE抗体の産生を誘発する。本発明の抗原性ペプチドは、1つ又はそれ以上の異種ペプチドにカップルし得る。本発明の抗原性ペプチドは、直接投与によるか、又は体細胞遺伝子治療を使用する「プロドラッグ」として間接的に供給され得る。
【0040】
1つの態様では、本発明の抗原性ペプチドは、任意種のIgE分子のCH3ドメイン全体を含む。もう1つの態様では、本発明の抗原性ペプチドは任意種のIgE分子のCH3ドメインのフラグメントを含み、ここでこのフラグメントは、少なくとも5個のアミノ酸残基の長さ、好ましくは少なくとも10個のアミノ酸残基の長さ、より好ましくは少なくとも15個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも20個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも25個のアミノ酸残基の長さ、又は少なくとも30個のアミノ酸残基の長さである。好ましい態様では、本発明の抗原性ペプチドは、28〜31個のアミノ酸残基である、IgE分子のCH3ドメインのフラグメントのアミノ酸配列を含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の抗原性ペプチドは、21個のアミノ酸残基、22個のアミノ酸残基、23個のアミノ酸残基、24個のアミノ酸残基、又は25個のアミノ酸残基により分離される2個のシステインアミノ酸残基を有さない、IgE分子のCH3ドメインのフラグメントのアミノ酸配列を含む。特定の態様では、本発明の抗原性ペプチドは、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントを含み、ここでこのフラグメントは、少なくとも5個のアミノ酸残基の長さ、好ましくは少なくとも10個のアミノ酸残基の長さ、より好ましくは少なくとも15個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも20個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも25個のアミノ酸残基の長さ、又は少なくとも30個のアミノ酸残基の長さである。
【0041】
好ましい態様では、本発明の抗原性ペプチドは、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7(図3〜9)のアミノ酸配列を含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の抗原性ペプチドは、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14(図10〜16)のアミノ酸配列を含む。
【0042】
本発明はまた、抗原性ペプチドと異種担体タンパク質を含んでなる抗原性融合タンパク質を提供する。特定の態様では、抗原性融合タンパク質は、IgE分子のCH3ドメイン全体と異種担体タンパク質を含む。もう1つの特定の態様では、抗原性融合タンパク質は、異種担体タンパク質にカップルしたIgE分子のフラグメントを含み、ここでこのCH3ドメインのフラグメントは、少なくとも5個のアミノ酸残基の長さ、好ましくは少なくとも10個のアミノ酸残基の長さ、より好ましくは少なくとも15個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも20個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも25個のアミノ酸残基の長さ、又は少なくとも30個のアミノ酸残基の長さである。もう1つの態様では、本発明の抗原性融合タンパク質は、異種担体タンパク質にカップルした、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントを含む。好ましい態様では、本発明の抗原性融合タンパク質は、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7のアミノ酸配列を含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の抗原性融合タンパク質は、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を含む。
【0043】
本発明はまた、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換、付加又は欠失が導入された、IgE分子のCH3ドメインから誘導されるアミノ酸配列を含んでなる抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を提供する。当業者に周知の標準技術により突然変異を導入し得る。
【0044】
例えば、1つ又はそれ以上のアミノ酸の突然変異を生じるヌクレオチドレベルでの1つ又はそれ以上の突然変異は、部位特異的突然変異誘発又はPCR介在性突然変異誘発により導入し得る。好ましくは、1つ又はそれ以上の予測される非必須アミノ酸残基において保守的アミノ酸置換がなされる。「保守的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基により置換されることである。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷の極性側鎖(例、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分岐側鎖(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族の側鎖(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。他のやり方では、飽和突然変異誘発のように、コーディング配列のあらゆる部分に無作為に突然変異を導入し得て、生成した突然変異体は、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE抗体を誘発する能力についてスクリーニングし得る。
【0045】
本発明はまた、アナフィラキシーを誘発しない医薬組成物を投与することを含んでなる、動物、好ましくは哺乳動物、及び最も好ましくはヒトにおいてIgE介在性アレルギー障害を治療するか又は予防する方法を提供する。本発明の方法により投与される医薬組成物は、IgE分子のCH3ドメインから誘導される抗原性ペプチドを包含する。本発明の方法により投与される医薬組成物には:(i)IgE分子のCH3ドメイン又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる組換え抗原性ペプチド;(ii)IgE分子のCH3ドメイン又はそのフラグメントのアミノ酸配列と異種担体タンパク質を含んでなる、組換え抗原性融合タンパク質;(iii)IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる組換え抗原性ペプチド;(iv)IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる組換え抗原性融合タンパク質;(v)IgE分子のCH3ドメイン又はそのフラグメントのアミノ酸配列を有する抗原性ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなるプラスミド組成物;(vi)IgE分子のCH3ドメイン又はそのフラグメントのアミノ酸配列と異種担体タンパク質を含んでなる抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んでなるプラスミド組成物;(vii)IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を有する抗原性ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなるプラスミド組成物;及び(viii)IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んでなるプラスミド組成物が含まれる。
【0046】
1つの態様では、本発明の医薬組成物は、IgE分子のCH3ドメイン全体のアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含む。もう1つの態様では、本発明の抗原性ペプチドは、IgE分子のCH3ドメインのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含み、ここでこのフラグメントは、少なくとも5個のアミノ酸残基の長さ、好ましくは少なくとも10個のアミノ酸残基の長さ、より好ましくは少なくとも15個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも20個のアミノ酸残基の長さ、少なくとも25個のアミノ酸残基の長さ、又は少なくとも30個のアミノ酸残基の長さである。好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、28〜31個のアミノ酸残基である、IgE分子のCH3ドメインのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる、1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含む。もう1つの好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、21個のアミノ酸残基、22個のアミノ酸残基、23個のアミノ酸残基、24個のアミノ酸残基、又は25個のアミノ酸残基により分離される2個のシステインアミノ酸残基を有さない、IgE分子のCH3ドメインのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる、1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含む。これらの態様によれば、本発明の医薬組成物はさらにアジュバントを含む。
【0047】
特定の態様では、本発明の医薬組成物は、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる1つ又はそれ以上の抗原性ペプチドを含む。この態様によれば、この医薬組成物はさらにアジュバントを含む場合がある。好ましくは、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる抗原性ペプチドは28〜31個のアミノ酸残基である。
【0048】
本発明はまた、1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質を含んでなる医薬組成物を提供する。特定の態様では、本発明の医薬組成物は、本発明の抗原性ペプチドと異種担体タンパク質を含んでなる、1つ又はそれ以上の抗原性融合タンパク質を含む。この態様によれば、この医薬組成物はさらにアジュバントを含む場合がある。
【0049】
本明細書で使用されるように、「異種担体タンパク質」という用語は、本発明の組成物を受けている生物種に見出されるタンパク質への高い相同性を有さず、免疫応答を誘発するタンパク質を意味する。タンパク質は、2種のアミノ酸配列の比較に利用される既知の数学的アルゴリズムにより決定されるように、あるタンパク質に対して少なくとも75%同一、より好ましくは少なくとも85%同一、又は少なくとも90%同一である場合、高い相同性を有する(例えば、Karlin and Altschul, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-2268; Karlin and Altschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877; Torellis and Robotti, 1994, Comput. Appl. Biosci. 10: 3-5; 及びPearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 2444-8 を参照のこと)。好ましくは、2種のアミノ酸配列の同一性比率は、XBLASTプログラム(スコア=50、語長=3)を用いるBLASTタンパク質検索により決定される。異種担体タンパク質の例には、限定しないが、KLH、PhoE、rmLT、TraT、又はBhV−1ウイルス由来のgDが含まれる。
【0050】
異種担体タンパク質は、本発明の抗原性ペプチドのN末端又はC末端へ融合し得る。本発明の抗原性融合タンパク質は、当業者に既知の技術、例えば、標準的な組換えDNA技術により産生し得る。例えば、抗原性融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、自動化DNA合成機を含む、従来技術により合成し得る。他のやり方では、ヌクレオチドフラグメントのPCR増幅は、2種の連続したヌクレオチドフラグメント間に相補的な重複部分(overhangs)を生じるアンカープライマーを使用して実行され、次いでこれをアニールして、再増幅させて、抗原性融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を産生することができる(例えば、Ausubel et al., 下記、を参照のこと)。さらに、融合部分(例、GSTポリペプチド)をすでにコードする多くの発現ベクターが市販されている。本発明の抗原性ペプチドをコードする核酸は、融合部分が本発明の抗原性ペプチドに正しいフレームで連結するように、そのような発現ベクターへクローン化され得る。さらに、異種担体タンパク質は、当業者に知られている化学的な方法により抗原性ペプチドへ融合し得る。
【0051】
特定の態様では、本発明の医薬組成物は、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、又は配列番号:7のアミノ酸残基を含んでなるアミノ酸配列を有する抗原性ペプチドを提供する。もう1つの態様では、本発明の医薬組成物は、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:1のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:2のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:3のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:4のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:5のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:6のアミノ酸配列、又は異種担体タンパク質にカップルした配列番号:7のアミノ酸配列を含んでなる抗原性融合タンパク質を提供する。もう1つの特定の態様では、本発明の医薬組成物は、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、又は配列番号:14のアミノ酸配列を有する抗原性融合タンパク質を提供する。もう1つの態様では、本発明の医薬組成物は、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:8のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:9のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:10のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:11のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:12のアミノ酸配列、異種担体タンパク質にカップルした配列番号:13のアミノ酸配列、又は異種担体タンパク質にカップルした配列番号:14のアミノ酸配列を含んでなる抗原性融合タンパク質を提供する。これらの態様によれば、この医薬組成物はさらにアジュバントを含む場合がある。
【0052】
本発明の医薬組成物は、IgE介在性アレルギー障害の治療又は予防のために伴侶動物(例、イヌ及びネコ)及び家畜(例、ブタ、ウシ、及びウマ)のような動物とヒトへ投与されるのに適した製剤の中にある。好ましくは、本発明の医薬組成物は、IgE介在性アレルギー障害を治療又は予防するために抗原性ペプチドを受けるのと同じ種のIgE分子のCH3ドメインから誘導される抗原性ペプチドを含む。IgE介在性アレルギーには、限定しないが、喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーのような胃腸のアレルギー、好酸球増加症、結膜炎、糸球体腎炎及び移植片対宿主病が含まれる。本発明の医薬組成物は、IgE介在性アレルギー障害の治療、予防又は阻害に有効な量、又はアナフィラキシーではない抗IgE免疫応答(即ち、抗IgEポリクローナル抗体の産生)を誘発するのに有効な量、又はヒスタミンのような血管作用物質の放出を阻害するか又は低下させるのに有効な量、又はIgE介在性アレルギー障害に関連した1つ又はそれ以上の症状を軽減するのに有効な量において、被検者(動物)へ投与される。
【0053】
本発明の医薬組成物は、IgE介在性アレルギー障害を治療する既知の方法とともに使用し得る。1つの態様では、1つ又はそれ以上の本発明の医薬組成物と1つ又はそれ以上の抗ヒスタミン剤がIgE介在性アレルギー障害の治療又は予防のために動物へ投与される。もう1つの態様では、1つ又はそれ以上の本発明の医薬組成物と1つ又はそれ以上のコルチコステロイド剤がIgE介在性アレルギー障害の治療又は予防のために動物へ投与される。さらにもう1つの態様では、1つ又はそれ以上の本発明の医薬組成物と1つ又はそれ以上の抗IgEモノクローナル抗体(例、BSW17)がIgE介在性アレルギー障害の治療又は予防のために動物へ投与される。
【0054】
本発明はまた、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む。本発明は、遺伝暗号の縮重性により、同一の抗原性ペプチド及び抗原性融合タンパク質をコードする異なるポリヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子を含む。本発明には、任意種のポリヌクレオチド配列によりコードされる、IgE分子のCH3ドメイン又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる抗原性ペプチドが含まれる。IgE分子のCH3ドメインのポリヌクレオチド配列は、科学文献、Genbankからか、又は当業者に周知のクローニング技術を使用して得ることができる。特に、本発明には、Genbank受け入れ番号AAB59424.1及びAAA56797.1にそれぞれ開示され、参照により本明細書に組込まれているヒト及びイヌのIgE分子のCH3ドメインをコードするポリヌクレオチド配列が含まれる。さらに本発明には、任意種のポリヌクレオチド配列によりコードされる、IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含んでなる抗原性ペプチドが含まれる。IgE分子のCH3及びCH4ドメインの連結部のポリヌクレオチド配列は、科学文献、Genbankからか、又は当業者に周知のクローニング技術を使用して得ることができる。
【0055】
本発明にはまた、任意種のポリヌクレオチド配列によりコードされる抗原性ペプチドと、この抗原性ペプチドとは異なる種のポリヌクレオチド配列によりコードされる異種担体タンパク質を含んでなる抗原性融合タンパク質が含まれる。異種担体タンパク質のポリヌクレオチド配列は、科学文献、Genbankからか、又は当業者に周知のクローニング技術を使用して得ることができる。
【0056】
本発明の抗原性ペプチド及び抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、好適な発現ベクター、即ち、挿入されるタンパク質コーディング配列の転写及び翻訳に必要な要素を含有するベクターへ挿入し得る。必要な転写及び翻訳シグナルはまた、ネーティブなIgE遺伝子又はその隣接領域により供給され得る。タンパク質コーディング配列を発現させるには多様な宿主−ベクター系が利用され得る。これには、限定しないが、ウイルス(例、ワクシニアウイルス、アデノウイルス)で感染した哺乳動物細胞系;ウイルス(例、バキュロウイルス)で感染した昆虫細胞系;酵母ベクターを含有する酵母、又はバクテリオファージ、DNA、プラスミドDNA、又はコスミドDNAで形質転換した細菌のような微生物が含まれる。ベクターの発現要素は、その強度及び特異性において異なる。利用される宿主−ベクター系に依存して、数多くの好適な転写及び翻訳要素のいずれか1つを使用し得る。
【0057】
DNAフラグメントのベクターへの挿入についてこれまでに記載された方法のいずれかを使用して、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、好適な転写及び翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築し得る。これらの方法には、in vitro 組換えDNA及び合成技術と、in vivo 組換え体(遺伝的組換え)が含まれ得る。本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸配列の発現は、組換えDNA分子で形質転換した宿主において抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質が発現されるように、第二の核酸配列により調節され得る。例えば、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の発現は、当技術分野で知られている任意のプロモーター又はエンハンサー要素により制御され得る。本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の発現を制御するのに使用され得るプロモーターには、限定しないが、サイトメガロウイルス(CMV)の極初期プロモーター領域、SV40の初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon, 1981, Nature 290: 304-310)、ラウス肉腫ウイルスの3’−LTR(長い末端繰り返し配列)に含まれるプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22: 787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1441-1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al., 1982, Nature 296: 39-42);β−ラクタマーゼプロモーターのような原核性の発現ベクター(Villa-Kamaroff et al., 1978, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 3727-3731)、又はtacプロモーター(DeBoer et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 21-25);("Useful proteins from recombinant bacteria", Scientific American, 1980, 242: 74-94 も参照のこと);ノパリン(nopaline)シンテターゼプロモーター領域(Herrera-Estrella et al., Nature 303: 209-213)又はカリフラワーモザイクウイルスの35S・RNAプロモーター(Gardner et al., 1981, Nucl. Acids Res. 9: 2871)、及び光合成酵素のリブロース二リン酸カルボキシラーゼのプロモーター(Herrera-Estrella et al., 1984, Nature 310: 115-120)を含んでなる植物の発現ベクター;Gal4プロモーター、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーターのような酵母又は他の真菌由来のプロモーター要素、及び、組織特異性を示し、トランスジェニック動物に利用されてきた以下の動物の転写制御領域:膵臓腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子調節領域(Swift et al., 1984, Cell 38: 639-646; Ornitz et al., 1986, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 50: 399-409; MacDonald, 1987, Hepatology 7: 425-515);膵臓β細胞において活性であるインスリン遺伝子調節領域(Hanahan, 1985, Nature 315: 115-122);リンパ球様細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子調節領域(Grosschedl et al., 1984, Cell 38: 647-658; Adames et al., 1985, Nature 318: 533-538; 及び Alexander et al., 1987, Mol. Cell. Biol. 7: 1436-1444);精巣、乳房、リンパ球様及びマスト細胞において活性であるマウス乳癌ウイルス調節領域(Leder et al., 1986, Cell 45: 485-495);肝臓において活性であるアルブミン遺伝子調節領域(Pinkert et al., 1987, Genes and Devel. 1: 268-276);肝臓において活性であるα−フェトプロテイン遺伝子調節領域(Krumlauf et al., 1985, Mol. Cell. Biol. 5: 1639-1648; 及び Hammer et al., 1987, Science 235: 53-58);肝臓において活性であるα1−抗トリプシン遺伝子調節領域(Kelsey et al., 1987, Genes and Devel. 1: 161-171);骨髄性細胞において活性であるβ−グロビン遺伝子調節領域(Mogram et al., 1985, Nature 315: 338-340; 及びKollias et al., 1986, Cell 46: 89-94);脳内の希突起神経膠細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子の調節領域(Readhead et al., 1987, Cell 48: 703-712);骨格筋において活性であるミオシン軽鎖−2遺伝子調節領域(Sani, 1985, Nature 314: 283-286);筋肉において活性であるブタのα−骨格アクチン遺伝子調節領域(Reecy, M. et al., 1998, Animal Biotechnology 9: 101-120);及び視床下部において活性である性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子調節領域(Mason et al., 1986, Science 234: 1372-1378)が含まれる。
【0058】
特定の態様では、抗原性ペプチドをコードする核酸に機能可能的に連結したプロモーター、1つ又はそれ以上の複製起点、及び、所望により、1つ又はそれ以上の選択マーカー(例、抗生物質耐性遺伝子)を含むベクターが使用される。もう1つの特定の態様では、抗原性融合タンパク質をコードする核酸に機能可能的に連結したプロモーター、1つ又はそれ以上の複製起点、及び、所望により、1つ又はそれ以上の選択マーカー(例、抗生物質耐性遺伝子)を含むベクターが使用される。
【0059】
遺伝子インサートを含有する発現ベクターは、3種の一般的なアプローチ:(a)核酸ハイブリダイゼーション;(b)「マーカー」遺伝子機能の有無;及び(c)挿入配列の発現、により同定され得る。第一のアプローチでは、発現ベクターに挿入された、抗原性ペプチドをコードするポリヌクレオチド又は抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの存在が、挿入されたポリヌクレオチド配列に相同である配列を含んでなるプローブを使用する核酸ハイブリダイゼーションにより検出され得る。第二のアプローチでは、遺伝子のベクター中への挿入により引き起こされるある種の「マーカー」遺伝子の機能(例、チミジンキナーゼ活性、抗生物質への抵抗性、形質転換の表現型、バキュロウイルスにおける咬合体の形成、等)の有無に基づいて、組換えベクター/宿主系が同定され得る。例えば、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸分子がベクターのマーカー遺伝子配列の内部に挿入されると、この抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質のインサートをコードする核酸分子を含有する組換え体は、マーカー遺伝子の機能の不在により同定され得る。第三のアプローチでは、組換え体により発現される遺伝子産物をアッセイすることによって、組換え発現ベクターが同定され得る。そのようなアッセイは、例えば、in vitro アッセイ系における抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の物理的又は機能的な特性(例、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の抗IgE抗体との結合)に基づき得る。
【0060】
特定の組換えDNA分子が同定され、単離されると、当技術分野で知られているいくつかの方法を使用してそれを増殖し得る。好適な宿主系及び増殖条件が確立すれば、組換え発現ベクターを増殖させ、多量に製造し得る。すでに説明したように、使用し得る発現ベクターには、限定しないが、以下のベクター又はその類似体が含まれる:少し挙げると、ワクシニアウイルス又はアデノウイルスのようなヒト又は動物のウイルス;バキュロウイルスのような昆虫ウイルス;酵母ベクター;バクテリオファージベクター(例、λ:ラムダ)、プラスミド及びコスミドDNAベクター。
【0061】
「宿主細胞」という用語は、本明細書で使用されるように、組換えDNA分子が導入される特定の被検細胞だけでなく、そのような細胞の子孫又は潜在的な子孫も意味する。後継世代においては、突然変異又は環境上の影響のいずれかによりある種の変化が起こり得るので、そのような子孫は、実際は親細胞と同一ではない可能性があるが、それでも、本明細書で使用されるような用語の範囲内に含まれる。
【0062】
宿主細胞株は、挿入された配列の発現をモジュレートするか、又は所望される特定の形式で遺伝子産物を修飾及び加工するものが選択される。ある種のプロモーターからの発現は、ある種のインデューサーの存在下で上昇され得る;このように、遺伝子操作されたものの発現は調節し得る。さらに、様々な宿主細胞は、翻訳及び翻訳後のプロセシング及び修飾(例、タンパク質の糖鎖結合、リン酸化)について特徴的で特定の機序を有する。発現される異種タンパク質の所望される修飾及びプロセシングを確実にするために、適切な細胞系又は宿主系を選択し得る。例えば、細菌系での発現は、糖鎖結合の無いコアタンパク産物を産生するのに使用し得る。酵母における発現は糖鎖結合のある産物を産生する。哺乳動物細胞における発現は、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の「ネーティブ」な糖鎖結合を確実にするために使用され得る。さらに、ベクター/宿主発現系が違えば、プロセシング反応を起こす程度も違ったものになり得る。
【0063】
組換えタンパク質を長期にわたり高収率で産生するには、安定な発現が好ましい。例えば、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を安定的に発現する細胞系が設計され得る。ウイルスの複製起点を含有する発現ベクターを使用するよりは、適切な発現制御要素(例、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位、等)と選択マーカーにより制御されるDNAで宿主細胞を形質転換することができる。異種DNAの導入後、設計された細胞を濃厚培地で1〜2日間増殖させ、次いで選択培地へ転換させる。組換えプラスミド中の選択マーカーは選択に対する抵抗性を与え、細胞がプラスミドを染色体へ安定的に組込み、フォーカスを形成するまで増殖することを可能にする。次いで、これをクローン化し、細胞系になるように増加し得る。この方法は、有利にも、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を発現する細胞系を設計するために使用し得る。そのように設計された細胞系は、IgE分子のその受容体への結合に影響を及ぼす抗IgE抗体又は他の作用因子(例、有機分子、無機分子、有機/無機複合体、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド模擬体、多糖類、サッカライド、糖タンパク質、核酸、DNA及びRNA鎖、及びオリゴヌクレオチド、等)のスクリーニング及び評価に特に有用であり得る。
【0064】
数多くの選択系を使用し得て、限定しないが、tk-、hgprt-、又はaprt-細胞においてそれぞれ利用される、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(Wigler et al., 1977, Cell 11: 223)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski, 1962, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48; 2026)、及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al., 1980, Cell 22: 817)遺伝子が含まれる。また、メトトレキセートに対する抵抗性を与えるdhfr(Wigler et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 3567; O' Hare et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072);マイコフェノール酸に対する抵抗性を与えるgpt(Mulligan & Berg, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072);アミノグリコシドG−418に対する抵抗性を与えるneo(Colberre-Garapin et al., 1981, J. Mol. Biol. 150: 1);及びヒグロマイシンに対する抵抗性を与えるhygro(Santerre et al., 1984, Gene 30: 147)遺伝子についての選択の基礎として、代謝拮抗薬への抵抗性を使用し得る。
【0065】
特定の態様では、本発明の抗原性ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んでなる1つ又はそれ以上の核酸分子が、遺伝子治療により、IgE介在性アレルギー障害を治療するか又は予防するために投与される。もう1つの特定の態様では、抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含んでなる1つ又はそれ以上の核酸分子が、遺伝子治療により、IgE介在性アレルギー障害を治療するか又は予防するために投与される。さらにもう1つの特定の態様では、本発明の抗原性ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んでなる1つ又はそれ以上の核酸分子、及び本発明の抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含んでなる1つ又はそれ以上の核酸分子が、遺伝子治療により、IgE介在性アレルギー障害を治療するか又は予防するために投与される。遺伝子治療とは、発現されるか又は発現され得る核酸を被検者へ投与することによって実施される治療を意味する。本発明のこの態様では、この核酸は、抗IgE抗体の産生のような免疫応答を誘発することにより治療効果に介在する、そのコードされた抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を産生する。
【0066】
当技術分野で利用し得る遺伝子治療のいずれの方法も本発明により使用し得る。典型的な方法を以下に説明する。
遺伝子治療の方法の概説については、Goldspiel et al., 1993, Clinical Pharmacy 12: 488-505; Wu and Wu, 1991, Biotherapy 3: 87-95; Tolstoshev, 1993, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32: 573-596; Mulligun, 1993, Science 260: 926-932 及び Morgan and Anderson, 1993, Ann. Rev. Biochem. 62: 191-217; May, 1993, TIBTECH 11 (5): 155-215 を参照のこと。使用し得る組換えDNA技術の当技術分野で一般的に知られている方法は、Ausubel et al. (eds.), 1983, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY; 及び Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY. に説明されている。
【0067】
好ましい側面では、医薬組成物は本発明の抗原性ペプチドをコードする核酸配列を含み、前記核酸配列は、好適な宿主において抗原性ペプチドを発現する発現ベクターの一部である。特に、そのような核酸配列は、抗原性ペプチドのコーディング領域に機能可能的に連結したプロモーターを有し、前記プロモーターは、誘導され得るか又は構成的であり、所望により、組織特異的である。もう1つの好ましい側面では、医薬組成物は本発明の抗原性融合タンパク質をコードする核酸配列を含み、前記核酸配列は、好適な宿主において抗原性融合タンパク質を発現する発現ベクターの一部である。特に、そのような核酸配列は、抗原性融合タンパク質のコーディング領域に機能可能的に連結したプロモーターを有し、前記プロモーターは、誘導され得るか又は構成的であり、所望により、組織特異的である。もう1つの特定の態様では、本発明の抗原性ペプチドのコーディング配列と他の所望される配列に、ゲノム内の所望される部位での相同的組換えを促進する領域が隣接し、それによって抗原性ペプチドをコードする核酸の染色体内発現がもたらされる、核酸分子が使用される(Koller and Smithies, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 8932-8935; 及び Zijlstra et al., 1989, Nature 342: 435-438)。もう1つの特定の態様では、本発明の抗原性融合タンパク質のコーディング配列と他の所望される配列に、ゲノム内の所望される部位での相同的組換えを促進する領域が隣接し、それによって抗原性融合タンパク質をコードする核酸の染色体内発現がもたらされる、核酸分子が使用される。
【0068】
患者への核酸のデリバリーは、直接的(この場合、患者は核酸又は核酸を担うベクターに直接曝露される)であるか、又は間接的(この場合、先ずこの核酸を用いて細胞を in vitro で形質転換し、次いで患者へ移植する)であり得る。上記2種のアプローチは、それぞれ、in vivo 又は ex vivo の遺伝子治療として知られている。
【0069】
特定の態様では、核酸配列が直接 in vivo で投与され、そこで発現されてコード化される産物を産生する。このことは、例えば、適切な核酸発現ベクターの一部としてそれを構築し、それが細胞内のものになるように投与すること、例えば欠陥又は弱毒化レトロウイルス又は他のウイルスのベクターを使用して感染させること(米国特許第4,980,286号)、又は裸のDNAの直接注入、又は微粒子衝撃(例、遺伝子銃;Biolistic,デュポン)の使用、又は脂質や細胞表面受容体でのコーティング又は作用因子のトランスフェクション、リポソーム、微粒子又はマイクロカプセルにおける被包、又は核に入ることが知られているペプチドに連結して投与すること、受容体介在性エンドサイトーシスを受けるリガンドに連結して投与すること(例えば、Wu and Wu, 1987, J. Biol. Chem. 262: 4429-4432 を参照のこと)(受容体を特に発現する細胞型をターゲットにするために使用され得る)、等の当技術分野で知られている多数の方法のいずれかにより達成され得る。もう1つの態様では、核酸−リガンド複合体が形成され得るが、ここではリガンドがエンドソームを破壊する融合性の(fusogenic)ウイルスペプチドを含み、核酸がリソソーム分解を回避することができる。さらにもう1つの態様では、核酸は、特定の受容体をターゲットにすることによって、細胞特異的な取込み及び発現の in vivo ターゲットにされ得る(例えば、1992年4月16日付のPCT特許公開WO92/06180(Wu et al.);1992年12月23日付のWO92/22635(Wilson et al.);1992年11月26日付のWO92/20316(Findeis et al.);1993年7月22日付のWO93/14188(Clarke et al.);及び1993年10月14日付のWO93/20221(Young);を参照のこと)。他のやり方では、核酸は、相同的組換えにより、発現のために細胞内に導入され、宿主細胞DNAの内部に取り込まれ得る(Koller and Smithies, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 8932-8935; Zijlstra et al., 1989, Nature 342: 435-438)。
【0070】
特定の態様では、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸配列を含有するウイルスベクターが使用される。例えば、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸を含有するレトロウイルスベクターが使用され得る(例えば、Miller et al., 1993, Meth. Enzymol. 217: 581-599 を参照のこと)。これらのレトロウイルスベクターでは、ウイルスゲノムのパッケージングと宿主細胞DNAへの組込みに必要ではないレトロウイルス配列が削除された。遺伝子治療に使用される抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸配列は1つ又はそれ以上のベクターへクローン化され、それによりこの遺伝子の患者へのデリバリーが促進される。レトロウイルスベクターについての詳細は、Boesen et al., 1994, Biotherapy 6: 291-302 に見出し得るが、これは造血幹細胞を化学療法抵抗性にするためにこの幹細胞へmdr1遺伝子をデリバリーするためのレトロウイルスベクターの使用について説明する。遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を説明する他の文献は以下のものである:Clowes et al., 1994, J. Clin. Invest. 93: 644-651; Kiem et al., 1994, Blood 83: 1467-1473; Salmons and Gunzberg, 1993, Human Gene Therapy 4: 129-141 及び Grossman and Wilson, 1993, Curr. Opin. in Genetics and Devel. 3: 110-114。
【0071】
アデノウイルスは遺伝子治療に使用され得る他のウイルスベクターである。アデノウイルスは、遺伝子を呼吸上皮へデリバリーするのに特に魅力的な運搬体である。アデノウイルスは、天然では呼吸上皮に感染し、そこで軽微な疾患を引き起こす。アデノウイルスをベースとするデリバリー系の他のターゲットは肝臓、中枢神経系、内皮細胞及び筋肉である。アデノウイルスには、非分裂細胞に感染し得るという利点がある。Kozarsky and Wilson, 1993, Curr. Opin. in Genetics and Devel. 3: 499-503 は、アデノウイルスをベースとする遺伝子治療の概説を提示する。Bout et al., 1994, Human Gene Therapy 5: 3-10 は、アカゲザルの呼吸上皮へ遺伝子を移入するためのアデノウイルスの使用を示した。アデノウイルスの遺伝子治療における使用の他の例は、Rosenfeld et al., 1991, Science 252: 431-434; Rosenfeld et al., 1992, Cell 68: 143-155; Mastrangeli et al., 1993, J. Clin. Invest. 91: 225-234;PCT出願WO94/12649;及び Wang et al., 1995, Gene Therapy 2: 775-783 に見出し得る。好ましい態様では、アデノウイルスベクターが使用される。アデノ関連ウイルス(AAV)も遺伝子治療における使用について提案されてきた(例えば、Walsh et al., 1993, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 204: 289-300;及び米国特許第5,436,146号を参照のこと)。
【0072】
遺伝子治療に対するもう1つのアプローチは、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム介在性トランスフェクション、又はウイルス感染のような方法により組織培養内の細胞へ核酸分子を導入することに関する。通常、この導入法には選択マーカーの細胞への導入が含まれる。この場合、細胞は、導入された遺伝子を取込み、発現している細胞を単離するための選択下に置かれる。次いで、そのような細胞が患者へデリバリーされる。
【0073】
この態様では、核酸分子を細胞へ導入した後に、生成した組換え細胞を in vivo で投与する。そのような導入は、当技術分野で知られている方法により実行され得るが、それには、限定しないが、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、核酸配列を含有するウイルス又はバクテリオファージベクターを用いた感染、細胞融合、染色体介在性の遺伝子導入、マイクロセル介在性の遺伝子導入、スフェロプラスト融合、等が含まれる。異種核酸分子の細胞内への導入については、当技術分野で数多くの技術が知られていて(例えば、Loeffler and Behr, 1993, Meth. Enzymol. 217: 599-618; Cohen et al., 1993, Meth. Enzymol. 217: 618-644; Cline, 1985, Pharmac. Ther. 29: 69-92 を参照のこと)、レシピエント細胞に必要な発達及び生理上の機能が妨げられない限りにおいて、本発明により使用され得る。この技術は、核酸が細胞により発現され得て、好ましくはその細胞子孫により遺伝され、発現され得るような、核酸の細胞への安定な導入を提供すべきである。
【0074】
生成した組換え細胞は、当技術分野で知られている様々な方法により被検者へデリバリーし得る。組換え血液細胞(例、造血幹細胞又は前駆細胞)は、好ましくは静脈内で投与される。使用に想定される細胞の量は、所望される効果、被検者の状態等に依存し、当業者により決定され得る。
【0075】
遺伝子治療の目的のために核酸が導入され得る細胞には、所望される、利用可能な細胞型が含まれ、限定しないが、上皮細胞、内皮細胞、角化細胞、線維芽細胞、筋肉細胞、肝細胞;Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、巨核芽球、顆粒球のような血液細胞;様々な幹又は前駆細胞、特に、例えば骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓等から得られる造血幹細胞又は前駆細胞が含まれる。
【0076】
好ましい態様では、遺伝子治療に使用される細胞は被検者に対して自己のものである。
組換え細胞が遺伝子治療において使用される態様では、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸配列が、細胞又はその子孫により発現され得るように細胞へ導入され、次いでこの組換え細胞が治療効果のためにin vivo で投与される。特定の態様では、幹又は前駆細胞が使用される。in vitro で単離されて維持され得る任意の幹及び/又は前駆細胞が本発明の態様により潜在的に使用され得る(例えば、1994年4月28日付のPCT特許公開WO94/08598;Stemple and Anderson, 1992, Cell 71: 973-985; Rheinwald, 1980, Meth. Cell Bio. 21A: 229 及び Pittelkow and Scott, 1986, Mayo Clinic Proc. 61: 771を参照のこと)。
【0077】
特定の態様では、遺伝子治療のために導入され得る核酸は、この核酸の発現が適切な転写インデューサーの有無を制御することによって調節されるように、コーディング領域に機能可能的に連結した誘導プロモーターを含む。
【0078】
本発明はまた、本発明の抗原性ペプチド又は本発明の抗原性融合タンパク質を産生する方法に関し、前記方法は、本発明の細胞の培養物を好適な培地で増殖させること、及びこのタンパク質を培地から単離することを含む。例えば、本発明の方法には、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を産生する方法が含まれ、ここでは抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを包含する好適な発現ベクターを含有する宿主細胞(即ち、原核又は真核細胞)が、コード化された抗原性ペプチド又はコード化された抗原性融合タンパク質の発現を可能にする条件の下で培養される。抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質は培養物、簡便にも培地から回収され、さらに精製され得る。精製された抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質は、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質に結合する抗IgE抗体を同定するために、当技術分野でよく知られている in vitro 免疫アッセイにおいて使用され得る。
【0079】
このタンパク質はまた、本発明の単離されたポリヌクレオチドを1つ又はそれ以上の昆虫の発現ベクターにある好適な制御配列へ機能可能的に連結し、昆虫の発現系を利用することによって産生され得る。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系の材料及び方法は、例えばInvitrogen(サンディエゴ、カリフォルニア、米国)製のキット(MaxBat.RTMキット)で市販され、そのような方法は、参照により本明細書に組込まれている、Summers and Smith, Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No. 1555 (1987) に記載のように、当技術分野でよく知られている。本明細書で使用されるように、本発明のポリヌクレオチドを発現し得る昆虫細胞は、「形質転換」されている。
【0080】
他のやり方では、本発明の抗原性ペプチド又は本発明の抗原性融合タンパク質はまた、精製を促進する形態で発現され得る。例えば、抗原性ペプチドは、マルトース結合タンパク質(MBP)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)又はチオレドキシン(TRX)のような、精製を促進する異種タンパク質を含んでなる融合タンパク質として発現され得る。そのような融合タンパク質の発現及び精製のキットは、New England BioLab(ベヴァリー、Mass.)、ファルマシア(ピスカタウェイ、N.J.)及びInvitrogenからそれぞれ市販されている。このタンパク質はまた、エピトープのタグを付けた後に、そのようなエピトープへ向けられた特異抗体を使用して精製し得る。そのようなエピトープの1つ(「Flag」)がコダック(ニューへーヴン、Conn.)から市販されている。
【0081】
本発明の抗原性ペプチド又は本発明の抗原性融合タンパク質はまた、トランスジェニック動物の産物として、例えば、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する体細胞又は生殖細胞により特徴づけられる、トランスジェニックのウシ、ヤギ、ブタ、又はヒツジの乳の成分としても発現され得る。
【0082】
本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を産生するには、当技術分野の当業者に知られた任意の方法を使用し得る。最も単純なレベルでは、市販のペプチド合成機を使用して、アミノ酸配列を合成し得る。これは、低ペプチドとより大きいポリペプチドのフラグメントを産生するときに特に有用である。本発明の単離された抗原性ペプチド及び抗原性融合タンパク質は、例えば、このネーティブポリペプチドに対する抗体を産生するのに有用である。
【0083】
当業者は、ペプチド及びタンパク質を単離するための既知の方法に従って、本発明の単離された抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の1つを容易に得ることができる。これには、限定しないが、免疫クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及び免疫アフィニティークロマトグラフィーが含まれる。例えば、Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag (1984); Sambrook et al., in Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology を参照のこと。
【0084】
本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質は、細胞性の物質又はこのタンパク質が由来する細胞又は組織の源からの他の混入タンパク質が実質的にないか、又は化学合成されたときは、化学前駆体か又は他の化学品が実質的にない場合に、「単離」又は「精製」されている。「細胞性の物質が実質的にない」という術語には、タンパク質が単離されるか又は組換え的に産生される細胞の細胞性成分からそれが分離されているタンパク質の調製物が含まれる。従って、細胞性の物質が実質的にないタンパク質には、約30%、20%、10%、又は5%(乾燥重量)未満の混入タンパク質を有するタンパク質の調製物が含まれる。本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質が組換え的に産生される場合、それはまた、好ましくは培地が実質的にない、即ち、培地がタンパク調製物の量の約20%、10%、又は5%未満である。本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質が化学合成により産生される場合、それはまた、好ましくは化学前駆体か又は他の化学品が実質的にない、即ち、それは、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の合成に関わる化学前駆体又は他の化学品から分離されている。従って、そのようなタンパク質の調製物は、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質以外の化学前駆体又は化合物の約30%、20%、10%、5%(乾燥重量)未満を有する。
【0085】
本発明の組成物は、ヒトにおける使用に先立って、所望される治療又は予防の活性について、好ましくは in vitro で、次いで in vivo で試験される。例えば、特定の組成物の投与が望ましいかどうかを決定するために使用され得る in vitro アッセイには、患者の組織サンプルを培養して増殖させ、組成物へ曝露するか又は他の方法で投与し、そのような組成物の組織サンプルに対する効果を観察する in vitro 細胞培養アッセイが含まれる。
【0086】
抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の発現は、免疫アッセイ、ゲル電気泳動後の視覚化、又は当業者に既知の方法によりアッセイされ得る。
様々な特定の態様では、患者の障害に関わる細胞型の代表的な細胞を用いて、組成物がそのような細胞型に対して所望の効果を有するかどうかを決定するために、in vitro アッセイが実行され得る。本発明によれば、抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の機能活性が、ヒスタミンのような血管作用物質の放出を誘発せずに、IgEがマスト細胞又は好塩基球上のその受容体に結合することを in vitro で阻害する好IgE抗体を誘発するその能力により測定され得る。
【0087】
治療に使用される組成物は、ヒトにおける試験に先立って、好適な動物モデル系で試験され得るが、それにはブタ、ニワトリ、ウシ又はサルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明は、アナフィラキシーを引き起こさない抗IgE抗体の産生を誘発するのに有効な本発明の組成物の量を被検者へ投与することによる治療(及び予防)の方法を提供する。好ましい側面では、本発明の組成物は実質的に精製されている(例えば、その効果を制限するか又は望ましくない副作用を産生する物質が実質的にない)。被検者は、好ましくは動物であり、限定しないがウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌ等の動物が含まれ、好ましくは哺乳動物、及び最も好ましくはヒトである。
【0089】
本発明の組成物が核酸を含むときに利用され得る投与の製剤及び方法は上記に説明されているが、追加の適切な投与製剤及び経路は、本明細書の以下に説明されるものの中から選択され得る。
【0090】
様々なデリバリー系が知られていて、本発明の組成物を投与するために使用され得る。例えば、リポソーム、微粒子又はマイクロカプセルにおける被包、組成物を発現し得る組換え細胞、受容体介在性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu, 1987, J. Biol. Chem. 262: 4429-4432 を参照のこと)、レトロウイルス又は他のウイルスの一部として核酸を構築すること、等である。導入の方法には、限定しないが、腫瘍内、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が含まれる。組成物は、好便な経路により、例えば、注入又はボーラス注射により、上皮又は粘膜・皮膚性の内層(例えば、口内粘膜、直腸及び腸の粘膜、等)を介した吸収により投与され得て、他の生物学的活性因子とともに投与され得る。投与は全身性又は局所性であり得る。さらに、例えば吸入器又は噴霧器、及びエーロゾル化剤入り製剤の使用による、肺への投与も利用され得る。
【0091】
特定の態様では、治療が必要な範囲へ本発明の医薬組成物を局所的に投与することが所望され得るが、このことは、例えば、限定しないが、局所注入、局所塗布、注射、又はインプラントにより達成され得る。ここで、前記インプラントは、シアラスティック(sialastic)膜のような膜を含む、多孔性、無孔性、又はゼラチン状の素材、又は繊維である。1つの態様では、投与は、アレルギー反応の部位(又は以前の部位)での直接注射によりなし得る。
【0092】
もう1つの態様では、本発明の組成物は、小胞、特にリポソームにおいてデリバリーされ得る(例えば、Langer, 1990, Science 249: 1527-1533; Treat et al., in Liposomes in the Therapy of Infectious Diseases and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler (eds.), Liss, New York, pp. 353-365 (1989) 及びLopez-Berestein, 同上、pp. 317-327 を参照のこと;一般的には、同文献を参照のこと)。
【0093】
さらにもう1つの態様では、本発明の組成物は、制御放出系においてデリバリーされ得る。1つの態様では、ポンプが使用され得る(例えば、Langer, 上記;Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201; Buchwald et al., 1980, Surgery 88: 507; 及び Saudek et al., 1989, N. Engl. J. Med. 321: 574 を参照のこと)。もう1つの態様では、ポリマー素材が使用され得る(Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), CRC Pres., Boca Raton, Florida (1974); Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball (eds.), Wiley, New York (1984); Ranger and Peppas, 1983, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23: 61 を参照のこと;また、Levy et al., 1985, Science 228: 190; During et al., 1989, Ann. Neurol. 25: 351;及び Howard et al., 1989, J. Neurosurg. 71: 105 を参照のこと)。さらにもう1つの態様では、制御放出系を治療ターゲットの近傍に配置し、全身用量のごく一部だけを必要とし得る(例えば、Goodson, in Medical Applications of Controlled Release, 同上、vol. 2, pp. 115-138 (1984) を参照のこと)。
【0094】
他の制御放出系については Langer (1990, Science 249: 1527-1533)の概説に論じられている。
本発明の組成物が本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質をコードする核酸である特定の態様では、この核酸は、それを適切な核酸発現ベクターの一部として構築し、例えばレトロウイルスベクターの使用により(米国特許第4,980,286号)、又は直接の注射により、又は微粒子衝撃(例、遺伝子銃;Biolistic,デュポン)の使用により、又は脂質か細胞表面受容体でコーティングし、作用因子をトランスフェクトすること、又は核に入ることが知られている(例えば、Joliot et al., 1991, Proc Natl. Acad. Sci. USA 88: 1864-1868 を参照のこと)ホメオボックス様ペプチドへそれを連結して投与すること、等によって、それが細胞内になるようにそれを投与することによって、in vivo 投与され、そのコード化された抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の発現を促進することができる。他のやり方では、核酸は、細胞内に導入され、相同的組換えにより、発現用の宿主細胞DNAの内部に組込まれ得る。
【0095】
本発明はまた、医薬組成物を提供する。そのような組成物は、本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質の治療有効量、及び製剤的に許容される担体を含む。特定の態様では、「製剤的に許容される」という用語は、動物、より特定するとヒトにおける使用について、連邦政府か州政府の規制当局により承認されているか、又は米国薬局方又は他の公認薬局方に掲載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬がともに投与される希釈剤、賦形剤、又は運搬体(vehicle)を意味する。そのような医薬担体は、水及び油のような無菌の液体であり得て、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等のような、石油、動物、植物又は合成を起源とするものが含まれる。水は、医薬組成物が静脈内投与されるときに好ましい担体である。生理食塩液とデキストロース及びグリセロール溶液も、特に注射溶液では、液体の担体として利用され得る。好適な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米粉、小麦粉、白墨、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、等が含まれる。組成物は、所望されるならば、微量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤も含み得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、ピル、カプセル剤、粉末、徐放性製剤、等の形態をとり得る。組成物は、トリグリセリドのような従来の結合剤及び担体を有する坐剤として製剤化され得る。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等のような標準的な担体を含み得る。好適な医薬担体の例は、E. W. Martin による "Remington's Pharmaceutical Sciences" に説明されている。そのような組成物は、治療有効量の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質を、好ましくは精製された形態で、その形態を患者へ適切に投与するのに適した量の担体とともに含有する。製剤はこの投与形式に適するべきである。
【0096】
好ましい態様では、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適した医薬組成物として常法により製剤化される。典型的には、静脈内投与の組成物は等張の水性緩衝液の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤と、注射部位での疼痛を和らげるために、リドカインのような局所麻酔剤を包含してよい。一般には、上記成分は個別にか、又は、有効成分の量を示すアンプルのような密封容器か小袋(sachette)において、例えば乾燥凍結粉末か無水濃縮物のような単位剤形のなかで一緒に混合して供給される。組成物が注入により投与される場合、それは無菌で医薬品グレードの水又は生理食塩水を含有する注入ボトルで調剤され得る。組成物が注射により投与される場合、上記成分を投与前に混合し得るように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルが用意され得る。
【0097】
本発明の抗原性ペプチド又は抗原性融合タンパク質は中性又は塩の形態として製剤化され得る。製剤的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、等から誘導されるようなフリーのアミノ基とともに形成されるもの、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン、等から誘導されるようなフリーのカルボキシル基とともに形成されるものが含まれる。
【0098】
癌の治療に有効であり得る本発明の化合物の量は、既知の臨床技術により決定され得る。さらに、最適な投与量の範囲を決定することの助けとするために、in vitro アッセイを所望により利用し得る。さらに、製剤において利用されるべき正確な量は、投与経路と疾患又は障害の重症度に依存する。しかしながら、静脈内投与に適した投与量の範囲は、体重kgあたり約20〜約500ミリグラムの活性化合物である。鼻腔内投与に適した投与量の範囲は、体重1kgあたり約0.01pg〜約1mgである。有効用量は、in vitro 又は動物モデルの試験より導かれる用量応答曲線から外挿し得る。
【0099】
本発明はまた、本発明の医薬組成物の1種またはそれ以上の成分で満たされた1つ又はそれ以上の容器を含有する医薬パック又はキットを提供する。そのような容器には、所望により、医薬品又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府当局により定められた形式の添付書が付けられるが、この添付書にはヒトへ投与するものの製造、使用又は販売に関する当局の承認が反映される。
【実施例】
【0100】
実施例1.ペプチドの選択とKLHへのコンジュゲーション
イヌIgEのCH3ドメイン、並びにCH3及びCH4ドメインの連結部をペプチドワクチン候補物質の選択の基礎とした。親水性、表面確率、柔軟性、抗原性インデックス、両親媒性ヘリックス、両親媒性シート、及び二次構造を含む、適切な抗原特性の決定についてのコンピュータプログラムを使用して、様々なネスティド、重複ペプチドを選択した。このペプチドを合成し、システイン指示カップリング法を使用して、Zymed Laboratories社(サンフランシスコ、CA)でKLHへコンジュゲートした。このKLHにコンジュゲートしたペプチドを使用して、Zymed Laboratories社(サウスサンフランシスコ)でウサギを免疫化した。ペプチドはまた、KLHへコンジュゲートさせずにN末端ビオチン残基を付けて、W.M.Keck Biotechnology Resource Center(ニューヘーヴン、CT)でも合成し、KLH−ペプチドコンジュゲートで免疫化された動物において誘発される抗ペプチド抗体を検出するELISAにおいて使用するための材料を用意した。本発明の好ましいペプチドには、配列番号:1〜配列番号:14のペプチドと他のIgE種由来のその相同配列が含まれる。

実施例2.ウサギ抗ペプチド抗体のIgE由来ペプチドとの反応性
ウサギ抗血清が本発明のペプチドと反応する能力を試験するために、以下のようにELISAアッセイを開発した:ビオチニル化IgEペプチドをコーティング緩衝液(重炭酸ナトリウム:pH9.0)1mlあたり5μgへ希釈した。希釈したペプチドを、ニュートラビジンプレート(Pierce Chemical Co.ロックフォード、IL)のウェルへ100μl/ウェルで加え、4℃で一晩インキュベートした。0.05% Tween−20含有リン酸緩衝化生理食塩水(PBST)で3回プレートを洗浄した。各ウェルへ200μl/ウェルで阻止緩衝液(2%スキムミルク/PBST)を加え、室温(RT)で60分間インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄した。適切なウサギ抗血清の100倍希釈液を、適切なウェルの最上列へ、各ウェルにつき100μl加え、血清サンプルを適切なプレート位置へ10倍希釈した。プレートをRTで60分間インキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲート−ヤギ抗ウサギIgG(KPL Laboratories,ゲイサースブルグ、MD)の20,000倍希釈液100μl/ウェルを各ウェルへ加え、このプレートをRTで60分インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄した。TMBマイクロウェル基質(KPL;ゲイサースブルグ、MD)100μl/ウェルを各ウェルへ加え、プレートをRTで10〜20分インキュベートし、発色させた。0.18M 硫酸50μl/ウェルでこの発色反応を止めた。全ウェルの吸光度(O.D.)を、ELISAプレートリーダー(Thermo Max;Molecular Devices,サニーヴェイル、CA)を使用して、450nmの波長で定量した。図1に示すように、本発明のペプチドで免疫化した後のウサギから得られる血清は、その指定ペプチドで免疫化する前のウサギから得られる血清より、各ペプチドに対してずっと高い反応性を有していた。

実施例3.ウサギ抗−ペプチド抗体のイヌIgEとの反応性
イヌのIgEモノクローナル抗体(Bethyl laboratories;モントゴメリー;TX)を、96穴プレートのウェルにおいて、100μl量あたり1μgで分配した。プレートを4℃で一晩インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄し、各ウェルへ阻止緩衝液(2%スキムミルク/PBST)を加え、室温(RT)で60分間インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄し、適切なウサギ抗血清の200倍希釈液を、適切なウェルの最上列へ、各ウェルにつき100μl加えた。プレートをRTで60分間インキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲート−ヤギ抗ウサギIgG(KPL Laboratories)の10,000倍希釈液100μl/ウェルを各ウェルへ加えた。プレートをRTで60分インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄し、TMB基質100μl/ウェルを各ウェルへ加えた。発色反応を10〜20分発生させた。0.18M 硫酸50μl/ウェルを加えることによって、発色反応を止めた。全ウェルの吸光度(O.D.)を、上記のようにELISAプレートリーダーを使用して、450nmで定量した。図2に示すように、本発明のペプチドで免疫化した後のウサギから得られる血清は、その指定ペプチドで免疫化する前のウサギから得られる血清より、イヌIgEに対してずっと高い反応性を有していた。
【0101】
実施例4.in vitro 脱顆粒阻害アッセイ
IgEワクチンの開発は、血清又は他の体液中の可溶性(フリー)IgEに結合するが、受容体結合性IgEとは架橋結合せず、マスト細胞又は好塩基球からヒスタミンを放出させない抗体(即ち、非アナフィラキシー抗体)を誘発するIgEペプチドの同定に基づく。本発明のペプチドのような、ネスティド、又は重複したIgE由来ペプチドのセットに対して産生した抗体のアナフィラキシー発現可能性を評価するために、我々は、イヌIgEに対する高アフィニティー受容体でトランスフェクトしたラット好塩基球細胞系RBL−2H3に基づいて、in vitro のイヌ特異的脱顆粒アッセイを開発した。イヌIgEをRBL2H3細胞上のその受容体に結合させて、受容体に結合したIgEを抗イヌIgE抗体とともにインキュベートすると、この受容体は(抗IgE抗体が受容体結合性IgEと結合すれば)架橋結合する可能性があり、この受容体の架橋結合によりラット細胞からヒスタミンが放出される。ヒスタミン放出の量はIgE抗体のアナフィラキシー可能性の尺度になる。逆に、ヒスタミン放出の不足は、抗イヌIgE抗体が受容体結合性IgEとは架橋結合せず、これらの抗体を誘発したペプチドが、抗ペプチド抗体がフリーIgE(例えば、血清又は他の体液中のIgE)と反応するという条件で、ワクチンとしての使用に適していることを示す。このように、本発明のペプチドに対して産生される抗体を含め、抗IgE抗体がヒスタミン放出をもたらすことの潜在可能性は、このアッセイを使用すれば容易に判定し得る。
【0102】
イヌIgEの高アフィニティー受容体をコードする遺伝子を、ATG laboratories社(イーデンプレーリー、MN)においてポリメラーゼ連鎖反応により組立て、pCDNA6発現ベクター(Invitrogen;CA)へクローン化した。Fugeneトランスフェクション試薬を製造業者(ベーリンガーマンハイム)の推奨法により使用して、イヌIgE受容体をコードする遺伝子を含有するpCDNA6プラスミドを用いてラットRBL2H3細胞系(ATCC,ロックビル、MD)をトランスフェクトした。イヌの高アフィニティー受容体を発現するRBL−2H3細胞系を選択し、ブラスチシジン10μg/mlを含有する培地に維持した。フローサイトメトリーや細胞ベースのELISAを含む様々なアッセイにより、トランスフェクトされたラット細胞に結合するイヌIgEの能力を確かめた。

実施例5.回虫の感作と免疫化
本発明のペプチドを用いたワクチン接種のIgE介在性反応に及ぼす効果を、回虫抽出物へ感作した後の動物で誘発されるIgE介在性の皮膚膨疹反応の試験において評価した。この試験デザインを表1にまとめ、以下の方法により試験を実施した:
1)前感作法:試験開始に先立って(第−7日)、各イヌの頚静脈から血液サンプル5mlを血清分離管(SST)へ採取した。血清を−20℃で保存した。Asc−1アレルゲン(Greer laboratories)の皮内(ID)注射により全部のイヌに対して皮膚試験を実施した。ID注射は、各イヌの腹部の剃毛サイドで実施した。各動物は、Asc−1アレルゲンの10倍系列希釈液(50μg〜0.5ng)を表す6種の注射、ヒスタミン0.1μgの注射(陽性対照)、及びリン酸緩衝化生理食塩水(PBS;陰性対照)の注射を受けた。各注射は100μlの用量である。皮膚の応答は膨疹反応の範囲のサイズに基づいた。膨疹範囲の輪郭を取り、最大の寸法(長軸)とそれに垂直な寸法(短軸)/ミリメートルを掛け合わせ、膨疹の範囲を算出する。皮膚の応答は、アレルゲンの皮内注射から15分の時点でメートル定規を使用して定量した。膨疹反応を視覚化しやすくするために、皮膚試験に先立つ約5分前に無菌の1.0%エバンスブルー溶液5mlで各イヌをI/V注射した。
【0103】
2)感作スケジュール:Asc−1の10μgとレヒドロゲル(Rehidrogel)2mgの混合液(0.5ml量)を動物に注射し、この混合液は皮下(S/C)で注射した。同時に、リシン(Ricin)500ng(0.5ml量)を腹腔内で(I/P)動物に注射した。上記の注射処方を2週間に1回で、5回以上繰り返した。Asc−1とリシンは滅菌PBSに溶かした。
【0104】
3)感作後の皮膚試験:感作フェーズの後で、全部のイヌを皮膚反応について評価する。上記の前感作皮膚試験で概説したようにして、全部のイヌについて皮膚試験を実施した。
【0105】
4)ワクチン接種:F群の動物にはワクチン接種しなかった。A、B、C、D、及びE群の動物を表Xに記載のようにワクチン接種した。対応する抗原50μgを含有する適切なワクチン1mlを動物に筋肉内注射した。
【0106】
5)ワクチン接種後の皮膚試験:最後のワクチン接種から14日後に、皮膚反応についてイヌを評価した。前感作法に概説したようにして、全部のイヌについて皮膚試験を実施する。

実施例6.イヌの抗ペプチド抗体
本発明の特異抗原でワクチン接種したイヌにおける抗体の誘発を以下のようにELISAアッセイで評価する:コーティング緩衝液(重炭酸ナトリウム:pH9.0)1mlあたり5μgへペプチドを希釈し、ニュートラビジンプレート(Pierce)へ100μl/ウェルで加えた。プレートを4℃で一晩インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄し、各ウェルへ阻止緩衝液(2%スキムミルク/PBST)200μlを加えた。プレートをRTで60分間インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄し、適切なイヌ抗血清の100倍希釈液を、適切なウェルの最上列へ、各ウェルにつき100μl加えた。次いで血清サンプルを適切なプレート位置へ10倍希釈した。プレートをRTで60分間インキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲート−ヤギ抗イヌIgGの20,000倍希釈液100μl/ウェルを各ウェルへ加えた。プレートをRTで60分インキュベートした。PBSTで3回プレートを洗浄し、TMB基質100μl/ウェルを全ウェルへ加えた。発色反応をRTで10〜20分発生させた。0.18M 硫酸50μl/ウェルを加えることによって、発色反応を止め、上記のようにELISAリーダーにおいて、450nmで吸光度を定量した。表2に示すように、本発明のペプチドで免疫化した後のイヌから得られる血清は、その指定ペプチドで免疫化する前のイヌから得られる血清より、イヌIgEに対してずっと高い反応性を有していた。

実施例7.皮膚の膨疹反応性
皮膚膨疹反応の減少又は完全な消失があったワクチン接種動物の数を、ワクチン接種に先立つ同じ動物の皮膚膨疹反応に対して比較することによって、本発明のペプチドのIgE介在性皮膚膨疹反応を改善する効果を判定した。回虫抽出物を皮内注射した後のイヌの皮膚膨疹反応性は、回虫抽出物の10倍系列希釈液(50μg〜0.5ng)、並びにPBS及びヒスタミン(1μg/部位)100μlの注射により定量する。膨疹反応のサイズは、メートル定規を使用してミリメートルで測定される、膨疹の長軸及び短軸の積として定量される。表3から見られるように、CH3/CH4ドメインから誘導されるペプチド(配列番号:1〜配列番号:4)で動物をワクチン接種すると、約60%の動物で皮膚膨疹反応が完全に抑制される。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

実施例8.食物アレルギーモデル
食物アレルギーモデルを開発して、本発明の抗IgEワクチンの効果を評価するために、以下のように、50頭のイヌを回虫抽出物及びリシンの注射後に回虫の抗原へ感作し、次いで回虫抽出物で経口チャレンジした。
【0110】
1.前感作法:Asc−1アレルゲン(Greer laboratories)の皮内(ID)注射により全部のイヌに対して皮膚試験を実施した。ID注射は、各イヌの腹部の剃毛サイドで実施した。各動物は、Asc−1アレルゲンの10倍系列希釈液(50μg〜0.5ng)を表す6種の注射、ヒスタミン0.1μgの注射(陽性対照)、及びリン酸緩衝化生理食塩水(PBS;陰性対照)の注射を受けた。各注射は100μlの用量である。皮膚の応答は膨疹反応の範囲のサイズに基づいた。膨疹範囲の輪郭を取り、最大の寸法(長軸)とそれに垂直な寸法(短軸)/ミリメートルを掛け合わせ、膨疹の範囲を算出する。皮膚の応答は、アレルゲンの皮内注射から15分の時点でメートル定規を使用して定量した。膨疹反応を視覚化しやすくするために、皮膚試験に先立つ約5分前に無菌の1.0%エバンスブルー溶液5mlを各イヌにI/V注射した。
【0111】
2.感作スケジュール:Asc−1の10μgとレヒドロゲル(Rehidrogel)2mgの混合液(0.5ml量)を動物に注射し、この混合液は皮下(S/C)で注射した。同時に、リシン(Ricin)500ng(0.5ml量)を腹腔内で(I/P)動物に注射した。上記の注射処方を2週間に1回で、4回以上繰り返した。Asc−1とリシンは滅菌PBSに溶かした。
【0112】
3.感作後の皮膚試験:感作フェーズの後で、全部のイヌを皮膚反応について評価した。上記の前感作皮膚試験で概説したようにして、全部のイヌについて皮膚試験を実施した。
【0113】
4.経口チャレンジ:最後の皮膚試験から14日後に、蒸留水1mlに溶かした回虫抽出物2mgを経口経路によりイヌに与えた。嘔吐や下痢を含む、食物アレルギーの徴候についてイヌを観察した。経口チャレンジの結果は、感作されたイヌの約50%が経口チャレンジごとにアレルギーの臨床徴候で応答することを示す。

実施例9.ノミアレルギーモデル
イヌにおけるノミアレルギー皮膚炎の発症を促進するリシンの能力を評価するために、リシンの有無でノミアレルゲンにイヌを感作させる感作プロトコールを以下のように実施する:
1.ノミを寄生させない対照としてイヌ5頭を使用する。
【0114】
2.イヌ5頭を、0日目にノミ16匹、次いで12週間(最終の寄生:84日目)、1日おきに16〜17匹以上のノミに各イヌを寄生させることによって、連続的にノミに曝露させる。全部で709匹のノミに曝す。
【0115】
3.イヌ15頭を、0日目にノミ109匹、次いで12週間、隔週で100匹のノミに各イヌを寄生させることによって、間欠的にノミに曝露させる(全部で709匹)。48時間の寄生/曝露期の後で、ノミを除去する。このことにより、再寄生の間ごとに12日間の非曝露期間が考慮される。ニテンピラム(Capstar;ノバルティスアニマルヘルス;11.4kg以下のイヌには11.4mg錠を投与し、11.4kg以上のイヌには57mg錠を投与する)の経口投与によりイヌからノミを除去する。試験により、この製品は、イヌについたノミを4時間以内に100%死滅させ、2.8時間のT1/2(半減期)で急速にイヌから消失することが確かめられた。
【0116】
4.イヌ15頭を、0日目にノミ109匹、次いで12週間、隔週で100匹のノミに各イヌを寄生させることによって、間欠的にノミに曝露させる(全部で709匹)。48時間の寄生/曝露期の後で、ノミを除去する。このことにより、再寄生の間ごとに12日間の非曝露期間が考慮される。上記のように、ニテンピラムの経口投与によりイヌからノミを除去する。ノミに曝露するだけでなく、0日目に全部のイヌにリシン(1mg/mlのストック溶液から500ngを0.5mlの滅菌生理食塩水に溶かす)を腹膜内に注射する。前感作レベル(ノミ曝露前)から(14日目に)血清IgEの力価が有意に上昇しないイヌには、28日目にリシンの第二回目注射を与える。イヌにおいて抗−ノミIgEを誘発させるには、必要に応じてリシン注射を繰り返してよい。

本明細書に引用した参項文献はすべてそのまま参照により本明細書に組込まれている。
【0117】
本発明は、本発明の個別の側面を端的に示すものとして意図されている特定の態様によって、その特許請求の範囲において制限されないし、機能的に同等な方法及び成分は本発明の特許請求の範囲内にある。実際、本発明の様々な変更は、本明細書に示されて説明されているものだけでなく、上述の説明と付帯の図面から、当業者には明らかであろう。そのような変更も本発明の特許請求の範囲内にあるとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgE分子のCH3ドメインのフラグメントを含む1以上の抗原性ペプチドを含む免疫原性組成物であって、前記1以上の抗原性ペプチドが配列番号1,2,3又は4のフラグメントのアミノ酸配列を含み、動物に投与したときアナフィラキシーを起こさない抗IgE免疫応答を誘導するものである、前記免疫原性組成物。
【請求項2】
さらにアジュバントを含む請求項1記載の組成物。
【請求項3】
抗IgE免疫応答が、血清及び他の体液中の可溶性IgEに結合し、IgEがマスト細胞及び好塩基球の上にあるその高アフィニティー受容体に結合することを防ぎ、そして受容体結合性IgEとは架橋結合しない抗IgE抗体の産生である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
抗原性ペプチドの混合物を含む請求項1記載の組成物。
【請求項5】
(a)IgE分子のCH3ドメインのフラグメントを含む1以上の抗原性ペプチドであって、配列番号1,2,3又は4のフラグメントのアミノ酸配列を含み、動物に投与したときアナフィラキシーを起こさない抗IgE免疫応答を誘導する抗原性ペプチド;及び(b)前記1以上の抗原性ペプチドにカップルした異種担体タンパク質を含む免疫原性組成物。
【請求項6】
異種担体タンパク質がKLh、PhoE、rmLT、TraT、及びBhV−1ウイルス由来のgDからなる群より選択される請求項5記載の組成物。
【請求項7】
さらにアジュバントを含む請求項5記載の組成物。
【請求項8】
IgE分子のCH3ドメインのフラグメントを含む単離された抗原性ペプチドであって、配列番号1,2,3又は4のフラグメントのアミノ酸配列を含み、動物に投与したときアナフィラキシーを起こさない抗IgE免疫応答を誘導する、前記単離された抗原性ペプチド。
【請求項9】
請求項1に記載の免疫原性組成物及びその使用説明書を含むキット。
【請求項10】
請求項5に記載の免疫原性組成物及びその使用説明書を含むキット。
【請求項11】
IgE介在アレルギー性障害の治療及び予防に用いる請求項1記載の組成物。
【請求項12】
IgE介在アレルギー性障害の治療及び予防に用いる請求項5記載の組成物。
【請求項13】
配列番号1,2,3又は4のアミノ酸配列の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなる1以上の抗原性ペプチドを含み、動物に投与したときアナフィラキシーを起こさない抗IgE免疫応答を誘導する免疫原性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2013−56904(P2013−56904A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232974(P2012−232974)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2004−244935(P2004−244935)の分割
【原出願日】平成13年8月30日(2001.8.30)
【出願人】(512268158)ピーエイエイチ・ユーエスエイ・15・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】