説明

抗PCBモノクローナル抗体、及びその製造方法、前記抗体を産生するハイブリドーマ、並びに前記抗体を用いたPCB測定方法

【課題】塩素数の異なる複数のPCB同族体に交差反応性を有し、かつ親和性が高く、更に、金コロイドによる標識への適合性に優れた抗PCBモノクローナル抗体、及びその製造方法、前記抗体を産生するハイブリドーマ、並びに前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法を提供すること。
【解決手段】下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物を、ハプテンとして用いる抗PCBモノクローナル抗体の製造方法である。
【化28】


ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境中、工業製品中、及び生物試料中などに含まれるPCBs(ポリ塩化ビフェニル類)の測定に用いられる抗PCBモノクローナル抗体、及びその製造方法、前記抗体を産生するハイブリドーマ、並びに前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法に関し、特に、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体に対して交差反応性を有し、1塩素化PCB〜10塩素化PCB全同族体のうち、3塩素化PCB〜7塩素化PCB同族体に高い親和性を有する抗PCBモノクローナル抗体、及びその製造方法、前記抗体を産生するハイブリドーマ、並びに前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質による環境汚染問題は、健康問題や社会生活に大きな不安を与えると共に産業活動等にも影響を与えるため、早急に解決すべき重大な課題である。特に、人体や環境への有害性が確認されたPCBs(ポリ塩化ビフェニル類、以下、単に「PCB」と表すことがある)は過去、コンデンサやトランスの絶縁油、熱媒体、機械油等に多用されるなど地球規模で環境汚染が拡大しており、難分解性であることからその残留性や生物濃縮が問題となっている。
PCBsについては、1974年に「化学物質の審査及び製造に関する法律」により製造、輸入、及び新たな使用について原則的に禁止措置が取られ、更に、2001年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」が施行され、2016年までに全てのPCB廃棄物の適性処理が法的に義務づけられた。これにより、PCBs廃棄物の処理過程でのモニタリングや、処理後のPCB濃度の測定が重要な課題となっている。
また、PCBsを含まないとされていたトランス中の代替絶縁油においても、残留していた微量PCBsの混入が明らかになったことにより、大量の代替絶縁油やトランス本体のPCBs濃度の迅速な分析も急務となっている。
【0003】
従来のPCBの測定としては、例えば、公定法として、高分解能ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(HRGC/HRMS)や、電子捕獲検出器付きガスクロマトグラフ法(GC−ECD)が用いられて来た。しかしながら、これらの方法は設備投資や分析消耗品等にコストが嵩み、また、煩雑なクリーンアップ操作や分析者の技術習熟等の必要性から、データ取得や解析に多大な時間を要する等の問題があり、分析業務が特定の分析機関に限定される等、大量の試料を処理する方法としては限界があった。
これに対し、特異的抗体を利用する免疫学測定法は、迅速かつ簡便な測定方法として知られ、近年、環境分析の分野にも応用されつつある。
【0004】
PCB類似物質であるダイオキシン類の迅速分析法としても、レセプターバインディングアッセイや免疫測定法が注目されており、特に、免疫測定法では抗体が単一の測定対象物に対し特異的に結合するという性質を利用し、ダイオキシン類の毒性等量と相関を有する特定の同族体量を測定する事により、多数の同族体が存在するダイオキシン類の毒性等量総和(ダイオキシン量)を迅速、簡便に求める方法が開発されている。
【0005】
更に、PCBは水に難溶性であり、分析するための試料を調製するにあたり、両親媒性溶媒存在下にPCBを溶解させる必要があるため、前記免疫学的測定法に用いられる抗PCB抗体としては、試料中に存在する両親媒性溶媒に対する耐性が求められる。これに対し、前記免疫学的測定法に用いられる抗PCB抗体としては、例えば、50(v/v)%有機溶媒水溶液中でも抗原認識特性が実質的に低下しない抗モノクローナル抗体(例えば、特許文献1参照)等が提案されている。
【0006】
このように、抗体を用いる免疫学的測定法では、交差反応性が低く、測定対象物に対し高特異性という抗体本来の性質を利用し、特定の物質を測定することに重点が置かれて来た。
このような考えに基づき、多数の異性体が存在するPCBにおいては、交差反応性が制御された特異性の高い抗PCB抗体が求められており、例えば、コプラナーPCBの一つである3,3’,5,5’−四塩化ビフェニル(PCB80)に対して特異性を持つ抗体(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【0007】
一方、PCB分析では、ダイオキシン類分析における「毒性等量」という考え方が無いため、免疫測定法においても、多数のPCB同族体について可能な限り広く検出し、測定できることが重要である。しかしながら、特異性の高い単一の抗体を利用した測定系においては、同族体を網羅することが難しく、公定法による分析値との乖離、フォールスネガティブ(偽陰性の判定や見落とし)の危険性、更に再現性の低さ等が懸念される。
【0008】
そこで、2種類の特異性の異なる抗体、あるいは測定系を混合し、その結果得られる抗体の特異性を利用して絶縁油中のPCB濃度を分析する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、ダイオキシン類、PCB類を検出する低分子物質検出用器具において、毒性を推定する場合と総量を推定する場合に応じて標的物質の異性体を選択し、該標的物質の抗体を用いることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
他方、異性体間において交差反応性が認められる複数種類の抗体を用いて、ダイオキシン類を異性体レベルで検出する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献3及び4に記載された抗PCB抗体を用いた免疫学的測定方法における測定対象は、コプラナーPCBであり、そこで用いられる抗体は、異なる塩素数群の同族体混合物(例えば、鐘淵化学工業製のカネクロール、及び三菱モンサント(現三菱化学)製のアロクロールなどに由来するPCB)を、高感度に定量するための抗体としては満足なものではない。
【0010】
また、ビフェニル誘導体の異性体混合物を、ハプテンとして用いて製造された、塩素数の異なる複数のPCB同族体に交差反応性を有する抗PCBモノクローナル抗体が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この提案の抗PCBモノクローナル抗体は、蛍光による標識への適合性は高いものの、金コロイドによる標識への適合性は、十分満足のいくものではないという問題がある。
前記蛍光による標識は測定のコストが高く、PCB分析を低コストで行なうためには、蛍光による標識よりも低コストである金コロイドによる標識への適合性が高い抗PCBモノクローナル抗体の開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−191699号公報
【特許文献2】特開2005−247822号公報
【特許文献3】特開2004−138550号公報
【特許文献4】特開2002−228660号公報
【特許文献5】特開2008−137902号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】25th International Symposium on Halogenated Environmental Organic Pollutant and POPs,2005,ID2387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、3塩化ビフェニル、4塩化ビフェニル、5塩化ビフェニル、6塩化ビフェニル、及び7塩化ビフェニル等の塩素数の異なる複数のPCB同族体の混合物中に存在比の高い複数のPCB同族体に交差反応性を有し、かつ親和性が高く、更に、金コロイドによる標識への適合性に優れた抗PCBモノクローナル抗体、及びその製造方法、前記抗体を産生するハイブリドーマ、並びに前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物を、ハプテンとし、該ハプテンをキャリアータンパク質に結合した化合物を免疫原として免疫に用いることにより、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体に交差反応性を有し、かつ親和性が高く、更に、金コロイドによる標識への適合性に優れた抗PCBモノクローナル抗体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【0015】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物を、ハプテンとして用いることを特徴とする抗PCBモノクローナル抗体の製造方法である。
【化2】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
<2> 下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体から得られた下記構造式(2)で表される化合物を免疫原として動物を免疫する工程と、
前記免疫した動物の抗体産生細胞を回収する工程と、
前記抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合してハイブリドーマを得る工程と、
前記ハイブリドーマを培養する工程とを含む前記<1>に記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法である。
【化3】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【化4】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
<3> 下記構造式(2)中、Zが、酵素、蛍光色素、放射性同位元素、磁性体、色素封入ポリマー、希土類、補酵素、金コロイド、及び金原子クラスターのいずれかの標識物質により標識されている前記<2>に記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法である。
【化5】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
<4> 下記構造式(1)、及び下記構造式(2)の少なくともいずれかで表される化合物を用いて、ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングする工程を含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法である。
【化6】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【化7】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法により製造され、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体に交差反応性を有することを特徴とする抗PCBモノクローナル抗体である。
<6> 1塩素化PCB〜10塩素化PCB全同族体のうち、1塩素化PCB〜2塩素化PCB同族体、及び8塩素化PCB〜10塩素化PCB同族体に対する親和性よりも、3塩素化PCB〜7塩素化PCB同族体に対する親和性が高い前記<5>に記載の抗PCBモノクローナル抗体である。
<7> 前記<5>から<6>のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体を産生することを特徴とするハイブリドーマである。
<8> 受託番号がFERM P−21833である前記<7>に記載のハイブリドーマである。
<9> 被測定試料に、前記<5>から<6>のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体を添加し、
(1)前記抗PCBモノクローナル抗体と結合した前記被測定試料中のPCB、及び
(2)前記被測定試料中のPCBと結合していない前記抗PCBモノクローナル抗体
のいずれかを検出する工程を含むことを特徴とするPCB測定方法である。
<10> 被測定試料に、前記<5>から<6>のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体、並びに、下記構造式(1)、及び下記構造式(2)のいずれかで表される化合物をPCB競合物質として添加し、前記抗PCBモノクローナル抗体と結合した前記競合物質を検出する工程を含むことを特徴とするPCB測定方法である。
【化8】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【化9】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
<11> 被測定試料に、前記<5>から<6>のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体を添加し、下記構造式(2)で表される化合物をPCB競合物質として固定化した担体を用い、前記PCB競合物質と前記被測定試料中のPCBとを競争させ、前記被測定試料中のPCBと結合していない前記抗PCBモノクローナル抗体を検出する工程を含むことを特徴とするPCB測定方法である。
【化10】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
<12> 抗PCBモノクローナル抗体が、金コロイドにより標識されている前記<9>から<11>のいずれかに記載のPCB測定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、3塩化ビフェニル、4塩化ビフェニル、5塩化ビフェニル、6塩化ビフェニル、及び7塩化ビフェニル等の塩素数の異なる複数のPCB同族体の混合物中に存在比の高い複数のPCB同族体に交差反応性を有し、かつ親和性が高く、更に、金コロイドによる標識への適合性に優れた抗PCBモノクローナル抗体、及びその製造方法、前記抗体を産生するハイブリドーマ、並びに前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、各アロクロールのPCB同族体組成を示す図である(出典:廃棄物処理法新処理基準に基づくPCB処理技術ガイドブック、編集:財団法人産業廃棄物処理事業振興財団、発行:株式会社ぎょうせい、平成17年8月1日刊)。
【図2】図2は、試験例2における金コロイド標識された各抗体の吸光度を示すグラフである。
【図3】図3は、試験例3における各金コロイド標識抗体のPCBに対する感度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(抗PCBモノクローナル抗体)
<抗PCBモノクローナル抗体の製造方法>
−構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物(ハプテン)−
本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物(下記構造式(1)で表される化合物)からなるハプテンを用い、本発明の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法により製造される。
【化11】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【0019】
なお、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物における異性体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三塩素化ビフェニルから六塩素化ビフェニル等を主体とするもの、等が挙げられる。これらの中でも、四塩素化ビフェニル、五塩素化ビフェニルが、絶縁油中のPCBを測定対象とする場合に有利である。
【0020】
前記ビフェニル誘導体の異性体混合物におけるこれらの異性体の混合割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記ビフェニル誘導体の異性体混合物を後述のようにして製造する場合、5−フェニルエーテルに対する塩素化剤の添加量及び塩素原子の配向性の点から、下記化合物1A、化合物1B、化合物1Cが主要異性体となると考えられる。
【化12】

【0021】
前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下の反応式に従い製造することができる。
以下の反応式では、3−フェニルフェノールを出発原料とし、まず、6−ブロモヘキサン酸エチルエステルと反応させ、次いで、塩素化、加水分解を行なうことにより、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体を製造している。
【化13】

ただし、前記反応式中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Etは、エチル基を表し、Phは、フェニル基を表す。
【0022】
−構造式(2)で表される化合物−
前記構造式(1)で表される化合物は、単独では抗原性を持たないため、抗PCBモノクローナル抗体を作製するために、下記構造式(2)で表される化合物(下記構造式(2)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物、以下、「コンジュゲート」と称することがある)を調製し、これを免疫原(抗原)として用い、前記抗PCBモノクローナル抗体を作製することが好ましい。
【化14】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【0023】
前記構造式(2)中、Zで表されるタンパク質(以下、「キャリアータンパク質」と称することがある)としては、免疫原性を有し、かつ前記構造式(1)で表される化合物とスペーサー部(−O−(CH−CONH−)を介して連結可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スカシガイ由来ヘモシアニン(KLH)、卵白アルブミン(OVA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、ヤギ血清アルブミン、ウシガンマグロブリン、ミオグロビン、Multiple antigen peptide(MAP)、等が挙げられる。これらの中でも、ウシ血清アルブミン(BSA)、スカシガイ由来ヘモシアニン(KLH)が好ましい。
【0024】
前記構造式(2)で表される化合物(コンジュゲート)の調製方法としては、特に制限はなく、公知の合成方法により調製することができ、例えば、下記反応式に示すように、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体のカルボキシル基を、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの縮合反応により活性エステル誘導体に変換し、次いで、該活性エステル誘導体とキャリアータンパク質のアミノ基とを常法に従って結合させる方法などが挙げられる。
【化15】

ただし、前記反応式中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【0025】
得られた前記構造式(2)で表される化合物(コンジュゲート)は、ゲルクロマトグラフィー等の公知の方法により、反応液を生理的リン酸緩衝液などの中性溶液に置換すると共に精製することが好ましい。
【0026】
前記構造式(2)中、Zで表されるタンパク質は、標識物質により標識されていてもよい。前記標識物質としては、特に制限はなく、公知の標識物質から適宜選択することができ、例えば、酵素、蛍光色素、放射性同位元素、磁性体、色素封入ポリマー、希土類、補酵素、金コロイド、金原子クラスター、等が挙げられる。
【0027】
−抗PCBモノクローナル抗体の製造−
前記抗PCBモノクローナル抗体は、例えば、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体から得られた下記構造式(2)で表される化合物を免疫原として動物を免疫する工程(以下、「免疫工程」と称することがある)と、前記免疫した動物の抗体産生細胞を回収する工程(以下、「抗体産生細胞回収工程」と称することがある)と、前記抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合してハイブリドーマを得る工程(以下、「ハイブリドーマ取得工程」と称することがある)と、前記ハイブリドーマを培養する工程(以下、「培養工程」と称することがある)とを含む製造方法により製造される。
前記抗PCBモノクローナル抗体の製造方法は、更に、前記構造式(1)、及び前記構造式(2)の少なくともいずれかで表される化合物を用いて、ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングする工程(以下、「スクリーニング工程」と称することがある)を含むことが好ましい。
モノクローナル抗体の製造方法としては、例えば、ケーラーとミルシュタインの方法(Kohler G, Milstein C, Nature, 256, 495−7(1975))等に準じて行うことが出来る。
【0028】
−−免疫工程−−
前記免疫工程は、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体から得られた前記構造式(2)で表される化合物を免疫原として動物を免疫する工程である。
【0029】
免疫する前記動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、等の哺乳動物が好ましい。
前記動物の免疫方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、前記免疫原とアジュバントとを乳化させて得た乳化液を、皮下、静脈内、腹腔内に、注射等により投与する方法などが挙げられる。
前記免疫原の投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、マウスの場合、0.01g/匹〜0.5g/匹を、2週間〜3週間程度の間隔で3回〜15回投与することが好ましい。
前記アジュバントとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、フロイントの完全アジュバント、不完全アジュバント、BCG、トレハロースダイマイコレート(TDM)、リポ多糖(LPS)、ミョウバンアジュバント、シリカアジュバント等が挙げられ、抗体の誘導能、動物への負荷等の関係から、最適なものを選択して使用することが好ましい。
【0030】
−−抗体産生細胞回収工程−−
前記抗体産生細胞回収工程は、前記免疫した動物の抗体産生細胞を回収する工程である。
【0031】
前記抗体産生細胞回収工程は、例えば、前記免疫原の最後の投与から数日後に、免疫した前記動物から抗体産生細胞を回収することにより行なわれる。
前記抗体産生細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脾臓、リンパ節由来B細胞、等が挙げられる。
【0032】
−−ハイブリドーマ取得工程−−
前記ハイブリドーマ取得工程は、前記抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合してハイブリドーマを得る工程である。
前記抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合し、その後所望の抗体を産生する融合細胞をスクリーニングすることにより、前記ハイブリドーマが得られる。
【0033】
前記ミエローマ細胞としては、特に制限はなく、公知のものを適宜選択することができる。例えば、マウス、ラット、ヒト由来の細胞株等から選択することができ、マウス由来細胞であれば、P3−X63/Ag8、X63−Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210−Ag14、FO、NSO/U、MPC−11、MPC11−X45−GTG 1.7、S194/5XXO・Bul等、ラット由来細胞であれば、R210.RCY3、Y3−Ag・1.2.3、IR983F、4B210等が挙げられる。
【0034】
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、センダイウイルス法、ポリエチレングリコール法、プロトプラスト法、等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコール法が、細胞毒性も比較的少なく、融合操作も簡単であるという点で、好ましい。
【0035】
前記所望の抗体を産生する融合細胞をスクリーニングする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA、ELISA)、フルオロイムノアッセイ(FIA)、等が挙げられる。
【0036】
前記スクリーニング方法では、前記構造式(1)、及び前記構造式(2)の少なくともいずれかで表される化合物を用いることが好ましい。
例えば、前記構造式(2)で表されるコンジュゲートを固相化し、前記融合細胞(ハイブリドーマ)の培養上清を反応させることにより、該培養上清の抗体価を測定し、抗体価が高いウエルを抗PCB抗体産生ウエルとして選択することができる。更に、抗体価測定時にPCB代替化合物(例えば、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体)やPCBs等を共存させることにより、これら共存物質に対し反応性の高いウエルを選択し、限界希釈法にて目的の抗PCB抗体産生ハイブリドーマのモノクローン化を行うことができる。
また、前記構造式(2)で表されるコンジュゲート中、Zで表されるタンパク質を標識物質により標識し、これを抗PCB抗体産生ウエルの抗体価の測定時に共存させ、直接競合反応を行う方法によって抗PCB抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることもできる。
【0037】
前記抗PCB抗体の測定対象であるPCBは水に難溶であるため、両親媒性溶媒に溶解させて測定に供せられる。このため、前記抗PCB抗体は、試料中に存在する前記両親媒性溶媒に対する耐性を有することが好ましい。よって、前記抗PCB抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングも前記両親媒性溶媒存在下で行うことが好ましい。
前記両親媒性溶液としては、DMSO、メタノール、エタノール、等が挙げられる。
前記スクリーニングに用いられる前記両親媒性溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、5質量%〜20質量%が特に好ましい。
【0038】
前記抗PCB抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングに用いられるセンサとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、SPR(表面プラズモン)センサ、QCM(水晶振動子)センサ、光学的センサ、電気化学的センサ等のトランスデューサーのセンサ官能部へ、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体、又は前記構造式(2)で表されるビフェニル誘導体とキャリアータンパク質とのコンジュゲートを固定化したもの、等が挙げられる。
また、予め前記融合細胞の培養上清にPCB等を添加して反応させたものを、前記センサ官能部に接触させてスクリーニングを行うこともできる。この場合、前記官能部に結合した抗体量を評価することにより、種々のトランスデューサーでのPCB測定への適用が可能な、高親和性を有する抗PCB抗体産生ハイブリドーマを選抜することができる。
【0039】
<ハイブリドーマ>
前記抗PCB抗体産生ハイブリドーマとしては、PCBを認識する本発明の抗PCBモノクローナル抗体を産生する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記の方法により作製され、樹立されたものが好ましく、具体的には、後述する実施例に示すような、OD8B11株が挙げられる。
前記OD8B11株は、下記構造式(2)に示す化合物を用いて作製されたハイブリドーマであり、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成21年8月6日付で、受託番号FERM P−21833として寄託されている。
【化16】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【0040】
−−培養工程−−
前記培養工程は、前記ハイブリドーマを培養する工程である。
前記培養工程により、前記抗PCBモノクローナル抗体を得ることができる。
【0041】
前記培養工程の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記抗PCB抗体産生ハイブリドーマ細胞株を、予めプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)を投与したマウスの腹腔内に移植して培養する方法が挙げられる。
前記マウスの腹腔内に移植して10日後〜14日後に、抗PCBモノクローナル抗体を含む腹水を回収し、得られた腹水から前記抗PCBモノクローナル抗体を得ることができる。
【0042】
また、前記ハイブリドーマを、培地(例えば、10%ウシ胎児血清を含むDMEM等)を用いて培養し、得られた培養液の上清を、抗PCBモノクローナル抗体溶液とすることができる。
【0043】
前記抗PCBモノクローナル抗体は、精製されていることが好ましい。
前記腹水、又はウシ胎児血清含有培地より得た前記抗PCB抗体産生ハイブリドーマ細胞株培養液上清から、前記抗PCBモノクローナル抗体を精製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法から適宜選択することができ、例えば、限外ろ過、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、等により精製することができる。
【0044】
<抗PCBモノクローナル抗体の評価>
本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、前記本発明の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法により製造され、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体に交差反応性を有する。また、前記抗PCBモノクローナル抗体は、1塩素化PCB〜10塩素化PCB全同族体のうち、3塩素化PCB〜7塩素化PCB同族体に対する親和性が高いことが好ましい。
前記3塩素化PCB〜7塩素化PCB同族体の存在比が高いものの例としては、油性試料中に含まれるカネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600:鐘淵化学工業社製)、及びアロクロール(Aroclor.1242、Aroclor.1248、Aroclor.1254、Aroclor.1260、Aroclor.1232:三菱モンサント(現三菱化学)製)が挙げられる。
また、本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、金コロイドによる標識への適合性が高い(後述する試験例2参照)ことから、低コストでPCBを測定することができる。
【0045】
前記抗PCBモノクローナル抗体のPCBに対する親和性は、例えば、前記抗PCBモノクローナル抗体とPCBとの結合を50%阻害する抗原濃度(IC50値)により評価することができる。また、前記PCBモノクローナル抗体の交差反応性は、例えば、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体について、それぞれのIC50値を求め、それらの比を求めることにより評価することができる。
【0046】
前記IC50値の算出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光光度計、又は相対吸光度測定器による測定データを、下記式(1)で表される近似式に当てはめて求めることにより解析することができる。
【数1】

前記式(1)中、yは、抗原を加えなかったときの蛍光強度、又は相対吸光度の値を100%としたときの相対的な蛍光強度、又は吸光度を表し、xは、抗原濃度を表し、P1とP2は、近似のパラメータを表す。
【0047】
測定データは、抗原を加えなかったときの蛍光強度、又は吸光度の値を100%として相対値に変換した後、グラフ作成ソフトウェア(例えば、Origin version 6.0(OriginLab製)等)を用いて最適なP1及びP2を決定する。
このようにして得られた近似式を、前記抗体と前記抗原との結合曲線とし、y=50%となるときのxの値(=P1)をIC50値とする。
なお、IC50値に対して抗体濃度が十分に小さい時(例えば、10分の1以下の時)、IC50値と平衡解離定数(Kd)がほぼ一致することが知られている。
【0048】
また、前記IC50値の算出方法としては、蛍光光度計、又は相対吸光度測定器による測定データを、下記式(7)で表される式に当てはめて相対的な応答(%)を求めることにより解析することもできる。前記相対的な応答が50%となるときの値をIC50値とする。
【数2】

ただし、前記式(7)中、Rは、相対的な応答(%)を示し、ICZは、抗原を加えなかった場合の送液前の測定セルの透過光量測定値を示し、ICMは、抗原を加えなかった場合の送液後の測定セルの透過光量測定値を示し、ISZは、抗原を加えた場合の送液前の測定セルの透過光量測定値を示し、ISMは、抗原を加えた場合の送液後の測定セルの透過光量測定値を示す。
【0049】
前記抗PCBモノクローナル抗体の塩素数の異なるPCBに対する特異性は、例えば、カネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600)やアロクロール(Ar−1242、Ar−1248、Ar−1254、Ar−1260、Ar−1232、Ar−1221)等を被測定試料として用い、評価することができる。
【0050】
前記カネクロール、及びアロクロールは、それぞれ下記表1及び図1に示す比率で異なる塩素数のPCBを含有しているが、例えば、本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体に交差反応性を有し、1塩素化〜10塩素化PCB全同族体のうち、3塩素化〜7塩素化PCB同族体に高い親和性を有するため、中でも、Ar−1221を除く、その他のカネクロール及びアロクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、Ar−1242、Ar−1248、Ar−1254、Ar−1260、及びAr−1232)に対して高い特異性を示す。
【0051】
【表1】

(出典:高菅卓三ら、「各種クリーンアップ法とHRGC/HRMSを用いたポリ塩化ビフェニル(PCBs)の全異性体詳細分析方法」,環境化学,Vol.5,No.3,pp.647−675,1995)
【0052】
(PCB測定方法)
本発明のPCB測定方法は、本発明の抗PCBモノクローナル抗体を用いる方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記抗PCBモノクローナル抗体を用い、試料中のPCBを免疫学的に検出、定量する方法、具体的には、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA、ELISA)、フルオロイムノアッセイ(FIA)、免疫クロマトグラフィー、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、免疫比濁法(TIA)、ラテックス免疫比濁法(LTIA)、結合平衡除外法等が挙げられる。
【0053】
前記PCB測定方法としては、例えば、非競合法、競合法(間接競合法あるいは直接競合法)、結合平衡除外法等が挙げられ、具体的には、下記(I)〜(III)の方法等が挙げられる。
(I)前記被測定試料に、本発明の抗PCBモノクローナル抗体を添加し、
(1)前記抗PCBモノクローナル抗体と結合した前記被測定試料中のPCB、及び
(2)前記被測定試料中のPCBと結合していない前記抗PCBモノクローナル抗体
のいずれかを検出する工程を含むPCB測定方法。
(II)前記被測定試料に、本発明の抗PCBモノクローナル抗体、並びに、前記構造式(1)、及び前記構造式(2)のいずれかで表される化合物をPCB競合物質として添加し、前記抗PCBモノクローナル抗体と結合した前記競合物質を検出する工程を含むPCB測定方法。
(III)前記被測定試料に、本発明の抗PCBモノクローナル抗体を添加し、前記構造式(2)で表される化合物をPCB競合物質として固定化した担体を用い、前記PCB競合物質と前記被測定試料中のPCBとを競争させ、前記被測定試料中のPCBと結合していない前記抗PCBモノクローナル抗体を検出する工程を含むPCB測定方法。
【0054】
以下、前記間接競合法、及び前記結合平衡除外法の一例をより具体的に説明する。
前記間接競合法及び前記結合平衡除外法において、担体に固定化する抗原(以下、「固定化抗原」と称することがある)としては、例えば、前記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体を含む化合物、及び前記構造式(2)で表される化合物、等が挙げられる。
前記間接競合法、及び前記結合平衡除外法は、前記固定化抗原を前記担体上に固定化し、前記担体の前記固定化抗原が結合していない部分をブロッキング剤でブロッキングする。次いで、該担体に被測定試料と前記抗PCBモノクローナル抗体とを加え、前記固定化抗原と前記被測定試料中のPCBとを前記抗PCBモノクローナル抗体に対して前記間接競合法においては競合反応させ、前記結合平衡除外法においては結合平衡除外化反応させる。
前記固定化担体と結合しなかった前記抗PCBモノクローナル抗体を洗浄除去した後、二次抗体として標識した抗体を加え、前記固定化抗原と結合した抗PCBモノクローナル抗体と結合させ、洗浄を行った後、前記標識の発色又は発光を測定する。また、二次抗体を使用せず、前記抗PCBモノクローナル抗体を直接標識して用いてもよい。得られた吸光度や光強度について、試料を添加しない場合の値に対する減少率を求め、これを阻害率とし、既知の濃度のPCBを添加したときの阻害率からあらかじめ求めておいた検量線を用い、前記試料中のPCB濃度を算出することができる。
【0055】
また、前記担体としては、前記固定化抗原の構造の一部と同一、又は類似する構造を分子中に有する担体を用いてもよい。前記固定化抗原の構造の一部と同一、又は類似する構造を分子中に有する担体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2007−206062号公報に記載の担体、などが挙げられる。
【0056】
前記標識としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酵素としてペルオキシダーゼを用い、基質に過酸化水素、発色剤にo−フェニレンジアミンやテトラメチルベンジジンを使用する場合、及び、酵素としてアルカリフォスファターゼを用い、基質にp−ニトロフェニルリン酸を使用する場合には、発色を吸光度で測定することができる。一方、基質の反応生成物が蛍光である場合や、蛍光物質を用いて標識されている場合には、蛍光光度計等を用いて蛍光を測定することができる。
また、化学発光物質を用いる場合には、発光を化学発光測定器等により測定することができ、金コロイドを用いる場合には、透過光度等を透過光量測定器等により測定することができる。
【0057】
本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、金コロイドによる標識への適合性に優れ、低コストでPCBを測定することができる点で、前記標識として金コロイドを用いることが好ましい。
前記金コロイドによる標識の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、横田貞記 著「イムノゴールド法 コロイド金による免疫組織化学」鍬谷書店(1992年)に記載の方法により行うことができる。
前記透過光量測定器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、特開2006−215013号公報に記載の相対吸光度測定器が好ましい。
【0058】
前記被測定試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、被験物質中のPCBを、ジメチルスルホキシド(DMSO)やアルコール系溶媒等の極性溶媒で液−液抽出してなる試料、前記被験物質中のPCBを極性溶媒で液−液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記極性溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を所望の溶媒に転溶させてなる試料、前記被験物質にノルマルヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の低極性溶媒を加え、前記被験物質中のPCBを親水性溶媒で抽出してなる試料、などが挙げられる。
前記液−液抽出において、前記被験物質と前記極性溶媒との混合比(質量比)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、(前記被験物質):(前記極性溶媒)=1:1〜:1:10が好ましい。
【0059】
前記被験物質としては、少なくともPCBを含む可能性がある物質(PCB汚染物)であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、絶縁油、絶縁油以外の油(例えば、植物油、動物油、合成油、鉱物油等)、工場排水、土壌、排ガス、動物の血液や体液、絶縁油の処理作業等において使用した部材等の廃棄物などが挙げられる。これらの中でも、絶縁油が好適に挙げられる。
前記絶縁油としては、脱塩素化処理等のPCB分解処理を行った後の絶縁油も好適に挙げられる。
【0060】
前記被測定試料中の極性溶媒の濃度としては、前記抗PCBモノクローナル抗体のPCBに対する前記親和性が著しく劣化しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1質量%〜20質量%が好ましく、10質量%〜20質量%がより好ましい。
【0061】
本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、カネクロールやアロクロールに含まれる複数の塩素が置換されたPCBに対し親和性を有し、更に、金コロイドによる標識への適合性に優れるため、環境試料中、工業製品中、生物試料中に含まれるPCBを低コストで、迅速かつ再現性良く分析することが可能となり、前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法は、PCBsの迅速なモニタリングや分析技術として好適である。
また、SPR(表面プラズモン)センサ、QCM(水晶振動子)センサ、光学的センサ、電気化学的センサ等のトランスデューサーを使用した系において、センサ官能部へ、本発明の抗PCBモノクローナル抗体、又は前記ビフェニル誘導体等を固定化して、免疫センサとして使用することができる。
更に、本発明の抗PCBモノクローナル抗体を固定化した担体は、PCBの効率的濃縮や除去に適用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではなく、本技術分野において行われるこれらに対する通常の改変及び修飾を含むものとする。
【0063】
(実施例1:抗PCBモノクローナル抗体の製造)
(1)ビフェニル誘導体の異性体混合物、及びコンジュゲートの調製
下記反応式に従い、3−フェニルフェノールに、スペーサー分子を導入したハプテンとしてのビフェニル誘導体(下記反応式中、化合物3)を調製し、更に、キャリアータンパク質と結合させてなるコンジュゲート(下記反応式中、化合物5)を合成した。
【化17】

ただし、前記反応式中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、BSA(牛血清アルブミン)、又はKLH(スカシガイ由来ヘモシアニン)を表す。
【0064】
3−フェニルフェノール5.0g(29.4mmol)をアセトン70mLに溶解させ、炭酸カリウム8.11g(58.8mmol)、次いで6−ブロモヘキサン酸エチルエステル7.87g(35.3mmol)を加え60℃に加温し48時間撹拌した。反応後、室温まで放冷した後、不溶物を濾別し、濾液から溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:ヘキサン=1:20で溶出)し、前記反応式中の化合物1を8.55g得た。
【0065】
前記化合物1 1.00g(5.88mmol)に、塩化スルフリル10mLとジフェニルスルヒド(触媒)50mgとを加え、室温で20時間、50℃で20時間、70℃で10時間撹拌した。室温まで放冷した後、溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:ヘキサン=1:20で溶出)し、塩素化異性体混合物として前記反応式中の化合物2を1.02g得た。
【0066】
前記化合物2 1.02gを、テトラヒドロフラン4mLに溶解させ、水酸化カリウム0.5gを4mLの蒸留水に溶解した水溶液を加え、室温で50時間撹拌した。反応後、溶媒を減圧下で留去した。残渣を蒸留水に溶解させ、濃塩酸でその水溶液を酸性にし、析出した固体を濾集した。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:ヘキサン=1:2で溶出)し、塩素化異性体混合物として前記反応式中の化合物3を0.72g得た。
【0067】
前記化合物3 0.72g、及びN−ヒドロキシコハク酸イミド0.291g(2.53mmol)を無水ジメトキシエタン12mLに溶解した。この反応液に氷冷下、ジシクロヘキシルカルボジイミド0.521g(2.53mmol)を加え、室温に昇温し、24時間撹拌した。反応液を濾過した後、濾液から溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:四塩化炭素=1:5で溶出)し、塩素化異性体混合物として前記反応式中の化合物4を0.60g得た。
【0068】
前記化合物4 0.60gを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解したBSA溶液、又はKLH溶液に氷冷撹拌下に滴下し、室温にて一晩撹拌した。反応液をPBS(−)で平衡化したセファデックスカラムに添加し、同緩衝液で展開して、キャリアータンパク質を分離し、コンジュゲート(前記反応式中の化合物5)を精製した。
【0069】
(2)マウスの免疫
得られたコンジュゲートを免疫原として、マウスを免疫した。
前記化合物5と、アジュバントとしてTiterMax Gold(CytRx Corporation社製)とを1:1容量に混合して十分に乳化させ、得られた乳化液をBALB/cマウス(6週齢〜8週齢、雌)の腹腔内に200μL投与することによりマウスを免疫感作した。
追加免疫は、約2週間〜3週間間隔で行い、追加免疫から1週間経過後に尾静脈より採血し、ELISA法により血中抗体価を測定して抗体価の推移を観察した。
【0070】
(3)ハイブリドーマの作製
血中に免疫原に対する高い抗体産生が認められたマウス尾静脈内に、さらに免疫原を投与して最終免疫を行った。最終免疫から3日後に、免疫した前記マウスより脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製し、対数増殖期にあるミエローマ細胞(NS0)と脾臓細胞を1:5になるように混合し、ポリエチレングリコール(PEG)法にて細胞融合を行った。融合後の細胞を、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン)添加の20%FCS含有RPMI1640培地中に懸濁させ、脾臓細胞数で1×10細胞/ウエル〜2×10細胞/ウエルになるように96ウエル培養プレートに播種し、37℃、5%CO下で培養した。
【0071】
(4)抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング及びクローニング
細胞融合より7日後〜10日後に、クローンの増殖が見られたウエルの培養上清を用い、以下の方法により抗体価を測定し、スクリーニング、及びクローニングを行なった。
【0072】
−抗原ビーズの作製−
アガロースビーズ(ファルマシア社製)に、ジクロロフェノール誘導体とBSA(牛血清アルブミン)との複合体(抗原複合体:下記化合物X)を固定化した。具体的には、約1mLのアガロースビーズに約0.1mgの抗原複合体を固定化した後、10mg/mLのBSA溶液を1mL用いてビーズ表面をブロッキングした。
【化18】

ただし、前記化合物X中、「Protein」は、BSAを表す。
【0073】
−スクリーニング、及びクローニング−
蛍光光度計として、KinExA3000(Sapidyne社製)を用い、以下のようにしてスクリーニング、及びクローニングを行なった。
まず、96ウエルプレートの各区画から90μLずつ培養上清を回収し、1列(12ウエル)分を1本のサンプリングチューブにまとめた。更に、前記サンプリングチューブから200μLずつ、1プレート(8列)分を1本のサンプリングチューブにまとめた。
スクリーニングは、まず始めにプレートごとにまとめた培養上清について行い、陽性のプレートに対しては、引き続き列ごとのスクリーニングを行った。
具体的なスクリーニング方法は、以下の通りである。
前記培養上清を0.25mL/分の流速で120秒間(計0.5mL)、前記抗原ビーズに作用させた。次いで、前記抗原ビーズを0.25mL/分の流速で30秒間、0.1%BSAを含有するPBS(Phosphate buffer saline)で洗浄し、その後、2次抗体(ヤギ抗マウスIgG抗体、ImmunoResarch Laboratories社製)5nMを0.25mL/分の流速で96秒間(計0.4mL)作用させた。最後に、0.1%BSAを含有するPBSによる前記抗原ビーズの洗浄を0.25mL/分の流速で30秒間、次いで、1.5mL/分の流速で90秒間行った。前記2次抗体には蛍光物質(Cy5)が結合しており、洗浄後の抗原ビーズ上に残った蛍光の強度から培養上清中の目的抗体の有無を判断(蛍光強度が、1V以上であれば目的抗体あり、1V未満であれば目的抗体なし)した。
【0074】
前記蛍光強度の判断により、目的抗体が有ると判断した列の培養上清を2本の試験管に分け、1本には終濃度2%になるようDMSOを加え(コントロール)、他の1本には4種類のPCB等量混合液(カネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600:GLサイエンス社製))を終濃度100ppbになるように加えた。そして、前記コントロールの蛍光強度(B0)に対する、前記4種類のPCB等量混合液の蛍光強度(B)の割合(B/B0)を算出し、PCBに対する結合活性が高い抗体を産生する列を選抜した。
前記蛍光強度の測定は、KinExA3000(Sapidyne社製)を用い、以下のようにして行なった。
前記コントロール、及び前記4種類のPCB等量混合液それぞれについて、0.25mL/分の流速で120秒間(計0.5mL)、前記抗原ビーズに作用させた。次いで、前記抗原ビーズを0.25mL/分の流速で30秒間、0.1%BSAを含有するPBS(Phosphate buffer saline)で洗浄し、その後、2次抗体(ヤギ抗マウスIgG抗体、ImmunoResarch Laboratories社製)5nMを0.25mL/分の流速で96秒間(計0.4mL)作用させた。最後に、0.1%BSAを含有するPBSによる前記抗原ビーズの洗浄を0.25mL/分の流速で30秒間、次いで、1.5mL/分の流速で90秒間行った。そして、洗浄後の抗原ビーズ上に残った蛍光の強度を測定した。
【0075】
更に、前記PCBに対する結合活性が高い抗体を産生する列に対して、PCBに対する結合活性が高い抗体を産生する列を選抜した翌日に改めて区画(ウエル)ごとに培養上清を回収し、陽性区画(ウエル)を決定し、前記陽性区画で増殖しているハイブリドーマをメチルセルロース培地によるコロニー形成法によってクローニングした。
【0076】
(5)塩素数の異なるPCB同族体に同等に反応する抗体産生クローンの選抜
前記(4)にて選抜したハイブリドーマのうち、1回以上クローニングを実施したハイブリドーマを、更に蛍光光度計(KinExA3000(Sapidyne社製))を用い、以下のようにして選抜を行った。
拡大培養したクローンの培養上清を0.1%のBSAを含有するPBSで適宜希釈して、シグナル(蛍光強度)が2Vになるようにし、これを5本に分け、1本にはDMSOを終濃度2%となるように加え(コントロール)、残りの4本にはそれぞれKC−300、KC−400、KC−500、KC−600を終濃度10ppbとなるように加えた。
そして、前記コントロールの蛍光強度(B0)に対する、各PCB含有液の蛍光強度(B)の割合(B/B0)を算出し、各PCBに対し共通に高い親和性を示す抗体産生クローンを取得した。
前記蛍光強度の測定は、KinExA3000(Sapidyne社製)を用い、以下のようにして行なった。
前記コントロール、及び各PCB含有液それぞれについて、0.25mL/分の流速で120秒間(計0.5mL)、前記抗原ビーズに作用させた。次いで、前記抗原ビーズを0.25mL/分の流速で30秒間、0.1%BSAを含有するPBS(Phosphate buffer saline)で洗浄し、その後、2次抗体(ヤギ抗マウスIgG抗体、ImmunoResarch Laboratories社製)5nMを0.25mL/分の流速で96秒間(計0.4mL)作用させた。最後に、0.1%BSAを含有するPBSによる前記抗原ビーズの洗浄を0.25mL/分の流速で30秒間、次いで、1.5mL/分の流速で90秒間行った。そして、洗浄後の抗原ビーズ上に残った蛍光の強度を測定した。
【0077】
以上の方法により、塩素数の異なる複数のPCB同族体に親和性を有する抗PCBモノクローナル抗体を産生する安定なハイブリドーマが得られ、これをOD8B11株とした。前記OD8B11株細胞は、メチルセルロース培地を用いて単一の細胞に由来するコロニーを形成させた後、該コロニーを液体培地(20%FBS添加RPMI、GIBCO社)に移し、培養を続けた。なお、このハイブリドーマOD8B11株は、平成21年8月6日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号としてFERM P−21833を取得している。
【0078】
(6)抗PCBモノクローナル抗体の作製
前記(5)で樹立したハイブリドーマOD8B11株のコロニーを、24ウエルプレート上の20%FBS添加RPMI培地を基本とするHT(ヒポキサンチン、チミジン)培地に移し2日間培養した後、培養液の一部を10mLの前記HT培地を入れた40mLの角型フラスコに移し、コンフルエントに達する直前まで培養し、OD8B11株によって分泌された抗体を培養上清からプロテインAを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製し、抗PCBモノクローナル抗体(以下、「OD8B11抗体」という)を得た。
【0079】
(7)モノクローナル抗体の大量調製と精製
8週齢を超えるBALB/cマウスの腹腔内へ、プリスタン[2,6,10,14−テロラメチルペンタデカン](和光純薬社製)を0.5mL投与し、2週間〜3週間飼育した。
予め対数増殖期に維持しておいた抗PCBモノクローナル抗体産生ハイブリドーマOD8B11の培養液を回収し、遠心分離にて培養上清を除いたのち、FBS不含のRPMI1640にて沈査を1×10細胞/0.5mLになるよう細胞液を調製した。
この細胞液をプリスタン前投与のBALB/cマウス腹腔内に移植し、10日後〜14日後に腹腔内に漏出した腹水を腹部より25Gのシリンジを装着した注射器で回収した。
採取した腹水をポアサイズ0.22μm径のフィルターを用いてろ過後、得られたろ液をプロテインG−セファロースカラム(Amersham Bionsiens社製)を用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製し、前記抗PCBモノクローナル抗体(OD8B11抗体)を得た。
【0080】
(8)アイソタイプ分析
固相化抗原として、下記構造式(2)で表される化合物を用い、マウスタイパーキット(BIO−RAD社製)を用いて前記抗PCBモノクローナル抗体のアイソタイプ分析を行なった。
【化19】

この結果、前記抗PCBモノクローナル抗体産生ハイブリドーマOD8B11によって生産された前記抗PCBモノクローナル抗体のH鎖はIgG1、L鎖はκであった。
【0081】
(比較例1)
特開2008−137902号公報に記載の樹立されたハイブリドーマWR3F6株(平成18年10月26日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号としてFERM P−21073を取得)から産生された抗PCBモノクローナル抗体(以下、「WR3F6抗体」という)について、前記OD8B11抗体と同様に、モノクローナル抗体の大量調製と精製を行った。
【0082】
(試験例1:OD8B11抗体の各PCBに対する感度特性)
前記実施例1のOD8B11抗体(抗PCBモノクローナル抗体)、及び前記比較例1のWR3F6抗体(抗PCBモノクローナル抗体)を用い、カネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600)、アロクロール(Ar−1242、Ar−1248、Ar−1254、Ar−1260、Ar−1232、Ar−1221:和光純薬社製)に対する親和性、交差反応性を、以下のようにして評価した。
【0083】
−抗体結合用担体の作製−
N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル基が導入されたアガロースビーズ(Amersham Bioscience社製)に、前記化合物X(ジクロロフェノール誘導体とキャリアータンパク質とのコンジュゲート)を共有結合にて結合させ、BSA溶液でブロッキングを行い、抗体結合用担体とした。
【0084】
−蛍光強度の測定−
前記実施例1のOD8B11抗体、前記比較例1のWR3F6抗体それぞれについて、抗体濃度を終濃度0.5nMとし、それぞれを終濃度0.05ng/mL〜20ng/mLになるように調製したカネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600)、アロクロール(Ar−1242、Ar−1248、Ar−1254、Ar−1260、Ar−1232、Ar−1221)の溶液と反応させた後、前記抗体結合用担体へ流速0.25mL/分で作用させた。
その後、蛍光物質Cy5(登録商標)で標識された2次抗体(ヤギ抗マウスIgG抗体、ImmunoResarch Laboratories社)を前記抗体結合用担体へ流速0.25mL/分で作用させた。
次いで、5%DMSO、0.1w/v%BSA含有PBS(−)を流速0.25mL/分で通過させ、担体への非特異的結合を排除した後、蛍光強度を測定した。
【0085】
−IC50値の算出−
前記測定した蛍光強度を下記式(1)の近似式に当てはめ、IC50値(y=50%となるときのxの値)を算出した。結果を表2に示す。
【数3】

前記式(1)中、yは、試料中に抗原(PCB)を加えなかったときの蛍光強度の値を100%とした時の相対的な蛍光強度を表し、xは、抗原濃度を表し、P1とP2は、近似のパラメータを表す。
【0086】
−交差反応率−
前記交差反応率は、下記式(2)〜(5)により算出した。結果を表2に示す。
−OD8B11抗体−
・抗原が、カネクロールの場合
OD8B11抗体の交差反応率(%)={(抗原がKC−400の場合のIC50値)/(試料のIC50値)}×100 ・・・ 式(2)
WR3F6抗体の交差反応率(%)={(抗原がKC−400の場合のIC50値)/(試料のIC50値)}×100 ・・・ 式(3)
・抗原が、アロクロールの場合
OD8B11抗体の交差反応率(%)={(抗原がAr1254の場合のIC50値)/(試料のIC50値)}×100 ・・・ 式(4)
WR3F6抗体の交差反応率(%)={(抗原がAr1254の場合のIC50値)/(試料のIC50値)}×100 ・・・ 式(5)
【0087】
【表2】

【0088】
前記表2の結果から、OD8B11抗体は、3〜7塩素化PCB同族体(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、Ar−1242、Ar−1248、Ar−1254、Ar−1260、Ar−1232、Ar−1221)において、WR3F6抗体とほぼ同等の交差反応率を有していることがわかった。
また、OD8B11抗体は、3〜7塩素化PCB同族体(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、Ar−1242、Ar−1248、Ar−1254、Ar−1260、Ar−1232、Ar−1221)に対して、WR3F6抗体よりも高い親和性を有し、高い検出感度を示すことがわかった。
【0089】
(試験例2:OD8B11抗体の金コロイド標識適合性)
前記実施例1のOD8B11抗体、及び前記比較例1のWR3F6抗体を用い、金コロイド標識適合性を、以下のようにして評価した。
【0090】
−金コロイド溶液の調製−
一般的なクエン酸法(横田貞記 著「イムノゴールド法 コロイド金による免疫組織化学」鍬谷書店(1992年))に従って金コロイド溶液を調製した。
詳しくは、テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬工業社製)を超純水で希釈し、0.01%の濃度に調整した。次に、その溶液を沸騰させ、0.1%に希釈したクエン酸ナトリウム1.5mLを添加し、更に10分間沸騰させた。その後、溶液を冷却し、金コロイド溶液を得た。
【0091】
−抗体の標識−
横田貞記 著「イムノゴールド法 コロイド金による免疫組織化学」鍬谷書店(1992年)を参考に、前記実施例1のOD8B11抗体、及び前記比較例1のWR3F6抗体を標識した。
詳しくは、調製した前記金コロイド溶液を20℃に保ち、炭酸カリウム(200mM)を用いてpHを9.15に調製した。次に、前記抗体を0.6mg添加し、2分間反応させた。次に、10%ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)溶液を10mL添加し、ブロッキングを行った。最後に、25分間、25℃、9,000rpmの条件で遠心し、10mLの沈殿物を回収し、金コロイド標識抗体を得た。
【0092】
−測定方法−
大村直也 他「生体機能を利用したセンシング(その7)」電力中央研究所報告V08053(2009年)に記載のPCBバイオセンサー法に基づき、以下のようにして測定を行った。
【0093】
−−抗体溶液の調製−−
前記金コロイド標識抗体を含有する抗体溶液を、1%(w/w)牛血清アルブミンを含むPBS(PBS−BSA)で適宜希釈した。
DMSO溶液に、前記抗体溶液と、PBS−BSA溶液とを最終的にDMSO濃度が2%となるように添加した。なお、前記添加された溶液における金コロイド標識抗体の濃度は、OD8B11抗体では、500pM、400pM、300pM、200pM、100pMとなるように調製し、WR3F6抗体では、700pM、560pM、420pM、280pM、140pMとなるように調製した。
【0094】
−−測定装置−−
測定装置として、特開2006−215013号公報の実験例2に記載の相対吸光度測定器、及び測定用セルを使用した。
前記測定用セルに収容される乱反射媒体として、特開2007−206062号公報の段落〔0078〕〜〔0079〕に記載のセルロース(免疫反応測定用担体)を用いた。
【0095】
−−測定−−
先ず、前記乱反射媒体を収容した前記測定用セルを、前記相対吸光度測定器のセルホルダに固定し、発光部から光を照射して、透過光の光量L2(送液前の透過光量)を測定した。
【0096】
その後、同じ検出セルに前記調製した抗体溶液4mLを流速8.5mL/分で送液した。続いて、1mLのPBS−BSAを流速8.5mL/分で送液し、測定セルを洗浄した。その後、測定セルを7,000rpmで5分間遠心し、水切りをした後、30分間風乾した。
前記風乾した測定セルを再び前記相対吸光度測定器のセルホルダに固定し、発光部から光を照射して、透過光の光量L1(送液後の透過光量)を測定した。
ランベルト・ベールの法則に基づき、前記L1、及び前記L2を下記式(6)に当てはめることにより、吸光度Aを算出した。結果を図2に示す。
A = −log(L1/L2) ・・・式(6)
【0097】
図2中、横軸は、抗体濃度(nM)、縦軸は、吸光度を示す。また、図2中、線形は、最小二乗法から求めた一次関数であり、Rは、相関係数を示す。
図2の結果から、同じ抗体濃度において、OD8B11抗体の方が、WR3F6抗体よりも吸光度が高いことがわかった。これにより、OD8B11抗体の方が、WR3F6抗体よりも金コロイド標識に適合していることがわかった。
【0098】
(試験例3:金コロイド標識抗体によるPCBに対する感度)
試験例2において、以下の金コロイド標識抗体の濃度、PCBとし、抗原抗体反応を行なった以外は、試験例2と同様にして、金コロイド標識したOD8B11抗体、及びWR3F6抗体のPCBに対する感度を試験した。
【0099】
−金コロイド標識抗体含有溶液の調製−
金コロイド標識したOD8B11抗体、及びWR3F6抗体が、同じ吸光度を示すように、抗原抗体反応を行う際の溶液における金コロイド標識したOD8B11抗体の濃度は、500pMとし、金コロイド標識したWR3F6抗体の濃度は、560pMとした。
【0100】
−PCB含有溶液の調製−
前記PCB含有溶液として、DMSO溶液にPCB(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600を等量混合したもの)を添加し、PCB含有溶液とした。
なお、抗原抗体反応を行う際の溶液におけるPCB濃度は、0.2ppb、1ppb、4ppb、20ppb、100ppbとした。
【0101】
−抗原抗体反応−
前記PCB含有溶液に、前記抗体溶液と、PBS−BSA溶液とを最終的にDMSO濃度が2%となるように添加した。
前記添加された溶液を、空調の利いた室内(25℃±5℃)で30分間以上放置し、抗原抗体反応を行なった。
【0102】
前記調製した金コロイド標識抗体、及びPCBを用い、前記試験例2と同様にして相対吸光度測定器により透過光量を測定し、下記式(7)により、相対的な応答(Relative response)(%)を算出した。結果を図3に示す。
【数4】

ただし、前記式(7)中、Rは、相対的な応答(%)を示し、ICZは、抗原(PCB)を加えなかった場合の送液前の測定セルの透過光量測定値を示し、ICMは、抗原(PCB)を加えなかった場合の送液後の測定セルの透過光量測定値を示し、ISZは、抗原(PCB)を加えた場合の送液前の測定セルの透過光量測定値を示し、ISMは、抗原(PCB)を加えた場合の送液後の測定セルの透過光量測定値を示す。
【0103】
図3中、横軸は、PCB濃度(ppb)、縦軸は、相対的な応答(%)を示す。
図3の結果から、OD8B11抗体は、WR3F6抗体よりも低濃度のPCBに反応することが確かめられた。また、このときのそれぞれのIC50値は、WR3F6抗体が4.89ppbであったのに対し、OD8B11抗体は、2.96であり、約1.7倍の感度向上が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の抗PCBモノクローナル抗体(OD8B11抗体)は、極性溶媒存在下においてPCBとの結合性が低下することなく、塩素数の異なる複数のPCB同族体の混合物、具体的には、油性試料中に含まれるカネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600:鐘淵化学工業社製)、及びアロクロール(Aroclor.1242、Aroclor.1248、Aroclor.1254、Aroclor.1260、Aroclor.1232:三菱モンサント(現三菱化学)製)中に存在比の高い複数のPCB同族体に交差反応性を有し、1〜10塩素化PCB全同族体のうち、存在比の高い3塩素化PCB〜7塩素化PCB同族体に高い親和性を有するため、組成が未知の絶縁油等、PCBを含有する可能性のある検査対象を、最小限の誤差で高感度に検出、定量することができる。
また、本発明の抗PCBモノクローナル抗体は、金コロイドによる標識への適合性に優れており、前記抗PCBモノクローナル抗体を用いたPCB測定方法は、低コストで廃棄物処理後のPCB残留濃度、環境中のPCB濃度等を検査することができる。
【受託番号】
【0105】
FERM P−21833


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体の異性体混合物を、ハプテンとして用いることを特徴とする抗PCBモノクローナル抗体の製造方法。
【化20】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【請求項2】
下記構造式(1)で表されるビフェニル誘導体から得られた下記構造式(2)で表される化合物を免疫原として動物を免疫する工程と、
前記免疫した動物の抗体産生細胞を回収する工程と、
前記抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合してハイブリドーマを得る工程と、
前記ハイブリドーマを培養する工程とを含む請求項1に記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法。
【化21】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【化22】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【請求項3】
下記構造式(1)、及び下記構造式(2)の少なくともいずれかで表される化合物を用いて、ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングする工程を含む請求項1から2のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法。
【化23】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【化24】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体の製造方法により製造され、塩素数の異なる2種以上のPCB同族体に交差反応性を有することを特徴とする抗PCBモノクローナル抗体。
【請求項5】
1塩素化PCB〜10塩素化PCB全同族体のうち、1塩素化PCB〜2塩素化PCB同族体、及び8塩素化PCB〜10塩素化PCB同族体に対する親和性よりも、3塩素化PCB〜7塩素化PCB同族体に対する親和性が高い請求項4に記載の抗PCBモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項4から5のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体を産生することを特徴とするハイブリドーマ。
【請求項7】
受託番号がFERM P−21833である請求項6に記載のハイブリドーマ。
【請求項8】
被測定試料に、請求項4から5のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体を添加し、
(1)前記抗PCBモノクローナル抗体と結合した前記被測定試料中のPCB、及び
(2)前記被測定試料中のPCBと結合していない前記抗PCBモノクローナル抗体
のいずれかを検出する工程を含むことを特徴とするPCB測定方法。
【請求項9】
被測定試料に、請求項4から5のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体、並びに、下記構造式(1)、及び下記構造式(2)のいずれかで表される化合物をPCB競合物質として添加し、前記抗PCBモノクローナル抗体と結合した前記競合物質を検出する工程を含むことを特徴とするPCB測定方法。
【化25】

ただし、前記構造式(1)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表す。
【化26】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【請求項10】
被測定試料に、請求項4から5のいずれかに記載の抗PCBモノクローナル抗体を添加し、下記構造式(2)で表される化合物をPCB競合物質として固定化した担体を用い、前記PCB競合物質と前記被測定試料中のPCBとを競争させ、前記被測定試料中のPCBと結合していない前記抗PCBモノクローナル抗体を検出する工程を含むことを特徴とするPCB測定方法。
【化27】

ただし、前記構造式(2)中、X及びYは、それぞれ0〜3の整数を表し、XとYとの和は、1〜6の整数を表し、Zは、タンパク質を表す。
【請求項11】
抗PCBモノクローナル抗体が、金コロイドにより標識されている請求項8から10のいずれかに記載のPCB測定方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−178765(P2011−178765A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47346(P2010−47346)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】