説明

抜け止め機構

【課題】管体に挿し込んだ筒体の抜け止めを作業効率を損なうことなく、簡便な構成で行うこと。
【解決手段】筒体2に固定される鍔部材10と、筒体止水部5に固定される係止部材11で抜け止め機構1を構成する。鍔部材10は、二つに分割した分割リング12、12を締め付けボルト13で締め付けることによって前記固定がなされる。また、係止部材11は、筒体止水部5に固定するベース部17と、このベース部17に対して開閉自在に設けられたアーム部14と、このアーム部14を閉じた状態でロックする固定具18とから構成される。筒体2の挿し込みの際にはアーム部14を開いた状態とし、この挿し込みが完了したらこのアーム部14を閉じる。このようにすれば、鍔部材10と、係止部材11のアーム部14とが当接して、筒体2の抜け止めを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管等の管体の内部を調査する調査器具を、水密状態を確保しつつ前記管体内に送り込む際に用いる筒体の抜け止め機構に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管等の管体の内部を調査する調査器具は、管体に対して水密状態を確保した筒体の中を挿し通されて、この管体内の調査対象箇所まで送り込まれる。この筒体は、その一端側が前記管体内に挿し込まれている一方で、他端側が大気に露出した状態となっている。そして、この調査器具のケーブルは、前記他端側のケーブル止水部を通して引き出されて観察装置に接続される。
【0003】
この調査に際しては、水道等の利用者の不便とならないように、管体に水等の流体を流通させた状態のまま行うことが多い。この場合、管体に挿し込んだ筒体の一端側には、管体内の流体の圧力(水圧)がかかる一方で、管体から露出した他端側には、前記圧力よりも低い大気圧がかかる。このため、この筒体が、その両端の差圧によって大気圧側に抜ける(スライドする)ことがある。このように筒体が抜けると、調査器具の送り込みに支障をきたす恐れがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、止水部の蓋体に二本の棒材を立設しておき、この棒材に板材を略水平に取り付けるとともに、挿入部材(筒体に相当)に環状のリングを装着し、この挿入部材が水圧により上昇しようとしてもリングが板材に当接してその上昇を規制するようにした構成を採用している(同文献の明細書段落0062、図2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−222813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成において、前記棒材及び板材は、予め止水部の蓋材に取り付けられている。このため、挿入部材の挿し込みに際し、立設した棒材の高さまでこの挿入部材を持ち上げる必要がある。また、前記板材及び蓋材には、前記挿入部材を通すための穴が形成されており、両孔に挿入部材をそれぞれ通すためには、この挿入部材を真っ直ぐに立ててその挿し込み作業を行う必要がある。このように、挿入部材を所定の高さまで持ち上げつつ真っ直ぐに立てる作業は煩雑であって、作業効率が低下して作業コストが嵩む原因となり得る。
【0007】
そこで、この発明は、管体に挿し込んだ筒体の抜け止めを作業効率を損なうことなく、簡便な構成で行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明は、管体の内部を調査する調査器具を、水密状態を確保しつつ前記管体内に送り込む際に用いる、前記管体内に挿し込んだ筒体の抜け止め機構において、前記管体側に、前記筒体の軸方向に回動する開閉自在のアーム部を備えた係止部材を設け、前記アーム部を開いて、管体への筒体の抜き挿しを自在になし得るようにする一方で、前記アーム部を閉じて、このアーム部と筒体とを直接的に、又は、介在部材を介して間接的に当接させ、この当接力でもって前記筒体の抜け止めを図るように抜け止め機構を構成した。
【0009】
この構成においては、係止部材のアーム部を開閉自在とし、筒体の挿し込み時にそのアーム部を開くことにより、アーム部が挿し込み作業の邪魔にならず作業をスムーズに行うことができる。また、筒体を排水フランジの止水部に形成した孔に挿しこめばよいので、この筒体をそれほど高く持ち上げる必要はない。しかも、この孔は止水部に一つ形成されているだけなので、筒体が多少傾いていてもその挿し込み作業を容易に行うことができる。その一方で、筒体の挿し込み完了後にアーム部を閉じれば、このアーム部と筒体とが直接的に、又は、介在部材を介して間接的に当接して、抜け止め作用が確実に発揮される。このアーム部の開閉作業は非常に簡単なので、筒体抜け止め作業の高い作業効率が確保される。
【0010】
前記構成においては、前記介在部材を、筒体の外周面に固定した鍔部材とすることができる。
【0011】
この鍔部材は、アーム部とは別部材であって、筒体の外径に合わせて適宜交換することができる。このため、鍔部材を筒体の外周面に沿って確実に固定することができ、筒体の抜け止め作用を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、管体に挿し込んだ筒体の抜け止めを、この筒体に設けた鍔部材と係止部材のアーム部との当接によって、あるいは、この筒体へのアーム部の当接によって行うようにした。このアーム部は開閉自在となっており、このアーム部を開くことによって管体への筒体の挿し込みを容易に行い得るとともに、このアーム部を閉じることによって速やかに抜け止め作用を発揮することができる。このため、一連の挿し込み作業を容易に行うことができ、作業コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本願発明に係る抜け止め機構の第一実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は要部斜視図
【図2】第一実施形態に係る抜け止め機構を採用した管体調査の全体構成を示し、(a)は正面図、(b)は側面図
【図3】本願発明の抜け止め機構に用いる係止部材を示し、(a)は平面図、(b)は正面図
【図4】第一実施形態に係る抜け止め機構の筒体への取り付け態様を示す正面図
【図5】第一実施形態に係る抜け止め機構の他例を示す正面図
【図6】本願発明に係る抜け止め機構の第二実施形態を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る抜け止め機構1の第一実施形態を図1(a)及び(b)に示す。この抜け止め機構1は、水道管等の管体Pの内部を調査するカメラ等の調査器具Eを、水密状態を確保しつつ管体P内に送り込む際に用いる筒体2の抜け止めを図るためのものである。なお、図1(a)においては、抜け止め機構1の基本構成を見やすくするために、筒体2に設けられる筒体止水部5の記載を省略している。この抜け止め機構1を採用した管体調査の全体構成を図2(a)及び(b)に示す。消火栓等の給水設備を接続する管体P(T字管)には仕切り弁3が設けられ、この仕切り弁3に、排水フランジ4及び筒体止水部5を介して抜け止め機構1が接続される。この筒体止水部5は、排水フランジ4と筒体2との間の水密を確保するためのものである。この仕切り弁3、排水フランジ4、筒体止水部5、抜け止め機構1を貫通するように、筒体2が同軸に挿し込まれる。なお、同図は、給水設備を既に取り外した状態を示している。
【0015】
筒体2の内部は管体Pを流通する水で満たされており、この筒体2の内部にケーブルCを接続した調査器具Eが通される。筒体2の上端側にはケーブル止水部6が設けられ、このケーブル止水部6でケーブルCと筒体2との間の水密を確保しつつ、このケーブルCが筒体2の外部に引き出される。筒体2の挿し込みは、ケーブル止水部6に固定された挿入用ハンドル7に設けられたレバーブロック8を操作して、抜け止め機構1側に挿入用ハンドル7を引き寄せることによって行われる。
【0016】
筒体2の下端にはガイド部9が形成され、筒体2内に通す調査器具Eの先端が、このガイド部9によって所定の方向(調査を行う方向)にガイドされる。
【0017】
この抜け止め機構1は、筒体2に固定される鍔部材10と、筒体止水部5に固定される係止部材11とを備えている。図3に示すように、鍔部材10は、円環を二つに分割した分割リング12と、両分割リング12、12を連結する締め付けボルト13と、後述するアーム部14に当接する当接板15と、この当接板15を分割リング12に固定する固定ボルト16とから構成される。係止部材11は、筒体止水部5に固定するベース部17と、このベース部17に対して開閉自在に設けられたアーム部14と、このアーム部14を閉じた状態でロックする固定具18とから構成される。ベース部17には、筒体を通す貫通孔が形成されている。
【0018】
この第一実施形態に係る抜け止め機構1を採用した管体調査の手順について以下に説明する。
【0019】
まず、消火栓等の給水設備を取り外した管体P(T字管)の仕切り弁3に、排水フランジ4、筒体止水部5、係止部材11を順次ボルト止めする。この際、係止部材11側から管体P内の水が溢れ出ないように、仕切り弁3は閉じておく。また、図4に示すように、係止部材11のアーム部14は開いておく。
【0020】
次に、ベース部17に形成した貫通孔に筒体2を挿し込む。この筒体2には、予め調査器具Eを収納しておくとともに、上端側にケーブル止水部6を設けておく。この筒体2の先端のガイド部9が仕切り弁3の手前に到達したら、挿し込み作業を一旦止める。このとき、筒体2の外周面の所定位置に予め鍔部材10を固定しておき、この鍔部材10と筒体止水部5の上面とが当接するようにすることにより、ガイド部9が仕切り弁3の手前に到達した段階で、この筒体2の挿し込みを規制することができる。このため、筒体2先端のガイド部9が仕切り弁3に不用意に接触して、ガイド部9及び仕切り弁3を傷付けるトラブルを未然に防止することができる。
【0021】
ガイド部9が仕切り弁3の手前に到達した段階で、この仕切り弁3を開く。すると、管体P内の水がその水圧で、排水フランジ4内及び筒体2内に入り込む。排水フランジ4内の水は筒体止水部5によって、筒体2内の水はケーブル止水部6によってそれぞれ止水され、外部に漏れ出ることはない。この仕切り弁3を開ける作業は、筒体2を所定の挿し込み位置に保った状態のまま行う必要があるため、作業者一人で行うことは難しいが、上記のように筒体2の挿し込みを鍔部材10と筒体止水部5の上面との当接によって規制したことにより、作業者は仕切り弁3の操作に専念でき、一人作業が可能となる。このため、作業コストの低減を図ることができる。
【0022】
仕切り弁3を開いたら、ガイド部9が管体P(T字管)の底部に突き当たるまで、筒体2をさらに挿し込む。この仕切り弁3の手前において、鍔部材10と筒体止水部5の上面との当接によって筒体2の挿し込みを規制していた場合は、この鍔部材10の締め付けボルト13を予め緩めておく。そうしないと筒体2のさらなる挿し込みができないためである。筒体2の挿し込みが完了したら、締め付けボルト13を締め付けて鍔部材10を筒体2に固定する。さらに、アーム部14を閉じ、対向するアーム部14、14が不用意に開かないように固定具18を嵌める(図1(b)を参照。なお、同図では、アーム部14と固定具18の係合関係を明確にするため、鍔部材10等の記載を省略している。)。
【0023】
この筒体2は、筒体止水部5よりも下側では水中に没しているのに対し、この筒体止水部5よりも上側では大気に露出している。このとき、前記下側では、管体P内の水圧がかかる一方で、前記上側では、この水圧よりも低い大気圧の状態となる。このため、管体Pに挿し込んだ筒体2が、その上下側の差圧によって、大気圧側(上側)に抜けることがある。このように差圧が生じた場合であっても、鍔部材10と係止部材11のアーム部14との当接によって筒体2の抜けが防止され、この筒体2を所定の位置に保つことができる。
【0024】
上記の構成においては、筒体止水部5に係止部材11のベース部17をボルトで固定した態様について示したが、図5に示すように、筒体止水部5と係止部材11を一体に構成することもできる。
【0025】
この発明に係る抜け止め機構1の第二実施形態を図6に示す。この抜け止め機構1は、第一実施形態に係る抜け止め機構1と同様に、管体Pに挿し込んだ筒体2の抜け止め作用を奏するものであるが、独立した鍔部材10を備えていない点において第一実施形態とは異なる。この第二実施形態に係る抜け止め機構1は、係止部材11を備え、この係止部材11は、筒体止水部5に固定するベース部17と、このベース部17に対して開閉自在に設けられたアーム部14とから構成される。このアーム部14の先端は、筒体2の外周面を両側から挟み込む挟持部19となっており、対向する挟持部19、19に締め付けボルト13をねじ込み、これを締め付けることによって、この挟持部19によって筒体2をしっかりと固定するようになっている。なお、図6においては、抜け止め機構1の基本構成を見やすくするために、筒体2に設けられる筒体止水部5の記載を省略している。
【0026】
この第二実施形態に係る抜け止め機構1を採用した管体調査の手順について以下に説明する。
【0027】
まず、消火栓等の給水設備を取り外した管体P(T字管)の仕切り弁3に、排水フランジ4、筒体止水部5、係止部材11を順次ボルト止めする。この際、係止部材11側から管体Pの水が溢れ出ないように、仕切り弁3は閉じておく。また、係止部材11のアーム部14は開いておく。
【0028】
次に、ベース部17に形成した貫通孔に筒体2を挿し込む。この筒体2には、予め調査器具Eを収納しておくとともに、上端側にケーブル止水部6を設けておく。筒体2を少しずつ管体P内に挿し込み、この筒体2の先端のガイド部9が仕切り弁3の手前に到達したらアーム部14を閉じて、このアーム部14に設けた締め付けボルト13を締め付ける。これにより、筒体2がアーム部14の挟持部19によってしっかり保持されて、筒体2の抜き挿しが不能となる。このため、第一実施形態と同様に、筒体2先端のガイド部9が仕切り弁3に不用意に接触して、ガイド部9及び仕切り弁3を傷付けるトラブルを未然に防止することができる。
【0029】
ガイド部9が仕切り弁3の手前に到達した段階で、この仕切り弁3を開く。すると、管体P内の水がその水圧で、排水フランジ4内及び筒体2内に入り込む。排水フランジ4内の水は筒体止水部5によって、筒体2内の水はケーブル止水部6によってそれぞれ止水され、外部に漏れ出ることはない。
【0030】
仕切り弁3を開いたら、ガイド部9が管体P(T字管)の底部に突き当たるまで、筒体2をさらに挿し込む。この仕切り弁3の手前において、アーム部14を閉じて筒体2を保持していた場合は、このアーム部14を開いて、筒体2の抜き挿しを可能な状態としておく。そして、筒体2の挿し込みが完了したら、アーム部14の締め付けボルト13を締め付けることにより、筒体2の抜き挿しを不能とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 抜け止め機構
2 筒体
3 仕切り弁
4 排水フランジ
5 筒体止水部
6 ケーブル止水部
7 挿入用ハンドル
8 レバーブロック
9 ガイド部
10 鍔部材
11 係止部材
12 分割リング
13 締め付けボルト
14 アーム部
15 当接板
16 固定ボルト
17 ベース部
18 固定具
19 挟持部
C ケーブル
E 調査器具
P 管体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体(P)の内部を調査する調査器具(E)を、水密状態を確保しつつ前記管体(P)内に送り込む際に用いる、前記管体(P)内に挿し込んだ筒体(2)の抜け止め機構において、
前記管体(P)側に、前記筒体(2)の軸方向に回動する開閉自在のアーム部(14)を備えた係止部材(11)を設け、前記アーム部(14)を開いて、管体(P)への筒体(2)の抜き挿しを自在になし得るようにする一方で、前記アーム部(14)を閉じて、このアーム部(14)と筒体(2)とを直接的に、又は、介在部材を介して間接的に当接させ、この当接力でもって前記筒体(2)の抜け止めを図るようにしたことを特徴とする抜け止め機構。
【請求項2】
前記介在部材が、筒体(2)の外周面に固定した鍔部材(10)であることを特徴とする請求項1に記載の抜け止め機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−83681(P2013−83681A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221552(P2011−221552)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】