説明

抗ROBO1抗体を有効成分として含む肺癌治療剤

【課題】抗ROBO1抗体を用いた新規な肺癌治療剤を提供すること。
【解決手段】放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を有効成分として含む、肺癌治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ROBO1抗体を有効成分として含む肺癌治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Robo1(roundabout, axon guidance receptor, homolog 1)は肝細胞癌などの癌の細胞膜表面において特異的に発現が亢進しており、診断薬や抗体治療薬や開発のための標的分子として有望視されている。
【0003】
特許文献1には、ROBO1タンパク質を認識する抗体を用いてROBO1タンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法、ROBO1タンパク質と結合する抗体を含有する癌を診断するためのキット、ROBO1に結合する抗体を有効成分として含有する医薬組成物などが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得られる、細胞表面上のROBO1を特異的に認識できるモノクローナル抗体、及びそれを用いたPET用腫瘍診断剤が記載されている。
【0005】
特許文献3には、(a)抗Robo1抗体と、一対の親和性物質のうちの一方とを連結した第一の標的化分子、及び(b)放射性同位元素と、前記一対の親和性物質のうちの他方とを連結した第二の標的化分子を含む、腫瘍の診断剤又は治療剤キットであって、前記第一の標的化分子と前記第二の標的化分子とを所定のタイミングで投与することをを特徴とする腫瘍の診断剤又は治療剤キットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2005/095981号
【特許文献2】特開2008−290996号公報
【特許文献3】国際公開WO2010/131590号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、抗ROBO1抗体を用いた癌の診断薬や治療薬の報告は幾つかあるが、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を用いた放射免疫療法により肺癌を治療できるという報告はない。本発明は、抗ROBO1抗体を用いた新規な肺癌治療剤を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討し、小細胞肺癌(SCLC)マウスにおいて小動物用PETを用いて64Cu標識抗ROBO1抗体の腫瘍への集積をin vivoで確認した後、90Y標識抗ROBO1抗体による放射免疫療法(RIT)を施行した。放射免疫療法(RIT)では、90Y標識抗ROBO1抗体をSCLCマウスに対し0.18mCiの用量で投与し、腫瘍体積および血球数を測定した結果、腫瘍の縮小が観察され、投与20日後には腫瘍体積は投与前の6%まで減少し、血球数も投与1ヵ月後にはほぼ正常となった。上記結果より、90Y標識抗ROBO1抗体を用いた小細胞肺癌(SCLC)への放射免疫療法(RIT)の有効性が実証された。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を有効成分として含む、肺癌治療剤。
(2) 肺癌が小細胞肺癌である、(1)に記載の肺癌治療剤。
(3) 抗ROBO1抗体がモノクローナル抗体である、(1)又は(2)に記載の肺癌治療剤。
(4) 抗ROBO1抗体が、受託番号FERM BP−10921を有するハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である、(1)から(3)の何れかに記載の肺癌治療剤。
(5) 前記放射性同位元素が、ベータ線核種、アルファ線核種、又はオージェ電子核種である、(1)から(4)の何れかに記載の肺癌治療剤。
【0010】
本発明によればさらに、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を肺癌患者に投与することを含む、肺癌の抑制又は治療方法が提供される。
本発明によればさらに、肺癌治療剤の製造のための、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体の使用が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を用いた放射免疫療法により肺癌を治療することが可能な新規な肺癌治療剤が提供される。本発明の肺癌治療剤によれば、副作用を少なく抑えた状態で高い腫瘍縮小効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、NCI-H69担癌マウスへ64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B投与1時間後、6時間後、24時間後、48時間後、72時間後のPET画像を示す。腫瘍への核種の集積を認め、3日後まで腫瘍への集積は緩徐に増強した。
【図2】図2は、NCI-H69担癌マウスに対して90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B(0.18 mCi (6.7 MBq))を投与したRIT群(n=7)およびControl群(n=3)における腫瘍体積比の平均値の経時変化を示す。腫瘍体積比はday 0を1とする。また、Error barは標準偏差を表す。RITによる抗腫瘍効果のため、RIT群の腫瘍体積比は経過につれて減少していき、投与20日後にはその腫瘍体積比は0.06となった。
【図3】図3は、RIT群およびcontrol群マウスの全身像の経時的変化を写真で示す。RIT群マウスの腫瘍の著明な縮小が肉眼的にも確認される。
【図4】図4は、RIT群およびcontrol群マウスの体重および血球数の相対比の経時変化を示す。相対比はday 0を1とする。また、Error barは標準偏差を表す。体重に関しては、観察期間前半はRIT群マウスの体重はControl群マウスの体重を下回る傾向にあったが、観察期間後半はRIT群マウスとControl群マウスの体重に大きな差は認めなかった。血球数に関しては、RIT群マウスにおいては、観察期間前半に放射線被曝から生じた骨髄抑制による減少が確認され、特に血小板で顕著であった。しかし、観察期間終了時には、RIT群マウスの血球数はcontrol群マウスの血球数と同程度まで回復した。
【図5】図5は、90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B投与群、非標識抗ROBO1抗体投与群(cold群)、control群の腫瘍体積比の平均値の経時変化を示す。腫瘍体積比はday 0を1とする。90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B投与群は投与放射線量が増加するにつれて、抗腫瘍効果が増強しており、抗腫瘍効果の用量依存性が確認された。また、cold群の腫瘍増殖挙動はcontrol群とほぼ同等であった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の肺癌治療剤の投与対象は、肺癌である。肺癌の種類は、細胞がROBO1を発現している肺癌であれば特に限定されず、小細胞肺癌、非小細胞肺癌(肺扁平上皮癌、肺腺癌、肺大細胞癌)の何れでもよいが、好ましくは小細胞肺癌である。小細胞肺癌は、肺癌の約20%程度を占める癌で、喫煙との関連性が高いと考えられ、中枢側の気管支から生ずることが多い癌である。
【0014】
本発明の肺癌治療剤は、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を有効成分として含む。
本発明で用いる抗ROBO1抗体は、ROBO1を認識して結合できる抗体であれば特に限定されないが、ROBO1を特異的に認識する抗体が好ましい。また、本発明で用いる抗ROBO1抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の何れでもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0015】
本発明で用いる抗ROBO1抗体およびそれを産生するハイブリドーマを製造する方法は、当該技術分野において公知である。ROBO1遺伝子によりコードされる蛋白質またはフラグメントを免疫原として用いて、抗体を生成することが知られている任意の動物(マウス、ウサギ等)に皮下または腹膜内注射することにより免疫することができる。免疫に際してアジュバントを用いてもよく、そのようなアジュバントは当業者に公知である。
【0016】
モノクローナル抗体 は、免疫した動物から脾臓細胞を切除し、ミエローマ細胞と融合させ、モノクローナル抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を作製することにより得ることができる。ELISAアッセイ、ウエスタンブロット分析、ラジオイムノアッセイ、細胞表面上にROBO1を発現している細胞を用いたFACS等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて、ROBO1を認識する抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を選択することができる。所望の抗体を分泌するハイブリドーマをクローニングし、適切な条件下で培養し、分泌された抗体を回収し、当該技術分野においてよく知られる方法、例えばイオン交換カラム、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。
【0017】
抗ROBO1抗体の取得方法として好ましくは、発芽型バキュロウイルス抗原(BV抗原)をgp64発現トランスジェニックマウスに免疫する方法を使用することができる。すなわち、抗ROBO1抗体は、ROBO1の全長又は部分cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得ることができる。好ましくは、免疫動物が、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスである。
【0018】
ROBO1のcDNAとしては、野生型のROBO1のcDNAを用いてもよいし、変異体のROBO1のcDNAを用いてもよい。変異体は、好ましくは、野生型のROBO1のアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは90%またはそれ以上、より好ましくは95%またはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。当業者であれば公知の方法、例えば、部位特異的変異誘発法などを用いて、アミノ酸に適宜変異を導入することにより、該蛋白質と同等な蛋白質を調製することが可能である。
【0019】
好ましくは、ROBO1の全長cDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるROBO1提示発芽バキュロウイルスを抗原として用いることができる。抗原として用いるROBO1提示発芽バキュロウイルスの調製方法は公知であり、例えば、特開2001−333773号公報、特開2003−52370号公報、Loisel TP, Ansanay H, St-Onge S, Gay B, Boulanger P, Strosberg AD,Marullo S, Bouvier M., Nat Biotechnol. 1997 Nov;15(12):1300-4., Recovery of homogeneous and functional beta 2-adrenergic receptors from extracellular baculovirus particles:並びに国際公開WO98/46777などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0020】
具体的には、ROBO1の全長又は部分cDNAを含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用する。昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori )NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda )細胞(Sf細胞)などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいはPharmingen社(San Diego,CA)、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。
【0021】
組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb〜10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5'領域と3'領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、キャプシド遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pEVmXIV2、pAcSG1、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcJP1、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBacIII、pAcUW51、pAcAB3、pAc360、pBlueBacHis、pVT−Bac33、pAcUW1、pAcUW42/43などが挙げられ、BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBK5、pBB30、pBE1、pBE2、pBK3、pBK52、pBKblue、pBKblue2、pBFシリーズ(以上、フナコシ株式会社等から入手可能)などが挙げられる。
【0022】
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入するか、あるいは予めウイルスで感染させた宿主として用いる培養細胞に上記のトランスファーベクターを移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。
【0023】
前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus, BV)を遠心などの分離操作によって回収することができる。細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。先ず感染細胞の培養液を500〜3,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000〜50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。
【0024】
本発明で用いる抗ROBO1抗体の好ましい具体例としては、特開2008−290996号公報に記載れているモノクローナル抗体B5209Bが挙げられる。このモノクローナル抗体B5209Bを産生するハイブリドーマは、受託番号FERM P−21238として、2007年(平成19年)3月2日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されており、さらに受託番号FERM BP−10921として、2007年(平成19年)10月16日付けで国際寄託に移管された。
【0025】
本発明で用いる抗体の種類は特に制限されず、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体、トリ抗体等や、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体 、例えば、キメラ抗体 、ヒト化抗体等の何れでもよい。遺伝子組換え型抗体 は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体 の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体 の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体 のCDRとヒト抗体 のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体 定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP 239400号公報 、国際公開WO96/02576号公報など)。
【0026】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体 を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体 遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体 を取得することができる(WO93/12227, WO92/03918,WO94/02602, WO94/25585,WO96/34096, WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体 ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体 を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体 の可変領域を一本鎖抗体 (scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体 の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047, WO92/20791, WO93/06213, WO93/11236, WO93/19172, WO95/01438, WO95/15388を参考にすることができる。
【0027】
また、これらの抗体は、ROBO1遺伝子によってコードされる蛋白質の全長または一部を認識する特性を失わない限り、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体や抗体の修飾物などであってもよい。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Diabody、一本鎖抗体フラグメント(scFv)などを挙げることができる。このような抗体断片を得るには、これら抗体 断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。抗体 の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体 を使用することもできる。
【0028】
モノクローナル抗体 をコードするDNAは、慣用な方法(例えば、モノクローナル抗体 の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)により容易に単離、配列決定できる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAの好ましい出発材料である。一度単離したならば、DNAを発現ベクターに挿入し、E.coli細胞、COS細胞、CHO細胞または形質転換されなければ免疫グロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞へ組換え、組換え宿主細胞からモノクローナル抗体を産生させることができる。
【0029】
本発明においては、抗ROBO1抗体を放射性物質で標識することによって、放射免疫療法において肺癌治療剤として使用することができる。放射性物質としては、放射性金属を使用することができる。治療用の放射性物質しては、ベータ線核種(32P、67Cu、89Sr、90Y、114mIn、117mSn、131I、153Sm、166Ho、177Lu、186Re 、188Reなど)、アルファ線核種(211At、212Bi、212Pb、213Bi、223Ra及び225Acなど)、オージェ電子核種(125I、及び165Erなど)を用いることができる。放射性物質としては、ベータ線核種が好ましく、中でも90Yが最も好ましい。
【0030】
本発明においては、放射性物質(放射性同位元素)と結合しうるキレート剤を用いて、放射性同位元素を、抗ROBO1抗体に連結することができる。本発明で用いることができるキレート剤としては、DOTA(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-N,N',N'',N'''-tetraacetic acid)、TETA(1,4,8,11-tetraazaryclotetradecane-N,N',N'',N'''-tetraacetic acid)、N2S2、MAG3、CHX−A−DTPAなどを挙げることができる。
【0031】
本発明で用いる放射性物質で標識した抗ROBO1抗体は、薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化などすることによって、肺癌治療剤として用いてもよい。例えば、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体は、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体は、水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。
【0032】
放射性物質で標識した抗ROBO1抗体の投与経路は特に限定されないが、通常は非経口投与であり、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜などで投与することができる。
【0033】
投与量および投与回数は、患者の年齢、体重、診断の目的などによって異なる。一般には、放射性物質で標識した抗ROBO1抗体の投与量としては、有効成分の投与量として1回あたり体重1kgあたり、約0.1μgから1000mgの範囲、好ましくは約1μgから100mgの範囲となるように投与することができる。
【0034】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
本実施例においては、抗ROBO1抗体として、特開2008−290996号公報に記載れているモノクローナル抗体B5209Bを使用した。このモノクローナル抗体B5209Bを産生するハイブリドーマは、受託番号FERM P−21238として、2007年(平成19年)3月2日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されており、さらに受託番号FERM BP−10921として、2007年(平成19年)10月16日付けで国際寄託に移管された。
【0036】
実施例1:抗ROBO1抗体B5209Bの64Cu標識
(1)抗ROBO1抗体B5209BへのDOTAの結合
遠心式フィルターユニット(ミリポア社製、アミコンウルトラ-4)に抗ROBO1抗体B5209B(4.73mg/mL、0.500mL、抗体量 2.37mg)(以下、抗体と表記することがある)と炭酸水素ナトリウム緩衝液(4.00mL、0.1M、pH9)を加え、遠心分離(3600 rpm、15分)を行った。ろ液を除去し、新たに炭酸水素ナトリウム緩衝液(4mL、0.1M、pH9)加え、遠心分離(3600rpm、15分)を行う操作を2回繰り返した。得られた濃縮液(液量 0.200mL)について分光光度計(Thermo Scientific社製、ND-1000)を用いて、280nmの吸収波長で抗体の濃度を測定したところ、9.29 mg/mL(抗体量 1.86 mg)であった。
【0037】
一方で2−(4−イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラアシッド(Macrocyclic社製、B-205)(以下、p−SCN−Bz−DOTAと表記することがある)を10mg/mLになるように炭酸水素ナトリウム緩衝液(0.1M、pH9)に溶解した。先の抗体溶液に、抗体とp−SCN−Bz−DOTAのモル比が1:10となるようにp−SCN−Bz−DOTA溶液を加え37℃で1時間静置した。
【0038】
遠心式フィルターユニット(ミリポア社製、アミコンウルトラ-4)に反応液とクエン酸アンモニウム緩衝液(4mL、0.1M、pH5.5)を加え、遠心分離(3600 rpm、15分)を行った。ろ液を除去し、新たにクエン酸アンモニウム緩衝液(4mL、0.1M、pH5.5)を加え、遠心分離(3600rpm、15分)を行う操作を2回繰り返した。得られた濃縮液(液量 0.300mL)について分光光度計(Thermo Scientific社製、ND-1000)を用いて、280nmの吸収波長で抗体の濃度を測定したところ、6.63 mg/mL(抗体量 1.99 mg)であった。
【0039】
(2)DOTA化抗体の64Cu標識
64CuCl2(住重試験検査社製、液量0.600mL、0.1N塩酸溶液に溶解したもの)を減圧下加熱(600〜700mmHg、10分)することにより溶媒を蒸発させた。その後少量のクエン酸アンモニウム緩衝液(73.8μL、0.1M、pH5.5)を加え、64Cuを回収した。
【0040】
前項の操作で得られたDOTA化抗体溶液(0.226mL、抗体量1.50mg)に、回収した64CuCl2溶液(100μL)とクエン酸アンモニウム緩衝液(73.8μL、0.1M、pH5.5)を加え、反応溶液の放射能を測定したところ4.27mCiであった。45℃で1時間静置した後、標識反応液の一部をサンプリングし、薄層クロマトグラフィー(PALL社製、61885)を用いて標識率を確認した。展開溶媒を生理食塩液とし、ストリップの上端と下端の放射活性をガンマカウンターで測定し標識率を以下の式により算出した。
標識率=(下端のカウント/(上端のカウント+下端のカウント))x100(%)
標識率は89.0%であった。
【0041】
リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)を移動層として脱塩カラム(NAP-5、GEヘルスケア社製)で精製した。
精製後の溶液の一部をサンプリングして薄層クロマトグラフィー(PALL社製、61885)を用いて純度を確認した。純度は先の標識率を求めるのと同じ式を用いて算出した。純度は98.3%であった。
【0042】
さらに得られた溶液(液量1.00mL)について、分光光度計(Thermo Scientific社製、ND-1000)を用いて吸収波長280nmで64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B(以下64Cu標識抗体と表記することがある)の濃度を測定したところ、1.50 mg/mL(抗体量 1.50 mg)であった。放射能測定装置(キャピンテック社製、CRC−15)で、溶液全体の放射能を測定したところ2.06mCiであったことから、64Cu標識抗体の比放射能は1.37mCiであることが分かった。
【0043】
実施例2:抗ROBO1抗体B5209Bの90Y標識
(標識実験1:0.18mCi投与)
(1)抗ROBO1抗体B5209BへのDOTAの結合
遠心式フィルターユニット(ミリポア社製、アミコンウルトラ-4)に抗ROBO1抗体B5209B(5.00mg/mL、0.5mL、抗体量 2.50mg)(以下、抗体と表記することがある)と炭酸水素ナトリウム緩衝液(4mL、0.1M、pH9)を加え、遠心分離(3600 rpm、15分)を行った。ろ液を除去し、新たに炭酸水素ナトリウム緩衝液(4mL、0.1M、pH9)加え、遠心分離(3600rpm、15分)を行う操作を2回繰り返した。得られた濃縮液(液量 0.19mL)について分光光度計(Thermo Scientific社製、ND-1000)を用いて、280nmの吸収波長で抗体の濃度を測定したところ、11.89 mg/mL(抗体量 2.22 mg)であった。
一方でp−SCN−Bn−DOTAを10mg/mLになるように炭酸水素ナトリウム緩衝液(0.1M、pH9)に溶解した。先の抗体溶液に、抗体とp−SCN−Bn−DOTAのモル比が1:10となるようにp−SCN−Bn−DOTA溶液を加え37℃で1時間静置した。
【0044】
遠心式フィルターユニット(ミリポア社製、アミコンウルトラ-4)に反応液と酢酸アンモニウム緩衝液(0.25M、pH5.5、4mL)を加え、遠心分離(3600rpm、15分)を行った。ろ液を除去し、酢酸アンモニウム緩衝液(0.25M、pH5.5)を加え、遠心分離(3600rpm、15分)を行う操作を2回繰り返した。得られた濃縮液(液量 0.19mL)について分光光度計(Thermo Scientific社製、ND−1000)を用いて吸収波長280nmでDOTA化抗ROBO1抗体B5209B(以下DOTA化抗体と表記することがある)の濃度を測定したところ、9.24 mg/mL(抗体量 1.76 mg)であった。
【0045】
(2)DOTA化抗体の90Y標識
得られたDOTA化抗体溶液に、全体の液量が0.3mLになるように酢酸アンモニウム緩衝液(0.25M、pH5.5)を加えた後、抗体の重量あたりの放射能が2.5mCi/mgになるように90YCl3溶液(nuclitec社製)を加えて、37℃で1時間静置した。標識反応液の一部をサンプリングし、薄層クロマトグラフィー(PALL社製、61885)を用いて標識率を確認した。展開溶媒を生理食塩液とし、ストリップの上端と下端の放射活性をガンマカウンターで測定し標識率を以下の式により算出した。
標識率=(下端のカウント/(上端のカウント+下端のカウント))x100(%)
標識率は95.7%であった。
【0046】
標識抗体は、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)を移動層として脱塩カラム(NAP-5、GEヘルスケア社製)で精製した。
精製後の溶液の一部をサンプリングして薄層クロマトグラフィー(PALL社製、61885)を用いて純度を確認した。純度は先の標識率を求めるのと同じ式を用いて算出した。純度は99.4%であった。
【0047】
さらに得られた溶液(液量0.80mL)について、分光光度計(Thermo Scientific社製、ND-1000)を用いて吸収波長280nmで90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B(以下90Y標識抗体と表記することがある)の濃度を測定したところ、1.51 mg/mL(抗体量 1.51 mg)であった。放射能測定装置(キャピンテック社製、CRC−15)で、溶液全体の放射能を測定したところ3.50mCiであったことから、標識抗体の比放射能は2.31mCi/mgであることが分かった。
【0048】
(標識実験2:用量依存性の検討)
(1)抗体へのDOTAの結合
抗体溶液(5.00mg/mL、0.8mL)を用い、標識実験1と同様に炭酸水素ナトリウム緩衝液への置換を行い、19.17mg/mL(抗体量 3.74mg)の抗体溶液(0.195mL)を得た。さらに標識実験1と同様にDOTA化反応及び酢酸アンモニウム緩衝液への置換を行い、20.34mg/mL(抗体量 3.74mg)のDOTA化抗体溶液(0.185mL)を得た。
【0049】
(2)DOTA化抗体の90Y標識
抗体の重量あたりの放射能が3.00mCi/mgになる量の90YCl3溶液(nuclitec社製)を用いたこと以外は、標識実験1と同様に90Y標識実験を行い、1.53mg/mL(抗体量 1.53mg)の90Y標識抗体(1.00mL)溶液を得た。溶液の放射能は5.66mCiであり、標識抗体の比放射能は3.70mCi/mgであった。
【0050】
実施例3:64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209Bを用いたPETによる肺小細胞癌担癌マウスの体外イメージング
(A)方法
使用動物:肺小細胞癌NCI-H69細胞1 x 107個を5週齢のBALB/cAjcl-nu/nu雄マウスに移植し、xenograft modelを作製、腫瘤サイズ901.6 mm3、体重27.0 gとした。核種投与6時間前から撮像中である1時間後までは絶食とした。
麻酔:自作小動物用吸入麻酔器具を用いてIsoflurane吸入麻酔を施行した。自発呼吸状態をビデオカメラで監視し、呼吸数と投与濃度を一定間隔で記録した。
保温:体温低下をさけるため、自作透明カバーによって外気との直接接触をさけ、少量のハロゲンランプ光をスキャナー外から間接的に照射して保温。室内とカバー内の温度を定時に記録した。
【0051】
放射性医薬品の合成:実施例1に記載の通り、双機能性キレート剤1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10 -tetraacetic acid(DOTA)を抗ROBO1抗体(B5209B)へ導入した。最後にDOTA化抗体を64Cu標識した。作製された64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209Bの比放射能は1.37mCi/mgであった。
【0052】
投与方法:64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B(8.6 MBq (0.23 mCi))を、27G針から作製した自作カニュレーション器具を用いて、尾静脈ラインから約1分間かけて投与した。
撮像装置とPETデータ収集プロトコール:Siemens社製MicroPET Focus 120を用いて、投与開始から1時間、投与6時間後から1時間、投与1日後から1時間、投与2日後から2時間の画像データ収集を麻酔下にて実施した。また、投与3日後には、マウスを安楽死させた後に、6時間の画像データ収集を実施した。
画像再構成と画像データ解析:収集したPETデータは、一連の処理後、最終的にFiltered Back Projection法によって、3D画像へと再構成した。画像表示はMicroPET用ソフトウェアであるAsiProを用いて行った。
【0053】
(B)結果
担癌マウスへ64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209Bの投与1時間後、6時間後、24時間後、48時間後、72時間後のPET画像を図1に示す。6時間後像まではNCI-H69腫瘍への集積は少なかったが、3日後まで腫瘍への集積は緩徐に増強した。一方、心プール内の64Cu標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209Bの滞留は徐々に減少したが、72時間後像でも滞留の遷延が確認された。また、肝臓への集積も徐々に減弱していった。
【0054】
実施例4:90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209Bを用いた肺小細胞癌へのRIT
(A)方法
(1)抗腫瘍効果の確認実験 (90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B 0.18 mCiを投与)
使用動物:NCI-H69細胞2 x 106個を5週齢のBALB/cAjcl-nu/nu雄マウスに移植し、xenograft modelを作製、実験時に11週齢とした。RIT群用に7匹、control群用に3匹準備した。腫瘤体積は、RIT群524.4±301.2 mm3およびcontrol群599.3±457.8 mm3であった。体重は、RIT群27.5±0.9 gおよびcontrol群27.6±0.7 gであった(いずれも平均値±標準偏差)。核種投与6時間前からは絶食とした。
【0055】
放射性医薬品の調整:実施例2において作製された90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B溶液を生理食塩水で希釈し、放射能濃度0.18 mCi/200 μlとした。
投与方法:RIT群マウスそれぞれに90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B0.18mCi(6.7MBq)を尾静脈に静注した(液量として200 μl)。control群として、担癌マウス3匹それぞれに生理食塩水200μlを尾静脈に静注した。
データ収集:2〜5日おきに、RIT群およびcontrol群のマウスの腫瘍径(短径および長径)と体重を30日間測定した。腫瘍体積の数値は(0.5 x 短径 x 短径 x 長径)と算出した。また、マウスの尾から採取した約10 μlの血液をサンプルとして、動物用全自動血球計数器(日本光電工業社製、MEK-6450)を用いて、白血球数、赤血球数、血小板数を測定した。さらに、投与直前と投与14日および21日後におけるRIT群およびcontrol群のマウスの全身像の写真撮影を施行した。
【0056】
(2)用量依存性の検討実験
使用動物:NCI-H69細胞2 x 106個を6週齢のBALB/cAjcl-nu/nu雄マウスに移植し、xenograft modelを作成、実験時に11週齢とした。contol用(4匹、腫瘍体積272.9±117.6 mm3、体重26.0±0.5 g)、非標識抗ROBO1抗体B5209B (cold)投与用(4匹、腫瘍体積276.7±118.0 mm3、体重26.7±1.4 g)、0.06 mCi投与用(4匹、腫瘍体積286.1±123.7 mm3、体重27.73±0.5 g)、0.12mCi投与用(4匹、腫瘍体積279.8±132.8 mm3、体重26.7±1.0 g)、0.18 mCi投与用(4匹、腫瘍体積269.1±98.8 mm3、体重26.5±0.5 g)、0.23 mCi投与用(2匹、腫瘍体積621.3 mm3、体重26.3 g)のマウスをそれぞれ準備した(0.23 mCi投与用は平均値のみ記載。他の数値はいずれも平均値±標準偏差)。核種投与6時間前からは絶食とした。
【0057】
放射性医薬品の調整:実施例2において作製した90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B溶液および非標識抗ROBO1抗体溶液と適当に混合させることによって、0.18 mCi投与用として放射能濃度0.18 mCi/200μlの溶液(比放射能2.25 mCi/mg)、0.12 mCi投与用として放射能濃度0.12 mCi/200 μlの溶液(比放射能1.5 mCi/mg)、0.06 mCi投与用として放射能濃度0.06 mCi/200 μlの溶液(比放射能0.75 mCi/mg)を調整した。これらの溶液の抗体濃度もいずれも80μg/200μlとなるように調整した。
【0058】
投与方法:RIT群として、まず0.18、0.12、0.06 mCi投与用に用意した90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B溶液 200 μl を、放射能用量ごとに担癌マウス4匹それぞれの尾静脈に静注した。0.23 mCi投与マウスは、0.18 mCi投与用溶液を 250 μl投与することによって、2匹作製した。
cold群は、抗体濃度80 μg/200μlである非標識抗ROBO1抗体溶液 200μlを尾静脈に静注することによって作製した。
control群として、担癌マウス4匹それぞれに生理食塩水200μlを尾静脈に静注した。
データ収集:3〜4日おきに、RIT群、cold群およびcontrol群のマウスの腫瘍径(短径および長径)を30日間測定した。腫瘍体積の数値は(0.5 x 短径 x 短径 x 長径)と計算した。
【0059】
(B)結果
(1)抗腫瘍効果の確認実験 (90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B 0.18mCiを投与)
図2にNCI-H69担癌マウスに対して90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B(0.18 mCi (6.7 MBq))を投与したRIT群(n=7)およびcontrol群(n=3)における腫瘍体積比(day 0を1とする)の平均値の経時変化を示す。control群の腫瘍体積比は観察期間中において増加を続けた一方で、RIT群の腫瘍体積比は経過につれて減少していき、投与20日後にはその腫瘍体積比は0.06となった(control群の投与20日後における腫瘍体積比は3.15であった)。その後も観察期間内において、RIT群の腫瘍体積比の明らかな増加は認めなかった。
【0060】
図3に観察期間中のRIT群およびcontrol群マウスの全身像を写真によって示す。control群マウスの腫瘍は明らか増大を呈している一方で、RIT群マウスの腫瘍においては著明な縮小が肉眼的にも確認され、投与20日後には皮下にわずかな盛り上がりを確認できる程度となっていた。
【0061】
図4にRIT群およびcontrol群マウスの体重および血球数のday0を1とした相対比の経時変化を示す。体重に関しては、観察期間前半はRIT群マウスの体重はcontrol群マウスの体重を下回る傾向にあったが、観察期間後半はRIT群マウスとcontrol群マウスの体重に大きな差は認めなかった。血球数に関しては、RIT群マウスの血球数は全体的にcontrol群マウスの血球数を下回り、放射線被曝による骨髄抑制が生じたと考えられた。特に観察期間前半におけるRIT群マウスの血小板数の低下が顕著であった。しかし、観察期間終了時には、RIT群マウスの血球数はcontrol群マウスの血球数と同程度まで回復した。また、経過観察中、RIT群マウスの全身状態は良好であった。
【0062】
(2)用量依存性の検討実験
図5に90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209Bを用いたRITによる抗腫瘍効果の用量依存性を示す。90Y標識DOTA化抗ROBO1抗体B5209B投与群においていずれの投与放射線量下でもcontrol群と比較して著明な抗腫瘍効果を呈したと同時に、投与放射線量が増加するにつれて抗腫瘍効果が増強しており、抗腫瘍効果の用量依存性が示された。また、非標識抗ROBO1抗体投与群(cold群)の腫瘍増殖挙動はcontrol群とほぼ同等であり、抗ROBO1抗体自体には抗腫瘍作用を有していないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質で標識した抗ROBO1抗体を有効成分として含む、肺癌治療剤。
【請求項2】
肺癌が小細胞肺癌である、請求項1に記載の肺癌治療剤。
【請求項3】
抗ROBO1抗体がモノクローナル抗体である、請求項1又は2に記載の肺癌治療剤。
【請求項4】
抗ROBO1抗体が、受託番号FERM BP−10921を有するハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である、請求項1から3の何れかに記載の肺癌治療剤。
【請求項5】
前記放射性同位元素が、ベータ線核種、アルファ線核種、又はオージェ電子核種である、請求項1から4の何れかに記載の肺癌治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71936(P2013−71936A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214803(P2011−214803)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(511035535)分子動力学抗体創薬技術研究組合 (1)
【Fターム(参考)】