説明

抗MT1−MMP単鎖抗体およびそれを用いた放射性分子イメージングプローブ

【課題】癌の診断や検査に用いられる新規単鎖抗体およびそれを用いた放射性分子イメージングプローブなどを提供する。
【解決手段】MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、特定のアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、およびL鎖可変領域を含む単鎖抗体。単鎖抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドを含むベクター、ベクターで形質転換した形質転換体を用いて単鎖抗体を製造する方法。及び単鎖抗体によるがんの分子イメージングプローブ剤としての使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断や検査に用いられる新規単鎖抗体およびそれを用いた放射性分子イメージングプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
がんの浸潤、転移においてECMや基底膜の分解は必須のステップであり、MMPはこの過程を制御する重要な一連の酵素群である。MMPはその構造に基づいて分泌型と膜結合型に大別されるが、中でも膜結合型であるMT1−MMPは、(1)腫瘍形成の早期より発現しその発現が腫瘍組織に限局する、(2)I・II・III型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなど広範囲のECM構成成分に対する分解活性をもつ、(3)インテグリン、CD44などの細胞接着分子を細胞表面で制御する、(4)MMP−2、−13を細胞表面で活性化する、等の性質を有し、MT1−MMPの発現はがんの悪性度と相関することが示されてきており、MT1−MMP変異体を発現させたがん細胞では増殖性・浸潤性が顕著に抑制されることが明らかとなっている。加えて、MT1−MMPはほとんどのヒトがん組織において発現していることが示されるに至って、MT1−MMPを標的としたがんの診断法・治療法の開発が急務となっている。これまでに、MMP(特に分泌型MMP)を標的とした分子イメージングプローブの開発が積極的に進められてきているが、MT1−MMP選択的なイメージングプローブとして有効なものは未だ報告されていない。
【0003】
MT1−MMPを標的とした放射性プローブは全長のIgG抗体を用いたものが報告されている(非特許文献1、2参照)が、イメージングの指標となる腫瘍血液比は投与48時間後で1.5程度であり十分とはいえない。また、放射性核種として半減期6時間の99mTcを用いていることから、投与48時間後では放射能の減衰が著しく、現実的なイメージングへの使用に耐えない。2段階投与法(プレターゲティング法)を用いた報告(非特許文献3参照)では担がんマウスのSPECTイメージングに成功しているが、リンカーペアとして用いているストレプトアビジンは免疫原性の問題があることから臨床応用可能性が低い。
【0004】
がんを標的としたイメージングプローブとしては、細胞の糖代謝に応じて集積する18F標識フルオロデオキシグルコース(FDG)が知られているが、がん病変に特異的ではないという問題点を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Development of a radiolabeled probe for detecting membrane type-1 matrix metalloproteinase on malignant tumors. Temma T, Sano K, Kuge Y, Kamihashi J, Takai N, Ogawa Y, Saji H. Biol Pharm Bull. 2009 Jul;32(7):1272-7.
【非特許文献2】Imaging with radiolabelled anti-membrane type 1 matrix metalloproteinase (MT1-MMP) antibody: potentials for characterizing atherosclerotic plaques. Kuge Y, Takai N, Ogawa Y, Temma T, Zhao Y, Nishigori K, Ishino S, Kamihashi J, Kiyono Y, Shiomi M, Saji H. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2010 Nov;37(11):2093-104.
【非特許文献3】Radioimmunodetection of membrane type-1 matrix metalloproteinase relevant to tumor malignancy with a pre-targeting method. Sano K, Temma T, Kuge Y, Kudo T, Kamihashi J, Zhao S, Saji H. Biol Pharm Bull. 2010;33(9):1589-95.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、がん病変に特異的で、画像診断として最適な薬物動態を示し、しかも免疫原性の問題がない臨床応用に適したがんの画像診断用プローブを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ね、MT1−MMPに特異的な単鎖抗体を得ることに成功し、これらを放射性標識したものが、がんの特異的イメージング剤として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、がん病変に特異的で、画像診断として最適な薬物動態を示し、しかも免疫原性の問題がない臨床応用に適したがんの画像診断用プローブが提供される。
【0009】
したがって、本発明は下記のものを提供する:
(1)MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、配列番号:2で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:4で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体;
(2)MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、配列番号:6で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:8で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体;
(3)MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、配列番号:10で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:12で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体;
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の単鎖抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(5)(4)に記載のポリヌクレオチドを含むベクター;
(6)(5)に記載のベクターで形質転換した形質転換体;
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載の単鎖抗体の製造方法であって、(5)に記載のベクターで形質転換した形質転換体を適当な培地中で培養し、該形質転換体または培地から単鎖抗体を回収することを含んでなる方法;
(8)独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、受領番号NITE AP−1008を付与された細胞、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、受領番号NITE AP−1009を付与された細胞、または独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、受領番号NITE AP−1010を付与された細胞を適当な培地中で培養し、培地から単鎖抗体を回収することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載された単鎖抗体の製造方法;
(9)標識されている(1)〜(3)のいずれかに記載された単鎖抗体;
(10)放射性標識された(1)〜(3)のいずれかに記載の単鎖抗体を含む、がんの分子イメージングプローブ剤;
(11)(10)に記載の分子イメージングプローブ剤を含む、癌の画像診断剤またはキット;
(12)対象中のがんの存在を調べる方法であって、対象から得られた試料に(1)〜(3)のいずれかに記載の単鎖抗体を接触させることを特徴とする方法;
(13)MT1−MMPの免疫学的測定もしくは検出のための、(1)〜(3)のいずれかに記載の単鎖抗体を含むことを特徴とする試薬またはキット;
(14)MT1−MMPを免疫学的に測定または検出する方法であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の単鎖抗体を試料と接触させることを特徴とする方法;
(15)単鎖抗体が標識されている(12)また(14)に記載の方法、あるいは(13)に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の単鎖抗体の抗原固定化ELISAの結果を示す。
【図2】図2は、本発明の単鎖抗体のCell ELISAの結果を示す。
【図3】図3は、本発明の単鎖抗体の間接競合ELISAによる阻害曲線を示す。
【図4】図4は、本発明の単鎖抗体のウェスタンブロッティングの結果を示す。レーン1はMMP98−1(1μg/ml)、レーン2はMMPK9E−1(1μg/ml)、レーン3は市販抗体IgG(10μg/ml)である。
【図5】図5は、腫瘍の免疫染色(左パネル)および単鎖抗体MMPK9E−1によるオートラジオグラフィー(右パネル)の結果を示す。
【図6】図6は、本発明の単鎖抗体のフロー式免疫測定法による阻害曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。本明細書において、アミノ酸は当業者に公知の1文字表記または3文字表記で示される。特に断らないかぎり、本明細書中の他の用語についても、生物学の分野の教科書や辞書に記載されている通常の意味に解釈される。また、本明細書において、特に断らないかぎり、MT1−MMPはMT1−MMPタンパクを意味する。
【0012】
本発明は、第1の態様において、MT1−MMPに結合活性を有する新規単鎖抗体を提供する。上述のごとく、MT1−MMPは、ほとんどのヒトがん組織において発現しており、その発現ががんの悪性度と相関している。したがって、本発明の新規単鎖抗体を用いてMT1−MMPの発現を調べることによって、対象の体内のがんの存在および悪性度を知ることができる。
【0013】
1の具体例において、本発明の単鎖抗体は、MT1−MMPに結合活性を有し、配列番号:2で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:4で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む。本明細書において、この具体例の抗体を「抗体MMP98−1」と称する。
【0014】
さらなる具体例において、本発明の単鎖抗体は、MT1−MMPに結合活性を有し、配列番号:6で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:8で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む。本明細書において、この具体例の抗体を「抗体MMPK9E−1」と称する。
【0015】
さらなる具体例において、本発明の単鎖抗体は、MT1−MMPに結合活性を有し、配列番号:10で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:12で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む。本明細書において、この具体例の抗体を「抗体MMPK9I−1」と称する。
【0016】
本発明の上記単鎖抗体は、いずれもMT1−MMPに対する結合活性を有し、MT1−MMPの部分配列であるPQPRTTSRPSVPDKPKNのC末端にCysを付した配列:
PQPRTTSRPSVPDKPKNC(配列番号:13)
からなるペプチドに対して50nM以下、好ましくは40nM以下、さらに好ましくは30nM以下のKD値を示す。
【0017】
本発明は、さらなる態様において、上記の本発明の単鎖抗体と同様の特性を有する変異単鎖抗体も提供する。これらの変異単鎖抗体の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0018】
MT1−MMPに結合活性を有し、配列番号:2で示されるアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されているアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:4で示されるアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されているアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体;
MT1−MMPに結合活性を有し、配列番号:6で示されるアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されているアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:8で示されるアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されているアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体;
MT1−MMPに結合活性を有し、配列番号:10で示されるアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されているアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:12で示されるアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されているアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体;ならびに
配列番号:2、配列番号:6配もしくは列番号:10で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するH鎖可変領域と、配列番号:4、配列番号:8配もしくは列番号:12で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するL鎖可変領域の任意の組み合わせからなる単鎖抗体。
これらの単鎖抗体は、配列番号:13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対して50nM以下、好ましくは40nM以下、さらに好ましくは30nM以下のKD値を示す。
【0019】
がんの画像診断あるいはMT1−MMPの測定または検出といった観点から、上記の単鎖抗体が検出可能な様式で標識されていることが好ましい。抗体の標識法は当業者に公知であり、適宜選択して抗体を標識することができる。抗体の標識法としては、例えば、FITCなどを用いる蛍光標識法、ペルオキシダーゼなどを用いる酵素標識法、99mTcや111Inなどを用いる放射性標識法、ビオチン標識法などが挙げられる。本発明の単鎖抗体は分子サイズがIgGの約5分の1であり、体内動態が改善されている。そこで、放射性標識に用いる放射性核種としては、SPECT用とする場合には半減期が約3日である111Inが使い易い。なお、本明細書において、本発明の単鎖抗体という場合には、標識されている本発明の単鎖抗体も包含する。
【0020】
さらに、放射性標識をする場合において、放射性標識により標的認識機能が損なわれないよう、二官能性キレート導入用のリジン残基を複数個、抗体のC末端に導入することが好ましい。したがって、111Inにて標識されており、リジン残基を複数個C末端に導入されている本発明の単鎖抗体は、イメージングに必要な高い腫瘍血液放射能比を投与早期から得ることができるので、特に好ましいものである。
【0021】
本発明の単鎖抗体は、当業者に公知の方法、例えば、ファージディスプレイ法やハイブリドーマ法を用いて得ることができる。これらの方法に公知の遺伝子操作技術をさらに組み合わせることもできる。これらの方法の詳細は、実施例を参照されたい。ただし、本発明の単鎖抗体を得る方法は、上記方法に限定されないことはいうまでもない。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、上で説明した本発明の単鎖抗体または変異単鎖抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。さらに本発明は、もう1つの態様において、該ポリヌクレオチドを組み込んだベクター、ならびに該ベクターにて形質転換された細胞を提供する。
【0023】
かかるポリヌクレオチドは、上記のH鎖可変領域およびL鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドのほか、リンカー配列、Hisタグ配列、V5タグ配列など(これらの配列に限定されない)をコードするポリヌクレオチド含んでいてもよい。
【0024】
本発明の単鎖抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターまたはクローニングベクターに組み込んで適当な細胞に導入して形質転換し、形質転換細胞を適当な培地にて培養し、産生された単鎖抗体を培地から回収することにより、本発明の単鎖抗体、すなわち単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1および単鎖抗体MMPK9I−1を得ることができる。細胞の種類の選択、細胞の形質転換法、細胞の培養法、培地からの単鎖抗体の回収および精製のための手段・方法は当業者に公知であり、当業者は目的に応じてこれらの方法を適宜選択して用いることができる。例えば、細胞へのポリヌクレオチドの導入にはPEGおよびCaイオンを用いてベクターを導入する方法、エレクトロポーレーション法、遺伝子銃を用いる方法などがある。
【0025】
上記の変異単鎖抗体についても、それらのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて、同様の手段・方法にて得ることができる。
【0026】
なお、単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1および単鎖抗体MMPK9I−1をコードするポリヌクレオチドをベクターに組み込み、これらを用いて昆虫細胞を形質転換することにより、単鎖抗体MMP98−1を産生する細胞(出願人においてMMP98−0と命名)、単鎖抗体MMPK9E−1を産生する細胞(出願人においてMMPK9E−0と命名)および単鎖抗体MMPK9I−1を産生する細胞(出願人においてMMPK9I−0と命名)を得た。これらの単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1および単鎖抗体MMPK9I−1を産生する細胞は、それぞれ、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、2010年12月2日に受領番号NITE AP−1008、NITE AP−1009およびNITE AP−1010を付与された。これらの細胞を適当な培地中で培養し、培地から単鎖抗体を回収することによっても、本発明の単鎖抗体、すなわち単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1および単鎖抗体MMPK9I−1を得ることができる。
【0027】
さらなる態様において、本発明は、放射性標識された本発明の単鎖抗体を含む、がんの分子イメージングプローブ剤を提供する。すなわち、放射性標識された本発明の単鎖抗体を用いて、がんを画像診断することができる。放射性標識としては、SPECT用には111In、99mTc、67Ga、201Tl、123I、133Xeなどのγ線放出核種を用いることができるが、これらの核種に限定するものではない。また、PET用には11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、76Brなどの陽電子放出核種を標識に用いることができるが、これらの核種に限定するものではない。
【0028】
111Inにて標識されており、リジン残基を複数個C末端に導入されている本発明の単鎖抗体は、イメージングに必要な高い腫瘍血液放射能比を投与早期から得ることができるので、がんの画像診断に特に好ましいものである。
【0029】
本発明のがんの分子イメージングプローブ剤は、放射性標識された本発明の単鎖抗体のほか、通常使用される賦形剤や担体を含みうる。これらの賦形剤や担体も公知であり、当業者は目的に応じて適宜選択して用いることができる。本発明の分子イメージングプローブ剤の剤形はいずれの剤形であってもよいが、注射剤や輸液剤の形態が好ましい。本発明のがんの分子イメージングプローブ剤は、使用前に本発明の単鎖抗体を放射性核種にて標識してから用いるのが一般的である。本発明の単鎖抗体の放射性核種での標識方法は公知の方法を用いて行い得る。111Inでの標識の具体例については本明細書の実施例を参照されたい。本発明のがんの分子イメージングプローブ剤を用いて、対象中のがんの存在、その部位、およびがんの悪性度を調べることができる。
【0030】
本発明のがんの分子イメージングプローブ剤の用例を説明すると、本発明のがんの分子イメージングプローブ剤を対象に注射(局所投与、全身投与いずれでもよい)、輸液等の手段にて投与し、適当時間経過後、例えば投与後1〜24時間経過後にSPECTまたはPETにて放射線を測定することにより、対象におけるがんの存在、その部位、およびがんの悪性度を調べることができる。がんの診断の場合には、正常対象との比較を行うことが望ましい。また、対象におけるがんの経過や予後を見る場合には、経時的に検査を行うことが望ましい。これらの診断、検査の方法、手技は、通常のガンの診断、検査、ならびに通常の画像診断の方法、手技と基本的に変わることはない
【0031】
本発明は、さらなる態様において、上記分子イメージングプローブ剤を必須構成成分として含む、癌の画像診断剤またはキットを提供する。通常の場合、キットには取扱説明書を添付する。
【0032】
さらなる態様において、本発明は、対象中のがんの存在または悪性度を調べる方法であって、対象に本発明の単鎖抗体を投与し、対象中のMT1−MMPに結合した本発明の単鎖抗体の量を調べることを特徴とする方法を提供する。この方法において、好ましくは本発明の単鎖抗体は放射性核種にて標識されている。
【0033】
さらなる態様において、本発明は、対象中のがんの存在または悪性度を調べる方法であって、対象から得られた試料に(1)〜(3)のいずれか1項に記載の単鎖抗体を接触させ、該試料中のMT1−MMPの存在または量を測定することを特徴とする方法を提供する。この方法において、本発明の単鎖抗体は標識されていることが好ましい。かかる標識としては酵素標識、蛍光標識、放射性標識などが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、接触とは、試料中のMT1−MMPと本発明の単鎖抗体を結合可能な状況に置くことをいい、例えば、試料溶液と本発明の単鎖抗体を混合し、室温または動物の体温付近の温度にて適当時間インキュベートすることであってもよい。
【0034】
本発明は、もう1つの態様において、MT1−MMPを免疫学的に測定、検出もしくは捕獲するための、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の単鎖抗体を含むことを特徴とする試薬またはキットを提供する。該試薬またはキットを用いて、試料中のMT1−MMPを捕獲したり、存在や量を調べたりすることができる。このような測定や検出を目的とする試薬やキットにおいては、本発明の単鎖抗体は標識されていることが好ましい。かかる標識としては酵素標識、蛍光標識、放射性標識などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明は、もう1つの態様において、MT1−MMPを免疫学的に測定、検出もしくは捕獲する方法であって、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の単鎖抗体を試料と接触させることを特徴とする方法を提供する。このような測定や検出方法においては本発明の単鎖抗体は標識されていることが好ましい。かかる標識としては酵素標識、蛍光標識、放射性標識などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0037】
(1−1)ペプチドコンジュゲートの調製
MT1−MMPヒンジ領域に含まれるアミノ酸配列を有するヒンジ領域ペプチドを合成し、リンカーSulfo−EMCS(PIERCE社製)を用いて、キャリアータンパク質と結合させ、ペプチドコンジュゲートを合成した。
【0038】
(1−2)マウスの免疫
得られたコンジュゲートを免疫原として、マウスを免疫した。
前記ペプチドコンジュゲートと、アジュバントRASR−700(RIBI社)とを1:1容量に混合して十分に乳化させ、得られた乳化液をBALB/cマウス(7〜8週齢、雌)の腹腔内に200μL投与する事によりマウスを免疫感作した。追加免疫は、約2〜3週間間隔で行い、追加免疫から1週間経過後に尾静脈より採血し、ELISA法により血中抗体価を測定して免疫原に対する抗体価の推移を観察した。
【0039】
(1−3)ハイブリドーマの作製
血中に免疫原に対する高い抗体産生が認められたマウス尾静脈内に、さらに免疫原を投与して最終免疫を行った。最終免疫から3日後に、免疫した前記マウスより脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製し、対数増殖期にあるミエローマ細胞(P3−X63−Ag8.653あるいはSp2/O)と脾臓細胞を1:5になるように混合し、ポリエチレングリコール(PEG)法にて細胞融合を行った。融合後の細胞を、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン)添加の10% FCS含有RPMI 1640培地中に懸濁させ脾臓細胞数で1〜2×10細胞/ウエルになるように96ウエル培養プレートに播種し、37℃、5% CO下で培養した。
【0040】
(1−4)抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニング
細胞融合より7〜10日後に、クローンの増殖が見られたウエルの培養上清を用いてELISA法にて抗体価を測定した。
【0041】
(1−5)抗体産生ハイブリドーマのスクリーング(抗体価の測定)
マイクロタイタープレート(CORNING社製)の各ウエルに、0.25〜1μg/mLの各免疫原のPBS(−)希釈溶液50μLを加え、室温で1時間静置して固相化した。また、前記ペプチドコンジュゲート中のキャリアータンパク質に対する抗体産生クローンを除外する為に、BSA、又はKLHを固定化したウエルを対照として用いた。0.05% Tween 20を含むPBS(−)(洗浄液)300μLで各ウエルを3回洗浄した後、ブロックエース粉末(雪印社製、UK−B80)1gを100mLの精製水にて溶解させた溶液(ブロッキング試薬)300μLをウエルに添加し、室温で2時間静置してブロッキングを行った。ウエルを洗浄液300μLで3回洗浄後、1次抗体を含む培養上清50μLを各ウエルに添加して混和した後、室温条件下で30〜60分間静置して反応を行わせた。次いで、洗浄液300μLで各ウエルを3回洗浄した後、固相化した各免疫原に結合した1次抗体を検出するために、ブロックエース粉末0.4gを100mLの精製水にて溶解させた溶液(2次抗体希釈液)にて3000倍希釈に調製した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(γ鎖認識)(KPL社製)を2次抗体溶液として50μL加えて、室温で1時間反応させた。ウエルを洗浄液300μLで同様に3回洗浄した後、3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)溶液(KPL社製)を各ウエルに加え、室温条件下にて発色反応を行った。5〜15分間後に1Mリン酸50μLを加えて反応停止し、マイクロプレートリーダー(マルチスキャンMS、Labsstems社製)にて直ちに450nm(対照:OD650)の吸光度を測定した。各免疫原を固定化したウエルと対照ウエルとの吸光度差を、前記免疫原に対する抗体の結合活性とした。
【0042】
(1−6)間接競合法による特異抗体産生クローンの選抜
前記(1−5)に従い、マイクロタイタープレートの各ウエルに各免疫原を固相化し、洗浄ののち精製水で4倍希釈したブロックエース溶液300μLをウエルに添加し、室温で2時間静置してブロッキングを行った。ウエルを洗浄液300μLで3回洗浄した。
次いで、PBS(−)で調製したヒンジ領域ペプチド溶液を用意し、各々25μLを、免疫原固相化プレートの各ウエルに加えた。次に、ハイブドーマ培養上清25μLをウエル内に添加して混和した後、室温条件下で30〜60分間静置して反応を行わせた。
洗浄液300μLで各ウエルを3回洗浄した後、固相化免疫原に結合した1次抗体を検出するために2次抗体希釈液にて3000倍希釈に調製した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(γ鎖認識)を2次抗体溶液として50μL加え、室温条件下で1時間反応させた。
ウエルを洗浄液300μLで同様に3回洗浄したのち、TMB溶液を各ウエルに加えて室温で発色反応を行った。5〜15分間後に1M リン酸50μLを加えて反応停止し、マイクロプレートリーダー(マルチスキャンMS、Labsystems社製)にて直ちに450nm(対照:OD650)の吸光度を測定した。対照ウエルの吸光度値(コントロールOD;B0) に対するヒンジ領域ペプチド共存下のウエル吸光度値(B)の割合(B/B0)を算出し、共存物質に対する抗体の反応性を判断した。ヒンジ領域ペプチドに対する結合活性が高く、かつ継続的に高い抗体産生が確認されたウエルのハイブリドーマ66C及びハイブリドーマ19Bを選抜し、限界希釈法によるクローニングに供した。
【0043】
(1−7)mRNAの精製とcDNA合成
前記(1−6)で選抜したハイブリドーマ66C及びハイブリドーマ19Bを、5%CO通気条件下、10% FCSを含有するRPMI 1640培地中で増殖させた。対数増殖期にある約1x10個の細胞から、QuickPrep Micro mRNA Purification Kit(GEヘルスケア社製)を用いてpoly(A)RNAを精製した。次いで、スーパースクリプトIII逆転写酵素(インビトロジェン社製)を用いて常法に従いファーストストランドcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型とし、Mouse Ig−Primer Set(Novagen社製)およびTaq DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems社製)を用いてIg−Primer Setの添付書類で推奨されている条件によりP C R を行い、抗体遺伝子可変領域遺伝子DNAを増幅した。
【0044】
(1−8)塩基配列の決定とアミノ酸配列の解析
前記(1−7)で増幅された抗体遺伝子可変領域遺伝子DNAについて、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v3.1(Applied Biosystems社製)によりシークエンス反応を行った。次いで、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)にて配列を解析した。塩基配列の解析ならびにアミノ酸配列の推定および解析には、解析ソフトDNAsis(日立ソフトエンジニアリング)を使用した。また、配可変領域の特定には、ImMunoGeneTicsデータベース(http://imgt.cines.fr)を利用した。その結果、得られた抗体遺伝子のH鎖およびL鎖可変領域をコードするcDNAの塩基配列およびその推定アミノ酸配列は以下のとおりであった。
【0045】
ハイブリドーマ66Cで生成した抗体(抗体K9E)のH鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:配列番号:5

CAGATCCAGTTGGTGCAGTCTGGACCTGAGCTGAAGAAGCCTGGAGAGACAGTCAAGATCTCCTGCAAGGCTTCTGGCTATACCTTCACAAGCTATGCATTGCACTGGGTGAAGCAGGCTCCAGGAAAGGGTTTAAAGTGGATGGGCTGGAAATACACCAACACTGGAGAGCCAACATATGGTGATGACTTCAAGGGACGGTTTGCCTTCTCTTTGGAAACCTCTGCCAGCACTGCCTATTTGCAGATTAACAACCTCAAAAATGAGGACATGGCTACATATTTCTGTGCAAGAGGGGGACTTAGTTCCTATGCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCTCA
【0046】
ハイブリドーマ66Cで生成した抗体(抗体K9E)のH鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号:6

QIQLVQSGPELKKPGETVKISCKASGYTFTSYALHWVKQAPGKGLKWMGWKYTNTGEPTYGDDFKGRFAFSLETSASTAYLQINNLKNEDMATYFCARGGLSSYAMDYWGQGTSVTVSS
【0047】
ハイブリドーマ66Cで生成した抗体(抗体K9E)のL鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:配列番号:7

GACATTGTGATGTCACAGTCTCCATCCTCCCTGGCTGTGTCAGCAGGAGAGAAGGTCACTATGAGCTGCAAATCCAGTCAGAGTCTGCTCAACAGTAGAACCCGAAAGAACTACTTGGCTTGGTACCAGCAGAAACCAGGGCAGTCTCCTAAACTGCTGATCTACTGGGCATCCACTAGGGAATCTGGGGTCCCTGATCGCTTCACAGGCACTGGATCTGGGACAGATTTCACTCTCACCATCAGCAGTGTGCAGGCTGAAGACCTGGCAGTTTATTACTGCAAGCAATCTTATAATCTTCTGGTCACGTTCGGTGCTGGGACCAAGCTGGAGCTGAAACGG
【0048】
ハイブリドーマ66Cで生成した抗体(抗体K9E)のL鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号:8

DIVMSQSPSSLAVSAGEKVTMSCKSSQSLLNSRTRKNYLAWYQQKPGQSPKLLIYWASTRESGVPDRFTGTGSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCKQSYNLLVTFGAGTKLELKR
【0049】
ハイブリドーマ19Bで生成した抗体(抗体K9I)のH鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:配列番号:9

CAGGTTCAACTGCAGCAGTCTGGGGCTGAGCTGGTGAGGCCTGGGGCTTCAGTGACGCTGTCCTGCAAGGCTTCGGGCTACAGATTTACTGACTATGAAATGCACTGGGTGAGGCAGACACCTGTGCATGGCCTGGAATGGATTGGAGCTATTGATCCTGAAACTGGTGGTACTGCCTACAATCAGAAGTTCAAGGGCAAGGCCACACTGACTGAAGACAAATCCTCCAGCACAGCCTACATGGAGCTCCGCAGCCTGACATCTGAGGACTCTGCCGTCTATTACTGTACAACTATGATTACGACAGCTCTGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCTCA
【0050】
ハイブリドーマ19Bで生成した抗体(抗体K9I)のH鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号:10

QVQLQQSGAELVRPGASVTLSCKASGYRFTDYEMHWVRQTPVHGLEWIGAIDPETGGTAYNQKFKGKATLTEDKSSSTAYMELRSLTSEDSAVYYCTTMITTALDYWGQGTSVTVSS
【0051】
ハイブリドーマ19Bで生成した抗体(抗体K9I)のL鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:配列番号:11

GATGTTTTGATGACCCAAACTCCACTCTCCCTGCCTGTCAGTCTTGGAGATCAAGCCTCCATCTCTTGCAGATCTAGTCAGAGCATTGTACATAGTGATGGAAACACCTATTTAGAATGGTACCTGCAGAAACCAGGCCAGTCTCCAAAGGTCCTGATCTACAAAGTTTCCAACCGATTTTCTGGGGTCCCAGACAGGTTCAGTGGCAGTGGATCAGGGACAGATTTCACACTCAAGATCACCAGAGTGGAGGCTGAGGATCTGGGAGTTTATTACTGCTTTCAAGGTTCACATGTTCCGTACACGTTCGGAGGGGGGACCAAGCTGGAAATAAAACGG
【0052】
ハイブリドーマ19Bで生成した抗体(抗体K9I)のL鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号:12

DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSIVHSDGNTYLEWYLQKPGQSPKVLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKITRVEAEDLGVYYCFQGSHVPYTFGGGTKLEIKR
【0053】
(1−9)単鎖抗体発現ベクターの作製
抗体IgGのH鎖およびL鎖の可変領域遺伝子cDNAを、PCRを用いてリンカー配列をコードするDNAにより連結し、これらをプラスミドベクターpMIB/V5−His(インビトロジェン社製)の制限酵素サイトSfiI−NotI間に挿入後、常法に従いクローニングし、ハイブリドーマ66Cに由来するものを単鎖抗体発現ベクターpMIB−MMPK9Eとし、ハイブリドーマ19Bに由来するものを単鎖抗体発現ベクターpMIB−MMPK9Iとした。
【実施例2】
【0054】
(2−1)単鎖抗体遺伝子ライブラリーの作製
脾臓細胞などの生体内で抗体産生を行っている細胞から抗体遺伝子ライブラリーを作製し、抗体遺伝子がコードする組換抗体をファージ表面に提示させ、目的の抗原と反応性を有する組換抗体の遺伝子を取得する方法として、ファージディスプレイ法が以前から知られている。前記(1−2)のMT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲート免疫マウスを用いて、抗体遺伝子ライブラリーを作製し、ファージディスプレイ法により抗MT1−MMP単鎖抗体のスクリーニングを行った。ライブラリー作製とファージディスプレイ法については、MaCafferty J., Hoogenboom H.R.,Chiswell D.J., Antibody Engineering, (Oxford University Press)およびKontermann R., Dubel S., Antibody Engineering, (Springer)を参考に行った。
【0055】
前記(1−2)で免疫したマウス脾臓細胞よりセパゾール RNA I Super(ナカライ社製)を用いtotal RNAを抽出し、このtotal RNAからmRNA Purification Kit(GEヘルスケア社製)によりmRNAを精製した。調製したmRNA用い、前期(1−7)と同様の逆転写反応によりファーストストランドcDNA合成を行った。ファーストストランドcDNAを鋳型とし、マウス抗体遺伝子特異的なプライマーを用いたPCRにより抗体IgGのH 鎖およびL 鎖の可変領域遺伝子DNAを増幅した。前記(1−9)同様、H鎖およびL鎖の可変領域遺伝子DNAを、PCRを用いてリンカー配列をコードするDNAにより連結した。これらをファージミドベクターpCANTAB5Eの制限酵素サイトSfiI−NotI間に挿入後、これらにより大腸菌TG1株を常法に従い形質転換した。形質転換した大腸菌は100μg/mlのアンピシリンを含む2×YT寒天培地にプレーティングし、30℃で終夜培養した。増殖した菌体は、数mlの培地を加え、コンラージ棒でかき取り回収した後、M13KO7ファージによるファージレスキューを行なった。100μg/mlのアンピシリンと2%のグルコースを含む2×YT培地によりOD600=0.3に調整した大腸菌の培養液、総量35mlを37℃で1時間振とう培養した後、M13KO7ファージを終濃度4×10pfu/mlとなるよう添加し、さらに37℃で1時間振とう培養した。その後、遠心分離により菌体を回収し、アンピシリン100μg/mlとカナマイシン50μg/mlを含む2×YT培地40mlに再懸濁し37℃で終夜培養し、培地中に単鎖抗体提示ファージを産生させた。ファージはポリエチレングリコール沈殿により回収し、これを単鎖抗体遺伝子ライブラリーとした。終夜培養後の培養液を遠心分離により菌体を除いた培養上清を回収し、培養12.5mlに対し、2.5M NaCl含有20%ポリエチレングリコール溶液2.5mlを加え混和した。氷上で1時間静置した後、冷却下10000Gで20分間遠心分離した。上静を完全に捨て2×YT培地1mlに再けん濁し単鎖抗体提示ファージ溶液とした。
【0056】
(2−2)ファージディスプレイ法によるスクリーニング
調製した単鎖抗体提示ファージ溶液から、抗原に対する反応性の高いものを濃縮するため、バイオパニングを行った。MT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲートを固相化し、ブロックエースでブロッキングした96穴マイクロタイタープレートに、調製した単鎖抗体提示ファージ溶液を100μL/well入れ、室温で1時間静置した。反応の後、溶液を除き、洗浄液300μLで3回洗浄し洗浄液を完全に除いたのち、0.1Mグリシン-塩酸緩衝液pH2.2を加え、10分間静置後、ピペッティングした後これを回収し、直ちにトリス溶液pH8.0で中和した。
濃縮した単鎖抗体提示ファージを、再感染とファージレスキューにより増幅した。回収した溶液は2×YT培地10mL中でOD600=0.3まで培養した大腸菌TG1の培養液に混和し、37℃で1時間培養し再感染させた。再感染後、ファージレスキューのために、アンピシリンが終濃度100μg/mL、グルコースが終濃度2%、M13KO7ファージが終濃度4×10pfu/mLとなるようそれぞれの溶液を添加し、さらに37℃で培養した。1時間の培養後、遠心分離により菌体を回収し、アンピシリン100μg/mLとカナマイシ50μg/mLを含む2×YT培地10mLに再懸濁し37℃で終夜培養し、培地中に単鎖抗体提示ファージを産生させた。増幅したファージは再びポリエチレングリコール沈殿により回収した。バイオパニングによる濃縮と再感染、ファージレスキューによる増幅を3〜5回繰り返し、バイオパニング後のファージを大腸菌TG1に感染させ、これを寒天平板培地にプレーティングし、30℃で終夜培養しコロニーを形成させた。
【0057】
(2−3)バイオパニング後の単鎖抗体提示ファージの反応性評価
バイオパニングにより得られた単鎖抗体提示ファージの、固相化抗原に対する反応性をELISAにより評価した。
マイクロタイタープレートにMT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲート50μLを加え、室温1時間反応させた。対照にはPBS(−)を用いた。洗浄液で洗浄した後、ブロックエースによりブロッキングした。マイクロタイタープレートのウエルを洗浄後、0.1%ブロックエースで調製した単鎖抗体提示ファージ溶液50μLを添加し、室温1時間反応させた。ウエルを洗浄した後、5000倍希釈したパーオキシダーゼ標識抗M13抗体(アマシャム バイオサイエンス 社製)を加えて、室温1時間反応させた。マイクロプレートを洗浄し未反応液を十分除いた後、基質溶液(TMB substrate,KPL社製)50μLを加え、室温で5〜15分間反応させた後、1M リン酸溶液 50μLを添加して反応を停止した。プレートリーダー(Labsystems社製)により吸光度OD450(対照:OD650)を測定した。その結果、クローン番号98の単鎖抗体提示ファージが固相化抗原と反応性を有することを見出した。
【0058】
(2−4)塩基配列の決定とアミノ酸配列の解析と単鎖抗体発現ベクター作製
ELISAで固相化抗原と反応したクローン番号98の単鎖抗体提示ファージクローン遺伝子の配列を解析した。シークエンスは前記(1−8)同様に、ダイターミネーター法によって行った。その結果、抗体H鎖及びL鎖可変領域の遺伝子配列を有していることが確認された。解析結果を以下に示す。
【0059】
発現した単鎖抗体(単鎖抗体MMP98)のH鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:配列番号:1

GAGGTTCAGCTTCAGCAGTCTGGACCTGAACTGAAGAAGCCTGGAGAGACAGTCAAGATCTCCTGCAAGGCTTCTGGGTATCCCGTCACAAAGTACGGAATGAACTGGGTGAAGCAGGCTCCAGGAAAGGGTTTAAAGTGGATGGGCTGGATAAACACGTACACTGGAGAGCCAACATATACTGATGACTTCAAGGGACGATTTGCCTTCTCTTTGGAAACCTCTGCCAACACTGCCTATTTGCAGATCAACAACCTCAAAGATGAGGACACGGCTACATATTTCTGTGCAAACTCCCACGGTAAATACGTGGAATGGTTTACTTACTGGGGCCAAGGGACCACGGTCACCGTCTCTTCC
【0060】
発現した単鎖抗体(単鎖抗体MMP98)のH鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号:2

EVQLQQSGPELKKPGETVKISCKASGYPVTKYGMNWVKQAPGKGLKWMGWINTYTGEPTYTDDFKGRFAFSLETSANTAYLQINNLKDEDTATYFCANSHGKYVEWFTYWGQGTTVTVSS
【0061】
発現した単鎖抗体(単鎖抗体MMP98)のL鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:配列番号:3

GACATTGAGCTCACCCAGTCTCCAACCACCATGGCTGCATCTCCCGGGGAGAAGATCACTATCACCTGCAGTGCCAGCTCAAGTATAAGTTCCAATTACTTGCATTGGTATCAGCAGAAGCCAGGATTCTCCCCTAAACTCTTGATTTATAGGACATCCAATCTGGCTTCTGGAGTCCCAGCTCGCTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGGACCTCTTACTCTCTCACAATTGGCACCATGGAGGCTGAAGATGTTGCCACTTACTACTGCCAGCAGGGTAGTAGTATACCACTCACGTTCGGTGCTGGGACCAAGCTGGAGCTGAAACGG
【0062】
発現した単鎖抗体(単鎖抗体MMP98)のL鎖可変領域のアミノ酸配列:配列番号:4

DIELTQSPTTMAASPGEKITITCSASSSISSNYLHWYQQKPGFSPKLLIYRTSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTIGTMEAEDVATYYCQQGSSIPLTFGAGTKLELKR
【0063】
クローン番号98のファージミドより制限酵素SfiI、NotIにより単鎖抗体遺伝子を切り出し、プラスミドベクターpMIB/V5−His(インビトロジェン社製)の制限酵素サイトSfiI−NotI間に挿入後、常法に従いクローニングし、単鎖抗体発現ベクターpMIB−MMP98とした。
【実施例3】
【0064】
(3−1)組換え単鎖抗体発現細胞株の作製
遺伝子導入キット InsectSelectTM BSD System(インビトロジェン社製)を用いて、昆虫細胞 High Five(インビトロジェン社製)に単鎖抗体発現ベクターを導入し、培養培地(抗生物質不含)にて48時間培養した後、培養培地(抗生物質含有)にて細胞を1/5濃度に希釈し、培養デッシュに播種した。5、6時間静置、細胞が底面に付着した事を確認し、培地を除去した。選択培地(20μg/mlブラストシジン(インビトロジェン))に交換し、4日間培養した。選択培地の添加により、遺伝子が導入されていない細胞な死滅した。抗原固定化ELISA法で培養上清の評価をおこない、陽性クローンを選抜した後、限界希釈法により単クローン化し、単鎖抗体安定発現細胞株を樹立した。樹立した細胞株はそれぞれ単鎖抗体発現ベクターpMIB−MMP98を導入したものを単鎖抗体発現細胞株MMP98−0、単鎖抗体発現ベクターpMIB−MMPK9Eを導入したものを単鎖抗体発現細胞株MMPK9E−0、単鎖抗体発現ベクターpMIB−MMPK9Iを導入したものを単鎖抗体発現細胞株MMPK9I−0とし、いずれも独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託し、それぞれ、2010年12月2日に受領番号NITE AP−1008、NITE AP−1009、NITE AP−1010を付与された。
【実施例4】
【0065】
(4−1)精製単鎖抗体の調製
前記(3−1)で樹立した単鎖抗体発現細胞株を約1Lスケールで培養し、細胞濃度が2×10cells/mlに到達した時点で培養上清を回収した。回収した培養上清から、2種類の金属キレートカラムを用いたアフィニティー精製により単鎖抗体を調製した。
まず、担体Ni Sepharose 6Fast Flow(GEヘルスケア)1mlをPD10カラム(GEヘルスケア)に充填した。カラムをPBS(−)にて平衡後、培養上清1Lをアプライした。10mlのPBS(−)、10mlの20mMイミダゾール、0.3mM塩化ナトリウム、50mMリン酸二水素緩衝液(pH8.3)の順に洗浄をおこなった。3mlの500mMイミダゾール、0.3mM塩化ナトリウム、50mMリン酸二水素緩衝液(pH8.3)で溶出をおこない、単鎖抗体画分を得た。単鎖抗体画分を0.3mM塩化ナトリウム、50mMリン酸二水素緩衝液(pH8.3)にて透析をおこなった。
【0066】
次いで、担体TARON Metal Affinity Resin(Clontech)5mlをPD10カラム(GEヘルスケア)に充填した。カラムを0.3mM塩化ナトリウム、50mMリン酸二水素緩衝液(pH8.3)にて平衡後、透析後の抗体溶液をアプライした。50mlの10mMイミダゾール、0.3mM塩化ナトリウム、50mMリン酸二水素緩衝液(pH8.3)で洗浄をおこなった。20mlの500mMイミダゾール、0.3mM塩化ナトリウム、50mMリン酸二水素緩衝液(pH8.3)で溶出をおこない、単鎖抗体画分を得た。単鎖抗体画分をPBS(−)にて透析をおこない単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1、単鎖抗体MMPK9I−1の精製単鎖抗体とした。
【実施例5】
【0067】
精製単鎖抗体のELISAによる評価
得られた精製単鎖抗体の免疫測定法における適性を評価するため、抗原固定化ELISA法、Cell ELISA法、間接競合ELISA法の3種類のELISAを行った。また、比較対象には市販のマウス抗MT1−MMPモノクローナル抗体を用いた。
【0068】
(5−1)抗原固定化ELISA
PBS(−)にて0.5μg/mlに調製したMT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲート溶液50μlを96ウエル プレート(Costar社製)の各ウエルに添加し、室温にて1時間静置した。ウエルを300μlの洗浄液(0.05% Tween20含有PBS(−))にて3回洗浄した後1%ブロックエース(雪印社製)250μlを添加し、室温で2時間ブロッキングをおこなった。洗浄液にてウエルを洗浄後、50μlの単鎖抗体溶液(0.1μg/ml、PBS(−)にて調製)をウエルに添加し、室温、30分間反応させた。ウエルを洗浄し、単鎖抗体を添加したウエルには0.1%ブロックエースにて2000倍希釈した抗4×ヒスチジン抗体(キアゲン社製)50μlを添加、市販抗体を添加したウエルには、0.1%ブロックエース(ミリQ水にて調製)にて3000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社製)50μlを添加、室温、1時間間反応させた後、再度、ウエルを洗浄した。単鎖抗体を添加したウエルには、0.1%ブロックエースにて3000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社製)50μlを添加、室温、1時間反応させた。市販抗体を添加したウエルには、基質としてTMB Microwell Peroxdase Substrate(KPL社製)50μlを添加し、室温、10分間反応させた後、1Mリン酸50μlを添加し反応を停止した。プレートリーダーで各ウエルの吸光度(測定波長: 450nm、対象波長:650nm)を測定した。単鎖抗体を添加したウエルを洗浄し、市販抗体と同様にTMBを添加し、吸光度を測定した。
【0069】
結果を表1、図1に示した。いずれの単鎖抗体も市販抗体と比較しMT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲートの固相化抗原に対して高い反応性が確認された。
【表1】

【0070】
(5−2)Cell ELISA
ヒト乳腺ガン細胞、MDA−MB−231を96ウエルプレートに1×10cell/ウエルで播種、一晩培養をおこなった。300μlの%FBS含有、PBS(−)にて3回洗浄した後、50μlの抗体溶液(0.1μg/ml、PBS(ー)にて調製)をウエルに添加し、室温、30分間反応させた。さらに、ウエルを洗浄し、単鎖抗体を添加したウエルには0.1%ブロックエースにて2000倍希釈した抗4×ヒスチジン抗体(キアゲン社製)50μlを添加、市販抗体を添加したウエルには、0.1%ブロックエースにて3000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社製)50μlを添加、室温、1時間間反応させた後、再度、ウエルを洗浄した。単鎖抗体を添加したウエルには、0.1%ブロックエースにて3000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社製)50μlを添加、室温、1時間反応させた。市販抗体を添加したウエルには、基質としてTMB Microwell Peroxdase Substrate(KPL社製)50μlを添加し、室温、10分間反応させた後、1Mリン酸50μlを添加し反応を停止した。プレートリーダーで各ウェルの吸光度(測定波長:450nm、対象波長:650nm)を測定した。単鎖抗体を添加したウエルを洗浄し、市販抗体と同様にTMBを添加し、吸光度を測定した。
【0071】
結果を表2、図2に示した、いずれの単鎖抗体も市販抗体と比較しヒト乳腺ガン細胞、MDA−MB−231表面抗原に対して高い反応性が確認された。
【表2】

【0072】
(5−3)間接競合ELISA
MT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲート(0.5μg/ml、PBS(−)にて調製)50μlを96ウエル プレート(Costar社製)の各ウエルに添加し、室温、1時間静置した。ウエルを300μlの洗浄液(0.05% Tween20含有PBS(−))にて3回洗浄した後1%ブロックエース(雪印社製)250μlを添加し、室温、2時間ブロッキングをおこなった。洗浄液にてウエルを洗浄後、MT1−MMPペプチド(400μg/mlから5倍、9段階希釈PBS(−)にて希調製)25μlと抗体(0.2μg/ml、PBS(−)にて調製)25μlを添加し、室温、30分間反応させた。さらにウエルを洗浄し、単鎖抗体を添加したウエルには0.1%ブロックエースにて2000倍希釈した抗4×ヒスチジン抗体(キアゲン社製)50μlを添加、市販抗体を添加したウエルには、0.1%ブロックエースにて3000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社製)50μlを添加、室温、1時間間反応させた後、再度、ウエルを洗浄した。単鎖抗体を添加したウエルには、0.1%ブロックエースにて3000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体(KPL社製)50μlを添加、室温、1時間反応させた。市販抗体を添加したウエルには、基質としてTMB Microwell Peroxdase Substrate(KPL社製)50μlを添加し、室温、10分間反応させた後、1Mリン酸50μlを添加し反応を停止した。プレートリーダーで各ウエルの吸光度(測定波長:450nm、対象波長:650nm)を測定した。単鎖抗体を添加したウエルを洗浄し、市販抗体と同様にTMBを添加し、吸光度を測定した。
【0073】
結果を表3、図3に示した。単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9I−1が市販抗体と比較し、抗原ペプチドに対する反応性が高いと確認され、単鎖抗体MMPK9E−1は市販抗体とほぼ同等であった。
【表3】

【実施例6】
【0074】
ウェスタンブロッティング
実施例4で調製した単鎖抗体の反応性がMT1−MMP特異的であるか検討するため、MT1−MMP発現細胞を用い、ウェスタンブロッティングを行った。ウェスタンブロッティングの方法はタンパク質・酵素の基礎実験法 堀尾武一編 南江堂出版を参照した。ヒト乳腺ガン細胞MDA−MB−231のセルライゼートをPBS(−)にて蛋白質濃度2mg/mlに調製し、セルライゼート希釈液20μlとβ-メルカプトエタノール含有SDS化バッファー20μlを混合し96℃、5分間加熱しSDS化した。SDS化試料を10μl/レーンをアクリルアミドゲル(濃縮ゲル:4%、分離ゲル7.5%)にアプライして、ミニプロテアンII(BIO−RAD社製)を用いて100Vで電気泳動をおこなった。次いで、ゲルを転写バッファー(トリス、グリシン、メタノール)に浸漬、馴染ませたのち、ミニトランスブロッティイングモジュール(BIO−RAD社製)を用いてメンブレンに100V、250mA、45分間転写した。転写終了後、メンブレンを脱イオン水で振盪洗浄し、1%ブロックエース中に終夜浸漬してブロッキングをおこなった。次に、(0.05% Tween20含有PBS(−))にて3回、振盪洗浄をおこなった。各抗体(0.2μg/ml、PBS(−)にて調製)をメンブレン上に滴下し、室温、1時間反応させた。振盪洗浄を3回おこない、単鎖抗体を添加したメンブレンには、0.1%ブロックエースにて1000倍希釈した抗4×ヒスチジン抗体(キアゲン社製)を滴下、室温、1時間間反応させた。対象の市販抗体を添加したメンブレンには、0.1%ブロックエースにて10000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体を滴下、室温、1時間間反応させた後、メンブレンを洗浄しECL Plus(GEヘルスケア社製)を滴下、室温5分間反応後、化学発光を検出した。単鎖抗体を滴下したメンブレンを洗浄し、0.1%ブロックエースにて10000倍希釈したHRPO標識抗マウスIgG(γ)抗体を滴下、室温、1時間間反応させた後、メンブレンを洗浄しECL Plus(GEヘルスケア社製)を滴下、室温5分間反応後、化学発光を検出した。
【0075】
結果を図4に示した。各単鎖抗体、市販抗体ともにヒト乳腺ガン細胞MDA−MB−231において分子量66kD付近にバンドが確認され、単鎖抗体がMT1−MMPと特異的に反応していることが示された。また、単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1は市販抗体と比較し、反応性が高いことが示唆された。
【実施例7】
【0076】
本発明の単鎖抗体のマウスマクロファージ(RAW264.7)への結合能のFACSによる評価
(7−1)実験方法
1.各単鎖抗体を20mM NaHPO中100μg/100μlとなるように、amicon(3KDa)により濃縮し、Alexa Fluor 488 succinimidyl ester(DMSO中10mg/ml)0.77μlを加え、室温で15分インキュベートした。
2.PD−10カラムにて精製後、280nmおよび488nmの吸光度を測定した。
3.amicon(3KDa)を用いて100μl程度まで濃縮を行った。
4.BCA定量により抗体濃度を計算した。
5.マウスマクロファージ(RAW264.7)を2×10個/sampleとなるように細胞溶液を調製し、PBSで洗浄した。
6.蛍光標識抗体10μg/mlを100μl加え、37℃で30分または60分インキュベートした。
7.細胞を洗浄した後PBS(−)1mlに懸濁し、FACSによって測定を行った。
【0077】
488nmの吸光度(A488)測定により蛍光量を、280nmの吸光度(A280)測定により抗体濃度を算出が可能であると考え、A488/A280の値によって、各抗体当たりの蛍光標識量を比較した。各抗体により標識量が異なるため、A488/A280の値で割ることによって補正し、抗体結合量を求めた。単鎖抗体は、一次抗体に直接蛍光標識を行っているためそれぞれの単鎖抗体における標識量が異なると考えられるため、吸光度を用いた補正を行った。
【0078】
(7−2)結果
結果を表4に示す。単鎖MMP98−1および単鎖抗体MMPK9E−1は細胞に対する結合が強く、単鎖抗体MMPK9I−1は細胞に対する結合が若干弱いことがわかった。
【表4】

【実施例8】
【0079】
本発明の単鎖抗体のMT1−MMPに対する結合の表面プラズモン共鳴(SPR)による分析
(8−1)実験方法
固相化するペプチドとしては、抗体作製の際の免疫やファージディスプレイ法でのパンニングに用いたペプチド−BSA複合体を用いた。また、タンパクはMT1−MMPの1−350aa.の部分タンパク(市販品)を用いた。
手順
1.MT1−MMPタンパクまたはペプチドをpH4.0酢酸ナトリウムバッファー中10μg/mlに希釈しセンサーチップに固定化した。
2.1で固定化したセンサーチップ上に各(単鎖)抗体267、88、29、9.6、3.2(1250、412、136、45、14.8)nMを流した。
3.1レーンをBSAのみで固定化し結合した数値を非特異的な結合とみなし、バックグラウンドとして減じた。
4.得られた結合・解離曲線から解析を行い、KD値を算出した。
用いたMT1−MMP部分ペプチドは
ペプチド3: PQPRTTSRPSVPDKPKN−Cys (配列番号:13)
であった。
【0080】
(8−2)実験結果
表面プラズモン分析において、単鎖抗体MMP98−1、単鎖抗体MMPK9E−1、単鎖抗体MMPK9I−1はいずれもペプチド3への結合能を示した。これらの単鎖抗体について濃度をふってKD値の算出を検討した。単鎖抗体MMP98−1についてはDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)体も作成して検討した。これらの単鎖抗体のKD値はいずれも10−8Mのオーダーであり、MT1−MMPタンパクおよびペプチドに強く結合することがわかった。結果を表5に示す。
【表5】

【実施例9】
【0081】
本発明の単鎖抗体の体内分布
(9−1)実験方法
担癌マウスとしてFM3Aマウス乳がん細胞をPBS(−)中に懸濁し(5x10個/100μL PBS(−)/マウス)、C3H/Heマウス(雌性、5週齢)の右下肢に皮下移植し、2週間経過したものを用いた。
手順
1.50mM NaHCO中にバッファー交換した単鎖抗体にDMF中p−SCN−Bn−DTPA 20eq.を加え、室温振盪下で1時間インキュベートした。
2.反応後、Amicon(10KDa)で3回遠心(7500×g,20分)し、未反応のDTPAを除いた。
3.濃縮した単鎖抗体濃度をBCA定量によって測定した。
4.111InClを酢酸Na溶液で0.5mCi/mlとなるように希釈し、室温振盪下で5分間インキュベートした。
5.単鎖抗体1μgに対し、1μCiとなるように、4の溶液を抗体溶液に添加し、室温振盪下で1時間インキュベートした。
6.PD−10カラムで精製し、単鎖抗体画分のみを採り、Amicon(10KDa)で濃縮した。
7.0.5μCi/100μl salineとなるように、生食で希釈した。
8.111In標識抗MT1−MMP単鎖抗体(0.5μCi、0.5μg/100μL saline)をマウス尾静脈より投与し、3時間、24時間後に屠殺し、各臓器を摘出し、重量、放射能を測定した。単鎖抗体MMP98−1については15分、1時間、3時間、6時間、24時間について測定を行った。
【0082】
(9−2)実験結果
FACS、SPRの結果から有望と考えられた単鎖抗体MMP98−1について15分、1時間、3時間、6時間、24時間のタイムポイントについて体内分布を調べた。結果を表6に示す。腎臓への集積が非常に高かった。腫瘍への集積は3時間がピークであった。血液からの抜けがよく良好なT/B(腫瘍/血液)比を得た。
【表6】

【0083】
腫瘍への集積のピークである3時間と24時間群に関して、他の単鎖抗体でも評価を行った。結果を表7、表8に示す。
【表7】

【0084】
【表8】

【0085】
実施例8においてペプチド3に親和性を持つ単鎖抗体(MMP98−1、MMPK9E−1、MMPK9I−1)では、高い腫瘍集積性が見られた。これら3種の単鎖抗体の腫瘍/血液(T/B)比を3時間および24時間において調べた結果を表9に示す。いずれの単鎖抗体も24時間において高いT/B比を示し、なかでも単鎖抗体MMPK9E−1、単鎖抗体MMPK9I−1のT/B比が高かった。特に、単鎖抗体MMPK9E−1に関しては他に比較して腎臓への集積も少ないため、今回評価した単鎖抗体の中では最もイメージングに適した性質を持っていると考えられた。
【表9】

【実施例10】
【0086】
本発明の単鎖抗体による腫瘍のオートラジオグラフィーおよび免疫染色
(10−1)実験方法
担がんマウスとしてFM3Aマウス乳がん細胞をPBS(−)中に懸濁し(5x10個/100μL PBS(−)/マウス)、C3H/Heマウス(雌性、5週齢)の右下肢に皮下移植し、2週間経過したものを用いた。
オートラジオグラフィー手順
1.担がんマウスに111In標識単鎖抗体C(15μCi/1μg)を尾静脈より投与した。
2.投与24時間後、生理食塩水で経心還流を行った後、PLP固定液(75mM L(+)−リジン塩酸塩、4%パラホルムアルデヒドを含む37.5mMのリン酸バッファー(pH7.4))で還流固定した。
3.摘出した腫瘍をクリオスタットにより腫瘍切片とした。
4.組織切片をイメージングプレートに1週間露光させ、画像解析装置を用いてオートラジオグラムを得た。
【0087】
免疫染色手順
1.オートラジオグラフィーに付した標本に隣接して、クリオスタットを用いて切片を作製した。
2.アルコールによる親水化の後、10%過酸化水素水と室温で30分間反応させた。
3.TBS−BSA(Tris 0.1M、NaCl 0.15M(pH7.6)、1% BSA、0.05% Triton)と室温で30分間反応させた。
4.1次抗体(MT1−MMP F−84抗体)と4℃で一晩反応させた。
5.ENVISONポリマー試薬(K4000)と30分間反応させた。
6.DABと15分間反応させた後、ヘマトキシリンにより核染色を行った。
7.脱水、キシレンによる透徹後、封入剤を用いて封入した。
【0088】
(10−2)実験結果
単鎖抗体MMPK9E−1による腫瘍のオートラジオグラフィーおよび免疫染色の結果を図5に示す。両者の染色パターンが一致することが確認された。
【実施例11】
【0089】
本発明に係わる抗体を用いるフロー式免疫測定法によるMT1−MMPの免疫測定
実施例1において単鎖抗体MMPK9I−1の遺伝子を単離したハイブリドーマ19Bが産生する抗体IgG、MMPK9Iを用いて、JIS K 0464においてPCBの免疫測定法として記載されているフロー式免疫測定法への適用を検討した。フロー式免疫測定を行うための機器としては、例えばフロー式イムノセンサDXS−610(京都電子工業社製)などの利用が可能である。前記(1−1)で作製したMT1−MMPヒンジ領域ペプチドコンジュゲートを、ガンツ化成社製ポリスチレンビーズ、ガンツパールGS−100Sに物理吸着させ、ブロックエース(雪印社製)溶液でブロッキングを行い、抗体結合用担体とした。抗MT1−MMP抗体MMPK9IとCyTM5−conjugated AffiniPure F(ab´) Fragment Goat Anti−Mouse IgG (H+L)(Jackson ImmnoReserch社製)を0.1w/v% BSA含有PBS(−)中で反応させた。次いで、この溶液を0.1w/v% BSA含有PBS(−)にて調製した終濃度0.0〜100ng/mLのMT1−MMPヒンジ領域ペプチドの溶液とそれぞれ反応させた後、抗体結合担体へ流速0.75mL/分で作用させた。次いで、0.1w/v% BSA含有PBS(−)を流速0.75mL/分で通過させ、担体への非特異的結合を排除したのち蛍光強度を測定した。MT1−MMPヒンジ領域ペプチドを添加しない抗体溶液において十分な蛍光量が得られた。これをコントロール(B0)値とし、B0値に対するMT1−MMPヒンジ領域ペプチド添加により低下した蛍光量(B)の割合(B/B0)を、MT1−MMPヒンジ領域ペプチド濃度に対しプロットしたところペプチド濃度に依存的な反応が確認された。阻害曲線を図6に示す。阻害曲線より求められたIC50は約4.74ng/mlであり、また、3回測定のCV値は最大でも3.5%未満と安定していた。以上のことから本抗体がフロー式免疫測定法による免疫測定に、有用であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、がんの診断薬の分野および研究分野などにおいて利用可能である。
【受託番号】
【0091】
単鎖抗体MMP98産生細胞は独立行政法人製品評価技術基盤機構受領番号NITE AP−1008を付与された。
単鎖抗体MMPK9E産生細胞は独立行政法人製品評価技術基盤機構受領番号NITE AP−1009を付与された。
単鎖抗体MMPK9I産生細胞は独立行政法人製品評価技術基盤機構受領番号NITE AP−1010を付与された。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
配列番号:1は、単鎖抗体MMP98のH鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列である。
配列番号:2は、単鎖抗体MMP98のH鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号:3は、単鎖抗体MMP98のL鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列である。
配列番号:4は、単鎖抗体MMP98のL鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号:5は、単鎖抗体MMPK9EのH鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列である。
配列番号:6は、単鎖抗体MMPK9EのH鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号:7は、単鎖抗体MMPK9EのL鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列である。
配列番号:8は、単鎖抗体MMPK9EのL鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号:9は、単鎖抗体MMPK9IのH鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列である。
配列番号:10は、単鎖抗体MMPK9IのH鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号:11は、単鎖抗体MMPK9IのL鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列である。
配列番号:12は、単鎖抗体MMPK9IのL鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号:13は、マウスMT1−MMPタンパクの部分アミノ酸配列のC末端にシステインを付したペプチドのアミノ酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、配列番号:2で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:4で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体。
【請求項2】
MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、配列番号:6で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:8で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体。
【請求項3】
MT1−MMPに結合活性を有する単鎖抗体であって、配列番号:10で示されるアミノ酸配列を有するH鎖可変領域、および配列番号:12で示されるアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を含む単鎖抗体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の単鎖抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターで形質転換した形質転換体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の単鎖抗体の製造方法であって、請求項5に記載のベクターで形質転換した形質転換体を適当な培地中で培養し、該形質転換体または培地から単鎖抗体を回収することを含んでなる方法。
【請求項8】
独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、受領番号NITE AP−1008を付与された細胞、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、受領番号NITE AP−1009を付与された細胞、または独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託され、受領番号NITE AP−1010を付与された細胞を適当な培地中で培養し、培地から単鎖抗体を回収することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載された単鎖抗体の製造方法。
【請求項9】
標識されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の単鎖抗体。
【請求項10】
放射性標識された請求項1〜3のいずれか1項に記載の単鎖抗体を含む、がんの分子イメージングプローブ剤。
【請求項11】
請求項10に記載の分子イメージングプローブ剤を含む、癌の画像診断剤またはキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115243(P2012−115243A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270787(P2010−270787)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20〜21年度「(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器研究開発プロジェクト/悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器の開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】